JP6907637B2 - 強化繊維積層シートおよび樹脂成形品の生産方法 - Google Patents

強化繊維積層シートおよび樹脂成形品の生産方法 Download PDF

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Description

本開示は、強化繊維積層シートに関し、特にRTM成形に好適な強化繊維積層シートに関するものである。
従来、生産性に優れた繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:「FRP」と称することがある。)の成形方法として、いわゆるRTM(Resin Transfer Molding)が知られている。RTMにおいては、複数の強化繊維布帛が積層されて構成される基材積層体を成形型内に配置し、成形型内にマトリックス樹脂を注入して、基材積層体に含浸させ、樹脂を硬化させた後、成形品を脱型させる。
成形型内に配置される基材積層体は、生成される成形品の形に合わせた3次元形状を有するように、あらかじめ形成されている。一般には、まず、基材積層体を平板状に形成し、その後、基材積層体を所定の3次元形状に賦形して、いわゆるプリフォームを作成する。このプリフォームが成形型内に配置される。
平板状の基材積層体を構成する強化繊維布帛として、主に織物やノンクリンプファブリック(Non Crimp Fabric:「NCF」と称することがある。)がある。これらの強化繊維布帛は、織機もしくは経編機により、一定幅のものを連続的に生産されロールに巻き取られて保持され、搬送される。このため、基材積層体を製造する場合には、ロールから必要な量だけ強化繊維布帛が引き出され、所望の形状に裁断されて、積層され、基材積層体が生成される。
ところが、上記の方法においては、一定幅の(すなわち、略矩形の)強化繊維布帛から所望の形状の強化繊維布帛を切り出した後に残る端材が多く生成される。すなわち、強化繊維の廃棄量が多い。このため、あらかじめ一定幅の強化繊維布帛を生産しておく上記の方法は、製造コストが高いという課題があった。
そこで、一定幅の(すなわち、略矩形の)強化繊維布帛から製品形状の強化繊維布帛を切り出すのではなく、最初から製品形状に合わせた所望の形状となるように、必要な箇所のみに強化繊維束を順次配置していく、ファイバープレイスメント法が注目されている。ファイバープレイスメント法によれば、廃棄される端材の量を大幅に低減させることができる。
ファイバープレイスメント法を使用して3次元形状の基材積層体を得る方法としては、(i)3次元形状を有する型に強化繊維束を貼り付けることにより、3次元形状の基材積層体を得る方法と、(ii)平面状の強化繊維積層シートを作成したのちに、これを積層して基材積層体を形成し、基材積層体を賦形して3次元形状の基材積層体(プリフォーム)を得る方法と、が知られている。
3次元形状を有する型に強化繊維束を直接貼り付ける場合には、例えば、タック性を有する強化繊維束を型上にダイレクトに配置し、強化繊維層を型に固着させながら成形品形状に形成していく。このため、平板状の基材積層体を3次元形状に賦形する工程が不要である。しかし、強化繊維束を型上に配置する際には、強化繊維束を配置するヘッドを、型の形状に沿わせて動かす必要がある。このため、以下のような課題がある。すなわち、型の形状が複雑な場合には、強化繊維束配置ヘッドと型が干渉することにより、強化繊維束を配置できないことがある。また、型に沿って強化繊維束を配置できる場合であっても、型の形状が複雑な場合には、強化繊維束を高速に配置することができず、生産性が低い。
一方、平面状の強化繊維積層シートを作成する場合においては、以下のような処理が行われる。タック性を有する強化繊維束もしくはドライの(タック性を有さない)強化繊維束を、一方向に沿って、平面状かつ所望の2次元形状に並べて、ひとつの強化繊維層を形成する。その後、複数の前記強化繊維層が積層され、層同士が少なくとも一部拘束されることで、平板状の強化繊維積層シートが形成される。なお、強化繊維束同士や強化繊維層同士の拘束手段としては、樹脂を用いた接着による拘束や、縫合糸を用いた縫合による拘束等が知られている。
製作した強化繊維積層シートを積層して基材積層体を製作する場合、所望の2次元形状に並べて形成された強化繊維積層シートの運搬時や積層時に、強化繊維層の端部から強化繊維が脱落するという課題があった。所望の2次元形状に並べて形成された強化繊維層の端部においては、端の強化繊維が隣接する他の強化繊維に接している距離が短い場合があるためである。
また、強化繊維層同士が厚み方向について拘束されていない場合には、強化繊維積層シートを3次元形状に変形する際に、強化繊維層と強化繊維層との間で大きなずれが生じるという課題があった。一方、強化繊維積層シートの厚み方向について、例えば、樹脂を用いた接着や縫合糸を用いた縫合により、強固に拘束した場合には、以下のような問題があった。すなわち、各強化繊維積層シートの端部において、輪郭線の長さおよび形状に適合した変形が、上記の拘束によって抑制されてしまい、結果としてしわが生じるという課題があった。
これらの課題を解決する手段として、例えば、積層された複数の基材がステッチ糸により厚み方向に一体化された多軸ステッチ基材において、ステッチ糸が一部切断されている技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術では、積層基材の厚み方向にステッチ糸で一定の拘束を与えつつ、ステッチ糸が一部切断されているため、基材の変形時には各強化繊維積層シートが輪郭線の長さおよび形状に適合した変形をすることができる。
また、複数積層された基材が係合糸により厚み方向に一体化された多軸ステッチ基材において、係合糸が融点温度以上に加熱されて溶融する技術が提案されている(特許文献2参照)。この技術では、係合糸を融点以上の温度に加熱して溶融することで、基材の変形時に各層の基材が周長に適した変形をすることができる。
特開2007−092232号公報 特開2007−160587号公報
上記の特許文献1の方法においては、ステッチ糸が一部切断されているため、基材端部の強化繊維がほつれて脱落しやすかった。また、ステッチ糸を切断する際に強化繊維を損傷してしまいやすく、強化繊維を損傷せずに高い生産性を維持することが困難であった。
上記の特許文献2の方法においては、積層された2軸ステッチ基材の層同士を縫合している係合糸として1種類の係合糸を用いている。このため、この係合糸の融点以上の温度にした際に層同士を縫合する全ての係合糸が溶融してしまう。その結果、積層基材の厚み方向の拘束が緩くなり、層と層との間でずれが生じることがある。
本開示は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
強化繊維積層シートであって、
積層された複数の強化繊維層を備え、
前記複数の強化繊維層は、
それぞれ一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を含んでおり、
前記強化繊維積層シートが3次元形状に変形されるときの温度よりも低い軟化点を有する第1の糸と、2以上の前記強化繊維層を通っており、前記強化繊維積層シートが3次元形状に変形されるときの前記温度よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない第2の糸と、によって、縫合されることにより、互いに拘束されており、
前記第1の糸が、前記第2の糸のループの内側を通り抜けて配されている、強化繊維積層シート。
樹脂成形品の生産方法であって、
(a)強化繊維積層シートを準備する工程であって、
前記強化繊維積層シートは、積層された複数の強化繊維層を備え、
前記複数の強化繊維層は、
それぞれ一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を含んでおり、
軟化点を有する第1の糸と、2以上の前記強化繊維層を通っており、前記第1の糸よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない第2の糸と、によって、縫合されることにより、互いに拘束されており、前記第1の糸が、前記第2の糸のループの内側を通り抜けて配されている、強化繊維積層シートの準備工程と、
(b)前記第1の糸の軟化点よりも高い温度に前記第1の糸を昇温させる工程であって、前記第2の糸が軟化点を有する場合には、前記昇温の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも低い温度である、工程と、
(c)前記工程(b)を実行しつつ、または前記工程(b)の後に、前記強化繊維積層シートを3次元形状に変形させる工程と、
(d)変形後の前記強化繊維積層シートに樹脂を含浸させて固化させる工程と、を備える、樹脂成形品の生産方法。
(1)本発明の一形態によれば、強化繊維積層シートが提供される。この強化繊維積層シートは、積層された複数の強化繊維層を備える。前記複数の強化繊維層は:それぞれ一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を含んでおり;軟化点を有する第1の糸と、2以上の前記強化繊維層を通っており、前記第1の糸よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない第2の糸と、によって、縫合されることにより、互いに拘束されている。
このような態様とすれば、強化繊維積層シートを変形させる前または変形させると同時に、第1の糸の軟化点よりも高い温度であって、第2の糸が軟化点を有する場合には第2の糸の軟化点よりも低い温度に、第1の糸を昇温させることによって、第1と第2の糸による複数の強化繊維層の拘束を緩和することができる。このため、第1と第2の糸による複数の強化繊維層の拘束を緩和し得ない強化繊維積層シートに比べて、容易に強化繊維積層シートを変形させることができる。また、その際、第2の糸は、依然として2以上の強化繊維層を通っている状態にある。このため、第2の糸により、2以上の強化繊維層は、それまでよりも緩やかに互いに拘束されている。このため、強化繊維層同士を拘束する手段が失われる態様に比べて、強化繊維積層シートを変形させる際に強化繊維層同士が大きくずれにくい。
(2)上記形態の強化繊維積層シートにおいて、前記複数の強化繊維層は、前記強化繊維積層シートの外周の少なくとも一部に沿って、前記第1の糸と前記第2の糸とによって、縫合されている、態様とすることができる。このような態様とすれば、強化繊維積層シートの端部からの強化繊維の脱落を効果的に防止することができる。
(3)上記形態の強化繊維積層シートにおいて、前記第1の糸の軟化点は、60〜120℃である、態様とすることができる。このような態様とすれば、強化繊維積層シートを運搬したり積層したりする際に、第1の糸が軟化して、想定していない相対位置で複数の強化繊維層が接着してしまう可能性を低減することができる。また、強化繊維積層シートに熱硬化性樹脂を含浸させて、硬化させ、樹脂成形品を生成する場合に、流動性を有する温度範囲が第1の糸の軟化点以上である熱硬化性樹脂を、容易に選択することができる。
(4)上記形態の強化繊維積層シートにおいて、前記第2の糸の軟化点は、120〜200℃である、態様とすることができる。このような態様とすれば、強化繊維積層シートに熱硬化性樹脂を含浸させて、硬化させ、樹脂成形品を生成する場合に、以下のような利点がある。すなわち、流動性を有する温度範囲が第2の糸の軟化点より低く、かつ、硬化温度が第2の糸の軟化点より高い熱硬化性樹脂を、容易に選択することができる。
(5)上記形態の強化繊維積層シートにおいて、前記第2の糸は前記強化繊維層を構成する強化繊維によって構成される、態様とすることができる。このような態様においては、第1と第2の糸を昇温させて複数の強化繊維層の拘束を緩和し、強化繊維積層シートを変形させた後に、強化繊維積層シート内に残留する第2の糸は、強化繊維層を構成する強化繊維によって構成される。このため、変形させた強化繊維積層シートの構造が外部から視認できる場合にも、第2の糸が他の素材で構成される態様に比べて、美観を美しくすることができる。また、積層方向に強化繊維が残存するため、第2の糸が他の素材で構成される態様に比べて、積層方向の物性を強化することができる。
(6)上記形態の強化繊維積層シートにおいて、前記強化繊維は、炭素繊維である、態様とすることができる。このような態様とすれば、上記強化繊維積層シートを使用して、強化繊維が他の繊維である場合に比べて軽量で剛性の高い樹脂成形品を、製造することができる。
(7)本発明の他の形態によれば、樹脂成形品の生産方法が提供される。
この樹脂成形品の生産方法は:(a)強化繊維積層シートを準備する工程であって;前記強化繊維積層シートは、積層された複数の強化繊維層を備え;前記複数の強化繊維層は;それぞれ一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を含んでおり;軟化点を有する第1の糸と、2以上の前記強化繊維層を通っており、前記第1の糸よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない第2の糸と、によって、縫合されることにより、互いに拘束されている、強化繊維積層シートの準備工程と;(b)前記第1の糸の軟化点よりも高い温度に前記第1の糸を昇温させる工程であって、前記第2の糸が軟化点を有する場合には、前記昇温の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも低い温度である、工程と;(c)前記工程(b)を実行しつつ、または前記工程(b)の後に、前記強化繊維積層シートを変形させる工程と;(d)変形後の前記強化繊維積層シートに樹脂を含浸させて固化させる工程と、を備える。
このような態様とすれば、強化繊維積層シートを変形させる前または変形させると同時に、第1の糸の軟化点よりも高い温度であって、第2の糸が軟化点を有する場合には第2の糸の軟化点よりも低い温度に、第1の糸を昇温させることによって、第1と第2の糸による複数の強化繊維層の拘束を緩和することができる。このため、第1と第2の糸による複数の強化繊維層の拘束を緩和し得ない強化繊維積層シートに比べて、容易に強化繊維積層シートを変形させることができる。また、その際、第2の糸は、依然として2以上の強化繊維層を通っている状態にある。このため、第2の糸と、各強化繊維層の摩擦力により、2以上の強化繊維層は、それまでよりも緩やかに互いに拘束されている。このため、強化繊維層同士を拘束する手段が失われる態様に比べて、強化繊維積層シートを変形させる際に強化繊維層同士が大きくずれにくい。このため、高品質な樹脂成形品を生産することができる。
(8)上記形態の樹脂成形品の生産方法において、前記工程(d)において、前記樹脂を固化させる際の前記樹脂の温度は、前記第1の糸の軟化点よりも高い、態様とすることができる。このような態様とすれば、生成された樹脂成形品において、昇温工程においてとけ残った第1の糸がある場合に、その第1の糸が目に付く可能性を低減することができる。
(9)上記形態の樹脂成形品の生産方法において、前記第2の糸は軟化点を有し;前記工程(d)において:前記強化繊維積層シートに前記樹脂を含浸させる際の前記樹脂の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも低く;前記樹脂を固化させる際の前記樹脂の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも高い、態様とすることができる。このような態様とすれば、強化繊維積層シートに樹脂を含浸させる際には、強化繊維層同士の拘束が第2の糸とによって維持されているため、含浸される樹脂の流動によって、強化繊維層がずれることがない。一方、固化工程の後には、第2の糸も溶けているため、生成された樹脂成形品において、第2の糸が目に付く可能性を低減することができる。
本発明は、強化繊維積層シートや樹脂成形品の生産方法以外の種々の形態で実現することも可能である。たとえば、(i)強化繊維層、プリフォーム、および樹脂成形品、ならびに、(ii)強化繊維層、プリフォーム、強化繊維積層シート、および樹脂成形品の製造方法、それらを製造する装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
本開示によれば、強化繊維の廃棄量を低減することができ、シートの運搬時や積層時に端部の強化繊維が脱落することなく、かつ賦形時に型の形状に沿って変形することが可能な、生産性に優れた強化繊維積層シートが得られる。
さらに、本開示に係る強化繊維積層シートによれば、強化繊維束に大きな乱れがなくしわも存在しない滑らかな表面を有する繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
本開示の強化繊維積層シートの用途としては、RTM成形方法による繊維強化樹脂成形体の作成が挙げられる。繊維強化樹脂成形体の用途は、例えば、自動車のフード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの、自動車外板、自動車ボディー部品、および自動車構造材などが挙げられる。
本開示に係る強化繊維積層シート100の一実施態様を示す斜視図である。 強化繊維積層シート100の外周近傍の部位Pを縫合している縫合糸104p1,104p2の構成を模式的に表している透視図である。 図2における3−3断面の状態を模式的に示す断面図である。 縫合糸104p1の軟化点Tp1より高い温度に図3の強化繊維積層シート100の一部Pが加熱された場合の、強化繊維積層シート100の状態を示す断面図である。 強化繊維積層シート100の一部Qを縫合している縫合糸104q2の構成を模式的に表している透視図である。 図5における6−6断面の状態を模式的に示す断面図である。 縫合糸104q1の軟化点Tq1より高い温度に図6の強化繊維積層シート100の一部Qが加熱された場合の、強化繊維積層シート100の状態を示す断面図である。 強化繊維積層シート100の一部Rを縫合している縫合糸104r1,104r2の構成を模式的に表している透視図である。 図8における9−9断面の状態を模式的に示す断面図である。 縫合糸104r1の軟化点Tr1より高い温度に図9の強化繊維積層シート100の一部Rが加熱された場合の、強化繊維積層シート100の状態を示す断面図である。 強化繊維積層シート100を使用した樹脂成形品の生産方法を示すフローチャートである。 強化繊維層の目標形状Fmiと、強化繊維層1011Nを構成する複数の強化繊維束100FBNの配置と、の関係を説明するための平面図である。 強化繊維層の目標形状Fmiと、強化繊維層1011Wを構成する複数の強化繊維束100FBWの配置と、の関係を説明するための平面図である。 強化繊維積層シート100Sにおける位置に応じた縫合の方法を示す説明図である。 図11のステップS200およびS300の処理を経た後の強化繊維積層シート100Sの状態を示す図である。
本開示の強化繊維積層シートは、一方向に引き揃えられた複数の強化繊維束がひとつの層を形成し、前記の層が複数層積層された強化繊維積層シートであって、前記の強化繊維積層シートは縫合糸Aと縫合糸Bによって一体化され、縫合糸Aと縫合糸Bとの軟化点が異なる、強化繊維積層シートである。
次に、本開示の強化繊維積層シートを実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
A.強化繊維積層シートの構成:
図1は、本開示に係る強化繊維積層シート100の一実施態様を示す斜視図である。強化繊維積層シート100は、複数の強化繊維層101が積層されることにより形成される。それぞれの強化繊維層101は、一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を備える。各強化繊維束は、複数の強化繊維で構成される強化繊維の束である。それぞれの強化繊維層101は、強化繊維積層シート100が最終的に形成される成形品に合わせた適切な形状となるようように、適切な長さに切断されて配置されている。なお、ここでは、技術の理解を容易にするため、すべての強化繊維層101が同じ形状を有している例を示している。
強化繊維層101の片面には、粉末状の樹脂バインダ102が付着されている。樹脂バインダ102は、加熱されることにより、または加熱されつつ加圧されることにより、溶融する。溶融した樹脂バインダ102が、隣接する二つの強化繊維層101に浸透し、その後、固化することにより、隣接する二つの強化繊維層101は、互いに固定される。
なお、加熱および加圧は、必ずしも強化繊維層101の全体に対して行う必要はない。すなわち、積層された強化繊維層101の一部について、加熱や加圧を行って、その部分に存在する樹脂バインダ102のみを溶融させ、その後、固化させることができる。図1においては、そのようにして溶融され固化された樹脂バインダを樹脂バインダ103として不定形の形状で示す。図1において、まだ溶融されていない樹脂バインダを樹脂バインダ102として円形の形状で示す。
前記の強化繊維積層シート100の層間および表層に存在する樹脂バインダ102の付与量は、強化繊維積層シート100が100質量部であるのに対して、0.1〜20質量部の範囲であることが好ましい。樹脂バインダ102の付与量が0.1質量部より小さい場合は、最終的にすべての樹脂バインダ102を使用して隣接する強化繊維を固定した場合でも、強化繊維シートとして形状保持することが困難となる。一方、樹脂バインダ102の付与量が20質量部よりも大きい場合、樹脂バインダ102の拘束が強いため、強化繊維積層シート100を3次元形状に変形させる際に、型の形状に追従しにくくなる可能性がある。特に、樹脂バインダ102の付与量が2〜10質量部の範囲であるとき、シートの形状を保ちつつ型への形状追従性が比較的良好なため、より好ましい態様である。
強化繊維積層シート100に含まれる複数の強化繊維層101は、さらに、縫合糸104による縫合によって、互いに拘束されている。すなわち、強化繊維積層シート100は、樹脂バインダ103と縫合糸104とによって、その形態を安定的に維持している。なお、図1においては、強化繊維積層シート100の一部Q,Rに示す縫合糸104の配置は、技術の理解を容易にするための例示的な配置であり、実際の強化繊維積層シート100における縫合糸104の位置を正確に反映するものではない。
ここで、強化繊維束を構成するために用いられる強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、アルミナ繊維および窒化珪素繊維などが挙げられる。特に、より成形体を軽量化することができることから、炭素繊維が好ましく用いられる。
強化繊維束は、複数種類の強化繊維を使用して構成されることもできる。また、強化繊維束は、強化繊維と有機繊維の合繊糸から構成されることもできる。
強化繊維とともに強化繊維束に用いられる有機繊維としては、例えば、ポリアミド系合成繊維、ポリオレフィン系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリフェニルスルフォン系合成繊維、ポリベンゾオキサジン系合成繊維、アセテート、アクリロニトリル系合成繊維、モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル系合成繊維、ポリ塩化ビニリデン系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、ポリウレタン繊維、ポリクラール繊維、タンパク−アクリロニトリル共重合系繊維、フッ素系繊維、ポリグリコール酸繊維、フェノール繊維、およびパラ系アラミド繊維などが挙げられる。
縫合糸104は、例えば、ポリエチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、およびポリエーテルサルホン等からなる繊維や、無機繊維(例えば炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維)からなる繊維糸条、あるいはこれらの繊維の混紡糸条等から構成され得る。
樹脂バインダ102は、強化繊維層101の表層に固着させることができ、強化繊維積層シート100の層間を固着する作用を得ることができるものであればよい。樹脂バインダ102としては、たとえば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を採用することができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリイミドおよびポリアミドイミドなどの樹脂が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。
図2は、強化繊維積層シート100の外周近傍の部位P(図1参照)を縫合している縫合糸104p1,104p2の構成を模式的に表している透視図である。図2において、強化繊維積層シート100を構成する複数の強化繊維層101を、強化繊維層1011,1012,1013として区別して示す。強化繊維層1011は、強化繊維積層シート100表面を構成する強化繊維層である。強化繊維層1013は、強化繊維積層シート100の裏面を構成する強化繊維層である。強化繊維層1012は、強化繊維層1011と強化繊維層1013との間に配される複数の強化繊維層である。
なお、図2においては、技術の理解を容易にするため、中間の強化繊維層1012を1枚の強化繊維層として示す。後に言及する図5および図8においても、同様である。
図2において、強化繊維積層シート100を貫通して両側に表れる縫合糸104を、縫合糸104p2として示す。そして、強化繊維層1013側に配される縫合糸104を、縫合糸104p1として示す。縫合糸104p1,104p2は、いわゆるミシン縫いによって、強化繊維積層シート100の強化繊維層1011,1012,1013を縫合している。
強化繊維積層シート100は、その外周近傍の位置Pにおいて、縫合糸104p1,104p2によって、外周に沿って内部を囲むように縫合されている(図1参照)。このため、強化繊維積層シート100を運搬する際や、複数の強化繊維積層シート100をさらに積層して基材積層体を構成する際に、強化繊維積層シート100の端部から強化繊維が脱落する可能性を低減できる。
図3は、図2における3−3断面の状態を模式的に示す断面図である。図3において、最表層の強化繊維層1011を構成する強化繊維束を強化繊維束1011FBとして示す。最下層の強化繊維層1013を構成する強化繊維束を強化繊維束1013FBとして示す。中間層の強化繊維層1012を構成する強化繊維束を強化繊維束1012FBとして示す。図3において、強化繊維束の長手方向に垂直な断面における形状を楕円で示す。接する強化繊維層を構成する強化繊維束は互いに90度の角度をなすように配される。
縫合糸104p2は、縫製方向に沿って、強化繊維層1011の表面と強化繊維層1013の表面とに交互に表れ、それぞれループを構成する。ただし、強化繊維層1011の表面側のループの両端点(縫合糸104p2が強化繊維層1011に没入する点)の間隔は、強化繊維層1013の表面側のループの両端点(縫合糸104p2が強化繊維層1013に没入する点)の間隔に比べて、長い。強化繊維層1013の表面側のループの両端点は、実質的に同じ位置にある。縫合糸104p1は、縫合糸104p2の強化繊維層1013側の連続するループの内側を通り抜けて配されている。
縫合糸104p1は、軟化点Tp1を有する。縫合糸104p2は、軟化点Tp1よりも高い軟化点Tp2を有する。ただし、縫合糸104p2の軟化点Tp2は、強化繊維積層シート100を使用した樹脂成形品の製造において強化繊維積層シート100に含浸される熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低い。ここでは、Tp1は85℃であり、Tp2は140℃であるものとする。
なお、本明細書において、「軟化点」とは、縫合糸がその温度以上の温度になったときに縫合糸が軟化/溶融する温度を指す。具体的には、縫合糸が結晶性ポリマーである場合には融点を指すものとし、縫合糸が非晶性ポリマーである場合にはガラス転移点を指すものとする。
図4は、縫合糸104p1の軟化点Tp1より高い温度に図3の強化繊維積層シート100の一部Pが加熱された場合の、強化繊維積層シート100の状態を示す断面図である。縫合糸104p1の軟化点Tp1より高く、縫合糸104p2の軟化点Tp2より低い温度に、図3の強化繊維積層シート100が加熱されると、縫合糸104p1が溶融する。一方、縫合糸104p2は溶融しない。すなわち、縫合糸104p2の強化繊維層1013側の連続するループを強化繊維層1013側に拘束する縫合糸が存在しなくなる。
その結果、図4の状態においては、強化繊維層1011,1012,1013は、強化繊維層1011,1012,1013を貫通している縫合糸104p2と、強化繊維層1011,1012,1013と、の摩擦力と、層間の一部に配された樹脂バインダ103によって、拘束されることとなる。言い換えれば、図4の状態においては、強化繊維層1011,1012,1013を拘束する力は、図3の状態よりも弱くなる。
図5は、参考例としての強化繊維積層シート100の一部Q(図1参照)を縫合している縫合糸104q2の構成を模式的に表している透視図である。図5において、強化繊維積層シート100を貫通して両側に表れる縫合糸104を、縫合糸104q1,104q2として示す。縫合糸104q1,104q2は、それぞれ、いわゆる鎖編縫合パターンで、強化繊維積層シート100を縫合している。
図6は、図5における6−6断面の状態を模式的に示す断面図である。本参考例において、縫合糸104q2は、縫製方向に沿って、強化繊維層1011の表面と強化繊維層1013の表面とに交互に表れ、それぞれループを構成する。ただし、強化繊維層1011の表面側のループは、互いに交わらないのに対して、強化繊維層1013の表面側のループは、互いに交わる。すなわち、縫合糸104q2は、強化繊維層1013側においては、直前のループ内を通って、新たなループを構成する。縫合糸104q2は、縫製方向に沿って、一部の区間のみを縫合する。そして、他の一部の区間は、縫合糸104q1によって縫合される。
本参考例において、縫合糸104q1による縫合の態様は、縫合糸104q2と同じである。縫合糸104q1,104q2は、縫製方向に沿って交互に一部の区間を縫合している。その結果、縫合糸104q1,104q2は、縫製方向に沿って、強化繊維積層シート100の強化繊維層1011,1012,1013を縫合している。
縫合糸104q1は、軟化点Tq1を有する。縫合糸104q2は、軟化点Tq1よりも高い軟化点Tq2を有する。ただし、縫合糸104q2の軟化点Tq2は、強化繊維積層シート100を使用した樹脂成形品の製造において強化繊維積層シート100に含浸される熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低い。ここでは、縫合糸104q1と縫合糸104p1(図2〜図4参照)は、同じ材料から構成されており、Tq1=Tp1であるものとする。また、縫合糸104q2と縫合糸104p2(図2〜図4参照)は、同じ材料から構成されており、Tq2=Tp2であるものとする。
図7は、本参考例において、縫合糸104q1の軟化点Tq1より高い温度に図6の強化繊維積層シート100の一部Qが加熱された場合の、強化繊維積層シート100の状態を示す断面図である。縫合糸104q1の軟化点Tq1より高く、縫合糸104q2の軟化点Tq2より低い温度に、図6の強化繊維積層シート100が加熱されると、縫合糸104q1が溶融する。一方、縫合糸104q2は溶融しない。
その結果、図6の状態においては、強化繊維層1011,1012,1013は、強化繊維層1011,1012,1013を貫通している縫合糸104q2と、層間の一部に配された樹脂バインダ103と、によって、拘束されることとなる。そして、縫合糸104q1によって拘束されていた部位においては、強化繊維層1011,1012,1013は、互いにずれることができる。言い換えれば、図6の状態においては、強化繊維層1011,1012,1013を拘束する力は、図5の状態よりも弱くなる。
図8は、強化繊維積層シート100の一部R(図1参照)を縫合している縫合糸104r1,104r2の構成を模式的に表している透視図である。図8において、隣り合う2列の縫合糸を縫合糸104r1,104r2として示す。縫合糸104r1,104r2は、いわゆる1/1トリコット編縫合パターンによって、強化繊維積層シート100を縫合している。
図9は、図8における9−9断面の状態を模式的に示す断面図である。縫合糸104r2は、縫製方向に沿って、ジグザグに強化繊維積層シート100を縫合している(図8参照)。縫合糸104r2は、強化繊維層1011の表面上の屈曲点において、強化繊維層1013の表面側に貫通し、強化繊維層1013の表面においてループを形成して、再び強化繊維層1011の表面上に表れる。
縫合糸104r1も、縫合糸104r2と同様な構成によって、縫製方向に沿って、ジグザグに強化繊維積層シート100を縫合している。縫合糸104r1は、縫合糸104r2と隣り合う位置に配される(図8参照)。より具体的には、縫合糸104r1のジグザグの屈曲点のうち縫合糸104r2に近い側の屈曲点と、縫合糸104r2のジグザグの屈曲点のうち縫合糸104r1に近い側の屈曲点とが、縫製方向に沿った所定幅の領域内(たとえば、一直線上)に位置するように配される。
各屈曲点における強化繊維層1013の表面側のループは、連結している。すなわち、縫合糸104r2による強化繊維層1013の表面側のループの内側を通って、縫合糸104r1が次の強化繊維層1013の表面側のループを形成する。その結果、縫合糸104r1,104r2は、縫製方向に沿って、強化繊維積層シート100の強化繊維層1011,1012,1013を縫合している。
縫合糸104r1は、軟化点Tr1を有する。縫合糸104r2は、軟化点Tr1よりも高い軟化点Tr2を有する。ただし、縫合糸104r2の軟化点Tr2は、強化繊維積層シート100を使用した樹脂成形品の製造において強化繊維積層シート100に含浸される熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低い。ここでは、縫合糸104r1と縫合糸104p1(図2〜図4参照)は、同じ材料から構成されており、Tr1=Tp1であるものとする。また、縫合糸104r2と縫合糸104p2(図2〜図4参照)は、同じ材料から構成されており、Tr2=Tp2であるものとする。
図10は、縫合糸104r1の軟化点Tr1より高い温度に図9の強化繊維積層シート100の一部Rが加熱された場合の、強化繊維積層シート100の状態を示す断面図である。縫合糸104r1の軟化点Tr1より高く、縫合糸104r2の軟化点Tr2より低い温度に、図6の強化繊維積層シート100が加熱されると、縫合糸104r1が溶融する。一方、縫合糸104r2は溶融しない。
その結果、図10の状態においては、強化繊維層1011,1012,1013は、強化繊維層1011,1012,1013を貫通している縫合糸104r2と、強化繊維層1011,1012,1013と、の摩擦力と、層間の一部に配された樹脂バインダ103によって、拘束されることとなる。言い換えれば、図10の状態においては、強化繊維層1011,1012,1013を拘束する力は、図9の状態よりも弱くなる。
なお、本実施形態の強化繊維層1011,1012,1013が、[課題を解決するための手段]における「複数の強化繊維層」に対応する。強化繊維束1011FB,1012FB,1013FBが、「強化繊維束」に対応する。104p1,104q1,104r1が、「第1の糸」に対応する。104p2,104q2,104r2が、「第2の糸」に対応する。
B.樹脂成形品の製造方法:
図11は、強化繊維積層シート100を使用した樹脂成形品の生産方法を示すフローチャートである。ステップS100においては、軟化点の異なる縫合糸の組み合わせによって縫合されている状態の強化繊維積層シート100(図1〜図3、図5、図6、図8および図9参照)が準備される。より具体的には、製品の形に合わせた好ましい形状をそれぞれ有する複数の強化繊維積層シート100が用意される。そして、各強化繊維積層シート100は、適切な相対位置に配されて積層され基材積層体が構成される。この段階においては、強化繊維積層シート100は、それぞれ縫合糸の組み合わせによって強固に縫合されている。このため、取り扱いが容易である。言い換えれば、運搬および積層の際に、強化繊維層の端部から強化繊維が脱落しにくい。
なお、ステップS100において、積層された複数の強化繊維積層シート100同士が、さらに、図1〜図9で説明した方法で縫製されてもよい。そのようにして構成された基材積層体も、本明細書においては、広義の「強化繊維積層シート」に含まれる。
ステップS200においては、積層された複数の強化繊維積層シート100(基材積層体)は、縫合糸104p1,104q1,104r1の軟化点Tp1(=Tq1=Tr1)より高く、縫合糸104p2,104q2,104r2のTp2(=Tq2=Tr2)より低い温度に昇温される。すると、各強化繊維積層シート100は、図4、図7、および図10に示す状態となる。すなわち、各強化繊維積層シート100内の強化繊維層101同士を拘束する力は、ステップS100の状態よりも弱くなる。ただし、残された縫合糸と強化繊維層との摩擦力によって、強化繊維層101同士の相対位置は緩やかに拘束されている。
ステップS300においては、積層された複数の強化繊維積層シート100(基材積層体)が、製品の3次元形状に合わせて3次元形状に変形される。ステップS200において、強化繊維層101同士を拘束する力が弱められているため、ステップS300においては、各強化繊維積層シート100は、変形しやすい。たとえば、各強化繊維積層シート100の端部において(図1のP参照)、輪郭線の長さおよび形状に適合した変形が、過度に抑制されることがない。その結果、変形による強化繊維積層シート100の端部のしわが生じにくい。一方で、縫合糸と強化繊維層との摩擦力によって、強化繊維層101同士の相対位置は緩やかに拘束されているため(図4、図7、および図10参照)、強化繊維積層シート100内の強化繊維層101同士の相対位置ずれも生じにくい。
ステップS400においては、積層され3次元形状に成形された複数の強化繊維積層シート100(プリフォーム)が、3次元形状を有する型の空隙内に配されて、マトリックス樹脂が含浸される。強化繊維積層シート100に含浸されるマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂が使用される。この熱硬化性樹脂の硬化温度Trcは、縫合糸104p1,104q1,104r1の軟化点Tp1(=Tq1=Tr1)および縫合糸104p2,104q2,104r2の軟化点Tp2(=Tq2=Tr2)より高い。また、温度Trcは、樹脂バインダ102が溶融される温度Tm102より高い。
ステップS400において、強化繊維積層シート100に樹脂が含浸される際の樹脂および型の温度は、縫合糸104p2,104q2,104r2の軟化点Tp2(=Tq2=Tr2)よりも低い。このため、強化繊維積層シート100に樹脂が含浸される際には、縫合糸104p2,104q2,104r2は、溶けない。その結果、複数の強化繊維積層シート100(プリフォーム)においては、強化繊維層101同士の相対位置は緩やかに拘束されている(図4、図7、および図10参照)。よって、樹脂の流動によって、強化繊維層101同士の相対位置ずれが生じる可能性は、層間を縫合する縫合糸がすべて溶けてしまう場合に比べて低い。
ステップS400で強化繊維積層シートに含浸されるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。
ステップS500においては、樹脂が含浸された複数の強化繊維積層シート100が、型内において熱硬化性樹脂の硬化温度Trc以上の温度に昇温されて、樹脂が硬化される。その後、樹脂が含浸された複数の強化繊維積層シート100は、冷却され、樹脂成形品として、型から取り出される。
熱硬化性樹脂の硬化温度Trcは、樹脂バインダ102が溶融される温度Tm102より高い。このため、樹脂バインダ102は、ステップS500において溶融する。また、温度Trcは、縫合糸104p2,104q2,104r2の軟化点Tp2(=Tq2=Tr2)より高い。このため、縫合糸104p2,104q2,104r2もステップS500において溶融する。さらに、縫合糸104p1,104q1,104r1の一部がステップS200において溶けずに残っていた場合には、それらもステップS500において溶融する。その結果、熱硬化性樹脂が透明または半透明である場合にも、生成される樹脂成形品において、樹脂バインダ102、縫合糸104p2,104q2,104r2、および縫合糸104p1,104q1,104r1が視認されない。
なお、本実施形態における図11のステップS100が、[課題を解決するための手段]における「強化繊維積層シートを準備する工程」に対応する。ステップS200が、「前記第1の糸の軟化点よりも高い温度に前記第1の糸を昇温させる工程」に対応する。ステップS300が、「前記強化繊維積層シートを変形させる工程」に対応する。ステップS400,S500が、「変形後の前記強化繊維積層シートに樹脂を含浸させて固化させる工程」に対応する。
C.強化繊維層の形状と強化繊維束:
図12は、強化繊維層の目標形状Fmiと、強化繊維層1011Nを構成する複数の強化繊維束100FBNの配置と、の関係を説明するための平面図である。図13は、強化繊維層の目標形状Fmiと、強化繊維層1011Wを構成する複数の強化繊維束100FBWの配置と、の関係を説明するための平面図である。図13に示される形状Fmiは、図12に示される形状Fmiと同じである。
図13の強化繊維束100FBWを構成する強化繊維は、図12の強化繊維束100FBNを構成する強化繊維と同じである。強化繊維束100FBWの厚さも、強化繊維束100FBNの厚さと同じである。強化繊維束100FBWの幅は、強化繊維束100FBNの幅よりも大きい。なお、強化繊維束の厚さは、強化繊維層の積層方向(図12,図13において紙面に垂直な方向)についての強化繊維束の寸法である。強化繊維束の幅は、強化繊維束の長手方向および強化繊維層の積層方向に垂直な方向ついての強化繊維束の寸法である。
図12のように強化繊維束100FBNが細い場合には、図13のように強化繊維束100FBWが太い場合に比べて、並べて配された複数の強化繊維束100FBNの外形形状を、製品に合わせた形状Fmiにより近づけることができる。このため、強化繊維層1011N,1011Wを目標とする形状Fmiに加工する際、すなわち、強化繊維層1011N,1011Wの端部を切断して整形する際の、強化繊維の廃棄量を減少させることができる。その結果、製造コストが低減される。この点より、一つの強化繊維層を構成する強化繊維束の数は、3000本以上であることが好ましく、10000本以上であることがより好ましい。
一方、図12のように強化繊維束100FBNが細い場合には、図13のように強化繊維束100FBNが太い場合に比べて、並べて配すべき強化繊維層1011Nの数が多くなる。このため、目標とする形状Fmiを内部に含む形状および大きさの強化繊維層1011Nを、強化繊維束100FBNを並べて構成する際に要する時間が、同様に強化繊維束100FBWを並べて強化繊維層1011Wを構成する際に要する時間よりも、長くなる。この点より、一つの強化繊維層を構成する強化繊維束の数は、60000本以下であることが好ましく、40000本以下であることがより好ましい。
D.強化繊維積層シートにおける縫合の位置と方法:
図14は、強化繊維積層シート100Sにおける位置に応じた縫合の方法を示す説明図である。強化繊維積層シートにおいては、図1〜図10で示した強化繊維層1011〜1013のように、各強化繊維層の外形形状が、互いに一致するとは限らない。強化繊維積層シート100Sにおいては、一部の領域A1においてすべての強化繊維層101が重なっており、他の一部の領域A2,A3において一部の強化繊維層101のみが重なってる。
強化繊維積層シート100Sにおいては、外輪郭の近傍の部位P1は、図11のステップS200における加熱によって一方が溶融する一対の縫合糸104a(図2〜図10参照)で縫合される。一方、より内側の部位P2、すなわち、部位P1を挟んで強化繊維積層シート100Sの外輪郭とは逆の側に位置する部位P2は、図11のステップS200における加熱によって溶融しない縫合糸104bで縫合される。
図15は、図11のステップS200およびS300の処理を経た後の強化繊維積層シート100Sの状態を示す図である。図11のステップS200において、強化繊維積層シート100Sの部位P1を縫合する縫合糸104aの一方は、溶融している。その結果、部位P1において複数の強化繊維層を拘束する力は弱くなっている。この状態の縫合糸104aを図15において破線で示す。その結果、図11のステップS300においては、強化繊維積層シート100Sの端部において、輪郭線の長さおよび形状に適合した変形が、縫合糸104aによって過度に抑制されることがない。その結果、強化繊維積層シート100Sの端部において、変形によってしわが生じにくい。
一方、強化繊維積層シート100Sにおいて、より内側の部位P2を縫合する縫合糸104bは、図11のステップS200の処理を経ても溶融していない。このため、部位P2において複数の強化繊維層を拘束する力は、部位P1と比べて弱くなっていない。その結果、図11のステップS300において、強化繊維積層シート100Sの中央部近傍の部位において、複数の強化繊維層は端部に比べて強く拘束される。よって、樹脂の含浸によって複数の強化繊維層の相対位置がずれることがない。
E.実施例:
本開示の強化繊維積層シートについて、実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
<強化繊維>
強化繊維束として、予めサイジング処理を施した、東レ株式会社製炭素繊維「トレカ」(登録商標)T800SCを使用した。強化繊維束の幅が6.5mmで、強化繊維束の単繊維数が24000本の強化繊維束を使用した。
<樹脂バインダ付与>
散布装置を用いて、エポキシ樹脂粒子(Huntsman社製LT3366、粒径:100μm、融点:80℃)を強化繊維束に散布し、赤外線ヒータを用いて、表層の強化繊維層が130℃の温度の状態で30秒間加熱して、エポキシ樹脂粒子を強化繊維束上に付着した。
<強化繊維層>
ファイバープレイスメントヘッドを用いて、架台上に樹脂バインダを付与した強化繊維束を一方向に隙間なく引き揃え、200mm×300mmの長方形形状となるように強化繊維層を2層作成した。
<積層と固着>
まず、用意した2層の強化繊維層のうち1層の上に、他の1層の強化繊維層を、強化繊維層の強化繊維束の配向角度が、下層の強化繊維層の強化繊維束の配向角度に対して90°となるように配置した。その後、赤外線ヒータを用いて、表層の強化繊維層が130℃の温度の状態で30秒間加熱し、層間を固着して強化繊維シートを製作した。同様の処理により、4枚の強化繊維シートを製作した。同様にして別途作成した強化繊維シートについて、表層の強化繊維層を剥がして層間の固着状態を観察したところ、溶融した樹脂バインダが強化繊維層の面上に離散的に存在し、層間を固着している様子が確認できた。
<縫合>
4枚の強化繊維シートの外輪郭が一致するように、4枚の強化繊維シートを積層し、端から10mm内側の位置を、ミシンを用いて縫合して、強化繊維積層シートを作成した。ミシンの上糸にはポリアミド繊維糸(融点:140℃、繊度:75dtex)を用いた。ミシンの下糸にはポリアミド繊維糸(融点:85℃、繊度:75dtex)を用いた。このようにして4枚の強化繊維シートを積層して作成された強化繊維積層シートが、図1の強化繊維積層シート100に対応する。
<賦形>
100℃に加熱した湾曲形状型(幅:100mm、高さ:100mm、長さ:1000mm、曲率:3000mm)の上に、作成した強化繊維積層シートを配置して、下糸を溶融させた。型の温度が40℃まで下がったのを確認した後、プレス賦形を実施した。その結果、強化繊維積層シートは、繊維束同士の相対位置関係を崩すことなく型形状に沿うことができ、良好な賦形性能を有することが確認できた。その後、型を110℃に加熱し、50kPaで加圧、30秒間保持することにより、プリフォームを作成した。
<成形>
プリフォームを110℃の温度に保ったRTM成形用両面型の下型に載置し、上型を閉じ、真空ポンプによって型内の空気を排出した。次いで、型内に2液性エポキシ樹脂(主剤:Momentive社製、硬化剤:東レ株式会社製、酸無水物系硬化剤)を、注入圧0.5MPaで注入し、プリフォームに含浸させ、10分間放置した。このようにして、繊維強化樹脂成形品を得た。
得られた繊維強化樹脂成形品は、表面に見える強化繊維束に大きな乱れはなくしわも存在しない滑らかな表面を有しており、繊維強化樹脂成形品として特に優れたものであった。
(実施例2)
<強化繊維>
実施例1と同じ強化繊維束を使用した。
<樹脂バインダ付与>
実施例1と同じ強化繊維束を使用した。
<強化繊維層>
実施例1と同じ強化繊維層を使用した。
<積層と固着>
実施例1と同じ方法で、4枚の強化繊維シートを製作した。
<縫合>
各強化繊維シートの外輪郭が一致するように、4枚の強化繊維シートを積層し、積層した強化繊維シート層の端から10mm内側の位置を、ハンディステッチ装置を用いて鎖編縫合パターンで縫合して、強化繊維積層シートを作成した。縫合糸として、ポリアミド繊維糸(融点:140℃、繊度:75dtex)と、ポリアミド繊維糸(融点:60℃、繊度:110dtex)を用いた。
<賦形>
100℃に加熱した湾曲形状型(幅:100mm、高さ:100mm、長さ:1000mm、曲率:3000mm)の上に、作成した強化繊維積層シートを配置して、下糸を溶融させた。型の温度が40℃まで下がったのを確認した後、プレス賦形を実施した。その結果、強化繊維積層シートは、繊維束同士の相対位置関係を崩すことなく型形状に沿うことができ、良好な賦形性能を有することが確認できた。その後、型を110℃に加熱し、50kPaで加圧、30秒間保持することにより、プリフォームを作成した。
<成形>
上記プリフォームを使用して、実施例1と同じ手法で繊維強化樹脂成形品を得た。
得られた繊維強化樹脂成形品は、表面に見える強化繊維束に大きな乱れはなくしわも存在しない滑らかな表面を有しており、繊維強化樹脂成形品として特に優れたものであった。
F.変形例:
F1.変形例1:
上記実施形態の説明においては説明を省略したが、強化繊維束(図3の1011FB,1012FB,1013FB参照)は、例えば、事前にサイジング処理、開繊処理およびバインダ付与等の前処理を施した強化繊維束を用いることができる。サイジング処理を施すことにより、強化繊維束の集束性を向上させ、毛羽の発生を抑制させることができる。開繊処理を施すことにより、強化繊維束の厚みと幅の比(アスペクト比)を調整して、後工程のプリフォーム工程、RTM成形工程の条件に適したアスペクト比に設定することができる。バインダ付与等の前処理を施すことにより、強化繊維束間の固着状態を均一なものにすることができる。
F2.変形例2:
上記実施形態においては、一つの強化繊維層101は、1層の強化繊維束によって構成され、隣り合う強化繊維層101は、互いに強化繊維束の向きが90度をなすように積層されている。しかし、一つの強化繊維層は、平行に配され2段以上重ねられた強化繊維束を含んでいてもよい。
F3.変形例3:
(1)上記実施形態においては、粉末状の樹脂バインダ102が使用される(図1参照)。しかし、強化繊維層同士を拘束するための樹脂バインダの形態は、例えば、線状や、不織布形態など、他の形態とすることもできる。
(2)樹脂バインダを強化繊維に付着させる場合の付着方法は、例えば、強化繊維層を構成する前に、強化繊維束に樹脂バインダを散布して付着させてもよく、ファイバープレイスメント法で強化繊維束を並べて強化繊維層を構成した後に、樹脂バインダを散布して付着させてもよい。
(3)樹脂バインダによって強化繊維積層シートの強化繊維層同士を固着する方法としては、例えば、強化繊維層の間に樹脂バインダが存在する状態で、赤外線ヒータを用いて樹脂バインダを加熱し溶融する方法や、加熱した金属平板で強化繊維積層シートの全面を加熱し加圧する方法が挙げられる。
(4)樹脂バインダの溶融温度は、昇温によって溶融される第1の糸の軟化点より高くてもよいし、低くてもよい。また、樹脂バインダの溶融温度は、昇温によって溶融されない第2の糸の軟化点より高くてもよいし、低くてもよい。
ただし、樹脂バインダの溶融温度は、樹脂成形品の製造において強化繊維積層シートに含浸される樹脂の注入時の温度よりも、高いことが好ましい。そのような態様とすれば、樹脂の注入時に強化繊維層同士がずれる可能性を樹脂バインダにより低減することができる。また、樹脂成形品の製造において強化繊維積層シートに含浸される樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、樹脂バインダの溶融温度は、その熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低いことが好ましい。そのような態様とすることにより、樹脂成形品において樹脂バインダが悲観を損ねる可能性を低減することができる。
F4.変形例4:
(1)上記実施形態においては、異なる部位を縫合する縫合糸104p2,104q2,104r2が、同一の素材で構成される。そのため、それらの軟化点は同一である。また、異なる部位を縫合する縫合糸104p1,104q1,104r1が、同一の素材で構成される。そのため、それらの軟化点は同一である。しかし、異なる部位を縫合する縫合糸104p2,104q2,104r2、ならびに縫合糸104p1,104q1,104r1は、互いに異なる軟化点温度を有していてもよい。
ただし、強化繊維積層シートの一つの部位を、または強化繊維積層シートを一つの縫製方向に沿って、共同で縫合する一対の糸は、軟化点を有する糸と、それよりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない糸であることが好ましい。そして、同一の強化繊維積層シートにおいて、他方よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない糸(図2〜図9の104p2,q2,r2参照)の軟化点のうち最も低い軟化点は、他方の糸(同、104p1,q1,r1参照)の軟化点のうち最も高い軟化点よりも、高い温度であることが好ましい。
(2)上記実施形態においては、縫合糸104p2,104q2,104r2は、縫合糸104p1(104q1,104r1)の軟化点Tp1よりも高く、強化繊維積層シート100に含浸される熱硬化性樹脂の硬化温度Trcより低い軟化点Tp2を有する。ただし、縫合糸104p2の軟化点Tp2は、強化繊維積層シートに含浸される熱硬化性樹脂の硬化温度より高くてもよい。また、縫合糸104p2は、軟化点を有さない態様とすることもできる。
たとえば、第2の糸としての縫合糸104p2,104q2,104r2は、強化繊維層1011〜1013を構成する強化繊維によって構成することもできる。そのような態様にとすれば、縫合糸104p1,104q1,104r1と縫合糸104p2,104q2,104r2を昇温させて強化繊維層1011〜1013の拘束を緩和し、強化繊維積層シート100を変形させた後に、強化繊維積層シート100内に残留する縫合糸104p2,104q2,104r2は、強化繊維層1011〜1013を構成する強化繊維によって構成される。このため、変形させた強化繊維積層シート100の構造が外部から視認できる場合にも、縫合糸104p2,104q2,104r2が他の素材で構成される態様に比べて、美観を美しくすることができる。また、強化繊維積層シート100の積層方向に強化繊維が残存するため、縫合糸104p2,104q2,104r2が他の素材で構成される態様に比べて、積層方向の物性を強化することができる。
(3)上記実施例1においては、縫合糸として、融点が85℃のポリアミド繊維糸と、融点が140℃のポリアミド繊維糸とが用いられた。そして、100℃に加熱した湾曲形状型で強化繊維積層シートが変形された。また、上記実施例2においては、融点が60℃のポリアミド繊維糸と、融点が140℃のポリアミド繊維糸とが用いられた。そして、100℃に加熱した湾曲形状型で強化繊維積層シートが変形された。しかし、縫合糸の軟化点は、他の温度とすることもできる。
ただし、2種類の縫合糸のうち軟化点が低い第1の糸の軟化点は、60℃〜120℃であることが好ましい。第1の糸の軟化点が60℃より低いと、強化繊維シートを運搬したり、積層したりする際に、第1の糸が軟化して、想定していない相対位置関係で、強化繊維シート同士が接着してしまう可能性がある。
一方、第1の糸の軟化点が120度より高いと、樹脂成形品の製造において、樹脂を強化繊維積層シートに含浸させる際に、120度より高い温度で、樹脂を注入および含浸させることが好ましいこととなる。そのような態様は、必要なエネルギーが大きくなるため、生産コストも高くなる。ただし、2種類の縫合糸のうち軟化点が低い第1の糸の軟化点は、60℃より低くてもよいし、120度より高くてもよい。
2種類の縫合糸のうち軟化点が高い第2の糸の軟化点は、120℃〜200℃であることが好ましい。樹脂成形品の製造における樹脂の注入および含浸(図11のS400参照)は、第2の糸の軟化点未満の温度で行われる。このため、第2の糸の軟化点が120℃未満であると、ステップS400における樹脂の注入および含浸も120℃未満で行われることとなる。すると、その後の樹脂の硬化工程(図11のS500参照)において、樹脂を
注入した際の温度から樹脂の硬化温度まで樹脂を昇温させ、硬化させるのに必要な時間が長くなる。
また、第2の糸の軟化点が200℃より高いと、ステップS500で樹脂の硬化温度まで樹脂を昇温させても、第2の糸が溶融せずに、残ってしまう可能性が高くなる。第2の糸が溶融せずに樹脂成形品内に残ると、第2の糸が外部から視認され、樹脂成形品の外観が損なわれる可能性がある。一方、樹脂成形品内に第2の糸が残らないように、第2の糸を溶融させる場合には、200℃より高い第2の糸の軟化点まで樹脂を含浸させた強化繊維積層シートを昇温する必要が生じる。このため、樹脂成形品を製造するのに必要なエネルギーが大きくなり、生産コストが高くなる。ただし、2種類の縫合糸のうち軟化点が高い第2の糸の軟化点は、120℃より低くてもよいし、200℃よりも高くてもよい。
F5.変形例5:
上記実施形態では、ミシン編み(図2〜図4参照)、鎖編み(図5〜図7参照)、1/1トリコット編(図8〜図10)の縫合パターンを例に挙げて、強化繊維層の縫合方法について説明した。しかし、強化繊維層の縫合方法は、他の方法であってもよい。強化繊維層の縫合方法は、たとえば、鎖編と1/1トリコット編を複合した変則1/1トリコット編や、ワンサイドステッチマシンを用いた縫合パターン(鎖編、1/1トリコット編、変則1/1トリコット編、ブラインドステッチ、ダブルニードル、タフティング)、あるいはこれらを複合した縫合パターンであってもよい。
F6.変形例6:
上記実施形態においては、強化繊維積層シート100は、その外周近傍の位置Pにおいて、縫合糸104p1,104p2によって、外周に沿って内部を囲むように縫合されている(図1参照)。しかし、強化繊維積層シートは、外周に沿って、外周の一部においてのみ、2種類の縫合糸によって縫合されていてもよい。
F7.変形例7:
上記実施形態においては、図11のステップS200において、強化繊維積層シート100(基材積層体)を昇温させた後に、ステップS300において、強化繊維積層シート100(基材積層体)を3次元形状に変形させている。しかし、第1の糸による拘束を緩和または解除するために強化繊維積層シートを昇温する処理と、強化繊維積層シートとは、同時に、または一部を平行して、行ってもよい。そのような態様とすれば、それらの処理を異なる時間区間で行う態様に比べて、樹脂成形品の製造リードタイムを短縮することができる。
F8.変形例8:
上記実施形態においては、図11のステップS400で使用される樹脂は、熱硬化性樹脂である。しかし、強化繊維積層シートに含浸させ固化させる樹脂としては、アクリル樹脂やポリアミド樹脂、およびポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用することができる。そのような態様においては、熱可塑性樹脂を強化繊維積層シートに含浸させる際の熱可塑性樹脂の温度は、第1の糸の軟化点よりも高いことが好ましい。そして、第2の糸が軟化点を有する場合には、熱可塑性樹脂を強化繊維積層シートに含浸させる際の熱可塑性樹脂の温度は、第2の糸の軟化点よりも高いことが好ましい。
本開示は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、課題を解決するための手段の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
100,100S…強化繊維積層シート
100FBN,100FBW…強化繊維束
101…強化繊維層
102…溶融前の樹脂バインダ
103…溶融後の樹脂バインダ
104…縫合糸
104a,104b…一対の縫合糸
104p1,q1,r1…軟化点が低い縫合糸
104p2,q2,r2…軟化点が高い縫合糸
1011〜1013…強化繊維層
1011FB〜1013FB…強化繊維束
1011N,1011W…強化繊維層
A1…強化繊維積層シートのうち内側の領域
A2,A3…強化繊維積層シートのうち外側の領域
Fmi…強化繊維層の目標形状
P…強化繊維積層シートの外周近傍の部位
P1…強化繊維積層シートの外周近傍の位置
P2…強化繊維積層シートの内側の位置
Q…強化繊維積層シートの一部
R…強化繊維積層シートの一部

Claims (9)

  1. 強化繊維積層シートであって、
    積層された複数の強化繊維層を備え、
    前記複数の強化繊維層は、
    それぞれ一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を含んでおり、
    前記強化繊維積層シートが3次元形状に変形されるときの温度よりも低い軟化点を有する第1の糸と、2以上の前記強化繊維層を通っており、前記強化繊維積層シートが3次元形状に変形されるときの前記温度よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない第2の糸と、によって、縫合されることにより、互いに拘束されており、
    前記第1の糸が、前記第2の糸のループの内側を通り抜けて配されている、強化繊維積層シート。
  2. 請求項1記載の強化繊維積層シートであって、
    前記複数の強化繊維層は、前記強化繊維積層シートの外周の少なくとも一部に沿って、前記第1の糸と前記第2の糸とによって、縫合されている、強化繊維積層シート。
  3. 請求項1または2記載の強化繊維積層シートであって、
    前記第1の糸の軟化点は、60〜120℃である、強化繊維積層シート。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の強化繊維積層シートであって、
    前記第2の糸の軟化点は、120〜200℃である、強化繊維積層シート。
  5. 請求項1から3のいずれか1項に記載の強化繊維積層シートであって、
    前記第2の糸は前記強化繊維層を構成する強化繊維によって構成される、強化繊維積層シート。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の強化繊維積層シートであって、
    前記強化繊維は、炭素繊維である、強化繊維積層シート。
  7. 樹脂成形品の生産方法であって、
    (a)強化繊維積層シートを準備する工程であって、
    前記強化繊維積層シートは、積層された複数の強化繊維層を備え、
    前記複数の強化繊維層は、
    それぞれ一方向に沿って並べられた複数の強化繊維束を含んでおり、
    軟化点を有する第1の糸と、2以上の前記強化繊維層を通っており、前記第1の糸よりも高い軟化点を有するかまたは軟化点を有さない第2の糸と、によって、縫合されることにより、互いに拘束されており、前記第1の糸が、前記第2の糸のループの内側を通り抜けて配されている、強化繊維積層シートの準備工程と、
    (b)前記第1の糸の軟化点よりも高い温度に前記第1の糸を昇温させる工程であって、前記第2の糸が軟化点を有する場合には、前記昇温の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも低い温度である、工程と、
    (c)前記工程(b)を実行しつつ、または前記工程(b)の後に、前記強化繊維積層シートを3次元形状に変形させる工程と、
    (d)変形後の前記強化繊維積層シートに樹脂を含浸させて固化させる工程と、を備える、樹脂成形品の生産方法。
  8. 請求項7記載の方法であって、
    前記工程(d)において、
    前記樹脂を固化させる際の前記樹脂の温度は、前記第1の糸の軟化点よりも高い、方法。
  9. 請求項7または8記載の方法であって、
    前記第2の糸は軟化点を有し、
    前記工程(d)において、
    前記強化繊維積層シートに前記樹脂を含浸させる際の前記樹脂の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも低く、
    前記樹脂を固化させる際の前記樹脂の温度は、前記第2の糸の軟化点よりも高い、方法。
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