JP6907263B2 - 既設トンネルの健全性診断装置、健全性診断システム、健全性診断プログラムおよび健全性診断方法 - Google Patents
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Description
図1に示すように、本発明の実施の形態における既設トンネルの健全性診断方法は以下のステップからなる。
(第1ステップ)既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動計測
(第2ステップ)常時微動計測により得られた加速度のフーリエスペクトル解析
(第3ステップ)覆工コンクリートの表面画像の取得
(第4ステップ)覆工コンクリートの表面画像解析
(第5ステップ)フラクタル次元の算出(ひび割れ分布の定量化)
(第6ステップ)健全性判定
第1ステップでは、既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動を計測する。常時微動とは、地盤中を伝搬する人工的または自然現象による様々な振動のうち、特定の振動源から直接的に影響を受けない状態で励起される微小な地盤振動のことである。常時微動の計測は、図2に示す常時微動計測手段2により行う。常時微動計測手段2は、加速度計、コントローラ、データレコーダやコンピュータ等により構成される。
第2ステップでは、第1ステップの常時微動の計測により得られた加速度の波形をフーリエスペクトル解析することによりフーリエスペクトルを算出する。フーリエスペクトル解析は、図2に示すフーリエスペクトル解析手段4により行う。フーリエスペクトル解析手段4としては、例えば、建築研究所のソフトウェア「View Wave」を使用することができる。
第3ステップでは、覆工コンクリートの表面画像を取得する。覆工コンクリートの表面画像の取得は、図2に示す覆工表面画像取得手段3により行う。覆工表面画像取得手段3は、覆工表面画像撮影システム、覆工表面画像作成ソフトウェアおよびひび割れ自動抽出ソフトウェアで構成される。これらのうち、第3ステップでは、覆工表面画像撮影システムおよび覆工表面画像作成ソフトウェアにより覆工コンクリートの表面画像を取得する。
第4ステップでは、覆工コンクリートの表面画像を解析して覆工コンクリートのひび割れ分布を図面化する。覆工コンクリートの表面画像解析は、前述の覆工表面画像取得手段3のひび割れ自動抽出ソフトウェアにより行う。ひび割れ自動抽出ソフトウェアでは、トンネル全体の覆工表面画像を解析してひび割れを自動抽出する。
(1)画像の輝度平均を計算し、指定した輝度値に変換する。
(2)輝度平均値以上の領域を検出し、平均値で埋める処理を行い、チョーキングを排除する。
(3)ひび割れの輪郭フィルターカーネルによるフィルタリングを行い、細線の縦方向成分を検出する。
(4)画像を回転させながら(3)の処理を行うことで、全方位の細線を検出する。
(5)全方向細線検出画像から、距離センサデータおよび直線検出アルゴリズムなどを用いて、トンネル内施設物、型わく跡などの人為的な線を除去したうえで細線を接続し、長さが短い線分をノイズとして除去する。
(6)接続した細線を、ひび割れ図として見やすくするために線幅を拡大する。
第5ステップでは、第4ステップで図面化された覆工コンクリートのひび割れ分布をフラクタル次元により数値化することによって定量化する。フラクタル次元の算出は、図2に示すフラクタル次元解析手段5により行う。フラクタル次元解析は、あいまいな図形から規則性を見出し、フラクタル次元という尺度により複雑な形状に対して数学的なモデルを与えることであり、これにより形状、密度、粗さなどを算出することが可能である。フラクタル次元解析の手法は、例えば、様々な図形に対して適用できる汎用性と、コンピュータを利用した解析方法として一般的なボックスカウンティング法を採用することができる。
第6ステップでは、フーリエスペクトル解析の結果に基づくトンネルの振動特性と覆工コンクリートのひび割れ分布のフラクタル次元との比較から既設トンネルの健全性を判定する。健全性の判定は、図2に示す健全性判定手段6により行う。図9はトンネルの入口から出口までの各スパンにおけるフーリエスペクトル解析の結果とフラクタル次元を示す図である。
[1−1]検証手順
ひび割れ分布の定量化について、フラクタル次元の適用可能性を検証した。検証の着目点は、(1)ひび割れ開口面積、(2)ひび割れの本数、(3)ひび割れの幅、(4)ひび割れ同士の交差である。検証手順は次のとおりである。
<手順2>現地覆工の幅1mmのひび割れを2本抽出、図面化する。
<手順3>図面化した2本のひび割れを、4本、8本、16本、32本、48本、64本に複写、図面化する。図11にひび割れ本数別ひび割れモデル図を示す。
<手順4>手順3で図面化した4本のひび割れを幅0.2mm、0.5mm、0.7mm、1.0mm、1.4mm、2.0mmに変化させて図面化する。図12にひび割れ幅別ひび割れモデル図を示す。
<手順5>幅0.5mm2本、幅1.0mm2本のひび割れの交差個所数を、0か所、1か所、2か所、3か所、4か所、5か所に設定して図面化する。図13にひび割れ交差個所数別ひび割れモデル図を示す。
<手順6>手順1、手順3、手順4および手順5のひび割れ展開図についてフラクタル次元解析を行う。解析プログラムはMathworks社のMATLABを使用する。
<手順7>フラクタル次元(D)とひび割れ開口面積率、ひび割れ本数、幅、交差個所数の相関性を検証する。
<1>ひび割れ開口面積率とフラクタル次元の相関性検証
ひび割れ開口面積率とは、フラクタル次元解析を行う面積に対するひび割れ開口面積の割合のことをいう。ひび割れ開口面積率が示すひび割れ分布の目安を図14に示す。
ひび割れ開口面積率とフラクタル次元の相関性検証結果を図15に示す。ひび割れ開口面積率0.1%から0.5%への変化に対してフラクタル次元は1.0439から1.234まで変化し、相関係数0.92と相関関係があることが判明した。これにより、フラクタル次元はひび割れの面積の変化を表現できる可能性がある。
ひび割れ本数とフラクタル次元の相関性検証結果を図16に示す。ひび割れ本数4本から64本への変化に対してフラクタル次元は1.2745から1.5899へ変化し、相関係数0.99と相関関係があることが判明した。これによりフラクタル次元は、ひび割れの本数を表現できる可能性がある。
ひび割れ幅とフラクタル次元の相関性検証結果を図17に示す。ひび割れ幅が0.2mmから2.0mmへの変化に対してフラクタル次元は1.0338から1.3857へ変化し、相関係数0.93と相関関係があることが判明した。これによりフラクタル次元は、ひび割れ幅の変化を表現できる可能性がある。
ひび割れ交差個所数とフラクタル次元の相関性検証結果を図18に示す。ひび割れ幅が0か所から5か所への変化に対してフラクタル次元は1.2467から1.3376へ変化し、相関係数0.98と相関関係があることが判明した。これによりフラクタル次元は、ひび割れ交差個所数の変化を表現できる可能性がある。
フラクタル次元解析は、ひび割れの面積、ひび割れ本数、ひび割れ幅、ひび割れ交差個所数の変化を表現できることが明らかとなった。実際の運用では、高解像度の覆工表面画像からひび割れを自動抽出してフラクタル次元解析を行うことが可能であるため、効率的かつ正確なひび割れ分布状況の定量データ化が期待できる。
表1に図5に対応するフーリエスペクトルとフラクタル次元の一覧を示す。
軸方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を図19に示す。検証の結果、フラクタル次元が1.0072から1.2906まで変化するのに対し、軸方向フーリエスペクトルの変化は7.389から7.983までと、直線的な関係になった。相関係数は0.74と正の相関関係であることが分かった。
接線方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を図20に示す。検証の結果、フラクタル次元が1.0072から1.2906まで変化するのに対し、接線方向フーリエスペクトルの変化は7.071から8.771までと、直線的な関係になった。相関係数は0.75と正の相関関係であることが分かった。
法線方向フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を図21に示す。検証の結果、データのバラつきが大きく相関係数は0.34と相関関係を示さなかった。
3方向合成フーリエスペクトルとフラクタル次元の相関性検証結果を図22に示す。検証の結果、フラクタル次元が1.0072から1.2906まで変化するのに対し、軸方向フーリエスペクトルの変化は12.757から14.393までと、直線的な関係になった。相関係数は0.74と正の相関関係であることが分かった。
過去の覆工背面空洞調査および背面空洞注入工事の結果から、選定スパンにおける推定覆工厚、推定覆工背面空洞量(以下、「推定空洞量」という)および岩質を表2のとおり整理した。なお推定空洞量は、すでに背面空洞注入工が施工されているが、注入材料の強度が1.5N/mm2と覆工コンクリートおよび地山より強度が著しく低いため背面空洞として取り扱った。
本研究の結果、フラクタル次元とフーリエスペクトルの相関性は、トンネル軸方向と接線方向のフーリエスペクトルおよび、3方向合成フーリエスペクトルでフラクタル次元と正の相関性があることを明らかにすることができた。また、フラクタル次元、推定覆工厚、推定空洞量、地質をフーリエスペクトルの説明変数に設定して重回帰分析を行った結果、3方向合成フーリエスペクトルにおいて、本説明変数のうちフラクタル次元と岩質が関連因子である可能性があることが明らかとなった。
2 常時微動計測手段
3 覆工表面画像取得手段
4 フーリエスペクトル解析手段
5 フラクタル次元解析手段
6 健全性判定手段
Claims (8)
- 既設トンネルの入口から出口までの各スパンにおいて覆工コンクリートの常時微動を計測することにより得られた加速度をフーリエスペクトル解析するフーリエスペクトル解析手段と、
前記覆工コンクリートの前記各スパンにおいて表面画像を解析することにより図面化されたひび割れ分布を定量化するひび割れ分布解析手段と、
前記フーリエスペクトル解析の結果に基づく前記既設トンネルの振動特性と前記覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化したデータとに基づいて既設トンネルの健全性を判定する健全性判定手段であり、前記各スパンにおいて、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れにくく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が少ない箇所を健全性が高い基準スパンと判定し、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れにくく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が多い箇所を基本的に補修工法が摘要される要注意スパン(1)と判定し、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れやすく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が少ない箇所を基本的に補強工法が必要となる要注意スパン(2)と判定する健全性判定手段と
を含む既設トンネルの健全性診断装置。 - 前記ひび割れ分布解析手段は、前記ひび割れ分布をフラクタル次元またはひび割れ指数TCIを用いて定量化するものである請求項1記載の既設トンネルの健全性診断装置。
- 既設トンネルの覆工コンクリートの常時微動を計測する常時微動計測手段と、
請求項1または2記載の既設トンネルの健全性診断装置と
を含む既設トンネルの健全性診断システム。 - 既設トンネルの入口から出口までの各スパンにおいて覆工コンクリートの常時微動を計測することにより得られた加速度をフーリエスペクトル解析するフーリエスペクトル解析手段と、
前記覆工コンクリートの前記各スパンにおいて表面画像を解析することにより図面化されたひび割れ分布を定量化するひび割れ分布解析手段と、
前記フーリエスペクトル解析の結果に基づく前記既設トンネルの振動特性と前記覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化したデータとに基づいて既設トンネルの健全性を判定する健全性判定手段であり、前記各スパンにおいて、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れにくく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が少ない箇所を健全性が高い基準スパンと判定し、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れにくく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が多い箇所を基本的に補修工法が摘要される要注意スパン(1)と判定し、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れやすく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が少ない箇所を基本的に補強工法が必要となる要注意スパン(2)と判定する健全性判定手段と
してコンピュータを機能させるための既設トンネルの健全性診断プログラム。 - 既設トンネルの入口から出口までの各スパンにおいて覆工コンクリートの常時微動を計測する第1ステップと、
前記常時微動の計測により得られた加速度をフーリエスペクトル解析する第2ステップと、
前記覆工コンクリートの前記各スパンにおいて表面画像を取得する第3ステップと、
前記覆工コンクリートの表面画像を解析して前記覆工コンクリートのひび割れ分布を図面化する第4ステップと、
前記図面化された前記覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化する第5ステップと、
前記フーリエスペクトル解析の結果に基づく前記既設トンネルの振動特性と前記覆工コンクリートのひび割れ分布を定量化したデータとに基づいて既設トンネルの健全性を判定する第6ステップであり、前記各スパンにおいて、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れにくく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が少ない箇所を健全性が高い基準スパンと判定し、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れにくく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が多い箇所を基本的に補修工法が摘要される要注意スパン(1)と判定し、前記既設トンネルの振動特性から前記覆工コンクリートが揺れやすく、かつ、前記覆工コンクリートのひび割れ分布が少ない箇所を基本的に補強工法が必要となる要注意スパン(2)と判定する第6ステップと
を含む既設トンネルの健全性診断方法。 - 前記第1ステップは、前記既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の加速度を計測することを特徴とする請求項5記載の既設トンネルの健全性診断方法。
- 前記第2ステップは、前記既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の加速度のデータのノイズ処理を行った後に前記フーリエスペクトル解析して振幅および周波数特性を算出するとともに、前記既設トンネルの進行方向、法線方向および接線方向の解析結果をベクトル合成した値を算出することを特徴とする請求項5または6に記載の既設トンネルの健全性診断方法。
- 前記第5ステップは、前記覆工コンクリートのひび割れ分布の展開図を所定幅の格子状に分割し、各格子中に少なくとも1本のひび割れが含まれるような正方形の数を計上することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の既設トンネルの健全性診断方法。
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