JP6883167B2 - 非晶質合金基板を用いた微小金属粒子の結晶構造解析方法 - Google Patents
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Description
このEBSDパターンの発生領域は、入射電子線の試料中での電子ビームの散乱による拡がりに影響されることや、試料へ入射される電子線のビーム径やそのエネルギーに比例することが知られている。
また、微小粒子を載置する基板として、真鍮や銅等の金属基板(結晶基板)を使用し、EBSD法による微小粒子の結晶構造解析を行った場合は、上述したようなチャージアップ現象は回避することができるものの、対象とする微小粒子の構造情報と共に基板の構造情報も検出されてしまうため、個々の微小粒子の回折像を明瞭に取得することができない。特に、粒径が非常に小さく基板からの後方散乱電子の影響があり、また、観察領域に基板が存在するような粒径を持つ微小粒子を観察の対象とする場合、このような問題が生じる。
また、微小粒子を載置する基板として、炭素含有導電性テープを用いた場合には、観察時に熱変形に伴うドリフトにより明瞭な回折像を得ることができないという問題がある。
また、微小粒子は、集束イオンビームにより表面が削られた断面試料であってもよい。
非晶質合金は、臨界冷却速度以上の冷却速度で得られる金属ガラスであることが好ましい。
また、微小粒子等が載置された基板のバックグラウンド情報を含まない微小粒子等のみの結晶構造解析情報が得られるようになるため、例えば、液相合成法や、液中レーザ溶融法によって作製される直径がナノメートルからマイクロメートルオーダの微小粒子の構造や形状、機能のプロセス制御技術の発展に寄与することができる。
本実施形態の結晶構造解析方法は、試料である金属からなる微小粒子を、非晶質構造を有するガラス基板上に載置し、集束イオンビームを用いて断面試料を作製したものをEBSD法による分析が可能な走査型電子顕微鏡(SEM)により解析するものである。
なお、ここでの「微小粒子」は、必ずしも真球の形状に限定されず、球状や楕円体状などの表面が概ね球面で構成されたものや、多面体形状や、多面体形状の角が丸まっているものを含むものとする。
EBSDパターンの発生領域は、試料表面から30〜50nm程度の深さであり、この発生領域は、入射電子線のエネルギーに依存する。例えば、入射電子線エネルギーが5keV等である場合、EBSDパターンの発生領域は、試料の表面から数nm程度の領域となる。そのため、EBSD法により観察を行う際、微小粒子の粒径が少なくとも50nmあれば、適切にEBSD分析を行うことができる。
Agナノ粒子が載置されるガラス基板として、導電性を有する非晶質合金(アモルファス合金)、すなわち、非晶質構造(アモルファス構造)を有する金属ガラス基板を用いれば、電子線照射により生じる問題、すなわち、電子線照射による基板の変形により観察対象のドリフト(移動)が生じたり、基板表面のチャージアップによる異常コントラスト(試料の表面形態に依存しないコントラスト)が生じたりすることなく、精度の高い結晶構造解析を行うことができる。
また、非晶質材を用いれば、基板の結晶情報が検出されないため、基板と試料(金属微粒子)の結晶情報を容易に区別することもできる。
また、試料断面を形成するために集束イオンビーム(FIB)が照射されても基板が結晶化することがないという効果も有する。そのため、試料(金属微粒子)がどのような結晶構造を有していても、また、試料がどのような大きさでも、基板と試料(金属微粒子)とを明瞭に区別して検出することができる。
図1に示すCu基金属ガラス製造装置は、真空チャンバ1と、真空チャンバ1内に設置された銅ハース2と、アーク放電プラズマ5を放出する電極4と、鋳型(銅鋳型)6およびピストン7から構成される。
このように、Agナノ粒子9をCu基金属ガラス基板上に載置すれば、EBSD法により結晶構造解析を行う際、基板からの電子線回析の影響を低減することができる。
図2に示すように、板状のCu基金属ガラス基板11の上に、液中レーザ溶融法で作製した粒径100nm以下のAgナノ粒子9を載置したものを、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)等を用いるイオンスパッタリング加工装置のチャンバ内に導入し、Agナノ粒子の断面を形成した。具体的には、まず、イオン源10から加速電圧が30kV、ビーム電流が7.0pA(または、18pA)のGaイオンビームを、矢印で示すように、基板表面と水平方向に照射することで、試料表面を削り取り(断面出しを行い)、その後、加速電圧5kV、ビーム電流16pAのGaイオンビームで、加速電圧30kVでの加工時に生じたダメージ層の除去を行った。
図3に示すように、先述したように、集束イオンビームにより断面が形成されたAgナノ粒子9が載置されたCu基金属ガラス基板11をEBSD法による分析が可能なSEM装置に導入し、電子源12から、所定の加速電圧で引き出される所定の電子線電流密度の電子ビーム(例えば、電子線加速電圧が15kV、電子線電流密度が1.3nAの電子ビーム)がCu基金属ガラス基板11へ照射されると、Agナノ粒子9の表面から数十nmの領域から反射電子が放出される。このうち微小粒子等の結晶方位に依存したEBSDパターンをEBSD検出器13により取得しAgナノ粒子9の断面における構造解析を行う。
上記実施の形態で説明したように、まず、粒径100nm以下の銀粒子を超純水中に分散した銀コロイド溶液に対し、Nd:YAGナノ秒パルスレーザーの三倍高調波(λ=355nm)を50mJ/cm2で一定時間照射することにより銀サブミクロン球状粒子を作製した。作製した粒子は、図3に示すように、銅基バルク金属ガラス上に銀粒子溶液を滴下し乾燥させることで載置した後、粒子表面を集束イオンビーム(FIB)により削り取り、作製された断面試料をEBSD法による分析が可能なSEMで観察及び解析を行った。また、本実施例で用いた銅基バルク金属ガラスのみのEBSD分析で得られたバンドコントラスト像も取得した。
図4(A)と図4(B)から、図4(B)の結晶方位マッピング像において、Agナノ粒子のどの領域でも精度良い指数付けがなされていることが分かる。また、Agナノ粒子がどのような大きさでも精度良い指数付けがなされていることが分かる。
図4(A)の二次電子像で見られる金属ガラス基板11は、図4(B)の結晶方位マッピング像において黒色であるが、図4(A)の二次電子像より中空構造を含む粒子であることがわかるAgナノ粒子9は、図4(B)の結晶方位マッピング像において、結晶方位を示す彩色と、中空部分に金属ガラス基板を示す黒色があり、明瞭な結晶構造情報、すなわち、基板の結晶情報と、Agナノ粒子の結晶情報が区別して獲得されていることが分かる。
また、得られた銅基バルク金属ガラスのみのバンドコントラスト像(図示せず)は、像全体が黒く、白い領域が全く確認されなかった。一般に、バンドコントラスト像では、結晶性を有する領域は白く、アモルファス及び結晶性に乏しい領域は黒く示されるため、本実施例で用いた銅基バルク金属ガラスはアモルファスであり、結晶性を有していないことが分かる。
この結果により、本発明の結晶構造解析方法によれば、Agナノ粒子単体の明瞭な回折像を取得することでき、粒子単体での構造を評価することができることがわかる。
図5(A)に示すように、Si基板14上に塗布されたカーボンペースト15上に銀微粒子溶液を滴下して(すなわち、実施例1と同様の方法で作製した銀サブミクロン球状粒子9をカーボンペースト15に混合して)カーボンペースト15と共に溶液を乾燥させた積層体を得た。その後、その積層体の端部に、断面試料作製装置(日本電子製 IB−09020CP)を用いてAr+ビームを照射し、試料断面を作製した。作製した観察試料は、図5(B)に示すように、矢印で示す電子ビームの入射方向に対して70度傾斜するように、EBSD検出器13を備えるSEM内に配置した後、二次電子観察像を継時的に取得した。その結果を図6(A)〜(D)に示す。
図6(A)と図6(B)を比較すると、図6(B)に示される電子線照射約1分後の広域像には、図6(A)に示される電子線照射後の広域像には観察されなかったくぼみが見られた。また、それぞれの拡大像である図6(C)と図6(D)を比較すると、図6(D)に示される電子線照射約1分後では、図6(C)に示される電子線照射開始時に見られる観察対象物が数百nm程度移動している様子が観察された。これは、カーボンペースト15が電子線照射により発生した熱で変形したためであると考えられる。また、図6(B)では、帯電による異常コントラストも確認された。
この結果により、カーボンペーストを用いて作製した観察試料では、精度のよいEBSD分析ができないことが分かった。
図7(A)に示すように、まず、Si基板14a上にくぼみを作製し、そのくぼみへ銀微粒子溶液(すなわち、実施例1と同様の方法で作製した銀サブミクロン球状粒子)を滴下して、溶液を乾燥させ、その後、さらに、エポキシ樹脂16(EPOXY TECHNOLOGY社製 G−2)を塗布し、さらに、その上にSi基板14bを配置した後、エポキシ樹脂16を加熱により硬化させ、サンドイッチ構造の積層体を作製した。ついで、そのサンドイッチ構造の積層体の端部が平坦になるように機械研磨した後、断面試料作製装置(日本電子製 IB−09020CP)を用いてAr+ビームを照射し、試料断面を作製した。その後、エポキシ樹脂へ導電性を付与するために試料断面に数nm程度のカーボンペースト15をコーティングした。
作製した観察試料は、図7(B)に示すように、矢印(1)に示す電子ビームの入射方向に対して70度傾斜するように、EBSD検出器13を備えるSEM内に配置した後、二次電子観察像をEBSD分析前後に取得した。その結果を図8(A)及び(B)に示す。
また、作製した観察試料は、SEMを使って、図7(A)の矢印(1)、すなわち、図7(B)の矢印(1)に示す方向から、電子ビームを入射して、二次電子観察像をEBSD分析前後に取得するとともに、SEMの観察領域に対応する領域のEBSD測定結果から得られた結晶方位マッピング像を取得した。
図8(A)及び図8(B)を比較すると、図8(B)に示す約1時間の分析後では、図8(A)に示す分析前に比べ、分析領域、すなわち、Agナノ粒子9の周辺のエポキシ樹脂16が変形した状態にあることが観察された。
図9は、EBSD分析前に、SEMを使って、図7(A)の矢印(2)に示す方向から、電子ビームを入射して取得した観察試料の二次電子観察像に、EBSD分析後にSEMの観察位置で取得したEBSD測定結果から得られた結晶方位マッピング像を重ねた図である。
図9によれば、EBSD分析前の二次電子観察像に示されるAgナノ粒子と、EBSD分析後の結晶方位マッピングに示されるAgナノ粒子の位置が一致しないことが分かった。これは、比較例1と同様に、エポキシ樹脂16が電子線照射により発生した熱で変形したことに伴い、Agナノ粒子が移動したために生じた結果と考えられる。
この結果により、エポキシ樹脂を用いて作製した観察試料では、精度のよいEBSD分析ができないことが分かった。
銀サブミクロン粒子を載置する基板に、結晶金属基板であるMo基板(Mo,99.9%)を使用した以外は実施例1と同様に観察試料を作製し、SEM観察及びEBSD解析を行った。
図10(A)は、SEMで観察したAgナノ粒子のバンドコントラスト、図10(B)は、SEMに付属されたEBSD分析器により得た結晶方位マッピング像を示すものである。図10(B)のマッピング像は、図10(A)に示したバンドコントラスト像と同観察位置で取得した像である。
図10(A)のバンドコントラストによれば、Agナノ粒子9の周辺が黒くなっていることが分かる。これは、集束イオンビーム(FIB)により、試料表面を削り、断面を作製する際、基板の結晶相が非晶質相に変化したことにより生じたと考えられる。
また、図10(B)の結晶方位マッピング像によれば、Agナノ粒子9の周辺が指数付けされていない黒い領域があることがわかった。
つまり、結晶金属基板を使用した場合、集束イオンビーム(FIB)によるダメージで基板が非晶質に変化した場合は、基板とAgナノ粒子9とのエッジ部を明瞭に区別して検出することができるものの、試料のエッジ部では基板の結晶情報が重畳する可能性があることが分かった。また、試料の厚さが薄い場合においても基板の結晶情報が重畳する可能性があることが分かった。
この結果により、結晶金属基板を用いて作製した観察試料では、精度のよいEBSD分析ができないことが分かった。
実施例1と比較例3の結果から、Agナノ粒子9が載置されるガラス基板として、Cu基金属ガラス基板11を用いれば、試料断面を形成するために用いられる集束イオンビーム(FIB)が基板に照射されても、基板が結晶化することがないため、試料の結晶構造を基板と異なるものに限定することなく、どのような結晶構造の試料でも精度良く測定することができることが分かった。また、どのような大きさの試料でも精度良く測定することができることが分かった。
Claims (4)
- 非晶質構造を有する基板上に金属からなる微小粒子を載置し、
前記微小粒子が載置された前記基板に対し、電子線、X線、イオン線及び中性子線のいずれかを照射し、
前記微小粒子が載置された基板から生ずる回折パターンを取得し解析する方法であって、
前記非晶質構造を有する基板は、非晶質合金からなるもの、または、平板上に金属ガラス薄膜が成膜されたものであることを特徴とする、
結晶構造解析方法。 - 前記微小粒子が載置された前記基板に対し電子線を照射する電子線後方散乱(EBSD)法であることを特徴とする請求項1に記載の結晶構造解析方法。
- 前記微小粒子は、集束イオンビームにより表面が削られた断面試料であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶構造解析方法。
- 前記非晶質合金は、臨界冷却速度以上の冷却速度で得られるバルク金属ガラスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の結晶構造解析方法。
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