以下、図面を用いて本実施形態に係わる観覧施設評価システムについて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示に限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。さらに、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
(観覧施設評価システムの概要)
本実施形態に係わる観覧施設評価システムは、評価対象となる観覧施設において、観客席からの舞台の観やすさを判定し評価するシステムである。以下に、観覧施設評価システムについて幾つかの具体的な実施形態を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係わる観覧施設評価システム1の一例を示すブロック図である。観覧施設評価システム1は、空間座標設定部100と、記憶部150と、施設情報入力部200と、判定ライン算出部300と、サイトライン判定部400と、表示部500と、を備える。
観覧施設評価システム1を構成する上記の各機能部は、パーソナルコンピュータ等に設けられたプロセッサがメモリ上のプログラムを実行することによって構成される。観覧施設評価システム1を構成するパーソナルコンピュータは、1台であっても複数であってもよい。物理的に離れた場所に設置されている複数のパーソナルコンピュータが連結することによって、観覧施設評価システム1の機能を実現することも可能である。また、観覧施設評価システム1の機能を実現するものは、パーソナルコンピュータに限定されず、例えば、プロセッサを備えたサーバやタブレット等の機器においても実現可能である。
空間座標設定部100は、評価対象となる観覧施設のサイズ(寸法)や構造に関する設計情報を入力し、入力した設計情報を3次元軸上に空間座標として割り当てる。評価対象となる観覧施設の設計情報は、例えば観覧施設の3次元CAD(Computer Aided Design)データ、BIM(Building Information Modeling)データ、設計図面等である。これら設計情報は、あらかじめ観覧施設評価システム1内の記憶部150に格納されている。空間座標設定部100は、これらの設計情報を記憶部150から読み込むことで取得し、3次元軸上で座標を割り当てる。
具体的には、空間座標設定部100は、図2(a)に示すように、まず観覧施設の上位方向から見た平面図をXY平面として設定する。空間座標設定部100は、XY平面において、舞台120から観客席130の方向に向かって左右対称となる中心軸111を定め、中心軸111と、舞台120と観客席130との境とが交わる点を、座標原点110として定める。すなわち、XY平面において、X軸におけるマイナス側が舞台120側となり、X軸におけるプラス側が観客席130側となる。なお、本明細書において、観覧施設の客席や観覧席を総じて観客席130と称し、観客席130における個別の座席を客席と称する。
図2(a)に示すアクティングエリア120aは、舞台120における演技領域を示し、このアクティングエリア120aにおいて、演劇や演奏などが行われる。また、図2(a)は、Y軸のプラス側に1階席130aを示し、Y軸のマイナス側に2階席130bおよびサイドバルコニー席130cを示す概念図である。実際の観覧施設は、Y軸のプラス、マイナス両軸方向に、1階席130a、2階席130b、および、サイドバルコニー席130cが存在する。
また、空間座標設定部100は、図2(b)に示すように、中心軸111を通る垂直面をXZ平面として定める。さらに、空間座標設定部100は、XY平面およびXZ平面と直交する面をYZ平面として定める。図2(c)は、図2(a)の一点鎖線A−Aにおける観覧施設の断面図であり、YZ平面の一例を示す断面図である。なお、図2(c)には、プロセニアム120bが示されている。ここで、プロセニアムとは、舞台の開口を形成し、舞台の最前列に設けられた観客席と舞台とを区切る額縁型の壁面である。図3は、空間座標設定部100によって空間座標が設定された観覧施設を、等角投影図法で示した場合の斜視図である。
なお、観覧施設の設計情報は、空間座標設定部100が、あらかじめ観覧施設評価システム1の記憶部150に格納された設計情報から読み込むことで取得する例を示したが、設計情報の取得方法はこれに限定されない。例えば、ユーザが観覧施設評価システム1の外部から観覧施設に関する設計情報を入力することで、空間座標設定部100が設計情報を取得する方法を用いてもよい。
施設情報入力部200は、評価対象となる観覧施設の舞台120や観客席130に関する寸法や座標を施設情報として入力し、記憶部150に記憶する。この施設情報は、空間座標設定部100で設定された3次元軸上の座標空間に対応する値が入力される。施設情報入力部200における施設情報の入力は、例えば、ユーザが、図4に示す初期値入力画面210から値を入力することにより行われる。ユーザが、図4に示す初期値入力画面210において、必要な値を入力した後、入力ボタン211を押すことで、施設情報入力部200に施設情報が入力され、記憶部150に記憶される。なお、初期値入力画面210は、例えば、観覧施設評価システム1に接続されたディスプレイ等(図示なし)に表示される。
施設情報のうち、舞台に関する情報は、例えば、舞台の高さStおよびプロセニアム120bの高さPrHである。図3に、観覧施設における、舞台の高さStおよびプロセニアム120bの高さPrHを示す。舞台の高さStは、観客席130の最前部の床から舞台床面までの高さである。また、プロセニアム120bの高さPrHは、舞台床面からプロセニアム120bの上端までの高さである。
また、施設情報入力部200は、舞台上における観客からの視線の対象となる点(以下、注視点とする)の座標を入力する。注視点は、舞台上における座標軸上の平面的な奥行きPSxと、高さPSzと、が空間座標設定部100で設定された舞台120側の空間座標に対応する舞台空間座標220として入力される。第1の実施形態において注視点は、XZ平面の中心軸111上にあるものとして、舞台先端からのX軸のマイナス方向への寸法をPSxとし、舞台床面からの垂直方向の上方への高さをPSzとして設定する。これは舞台においては通常、前端から奥に向かって各種寸法、座標を設定することを意識したものである。
図5に、舞台空間座標220として入力される注視点の設定の例を示す。なお、PSxは、舞台の奥行に対し、観客席からどの地点が見えなければならないかを明確にするためのものである。1階席の前方など低い位置にある観客席からは、舞台の観客席側の高い位置が観えやすく、舞台の奥行方向の低い位置に向かうにしたがって見えにくくなる。逆に1階席の後方や2階席では、舞台の前方の低い点に向かうにしたがって見えにくくなる。すなわちPSxの値としては、観客席から見えるべき地点の値が入力される。また、PSzは、舞台の垂直方向に対し、具体的に低い点はどこまで見えなければならないかを明確にするためのものである。すなわち、PSzの値としては、PSxと同様に、観客席から見えるべき地点の最小値が入力される。図5においては、演奏や演劇等の演目によって異なる幾つかの注視点の例を示している。
例えば、舞台端から舞台奥の方向に3000mmの位置にいるダンサー220aの場合、観客席からは、少なくとも舞台床面から150mmの足元より上方の箇所に対して観えるのが好ましい。よって、この場合のダンサー220aに対する注視点としては、(PSx、PSz)=(−3000、150)となる。同様にチェロ奏者220bの場合の注視点としては、(PSx、PSz)=(−2000、450)となる。舞台先端から1500mmの位置にいる俳優220cにおいては、演じている内容に応じて、注視点は複数点存在する。例えば、ひざより上方が見える必要がある場合の注視点は、(PSx、PSz)=(−1500、450)となり、胸より上方が見える必要がある場合の注視点は、(PSx、PSz)=(−1500、1200)となる。
また、舞台より観客席側に前舞台120cやオーケストラピット120dが存在する場合も同様に、注視点を定めることができる。舞台先端より観客席側にある前舞台120cにいる俳優220dの場合の注視点は、例えば、(PSx、PSz)=(1000、900)となる。一方、オーケストラピット120dにいる指揮者220eについては、頭の位置が見えるのが好ましいため、注視点は、例えば、(PSx、PSz)=(1500、150)となる。このように注視点は多様性があり、複数設定しなければならないという要求がある。また、演劇に特化した劇場では、張り出し舞台や花道などを注視点として設定することも可能である。
さらに、施設情報入力部200は、客席情報として、客席、および、客席に着座した観客に関する寸法や座標を入力し、記憶部150に記憶する。施設情報入力部200において入力される客席情報は、空間座標設定部100で設定された観客席130側の空間座標に対応する客席空間座標230として入力される。なお、客席情報についても、上述の舞台情報と同様に、図4に示す初期値入力画面210を通じてユーザによって入力される。
図6Aは観客席130に着座した観客に関する寸法等について説明するための図である。図6Aに示す各寸法は、図4に示す初期値入力画面210の客席情報の領域にある「OST」、「EH」、および、「TH」に対応する寸法である。図6Aにおける水平距離231bは、着座した観客の目と直後の段床蹴上231aとの水平距離「OST」を示す値である。また、図6Aにおける垂直距離231cは、着座した観客の床面からの目の高さ「EH」を示す値である。さらに、図6Aにおける垂直距離231dは、目と頭頂との距離「TH」を示す。なお、目と頭頂との距離「TH」は、髪の毛等の長さを考慮し一定のマージンを加えたものである。なお、「EH」のデフォルト値は、例えば、1120mmとなる。性別や年齢層により目の高さは異なるため、対象となる視点のみ高さを変えた場合、例えば、「EH」が1120mmの場合は、青壮年層の70%の女性が舞台を見ることができる視点の高さとされている。
また、施設情報入力部200は、客席情報として、1階席の最前列における直後の段床蹴上240までの水平位置H1を入力し、記憶部150に記憶する。水平位置H1についても、図4に示す初期値入力画面210を通じてユーザによって入力される。図6Bに示す図は、中心軸111上の観客席130の断面図である。客席座標241は、1階席の最前列の客席の座標である。客席座標241は、初期値入力画面210により入力された水平距離241a(水平位置H1)が用いられ、座標は(X1、Z1)=(H1、0)となる。ただし、V1の値は0であるとする。一方、1階席のn列目の客席座標242は、(Xn、Zn)=(Xn−1+Hn、Zn−1+Vn)となる。ここで、Hnは、n列目の客席とn−1列目の客席との水平距離242aである。同様にVnは、n列目の客席とn−1列目の客席との垂直距離242bである。
さらに、施設情報入力部200は、客席情報として、2階席の最前列席の座標(H2_1、V2_1)および、バルコニーの天井先端の座標(Bx、Bz)等を入力し、記憶部150に記憶する。2階席の最前列席の座標およびバルコニーの天井先端の座標についても初期値入力画面210を通じてユーザによって入力される。図6Cに示す図は、2階席およびバルコニーの天井先端を示す断面模式図である。2階席の最前列の客席の座標251のうち、水平方向の位置を示す座標H2_1は、2階席の最前列席の直後の段床蹴上250と座標原点110との水平距離251aである。同様に、2階席の最前列の客席の座標251のうち、垂直方向の位置を示す座標V2_1は、2階席の最前列席の客席の最後部と座標原点110との垂直距離251bである。同様に、バルコニーの天井先端の座標261(Bx、Bz)のうち、水平方向の位置を示す座標Bxは、バルコニーの天井先端と座標原点110との水平距離261aで示される。また、バルコニーの天井先端の座標261(Bx、Bz)のうち、垂直方向の位置を示す座標Bzは、バルコニーの天井先端と座標原点110との垂直距離261bで示される
上述の通り、1階席および2階席の前後の席の水平方向および垂直方向の位置は、全ての客席に対する値を入力するものではない。第1の実施形態において、ユーザは、図4に示す初期値入力画面210を通じて、代表値として最前列の客席に関する前後の席の水平方向の幅であるH1、H2_1、V2_1を入力する。なお、最前列以外の各客席間の客席幅等の値については、施設情報入力部200においてはあらかじめ定められたデフォルト値が入力され、後述の判定結果画面上において、ユーザが必要に応じて適切な値を入力する。第1の実施形態において、前後の客席間の水平方向の距離のデフォルト値としては、例えば、950mmが用いられる。一方、前後の客席間の垂直方向の距離のデフォルト値としては、例えば、1階席では、前列から後列にいくにしたがって120mmから250mmまで少しずつ増加した値が用いられ、2階席においては、前方では480mm、後方では490mmの値が用いられる。なお、施設情報の入力は、施設情報入力部200においてデフォルト値を入力し、後述の判定結果画面上でユーザが必要に応じて値を入力する手段に限定されない。例えば、初期値入力画面210において、客席の位置を指定して、全ての客席に関する前後の席の水平方向および垂直方向の距離を入力する手段を用いてもよい。
次に判定ライン算出部300について説明する。判定ライン算出部300は、施設情報入力部200で入力され、記憶部150に記憶された舞台120および観客席130に関する施設情報に基づいて判定ライン310を算出する。具体的には、判定ライン310は、舞台側に位置し、空間座標に対応する舞台空間座標220で示される点と、客席側に位置し、空間座標に対応する客席空間座標230で示される点と、を通る直線により算出される。第1の実施形態において、舞台空間座標220としては、上述の注視点が用いられる。客席空間座標230としては、評価対象となる客席の前方の客席に着座した観客の頭頂の位置が用いられる。
図7に舞台上の舞台空間座標220から観客席130に延びる判定ライン310を模式化した図を示す。第1の実施形態において、観やすさの評価対象となる客席は、観客席130の最前列からn列目にある客席であるとする。この場合、判定ライン310は、舞台空間座標220と、観客席130の最前列からn−1列目にある客席の観客の頭頂座標である客席空間座標230と、を通る直線である。すなわち、判定ライン310は、舞台空間座標220の座標(PSx、PSz)と、客席空間座標230の座標(Txn−1、Tzn−1)と、を結ぶ直線として定まる。
判定ライン310を観客席130の最前列からn列目にある客席まで延ばした場合における判定ライン310の位置(以下、判定ポイント313とする)を座標Pn(Pxn、Pzn)とすると、座標Pn(Pxn、Pzn)の値は、以下の計算により定まる。
まず、n−1列目の観客の頭頂の客席空間座標230を座標Tn−1(Txn−1、Tzn−1)とする。さらに、舞台上の舞台空間座標220である注視点の座標を座標PS(PSx、PSz)とする。座標Pn、座標Tn−1、および、座標PSの関係は、以下の式(1)で示される。
式(1)に上述の各座標を当てはめると、座標Pn、座標Tn−1、および、座標PSの関係は、式(2)で示される。
式(2)より、評価対象となる客席における判定ライン310の高さPznは式(3)で表される。ここで、客席空間座標230の座標Tn−1(Txn−1、Tzn−1)は、座標Tn−1((Xn−1−0ST)、(Zn−1+EH+TH))である。また、判定ポイント313の座標Pn(Pxn、Pzn)は、座標Pn((Xn−OST)、Pzn)である。
式(3)で示される値Pznが、評価対象となる客席の最前列からn列目の客席における判定ライン310の値、すなわち判定ポイント313の高さとして定まる。
次にサイトライン判定部400について説明する。サイトライン判定部400は、式(3)で定められた判定ポイント313の高さ方向の値(Pzn)と、n列目の客席における観客の目の高さ233(Ezn)を比較する。比較した結果、Eznの値がPznの値より大きい場合は、視野が良好であると判定される。Ezn=Pznの場合は判定ライン310と一致するため、前列の客席に着席した観客の頭で観えない部分が発生し、あまり良好ではないという判定結果となる。さらにEznの値がPznの値より小さい場合は、対象となる注視点は、前列の客席に着席した観客の頭で観えないことになり、良好でないという判定結果となる。なお、サイトライン判定部400は、この判定を客席ごとに行い、各客席からの舞台の観やすさ、すなわちサイトライン(観客から舞台への目線)が適正であるか否かを判定し、記憶部150に記憶する。
表示部500は、サイトライン判定部400で判定され、記憶部150に記憶された判定結果510をまとめて表示する。図8Aに判定結果の例を示す。図8Aに示す判定結果510は、例えば、観覧施設評価システム1に接続されたディスプレイ等(図示なし)に表示される。判定結果510は、頭頂差設定領域511と、注視点位置設定領域512と、観客席設定領域513と、判定結果表示領域514と、プロセニアム判定結果領域516と、バルコニー判定結果領域517と、を備える。さらに、判定結果510は、客席断面図表示ボタン515と、終了ボタン519と、を備える。ユーザは、判定結果表示領域514に表示された判定結果を確認し、値を変更したい場合は、直接、表示結果の表の入力可能な箇所に値を入力する。一方で、ユーザが判定結果を修正する必要がないと判断した場合、すなわち終了する場合は、ユーザが終了ボタン519をクリックすることで結果の表示が終了する。ユーザは、頭頂差設定領域511、注視点位置設定領域512、および、観客席設定領域513に対して値(設定値)の入力を行うことができる。各領域に対する値(設定値)の入力については後述する。
図8Aにおいて、判定結果は、舞台上の5つの注視点に対して判定されたものが表示された場合の例を示す。図8Bに、判定結果510の右上部分の頭頂差設定領域511と、注視点位置設定領域512との部分を拡大した図を示す。なお、図8Bに示す頭頂差設定領域511に示すPSxの値は、マイナス表記としている。図8Bの注視点位置設定領域512に示すように、舞台上の5つの注視点は、左から順に(9000、0)、(3000、0)、(1500、0)、(0、150)および(−2500、200)の位置に注視点を設定している。これらの注視点に対する各観客席での判定結果が、図8Aの判定結果表示領域514に示される。図8Aに示す例では、Eznの値がPznの値より小さい場合は、数字の前に黒塗りの三角形が付される。Eznの値がPznの値より大きい場合は、その度合いにより、判定結果におけるセルに対して、異なる濃淡を付与し、または異なる色を付与(図示なし)することで、ユーザは、観え方の良し悪しを一目で認識することができる。すなわち、ユーザは、判定結果が数字だけの場合に比べ、観やすさの判定結果を、イメージとしてより明確に認識できる。なお、判定結果におけるセルに対する濃淡、色の付与については、例えば濃淡の異なる色を付与してもよい。例えば図8Aに示す例において、Eznの値がPznの値より50mm以上大きい場合は、判定結果510の判定結果表示領域514で示す通り、濃い表示であらわされ、ユーザが認識し易くなる。なお、この一連のPSxの値が座標値のマイナス表記となるのは、舞台上の座標が通常、舞台端から奥行方向を正とすることに配慮したものである。また、ユーザは、図8Aの注視点位置設定領域512に示される各注視点の座標の値に対し、異なる値(設定値)を入力することで、評価対象となる注視点の座標を変更することができる。
また、ユーザが図8Aに示す客席断面図表示ボタン515を押すと、図8Cに示すように断面図(XZ平面)における観客席の垂直方向の位置がグラフ520で表示される。これにより、ユーザは、図8Aに示す数値ではイメージすることが難しい客席の配置の形状を、グラフ520により認識することができ、誤入力等の発見が容易となる。
また、ユーザは、図8Aに示す観客席設定領域513において、値(設定値)を入力することで、観客席の寸法等を調整することができる。ここで、観客席設定領域513において、値(設定値)を入力することが可能な項目としては、例えば、観客席の前後間の水平距離Hn、および、観客席の前列との段差を示す垂直距離Vnである。さらに、着座した観客の目と直後の段床蹴上との水平距離「OST」、および、着座した観客の目の床面からの高さ「EH」も、値(設定値)を入力することが可能な項目である。なお、入力可能な値(設定値)は、上述の項目に限定されない。従来のサイトラインの評価においては、主として平均化された男性の人体モデルが用いられ、背の低い女性の大半は見えなくなるという問題がある。しかし、上述の通り、値(設定値)を入力可能とすることで、評価対象となる人体モデルの男女の違い応じて適切な座標を入力するなど、身体寸法の多様化に対応することができる。また、観客席の位置をピンポイントで調整することが可能となり、劇場の設計において、寸法等の調整がより柔軟に可能となる。
さらに、ユーザは、図8Aに示す頭頂差設定領域511において、客席の配置に対応した値を確認し、必要に応じて適切な値(設定値)に変更することができる。図8Bに図8Aの判定結果510における頭頂差設定領域511を拡大した図を示す。ここで頭頂差設定領域511に示される値は、図4に示す初期値入力画面210の目と頭頂との距離「TH」において入力された値となる。目と頭頂との距離「TH」は、客席の配置形状により、110mmまたは、60mmの2種類の値が用いられる。図8Bでは、目と頭頂との距離「TH」が60mmである場合の例を示す。
図9に2種類の客席の配置形状、および、それぞれの配置形状におけるサイトラインの概念図を示す。客席の配置は、図9(a)に示すような格子状配置、または、図9(b)に示すような千鳥配置が定められ、この客席の配置の種類によって、頭頂差設定領域511で設定される値が異なる。また、図9(c)には、客席が格子状配置の場合の観客から舞台へのサイトライン330aの概略図を示し、図9(d)には、客席が千鳥配置の場合の観客から舞台へのサイトライン330bの概略図を示す。
客席の配置が格子状配置の場合は、図9(a)および図9(c)に示すように、前列の客席との関係において頭頂差が求まるため、例えば頭頂差設定領域511には、110mmが入る。ここで110mmは、目と頭頂との距離の統計的平均値を100mmとし、この100mmに毛髪等のマージン分の10mmを加えた値である。
一方で、千鳥配置の場合は、図9(b)および図9(d)に示すように、2列前の客席との関係において頭頂差が定まる。千鳥配置の場合は2列前の客席に着座した観客の頭との関係でサイトライン330bが定まるため、格子状配置の場合のサイトライン330aより、サイトライン330bは下方に傾斜する。よって、千鳥配置の場合は、目と頭頂との距離「TH」の値を格子状配置の場合に比べて小さくする。具体的には、目と頭頂の距離を100/2=50mmとして計算する。よって、千鳥配置の場合のTH=100/2+10=60mmとなり、頭頂差設定領域511には、60mmが入力される。
図4に示す初期値入力画面210で、例えば格子状配置の場合のTH=110が入力された場合は、客席空間座標230は、評価対象となる客席の1列前の客席となり、上述の式(1)〜(3)により、Pnzが定まる。一方で、図4に示す初期値入力画面210で、千鳥配置の場合のTH=60が入力された場合は、上述の式(1)〜(3)に対し、客席空間座標230が2列前の観客の客席で計算される。よって、千鳥配置の場合のPznは、式(4)により示される。なお、目と頭頂との距離の統計的平均値、および毛髪等のマージン値、および千鳥配置の場合の目と頭頂との距離の値をそれぞれ、100mm、10mmおよび50mmとしたが、値はこれらに限定されない。たとえばサッカースタジアムにおいては国際サッカー連盟の基準で最低90mm、望ましい数字は120mmとされる。また壮青年層の女性と男性が半々に混合した場合において女性の70%が見える等、統計的手法による数値などの入力も可能である。
また、図8Aに示す判定結果では、3次元座標軸においてY=0となる場合の中心軸111に対する評価結果を示したが、評価対象となる軸は、これに限定されない。例えば、図10(a)に示すように中心軸111からY軸のプラス方向に移動した点を起点に中心軸111に平行な対象線111aや、斜めに延びる対象線111b上の観客席について評価を行うことも可能である。2階席も同様に、図10(b)に示すように中心軸111と並行な対象線111a、または、斜めに延びる対象線111c、111dおよび111e上の観客席について、評価を行うことが可能である。中心軸上以外の観客席に対して、評価を行う場合、図8Aに示す観客席設定領域513の客席数および間隔値を変更することで容易に評価することができる。すなわち、第1の実施形態に係わる観覧施設評価システム1においては、段床勾配に直交しない場合の評価も容易にできる。よって、馬蹄形状のオペラハウス等において、中心軸上にない断面の判定および評価も断面図の作図を行うことなく可能となる。
また、作図においてサイトラインを評価する場合、複数の注視点に対して、全ての客席からのサイトラインを算出し評価するのは困難であるため、結果として段床の後部を過度に上げた断面の設計がなされることが多い。この場合、観覧施設の高さや観客席の列数など制限が加わる。一方で、第1の実施形態に係わる観覧施設評価システム1を用いることで、複数の注視点に対して、全ての客席における評価が可能である。よって、様々なケースを想定した注視点を用いて評価を行うことで、観客席の勾配等について十分な評価が可能となり、高さを抑えた観覧施設の設計を行うことが可能となる。1階席よりさらに施設全体の一体性が求められる2階席については、注視点を客席寄りに設定する等、階層によって注視点を変えた上での同時検証も容易になる。
(観覧施設評価システムの処理フローの概略)
次に、観覧施設評価システム1の動作の一例のフローチャートについて、図11に基づいて説明する。図11に示す処理手順は、観覧施設評価システム1が実行されるパーソナルコンピュータが有するプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)が実行する。CPUの一部の機能を実行する動作部の一例には、空間座標設定部100、施設情報入力部200、判定ライン算出部300、サイトライン判定部400、および、表示部500が挙げられる。この場合において、CPUはROM(Read Only Memory)(図示せず)に格納されたプログラムにしたがい実行する。
なお、以下の処理手順の一部または全部は、例えば、DSP(Digital Signal Processing)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアにより実行できる。但し第1の実施形態では、ROMのプログラムにしたがってCPUが実行する形態とした場合について説明する。
ステップS1101において、空間座標設定部100は、観覧施設に関する設計情報に基づいて空間座標を設定する。観覧施設の設計情報は、例えば観覧施設のCADデータやBIMデータであり、記憶部150に記憶されている。具体的には、空間座標設定部100は、上述の図2に示す3次元座標軸を設定する。
ステップS1102において、施設情報入力部200は、施設情報を入力し、記憶部150に記憶する。具体的には、例えば図4に示される初期値入力画面210において、ユーザが数値を入力することにより、施設情報が入力される。ステップS1102において入力される施設情報は、舞台情報および客席情報である。ステップS1102において入力される舞台情報は、例えば、舞台の高さSt、プロセニアムの上端までの高さPrH、注視点の座標(PSx、PSz)である。
また、ステップS1102において、施設情報入力部200は、客席における観客の各種情報である客席情報を入力し、記憶部150に記憶する。図4に示す初期値入力画面210において、「着座した観客の目と直後の段床蹴上との水平距離OST」、「着座した観客の目の床面からの高さEH」、「目と頭頂の距離TH」が客席情報として入力される。さらにステップS1102では、施設情報入力部200は、1階席情報、2階席情報、およびバルコニー先端位置情報を入力し、記憶部150に記憶する。1階席情報、2階席情報、およびバルコニー先端位置情報についても、初期値入力画面210を通じて入力される。
その後、ステップS1103において、判定ライン算出部300は、施設情報入力部200において入力され記憶部150に記憶された舞台情報および客席情報に基づいて、判定ライン310を算出し、記憶部150に記憶する。判定ライン310は上述の式(1)〜式(4)に基づいて、舞台空間座標220で示される点と、客席空間座標230で示される点とが通る直線を数値化することにより算出される。
その後、ステップS1104において、サイトライン判定部400は、数値化され、記憶部150に記憶された判定ライン310と各観客の目の高さの判定を行う。具体的には、サイトライン判定部400は、評価対象となる客席における判定ライン310の高さ(判定ポイントの高さ)と、評価対象となる客席に着座した観客の目の高さとを比較し、評価対象となる客席からの舞台の観えやすさを判定する。サイトライン判定部400は、各客席に対する判定結果を記憶部150に記憶する。その後、ステップS1105に進む。
ステップS1105において、表示部500は、サイトライン判定部400において記憶部150に記憶された判定結果を出力結果として表示する。その後、ステップS1106に進む。
ステップS1106において、表示部500は、ユーザからの指示情報を取得する。ユーザからの指示情報は、値(設定値)の入力指示、グラフ表示指示および終了指示である。ユーザは、画面に表示された出力結果に対して、値を調整したい場合は、調整したい項目に値(設定値)を入力し、値の入力を指示する。また、ユーザは、図8Cに示す観客席の断面を示すグラフ520を表示させる場合には、客席断面図表示ボタン515を選択し、グラフ表示を指示する。一方で、値の調整が必要なく、グラフ520も表示させない場合には、ユーザは、終了ボタン519を選択し、終了を指示する。
ステップS1107において、表示部500は、ユーザからの指示情報の有無を判定する。ユーザからの指示情報がない場合(ステップS1107:NO)には、ステップS1106に戻り、ユーザからの指示情報を取得する。一方で、ユーザからの指示がある場合(ステップS1107:YES)には、ステップS1108に進む。
ステップS1108において、表示部500は、グラフ520の表示の指示があるか否かを判定する。ユーザからグラフ520の表示の指示がある場合(ステップS1108:YES)には、ステップS1109に進む。一方で、ユーザからのグラフ520の表示の指示がない場合(ステップS1108:NO)には、ステップS1110に進む。
ステップS1109において、表示部500は、図8Cに示すグラフ520を表示させる。その後、ユーザからグラフ520の表示終了の指示があった場合には、ステップS1106に戻り、ユーザからの指示情報を取得する。なお、グラフ520の表示終了については、例えば、ユーザが図8Cに示すグラフ520の右上に表示された終了ボタン521をクリックすることにより行われる。なお、グラフ520の表示の終了については、この終了ボタン521のクリックによる手段に限定されない。例えば、ユーザがカーソル(図示なし)をグラフ520以外に合わせることで、グラフ520の表示が終了するという手段を用いてもよい。
ステップS1110において、表示部500は、ユーザが入力した確認結果を判定し、ユーザが終了を指定した場合(ステップS1110:YES)には、処理フローが終了する。一方で値の再調整など、ユーザが値を入力した場合(ステップS1110:NO)には、ステップS1103に戻り再度計算を行い、計算結果が表示される。ユーザがステップS1110で終了を指定するまでステップS1103からS1110までの処理が繰り返される。
以上のように第1の実施形態における観覧施設評価システム1は、舞台側に位置する舞台空間座標220および客席側に位置する客席空間座標230に基づいて判定ライン310を算出する。さらに、観覧施設評価システム1は、判定ライン310と観客の目の高さを比較し、観客席からの舞台への観やすさを判定する。そして、観覧施設評価システム1は、各観客席における舞台への観やすさの判定結果を表示する。これにより観覧施設評価システムのユーザは、一目で観覧施設全体における各観客席からの舞台の観やすさを認識することができる。
また、観覧施設評価システム1では、舞台上の特定の舞台空間座標220を複数設定して、その設定した複数の舞台空間座標220からの判定ライン310を算出することができる。これにより、舞台上の複数の注視点に対する各観客席からの観やすさの判定が可能となる。
(第2の実施形態)
以上のとおり、具体的な実施形態を一つ説明したが、上述した実施形態は例示である。実施形態を限定するものではない。例えば、上述の実施形態では、舞台上の注視点と客席との判定ライン310を算出し、客席からの観やすさを判定する形態を例示した。ここではさらに、舞台のプロセニアム120bの上端に対して判定を行う第2の実施形態にかかる観覧施設評価システム2について、第1の実施形態と異なる構成について説明する。
図12は、第2の実施形態における観覧施設評価システム2のブロック図の一例を示す。図12に示すように第2の実施形態においては、第1の実施形態における観覧施設評価システム1のサイトライン判定部400の代わりに、プロセニアム判定部410を備える構成となる。
プロセニアム判定部410は、ある観客の視点がプロセニアム120bの上端を超えていないかの判定を行う。観客の視点がプロセニアム120bの上端を超えた高さにあると、舞台内の背景の上部が、プロセニアム120bの額縁に隠れて観えない箇所が出てくるため、観客席としては上部見切れ席とよばれ、格が下がり、好ましくない。このような観客席を多く備える観覧施設においては、興行収入の減少につながるため、観覧施設の設計においては、常に意識する必要のある判定項目となる。基本的には、全ての観客席の視点がプロセニアム120bの上端より下にあることが観覧施設の設計上の理想となる。
図13に第2の実施形態に係わる、プロセニアム判定における判定ライン310の模式図を示す。第2の実施形態において、舞台空間座標220は、プロセニアム120bの上端の座標(0、PrH+St)である。また、客席空間座標230は、高さが、舞台空間座標220と同じ任意の座標となる。これにより、判定ライン310は、床面と水平方向に平行となる直線として定まる。プロセニアム判定部410は、評価対象となる観客席における判定ライン310の高さ(判定ポイント313)と、評価対象となる観客席に着座した観客の目の高さ233(Ezn)とを比較する。
すなわち、プロセニアム判定部410は、観客席の最前列からn列目の観客の目の高さEznがプロセニアム120bの上端であるPrH+Stより高いか否かを比較し、舞台の観えやすさを判定する。図14に、図8Aに示すプロセニアム判定結果領域516を拡大した概略図を示す。観客席の最前列からn列目の観客の目の高さEznがプロセニアム120bの上端の高さより高い場合、図14の判定結果510のプロセニアム判定結果領域516に示すように該当セルに「上」の文字が付され、セルに着色が行われる。Eznがプロセニアム120bの上端の高さより低い場合は、セルは空白のままとなる。
上述のように、第2の実施形態において、観覧施設評価システム2がプロセニアム判定部410を備えることにより、評価対象となる客席に着座した観客の目の高さがプロセニアム120bの上端より高いか低いかを容易に判定することができる。また、この判定結果をすべての客席に対して行うことで、ユーザは、観覧施設における客席において、プロセニアム判定部410による判定結果を認識することができる。
また、第2の実施形態において、サイトライン判定部400の代わりにプロセニアム判定部410を備える観覧施設評価システム2の構成例を示したが、第2の実施形態はこの構成に限定されない。例えば、サイトライン判定部400に加えてプロセニアム判定部410を備える構成としてもよい。この場合、サイトライン判定部400の結果に加えて、プロセニアム判定部410の結果を判定結果に表示させることにより、ユーザは、第1の実施形態におけるサイトラインの判定結果に加えて、プロセニアム120bの判定結果も同時に認識することができる。例えば、サイトラインの判定結果を踏まえ、客席の高さを必要以上に高めた場合、プロセニアム判定部410の判定を得ることで、設計上、客席が高くなりすぎることを防ぐことができる。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、第1および/または第2の実施形態と同じ符号を用いる場合、第1および/または第2の実施形態と同一の構成を示し、特に説明がない限り先行する説明を参照する。以下、バルコニーの先端との判定を行う、第3の実施形態にかかる観覧施設評価システム3について、第1および/または第2の実施形態と異なる構成について説明する。
図15は、第3の実施形態における観覧施設評価システム3のブロック図の一例を示す。図15に示すように第3の実施形態においては、第1の実施形態における観覧施設評価システム1におけるサイトライン判定部400の代わりに、バルコニー判定部420を備える点で、第1の実施形態と異なる。
プロセニアム式の観覧施設の場合、観客席から、額縁の上枠が見えることが観覧施設の設計における必要条件となる。なお、プロセニアム120bの額縁がアーチ状の場合は、一番高い点をプロセニアム120bの上端とする。
図16に第3の実施形態に係わる、バルコニー判定における判定ライン310の模式図を示す。第3の実施形態において、舞台空間座標220は、プロセニアム120bの上端の座標である。また、客席空間座標230は、バルコニーの天井先端位置の座標(Bx、Bz)となる。これにより、判定ライン310は、プロセニアム120bの上端と、バルコニーの天井先端とを結ぶ直線として定まる。バルコニー判定部420は、評価対象となる客席における判定ライン310の高さ(判定ポイント313)と、評価対象となる客席に着座した観客の目の高さ233(Ezn)とを比較する。
すなわち、バルコニー判定部420は、評価対象となる客席である最前列からn列目の客席に着座した観客の視点の高さEznが、判定ポイント313の高さより高いか否かを比較し、舞台の観えやすさを判定する。Eznが判定ポイント313の高さより高い場合、プロセニアム120bの上端がバルコニーの天井先端によって見えなくなる。この場合、図8Aの判定結果510のバルコニー判定結果領域517の該当セルに「NG」の文字が付され、セルに着色が行われる。Eznがプロセニアム120bの上端の高さより低い場合は、評価対象の客席からプロセニアム120bの上端は見えるため、セルは空白のままとなる。
以上のように第3の実施形態において、プロセニアム上端とバルコニー天井先端とを結ぶ直線である判定ライン310に基づいて、評価対象となる客席からの舞台の観えやすさを判定することができる。また、この判定結果をすべての客席に対して行うことで、ユーザは、観覧施設における客席において、バルコニー判定部420による判定結果を認識することができる。
上述の第3の実施形態の説明において、バルコニー判定部420は、判定ライン310に基づいて、バルコニー天井先端によってプロセニアム120bの上端が見えるか否かを判定する実施形態を示したが、バルコニー判定部420は、この形態に限定されない。例えば、バルコニー判定部420は、図17に示すように、プロセニアム120bの上端と客席とのサイトラインと、バルコニーの先端と客席とのサイトラインの角度を比較する方法を用いてもよい。具体的には、n列の視点En(Exn、Ezn)から見て、プロセニアム120bの上端の座標(0、PrH+St)より、バルコニー天井先端の座標(Bx、Bz)が上に見えるか否かを確認する。図17に示すように視点Enから見た仰角(タンジェント)の大小により判定する。すなわち、プロセニアム仰角320が、バルコニー仰角330より小さいか否かで判定する。プロセニアム仰角320は、arctan((PrH+St−Ezn)/Exn)で示すことができる。同様に、バルコニー仰角330は、arctan((Bz−Ezn)/(Exn−Bx))で示すことができる。
よって、バルコニー判定部420は、(プロセニアム仰角320<バルコニー仰角330)を判定する。(プロセニアム仰角320<バルコニー仰角330)は以下の式(5)で示すことができる。
(PrH+St−Ezn)/Exn<(Bz−Ezn)/(Exn−Bx)…(5)
すなわち、式(5)に示す判定式の条件を満たす場合、バルコニーの先端の位置は問題ない。一方で、式(5)に示す判定式の条件を満たさない場合、バルコニーの先端により、プロセニアム120bの上端が見えないことになり、図8Aの判定結果510に示す、バルコニー判定結果領域517に着色することで結果を表示する。
また、第3の実施形態において、サイトライン判定部400の代わりにバルコニー判定部420を備える観覧施設評価システム3の構成例を示したが、第3の実施形態はこの構成に限定されない。例えば、サイトライン判定部400に加えてバルコニー判定部420を備える構成としてもよい。この場合、サイトライン判定部400の結果に加えて、バルコニー判定部420の結果を判定結果に表示させることにより、ユーザは、第1の実施形態におけるサイトラインの判定結果に加えて、プロセニアム120bの判定結果も同時に認識することができる。例えば、サイトラインの判定結果を踏まえ、客席の高さを必要以上に高めた場合、バルコニー判定部420の判定を得ることで、設計上、客席が高くなりすぎることを防ぐことができる。さらには、サイトライン判定部400、および、プロセニアム判定部410に加えてバルコニー判定部420を備える構成としてもよい。
(他の実施形態)
以上、本実施形態を説明したが、実施形態はこれらに限定されるものではなく、実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。また、さまざまな実施形態の一部または全部を組み合わせて新たな実施形態とすることも可能である。
上述の各実施形態において、観覧施設が劇場である例を示したが、観覧施設はこれに限定されない。例えば、音楽堂、公会堂、講堂、教室、競技場、アリーナ、スタジアム等の観劇、音楽鑑賞、教育、集会、スポーツ観覧、展示、演出を目的とする施設であってもよい。また、観覧施設は、恒久的または仮設的といった施設の設置期間に関する種別を問わない。
上述の各実施形態において、観覧施設は、2階層のバルコニー構成である例を示したがこれに限定されず、3階以上のバルコニーを有する多層バルコニー構造の観覧施設にも適用できる。例えば、図18に示すように、3階席130dを有する観覧施設についても評価が可能となる。
また、上述の各実施形態において、1階席130aが後部に向かうにつれて上昇する例を示したがこれに限定されない。例えば、図19(a)に示すように1階席130aの前段および中段がフラットであり、後段が緩やかに上昇する形状、または図19(b)に示すように1階席130a全てがフラットの形状である観覧施設についても評価することが可能となる。この場合、例えば図19(a)のように舞台奥に進むにつれて緩やかに上方向に傾斜する舞台や、図19(b)に示すように段差を有する舞台を想定して、舞台上の注視点を設定することで観やすさの評価が可能となる。
さらに、上述の各実施形態においては、各階最後部の客席の視点の座標についても数値化が行えているため、この数値を用いて、観覧施設における最大視距離および最大俯角の評価が可能となる。ここで、最大視距離および最大俯角は、評価対象となる観覧施設における中心軸上の最後部の客席からの最大の距離および俯角である。各観覧施設は、中心軸上の最後部の客席からの視距離および俯角が最大視距離および最大俯角とされ、理想とされる数値より小さくなるように設計されることが望ましい。ここで、舞台端から最後列n列目の観客の目の位置までの水平距離はExnであり、垂直距離は、Ezn−Stである。よって、最大視距離は、水平距離Exnの2乗と、垂直距離(Ezn−St)の2乗との和の平方根を求めることにより、定めることができる。同様に、最大俯角は、arctan((Ezn−St)/Exn)で定めることができる。なお、最大視距離に対する評価としては、小劇場では15m以内、中劇場では20ないし22m以内、大劇場では30mないし39m以内であることが好ましい。一方、最大俯角は25度以内であることが好ましい。上述の各実施形態において、表示部500は、判定結果に最大視距離および最大俯角を表示し、上述の適切な範囲内にあるか否かを表示させることができる。
以下に、本実施形態に係わる観覧施設評価システム、観覧施設評価方法、および、観覧施設評価プログラムの特徴について記載する。
(1) 観覧施設評価システムは、以下の構成を有する。
(i) 舞台と客席とを備える観覧施設に関する設計情報に基づいて、観覧施設に対応した空間座標を設定する空間座標設定部100を含む。
(ii) 空間座標における観覧施設に関する施設情報が入力される施設情報入力部200を含む。
(iii) 舞台側に位置し、空間座標に対応させた舞台空間座標220で示される点と、客席側に位置し、空間座標に対応させた客席空間座標230で示される点と、を通る直線である判定ライン310を、施設情報に基づいて算出する判定ライン算出部300を含む。
(iv) 評価対象となる客席に着座した観客の目の高さ233と、評価対象となる客席における判定ライン310の高さとを比較し、評価対象となる客席からの舞台の観やすさを判定する判定部を含む。
(v) 判定部で判定された判定結果を表示する表示部500を含む。
本開示によれば、観覧施設評価システムは、舞台側に位置する舞台空間座標220で示される点と客席側に位置する客席空間座標230で示される点とで判定ライン310を算出する。さらに、観覧施設評価システムは、判定ライン310に基づいて客席からの舞台の観やすさを判定し、判定結果を表示する。これにより、ユーザが当該判定結果を見ることで容易に客席全体の観やすさを認識することができる。
(2) 舞台空間座標220は、舞台上の特定の位置を示す注視点の座標であり、客席空間座標230は、評価対象となる客席より前方に位置する客席に着座した観客の頭頂の座標であるすることが好ましい。
本開示によれば、観覧施設評価システムでは、舞台上の少なくとも一つの特定の座標を設定して、その設定した座標からの判定ライン310を生成することができる。これにより、舞台上の複数の注視点に応じた柔軟な観やすさの判定が可能となる。
(3) 客席空間座標230は、評価対象となる客席の1列前に位置する客席に着座した観客の頭頂の座標であることが好ましい。
本開示によれば、観客席配置が格子状である場合の観客席からの舞台の観やすさについて、正確に判定することが可能となる。
(4) 客席空間座標230は、評価対象となる客席の2列前に位置する客席に着座した観客の頭頂の座標であることが好ましい。
本開示によれば、観客席配置が千鳥形状である場合の観客席からの舞台の観やすさについて、正確に判定することが可能となる。
(5) 表示部500は、評価対象となる複数の客席からの複数の注視点に対する観やすさを判定した結果を表示することが好ましい。
本開示によれば、表示部500が、複数の客席からの複数の注視点に対する観やすさの判定結果を表示することで、ユーザは、劇場の客席全体としての注視点の観やすさを認識することができる。また、複数の注視点に対する観やすさの判定結果が表示されることで、ユーザは、演目の違い等による様々なケースを想定した注視点に対する観やすさを認識することができる。
(6) 表示部500は、評価対象となる客席に着座した観客の目の座標から、注視点までの距離と、俯角を表示することが好ましい。
本開示によれば、表示部500が、評価対象となる客席に着座した観客の目の座標から、注視点までの距離と、俯角を表示することで、ユーザは、評価対象となる客席からの注視点までの距離や俯角を認識することができる。とくに、評価対象となる客席が各階最後部の場合には、ユーザは、最大視距離および最大俯角を認識することができる。これにより最大視距離および最大俯角が、評価対象となる劇場の理想とされる数値の範囲内であるか否かを認識することが可能となる。
(7) 舞台空間座標220は、舞台の開口を形成するプロセニアムの上端の座標であり、客席空間座標230は、舞台空間座標220と同じ高さである任意の座標であることが好ましい。
本開示によれば、観客の目の高さがプロセニアムの上端より上であるか否かを判定することができる。また、プロセニアムが恒久的に固定でなく、可動または可変である施設については、幅、高さ、奥行方向の位置等の変化に対応できる形態とすることも可能である。
(8) 舞台空間座標220は、舞台の開口を形成するプロセニアムの上端の座標であり、客席空間座標230は、バルコニーの天井先端の座標であることが好ましい。
本開示によれば、プロセニアムの上端がバルコニーの天井先端によって見えなくなるか否かを確認することが可能となる。
(9) 表示部500は、ユーザによる設定値の入力に応じて、評価対象となる客席に着座した観客の目の座標の値を変更することが好ましい。
本開示によれば、評価対象となる客席に着座した観客の目の座標を変更することにより、評価対象となる人体モデルの男女の違い応じて適切な座標を入力するなど、身体寸法の多様化に対応することができる。
(10) 表示部500は、判定部で判定された判定結果に応じて、異なる色および/または濃淡を付与した判定結果を表示することが好ましい。
本開示によれば、表示部500は、判定結果に応じて、異なる色および/または濃淡を付与した判定結果を表示する。これにより、ユーザは、評価対象となる客席のうち、どの辺りの客席からの注視点の観やすさが、良い、または悪いかを、容易に認識することができる。また、判定結果が数字だけの場合に比べ、ユーザはイメージとして認識できるため、注視点の観やすさを、より明確に認識することができる。
(11) コンピュータによって実行される観覧施設評価方法は、以下の処理を有する。
(i) 舞台と客席とを備える観覧施設に関する設計情報に基づいて、観覧施設に対応した空間座標を設定する処理を含む。
(ii) 空間座標における観覧施設に関する施設情報が入力される処理を含む。
(iii) 舞台側に位置し、空間座標に対応させた舞台空間座標220で示される点と、客席側に位置し、空間座標に対応させた客席空間座標230で示される点と、を通る直線である判定ライン310を、施設情報に基づいて算出する処理を含む。
(iv) 評価対象となる客席に着座した観客の目の高さと、評価対象となる客席における判定ライン310の高さとを比較し、評価対象となる客席からの舞台の観やすさを判定する処理を含む。
(v) 判定された判定結果を表示する処理を含む。
本開示によれば、観覧施設評価方法は、舞台側に位置する舞台空間座標220で示される点と客席側に位置する客席空間座標230で示される点とで判定ライン310を算出する。さらに、観覧施設評価方法は、判定ライン310に基づいて客席からの舞台の観やすさを判定し、判定結果を表示する。ユーザが当該判定結果を見ることで容易に客席全体の観やすさを認識することができる。
(12) コンピュータに実行させるための観覧施設評価プログラムは、以下の処理を有する。
(i) 舞台と客席とを備える観覧施設に関する設計情報に基づいて、観覧施設に対応した空間座標を設定する処理を含む。
(ii) 空間座標における観覧施設に関する施設情報が入力される処理を含む。
(iii) 舞台側に位置し、空間座標に対応させた舞台空間座標220で示される点と、客席側に位置し、空間座標に対応させた客席空間座標230で示される点と、を通る直線である判定ライン310を、施設情報に基づいて算出する処理を含む。
(iv) 評価対象となる客席に着座した観客の目の高さと、評価対象となる客席における判定ライン310の高さとを比較し、評価対象となる客席からの舞台の観やすさを判定する処理を含む。
(v) 判定された判定結果を表示する処理を含む。
本開示によれば、観覧施設評価プログラムは、舞台側に位置する舞台空間座標220で示される点と客席側に位置する客席空間座標230で示される点とで判定ライン310を算出する。さらに、観覧施設評価プログラムは、判定ライン310に基づいて客席からの舞台の観やすさを判定し、判定結果を表示する。ユーザが当該判定結果を見ることで容易に客席全体の観やすさを認識することができる。
(13) 観覧施設評価プログラムを、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶した態様とすることもできる。
本開示によれば、観覧施設評価プログラムは、舞台側に位置する舞台空間座標220で示される点と客席側に位置する客席空間座標230で示される点とで判定ライン310を算出する。さらに、観覧施設評価プログラムは、判定ライン310に基づいて客席からの舞台の観やすさを判定し、判定結果を表示する。ユーザが当該判定結果を見ることで容易に客席全体の観やすさを認識することができる。