以下、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御システムについて図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御システムの概略構成図である。
ブレーキ制御システム1は、ブレーキ装置10と、主電源100とを備えている。主電源100は、車両内の各種の電気負荷(各種の制御システムに設けられた電気負荷)に電力を供給する共通の電源であり、例えば、一般的な12V系の車載バッテリである。また、高圧バッテリを搭載した車両である場合には、主電源100は、高圧バッテリの出力電圧を降圧するDC/DCコンバータを備え、12V系の車載バッテリとDC/DCコンバータとを並列に接続した構成などを採用することができる。
ブレーキ装置10は、メインブレーキECU20と、左リアブレーキECU30Lと、右リアブレーキECU30Rと、左前輪ディスクブレーキ40FLと、右前輪ディスクブレーキ40FRと、左後輪ディスクブレーキ40RLと、右後輪ディスクブレーキ40RRとを備えている。尚、ECUは、Electric Control Unit の略である。
以下、左前輪ディスクブレーキ40FLと、右前輪ディスクブレーキ40FRと、左後輪ディスクブレーキ40RLと、右後輪ディスクブレーキ40RRとを区別しない場合には、それらをディスクブレーキ40と呼ぶ。
各輪のディスクブレーキ40は、摩擦ブレーキ機構50と、電動モータ60とを備えた電動ブレーキである。電動ブレーキは、例えば、特開2013−193606号、特開2017−172722号等にて周知であるため、ここでは、簡単な説明(図示略)に留める。
摩擦ブレーキ機構50は、図示しないが、車輪と共に回転するディスクロータと、車輪支持部材(ナックルあるいはキャリア)に固定されるマウンティングと、ディスクロータの摺接面に向かい合うようにマウンティングに支持された1対のブレーキパッドと、マウンティングに支持されディスクロータの摺接面に1対のブレーキパッドを押し付ける方向およびその反対方向に進退運動する進退部材と、電動モータ60の回転運動を進退部材の進退運動に変換する減速ギヤおよびネジ機構とを備えている。電動モータ60は、マウンティングに支持される。
ディスクブレーキ40は、電動モータ60の駆動力によって進退部材を前進させて1対のブレーキパッドをディスクロータの摺接面に押し付けることにより車輪に制動力を発生させ、進退部材を後進させて1対のブレーキパッドをディスクロータの摺接面から離間させることにより制動力を解除する。電動モータ60は、本発明における電動ブレーキアクチュエータに相当する。
尚、電動モータ60が故障した場合のバックアップ用として、マスタシリンダからホイールシリンダに油圧を供給するブレーキ油圧回路(図示略)を備えていてもよい。この場合、上記の進退部材をホイールシリンダのピストンとして備え、電動モータ60の正常時には、ホイールシリンダへの油圧供給を行わずに、油圧に影響されることなく電動モータ60のみによってピストンを進退駆動し、電動モータ60が故障した場合のみ、ブレーキ油圧回路が開かれてマスタシリンダ油圧をホイールシリンダに供給してピストンを進退駆動する構成にするとよい。このバックアップ用のブレーキ油圧回路は、左右前後輪に設けてもよいし、前輪だけ、あるいは、後輪だけに設けてもよい。
メインブレーキECU20、左リアブレーキECU30L、および、右リアブレーキECU30Rは、本発明のブレーキコントローラに相当するもので、それぞれ、電動モータ60の制御量を演算するマイクロコンピュータを主要部とした演算回路と、電動モータ60を駆動するためのモータ駆動回路とを備えている。例えば、電動モータ60は、ブラシレスモータであって、モータ駆動回路はインバータである。また、図示していないが、各ECU20,30L,30Rは、電動モータ60を駆動制御するために必要なセンサ、例えば、電動モータ60に流れる電流を検出する電流センサ、電動モータ60の回転角を検出する回転角センサ等に接続され、センサ信号を入力するように構成されている。
ブレーキ装置10は、主電源ライン70を介して主電源100から電力供給されるように構成されている。主電源ライン70は、メインブレーキECU20に電力供給するためのメインECU用電力ライン71と、左リアブレーキECU30Lおよび右リアブレーキECU30Rに電力供給するためのリアECU用電力ライン72とに分岐する。
メインECU用電力ライン71には、キャパシタ80が接続されている。このキャパシタ80は、電気二重層キャパシタと呼ばれる蓄電ディバイスである。
メインECU用電力ライン71には、キャパシタ80が接続される接続点よりも主電源100側にダイオード73が設けられる。ダイオード73は、主電源100からメインブレーキECU20およびキャパシタ80に向かう方向の電流を通過させ、その逆方向の流れを遮断する。従って、キャパシタ80は、主電源100から供給される電力によって充電されるとともに、蓄電されている電力をメインブレーキECU20にのみ放電可能(左右のリアブレーキECU30L,30Rには放電不能)となっている。
また、メインECU用電力ライン71には、キャパシタ80の出力端子の電圧(キャパシタ電圧Vcapと呼ぶ)を検出する電圧センサ74が設けられている。この電圧センサ74のセンサ信号は、メインブレーキECU20に送信される。
メインブレーキECU20には、車両状態センサ110、および、運転操作センサ120が接続されている。車両状態センサ110は、例えば、車両の走行速度を検出する車速センサ、車輪速を検出する車輪速センサ、車両の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ、車両の横方向の加速度を検出する横Gセンサ、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ、および、各車輪の制動力を検出する制動力センサなどである。
また、車両状態センサ110には、主電源100が失陥状態であることを検出する主電源センサも含まれる。主電源センサは、主電源100が失陥状態であるときに、主電源失陥信号をメインブレーキECU20に送信する。主電源100の失陥状態とは、主電源100から車両内への電気負荷に電力供給できなっている状態であり、主電源100の自身の異常だけでなく、主電源ライン70の断線や接続外れなどによるもの等も含まれる。
運転操作センサ120は、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量センサ、ブレーキペダルの操作の有無を検出するブレーキスイッチ、操舵角を検出する操舵角センサなどである。
メインブレーキECU20は、車両状態センサ110および運転操作センサ120の検出情報に基づいて、車両の目標減速度を設定する。目標減速度は、例えば、ドライバーがブレーキペダルに入力した操作量であるブレーキ操作量に応じた値に設定される。メインブレーキECU20は、車両を目標減速度で減速させるために必要となる各輪(4輪)のディスクブレーキ40で発生させる制動力(要求制動力)を演算する。この要求制動力から、その要求制動力を発生させるために必要となる電動モータ60の制御量(目標制御量)が算出される。
各輪の摩擦ブレーキ機構50においては、車輪の回転中にブレーキパッドがディスクロータを挟圧すると、ブレーキパッドがディスクロータに引き摺られてマウンティングを車輪の回転方向に押す。メインブレーキECU20は、このディスクロータがマウンティングを押圧する荷重(電動モータ60によってディスクロータがブレーキパッドに挟圧される力が大きくなるほど大きくなる)を荷重センサによって検出し、この荷重を制動力に対応する力とみなして検出する。従って、この荷重センサが、制動力センサとして用いられる。
メインブレーキECU20は、この検出荷重が目標荷重(要求制動力が得られる荷重)に追従するように電動モータ60の電流を制御する。従って、この場合、電動モータ60の目標制御量は、上記の目標荷重である。尚、電動モータ60の目標制御量は、目標荷重に代えて要求制動力に応じて設定される目標トルクなどを採用することもできる。
メインブレーキECU20は、左後輪の要求制動力を表す指令を左リアブレーキECU30Lに送信し、右後輪の要求制動力を表す指令を右リアブレーキECU30Rに送信する。
メインブレーキECU20は、左前輪の要求制動力に対応する電動モータ60の目標制御量を演算し、その目標制御量にて左前輪ディスクブレーキ40FLの電動モータ60を駆動制御する。同様に、メインブレーキECU20は、右前輪の要求制動力に対応する電動モータ60の目標制御量を演算し、その目標制御量にて右前輪ディスクブレーキ40FRの電動モータ60を駆動制御する。
左リアブレーキECU30Lは、メインブレーキECU20から送信された左後輪の要求制動力に対応する電動モータ60の目標制御量を演算し、その目標制御量にて左後輪ディスクブレーキ40RLの電動モータ60を駆動制御する。同様に、右リアブレーキECU30Rは、メインブレーキECU20から送信された右後輪の要求制動力に対応する電動モータ60の目標制御量を演算し、その目標制御量にて右後輪ディスクブレーキ40RRの電動モータ60を駆動制御する。
キャパシタ80は、通常時(主電源100が失陥していない時)においては、主電源100によって充電され、主電源100が失陥した場合に、主電源100に代わってメインブレーキECU20に電力供給するための補助電源である。キャパシタ80の蓄電可能容量を大きくしてしまうと、それだけ、車両重量の増大、設置スペースの増大を招いてしまう。そこで、キャパシタ80は、通常時には使用されない補助電源であることから、蓄電可能容量が大幅に制限されている。
ブレーキ装置10は、電動モータ60だけでなく、ブレーキECU(メインブレーキECU20、左リアブレーキECU30L、右リアブレーキECU30R)においても電力を消費する。ブレーキECUは、図2に示すように、電動モータ60を駆動していない場合においても、常時、電力を消費する。
そこで、ブレーキ装置10は、主電源100の失陥時においては、キャパシタ80から左リアブレーキECU30Lおよび右リアブレーキECU30Rには電力供給せずに、メインブレーキECU20にのみ電力供給するように構成されている(前輪の電動モータ60は、メインブレーキECU20から電力供給されるものとする)。従って、ブレーキ装置10は、主電源100の失陥時においては、前輪のディスクブレーキ40FL,40FRのみを使って車両を制動させる。
主電源100が失陥した場合には、早く車両を停止させる必要がある。上述したように、ブレーキ装置10は、摩擦制動力を発生させないブレーキECUにおいても、電力を消費する。このブレーキECUの電力消費は、常時、発生する(図2参照)。従って、主電源100が失陥した場合には、車両停止までの時間が長いほど、ブレーキECUにおいて消費される電力量が多くなり、その分、キャパシタ80から電動モータ60に供給できる電力量が少なくなる。以下、主電源100が失陥したことによりキャパシタ80からブレーキ装置10に電力供給される状態をキャパシタモードと呼ぶ。
キャパシタ80の残存容量が多ければ、キャパシタ80から供給される電力で車両を停止させることができるが、キャパシタ80の容量は、上述したように大幅に制限されている。そこで、メインブレーキECU20は、キャパシタモードにおいて、車両が現時点の走行状態から停止するまでにブレーキ装置10で消費される電力量(停車消費電力量と呼ぶ)と、キャパシタ80の現時点の残存容量(残存電力量と呼ぶ)とを推定し、残存電力量が停車消費電力量を下回る場合には、下回らない場合に比べて電動モータ60の目標制御量を大きくするように調整する。従って、限られたキャパシタ80の残存電力量の範囲内で、車両を停止させるようにすることができる。
ここで、キャパシタモードにおける目標制御量の調整処理について説明する。図3は、メインブレーキECU20の実施する主電源失陥時制御量調整ルーチンを表す。メインブレーキECU20は、主電源100の失陥が検出されている場合(キャパシタモード)での走行中において、所定の演算周期にて主電源失陥時制御量調整ルーチンを繰り返し実行する。
主電源失陥時制御量調整ルーチンが起動すると、メインブレーキECU20は、ステップS11において、電圧センサ74によって検出されるキャパシタ電圧Vcapを読み込み、このキャパシタ電圧Vcapに基づいて、現時点におけるキャパシタ80の残存電力量Wcap(wh:ワットアワー)を推定する。キャパシタ80の残存電力量は、キャパシタ80から供給可能な電力量を表し、キャパシタ80の残存容量に対応する。つまり、キャパシタ80の残存電力量Wcapは、キャパシタ80の残存容量(ah:アンペアアワー)をワットアワーの単位で表したものである。
例えば、メインブレーキECU20は、キャパシタ電圧Vcapと残存電力量Wcapとの対応関係を表すマップを記憶しており、このマップを参照してキャパシタ電圧Vcapに対応する残存電力量Wcapを決定する。このマップは、キャパシタ電圧Vcapが高いほど残存電力量Wcapが大きくなる特性を有している。
続いて、メインブレーキECU20は、ステップS12において、惰性走行で車速がゼロになるまでの時間(停車時間Tと呼ぶ)を推定する。惰性走行とは、車両に駆動力および制動力を加えない状態での走行をいう。従って、タイヤ・路面間の抵抗によって車両が減速していく状態での停車時間Tが推定される。メインブレーキECU20は、現時点の車速と停車時間Tとの対応関係を表すマップを記憶しており、このマップを参照して停車時間Tを決定する。このマップは、車速が高いほど停車時間Tが長くなる特性を有している。
ドライバーがブレーキペダルを踏み込むタイミングを予測することは難しい。そこで、本実施形態においては、ドライバーがブレーキ操作を行わないという最悪のケースを想定して、惰性走行で自車両が走行した場合の、現時点から車両が停止するまでの時間である停車時間Tを推定する。
続いて、メインブレーキECU20は、ステップS13において、停車時間TのあいだにメインブレーキECU20で消費される電力量の推定値である停車ECU消費電力量Wecu(wh:ワットアワー)を演算する。主電源100の失陥時には、キャパシタ80からメインブレーキECU20に電力供給される。従って、停車ECU消費電力量Wecuは、キャパシタ80からメインブレーキECU20に供給される電力量の推定値である。この場合、メインブレーキECU20は、ブレーキECU20の単位時間当たりの消費電力に停車時間Tを乗算することにより停車ECU消費電力量Wecuを演算する。この場合、ブレーキを働かせない惰性走行を想定しているため、電動モータ60における電力消費量はゼロである。
メインブレーキECU20は、算出した停車ECU消費電力量Wecuに所定値ΔW(wh)を加算した値を、停車時間Tのあいだにブレーキ装置10で消費される電力量を表す停車消費電力量Wstpに設定する(Wstp=Wecu+ΔW)。この所定値ΔWは、停車ECU消費電力量Wecuの推定誤差(バラツキ)を考慮して、停車消費電力量Wstpが、実際に惰性走行した場合での値よりも下回らないようにするための補償値である。
続いて、メインブレーキECU20は、ステップS14において、停車消費電力量Wstpがキャパシタ80の残存電力量Wcap(ステップS11にて算出した値)よりも大きいか否かについて判定する。
メインブレーキECU20は、停車消費電力量Wstpが、残存電力量Wcap以下である場合(S14:No)には、主電源失陥時制御量調整ルーチンを一旦終了する。メインブレーキECU20は、主電源失陥時制御量調整ルーチンを所定の演算周期で繰り返し実施する。
一方、停車消費電力量Wstpが残存電力量Wcapよりも大きい場合(S14:Yes)、換言すれば、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstpを下回る場合、メインブレーキECU20は、その処理をステップS15に進めて、ブレーキ操作時における目標制御量が大きめに演算されるように変更設定する。つまり、メインブレーキECU20は、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstpを下回る場合には、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstpを下回らない場合に比べて、ブレーキ操作時におけるブレーキ操作量に応じた電動モータ60の目標制御量が大きめに演算されるように演算式を変更する。
メインブレーキECU20は、主電源失陥時制御量調整ルーチンと並行してブレーキ制御ルーチンを実施している。従って、メインブレーキECU20は、ステップS14において「Yes」と判定した場合には、ブレーキ制御ルーチンにおいて、ブレーキ操作時での電動モータ60の目標制御量が大きめに演算されるように演算式を変更する。
ブレーキ制御ルーチンでは、ドライバーがブレーキペダルに入力した操作量であるブレーキ操作量が検出され、そのブレーキ操作量に応じた車両の目標減速度が演算され、さらに、車両を目標減速度で減速させるために必要となる各輪(4輪)のディスクブレーキ40で発生させる制動力(要求制動力)が演算される。電動モータ60の目標制御量は、要求制動力に応じた値に設定される。
従って、目標制御量が大きめに演算されるようにするためには、車両の目標減速度を大きめに設定するようにしてもよいし、要求制動力を大きめに設定するようにしてもよいし、要求制動力から演算された目標制御量を大きめに設定するようにしてもよい。例えば、メインブレーキECU20は、調整係数k(>1.0)を記憶し、目標減速度、要求制動力、目標制御量の何れかに調整係数kを乗算して、それらの値を調整する。この調整係数kは、ドライバーに違和感を与えない程度の値に設定される。
尚、主電源100が失陥している状況においては、後輪ディスクブレーキ40RL,40RRでは制動力を発生しないため、車両を目標減速度で減速させるためには、通常時(主電源100の非失陥時)に比べて、前輪ディスクブレーキ40FL,FRで発生させる要求制動力は大きな値に設定される。
以上説明した本実施形態の車両のブレーキ制御システムによれば、主電源100が失陥している状況においては、キャパシタ80の残存電力量Wcapと、車両が停止するまでにブレーキ装置10で消費される停車消費電力量Wstpとが推定され、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstpを下回る場合には、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstpを下回らない場合に比べて、ブレーキ操作時における目標制御量がやや大きめに演算されるように変更設定される。つまり、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstp以上であれば(図4の通常制御領域)、通常の目標減速度で車両を減速させることができる目標制御量(通常目標制御量と呼ぶ)が演算され、残存電力量Wcapが停車消費電力量Wstpを下回れば(図4の強め制御領域)、通常目標制御量よりもやや大きな目標制御量が演算される。
これにより、主電源100が失陥した場合には、キャパシタ80の残存電力量を、ブレーキ制動(電動モータ60の駆動による摩擦制動力の付与)に有効に使って短時間で車両を停止させることができる。この結果、本実施形態によれば、主電源100の失陥時に車両を十分なブレーキフィーリングで適切に減速・停止させることができる。
<残存電力量推定(ステップS11)の変形例>
上記の実施形態においては、ステップS11において、キャパシタ電圧Vcapからキャパシタ80の残存電力量を推定したが、残存電力量の推定は、種々の方法にて実施することができる。
例えば、キャパシタモードが開始されるときのキャパシタ初期電圧V0と、キャパシタモード中にブレーキペダルが踏まれているときの減速度Gn(所定の周期でサンプリングした検出減速度あるいは目標減速度)と、キャパシタモードの経過時間tcapとに基づいて、キャパシタ80の残存電力量を推定することもできる。この場合、キャパシタ初期電圧V0に基づいてキャパシタモードが開始されるときの初期残存電力量Wcap0を推定することができる。また、減速度Gnの積算値ΣGnに係数K1を乗算することにより、キャパシタモード中での電動モータ60の消費電力量であるモータ消費電力量(K1×ΣGn)を推定することができる。また、キャパシタモードの経過時間tcapにメインブレーキECU20の単位時間当たりの消費電力Wsを乗算することにより、キャパシタモード中でのECU消費電力量(Ws×tcap)を推定することができる。
従って、次式のように、初期残存電力Wcap0から、モータ電力消費分(K1×ΣGn)とECU電力消費分(Ws×tcap)とを減算することにより、現時点のキャパシタ80の残存電力量Wcapの推定値を算出することができる。
Wcap=Wcap0−(K1×ΣGn)−(Ws×tcap)
また、モータ消費電力量は、上記の推定方法に代えて、例えば、キャパシタモード中におけるブレーキペダル操作量(ペダルストローク)PSnを所定の周期でサンプリングし、そのブレーキペダル操作量の積算値(ΣPSn)に係数K2を乗算することにより推定することもできる。
他にも、例えば、キャパシタ80に流れる電流を検出する電流センサを設け、キャパシタの充電電流(プラス)と放電電流(マイナス)とを累積演算することにより、現時点のキャパシタ80の残存電力量Wcapを推定することもできる。
<停車消費電力量推定(ステップS12,S13)の変形例>
上記の実施形態においては、ステップS12,S13において、車両が惰性走行するという条件で停車消費電力量を推定しているが、停車消費電力量の推定は、種々の条件を設定して実施することができる。例えば、メインブレーキECU20は、ステップS12において、ブレーキペダル操作によって車両が一定の所定減速度αで減速走行するという条件で、車速がゼロになるまでの時間である停車時間Tを演算する。この場合、車両が実際にブレーキ操作によって制動中である場合には、現時点の減速度を上記の所定減速度αに設定してもよい。
メインブレーキECU20は、停車時間Tを算出すると、ステップS13において、停車時間TのあいだにメインブレーキECU20で消費される電力量の推定値である停車ECU消費電力量Wecuと、停車時間Tのあいだに左右前輪の電動モータ60で消費される電力量の推定値である停車モータ消費電力量Wmotとを演算する。メインブレーキECU20は、減速度αに応じた、単位時間当たりの電動モータ60の消費電力推定値を記憶しており、この消費電力推定値に停車時間Tを乗算することにより停車モータ消費電力量Wmotを演算する。そして、メインブレーキECU20は、次式に示すように、停車ECU消費電力量Wecuと停車モータ消費電力量Wmotとの合計値に、所定値ΔW(wh)を加算した値を、停車消費電力量Wstpに設定する。
Wstp=Wecu+Wmot+ΔW
<主電源失陥時制御量調整ルーチンの変形例>
次に、主電源失陥時制御量調整ルーチンの変形例について説明する。図5は、変形例としての主電源失陥時制御量調整ルーチンを表す。この変形例では、メインブレーキECU20は、実施形態の主電源失陥時制御量調整ルーチン(図2)に代えて、図5に示す主電源失陥時制御量調整ルーチンを所定の演算周期で繰り返し実施する。
この変形例では、ステップS21およびステップS22の処理が追加されており、他の処理については、実施形態と同様である。以下、追加された処理について説明する。尚、この変形例においても、上述したステップS11,S12,S13の変形例を適用することができる。
メインブレーキECU20は、ステップS11においてキャパシタ80の残存電力量Wcapを演算すると、その処理をステップS21に進め、残存電力量Wcapが予め設定した閾値Wref未満であるか否かについて判定する。この閾値Wrefは、停車消費電力量Wstpを演算しなくても、キャパシタ80が車両を停止させるために必要な十分な電力供給能力を備えていると判定できる値に設定されている。メインブレーキECU20は、残存電力量Wcapが閾値Wref未満であれば、その処理をステップS12に進める。一方、残存電力量Wcapが閾値Wref以上であれば、メインブレーキECU20は、主電源失陥時制御量調整ルーチンを一旦終了する。
メインブレーキECU20は、ステップS14において、停車消費電力量Wstpがキャパシタ80の残存電力量Wcapよりも大きいと判定した場合(S14:Yes)、その処理をステップS22に進める。メインブレーキECU20は、ステップS22において、車速センサにより検出される現時点の車速vを読み込み、車速vが閾値vrefより高いか否かについて判定する。上述したステップS15において制動力が高められた場合、特に、車速が低い状況においては、ドライバーに違和感を与えやすい。
そこで、この変形例では、メインブレーキECU20は、車速vが閾値vrefより高い場合(S22:Yes)においてのみ、その処理をステップS15に進めて、電動モータ60の目標制御量が大きめに演算されるように演算式を変更する。従って、この閾値vrefは、車速が、制動力が高められた場合にドライバーに違和感を与えやすい低速領域に入っていることを判定できる値に設定されている。一方、車速vが閾値vref以下となる場合(S22:No)には、メインブレーキECU20は、主電源失陥時制御量調整ルーチンを一旦終了する。
この変形例によれば、ドライバーに違和感を与えないようにすることができる。また、演算処理の負荷を低減することができる。
<ブレーキ装置の変形例>
上述した実施形態においては、車輪位置に設けられた電動モータ60の駆動力でブレーキパッドをディスクロータに押し付ける形式のブレーキ装置、いわゆる、電動ブレーキ装置に適用したものであるが、本発明は、必ずしも、電動ブレーキ装置に適用するものとは限らない。例えば、油圧ブレーキ装置にも適用することができる。
図6は、変形例としての車両のブレーキ制御システム2の概略構成図である。このブレーキ制御システム2に設けられるブレーキ装置11は、左右前輪のブレーキ装置として油圧ブレーキ装置を備え、左右後輪のブレーキ装置として実施形態と同様な電動ブレーキ装置を備えている。以下、実施形態と共通する構成については、図面(図6)に実施形態と共通の符号を付して説明を省略する。
左右前輪のブレーキ装置は、キャリパ内のホイールシリンダ52内に供給される油圧によってブレーキパッドをディスクロータの摺接面に押し付ける摩擦ブレーキ機構51と、各輪のホイールシリンダ52内に独立して油圧を供給するブレーキアクチュエータ61と、ブレーキアクチュエータ61の作動を制御するメインブレーキECU21とを備えている。
ブレーキアクチュエータ61には、図示しないが、ブレーキ作動油が流れる油圧回路、油圧回路に設けられる開閉弁および流量調整弁、および、油圧回路に設けられホイールシリンダ52に供給する油圧(ブレーキ油圧と呼ぶ)を高める電動ポンプを備えている。
メインブレーキECU21は、メインECU用電力ライン71から電力供給される。メインブレーキECU21は、ブレーキ操作量に応じた車両の目標減速度を設定し、車両を目標減速度で減速させるための各輪(4輪)で発生させる制動力(要求制動力)を演算するマイクロコンピュータを主要部として備えた演算回路と、目標制御量に従ってブレーキアクチュエータ61を作動させる駆動回路とを備えている。
メインブレーキECU21は、ブレーキ操作を検出する都度、そのブレーキ操作量に応じた制動力が発生するように電動ポンプを駆動する。つまり、左右前輪のブレーキ装置は、アキュムレータによって蓄圧されたブレーキ油圧を常に保有しているわけではなく、ブレーキ操作を検出する都度、電動ポンプを駆動してブレーキ作動油を加圧し、要求制動力に応じた油圧をホイールシリンダ52に供給するように構成されている。従って、左右前輪のブレーキ装置は、マスタシリンダ90の油圧をホイールシリンダ52に供給しない、所謂、バイワイヤ方式の油圧ブレーキ装置である。ブレーキアクチュエータ61が故障した場合には、マスタシリンダ90の油圧がホイールシリンダ52に供給されるように油圧回路の開閉弁の状態が切り替えられる。
こうしたブレーキ装置11では、ドライバーのブレーキ操作量に応じた目標制御量にて電動ポンプのモータが制御される。従って、電動ポンプのモータが本発明の電動ブレーキアクチュエータに相当する。この変形例においては、ホイールシリンダ52の油圧を検出し、この検出油圧が目標油圧(要求制動力が得られる油圧)に追従するように電動ポンプのモータの電流が制御される。従って、モータの目標制御量は、上記の目標油圧である。
この変形例においても、実施形態の主電源失陥時制御量調整ルーチン、あるいは、変形例の主電源失陥時制御量調整ルーチンを実施することにより、主電源100の失陥時に車両を適切に減速・停止させることができる。
以上、本実施形態および変形例に係る車両のブレーキ制御システムについて説明したが、本発明は上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、補助電源(キャパシタ80)は、前輪のブレーキ装置のみに電力を供給する構成であるが、必ずしもそのようにする必要は無く、前後輪のブレーキ装置に電力を供給する構成であってもよく、また、後輪のブレーキ装置のみに電力を供給する構成であってもよい。