JP6888791B1 - エアモルタルの製造方法及び二液性可塑状グラウト注入工法 - Google Patents

エアモルタルの製造方法及び二液性可塑状グラウト注入工法 Download PDF

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Abstract

【課題】生コン工場からミキサー車で現場に搬送されたエアモルタルの水和反応を抑制して現場施工時の流動状保持時間を長くすることができるエアモルタルの製造方法及び二液性可塑状グラウト注入工法を提供する。【解決手段】エアモルタルFと硫酸バン土(水溶液G)を混合して可塑状グラウトHを生成するのに用いられるエアモルタルの製造方法であって、生コン工場1で調合され、ミキサー車で現場に搬送する間に水和反応が進行継続したモルタルCに、現場でトリポリリン酸ナトリウム粉末Dを粉末状態のまま添加することにより、気泡消失時間よりも流動状保持時間が短くなるように調整する。【選択図】図1

Description

本発明は、セメント水和反応を抑制するエアモルタルの製造方法及びその製造方法で製造されたエアモルタルを用いた二液性可塑状グラウト注入工法に関するものである。
従来、既設構造物の背面に発生した空洞、防空壕や地盤内の空洞に充填して補修するグラウトには、安価で入手が容易であるセメントと砂と水と起泡剤の4成分からなるエアモルタルが使用されている。
しかし、この一液性で流動性のエアモルタルは、水に希釈され易く、水に接した場合には、気泡が消失して体積が減少し、材料分離(粗粒子の沈降)が生じる。また、流動性であるため遠方まで逸走するため目的の範囲に限定させることができない等の難点がある。
このような一液性のエアモルタルの問題点を解決した二液性のグラウトが発明された(特許文献1)。この特許文献1記載のエアモルタルを用いたグラウトは、可塑状グラウトと称し、A液は従来のエアモルタルに、B液に可塑剤として、硫酸バン土を混合すると瞬時に反応して可塑状固結(静止状態では自立しているが、ごくわずかな加圧で容易に流動化する固結強さ(例えば、マヨネーズ状))を有する可塑状グラウトに属する。
この二液性グラウトは、水に希釈されることなく、材料分離を起こさず、限定注入が可能であり、空洞充填グラウトとして最適の条件を備えている。このため、既設トンネル等の補修・補強グラウトとして現在では広く使用されている。
[モルタル製造方式]
A液のモルタルの製造には、現場製造方式と、生コン取り方式があるが、本発明は、後者の生コン取り方式を採用している。
現場製造方式は、現場プラントで、砂、セメント及び水を現場で調合、混練りするが、特に、砂はショベルローダーで計量器に入れ、ベルトコンベアを経てミキサー(混合槽)に入れるという工程であるため、多くの設備を要し、大変な作業となる。また、多量注入では、別にサイロを設置することになる。特に、砂の水分量は、一定でないため、その都度調整する必要があり、充分な管理が求められる。
この現場でのモルタルの製造を省くため、現場近くに生コン工場がある場合は、生コン取り方式を採用することが多い。この生コン取り方式は、生コン工場にモルタル配合を指示してモルタルを製造し、ミキサー車で現場プラントまでモルタルを搬入する方法である。
しかし、現場から生コン工場までの距離、ミキサー車の交通事情等により、到達時間は異なるが、平均して1.5時間を目安としている。この1.5時間内は、セメント水和反応が常に進行・継続されている。
この継続中のセメント水和反応を抑制する方法は、生コン工場で水に遅延剤を溶かした後にセメント、砂を投入する方法が考えられるが、生コン工場は主にコンクリート製造であり、特定のモルタルに遅延剤を添加することはできない。
また、モルタルを搬送するミキサー車は、現場で水洗いして、洗い水は、生コン工場に戻すため、ここでも遅延剤は使えない。一方、現場でのモルタル製造では、調合後、充分な流動状保持時間(約2時間)があるため、あえてトリポリリン酸ナトリウム等の遅延剤を使用しなくてもよい。
しかし、特許文献2のCB液(セメントベントナイトのA液)と、水ガラス(B液)と組み合わせた二液性可塑状グラウトでシールド裏込注入に使用する場合、CB液の圧送時間(流動状保持時間)を8〜70時間と極端に長くするには、トリポリリン酸ナトリウム(縮合リン酸塩)と有機遅延剤を併用している(特許文献2の明細書の段落[0042]参照)。また、CB液の調合は、ベントナイトの膨潤(ミキサーで2〜3分撹拌)とセメントの投入を2段階に分けて調合している(特許文献2の明細書の段落[0052]参照)。
そして、トリポリリン酸ナトリウムの添加は、ベントナイト投入の前でも後でもよいとし、さらにセメントの投入後でも構わないと記載されている。しかし、このCB液の調合は、現場のプラントでミキサー内に水を計量した後、一連の工程で連続的に行うため、セメント投入後の場合は、トリポリリン酸ナトリウムの添加は、直後(時間差はほとんどない)に行うことは当然である。
さらに、特許文献3には、セメントミルクの調合方法(特許文献3の明細書の段落[0044])において、トリポリリン酸ナトリウムの添加は、ミキサー内に水を計量した後、セメントを投入する前が好ましい。しかし、セメントの投入と同時か、又はセメント投入後直ちに添加してもよいと記載されている。
以上のいずれの特許文献も現場のプラントでミキサー内に水を計量した後、一連の工程で行うため、短時間で調合するものである。なお、使用するトリポリリン酸ナトリウムが粉末であるとの記載はない。
[改良すべき問題点]
セメントに水を加えると直ちに水和反応が起こり、時間の経過とともに、粘性が増大し、流動性を失い、約2時間で凝結が開始される。この凝結開始時間までが充分な流動状保持時間と言われている。
一方、生コン工場で製造したモルタルが現場に到達するまで約1.5時間とすると、実際に利用できるのは、0.5時間強と大きく制約され、施工上難点とされている。この問題を解決して少なくとも現場でモルタルを製造した時の流動状保持時間と同等の2時間又はそれ以上の時間を確保することが施工上望ましい。
[解決すべき手段]
上述の継続中の水和反応を抑制でき、且つ、気泡の消失や材料分離(粗粒子の沈降)を低減できる化合物としてトリポリリン酸ナトリウム粉末が施工上にも有効な方法であることを見出した。
この生コン取り方式のモルタルの難点を取り除いた継続中のセメント水和反応を抑制して流動状保持時間を長くできることが最大の特徴であるモルタルの製造方法及びそのエアモルタルの注入方法を提供するものである。
以上のように、生コン取り方式では、ミキサー車で現場まで搬送してくる間もセメント水和反応が進行・継続中であるため、施工時のモルタルの流動状保持時間が大幅に短縮され施工時間が制約されるという問題点があった。この問題点を解決できずに、空洞等にエアモルタルを用いたグラウト(可塑状グラウト)を注入しているのが実情である。
特許第1862820号公報 特許第5819557号公報 特許第5946000号公報
三木五三郎・下田一雄著、「可塑状グラウト注入工法」、日刊建設工業新聞社、2001年7月20日、P103〜104、図5.13
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために案出されたものであり、その目的とするところは、生コン工場からミキサー車で現場に搬送されたモルタルの水和反応を抑制して現場施工時の流動状保持時間を長くすることができるエアモルタルの製造方法及び二液性可塑状グラウト注入工法を提供することにある。
請求項1に係るエアモルタルの製造方法は、エアモルタルと硫酸バン土を混合して可塑状グラウトを生成するのに用いられるエアモルタルの製造方法であって、生コン工場で調合され、ミキサー車で現場に搬送する間に1.5時間経過して水和反応が進行継続したモルタルに、現場で回転撹拌した状態でトリポリリン酸ナトリウム粉末を粉末状態のまま0.5kg以上2.0kg以下添加するとともに、起泡剤液を自動発泡機を通過させて生成した気泡を混入して、気泡消失時間よりも流動状保持時間が短くなるように流動状保持時間を1.5時間以上3.0時間以内の範囲に調整することを特徴とする。
第1発明によれば、生コン工場からミキサー車で現場に搬入された生コン取り方式のエアモルタルの水和反応を抑制して流動状保持時間を長くするとともに、気泡粒子、セメント粒子、及び細骨材粒子の沈降を低減させることができる。
また、第1発明によれば、綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムが生成され、生成されたトリポリリン酸カルシウムでセメント粒子及び砂粒子の表面を包含するので、エアモルタルの水和反応が抑制され、エアモルタルの圧送距離を長くすることができるとともに、エアモルタルの流動状保持時間を長くした遅延効果を発揮することができる。
その上、第1発明によれば、トリポリリン酸カルシウム混和モルタルからエアモルタルを製造するので、気泡粒子の消失と材料分離(粗粒子の沈降)を低減する効果を発揮することができる。
図1は、本発明の実施形態に係るエアモルタルの製造方法及びそのエアモルタルを用いた二液性可塑状グラウト注入工法を示す模式図である。
以下、本発明の実施形態に係るエアモルタルの製造方法及びその製造方法で製造されたエアモルタルを用いた二液性可塑状グラウト注入工法について説明する。本実施形態に係るエアモルタルの製造方法では、上述の生コン取り方式で生コン工場からミキサー車で現場に搬送されたモルタルを用いて現場において製造する。
[水和反応]
先ず、セメントの水和反応について説明する。セメントの組成分は、主にケイ酸石灰塩、アルミン酸石灰塩、アルミン酸鉄石灰塩であり、他に約1(重量)%のフリーライム(CaO)が含まれている。このうち、フリーライム(CaO)が、水に接した瞬間に反応して水酸化カルシウム(Ca(OH))を生成・溶出し、高アルカリ性(pH約12)を呈する(この反応はセメント水和反応ではない)。同時に、上記各石灰塩粒子(セメント)の表面から水が漸次内部に浸透していき、水和反応が継続(進行)して起こり、時間の経過とともに、粘性が増大して流動性を失う。約2時間経過時の凝結の始発時間で発熱し、約3.5時間経過時に凝結の終結を迎え、硬化過程(コンクリートの場合)に入り、硬化する。
この水和反応の一連の過程の中で、水を投入してから凝結始発までの時間が、エアモルタルなどのセメント系硬化材が充分な流動性を保持する時間として流動状保持時間と称されている。
上述のように、生コン取り方式の場合、生コン工場でモルタルが製造されてミキサー車で現場に搬入されるまでの時間は、一般的に約1.5時間を要するので、施工上実際に使用できるモルタルの流動状保持時間は、0.5時間強しか残されておらず、大幅に制限されるという難点がある。しかし、現状では、この難点を解決できずに、残された流動状保持時間内にモルタル等を注入して実施しているのが実情である。
[トリポリリン酸ナトリウムとの反応]
トリポリリン酸ナトリウムは、一般に遅延剤として知られる物質であり、セメント水和反応が1.5時間程度進行・継続した時点で添加されることは、技術的にみても今まで実施されていないものである。しかし、本実施形態に係るエアモルタルの製造方法では、生コン取り方式のモルタルを使用するが故に、このような手法を採用することとなったものである。
先ず、トリポリリン酸ナトリウムについて説明する。トリポリリン酸ナトリウムは、商品としては粉末で市販されている。しかし、トリポリリン酸ナトリウム粉末を水に溶かして、生コン取り方式のモルタルに使用するには次の問題がある。
トリポリリン酸ナトリウムの溶解度は、水に対して12%(20℃)であり、冬期の水温を考慮すれば、約10%程度であり、水に溶けにくい。また、トリポリリン酸ナトリウムが添加される量も比較的多く、例えば、1m当たりのモルタルに3kg溶かす場合は、30L(リットル)の水を使用することになり、そのための設備が必要となる。
さらに、トリポリリン酸ナトリウムの量の違いにより、モルタルの配合水が異なるため、その都度調整しなければならないという難点がある。これに対して、本発明は、粉末でそのまま使用するため、次のような利点がある。
1)トリポリリン酸ナトリウムを粉末でそのまま使用すると、使う量(容積比)が少なく、モルタルの調合水の調整もしなくてもよくなる。
2)ミキサー車で現場に搬入したモルタルは、現場プラントに設置されたモルタル受けミキサー内に投入され、そのモルタル受けミキサーに、トリポリリン酸ナトリウム粉末が粉末状態のまま投入される。投入されたトリポリリン酸ナトリウム粉末は、多量のセメント粒子及び砂粒子が回転するモルタル受けミキサー内でこれらの粒子と回転接触することにより、速やかに溶解することとなる。以上の理由から、本実施形態に係るエアモルタルの製造方法では、トリポリリン酸ナトリウム粉末を、そのまま現場に設置されたモルタル受けミキサーに投入することとしている。
次に、セメント水和反応を継続中のモルタルとトリポリリン酸ナトリウム粉末との反応について説明する。上述のように、モルタル受けミキサー内で粉末から速やかに溶解されたトリポリリン酸ナトリウムは、後述の実験等から明らかなように、モルタルから溶出した水酸化カルシウムと反応して、綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムが生成される。この生成されたトリポリリン酸カルシウムは、多量の水中では、かき混ぜると、液中にふわっとした浮遊状態となり、その後ゆっくりと沈降する。この生成物が水和反応の抑制と粒子の沈降の低減に大きく影響を及ぼしているものと推測される。
その理由として、モルタル中のセメントから水酸化カルシウム[Ca(OH)]が溶出され、水和反応を起こすことが阻害されるものと推測される。つまり、生成された綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムがセメント粒子表面を包含することにより、セメント粒子から溶出する水酸化カルシウムと反応し、その後の水酸化カルシウムの溶出を弱め水和反応を抑制する。このことにより、流動状保持時間を長くする遅延効果を発揮するものと考えられる。
また、同時に、セメント粒子、細骨材粒子(砂粒子)、及び後述の気泡粒子間を含めて包含するため、粒子の沈降を低減させる効果を発揮する。なかでも、気泡粒子表面を不溶性白色トリポリリン酸カルシウムが包含しているため、気泡が強くなり、気泡の消失を低減する効果を発揮する。
さらに、エアモルタルの場合は、生成物が気泡周囲を包含するため、気泡を保護し、エアモルタルからの気泡の消失を遅延させる効果も発揮する。
[エアモルタルの流動状保持時間と気泡消失時間]
本実施形態に係るエアモルタルの製造方法では、生コン工場でモルタルを製造し、ミキサー車で現場プラントに投入するまでの時間が1.5時間程度経過したセメント水和反応が進行・継続中のモルタルに、トリポリリン酸ナトリウム粉末を添加して水和反応を抑制する。これにより、流動状保持時間を長くして、充分な施工時間を確保し、さらに長距離圧送を可能としている。
一方、エアモルタル中の気泡は、時間の経過とともに弱くなり、ついには消失して体積減少やセメント、砂粒子が沈降して材料分離を引き起こし、エアモルタルとしての機能が失われる。
本実施形態に係るエアモルタルの製造方法では、上述のように、トリポリリン酸ナトリウムとモルタル中の水酸化カルシウムが反応して生成された綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムが気泡粒子表面を包含することとなる。これにより、気泡を強くして気泡消失時間を長くする作用効果を発揮することができる。それでも、気泡消失時間は4時間程度である。
これに対して、エアモルタルの流動状保持時間は、気泡消失時間よりも長くすることは可能であるが、気泡が消失した後のエアモルタルは、基のモルタルになる。これにより、本実施形態に係るエアモルタルの製造方法では、エアモルタルの有効な流動状保持時間は、気泡が消失する以前までであることが、絶対的な条件となる。
[混和材(剤)]
本実施形態に係るエアモルタルの製造方法に係るモルタル及びエアモルタルに使用できる混和材には、砂、起泡剤、可塑剤等があり、以下に、これらの混和材について説明する。
(砂と起泡剤)
セメントと砂と水とだけからなるモルタルは、流動性、充填性等施工性に難点があり、施工性を改善するため起泡剤で発泡させてエアモルタルが使用されることが多い。一般に使用する砂は、細目砂である。
このエアモルタルは、起泡剤水溶液を自動発泡装置で発泡させて気泡を作り、別にトリポリリン酸ナトリウム粉末を添加したモルタルに混合することにより製造される。モルタルに混入させるエア量は、目的により異なるが、後述の可塑剤として硫酸バン土を用いる二液性可塑状グラウトでは、例えば、エアモルタル1m当たりセメント300kg、砂600kg、起泡剤1.12kg(動物性蛋白質の場合)、エア量38%で残りが水の配合である。起泡剤には、動物性蛋白質と界面活性剤とがあり、目的に合わせて使い分けられている。
(可塑剤)
次に、可塑剤として硫酸バン土を含有するB液について説明する。本発明の実施形態に係るエアモルタルの注入方法は、二液性可塑状グラウト注入工法であり、B液として上述の一液性のエアモルタルに加える可塑剤として硫酸バン土が使用されている。
硫酸バン土(硫酸アルミニウム)は、弱酸性(pH2〜3程度)の粉末状又は水和物(液体)からなる物質であり、市販のもの(Al換算で約8%)は、それ程、粘性は高くなく、そのまま長距離発送が可能である。なお、粉末状の硫酸バン土は、水に溶かして液体と同様Al換算で約8%程度に溶解して使用する。
この硫酸バン土で生成した可塑状グラウトは、エアモルタルと混合するセメントと略瞬時に反応して含水水酸化アルミニウムゾル、すなわち可塑状グラウトを生成する。硫酸バン土を混合して生成した可塑状グラウトは、硫酸バン土を加えない単味より強度の早期発現性は優れている。
また、B液を硫酸バン土とした場合のA液(エアモルタル)とB液との混合時の容積比率は、通常、A液1に対してB液0.05〜0.10程度であり、この混合比率でA液とB液とを合流混合させて可塑状固結体を生成させ、構造物背面の空洞や大空洞に注入充填する。
(その他)
本実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法に用いるグラウト材は、上述の物質の他、必要に応じて砂以外の一次鉱物である細骨材を含有しても構わない。また、二次鉱物である粘土鉱物、フライアッシュ等の微粒子物質、石膏等を含有しても構わない。さらに、目的に応じて、本実施形態に係るグラウト材は、分散剤、トリポリリン酸ナトリウム以外の遅延剤、強度促進並びに増強剤、ゲル化剤、増粘剤、粘着剤等、各種の混和剤(混和材)・添加剤が添加されてもよい。
[二液性可塑状グラウト注入工法の施工方法]
次に、図1を用いて、本発明の実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法の具体的な施工方法について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るエアモルタルの製造方法及びそのエアモルタルを用いた二液性可塑状グラウト注入工法を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法は、エアモルタルFからなるA液Aと、可塑剤として硫酸バン土水溶液GからなるB液Bを別々に圧送して注入地点で合流混合して瞬時に可塑状グラウトHを生成して構造物背面の空洞や大空洞に注入充填する工法である。本実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法は、材料工程イと、注入工程ロに分けて説明する。
(材料工程)
材料工程イのA液Aの製造工程では、先ず、生コン工場1で水とセメントと砂からなるモルタルCを製造し、ミキサー車2で現場プラントの回転中のモルタル受けミキサー3に搬入する。この時点で、ミキサー車2で運ばれたモルタルは、約1.5時間を要するため、水和反応も約1.5時間継続されたことになる。
そして、トリポリリン酸ナトリウム粉末Dが収容されている容器4からトリポリリン酸ナトリウム粉末Dを、モーターMで回転中のモルタル受けミキサー3に所定量直接粉末状態のまま投入する。このとき、トリポリリン酸ナトリウム粉末Dは、回転中のモルタル受けミキサー3内で多量のモルタル粒子と接触混合して速やかに溶解する。このため、トリポリリン酸ナトリウムは、モルタルから溶出した水酸化カルシウムと反応して綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムとなる。
つまり、現場プラントのモルタル受けミキサー3内で、生コン工場1から搬送されてきたモルタルCが、綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムが浮遊したトリポリリン酸カルシウム混和モルタルC’となり、圧送ポンプ5でエア混合機8に圧送される。
同時に、起泡剤水溶液Eを貯蔵する起泡剤容器6から圧送ポンプ6’で起泡剤水溶液Eが圧送され、自動発泡機7を通過することにより、気泡を発生させてエア混合機8で上述のトリポリリン酸カルシウム混和モルタルC’と混合させることでエアモルタルFを製造する。以上が材料工程イのエアモルタルFからなるA液Aの製造工程であり、本発明の実施形態にエアモルタルの製造方法である。
一方、材料工程イのB液Bの製造工程は、硫酸バン土水溶液Gが貯蔵された硫酸バン土水溶液容器(貯液槽)9から注入ポンプ11で硫酸バン土水溶液Gをそのまま圧送する。
(注入工程)
注入工程ロでは、先ず、上述の材料工程で得られたエアモルタルFのA液Aと、硫酸バン土水溶液GのB液Bを、それぞれの注入ポンプ10,11でミキシングユニット12に圧送する。圧送されたエアモルタルFと硫酸バン土水溶液Gは、ミキシングユニット12内で合流混合されて瞬時に可塑状グラウトHが生成される。
可塑状グラウトHは、トンネルなどの既設構造物の周辺に発生した空洞にそのまま圧送されて、空洞等でグラウト固結体Iが造成され、既設構造物を補修・補強することとなる。
以上説明した本実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法によれば、水和反応が約1.5時間程度継続・進行したモルタルCにトリポリリン酸ナトリウム粉末Dを直接粉末状のまま投入するので、綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムが生成され、生成されたトリポリリン酸カルシウムでセメント粒子及び砂粒子の表面を包含する。このため、モルタルCの水和反応が抑制され、エアモルタルFの流動状保持時間を長くした遅延効果を発揮することができる。
また、本実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法によれば、トリポリリン酸カルシウム混和モルタルC’からエアモルタルFを製造するので、気泡粒子の消失と材料分離(粗粒子の沈降)を低減する効果を発揮することができる。このため、本実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法によれば、生コン取り方式を採用しても現場プラントで練った通常のモルタルと比べて同等の流動状保持時間かそれ以上となり、施工が容易になり、エアモルタルFの長距離圧送も可能となる。
[効果確認実験]
以下、実施例と比較例を挙げて実験により本発明の効果を検証する。実験には、普通ポルトランドセメント、トリポリリン酸ナトリウム粉末、及び細目砂を用いた。なお、砂は、細粒分や砂以外の不純物を水洗いして取り除いた。
(セメントとトリポリリン酸ナトリウムの反応試験)
透明なビニール袋(直径5cm、長さ40cm)に、セメント100gと水を撹拌したセメントミルク200mlを、撹拌しながら1.5時間後に、トリポリリン酸ナトリウム粉末を加え、さらに30秒撹拌・溶解後、(セメント粒子は速やかに沈降)静止して1時間後までの反応生成物の有無及びその状態を目視で確認する試験を行う。なお、1時間後までとしたのは、粒子の沈降に影響を与える範囲だからである。
(反応生成物の定性分析測定)
上記試験でできた反応生成物を確認するためセメントが充分に硬化した後、セメント(塊り)とセメント上部の反応生成物を分離し、大量の清水で充分に水洗いして、セメントからの水酸化カルシウムを取り除き、残った綿状の不溶性白色反応生成物を乾燥して、カルシウム分を定性分析で測定し、カルシウムの有無を確認した。
(トリポリリン酸ナトリウム粉末の溶解試験)
透明なビニール袋(直径5cm、長さ40cm)に砂100gに水を加えた砂混合液にトリポリリン酸ナトリウム粉末10gを加えて撹拌して砂粒子と接触混合し後、静止して砂を沈降させ、上澄み液で粉末の溶解度合いを確認した。なお、セメントは、灰色で微粒子を含んでいるため、判別が難しいことから使用しなかった。
(粗粒子沈降試験)
トリポリリン酸ナトリウムを添加したエアモルタルを静止状態で放置した場合に起こる砂とセメント粗粒子が沈降する現象を確認するため、透明なビニール袋(直径5cm、長さ40cm)にエアモルタル300mlを入れ、静止状態で垂直に吊るし、その2時間後にビニール袋底部に沈降した粗粒を手触りで確認し、その粗粒子沈降度合いを判定した。
(エアモルタル流動状保持時間試験)
試験は、透明な蓋付円筒容器(直径10cm、長さ40cm)にエアモルタルを入れ、静止した状態で設置し、0.1時間毎に、静かに傾けてエアモルタルの傾向角度が45度に達した時点を流動状保持時間と判定した。
(エアモルタルの気泡安定試験)
エアモルタル中の気泡の安定性を確認するため、起泡剤水溶液を自動発泡装置で発泡させて気泡を作り、別にトリポリリン酸ナトリウムを添加したモルタル310mlに混合することにより製造したエアモルタルをメスシリンダーに500ml入れ静止状態で放置し、気泡が安定(この時点では粒子の沈降はない)した状態から粒子の沈降が発生するまでの時間を測定した。
[実験A]
実験Aは、トリポリリン酸ナトリウム粉末の溶解度合いを確認するために行った実験であり、砂の配合の有無と撹拌混合時間の相違により比較例と実施例を作り、目視により溶解度合いを確認し、次表1に示した。
Figure 0006888791
表1より、トリポリリン酸ナトリウム粉末と水だけの撹拌混合時間が0.5分の比較例1では、大部分が溶けず、3.0分撹拌した比較例2でようやくほとんど溶解した。これは、粉末度によるが、少し粒子がくっついた状態であること及び性質にも関係しているものと思われる。これに対して、実施例1では、0.5分の短時間の撹拌混合であっても完全に溶解して透明液となることが確認できた。これは、多量の砂粒子とトリポリリン酸ナトリウム粉末が撹拌により接触混合することにより粉末がバラバラに分散して溶解を促進するものと推測できる。
[実験B]
実験Bは、セメントミルクを調合し、撹拌しながら1.5時間後に、トリポリリン酸ナトリウム粉末を加え、さらに30秒撹拌・溶解後、静止した時の反応生成物の有無及び時間を目視で確認し、次表2に示す結果を得た。
Figure 0006888791
表2より、実施例2,3,4及び5(1mあたり0.5〜4.0kg相当)は、トリポリリン酸ナトリウムの添加量が、若干多い程反応生成物の発生時間が早く、また、生成量も多くなることが目視で確認できた。
トリポリリン酸ナトリウム粉末0.04(1mあたり0.2kgに相当)である比較例4は、1時間以内には、反応生成物が生成されなかった。これは、特許第5819557号公報に記載してあるように、縮合リン酸塩の分散作用と同じ現象によるものと思われる。また、比較例5は、後述の表3の気泡消失時間より流動状保持時間が長く使用不能であるため、実施例から除外した。
[実験C]
実験Cは、上述の本発明の実施形態に係るエアモルタルの製造方法と同様に、エアモルタルを製造し、流動状保持時間と気泡消失時間を測定し、その結果を次表3に示した。エアモルタルは、生コン工場でモルタルを製造し、ミキサー車で現場に搬入するまで1.5時間要すると想定し、モルタル製造1.5時間後にトリポリリン酸ナトリウム粉末を添加して溶解し、気泡剤を添加して製造した。なお、トリポリリン酸ナトリウムを添加しないモルタルも比較している。
Figure 0006888791
表3より、モルタル調合1.5時間後に気泡を混入したエアモルタルの比較例6は、流動状保持時間が0.7時間と非常に短く、施工上制約を受けることが確認された。また、気泡消失時間は、2.5時間で流動状保持時間より長いことも判明した。
これに対して、トリポリリン酸ナトリウム粉末を添加したエアモルタルは、添加量が1mあたり、0.5kg(実施例6)、1.0kg(実施例7)、2.0kg(実施例8)と多くなるにしたがって流動状保持時間が、1.6時間、2.4時間、3.0時間と長くなり遅延作用があることが確認された。また、気泡消失時間も、3.1時間、3.3時間、3.5時間と長くなることも判明した。これは、気泡粒子が強化されたことを意味している。
一方、トリポリリン酸ナトリウム粉末を3.0kg添加した比較例7及び4.0kg添加した比較例8は、流動状保持時間は、3.8時間又は4.8時間と長いが、反面気泡消失時間は、3.8時間又は4.0時間となり、流動状保持時間と同じか又は流動状保持時間より短いため、3.8時間又は4.0時間で気泡が消失してエアモルタルの機能が失われるため、実施例から除外している。
以上、実施例1〜で示したエアモルタルによれば、セメントから溶出した水酸化カルシウムと適正量(モルタル1.0mあたり0.5kg以上2.0kg以下)のトリポリリン酸ナトリウムが反応して混合後3分以内に生成した綿状の不溶性白色トリポリリン酸カルシウムがセメント粒子や気泡を含めて粒子間を包含し、粒子沈降やセメント水和反応を抑制して、流動状保持時間と気泡消失時間を遅延させる効果を発揮する。また、実施例1〜で示したエアモルタルによれば、気泡粒子が強くなるため、粗粒子の沈降を低減させる効果も発揮する。
以上、本発明の実施形態に係るエアモルタルの製造方法及び本発明の実施形態に係る二液性可塑状グラウト注入工法ついて詳細に説明したが、上述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明に係る技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
イ:材料工程
ロ:注入工程
1:生コン工場
2:ミキサー車
3:モルタル受けミキサー
4:トリポリリン酸ナトリウム粉末容器
5,6’:圧送ポンプ
6:起泡剤容器
7:自動発泡機
8:エア混合機
9:硫酸バン土水溶液容器(貯液槽)
10:A液注入ポンプ
11:B液注入ポンプ
12:ミキシングユニット
A:A液
B:B液
C:(生コン取り方式の)モルタル
C’:トリポリリン酸カルシウム混和モルタル
D:トリポリリン酸ナトリウム粉末
E:起泡剤水溶液(起泡剤液)
F:エアモルタル
G:硫酸バン土水溶液(硫酸バン土液)
H:可塑状グラウト
I:グラウト固結体

Claims (1)

  1. エアモルタルと硫酸バン土を混合して可塑状グラウトを生成するのに用いられるエアモルタルの製造方法であって、
    生コン工場で調合され、ミキサー車で現場に搬送する間に1.5時間経過して水和反応が進行継続したモルタルに、現場で回転撹拌した状態でトリポリリン酸ナトリウム粉末を粉末状態のまま0.5kg以上2.0kg以下添加するとともに、起泡剤液を自動発泡機を通過させて生成した気泡を混入して、気泡消失時間よりも流動状保持時間が短くなるように流動状保持時間を1.5時間以上3.0時間以内の範囲に調整すること
    を特徴とするエアモルタルの製造方法。
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