図1は、本発明の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10の構成を説明するための断面図である。図1に示すように、赤外線カットフィルタ10は、透明誘電体基板12と、赤外線反射層14と、赤外線吸収層16とを備える。赤外線反射層14は、透明誘電体基板12の一方の面上に形成されている。赤外線吸収層16は、透明誘電体基板12の他方の面上に形成されている。
図1に示す赤外線カットフィルタ10は、例えばデジタルカメラにおいて、撮像レンズと撮像素子との間に設けられる。赤外線カットフィルタ10は、赤外線反射層14から光を入射し、赤外線吸収層16から光を出射するように実装される。すなわち、実装状態において、赤外線反射層14が撮像レンズに対向し、赤外線吸収層16が撮像素子に対向する。
透明誘電体基板12は、例えば厚さ0.1mm〜0.3mm程度の板状体であってよい。透明誘電体基板12を構成する材料は、可視光線を透過するものであれば特に限定されず、例えばガラスであってよい。ガラスで形成されたガラス基板は安価であることから、コスト面から好ましい。あるいは、透明誘電体基板12として、PMMA(Polymethylmethacrylate)やPET(Polyethylene terephthalate)、PC(Polycarbonate)、PI(Polyimide)等の合成樹脂フィルムまたは合成樹脂基板を用いることもできる。
赤外線反射層14は、上述したように透明誘電体基板12の一方の面上に形成され、光入射面として機能する。赤外線反射層14は、可視光線を透過するとともに、赤外線を反射するよう構成される。赤外線反射層14は、屈折率の異なる誘電体を多層に積み上げた誘電体多層膜から形成されてよい。誘電体多層膜は、各層の屈折率および層厚を制御することにより、分光透過率特性等の光学特性を自由に設計することができる。赤外線反射層14は、例えば、屈折率の異なる酸化チタン(TiO2)層と酸化シリコン(SiO2)層とを透明誘電体基板12上に交互に蒸着したものであってよい。誘電体多層膜の材料としては、TiO2とSiO2以外にも、MgF2やAl2O3、MgO、ZrO2、Nb2O5、Ta2O5等の誘電体も使用できる。
赤外線吸収層16は、上述したように透明誘電体基板12の他方の面上に形成され、光出射面として機能する。赤外線吸収層16は、可視光線を透過するとともに、赤外線を吸収するよう構成される。赤外線カットフィルタ10へ入射した光は、赤外線反射層14および透明誘電体基板12を透過した後、赤外線吸収層16に入射するので、赤外線吸収層16は、赤外線反射層14および透明誘電体基板12で遮断されなかった赤外線を吸収することになる。
赤外線吸収層16は、赤外線吸収色素を含有する樹脂を透明誘電体基板12に成膜することにより形成されてよい。赤外線吸収層16は、樹脂マトリックス中に適切な赤外線吸収色素を添加して溶解または分散させ、乾燥、硬化させることにより形成した固形のフィルムであってよい。赤外線吸収色素としては、アゾ系化合物、ジイモニウム化合物、ジチオール金属錯体系、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物などを使用でき、さらにこれらを組み合わせて使用してもよい。また、樹脂マトリックスとしては、溶解または分散させた赤外線吸収色素を保持し、且つ透明誘電体であることが要求され、ポリエステル、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリビニルブチラールなどを使用することができる。これらの樹脂マトリックスは安価であるため、コスト面からも好ましい。
次に、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10の作用について説明する。まず比較例に係る赤外線カットフィルタの作用について説明する。
図2は、第1比較例として、ガラス基板上に誘電体多層膜からなる赤外線反射層のみを形成した赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。また図3は、第2比較例としてガラス基板上に、赤外線吸収色素を含有する樹脂マトリックスからなる赤外線吸収層のみを形成した赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。
第1比較例に係る赤外線カットフィルタにおいては、図2に示すように誘電体多層膜の特徴である遮断特性の入射角依存性が見られる。図2において、実線は入射角が0°のときの分光透過率曲線を示し、破線は入射角が25°のときの分光透過率曲線を示し、一点鎖線は入射角が35°のときの分光透過率曲線を示す。透過率が50%となる波長をλRT50%とすると、入射角が0°のときはλRT50%=約655nmであるが、入射角が25°になるとλRT50%=約637nmであり、入射角が35°になるとλRT50%=約625nmである。このように、第1比較例に係る赤外線カットフィルタは、入射角が0°から35°に変化すると、λRT50%は約30nmも短波長側にシフトしている。
赤外線カットフィルタを撮像素子に適用した場合、通常、撮像素子の中央部には、赤外線カットフィルタへの入射角が小さい(例えば入射角0°などの)光が入射するが、一方、撮像素子の周辺部には、赤外線カットフィルタへの入射角が大きい(例えば入射角25°や35°の)光が入射する。従って、図2に示すような赤外線遮断特性を有する赤外線カットフィルタを撮像装置に適用した場合、撮像素子の受光面の位置によって、撮像素子に入射する光の分光透過率曲線特性(特に波長650nm付近の分光特性)が異なることとなる。これは、画像中央部と周辺部とで色味が異なる現象を生じさせ、色再現性に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、第2比較例に係る赤外線カットフィルタにおいては、第1比較例に係る赤外線カットフィルタとは異なり、遮断特性の入射角依存性は存在しない。しかしながら、図3に示すように、第2比較例に係る赤外線カットフィルタは、透過率が比較的高い領域から低い領域に変化する過渡領域における分光透過率曲線が緩やかに下降している。一般に、赤外線カットフィルタにおいては、色再現性に影響を及ぼさないよう波長600nmから700nm付近に、前記過渡領域を有し、この領域での透過率が急峻に変化すること(「シャープカット特性」と呼ばれる)が求められる。従って、第2比較例に係る赤外線カットフィルタでは、色味の再現性の制御を良好に実現することは困難である。
これらの比較例における欠点を考慮した上で、本発明者は、透明誘電体基板12の一方の面に赤外線反射層14を形成し、他方の面に赤外線吸収層16を形成することで、遮断特性の入射角依存性が少なく、且つ良好なシャープカット特性を実現できることを見出した。
図4は、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10の分光透過率曲線を示す。図4においても、実線は入射角が0°のときの分光透過率曲線を示し、破線は入射角が25°のときの分光透過率曲線を示し、一点鎖線は入射角35°のときの分光透過率曲線を示す。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10の特性は、赤外線反射層14の光学特性と赤外線吸収層16の光学特性の組合せによって決まる。ここで赤外線反射層単体において、入射角0°で透過率が50%となる波長をλRT50%(nm)とし、赤外線吸収層単体において透過率が50%となる波長をλAT50%(nm)とする。図4は、λAT50%=λRT50%―20nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも20nm短い場合の赤外線カットフィルタ10の分光透過率曲線を示している。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10の入射角0°で透過率が50%となる波長をλT50%(nm)とすると、図4に示すように、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10においては、入射角が0°のときはλT50%=約646nmであり、入射角が25°のときはλT50%=約645nmであり、入射角が35°のときはλT50%=約633nmである。このように本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は入射角が0°から35°に変化しても、λT50%は約13nmしか短波長側にシフトしておらず、λT50%の入射角依存性が、上述の第1比較例のλRT50%の入射角依存性よりも小さい。また図4を見ると、透過率が50%より高い領域では、入射角が変化しても分光透過率曲線に殆ど差はない。一方、透過率が50%より低い領域では、入射角が変化すると分光透過率曲線に差が現れる、しかしながら、透過率が50%より低い領域での分光透過率曲線の差は、色再現性に与える影響が小さいため、特に問題とはならない。
また図4に示すように、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、波長600nmから700nm付近に過渡領域を有し、この領域内で透過率が急峻に変化しており、良好なシャープカット特性を実現できることがわかる。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10の光学特性は、赤外線反射層14と赤外線吸収層16の組合せにより決まる。以下、赤外線反射層14および赤外線吸収層16それぞれの好ましい光学特性について説明する。
まず、赤外線反射層14の好適な光学特性について説明する。赤外線反射層14は、求められる性能上、少なくとも波長400nm〜600nmの帯域の可視光線を透過するとともに、少なくとも波長750nm超の赤外線を反射するように設計される。透過領域と反射領域との間の過渡領域において、分光透過率が50%となる波長をカットオフ波長λRT50%と定義する。撮像素子などの分光感度領域にも依存するが、赤外線反射層14のλRT50%は、赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%付近であって、好ましくはλAT50%<λRT50%であるように設定するのが好ましい。
また、赤外線反射層14は、可視領域の透過率ができるだけ高くなるよう設計される。画像を構成する上で必要な可視領域の光をできるだけ撮像素子の受光面に到達させるためである。一方、赤外線反射層14は、赤外線領域の透過率ができるだけ低くなるよう設計される。画像構成に寄与しないまたは有害な帯域の光線をできるだけ遮断するためである。赤外線反射層14は、例えば、少なくとも波長400nm〜600nmの帯域の可視領域において90%以上の平均分光透過率を有するとともに、少なくとも波長750nm超の赤外線領域において2%未満の分光透過率を有することが好ましい。
さらに、赤外線反射層14は、過渡領域において分光透過率が急峻に変化することが好ましい(「シャープカット特性」と呼ばれる)。シャープカット特性が失われて過渡領域が大きくなりすぎると、色味の再現性の制御が困難になるからである。過渡領域における透過率の急峻度をλRSLOPE=|λRT50%−λRT2%|と定義した場合(λRT2%は分光透過率が2%となる波長)、赤外線反射層14のλRSLOPEはできるだけ小さいことが好ましく、例えばλRSLOPEは70nm未満であることが好ましい。
図2に示す分光透過率曲線において入射角0°、25°、35°のいずれの場合も、可視領域における平均分光透過率は90%以上となっており、赤外線領域における平均分光透過率は2%未満となっている。さらに、図2に示す分光透過率曲線において、入射角0°、25°、35°のいずれの場合も、λRSLOPEは70nm未満となっている。従って、図2に示す分光透過率曲線を有する赤外線吸収層16は、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10に好適に適用できる。
次に、赤外線吸収層16の好適な光学特性について説明する。本実施形態において、赤外線吸収層16に求められる光学特性は、組み合わされる赤外線反射層14の光学特性に応じて変わる。
また、本実施形態においては、赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%が赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%よりも小さいこと、すなわち、λAT50%<λRT50%であることが好ましい。赤外線吸収層16がこの条件を満たすことで、赤外線カットフィルタ10の赤外線遮断特性の入射角依存性、言い換えると、入射角が0°から35°に変化したときの赤外線カットフィルタ10のカットオフ波長λT50%のシフト量を小さくすることができる。
さらに、本実施形態においては、赤外線吸収層16の可視領域での平均透過率ができるだけ高いことが好ましい。赤外線吸収層16の平均透過率が低い場合、撮像素子に到達する光量が少なくなるからである。例えば、赤外線吸収層16の波長400nm〜600nmにおける平均透過率は、80%以上であることが好ましい。
本実施形態において、λRT2%より長波長の領域では赤外線吸収層16の分光透過率は不問である。この領域では、赤外線反射層14の分光透過率が非常に小さいので、赤外線カットフィルタ10全体としての透過率を低くすることができるからである。
また、本実施形態において、赤外線吸収層16の分光透過率曲線は、過渡領域(例えば600nm〜λRT2%)において、単調減少することが好ましい。赤外線反射層14との合成による赤外線カットフィルタ10のカットオフ波長λT50%の目安を得やすい事、設定が容易且つ自在に行えるという利点と、色再現性の制御が容易であるという利点が得られるからである。
以下、上記の好適な条件を全て満たす赤外線反射膜と赤外線吸収層を用いた赤外線カットフィルタの実施例を、第1〜第3実施例として示すとともに、赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%と赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%との関係の詳細な検討を行った。
図5は、第1〜第3実施例に用いた赤外線吸収層の組成を示す。第1実施例で用いた赤外線吸収層は、以下のような手順で形成した。まず、溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)を用い、日本化薬社製KAYASORB CY−10(シアニン系化合物)を0.002/0.807=0.25wt%、ハッコールケミカル社製NIA−7200H(アゾ化合物)を0.001/0.807=0.12wt%、日本化薬社製KAYASORB IRG−022(ジイモニウム化合物)を0.003/0.807=0.37wt%を0.055gのPVB(ポリビニルブチラール)に添加する。調合後10〜15分撹拌する。この液をガラス基板の一方の面上に、フローコート法により均一に塗布し2時間放置し十分乾燥させる。当該ガラス板を140℃で20分加熱し、赤外線吸収層を形成した。第2実施例および第3実施例で用いた赤外線吸収層もまた、図5に示す色素を用いて同様の手順で形成した。このように形成された赤外線吸収膜単体の分光透過率曲線を図21、図22、図23に示す。第1〜第3実施例における波長400nm〜600nmの平均透過率はそれぞれ、80.4%および80.6%、80.7%である。さらに波長600nmより長波長の領域においては、単調減少傾向にある。図20〜図23に示すように、赤外線吸収膜の分光透過率曲線は、波長600nm以上において、波長700nm〜800nm(第1実施例:図20参照)、場合によっては波長700nm〜750nm(第2および第3実施例:図22および図23参照)に透過率の極小値を有する。
赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%と赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%のより好適な条件について説明する。図6(a)〜図6(m)は、第1実施例におけるλAT50%とλRT50%との差を10nmずつ変化させたときの赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図7(a)〜図7(m)は、第2実施例におけるλAT50%とλRT50%との差を10nmずつ変化させたときの赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図8(a)〜図8(m)は、第3実施例におけるλAT50%とλRT50%との差を10nmずつ変化させたときの赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(a)〜(m)、図7(a)〜(m)、図8(a)〜(m)において、実線は入射角が0°のときの分光透過率曲線を示し、破線は入射角が25°のときの分光透過率曲線を示し、一点鎖線は入射角が35°のときの分光透過率曲線を示す。なおいずれの実施例の場合においても、図20のように、赤外線吸収層16のλAT50%を固定とし、赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%を変化させることによって、λAT50%とλRT50%との差を設定した。赤外線反射層14は誘電体多層膜によって形成されているため、その膜厚や層数を調整することによって、過渡領域の変化を容易に実現することができる。図20では第1実施例に係る赤外線反射層の分光透過率曲線の変化の様子を示したが、第2実施例、第3実施例に係る赤外線反射層についても同様に分光透過率曲線を変化させることができる。
図6(a)、図7(a)、図8(a)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=60nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも60nm長い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(b)、図7(b)、図8(b)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=50nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも50nm長い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(c)、図7(c)、図8(c)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=40nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも40nm長い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(d)、図7(d)、図8(d)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=30nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも30nm長い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(e)、図7(e)、図8(e)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=20nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも20nm長い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(f)、図7(f)、図8(f)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=10nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも10nm長い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(g)、図7(g)、図8(g)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=0nm、すなわちλAT50%とλRT50%が等しい場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(h)、図7(h)、図8(h)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=−10nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも10nm短い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(i)、図7(i)、図8(i)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=−20nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも20nm短い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(j)、図7(j)、図8(j)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=−30nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも30nm短い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(k)、図7(k)、図8(k)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=−40nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも40nm短い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(l)、図7(l)、図8(l)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=−50nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも50nm短い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。図6(m)、図7(m)、図8(m)は、それぞれ第1〜第3実施例におけるλAT50%−λRT50%=−60nm、すなわちλAT50%がλRT50%よりも60nm短い場合の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す。また、図6(a)〜(m)の分光透過率曲線(第1実施例)、図7(a)〜(m)に示す分光透過率曲線(第2実施例)、図8(a)〜(m)に示す分光透過率曲線(第3実施例)の主要なパラメータを、それぞれ図9、図10、図11に示す。
図6(a)〜(m)、図7(a)〜(m)、図8(a)〜(m)に示す分光透過率曲線を評価するにあたり、本発明者は、赤外線カットフィルタにおいて、基本的に求められる特性(以下「基本特性」と呼ぶ)として、以下の(1)および(2)を設定した。
(1)波長400nm〜600nmにおける平均透過率Tave>70%
(2)λSLOPE=|λT50%−λT2%|<70nm(シャープカット特性)
上記(1)に示す平均透過率Taveの基本特性に関しては、図8(a)に示すλAT50%−λRT50%=60nmの場合の分光透過率曲線はこの要求特性を満たしていないが、図6(a)〜(m)および図7(a)〜(m)、図8(b)〜(m)に示す分光透過率曲線はこの基本特性を満たしている。
図12(a)、図13(a)、図14(a)は、それぞれ第1〜第3実施例における赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%と赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%の差λAT50%−λRT50%と、分光透過率曲線の過渡領域の急峻度λSLOPE=|λT50%−λT2%|との関係を示す。上述したように、赤外線カットフィルタにおいては、分光透過率曲線の過渡領域の急峻度(シャープカット特性)はできるだけ小さいことが好ましく、上記の基本特性(2)から70nm未満であることが望ましい。従って図12(a)、図13(a)、図14(a)より、−50≦λAT50%−λRT50%であることが望ましい。
さらに、本発明者は、本願の主課題であるところの、赤外線遮断特性の入射角依存性を向上させるための特性として、以下の(3)を設定した。入射角が0°から35°に変化したときのカットオフ波長λT50%のシフト量をΔλT50%として、
(3)ΔλT50%<25nm
図12(b)、図13(b)、図14(b)は、それぞれ第1〜第3実施例における赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%と赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%の差λAT50%−λRT50%と、入射角が0°から35°に変化したときのカットオフ波長λT50%のシフト量ΔλT50%との関係を示す。上記の要求特性(3)からΔλT50%は25nm未満であることが望ましい。従って、図12(b)、図13(b)、図14(b)より、λAT50%−λRT50%≦−10nmであることが望ましい。
以上の考察から、赤外線吸収層16のカットオフ波長λAT50%と赤外線反射層14のカットオフ波長λRT50%の差は、以下の条件を満たすことが望ましい。
−50nm≦λAT50%−λRT50%≦−10nm
上記の要求特性を全て満足することにより、透過率や色味品質などの画質要因のバランスがとれた、良好な画像を取得できる。なお、上記の要求特性は一例であり、例えば撮像素子の特性に適合するように要求仕様を変更することも可能である。
赤外線カットフィルタへの光の入射角が35°のときのカットオフ波長λT50%は、λT50%−ΔλT50%として計算される。図9〜図11に示す第1〜第3実施例のパラメータに基づき、上記の条件(−50nm≦λAT50%−λRT50%≦−10nm)を満たすときの入射角35°におけるカットオフ波長λT50%を計算すると、λT50%=607nm〜647nmとなる(図11に示す第3実施例でλAT50%−λRT50%=−10nmのとき、630nm−23nm=607nm、図9に示す第1実施例でλAT50%−λRT50%=−50nmのとき、649−2=647nm)。従って、良好な画像を取得するために、赤外線カットフィルタへの光の入射角が35°のときのカットオフ波長λT50%は、607nm〜647nmであることが望ましい。
以上、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10について説明した。本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10によれば、透明誘電体基板12の一方の面に赤外線反射層14を形成し、他方の面に赤外線吸収層16を形成したことにより、入射角依存性が少ない良好な赤外線遮断特性を有する赤外線カットフィルタを提供できる。
また、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10においては、透明誘電体基板12として一般的なガラス基板を用いることができる。フツリン酸ガラスのような脆く、研磨などの加工がし難いガラスを使う必要がないので、一般的な研磨、切断等の加工が可能となり、その結果、薄型化など厚みの変更が容易である。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10では、赤外線反射層14の光学特性と赤外線吸収層16の光学特性の組合せにより、赤外線カットフィルタ10全体としての特性が決まる。赤外線反射層14の光学特性は、誘電体多層膜の層構造を調整することで容易に変更できる。また、赤外線吸収層16の光学特性は、樹脂マトリックス中に含まれる赤外線吸収色素の種類や濃度の調整や、赤外線吸収層の厚みの調整よりに容易に変更できる。一方、例えば赤外線吸収機能をもたせるためにフツリン酸ガラスを用いた場合、赤外線吸収特性の変更は、炉を使ったフツリン酸ガラスの溶融、フツリン酸ガラスの切断、厚み調整のためのフツリン酸ガラスの研磨などが必要となるため容易ではない。このように、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、赤外線カットフィルタ10の光学特性を容易に変更できるという点でも優れている。
図1に示す赤外線カットフィルタ10において、赤外線反射層14は、紫外線を反射するよう形成されてもよい。赤外線カットフィルタ10を誘電体多層膜で形成した場合、層構成を調整することにより、容易に赤外線カットフィルタ10に紫外線反射機能を組み込むことができる。撮像素子に設けられるカラーフィルタは、紫外線により寿命低下などの悪影響が生じる可能性がある。従って、撮像素子の手前に位置する赤外線反射層14において紫外線を除去することにより、そのような悪影響が生じる事態を回避できる。また、赤外線反射層14に紫外線反射機能を組み込んだ場合、樹脂マトリックスで形成された赤外線吸収層16に到達する前に紫外線を除去できるので、赤外線吸収層16の劣化を防止することができる。
図15は、本発明の別の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10を示す。図15に示す赤外線カットフィルタ10において、図1に示す赤外線カットフィルタと同一または対応する構成要素については同一の符号を付すとともに、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、赤外線吸収層16上に保護層18が形成されている点が、図1に示す赤外線カットフィルタと異なる。図15に示すように、保護層18は、赤外線吸収層16における透明誘電体基板12側の面と対向する面上に形成されている。本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10においては、保護層18から光が出射される。
赤外線吸収層16は、赤外線吸収色素を含んだ層であるため、有機成分を含む。そのため、耐擦傷性や耐湿度などが比較的弱い。従って、本実施形態のように赤外線吸収層16上に赤外線吸収層16とは異なる組成を有する保護層18を設けることにより、赤外線吸収層16を保護することができる。
保護層18は、例えばTEOS(テトラエトキシシラン)を主な原料とするゾルゲルハードコーティングであってよい。保護層18は、例えば(a)赤外線吸収層16上にハードコート剤を塗布する、(b)赤外線吸収層16上にゾルゲル膜をコーティングする、(c)赤外線吸収層16上にSiO2層などの誘電体膜を蒸着する、などの方法で形成できるが、これらに特に限定されない。
図15に示す赤外線カットフィルタ10において、保護層18は、可視光線の反射を防止するよう形成されてもよい。赤外線吸収層16より屈折率の低い材料を用いて赤外線吸収層16を被覆することにより、保護層18に可視光線の反射防止機能を持たせることができる。その結果、赤外線カットフィルタ10全体としての可視光線の透過率を向上できる。あるいは、保護層18として、誘電体多層膜からなる反射防止膜を赤外線吸収層16上に成膜してもよい。
図15に示す赤外線カットフィルタ10において、保護層18は、紫外線の透過を防止するよう形成されてもよい。この場合、光の出射面側から入射した紫外線が撮像素子に到達するのを阻止できるので、撮像素子に設けられるカラーフィルタの劣化を防止できる。
図16は、本発明のさらに別の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10を示す。図16に示す赤外線カットフィルタ10において、図1および図15に示す赤外線カットフィルタと同一または対応する構成要素については同一の符号を付すとともに、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、保護層18上に可視光の反射を防止する反射防止層20が形成されている点が、図15に示す赤外線カットフィルタと異なる。図16に示すように、反射防止層20は、保護層18における赤外線吸収層16側の面と対向する面上に形成されている。本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10においては、反射防止層20から光が出射される。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10のように、保護層18上に反射防止層20を形成した場合も、赤外線カットフィルタ10全体としての可視光線の透過率を向上できる。
図16に示す赤外線カットフィルタ10において、反射防止層20は、紫外線の透過を防止するよう形成されてもよい。この場合、光の出射面側から入射した紫外線が撮像素子に到達するのを阻止できるので、撮像素子に設けられるカラーフィルタの劣化を防止できる。
図17は、本発明のさらに別の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10を示す。図17に示す赤外線カットフィルタ10において、図1に示す赤外線カットフィルタと同一または対応する構成要素については同一の符号を付すとともに、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、透明誘電体基板12と赤外線吸収層16との間にプライマ層22が形成されている点が、図1に示す赤外線カットフィルタと異なる。透明誘電体基板12と赤外線吸収層16との間にプライマ層22を形成することにより、透明誘電体基板12と赤外線吸収層16の密着性を向上でき、赤外線カットフィルタ10の耐環境性を向上できる。
図18は、本発明のさらに別の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10を示す。図18に示す赤外線カットフィルタ10において、図1に示す赤外線カットフィルタと同一または対応する構成要素については同一の符号を付すとともに、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、赤外線反射層14が反っている点が図1に示す赤外線カットフィルタと異なる。赤外線反射層14は、透明誘電体基板12側の面と対向する面が凸面となるように反っている。また本実施形態では、赤外線反射層14の反りに伴い、透明誘電体基板12および赤外線吸収層16も反っている。
上述したように、赤外線カットフィルタ10を撮像装置に用いる場合、赤外線反射層14が撮像レンズに対向し、赤外線吸収層16が撮像素子に対向するように実装される。しかしながら、赤外線カットフィルタ10は非常に薄く、小さいため、赤外線反射層14と赤外線吸収層16とを見分けるのは容易ではない。そこで、本実施形態のように、赤外線反射層14を反らせることにより、目視でどちらの面が赤外線反射層14であるかを判別できる。誘電体多層膜を透明誘電体基板12上に蒸着する際に膜面の応力を制御することにより、光学特性に影響を与えない範囲で赤外線反射層14の反り具合を調整できる。
図19は、本発明の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10を用いた撮像装置100を説明するための図である。図19に示すように、撮像装置100は、撮像レンズ102と、赤外線カットフィルタ10と、撮像素子104とを備える。撮像素子104は、CCDやCMOSなどの半導体固体撮像素子であってよい。図19に示すように、赤外線カットフィルタ10は、撮像レンズ102と撮像素子104の間に、赤外線反射層14が撮像レンズ102に対向し、赤外線吸収層16が撮像素子104に対向するように設けられる。
図19に示すように、被写体からの光は、撮像レンズ102により集光され、赤外線カットフィルタ10により赤外線を除去された後、撮像素子104に入射する。図19に示すように、赤外線カットフィルタ10には撮像レンズ102から様々な入射角で光が入射するが、本実施形態に係る赤外線カットフィルタ10を用いることにより入射角によらず赤外線を好適に遮断できるため、色再現性の高い良好な画像を撮像できる。
上記説明においては、赤外線カットフィルタ10を撮像装置に適用した実施形態について説明したが、上述の実施形態に係る赤外線カットフィルタ10は、他の用途にも適用できる。例えば、赤外線カットフィルタ10は、例えば自動車のウインドシールドガラスやサイドウインドウ、建築用ガラスなどの熱線遮断フィルムとして用いることができる。また、赤外線カットフィルタ10は、PDP(Plasma Display Panel)用の近赤外線カットフィルタとしても用いることができる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。