JP6893359B2 - タンパク質又は病原体の新規検出方法 - Google Patents

タンパク質又は病原体の新規検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、タンパク質又は病原体を認識する素子が表面に固定化された導電性ダイヤモンド電極及びこれを用いるタンパク質又は病原体の検出方法に関する。より詳細には、本発明はウイルス又はそのタンパク質を認識する素子が表面に固定化された導電性ダイヤモンド電極及びこれを用いるウイルスの検出方法に関する。
従来より、目的の病原体、病原性細菌、ウイルスやそれらのタンパク質を高感度で検出することが望まれてきた。例えばインフルエンザウイルス(IFV)は世界的流行の可能性があり、迅速かつ正確なインフルエンザウイルスの検出が求められている。現在用いられているIFVの検出方法には、IFV認識デバイスとして抗体を用いたイムノクロマトグラフィー、糖鎖を用いた糖鎖アレイによる検出、遺伝子を用いたRT-PCR法、赤血球を用いた赤血球凝集アッセイなどがある。しかしこれらは時間やコストがかかる上に、専門的な知識や技術を要する。
Grabowskaらはハイブリダイゼーションを用いたIFV検出法を報告している(非特許文献1)。この方法は金チオール結合を介してAu電極の表面に、2つの異なるオリゴヌクレオチドプローブを固定したセンサーを用いるものであり、これによりヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)双方のオリゴヌクレオチドターゲットを同時に検出することが可能である。またKamikawaらは、電気活性があるポリアニリンで覆い、表面にH5N1型HAモノクローナル抗体を修飾した磁性ナノ粒子を用いたIFV検出を報告している(非特許文献2)。この方法では、H5N1ウイルスと相互作用したナノ粒子を強力な磁力(MPC)で血清中から回収し、電気化学測定によりウイルス結合量が定量されている。
Sakuraiらは、蛍光免疫クロマトグラフィーを用いた季節性インフルエンザの迅速かつ高感度な型分類を報告している(非特許文献3)。臨床で使われているIFVの検出手法であるイムノクロマト法は検出感度が1000pfuであり、感染初期の検出が困難である。同文献においてSakuraiらは、ウイルスの補足抗体と増感剤を標識した検出用抗体の両方を用いてウイルスをサンドイッチ型に捕捉し、さらにデンシトメトリー分析装置や蛍光イムノクロマト測定装置を用いた検出を行うことにより従来の100倍の感度の向上を達成したことを報告している。しかしながら、ハイブリダイゼーション用の相補的オリゴヌクレオチドや基板に固定化する抗体は、作製に膨大な手間とコストを要し、保存安定性の問題がある。
Hassenらは、電気化学インピーダンス分光法を用いたインフルエンザAウイルスの定量を報告している(非特許文献4)。この文献では金電極表面に抗体−糖鎖除去アビジン−チオール構造物を固定したデバイスを用いて、インフルエンザAウイルスが検出されている。
一方でホウ素ドープダイヤモンド電極は、ガラス性炭素や白金電極などの他の従来型の電極材料と比較して特性が優れており、近年、注目を集めている。熱伝導性が高いことや硬度が極めて高いというダイヤモンドの周知の特性の他に、ホウ素ドープダイヤモンド電極は、広い電位窓、小さいバックグランド電流、及び吸着耐性が高く、化学的に不活性であるといった魅力的な特性を有する。また、ホウ素ドープダイヤモンド電極は物理的、化学的に安定で耐久性に優れる。
ダイヤモンド電極を備えたセンサーとしては、カテコール又はカテコール誘導体の正確な定量を行うことが可能なダイヤモンド電極及び当該ダイヤモンド電極を備えるセンサーが報告されている(特許文献1)。この文献では4-ペンテン酸修飾されたダイヤモンド電極を用いてシュウ酸が電気化学的に検出されている。
ウイルスのみならず各種病原性細菌、病原体についても、抗体や高価な装置を使用しない、高感度な検出方法が望まれている。
特開2007−292717(特許第4978858号)
Grabowskaら, Anal. Chem., 85, 10167-10173 (2013) Kamikawaら, Biosens Bioelectron., 26, 1346-1352 (2010) Sakuraiら, PLOS ONE DOI:10.1371/jounal.pone.0116715, 1-13 (2015) Hassenら, Electrochim. Acta 56, 8325-8328 (2011)
本発明は従来の問題点を解決する、迅速かつ高感度でタンパク質又は病原体を検出する装置及び方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記の問題を解決するために、タンパク質及び病原体の検出方法について鋭意検討を行った。その結果、本発明者らはホウ素ドープダイヤモンド電極の表面にインフルエンザウイルスを認識する素子を固定化して電気化学的測定を行うことにより、迅速かつ高感度でインフルエンザウイルスを検出することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下を包含する。
[1] タンパク質又は病原体を認識する素子が表面に固定化された導電性ダイヤモンド電極。
[2] タンパク質又は病原体を認識する素子が、インフルエンザウイルス、DNAウイルス、RNAウイルス、2本鎖DNAウイルス、1本鎖DNAウイルス、2本鎖RNAウイルス、1本鎖RNA(+)鎖ウイルス、1本鎖RNA(−)鎖ウイルス、1本鎖RNA逆転写ウイルス、2本鎖DNA逆転写ウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルス、アデノウイルス、口蹄疫ウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、マイコプラズマ菌、ボツリヌス菌、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、病原性大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、ウェルシュ菌、又はセレウス菌を認識する素子である、1に記載の電極。
[3] タンパク質又は病原体を認識する素子が、病原体タンパク質を認識するペプチドを有する、1又は2に記載の電極。
[4] タンパク質又は病原体を認識する素子が、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質(HA)、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)、M1タンパク質若しくはM2タンパク質、マイコプラズマ細菌のP1タンパク質、膜抗原タンパク質若しくはリボソームタンパク質L7/L12、ボツリヌス毒素、百日咳毒素、破傷風菌毒素、ジフテリア毒素、ウェルシュ菌のα毒素、コレラ菌毒素、ベロ毒素、炭疽菌毒素、大腸菌由来エンテロトキシン、ブドウ球菌由来エンテロトキシン、サルモネラ菌由来エンテロトキシン、又はセレウス菌由来エンテロトキシンを認識するペプチドを有する、1〜3のいずれかに記載の電極。
[5] タンパク質又は病原体を認識する素子が、タンパク質又は病原体を認識する分子及びリンカー部分を有し、該タンパク質又は病原体を認識する分子が該リンカー部分を介してダイヤモンド電極の表面に固定化されている、1〜4のいずれかに記載の電極。
[6] 1〜5のいずれかに記載の電極を備えた、タンパク質又は病原体を検出する装置。
[7] 1〜5のいずれかに記載の電極又は6に記載の装置を用いた、タンパク質又は病原体を検出する方法。
[8] サイクリックボルタンメトリー測定又は電気化学インピーダンス測定によりタンパク質又は病原体を検出する、7に記載の検出方法。
[9] 導電性ダイヤモンド電極の表面に、タンパク質又は病原体を認識する分子を固定化してタンパク質又は病原体を認識する素子を形成する工程を含む、タンパク質又は病原体検出用導電性ダイヤモンド電極の製造方法。
[10] リンカー分子をダイヤモンド電極の表面に固定化する工程、及びリンカー分子とタンパク質又は病原体を認識する分子とを連結する工程を含む、9に記載の製造方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015-093132号の開示内容を包含する。
本発明の装置を用いてタンパク質又は病原体を迅速かつ高感度で検出することができる。ダイヤモンド電極は他の電気化学的な検出法と比べて、表面が不活性であるため、タンパク質などの非特異的な吸着が抑制でき、ノイズが少なく電位窓が広いため、高感度な検出ができる。また本発明は、抗体のような高価な分子を用いることなく、高感度にて、タンパク質又は病原体を検出することができる。
アジド基導入s2(1-5)ペプチドデンドリマーの固相合成のスキームを示す。 ヘマグルチニン(HA)タンパク質-ペプチド相互作用及びサイクリックボルタンメトリー(CV)測定方法の模式図を示す。 ペプチド未修飾(左)及びペプチド修飾された(右)ダイヤモンド電極を用いたCV測定によるHAタンパク質の検出を示す。 ペプチド未修飾(左)及びペプチド修飾された(右)ダイヤモンド電極を用いたCV測定によるインフルエンザウイルス(IFV)の検出を示す。 ペプチド修飾されたダイヤモンド電極を用いた電気化学インピーダンス(EIS)測定によるHAタンパク質の検出を示す。 ペプチド修飾されたダイヤモンド電極を用いたEIS測定における目的HAタンパク質と対照タンパク質BSAの結果を示す。四角がHAであり(R2=0.989)、丸がBSAである(R2=0.784)。 ペプチド修飾されたダイヤモンド電極を用いたEIS測定によるIFVの検出を示す。 ペプチド未修飾(左)及びペプチド修飾された(右)グラッシーカーボン電極を用いたCV測定によるHAタンパク質の測定を示す。 ペプチド未修飾(左)及びペプチド修飾された(右)グラッシーカーボン電極を用いたCV測定によるIFVの測定を示す。 ペプチド修飾されたグラッシーカーボン電極を用いたEIS測定によるHAタンパク質の測定を示す。左がナイキストプロット、中央が各濃度におけるRct値、右がHAとBSAとのRct値の比較結果を示す。 ペプチドs2(1-5)を用いたELISA法によるIFV検出の結果を示す。 ペプチド修飾電極によるIFVの検出の結果を示す。左がIFV H1N1株であり、右がIFV H3N2株である。丸記号はペプチド提示BDD、四角記号はコントロールのペプチドを示す。縦軸は、0pfuのときに測定されるRct値に対するΔRct値であり(ΔRct/Rct(0pfu))、横軸はIFV(pfu)を対数表記したものである。 精製ペプチド(4mer)のHPLCチャートを示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、タンパク質又は病原体を認識する素子が表面に固定化された導電性ダイヤモンド電極を提供する(以下、単に本発明の電極ということがある)。また本発明は、この電極を作用電極として備えたタンパク質又は病原体検出装置を提供する。ここで、素子がタンパク質又は病原体を「認識」する、とは、素子がタンパク質又は病原体と相互作用、結合、会合することをいう。素子がタンパク質又は病原体を認識すると、電位を印加した場合、電気化学反応により電流が流れる。この電流を測定することにより、認識されたタンパク質又は病原体を検出することができる。ここでいう「検出」とは、定性的検出及び定量的検出を包含する。
本発明の装置
本発明のタンパク質又は病原体を検出する装置は、作用電極、参照電極(基準電極ともいう)及び対電極を有する。また本発明の装置は、電圧印加部、電流測定部及び任意の記録手段を有する。ある実施形態において本発明の装置は、さらにポテンシオスタット及びこれに接続された交流発信機並びにロックインアンプを有する。この装置は電気化学インピーダンス測定(交流インピーダンス測定)を行うことができる。
本発明の作用電極は、基板、該基板上のダイヤモンド層、及び該ダイヤモンド層上の修飾層を有する。基板上のダイヤモンド層は微量の不純物がドープされた導電性ダイヤモンドである。すなわち本発明の作用電極には導電性ダイヤモンド電極を用いる。この導電性ダイヤモンド電極には微量の不純物をドープすることが好ましい。不純物をドープすることにより、電極として望ましい性質が得られる。不純物としては、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)等が挙げられる。例えば炭素源を含む原料ガスに、ホウ素を得るためにはジボラン、トリメトキシボラン、酸化ホウ素を、硫黄を得るためには酸化硫黄、硫化水素を、酸素を得るためには酸素若しくは二酸化炭素を、窒素を得るためにはアンモニア若しくは窒素を、ケイ素を得るためにはシラン等を加えることができる。特に高濃度でホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極は広い電位窓と、他の電極材料と比較してバックグランド電流が小さいといった有利な性質を有することから好ましい。そこで本発明では以下にホウ素ドープダイヤモンド電極について例示的に記載する。他の不純物をドープした導電性ダイヤモンド電極を用いてもよい。本明細書では、特に断らない限り、電位と電圧は同義に用い相互に置き換え可能とする。また本明細書では導電性ダイヤモンド電極を単にダイヤモンド電極と記載することがあり、ホウ素ドープダイヤモンド電極をBDD電極と記載することがある。
本発明の作用電極の電極部は、基板表面に0.01〜8%w/wホウ素原料混入ダイヤモンドを蒸着したダイヤモンド層を有する。基板の大きさは特に限定されないが、mL単位若しくはμL単位の試料溶液を測定できる面積を有するものが好ましい。基板は例えば直径1〜10cm、厚み0.1mm〜5mmのものとすることができる。基板はSi基板、SiO2等のガラス基板や石英基板、Al2O3等のセラミックス基板、タングステン、モリブデン等の金属でありうる。基板の表面の全部又は一部をダイヤモンド層とすることができる。
本発明の導電性ダイヤモンド電極の電極部の大きさは、測定対象により適宜設計できる。例えば電極部は例えば0.1cm2〜10cm2、0.2cm2〜5cm2、又は0.5cm2〜4cm2の面積を有する表面とすることができる。ダイヤモンド層の全部又は一部を電気化学的測定に用いることができる。当業者であれば、測定対象に応じて電極部の面積や形状を適宜決定することができる。
本発明の作用電極の電極部は、Si基板表面が高ホウ素原料混入(原料仕込みとして0.01〜8%w/wホウ素原料)ダイヤモンドで蒸着されたダイヤモンド層を有する。好ましいホウ素原料混入率は0.05〜5%w/wであり、特に好ましくは0.3%w/w程度である。基板上にダイヤモンド層を形成した後、その上に修飾層を設けることができる。
基板へのホウ素原料混入ダイヤモンドの蒸着処理は、700〜900℃で2〜12時間行えばよい。導電性ダイヤモンド薄膜は通常のマイクロ波プラズマ化学気相成長法(MPCVD)で作製される。すなわち、シリコン単結晶(100)等の基板を成膜装置内にセットし、高純度水素ガスを担体ガスとした成膜用ガスを流す。成膜用ガスには、炭素、ホウ素が含まれている。炭素、ホウ素を含む高純度水素ガスを流している成膜装置内にマイクロ波を与えてプラズマ放電を起こさせると、成膜用ガス中の炭素源から炭素ラジカルが生成し、Si単結晶上にsp3構造を保ったまま、かつホウ素を混入しながら堆積してダイヤモンドの薄膜が形成される。
ダイヤモンド薄膜の膜厚は成膜時間の調整により制御することができる。ダイヤモンド薄膜の厚さは、例えば100nm〜1mm、1μm〜0.1mm、1μm〜100μm、2μm〜20μm等とすることができる。
基板表面へのホウ素ドープダイヤモンドの蒸着処理の条件は基板材料に応じて決定すればよい。一例としてプラズマ出力は500〜7000W、例えば3kW〜5kWとすることができ、好ましくは5kWとしうる。プラズマ出力がこの範囲であれば、合成が効率よく進行し、副生成物の少ない、品質の高い導電性ダイヤモンド薄膜が形成される。
上記の電極は、特開2006−98281号公報、特開2011−152324号公報又は特開2015−172401号公報等に開示されており、これらの公報の記載に従って作製することができる。
本発明の導電性ダイヤモンド電極は、熱伝導率が高く、硬度が高く、化学的に不活性であり、電位窓が広く、電気容量が低く、バックグラウンド電流が低く、電気化学的安定性に優れている。
本発明の装置は三極電極を備えている。参照電極側の抵抗は高く設定されており、作用電極と参照電極との間では電流は流れない。対電極は特に限定されないが、例えば銀線や白金線を使用しうる。参照電極は特に限定されないが、安定性や再現性等の観点から銀−塩化銀電極(Ag/AgCl)が好ましい。本明細書では特に断らない限り、測定された電圧は、銀−塩化銀電極を基準にして測定されたものとする(+0.199V vs 標準水素電極(SHE))。作用電極、対電極及び参照電極のセンサーにおける大きさ及び位置関係は、適宜設計することができるが、作用電極、対電極及び参照電極はいずれも測定試料と同時に接触可能であるように設計、配置される。
参照電極として使用される銀−塩化銀電極は、塩化物イオン(Cl-)を含む水溶液中にAgClコーティングされた銀線(Ag/AgCl)を浸した構成を有する。本発明のAg/AgCl参照電極は、作用電極(導電性ダイヤモンド電極)より表面積が大きければ、特に限定されない。
本発明の装置のセンサー部の形状は、作用電極、対電極、参照電極がいずれも測定対象と同時に接触可能に配置されていれば特に限定されない。
本発明の導電性ダイヤモンド電極は、その表面上にタンパク質又は病原体を認識する素子が固定化されている。ある実施形態において固定化とは、共有結合により素子がダイヤモンド電極表面に連結されていることをいう。素子が固定化されている層を修飾層とよぶことがある。修飾層を目的のタンパク質又は病原体と接触させると、該素子がタンパク質又は病原体を認識する。このとき、電位が印加されていると電流が流れ、これを測定することにより試料中のタンパク質又は病原体を検出することができる。
本発明の電極又は装置により検出される病原体としては、本発明の導電性ダイヤモンド電極表面の素子により認識され電流が流れるものであれば、どのようなものでもよい。病原体としては、ウイルスや病原性細菌が挙げられる。病原性細菌としてはマイコプラズマ菌、ボツリヌス菌、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、病原性大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、ウェルシュ菌及びセレウス菌が挙げられるがこれに限らない。
本発明の電極又は装置により検出されるウイルスとしては、本発明の導電性ダイヤモンド電極表面の素子により認識され電流が流れるものであれば、どのようなものでもよい。検出されるウイルスとしては、DNAウイルス、RNAウイルス、2本鎖DNAウイルス、1本鎖DNAウイルス、2本鎖RNAウイルス、1本鎖RNA(+)鎖ウイルス、1本鎖RNA(−)鎖ウイルス、1本鎖RNA逆転写ウイルス、2本鎖DNA逆転写ウイルス、例えばインフルエンザウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルス、アデノウイルス、口蹄疫ウイルス、狂犬病ウイルス、及びヒト免疫不全ウイルスが挙げられる。インフルエンザウイルスとしては、A型、B型、C型、トリインフルエンザウイルス及びそれらの各種亜型が挙げられる。
本発明の電極又は装置により検出されるタンパク質としては、本発明の導電性ダイヤモンド電極表面の素子により認識され電流が流れるものであれば、どのようなものでもよい。ある実施形態において、検出されるタンパク質は、トリプトファン残基を有するものである。ある実施形態において、検出されるタンパク質は、上記の病原体、病原性細菌、又はウイルスに由来するタンパク質である。好ましくはウイルス由来タンパク質は、ウイルス表面タンパク質とすることができる。例えば検出対象がインフルエンザウイルスであれば、素子により認識されるのはインフルエンザウイルス由来のヘマグルチニン(HA)又はノイラミニダーゼ(NA)タンパク質等でありうる。検出するタンパク質としては、さらにインフルエンザウイルスのM1タンパク質、及びM2タンパク質が挙げられる。検出対象がマイコプラズマ菌である場合には、素子により認識されるのはマイコプラズマ細菌由来のP1タンパク質、膜抗原タンパク質又はリボソームタンパク質L7/L12であり得る。ある実施形態において、検出されるタンパク質は、毒素タンパク質である。毒素タンパク質としては、外毒素、ボツリヌス毒素、百日咳毒素、破傷風菌毒素(テタノスパスミン)、ジフテリア毒素、ウェルシュ菌のα毒素、コレラ菌毒素、ベロ毒素、炭疽菌毒素(PA、EF、又はLF)、並びに、大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、及びセレウス菌等に由来するエンテロトキシンが挙げられるがこれに限らない。
本発明のタンパク質又は病原体を認識する素子は、目的のタンパク質又は病原体と相互作用したときに、本発明の導電性ダイヤモンド電極に電流が流れるものであれば、どのようなものでもよい。
本発明のタンパク質又は病原体を認識する素子を以下に模式的に表す。素子は、一方の端が導電性ダイヤモンド電極表面に固定化されており、他方の端にタンパク質又は病原体を認識する分子を有する。また、素子は場合によりリンカー分子を有してもよい。
Electrode−(L)−R
[式中、Electrodeは導電性ダイヤモンド電極、Lは任意に存在してもよいリンカー、Rはタンパク質又は病原体を認識する分子を表す。]
ある実施形態において、本発明のタンパク質又は病原体を認識する素子は、目的のタンパク質又は病原体と特異的に相互作用するペプチドを有する。上記の式で説明すると、タンパク質又は病原体を認識する分子Rはペプチドを有し得る。該ペプチドは例えば長さ4アミノ酸以上、5アミノ酸以上、6アミノ酸以上、7アミノ酸以上、8アミノ酸以上、9アミノ酸以上、10アミノ酸以上又は15アミノ酸以上のものを用いることができる。該ペプチドは例えば長さ100アミノ酸以下又は50アミノ酸以下、例えば40アミノ酸以下、例えば30アミノ酸以下、例えば20アミノ酸以下のものを用いることができる。素子は、該ペプチドを1以上有しうる。例えばインフルエンザウイルスのHAタンパク質に結合するペプチドs2(1-5)(配列番号1)はデンドリマー化することによってHA結合性が大幅に上昇し、4分岐型ではs2(1-5)単体の場合に比べて約750倍のHA結合活性が得られる。このようなデンドリマー化されたタンパク質結合ペプチドを本発明の素子に用いることができる。
ある実施形態において本発明のタンパク質又は病原体を認識する素子は、上記の病原体、病原性細菌又はウイルス由来のタンパク質を認識するペプチドを有する。このようなペプチドのアミノ酸配列は公知文献やGenBank等の公知のデータベースから取得することができる。当該ペプチドは任意に修飾されていてもよく、上記のようにデンドリマー化されていてもよい。
ある実施形態において本発明のタンパク質又は病原体を認識する素子は、インフルエンザウイルスを認識するペプチドを有する。インフルエンザウイルスを認識するペプチドとしては、公知のあらゆるものを用いることができ、例えば国際公開第2007/105565号パンフレット、国際公開第2010/024108号パンフレット、特開2010−209052号公報(参照によりこれらの内容を本明細書に組み入れる)に記載されているものが挙げられるがこれに限らない。インフルエンザウイルスを認識するペプチドとして配列番号1〜4のアミノ酸配列を有するペプチドを例示する。これらの配列を部分配列として有するペプチドも想定される。ペプチドは適宜修飾されていてもよい。これらは例示に過ぎず、ウイルスや病原体、病原菌を認識する他のペプチドも本発明に用いることができる。
ある実施形態において本発明の素子に用いるインフルエンザウイルスを認識するペプチドの鎖長さは、30以下、20以下、例えば15以下のアミノ酸鎖長でありうる。ある実施形態において本発明の素子に用いるインフルエンザウイルスを認識するペプチドの鎖長さは、4以上のアミノ酸鎖長でありうる。本明細書において、本発明の素子に用いる「病原体又はウイルスを認識するペプチド」や「インフルエンザウイルスを認識するペプチド」にいう「ペプチド」との用語は、抗体又はその抗原結合性ドメインを含まないものとする。
タンパク質又は病原体を認識するペプチドは適当な化学的手法により本発明の導電性ダイヤモンド電極に固定化される。ある実施形態において、該ペプチドは、リンカー分子を介してダイヤモンド電極に固定化されてもよい。既知のタンパク質認識ペプチド以外にも、同等の機能を有する均等物も想定され、本発明に用いることができる。ペプチドは化学合成したものであり得る。
本発明のタンパク質又は病原体を認識する素子は、任意の適当な方法を用いて、ダイヤモンド電極表面に固定化してよい。ある実施形態においては、目的の分子を、電解グラフトにより電極表面に連結することができる。ある実施形態においては固定化に光誘起ラジカル反応を用いてもよい。
所望により、素子の固定化にリンカー分子を用いることもできる。以下に、リンカー部分を形成するための分子を例示する。
A−L1−B(−P)
[式中、Aはダイヤモンド電極と反応することのできる官能基、L1はリンカー部分、Bはタンパク質又は病原体を認識する分子と反応することのできる官能基、Pは任意に存在してもよい保護基を表す。]
この場合、まず電解グラフト等の適当な反応により上記分子を電極表面に連結する。つまり官能基Aを反応させ、電極とL1とを連結させる。官能基Bが保護基Pにより保護されているものである場合には、その後脱保護反応を行い官能基Bを提示させることができる。その後、任意の適当な連結反応を用いてタンパク質又は病原体を認識する分子Rをリンカー部分に連結することができる。
以下にタンパク質又は病原体を認識する分子Rを例示する。
C−R1
[式中、R1はタンパク質又は病原体を認識する部分、Cは官能基Bと反応することのできる官能基を表す。]
リンカー部分とタンパク質又は病原体を認識する分子Rとの連結反応(官能基Bと官能基Cとの連結反応)はヒュスゲン環化付加反応、グレーサー反応、そのがしらカップリング、鈴木・宮浦カップリング反応等を用いることができ、共有結合を形成するものが好ましいがこれに限らない。
ダイヤモンド電極と反応することのできる官能基Aは、ジアゾ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、アルデヒド基、水酸基、ニトロ基等でありうる。またリンカー部分L1は、芳香環、炭素環、複素環、例えばフェニル基、ナフチル基、ポリエーテル基、ポリエチレングリコール基、炭化水素基等を有しうる。これらは場合によりアルキル基、アリール基、ハロゲン基、水酸基等の適当な置換基によりさらに置換されていてもよい。また官能基B及び官能基Cは、アルキニル基、ボラニル基、ボリル基、ハロゲン化アリール基、アジド基等でありうる。また、連結反応にヒュスゲン環化付加反応を用いる場合には、官能基Bはアルキニル基を有し、官能基Cはアジド基を有しうる。官能基Bは場合により保護基Pにより保護されていてもよい。保護基としては、トリイソプロピルシリル基、トリメチルシリル基、ブチルジフェニルシリル基、ジメチルクミルシリル基等の三置換シリル基、ベンジル基、低級アルコキシカルボニル基、ハロゲノ低級アルコキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、トリフェニルメチル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられるがこれに限らない。
ある実施形態において、Aはジアゾ基、L1はフェニレン基、Bはアルキニル基、Pはトリイソプロピルシリル基であり得る。Aを反応させてこれを電極表面に固定化し脱保護することでアルキニル基Bを提示することができる。ある実施形態においてタンパク質又は病原体を認識する分子Rは、R1としてのペプチド基及び官能基Cとしてのアジド基を有しうる。Rのアジド基(官能基C)と該電極表面に提示されているアルキニル基(官能基B)とを反応させると1,2,3-トリアゾール環が形成され、タンパク質又は病原体を認識する分子Rが電極表面に固定化される。
測定方法について
本発明の電極又は装置を用いて、目的のタンパク質又は病原体を検出することができる。本発明の電極を試料と接触させたとき、電極表面の素子がタンパク質又は病原体を認識する。このとき、電極に電位を印加すると、電流が観測できる。これをサイクリックボルタンメトリー又は電気化学インピーダンス測定法により測定することができる。
サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリーは電位を変動(掃引)させる手法を用いて行う。具体的には電極電位を初期電位(Ei)から掃引速度(v)で反転電位(Eλ)まで掃引した後逆転し、Eiまで戻したときに得られる電流を観測する。初期電位Eiを電極反応の起こらない電位に、また反転電位Eλを電極反応が拡散律速となるような電位に設定することで、電流電位グラフ(サイクリックボルタモグラム)を得ることができる。初期電位、掃引速度、反転電位等は適宜設定することができる。
この場合、既知の濃度又は量のタンパク質又は病原体サンプルについて、ピーク電流値を決定しておき、濃度又は量とピークの電流密度との関係をプロットした検量線を作成しておき、測定試料についてのピーク電流値から、当該試料中に含まれるタンパク質又は病原体の濃度又は量を算出することができる。
電気化学インピーダンス測定
電気化学インピーダンス測定にはポテンシオスタットに交流発信機を接続したものを使用する。ポテンシオスタットを使用して電極に直流の一定電位を印加し、交流発信機を使用して±5〜10mVの交流電位を重ねあわせて印加する。また、発信機からポテンシオスタットへ入力した交流と同じ位相の交流波をロックインアンプにも入力する。これにより流れる電流は直流電流と交流電流が合わさったものとなり、ロックインアンプは電流の交流成分と発信機からの交流を比較してインピーダンスと両者の位相差が出力される。発信機からの交流周波数を少しずつ変化させ、それぞれの周波数で得られるインピーダンスと位相差を元に複素数平面プロットなどを行う。
この場合、既知の濃度又は量のタンパク質又は病原体サンプルについて、ナイキストプロットにより電極のインピーダンス(電荷移動抵抗Rct)を決定して、濃度又は量とRctとの関係をプロットした検量線を作成しておき、測定試料についてのRct値から、当該試料中に含まれるタンパク質又は病原体の濃度又は量を算出することができる。
クロノアンペロメトリー
本発明の装置を用いた電気化学測定は、クロノアンペロメトリーにより行うこともできる。クロノアンペロメトリーでは、作用電極の電位をステップさせ、その際の電流の時間の変化を測定する。クロノアンペロメトリー測定は、0.1〜3.0V、0.5〜2.5V等の一定のステップ電位を印加して行うことができる。
この場合、既知の濃度又は量のタンパク質又は病原体サンプルについて一定印加電圧でクロノアンペロメトリー測定を行う。電圧印加後の一定時間における電流値を記録し、前記タンパク質又は病原体サンプルの濃度又は量と電流値との関係をプロットすることにより検量線を作成する。次に測定試料について当該電圧印加後の当該一定時間における電流値を測定し、これを前記検量線と対比することにより、被検試料溶液中のタンパク質又は病原体サンプルの濃度又は量を算出する。
本発明の方法の測定対象である被検試料は、特に限定されないが、例示すればあらゆる溶液、例えば生物学的試料、飲料水及びウイルス等の病原体又は毒素に汚染されている可能性のある溶液が挙げられる。生物学的試料としては、例えば唾液、痰、涙液、体液、血液、細胞破砕液等が挙げられる。試料の由来は特に限定されないが動物、哺乳動物、マウス、ラット、ヒト、鶏卵、細胞等が挙げられる。試料は1μL〜10mL、10μL〜1mL、20μL〜0.1mLなどとすることができる。試料は濃縮してもよく、そのまま測定に供してもよい。
本発明では測定のための溶媒は主として水系を用いる。測定を行う溶液には通常、支持電解質が含まれる。支持電解質はイオン性物質であり、特に限定されないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、硝酸カリウム、硫酸ナトリウムなどが挙げられる。好ましくは支持電解質はPBSである。
本明細書において、タンパク質が「検出」されるとは、目的のタンパク質以外のタンパク質又はウイルス若しくは細菌の混在する試料中で目的のタンパク質を特異的に測定できることをいう。また病原体が「検出」されるとは、目的の病原体以外のタンパク質又はウイルス若しくは細菌の混在する試料について目的の病原体を特異的に測定できることをいう。
本明細書ではウイルス量を、プラーク形成ユニット数(pfu)により表す。ある実施形態において、インフルエンザウイルスの量を記載する場合のpfuは、インフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)株を用いたときのものとする。pfuの計測法は単層培養したイヌ腎臓由来上皮細胞MDCK細胞にインフルエンザウイルスを加えた際に形成されるプラークを計測して見積もることができる。なお、これは便宜上の指標であって、当業者であれば、異なるインフルエンザウイルス株を用いたときの対応するpfuを適宜決定することができる。またpfu単位を適宜にng単位に換算してもよい。ある実施形態において、本発明の装置は、インフルエンザウイルスを高感度に検出することができ、例えば2pfu以上、5pfu以上、10pfu、20pfu以上、又は40pfu以上、1000pfu以下のインフルエンザウイルスを検出することができる。
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
略語について
本明細書において、以下の略語を用いることがある。
IFV:インフルエンザウイルス
HA:ヘマグルチニン
EIS:電気化学インピーダンス分光法
CV:サイクリックボルタンメトリー
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DCM:ジクロロメタン
PyBOP:ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸
DIEA:ジイソプロピルエチルアミン
PIP:ピペリジン
TFA:トリフルオロ酢酸
THPTA:トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン
TIS:トリイロプロピルシラン
TIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -:4-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸
α-CHCA:α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸
THF:テトラヒドロフラン
TBAF:テトラ-n-ブチルアンモニウムフロリド
Fmoc:9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基
AFM:原子間力顕微鏡
材料及び化合物
特に断らない限り、化合物、化学薬品は市販されているものをさらに精製することなく使用した。当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、記載する手順を改変することができる。
実施例1 ペプチド及びリンカーの合成
末端にアジドリジンLys(N3)を導入した2分岐型ペプチドデンドリマー(ARLPR)2-K-KN3をFmoc固相法を用いて合成した。ペプチドARLPR(配列番号1)はヘマグルチニン結合ペプチドである(特開2006−68020号公報)。固相法によるペプチド合成では、ペプチド樹脂(アミノ酸が固定化された固相支持体)に脱保護試薬を加え、N-α保護基を除く。そこに活性化したアミノ酸を反応させて、ペプチドの鎖長を次々に伸ばす。ペプチドのカルボキシ基末端はアミド化し、不要な電荷をなくした。また、LysをペプチドのC末端側に導入することで分岐構造を作り出した。図1にアジド基導入s2(1-5)ペプチドデンドリマーの固相合成のスキームを示す。
(A) 手付合成による樹脂へのLys(N3)の導入
反応カラム(PD-10,アマシャム)にFmoc-NH-SAL樹脂(渡辺化学、0.59mmol/g)169mg(0.1mmol)を投入した。これにDMF 2mLを加え、軽く振とうした後、アスピレーターでカラム下部からDMFを取り除いた。この操作を3回繰り返し樹脂を膨潤させた。
反応カラムに20%(v/v)PIP/DMFを2mL加え、1分後、アスピレーターで溶媒を取り除いた。同様に20%PIP/DMFを2mL注ぎ、15分間振とうし、溶媒を取り除いた。DMF 2mLを注いでアスピレーターで除く操作を4回繰り返して樹脂を洗浄した。これにより脱保護を行った。
反応カラムにFmoc-Lys(N3)-OH(EUROGENTEC GROUP ANA SPEC、53100-F025)117mg(0.3mmol)、PyBOP 156mg(0.3mmol)、DMF 2mL、DIEA 0.11mL(0.6mmol)を加え、1時間振とうした。これによりカップリング反応を行った。
1時間後、アスピレーターで反応溶液を除き、DMF 2mLを反応カラムに注いで軽く振とうした後アスピレーターで除く操作を4回繰り返した(洗浄)。さらに、DCM 2mLを加えアスピレーターで取り除く操作を4回繰り返した。反応カラムをデシケーターに入れ、真空ポンプで1時間乾燥させた。サンプルが十分乾燥したら4℃で保存した。
(B) アミノ酸導入率の定量
(A)で導入したFmoc-Lys(N3)-NH-SAL樹脂20mgをサンプル管に正確に秤量し、20%(v/v)PIP/DMFを2mL加え、室温で20分間反応させた。この上清をDMFで50倍希釈し、301nmの吸光度を測定した。ブランクの測定にはDMFを使い、Fmoc基の301nmにおけるモル吸光係数ε=7800より、以下の式からアミノ酸の導入率を計算した。
アミノ酸導入率(mol/g)
= (A301、1/50 - A301、DMF)× 50/7800 × (2×10-3) × (1000/20)
= (0.644 - 0) × 0.641 × 10-3
= 0.413 mmol/g
上記の(A)で作製したFmoc-Lys(N3)-NH-SAL樹脂のアミノ酸導入率を定量した結果、0.413mmol/gの導入率となった。
(C) ペプチドの伸長
PD-10 empty columns(17-0435-01、Amersham Biosciences)にFmoc-Lys(N3)-NH-SAL樹脂242mg(0.05mmol)を投入し、以下の(C-1)〜(C-4)の操作によってペプチドの伸長反応を行った(ペプチドが0.1mmolになる樹脂量を使った)。
(C-1) Fmoc基の脱保護
第一アミノ酸が導入された樹脂を121mg(0.05mmol)反応カラムに量り取った。反応カラムにDMF 2mLを加え、軽く振とうした後、アスピレーターでカラム下部からDMFを取り除いた。反応カラムにDMF 2mLを注いでアスピレーターで除く操作を4回繰り返した。反応カラムに20%(v/v)PIP/DMFを2mL注ぎ、1分後、アスピレーターで取り除いた。次に20%(v/v)PIP/DMFを2mL注ぎ、15分間振とうし、取り除いた。その後、DMF 2mLを注いでアスピレーターで除く操作を5回繰り返して樹脂を洗浄した。
(C-2) カップリング
反応カラムにFmoc-AA-OH(各0.3mmol)、PyBOP 157mg(0.3mmol)、DMF 2mL、DIEA 0.11mL(0.6mmol)を加え、40分間振とうした。アミノ酸はC末端側からリシン(Lys)→アルギニン(Arg)→プロリン(Pro)→ロイシン(Leu)→アルギニン(Arg)→アラニン(Ala)の順に導入した。40分後、アスピレーターで反応溶液を除き、反応カラムにDMF 2mLを注いで軽く振とうした後アスピレーターで除く操作を4回繰り返した。使用したアミノ酸を表1に示す。
Figure 0006893359
(C-3) カイザー試験
カイザー試験のための試薬(コード番号2590077、国産化学)を用いてカップリング反応を終えているかの判断を行った。樹脂をスパチュラで1mg程度取り、ミクロチューブに入れて試薬(1)ニンヒドリン/エタノール、(2)フェノール/エタノール、(3)KCN/ピリジンを各10μLずつ加えて蓋をし、ドライヤーで1分程加熱した。樹脂や溶液の色が青くなると未反応のアミノ基が残っていることになるため、同じアミノ酸でもう一度カップリング反応を行った。無色や黄色になった場合は反応終了と判断し、すべてのアミノ酸がカップリングするまで、上記の(C-1)〜(C-3)の操作を繰り返した。
(C-4) 脱保護
すべての伸長反応後、PD-10カラムに20%PIP/DMFを2mL注ぎ、スパチュラで軽く撹拌した後アスピレーターで20%PIP/DMFを取り除き、20%PIP/DMFを2mL注いで15分間振とうした後に取り除くことでFmoc基の脱保護を行った。そしてDMF 2mLを注いでアスピレーターで除く操作を5回、t-ブチルメチルエーテルを注いでアスピレーターで除く操作を2回繰り返した後にアルミホイルとパラフィルムでPD-10カラムを覆い、3時間真空乾燥させた。
(D) 切り出し(樹脂からのクリーベイジ及び脱保護)
合成した樹脂からペプチドを切り出すためにカクテル溶液を表2の組成で調製し、切り出しを行った。アジド基がチオールの還元作用によって分解されやすいため、チオールを含まない組成のカクテル溶液を用いた(P. E. Schneggenburgerら, J. Pept. Sci., 16, 10-14 (2010)参照)。
上記のカクテル溶液1mLをペプチドの入った反応容器に入れ、アジド基の熱、光による分解を防ぐために氷上、遮光の条件で2時間放置した(通常は遮光せずに室温で8時間放置する)。2時間後、反応容器の蓋を外し、容器の上部口から加圧して反応容器の中身を15mL遠沈管に落とし、TFA 200μLで2回共洗いした。冷ジエチルエーテル(過酸化物フリー)を2mL加え、沈殿ができることを確認した後10mLまでメスアップし、ボルテックスで撹拌した。続いて3500rpm、1分遠心後、上清を取り除いて再び冷ジエチルエーテルで10mLまでメスアップした。この操作を繰り返し、計5回行った。遠沈管に残ったペプチドのペレットにN2ガスを吹きつけて冷ジエチルエーテルを揮発させた(粗ペプチド)。
Figure 0006893359
(E) 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
15mL遠沈管に残っている粗ペプチド粉末にAN(アセトニトリル)300μLとMilli-Q(登録商標)水 100μLを加え、完全に溶解させた(75%アセトニトリル400μL)。シリンジと0.45μmフィルター(Millex-LH、4mm、code SLLH H04 NL、Millipore)を接続して不溶物を除去し、1.5mLチューブに回収した。再度、遠沈管に75%アセトニトリル400μLを加えて共洗いし、別の1.5mLチューブに回収した。
HPLCにはODS-3カラム((i)φ4.6×250mm、(ii)φ20×250mm、GLサイエンス)を用い、流速は(i)では1mL/分、(ii)では10mL/分とした。ペプチド溶液(共洗い溶液)を20μLインジェクトし、(i)のカラムを用いて決定した溶出条件を以下に示した。この際、30秒毎にフラクションを回収しマトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)を用いて分析を行った。
溶媒:A…0.1%TFA/H2O B…0.1%TFA/AN
勾配:B conc. 20% (10分) + B conc. 20→60% (20分) + B conc. 100% (10分)
波長:220 nm
決定した溶出条件で、(ii)のカラムを用いてペプチド溶液をHPLCにかけ、ピークを含むフラクションを15秒毎に回収し、MALDI-TOF MSを用いて目的のペプチドを含むものを分取し、凍結乾燥させて生成物を単離した。
(F) MALDI-TOF MS
MALDI-TOF MSは、Ultraflex(商標)(Bruker Daltonics)を用いて測定した。レーザー光源としてN2レーザー(337nm)を用いた。マトリックスにはα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-CHCA、Sigma)を用いた。α-CHCAは10mg/mLの割合で0.1%TFA/AN(3:2、v/v)に懸濁させ超音波照射した後、遠心分離しこの上清を用いた。キャリブレーションにはペプチドキャリブレーション標準(コード番号206195、Bruker)をプロトコールに従って希釈したものを用いた。
α-CHCA溶液4μLとHPLC後のフラクション溶液各2μLを2mLチューブに入れてピペッティングし、MALDIプレート上に2μL置いて風乾させた。キャリブレーションサンプルも同様に行った。Ultraflex(商標)では、リフレクトロンモードを使用しポジティブイオンモードで測定した。
合成した2分岐型ペプチドデンドリマー(Lot. 140607)はHPLC及びMALDI-TOF MSにて確認した。HPLCの分析結果は20〜25分の間にシャープなシングルピークが検出され、目的物が98%以上の高い純度であることが確認できた。また、MALDI-TOF MSでの分析結果では計算値との誤差が0.1%以下であり、目的物であることが確認できた(Exact Mass:1486.94、計算[M+H]+1487.95、測定[M+H]+1487.95;計算[M+Na]+1509.84、測定[M+Na]+1509.98)。このペプチドの収量は7.7mg、収率は10.8%、純度は>98%であった。以上の結果より、目的のアジド基導入ペプチドデンドリマーが得られたと判断した。
リンカー分子TIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -の合成
ダイヤモンド電極へのアルキニル基の提示に用いるリンカー分子TIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -(4-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸)を合成する。まずそのがしらカップリングにより末端アルキンとハロゲン化アリールとをクロスカップリングさせてアルキニル化アリール(芳香族アセチレン)を得る(S. Anderson, Chem. Eur. J. 7, 4706-4714 (2001)参照)。触媒にはパラジウム、銅、塩基を用いた。さらに電解グラフトを行うためにアミノ基をジアゾニウム化した。
実験方法
(A)そのがしらカップリングによるTIPS-Eth-Ar-NH2の合成
Figure 0006893359
三口フラスコ内の水分をヒートガンで蒸発させ、真空引きした後にアルゴン(Ar)で満たした。4-ヨードアニリン1.0g(4.57mmol)、トリエチルアミン10mL(71.7mmol、d=0.726g/cm3)を加えた。真空引きとAr充填をそれぞれ3回繰り返して脱気を行った後、Arを循環させながらヨウ化銅8.9mg(0.05mmol)、酢酸パラジウム20.3mg(0.09mmol)、トリフェニルホスフィン50.6mg(0.19mmol)の順にそれぞれ量り取って三口フラスコに加えた。さらにトリイソプロピルシリルアセチレン1.2mL(5.35mmol、d=0.813g/cm3)を加え、Arを充填して一晩撹拌しながら室温で反応させた。使用した試薬を表3に示す。
Figure 0006893359
セライトろ過
桐山ロートにろ紙を置き、セライトをロートに敷き詰め、ポンプで吸引しながらヘキサンをなじませた。フラスコ内の反応液をろ過し、ヘキサンで洗いこんだ。壁面について取れない反応固体は超音波処理にかけてヘキサンに溶解又は懸濁させ、ろ過した。ろ液の入ったナスフラスコをエバポレーターにかけ、ろ液を濃縮した(約2mL)。
シリカゲルカラムクロマトグラフィー
展開溶媒はヘキサン:酢酸エチル=10:1を用いた。シリカ(Silica gel 60、Merck)75ccを展開溶媒に分散させ、カラムに充填した。濃縮したろ液を海砂の上に静かに均一に加え、コックを開けて試験管で回収した。
薄層クロマトグラフィー(TLC)
試験管に回収した画分のTLCを行った。展開溶媒にはジクロロメタン:ヘキサン=1:1を使用した。TLC板(TLCシリカゲル60 F254、(105714、Merck Millipore))に原料であるヨードアニリン(Rf=0.29)をジクロロメタンに溶かした溶液、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行う前の溶液をそれぞれスポットし、展開後UV照射して確認した。次に試験管の溶液を順にTLC板にスポットして展開し、反応物(Rf=0.39)が確認できた範囲の試験管試料をナスフラスコに集めてエバポレーターで濃縮した(約2mL)。濃縮した反応液(TIPS-Eth-Ar-NH2)の入ったナスフラスコをポンプで減圧し1時間真空乾燥させた。収量を測定した後、1H-NMR測定を行った。
(B)ジアゾニウム化によるTIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -の合成
Figure 0006893359
TIPS-Eth-Ar-NH2のジアゾニウム化によるTIPS-Eth-Ar-NH2 +BF4 -の合成スキーム
あらかじめNaNO2 0.4g(6.0mmol)を2mLのH2Oに溶かし、4℃で冷蔵しておいた。(A)で得られたTIPS-Eth-Ar-NH2(1.1g、4.0mmol)が入ったナスフラスコをメタノール(MeOH)と液体窒素の入った浴槽に入れ、フラスコ内の温度が−5℃に下がるまで冷やした。ここにH2O 4mLを加え、分散するまでスターラーでよく混ぜた後、HBF4 3.36mL(16mmol、d=1.4g/cm3)を加えた。あらかじめ冷やしておいたNaNO2水溶液2mLを、フラスコ内の温度を−5〜−10℃に保ったまま数滴ずつ加えた。−5℃で20分撹拌した後、室温に戻して20分撹拌した。使用した試薬を表4に示す。
Figure 0006893359
吸引ろ過
NaBF4 4mg(36.4nmol)を80mLのH2Oに溶かし、5%NaBF4水溶液を調製した。洗浄溶液として用いる5%NaBF4水溶液、MeOH、ジエチルエーテル、H2Oはあらかじめ4℃で冷やしておいた。桐山ロートにろ紙を置き、吸引しながらH2Oでろ紙をなじませた。反応液をすべてろ過し、H2Oで洗浄した。5%NaBF4溶液、次いでMeOH、ジエチルエーテルの順に洗浄を行い、残りの反応物は超音波処理で回収した。ろ紙上の粉末を減圧したデシケーター内で1時間乾燥させた後、収量を測定した。
生成物の収量と収率、1H-NMRによる解析結果を下記に示す。
(A) TIPS-Eth-Ar-NH2
収量:1.01g(4.0mmol、Lot. 140801)
収率:87%
1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS):δ(ppm)=7.28(2H、d)、6.58 (2H、d)、3.78(2H、s)、1.11(2H、s)
Figure 0006893359
Figure 0006893359
(B) TIPS-Eth-Ar-N2 BF4
収量:0.11g(0.32mmol、Lot. 140826)
収率:8%
1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS):δ(ppm)=8.58(2H、d)、7.79(2H、d)、1.11(2H、s)
Figure 0006893359
Figure 0006893359
以上の1H-NMR解析から、TIPS-Eth-Ar-NH2に関し、各ピークのプロトン比が一致したことから、目的の化合物を合成することができた。またTIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -に関し、アミノ基由来の3.77ppmのピークが消失しており、他の各ピークのプロトン比が一致していたことから、同様に目的化合物の合成を確認できた。
実施例2 ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の作製
簡単に説明すると、マイクロ波プラズマを用いた化学蒸着によりSi基板へダイヤモンド膜を合成した。炭素源としてメタンを使用し、ホウ素源としてトリメチルボランを使用した。ドープするトリメチルボランの原料に占める濃度は0.3%w/wであった。表面形態は走査型電子顕微鏡を用いて特徴付けした。薄膜の品質はラマン分光法により確認した。このようにして作製したBDD電極を用いた。以下に、具体的に説明する。
気相合成法による導電性ダイヤモンド薄膜の作製
(A) Si基板の前処理
ダイヤモンド粉末が入ったシャーレにSi基板(直径5cm、厚み1mm)の鏡面が下向きになるように配置し、20分間Si基板を手で回転させて基板表面に傷をつけた。その後、Si基板を2-プロパノールの入ったビーカーに浸し、20分間超音波照射し洗浄した。最後にN2ガスで溶媒を揮発させ乾燥させた。
(B) Si基板上へのダイヤモンド膜の合成
マイクロ波プラズマを用いた化学的蒸着(CVD法、化学気相合成法)によるSi基板へのダイヤモンド膜の合成は、Plasma Deposition System(AX6500、セキテクノトロン株式会社)を用いて行った。原料気体にはメタン、トリメチルボラン、水素、酸素の4種類を用いた。ホウ素の仕込み濃度が0.3%w/wとなるように設定し、5時間反応させた。合成条件を表7に示す。
Figure 0006893359
ラマン分光法
532nm用共焦点ラマン光学顕微鏡(ST-BX51、セキテクノトロン株式会社)を用いて、成膜後の基板表面の化学結合状態を分析した。キャリブレーションにはナフタレンを用い、レーザー光を5秒間、5回照射させた。膜が均一に形成されていることを確認するため、ダイヤモンド電極上の任意の9箇所について分析を行った。
その結果、520cm-1付近ではホウ素‐ホウ素結合のピークが見られた。また1333cm-1付近ではsp3構造の炭素のラマンピークが観測された。一方、1560cm-1付近ではsp2構造の炭素のラマンピークが見られなかった。このことから純度の高いダイヤモンド膜が均一に合成されていると判断した。
SEM観察
走査型電子顕微鏡FE-SEM(JSM-7600F、日本電子株式会社)を用いて、ダイヤモンド膜の表面及び断面形状を測定した。超純水、エタノール、アセトンでそれぞれ5分ずつ超音波洗浄したダイヤモンド電極(Lot. 140530)を0.5cm四方に切断し、シリコングリース(信越化学工業)で試料台に固定した。加速電圧は表面観察では5.0kV、断面観察では2.0kVに設定して観察した。SEM観察により、多結晶BDDの合成を確認できた。
実施例3 ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)の修飾
以下に、電解グラフトによるアルキニル基の提示のスキームを示す。
Figure 0006893359
(A) 電極、溶液の準備
セル、Oリング、Pt線、ダイヤモンド電極をH2O、次いでエタノール(EtOH)、次いでアセトンの順に5分ずつ超音波処理した。まずメスフラスコにTBA・PF6を3.87g(0.01mol)量りとり、アセトニトリル(AN)を加えて100mMテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸(TBAPF6)溶液を作製した。図2に示すようにセルを組んだ。CV測定には三電極法(作用電極:ダイヤモンド電極、対電極:Pt、参照電極:Ag/AgCl)を用いた。
(B) リンカー分子とダイヤモンド電極の反応(電解グラフト)
メスフラスコにTIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -を18.6mg(0.05mol)量りとり、電解液TBAPF6/AN 5mL(100mM)に溶かして10mM TIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -溶液を作製した。この全量をセルに入れた。制御PCでは表8のように設定して、-0.7〜+0.6Vで5回サイクリックボルタンメトリー(電解グラフト)を行った。
Figure 0006893359
(C) トリイソプロピルシリル(TIPS)基の脱保護
測定終了後、まずセルにTHF 9.5mLを入れ、その後にTBAFのTHF溶液(1mol/L)0.5mLを入れ、20分静置してTIPS基を脱保護した(Y. R. Lerouxら, J. Am. Chem. Soc., 132, 14039-14041 (2010)参照)。
アジド基導入ペプチドの固定化
アルキニル基提示ダイヤモンド電極をMilli-Q(登録商標)水、EtOH、アセトンでそれぞれ5分ずつ超音波処理した。表9の組成でペプチド濃度が0.1mMとなるように反応溶液を調製し(ペプチド仕込み量100倍)、さらにそれをMeOH:H2O=1:1で0.1nMに希釈した反応溶液を調製した(ペプチド仕込み量0.01倍)。
それぞれの反応溶液にダイヤモンド電極を浸し、室温で24時間振とうしながら反応させた。24時間後に反応溶液を取り除き、Milli-Q(登録商標)水、EtOH、アセトンでそれぞれ数秒ずつ超音波処理した。N2ガスを吹き付けて電極を乾燥させ、シリカゲルの入った密閉容器に入れて4℃で保存した。
Figure 0006893359
反応後の電極は1mM K3[Fe(CN)6]/Na2SO4水溶液を調製して、各電極でサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を3サイクルずつ行って表面状態を確認した。さらにHAやIFVの溶媒であるPBSでもCV測定を3サイクルずつ行い、バックグラウンドの変化を確認した。加えてこれらの電極で接触角を観察し、表面の濡れ特性を調べた。
実施例4 ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極を用いたヘマグルチニンタンパク質(HA)及びインフルエンザウイルス(IFV)の検出
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定法
未修飾及びペプチド修飾BDD電極を用いたHAタンパク質の測定
図2にHA-ペプチド相互作用及びCV測定方法の模式図を示す。三電極法(作用電極:ダイヤモンド電極、対電極:Pt、参照電極:Ag/AgCl)を用いた。左がH1HAとの相互作用(15分)であり、右がPBS溶液中での測定である。
まずペプチド固定化電極(ペプチド仕込み量×0.01)でセルを組み、PBSでバックグラウンドを3サイクル測定した。その後、セル内に500nM HA/PBSを約60μL加えて電極部分が浸るように調節し、30分間相互作用させた。30分後、HA溶液を取り除いてPBSで3回洗い流し、PBSをセルに満たしてサイクリックボルタンメトリー測定を3サイクル行った。これら操作を電極上の場所を変えてもう一度行い、合計2箇所で相互作用を観測した。測定条件は下記表のものを用いた。
上記と同様にしてPBSで希釈した50〜500nMのHA溶液をそれぞれ30分ずつ相互作用させた。薄い濃度から順に相互作用させ、濃度を変える前にPBSで電極を洗浄しながら3サイクルずつCV測定を行った。測定条件は表10のとおりであった。
Figure 0006893359
結果を図3に示す。図3左はペプチド修飾されていないダイヤモンド電極を用いた場合の、溶液中のHA測定である。500nMのHA溶液では電流密度増大が観察された。図3右はペプチド修飾されたダイヤモンド電極を用いた場合である。1サイクル目で未修飾ダイヤモンド電極よりも顕著な電流密度増大が観察され、HAを検出することができた。2サイクル目以降では電流密度がPBSのみの場合とさほど変わらず、1サイクル目でHAタンパク質のほとんどを検出できていることが分かる。
未修飾及びペプチド修飾BDD電極を用いたIFVの測定
ペプチド固定化電極(ペプチド仕込み量×0.01)でセルを組み、3箇所でPBSによるバックグラウンドを3サイクル測定した。その後、200pfu/mLのウイルス溶液を1mL(200pfu)加えて電極部分が浸るように調節し、15分間相互作用させた。15分後、ウイルス溶液を取り除いてPBSで3回洗い流し、PBSをセルに満たして3箇所でサイクリックボルタンメトリー測定をそれぞれ3サイクルずつ行った。
結果を図4に示す。図4左はペプチド修飾されていないダイヤモンド電極を用いた場合の、溶液中のIFV測定である。200pfuのIFV溶液では電流密度増大が観察された。図4右はペプチド修飾されたダイヤモンド電極を用いた結果であり、未修飾ダイヤモンド電極よりも顕著な電流密度増大が観察され、IFVを検出することができた。このようにIFVを高感度に検出することができた。
電気化学インピーダンス(EIS)測定法
ペプチド修飾BDD電極を用いたEIS測定によるHA及びIFV検出
インピーダンス測定の条件はS. K. Aryaら, Sens. Actuators, B, 194, 127-133 (2014)に基づいて行った。
まず酸化還元物質の溶液を調製した。K3[Fe(CN)6] 0.164g(0.5mmol)、K4[Fe(CN)6] 0.211g(0.5mmol)をそれぞれメスフラスコに別々に量り取り、PBS 50mLに溶かして10mM K3[Fe(CN)6]/PBS及び10mM K4[Fe(CN)6]/PBSを調製した。これらを1:1(v/v)で混合し5mM [Fe(CN)6]3-/4-/PBSとした。
次に制御PCを表11のように設定した。初期電位(E Start)には作用電極・対電極・参照電極をそれぞれ取り付けた時にすでに発生している電位(自然電位)を用いるため、制御PCに表示される値を確認しながら随時入力した。サンプリング数(Frequency)、周波数領域(Frequency Scan)、振幅(Amplitude)などはS. K. Aryaら, Sens. Actuators, B, 194, 127-133 (2014)より決定した。
Figure 0006893359
CV測定と同様に三電極法(作用電極:ダイヤモンド電極、対電極:Pt、参照電極:Ag/AgCl)を用い、図2の模式図のようにセルを組んだまま各濃度のHA溶液を相互作用させた。まずペプチド固定化電極(ペプチド仕込み量×100)でセルを組み5mM [Fe(CN)6]3-/4-/PBSを加え、バックグラウンドを3サイクル測定した。その後PBSでセル内に、PBS(-)で希釈したHA溶液を約60μL加えて電極部分が浸るように調節し、15分間相互作用させた。15分後、溶液を取り除いてPBSで3回洗い流し、5mM [Fe(CN)6]3-/4-/PBSをセルに満たして3サイクル測定した。この操作をHA溶液(5〜500nM、それぞれ1〜100μg/mL)、IFV溶液(1〜140pfu)、ウシ血清アルブミン(BSA)溶液(5〜500nM)でそれぞれ行った。
ダイヤモンド電極を用いたHAのEIS測定結果を図5及び図6に示す。HAを特異的に検出できた。図6では、無関係のタンパク質BSA(対照)については濃度と応答との間に相関性が見られなかったのに対し、HAについての応答は濃度に良好に比例した。これらの結果からHAを高感度かつ特異的に検出できた。
ダイヤモンド電極を用いたIFVのEIS測定結果を図7に示す。40pfu以下でRctが線形に増加し、IFVを濃度依存的に検出できた。また0〜40pfuという少ないウイルス量の領域でも高感度に検出できた。
比較例1 グラッシーカーボン(GC)電極を用いたヘマグルチニンタンパク質(HA)及びインフルエンザウイルス(IFV)の検出
以下にグラッシーカーボン(GC)電極の修飾について説明する。
(1) アルキニル基の提示(電解グラフト)
グラッシーカーボン(GC)電極の表面上への、リンカー分子TIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -の固定化はダイヤモンド電極表面の場合と同様に行った。なお、GC電極の前処理として、表面の反応性を増すため電極表面の水素終端化を行った。これはダイヤモンド電極合成に使用したマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、GCの両面にプラズマを照射することにより行った。
(A) 電極、溶液の準備
セル、Oリング、Pt線、GC電極をH2Oとアセトンでそれぞれ5分ずつ超音波処理した。まずメスフラスコにTBAPF6を3.87g(0.01mol)量りとり、ANを加えて100mM TBAPF6溶液を作製した。図2に示すようにセルを組んだ。CV測定には三電極法(作用電極:ダイヤモンド電極、対電極:Pt、参照電極:Ag/AgCl)を用いた。
(B) リンカー分子とGC電極の反応(電解グラフト)
メスフラスコにTIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -を18.6mg(0.05mol)量りとり、電解液TBAPF6/AN5mL(100mM)に溶かして10mM TIPS-Eth-Ar-N2 +BF4 -溶液を作製した。この全量をセルに入れた。表12の測定条件にて、-0.7〜+0.6Vでサイクリックボルタンメトリーを5サイクル行った。
Figure 0006893359
(C) TIPS基の脱保護
上記(B)の電解グラフト後、THF 9.5mLとTBAFのTHF溶液(1mol/L)0.5mLを入れ、20分静置してTIPS基を脱保護した。
電解グラフトによるリンカー分子固定化をサイクリックボルタモグラムにより確認した。1サイクル目でのみ、-0.3V(vs Ag/AgCl)付近に還元ピークが見られるサイクリックボルタモグラムが測定できた。これより、電解グラフトによってグラッシーカーボン電極上にリンカー分子を固定できた。
さらに、リンカー分子の固定及びTIPS基の脱保護前後で、酸化還元物質であるフェロセンによるCV測定を行った。これよりリンカー分子の固定に加えて、脱保護も行われていることを確認した。
(2) ペプチドの固定化(ヒュスゲン環化付加反応)
アルキニル基を提示したGC電極をMilli-Q(登録商標)水、EtOH、アセトンで5分ずつ超音波処理した。 ペプチド仕込み量100倍(ペプチド濃度0.1μM)、又はペプチド仕込み量0.01倍(ペプチド濃度0.01nM)となるようにそれぞれ反応溶液を調製した(表13参照)。それぞれの反応溶液にGC電極を浸し、室温で24時間振とうしながら反応させた。24時間後に反応溶液を取り除き、Milli-Q(登録商標)水、EtOH、アセトンでそれぞれ数秒ずつ超音波処理した。N2ガスを吹き付けて電極を乾燥させ、デシケーター内で減圧状態にして保存した。
Figure 0006893359
未修飾のグラッシーカーボン(GC)電極及び修飾GC電極を用いたHAの検出
未修飾ダイヤモンド電極におけるHA溶液及びIFV溶液のCV測定では、どちらの溶液でも濃度依存的に1.0V(vs Ag/AgCl)における酸化電流値の増加が見られた。さらにHAでは、アミノ酸由来と考えられる酸化ピークも0.8V(vs Ag/AgCl)付近に現れた。そこでグラッシーカーボン(GC)電極でも同様のサンプルでCV測定を行い、電極の違いを比較した。
(1) 未修飾のGC電極を用いたHAのCV測定
未修飾のGC電極、セル、Oリング、Pt線をMilli-Q(登録商標)水及びアセトンでそれぞれ5分ずつ超音波処理した。セルを組み立て、PBSをセルに満たして表14の条件で測定し、電極のクリーニング(洗浄処理)を行った。次にPBS(-)約3mLをセルに加え、表14の測定条件で5サイクルCV測定を行った。PBS(-)を用いて段階希釈したH1型HA(A/New Caledonia/20/99(H1N1))溶液をそれぞれ約3mL用意し、50、125、250、375、500nM(10、25、50、75、100μg/mL)の順に、各濃度で3サイクルずつCV測定を行った。
Figure 0006893359
HA溶液の測定条件は0V(vs Ag/AgCl)から掃引を始め(E Start)、0V〜1.0Vまで(Vertex 1、2)、1サイクル(N Scans)測定を行った。E Stepsはデータ取得幅を表す。
(2) ペプチド修飾グラッシーカーボン電極を用いたCV測定
まずペプチド仕込み量0.01倍のGC電極でセルを組み、PBSでバックグラウンドを3サイクル測定した。その後、セル内に500nM HA/PBSを50μL加えて電極部分が浸るように調節し、30分間相互作用させた。30分後、HA溶液を取り除いてPBSで3回洗い流し、PBSをセルに満たしてCV測定を行った。これら操作を電極上の場所を変えて数箇所行い、相互作用を観測した。
上記(1)及び(2)の結果を図8に示す。図8左は未修飾のGC電極におけるHA溶液のサイクリックボルタモグラムである。未修飾のGC電極ではバックグラウンドが大きく、ダイヤモンド電極で見られたようなHAに由来する酸化電流を観測することができなかった。図8右はペプチド修飾GC電極を用いた場合のHAの測定結果である。HA相互作用前(PBS)と相互作用後を比較しても、サイクリックボルタモグラムの大きな変化は見られなかった。GC電極ではPBSによるバックグラウンドの大きさがダイヤモンド電極に比べて大きく(ダイヤモンド電極では0〜10μA/cm2程度)、HAに由来する酸化電流がバックグラウンドに埋もれて検出されなかったと考えられる。
未修飾のグラッシーカーボン(GC)電極及び修飾GC電極を用いたIFVの検出
(1) 未修飾のGC電極を用いたIFVのCV測定
10μLずつ分注して冷凍保存してあるIFV(A/PR/8/34(H1N1))を解凍し、2.5mLのPBSに溶解して4000pfu/mLとした。表14の条件でPBSによるバックグラウンドを3サイクル測定した後、20pfu、200pfu、4000pfu(101〜103オーダー)と大きく濃度を変化させ、それぞれ2.5mLをセルに入れ、同様にCV測定を3サイクル行った。
(2) ペプチド修飾されたGC極を用いたIFVのCV測定
まず電極1-3(×0.01ペプチド仕込み量)でセルを組み、PBSでバックグラウンドを3サイクル測定した。その後、セル内にIFV/PBSを約50μL加えて電極部分が浸るように調節し、30分間相互作用させた。30分後、IFV溶液を取り除いてPBSで3回洗い流し、PBSをセルに満たしてサイクリックボルタンメトリー測定を3サイクル行った。
上記の(1)及び(2)の結果を図9に示す。図9左は未修飾のGC電極におけるIFV溶液のサイクリックボルタモグラムである。未修飾のGC電極ではバックグラウンドが大きく、ダイヤモンド電極で見られたようなIFVに由来する酸化電流を観測することができなかった。図9右はペプチド修飾GC電極を用いた場合のIFVの測定結果である。0〜1.0V(vs Ag/AgCl)の範囲では、顕著な酸化電流は観測されなかった。IFV相互作用前(PBS)と相互作用後を比較しても、サイクリックボルタモグラムの大きな変化は見られなかった。GC電極ではPBSによるバックグラウンドの大きさがダイヤモンド電極に比べて大きく(ダイヤモンド電極では0〜10μA/cm2程度)、IFVに由来する酸化電流がバックグラウンドに埋もれて検出されなかったと考えられる。
ペプチド修飾GC電極を用いたEIS測定によるHA検出
酸化還元物質の溶液[Fe(CN)6]3-/4-/PBSを調製した。EIS測定の条件を表15に示す。
Figure 0006893359
CV測定と同様に三電極法(作用電極:ダイヤモンド電極、対電極:Pt、参照電極:Ag/AgCl)を用い、セルを組んだまま各濃度のHA溶液を相互作用させた。まずGC電極(ペプチド仕込み量100倍)でセルを組み5mM [Fe(CN)6]3-/4-/PBSを加え、バックグラウンドを3サイクル測定した。その後、PBSでセル内に5nM HA/PBSを50μL加えて電極部分が浸るように調節し、15分間相互作用させた。15分後、HA溶液を取り除いてPBSで3回洗い流し、5mM [Fe(CN)6]3-/4-/PBSをセルに満たして3サイクル測定した。この操作をHA濃度5、50、125、250、375、500nM(それぞれ1、10、25、50、75、100μg/mL)でそれぞれ行った。
結果を図10に示す。図10左は各周波数におけるインピーダンスをプロットしたナイキストプロットを示しており、ここから電荷移動抵抗Rctを半円の半径として近似し、解析した結果を図10中央に示す。GC電極を用いたEIS測定においても、HA濃度依存的にRct値が増加した(図10左及び中央)。しかしRct値の増加は線形にはならなかった(図10右)。さらにBSAでも同じ実験を行い、Rct値の変化の様子をHAと比較した(図10右)。BSAとの相互作用と有意な差が見られなかった上に、低濃度域ではBSAの方がRct値が大きくなった。以上よりGC電極によるペプチド固定化電極では、HAとBSAが有意に判別できなかった。
比較例2 ELISA法によるインフルエンザウイルス検出
ペプチドs2(1-5)をインフルエンザウイルス認識デバイスとして用いた。簡単に説明するとアミノ酸5残基を有するペプチド(配列番号1)に脂質を結合したペプチド脂質を合成した。このペプチド脂質を用いてペプチド脂質膜を形成させた。このペプチド脂質膜とインフルエンザウイルスとの相互作用をELISA法にて評価した。
まず、アジド基を導入した5残基のペプチド(配列番号1)とアルキニル基を導入したDPPE(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン)をヒュスゲン環化付加反応によって結合し、ペプチド脂質(以下pep-DPPEという)を合成した。
次に、合成したpep-DPPEを用いてペプチド固定化膜を作製した。水面にpep-DPPEやジオレオイルホスファチジルコリン(以下DOPC)などの脂質分子をラングミュア型トラフを用いて気−液界面に展開し圧縮した。そこに1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン(以下POPC)被覆マイカを沈めてペプチド固定化膜を作製し、そのペプチド固定化膜の形成を液相中での原子間力顕微鏡(AFM)観察によって確認した。この脂質をプラスチックプレートに累積してペプチド固定化膜を形成し、そこにインフルエンザウイルスを室温で1時間相互作用させ、ELISA及びPCRによってペプチド脂質膜とインフルエンザウイルスとの相互作用を評価した。
プラスチックプレート上に作製したpep-DPPE/DOPC(50:50)混合膜(ペプチド固定化膜)とH1N1、H3N2インフルエンザウイルスを室温で1時間相互作用させ、そこに一次抗体、HRP標識した二次抗体を作用させ、吸光度を測定した。
結果を図11に示す。縦軸が492nmでの吸光度、横軸がウイルス量(pfu)である。図11より、H1N1では1600pfu(左)、H3N2では440pfu(右)のウイルスを相互作用させた時にコントロールとの差が見られた。すなわち、上記ペプチドs2(1-5)(配列番号1)を用いたELISA測定では、H1N1ウイルスの検出限界が1600pfu、H3N2ウイルスの検出限界が440pfuであった。
実施例5 BDD電極を用いたIFVの検出
1. ペプチド修飾BDD電極及びLys修飾BDD電極の作製
(1) ペプチド修飾BDD電極
実施例3に記載の方法により作製したアルキニル基を提示したダイヤモンド電極を、下記の表の組成にて調製したクリック反応溶液に浸し、室温で一晩振とうしながら反応させた。表中、TBTAは反応促進剤であり、ペプチドは1μM(×100)、溶媒は水のみであった。この条件でのBDD電極表面上のペプチド固定化密度は3.6pmol/cm2であった。その後、反応溶液を取り除き、Milli-Q(登録商標)水中で数秒超音波処理を行い、次いでN2ガスを吹き付けて電極を乾燥させ、シリカゲル入りの密閉容器内で4℃にて保存した。
Figure 0006893359
(2) Lys修飾BDD電極
表16に記載のペプチドの代わりにFmoc-Lys-(N3)(MW: 390.0)を同じ濃度にて含むクリック反応溶液を作製した。アルキニル基を提示したダイヤモンド電極を、このクリック反応溶液に浸し、室温で一晩振とうしながら反応させた。その後、20%PIP/DMFを約5mL加えて脱Fmoc処理を行なった後、反応溶液を取り除き、DMFおよびMilli-Q(登録商標)水中でそれぞれ数秒ずつ超音波処理を行った。次いでこれにN2ガスを吹き付けて乾燥させ、得られた電極をシリカゲル入りの密閉容器内で4℃にて保存した。
2. EIS測定法
実施例4に記載の手順にてEIS測定を行った。EIS測定条件は表11に記載のとおりである。IFV溶液(1〜140pfu)として、IFV H1N1及びIFV H3N2についてEIS測定を行った。
3. 結果
結果を図12に示す。左がIFV H1N1亜型、右がIFV H3N2亜型の結果である。上記の手順にて作製したペプチド修飾BDD電極を用いてIFVのEIS測定を行ったところ、H1N1亜型およびH3N2亜型の両方でシグナルが見られ、幅広いウイルスpfuについて効果的にウイルスが検出できた。
これらの結果から、ペプチドが結合できるウイルスであれば同様に本発明の方法及び装置を用いて検出することができる、と当業者であれば理解する。
実施例6 4分岐修飾ペプチド修飾電極によるIFV検出
次に4分岐型ペプチドを用いた。4分岐型ペプチド((ARLPR)2-K)2-KN3の構造は次のとおりである。
Figure 0006893359
4分岐型ペプチドの合成方法
4分岐型ペプチド((ARLPR)2-K)2-KN3の合成は以下の手順で行った。自動ペプチド合成装置PSSM-8システム(島津製作所)を用いて残基の伸長を行った。反応容器にFmoc-Lys(N3)-NH-SAL-樹脂(アミノ酸導入率0.38mmol/g)を13mg(5μmol)加え、リアクションベッセルインサートを挿入した。試薬(Fmoc-AA-OH, HOBt/DMF, NMM/DMF, PIP/DMF)と反応容器をセットし、アミノ酸の伸長を行った。
アミノ酸伸長後、アスピレーターで反応溶液を除き、DMF 1mLを反応カラムに注いで軽く振とうした後アスピレーターで除く洗浄操作を4回繰り返した。さらに、メタノール1mLを注いでアスピレーターで除く操作を5回、t-ブチルメチルエーテルを1mL注いでアスピレーターで除く操作を2回繰り返した。アルミホイルとパラフィルムで反応カラムを遮光して、3時間真空乾燥させた。
<クリーベイジ(切り出し)>
まずカクテル溶液をTFA 950μL、TIS(トリイソプロピルシラン)25μL、H2O 25μLの組成で調製した。これをペプチドの入った反応カラムに入れ、氷上、遮光の条件で2時間反応させた。その後、反応カラムの蓋を外し、容器の上部から加圧して反応カラムの中身を15mL遠沈管に落とし、TFA 200μLで2回共洗いした。冷ジエチルエーテル(過酸化物不含)を2mL加えて沈殿ができることを確認した後、10mLまでメスアップし、ボルテックスで撹拌した。続いて3500rpm、1分間遠心後、上清を除いて再び冷ジエチルエーテルで10mLまでメスアップした。この操作を5回繰り返した。遠沈管に残ったペプチドのペレットにN2ガスを吹きつけて冷ジエチルエーテルを除去し、粗ペプチドを得た。
<大量精製>
分取用のODS-3(φ20×250mm)カラムを用いて、HPLCによる分析結果より決定した以下の溶出条件で分取を行った。また、このとき流速を10mL/min、回収を0.25 min/tubeとした。
Gradient:B conc. 0 % /0→10 min、0→100 % / 10→30 min、100 % /31→50 min (洗浄)
HPLCにより分取した各画分(0.25min/tube)について、MALDI-TOF MS分析装置を用いて目的のペプチドが得られているか確認した。目的のペプチドを含む画分を凍結乾燥し、HPLC、MALDI-TOF MS装置(UltraflexTM, Bruker Daltnics))による最終分析を行い収量を求めた。HPLCの結果を図13に示す。収量: 5.7mg(2回分合計、1.9μmol)、収率:19%、純度:>97%、質量の測定値 2932.30([M+H]+、理論値2929.91)。
1. ペプチド修飾BDD電極の作製
次に、上記のようにして得られた4分岐型ペプチド((ARLPR)2-K)2-KN3を用いて実施例5と同様の手順でペプチド修飾BDD電極を作製した。4分岐型ペプチドとBDD電極との反応は表16の条件で行った。但し(ARLPR)2-K-KN3の代わりに((ARLPR)2-K)2-KN3を1μMにて用いた。
2. EIS測定法
得られた4分岐型ペプチド修飾BDD電極を用い、実施例4に記載の手順にて、EIS測定を行った。EIS測定条件は表11に記載のとおりである。IFV溶液(1〜140pfu)として、IFV H1N1についてEIS測定を行った。
3. 結果
4分岐型ペプチド修飾BDD電極を用いてIFVのEIS測定を行った場合にも、実施例5と同様にシグナルが観察されインフルエンザウイルスを検出することができた。
まとめ
以上より、本発明の装置を用いることで20pfuのインフルエンザウイルスや3pfuのインフルエンザウイルスを検出することができた。アルブミンのような生体に存在するタンパク質の非特異的な結合は見られず、従来法で必須となっている増感剤標識抗体を用いることなく、高感度な検出が可能であった。比較例としてGC電極を用いたところ、ノイズが大きくインフルエンザウイルスの結合は検出できなかった。また他の比較例としてELISA法を用いたところ、インフルエンザウイルスは検出限界が1600pfu又は440pfuであった。こうした比較例の結果からも、本発明の導電性ダイヤモンド電極の有用性が示された。
配列の簡単な説明
配列番号1 ペプチドs2(1-5) (ARLPR)
配列番号2 ペプチドs2 (ARLPRTMVHPKPAQP)
配列番号3 GLAMAPSVGHVRQHG
配列番号4 GLAMAPSVGHVRQHG (ただし配列中のセリン残基はO-グリコシド結合を介してN-アセチルガラクトサミンにより修飾されているものである)
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (7)

  1. 病原体タンパク質又は病原体を認識する素子が表面に固定化された導電性ダイヤモンド電極、ここで、前記病原体タンパク質又は病原体を認識する素子は、病原体タンパク質又は病原体を認識する分子及びリンカー部分を有し、前記病原体タンパク質又は病原体を認識する分子は、病原体タンパク質を認識するペプチドを含み、該病原体タンパク質又は病原体を認識する分子が該リンカー部分を介してダイヤモンド電極の表面に固定化されている、前記電極
  2. 病原体タンパク質又は病原体を認識する素子が、インフルエンザウイルス、DNAウイルス、RNAウイルス、2本鎖DNAウイルス、1本鎖DNAウイルス、2本鎖RNAウイルス、1本鎖RNA(+)鎖ウイルス、1本鎖RNA(−)鎖ウイルス、1本鎖RNA逆転写ウイルス、2本鎖DNA逆転写ウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルス、アデノウイルス、口蹄疫ウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、マイコプラズマ菌、ボツリヌス菌、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、病原性大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、ウェルシュ菌又はセレウス菌を認識する素子である、請求項1に記載の電極。
  3. 病原体タンパク質又は病原体を認識する素子が、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質(HA)、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)、M1タンパク質若しくはM2タンパク質、マイコプラズマ細菌のP1タンパク質、膜抗原タンパク質若しくはリボソームタンパク質L7/L12、ボツリヌス毒素、百日咳毒素、破傷風菌毒素、ジフテリア毒素、ウェルシュ菌のα毒素、コレラ菌毒素、ベロ毒素、炭疽菌毒素、大腸菌由来エンテロトキシン、ブドウ球菌由来エンテロトキシン、サルモネラ菌由来エンテロトキシン又はセレウス菌由来エンテロトキシンを認識するペプチドを有する、請求項1又は2に記載の電極。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の電極を備えた、病原体タンパク質又は病原体を検出する装置。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載の電極又は請求項に記載の装置を用いた、病原体タンパク質又は病原体を検出する方法。
  6. サイクリックボルタンメトリー測定又は電気化学インピーダンス測定により病原体タンパク質又は病原体を検出する、請求項に記載の検出方法。
  7. リンカー分子を導電性ダイヤモンド電極の表面に固定化する工程、及びリンカー分子と病原体タンパク質又は病原体を認識する分子とを連結する工程を含み、それにより導電性ダイヤモンド電極の表面に、該病原体タンパク質又は病原体を認識する分子を固定化して病原体タンパク質又は病原体を認識する素子を形成する工程を含む、病原体タンパク質又は病原体検出用導電性ダイヤモンド電極の製造方法、ここで、前記病原体タンパク質又は病原体を認識する素子は、病原体タンパク質又は病原体を認識する分子及びリンカー部分を有し、前記病原体タンパク質又は病原体を認識する分子は、病原体タンパク質を認識するペプチドを含む、前記製造方法
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