JP6872231B2 - 長期耐久性を有する岩盤斜面の補強構造およびその施工方法 - Google Patents

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本発明は、岩盤斜面に適用する補強構造とその施工方法に関するものである。
クリープ(時間の経過とともに岩盤の変形が増大する現象)した岩盤斜面が傾動して崩壊する現象は、たわみ性トップリングとかトップリング崩壊と呼ばれる。この崩壊の抑止工法としては、PC鋼線の先端3m〜10mを不動岩盤に挿入しかつ周囲にセメントミルクを注入して固定し(定着部)、移動地盤中は、PC鋼線の周囲にシースを設けて、シースの内部でPC鋼線が伸び縮みできる自由長部(引張り部)と呼ばれる構造とし、地表に受圧板と呼ばれるコンクリートや鋼製の板状構造物を設け、PC鋼線を介して定着部と受圧板の間に引張力を導入し、受圧板が移動土塊の地表部を押さえることで対応していた。
ところが、PC鋼線と受圧板との結合部に鉄製品が使用されることが多く、100年以上の社会資本の耐久性を望む場合には、維持管理と補修費用が多額となる。さらに、PC鋼線や受圧板が重いため、足場が悪い斜面においてはその施工性に課題があった。このような課題に対応して、例えば特開2016−79777号公報のように、受圧板を格子状に構成して軽量化を図った方法が提案されている。
特開2016−79777号公報
しかしながら、上記特許文献1の方法は、受圧板の製造費がアンカー工事の大きなコストを占め、また、PC鋼線の頭部と受圧板との結合部の耐久性については、100年を超えるような長期補強の観点からは不足するという課題がある。
さらに、上に述べたトップリング崩壊に対しては、アンカー工により斜面の表層を抑えることで移動土塊の崩壊を二次的に抑止できるものの、トップリング崩壊の場合に起きる岩盤内部で進行する岩盤の傾動そのものを一次的に抑止することはできないという課題があった。
そこで、本発明は、岩盤斜面のトップリング崩壊を抑止して長期耐久性を確保することが可能な補強構造とその施工方法を提供すること、また、受圧板を不要として施工コストの低減を図ることが可能な補強構造とその施工方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る岩盤斜面の補強構造は、
斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて穿孔された1または複数の穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材が配置され、当該補強材の周囲で前記穿孔された穴にグラウト材が充填され、当該グラウト材の硬化により、両方の区域に補強材の定着部が形成され、前記補強材は、複数本の補強材が束状になって前記穿孔された穴に配置されており、補強材ごとに両方の区域に形成された定着部が互いに分散されていることを第1の特徴とする。
ここで、移動岩盤区域はトップリングや岩盤の地すべりが発生する区域を指し、不動岩盤区域は深部でトップリングや岩盤の地すべりが発生しない区域を指す。但し、両区域の境界は厳密ではなく、移動岩盤区域の不動岩盤区域寄りにはトップリングや岩盤の地すべりが発生しない部分領域が存在し得るし、また、不動岩盤区域の移動岩盤区域寄りにはトップリングや岩盤の地すべりが部分的に発生する領域が存在し得る。
本発明によると、岩盤斜面のトップリング崩壊は、岩盤内に並行して分布する多くの割れ目群が開口しずれることにより発生するが、トップリング等が発生する移動岩盤区域とトップリング等が発生しない深部の不動岩盤区域に炭素繊維ケーブルなどの補強材を配置し、両区域のそれぞれの周囲にグラウトして岩盤と補強体を固定することで、岩盤と補強材を一体化させることができる。なお、補強材の長さは10m以上であることが望ましい。
このため、補強材が定着部と共に両区間に跨って配置された岩盤は鉄筋が配置された鉄筋コンクリートのように一つの塊として挙動し、岩盤内の割れ目でずれが発生することはない。このため、岩盤斜面でのトップリング崩壊や岩盤の地すべりが進行することはない。
本発明に係る岩盤斜面の補強構造は、
補強材の定着部区間の間に当該補強材とグラウト材が縁切りされた自由長部区間がそれぞれ形成されていることを第2の特徴とする。
補強材の定着部が分散されるので、定着部にかかる応力が分散され、岩盤に掛かる局所荷重が低減される(地盤破壊が起こりにくい)。これにより、トップリングの進行抑止や岩盤地すべりの進行抑止に寄与する。
本発明に係る岩盤斜面の補強構造は、
斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて穿孔された1または複数の穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材が配置され、当該補強材の周囲で前記穿孔された穴にグラウト材が充填され、当該グラウト材の硬化により、両方の区域に補強材の定着部が形成され
前記穿孔された穴に補強材を被覆する袋体が補強材と共に配置され、前記グラウト材が前記袋体の内部に充填され、袋体の内部に充填されたグラウト材と袋体の内部から袋体の外部に漏出されたグラウト材の硬化により、両グラウト材を介して補強材および両区域の岩盤が一体化されることを第の特徴とする。
本発明に係る岩盤斜面の補強構造の施工方法は、
斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて1又は複数の穴を穿孔する工程と、穿孔した穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材を多数本束状にして配置する工程と、各補強材の途中にシース管を被せるとともに各シース管を前後位置が互いにずれるように配置する工程と各シース管の周囲で前記穿孔した穴にグラウト材を充填する工程と、充填したグラウト材の硬化により、両方の区域に定着部を形成するとともに各定着部を補強材ごとに互いに分散して配置することを第1の特徴とする。
本発明に係る岩盤斜面の補強構造の施工方法は、
斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて1又は複数の穴を穿孔する工程と、穿孔した穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材を多数本束状にして配置する工程と、各補強材の途中にシース管を被せるとともに各シース管を前後位置が互いにずれるように配置する工程と、各シース管の周囲で前記穿孔した穴にグラウト材を充填する工程と、充填したグラウト材の硬化により、両方の区域に補強材の定着部を形成するとともに各定着部を補強材ごとに互いに分散して配置する工程と、補強材の定着部の間に補強材とグラウト材を縁切りして自由長部区間を形成する工程を備えることを第2の特徴とする。
本発明に係る岩盤斜面の補強構造の施工方法は、
斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて1又は複数の穴を穿孔する工程と、穿孔した穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材と当該補強材を被覆する袋体を配置する工程と、当該袋体の内部にグラウト材を充填する工程と、袋体の内部に充填したグラウト材と袋体の内部から袋体の外部に漏出したグラウト材の硬化により、両グラウト材を介して補強材および両区間の岩盤を一体化させる工程を備えることを第3の特徴とする。
以上説明したように、本発明によると、トップリング崩壊の進行や岩盤の地すべりの進行を抑止することができ、岩盤斜面の安定化と長期耐久性の確保を図ることができる。
また、岩盤斜面に設置する受圧板が不要となるので、施工コストの縮減を図ることができる。
さらに、従来は、アンカー頭部と受圧板の取り付け部が、金属の発錆により長期的には耐久性が不足する懸念があったが、本発明によると、アンカー頭部と受圧板の取り付け部そのものがないので、かかる耐久性上の懸念がなくなった。
しかも、コンクリート製や金属製の重い受圧板がないため、景観が向上するとともに、軽量の素材を用いることで工事の施工性、作業性が向上するという効果もある。
本発明の第1の実施形態である岩盤斜面の補強構造を示す全体断面図、 図1の補強構造を施工する途中を示す説明図、 図1の部分拡大図、 図1のA−A線矢視断面図、 補強材にシース管を被せて定着部と自由長部区間を形成する説明図、 本発明の第2の実施形態である岩盤斜面の補強構造を示す全体概略断面図、 本発明の第3の実施形態である岩盤斜面の補強構造を示す要部断面図である。
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。図1ないし図4は本発明の第1の実施形態を示すもので、図1は岩盤斜面に対し本発明に係る補強構造を適用した断面図である。
本発明に使用される補強材は、炭素繊維ケーブルなど劣化し難い軽量素材が良いが、エポキシ樹脂やポリエチレン等の合成樹脂で被覆された防食性能の高いPC鋼線などのケーブルあるいはアラミド樹脂の棒状体でも良い。本実施形態は複数本(図示例は3本)のケーブルを使用した例であるが、ケーブルの本数は1本から10本程度まで適用できる。
本発明の実施形態を、施工手順に従って以下に説明する。
図2を参照して、最初に、クリープした岩盤Gに斜面Sからロータリーパッカッションなどの機材(削孔機)を用いて、長さ5m超〜50m、穴径65〜200mmの穴1を削孔し、穴1の内部にケーブル(補強材)2を挿入する。穴1はトップリング等が発生する移動岩盤部Gからトップリング等が発生しない深部の不動岩盤部Gにかけて削孔する。
ケーブル2には、穴1の中で適切な位置にケーブル2を配置するスペーサー3と、穴1にセメントミルク(グラウト材)を注入するグラウト注入管4が結束バンド5で固定され、ケーブル2と付属品(スペーサ3、グラウト注入管4、結束バンド5)の全体が、注入したセメントミルクの削孔部からの漏逸を避けるための布製のパッカー(袋体)6内に収容配置されている。
穴1の内部にケーブル1がパッカー6ごと挿入された後、セメントミルク7をグラウト注入管4から注入する。パッカー6の内部にセメントミルク7が充填されると、パッカー6が膨張し、セメントミルク7がパッカー6の素材(アラミド繊維や合成樹脂繊維などアルカリ性に強い素材の布製で膨張すると網目が拡大する)から滲み出し、図3および図4に示すように、周囲の岩盤とパッカー6との間の隙間にも充填され、時間とともにセメントの硬化が進行する。
セメントミルク7が固化すると、ケーブル2と移動岩盤区域Gの岩盤、ケーブル2と不動岩盤区域Gの岩盤がそれぞれ一体化する。グラウト注入管4は図1に示すように穴1に残して表面からの露出部分のみ除去する。
本実施形態の補強構造によると、ケーブル2が移動岩盤区域Gの岩盤および不動岩盤区域Gの岩盤と強固に一体化されるから、移動岩盤区域Gのトップリング崩壊が十分抑止される。移動岩盤区域Gの岩盤が豪雨などによる地下水位上昇で不安定化し、すべり面を形成して地すべり的に崩壊しようとするときも、すべり面の深部の不動岩盤区域Gの岩盤と移動岩盤区域Gの岩盤がケーブル2で繋がれているので、移動岩盤区域Gの岩盤は地すべり(滑動)を生じさせない。
パッカーを用いるのは、トップリングを起こす岩盤に亀裂が発達して亀裂からセメントミルクが漏逸するのを避けるためでもあり、セメントミルクが漏逸する割れ目が少ない岩盤の場合はパッカーを使用することなく繊維を混入したセメントミルクを用いることで漏脱の問題を解決することができる。
本実施形態によると、ケーブル2の耐久性が高く、定着部区間が全体に亘るので、非常に長期に亘って斜面の安定を保つことができる。従来工法の場合は、岩盤内部で起きるトップリング現象そのものを止めることはできなかったが、本工法ではトップリングの進行そのものを止めることができる。岩盤内部に応じてケーブル2の長さは50m超〜100mの範囲で適宜設定できる。
また、重い金属性の受圧板が無いため、斜面での工事の作業性が向上するとともに、経済性が向上する。
図1に示すケーブル2は全体にわたり定着部区間を形成したが、図5に示すように1または複数のシース管8(全長はケーブル2の全長よりも短い)をケーブル2の途中に被せて配置し、これによりケーブル2とセメントの付着を縁切りして定着部区間T1の間に自由長部区間T2を形成してよい。シース管8を利用することで複数の定着部を形成し、それぞれを移動岩盤区域Gと不動岩盤区域Gに配置することができる。シース管の替りにケーブル2の途中にブチルゴムを巻いたり、PC鋼線の場合はシース管の内部に防錆油を充填し、防錆油が漏れないようにシース管の両端をブチルゴムとテープなどでシールして、セメントとの付着を縁切りしてもよい。
図6は本発明の第2の実施形態を示すもので、複数本のケーブル2A〜2Cについて移動岩盤区域Gと不動岩盤区域Gに形成される定着部(定着部区間)T1をそれぞれ分散させた例である。なお、図5では理解を容易にするために穿孔穴やパッカー等の付属品は省略している。
複数本のケーブル2A〜2C(図1に示す3本のケーブル2)に対し図5に示すシース管8を前後の位置が互いにずれるように配置し、他の付属品とともに穴内に挿入し、シース管の周囲で穴内にセメントミルクを充填し、充填したセメントミルクの硬化により、シース管のない区間に定着部(定着部区間)T1が形成される(シース管で覆われた区間は自由長部が形成される)。
ケーブルが複数本の場合は、定着部をケーブルの本数に応じて増やすことができる。このため、定着部を穴の全長ではなく、一部の岩盤に限定し、定着部に作用する応力を数か所に分散することができる。図6に示すように、ケーブルの定着部を異なる位置に分散させることで、応力が集中すると地盤破壊が起きそうな場合でも、地盤破壊を起こさず、長期的な耐久性を確保することができる。
図7は本発明の第3の実施形態を示すもので、斜面表層部が軟質な崩積土からなる場合は、ごく表層の崩壊を防止するために、モルタル吹付面10を形成して斜面を補強するようにした例である。
同図に示すように、本実施形態では、斜面に金網11を配置し、図1に示す複数のケーブル2のうち斜面から突出する1本のケーブル2の上端部に金網11の上から板状の座金(角座金)12を介してナット(高ナット)13をエポキシ樹脂硬化剤等で固定し、その上にモルタル吹付面10を形成するようにする。
本実施形態によると、表面が軟質な崩積土であっても、表面を適切に保護しかつ岩盤内部で起きるトップリング現象の進行を止めることができる。
本発明は、岩盤の補強構造およびその施工方法として幅広く利用することができる。
1 穴
2 ケーブル(補強材)
3 スペーサー
4 グラウト注入管
5 結束バンド
6 パッカー
7 セメントミルク
8 シース管
10 モルタル吹付面
11 金網
12 座金
13 ナット
G 岩盤
移動岩盤区域
不動岩盤区域
S 斜面
T1 定着部区間(定着部)
T2 自由長部区間(自由長部)

Claims (6)

  1. 斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて穿孔された1または複数の穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材が配置され、当該補強材の周囲で前記穿孔された穴にグラウト材が充填され、当該グラウト材の硬化により、両方の区域に補強材の定着部が形成され、前記補強材は、複数本の補強材が束状になって前記穿孔された穴に配置されており、補強材ごとに両方の区域に形成された定着部が互いに分散されていることを特徴とする岩盤斜面の補強構造。
  2. 補強材の定着部区間の間に当該補強材とグラウト材が縁切りされた自由長部区間がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1記載の岩盤斜面の補強構造。
  3. 斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて穿孔された1または複数の穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材が配置され、当該補強材の周囲で前記穿孔された穴にグラウト材が充填され、当該グラウト材の硬化により、両方の区域に補強材の定着部が形成され
    前記穿孔された穴に補強材を被覆する袋体が補強材と共に配置され、前記グラウト材が前記袋体の内部に充填され、袋体の内部に充填されたグラウト材と袋体の内部から袋体の外部に漏出されたグラウト材の硬化により、両グラウト材を介して補強材および両区域の岩盤が一体化されることを特徴とする岩盤斜面の補強構造。
  4. 斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて1又は複数の穴を穿孔する工程と、穿孔した穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材を多数本束状にして配置する工程と、各補強材の途中にシース管を被せるとともに各シース管を前後位置が互いにずれるように配置する工程と各シース管の周囲で前記穿孔した穴にグラウト材を充填する工程と、充填したグラウト材の硬化により、両方の区域に定着部を形成するとともに各定着部を補強材ごとに互いに分散して配置することを特徴とする岩盤斜面の補強構造の施工方法。
  5. 斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて1又は複数の穴を穿孔する工程と、穿孔した穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材を多数本束状にして配置する工程と、各補強材の途中にシース管を被せるとともに各シース管を前後位置が互いにずれるように配置する工程と、各シース管の周囲で前記穿孔した穴にグラウト材を充填する工程と、充填したグラウト材の硬化により、両方の区域に補強材の定着部を形成するとともに各定着部を補強材ごとに互いに分散して配置する工程と、補強材の定着部の間に補強材とグラウト材を縁切りして自由長部区間を形成する工程を備えることを特徴とする岩盤斜面の補強構造の施工方法。
  6. 斜面から移動岩盤区域および不動岩盤区域にかけて1又は複数の穴を穿孔する工程と、穿孔した穴に両区域に跨る長さ5m超100m以下の長尺な補強材と当該補強材を被覆する袋体を配置する工程と、当該袋体の内部にグラウト材を充填する工程と、袋体の内部に充填したグラウト材と袋体の内部から袋体の外部に漏出したグラウト材の硬化により、両グラウト材を介して補強材および両区間の岩盤を一体化させる工程を備えることを特徴とする岩盤斜面の補強構造の施工方法。
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