以下、図面を用いて、光測定装置及び光測定方法について詳細に説明する。ただし、本発明は図面又は以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
最初に光測定方法の原理を図1及び図2を用いて説明する。この光測定方法は、2つの異なる波長を有する励起光を交互に同一の歯に照射し、それぞれの波長の励起光により歯で生じた蛍光を歯垢に由来する蛍光波長領域で検出し、その蛍光強度の比あるいは差を用いることで、歯の自家蛍光に重畳した測定対象である歯垢に由来した蛍光を分離して検出するものである。
図1は、第1の波長として405nmのピーク波長を有する紫色光を清浄な歯及び歯垢が付着した歯に照射した際にそれぞれの歯から得られる光のスペクトルを示すグラフである。グラフの横軸は波長λ(nm)を示し、縦軸は第1の蛍光強度である蛍光強度Iを示す。細線は清浄な歯から得られるスペクトルS1を示しており、太線は歯垢が付着した歯から得られるスペクトルS1’を示している。405nm付近のピークE1は、照射された405nmの紫色光が歯面で反射あるいは散乱されることにより検出された励起光である。500nm付近にピークP0をもつブロードな蛍光は歯の自家蛍光である。635nm及び675nm付近のピークP1、P2は、歯垢に含まれる蛍光物質PPIXから得られる蛍光スペクトルである。
清浄な歯から得られるスペクトルS1では歯垢由来のピークP1、P2は観察されないが、歯垢が付着した歯から得られるスペクトルS1’では歯垢由来の蛍光のピークP1、P2が観察される。同時に、スペクトルS1’は、スペクトルS1に比べて全波長域で一定の減衰を示している。これは、付着した歯垢によって励起光が吸収されるために生じる減衰であり、歯垢量に依存し、波長によらずほぼ一定の減衰を示す。
歯垢由来の蛍光のピークP1をより精度よく測定するためには、下記の数式(1)に示すように、その波長におけるスペクトル強度p1’から歯の自家蛍光の成分t1’を引いた歯垢由来の蛍光物質量Δpを求める必要がある。
Δp = p1’ − t1’ ・・・(1)
つまり、歯垢が付着した状態で、かつ歯垢由来の蛍光を生じさせずに、歯の自家蛍光の成分t1’を求める必要がある。このような条件について鋭意検討した結果、第1の波長、ここでは405nmよりも長波長の第2の波長の光源を用いた際のスペクトルを取得すればよいことがわかった。
図2は、第2の波長として465nmのピーク波長を有する青色光を清浄な歯及び歯垢が付着した歯に照射した際にそれぞれの歯から得られる光のスペクトルを示すグラフである。図1と同様に、グラフの横軸は波長λ(nm)を示し、縦軸は第2の蛍光強度である蛍光強度Iを示す。細線は清浄な歯から得られるスペクトルS2を示しており、太線は歯垢が付着した歯から得られるスペクトルS2’を示している。
波長465nmの青色光を清浄な歯及び歯垢が付着した歯に照射した場合には、歯の自家蛍光のブロードなピークP0は波長405nmの紫色光を照射した場合と同様に観察されるが、PPIXの励起が弱くなるため、歯垢由来のピークP1、P2は観察されない。したがって、第2の波長で励起した際の歯の自家蛍光の成分t2’を第1の波長で励起した際の自家蛍光の成分t1’として代用することが可能であり、歯垢由来の蛍光物質量Δpは下記の数式(2)で近似できる。
Δp ≒ p1’ − t2’ ・・・(2)
近似が成立するためには、第1の波長及び第2の波長の励起光の強度を事前に調整して自家蛍光の成分t1’とt2’を揃えておく必要があるが、歯垢量に対して自家蛍光の減衰が比例関係にあることを利用して、清浄な歯で測定された自家蛍光の成分t1とt2が一致するように励起光の強度を調整しておけばよい。あるいは、あらかじめ清浄な歯について自家蛍光の成分t1とt2の比t1/t2を測定しておけば、下記の数式(3)のように補正することが可能である。
Δp ≒ p1’ − t2’×(t1/t2) ・・・(3)
以上説明した原理により、2つの異なる波長を有する励起光を交互に歯に照射し、それぞれの波長の励起光により歯で生じた蛍光を歯垢由来の蛍光波長領域で検出し、それらの蛍光強度である第1の蛍光強度と第2の蛍光強度との比あるいは差を用いることで、歯の自家蛍光に重畳した歯垢に由来した蛍光を分離して検出することが可能となる。
次に、上記の光測定方法を実現するための蛍光測定装置を説明する。図3は、蛍光測定装置1の構成図である。蛍光測定装置1は、検査光として蛍光を利用する光測定装置の一例である。蛍光測定装置1は、歯垢に含まれる蛍光物質を励起するための光源部100と、歯の表面で生じた蛍光の強度を検出するための検出部200と、計測された蛍光強度から歯垢の付着量を求めて利用者に報知する制御部300との3つのブロックから構成されている。
光源部100は、第1の波長で発光する第1の光源2、第2の波長で発光する第2の光源3、混色部4、出射光用光学フィルター5、出射光用光導波路6及び出射光用集光部7を有している。混色部4、出射光用光学フィルター5、出射光用光導波路6及び出射光用集光部7は、第1の光源2及び第2の光源3からの光を測定対象の歯に照射するための光経路部分を構成する。
第1の光源2及び第2の光源3としては、小型で安価なLED(発光ダイオード)や半導体レーザーを用いることができる。第1の光源2又は第2の光源3で発生する光の波長は、次のように選択される。第1の波長は、歯垢に含まれる蛍光物質に対する励起効率が高い波長を含み、第2の波長は第1の波長よりも長波長で、かつ励起効率が第1の波長よりも低いか、あるいはほぼゼロとなる波長に設定される。第1の波長は350nmから430nmの範囲内の波長であることが好ましく、第2の波長は435nmから500nmの範囲内の波長であることが好ましい。具体例として、第1の光源2をピーク波長が405nmの紫色LEDとし、第2の光源3をピーク波長が465nmの青色LEDとすることができる。
混色部4は、第1の光源2及び第2の光源3で発生した光を測定対象である歯に照射した際に色むらが生じないようにするために、光の照射面内での光強度分布を第1の波長の光と第2の波長の光との間で均一とする機能を有する。光強度分布が第1の波長の光と第2の波長の光とで一致していることが重要であり、光強度分布を持つこと自体は差し支えないため、混色部4の設計の自由度は比較的高くなる。
出射光用光学フィルター5は、第1の光源2と第2の光源3の光を通過させ、歯垢由来の蛍光波長領域をカットするフィルターであり、500nm以上の波長をカットする。出射光用光学フィルター5にショートパスフィルターを用いる場合、カットオフ波長は、第2の波長よりも十分長く、かつ歯垢に含まれる蛍光物質の蛍光波長よりも十分短波長に選べばよい。
出射光用光導波路6は、第1の光源2又は第2の光源3の光を測定対象の歯の付近まで減衰させずに運ぶためのものであり、その材質としては、例えばプラスチックやガラスが用いられる。また、出射光用光導波路6の外周をミラーコーティングして光漏れを防止することがより好ましい。また、出射光用光導波路6として、ライトパイプのようなミラーで囲まれた中空の光導波路を用いることもできる。
出射光用集光部7は、出射光用光導波路6中を伝播する光を歯の大きさ程度に集光して照射するためのレンズから構成される。第1の光源2又は第2の光源3からの励起光は、出射光用集光部7から、第1の照射光8又は第2の照射光9として歯10に照射される。
検出部200は、受光用集光部21、受光用光導波路22、受光用光学フィルター23及び光検出器24を有する。
受光用集光部21は、歯で生じた蛍光を含む検査光20を集光する。受光用光導波路22は、受光用集光部21と共に、集光された光を光検出器24まで伝播するための光経路部分を構成する。蛍光測定装置1を歯ブラシに組み込む際には、歯ブラシのブラシ部分を受光用光導波路22として、歯ブラシの先端を受光用集光部21としてもよい。
受光用光学フィルター23は、目的の蛍光以外の波長成分をカットするためのフィルターである。受光用光学フィルター23は、歯垢に含まれる蛍光物質が発する蛍光波長領域である620nmから690nmの範囲を除く波長領域をカットするように設定することが好ましい。特に短波長側では、直接歯で反射した光源からの光の反射光が強く現れるので、これらをカットできるように、受光用光学フィルター23にはシャープな減衰特性を持たせることが好ましい。歯垢からの蛍光スペクトルは630〜640nm付近と670〜680nm付近との2つの強いピークを有するので、受光用光学フィルター23として、これらの蛍光スペクトルの形状に近づけた透過率特性を有するバンドパスフィルターを使うことで、S/N比を向上させることができる。
制御部300は、制御回路30と報知部31とから構成されている。
制御回路30は、マイクロコンピュータにより構成され、第1の光源2及び第2の光源3の明るさと点灯時間を制御して、歯に対して2つの波長の光を交互に照射させる。このように、第1の光源2の点灯時間と第2の光源3の点灯時間とを分けることによって、それぞれの光が歯に照射されて得られる蛍光物質の蛍光を区別して受光することが可能となる。第1の光源2を点灯して得られた蛍光強度をP1とし、第2の光源3を点灯して得られた蛍光強度をP2として、制御回路30は、蛍光強度の比P1/P2、あるいは差(P1−P2)を求めることで、原理の項で説明したように、歯垢に含まれる蛍光物質量を求める。
報知部31は、求められた蛍光物質量を歯ブラシの利用者に報知する。この報知には、ブザー音や圧電素子を用いた電子音を用いてもよい。電子音の場合、蛍光物質量に応じて音の高さや大きさ、断続音のピッチを変えることで利用者にフィードバックすることができる。さらには、音声合成による音声メッセージや、音楽などを用いてもよい。あるいは、報知部31は、偏芯モーターを用いた振動報知や、LED点滅や色調を変えた光による報知、液晶表示による言語や図形、グラフによる報知を行ってもよい。さらに、報知部31に無線通信を併用し、携帯電話やパーソナルコンピュータなどの外部機器に報知情報や測定に関する情報を送信して、外部機器で使用者に報知してもよい。
制御部300は、2つの波長の光ごとに、検出した蛍光強度を記録し、それらを任意回数分だけ平均化処理してもよく、これによりノイズを軽減することができる。また、制御部300は、蛍光灯などの室内光の影響を避けるために、第1の光源2及び第2の光源3の点灯時間を商用電源の周期とは異なる時間に設定して、これにより照明光の影響を軽減することができる。
また、制御部300は、必要に応じて消灯を挟んで第1の光源2又は第2の光源3の発光を交互に照射してもよい。第1の光源2又は第2の光源3を点灯して取得した蛍光物質量から消灯して取得した蛍光物質量を減算することで、環境光の影響を軽減することが可能である。
図4(A)及び図4(B)は、歯ブラシ型の蛍光測定装置400の構成図である。
歯ブラシ型の蛍光測定装置400は、検査光として蛍光を利用する光測定装置の一例であり、歯ブラシヘッド41、柄部42及び握り部43から構成されている。第1の光源2及び第2の光源3は、握り部43内に設けられた回路基板44に制御回路30(図3を参照)、報知部31と共に搭載されている。第1の光源2及び第2の光源3からの光は、握り部43に設けられた混色部4及び出射光用光学フィルター5と、柄部42に設けられた長いテーパー形状の出射光用光導波路6aとを介して、歯ブラシヘッド41に導かれる。導かれた光は、歯ブラシヘッド41内でミラーなどの手段などを用いて方向が変えられ、歯ブラシヘッド41上の光照射部50から、励起光として歯面に対して照射される。歯で生じた蛍光は、歯ブラシヘッド41の光検出部51に配置された蛍光を透過する材質の複数のブラシ40を介して、光検出器24に導かれる。
蛍光測定装置400では、図4(B)に示すように、光照射部50は歯ブラシヘッドの中央に配置され、光検出部51は光照射部50に隣接して設けられている。しかしながら、配置はこの例に限らず、例えば、複数の光照射部50と複数の光検出部51とを歯ブラシヘッドに設けてもよいし、それらを直線状に交互に配置してもよい。
光検出器24で検出された蛍光は光電流に変換され、配線52を介して回路基板44に伝えられる。光電流から回路基板44内に設けられた制御回路30により蛍光物質量が求められ、その蛍光物質量が報知部31によりブザーや電子音などで利用者に報知される。
握り部43には、蛍光測定装置400を駆動するための電源として電池45が搭載されている。また、握り部43には2つのスイッチ46が設けられている。例えば、一方のスイッチ46を用いて蛍光測定機能をオン・オフすることができ、他方のスイッチ46を用いて、報知音を切り替えたり、蛍光の検出感度を調整したりすることができる。
図5(A)〜図5(C)は、混色部4の構成例を示す図である。歯ブラシ型の蛍光測定装置400では、第1の光源2又は第2の光源3から歯に照射される光の面内強度分布が変化しないことが重要であり、そのことが検出限界を決定する重要な指標となる。そのため、歯ブラシヘッド41に設けられた出射光用集光部7に光が達する段階で、照射光の面内強度分布に波長依存性がないことが必要である。混色部4は、照射光の面内強度分布の波長依存性をなくす作用を担う。
図5(A)は、テーパー形状のライトパイプを用いた混色部の構成例を示す図である。歯ブラシ型の蛍光測定装置400の柄部42から歯ブラシヘッド41に渡って出射光用光導波路6aとしてライトパイプを配置することで、長い光学経路を得ることができる。第1の光源2又は第2の光源3からの光は、ライトパイプ内で複数回の反射を繰り返すことで面内分布が均一化されるので、混色の効果を容易に高めることができる。つまり、出射光用光導波路6a自体が混色部として機能する。第1の光源2又は第2の光源3から斜めに出射した光62は複数回の反射を繰り返す一方、出射光用光導波路6aの端面に対してほぼ垂直に出射した光61は反射回数が少なくなるが、長い光学経路のため有効な混色が可能となる。
図5(A)に示すテーパー形状のライトパイプを出射光用光導波路6aとして用いることで、混色部4を別途設けなくても出射光用光導波路6aに混色部の機能をもたせることができ、簡便な構成で照射光の面内強度分布を均一に近づけることが可能となる。極端に斜めに出射した光はライトパイプ内での反射回数が多いため反射損失が無視できなくなるが、第1の光源2及び第2の光源3として出射角が狭い砲弾型LEDを使うことで、反射損失を減らし、同時に光結合効率を上げることができる。
ライトパイプは、ミラーを使った中空タイプでも、プラスチック製でもよい。プラスチック製の場合、外周に金属ミラーをコーティングすることで、光漏れを減少させることが可能である。ライトパイプの形状は、単純な直線形状でもテーパー状でもよいが、規則的なあるいは乱雑な反射面をパイプ内部に設けることで、混色の効果を容易に高めることが可能である。ライトパイプの断面形状は、丸型、楕円型、矩形、多角形などでもよく、そうした様々な形状のうちで、歯ブラシの形状及びデザインに合わせて適した構造を使い分けることも容易である。
図5(B)は、図5(A)に示す出射光用光導波路6aに混色部4が追加された形態の説明図である。図5(B)に示す例では、混色部4として、入射端面にマイクロレンズアレイ64が配置されたものが用いられている。こうして第1の光源2又は第2の光源3からの光を複数の点光源からの光67、69に変換することで、混色の効果がさらに高まる。
また、図5(B)に示す例では、第1の光源2及び第2の光源3としてLEDチップが、45度の反射ミラーを持ったミラー付き基板63に実装されている。この構造により、第1の光源2及び第2の光源3から出射する光が前方に導かれるので、出射角が狭まる。さらに、LEDチップを使うことで光源の間隔を狭くできるため、照射光の面内強度分布をより均一に近づけることが可能である。
図5(C)は、図5(A)に示す出射光用光導波路6aに別の構成の混色部4が追加された形態の説明図である。図5(C)に示す例では、混色部4として、第1の光源2及び第2の光源3からの出射光を散乱させる散乱体を含むものが用いられている。この混色部4は、光散乱粒子71を含む透明な樹脂で、ミラー付き基板63に搭載された第1の光源2及び第2の光源3を封止して形成されている。各光源からの光を多数の光散乱粒子71で多重に散乱させることで、照射光の面内強度分布を均一に近づけることができる。また、混色部4の出射端面にマイクロレンズアレイ64を追加してもよく、これにより混色の効果をさらに高めることが可能である。
図6は、歯ブラシヘッド41の内部を示す構成図である。出射光用光導波路6aを伝わる光は、歯ブラシヘッド41内のミラー6bで向きを変え、出射光用光導波路6cを介して、出射光用集光部7から歯10に向けて励起光として照射される。歯の表面に付着した歯垢及びその近辺の歯から生じた蛍光は、ブラシ40と受光用光学フィルター23を介して、光検出器24で検出される。ブラシ40の先端は、曲率を持たせることにより受光用集光部21として機能し、続くブラシ40は、受光用光導波路22として機能する。また、受光用光学フィルター23を取り囲むように遮光体23aが配置されており、遮光体23aは、環境光や励起光がブラシ40を介さずに直接受光用光学フィルター23に入射することを防ぐ。
受光用光学フィルター23とブラシ40の端面とをブラシ40及び受光用光学フィルター23の屈折率に近い屈折率を持つ光学接着剤で接着することで、散乱損失を防ぐことができる。また、受光用光学フィルター23の機能を有する光学接着剤を使って、ブラシ40の端面と光検出器24の開口部24aとを接着することもできる。さらに、ブラシ40の素材に光学フィルターとして機能するような素材を用いることも可能である。その際は、ブラシ40の端面は、光検出器24の開口部24aに配置され、光学接着剤で接着される。
図7は、制御部300の回路構成の例を示すブロック図である。制御部300は、制御回路30及び報知部31(図3を参照)に加えて、光源駆動回路82、83、パルス幅設定回路82A、83A、電流電圧変換回路85、発振回路100A及びロックインアンプ103を有する。これらは、握り部43内の回路基板44(図4を参照)上に設けられている。ロックインアンプ103は、2位相で動作する2相のロックインアンプであり、位相検波器104、109、90度移相器108及びA/Dコンバータ106、111を有する。
発振回路100Aは、周期Tの矩形波であるタイミング信号101(基準信号の一例)を生成する。
図8は、制御部300の動作タイミングを示すタイミングチャートである。図8では、タイミング信号101をTIMで表し、第1の光源2及び第2の光源3の点灯タイミングをそれぞれLED1、LED2で表す。また、光検出器24で得られる光電流が電流電圧変換回路85で電圧に変換された後の光信号をPDで表す。また、ロックインアンプ103の同相検波位相をPhI、その検波出力を105で表し、90度検波位相をPhQ、その検波出力を110で表す。
パルス幅設定回路82A、83Aは、設定回路の一例であり、タイミング信号101の1周期内における第1の光源2及び第2の光源3の発光期間(第1及び第2の発光期間)の長さをそれぞれ設定する。具体的には、パルス幅設定回路82Aは、タイミング信号101がHであるT/2の期間内で長さα(ただし0<α<T/2)だけを第1の発光期間とし、その期間内だけ第1の光源2を点灯させるためのLED点灯信号82Bを生成して、光源駆動回路82に出力する。同様に、パルス幅設定回路83Aは、タイミング信号101がLであるT/2の期間内で長さαだけを第2の発光期間とし、その期間内だけ第2の光源3を点灯させるためのLED点灯信号83Bを生成して、光源駆動回路83に出力する。
すなわち、第1の光源2(LED1)は1周期Tの前半で点灯し、第2の光源3(LED2)は1周期Tの後半で点灯し、それらのDutyは共にαである。第1の光源2と第2の光源3の発光期間は、タイミング信号101の周期Tの1/2未満であり、互いに重複せず、かつ互いに同じ長さである。図示した例では、第1の光源の発光波長(第1の波長)は405nm、第2の光源の発光波長(第2の波長)は465nmであり、図を分かりやすくするために、図8にはこれらの波長の数値を記入している。図8に示すように、第1の光源2と第2の光源3の発光期間は、周期Tの中央(位相180度の点)を間に挟んで連続している(つまり、両方とも中央詰めになっている)。
光源駆動回路82、83は、それぞれ、パルス幅設定回路82A、83Aから出力されたLED点灯信号82B、83Bに従って、第1の光源2及び第2の光源3を駆動する。第1の光源2は、タイミング信号101の1周期内における長さαの第1の発光期間に発光して、第1の波長(図示した例では405nm)の光を出射する。第2の光源3は、タイミング信号101の1周期内における長さαの第2の発光期間に発光して、第2の波長(図示した例では465nm)の光を出射する。
第1の光源2又は第2の光源3が点灯し、その光が歯に照射されると、歯から蛍光が発生し、その光は光検出器24で検出される。電流電圧変換回路85は、光検出器24の出力信号を電圧信号に変換して、光信号PDを生成する。歯の蛍光量をPt、歯垢の蛍光量をPpとすると、図8に示すように、第1の発光期間(LED1)では、405nmの励起光による歯と歯垢の蛍光(Pt+Pp)が検出され、第2の発光期間(LED2)では、465nmの励起光による歯の蛍光(Pt)が検出される。光信号PDの信号強度は、第1の発光期間では歯垢の蛍光が加わるため高くなるが、第2の発光期間では相対的に低くなる。光検出器24は、歯に第1の波長の光を照射したときに発生する歯と歯垢の蛍光(Pt+Pp)の強度、及び歯に第2の波長の光を照射したときに発生する歯の蛍光(Pt)の強度を検出する。
ロックインアンプ103は、タイミング信号101とその位相を遅延させた信号とを用いて光信号PDを位相検波することで、光信号PDの和及び差を測定する。
位相検波器104は、第1の位相検波器であり、タイミング信号101に従い同相検波位相PhIから位相検波を行って、歯と歯垢の蛍光(Pt、Pp)の強度に応じた同相検波出力105を生成する。具体的には、同相検波位相PhIが‘+’のときには、同相検波出力105は、α(Pt+Pp)となり、同相検波位相PhIが‘−’のときには、同相検波出力105は、−αPtとなる。A/Dコンバータ106は、同相検波出力105をデジタルの同相検波出力107(第1の出力信号、IOUT)に変換して、制御回路30に出力する。
90度移相器108は、タイミング信号101の位相を90度遅延させた信号を生成する。位相検波器109は、第2の位相検波器であり、その90度遅延した90度検波位相PhQから位相検波を行って、歯と歯垢の蛍光(Pt、Pp)の強度に応じた90度検波出力110を生成する。具体的には、90度検波位相PhQが‘+’のときには、90度検波出力110は、(2Pt+Pp)/4となり、90度検波位相PhQが‘−’のときには、90度検波出力110は、−(α−1/4)(2Pt+Pp)となる。A/Dコンバータ111は、90度検波出力110をデジタルの90度検波出力112(第2の出力信号、QOUT)に変換して、制御回路30に出力する。
第1の出力信号IOUTは、波長405nmの励起光で生じる蛍光と、波長465nmの励起光で生じる蛍光との差成分であり、次の数式で表される。
IOUT = α(Pt+Pp)−αPt=αPp ・・・(4)
また、第2の出力信号QOUTは、次の数式で表される。
QOUT = (2Pt+Pp)/4−(α−1/4)(2Pt+Pp)
= (1/2−α)(2Pt+Pp) ・・・(5)
すなわち、同相検波の第1の出力信号IOUTには、歯垢の蛍光量PpがDutyαで出力され、90度検波の第2の出力信号QOUTには、複合した蛍光量(2Pt+Pp)がDuty(50%−α)で出力される。
制御回路30は、発振回路100A及びパルス幅設定回路82A、83Aの動作を制御すると共に、デジタルの同相検波出力107及びデジタルの90度検波出力112を用いて、測定対象の蛍光物質量である歯の蛍光量Pt及び歯垢の蛍光量Ppを算出する。具体的には、数式(4)、(5)をPt、Ppについて解くと次の数式(6)、(7)が得られるので、制御回路30は、これらの数式に従ってPt、Ppを算出する。
Pt = −IOUT/2α+QOUT/(1−2α) ・・・(6)
Pp = IOUT/α ・・・(7)
なお、90度移相器108を用いずに、タイミング信号101(TIM)と、タイミング信号101に比べて位相が90度遅れた第2のタイミング信号(TIM2)との2つを基準信号として用いて、位相検波を行ってもよい。この場合、TIMで位相検波すると数式(4)の同相検波出力105と同じ値が得られ、TIM2で位相検波すると数式(5)の90度検波出力110と同じ値が得られる。したがって、この場合でも、処理内容は、本質的には図7及び図8を用いて説明した場合と同じである。
数式(4)によると、同相検波出力105(IOUT)は歯垢の成分だけであり、αに比例する。このため、例えばαを40%とすれば、Duty40%の期間が歯垢検出に割り当てられる。この場合、数式(5)で得られる複合した蛍光量(主に歯の蛍光量)は50−40=10%に減少するが、歯の蛍光は常に強いので、減少させても検出に問題はない。逆に言えば、パルス幅設定回路82A、83Aによりαの値を調整して、検出に問題がない範囲内で歯の成分を削減させれば、歯垢の成分を大きくすることができる。歯垢の蛍光強度は弱いが、制御部300では、αの値をα<T/2(つまりDuty50%未満)の範囲内でなるべく大きく設定することにより、歯垢の蛍光の検出感度が向上する。
制御部300では、歯の蛍光量Pt及び歯垢の蛍光量Ppが同時に測定されるので、歯垢の蛍光量Ppを歯の蛍光量Ptで規格化することで、歯と検出部200との距離を補正することが可能である。また、制御部300では、第1の光源2と第2の光源3の同時点灯も同時消灯も起こらない駆動波形を用いることで、光信号PDの強度変化が小さく抑えられ、蛍光物質量の検出のダイナミックレンジを向上させることができる。また、第1の光源2と第2の光源3の同時点灯がないことにより、図8の動作タイミングで制御部300を動作させれば、光源の回路構成が単純化されると共に、出射光用光導波路6への入射効率が向上する。この点について、以下で詳しく説明する。
図9(A)〜図9(E)は、光源の回路構成とそれに応じた光導入効率の差異を説明する図である。図9(A)、図9(B)及び図9(D)は、光源駆動回路82、83の回路構成例を示し、図9(C)及び図9(E)は、第1の光源2、第2の光源3及び出射光用光導波路6の位置関係を示す。符号120は第1の光源2及び第2の光源3である2つのLEDの実装基板を表し、符号131、132は、それぞれ電流If1、If2を流す定電流源を表す。なお、図9(C)及び図9(E)では、簡単のため、混色部4及び出射光用光学フィルター5(図3を参照)の図示を省略している。図9(A)〜図9(C)は2つのLEDを同時点灯させない場合(図8の動作タイミングで制御部300を動作させる場合)に、図9(D)及び図9(E)は2つのLEDを同時点灯させる場合に、それぞれ相当する。
2つのLEDの同時点灯がある場合には、それらに同時に電流を流す必要があるので、それらをアノードコモン接続又はカソードコモン接続する必要がある。図9(D)では、第1の光源2と第2の光源3をアノードコモン接続した場合の例を示している。この場合には、図9(E)に示すように、LEDの接続端子(配線パターン)は符号133〜135で示す3つが必要であり、カソード側の接続端子134、135を分離する必要があるため、LED同士の間隔d2が比較的広くなり、LED間に隙間ができる。特に、歯垢を検出する蛍光測定装置の場合には、LEDチップを2つ並べて例えば直径が1mm以下の細い光導波路に光を導入する必要があるが、LED間に隙間があると、出射光用光導波路6への光結合効率が低下してしまう。
一方、2つのLEDの同時点灯がない場合には、図9(A)及び図9(B)に示すように、一方のLEDのカソードを他方のLEDのアノードに接続し、他方のLEDのカソードを一方のLEDのアノードに接続することができる(BackToBack接続)。この場合、図9(C)に示すように、LEDの接続端子は符号133、134で示す2つだけで済み、隣接する2つのLEDの接続端子を分離する必要がない。したがって、図8の動作タイミングで制御部300を動作させる場合には、2つのLEDの同時点灯がある場合と比べて2つのLEDの間隔d1が狭くなり(d1<d2)、LEDの実装面積を小さくすることができる。
図9(C)では、例えば、1.6mm径の出射光用光導波路6に対して、幅0.8mmの2つのLEDチップを接触させて配置した状態を図示している。図9(C)の場合には、LEDチップ内部に実装されている発光素子(半導体素子)自体の幅は0.4mm程度であり、2つ並んだ状態で全幅は1.2mmと、光導波路の径よりも狭くすることが可能である。したがって、直径が1mm以下の細い光導波路に対しても、光を効率よく導入することができるため、出射光用光導波路6に取り込まれる光量が多くなる。
また、ロックインアンプを動作させる際に第1及び第2の光源の駆動電流を変調する方法も考えられるが、その場合には、光源駆動回路82、83にアナログ変調回路を設けるか、2値の電流に対応させて各光源に2個ずつの定電流源が必要になる。一方、図8の動作タイミングで制御部300を動作させる場合には、駆動電流の変調がないため、そのようなアナログ変調回路は不要であり、1つのLEDに対して1つの電流源があればよいので、定電流源は高々2つで済む。さらに、図9(B)に示す回路構成であれば、共通の1つの定電流源131で第1の光源2と第2の光源3の両方を駆動することができる。したがって、制御部300では、回路構成が単純化されるため、コストダウンが可能である。
以上説明したように、波長の異なる2つの光で歯を励起し、蛍光を1波長で計測することにより、自家蛍光から歯垢由来の蛍光を分離して計測することが可能となり、シンプルな構成で精度よく歯垢を検出できる蛍光測定装置が得られる。よって、この蛍光測定装置を搭載した歯ブラシであれば、きちんと磨けているかどうかを確認しながら歯を磨くことができる。