本発明は、こうした問題を解決せんとするもので、要介護者(以下では、介護を必要としない人も対象とするため、被装着者と称する。)を椅子に座らせたまま洗髪することができ、使用した洗髪シートも使い捨てにして、介護人の負担を軽減することのできる新たな洗髪装置を提供することを課題とする。
本発明の第1観点に係る洗髪装置は、少なくとも手で引っ張れば伸びる薄さの防水性の洗髪シートと、被装着者に装着された前記洗髪シートを斜め下方に垂らした状態で前記洗髪シートの上部と下部とをそれぞれ保持する保持部と、を備え、
前記洗髪シートは、広げた状態では、被装着者の少なくとも両肩を覆う横幅と、少なくとも手を挙げた手首から腰に至るまでの縦幅を有する略長方形であり、
前記洗髪シートの略中央部分には、被装着者の頭部が辛うじて通る大きさの貫通孔が形成され、前記貫通孔は、被装着者の頭部が通された後、腹部側の前記洗髪シートが持ち上げられて前記貫通孔から被装着者の顔だけが露出するように、前記貫通孔の周縁を被装着者のうなじから耳の下を通って額に至る顔周りに沿わせることにより、前記貫通孔の周縁を顔周りに密着させるものであり、
前記保持部は、被装着者の腹部側から持ち上げられた前記洗髪シートの上部を、幅方向に広げた状態で保持する上部保持部と、背中側に垂れる前記洗髪シートの下部がU字状に垂れ下がるように、前記下部の幅方向両端部を互いに寄せて保持する下部保持部と、を備えたことを特徴とする。
この洗髪シートは、手で引っ張れば伸びる薄さの合成樹脂製シート、例えば低密度ポリエチレンで形成することができる。ただし、シートの素材は、これには限定されない。また、この洗髪シートは、少なくとも両肩を覆う横幅と、少なくとも手を挙げた手首から腰に至るまでの縦幅を有するが、それより大きくても良い。この洗髪シートは、余った部分を折って使えるので、装着時に余裕のあるサイズが好ましい。
上部保持部は、幅方向に広げられた洗髪シートの上部を保持するが、幅方向全幅に亘って保持する必要はなく、洗髪シートの少なくとも幅方向両端部と、幅方向中央部分とを個別に保持するものであれば良い。
また、下部保持部は、洗髪シート下部の幅方向両端部を互いに寄せて保持するものであれば良い。例えばクリップ等でもって幅方向両端部を留め、そのクリップを、例えば洗面台の蛇口等に引っ掛けて保持しても良い。或いは、幅方向両端部を互いに結び合わせ、その結び目を洗面台の蛇口等に引っ掛けて留めても良い。このように、幅方向両端部を互いに寄せて保持することにより、洗髪シートの下部をU字状の、又は、リング状の排水口に形成すれば、洗髪シートの幅方向両側縁部を立ち上がらせて、溢水防止壁とすることができる。
この洗髪シートを装着するときは、洗面台の前に椅子を置き、そこに、被装着者を洗面台を背にして座らせる。次に洗髪シートの貫通孔に被装着者の頭部を通して被せ、被せた洗髪シートの長手方向を被装着者の前後方向に向ける。続いて被装着者の腹部側の洗髪シートを持ち上げて貫通孔から被装着者の顔を露出させる。このとき、後頭部の生え際下部のうなじを支点として、洗髪シートの前側を持ち上げ、貫通孔の周縁が、被装着者のうなじから耳の下を通って額に至る顔周りに沿った時点で止める。このとき、顔回りの長さは、頭部回りの長さよりも長いから、頭部を辛うじて通った貫通孔の周縁は、さらに前後方向と上下方向に帯状に伸びながら広がって、シート自身の収縮力によって顔周りの肌に密着する。このときの貫通孔の周縁は、上下に帯状に広がって肌に貼り付くから、締付力は、不快感を覚えるようなものではなくなる。こうして、貫通孔と顔回りとの隙間は、粘着テープを巻き付けたように、シールドされる。
続いて頭部に持ち上げた前側の洗髪シートの上部を幅方向に広げながら、少なくとも上部の幅方向両端部と幅方向中央部分とを上部保持部でもって保持する。このとき、被装着者の額の部分から上側の洗髪シートは、少し緊張させるように持ち上げて保持し、両脇の耳の周辺から上側の洗髪シートは、少し弛みを持たせるようにして保持する。そうすれば、被装着者が頭部を動かしても、移動量が大きい顔の両脇部分の洗髪シートが過度に引っ張られないから、貫通孔を変形させない効果がある。
続いて装着された洗髪シートが、被装着者の前側上方から後側下方へ向けて斜めに垂れ下がるように、背中側に垂れる洗髪シートの下部を下部保持部でもって保持する。このとき、下部保持部は、幅方向両端部を互いに寄せた状態に保持するから、洗髪シートの下部には、U字状の又はリング状の排水口が形成される。これにより、洗髪シートは、被装着者の背後から見ると、上部が広く、下部が狭い逆三角形になり、側面から見ると、下端部の排水口を底辺とする細長い三角形となる。しかも、下端部には、U字状の又はリング状の排水口が形成されるから、洗髪シートの左右の両側縁部は、上部から下部へ向けて次第に立ち上がった溢水防止壁になる。
こうして洗髪シートの装着が済むと、下端部に形成された排水口を洗面台のボウルに臨ませて洗髪する。洗髪された汚染水は、洗髪シートの幅方向中央部分に集まって下端部の排水口から洗面台のボウルに排水される。したがって、汚染水が洗髪シートの左右両側縁部から溢れ出ることはない。また、貫通孔と顔回りとの間は、広がって帯状となった貫通孔周縁の収縮力によってシールドされるから、汚染水が貫通孔から漏れ出ることもない。
本発明の第2観点に係る洗髪装置は、第1観点に係る前記上部保持部が、外部の水平アームに一方の端部が固定された弾性体と、前記弾性体の他方の自由端部に取り付けられて、前記洗髪シートの上部を把持するクリップとで構成されていることを特徴とする。
この弾性体は、伸縮するだけでなく、自在に揺動する、例えばゴム紐やコイルスプリング等で構成される。また、クリップは、例えば洗濯挟みのように、洗髪シートを挟んで抜けないように留めることができれば良い。また、外部の水平アームは、例えばキャスターの付いた移動式のポールに取り付けられた水平アームや、部屋の壁に取り付けられて、洗面台の上方に張り出すように構成された水平アームである。
上部保持部は、この水平アームの少なくとも洗髪シートの幅方向両端部と幅方向中央部分とに対応する位置に設けられる。そうすれば、弾性体とクリップとを介して吊り下げられた洗髪シートは、被装着者が動いたり、頭を動かしたりしても、各弾性体が伸びて、顔回りに装着された貫通孔を過度に引っ張ったり、変形させたりしないから、貫通孔と顔回りとの間に隙間を生じさせないようにすることができる。
本発明の第3観点に係る洗髪装置は、第1観点に係る前記上部保持部が、外部の水平アームに一方の端部が固定された弾性体と、前記弾性体の他方の自由端部に取り付けられた被把持部材と、前記被把持部材に被せられた前記洗髪シートの上から前記被把持部材ごと前記洗髪シートを把持するクリップとで構成されていることを特徴とする。
この被把持部材は、洗髪シートを被せることができ、かつ、クリップで把持される大きさのもので、例えば洗髪シートの上部が乗るような短い棒状部材であれば良い。この被把持部材を弾性体の自由端部に取り付け、その上に洗髪シートを被せて、被把持部材ごと洗髪シートをクリップで把持するように構成する。例えば外部の水平アームから吊り下げられた弾性体の下端部(自由端部)に釣り針状のフックを取り付け、そのフックの上向きの先端部分に被把持部材を取り付けておく。或いは、水平アームの側面から水平方向に又は上向きに弾性体を取り付け、その弾性体の自由端部に被把持部材の側面又は下面を取り付けておく。そうすれば、被把持部材の上面に洗髪シートを被せることができ、その上からクリップでもって被把持部材ごと洗髪シートを把持することができる。
このような構成の上部保持部を、洗髪シートの幅方向両端部と、幅方向中央部分とに対応する水平アームの位置に設けておく。そうすれば、洗髪シート上部の左右の両端部とそれらの中間部分とを、各上部保持部で保持することができるから、被装着者が動いたり、頭を動かしたりしても、各弾性体が伸びて被装着者に装着された貫通孔を過度に引っ張ったり、変形させたりしない。これにより、被装着者の顔回りに密着した貫通孔と顔回りとの間に隙間を生じさせないようにすることができる。
また、水平アームに沿って設けられた被把持部材を、表面に複数の吸引口が設けられたパイプで構成し、そのパイプを吸引装置に接続してパイプ内を負圧にし、それらのパイプでもって洗髪シートの上部を吸引保持するようにしても良い。そうすれば、洗髪シートの上部を各パイプに被せるだけで、洗髪シートは、各パイプに吸引保持されて、ずれ落ちないから、その状態で洗髪シート中央部分の上下方向の張り具合や両サイドの弛み具合を調整することができる。それが済めば、各パイプの吸引力を強くするか、吸引力を変えずにクリップでもってパイプに被せた洗髪シートをパイプごと把持するようにする。
本発明の第4観点に係る洗髪装置は、第1観点乃至第3観点に係る洗髪装置において、前記洗髪シート上部の幅方向両端部を保持する前記上部保持部が、所定幅で内側に折られた幅方向両端部を保持することを特徴とする。
洗髪シート下部の幅方向両端部は、幅方向に寄せられた状態で保持されるから、貫通孔より下方の幅方向両側縁部は、十分立ち上がることができる。これに対し、貫通孔より上方の洗髪シートは、上部が広げられた状態で保持されるから、貫通孔より上方の幅方向両側縁部は、十分に立ち上がることはできない。
そこで、第4観点に係る洗髪装置では、洗髪シート上部の幅方向両端部を保持する上部保持部が、所定幅で内側に折られた幅方向両端部を保持するようにしている。例えば、洗髪シート上部の幅方向両端部を所定幅で内側に折り畳み、それを上部保持部で保持するようにする。或いは、折り畳まずに、内側にL字状に折り曲げたまま保持するようにしても良い。
折り畳んで保持する場合は、例えば幅方向両端部に配置される各上部保持部を水平アームに沿って直列に配置し、それらの上部保持部でもって所定幅に折り畳まれた幅方向両端部を保持する。そうすると、折り畳まれたシートは、上部保持部を出た際から内側に「く」の字に開いて広がるから、貫通孔より上方の幅方向両側縁部の立ち上り量が小さくても、シャワー水が、そこから溢れ出るのを防止することができる。
また、幅方向両端部を折り畳まずに、内側にL字状に折り曲げたまま保持する場合は、例えば左右の上部保持部を、中央部分の上部保持部に対し、直交する方向に向けて配置しておく。そうすると、左右の上部保持部は、幅方向両端部を、中央部分の洗髪シートに対し、直角に折られた状態で保持することになるから、幅方向両端部は、左右の上部保持部で保持された箇所から所定幅で立ち上がった溢水防止壁となる。これにより、貫通孔より上方の幅方向両側縁部は、頭髪に掛けられたシャワー水を溢れ出させないようにすることができる。
本発明の第5観点に係る洗髪装置は、第1観点ないし第4観点に係る洗髪装置において、さらにワゴンを備え、前記ワゴンには、少なくとも前記水平アームを支持するポールと、シャワー装置と、洗髪された汚染水を溜める貯留タンクとが備えられていることを特徴とする。
このワゴンは、手押し式のワゴンであっても良いし、モータで自走する電動式ワゴンであっても良い。また、ワゴンには、折り畳み式の椅子を搭載しておくと良い。また、前記ポールは、ワゴンに対し、着脱自在に構成しておくのが良い。例えばワゴンの四つの脚部の何れかに差込可能に構成しておく。そうすれば、被装着者が、ワゴンの右側に居るか、左側に居るかによって、ポールを勝手反対の位置に付け替えることができる。
ポールは、上下に伸縮するものが好ましく、使用しない場合は、邪魔にならない高さまで下げておけるようにしておく。また、ポールの先端部には、水平アームが取り付けられるが、この水平アームも、ポールに対し着脱可能に構成しても良いし、ポールと水平アームとをヒンジで結合して、折り畳めるように構成しても良い。また、水平アームには、少なくとも三つの上部保持部が取り付けられるが、その取付位置は、固定であっても、移動自在であっても良い。さらに、水平アームは、水平方向に伸縮するように構成しておく。そうすれば、水平アームの位置を、椅子に腰かけた被装着者の頭部の位置に応じて適宜に調整することができる。
シャワー装置は、シャワーヘッドと、温水タンクと、温水タンクから温水を汲み上げて前記シャワーヘッドに給湯するポンプと、シャワー水を受ける洗面台とを備えている。
シャワーヘッドは、洗面台又はワゴンに設けられたフックに着脱自在に保持されるものが好ましい。その場合のフックは、シャワーヘッドが持ち上げられると、前記ポンプのスイッチが入ってシャワーヘッドからお湯が噴射され、フックにシャワーヘッドが戻されると、スイッチが切れてお湯が止まるようになっている。また、これに代えて、ワゴンの足元にスイッチを設け、それを足で操作するようにしても良い。
温水タンクは、洗髪に必要な量のお湯を溜めることができる容量を有するが、お湯を溜めた温水タンクを抱えてワゴンに積み込むのは、介護人にとっては、大きな負担になる。そこで、温水タンクは、ワゴンに乗せたまま、給水ホースでタンク内にお湯が供給できるようにしておくのが好ましい。例えば温水タンクに給水ホースを接続し、それを温水が出る蛇口に差し込んで、温水タンクに直接給湯するようにしておく。
また、水の出る蛇口しかない場合は、温水タンクに接続した給水パイプの途中に電気湯沸かし器を接続して、水を加熱しながら温水タンクに給湯するようにしても良い。これに代えて、温水タンクからシャワーヘッドへ送る給水パイプの途中に電気湯沸かし器を設けて、シャワーヘッドには、適温のお湯が供給されるように構成しても良い。これにより、適温に温めたお湯で洗髪することができるから、冬場でも使用することができる。
洗面台は、ワゴンの前側側面に取り付け、洗面台の下方に、排水された水を溜める貯留タンクを設けておく。この洗面台は、高さ方向と水平方向とに移動可能に構成しておくのが良い。これにより、被装着者とワゴンとの位置関係に応じて、洗面台を適宜な高さと角度に配置することができるから、洗髪する介護人の作業性が良くなる。
洗面台の下方に配置される貯留タンクをワゴンから取り出して排水するのは、介護人にとっては、大きな負担になる。そこで、貯留タンクの下部に排水コックを取り付け、ワゴンを足洗い場まで移動させて排水コックを開けば、貯留タンク内の水が足洗い場に排水されるようにしておくのが好ましい。
さらに、貯留タンクに給水ホースも取り付け、蛇口に給水ホースを接続して、ワゴンに設置した貯留タンクに直接給水するようにしておくのが良い。
本発明によれば、被装着者を椅子に座らせたまま、無理な姿勢をとらさずに洗髪することができる。したがって、これまでの洗髪装置のように、介護を必要する被装着者に対して、首を仰向けに反らせるようにしたり、洗面台のボウル上で顔を俯せにさせたりする必要がないから、汎用性の高い洗髪装置とすることができる。また、洗髪シートを使い捨てにして、器具の洗浄や消毒を省略することができるから、介護人の負担を軽減して、被装着者にとっても、看護人にとっても使い勝手の良い洗髪装置となる。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、この実施形態は、本発明を説明するための一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
図1は、一実施形態としての洗髪装置の要部外観斜視図を示し、図2は、洗髪シートの平面図を示し、図3は、洗髪シート1を、被装着者Pに装着した洗髪装置全体の側面図を示す。これらの図において、洗髪装置100は、少なくとも手で引っ張れば伸びる薄さの防水性の洗髪シート1と、被装着者に装着された洗髪シート1を斜め下方に垂らした状態で洗髪シート1の上部10と下部11をそれぞれ保持する保持部2とを備えている。
洗髪シート1は、手で引っ張れば伸びる薄さの合成樹脂製のシートで形成され、広げた状態では、少なくとも被装着者Pの両肩を覆う横幅と、手を挙げた手首の位置から腰に至るまでの縦幅を有する略長方形である。ただし、これより大きいサイズであっても構わない。大きいサイズであれば、それだけで体格の大きな人から小さな人まで使用することができる。
具体的には、洗髪シート1は、厚さ0.03mmから0.05mm程度のポリエチレンシートで形成され、横幅が約90cm、縦幅が約150〜180cm程度あれば十分である。また、洗髪シート1の両側縁部12には、図2に示すように、両側縁部12を一定幅で内側に折って襞12aを形成している。この襞12aは、装着時には、図1のように、内側に折られた襞12aが開きながら立ち上がって、洗髪した後の洗浄水が洗髪シート1から溢れ出るのを防止する。なお、図2において、襞12aの上端部12bは、開かないように溶着されている。
洗髪シート1の略中央には、被装着者Pの頭部が辛うじて通る大きさの貫通孔13が形成されている。この貫通孔13は、横幅よりも縦幅の方が若干長い卵形が好ましいが、貫通孔13に頭部を通すときに、貫通孔13の周縁が均一に伸びるような形状、例えば長円形や円形であっても良い。また、良く伸びる薄手のポリエチレンシートを使用する場合は、貫通孔13の周囲長を被装着者の頭部周囲長の約70%程度とし、厚手のポリエチレンシートを使用する場合は、頭部周囲長の約80%程度としておくのが良い。ただし、ポリエチレンシートは、素材の配合割合によって同じ厚さであっても、伸びやすいものや伸び難いものがあるから、この数値は、一例に過ぎない。
なお、小さ目の貫通孔13であっても、後述するように、貫通孔13は、頭部に通すときに伸び、さらに貫通孔13から顔を露出させるときにも引き伸ばされながら、図6に示すように、貫通孔13の周縁部13aが下から上へと広がって、前記周縁部13aが帯状に広がった状態で顔回りの肌に密着するから、その状態で20〜30分間装着しても、ゴム紐のように締め付けられないから、被装着者Pに対して不快感を与えない効果がある。
保持部2は、図1、図3に示すように、被装着者Pの腹部側から持ち上げられた洗髪シート1の上部10を幅方向に広げた状態で保持する上部保持部20と、被装着者Pの背中側に垂れる洗髪シート1の下部11を保持する下部保持部21とを備えている。
上部保持部20は、洗髪シート上部10の幅方向の両端部と中央部分とを保持するもので、外部の水平アーム22から吊り下げられている。具体的には、上部保持部20は、水平アーム22から吊り下げられた弾性体23と、弾性体23の自由端部(下端部)に取り付けられて、洗髪シート1の上部10を把持するクリップ24とで構成されている。
弾性体23は、コイルスプリングで構成されるが、これに代えて、ゴム紐であっても良い。クリップ24は、例えば洗濯挟みのような構成で、洗髪シート1を挟む先端部24aには、挟んだ洗髪シート1が抜けないように、ゴム材が設けられている。
水平アーム22は、図3では、ワゴンWに取り付けられたポール25に連結されているが、これに代えて、例えばキャスターの付いた移動式のポールに水平アーム22を取り付けたものでも良いし、基端部が部屋の壁に取り付けられ、自由端部が壁から自在に張り出すように設けられた伸縮可能なリンク機構の可動端部に水平アーム22を取り付けたものでも良い。
このように、水平アーム22から弾性体23とクリップ24とを介して吊り下げられた洗髪シート1は、被装着者Pが動いたり、頭を動かしたりしても、各弾性体23が伸びて、顔回りに装着された貫通孔13を過度に引っ張ったり、変形させたりしないから、貫通孔13と顔回りとの間に隙間を生じさせない効果がある。
下部保持部21は、洗髪シート1の下部11がU字状に又はリング状に垂れ下がるように、下部11の幅方向両端部11aを互いに寄せて保持する。具体的には、図1に示すように、幅方向両端部11aを互いに結び合わせ、その結び目を例えば後述の洗面台33に設けたフック34に引っ掛けて留めるようにしても良いし、図4に示すように、幅方向両端部11aをクリップ26で保持し、そのクリップ26を繋ぐ紐を前記フック34や蛇口に引っ掛けて留めても良い。このように、幅方向両端部11aを互いに寄せて、洗髪シート1の下部11をU字状の又はリング状の排水口14に形成すれば、洗髪シート1の幅方向の両側縁部12を立ち上がらせて、両側縁部12を溢水防止壁にすることができる。
洗髪シート1を被装着者Pに装着するときは、例えば図3に示すように、椅子に腰かけた被装着者Pの頭上前方に上部保持部20を配置し、背中側下方に下部保持部21を配置する。次に図5に示すように、洗髪シート1の貫通孔13に被装着者Pの頭部を通し、続いて洗髪シート1の長手方向を被装着者Pの前後方向に向けてから、図6に示すように、被装着者Pの腹部側に垂れる洗髪シート1を持ち上げて貫通孔13から被装着者の顔を露出させる。このとき、貫通孔13の周縁を被装着者のうなじから耳の下を通って額に至る顔周りに沿わせる。これにより、貫通孔13の周縁部13aは、伸びながら帯状に広がり、広がった周縁部13aの収縮力によって顔周りの肌に密着する。この状態で、図1、図3に示すように、持ち上げた洗髪シート1の前側上部10を幅方向に広げて、各上部保持部20でもって幅方向の両端部12と中央部分とを保持する。
このとき、被装着者Pの額付近から上部10までの洗髪シート1が少し緊張するように、洗髪シート1の中央部分を少し緊張させた状態で中央部分の上部保持部20で保持する。また、その両脇の側頭部付近から上部10の幅方向両端部12までの洗髪シート1を弛んだ状態で幅方向両端部12を左右の上部保持部20で保持する。そうすれば、弾性体23とクリップ24とを介して吊り下げられた洗髪シート1は、被装着者Pが動いたり、頭を動かしたりしても、洗髪シート1がその動きに追従すると共に、各弾性体23が個別に伸びて、顔回りに装着された貫通孔13を過度に引っ張ったり、変形させたりしないから、貫通孔13と顔回りとの間に隙間を生じさせないようにすることができる。
続いて、洗髪シート下部11の幅方向両端部11aを互いに結び合わせ、その結び目を下部保持部21のフック34でもって保持する。これにより、洗髪シート1の下部11には、U字状の又はリング状の排水口14が形成される。それに加え、洗髪シート1は、上部10から下部11へ向けて横幅が次第に狭くなりながら垂れ下がるから、洗髪シート1の左右の両側縁部12が立ち上がって(垂れ下がって)、両側縁部12からシャワー水を溢れさせないようにすることができる。
図3は、洗髪装置100を搭載したワゴンWの一例を示し、図7は、図3の洗髪装置の平面図を示す。このワゴンWには、少なくとも水平アーム22を支持するポール25と、シャワー装置3と、洗髪された後の汚染水を溜める貯留タンク34とが備えられている。
ポール25は、ワゴンWの前側二つの鉛直フレームに上部から差し込めるように構成されて、ワゴンWと被装着者Pとの位置関係に応じて、ポール25を左右の何れかの鉛直フレームに差し込んで使用できるようになっている。また、このポール25は、上下に伸縮できるように、嵌め込み式に構成され、そのポール25の中程には、上下に移動させた上側のポールを適宜な位置で固定する締付金具25aが設けられている。これにより、椅子に腰かけた被装着者Pの頭部の位置に応じて水平アーム22の高さが調整できるようになっている。なお、各鉛直フレームの下端部には、キャスターCAが取り付けられている。
また、ポール25と、被装着者Pの頭上に配置される水平アーム22との間には、同様の嵌め込み式の連結バー27が設けられ、その連結バー27の中程には、伸縮させた連結バー27を固定する締付金具27aが設けられている。
また、ポール25のL字型先端部と連結バー27とは、ヒンジ結合され、さらにポール25と連結バー27との間には、斜めに傾斜ロッド28が取り付けられている。この傾斜ロッド28を伸縮させることにより、連結バー27の水平方向との傾斜角度が変えられるようになっている。これにより、被装着者Pの頭上前方の水平アーム22と被装着者Pの頭部との距離を調整することができる。また、傾斜ロッド28は、分解可能であり、それを分解して取り除けば、連結バー27を鉛直方向に折り畳むことができるようになっている。
さらに、水平アーム22と、これと交差する連結バー27とは、それらの連結部分がヒンジ結合されて、水平アーム22と連結バー27との交差角度が変えられるようになっている。これにより、図7の破線で示すように、連結バー27を回転させて、水平アーム22をワゴンWの側方に移動させることができるようになっている。これにより、被装着者や介護人の立ち位置に応じて、水平アーム22とワゴンWとの相対位置が変更できるようになっている。
また、ワゴンWには、使用前の折り畳まれた洗髪シート1を収納するボックスBbや、シャンプーとヘアリンスR、タオルT、ヘアドライヤーHD、その他、図示しない医療用手袋、ヘアブラシ、ランドリーボックス、抜け毛回収フィルター等が引き出しDW等に収納されている。
シャワー装置3は、シャワーヘッド30と、温水タンク31と、温水タンク31から温水を汲み上げてシャワーヘッド30に供給するポンプ32と、洗髪シート1から排出された汚染水を受け取る洗面台33と、汚染水を溜める貯留タンク34とを有している。
シャワーヘッド30は、洗面台33又はワゴンWに設けられたフック35に着脱自在に支持されるように構成されている。このフック35には、ポンプ32の電源をオン・オフするスイッチが設けられ、シャワーヘッド30が持ち上げられてフック35から外れると、ポンプ32のスイッチが入ってシャワーヘッド30からお湯が噴射される。また、フック35にシャワーヘッド30が戻されると、スイッチが切れてお湯が止まるようになっている。また、これに代えて、ワゴンWの足元にスイッチを設け、それを足で操作する構成であっても良い。
シャワーヘッド30を支持するフック35は、ワゴンWに設けられた短いポールに取り付けられて、フック35に設けられたロックレバー36を操作すれば、フック35の取付位置が、短いポールに沿って上下に変更できるようになっている。
ワゴンWには、さらに洗面台33と、そこに排出された汚水を回収する貯留タンク34とが設けられている。洗面台33は、ワゴンWの手押ハンドル40の反対側側面に高さ方向と水平方向に移動できるように構成されている。具体的には、洗面台33を支持するベース板37を水平なスライドレールに移動可能に取り付けられて、図7の破線で示すように、洗面台33をワゴンWから側方へ移動させることができるようになっている。また、ベース板37には、洗面台33の高さを上下に切り替える機構が組み込まれ、洗面台33の高さが、少なくとも上段と下段に変更できるようになっている。また、このベース板37と前記スライドレールとの間にヒンジ機構を組み込めば、洗面台33を水平面内で回転させることも可能である。このような構成にすれば、被装着者P、介護人、ワゴンWの位置に応じて、洗面台33やワゴンWの位置を作業し易い位置に移動させることができる。
貯留タンク34は、洗面台33の下方に配置されているが、それをワゴンWから取り出して排水するのは、介護人の大きな負担になるから、この実施形態では、貯留タンク34の下部に排水コック38を取り付け、ワゴンWを足洗い場まで移動させてから排水コック38を開けば、貯留タンク34の汚水が足洗い場に排水されるようになっている。
ポンプ32は、温水タンク31に浸漬される水中ポンプで構成することができるが、これに代えて、温水タンク31内のお湯を汲み上げるポンプであっても良い。また、温水タンク31は、洗髪に必要な量のお湯を溜めることができる容量を有しているが、お湯を溜めた温水タンク31を抱えてワゴンWに積み込むのは、大きな負担になるから、この実施形態では、温水タンク31に給水ホース39を取り付け、それでもってお湯がタンク31に供給できるようになっている。したがって、給水ホース39をお湯の出る蛇口に差し込んで温水タンク31に直接お湯を供給することができる。
また、このワゴンWには、温水タンク31に水を供給した場合でも、それを適温まで温める電気湯沸かし器50が設けられている。この電気湯沸かし器50は、給水ホース39の途中に、電気湯沸かし器50を接続して、水道水を温めながら、温水タンク31にお湯を供給するようになっている。ただし、これは一例であって、温水タンク31の水を電気湯沸かし器50に通してから、再び温水タンク31に戻すことにより、温水タンク31内の水を適温まで加熱するようにしても良い。
<他の第1実施形態>
図1の上部保持部20は、水平アーム22から吊り下げられた弾性体23と、その弾性体23の自由端部(下端部)に取り付けられて、洗髪シート1の上部10を把持するクリップ24とで構成したものであるが、この構成に代えて、図8に示すように、例えば外部の水平アーム22から吊り下げられた弾性体23の下端部(自由端部)に釣り針状のフックFを取り付け、そのフックFの上向きの先端部分Faに被把持部材29を取り付け、その被把持部材29の上に洗髪シート1を被せて、被把持部材29ごと洗髪シート1をクリップ24で把持するように構成しても良い。そうすれば、洗髪シート1を各被把持部材29の上に被せて、洗髪シート1の保持位置を決め、その後に、クリップ24でもって被把持部材29ごと洗髪シート1を把持していけば、洗髪シート1の幅方向中央部分に張りを持たせ、その両脇を弛ませた状態で保持することが楽にできるようになる。
この被把持部材29は、洗髪シート1を被せた上からクリップ24でもって把持できる大きさの短い棒状部材で構成されている。また、この被把持部材29をフックFの先端部Faに取り付ける構成に代えて、図9に示すように、水平アーム22の側面から水平方向に又は上向きに弾性体23を取り付け、その弾性体23の自由端部に被把持部材29の側面又は下面を取り付ける構成でも良い。そうすれば、被把持部材29の上面に洗髪シートを1被せた上からクリップ24でもって被把持部材29ごと洗髪シート1を把持することができる。
この被把持部材29では、クリップ24で洗髪シート1の上部10を留めるまでは、洗髪シート1が被把持部材29から滑り落ちる恐れがある。そこで、図10、図11に示すように、被把持部材を、表面に複数の吸引口Hを配置し、内部を空洞にしたパイプ29aで構成し、そのパイプ29aを柔軟なチューブTを介して吸引装置ASに接続することにより、各パイプ29a内を負圧にすれば、それらのパイプ29aの上に洗髪シート1の上部10を被せるだけで、洗髪シート1は、パイプ29aに吸引保持されて、滑り落ちるのを防止することができる。したがって、その状態で洗髪シート1の中央部分の上下の張り具合や、その両サイドの上下の弛み具合を調整してから、各パイプ29aの吸引力を強くして保持位置を固定する。あるいは、吸引力を変えずに、各パイプ29aの上からさらにクリップ24でもって洗髪シート1をパイプ29aごと把持するようにしても良い。こうすれば、洗髪シート1の上部10を各パイプ29aに被せて幅方向の位置を調整し、次に中央部分の洗髪シート1に張りを持たせ、その両脇の洗髪シート1に弛みを持たせる作業が楽にできるようになる。
また、洗髪シート1の幅方向両側縁部12には、所定幅で内側に折られた襞12aが設けられているので、図10の実施形態では、左右の襞12aをそれぞれ上から押さえる押さえ部材PUを、左右のパイプ29aに設けている。具体的には、各押さえ部材PUは、端部に設けられた水平な回転軸Cを中心として回動することにより、跳ね上げられた鉛直姿勢とパイプ29aの上に被さる水平姿勢とに切替可能に構成されている。そして、左右の押さえ部材PUを跳ね上げて、パイプ29aの上に襞12aを乗せ、続いて跳ね上げた押さえ部材PUを水平姿勢に戻せば、パイプ29aと押さえ部材PUとの間に襞12aが挟まれて固定されるようになっている。これにより、パイプ29aの吸引作用が及ばない洗髪シート1の襞12aを押さえることができるようになっている。
<他の第2実施形態>
以上の実施形態では、洗髪シート1の幅方向両端部を所定幅で折り畳んで襞12aを設けた洗髪シート1を使用しているが、この襞12aを折り畳まずに、L字形に内側に折り曲げたまま、左右の上部保持部20で保持するようにしても良い。
図12は、左右の襞12aを折り畳まずに、L字形に内側に折り曲げたまま、左右の上部保持部20で保持するように構成した一例を示す。この実施形態では、水平アーム22に両端部をL字に折り曲げた平面視門形の補助アーム22aを取り付け、左右の上部保持部20の被把持部材29を、中央部分の被把持部材29に対し、直交する方向に向けて配置しておく。そうすると、左右の上部保持部20は、幅方向両端部12を、中央部分の洗髪シート1に対し、直角に折られた状態で保持することになるから、幅方向両端部12は、左右の上部保持部20で保持された箇所から所定幅で立ち上がった溢水防止壁となる。これにより、貫通孔13より上方の幅方向両側縁部12は、頭髪に掛けられたシャワー水を溢れ出させないようにすることができる。
図13は、ワゴンWに電源装置80を搭載して、屋外でも使用できるようにしたものである。そのため、主要部分は、ケーシング内に収納しているが、その他の装備品の基本構成は、図3の実施形態と同じである。また、この実施形態では、洗面台33は、ノブNBを緩めれば、上下に移動可能に構成されている。また、シャワーヘッド30には、ポンプを作動させるスイッチ70が設けられ、それを操作すれば、シャワーヘッド30から温水が噴射されるようになっている。また、ポール25は、矢印FRで示す前後方向に倒したり、起こしたりすることができるとともに、鉛直方向のポール25は、嵌め込み式に構成されて、ロック機構50を操作すれば、ポール25を上下に伸縮できるようになっている。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で種々の変更も可能である。