JP6868983B2 - 密封装置 - Google Patents

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Description

本発明は、相対回転する二部材を有する機器に用いられる密封装置に関する。
従来、この種の密封装置として、例えば特許文献1に記載されているように、相対回転する二部材の一方、例えば回転軸に固定されるスリンガと呼ばれる回転シール部材と、相対回転する二部材の他方、例えば回転軸が配置される軸孔内面に固定される固定シール部材とを有する密封構造が知られている。このような密封装置は、機器内部空間の潤滑剤、例えばグリースを密封するために使用される。通常、回転シール部材にはフランジが設けられ、このフランジが大気側から機器内部空間への泥およびダストの侵入を防止または低減するので、例えば、鉄道車両の台車、焼結パレットの台車、建設機械、トラックのトラニオン式サスペンション、農業機械のような泥またはダストの多い環境で使用される機器に、このような密封装置が用いられている。
特許第4978074号公報
この種の密封装置を有する機器については、機器内部空間に潤滑剤を補給しなければならない場合がある。補給の理由としては、潤滑剤の劣化に伴う交換の必要性、潤滑剤の漏出に伴うその量の減少が挙げられる。補給にあたっては、潤滑剤の注入により機器内部空間の圧力が高くなり過ぎないように配慮すべきであり、なおかつ補給された潤滑剤が長期にわたって機器内部空間に保持されることが望ましい。
そこで、本発明は、相対回転する二部材を有する機器に用いられ、潤滑剤の補給時に機器内部空間の圧力の上昇を抑制し、なおかつ補給された潤滑剤が長期にわたって機器内部空間に保持される密封装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明に係る密封装置は、相対回転する二部材のうちの内側の部材に固定されるスリーブと、相対回転する二部材のうちの外側の部材の内面に固定され、前記スリーブの外周面が摺動する第1のシール部材とを備え、機器内部空間の潤滑剤を当該機器内部空間に密封する密封装置であって、前記スリーブには、前記機器内部空間から大気側へと通じる潤滑剤経路が設けられており、前記機器内部空間の圧力が一定値を超えると前記潤滑剤経路を前記潤滑剤が通過することを許容するリップ部が前記スリーブに設けられていることを特徴とする。
この密封装置においては、スリーブに設けられているリップ部が、機器内部空間の圧力が一定値を超えると潤滑剤経路を潤滑剤が通過することを許容し、他の場合には潤滑剤経路を潤滑剤が通過することを阻止する弁として機能する。したがって、潤滑剤の補給時に機器内部空間の圧力の上昇が抑制され、補給後には潤滑剤が長期にわたって機器内部空間に保持される。
前記スリーブは、前記内側の部材に密着させられる弾性体から形成された内側円筒部と、当該内側円筒部の外周に固着された剛体から形成された外側円筒部とを有しており、前記潤滑剤経路が前記内側円筒部に設けられていることが好ましい。この構成においては、弾性体から形成された内側円筒部に潤滑剤経路が設けられるため、剛体の部品に潤滑剤経路を設けることに比べて、潤滑剤経路を設けることが容易である。
前記潤滑剤経路が前記内側円筒部の内周面に形成された溝であるとさらに好ましい。この場合には、弾性体から形成された内側円筒部の製造、例えば成型と同時に溝を形成することができる。
また、前記リップ部が前記スリーブの大気側の端部に形成されていると好ましい。リップ部がスリーブの大気側の端部に形成されていることにより、リップ部は潤滑剤経路よりも大気側に配置され、機器内部空間の圧力が低い時でも、スリーブの長い区間にわたって潤滑剤経路に潤滑剤が満たされうる。したがって、リップ部をすり抜けて、泥またはダストが潤滑剤経路に侵入したとしても、潤滑剤に泥またはダストが捕捉されて潤滑剤経路内にとどまる可能性が高く、泥またはダストが機器内部空間にまで到達するおそれが低い。
ここで、前記スリーブには、前記潤滑剤経路に交わって延び、前記潤滑剤が侵入しうる空間が設けられていると好ましい。この場合、リップ部をすり抜けて、泥またはダストが潤滑剤経路に侵入したとしても、泥またはダストの一部が空間に入り込み、機器内部空間にまで到達しにくい。
前記潤滑剤経路の機器内部空間側の端部には、前記機器内部空間に向けて断面積が大きくなる潤滑剤導入口が設けられていることが好ましい。この場合には、潤滑剤の補給時に機器内部空間の圧力が一定値を超えると、潤滑剤導入口を通じて潤滑剤経路に潤滑剤が流入しやすい。
前記スリーブには、互いに同寸法の複数の前記潤滑剤経路が前記内側の部材の周りに互いに等角間隔をおいて配置されていることが好ましい。このように互いに同寸法の複数の潤滑剤経路が互いに等角間隔をおいて配置されていることにより、密封装置の製造が容易であるだけでなく、潤滑剤の補給時に機器内部空間の圧力が一定値を超えると、これらの潤滑剤経路を通じてほぼ均等な流量で潤滑剤が流出する。したがって、各潤滑剤経路から与えられるリップ部への負荷が均等となる。
好ましくは、密封装置は、前記スリーブと、前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されてその外側に放射状に広がるフランジとを有する第2のシール部材を備え、前記第1のシール部材は、前記スリーブの外周面が摺動するシールリップ部と、前記外側の部材の内面に固定される外側環状体とを備え、前記第2のシール部材は、前記フランジの外縁からその外側に放射状に広がり前記第1のシール部材の前記外側環状体の内周面に対して摺動するダストリップ部をさらに備える。この構成においては、第2のシール部材のフランジが大気側から機器内部空間への泥およびダストの侵入を遮る。また、第2のシール部材のダストリップ部は、大気側から機器内部空間への泥およびダストの侵入をより確実に防止する。上記のように、スリーブに設けられているリップ部が、機器内部空間の圧力が一定値を超えると潤滑剤経路を通じて潤滑剤を流出させるので、第2のシール部材と第1のシール部材との間の封止性能(シールリップ部およびダストリップ部でもたらされる)を潤滑剤の流出のために低下させる必要はなく、シールリップ部による潤滑剤への封止性能ならびにダストリップ部による泥およびダストへの封止性能を高めるように、シールリップ部およびダストリップ部を強固に形成することが可能である。
本発明においては、スリーブに設けられているリップ部が、機器内部空間の圧力が一定値を超えると潤滑剤経路を潤滑剤が通過することを許容する弁として機能する。したがって、潤滑剤の補給時に機器内部空間の圧力の上昇が抑制され、密封装置の予期しない破損が防止される上、高圧の潤滑剤に起因する回転軸の回転トルクの増加も抑制される。また、補給後には、このリップ部が潤滑剤経路を潤滑剤が通過することを阻止するので、潤滑剤が長期にわたって機器内部空間に保持される。また、潤滑剤経路がスリーブに設けられているため、潤滑剤経路を設けるために、密封装置の寸法、特に軸線方向の長さを増大させる必要はない。さらに、密封装置、特にスリーブに弁としてのリップ部が形成されているため、潤滑剤の流出の性能または保持の性能が低下した場合には、機器の他の部品を交換する手間なく、密封装置またはスリーブを簡単に交換することができる。さらにまた、リップ部は、内側の部材に接触するが、内側の部材に固定されるスリーブに設けられているため、他の部材がリップ部に摺動することはなく、摺動による摩耗がなく、潤滑剤の保持の性能が低下しにくい。
本発明の第1実施形態に係る密封装置の断面図である。 図1の密封装置の回転シール部材の断面図である。 図1の密封装置の固定シール部材の断面図である。 図2の回転シール部材のスリーブの内周面の展開図である。 図2の回転シール部材のスリーブの内周面の変形例の展開図である。 図2の回転シール部材のスリーブの内周面の変形例の展開図である。 図2の回転シール部材のスリーブの内周面の変形例の展開図である。 図2の回転シール部材のスリーブの端面図である。 図2の回転シール部材のスリーブの変形例の端面図である。 本発明の第2実施形態に係る密封装置の断面図である。 本発明の第3実施形態に係る密封装置の断面図である。 本発明の第4実施形態に係る密封装置の断面図である。 本発明の第5実施形態に係る密封装置の断面図である。
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施形態を説明する。
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る図であり、相対回転する二部材を有する機器に用いられる密封装置を示す。
この密封装置1は、回転軸(内側の部材)4と、この回転軸4が挿入配置されるハウジング(外側の部材)の軸孔6の内面との間を封止して、機器内部空間Sから大気A側へ流体が漏出するのを防止または低減させるものである。回転軸4は円柱状であり、軸孔6は断面円形であり、密封装置1はほぼ環状であるが、図1においては、それらの左側部分のみが示されている。
密封装置1は、回転軸4に固定されて回転軸4と一体的に回転するスリンガと呼ばれる回転シール部材8と、軸孔に固定される固定シール部材10との組み合わせであるアセンブリである。回転シール部材8と固定シール部材10は協働して潤滑剤を機器内部空間Sに密封する。回転シール部材8は、固定シール部材10に嵌め合わせられており、密封装置1の軸線方向に沿って大きな力を与えると、その嵌め合わせが解除されて取り外されうる。
回転シール部材8は、回転軸4に固定されるスリーブ12と、スリーブ12の大気A側の端部に一体に連結されてその外側に放射状に広がるフランジ14とを有する。回転軸4とスリーブ12の固定の方式は、限定されないが、例えば締まり嵌めであってよい。回転シール部材8は二重構造であって、弾性体、例えばエラストマーで形成された弾性環16と、弾性環16に密着し弾性環16を補強する剛体、例えば金属製の補強環18とを有する。
図2に示すように、スリーブ12は、弾性環16の一部であって回転軸4に密着させられる内側円筒部16aと、補強環18の一部であって内側円筒部16aの外周に固着された外側円筒部18aとを有する。フランジ14は、弾性環16の一部であって大気A側に配置される弾性フランジ部16bと、補強環18の一部であって機器内部空間S側に配置され弾性フランジ部16bに固着された剛性フランジ部18bとを有する。この実施形態では、内側円筒部16aの内周面に周溝20が形成されている。この周溝20の機能については後述する。
図3に示すように、固定シール部材10は、外側環状体22と、外側環状体22の半径方向内側に外側環状体22と同軸に配置された中間環状体24と、中間環状体24の半径方向内側に中間環状体24と同軸に配置された内側環状体26とを有する。外側環状体22と中間環状体24は機器内部空間Sにある外側フランジ23で連結され、中間環状体24と内側環状体26は大気A側にある内側フランジ25で連結されている。
固定シール部材10も二重構造であって、弾性体、例えばエラストマーで形成された弾性環28と、弾性環28を補強する剛体、例えば金属製の補強環30とを有する。補強環30は、その一部が弾性環28に埋設されており、弾性環28に密着している。
図1に示すように、固定シール部材10の外側環状体22は、軸孔6に固定される外側シール部である。固定の方式は、限定されないが、例えば締まり嵌めであってよい。補強環30は、外側環状体22の弾性体部分に半径方向外側に向かう力を与え、外側環状体22の弾性体部分を軸孔6に強固に押圧する。但し、補強環30は必ずしも不可欠ではない。内側環状体26の周囲には、内側環状体26を半径方向内側に圧縮するためのガータースプリング32が巻かれている。図3に示すように、内側環状体26にはガータースプリング32を受け入れる受け溝34が形成されている。
固定シール部材10の弾性環28は、さらにシールリップ部36、ダストリップ部38、およびダストリップ部40を有する。シールリップ部36は、内側環状体26から内側に突出し、周方向に連続している突起であり、二つの傾斜面を有する。シールリップ部36は、回転シール部材8のスリーブ12の外周面に密封接触し、機器内部空間Sから大気A側への流体の漏れを防止または低減する。回転シール部材8が回転軸4とともに回転する時、スリーブ12の外周面はシールリップ部36に対して摺動する。上記のガータースプリング32は、シールリップ部36を回転軸4に押し付ける力をシールリップ部36に与える。
ダストリップ部38は、内側環状体26と内側フランジ25の連結部分から大気A側かつ内側に斜めに延びている。ダストリップ部40は、内側フランジ25から大気A側に延びており、屈曲している。ダストリップ部38の先端は、回転シール部材8のスリーブ12の外周面に密封接触し、回転シール部材8が回転軸4とともに回転する時、スリーブ12の外周面はダストリップ部38に対して摺動する。ダストリップ部40の先端は、回転シール部材8のフランジ14の剛性フランジ部18bに接触し、回転シール部材8が回転軸4とともに回転する時、剛性フランジ部18bはダストリップ部40に対して摺動する。
回転シール部材8は、フランジ14の外縁からその外側に放射状に広がるダストリップ部42をさらに備える。ダストリップ部42は、フランジ14の外縁から大気A側かつ外側に斜めに延びている。ダストリップ部42の先端は、外側環状体22の剛体部分の内周面に密封接触し、回転シール部材8が回転軸4とともに回転する時、ダストリップ部42は固定シール部材10の外側環状体22の剛体部分の内周面に対して摺動する。
ダストリップ部38,40,42は、主に大気A側から機器内部空間S側への異物(泥およびダスト)の侵入を防止する役割を担う。但し、ダストリップ部38,40,42は、機器内部空間S側から大気A側への潤滑剤の流出を防止してもよい。図1と図2または図3を比較すると明らかなように、シールリップ部36、ダストリップ部38,40は、回転シール部材8に接触することにより変形させられ、ダストリップ部42は、固定シール部材10に接触することにより変形させられる。
密封装置1は、フランジ14を有する回転シール部材8を有しており、このフランジ14が大気A側から機器内部空間Sへの異物の侵入を防止または低減する。ダストリップ部38,40,42は、異物の侵入のおそれをさらに低減する。したがって、密封装置1は、例えば、鉄道車両の台車、焼結パレットの台車、建設機械、トラックのトラニオン式サスペンション、農業機械(耕耘機、トラクタ、田植機など)のような泥またはダストの多い環境で利用される機器でも、好適に密封機能を発揮する。但し、密封装置1の用途は、そのような機器に限定されず、他の機器であってもよい。
この密封装置1を有する機器については、機器内部空間Sに潤滑剤を補給しなければならない場合がある。補給にあたっては、潤滑剤の注入により機器内部空間Sの圧力が高くなり過ぎないように配慮すべきである。そこで、この密封装置1においては、回転シール部材8のスリーブ12に、潤滑剤が機器内部空間Sから大気A側へと流出可能な少なくとも1つの潤滑剤経路50が設けられている。
この実施形態では、潤滑剤経路50はスリーブ12の内側円筒部16aに設けられている。弾性体、例えばエラストマー製の内側円筒部16aに潤滑剤経路50が設けられるため、剛体、例えば金属の部品に潤滑剤経路を設けることに比べて、潤滑剤経路50を設けることが容易である。より具体的には、潤滑剤経路50は内側円筒部16aの内周面に形成された溝である。したがって、弾性体から形成された内側円筒部16aの製造、例えば成型と同時に溝である潤滑剤経路50を形成することができ、製造コストを抑えることが可能である。但し、内側円筒部16aに切削加工で潤滑剤経路50を形成してもよい。潤滑剤経路50の機器内部空間S側の端部には、機器内部空間Sに向けて断面積が大きくなる潤滑剤導入口51が設けられている。したがって、潤滑剤導入口51を通じて潤滑剤経路50に潤滑剤が流入しやすい。
他方、密封装置1の役割は、潤滑剤を機器内部空間Sに密封保持することであるから、補給された潤滑剤が長期にわたって機器内部空間Sに保持されることが望ましい。そこで、この密封装置1においては、機器内部空間Sの圧力が一定値を超えると潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを許容し、他の場合には潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを阻止する弁として機能する少なくとも1つのリップ部52が回転シール部材8のスリーブ12の弾性環16に一体に形成されている。
リップ部52は、スリーブ12の大気A側の端部に形成されており、弾性環16の内側円筒部16aと弾性フランジ部16bの連結部分から大気A側かつ内側に斜めに延びている薄い板であり、その連結部分を支点とする片持梁とみなすことができる。リップ部52の先端は、回転軸4の外周面に密封接触する。
スリーブ12に一体に形成されているリップ部52は、内側円筒部16aと弾性フランジ部16bの連結部分から大気A側かつ内側に斜めに延びているので、機器内部空間Sの圧力が一定値を超えると潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを許容する弁として機能する。したがって、潤滑剤の補給時に過大な補給力が与えられたとしても、機器内部空間Sの圧力の上昇が抑制され、密封装置1の予期しない破損が防止される上、高圧の潤滑剤に起因する回転軸4の回転トルクの増加も抑制される。また、補給後には、このリップ部52が潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを阻止するので、潤滑剤が長期にわたって機器内部空間Sに保持される。また、潤滑剤経路50がスリーブ12に設けられているため、潤滑剤経路50を設けるために、密封装置1の寸法、特に軸線方向の長さを増大させる必要はない。さらに、密封装置1、特にスリーブ12に弁としてのリップ部52が形成されているため、潤滑剤の流出の性能または保持の性能が低下した場合には、機器の他の部品を交換する手間なく、密封装置1またはスリーブ12を簡単に交換することができる。さらにまた、リップ部52は、回転軸4に接触するが、回転軸4とともに回転するスリーブ12に設けられているため、他の部材がリップ部52に摺動することはなく、摺動による摩耗がなく、潤滑剤の保持の性能が低下しにくい。
また、リップ部52は、内側円筒部16aと弾性フランジ部16bの連結部分から大気A側かつ内側に斜めに延びているので、機器内部空間Sから大気A側への流体の流動を許容するが、大気A側から機器内部空間Sへの流体の流動を阻止する逆止弁として機能し、ダストリップ部とみなすこともできる。したがって、潤滑剤経路50から大気A側への潤滑剤の流出は可能であるが、大気A側から潤滑剤経路50への異物の侵入のおそれが低い。
リップ部52がスリーブ12の大気A側の端部に形成されていることにより、リップ部52は潤滑剤経路50よりも大気A側に配置され、機器内部空間Sの圧力が低い時でも、スリーブ12の長い区間にわたって潤滑剤経路50に潤滑剤が満たされうる。したがって、リップ部52をすり抜けて、異物が潤滑剤経路50に侵入したとしても、潤滑剤に異物が捕捉されて潤滑剤経路50内にとどまる可能性が高く、異物が機器内部空間Sにまで到達するおそれが低い。
特に、密封装置1は、内側円筒部16aの内周面に形成された周溝20を有している。周溝20は、潤滑剤経路50に交わって延びており、潤滑剤経路50から潤滑剤が侵入しうる。したがって、リップ部52をすり抜けて、異物が潤滑剤経路50に侵入したとしても、異物の一部が周溝20に入り込み、機器内部空間Sにまで到達しにくい。但し、周溝20の代わりに、潤滑剤経路50に交わって延び、潤滑剤経路50から潤滑剤が侵入しうる他の空間をスリーブ12に設けてもよい。具体的には、このような空間は、スリーブ12の周方向に連続的に延びていなくてもよい。また、周溝20またはこのような空間は必ずしも不可欠ではない。
図4は、回転シール部材8のスリーブ12の内周面(すなわち内側円筒部16aの内周面)の展開図である。図4に仮想線で示すように、リップ部52は潤滑剤経路50を少なくともカバーし、潤滑剤経路50からの潤滑剤の流出を阻止する舌片として形成されていてもよい。但し、図4に実線で示すように、リップ部52は、回転軸4にその全周にわたって接触するように、周方向に連続する延びる環であってもよい。
図4に示すように、潤滑剤経路50は、スリーブ12の両端縁に対して垂直に延びる(すなわちスリーブ12の軸線方向に対して平行に延びる)直線上に形成されていてもよい。但し、図5および図6に示すように、潤滑剤経路50は、スリーブ12の軸線方向に対して傾斜していてもよい。さらには、潤滑剤経路50は屈曲または湾曲した形状を有していてもよい。図7は屈曲したジグザグ形状の潤滑剤経路50の例を示す。図4に示す潤滑剤経路50よりも、傾斜した潤滑剤経路50および屈曲または湾曲した潤滑剤経路50の方が長さが大きいので、異物が機器内部空間Sに到達するおそれをさらに低減することができる。
潤滑剤経路50の幅、深さ、ひいては断面積は限定されず、潤滑剤経路50の断面形状も限定されない。また、潤滑剤経路50の数も限定されない。図8は回転シール部材8のスリーブ12の端面図である。図8に示すように、単一の潤滑剤経路50がスリーブ12に設けられていてもよい。但し、複数の潤滑剤経路50がスリーブ12に設けられていてもよい。
複数の潤滑剤経路50がスリーブ12に設けられる場合には、図9に示すように、これらの潤滑剤経路50は互いに同寸法であって、互いに等角間隔をおいて設けられていると好ましい。このことにより、密封装置1の製造が容易であるだけでなく、潤滑剤の補給時に機器内部空間Sの圧力が一定値を超えると、これらの潤滑剤経路50を通じてほぼ均等な流量で潤滑剤が流出する。したがって、各潤滑剤経路50から与えられるリップ部52への負荷が均等となる。
この密封装置1においては、回転シール部材8のフランジ14が大気A側から機器内部空間Sへの異物の侵入を跳ね返す。また、回転シール部材8のダストリップ部42、ならびに固定シール部材10のダストリップ部38,40は、大気A側から機器内部空間Sへの異物の侵入をより確実に防止する。上記のように、スリーブ12に一体に形成されているリップ部52が、機器内部空間Sの圧力が一定値を超えると潤滑剤経路50を通じて潤滑剤を流出させるので、回転シール部材8と固定シール部材10との間の封止性能(シールリップ部36およびダストリップ部38,40,42でもたらされる)を潤滑剤の流出のために低下させる必要はなく、シールリップ部36による潤滑剤への封止性能ならびにダストリップ部38,40,42による異物への封止性能を高めるように、シールリップ部36およびダストリップ部38,40,42を強固に形成することが可能である。
第2実施形態
図10は、本発明の第2実施形態に係る密封装置61を示す。図10以降の図面において、第1実施形態と共通する構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
密封装置61は、リップ部52に加えて、スリーブ12に一体に形成されているさらなるリップ部64を備える。このリップ部64は、潤滑剤経路50の内部に配置された薄い舌片であり、内側円筒部16aの潤滑剤経路50の底面に相当する面から大気A側かつ内側に斜めに延びている片持梁である。リップ部64の先端は、回転軸4の外周面に密封接触する。
スリーブ12に一体に形成されているリップ部64は、大気A側かつ内側に斜めに延びているので、機器内部空間Sの圧力が一定値を超えると潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを許容し、他の場合には潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを阻止する弁として機能する。この実施形態では、スリーブ12の端部のリップ部52は、リップ部52,64間の空間の圧力が一定値を超えると、潤滑剤が通過することを許容し、他の場合には潤滑剤経路50を潤滑剤が通過することを阻止する弁として機能する。
また、リップ部64は、大気A側かつ内側に斜めに延びているので、機器内部空間Sから大気A側への流体の流動を許容するが、大気A側から機器内部空間Sへの流体の流動を阻止する逆止弁として機能し、ダストリップ部とみなすこともできる。このように潤滑剤経路50について、複数のリップ部52,64を設けることにより、潤滑剤経路50から大気A側への潤滑剤の流出は可能であるが、大気A側から潤滑剤経路50への異物の侵入のおそれをさらに低減することができる。潤滑剤経路50内のリップ部の数は限定されない。
第3実施形態
図11は、本発明の第3実施形態に係る密封装置71を示す。この密封装置71では、機器内部空間Sから大気A側への潤滑剤の潤滑剤経路72は、スリーブ12のうち弾性体から形成された内側円筒部16aを貫通する貫通孔である。
潤滑剤経路72の機器内部空間S側の端部には、機器内部空間Sに向けて断面積が大きくなる潤滑剤導入口74が設けられている。したがって、潤滑剤導入口74を通じて潤滑剤経路72に潤滑剤が流入しやすい。
この実施形態では、内側円筒部16aの内周面に周溝20を形成してもよいが、形成しなくてもよい。周溝20を形成する場合でも周溝20と潤滑剤経路72が連通しないようにしてもよい。これらの場合には、潤滑剤は、スリーブ12のうち弾性体から形成された内側円筒部16aを貫通する貫通孔である潤滑剤経路72を通じて、大気側Aに向けてそのまま流出するため、内側円筒部16aと回転軸4との間に潤滑剤が流入しにくくなる。したがって、スリーブ12と回転軸4との固定状態を安定して維持することができる。
第4実施形態
図12は、本発明の第4実施形態に係る密封装置81を示す。この密封装置81では、機器内部空間Sから大気A側への潤滑剤の潤滑剤経路82は、スリーブ12を貫通する貫通孔である。潤滑剤経路82の大部分は、スリーブ12のうち剛体から形成された外側円筒部18aの内周面に形成された溝であるが、潤滑剤経路82の端部83はスリーブ12のうち弾性体から形成された内側円筒部16aを貫通する貫通孔である。弾性環16と補強環18を接合して回転シール部材8を製造すると、上記の溝は内側円筒部16aに覆われて貫通孔をなす。
潤滑剤経路82の機器内部空間S側の端部には、機器内部空間Sに向けて断面積が大きくなる潤滑剤導入口84が設けられている。したがって、潤滑剤導入口84を通じて潤滑剤経路82に潤滑剤が流入しやすい。潤滑剤導入口84は、内側円筒部16aの端部の外周面に形成された傾斜面を有しており、これにより、機器内部空間Sに向けて広がっている。
この実施形態では、スリーブ12に上記の周溝20に相当する周溝を形成してもよいが、形成しなくてもよい。周溝を形成する場合でも周溝と潤滑剤経路82が連通しないようにしてもよい。これらの場合には、潤滑剤は、スリーブ12のうち剛体から形成された外側円筒部18aの内周面に形成された溝である潤滑剤経路82を通じて、大気側Aに向けてそのまま流出するため、内側円筒部16aと回転軸4との間に潤滑剤が流入しにくくなる。したがって、スリーブ12と回転軸4との固定状態を安定して維持することができる。
第5実施形態
図13は、本発明の第4実施形態に係る密封装置91を示す。この密封装置91では、回転シール部材8は、フランジ14を有しておらず、スリーブ12のみを有する。したがって、ダストリップ部42も設けられない。固定シール部材10は、ダストリップ部40を有しない。このような密封装置91であっても、潤滑剤経路50およびリップ部52は上記の通り機能する。
以上、本発明の様々な実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
上記のいくつかの実施形態および変形は、矛盾しない限り、組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態に関して上記した変形は、他の実施形態にも適用できる。
また、固定シール部材10のリップ部の形状および数は、上記のものに限定されない。
上記実施形態では、潤滑剤経路50,72,82は、スリーブ12に形成された溝または貫通孔であるが、管をスリーブ12に埋設することによって潤滑剤経路を設けてもよい。
上記実施形態では、リップ部52、64はスリーブ12の弾性環16に一体に形成されており、そのためスリーブ12の製造と同時に形成することができる。但し、リップ部52、64はスリーブ12に取り付けてもよい。
上記実施形態では、軸4が回転軸であり、軸孔6を有するハウジングが静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する二部材の間の密封に適用されうる。例えば軸4(およびシール部材8)が静止し、ハウジング(およびシール部材10)がその周囲を回転してもよいし、軸4もハウジングも回転してもよい。
1,61,71,81,91 密封装置
4 回転軸(内側の部材)
6 軸孔(外側の部材の軸孔)
8 回転シール部材(第2のシール部材)
10 固定シール部材(第1のシール部材)
12 スリーブ
14 フランジ
16 弾性環
18 補強環
16a 内側円筒部
18a 外側円筒部
16b 弾性フランジ部
18b 剛性フランジ部
20 周溝(空間)
22 外側環状体
23 外側フランジ
24 中間環状体
25 内側フランジ
26 内側環状体
28 弾性環
30 補強環
32 ガータースプリング
34 受け溝
36 シールリップ部
38,40 ダストリップ部
42 ダストリップ部
50,72,82 潤滑剤経路
51,74,84 潤滑剤導入口
52,64 リップ部
83 端部

Claims (8)

  1. 回転軸に固定されるスリーブと、
    前記回転軸が挿入配置される軸孔を有するハウジングの内面に固定され、前記スリーブの外周面が摺動する第1のシール部材とを備え、
    機器内部空間の潤滑剤を当該機器内部空間に密封する密封装置であって、
    前記スリーブには、前記機器内部空間から大気側へと通じる潤滑剤経路が設けられており、
    前記機器内部空間の圧力が一定値以下の場合には前記潤滑剤経路を前記潤滑剤が通過することを阻止し、前記機器内部空間の圧力が一定値を超えると前記潤滑剤経路を前記潤滑剤が通過することを許容するリップ部が前記スリーブに設けられていることを特徴とする密封装置。
  2. 前記スリーブは、前記回転軸に密着させられる弾性体から形成された内側円筒部と、当該内側円筒部の外周に固着された剛体から形成された外側円筒部とを有しており、前記潤滑剤経路が前記内側円筒部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
  3. 前記潤滑剤経路が前記内側円筒部の内周面に形成された溝であることを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
  4. 前記リップ部が前記スリーブの大気側の端部に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の密封装置。
  5. 前記スリーブには、前記潤滑剤経路に交わって延び、前記潤滑剤が侵入しうる空間が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の密封装置。
  6. 前記潤滑剤経路の機器内部空間側の端部には、前記機器内部空間に向けて断面積が大きくなる潤滑剤導入口が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の密封装置。
  7. 前記スリーブには、互いに同寸法の複数の前記潤滑剤経路が前記回転軸の周りに互いに等角間隔をおいて配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の密封装置。
  8. 前記スリーブと、前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されてその外側に放射状に広がるフランジとを有する第2のシール部材を備え、
    前記第1のシール部材は、前記スリーブの外周面が摺動するシールリップ部と、前記ハウジングの内面に固定される外側環状体とを備え、
    前記第2のシール部材は、前記フランジの外縁からその外側に放射状に広がり前記第1のシール部材の前記外側環状体の内周面に対して摺動するダストリップ部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の密封装置。
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