JP6884967B2 - ヒトミエロイド系血液細胞及び該細胞の作製方法 - Google Patents
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Description
即ち、本発明は以下の態様を含むものである:
[1] 造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法であって、下記の工程(C)を行うことを含む方法:
(C)c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程。
[2] ヒトミエロイド系血液細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトミエロイド系血液細胞である、[1]に記載の方法。
[3] ヒト多能性幹細胞から造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法であって、下記の工程(A)及び(C)を含む方法:
(A)ヒト多能性幹細胞から、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
(C)工程(A)で得られるc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程。
[4] c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞が、調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有するヒトミエロイド系血液細胞である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] in vitroにおいて増殖させることが可能であり、かつ造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法である、[4]に記載の方法。
[6] ヒトミエロイド系血液細胞が、B cell−specific Moloney murine leukemia virus integration site 1(BMI1)遺伝子、Enhancer of zeste homolog 2 (EZH2)遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子及びHypoxia Inducible Factor 1 Alpha Subunit(HIF1A)遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの外来性遺伝子を発現する、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] ヒトミエロイド系血液細胞が、外来性ヒトM−CSFを発現する、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] ヒトミエロイド系血液細胞が、インターフェロンβ(IFNβ)遺伝子を発現する、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9] ヒトミエロイド系血液細胞の、内在性のIFNAR遺伝子の発現が抑制されている、[8]に記載の方法。
[10] c−MYC遺伝子が外来性c−MYC遺伝子である、請求項[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する、ヒトミエロイド系血液細胞。
[12] 調節性プロモーターがテトラサイクリン反応性プロモーターである、[11]に記載の細胞。
[13] 部位特異的組換え配列又はトランスポゾン配列に挟まれた、外来性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する、ヒトミエロイド系血液細胞。
[14] BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子及びHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの外来性遺伝子を発現する、[11]〜[13]のいずれかに記載の細胞。
[15] 外来性ヒトM−CSF遺伝子を発現する、[11]〜[14]のいずれかに記載の細胞。
[16] インターフェロンβ(IFNβ)遺伝子を発現する、[11]〜[15]のいずれかに記載の細胞。
[17] 内在性のIFNAR遺伝子の発現が抑制されている、[16]に記載の細胞。
[18] CD11b陽性かつCD45陽性である、[11]〜[17]のいずれかに記載の細胞。
[19] in vitroにおいて増殖させることが可能であり、かつ造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞である、[11]〜[18]のいずれかに記載の細胞。
[20] c−MYC遺伝子が外来性c−MYC遺伝子である、[11]〜[19]のいずれか一項に記載の細胞。
[21] 予防又は治療上有効量の[11]〜[20]のいずれかに記載の細胞又は[1]〜[10]のいずれかに記載の方法を用いて作製された細胞を含む、がんの予防又は治療剤。
[22] 予防又は治療上有効量の[11]〜[20]のいずれかに記載の細胞又は[1]〜[10]のいずれかに記載の方法を用いて作製された細胞を投与することを含む、がんの予防又は治療方法。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料及び方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物及び特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本明細書において「及び/又は」は、いずれか一方、あるいは、両方を包含する意味で使用される。
本発明は、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において当該c−MYC遺伝子の発現を抑制する工程を含む、造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞の作製方法(本明細書中、本発明の作製方法とも称する)を提供する。
本発明において造腫瘍性とは、ヒトミエロイド系血液細胞を動物に投与(移植)した場合に、該動物個体において該細胞に由来する腫瘍が形成されることを意味し、従って、「造腫瘍性が抑制された」ヒトミエロイド系血液細胞とは、該細胞を動物個体に投与(移植)した場合に、移植したヒトミエロイド系血液細胞が腫瘍を形成しないことを意味する。
本発明の好ましい一態様において、ヒトミエロイド系血液細胞は、該細胞のin vitroでの増殖を促進させ得る量のc−MYC遺伝子を発現する。
本発明において「ミエロイド系血液細胞」とは、CD11b(インテグリンαMとしても知られる)分子及び/又はCD33(sialic acid binding Ig−like lectin 3、SIGLEC3、SIGLEC−3、gp67又はp67としても知られる)分子が細胞表面に存在する細胞として定義される。本発明に用いるヒトミエロイド系血液細胞は、好ましくはCD11bを発現する(CD11b陽性)細胞であり、より好ましくはCD45(Protein tyrosine phosphatase, receptor type, C、PTPRCとしても知られる)及びCD11b陽性細胞であり、さらに好ましくはCD11b及びCD45陽性である浮遊細胞である。
本発明において、ヒト多能性幹細胞からヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法の例としては、
下記の工程(A1)又は(A1')を行い、その後工程(A2)を行うことを含む方法が挙げられる:
(A1)ヒト多能性幹細胞と、血液細胞の分化と増殖とを誘導する性質を有する細胞とを共培養し、該ヒト多能性幹細胞の培養の結果物として、細胞集団A1を得る工程、
(A1')ヒト多能性幹細胞を未分化性非維持条件下で培養し、該ヒト多能性幹細胞の培養の結果物として、細胞集団A1'を得る工程、
(A2)前記工程(A1)で得られた細胞集団A1又は前記工程(A1')で得られた細胞集団A1'を、M−CSF及び/又はGM−CSF存在下で培養して、該細胞集団A1又は該細胞集団A1'の培養の結果物として、細胞集団A2を得る工程。
血液細胞の分化と増殖とを誘導する性質を有する細胞をフィーダー細胞として、ヒト多能性幹細胞と、該フィーダー細胞とを共培養することにより、ヒト多能性幹細胞を、中胚葉系細胞を含む細胞集団に分化させることができる。
「血液細胞の分化と増殖とを誘導する性質を有する細胞」としては、例えば、OP9細胞(理研バイオリソースセンター寄託番号:RCB1124)、ST2細胞(理研バイオリソースセンター寄託番号:RCB0224)、PA6細胞(理研バイオリソースセンター寄託番号:RCB1127)等が挙げられ、なかでも、血球細胞への分化誘導効率を向上させる観点から、OP9細胞(理研バイオリソースセンター寄託番号:RCB1124)を用いることが好ましい。
該フィーダー細胞の培養に適した培地及びその培養条件については、国際公開2008/056734号などに記載されており、それらに記載の方法に準じて培養を行うことができる。
上記共培養により得られる細胞集団は、中胚葉系細胞の性質を示すものであり、球状に近い形態を示す細胞の塊を含有する細胞集団として得られうる。
分化した中胚葉系細胞を多く含む浮遊細胞集団を分離する方法としては、共培養後に回収した細胞を培養器中に静置して付着性の強い細胞を除去することにより、付着性の弱い細胞である中胚葉系細胞を回収する方法を挙げることができる。例えば、上記共培養物をトリプシン、コラゲナーゼ等の酵素で処理し、全細胞を回収し、DMEM等の適切な培地適当量で希釈した後、該細胞溶液を新たに用意したゼラチンなどによりコートのされていないノンコートの培養器に播種する。播種から2〜5時間経過した後、培養器に付着しなかった細胞を、中胚葉系細胞を多く含む浮遊細胞集団として回収することができる。また、回収した細胞浮遊液に含まれる100μm以上の大きさの細胞塊は、ナイロン製のメッシュ(例えば、BD.Falcon社、セルストレイナー、100μmナイロン)等を用いて除去することが好ましい。
中胚葉系細胞集団は、未分化性非維持条件下でヒト多能性幹細胞を培養することによっても得ることができる。
続いて、上記の通り得られた中胚葉系細胞を含む細胞集団を、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)及び/又はマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)(好ましくはM−CSF存在下、より好ましくはGM−CSF及びM−CSF存在下)の存在下で、通常、1日〜20日、好ましくは2日〜15日、培養することにより、該中胚葉系細胞をヒトミエロイド系血液細胞に分化させることができる。
培地中のGM−CSFタンパク質は、培地と接触する細胞(例えば、外来性GM−CSF遺伝子を導入された中胚葉系細胞)から分泌されたものであってもよく、単離したGM−CSFタンパク質を培地に添加したものであってもよい。
また、培地中のM−CSFタンパク質の含有量は、中胚葉系細胞からミエロイド系血液細胞への分化を促進させる観点から、10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mLの範囲とすることができる。
培地中のM−CSFタンパク質は、培地と接触する細胞(例えば、外来性M−CSF遺伝子を導入された中胚葉系細胞)から分泌されたものであってもよく、単離したM−CSFタンパク質を培地に添加したものであってもよい。
マーカーについて陽性である細胞(或いは細胞集団)の分離は、例えば、該マーカーに対して特異的な抗体とアイソタイプ適合対照抗体とを用いたFACSにより行うことができる。細胞の、マーカーに対し特異的な抗体による染色の強度が、アイソタイプ適合対照抗体による細胞(或いは細胞集団)の染色の強度を上回る場合に、該細胞は該マーカー陽性であると決定することができる。また、細胞の、マーカーに対して特異的な抗体による染色の強度と、アイソタイプ適合対照抗体による細胞(或いは細胞集団)の染色の強度とに差が存在しない場合に、該細胞は該マーカー陰性であると決定することができる。
(A1)ヒト多能性幹細胞と、血液細胞の分化と増殖とを誘導する性質を有する細胞(好ましくはST2細胞、PA6細胞及びOP9細胞からなる群より選択される細胞であり、より好ましくはOP9細胞)とを(好ましくは10日以上、より好ましくは約15日以上)共培養し、(さらに任意選択で、浮遊細胞の回収を行い)、該ヒト多能性幹細胞の培養の結果物として、細胞集団A1を得る工程、
(A1')ヒト多能性幹細胞を未分化性非維持条件下で(好ましくはBMP−4タンパク質の存在下)(好ましくは15日以上、より好ましくは約20日以上)培養し、(さらに任意選択で、浮遊細胞の回収を行い)、該ヒト多能性幹細胞の培養の結果物として、細胞集団A1'を得る工程、
(A2)前記工程(A1)で得られた細胞集団A1又は前記工程(A1')で得られた細胞集団A1'を、M−CSF(通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL)存在下(さらに好ましくは、M−CSF:通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL、及びGM−CSF:通常50〜200 ng/mL、好ましくは70〜150 ng/mL存在下)で(好ましくは1日以上、より好ましくは1日〜20日、さらに好ましくは2日〜15日)培養して、該細胞集団A1又は該細胞集団A1'の培養の結果物として、細胞集団A2を得る工程、
(A3)ヒトミエロイド系血液細胞のマーカー(例、CD11b、CD33又はCD45、好ましくはCD11b、より好ましくはCD11b及びCD45)に対して陽性である細胞を選別する工程。
本発明においては、生体内(例えば、ヒトの体内)に存在するヒトミエロイド系血液細胞を用いることも可能である。生体内に存在するヒトミエロイド系血液細胞として、例えば、末梢血中の単球(モノサイト)を用いることも可能であり、ヒトミエロイド系血液細胞としてヒトの末梢血単球を用いることが好ましい。以下に、生体内に存在するヒトミエロイド系血液細胞を得る方法の一例としてヒトの末梢血中からの単球の分離方法を説明するが、本発明において用いられるヒトミエロイド系血液細胞を得る方法は、この方法に限定されるものではない。
遠心分離により単球を末梢血から分離する方法の例としては、抗凝固剤としてヘパリン又はクエン酸などを用い、採血した血液を等量の生理的食塩水、リン酸緩衝生理的食塩水、あるいは、ハンクス緩衝溶液などを用いて希釈し、次に、希釈した血液を、あらかじめ遠心チューブ(BD−Falcon 352070等)中に分注しておいたフィコール液(GE ヘルスケア社)の上に重層する。そして、遠心分離装置を用いて、遠心力500gで20分間遠心した後、界面付近に存在する単核細胞分画(リンパ球と単球を含む)を回収することにより、単球を得ることができる。
c−MYC遺伝子は、ヒトを含む哺乳動物において共通して存在する遺伝子であり、本発明において任意の哺乳動物由来(例えばヒト、マウス、ラット、サルなどの哺乳動物由来)の遺伝子を用いることができる。また、野生型の遺伝子に対して、数個(例えば1〜30個、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1から3個)の塩基が置換、挿入、付加及び/又は欠失した変異遺伝子であって、野生型の遺伝子と同様の機能を有する遺伝子を使用することもできる。また、野生型の遺伝子と同等あるいはそれ以上の機能を有する限りにおいて、該遺伝子の産物が他のタンパク質あるいはペプチドとの融合タンパク質として発現されるように人為的に修飾を加えた遺伝子でも良い。
遺伝子の導入方法としては、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターを用いて、あるいはリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって、細胞内に所望の遺伝子を導入する方法を挙げることができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、所望の遺伝子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができ、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、選択マーカー配列(例えば、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子など)、レポーター遺伝子配列(例えば、緑色蛍光タンパク質などの蛍光タンパク質遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)などを含むことができる。また、上記ベクターには、細胞への遺伝子導入後、導入された遺伝子及びそれと結合する制御配列などの配列を切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。また、本発明において、LoxP配列に代えてlox511、lox2272及びloxFAS配列などを用いてもよい。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、細胞にトランスポゼースを作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji, K. et al., (2009), Nature, 458: 771-775、Woltjen et al., (2009), Nature, 458: 766-770、WO 2010/012077)。また、ベクターは、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、哺乳動物細胞で機能的な複製開始点と、該複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子を有していてもよい。哺乳動物細胞で機能的な複製開始点と、該複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質の例としては、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子などが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201およびWO2009/149233)。また、複数の所望の遺伝子を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、Internal Ribosome Entry Site(IRES)または口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008およびWO 2009/0920422009/152529)。
本明細書中、「内在性」又は「天然」の遺伝子とは、それ自身の制御配列と共に天然に見られる遺伝子を指し、この遺伝子は、生物のゲノム内のその自然な位置に位置する。特定のタンパク質をコードする内在性ポリヌクレオチドは、内在性遺伝子の一例である。
本明細書中、「外来性」の遺伝子とは、遺伝子移入によって宿主細胞に導入された遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然遺伝子、天然宿主細胞中の新たな位置に導入された天然遺伝子、またはキメラ遺伝子を包含する。
テトラサイクリン反応性プロモーターは、内部にテトラサイクリン応答エレメント(TRE)が配置されたプロモーターであり、リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)タンパク質又はテトラサイクリン制御性トランス活性化因子(tTA)のTREへの結合により、活性化される(即ち、目的タンパク質の発現を誘導する)プロモーターである。rtTAタンパク質はDox存在下でTREに結合し、一方tTAタンパク質はDox非存在下でTREに結合して、TRE配列の下流のプロモーターと機能的に連結された目的遺伝子の発現を誘導する。
本発明の好ましい一態様において、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド細胞は、外来性の調節性プロモーターと機能的に連結した外来性のc−MYC遺伝子を有する細胞であり、より好ましくは外来性のテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結した外来性のc−MYC遺伝子を有する細胞であり、さらに好ましくは、外来性のテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結した外来性のc−MYC遺伝子を有し且つrtTAタンパク質が導入されている細胞である。
すなわち、好ましい一態様において、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド細胞は、構成的プロモーター又は調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有し、該プロモーター及び/又は該c−MYC遺伝子が、トランスポゾン配列又はloxP配列に挟まれている細胞である。
別の好ましい一態様において、外来性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子は、その両端にトランスポゾン配列が配置されている。トランスポゾンを用いて染色体に外来性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を組み込んだ後に、細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる。piggyBacトランスポゾンを用いる具体的手段は、Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009)などにに開示されている。
in vitroでヒトミエロイド系血液細胞の増殖を促進し得る量のc−MYC遺伝子とは、当該量のc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞の倍加速度が、c−MYC遺伝子を発現していないことを除いては上記細胞と同様に作製したヒトミエロイド系血液細胞と比較して、有意に上昇するようなc−MYC遺伝子の量を意味する。
(i)B cell−specific Moloney murine leukemia virus integration site 1(BMI1)遺伝子、
(ii)Enhancer of zeste homolog 2 (EZH2)遺伝子、
(iii)MDM2遺伝子、
(iv)MDM4遺伝子、及び
(v)Hypoxia Inducible Factor 1 Alpha Subunit(HIF1A)遺伝子
からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子。
細胞増殖が促進され、操作の効率性が上がる場合があるなどの観点から、本発明においては、上記外来性遺伝子(i)〜(v)のいずれかを発現するヒトミエロイド系血液細胞を用いることが好ましく、外来性BMI1及びMDM2遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を用いることがより好ましい。
本明細書中、IFNβタンパク質とは、腫瘍の増殖抑制などの所望の効果を有する限り特に限定されないが、好ましくは、以下の(a)〜(c)のいずれかであり、より好ましくは以下の(a)又は(b)であり、さらに好ましくは(a)である。
(a)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ腫瘍の増殖抑制などの所望の効果タンパク質
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログであって、腫瘍の増殖抑制などの所望の効果を有するタンパク質
ヒトIFNAR1は、21q22.11に位置している。IFNAR1遺伝子の具体例としては、ヒトIFNAR1遺伝子(NM_000629)などを挙げることができる(括弧内は、NCBI accession番号を示す。)。ヒトIFNAR2も、21q22.11に位置している。IFNAR2遺伝子の具体例としては、ヒトIFNAR2遺伝子(NM_207585)などを挙げることができる(括弧内は、NCBI accession番号を示す。)。
本発明の作製方法においては、DSBを導入し、DSBを導入した細胞の中から、NHEJの修復エラーにより、フレームシフト及び/又はストップコドンの挿入が起こった細胞を選別することにより、遺伝子発現が抑制された細胞を得てもよい。或いは、DSBを導入する際に、標的配列のフレームシフト及び/又はストップコドンの挿入を誘導するための鋳型配列を細胞に導入してHDRを誘導し、DSBを導入した細胞の中から、成功裏に遺伝子発現が抑制された細胞を選別することにより、遺伝子発現が抑制された細胞を得てもよい。
HDRを誘導する場合、NHEJの抑制剤としてSCR7(Chu VT et al., Nat Biotechnol. 2015 May;33(5):543−8)、或いはHDRの促進剤としてL755,507(Yu C et al., Cell Stem Cell. 2015 Feb 5;16(2):142−7)を用いてもよく、またNHEJのエラーを利用して遺伝子発現を行う場合、NHEJの促進剤としてAzidothymidine(Yu C et al., Cell Stem Cell. 2015 Feb 5;16(2):142−7)を用いてもよい。
ガイドRNAの配列は、標的遺伝子及び標的配列に応じて適宜設定することができる。また、ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)のCRISPRdirectなどの公知のガイドRNAの設計ツールを用いて設計することもでき、また、市販のガイドRNAを利用することができる。
所望の効果がもたらされる限り、特に限定されるものではないが、ヒトIFNAR2の遺伝子破壊を行うことにより遺伝子発現を抑制する場合は、配列番号5を標的とするガイドRNAを用いることができる。ヒトIFNAR2の遺伝子破壊を行うことにより遺伝子発現を抑制する場合は、配列番号6を標的とするガイドRNAを用いることができる。
本明細書中、ヒトミエロイド系血液細胞がヒトM−CSF又はヒトGM−CSF依存的な造腫瘍性を示すとは、ヒトM−CSF又はヒトGM−CSFを発現するヒトミエロイド系血液細胞(例えば3〜4 x 107個)を実施例に記載の方法に準じた方法によりNOD/SCIDマウスに投与(移植)した場合には一定期間(例えば30日〜50日)経過後に腫瘍を形成するが、ヒトM−CSF及びヒトGM−CSFのいずれも発現しないことを除いては上記細胞と同様に作製したヒトミエロイド系血液細胞を同様の方法によりNOD/SCIDマウスに投与(移植)した場合には腫瘍を形成しないことを意味する。
工程(C)c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程
を含む。
工程(C)外来性c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において、該外来性c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それにより外来性c−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程
を含む。
(C)c−MYC遺伝子(好ましくはヒトc―MYC遺伝子であり、より好ましくは配列番号1記載のc―MYCタンパク質をコードする核酸)を発現するヒトミエロイド系血液細胞(好ましくは、ヒト多能性幹細胞由来の中胚葉系細胞をM−CSF(通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL)存在下(より好ましくは、M−CSF:通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL、及びGM−CSF:通常50〜200 ng/mL、好ましくは70〜150 ng/mL存在下)で一定期間(通常、1〜20日、好ましくは2日〜15日)培養することにより得られるヒトミエロイド系血液細胞(好ましくはCD11b陽性細胞であり、より好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞であって、さらに好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞である浮遊細胞であり、該細胞は、BMI1、EZH2、MDM2、MDM4及びHIF1Aからなる群より選択される少なくとも1つの外来性遺伝子を発現していてもよく、していなくてもよいが、好ましくは、BMI1及びMDM2遺伝子を発現する細胞)において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
である。
本発明の作製方法のより好ましい一態様は、造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法であって、下記の工程(C)を行うことを含む方法:
(C)c−MYC遺伝子(好ましくは外来性c―MYC遺伝子であり、より好ましくは配列番号1記載のc―MYC遺伝子タンパク質をコードする核酸)を発現するヒトミエロイド系血液細胞(好ましくは、ヒト多能性幹細胞由来の中胚葉系細胞をM−CSF(通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL)存在下(より好ましくはM−CSF:通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL、及びGM−CSF:通常50〜200 ng/mL、好ましくは70〜150 ng/mL存在下)で一定期間(通常、1〜20日、好ましくは2日〜15日)培養することにより得られるヒトミエロイド系血液細胞(好ましくはCD11b陽性細胞であり、より好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞であって、さらに好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞である浮遊細胞であり、該細胞は、BMI1、EZH2、MDM2、MDM4及びHIF1Aからなる群より選択される少なくとも1つの外来性遺伝子を発現していてもよく、していなくてもよいが、好ましくは、BMI1及びMDM2遺伝子を発現する細胞であって、該細胞は、調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する細胞であり、好ましくはテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有し、かつrtTAタンパク質が導入されている細胞であって、好ましくはヒトM−CSF又はヒトGM−CSF依存的造腫瘍性を示す細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し(好ましくは上記テトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する細胞において、テトラサイクリン又はその誘導体を添加しないことにより発現を抑制し)、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
である。
好ましい一態様において、本発明に用いるc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞は、該細胞をM−CSFタンパク質の存在下で培養した場合に、該細胞の増殖を促進し得る量のc−MYC遺伝子を発現する。
ヒトミエロイド系血液細胞において増殖を促進し得る量のc−MYC遺伝子を発現させる方法としては、例えば、テトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結させたc−MYC遺伝子を有するヒトミエロイド系血液細胞を用いる場合、ドキシサイクリン(通常、100ng/mL以上、好ましくは125 ng/mL以上、増殖効率を高めるという観点から、より好ましくは1 μg/mL以上)を含む培地中で、該細胞を培養することにより、該細胞の増殖を促進するのに十分な量のc−MYC遺伝子を発現させることができる。
あるいは、例えば、EF1αプロモーターと機能的に連結させたc−MYC遺伝子を有するヒトミエロイド系血液細胞を培養することにより、該細胞の増殖を促進するのに十分な量のc−MYC遺伝子を発現させることができる。
本発明の一態様において、本発明の作製方法は
工程(B)c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を、ヒトM−CSFタンパク質の存在下で培養する工程
を含み得る。
工程(B)の培養により得られる結果物を工程(C)に付することができる。
ヒトM−CSF若しくはヒトGM−CSF及び/又はM−CSF遺伝子若しくはGM−CSF遺伝子に依存する造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法であって、下記の工程(B)に続いて下記工程(C)を行うことを含む方法:
(B)ヒトM−CSFの存在下で、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を培養する工程。
(C)工程(B)で培養したヒトミエロイド系血液細胞において、c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
を提供する。
従って、一態様において、培養に供されるヒトミエロイド系血液細胞には、外来性のM−CSF遺伝子が導入されている。ヒトM−CSFのアミノ酸配列の一例としては、配列番号7に記載のアミノ酸配列(NCBI NP_000748.3)が挙げられ、ヒトM−CSF遺伝子の例としては、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸が挙げられる。
従って、一態様において、ヒトミエロイド系血液細胞は、外来性のGM−CSF遺伝子が導入されている。ヒトGM−CSFのアミノ酸配列の一例としては、配列番号8に記載のアミノ酸配列(NCBI NP_000749.2)が挙げられ、ヒトGM−CSF遺伝子の例としては、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸が挙げられる。
(4)c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を入手する工程
(A)ヒト多能性幹細胞から、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
(C)工程(A)で得られるc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
を提供する。
ヒト多能性幹細胞から、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得る工程については上述のとおりである。
(A)ヒト多能性幹細胞から、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
(B)ヒトM−CSFの存在下で、工程(A)で得られる、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を培養する工程。
(C)工程(B)で培養したヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程を含む、ヒト多能性幹細胞から造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法を提供する。
(A)ヒト多能性幹細胞から、c−MYC遺伝子及び外来性ヒトM−CSF遺伝子を発現するヒトミエロイド系細胞を得る工程、
(B)工程(A)で得られる、c−MYC遺伝子及び外来性ヒトM−CSF遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を培養する工程、
(C)工程(B)で培養したヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、を含む、ヒト多能性幹細胞から造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法を提供する。
従って、一態様として、本発明は、造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法であって、下記の工程(Ab)及び(C)を含む方法:
(Ab)ヒトミエロイド系血液細胞にc−MYC遺伝子を導入し、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
(C)工程(A)で得られるc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
を提供する。
(Ab)ヒトミエロイド系血液細胞にc−MYC遺伝子(好ましくは調節性プロモーターと機能的に連結された外来性c−MYC遺伝子であり、より好ましくは誘導可能な調節性プロモーターと機能的に連結された外来性c−MYC遺伝子)を導入し、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
(B)ヒトM−CSFの存在下で、工程(Ab)で得られる、c−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を培養する工程。
(C)工程(B)で培養したヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程を含む、造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法を提供する。
(Ab)ヒトミエロイド系血液細胞に、c−MYC遺伝子(好ましくは調節性プロモーターと機能的に連結された外来性c−MYC遺伝子であり、より好ましくは誘導可能な調節性プロモーターと機能的に連結された外来性c−MYC遺伝子)及び外来性ヒトM−CSF遺伝子を導入し、c−MYC遺伝子及び外来性ヒトM−CSF遺伝子を発現するヒトミエロイド系細胞を得る工程、
(B)工程(Ab)で得られる、c−MYC遺伝子及び外来性ヒトM−CSF遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を培養する工程、
(C)工程(B)で培養したヒトミエロイド系血液細胞において、該c−MYC遺伝子の発現を抑制し、それによりc−MYC遺伝子の発現が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、を含む、造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法を提供する。
さらに、本発明は、調節性プロモーター(好ましくは、テトラサイクリン反応性プロモーター)と機能的に連結されたc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系血液細胞を得ることを含む、in vitroで増殖能力を有し造腫瘍性を抑制可能なヒトミエロイド系血液細胞の作製方法を提供する。
各用語の定義、及び調節性プロモーター(好ましくは、テトラサイクリン反応性プロモーター)と機能的に連結されたc−MYC遺伝子を発現するヒトミエロイド系液細胞の入手方法は、上記(1)〜(4)に記載のとおりである。
(Ab)ヒトミエロイド系血液細胞に、テトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子(好ましくは外来性c−MYC遺伝子であり、より好ましくは外来性ヒトc―MYC遺伝子であり、さらに好ましくは配列番号1記載のc―MYCタンパク質をコードする核酸)及びrtTAタンパク質を導入し、rtTAタンパク質が導入されc−MYC遺伝子を発現可能なヒトミエロイド系血液細胞を得る工程。
工程(Ab)により得られるヒトミエロイド系血液細胞は、テトラサイクリン又はその誘導体の存在下において(即ちテトラサイクリン反応性プロモーターが「オン」の状態において)in vitroで増殖させることが可能であり、テトラサイクリン又はその誘導体の非存在下(即ちテトラサイクリン反応性プロモーターが「オフ」の状態において)において、M−CSF及び/又はGM−CSF依存的な造腫瘍性が抑制されている。
(Ab)ヒトミエロイド系血液細胞(好ましくは、ヒト多能性幹細胞由来の中胚葉系細胞をM−CSF(通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL)存在下(より好ましくは、M−CSF:通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL、及びGM−CSF:通常50〜200 ng/mL、好ましくは70〜150 ng/mL存在下)で一定期間(通常、1〜20日、好ましくは2日〜15日)培養することにより得られるヒトミエロイド系血液細胞(好ましくはCD11b陽性細胞であり、より好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞であって、さらに好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞である浮遊細胞))に、テトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子(好ましくは外来性c−MYC遺伝子であり、より好ましくは外来性ヒトc―MYC遺伝子であり、さらに好ましくは配列番号1記載のc―MYCタンパク質をコードする核酸)及びrtTAタンパク質を導入し、rtTAタンパク質が導入されc−MYC遺伝子を発現可能なヒトミエロイド系血液細胞を得る工程。
(Ab)ヒトミエロイド系血液細胞(好ましくは、ヒト多能性幹細胞由来の中胚葉系細胞をM−CSF(通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL)存在下(より好ましくは、M−CSF:通常10〜100 ng/mL、好ましくは30〜70 ng/mL、及びGM−CSF:通常50〜200 ng/mL、好ましくは70〜150 ng/mL存在下)で一定期間(通常、1〜20日、好ましくは2日〜15日)培養することにより得られるヒトミエロイド系血液細胞(好ましくはCD11b陽性細胞であり、より好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞であって、さらに好ましくはCD45及びCD11b陽性細胞である浮遊細胞))に、テトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子(好ましくは外来性c−MYC遺伝子であり、より好ましくは外来性ヒトc―MYC遺伝子であり、さらに好ましくは配列番号1記載のc―MYCタンパク質をコードする核酸)及びrtTAタンパク質を導入し、rtTAタンパク質が導入されc−MYC遺伝子を発現可能なヒトミエロイド系血液細胞を得る工程、
(B)工程(Ab)で得られる、rtTAタンパク質が導入されc−MYC遺伝子を発現可能なヒトミエロイド系血液細胞をテトラサイクリン又はその誘導体(好ましくはドキシサイクリン100 ng/mL以上、より好ましくは125 ng/mL以上、さらに好ましくは1 μg/mL以上)及びヒトM−CSF(好ましくはヒトM−CSF 10〜100 ng/mL、より好ましくはヒトM−CSF 30〜70 ng/mL)存在下で培養する工程。
さらに本発明は、c−MYC遺伝子を制御可能に発現し得るミエロイド系血液細胞(本明細書中、本発明の細胞とも称する。)を提供する。
一態様において、本発明の細胞は、調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する。
別の態様において、本発明の細胞は、切り出し可能な、外来性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する。
また、癌の予防又は治療用として用いることを目的とする場合、本発明の細胞は、外来性のIFNβを発現していることが好ましい。
また、癌の予防又は治療用として用いることを目的とする場合、本発明の細胞は、内在性IFNAR遺伝子の発現が抑制されていることもまた好ましい。
― 調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する、ヒトミエロイド系血液細胞(より好ましくはテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結された外来性ヒトc−MYC遺伝子を有するヒトミエロイド系血液細胞であり、さらに好ましくはテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結された外来性ヒトc−MYC遺伝子を有しかつrtTAタンパク質が導入されているヒトミエロイド系血液細胞)であって、
― 該細胞はさらに、ヒトBMI1、ヒトEZH2、ヒトMDM2、ヒトMDM4及びヒトHIF1Aからなる群より選択される少なくとも1つの外来性遺伝子を発現していてもよく、していなくてもよいが、好ましくは、外来性のヒトBMI1及びヒトMDM2遺伝子を発現し、
― 該細胞はさらに、ヒトM−CSF遺伝子及び/又はヒトGM−CSF遺伝子を発現していてもよく、していなくてもよい細胞である。
調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する、ヒトミエロイド系血液細胞は、c−MYC遺伝子の発現を誘導することでヒトM−CSFタンパク質の存在下で培養することによりin vitroで増殖させることが可能となり、c−MYC遺伝子の発現を抑制することで造腫瘍性を抑制することができる。
別の態様として、本発明の細胞は癌の予防又は治療剤の製造に用いることができる。
― 調節性プロモーターと機能的に連結されたc−MYC遺伝子を有する、ヒトミエロイド系血液細胞(より好ましくはテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結された外来性ヒトc−MYC遺伝子を有するヒトミエロイド系血液細胞であり、さらに好ましくはテトラサイクリン反応性プロモーターと機能的に連結された外来性ヒトc−MYC遺伝子を有しかつrtTAタンパク質が導入されているヒトミエロイド系血液細胞)であって、
― 該細胞はさらに、ヒトBMI1、ヒトEZH2、ヒトMDM2、ヒトMDM4及びヒトHIF1Aからなる群より選択される少なくとも1つの外来性遺伝子を発現していてもよく、していなくてもよいが、好ましくは、外来性のヒトBMI1及びヒトMDM2遺伝子を発現し、
― 該細胞はさらに、ヒトM−CSF遺伝子及び/又はヒトGM−CSF遺伝子を発現していてもよく、していなくてもよく、
― 外来性プロモーター(好ましくは構成的プロモーター又は調節性プロモーターであり、より好ましくは構成的プロモーターであり、さらに好ましくはEF−1αプロモーター)と機能的に連結された外来性ヒトIFNβ遺伝子(好ましくは配列番号3記載のアミノ酸配列を有するIFNβタンパク質をコードする核酸)を有し
― 内在性のIFNAR遺伝子の発現が抑制されている(好ましくはIFNAR1又は2遺伝子へのフレームシフト及び/又はストップコドンの挿入により抑制されており、より好ましくはIFNAR1のエクソン1〜3若しくはIFNAR2遺伝子のエクソン2〜4のいずれかへのフレームシフト及び/又はストップコドンの挿入により抑制されており、さらに好ましくは、IFNAR1遺伝子のエクソン2若しくはIFNAR2遺伝子のエクソン3へのフレームシフト及び/又はストップコドンの挿入によって抑制されている)。
さらに、本発明は、本発明の作製方法1又は2により得られる細胞又は本発明の細胞を含む、癌の予防又は治療剤(本明細書中、本発明の予防又は治療剤とも称する。)を提供する。
また、本発明の予防又は治療剤は、インターフェロンβ感受性の高い癌の予防又は治療用として用いることができる。
別の実施態様において、本発明の予防又は治療剤に含まれるヒトミエロイド系血液細胞としては、患者とHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から誘導されたヒト多能性幹細胞から分化誘導したヒトミエロイド系血液細胞が好ましく使用される。
本発明の一態様として、本発明の細胞(好ましくは本発明の予防又は治療剤)をヒトに予防又は治療上有効量投与することを含む、それを必要とするヒトにおける、癌の予防又は治療方法(本明細書中、本発明の予防又は治療方法とも称する)を提供する。
本発明の予防又は治療方法に用いられる本発明の細胞、その投与対象、投与方法などについては、本発明の予防又は治療剤について記載した部分に準ずる。
本発明の予防又は治療方法において、有効量とは、対象に投与されると、予防上又は治療上の有用性をもたらすのに十分な、活性成分(すなわち本発明の細胞)の量を指す。
iPS−ML及びiPS−TML作成法の概要
(1)iPS細胞の調整方法
インターロイキン2及び抗CD3モノクローナル抗体で前刺激したヒト末梢血単核球に、センダイウイルスベクター(CytoTune−iPS、Dnavec、Tsukuba、Japan)を用いて初期化4因子の遺伝子導入を行った。遺伝子導入した細胞を、マウス胚性線維芽細胞のフィーダー細胞層上で培養した。20日後に予想された形態を呈するiPS細胞コロニーを選択した。
(2)OP9フィーダー細胞の調整
マウス由来の培養細胞株OP9をマイトマイシンCにて処理(0.01 mg/mL、60分)したものを、ゼラチンをコートしたディッシュに播種し、翌日以降に使用した。
(1)で得たiPS細胞を、CTK液を用いて5〜10分間処理し、牛胎児(FCS)血清入りのDMEM培養液で回収した。細胞をα−MEM/20%FCSに懸濁し、OP9フィーダー細胞上へ播種し、分化誘導培養を開始した。以降、3日に1度、培養液(α−MEM/20%FCS)を交換しつつ培養を継続した。
iPS−MLの作成
前項で作成したiPS−MCを24穴培養プレート中で培養し、そこへcMYC、BMI−1、及びMDM2を発現するレンチウイルス懸濁液を同時に加えることにより、感染させた。遺伝子導入の翌日より、細胞の増殖に応じて培養液を追加しつつ、培養スケールの拡大を行った。培養液としては、α−MEM/20%FCS/ヒトGM−CSF(100 ng/mL)/ヒトM−CSF(100 ng/mL)を用いた。
上記のように作成したiPS−MLにM−CSFとGM−CSFの発現ベクターを同時に導入した。ベクター導入の3日後より、ヒトGM−CSFとM−CSFのいずれも含まないα−MEM/20%FCS(牛胎児血清)を用いて培養した。
iPS−MCを24穴培養プレート中で培養し、そこへrtTA、BMI1、及びMDM2の発現ベクター(いずれもEF1プロモーター制御下)とcMYCの発現ベクター(テトラサイクリン反応性プロモーター制御下)を導入した。細胞の増殖に応じて培養液を追加しつつ、培養スケールの拡大を行った。培養液としては、α−MEM/20%FCS/ヒト GM−CSF (100 ng/mL)/ヒトM−CSF(100 ng/mL)/ドキシサイクリン(1,000 ng/mL)を用いた。
iPS−TMLにM−CSFとGM−CSFの発現ベクターを同時に導入した。ベクター導入の三日後より、α−MEM/20%FCS/ドキシサイクリン(1,000 ng/mL)を用いて培養した。
図5に、iPS−ML、iPS−ML/M+GM及びiPS−TML/M+GMの顕微鏡写真を示す。各々の細胞を細胞培養用6穴プレート(BD−FALCON)に播種した。顕微鏡撮影装置(Carl−Zeiss Axiovison)を用いて位相差顕微鏡画像を撮影した。
実施例1と同様にして、iPS−MLを作製し、作製した細胞にM−CSFの発現ベクターを導入した(iPS−ML/M)。ベクター導入の3日後より、ヒトGM−CSFを含むα−MEM/20%FCSを用いて培養した。
実施例1と同様にして、iPS−MLを作製し、作製した細胞にGM−CSFの発現ベクターを導入した(iPS−ML/GM)。ベクター導入の3日後より、ヒトM−CSFを含むα−MEM/20%FCSを用いて培養した。
また、実施例1と同様にして、iPS−TMLを作製し、作製した細胞にM−CSF又はGM−CSFの発現ベクターを導入した(それぞれiPS−TML/M、iPS−TML/GM)。ベクター導入の三日後より、α−MEM/20%FCS/ドキシサイクリン(1,000 ng/mL)を用いて培養した。
上記のようにして得たiPS−ML/M、iPS−ML/GM、iPS−TML/M、iPS−TML/GMを用いて実施例1と同様に造腫瘍性を検討した。その結果、iPS−ML/M及びiPS−ML/GMは、いずれも造腫瘍性を示した。一方、iPS−TML/M又はiPS−TML/GMはいずれも造腫瘍性を示さなかった。
尚、iPS−ML/GMは、培養系においてはヒトM−CSFの非存在下では増殖することができないが、生体内においては腫瘍を形成することから、腫瘍形成能は、in vitroでの増殖能の有無から予測できないことが示唆された。
iPS細胞の樹立時にレンチウイルスベクターを用いて恒常発現プロモーター(EF1プロモーター)に連結したc−MYCを導入して作成したiPS細胞を用いて、実施例1と同様にiPSmyc−MCを作製した。作製したiPSmyc−MCを24穴培養プレート中で培養し、そこへBMI−1、及びMDM2を発現するレンチウイルス懸濁液を同時に加えることにより、感染させ、遺伝子導入の翌日より、α−MEM/20%FCS/ヒトGM−CSF(100 ng/mL)/ヒトM−CSF(100 ng/mL)を用いて培養した。しかしながら、該細胞、増殖しなかった。従って、iPSmyc−MCが発現するc−MYCの量は、培養系においてヒトミエロイド系細胞の増殖を促進させるには不十分であることが示唆された。
次に上記と同様にして作製したiPSmyc−MC細胞に、実施例1に記載の方法に準じて、テトラサイクリン誘導プロモーターに連結したcMYCを導入し、さらに、M−CSFとGM−CSFの発現ベクターを導入してiPSmyc−TML/M+GMを作製した。実施例1に記載の方法に準じて、iPSmyc−TML/M+GMをNOD/SCIDマウスに移植したところ、iPSmyc−TML/M+GMは腫瘍を形成した。
以上より、培養系においてヒトミエロイド系細胞の増殖を促進させるには不十分な量のc−MYCを発現する細胞であっても、造腫瘍性を有することが示された。従って、腫瘍形成能は、in vitroでの増殖能の有無から予測できないことが示唆された。
Claims (12)
- ヒトに移植するための造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する方法であって、以下の工程
(1)以下の遺伝子:
(i)ヒトBMI1遺伝子、ヒトEZH2遺伝子、ヒトMDM2遺伝子、ヒトMDM4遺伝子、及びヒトHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの外来性遺伝子、
(ii)誘導可能な調節性プロモーターと機能的に連結された外来性cMYC遺伝子、及び
(iii)外来性ヒトM−CSF遺伝子及び/又は外来性ヒトGM−CSF遺伝子、
が導入されたヒトミエロイド系血液細胞を作製する工程、及び
(2)前記外来性cMYC遺伝子が発現する条件にて、前記細胞を培養して増殖させる工程、
を含む方法であって、
前記ヒトミエロイド系血液細胞に導入された前記調節性プロモーターは、移植された際には誘導されないことを特徴とする方法。 - ヒトミエロイド系血液細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトミエロイド系血液細胞
である、請求項1に記載の方法。 - 前記(i)おける外来性遺伝子は、少なくともヒトBMI1遺伝子及びヒトMDM2遺伝子を含む、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記調節性プロモーターがテトラサイクリン反応性プロモーターである、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
- 工程(1)における遺伝子は、さらに外来性IFNβ遺伝子を含む、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
- さらに、前記工程(1)の前又は後に、以下の工程:
(1’)ヒトミエロイド系血液細胞が有する内在性のIFNAR遺伝子を破壊する工程、
を含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。 - ヒトに移植するための造腫瘍性が抑制されたヒトミエロイド系血液細胞であって、以下の遺伝子:
(i)ヒトBMI1遺伝子、ヒトEZH2遺伝子、ヒトMDM2遺伝子、ヒトMDM4遺伝子、及びヒトHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの外来性遺伝子、
(ii)誘導可能な調節性プロモーターと機能的に連結された外来性cMYC遺伝子、及び
(iii)外来性ヒトM−CSF遺伝子及び/又は外来性ヒトGM−CSF遺伝子、
を有する細胞であって、
前記調節性プロモーターは、細胞のインビトロでの培養条件にて誘導することが可能であて、かつ、移植された際には誘導されないことを特徴とする細胞。 - ヒトミエロイド系血液細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトミエロイド系血液細胞
である、請求項7に記載の細胞。 - 前記(i)おける外来性遺伝子は、少なくともヒトBMI1遺伝子及びヒトMDM2遺伝子を含む、請求項7又は8に記載の細胞。
- 前記調節性プロモーターがテトラサイクリン反応性プロモーターである、請求項7〜9のいずれか一つに記載の細胞。
- さらに外来性IFNβ遺伝子を含む、請求項7〜10のいずれか一つに記載の細胞。
- さらに、内在性のIFNAR遺伝子が破壊されている、請求項7〜11のいずれか一つに記載の細胞。
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