JP6910288B2 - 防食コーティング及び物品 - Google Patents

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Description

本発明は、防食コーティング及びそれが形成された物品に関する。
金属材料の利用では、腐食の抑制が必要になる場合が多く、塗装等の各種の表面処理が施される。表面処理による腐食抑制では、処理面が傷付くことで腐食が発生することがある。特にアルミニウム等の腐食しやすく柔らかい金属では、傷付きにより局所的に防食性が損なわれやすい。
アルミニウムに対する防食性の付与に関しては、従来、多様な検討がなされている。例えば、特許文献1には、アルミニウム表面に、第1層としてクロメート層、第2層として、エポキシ樹脂と潤滑剤とを含む有機皮膜を形成することで、耐傷付き性及び耐食性に優れる複合被覆アルミニウム板又はアルミニウム合金板が開示されている。また、特許文献2には、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、陽極酸化皮膜からなる下地層と、この下地層の表面に塗布されたリン酸塩又はケイ酸塩の一種以上からなる塗布層とを備えることで、陽極酸化皮膜にクラックが入っても腐食が抑制される表面処理アルミニウム材が開示されている。
特開平5−311454号公報 特開2003−3296号公報
従来の防食処理は、クロメート処理及び陽極酸化処理のための専用処理設備が必要であり、処理コストが高くなってしまうという問題があった。また、これらの防食処理に上層を形成することで、耐傷付き性等を付与しているものの、微小突起物や微小な異物で擦過されて生じる金属面が露出する傷の場合には、防食効果が維持できないという問題があった。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、特殊な処理装置を必要としない簡単なコーティング処理により、金属面が露出するような深い傷付きが生じた場合においても、防食性が維持される防食コーティングを提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、撥水性樹脂からなる下層被膜と、前記下層被膜上に形成され、前記撥水性樹脂及び前記撥水性樹脂と混和性を有する撥水性オイルの混合物からなる上層被膜とを備えることを特徴とする防食コーティングである。
本発明によれば、特殊な処理装置を必要としない簡単なコーティング処理により、金属面が露出するような深い傷付きが生じた場合においても、防食性が維持される防食コーティングを提供することができる。
従来の防食性樹脂被膜が傷付いた場合の腐食の進行状況を説明するための模式図である。 本発明の防食コーティングによる腐食抑制効果を説明するための模式図である。
実施の形態1.
金属の腐食は、水、酸素等の腐食を起こす物質と金属との接触を妨げることで抑制できる。汎用的な手法として、金属表面にそのような物質との接触を妨げる機能を有する被膜を形成する方法がある。この被膜が健全であれば腐食が抑制されるが、被膜に欠陥があれば欠陥部分で腐食が発生する。図1は、樹脂等で形成された従来の防食性樹脂被膜が傷付いた場合の腐食の進行状況を説明するための模式図である。図1は、樹脂被膜1で覆われた金属基材2において、金属基材2の表面まで変形するような傷3が入った状態を示している。図1では、樹脂被膜1として、フッ素樹脂等の柔らかく変形しやすい樹脂を用いた場合を示している。このような樹脂被膜1の場合には傷表面に変形した樹脂の薄膜が残留しやすいため、割れたり剥離したりする硬い被膜の場合より傷付き時にも腐食が起こりにくい。しかし、残留する樹脂の薄膜には欠陥が多いため、腐食環境に曝された時には、欠陥部分から腐食が進行し腐食部分4が生じる。
図2は、本発明を実施するため実施の形態1の防食コーティングによる腐食抑制効果を説明するための模式図である。金属基材2の表面は撥水性樹脂からなる下層被膜10で覆われている。さらに、その下層被膜10上に、撥水性樹脂及び撥水性樹脂と混和性を有する撥水性オイルの混合物からなる上層被膜11が形成されている。本発明の防食コーティングが形成された金属基材2において、金属基材2の表面まで変形するような傷3が入った場合、傷3が入った部分の防食コーティングは薄くなり欠陥を生じてしまう。しかし、傷3が入った後に上層被膜11から傷3を付けた部分に撥水性オイル12が滲み出して傷表面を覆い、傷3の部分の腐食を抑制する効果を発揮する。傷表面に撥水性樹脂の薄膜が残留しているため、撥水性オイルが滲み出して拡がりやすい。また、傷3の部分は凹面になっているため、滲み出した撥水性オイル12の被膜は厚くなりやすく、良好な防食性が得られやすい。
撥水性樹脂と撥水性オイルとの混合物からなる被膜だけで金属表面を覆っても、防食性を付与できるが、この被膜は強度が低く、摩擦などで被膜が除去されて金属面が露出しやすいという欠点がある。また、図1及び2に示すような、傷が入った場合にも、傷部分を覆う撥水性樹脂の薄膜が残留しにくいため、傷部分への撥水性オイルの滲み出しが良好に行われないという欠点がある。本実施の形態の防食コーティングの構成とすることにより、傷が入った場合においても優れた防食性が実現できる。
本実施の形態の防食コーティングを形成する金属基材2は、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、マグネシウム等の金属及びそれらの合金である。特に、腐食されやすい性質を有し且つ防食性が必要とされる金属基材2の表面に本実施の形態の防食コーティングを形成することが好ましく、硬度が低く傷がつきやすい金属基材2の表面に本発明の防食コーティングを形成することがより好ましい。このような硬度は、ビッカース硬さで30以上200以下が好ましく、60以上150以下がより好ましい。ビッカース硬さが200を越える表面は、本実施の形態の防食コーティングによって優れた防食性を付与できるが、表面に傷が付きにくいことから撥水性樹脂からなる下層被膜10だけでもある程度の防食性が得られるため、上層被膜11を形成するコストに見合った効果が得られにくい。ビッカース硬さが30に満たない表面では、傷が大きくなりすぎて、下層被膜10に用いられる撥水性樹脂の傷表面への拡散及び上層被膜11からの撥水性オイルの拡散が不十分となることが多いため好ましくない。
以下では、撥水性樹脂としてフッ素樹脂を用い、撥水性樹脂と混和性を有する撥水性オイルとしてフッ素オイルを用いた防食コーティングについて説明する。
上層被膜11に用いるフッ素樹脂としては、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)等のフルオロオレフィン共重合体が挙げられる。上層被膜11に用いるフッ素樹脂は、防食コーティングの使用環境下で流動性がないものであることが好ましい。フッ素樹脂は、置換基、重合度等により溶剤及びフッ素オイルとの相溶性が異なるが、溶剤に溶解し、フッ素オイルと均質な混合被膜を形成できるものであることが好ましい。
上層被膜11に用いるフッ素オイルとしては、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、クロロトリフルオロエチレン低重合体(CTFE)及びこれらの混合物が挙げられる。フッ素オイルには、傷付き時の濡れ拡がり性が必要である。発明者らが各種の検討を行った結果、傷付き時の濡れ拡がり性は動粘度と相関があることが判明した。フッ素オイルの動粘度は、20cSt以上1800cSt以下であることが好ましく、30cSt以上1300cSt以下であることがより好ましい。フッ素オイルの動粘度が20cSt未満であると、流動性が高すぎて、上層被膜11に他の物体が接した時、上層被膜11からフッ素オイルが他の物体表面に移行してしまい、上層被膜11中のフッ素オイルが減少したり、他の物体を汚染したりして好ましくない。一方、フッ素オイルの動粘度が1800cStを超えると、傷表面をフッ素オイルが覆うのに時間がかかりすぎて、拡散までに腐食が発生してしまう恐れがあり好ましくない。上記の動粘度は20℃〜30℃程度の室温付近での値であり、一般的な使用環境下での動粘度に該当するが、高温又は低温での使用環境下では、それらの温度での動粘度が上記範囲内のフッ素オイルを用いることが好ましい。
フッ素オイルは、高温条件下で揮発する可能性があるが、使用環境下で顕著な重量減少が無ければよい。例えば、フッ素オイルを金属板に塗布し、120℃での熱風曝露を20時間行った時の重量減少が10質量%以下であれば問題は無い。
上層被膜11には、その膜強度を向上させるために、ポリイソシアネート、メラミン樹脂等の架橋剤を添加してフッ素樹脂を架橋させてもよい。
上層被膜11は、下層被膜10上にコーティング液を塗布し乾燥して形成する。上層被膜のコーティング液は、フッ素樹脂、フッ素オイル及びそれらを溶解する溶剤からなる。この溶剤としては、フッ素系の溶剤、例えば、ハイドロフルオロエーテル、(パーフルオロブトキシ)メタン、(パーフルオロブトキシ)エタン、2,2,2−トリフルオロエトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。この溶剤は、下層被膜10を溶解しないことが必要である。
コーティング液中のフッ素樹脂とフッ素オイルとを合計した濃度は、0.5質量%以上30質量%であることが好ましく、この範囲であれば、特殊なコーティング手法を用いることなく被膜を形成することができる。この濃度は、2質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、この範囲であれば、形成された被膜をムラが少なく良好なものとしやすい。濃度が0.5質量%未満であると、十分な膜厚の上層被膜11を形成できない場合がある。一方、濃度が30質量%を超えると、コーティング液の粘度が高くなりすぎ、塗布が困難であったり、塗布後の膜厚にムラが生じやすかったりするため好ましくない。
コーティング液の塗布法は、スプレー塗布、ハケ塗り、掛け塗り等の公知の方法から適宜選択することができる。均質な塗膜となるようにコーティング液を塗布した後、常温で乾燥するか、又は加熱して乾燥する。温風等の気流下で乾燥することで乾燥時間を短縮することができる。架橋剤を添加している場合には、100℃程度の加熱を行い、架橋反応を促進することが好ましい。
上層被膜11の膜厚は、1μm以上1000μm以下であることが好ましい。この範囲であれば、傷付いた場合でも高い防食性が維持できる防食膜とできる。2μm以上500μm以下であることがより好ましい。この範囲であれば、多様な使用状態においても安定して同様の防食性が得られる。膜厚が1μm未満であると、十分な量のフッ素オイルが存在しないことになり、良好な防食性が得られないことが多い。膜厚が1000μmを超えると、摩擦された場合などに膜が破壊されたり剥離しやすくなるため好ましくない。
上層被膜11において、フッ素樹脂とフッ素オイルとは、均質に混合されていることが好ましい。フッ素樹脂と混和性を有さないフッ素オイルを用いると、分離して厚いフッ素オイルの膜あるいは数十μmの油滴を形成することがある。このような場合には、防食コーティングとして安定に存在することができないため好ましくない。フッ素オイルは、フッ素樹脂と相溶し、ゲルを形成するか、又は平均粒径5μm以下の油滴として上層被膜11中に存在することが好ましい。上層被膜11の表面には、ブリードアウトしたフッ素オイルが薄く存在しているが、これは上述の分離したフッ素オイルの膜あるいは油滴に該当するものではなく、傷付き時の防食性を発現するために必要な特性である。
フッ素オイルの含有量は、フッ素樹脂とフッ素オイルとの混合物からなる上層被膜11に対して、20質量%以上98質量%以下であることが好ましい。この範囲であれば、傷付いた場合でも高い防食性が維持できる防食膜とできる。50質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。この範囲であれば、多様な使用環境に適用できる強度を有する被膜を形成できる。フッ素オイルの含有量が20質量%未満であると、傷付き時のフッ素オイルの滲み出しが少なくなり防食性が十分に発現されない場合がある。一方、フッ素オイル含有量が98質量%を超えると、上層被膜11の強度が低下し、軽い摩擦等でも除去されてしまうことがあるため好ましくない。
上層被膜11においては、フッ素樹脂とフッ素オイルとを用いているため、水及びフッ素系ではない油は、この上層被膜11に接しても、浸透することはなく、表面に付着した状態となる。上層被膜11の表面にはフッ素オイルがブリードアウトしているため、付着物は固着せず、重力による弱い力又は風及び水流の摩擦による弱い力で移動して表面から除去されやすい。このような防汚性は、本発明の防食コーティングの重要な効果の一つである。金属表面の被膜にわずかにでも導電性があると、付着した汚れは、局部電池を形成する。局部電池の効果により腐食が促進されることになる。本発明の防食コーティングは、優れた防汚性を有するので、局部電池の形成を抑制することができ、優れた防食性を実現できる。
上層被膜11の表面に、乾燥した粘土、シルト等の微細粉塵が付着することも想定される。付着した微細粉塵が乾燥している場合には、微細粉塵にフッ素オイルが吸収されることがある。吸収されるフッ素オイルが多い場合には上層被膜11中のフッ素オイルの含有量が少なくなりすぎて、傷付き時の防食性が十分に得られない恐れがある。微細粉塵の付着が想定される場合には、フッ素オイルの含有量は、フッ素樹脂とフッ素オイルとの混合物からなる上層被膜11に対して、70質量%以上98質量%以下であることが好ましい。フッ素オイルの含有量を70質量%以上とすることで、フッ素オイルが少なくなりすぎることを回避できる。微細粉塵が多量に付着した場合には、上層被膜11にフッ素オイルを塗布し補充することで防食性を回復させることも可能である。この場合には、上層被膜11を形成するのに用いたコーティング液を使用してもよいが、フッ素オイル及び溶剤を含む液を塗布し、フッ素オイルだけを補充してもよい。
下層被膜10に用いるフッ素樹脂としては、溶剤に不溶のフッ素樹脂、例えばPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、CTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリビニルフルオライド)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)、FEP(パーフルオロエチレン−プロピレン共重合体)、ECTFE(エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、TFE/PDD(テトラフルオロエチレン‐パーフルオロジオキソール共重合体)及びこれらの混合物が挙げられる。このようなフッ素樹脂に、金属基材表面との接着力を向上させるための置換基を導入することも好ましい。これらのフッ素樹脂を加熱溶融することで金属基材表面と密着した下層被膜10が形成される。このような形成方法は、膜厚が厚く且つ強度が高い下層被膜10を形成しやすいため、耐摩擦性及び耐候性について厳しい条件が要求される場合に適している。
溶剤に不溶のフッ素樹脂からなる下層被膜10の形成方法は、フッ素樹脂粉末を金属基材に付着させ、フッ素樹脂の溶融温度以上に加熱すればよい。加熱温度は250℃以上400℃以下であることが好ましく、280℃以上350℃以下であることがより好ましい。加熱温度が250℃未満であると、フッ素樹脂と金属基材との密着性が不十分であったり、ピンホールが多数形成されたりして防食性が十分に得られない場合がある。一方、加熱温度が400℃を超えると、フッ素樹脂が熱劣化する場合があり、この場合も十分な防食性が得られない場合がある。フッ素樹脂粉末を金属基材に付着させる方法としては、粉末を静電塗装で付着させる方法、粉末を振り掛けて付着させる方法、粉末を噴き掛けて付着させる方法、フッ素樹脂粉末のスラリーを塗布した後、乾燥して粉体膜を形成する方法等が挙げられる。これらの中でも、均質な膜厚の下層被膜10を形成できるという点で、粉末を静電塗装で付着させる方法が好ましい。
溶剤に不溶のフッ素樹脂からなる下層被膜10の膜厚は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、2μm以上100μm以下であることがより好ましい。膜厚が1μm未満であると、下層被膜10にピンホール等の欠陥が多数生じ、良好な防食性が得られない場合がある。一方、膜厚が500μmを超えると、傷付き時に膜が剥離しやすくなり、傷表面へのフッ素樹脂の拡がりや上層被膜11からのフッ素オイルの拡散が起こりにくくなり、傷部分の防食性が得られなくなることがあるため好ましくない。
また、下層被膜10に用いるフッ素樹脂としては、溶剤に可溶のフッ素樹脂も利用可能である。このようなフッ素樹脂としては、フッ化アルキル基を有する各種のポリマー、あるいは各種置換基を有するフッ化アルキルポリエーテルが挙げられる。このようなフッ素樹脂に、金属基材表面との接着力を向上させるための置換基を導入することも好ましい。これらのフッ素樹脂を用いる場合、塗布乾燥だけで下層被膜10を形成することができるという利点がある。さらに、これらのフッ素樹脂を用いることで膜厚が薄くてもピンホール等の欠陥の少ない下層被膜10を形成することができるという利点もある。また、これらのフッ素樹脂は、加熱が困難な物品、高い放熱性及び高い寸法精度が要求されるために厚い膜厚が好ましくない物品等に下層被膜10を形成するのに適している。
溶剤に可溶のフッ素樹脂としては、一般的にはフッ素樹脂と分類されていないものであるが、フッ化アルキル基と、アルコキシシラン、クロロシラン、シラノール、シラザン等の金属基材の極性基と反応する反応性基を有する、シランカップリング剤、シリル化剤と呼ばれるようなもので処理してもよい。これらとフッ素樹脂とを混合したものを用いてもよい。溶剤に可溶のフッ素樹脂を用いる場合には、膜強度の向上及び金属基材との密着性の向上のため、ポリイソシアネート、メラミン樹脂等の架橋剤を添加してフッ素樹脂を架橋させてもよい。
溶剤に可溶のフッ素樹脂からなる下層被膜10の形成方法は、フッ素樹脂の溶液を塗布乾燥して行う。塗布法は、スプレー塗布、ハケ塗り、浸漬法等の公知の方法から適宜選択することができる。塗布前に、金属基材の表面が油分等で汚れている場合は、十分に清浄化することが好ましい。溶剤は、フッ素樹脂を溶解し、溶解度20以上となる溶剤であり、沸点が30℃以上300℃以下のものが好ましい。このような溶剤の具体例としては、トリデカフルオロヘキサン、デカフルオロペンタン等のハイドロフルオロカーボン、パーフルオロヘキサン等のパーフルオロカーボン、パーフルオロブトキシメタン、パーフルオロブトキシエタン、2,2,2−トリフルオロエトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン等のハイドロフルオロエーテル、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル、乳酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの、一般的な塗料に用いられる有機溶剤を用いてもよい。コーティング組成に反応性基を有する場合は、塗布乾燥後に加熱を行うことで、下層被膜10の密着性及び膜強度を向上させることができる。シランカップリング剤、シリル化剤等の金属基材との反応性を有するものについては、これらの薬剤を金属基材に塗布した後、80℃以上200℃以下の温度で、5分以上60分以下の時間、加熱して反応させ、さらに、フッ素樹脂の溶液を塗布乾燥する方法も好ましい。
塗布に用いるフッ素樹脂の溶液は、溶剤に可溶のフッ素樹脂を0.1質量%以上40質量%以下の濃度で含むものが好ましく、1.0質量%以上30質量%以下の濃度で含むものがより好ましい。溶剤に可溶のフッ素樹脂が0.1質量%未満の濃度であると、形成される下層被膜10が、金属基材表面を完全に覆う状態とならず良好な防食性を実現できないことがある。一方、溶剤に可溶のフッ素樹脂が40質量%を超える濃度であると、形成される下層被膜10の膜厚にムラが生じ、傷付き時に剥離したり、その上に形成される上層被膜にムラを生じさせることで、良好な防食性が実現できないことがある。
溶剤に可溶のフッ素樹脂からなる下層被膜10の膜厚は、上述のシランカップリング剤、シリル化剤のみの場合では、数nmの薄膜となる場合があるが、金属基材表面がフッ化アルキルで覆われていれば、上層被膜11を構成するフッ素樹脂及びフッ素オイルとなじみが良くなるため、本発明の優れた防食効果が得られる。また、金属基材と下層被膜10とが強固に結合しているため、金属基材の傷付き時に、傷表面に剥離せずに拡がって残留し、後のフッ素オイルの傷表面への拡散が起こりやすくなる。このような下層被膜10の場合には、薄膜で効果が得られるため、高精度、高熱伝導性等が要求される金属基材に適用できるという利点がある。
下層被膜10は、このような薄膜であるより、溶剤に可溶のフッ素樹脂も含むことで、膜厚のより厚い下層被膜10を形成する方が、金属基材を確実に覆うことができるという利点がある。また、この場合には、金属基材の傷付き時に、傷表面をフッ素樹脂が拡がって覆いやすく、後のフッ素オイルの傷表面への拡散が起こりやすくなる。この場合の下層被膜10の膜厚は、10nm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上60μm以下であることがより好ましい。膜厚が10nm未満であると、フッ素樹脂添加の効果は得られない場合がある。一方、膜厚が100μmを超えると、傷付き時に剥離することがあり好ましくない。
下層被膜10に用いられるフッ素樹脂は、上層被膜11に含まれるフッ素オイルにより膨潤することで膜強度が低下し、傷付き時等に下層被膜10が剥離したり、変形時に破断しやすくなり、傷表面にフッ素樹脂が拡がりにくくなる。そのため、下層被膜10に用いられるフッ素樹脂は、上層被膜11に含まれるフッ素オイルと接した時の膨潤が少ないことが好ましい。下層被膜10に用いられるフッ素樹脂を、上層被膜11に含まれるフッ素オイルに浸漬した時の膨潤による重量増加は、100質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。膨潤による重量増加が100質量%を超えると、良好な防食効果が得られない場合がある。
実施の形態1に係る防食コーティングを形成する物品としては、腐食されやすい性質を有し且つ防食性が必要とされるものであれば特に限定されないが、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、マグネシウム及びそれらの合金から選択される金属基材を構成部品として備える物品が挙げられる。具体的には、物品として、空調機器、給湯器等の熱交換器及び配管、各種ヒートシンク等が挙げられる。
実施の形態2.
実施の形態2では、撥水性樹脂としてシリコーン樹脂を用い、撥水性樹脂と混和性を有する撥水性オイルとしてシリコーンオイルを用いた防食コーティングについて説明する。実施の形態2に係る防食コーティングは、実施の形態1に係る防食コーティングと同様に、金属面が露出するような深い傷付きが生じた場合においても、防食性が維持されるという効果が得られる。シリコーンオイル及びシリコーン樹脂は、フッ素オイル及びフッ素オイルと同様に、耐熱性を有し且つ化学的に安定であるため、長期に防食効果を得るのに適している。一般的に、シリコーンオイル及びシリコーン樹脂は、フッ素オイル及びフッ素オイルより価格が安く、種類も多いため低コストで、目的に適合した材料の組み合わせが得やすいという利点がある。実施の形態2に係る防食コーティングは、油汚れなどによりシリコーンオイルの流出及び劣化が起こりやすいため、汚染が激しい環境下での利用が困難であること、傷表面に拡がるシリコーンオイルの撥水撥油性がフッ素オイルより劣るため、水及び油が多い環境下での防食性が劣るという欠点がある。
上層被膜11に用いるシリコーン樹脂は、防食コーティングの使用環境下で流動性がないものであることが好ましい。高分子量ポリシロキサン及び架橋ポリシロキサンは、液体として塗布することができ、塗布後には溶剤の蒸発及び架橋反応により流動性がなくなるので、上層被膜11に用いるシリコーン樹脂として好ましい。また、上層被膜11に用いるシリコーン樹脂は、シリコーンオイルと均質な混合被膜を形成できるものであることが好ましい。
上層被膜11に用いるシリコーンオイルとしては、各種のポリシロキサンが挙げられる。シリコーンオイルには、傷付き時の濡れ拡がり性が必要であり、この特性は動粘度と相関がある。シリコーンオイルの動粘度は、50cSt以上1800cSt以下であることが好ましく、60cSt以上1500cSt以下であることがより好ましい。シリコーンオイルの動粘度が50cSt未満であると、流動性が高すぎて、上層被膜11に他の物体が接した時に上層被膜11からシリコーンオイルが他の物体表面に移行したり、蒸気圧が低く蒸発したりして、上層被膜11中のシリコーンオイルが減少しやすいため好ましくない。一方、シリコーンオイルの動粘度が1800cStを超えると、傷表面をシリコーンオイルが覆うのに時間がかかりすぎて、拡散までに腐食が発生してしまう恐れがあり好ましくない。上記の動粘度は20℃〜30℃程度の室温付近での値であり、一般的な使用環境下での動粘度に該当するが、高温又は低温での使用環境下では、それらの温度での動粘度が上記範囲内のシリコーンオイルを用いることが好ましい。
シリコーンオイルは、高温条件下で揮発する可能性があるが、使用環境下で顕著な重量減少が無ければよい。例えば、シリコーンオイルを金属板に塗布し、120℃での熱風曝露を20時間行った時の重量減少が10質量%以下であれば問題は無い。
上層被膜11には、その膜強度を向上させるために、ポリイソシアネート、メラミン樹脂等の架橋剤を添加してシリコーン樹脂を架橋させてもよい。
上層被膜11は、下層被膜10上にコーティング液を塗布し乾燥して形成する。上層被膜のコーティング液は、シリコーン樹脂、シリコーンオイル及びそれらを溶解する溶剤からなる。この溶剤としては、下層被膜10を溶解しないものであれば、塗料の溶剤として一般的に用いられる各種のものが利用できる。
コーティング液中のシリコーン樹脂とシリコーンオイルとを合計した濃度は、1.5質量%以上30質量%であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。濃度が1.5質量%未満であると、十分な膜厚の上層被膜11を形成できない場合がある。一方、濃度が30質量%を超えると、コーティング液の粘度が高くなりすぎ、塗布が困難であったり、塗布後の膜厚にムラが生じやすかったりするため好ましくない。
コーティング液の塗布法及び塗布後の膜厚については、実施の形態1で説明したフッ素樹脂及びフッ素オイルからなる上層被膜11の場合と同様のものが好ましい。
上層被膜11においては、シリコーン樹脂とシリコーンオイルとは、均質に混合されていることが好ましい。架橋度が高すぎたり、極性基が多いシリコーン樹脂を用いると、シリコーンオイルが分離してしまう場合がある。このような場合には、防食コーティングとして安定に存在することができず好ましくない。シリコーンオイルは、シリコーン樹脂と相溶し、ゲルを形成するか、又は平均粒径5μm以下の油滴として上層被膜11中に存在することが好ましい。上層被膜11の表面には、ブリードアウトしたシリコーンオイルが薄く存在しているが、これは上述の分離したシリコーンオイルの膜あるいは油滴に該当するものではなく、傷付き時の防食性を発現するために必要な特性である。
シリコーンオイルの含有量は、シリコーン樹脂とシリコーンオイルとの混合物からなる上層被膜11に対して、40質量%以上98質量%以下であることが好ましく、50質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。シリコーンオイルの含有量が40質量%未満であると、傷付き時のオイルの滲み出しが少なくなり防食性が十分に発現されない場合がある。一方、シリコーンオイルの含有量が98質量%を超えると、上層被膜11の強度が低下し、軽い摩擦等でも除去されてしまうことがあるため好ましくない。
上層被膜11においては、シリコーン樹脂とシリコーンオイルとを用いているため、水が上層被膜11に接しても、浸透することはなく、表面に付着した状態となる。上層被膜11の表面にはシリコーンオイルがブリードアウトしているため、付着物は固着せず、重力による弱い力又は風及び水流の摩擦による弱い力で移動して表面から除去されやすい。このような防汚性は、本発明の防食コーティングの重要な効果の一つである。金属表面の被膜にわずかにでも導電性があると、付着した汚れは、局部電池を形成する。局部電池の効果により腐食が促進されることになる。本発明の防食コーティングは、優れた防汚性を有するので、局部電池の形成を抑制することができ、優れた防食性を実現できる。
上層被膜11の表面に、乾燥した粘土、シルト等の微細粉塵が付着することも想定される。付着した微細粉塵が乾燥している場合には、微細粉塵にシリコーンオイルが吸収されることがある。吸収されるシリコーンオイルが多い場合には上層被膜11中のシリコーンオイルの含有量が少なくなりすぎて、傷付き時の防食性が十分に得られない恐れがある。微細粉塵の付着が想定される場合には、シリコーンオイルの含有量は、シリコーン樹脂とシリコーンオイルとの混合物からなる上層被膜11に対して、70質量%以上98質量%以下であることが好ましい。シリコーンオイルの含有量を70質量%以上とすることで、シリコーンオイルが少なくなりすぎることを回避できる。微細粉塵が多量に付着した場合には、上層被膜11にシリコーンオイルを塗布し補充することで防食性を回復させることも可能である。この場合には、上層被膜11を形成するのに用いたコーティング液を使用してもよいが、シリコーンオイル及び溶剤を含む液を塗布し、シリコーンオイルだけを補充してもよい。また、シリコーンオイルを水を媒体とするエマルジョンとして塗布する方法も好ましい。
下層被膜10に用いるシリコーン樹脂としては、防食コーティングの使用環境下で流動性がないものであることが好ましい。高分子量ポリシロキサン及び架橋ポリシロキサンは、液体として塗布することができ、塗布後には溶剤の蒸発及び架橋反応により流動性がなくなるので、下層被膜10に用いるシリコーン樹脂として好ましい。シリコーン樹脂に、金属基材表面との接着力を向上させるための置換基の導入を導入することも好ましい。下層被膜10には、膜強度の向上及び金属基材との密着性の向上のため、ポリイソシアネート、メラミン樹脂等の架橋剤を添加してシリコーン樹脂を架橋させてもよい。
シリコーン樹脂からなる下層被膜10の形成方法は、シリコーン樹脂の溶液を塗布乾燥して行う。塗布法は、スプレー塗布、ハケ塗り、浸漬法等の公知の方法から適宜選択することができる。塗布前に、金属基材の表面が油分等で汚れている場合は、十分に清浄化することが好ましい。溶剤は、シリコーン樹脂を溶解し、溶解度20以上となる溶剤であり、沸点が30℃以上300℃以下のものが好ましい。このような溶剤の具体例としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル、乳酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の一般的な塗料に用いられる有機溶剤が挙げられる。コーティング組成に反応性基を有する場合は、塗布乾燥後に加熱を行うことで、下層被膜10の密着性及び膜強度を向上させることができる。シランカップリング剤、シリル化剤等の金属基材との反応性を有するものについては、これらの薬剤を金属基材に塗布した後、80℃以上200℃以下の温度で、5分以上60分以下の時間、加熱して反応させ、さらに、シリコーン樹脂の溶液を塗布乾燥する方法も好ましい。
塗布に用いるシリコーン樹脂の溶液は、シリコーン樹脂を0.1質量%以上40質量%以下の濃度で含むものが好ましく、1.0質量%以上30質量%以下の濃度で含むものがより好ましい。シリコーン樹脂が0.1質量%未満の濃度であると、形成される下層被膜10が、金属基材表面を完全に覆う状態とならず良好な防食性を実現できないことがある。一方、シリコーン樹脂が40質量%を超える濃度であると、形成される下層被膜10の膜厚にムラが生じ、傷付き時に剥離したり、その上に形成される上層被膜にムラを生じさせることで、良好な防食性が実現できないことがある。
シリコーン樹脂からなる下層被膜10の膜厚は、10nm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上60μm以下であることがより好ましい。膜厚が10nm未満であると、シリコーン樹脂添加の効果は得られない場合がある。一方、膜厚が100μmを超えると、傷付き時に剥離することがあり好ましくない。
一般的にはシリコーン樹脂と分類されていないものであるが、各種のアルキル基と、アルコキシシラン、クロロシラン、シラノール、シラザン等の金属基材の極性基と反応する反応性基を有する、シランカップリング剤、シリル化剤と呼ばれるようなもので処理してもよい。これらの薬剤は、金属基材表面でシロキサン結合を形成するためシリコーン樹脂の塗布と同様の効果が得られるとともに、金属基材との密着性が高いという利点がある。これらとシリコーン樹脂とを混合したものを用いてもよい。
下層被膜10に用いられるシリコーン樹脂は、フッ素樹脂の場合と同様に、上層被膜11に含まれるシリコーンオイルにより膨潤することで膜強度が低下し、傷付き時に下層被膜10が剥離したり、変形時に破断しやすくなり、傷表面にシリコーン樹脂が拡がりにくくなる。下層被膜10に用いられるシリコーン樹脂は、上層被膜11に含まれるシリコーンオイルと接した時の膨潤が少ないことが好ましい。下層被膜10に用いられるシリコーン樹脂を、上層被膜11に含まれるシリコーンオイルに浸漬した時の膨潤による重量増加は、100質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。膨潤による重量増加が100質量%を超えると、良好な防食効果が得られない場合がある。
実施の形態2に係る防食コーティングを形成する物品としては、実施の形態1と同様のものが挙げられる。
<実施例1〜3及び比較例1〜2>
実施例1〜3及び比較例1〜2の防食コーティングを以下の手順に従って形成した。
70mm×150mm×1mmのアルミニウム板に、フッ素樹脂を含むコーティング液(株式会社野田スクリーン製WOP−019XQA)をスプレーで塗布し、常温で乾燥し、フッ素樹脂からなる下層被膜を形成した。下層被膜の膜厚は約12μmであった。下層被膜を形成するのに用いたコーティング液は、フッ素系溶剤と8質量%のフッ素樹脂とからなるものである。
次に、下層被膜上に、フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製Novec1700)及びフッ素オイル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製フォンブリンPFPE)をフッ素系溶剤(旭硝子株式会社製AE3000、沸点56℃)に溶解させたコーティング液をスプレーで塗布し、常温で乾燥することで上層被膜を形成した。上層被膜を形成するのに用いたコーティング液は、フッ素樹脂とフッ素オイルとフッ素系溶剤とからなり、フッ素樹脂とフッ素オイルとの合計が3質量%であるものである。
防食コーティング形成後、針で擦って表面に多数の傷を付けた。傷を付けた試料を室温で1日間放置した後、JIS Z 2371に準拠し48時間塩水噴霧した。フッ素樹脂からなる下層被膜の膨潤量は、同条件でアルミ箔上に形成した下層被膜をフッ素オイルに2時間浸漬した後の重量増加より求めた。
なお、実施例1〜3及び比較例1〜2の防食コーティングでは、下層被膜は変更しておらず、上層被膜を形成するのに用いたフッ素オイルの動粘度、フッ素オイルの含有量及び上層被膜の膜厚を表1に示すように変更した。
Figure 0006910288
表1から分かるように、実施例1〜3の防食コーティングでは、傷を付けた部分も腐食は発生しておらず優れた防食性が維持されている。ただし、実施例3の防食コーティングでは、傷を付けた部分が局所的に着色する現象が認められた。これは、フッ素オイルの動粘度が高く、傷を付けた部分に拡がるフッ素オイルの量が少ないことが原因であると考えられる。一方、比較例1の防食コーティングでは、傷を付けた部分の腐食が進行してしまい、傷を付けた部分は防食性が失われたことが分かる。また、比較例2の防食コーティングでは、傷を付けた部分で腐食が点状に発生し、防食性が十分でないことが分かる。これは、フッ素オイルが下層被膜上に点状に分布しており、傷を付けた部分に拡散できなかったことが原因であると考えられる。
<実施例4〜6>
実施例4〜6の防食コーティングを以下の手順に従って形成した。
70mm×150mm×1mmのアルミニウム板に、フッ素樹脂及び架橋剤を含むコーティング液(スリーエムジャパン株式会社製Novec2702)をスプレーで塗布した後、130℃で30分間加熱することで、熱架橋したフッ素樹脂からなる下層被膜を形成した。下層被膜の膜厚は0.2μmであった。下層被膜を形成するのに用いたコーティング液は、フッ素系溶剤と2質量%のフッ素化メタクリル酸ポリマーと架橋剤とからなるものである。
次に、下層被膜上に、フッ素樹脂としてのポリフルオロアルキルエチルアクリレート共重合体(ユニマティック株式会社製NOXBARRIER ST−463)及びフッ素オイル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製フォンブリンPFPE)をフッ素系溶剤(旭硝子株式会社製AE3000)に溶解させたコーティング液をスプレーで塗布し、常温で乾燥することで上層被膜を形成した。上層被膜を形成するのに用いたコーティング液は、フッ素樹脂とフッ素オイルとフッ素系溶剤とからなり、フッ素樹脂とフッ素オイルとの合計が5質量%であるものである。
下層被膜の膨潤量及び防食性については、実施例1〜3と同様の評価を行った。
なお、実施例4〜6の防食コーティングでは、下層被膜は変更しておらず、上層被膜を形成するのに用いたフッ素オイルの動粘度、フッ素オイルの含有量及び上層被膜の膜厚を表2に示すように変更した。
Figure 0006910288
表2から分かるように、実施例4〜6の防食コーティングでは、傷を付けた部分も腐食は発生しておらず優れた防食性が維持されている。下層被膜として同じフッ素樹脂を使用しているが、架橋反応でフッ素オイルによる膨潤が抑制されたためである。
<実施例7〜9及び比較例3〜4>
実施例7〜9及び比較例3〜4の防食コーティングを以下の手順に従って形成した。
70mm×150mm×1mmのアルミニウム板に、シリコーン樹脂を含むコーティング液として、反応性シラン・シロキサンのエマルジョン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製BC2103)をスプレーで塗布した後、60℃温風で乾燥硬化させることで、シリコーン樹脂からなる下層被膜を形成した。下層被膜の膜厚は5μmであった。
次に、下層被膜上に、シリコーン樹脂(信越シリコーン株式会社製KR−220L)及びシリコーンオイルとしてのジメチルポリシロキサン(東レ・ダウコーニング株式会社製SH200)をキシレン(沸点144℃)に溶解させたコーティング液をスプレーで塗布し、常温で乾燥することで上層被膜を形成した。上層被膜を形成するのに用いたコーティング液は、シリコーン樹脂とシリコーンオイルとキシレンとからなり、シリコーン樹脂とシリコーンオイルとの合計が10質量%であるものである。
下層被膜の膨潤量及び防食性については、実施例1〜3と同様の評価を行った。
なお、実施例7〜9及び比較例3〜4の防食コーティングでは、下層被膜は変更しておらず、上層被膜を形成するのに用いたシリコーンオイルの動粘度、シリコーンオイルの含有量及び上層被膜の膜厚を表3に示すように変更した。
Figure 0006910288
実施例7〜9の防食コーティングでは、傷を付けた部分も腐食は発生しておらず優れた防食性が維持されている。ただし、実施例9の防食コーティングでは、腐食は抑制されているものの、傷を付けた部分が局所的に着色する現象が認められた。これは、シリコーンオイルの動粘度が高いため、傷を付けた部分へのシリコーンオイルの拡散が遅く、アルミニウムの表面酸化が起こったためであると考えられる。一方、比較例3の防食コーティングでは、傷を付けた部分の腐食が進行してしまい、傷を付けた部分は防食性が失われたことが分かる。また、比較例4の防食コーティングでは、傷を付けた部分で腐食が点状に発生し、防食性が十分でないことが分かる。これは、シリコーンオイルが下層被膜上に点状に分布しており、傷を付けた部分に拡散できなかったことが原因であると考えられる。
1 樹脂被膜、2 金属基材、3 傷、4 腐食部分、10 下層被膜、11 上層被膜、12 滲み出した撥水性オイル。

Claims (5)

  1. 第1のフッ素樹脂からなる下層被膜と、
    前記下層被膜上に形成され、第2のフッ素樹脂及びフッ素オイルの混合物からなる上層被膜と
    を備えることを特徴とする防食コーティング。
  2. 前記フッ素オイルが、前記上層被膜に対して20質量%以上98質量%以下の範囲で含まれることを特徴とする請求項1に記載の防食コーティング。
  3. 前記下層被膜において、前記第1のフッ素樹脂が架橋剤により架橋されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防食コーティング。
  4. 前記下層被膜に用いられる第1のフッ素樹脂が、前記上層被膜に含まれるフッ素オイルと接した時の膨潤による重量増加が30質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の防食コーティング。
  5. 第1のシリコーン樹脂からなる下層被膜と、
    前記下層被膜上に形成され、第2のシリコーン樹脂及びシリコーンオイルの混合物からなる上層被膜と
    を備え
    前記シリコーンオイルが、前記上層被膜に対して50質量%以上98質量%以下の範囲で含まれることを特徴とする防食コーティング。
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