以下、本実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一あるいは同等の部位、又は構成要素には、同一の符号を付している。
以下で説明する実施形態は、包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示に限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。さらに、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
(観覧施設の一体性について)
観覧施設の評価のプロセスに関する実施形態の説明に先立って、評価項目の一例である観覧施設の一体性の性質について説明する。
観覧施設の空間には多様性がある。例えば、劇場では、舞台と観客席との空間的関係性に多様性がある。オープン形式の劇場には舞台と観客席との境界がなく、プロセニアム形式の劇場では、舞台と観客席とがプロセニアムと呼ばれる額縁状の構造物で区切られる。
オープン形式の劇場では、舞台の形式に多様性がある。アリーナ形式の劇場では、舞台の周りを観客席が囲む。スラストステージ形式の劇場では、舞台の張り出た部分の周りに観客席が隣接する。エンドステージ形式の劇場では、舞台の一辺に観客席が隣接する。
観覧施設の一体性は、観覧施設の空間の形式によって異なる。例えば、上述した各形式の劇場では、一体性の高さが、「アリーナ形式>スラストステージ形式>エンドステージ形式>プロセニアム形式」の関係にあると言われている。つまり、劇場の一体性は、舞台が観客席に囲まれているほど高く、舞台が観客席に囲まれていないと低い。観客席に囲まれていない場合、開口部から舞台を覗き見るプロセニアム形式の劇場では、一体性が特に低い。
また、同じ形式でも観客席の傾斜が大きい劇場の一体性は高く、傾斜が小さい劇場の一体性は低いと考えられている。さらに、舞台と観客席との段差が大きいと劇場の一体性は低くなる。観客の収容数が多い大劇場では、舞台が適切に見える多層バルコニー席を観客席に設けている劇場は、バルコニー席を観客席に設けていない劇場よりも一体性が高いと言われている。
舞台の演者は、観客席に向けた視線により観客の反応を視覚的に把握する。観客席の観客は、舞台に向けた視線により演者の演技を視覚的に把握する。つまり、舞台と観客席との間の視線(サイトライン)には双方向性がある。
舞台がよく見えない観客席にいる観客の顔は、舞台にいる演者からも見えない。例えば、舞台の演者から観客の頭頂部だけ見えても、頭頂部の毛髪からは、観客の反応を演者が視覚的に感じることができない。このように、舞台と観客席とが相互に見えない関係にあると、劇場の一体性が損なわれ、演者も観客も一体感を感じることが困難になる。
劇場の一体性は、一つの劇場の中でも場所によって異なることがある。同じ劇場の観客席でも、観客が全体の一体感を感じられる座席と、観客が感じる全体の一体感が乏しい座席とがある。前者は、1階席(ストール)の中央部等、周囲に他の座席が存在する座席、あるいは、バルコニー席の先端等、開放的な位置に配置された座席である。後者は、オペラハウスの個室の奥等、視野が狭い場所の座席、あるいは、3階バルコニー席の一番奥等、奥まった最後列の座席である。
観客が感じる一体感は、観客席に連続性があるかどうかによって異なる。例えば、天井等の水平の障壁で上階の観客席と区切られ、あるいは、手摺等の垂直の障壁で障壁の向こう側の観客席と区切られて、観客席の連続性が途切れると、観客が感じる一体感は、連続性がある観客席で観客が感じる一体感よりも弱まる。
また、単床のワンスロープの観客席では、スロープの勾配を大きくすると、観客が感じる一体感が高まると言われている。バルコニー席が存在する多層客席の劇場でも、奥行きが少なく勾配を急にした観客席を重ねて配置することで、観客が感じる一体感が高まると言われている。
このように、観客が感じる一体感は、観客席の場所によって異なることがある。したがって、劇場では、舞台と観客席との一体性だけでなく、観客席全体の一体性も重要と考えられている。
以上の周知の事項から、観覧施設の一体性、あるいは、この一体性を感じる一体感という人の感覚には、次のような性質があると考えられる。第1に、観覧施設の一体性は、観覧施設のある部分と他の部分との形態的な連続性に影響を受ける。この連続性には、例えば、劇場における舞台と観客席との連続性、観客席全体の連続性が含まれる。
第2に、観覧施設の一体性は、観覧施設の形式によって異なる。例えば、劇場には、アリーナ形式、プロセニアム形式等、舞台と観客席との空間的関係性に関する形式、バルコニー席の有無等、観客席の形式が含まれる。第3に、例えば、観客席のスロープの勾配が大きい観覧施設と小さい観覧施設とのように、形式が同じでも一体性の高さが異なる観覧施設がある。
第4に、人が観覧施設において感じる一体感は、その人の視線によって異なる。ここでいう視線には、一つの対象への特定の視線だけでなく、複数の対象に到達可能な視線も含まれる。視線が変わると、同じ人でも感じる一体感は変わる。つまり、観覧施設の一体性は、観覧施設の部分毎に異なる。
例えば、劇場において、舞台の演者は、自身の演技に対する観客席の観客の反応が視覚的にわかるように、観客席の観客が見えないと、感じる一体感が乏しくなる。観客は、観客席から見える舞台の部分が、演技に使われている部分の全体に対して少ないほど、感じる一体感が乏しくなる。このように、同じ舞台と観客席との間でも、視線の方向が逆転するだけで、一体感の感じ方が変わる。よって、観覧施設の一体性に対する要求は、観覧施設の部分毎に充足させる必要がある。
第5に、観覧施設の観客席で人が感じる一体性は、座席の位置によって異なる。例えば、周囲に他の座席が配置された座席、視線の方向に開放的な座席等では、人が感じる一体感が高くなる。視線の方向の視野が狭い奥まった場所の座席、上下に圧迫された最後列の座席等では、人はむしろ疎外感を感じ、人が感じる一体感が低くなる。第6に、観客席が複数階に亘って多層配置される場合、通路によって観客席の列が分断される場合等には、その場所で観覧施設の一体性が局所的に損なわれる。
以上の性質から、観覧施設で人が感じる一体感は、観覧施設の形態的な連続性に関わる複合的な感覚であり、視覚に基づく点では評価対象物の見やすさと共通するが、見やすさよりも高次元の感覚であるといえる。
一体性は、基本的に全ての種別の観覧施設に求められる。特に、劇場、スポーツ観覧施設、演奏会場等、演者、競技者等と観客との間に反応の伝達が求められる観覧施設においては、一体性が重要とされている。映画館、講堂等、単方向の情報伝達を行う観覧施設では、一体性はあまり必要とされない。しかし、式典、宗教施設等、多人数の連帯感が必要な観覧施設では、参加者が一体感を感じるように、一体性を必要とする場合もある。
例えば、一体性の高い劇場は、演者にとって好ましい空間である。一体性の高い劇場の舞台に演者が立つと、観客に囲まれて包まれたような感覚となり、さらには、演者の目の前に観客席がそびえ、観客席の観客によって目の前に「人の壁」ができたように感じる。この「人の壁」により演者は、観客に抱擁されているという感覚を達成し、高揚感を抱いて集中すること等から、演技内容が充実する。
一体性の低い劇場では、演者は、観客の顔が見えず観客の反応を感じ取りにくい。例えば、観客席の勾配が小さく一体性が低い劇場では、演者には、観客席の観客の頭髪ばかりが見えて顔が見えないので、演者は観客の反応を視覚的に感じ取りにくい。周りの観客の反応を感じ取りにくいと、演者は、観客に囲まれているという感覚よりも、むしろ、観客と対峙したような感覚になり、観客との距離を実際よりも遠く感じる。観客も、舞台がよく見えず、舞台を実際よりも遠くに感じるので、演者の演技に対する観客の反応は自ずと小さくなる。
演者が観客の反応を視覚的に感じることができない劇場、あるいは、観客の反応自体が小さい劇場では、演者が観客に抱擁されている感覚を得ることができない。このような劇場は、演者と観客とが共感し一体化した臨場感のある空間にはなりにくい。劇場における一体性の高さは、演者が行う演技の内容を充実させる上で、非常に重要なことである。
劇場と同様に、スポーツ観覧施設、演奏会場等においても、一体性の高さが競技者の競技内容、演者の演奏内容等の充実につながる。つまり、スポーツ観覧施設、演奏会場等における一体性の高さは、競技者、演者等が行う競技、演奏等の内容を充実させ、演者と観客とが共感し一体化した臨場感のある空間を実現する上で、重要なことである。
(一体性の基準となる数値について)
劇場の性質から、劇場の舞台上の演者が一体感として感じる劇場の視覚的な一体性は、有効観客立体角(EASA:Effective Audience Solid Angle)の和を基準として数値化できると考えられる。有効観客立体角(EASA)については後述する。
スポーツ観覧施設、演奏会場等も劇場と性質が同じであることから、競技者、演者等がスポーツ観覧施設、演奏会場等で視覚的に感じる一体性も、有効観客立体角の和を基準として数値化できると考えられる。
つまり、演者、競技者等が感じる劇場、スポーツ観覧施設、演奏会場等の観覧施設の視覚的な一体性は、総じて、有効観客立体角の和を基準として数値化できると考えられる。
有効観客立体角は、観覧施設の舞台、フィールド、コート等に設定した演者、競技者等の視点を中心とする仮想球面上における、観客席の観客の上半身のうち、反応を表出できる胸から上の部分の立体角である。反応を表出できない頭髪部分と、前後左右の座席にいる他の観客と重複する部分は、胸から上の部分であっても有効観客立体角の和から除外する。
観客席の観客が周辺の観客を見たときに一体感として感じる観覧施設の視覚的な一体性も、有効観客立体角を基準として数値化できると考えられる。
また、観客席の観客が、舞台、フィールド、コート等の演者、競技者等を見たときに感じる観覧施設の視覚的な一体性は、舞台面、フィールド面、コート面等の立体角(SSA:Stage Solid Angle )の大きさを基準として、数値化できると考えられる。舞台面、フィールド面、コート面等の立体角は、観客の視点を中心とする仮想球面上における、舞台面、フィールド面、コート面等の部分の立体角である。
例えば、劇場において、演者が演技する場所が、張出舞台、花道等、舞台以外にも存在する場合は、観客から見た劇場の一体性に関わる領域が舞台面から拡張され、立体角の対象とする領域が舞台以外の面にも拡張される。彩色された背景幕、ホリゾント幕が舞台後方に張られている場合、照明、映像による演出がある場合、舞台装置が立体的にある場合等にも、同じ理由で立体角の対象とする領域が拡張される。黒い地絣で覆われた舞台面を照らす地明かりの下で一人芝居を行う場合等には、反対の理由で舞台面の立体角の対象とする領域が縮小される。
スポーツ観覧施設で競技者が行う競技に高さの要素がある場合も、スポーツ観覧施設の一体性に関わる領域が、フィールド面、コート面等から拡張され、立体角の対象とする領域がフィールド面、コート面以外の面にも拡張される。
以上から、観覧施設の視覚的な一体性は、演者、競技者、観客等の一体感を感じる人の視点を中心とする仮想球面上における、その人に一体感を感じさせる要因となる部分の大きさを基準として、数値化できると考えられる。観覧施設の視覚的な一体性を数値化する際の基準とする大きさは、例えば、上述した有効観客立体角の和の大きさであり、あるいは、舞台面、フィールド面、コート面等の立体角の大きさである。
(観覧施設の親密性について)
次に、観覧施設の評価項目の別例である観覧施設の親密性の性質について説明する。
例えば、1万人収容のアリーナにおいて、全ての客席について観客の反応を舞台の演者に伝わり易くして、一体性を高くすることはできる。しかし、演者が観客の反応を全ての客席について近くに感じるように、親密性を高くすることはできない。このことから分かるように、観覧施設の親密性は、観覧施設の一体性と似ているものの、一体性とは異なる概念である。
観覧施設で演者、競技者等が視覚的に感じる親密性は、例えば、劇場の場合、舞台との距離が近い客席がどのくらいの数及び密度で存在するかということを基準に評価することができる。演者が視覚的に感じる親密性が高い劇場は、例えば、次の条件を満たしていると考えることができる。第1の条件は、一体性が高い劇場であり、かつ、座席がまばらに配置されるような少数ではないことである。第2の条件は、舞台から見て近い距離に客席の観客の姿があり、観客の顔、上半身の胸から上等、演技に対する反応を表出できる部分が、舞台の演者から高い密度で見えることである。
(親密性の基準となる数値について)
劇場で演者が感じる視覚的な親密性は、第1の条件から、劇場の視覚的な一体性と同じく、有効観客立体角を基準として数値化できると考えられる。また、劇場の視覚的な親密性は、第2の条件から、舞台上の演者の視点から見た観客一人当たりの有効観客立体角の大きさを基準として、数値化できると考えられる。
競技者、演者等がスポーツ観覧施設、演奏会場等で視覚的に感じる親密性が高い競技施設も、上述した第1及び第2の条件を満たしていると考えることができる。
したがって、観覧施設で演者、競技者等が感じる視覚的な親密性は、総じて、有効観客立体角の和を基準として数値化できると考えられる。
観客席の観客が周辺の観客を見たときに感じる観覧施設の視覚的な親密性も、有効観客立体角を基準として数値化できると考えられる。
また、例えば、観客席の観客が、舞台、フィールド等の演者、競技者を見たときに感じる観覧施設の視覚的な親密性は、演者、競技者の立体角の大きさを基準として、数値化できると考えられる。演者、競技者等の立体角は、観客の視点を中心とする仮想球面上における、舞台面、フィールド面上の演者、競技者の立体角である。
以上から、観覧施設の視覚的な親密性は、観覧施設の視覚的な一体性と同じく、一体感を感じる人の視点を中心とする仮想球面上における、その人に一体感を感じさせる要因となる部分の大きさを基準として、数値化できると考えられる。観覧施設の視覚的な親密性を数値化する際の基準とする大きさは、例えば、上述した有効観客立体角の和の大きさであり、あるいは、舞台面上、フィールド面上にいる演者、競技者の立体角の大きさである。
(観覧施設の評価に有用な要素について)
観覧施設の視覚的な一体性、親密性等、視覚的な一体感に基づいて観覧施設を評価する際には、観覧施設の一体感を感じる人の視点を中心とする仮想球面上における、その人に一体感を感じさせる要因となる部分の大きさが、有用な要素になると考えられる。
(観覧施設の範囲)
視覚的な評価の対象となる観覧施設には、例えば、劇場、音楽堂、公会堂、講堂、教室、競技場、アリーナ、スタジアム等の、観劇、音楽鑑賞、集会、スポーツ観覧、展示、演出を目的とする施設が含まれる。
また、講堂・教室等教育、研修・会議・式典を目的とする施設、寺院、教会、礼拝堂等の宗教的な施設、又は、宗教的な施設に類する施設も、視覚的な一体性及び親密性の評価対象となる観覧施設に含まれる。なお、上述した各施設は、恒久的な施設であってもよく、仮設的な施設であってもよい。
(観覧施設の区分)
視覚的な一体性及び親密性の評価対象とする観覧施設の区分には、例えば、計画中の施設、既存の施設、人体像を含む映像が表示されるディスプレイ又はスクリーン等の表示デバイスを空間的に離れた箇所から観覧するパブリックビューイング等の施設が含まれる。
また、ヘッドマウントデバイス(以下、「HMD」と略記する。)が視覚媒体となってHMDの装着者に仮想空間(VR:virtual reality )として視認させる、人体像を含む映像による施設空間も、評価対象とする観覧施設の区分に含まれる。
さらに、映像を介して人と人との間で情報の伝達を図る視覚的コミュニケーションにおいて情報の伝達相手に視認させる、人体像を含む映像による施設空間も、評価対象とする観覧施設の区分に含まれる。
なお、各区分の施設において、ディスプレイ、スクリーン、HMD等の表示デバイスに表示させる映像は、実写映像でもよく、CG(Computer Graphics )等のコンピュータで作成した映像であってもよい。また、映像中に表示される人体像は、人の分身であるアバターの像であってもよい。
(観覧施設の評価の実施形態)
以下、観覧施設の一体感の要因となる部分の立体角を数値化し、その数値に基づいて、観覧施設を評価するプロセスを、図面を参照して具体的に説明する。各図面を通じて同一あるいは同等の部位、又は構成要素には、同一の符号を付している。
なお、以下で説明する実施形態は、包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示に限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。さらに、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
観覧施設を視覚的に評価するプロセスは、図1A及び図1Bに示すように、評価対象とする観覧施設の区分によって異なる。また、観覧施設の評価のプロセスは、評価する観覧施設がどんな形式の施設であるか、観覧施設の評価する項目が一体性か親密性か、観覧施設の一体性の評価対象とする部分が観客席の全体か一部か、それとも、イベントが行われる空間か、等によって異なる。
以下に、評価のプロセスが異なる第1〜第11の各実施形態と、観覧施設における光源の評価に特化した参考例とについて、順次説明する。
(計画中の観覧施設に対する評価プロセス:第1〜第4実施形態)
第1〜第4実施形態では、計画中の観覧施設を評価する場合の評価プロセスについて説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態では、観覧施設が計画中のプロセニアム形式の劇場である場合を説明する。本実施形態では、舞台から見た観客席の全体を評価対象とし、一体性及び親密性の両項目を評価する。
(観覧施設評価装置の構成)
図2に示す本実施形態の観覧施設評価装置1は、例えば、パーソナルコンピュータで構成することができる。観覧施設評価装置1を構成するパーソナルコンピュータは、1台であっても複数であってもよい。物理的に離れた場所に設置されている複数のパーソナルコンピュータが連結することによって、観覧施設評価装置1の機能を実現することも可能である。
観覧施設評価装置1の機能を実現するものは、パーソナルコンピュータに限定されず、例えば、プロセッサを備えたサーバ又はタブレット等の機器においても実現可能である。
観覧施設評価装置1は、例えば、クラウド上のサーバコンピュータによって構成することもできる。この場合、ユーザは、例えば、手元のコンピュータからWEBコンソール画面を使って、観覧施設評価装置1を構成するクラウド上のサーバコンピュータに、インターネット経由でアクセスすることができる。
観覧施設評価装置1は、コントローラ10及び記憶部15を有している。コンピュータとしてのコントローラ10は、例えば、メモリ上のプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit )等のプロセッサを有している。
コントローラ10は、プロセッサがプログラムを実行することで、空間座標設定部20、人体モデル取得部30、投影画像生成部40、AHM有効性判定部50を仮想的に構築する。また、コントローラ10は、プロセッサがプログラムを実行することで、有効領域確定部60、評価視野限定部70、評価値取得部80及び評価出力部90を仮想的に構築する。
そして、空間座標設定部20、投影画像生成部40、評価値取得部80及び評価出力部90を仮想的に構築するために、コントローラ10のプロセッサがプログラムを実行することで、観覧施設評価方法を実行することができる。また、観覧施設評価方法を実行するためにコントローラ10のプロセッサが実行するプログラムは、観覧施設評価プログラムを構成することができる。
観覧施設評価プログラムは、例えば、記憶部15にインストールして記憶させておき、観覧施設評価装置1を運用する際にコントローラ10のプロセッサに実行させることができる。また、観覧施設評価プログラムは、例えば、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体からコントローラ10に読み込ませて、記憶部15にインストールしてもよい。
観覧施設評価装置1を構成する上記の各機能部は、パーソナルコンピュータ等に設けられたプロセッサがメモリ上のプログラムを実行することによって構成される。観覧施設評価装置1を構成するパーソナルコンピュータは、1台であっても複数であってもよい。物理的に離れた場所に設置されている複数のパーソナルコンピュータが連結することによって、観覧施設評価装置1の機能を実現することも可能である。観覧施設評価装置1の機能を実現するものは、パーソナルコンピュータに限定されず、例えば、プロセッサを備えたサーバやタブレット等の機器においても実現可能である。
(空間座標設定部)
空間座標設定部20は、計画中のプロセニアム形式の劇場の設計情報から作成された、劇場の3次元モデルのデータを取得し、3次元軸上に劇場の空間座標を割り当てる。
計画中の劇場の3次元モデルデータは、例えば、その劇場の設計情報、設計図面等を用いて、設計に用いた3次元CAD(Computer Aided Design )、BIM(Building Information Modeling )等で作成することができる。
空間座標設定部20は、劇場の3次元モデルデータを、観覧施設評価装置1により計画中の劇場の評価を行う度に、3次元モデルデータの作成元から取得してもよく、作成元から予め取得して記憶部15に格納させておいてもよい。
計画中の劇場の3次元モデルデータが入力されるまでに3次元モデルデータの作成元が行うプロセスは、図1Aの「設計作業」〜「3D MODEL」までのプロセスに該当する。
(劇場の構成)
本実施形態では、例えば、図3A及び図3Bに示すプロセニアム形式の劇場110の設計情報が空間座標設定部20に入力される。劇場110は、図3Aに示すように、イベントが行われる空間としての舞台120と観客席130とを区切る額縁型のプロセニアム140を有している。
観客席130は、図3Bに示すように、1階席130a、2階席130b及びバルコニー席130cを有している。図3Aでは、1階席130a、2階席130b及びバルコニー席130cの一部の図示を省略している。図3Aに示すように、1階席130aには、複数の座席130dが設置されている。2階席130b及びバルコニー席130cにも、図示を省略しているが、複数の座席130dがそれぞれ設置されている。
(人体モデル取得部)
人体モデル取得部30は、観客席130の各座席130dにそれぞれ配置される3次元の観客人体モデル(AHM:Audience Human Model)のデータを取得する。AHMのデータは、AHMをそれぞれ配置する観客席130の各座席130dの位置データを含んでいる。
AHMのデータは、例えば、劇場110の3次元モデルデータの作成元で生成することができる。人体モデル取得部30は、AHMのデータを、観覧施設評価装置1により計画中の劇場の評価を行う度に、AHMのデータの作成元から取得してもよく、作成元から予め取得して記憶部15に格納させておいてもよい。
(3次元人体モデル)
図4(a)〜(c)に示すように、人体モデル取得部30が取得するAHM210は、観客の胸像部を表すモデルとすることができる。AHM210は、観客の胸及び肩に対応する胸部211、首から顔に対応する頭部212、頭髪に対応する頭頂部213を有するものとすることができる。
AHM210の胸部211は、例えば、簡単なポリゴンの組み合わせで構成することができる。頭部212は、例えば、円柱で構成することができる。頭頂部213は、例えば、半球で構成することができる。AHM210は、人体形状に対する解剖学的なリアリティーは必要なく、舞台120上の視点から観客が見えるか否かを評価できる程度の類似性があればよい。
本実施形態のAHM210は、観客の腹部から下の部分を省略して構成している。この部分を省略した理由は、座席130dに座った観客が腹部から下の部分で感情を表現できないからである。また、AHM210の頭部212と頭頂部213とを分けた理由は、観客は顔で感情を表現できるが頭髪では感情を表現できないからである。なお、観客が舞台120側に顔を向けていない場合は、舞台120上の視点から見て、頭部212も感情を表現できない部分になるが、本実施形態ではそのような場合を無視する。
後述するAHM有効性判定部50では、AHM210の胸部211及び頭部212が、有効な部分と判定される。
AHM210のデータが入力されるまでに劇場の3次元モデルデータの作成元等が行うプロセスは、図1Aの「AHM作成・配置」のプロセスに該当する。
(投影画像生成部)
図2の投影画像生成部40は、空間座標設定部20が3次元軸上に空間座標を割り当てた計画中の劇場110の3次元モデルデータと、人体モデル取得部30が取得したAHM210のデータとを用いて、舞台120から観客席130に向けた視野の画像を生成する。この画像は、舞台120上の演者の視点から観客席130を見た視野の画像である。
投影画像生成部40は、演者の視点を、例えば、図3Aに示す、舞台120から観客席130の方向に向かって左右対称となる中心軸111と、プロセニアム140のカーテンラインとの交点上の、高さ1.5mの位置に配置することができる。
本実施形態では、投影画像生成部40が生成する画像において、1階席130a、2階席130b及びバルコニー席130cの全ての座席130dに観客のAHM210がそれぞれ配置されるものとする。観客のAHM210が配置される座席は、観客席130の全ての座席130dでなくてもよい。
図2の投影画像生成部40は、生成した視野画像を、図5に示す仮想半球面220上に投影する。仮想半球面220は、舞台120上の演者の視点を中心とする全球面を、視点を通る不図示の垂直面によって半分に切断した、視点から観客席130側の空間に対応する球面である。
投影画像生成部40は、生成した視野画像中に存在する面要素の各頂点と視点とを結ぶ線が仮想半球面220と交差する点を、仮想半球面220上でつなぐ処理を行うことで、視野画像を等立体角射影方式で仮想半球面220上に投影することができる。
本実施形態では、投影画像生成部40は、中心軸111に沿って視点から前方の観客席130に向けた視野画像を、垂直方向及び水平方向にそれぞれ180度の視野の範囲について、仮想半球面220上に投影することができる。垂直方向に180度の視野は、視点を通る水平面を挟んだ上下90度ずつの範囲を含むことができる。水平方向に180度の視野は、視点を通る垂直面を挟んだ左右90度ずつの範囲を含むことができる。
仮想半球面220のうち左半分の四半円球面には、視点からの視野方向が視点を通る水平面に対して仰角となる視野部分の画像が投影される。仮想半球面220のうち下半分の四半円球面には、視点からの視野方向が注視点を通る水平面に対して俯角となる視野部分の画像が投影される。
仮想半球面220のうち上半分の四半円球面には、視点からの視野方向が視点を通る水平面に対して仰角となる視野部分の画像が投影される。仮想半球面220のうち下半分の四半円球面には、視点からの視野方向が視点を通る水平面に対して俯角となる視野部分の画像が投影される。
劇場110はプロセニアム形式であるため、舞台120から観客席130に向けた演者の視点からの視野は、舞台120の前方に展開される。本実施形態では、投影画像生成部40は、演者の視野画像を1つの仮想半球面220に投影することができる。
投影画像生成部40が舞台120上の演者の視野画像を生成し、図5の仮想半球面220上に投影するプロセスは、図1Aの「CG/VR作成」及び「半球画像へ変換」のプロセスに該当する。
(視野の画像の解像度)
図6(a)に示すように、視力の定義から、人の平均的な視力とされる視力1.0を持つものが見分けられる最小角度βは、1/60(度)=1(分)=0.00029(rad)とされる。その一方で現代人の平均的視力は0.5程度しかないので、舞台120上の演者が観客席130の観客に対して感じる一体感は、演者の視野中心部たけでなく周辺部も含むぼんやりした感覚となる。よって、仮想半球面220への投影画像に要求される、人の視力に合わせた解像度は、図6(b)に示すように、視力0.5相当(最小角度βは視力の逆数に比例するので、2/60度=2分=0.00058(rad)程度)で十分と考えられる。
この考え方に基づいて、投影画像生成部40による仮想半球面220への投影画像に対する計測の最小単位を約0.0006(rad)とする。半球に相当する角度π(rad)=180(度)の場合 π/0.0006=5400であることから、等立体角射影方式で投影した場合は、円の直径が5000〜6000画素以上に分割される精度があれば、十分と考える。例えば、5400×5400の正方形の中に半球を示す円が内接するならば、図7に示すように、円の部分に、2700×2700×π=約22,901,000画素あれば、許容される画像の解像度となる。
(AHM有効性判定部)
AHM有効性判定部50は、投影画像生成部40による投影画像のうち、各AHM210の胸部211及び頭部212の画素を、各AHM210の有効な部分として判定する。胸部211及び頭部212は、座席130dの観客が通常の姿勢で舞台120への反応を表現することのできる部分である。AHM有効性判定部50は、投影画像生成部40による投影画像において、胸部211及び頭部212の部分が最低でも1画素の大きさあれば、各AHM210の有効な部分を有効でない部分と見分けて判定することができる。
なお、AHM210の胸部211及び頭部212が存在する画素であっても、AHM有効性判定部50が有効でない部分と判定するのは、例えば、前列の観客の真後ろに後列の観客が配置される場合である。この場合は、図8(a)に示すように、頭髪に隠れて後列の観客の顔が見えなくなってしまう。
このような状況は、実際によく起こる。例えば、国際サッカー連盟が定めた観覧席の最低基準の頭頂差9cmでは、手前のタッチライン上からみて、前列の座席の真後ろの座席に座った観客は、前列の観客の頭髪によって、顔が隠れて見えなくなる可能性が十分ある。
例えば、図8(b)に示すように、前列の観客と観客との間に後列の観客が配置される場合は、前列の観客の頭頂部213に隠れる後列の観客の頭部212が一部なので、巨視的には各AHM210の有効な部分として判定してもよい。
人の頭部の幅は、頭髪と耳を除くと統計的に0.16m前後であるから、計測の最小単位が約0.0006radであれば、最小計測単位に相当する距離は、r=d/β=0.16/0.0006=266mとなる。舞台120上の視点から観客席130までの距離が266mというのは、劇場110では通常ありえない。劇場110の場合は、視点から観客席130までの距離がもっと短いので、投影画像生成部40による投影画像において、各AHM210の有効な部分は、通常は複数画素分の大きさであると考えられる。
AHM有効性判定部50が行う有効性判定のプロセスは、図1Aの「AHM有効性評価」のプロセスに該当する。
(有効領域判定部)
有効領域確定部60は、AHM有効性判定部50が各AHM210について有効と判定した部分を、投影画像生成部40による投影画像における有効領域として確定する。投影画像生成部40が生成した画像における、各AHM210の有効な部分の立体角が、先に説明した、劇場110の視覚的な一体性の基準となる有効観客立体角(EASA)である。各AHM210の有効観客立体角(EASA)は、例えば、有効領域確定部60が各AHM210の有効と判定した部分の画素数から、算出することができる。
有効領域確定部60が行う有効領域の確定プロセスは、図1Aの「EASA領域確定」のプロセスに該当する。
(評価視野限定部)
評価視野限定部70は、投影画像生成部40による投影画像における、劇場110における一体性、親密性の評価対象とする視野を、舞台120から観客席130に向けた演者の視野のうち一部の視野部分に限定する。
具体的には、舞台120から観客席130に向けた演者の視野のうち、例えば、前列の観客の頭頂部213によって後列の観客の胸部211、頭部212が隠れて見えなくなる視野の部分を、一体性、親密性の評価対象とする視野から除外する。評価対象の視野から除外する部分は、例えば、図9に示すように、演者の視野のうち、垂直方向に−1/12〜+1/6(rad)、即ち、−15(度)〜+30(度)の範囲を外れる視野部分とすることができる。
球面上で緯度δ1からδ2(rad)、経度λ1からλ2(rad)で囲まれた範囲の立体角は、Ω=(sinδ1−sinδ2)(λ2−λ1) (sr)の式で求められることが知られている。ここから計算し、仮想半球面220(立体角2π=6.283(sr))のうち、緯度上方30(度)〜下方15(度)に相当する2.116(sr)が、劇場110における一体性、親密性の評価対象とする視野の立体角の大きさA1(sr)となる。
評価視野限定部70が行う評価視野の限定プロセスは、図1Bの「評価視野限定」のプロセスに該当する。
(評価値取得部)
評価値取得部80は、仮想半球面220上における、舞台120上の演者に観客席130の全体の観客との一体感を感じさせる要因となる部分の大きさとして、仮想半球面220上における有効観客立体角(EASA)の和(ΣEASA) (sr)を取得する。有効観客立体角の和(ΣEASA)は、劇場110の視覚的な一体性、親密性を評価する基準とすることができる。
評価値取得部80が行う有効観客立体角の和(ΣEASA)の取得プロセスは、図1Bの「立体角計測」のプロセスに該当する。
(評価出力部)
評価出力部90は、評価値取得部80が取得した有効観客立体角の和(ΣEASA)を、評価視野限定部70によって限定された評価対象の視野の立体角の大きさA1(sr)で割った一体率Uを、劇場110の視覚的な一体性の指標として求める。
また、評価出力部90は、評価値取得部80が取得した有効観客立体角の和(ΣEASA)を、観客席130の観客数N(但し、立ち見の観客数を含む)で割って、劇場110の視覚的な親密性I(Intimacy)の指標を求める。
劇場110の親密性Iは、舞台120上の演者と観客席130の観客の視覚的な近さ、即ち、立体角の密度と言い換えることができる。親密性Iは、演者から見える視野の仮想半球面220への投影画像における、各AHM210の有効な部分(胸部211及び頭部212)の立体角の平均値に相当する数値となる。観客席130の全ての観客の胸部211及び頭部212が完全に見える場合、親密性Iは、平均距離の二乗に反比例する。
評価出力部90は、求めた劇場110の一体率U、親密性Iの値を、劇場110の視覚的な一体性、親密性の評価用数値として出力する。評価用数値の出力は、例えば、観覧施設評価装置1に設けた不図示のディスプレイにおける表示によって行うことができる。ディスプレイにおける表示の代わりに、あるいは、表示と共に、評価用数値の値の出力を、観覧施設評価装置1から他のデバイスへのオンライン又はオフラインによるデータの受け渡しによって行うこともできる。
評価出力部90が行う劇場110の一体率U、親密性Iの出力までのプロセスは、図1Bの「一体性算出」〜「親密性評価」までのプロセスに該当する。
以上に説明した第1実施形態の観覧施設評価装置1によれば、計画中のプロセニアム形式の劇場110について、設計段階において、舞台120の演者が観客席130の観客との視覚的な一体感を感じる要因となる有効観客立体角の和(ΣEASA)を数値化できる。このため、舞台120上の演者から見た劇場110の一体性、親密性を、劇場110の設計段階において数値により客観的に評価し、演者の演技内容の充実を図れる劇場110の設計に役立てることができる。
(第2実施形態)
第2実施形態では、観覧施設が計画中のアリーナ形式、スラストステージ形式、エンドステージ形式等、プロセニアム形式以外のオープン形式の劇場である場合を説明する。本実施形態では、舞台から見た観客席の全体を評価対象とし、一体性の項目を評価する。
第2実施形態の観覧施設評価装置1において視覚的な一体性を評価するオープン形式の劇場には、図3A及び図3Bに示す劇場110において舞台120と観客席130とを区切っているプロセニアム140が存在しない。このため、観客席130が舞台120の前端だけに沿って存在するとは限らず、舞台120上の演者の視野は、プロセニアム形式の劇場110のような舞台120の前端側以外の方向にも広がる場合がある。
第2実施形態の観覧施設評価装置1では、空間座標設定部20、人体モデル取得部30、AHM有効性判定部50及び有効領域確定部60が、第1実施形態の各部20,30,50,60と同様のプロセスを実行する。
また、第2実施形態の観覧施設評価装置1では、投影画像生成部40が、舞台120上の演者の広がる視野に応じて、前方及び後方の2つの視野画像を生成し、各視野画像を等立体角射影方式で2つの仮想半球面220上にそれぞれ投影する。
さらに、第2実施形態の観覧施設評価装置1では、評価視野限定部70が、投影画像生成部40による2つの仮想半球面220への投影画像について、劇場110における一体性の評価対象とする視野を、それぞれ一部の視野部分に限定する。
また、第2実施形態の観覧施設評価装置1では、評価値取得部80が取得する有効観客立体角(EASA)の和が、2つの仮想半球面220上の有効観客立体角(EASA)の和(ΣEASA1+ΣEASA2) (sr)となる。
さらに、第2実施形態の観覧施設評価装置1では、評価出力部90が、評価値取得部80が取得した有効観客立体角の和(ΣEASA1+ΣEASA2)から、劇場110の視覚的な一体性の指標として一体率Uを求める。この一体率Uは、本来ならば、有効観客立体角の和(ΣEASA1+ΣEASA2)を、2つの仮想半球面220について評価視野限定部70がそれぞれ限定した評価対象の視野の立体角の大きさの和A2=A1+A1(sr)で割った値である。
しかし、プロセニアム形式以外のオープン形式の劇場110において、舞台120上の演者の視点から見た観客席130の囲み角は、多くは最大でも220度前後であり、180度に対して大きく拡張するわけではない。このため、一体率Uの分母を仮想半球面220の2つ分であるA2=A1+A1(sr)にすると、観客席130が存在しない140度(360度−220度)前後の分だけ、一体率Uの分母が過剰な値となる。一体率Uの分母が過剰な値であると、実際にはオープン形式の劇場110よりも一体性が劣るプロセニアム形式の劇場110の方が、一体率Uの値が高くなるという逆転現象が生じてしまう。
そこで、評価出力部90は、評価値取得部80が取得した有効観客立体角の和(ΣEASA1+ΣEASA2)を、オープン形式の劇場110における実際の観客席130の囲み角に近い、仮想半球面220の1つ分の立体角の大きさA1で割って求めてもよい。これにより、オープン形式の劇場110よりも一体性が劣るプロセニアム形式の劇場110の方が、一体率Uの値が高くなるという、受け入れがたい結果が導かれるのを防ぐことができる。また、一体率Uの分母がプロセニアム形式の劇場110の一体率Uと同じになるので、プロセニアム形式の劇場110における一体率Uとの比較を容易に行える利点がある。
以上に説明した第2実施形態の観覧施設評価装置1でも、計画中のプロセニアム形式以外のオープン形式の劇場110について、第1実施形態の観覧施設評価装置1と同様の効果を得ることができる。
(第3実施形態)
第3実施形態では、観覧施設が計画中のスポーツ観覧施設である場合を説明する。スポーツ観覧施設は、スタジアム、アリーナ等、フィールドの周りを観客席が360度囲むスポーツ施設の全般を含む。フィールドは、トラック、グラウンド、コート等、競技者による競技が行われる試合場の全般を含む。観客席は、フィールドよりも高い位置に配置されることを想定している。本実施形態では、第1及び第2実施形態における劇場、舞台、演者が、スポーツ観覧施設、フィールド、競技者に置き換えられる。本実施形態では、スポーツ観覧施設のフィールドから見た観客席の全体を評価対象とし、一体性及び親密性の両項目を評価する。
例えば、第3実施形態の観覧施設評価装置1において視覚的な一体性、親密性を評価する図10のスポーツ観覧施設150は、フィールド160を360度囲んで観客席130が配置されたスタジアムである。また、イベントが行われる空間であるフィールド160よりも、観客席130が高い位置に配置されている。
第3実施形態の観覧施設評価装置1では、空間座標設定部20、人体モデル取得部30、AHM有効性判定部50及び有効領域確定部60が、スポーツ観覧施設150に対して、第1実施形態の各部20,30,50,60と同様のプロセスを実行する。
また、第3実施形態の観覧施設評価装置1では、投影画像生成部40が、フィールド160上の競技者の360度の視野に応じて、例えば、図11A及び図11Bに示すように、メインスタンド側及びバックスタンド側の2つの視野画像を生成する。そして、各視野画像を等立体角射影方式で仮想半球面220上にそれぞれ投影する。
アリーナの場合でも、投影画像生成部40が、コート上の競技者の視野に応じて、例えば、前方及び後方の2つの視野画像を生成する。そして、各視野画像を等立体角射影方式で仮想半球面220上にそれぞれ投影する。
さらに、第3実施形態の観覧施設評価装置1では、評価視野限定部70が、投影画像生成部40による2つの仮想半球面220への投影画像について、スポーツ観覧施設150における一体性、親密性の評価対象とする視野を、それぞれ一部の視野部分に限定する。
具体的には、フィールド160から観客席130に向けた競技者の視野のうち、例えば、観客席130が存在しない視野の部分を、一体性、親密性の評価対象とする視野から除外する。評価対象の視野から除外する部分には、例えば、水平方向から下側のフィールド160に対する視野の部分、観客席130よりも上方の屋根170及び上空に対する視野の部分を含めることができる。評価対象の視野から除外する部分は、例えば、競技者の視野のうち、垂直方向に0〜+1/6(rad)、即ち、0(度)〜+30(度)の範囲を外れる視野部分とすることができる。
球面上で緯度δ1からδ2(rad)、経度λ1からλ2(rad)で囲まれた範囲の立体角は、Ω=(sinδ1−sinδ2)(λ2−λ1) (sr)の式で求められることが知られている。ここから計算すると、2つの仮想半球面220(立体角4π=12.57(sr))のうち、緯度上方30(度)〜水平0(度)に相当するのは、3.1415(sr)である。この3.1415(sr)が、スタジアムによるスポーツ観覧施設150における一体性、親密性の評価対象とする視野の立体角の大きさA3(sr)となる。
アリーナの場合でも、コートの周囲の観客席の位置が舞台よりも高いので、例えば、舞台上の演者の視野のうち、垂直方向に0〜+1/6(rad)、即ち、0(度)〜+30(度)の範囲を外れる視野部分を、評価対象の視野から除外することができる。したがって、アリーナでも、2つの仮想半球面220(立体角4π=12.57(sr))のうち、緯度上方30(度)〜水平0(度)に相当する3.1415(sr)が、一体性、親密性の評価対象とする視野の立体角の大きさA3(sr)となる。
また、第3実施形態の観覧施設評価装置1では、評価値取得部80が取得する有効観客立体角(EASA)の和が、2つの仮想半球面220上の有効観客立体角(EASA)の和(ΣEASA1+ΣEASA2) (sr)となる。
さらに、第3実施形態の観覧施設評価装置1では、評価出力部90が、評価値取得部80が取得した有効観客立体角の和(ΣEASA1+ΣEASA2)から、スタジアムによるスポーツ観覧施設150の視覚的な一体性の指標として一体率Uを求める。この一体率Uは、評価値取得部80が取得した有効観客立体角の和(ΣEASA1+ΣEASA2)を、2つの仮想半球面220について評価視野限定部70がそれぞれ限定した評価対象の視野の立体角の大きさの和A3(sr)で割った値である。
アリーナの一体率Uも、同様にして求めることができる。
以上に説明した第3実施形態の観覧施設評価装置1でも、計画中のスポーツ観覧施設150について、第1実施形態の観覧施設評価装置1と同様の効果を得ることができる。
なお、AHM有効性判定部50の最小計測単位に相当する距離は、第1実施形態でも述べたように266mとなる。
AHM有効性判定部50の最小計測単位では、1つのAHM210に対して有効な画素が1画素となるが、このような小さい立体角の大きさは、観客席130の観客の反応を競技者が感じるには遠すぎる(見える大きさが小さすぎる)ようにも思える。しかし、その画素の座席130dに、反応できる人が存在することを感じられれば、競技者は、視覚的な一体感を感じることができる。
よって、フィールド160上の競技者から観客席130までの距離が例えば80mを超えるようなスポーツ観覧施設150では、測定する最小単位の画素に一部でもAHM210の有効な部分の画素が存在すれば、一体感を感じる部分の画素と判定してもよい。
また、競技者の視点から観客席130までの距離が例えば80mを超えると、投影画像生成部40がスポーツ観覧施設150の3次元モデルデータから生成する図12の視野画像上で、隣同士の座席130dの観客を区別するのは、解像度の面から困難と思われる。しかし、座席130dに観客が存在することを感じられればよいのであれば、隣同士の観客の境界が視野画像上で明確でなくても、AHM有効性判定部50の判定には支障がないと考えられる。
そこで、第3実施形態のAHM有効性判定部50は、観客席130の座席130dに空席が点在していなければ、投影画像上の観客席130をブロック毎に大まかに区切って、ブロック単位で有効な部分であるかどうかを判定しても支障ない。観客席130は、例えば、バルコニー先端、壁、スタンド内通路、ヴォミトリー(Vomitory)、手摺等によって、ブロックに区切ることができる。
(第4実施形態)
第4実施形態では、観覧施設が計画中のスポーツ観覧施設又は劇場である場合を説明する。第4実施形態では、スポーツ観覧施設又は劇場の観客席の各部を評価対象とし、一体性、親密性の項目を評価する。
観客席130の各部における一体性の評価は、他の観客席130に対する一体率Uaと、フィールド160又は舞台120に対する一体率Upとの和によって行うことができる。第4実施形態の観覧施設評価装置1では、他の観客席130に対する一体率Uaと、フィールド160又は舞台120に対する一体率Upとを評価する。また、第4実施形態の観覧施設評価装置1では、フィールド160又は舞台120に対する親密性も評価する。
まず、第4実施形態の観覧施設評価装置1において、他の観客席130に対する一体率Uaを評価する場合と、フィールド160又は舞台120に対する一体率Upを評価する場合とのプロセスについて説明する。
第4実施形態の観覧施設評価装置1において、投影画像生成部40が、劇場110の観客席130から舞台120に対する視野画像を、図13及び図14に示すように、仮想半球面220上に投影する。図13では、プロセニアム形式の劇場110の視野画像を仮想半球面220に投影した投影画像、図14では、アリーナ形式の劇場110の視野画像を仮想半球面220に投影した投影画像を示している。
仮想半球面220の投影画像において、AHM有効性判定部50は、AHM210の頭頂部213を、フィールド160又は舞台120側からの一体性を評価する場合と異なり、障害物として扱わず有効な部分にカウントする。観客相互の一体感においては、背後から頭頂部213を見ても、その動き等によって一体感を感じられるからである。
但し、AHM有効性判定部50は、前列及び前々列の正面の座席130dのAHM210を、人体的障害物(human body obstacle )として有効な部分から除外する。フィールド160又は舞台120に向かって観客席130の前列、前々列にいる観客の人体、衣服は逆に視野の障害物として認識されるからである。
また、観客の視点の近くにある、直前の手摺131、椅子132、天井133となる上階の観客席130等の建築的な要素は、障害物として認識されるので、AHM有効性判定部50は、建築的障害物(architectural obstacle)として有効な部分から除外する。さらに、AHM有効性判定部50は、劇場110内に仮設的に設置される技術的視線障害物(technical obstacle)を、有効な部分から除外する。技術的視線障害物(technical obstacle)に該当するのは、主に、照明器具134、音響機器135、映像機器136、撮影機材137、舞台装置138等である。
なお、プロセニアム形式の劇場110の場合は、額縁もしくは可動プロセニアムによる視界の限定すなわち見切れが生じる場合があるが、この場合は障害に隠されない部分しか一体率Upの評価対象にならない。このような障害物は、絞り(Iris)として作用する。また、舞台120側でなく観客の視点側の視線障害物(visual obstacle )もある。これらは一種の目隠し(米blinders/英blinkers)として作用する。スポーツ競技などでは、通常このような障害物はないが、視点によってはプレーヤが待機するベンチやダッグアウト、ゴールネットなどはこれに類するものと考えられる。
また、第4実施形態の観覧施設評価装置1においては、劇場110の形式、スポーツ観覧施設150等を問わず、平面的には観客の視点から後方の半球180度を対象視野から外し、前方の半球180度のみを対象とする。
この理由は以下のことによる。観覧施設評価装置1において評価する視覚的な一体性は、視覚的な一体感を前提としているので、人間の視界角が180度〜200度であり、しかも左右の後方10度は気配しか感じられないことから、後方を除外する。さらに、観客席130の最後列と最後列の一つ前では、通常は、一体感は大きく異ならないが、対象視野を全周とすると、前後の列で計測結果が大きく異なってしまうからである。もちろん360度の視覚的な一体感も身体感覚としては存在し、聴覚を含めた一体感は全周であることは否定しない。その時の視方向の中心は一体率が最大となる方向でよい。
また、上下の角度については、通常、観客席130側からは、舞台120等を見下ろすことになるが、その一方で観客席130の相互では見上げるような位置に上階の席がある場合もあるので、上方下方とも範囲を拡げ、上方45度〜下方45度とする。実際には、上階バルコニー席の最前列の手摺ぎりぎりから、バルコニー席のほぼ真下を見ることも可能な場合もあるが、通常は恐怖感を与えるので下方はカットする。
よって、観客席130の各部の場合は、半球(立体角2π=6.283(sr))のうち、仮想半球面220上で、緯度δ1からδ2(rad)、経度λ1からλ2(rad)で囲まれた範囲の立体角(sr)が、一体率Ua,Upの分母A4となる。この範囲の立体角は、公式から、(sin(π/4)−sin(−π/4))×π=4.443(sr)となる。これが、一体率Ua,Upの分母A4となる。
そして、第4実施形態の観覧施設評価装置1が評価する、他の観客席130に対する一体率Uaは、Ua=Σ(EASA’)(sr)/A4の式で表すことができる。ここで、EASA’は、有効観客立体角(AHM210の胸部211、頭部212及び頭頂部213に相当)である。EASA’の対象は、舞台120上から見えるAHM210の胸から上および頭部のみとし、重複する部分は除外する。この場合は頭頂部213を障害物として除かない。
ただし、A4=4.443(sr)で半球(立体角2π=6.283(sr))の内、緯度上方45度〜下方45度に相当する4.443(sr)が、各一体率Ua,Upの分母A4となる。その範囲以外は評価対象から除く。分母のA4は、劇場110の形式、スポーツ観覧施設150等を問わず、全ての観覧施設に共通する。
観客席130がフィールド160、舞台120よりも高い位置に配置されているスポーツ観覧施設150、アリーナ形式の劇場110では、最下階の観客席130よりも上階の観客席130ほど圧倒的に一体率Ua,Upが高くなるが、これは実感に一致する。
次に、第4実施形態の観覧施設評価装置1が評価する、フィールド160又は舞台120に対する一体率Upを評価する場合について説明する。
フィールド160のフィールド面、舞台120の舞台面は、通常水平な面であり、周辺の附属部分を除く、競技、演技、演奏が行われる正味の部分である。舞台120ならば、アクティングエリアすなわち主舞台、フィールド160ならば、バスケットコート、サッカーならゴールラインとタッチラインで囲まれた長方形の部分になる。舞台120が水平でなく段差や傾斜がある場合はこの形状に従う。
一体率Upの基本的な対象は、例えば上述したものとすることができる。但し、この考え方に縛られるものではない。
そして、第4実施形態の観覧施設評価装置1が評価する、フィールド160又は舞台120に対する一体率Upは、Up=SSA(sr)/A4(ただし、A4=4.443(sr))の式で表すことができる。ここで、SSAは、観客の視点から見た時の舞台面が占める立体角(Stage Solid Angle )で、スポーツ観覧施設150の場合は、フィールド160、コートがこれに相当する。A4の考え方は、他の観客席130に対する一体率Uaと同じである。
舞台の演出や、競技の方法において、競技、演技の空間が、立体的、空間的に展開するものについては、別の考え方を取ることも可能である。例えば、劇場110における張出舞台、花道、彩色された背景幕又はホリゾント幕、照明又は映像による演出、舞台装置等が立体的にある場合は、舞台120に一体感を感じるSSAの範囲が拡張されるとみなされる。逆に、舞台が黒い地絣で覆われ、地あかり一つの一人芝居であれば、SSAの範囲が縮小するとみなせ、競技により高さの要素も加わる。このように一体性の対象は流動的である。他の観客席130に対する一体率Uaと同様に、A4の範囲以外は評価対象から除く。
以上の点にしたがって、第4実施形態の観覧施設評価装置1では、各部20〜90が、第1〜第3実施形態の観覧施設評価装置1の各部20〜90と同様のプロセスを実行する。
続いて、第4実施形態の観覧施設評価装置1が、フィールド160又は舞台120に対する親密性を評価する場合について説明する。
観客席130から舞台120、フィールド160を見た場合の、演者又は競技者に対する親密性は、観客の視点から演者又は競技者までの距離によって一義的に定まり、距離の二乗にほぼ反比例する。演者が舞台120の最前部(客席側)に立つ場合と中心部に立つ場合とでは親密性が異なるが、いずれも距離によってほぼきまる。
例えば、演者が等しい距離にいる場合はその人数に関わりなく定まる。このような場合は、舞台面や競技フィールドに実際に演者又は競技者を配置してその画像を分析することなく、代替的方法を提案することができる。
演者の姿を全身とするか、半身とするか、胸像部とするか、衣裳を着た状態とするか否かで、大きさが多少異なるが、観覧施設を同一の基準で比較をすることが好ましい。最小単位としては、AHM210の胸部211が適切ではないかと考えられる。
胸部211は、正面から見た時、図4(a)に示す直径0.5mの円230と、面積0.196m^2でほぼ同じである。よって、例えば、評価対象となる位置に、直径0.5mの円(又は球)を胸部211の代わりにおき、視点から見える立体角を計算する方法が極めて容易である。この方法をとれば、距離をL(m)とすれば、親密性Iは下記の式で定まる。ただし視半径をθ、距離をr、実際の直径をDとする。
2tanθ=D/rの式より、θ=arctan(D/2r)であるので、視半径θが求まれば、次の立体角Ωの公式Ω=2π(1−cosθ) (ただし、θは半頂角)から、親密性Iが求まる。この立体角Ωの公式は、AHM210を用いて求める有効観客立体角EASAを、AHM210を円230に置換して簡便に求める計算式と考えることができる。
図15(a)〜(c)に、視半径θと立体角Ω、視点からの距離rと実際の半径Dとの関係を比較して示している。図15(b)に示すように、θ=arctan(0.5/(2×20))=arctan0.0125=0.0125で、Ω=2π(1−cos0.0125)=0.000491(sr)=491(μsr)となる。この立体角Ωが、距離20mに対する直径0.5mの円(又は球)又はAHM210の胸部211の親密性Iとなる。仮に、このときの親密性単位を「1」として、他の距離における親密性Iの数値を評価すると、親密性Iが示す内容を理解しやすくなる。
親密性は、数値が高いほど良好と判定される。図16に示すように、距離が20m以内であれば、親密性単位が1以上となり、人の細かい表情や動作が判別できる。距離が30〜40m以内では、親密性I(立体角Ω)が123(μsr)以上、親密性単位0.25以上で、人の細かい表情や動作は判別できないが、身振り手振りがなんとか判別できる。図15(c)には、距離が40mのときの視半径θと立体角Ω、視点からの距離rと実際の半径Dとの関係を示している。
距離が33mと40mとでは、親密性単位に1.7倍以上の大きな差がある。距離が60mとなると、顔も判別できないが、親密性I(立体角Ω)は55(μsr)、親密性単位0.11と、距離が20mのときと比べて親密性Iが約1/10になる。距離が100mになると、親密性I(立体角Ω)は20(μsr)、親密性単位0.04まで下がり、距離が20mのときと比べて親密性Iが約1/25となって、全身の動作しか分からない。
逆に10mの距離では、図15(a)に示すように、親密性I(立体角Ω)は1963(μsr)、親密性単位4.0となり、大幅に親密性が増す。5mの距離では親密性I(立体角Ω)は8000(μsr)近くで、親密性単位が約16となる。このように、親密性は距離の二乗に反比例し、距離が視覚的な伝達力に反映することがわかる。
以上に説明した第4実施形態の観覧施設評価装置1によれば、計画中の劇場110又はスポーツ観覧施設150について、設計段階において、観客席130の観客が視覚的な一体感を感じる要因となる要素を数値化できる。このため、観客席130の観客から見た劇場110又はスポーツ観覧施設150の一体性、親密性を、劇場110又はスポーツ観覧施設150の設計段階において数値により客観的に評価することができる。よって、演者の演技内容又は競技者の競技内容の充実を図れる劇場110又はスポーツ観覧施設150の設計に役立てることができる。
(既存の観覧施設に対する評価プロセス:第5〜第8実施形態)
第5〜第8実施形態では、既存の観覧施設を評価する場合の評価プロセスについて説明する。第1〜第4実施形態では、空間座標設定部20が劇場110の3次元モデルデータを取得して、3次元軸上に劇場110、スポーツ観覧施設150の空間座標を割り当てた。そして、人体モデル取得部30が取得したAHM210の3次元モデルデータと共に、投影画像生成部40が、仮想半球面220上に劇場110又はスポーツ観覧施設150とAHM210の視点からの視野画像を投影した。
これに代わり、第5〜第8実施形態では、既存の劇場110又はスポーツ観覧施設150の視点からの視野画像を、例えば、魚眼レンズを備えた撮影機器で撮影し、撮影した視野画像のデータを、投影画像生成部40が投影画像のデータとして取得する。また、投影画像生成部40は、取得したデータに、CG等で生成したAHMのデータを合わせて、観客席130にAHMを配置した合成画像のデータを生成する。以後、AHM有効性判定部50、有効領域確定部60、評価視野限定部70、評価値取得部80及び評価出力部90が行うプロセスは、第1〜第4実施形態の観覧施設評価装置1と同じである。
第5〜第8実施形態の観覧施設評価装置1によれば、既存の劇場110又はスポーツ観覧施設150について、演者、競技者又は観客が視覚的な一体感を感じる要因となる有効観客立体角の和(ΣEASA)等を数値化できる。
このため、演者、競技者又は観客から見た劇場110の一体性、親密性を、既存の劇場110又はスポーツ観覧施設150について数値により客観的に評価し、演者の演技内容又は競技者の競技内容の充実を図れる観覧施設の検証等に役立てることができる。
(人体像を含む映像に対する評価への応用:第9〜第11実施形態)
以下の第9〜第11実施形態では、映像装置で表示された人体像の胸像部を、第1〜第8実施形態におけるAHM(観客人体モデル)210と見倣し、投影画像における胸像部の立体角を有効観客立体角(EASA)として、一体性、親密性を評価する。
(第9実施形態)
第9実施形態の観覧施設評価装置1では、ディスプレイ、スクリーン等に表示した人体を含む映像の、観客から見た一体性、親密性を評価する。例えば、図17に示すように、映像表示デバイスとしてのディスプレイ181、スクリーン182等は、劇場110の舞台120に設置されたものでもよい。その場合、劇場110の観客席130の観客が一体性、親密性を感じる対象として、ディスプレイ181、スクリーン182等が増えるので、一体性、親密性は拡張するものと考えられる。
(第10実施形態)
第10実施形態の観覧施設評価装置1では、HMDの装着者が、HMDで表示される仮想空間の人体像を含む施設空間の映像に対して感じる一体性、親密性を評価する。装着者の視点(瞳孔)の中心が視点となる他は、第5〜第8実施形態で説明した既存の観覧施設における一体性、親密性の評価プロセスと、基本的に考え方は同じである。
(第11実施形態)
第11実施形態の観覧施設評価装置1では、映像を介して人と人との間で情報の伝達を図る視覚的コミュニケーションにおいて情報の伝達相手に視認させる、人体像を含む施設空間の映像に対して、情報の伝達相手が感じる一体性、親密性を評価する。この場合は、映像を介した通信手段における視覚効果の有効性判定に応用することができる。
なお、第9〜第11実施形態における映像中に表示される人体像は、人の分身であるアバターの像であってもよい。この場合、劇場型コミュニケーションにおける視覚的なコミュニケーションの効果を評価することに応用できる。実在空間の劇場等のみならず、画像、映像を介した通信手段における視覚効果の有効性判定に応用することができる。
また、双方向コミュニケーションにおいて、演者―観客に似た状況がある場合は、その関係性や効果を高めるための指標として有効と考えられる。たとえば仮想の劇場において実在の劇場では不可能な一体性および親密性を達成するための基礎技術になりうる。
以上に説明した各実施形態の観覧施設評価装置1による評価を組み合わせることで、例えば、計画又は設計段階、完成した観覧施設(劇場演出空間等を含む)の評価、改修計画の評価に用いることができる。また、既存の観覧施設に対し、現状分析と形状を改修した場合のシミュレーションとの比較検討を行い、改修計画の策定等に活用することができる。計画中の観覧施設の評価については、例えば、仮想のプロジェクトをCG、VRで作る際の評価に用いることができる。
(開示される実施形態の態様)
そして、以上の説明によって、以下に示す実施形態の各態様が開示される。
まず、空間座標設定部20、投影画像生成部40、評価値取得部80及び評価出力部90を備える観覧施設評価装置1が開示される。
ここで、空間座標設定部20は、イベントが行われる空間120,160と観客席130とを有する観覧施設110,150に対応した空間座標を設定する。投影画像生成部40は、観覧施設110,150内に設定された視点を中心とする仮想半球面220上に、観客席130に人体モデル210が配置された視点からの観覧施設110,150の視野画像を投影した投影画像を生成する。
評価値取得部80は、投影画像における評価対象領域の内側の観客席130に配置された人体モデル210の合計立体角の大きさに基づいて、観覧施設110,150の視覚的な一体感に基づく評価要素の評価用数値を取得する。評価出力部90は、評価用数値を出力する。
本開示によれば、視覚的な一体感に基づいて観覧施設110,150を評価するのに有用な観覧施設110,150の要素を数値化することができる。
なお、投影画像生成部40は、映像表示デバイス181,182が視野画像中に配置された投影画像を生成してもよい。また、投影画像生成部40は、ヘッドマウントデバイスに表示された仮想空間上の視野画像を投影した投影画像を生成してもよい。さらに、投影画像生成部40は、視覚的コミュニケーションにおける情報伝達用の人体像を含む映像を視野画像とする投影画像を生成してもよい。
本開示によれば、映像表示デバイス181,182の表示画像、ヘッドマウントデバイスの表示画像、視覚的コミュニケーションにおける情報伝達用の人体像を含む映像の内容を、評価値取得部80が取得する評価用数値に反映させることができる。
また、空間座標設定部20は、観覧施設110,150の設計情報に基づいて空間座標を設定する。さらに、投影画像生成部40は、視覚的コミュニケーションにおける情報伝達用の人体像を含む映像を視野画像とする投影画像を生成する。
本開示によれば、計画中の観覧施設110,150について、視覚的な一体感に基づく観覧施設110,150の評価要素の評価用数値を取得することができる。また、本開示によれば、視覚的コミュニケーションにおける情報伝達用の人体像を含む映像について、視覚的な一体感に基づく観覧施設の評価要素の評価用数値を取得することができる。
また、空間座標設定部20は、観覧施設110,150の設計情報に基づいて空間座標を設定する。さらに、空間座標設定部20は、実在する観覧施設110,150の撮影情報に基づいて空間座標を設定する。
本開示によれば、計画中の観覧施設110,150について、視覚的な一体感に基づく観覧施設の評価要素の評価用数値を取得することができる。また、本開示によれば、実在する観覧施設110,150について、視覚的な一体感に基づく観覧施設の評価要素の評価用数値を取得することができる。
また、評価値取得部80は、投影画像における評価対象領域の立体角の大きさに対する合計立体角の大きさの割合を示す一体率Uの数値を、評価用数値として取得する。さらに、評価値取得部は、観覧施設のうち評価対象領域の内側に位置する空間の最大収容人数で合計立体角を除した親密性の数値を、記評価用数値として取得する。
本開示によれば、観覧施設110,150における一体感を評価するのに有用な新たな要素を、評価対象領域340の立体角の大きさに対する合計立体角の大きさの割合を示す一体率Uの数値として、数値化することができる。
評価値取得部80は、観覧施設のうち評価対象領域340の内側に位置する空間の最大収容人数で合計立体角を除した親密性Iの数値を、評価用数値として取得してもよい。
本開示によれば、観覧施設110,150における一体感を評価するのに有用な新たな要素を、評価対象領域340の内側に位置する空間の最大収容人数で合計立体角を除した親密性Iの数値として、数値化することができる。
視点は、観客席130に設定されており、評価値取得部80は、視点が設定された観客席130と他の観客席130との間に関する評価用数値を取得する。
本開示によれば、観覧施設110,150における一体感を評価するのに有用な新たな要素を、視点が設定された観客席130と他の観客席130との間に関する評価用数値として取得することができる。
視点は、イベントが行われる空間120上に設定されており、評価値取得部80は、イベントが行われる空間120と観客席130との間に関する評価用数値を取得する。
本開示によれば、観覧施設110,150における一体感を評価するのに有用な新たな要素を、視点が設定されたイベントが行われる空間120と観客席130との間に関する評価用数値として取得することができる。
視点は、観客席130に設定されており、評価値取得部80は、視点が設定された観客席130とイベントが行われる空間120との間に関する評価用数値を取得する。
本開示によれば、観覧施設110,150における一体感を評価するのに有用な新たな要素を、視点が設定された観客席130とイベントが行われる空間120との間に関する評価用数値として取得することができる。
次に、コンピュータ10によって実行される、空間座標設定ステップ、投影画像生成ステップ、評価値取得ステップ及び評価出力ステップを含む観覧施設評価方法が開示される。
さらに、コンピュータ10に、空間座標設定ステップ、投影画像生成ステップ、評価値取得ステップ及び評価出力ステップを実行させる観覧施設評価プログラムと、この観覧施設評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体とが開示される。
ここで、空間座標設定ステップでは、イベントが行われる空間120と観客席130とを有する観覧施設110,150に対応した空間座標を設定する。投影画像生成ステップでは、観覧施設110,150内に設定された視点を中心とする仮想半球面220上に、観客席130に人体モデル210が配置された視点からの観覧施設110,150の視野画像を投影した投影画像を生成する。
評価値取得ステップでは、投影画像における評価対象領域340の内側に位置する各座席にそれぞれ対応するAHM210の面要素の立体角を合計した合計立体角の大きさに基づいて、観覧施設110,150における一体感の評価用数値を取得する。評価出力ステップでは、評価用数値を出力する。
本開示によれば、視覚的な一体感に基づいて観覧施設110,150を評価するのに有用な観覧施設110,150の要素を数値化することができる。