JP6904393B2 - リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。これらの分野の発展と共に、リチウムイオン二次電池は、より高い性能が求められている。
その性能の一つがサイクル特性である。サイクル特性は、充放電を行った後の電池の劣化の程度を示す指標である。サイクル特性は、電池の様々な指標で評価されるが、例えば、電池容量の推移で評価される。例えば、特許文献1には、C1sスペクトルのX線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定で、285eVと289eVにピークをもつ正極活物質を用いると、サイクル特性が向上することが記載されている。
特開平8−87997号公報
リチウムイオン二次電池の性能の向上により更なるサイクル特性の改善が求められている。
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、サイクル特性が向上する負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
本発明者らは、XPS測定で分析されたリチウム金属とリチウム酸化物の強度比が、負極の表面から深さ方向50nmの範囲において所定の範囲を満たすと、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上することを見出した。
すなわち、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)第1の態様にかかる負極は、放電処理後の状態で、X線光電子分光法(XPS)で分析されるLi1sスペクトルから求められるリチウム酸化物に対するリチウム金属の強度比xが、表面から深さ方向50nmに亘って1≦x≦2を満たす。
(2)上記態様にかかる負極は、放電処理後の状態で、X線光電子分光法(XPS)で分析されるLi1sから求められるフッ化リチウムに対する前記リチウム酸化物の強度比yが、表面から深さ方向200nmに亘って1≦y≦5を満たしてもよい。
(3)上記態様にかかる負極は、放電処理後の状態で、X線光電子分光法(XPS)で分析されるLi1sの濃度が、表面から深さ方向250nmに亘って、50atm%以上75atm%以下であってもよい。
(4)上記態様にかかる負極は、活物質と導電助剤とバインダーとを含み、前記活物質の質量%が70質量%以上85質量%以下であり、前記導電助剤の質量%が3質量%以上10質量%以下であり、バインダーの質量%が10質量%以上20質量%以下であってもよい。
(5)第2の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、上記態様にかかる負極と、前記負極と対向する正極と、前記負極と前記正極との間にある非水電解質と、を備える。
(6)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池において、前記非水電解質は、鎖状カーボネートと環状カーボネートとを含み、前記環状カーボネートの含有量に対する前記鎖状カーボネートの含有量の比は、体積比で1.5以上9.0以下であってもよい。
上記態様に係る負極を用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れる。
第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
「リチウムイオン二次電池」
図1は、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。図1に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
(発電素子)
発電素子40は、正極20と負極30とセパレータ10とを備える。図1では正極20、セパレータ10及び負極30からなる発電ユニットが1つの場合を例示したが、発電素子40は発電ユニットを複数有してもよい。
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。負極集電体32の平均厚みは、例えば、10μm以上30μm以下である。
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に接する。負極活物質層34は、例えば、負極集電体32の両面に接する。負極活物質層34は、負極集電体32に沿って、面内方向に広がる。
負極活物質層34は、例えば、負極活物質と導電助剤とバインダーとを含む。負極活物質層34は、例えば、負極活物質を質量%で70質量%以上85質量%以下含み、導電助剤を質量%で3質量%以上10質量%以下含み、バインダーを質量%で10質量%以上20質量%以下含んでもよい。負極活物質と導電助剤とバインダーを合わせて100質量%となるように、それぞれの質量%は適宜調整できる。
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ等のリチウム等の金属と化合することのできる物質、SiO(0<x<2)、二酸化スズ等の酸化物等の非晶質の化合物である。
負極活物質層34は、上述のように例えば、シリコン、スズを含んでもよい。シリコン、スズは、単体元素として存在してもよいし、化合物として存在してもよい。化合物は、例えば、シリコン又はスズの合金、酸化物等である。一例として、負極活物質がシリコンの場合、負極30はSi負極と呼ばれることがある。負極活物質は、例えば、シリコン、スズの単体又は化合物と炭素材との混合系でもよい。炭素材は、例えば天然黒鉛である。また負極活物質は、例えば、シリコン、スズの単体又は化合物の表面が炭素で被覆されたものでもよい。炭素材及び被覆された炭素は、負極活物質と導電助剤との間の導電性を高める。負極活物質層34がシリコン、スズを含むと、リチウムイオン二次電池100の容量が大きくなる。
導電助剤は、負極活物質層34における負極活物質間の導電性を高める。導電助剤は、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物である。導電助剤は、カーボンブラック等の炭素材料が好ましい。
バインダーは、活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等である。
上記の他に、バインダーは、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムでもよい。またバインダーは、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。
負極活物質層34は、放電処理後の状態で、X線光電子分光法(XPS)から求められるリチウム酸化物に対するリチウム金属の強度比xが、表面から深さ方向50nmに亘って1≦x≦2を満たす。また強度比xは、表面から深さ方向50nmに亘って1.3≦x≦1.7を満たしてもよい。リチウム酸化物に対するリチウム金属の強度比xは、XPS分析のLi1sのナロースペクトルからリチウム金属に由来するピークの強度とリチウム酸化物に由来するピークの強度とを求め、リチウム金属に由来するピークの強度をリチウム酸化物に由来するピークの強度で割って求められる。
「放電処理後の状態」とは、リチウムイオン二次電池の動作電圧範囲内において負極内に溜められていたリチウムイオンを正極側に移動させた状態であり、放電終止電圧の状態である。XPSのスペクトルでLi1sピークが確認されるということは、放電後の状態でも負極活物質層34の表面の近傍にLiが残存していることを意味する。
リチウム金属は単体のLiであり、リチウム酸化物は例えばLiOである。リチウム酸化物に対するリチウム金属の強度比xが、1≦x≦2を満たすということは、負極活物質層34の表面の近傍において、リチウム金属の存在比がリチウム酸化物の存在比より多いことを意味する。
負極活物質層34は、放電処理後の状態で、XPSから求められるフッ化リチウムに対するリチウム酸化物の強度比yが、表面から深さ方向200nmに亘って1≦y≦5を満たす。また強度比yは、表面から深さ方向200nmに亘って2.0≦x≦4.0満たしてもよい。フッ化リチウムに対するリチウム酸化物の強度比yは、XPS分析のLi1sのナロースペクトルからフッ化リチウムに由来するピークの強度とリチウム酸化物に由来するピークの強度とを求め、リチウム酸化物に由来するピークの強度をフッ化リチウムに由来するピークの強度で割って求められる。
フッ化リチウム金属は例えばLiFである。フッ化リチウムに対するリチウム酸化物の強度比yが、1≦y≦5を満たすということは、負極活物質層34の表面近傍において、リチウム酸化物の存在比がフッ化リチウムの存在比より多いことを意味する。
負極活物質層34は、放電処理後の状態で、XPSで分析されるLi1sの濃度が、表面から深さ方向250nmに亘って、50atm%以上75atm%以下である。Li1sの濃度は、XPSのワイドスペクトルから定量的に行われる。XPSでは、Li1sピークの他に、O1sピーク、C1sピーク等が確認される。
<正極>
図1に示すように、正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、負極集電体32と同様の構成である。
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、正極活物質と導電助剤とバインダーとを備える。正極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層24は導電材を含んでいなくてもよい。
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。
正極活物質は、例えば、複合金属酸化物である。複合金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMnの化合物(一般式中においてx+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)である。正極活物質は、有機物でもよい。例えば、正極活物質は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンでもよい。
導電助剤及びバインダーは、負極活物質層34における導電助剤及びバインダーと同様の材料を用いることができる。
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。
(端子)
端子60、62は、それぞれ正極20と負極30とに接続されている。正極20に接続された端子60は正極端子であり、負極30に接続された端子62は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
(外装体)
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
外装体50は、例えば図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
(非水電解液)
非水電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。
非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解質とを有する。電解質は、非水溶媒に溶解している。
非水溶媒は、例えば、環状カーボネートと、鎖状カーボネートと、を含有する。環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。環状カーボネートは、プロピレンカーボネートを少なくとも含むことが好ましい。鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン等を有してもよい。
環状カーボネートの含有量に対する鎖状カーボネートの含有量の比は、例えば、体積比で1.5以上9.0以下である。環状カーボネートの含有量に対する鎖状カーボネートの含有量の比は、例えば、体積比で2.0以上5.0以下であってもよい。
電解質は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。電離度の観点から、電解質はLiPFを含むことが好ましい。
「リチウムイオン二次電池の製造方法」
まず負極30を作製する。負極集電体32は、例えば、市販のものを用いる。負極集電体32の少なくとも一面に、ペースト状の負極スラリーを塗る。塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。負極スラリーは、負極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒とを混合してペースト化したものである。
次いで、負極スラリー中の溶媒を除去する。除去方法は特に限定されない。例えば、負極スラリーが塗布された負極集電体32を、80℃〜150℃の雰囲気下で乾燥させる。次いで、得られた塗膜をプレスして、負極活物質層34を高密度化することで、負極30が得られる。プレスの手段は、例えばロールプレス機、静水圧プレス機等を用いることができる。
次いで、負極にリチウムをドープする。まず、安定化被膜を形成したリチウム粉が溶媒中に分散した分散液を準備する。この分散液を負極活物質層34の上に塗布し、乾燥させる。この場合、分散液から溶媒を乾燥により完全に除去せずに、負極表面に溶媒が残留した状態としておくことが望ましい。電極表面の溶媒残留は、反射率計により負極の表面を観察することで確認できる。溶媒が電極表面に残留した状態で電極にプレスをおこなうと、金属リチウムの負極へのドーピングが効率的におこなわれる。安定化リチウム粉を含む分散液の溶媒は、脱水した溶媒であれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトンなどである。
次いで、正極20を作製する。正極20は、負極30と同様に作製できる。正極集電体22の少なくとも一面に、ペースト状の正極スラリーを塗る。正極スラリーは、正極活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を混合し、ペースト化したものである。正極スラリーを正極集電体22に塗布し、乾燥することで正極20が得られる。
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
最後に、発電素子40を外装体50に封入する。非水電解液は外装体50内に注入する。非水電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に非水電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。
次いで、封止が完了したリチウムイオン二次電池100に対し、過剰電圧条件による初回充放電操作をおこなう。ここで、「過剰電圧条件」とは、リチウムイオン二次電池100を実際に使用する際の電圧を超える電圧条件である。「過剰電圧条件」は、実使用よりも過酷な電圧条件であり、この条件で初回充放電操作をおこなう。例えば、リチウムイオン二次電池100を4.2Vにおいて実使用する場合、初回充放電を4.5Vの電圧条件でおこなう。この操作において、初回充放電の電圧と、実使用時の電圧との差を調整することによって、リチウム酸化物よりも金属リチウムを、あらかじめ電極へ導入できる。またリチウムイオン二次電池100に外から加圧して、初回充放電操作を行ってもよい。加圧すると、電極へのリチウムのドープが促される。
第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池は、後述する実施例で示すように、負極のXPS分析結果が所定の範囲であると、サイクル特性が向上した。
この原因は明確ではない。サイクル特性は、充放電時に負極及び正極の吸蔵、放出がスムーズに行われるか否かに大きな影響を受ける。放電後の状態でも負極30の表面近傍にリチウムイオンが存在するということは、リチウムイオンが移動する系内にリチウムイオンが過剰に存在していると考えられる。サイクル特性は、例えば、負極がリチウムを吸収する等により系内の充放電に関わるリチウムイオンが減量することにより劣化する。リチウムイオンが系内に過剰に存在することで、充放電に関わるリチウムイオンの減量が抑制され、サイクル特性が向上しているのではないかと考えられる。
負極活物質層34の表面近傍において、リチウムイオンに変換されやすい単体リチウムの存在比がリチウム酸化物の存在比より多い(強度比xが1≦xを満たす)ことで、サイクル特性が向上しているのではないかと考えられる。一方で、単体リチウムの存在比が増えすぎる(強度比xが2を超える)と、デンドライトが発生する等の問題によりサイクル特性が低下していくのではないかと考えられる。
またリチウム酸化物は、フッ化リチウムより安定である。負極活物質層34の表面近傍において、安定なリチウム酸化物の存在比がフッ化リチウムの存在比より多い(強度比yが1≦xを満たす)ことで、表面近傍における反応が安定し、サイクル特性が向上しているのではないかと考えられる。一方で、リチウム酸化物の存在比が増えすぎる(強度比yが5を超える)と表面が安定化し、反応が生じにくくなり、サイクル特性が低下するのではないかと考えられる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
「実施例1」
まず、負極を作製した。負極は、負極活物質と導電助剤とバインダーとを混合し、負極合材を作製した。負極活物質はシリコン、導電助剤はカーボンブラック、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)とした。負極活物質と導電助剤とバインダーは質量比で70:10:20とした。この負極合材を、N−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極スラリーを作製した。そして、厚さ10μmの銅箔の一面に、負極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して負極活物質層を形成した。
上記の方法で得られた負極の上に、安定化リチウム粉を脱水したN−メチルピロリドンに分散させた分散液を、安定化リチウム粉の塗布量が0.5mg/cmとなるように塗布し、100℃で乾燥を行った。このとき、反射率計におい溶媒の表面残留が確認できる程度に乾燥時間を留めた。その後、ハンドプレスによって30kNの力で加圧して負極へリチウムをドープさせ、リチウムがドープされた負極を得た。
次いで、正極を作製した。正極は、正極活物質と導電材とバインダーとを混合し、正極合材を作製した。正極活物質はLi過剰系であるLi1.2Ni0.2Mn0.6、導電材はカーボンブラック、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)とした。正極活物質と導電材とバインダーは、質量比で90:5:5の割合とした。この正極合材を、N−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極スラリーを作製した。そして、厚さ15μmのアルミニウム箔の一面に、正極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して正極活物質層を形成した。
(評価用リチウムイオン二次電池の作製 フルセル)
作製した負極と正極とを、厚さ16μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に積層し、負極3枚と正極2枚とを積層することで積層体を作製した。さらに、積層体の負極において、負極活物質層を設けていない銅箔の突起端部にニッケル製の負極リードを取り付けた。また積層体の正極においては、正極活物質層を設けていないアルミニウム箔の突起端部にアルミニウム製の正極リードを超音波溶接機によって取り付けた。
そしてこの積層体を、ラミネートフィルムの外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより閉口部を形成した。外装体内には、非水電解液を注入した。非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:9とした溶媒中に、リチウム塩として1.0M(mol/L)のLiPFが添加したものとした。エチレンカーボネート(EC)は環状カーボネートであり、ジエチルカーボネート(DEC)は鎖状カーボネートである。そして、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封し、リチウムイオン二次電池(フルセル)を作製した。
最初の充電放電は0.5Cで4.5Vまで定電流定電圧充電し、放電は2.8Vまで定電流放電を行った。通常より充電電圧が高いのはLi過剰系正極活物質からより多くのLiイオンを負極へ挿入させるためである。これにより負極のLi金属濃度が高まる。2回目以降の充電は4.2Vまでとする。また初回充放電はセル全体に均一に1MPaの圧力を掛けて行った。
(XPS測定)
また同一条件で作製したリチウムイオン二次電池を0.5Cで4.2Vまで定電流定電圧充電し、1Cで2.8Vまで定電流放電した後、負極を取り出し、XPS分析を行った。XPS分析は、負極活物質層の表面から深さ方向に掘りながら、測定を行った。測定は、表面から深さ方向に、0nm(負極活物質層表面)、5nm、10nm、30nm、50nm、60nm、100nm、150nm、200nm、250nmのそれぞれの位置で行った。XPS分析は、PHI社製のQuantera2を用いて測定した。
実施例1のXPSの測定結果を以下の表1に示す。
Figure 0006904393
(サイクル特性)
作製したリチウムイオン二次電池のサイクル特性を、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて、25℃の環境下で評価した。サイクル特性は、0.5Cで4.2Vまで定電流定電圧充電し、1Cで2.8Vまで定電流放電する充放電サイクルを500サイクル繰り返し、500サイクル後の容量維持率(%)で評価した。
実施例1の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、93.2%であった。
「比較例1」
比較例1は、初回充電を4.2Vまで行った。4.5Vまで充電を行っていない点が実施例1と異なる。比較例1においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。
比較例1のXPSの測定結果を以下の表2に示す。
Figure 0006904393
比較例1の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、76.1%であった。
「比較例2」
比較例2は、初回充電を4.7Vまで行った。充電電圧が4.5Vを超えた点が実施例1と異なる。比較例2においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。
比較例2のXPSの測定結果を以下の表3に示す。
Figure 0006904393
比較例2の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、73.6%であった。
「実施例2」
実施例2は、リチウム塩LiPFの濃度を0.7Mとした点が実施例1と異なる。実施例2においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。
実施例2のXPSの測定結果を以下の表4に示す。
Figure 0006904393
実施例2の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、91.2%であった。
「実施例3」
実施例3は、リチウム塩LiPFの濃度を1.5Mとした点が実施例1と異なる。実施例3においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。
実施例3のXPSの測定結果を以下の表5に示す。
Figure 0006904393
実施例3の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、91.6%であった。
「実施例4」
実施例4は、初回充放電時にセルに圧力を掛けなかった点が実施例1と異なる。実施例4においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。
実施例4のXPSの測定結果を以下の表6に示す。
Figure 0006904393
実施例4の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、90.5%であった。
「実施例5」
実施例5は、初回充放電時にセルに掛ける圧力を2MPaとした点が実施例1と異なる。実施例5においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。
実施例5のXPSの測定結果を以下の表7に示す。
Figure 0006904393
実施例5の500サイクル後の容量維持率(サイクル特性)は、90.3%であった。
「実施例6〜10」
実施例6〜10は、負極合材を作製する際の負極活物質と導電助剤とバインダーの混合比を変えた点が実施例1と異なる。
実施例6は、負極活物質と導電助剤とバインダーの混合比を65:13:22とした。
実施例7は、負極活物質と導電助剤とバインダーの混合比を80:5:15とした。
実施例8は、負極活物質と導電助剤とバインダーの混合比を85:3:12とした。
実施例9は、負極活物質と導電助剤とバインダーの混合比を85:5:10とした。
実施例10は、負極活物質と導電助剤とバインダーの混合比を90:2:8とした。
実施例6〜実施例10においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。実施例6〜10のXPS分析結果は、概ね実施例1と同様であり、いずれの実施例も表面から深さ方向50nmに亘って強度比xが1≦x≦2を満たし、表面から深さ方向200nmに亘って強度比yが1≦y≦5を満たし、表面から深さ方向250nmに亘ってLi1sの濃度が50atm%以上75atm%以下であった。
実施例6のサイクル特性は91.8%、実施例7のサイクル特性は94.6%、実施例8のサイクル特性は93.8%、実施例9のサイクル特性は92.6%、実施例10のサイクル特性は90.1%であった。
「実施例11〜14」
実施例11〜14は、非水電解液のエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比を変えた点が実施例1と異なる。
実施例11は、ECとDECの体積比を95:5とした。
実施例12は、ECとDECの体積比を75:25とした。
実施例13は、ECとDECの体積比を60:40とした。
実施例14は、ECとDECの体積比を55:45とした。
実施例11〜実施例14においても、XPS分析を行い、サイクル特性を測定した。実施例11〜14のXPS分析結果は、概ね実施例1と同様であり、いずれの実施例も表面から深さ方向50nmに亘って強度比xが1≦x≦2を満たし、表面から深さ方向200nmに亘って強度比yが1≦y≦5を満たし、表面から深さ方向250nmに亘ってLi1sの濃度が50atm%以上75atm%以下であった。
実施例11のサイクル特性は91.2%、実施例12のサイクル特性は95.4%、実施例13のサイクル特性は93.6%、実施例14のサイクル特性は93.3%であった。
10 セパレータ
20 正極
22 正極集電体
24 正極活物質層
30 負極
32 負極集電体
34 負極活物質層
40 発電素子
50 外装体
52 金属箔
54 樹脂層
60、62 端子
100 リチウムイオン二次電池

Claims (7)

  1. 放電処理後の状態で、
    X線光電子分光法(XPS)で分析されるLi1sスペクトルから求められるリチウム酸化物に対するリチウム金属の強度比xが、
    表面から深さ方向50nmに亘って1≦x≦2を満たし、
    前記放電処理後の状態は、リチウムイオン二次電池が実使用される動作電圧範囲内における最低電圧の状態である、リチウムイオン二次電池用負極。
  2. 放電処理後の状態で、
    X線光電子分光法(XPS)で分析されるLi1sスペクトルから求められるフッ化リチウムに対する前記リチウム酸化物の強度比yが、
    表面から深さ方向200nmに亘って1≦y≦5を満たす、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
  3. 放電処理後の状態で、
    X線光電子分光法(XPS)で分析されるLi1sの濃度が、表面から深さ方向250nmに亘って、50atm%以上75atm%以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
  4. 活物質と導電助剤とバインダーとを含み、
    前記活物質の質量%が70質量%以上85質量%以下であり、
    前記導電助剤の質量%が3質量%以上10質量%以下であり、
    バインダーの質量%が10質量%以上20質量%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、前記リチウムイオン二次電池用負極と対向する正極と、前記リチウムイオン二次電池用負極と前記正極との間にある非水電解質と、を備える、リチウムイオン二次電池。
  6. 前記非水電解質は、鎖状カーボネートと環状カーボネートとを含み、
    前記環状カーボネートの含有量に対する前記鎖状カーボネートの含有量の比は、体積比で1.5以上9.0以下である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
  7. 請求項5又は6に係るリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
    負極活物質上に、安定化リチウム粉が溶媒中に分散した分散液を塗布し、乾燥させ、負極を作製する工程と、
    前記負極と、正極と、前記正極と前記負極の間にあるセパレータとを、非水電解液に含浸し、リチウムイオン二次電池を得る工程と、
    前記リチウムイオン二次電池に対し、実使用よりも過酷な電圧条件である過剰電圧条件で初回充放電操作を行う工程と、を有する、リチウムイオン二次電池の製造方法。
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