以下、本発明に係るエンファシス付加装置、エンファシス付加方法及び誤り率測定装置の実施形態について添付図面を用いて詳細に説明する。
本発明に係るエンファシス付加装置、及びエンファシス付加方法は、例えば、既知パターン(矩形波)の試験用信号(テスト信号)を伝送路経由で被試験対象物に送出し、このテスト信号が入力された被試験対象物が送信する信号を被測定信号として受信し、該被測定信号のビット誤り率(BER:Bit Error Rate)を被試験対象物に入力したテスト信号とのビット比較によって測定する誤り率測定装置(図1、図12参照)、及びこれに含まれるパターン発生部としてのPPG(Pulse Pattern Generator)モジュールに適用可能である。
このような誤り率測定装置、及びPPGモジュールについては、被試験対象物に入力するテスト信号として、NRZ(Non Return to Zero)信号を扱うもの(図1参照)の他、例えば、PAM(パルス振幅変調:Pulse-Amplitude Modulation)信号を扱うもの(図12参照)であってもよい。
本発明に係るエンファシス付加装置、エンファシス付加方法は、例えば、誤り率測定装置のPPGモジュールにより生成されて伝送路へ送出前のパルスパターンを入力し、該パルスパターンに対し、所定ビット数のエンファシス付加対象ビットごとに上記伝送路での信号の減衰を補償するためのエンファシスを付加することを前提とし、特に、エンファシスの各タップのパラメータの値を自動で算出して調整するエンファシス調整制御機能を有するものである。このエンファシス調整制御機能については、後で詳述するように、エンファシスの付加対象となるパルスパターンの理想とする波形、つまり、上記信号の減衰がないときの波形との相関を指標とするコスト関数を設定し、そのコスト関数と確率的勾配降下法を用いて、エンファシスの各タップのパラメータの値を、パルスパターンの測定波形がコスト関数に追従するように追い込む処理を行うことで実現している。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る誤り率測定装置1の構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、PPGモジュール2、ED(Error Detector)モジュール3、操作部4、記憶部5、表示部6、制御部7を備えている。
PPGモジュール2は、被試験対象物(以下、被試験デバイスW)にテスト信号として例えばNRZ信号を送信するものであり、図1に示すように、パターン発生部21、エンファシス波形成形部23を含んで構成される。PPGモジュール2は、テスト信号を例えばケーブルで構成された伝送路27へ出力するためのデータ出力端子(Data Out)と、外部機器から信号を入力するための外部入力端子(Ext In)を有している。
パターン発生部21は、予めユーザにより設定された測定パターンに基づくパルスパターン信号を発生する。パターン発生部21は、例えば、所定周期の基準クロック(図4(a)参照)に同期して、矩形波である擬似ランダム信号(図4(b)参照)を発生し、該擬似ランダム信号をエンファシス波形成形部23に出力する。この擬似ランダム信号は、例えば、基準クロックの1クロックに対応する部分が1ビットに相当している。
エンファシス波形成形部23は、パターン発生部21が発生する擬似ランダム信号(パルスパターン:(図5(a)参照)を入力し、伝送路27での信号の減衰を補償するためのエンファシスを付加した波形に成形する処理を行う。
エンファシス波形成形部23は、例えば、図2に示すように、パターン発生部21から入力するパルスパターンを順次1ビットずつ遅延させて出力するn段(この例では、3段)の遅延回路24a、24b、24cと、入力パルスパターン、及び遅延回路24a、24b、24cの各出力をそれぞれ取込み、増幅して出力するn+1個(この例では、4個)の可変利得増幅器25a、25b、25c、25dと、可変利得増幅器25a、25b、25c、25dの出力を加算する加算器26と、を有している。エンファシス波形成形部23としては、例えば、周知のFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いることができる。
エンファシス波形成形部23において、遅延回路24a、24b、24cは、例えば、D端子及びCK端子の2つの入力端子と、1つの出力端子(Q端子)を有するDフリップフロップで構成され、それぞれ、CK端子に入力するクロックが1になったときに、D端子に入力された値と同一の値がQ端子から出力されるようになっている。
可変利得増幅器25a、25b、25c、25dは、パルスパターン、及び遅延回路24a、24b、24cの各出力をそれぞれ増幅して加算器26に出力するものであり、それぞれの利得(ゲイン)を可変できる構成となっている。可変利得増幅器25a、25b、25c、25dのゲインは、エンファシス調整制御部7cが制御対象とする各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(図2参照)の値に相当する。
EDモジュール3は、パターン発生部21で生成され、エンファシス波形成形部23で波形成形されたパルスパターン(テスト信号)が入力された被試験デバイスWが送出するNRZ信号を被測定信号として受信してBER測定を行うものであり、A/D変換部30、ビットエラー測定部34を含んで構成される。EDモジュール3は、被測定信号を入力するデータ入力端子(Data In)を有している。
A/D変換部30は、被試験デバイスWから受信されてデータ入力端子より入力された被測定信号を所定のサンプリング周期でAD値(10進数)に変換し、該AD値をビットエラー測定部34に入力する。
ビットエラー測定部34は、既知のパルスパターンを参照信号(参照パターンデータ)として保持し、A/D変換部30から入力されるAD値と参照信号とをシンボルごとに比較することにより、被測定信号のレベルが参照信号のレベルと相違するビットエラーを測定する。
操作部4は、例えば操作ノブ、各種キー、スイッチ、ボタンや表示部6の表示画面上のソフトキーなどで構成される。操作部4は、EDモジュール3の指定、測定パターンの選択、測定時間の設定、BER測定の開始・終了の指示などBER測定に関わる各種設定を行う際にユーザにより操作される。
記憶部5は、パターン情報記憶部5aを有する。操作部4にて設定される測定パターンのパルスパターン信号を発生するため、パターン情報記憶部5aには、パターン発生部21が発生するパターン信号のパターンファイルを測定パターンと対応付けして記憶されている。また、記憶部5は、制御部7に備わるパターン発生制御、エンファシス調整制御、被試験デバイスWから受信されたパルスパターンの信号測定、BER測定、表示制御などの各種制御機能を実行するための処理プログラム、BER測定に関する各種設定値、測定結果なども記憶する。
表示部6は、例えば液晶表示器などで構成され、BER測定に関わる設定画面や、エンファシス調整制御や信号測定に係るUI画面、BER測定結果などを表示する。
制御部7は、PPGモジュール2、EDモジュール3、操作部4、記憶部5、表示部6を統括制御するものであり、例えば、図3に示すように、パターン発生制御部7a、エンファシス調整制御部7c、測定機能部7f、ビットエラー測定制御部7g、表示制御部7hを有している。
パターン発生制御部7aは、操作部4での所定の設定操作に基づいて測定パターンの選択、測定時間の設定、BER測定の開始・終了の指示などBER測定に関わる各種設定を行うパターン設定部7bを含み、該パターン設定部7bでの設定に基づいてパターン発生部21でパルスパターンを発生させる制御を行う。
エンファシス調整制御部7cは、パターン発生部21が発生したパルスパターンにエンファシスを付加するための動作が実行されるようにエンファシス波形成形部23を制御する。
エンファシス調整制御部7cは、傾き算出部7d1、更新処理部7d2、追い込み処理部7d3を備えている。傾き算出部7d1は、エンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとに現在の値を一定のステップ幅(Δh)で上下それぞれの値に移動させたときのパルスパターンの測定結果に基づき、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとに、上の値と下の値の間(2×Δh)を移動したときのコスト関数の傾きをそれぞれ算出する傾き算出処理を行う。
更新処理部7d2は、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとに、傾き算出部71dで算出したコスト関数の傾きから該コスト関数の傾きに学習率を乗算した値を減算することにより現在の値をそれぞれ更新する更新処理を行う。
追い込み処理部7d3は、エンファシス付加のパルスパターンの測定、上述の傾き算出処理及び更新処理を複数回繰り返し実行させ、パルスパターンの測定結果が、設定されたコスト関数に追従するように、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3を追い込む追い込み処理を行う。
測定機能部7fは、エンファシス波形成形部23が出力したパルスパターンを入力し、該パルスパターンの測定を行う。測定機能部7fは、例えば、後述するオシロスコープ8に準じた信号の測定機能を有する。測定機能部7fでの被測定信号の測定結果は、例えば、エンファシス調整制御部7cの傾き算出部7d1による傾き算出処理のために参照することができるようになっている。
ビットエラー測定制御部7gは、A/D変換部30から入力されるAD値と参照信号とのシンボルごとの比較結果に基づいてビットエラーを測定するための動作が実行されるようにビットエラー測定部34を制御する。
表示制御部7hは、各種情報を表示部6に表示する表示制御を行う。本実施形態において、表示制御部7hは、例えば、パターン設定部7bでの測定パターンの選択、測定時間の設定に用いる設定画面、BER測定に関わる設定画面、エンファシス調整制御や信号測定に係るUI画面等を表示部6に表示させるように制御する。
なお、誤り率測定装置1の記憶部5には、パターン情報記憶部5aが設けられ、パターン発生部21が発生するパターン信号のパターンファイルと測定パターンとが対応付けられて記憶されている。
次に、誤り率測定装置1の動作について説明する。誤り率測定装置1では、BER測定を行う場合、PPGモジュール2から被試験デバイスWに対し伝送路27を介して既知パターンのテスト信号(NRZ信号)を送出する。次いで、このテスト信号が入力された被試験デバイスWが送信する信号(NRZ信号)をEDモジュール3が被測定信号として受信する。その後、EDモジュール3は、被測定信号をA/D変換処理してビットエラー測定部34に入力し、該ビットエラー測定部34がA/D変換後の被測定信号のビット誤り率(BER)を、被試験デバイスWに入力したテスト信号とのビット比較によって測定する。
このBER測定に係る処理動作は周知であるため、以下においては、その詳しい説明は割愛し、本実施形態に係る誤り率測定装置1が特徴とするところのエンファシス調整制御機能に係る動作を主体に説明する。
誤り率測定装置1は、エンファシス調整制御機能として、エンファシス調整制御部7c、及びエンファシス波形成形部23を有している。エンファシス調整制御部7c、及びエンファシス波形成形部23は、エンファシス付加装置10を構成する。
まず、エンファシス付加装置10におけるエンファシス付加動作について説明する。エンファシス付加装置10において、エンファシス波形成形部23は、パターン発生部21から入力される擬似ランダム信号(パルスパターン:(図5(a)参照)を、エンファシス調整制御部7cの制御下で、遅延回路24a、24b、24cによって順次1ビットずつ遅延させて出力させる一方で、遅延されていないビット、及び各遅延回路24a、24b、24cでそれぞれ遅延されたビットを可変利得増幅器25a、25b、25c、25dに入力する。可変利得増幅器25a、25b、25c、25dは、それぞれの入力を、設定されているゲインで増幅して加算器26に出力する。さらに加算器26は、可変利得増幅器25a、25b、25c、25dで増幅されたパルスパターンを基準クロックの周期で加算(合成)し、PPGモジュール2のデータ出力端子(Data Out)より伝送路27へと出力する。
このエンファシス波形成形部23の動作において、可変利得増幅器25a、25b、25c、25dからの出力される信号は、それぞれ、1クロック分時間がずれて加算器26に入力されることになる。この1クロックは、パターン発生部21から入力されてくる一連のパルスパターンのパルス列の1ビットに対応する時間となっている。これにより、エンファシス波形成形部23では、パターン発生部21からのパルスパターンの入力に対して、例えば、図5(b)に示すように、所定のビット数のエンファシス付加対象ビット(この例では、4ビット)ごとに、伝送路27での信号の減衰を補償するための振幅値を、各ビットのエンファシスとして付加して出力することが可能となる。
ここで付加されるエンファシスのレベル(振幅値)は、可変利得増幅器25a、25b、25c、25dの各ゲインに対応する値である。図2に示すエンファシス波形成形部23の構成において、符号A0、A1、A2、A3は、可変利得増幅器25a、25b、25c、25dのゲイン、すなわち、エンファシスの各タップのパラメータをそれぞれ示している。パラメータA0、A1、A2、A3に隣接してかっこ書きで示す数値は、エンファシス調整制御を行う際のそれぞれの初期値を示している。エンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3は、例えば、図5(b)に示すように、Pre1、Pre2、メインタップ、Post1と称することもある。
上述した各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値に対応する振幅値を有するエンファシスがエンファシス付加対象ビットごとに付加されたパルスパターン(図5(b)参照)によれば、その後、伝送路27での伝送中に信号の減衰を生じて被試験デバイスWに受信されたとしても、例えば、図5(c)に示すように、立ち上がりのビットと立ち下がりのビットともに矩形の波形を維持した波形となる。
これに対し、エンファシスが付加されない場合は、パターン発生部21からの入力時点で一連のパルスパターンが図5(a)に示すような矩形波であったとしても、このパルスパターンが伝送路27での伝送中に信号の減衰が生じ、例えば、図5(d)に示すように、立ち上がビット及び立下りビットがそれぞれ正しい矩形波に対して鈍った波形のパルスパターンとして被試験デバイスWに受信されることとなる。このような波形を有するパルスパターンに基づくEDモジュール3での正確なBER測定は期待できない。同様に、例えば、図5(b)に示すエンファシスの付加レベル(振幅値)が適正なレベルでない場合にも正確なBER測定結果が得られないことになる。
図6は、PPGモジュール2から出力されるパルスパターン(NRZ信号)の測定波形、いわゆるアイパターンEpの例を示している。図6において、(a)は、エンファシス波形成形部23でのエンファシス付加処理によって、例えば、図5(b)に示すような波形成形が施されたパルスパターンのアイパターンEpの例を示し、(b)は、エンファシス付加処理が行われなかったパルスパターンのアイパターンEpの例を示している。
図6(b)に示すように、エンファシス付加処理が行われなかったパルスパターンのアイパターンEpは、アイ開口部Ep1の領域が狭く、アイ開口部Ep1を取り囲む各信号の測定結果も太い線となって現れている。これは、当該パルスパターンが、伝送路27の伝送中に信号の減衰が生じ、例えば、図5(d)に示すような鈍った波形となったことを反映しているものと認められる。
これに対し、エンファシス付加処理が行われたパルスパターンのアイパターンEpは、図6(a)に示すように、エンファシス付加処理が行われなかったパルスパターンに比べてアイ開口部Ep1の領域が広く、アイ開口部Ep1を取り囲む各信号の測定結果も比較的細い線となって現れている。これは、当該パルスパターンEpが、伝送路27の伝送中の信号の減衰に対して、例えば、図5(c)に示す矩形波形が維持された結果を反映したものと認められる。
図6に示すアイパターンEpの形状からも分かるように、誤り率測定装置1のPPGモジュール2が出力するパルスパターンのアイパターンEpは、伝送路27での信号の減衰が小さいほど、アイ開口部Ep1の領域が広く、しかもアイ開口部Ep1を取り囲む各信号が細い線となって現れる。
このため、PPGモジュール2が出力するパルスパターンに対するエンファシス付加処理においては、アイ開口部Ep1の領域ができるだけ広く、アイ開口部Ep1を取り囲む各信号ができるだけ細い線となって現れるアイパターンEpとすることが望まれる。つまり、エンファシス付加後のパルスパターンは、理想的には、図6に示すアイパターンEpにおいて、アイハイト(Eye Hight)とアイアンプリチュード(Eye Amplitude)が一致するような状態にアイ開口部Ep1が開き、かつ、アイ開口部Ep1を取り囲む各信号がそれぞれ1本の線として現れる波形であることが理解できる。
そこで、この誤り率測定装置1では、上述した理想とするアイパターン(波形)を目指してエンファシスの付加レベルを調整制御すべく、確率的勾配降下法の概念を取り入れ、エンファシスの付加対象となるパルスパターンの理想とする波形をコスト関数として設定し、該コスト関数と確率的勾配降下法を用いて、パルスパターンの測定波形がコスト関数に追従するようにエンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値を追い込む処理を行うようにしている。
図7は、本実施形態に係る誤り率測定装置1におけるエンファシス調整制御手順を示すフローチャートであり、特に、PPGモジュール2から送出するパルスパターンを測定する測定系を用いてエンファシスを自動調整する場合の例を示している。図8は、図7のステップS4での追い込み処理の詳細動作を示すフローチャートである。
ここではまず、測定系の構成について説明する。測定系は、例えば、図9に示すように、誤り率測定装置1にオシロスコープ8、及びシンセサイザ9を接続した構成を有する。オシロスコープ8、及びシンセサイザ9は、それぞれ、周知の信号測定機能、基準クロック生成機能を有する既存機器が用いられる。オシロスコープ8は、データ入力端子(Data IN)が、誤り率測定装置1のPPGモジュール2のデータ出力端子(Data Out)に接続されている。シンセサイザ9は、その基準クロック出力端子(Ck Out)が、PPGモジュール2の外部入力端子(Ext In)、及びオシロスコープ8の外部入力端子(Ext In)に接続されている。
この測定系では、シンセサイザ9から出力される基準クロック(図4(a)参照)が誤り率測定装置1のPPGモジュール2、及びオシロスコープ8にそれぞれ入力される。誤り率測定装置1において、PPGモジュール2では、パターン発生部21が、シンセサイザ9から入力する基準クロックに同期して測定対象のパルスパターン(図4(b)参照)を出力する。オシロスコープ8は、シンセサイザ9から入力する基準クロックに同期して、パターン発生部21が出力したパルスパターンの測定を行う。なお、オシロスコープ8には、図示しないPC(パーソナルコンピュータ)が接続されており、該PC(以下、制御PCという)が、オシロスコープ8によるエンファシス付加後のパルスパターンの測定結果に基づき、コスト関数と、確率的勾配降下法と、を用いて、エンファシス付加対象ビットにそれぞれ対応するエンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値を算出するための演算を行うようになっている。
上述した構成を有する測定系を用いてエンファシスの調整を行う場合、図7に示すフローチャートに沿ってエンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値を自動設定するために必要な設定を行う。具体的にはまず、誤り率測定装置1においてコスト関数を設定する(ステップS1)。本実施形態では、コスト関数として、例えば、図6に示すアイパターンEpの要素であるアイアンプリチュードとアイハイトに基づいて、例えば、下式(1)を満たすコスト関数(Cost)を設定する。このコスト関数(Cost)は、アイアンプリチュードとアイハイトが等しい、エンファシス付加後のパルスパターンに対応する理想的な波形(アイパターンEp)に相当する。
Cost=1/(Eye Amplitude÷Eye Hight) ・・・・ (1)
次いで、この測定系では、PPGモジュール2、オシロスコープ8、シンセサイザ9を対象にエンファシス調整制御動作を実行するために必要な設定を行う(ステップS2)。ここで、PPGモジュール2については、例えば、ビットレート、及び測定パターンを設定する。ビットレートとしては、例えば、64/60/56.1/53.1/40/32/28.1/26.6/16Gbaud(bps)等の値を設定可能である。また、測定パターンとしては、例えば、PRBS215-1,POS等のパターンを設定する。オシロスコープ8には、例えば、測定回数を設定する。シンセサイザ9には基準クロックの設定を行う。基準クロックは、例えば、8GHz〜168GHzまでの周波数と、振幅(例えば、6dBm)を設定する。
次に、この測定系では、ステップS2での設定に基づきPPGモジュール2、及びオシロスコープ8を駆動する。具体的に、この測定系では、エンファシス波形成形部23で波形成形され、PPGモジュール2の外部出力端子から出力されたパルスパターンを、オシロスコープ8にその入力端子から入力し、当該パルスパターンをオシロスコープ8によって測定する(ステップS3)。
引き続き、この測定系では、エンファシス付加後のパルスパターンのオシロスコープ8で測定した波形がコスト関数(Cost)に追従するように、エンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値を追い込む処理を行う(ステップS4)。具体的には、コスト関数(Cost)が設定値「1」に追従するように、エンファシス波形成形部23の可変利得増幅器25a、25b、25c、25dのゲイン(パラメータA0、A1、A2、A3)を追い込む処理を行う。
ここで、ステップS4における追い込み処理について、図8に示すフローチャートを参照して説明する。この追い込み処理においては、エンファシス付加後のパルスパターンの測定が不可欠である。このパルスパターンの測定は、誤り率測定装置1の測定機能部1においても可能ではあるが、ここでは特に、オシロスコープ8で測定するものとして説明する。
ステップS4での追い込み処理においてはまず、追い込みの対象である各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値の初期値を設定する(ステップS11)。具体的には、エンファシス波形成形部23の可変利得増幅器25a、25b、25c、25dのゲインの値を、例えば、A0=0、A1=0、A2=1、A3=0(図2、図5(b)参照)に設定する。各タップのパラメータとしては、A0、A1、A2、A3に代えてPre1/Pre2/Post1(図5(b)参照)を用い、これらの初期値を、それぞれ、例えば、Pre1=0、Pre2=0、Post1=0という値に設定する処理方法としてもよい。これら各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値は、例えば、オシロスコープ8に接続されている制御PCから誤り率測定装置1に対して遠隔制御により設定することができる。各パラメータA0、A1、A2、A3の設定(後述の移動の設定も同じ)は、例えば、制御PCから、誤り率測定装置1にパラメータA0、A1、A2、A3に対応して設けられるレジスタのアドレスを、設定しようとする値に対応して書き換えることで実行することができる。
次に、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値の追い込み回数nを設定する(ステップS12)。追い込み回数nは、エンファシス付加対象のパルスパターンのアイパターンをコスト関数(Cost)に充分に近づけ得るような回数が必要であり、例えば、n=50に設定してもよい。追い込み回数の設定も、例えば、制御PCにより行うことができる。
引き続き、制御PCでは、エンファシス付加後のパルスパターンのオシロスコープ8での測定結果(ステップS3参照)を取り込み、この測定結果に基づいて、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きSを算出する処理を実行する(ステップS13)。
図10は、ステップS11ないしS16の追い込み処理(図7におけるステップS4)に適用される確率的勾配降下法に基づくコスト関数の傾き算出方法を説明するための二次元座標系を示している。図10において、(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3それぞれのコスト関数の傾きを算出する場合の例を示している。図10における(a)、(b)、(c)、(d)の各図において、縦軸がコストを示し、横軸が各パラメータA0、A1、A2、A3の値を示している。横軸上の「0」は当該パラメータを上下それぞれの値に移動させる際の基準値(現在値)であり、その両側の「−0.01」、又は「+0.01」は、現在値からの移動ステップ幅(Δh)を示している。この例では、上下に移動する移動ステップ幅の総合幅を0.02(0.01×2)としているが、移動ステップ幅はこの値に限るものではない。
制御PCは、ステップS13でのコスト関数の傾き算出処理において、図10(a)ないし(d)に示すように、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとに現在の値(現在値)を中心に一定のステップ幅(Δh)で上下それぞれの値に移動させ、総移動ステップ幅区間を移送させた時の各タップのパラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きS0、S1、S2、S3をそれぞれ算出する。
具体的に、図10(a)では、パラメータA0について、現在値(初期値=0)から上にΔh=0.01動かした値のときのコスト関数の値e1から、下にΔh=0.01動かした値のときのコスト関数の値e2を除算し、該除算結果をこのときの移動ステップの総合幅=0.02(0.01×2)で除算する演算により傾きS0を算出する例を示している。
同様に、図10(b)、(d)では、パラメータA1、A3について、現在値(初期値=0)から上にΔh=0.01動かした値のときのコスト関数の値e1から、下にΔh=0.01動かした値のときのコスト関数の値e2を除算し、該除算値を移動ステップの総合幅=0.02(0.01×2)で除算することにより傾きS1、S3を算出する例を示している。
また、図10(c)では、パラメータA2について、現在値(初期値=1)から上にΔh=0.01動かした値のときのコスト関数の値e1から、下にΔh=0.01動かした値のときのコスト関数の値e2を除算し、その値を移動ステップの総合幅=0.02(0.01×2)で除算することにより傾きS2を算出する例を示している。
ステップS13における各パラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きSの計算式は、下式(2)で表わすことができる。
S=Cost(P+Δh)−Cost(P−Δh)/(2×Δh) ・・・ (2)
ここで、Pは、各パラメータA0、A1、A2、A3(若しくは、Pre1、Pre2、Post1)の現在値である。また、移動ステップ幅Δhは、図10に示すような0.01の値に限らず、例えば、0.05とする設定であってもよい。
また、ステップS14における各パラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きの算出方法によれば、1つのパラメータのコスト関数の傾きSを算出するためには、それ以前に(図7のステップS13で)、パルスパターンを最低限2回測定する必要がある。このため、追い込み回数を例えば50回に設定し、4つのパラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きを算出する場合には、400(=2×4×50)回の測定は必要となる。
図10(a)、(c)によれば、パラメータA0、A2のコスト関数の傾きS0、S2から、目標とするコスト関数の真値、すなわち、コスト関数が設定値「1」となるパラメータA0、A2の値は、それぞれ矢印で示す方向(本座標系の右側方向)に存在することが分かる。逆に、図10(b)、(d)によれば、パラメータA1、A3のコスト関数の傾きS1、S3から、目標とするコスト関数の真値がそれぞれ矢印で示す方向(本座標系の左側方向)に存在することが推測できる。このことから、コスト関数の真値に辿り着くためには、各パラメータA0、A1、A2、A3の基準値を、その都度算出されたコスト関数の傾きS0、S1、S2、S3に対応する方向にそれぞれ移動させながら、コスト関数の傾き算出処理をさらに続行すればよいことが理解できる。
図8における追い込み処理において、制御PCは、ステップS13で各タップのパラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きS0、S1、S2、S3を算出するごとに、当該各パラメータA0、A1、A2、A3の現在値を、そのとき算出されたコスト関数の傾きS0、S1、S2、S3に対応する方向にそれぞれ移動させる処理、すなわち、パラメータA0、A1、A2、A3の更新処理を実施する(ステップS14)。
具体的に、ステップS14においては、ステップS13でのコスト関数の傾き算出処理により算出された各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとのコスト関数の傾きS0、S1、S2、S3にそれぞれ学習率kを乗算した値を、当該各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとの現在値から減算して基準値をそれぞれ更新する処理を行う。ここで学習率kは、1より小さい値であればよく、望ましくは、集束時間が長くならないように、例えば、0.5等の値が好ましい。
さらに図8における追い込み処理において、制御PCは、ステップS14での各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の更新処理の後、追い込み回数nを+1インクリメントし(ステップS15)、次いで、追い込み回数nが設定回数に達したか否かをチェックする(ステップS16)。
ここで、追い込み回数nが設定回数(例えば、50回)に達していない場合(ステップS16でNO)、制御PCは、ステップS13ないしS16の処理を繰り返し実施する。そして、この間、追い込み回数nが設定回数に達したと判定されると(ステップS16でYES)、図8における一連のパラメータ追い込み処理を終了し(ステップS18)、図7におけるステップS5へ移行する。
なお、ステップ16で追い込み回数が設定回数nに達したときに、エンファシス付加後のパルスパターンのアイパターンがコスト関数に一致するとは限らないが、上述した確率的勾配降下法で各タップのパラメータA0、A1、A2、A3を追い込んでいく処理によって、エンファシスの付加レベルの調整を、ユーザの熟練度に依存せずにしかも自動で行えるという得難いメリットが期待できる。
ステップS5に移行すると、図9に示す測定系では、誤り率測定装置1において、上記ステップS4(図8のステップS11ないしS16参照)の追い込み処理によって追い込んだ各タップのパラメータA0、A1、A2、A3の値に基づいてエンファシスを付加するエンファシス調整制御を行い、一連の処理を終了する。
具体的にステップ5では、エンファシス付加調整部7c1がエンファシス波形成形部23を制御し、エンファシス付加対象として入力するパルスパターンの各ビットを、可変利得増幅器25a、25b、25c、25dによって、ステップS4の追い込み処理により自動設定されたゲイン(パラメータA0、A1、A2、A3)でそれぞれ増幅し、各増幅出力を加算器26で加算してエンファシス調整後のパルスパターンとして出力させる。
上述したように、図9に示す測定系及び制御PCを用いたエンファシス調整制御(図7、図8参照)においては、図8におけるステップS11、S12、S13及びS14の処理を制御PCが実行し、これらの処理に必要なパルスパターンの測定(図7のステップS3)をオシロスコープ8で行っている。
このため、図7、図8に示すエンファシス調整制御機能は、制御PCの処理機能、及びオシロスコープ8の測定機能を誤り率測定装置1側にも設けることで、誤り率測定装置1単独でも実現可能である。誤り率測定装置1において、制御部7を構成するエンファシス調整制御部7c(図3参照)は、制御PCの処理機能を有するものであり、測定機能部7fはオシロスコープ8に準じた測定機能を有するものである。
すなわち、このエンファシス調整制御部7cにおいて、傾き算出部7d1は、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとに現在値から一定のステップ幅Δhで上下の値に移動させ、総移動ステップ幅(2×Δh)区間における各タップのパラメータA0、A1、A2、A3のコスト関数の傾きをそれぞれ算出する傾き算出処理を行う機能部である。
また、更新処理部7d2は、傾き算出処理により算出された各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとのコスト関数の傾きに対して学習率kを乗算した値を各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとの現在値から減算して現在値をそれぞれ更新する更新処理を行う機能部である。
また、追い込み処理部7d3は、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3ごとに上記更新処理により更新された現在値から一定のステップ幅Δhで上下の値に移動させつつ、傾き算出処理及び更新処理を繰り返して実施し、パルスパターンの測定波形がコスト関数に追従するように各タップのパラメータA0、A1、A2、A3を追い込む追い込み処理を行う機能部である。
また、この誤り率測定装置1において、測定機能部7fは、オシロスコープ8の全測定機能を有する必要はなく、エンファシス調整制御に対応可能な測定機能を有する構成であればよい。
(変形例)
本実施形態の上述した構成においては、エンファシスのパラメータを最適化するための確率的勾配降下法のアルゴリズムで用いるコスト関数を、アイパターンにおけるアイアンプリチュードとアイハイトとで定義した例(上記式(1)参照)を挙げているが、本発明に係るエンファシス波形成形処理で用いるコスト関数はこれに限られるものではない。
要は、本発明のエンファシス波形成形処理におけるパラメータの追い込み処理に係るコスト関数が、最終的に目指すべき波形を実現し得るもの、つまり、理想とする波形との相関関係を有する種々のパラメータを指標とするものであればよい。
本発明のエンファシス波形成形に係るコスト関数の変形例として、アイアンプリチュードとアイハイトに着目した上記実施形態に係るコスト関数に関連し、例えば、PPGモジュール2が発生するパルスパターンのアイパターンEp(図6参照)について、アイ開口部Ep1の面積の値をコスト関数とする方法が挙げられる。この場合、アイ開口部Ep1の幅(時間長)と高さ(振幅レベル)を測定し、その測定値に基づき、例えば、幅に高さを乗じた値をアイ開口部Ep1の面積としてもよい。
また、本発明のエンファシス波形成形に係るコスト関数の他の変形例として、例えば、PPGモジュール2から出力されるパルスパターンの理想とする波形と、その時間軸上に所定時間間隔で設定された振幅補正ポイントでのPPGモジュール2から実際に出力されるパルスパターンの波形との差分の合計値を用いる方法が挙げられる。
図11は、他の変形例に係るコスト関数とパルスパターンの測定波形の関係を示すタイミングチャートである。図11において、コスト関数とされるパルスパターンの波形(理想とする波形)を点線で示し、そのパルスパターンのオシロスコープ8(図9参照)による測定波形を実線で示している。また、図11において、P1、P2、P3、・・・は、所定の時間間隔で区切られた振幅補正ポイントを示している。
PPGモジュール2が発生したパルスパターンのオシロスコープ8での測定波形については、図11に示すように、各振幅補正ポイントP1、P2、P3、・・・において、コスト関数とされる波形に対する差分Ad(Ad1、Ad2、Ad3、・・・)を有することがある。
この場合、例えば、各振幅補正ポイントP1、P2、P3、・・・での差分Ad1、Ad2、Ad3、・・・の総計を振幅補正ポイント数で除算した値が最小(例えば、「0(零)」)となるようにエンファシスの各パラメータを最適化する方法が考えられる。この方法においても、例えば、オシロスコープ8の制御機能部によるエンファシスの各パラメータの最適化処理のアルゴリズムとして確率的勾配降下法を採用することができる。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る誤り率測定装置1Aは、図12に示すように、PPGモジュール2A、EDモジュール3A、操作部4A、記憶部5A、表示部6A、制御部7Aの各機能部を備えて構成されている。
誤り率測定装置1Aは、被試験デバイスWに対するテスト信号として振幅をシンボルごとに4以上のレベルに分けたパルス振幅変調(Pulse-Amplitude Modulation)方式による多値PAM信号を扱うものである。PAM信号を扱う伝送方式としては、例えば、PAM4信号を伝送するPAM4方式や、PAM8信号を伝送するPAM8方式等が知られている。このうち、PAM4方式は、情報信号の振幅をパルス信号の系列で符号化したパルス振幅変調(PAM)信号として、論理「0」及び「1」から構成されるビット列を、4つの電圧レベル又は光電力のパルス信号として変調して伝送する方式である。
本実施形態では、誤り率測定装置1Aがエンファシス付加対象のパルスパターンとしてPAM4信号を扱うものとして説明する。誤り率測定装置1Aが扱うPAM4信号は、振幅がシンボルごとに4種類に分けられ、例えば、図13、図14に示すように、4つの異なる振幅レベルL0、L1、L2、L3を有し、全体の振幅電圧範囲がベースライン(L0:0レベル)から低電圧範囲H1、中電圧範囲H2、高電圧範囲H3に分けられ、ベースライン(L0:0レベル)に対する振幅レベルの大きさが異なるUpper信号(高レベル信号)、Middle信号(中レベル信号)、Lower信号(低レベル信号)による3つのアイパターン開口部(Upper Eye、Middle Eye、Lower Eye)Ep11、EP12、Ep13が連続した振幅範囲の信号からなる。
PAM4伝送方式を採用した誤り率測定装置1A(図12参照)において、PPGモジュール2A、EDモジュール3A、操作部4A、記憶部5A、表示部6A、制御部7Aは、第1の実施形態に係る誤り率測定装置1のPPGモジュール2、EDモジュール3、操作部4、記憶部5、表示部6、制御部7にそれぞれ対応する機能部である。誤り率測定装置1Aの各機能部は、PAM4信号を扱い得る点でNRZ信号を扱う第1の実施形態に係る誤り率測定装置1(図1参照)の対応各機能部と異なるが、そのうち、特に、PPGモジュール2A、EDモジュール3A及び制御部7Aの構成が誤り率測定装置1の対応各部の構成と異なっている。
このため以下では、操作部4A、記憶部5A、表示部6Aについての詳しい説明は割愛し、PPGモジュール2A、EDモジュール3A及び制御部7Aの構成及び動作を主体に説明する。
図12に示す誤り率測定装置1の構成において、PPGモジュール2Aは、被試験デバイスWにテスト信号としてのPAM4信号を送信するものであり、第1パターン発生部21a、第2パターン発生部21b、パターン合成出力部22、エンファシス波形成形部23Aを含んで構成される。
第1パターン発生部21aと第2パターン発生部21bは、ユーザにより設定された測定パターンに基づくPAM4信号を生成するためのパターン信号を発生する。第1及び第2パターン発生部21a、21bが発生する具体的なパターン信号としては、例えばPRBS7(パターン長:27 −1)、PRBS9(パターン長:29 −1)、PRBS10(パターン長:210−1)、PRBS11(パターン長:211−1)、PRBS15(パターン長:215−1)、PRBS20(パターン長:220−1)等の各種疑似ランダムパターンや、PRBS13Q、PRQS10、SSPR等のPAMを評価するための評価用パターンがある。
パターン合成出力部22は、第1パターン発生部21aが発生するパターン信号と第2パターン発生部21bが発生するパターン信号とを合成し、被試験デバイスWに送信されるテスト信号として、操作部4Aでのユーザ操作により設定された測定パターンに基づくPAM4信号を出力する。具体的には、例えば、図17に示すように、第1パターン発生部21aは、最上位ビット列信号(Most Significant Bit:MSB)を含むPPG1に相当するパターン信号を発生し、第2パターン発生部21bは、最下位ビット列信号(Least Significant Bit:LSB)を含むPPG2に相当するパターン信号を発生する。そして、パターン合成出力部22は、これら2つのパターン信号を合成し、測定パターンに基づくPAM4信号を出力する。
エンファシス波形成形部23Aは、パターン合成出力部22が出力するPAM4信号を入力してエンファシスを付加する処理を行うものであり、図15に示すように、第1の実施形態に係る誤り率測定装置1のエンファシス波形成形部23(図2参照)と同様、FIRフィルタを採用した構成を有している。図15に示したエンファシス波形成形部23Aの構成において、エンファシスの各タップに相当する可変利得増幅器25a、25b、25c、25dの利得は、それぞれ、符号A01、A11、A21、A31で表わされている。エンファシス波形成形部23Aにおいても、第1の実施形態と同様、エンファシスのタップ数を4つとしているが、タップ数は4つに限られるものではない。エンファシス波形成形部23Aは、後述のエンファシス調整制御部7c1とともにエンファシス付加装置10Aを構成する。
EDモジュール3Aは、PPGモジュール2Aからのテスト信号が入力された被試験デバイスWが送出するPAM4信号を被測定信号として受信してBER測定を行うものであり、PAMデコーダ31A、ビットエラー測定部34Aを含んで構成される。
PAMデコーダ31Aは、0/1判定回路32及びデコード回路33を有している。PAMデコーダ31Aは、PAM4信号を被測定信号として0/1判定回路32に入力し、デコード回路33が、0/1判定回路32の判定結果に基づいて被測定信号のレベルをシンボルごとに検出することにより当該被測定信号を2値信号にデコードするものである。具体的に、PAMデコーダ31Aでは、例えば、図18に示すように、被測定信号であるPAM4信号を取り込みつつ、該PAM4信号からMSB及びLSBを復元するデコード処理を行う。
ビットエラー測定部34Aは、既知のパルスパターンを参照信号として保持し、PAMデコーダ31Aによりデコードされた2値信号と参照信号とをシンボルごとに比較することにより、被測定信号のレベルが参照信号のレベルと相違するビットエラーを測定するものである。
制御部7Aは、PPGモジュール2A、EDモジュール3A、操作部4A、記憶部5A、表示部6Aを統括制御するものであり、例えば、図16に示すように、パターン発生制御部7a1、エンファシス調整制御部7c1、測定機能部7f1、ビットエラー測定制御部7g1、表示制御部7h1を有している。これら各機能部は、PAM4信号を扱い得る点以外は第1の実施形態に係る誤り率測定装置1の制御部7におけるパターン発生制御部7a、エンファシス調整制御部7c、測定機能部7f、ビットエラー測定制御部7g、表示制御部7hと同等の構成を有する。特に、エンファシス調整制御部7c1は、誤り率測定装置1の制御部7が有する傾き算出部7d1、更新処理部7d2、追い込み処理部7d3に代えて、PAM4信号を対象に傾き算出処理、更新処理、追い込み処理を実施する、傾き算出部7e1、更新処理部7e2、追い込み処理部7e3を有している。
エンファシス調整制御部7c1は、傾き算出部7e1、更新処理部7e2、追い込み処理部7e3を統括的に制御し、PPGモジュール2Aからテスト信号として出力されるPAM4信号(パルスパターン)が理想とするアイパターン(波形)となるようにエンファシス波形成形部23Aにおけるエンファシスの付加レベルを調整する制御を行う。その際、エンファシス調整制御部7c1は、エンファシスの付加対象となるPAM4信号の理想とする波形(パルスパターン)をコスト関数として設定し、該コスト関数と確率的勾配降下法を用いて、パルスパターンの測定波形がコスト関数に追従するようにエンファシスの各タップのパラメータの値を追い込む処理を実施する。
ここで、PAM4信号をエンファシス付加対象とする場合における上記コスト関数としては、例えば、図14に示すPAM4信号のアイパターンEpにおいて、アッパーアイのアイ開口部Ep11、ミドルアイのアイ開口部Ep12、ロウワーアイのアイ開口部Ep13が、それぞれの振幅値(アイアンプリチュード)が、アッパーアイ、ミドルアイ、ロウワーアイそれぞれの振幅値(アイハイト)に一致するように開かれている波形を設定することができる。
なお、誤り率測定装置1AがPAM4信号を扱うことに関連して、記憶部5Aには、高電圧範囲H3の閾値電圧Vth1、中電圧範囲H2の閾値電圧Vth2、低電圧範囲H1の閾値電圧Vth3等の各種パラメータが記憶されている。パターン情報記憶部5a1には、第1及び第2パターン発生部21a、21bが発生するパターン信号のパターンファイルと測定パターンとが対応付けられて記憶されている。さらに記憶部5Aは、制御部7Aの各機能部を実現するための各処理プログラムを記憶している。制御部7Aは、それぞれの処理プログラムを実行することにより上記各機能部を実現している。
次に、誤り率測定装置1Aの動作について説明する。まず、BER測定動作について説明する。ここでは、PPGモジュール2Aから被試験デバイスWに既知パターンを有するテスト信号(PAM4信号)を入力し、このテスト信号の入力に対して被試験デバイスWが送出するPAM4信号をEDモジュール3Aで被測定信号として受信してBER測定を行う場合について述べる。
BER測定を行う場合、ユーザは、測定を行う測定パターン、測定時間等の各種パラメータを例えば設定画面上で設定する。この設定の完了後、BER測定を開始するため、ユーザが設定画面上で測定開始の操作を行うと、制御部7Aでは、ユーザにより設定された測定パターンに対応付けされたパターンファイルを、パターン設定部7b1により、記憶部5Aのパターン情報記憶部5a1から読み出してPPGモジュール2Aにパターン発生指示を出力する。
PPGモジュール2Aは、制御部7Aからパターン発生指示が入力されると、上記測定パターンに基づくPAM信号を生成するためのパターン信号を発生する。その際、PPGモジュール2Aは、例えば、図17(a)に示すように、第1パターン発生部21aがMSBに相当するパルスパターン(PPG1)を発生するとともに、第2パターン発生部21bがLSBに相当するパルスパターン(PPG2)を発生する。
図17(a)においては、特に、PPG1として00222020・・・という値のMSBに相当するパルスパターンを発生し、PPG2として01010011・・・という値のLSBに相当するパルスパターンを発生する例を挙げている。
PPGモジュール2Aにおいて、パターン合成出力部22は、第1パターン発生部21aから発生されたMSBと第2パターン発生部21bから発生されたLSBと合成してPAM4信号を生成する。図17(a)の例においては、MSBとLSBを合成して時系列方向に一つずつ順に01232031・・・という値を有するPAM4信号を生成する。ここで時系列方向の1つずつの数字の区切りは、シンボルに相当する。
図17(a)におけるPAM4信号は、図17(b)に太い実線で示すような波形を有するものである。すなわち、このPAM4信号は、アッパーアイ(upper eye)、ミドルアイ(middle eye)、ロウワーアイ(Lower eye)の3つのアイを有するアイパターンEp(合わせて図14参照)を有するものである。また、このPAM4信号は、図13に示す各種パラメータ(電圧範囲(H3〜H1)、閾値電圧(Vth1〜Vth3)、レベル(L3〜L0)等)の設定条件からも分かるように、シンボルごとの振幅レベルがそれぞれL0、L1、L2、L3の4つのレベルに分けられたものである。
PPGモジュール2Aにおいて、パターン合成出力部22により生成されたPAM4信号はエンファシス波形成形部23Aに入力される。エンファシス波形成形部23Aは、入力されたPAM4信号のエンファシス付加対象ビットに対してエンファシスを付加する処理を行う。ここで、エンファシス調整制御部7c1は、第1の実施形態と同様、コスト関数と確率的勾配降下法を用いて、エンファシスの各タップのパラメータA01、A11、A21、A31(図15参照)の値を自動で算出し、算出したパラメータA01、A11、A21、A31の値に基づいてパルスパターンのエンファシス付加対象ビット(図17(c)参照)の信号をそれぞれ増幅しつつエンファシスの付加量を調整するようエンファシス波形成形部23Aを制御する。
エンファシス波形成形部23Aでの波形成形後のPAM4信号は、図17(c)に示すような波形となる。図17(c)に示すPAM4信号によれば、エンファシス付加対象ビット(4ビット)ごとに、エンファシス調整後のパラメータA01、A11、A21、A31に対応するエンファシスが付加されていることが分かる。エンファシス波形成形部23Aによる波形成形後のPAM4信号は、テスト信号として伝送路27に出力される。
PPGモジュール2Aが発生したPAM4信号(図17(c)参照)が伝送路27により伝送されて被試験デバイスWにより受信されると、被試験デバイスWは被測定信号となるPAM4信号を送出する。
誤り率測定装置1において、EDモジュール3Aは、被試験デバイスWからのPAM4信号を被測定信号として受信し、該被測定信号をMSBとLSBにデコードしてBER測定を実行する。
このBER測定においてはまず、EDモジュール3Aにおいて、PAMデコーダ31Aは、テスト信号を受信した被試験用デバイスWから送出されるPAM4信号を被測定信号(図18(a)参照)として入力し、0/1判定回路32及びデコード回路33を介して、MSBとLSB(MSB/LSB)とに分離された形態にデコードする(図18(b)参照)。
このとき、MSBパターン(MSB Pattern)は、ミドルアイの波形と1対1に対応するものとなる。これに対して、LSBパターン(LSB pattern)は、アッパーアイとロウワーアイの波形を合成した波形となり、アッパーアイとロウワーアイの波形と1対1に対応していないものとなる。このため、EDモジュール3Aにおいて、デコード回路33は、アッパーアイ用のパターンを分離するためのマスクと、ロウワーアイ用のパターンを分離するためにマスクとを用い、LSBパターンからアッパーアイ用のパターンとロウワーアイ用のパターンを分離して出力するようになっている。これにより、PAMデコーダ31Aでは、PAM4信号からMSBパターンと、アッパーアイ用のLSBパターン及びロウワーアイ用のLSBパターンを分離して出力することができる。
図18(b)におけるPAMデコーダ31Aでの復調データは、ビットエラー測定部34Aに入力される。ビットエラー測定部34Aには、PPGモジュール2AでPAM4信号を生成するために用いられたパターンデータ(PPG1(MSB)、PPG2(LSB))が、制御部7Aの制御により、参照信号として事前に設定(保持)されている。
これにより、ビットエラー測定部34Aは、上述したPAM4信号のデコード処理の後、該デコード結果(復調データ)を取り込み、シンボルごとに参照信号と比較してBER測定処理を実行する。ここでビットエラー測定部34Aは、PAMデコーダ31Aでのデコード処理により分離されたMSB/LSBの値と参照信号のMSB/LSBの値をシンボルごとに比較し、両者が不一致の場合にビットエラーと判定する。さらにビットエラー測定部34Aは、PPGモジュール2Aから出力される一連のビットエラー測定に係るPAM4の総ビット数と、上述したビットエラーと判定されたビット数との比をBERとして算出する。
次に、誤り率測定装置1Aにおけるエンファシス調整制御について説明する。このエンファシス調整制御は、第1の実施形態と同様、測定系(図9参照)を用いて行うこともできるが、ここでは、誤り率測定装置1Aで行う場合について、図7、及び図8に示すフローチャートを援用して説明する。
このエンファシス調整制御を行うには、測定パターンの他、コスト関数、各タップのパラメータA01、A11、A21、A31の初期値、追い込み回数、学習率kなどの設定を行う必要がある。これらの設定は、例えば、操作部4Aと表示部6Aとが協働して提供されるUIを用いて行うことができる。コスト関数は、PAM4信号について、例えば、上記(1)式で表し得るものを設定する。
なお、PAM4信号をエンファシス付加対象とする誤り率測定装置1Aにおいて、上記(1)式を満足するコスト関数とは、例えば、図14に示すPAM4信号のアイパターンEpにおいて、アッパーアイのアイ開口部Ep11、ミドルアイのアイ開口部Ep12、ロウワーアイのアイ開口部Ep13のそれぞれの振幅値(アイアンプリチュード)が、アッパーアイ、ミドルアイ、ロウワーアイそれぞれの振幅値(アイハイト)に一致する態様の波形に相当する。
上述した各種パラメータの設定後、エンファシス調整モードに移行し、エンファシス調整制御が開始される。エンファシス調整制御が開始されると、エンファシス調整制御部7c1は、図8に示すフローチャートに従って、ステップS13ないしS16の処理を追い込み回数が設定した回数となるまで繰り返し実施する。
エンファシス調整制御部7c1は、ステップS13の処理に先立って、測定機能部7f1によりエンファシス付加後のパルスパターンの測定をパラメータA11、A21、A31ごとにそれぞれ2回実施させるように制御する。ここで、1回目の測定は、例えば、1つ目のタップのパラメータA01を上述したステップ幅(Δh)で上の値に移動させた状態で行い、2回目の測定は、該パラメータA01をステップ幅(Δh)で下の値に移動させた状態で行い。この2回の測定は、引き続き他のタップのパラメータA11、A21、A31についても上下の値への移動に合わせて実施される(図10参照)。
エンファシス調整制御部7c1は、上述したパルスパターンの測定結果に基づき、各タップのパラメータA01、A11、A21、A31ごとに、上の値と下の値の間(2×Δh)を移動したときのコスト関数の傾きをそれぞれ算出する(ステップS13)。
次に、エンファシス調整制御部7c1は、算出した各タップのパラメータA01、A11、A21、A31のコスト関数から該コスト関数に学習率kを乗算した値を減算することにより、各パラメータA01、A11、A21、A31の現在値を更新する処理を行う(ステップS14)。
その後、エンファシス調整制御部7c1は、ステップS13とステップS14の処理を繰り返し実施する(ステップS15、S16)。その間、追い込み回数nが設定回数に達すると(ステップS16でNO)、この処理を終了し、図7におけるステップS5へ移行する。
ステップS5において、エンファシス調整制御部7c1は、追い込んだ各タップのパラメータA01、A11、A21、A31の値に基づいてエンファシスを調整する制御を行う。
このように、本実施形態に係る誤り率測定装置1Aは、PAM信号を扱うものであり、NRZ信号を扱う第1の実施形態とはエンファシス測定対象の信号種別の差異はあるものの、その特徴とするところは、第1の実施形態と同様、エンファシス付加後のパルスパターン(PAM4信号)の測定結果に基づき、信号の減衰がないときのパルスパターンの波形との相関を指標とするコスト関数と、確率的勾配降下法と、を用いて、エンファシスの各タップのパラメータA01、A11、A21、A31の値を自動で算出し、該算出した各タップのパラメータA01、A11、A21、A31の値に基づいてエンファシスのレベルを調整する点にある。
このため、本実施形態においても、エンファシス調整制御部7c1及び信号測定機能(測定機能部7f1、又はオシロスコープ8)によって、PAM4信号を対象として、ユーザの手を煩わせることなくエンファシスの各タップのパラメータA01、A11、A21、A31の値を自動で算出し、設定することが可能となる。これにより、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
また、本実施形態においても、コスト関数として「1」を設定することに限らず、例えば、各振幅補正ポイントでの理想とする波形と測定波形の差分の総計が最小になるようなコスト関数(図11参照)や、アイパターンEpのアイ開口部(Ep11、Ep12、Ep13)の面積に相当するコスト関数を用いるなど、第1の実施形態と同様の変形例に係るコスト関数を用いることが可能である。
上述したように、第1、及び第2実施形態に係る誤り率測定装置1(1A)は、伝送路27を介して被試験デバイスWにテスト信号として送出するパルスパターンに対し、所定数のエンファシス付加対象ビットごとに伝送路27での信号の減衰を補償するためのエンファシスを付加するエンファシス波形成形部23(23A)と、エンファシス付加後のパルスパターンを測定する測定機能部7f(7f1)によるパルスパターンの測定結果に基づき、信号の減衰がないときのパルスパターンの波形との相関を指標とするコスト関数と、確率的勾配降下法と、を用いて、エンファシス付加対象ビットにそれぞれ対応するエンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を自動で算出し、該算出した各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)値に基づいてエンファシスのレベルを調整するエンファシス調整制御部7c(7c1)と、を有している。
この構成により、上記実施形態(第1、及び第2の実施形態)に係るエンファシス付加装置10(10A)は、エンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を算出し、該各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値に基づいてエンファシスのレベルの調整を自動で実施でき、各タップの重みを調整するための煩雑な作業を必要とせず、最適なアイ開口に追い込むためのエンファシスの各タップのパラメータを正確かつ迅速に設定することができる。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)において、エンファシス調整制御部7c(7c1)は、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)ごとに現在の値を一定のステップ幅(Δh)で上下それぞれの値に移動させたときのパルスパターンの測定結果に基づき、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)ごとに、上の値と下の値の間(2×Δh)を移動したときのコスト関数の傾きをそれぞれ算出する傾き算出処理を行う傾き算出部7d1(7e1)と、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)ごとに、傾き算出部7d1(7e1)により算出したコスト関数の傾きから該コスト関数の傾きに学習率を乗算した値を減算することにより現在の値をそれぞれ更新する更新処理を行う更新処理部7d2(7e2)と、パルスパターンの測定、傾き算出処理及び更新処理を複数回繰り返し実行させ、パルスパターンの測定結果が、設定されたコスト関数に追従するように、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)を追い込む追い込み処理部7d3(7e3)と、を有する構成である。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)は、傾き算出処理、更新処理、及び追い込み処理のアルゴリズムとして、パルスパターンの測定データをランダムに取り出す確率的勾配降下法を適用しているため、コンピュータを用いた当該アルゴリズムに基づく各処理の実施中、各タップの重み調整のため手動作業介入の余地はなく、各タップのパラメータの設定についても人為的操作による差異、バラつきが生じることはなくなる。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)において、エンファシス波形成形部23(23A)は、パルスパターンの出力端子(Data Out)に、パルスパターンを測定するオシロスコープ8が接続され、エンファシス調整制御部7c(7c1)は、傾き算出処理に係るパルスパターンの測定結果をオシロスコープ8から取得する構成である。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)は、エンファシス波形成形部23(23A)にオシロスコープ8を接続したことにより、オシロスコープ8のような測定機能を内部に設ける必要がなく、簡単な構成で、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を適切に自動調整することが可能になる。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)において、エンファシス波形成形部23(23A)は、パルスパターンを順次1ビットずつ遅延させて出力する遅延回路24a、24b、24cと、パルスパターンの各遅延回路24a、24b、24cで遅延されないビット、及び遅延された各ビットを、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値にそれぞれ対応するゲインで増幅して出力する可変利得増幅器25a、25b、25c、25dと、各可変利得増幅器25a、25b、25c、25dの出力を加算し、エンファシス付加後のパルスパターンとして出力する加算器26と、を有して構成されている。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)では、エンファシス波形成形部23(23A)としてFIRフィルタのフィルタ構造を適用可能であり、簡略で、かつ確率的勾配降下法に基づく各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の追い込み処理にマッチした構成とすることができる。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)において、コスト関数は、信号の減衰がないときのパルスパターンのアイパターンEpにおけるアイアンプリチュードとアイハイトにより定義される関数が用いられる。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)は、エンファシス付加後のパルスパターンのアイパターンにおけるアイアンプリチュードとアイハイトの関係が、伝送路27での信号の減衰がない理想とするパルスパターンの同関係に近くなるように各タップのパラメータの値を自動調整することができ、エンファシス波形調整後のパルスパターンを用いて伝送路27での信号の減衰の影響が排除された正確な測定が行える。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)において、コスト関数は、信号の減衰がないときのパルスパターンのアイパターンにおけるアイ開口部Ep1の面積によって定義される関数が用いられる。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)は、エンファシス調整後のパルスパターンのアイパターンにおけるアイ開口部Ep1(Ep11、Ep12、Ep13)の面積が、伝送路27での信号の減衰がない理想とするパルスパターンのアイパターンにおけるアイ開口部の面積に近くなるように各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を自動調整することができ、エンファシス波形調整後のパルスパターンを用いて伝送路27での信号の減衰の影響が排除された正確な測定が行えるようになる。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)において、コスト関数は、信号の減衰がないときのパルスパターンの波形と、パルスパターンの測定波形との複数の補正ポイントごとの差分Adを合計した値が最小となるように定義された関数が用いられる。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加装置10(10A)は、エンファシス調整後のパルスパターンの波形が、伝送路27での信号の減衰がない理想とするパルスパターンの波形に近くなるように各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を自動調整することができ、エンファシス波形調整後のパルスパターンを用いる誤り率測定処理での上述した信号の減衰の影響を排除することができる。
また、上記実施形態に係る誤り率測定装置1(1A)は、前述したエンファシス付加装置10(10A)と、エンファシス波形成形部23(23A)に入力するパルスパターンを発生するパターン発生部21(21a、21b)と、を有するPPGモジュール2(2A)と、エンファシスが付加されたパルスパターンを受信した被試験デバイスWが被測定信号として送出するパルスパターンを受信し、該受信したパルスパターンの復号結果に基づいて当該パルスパターンのBER測定を行うビットエラー測定部34(34A)を有するEDモジュール3(3A)と、を備えて構成されている。
この構成により、上記実施形態に係る誤り率測定装置1(1A)は、PPGモジュール2(2A)にエンファシスを設定する際に、各タップの重みを調整するための煩雑な作業を必要とせず、最適なアイ開口に追い込むためのエンファシスの各タップのパラメータを正確かつ迅速に設定することができる。
また、上記実施形態に係るエンファシス付加方法は、伝送路27を介して被試験デバイスWにテスト信号として送出するパルスパターンに対し、所定数のエンファシス付加対象ビットごとに伝送路27での信号の減衰を補償するためのエンファシスを付加するエンファシス付加方法であって、パルスパターンの信号の減衰がないときの波形との相関を指標とするコスト関数を設定するステップS1と、エンファシス付加後のパルスパターンを測定する測定ステップS3と、測定ステップS3によるパルスパターンの測定結果に基づき、コスト関数と、確率的勾配降下法と、を用いて、エンファシス付加対象ビットにそれぞれ対応するエンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を自動で算出し、該算出した各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値に基づいてエンファシスのレベルを調整するエンファシス調整制御ステップ(ステップS4、S5参照)と、を含むものである。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加方法は、エンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値を算出し、該各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)の値に基づいてエンファシスのレベルの調整を自動で行うことができ、本方法をエンファシス付加装置10(10A)、及び誤り率測定装置1(1A)に適用することで、各タップの重みを調整するための煩雑な作業を必要とせず、最適なアイ開口に追い込むためのエンファシスの各タップのパラメータを正確かつ迅速に設定することができるようになる。
また、上記実施形態に係るエンファシス測定方法は、エンファシス調整制御ステップは、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)ごとに現在の値を一定のステップ幅Δhで上下それぞれの値に移動させたときのパルスパターンの測定結果に基づき、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)ごとに、上の値と下の値の間(2×Δh)を移動したときのコスト関数の傾きをそれぞれ算出する傾き算出ステップS13と、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)ごとに、傾き算出ステップS13で算出したコスト関数の傾きから該コスト関数の傾きに学習率kを乗算した値を減算することにより現在の値をそれぞれ更新する更新ステップS14と、測定ステップS3、傾き算出ステップS13及び更新ステップS14を複数回繰り返し実行させ、パルスパターンの測定結果が、設定されたコスト関数に追従するように、各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)を追い込む追い込みステップS4(ステップS13〜S16参照)と、を含むものである。
この構成により、上記実施形態に係るエンファシス付加方法は、傾き算出処理、更新処理、及び追い込み処理のアルゴリズムとして、パルスパターンの測定データをランダムに取り出す確率的勾配降下法を適用しているため、本方法をエンファシス付加装置10(10A)及び誤り率測定装置1(1A)に適用することで、コンピュータによる当該アルゴリズムに基づく各処理の実施中、各タップの重み調整のため手動作業介入の余地はなく、各タップのパラメータの設定についても人為的操作による差異、バラつきが生じることはなくなる。
よって、上記実施形態によれば、各タップの重みを調整するための煩雑な作業を必要とせず、最適なアイ開口に追い込むためのエンファシスの各タップのパラメータA0、A1、A2、A3(A01、A11、A21、A31)を正確かつ迅速に設定することができるエンファシス付加装置10(10A)、エンファシス付加方法及び誤り率測定装置1(1A)を提供することができる。