JP6867662B1 - 多段同時注入装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】砂質土粒子間隙にグラウトを低吐出量で注入することにより、低圧力できめ細かく浸透させることができる多段同時注入装置並びに工法を提供する。【解決手段】多段同時注入装置1は、グラウトを注入する注入ステップに応じた深さ方向に外管ノズル3〜3’’’を4段以上設けた外管2と、4筒4連式の注入ポンプ4と、気体を圧送するエア発生機9と、を備え、注入ポンプ4が備える4つの吐出口5〜5’’’は、注入ステップに応じた深さ方向に4段設置された吐出孔8〜8’’’を有する注入パイプ7〜7’’’に接続され、エア発生機9は、上下間を閉塞する5カ所のエアパッカー部材12〜12’’’’に、連通するエアパイプ11を通じて気体を圧送可能に接続され、一本のエアパイプ11の周りに4本の注入パイプ7〜7’’’が配置されて束になった内管を有し、内管は、外管2内に挿入されて外管2に対して昇降自在に構成されている。【選択図】図1

Description

本発明は、軟弱地盤、特に砂質土粒子の間隙にグラウトを浸透させて止水や地盤強化を図るストレーナー工法に関するものであり、詳しくは、4筒4連式ポンプを用いて、1注入工あたり4段にグラウトを同時に注入する多段同時注入装置及びそれを用いた多段同時注入工法に関するのである。
従来、軟弱地盤の止水や地盤強化を目的として薬液(以下、グラウトという)注入工法が広く使われている。特に、近年は地震や自然災害の頻発により、液状化対策、或いは、既設構造物などに対する耐震化が求められている。
これらの対象となる地盤は、河川や海辺域に永年にわたり堆積した軟弱な沖積層の砂質土は、堆積の過程で粒子が沈降して層状に生成されているため、砂質土であっても一様ではなく、下部が粗く上部が細かい砂粒子で構成されている場合が多い。
また、砂質土は、粘性土や礫など複雑多岐に互層をなして層状を呈して堆積した地盤である。このため、透水性(透水係数)も大きく異なり、縦方向に比べて横方向の方が透水係数が大となり、また層境も大となる傾向を示している。
このような、地下水下の不均一な砂質土層にグラウトを注入する工法として、主にストレーナー工法が用いられている。このストレーナー工法には、開発された時系列順に、単管ストレーナー工法(非特許文献1、P131参照)、ダブルパッカー工法がある。ダブルパッカー工法としては、代表的なものとして、ソレタンシュ工法、スリーブ工法(非特許文献1、P132〜133参照)がある。その後、超多点注入工法(特許文献2、非特許文献2参照)が開発されている。
[単管ストレーナー工法]
我が国で初めて開発されたのが単管ストレーナー工法である。この単管ストレーナー工法は、第1工程で注入管の設置と、第2工程で注入する2工程で構成されている。第1工程は、先端が尖ったガス管パイプで周囲の多数の注入孔が設けられた注入管を対象地盤に打込んで設置している。第2工程の注入は、予め注入管内に溶液型薬液を充填して、注入管と地山の隙間と注入管内をゲル化させた後、注入範囲(注入作用長で約1m)の注入管内を水洗いで排出して注入孔を確保する。
次に、グラウトを1台のポンプで1本のホースで注入すると地盤(地盤抵抗圧)の違いにより、注入されたグラウトは、極僅かの圧力差であっても圧力のかからないところの注入孔に多く浸入し、逆に圧力がかかるところの注入孔には浸入がし難くなる。
この傾向は、時間と共に拡大して行き、さらに、ゲルタイムより長い時間注入を続けると、ついには、ゲル化と相俟って孔は閉塞される。逆に、注入される孔は、数個となり、その結果、不均一な浸透となる。このため、単管ストレーナー工法は、止水や地盤強化を図ることはできないという致命的な欠陥があり、現在、全く使用されていない。
[ダブルパッカー工法]
その後、フランスから技術導入されたダブルパッカー工法(別名、ソレタンシュ工法)やスリーブ注入工法、ダブルストレーナー工法が開発されて、現在では主流をなしている。また、このダブルパッカー工法は、分類的には、二重管ストレーナー工法に属している。
このダブルパッカー工法は、第1工程で注入管の設置、第2工程でグラウト注入の2工程で構成されている。第1工程は、削孔してケーシングパイプを設定し、パイプ内にシールグラウト(主にCB液)を充填する。その後、注入管(外管)を挿入し、シールグラウトが硬化する前に、ケーシングパイプを引き抜く。そして、シールグラウトの硬化後に、水圧で硬化したシールグラウトをクラッキングしてグラウト流路を確保する。
第2工程は、注入管(外管)内に、注入管(内管)にダブルパッカー装置を接続して所定の位置で外管ノズル上下にパッカー(ダブルパッカー)を形成させて固定し、グラウトを注入する。次に、ダブルパッカー装置を上部のステップまで引き上げて、同様にグラウトを注入する。これを繰り返し行い、注入終了後、ダブルパッカー装置が回収される。このダブルパッカー装置が内管に相当する。
このダブルパッカー工法は、低吐出、低圧の注入が可能であるが、1注入工あたり1地点のみの注入であるため、注入に長時間を要する。このため、グラウトの吐出量は、毎分8〜10Lと多くしても作業効率が劣るという施工上の難点があり、効率よく低吐出で低圧で注入することができないという問題がある。
なお、ダブルパッカー工法は、装置上ダブルパッカー装置を1注入工に多数段に複数個(例えば、3〜4地点)連結することは、技術的には可能である。しかし、注入管が1本であるため、前述の単管ストレーナー工法で述べたように、注入時に地盤抵抗圧の違いにより、各注入孔から均一に吐出することができないため、現状では実施されていない。
[超多点注入工法]
超多点注入工法は、第1工程で注入パイプの設置と、第2工程でグラウト注入の2工程で構成されている。第1工程は、ケーシングを所定の位置に設置し、その中にシールグラウトを充填する。その後、シールグラウトがまだ固まらない時に、注入パイプを挿入し、ケーシングパイプを引き抜き、注入パイプを固定する。この注入パイプは、複数の多段位置(注入ステップ)に束にして用いられ、1注入工あたり複数(通常3〜5地点)に同時注入する装置として使用される。
第2工程は、シールグラウトをクラッキング後、1ユニット(大容量多連装重連ポンプから複数の小容量のポンプに接続)から各ポンプ、注入ホース、及び注入ポンプの先端のノズルチップよりグラウトを多段(地点)に同時注入する。このため、1地点からの注入は、低吐出量(毎分3〜5L程度)で低圧できめ細かな浸透注入ができること、及び1注入工は、1回で注入が終了するため、作業効率が向上する利点がある。
その反面、技術的には、ダブルパッカー工法のように、注入管(内管)を使用せず、またパッカーも使用せず、シールグラウトの中心部に注入パイプを設置させ、確実にパッカー効果を発揮でき難いという難点がある。
また、例えば、5本のパイプを段差毎に設置すると、最上段の注入パイプの位置は、他の4本の注入パイプと重なっており、ノズルから噴射したグラウトは、クラッキング(割れ目の流路)全面を通じて地盤に均一に注入することができ難たいとう難点もある。
さらに、施工的には、注入後の注入パイプと先端ノズルは、シールグラウトに固定されており、回収することができず、そのまま残置されることも難点となる。また、超多点注入工法に用いられる超多点注入装置は、高価なものとなることも難点である。
以上説明したダブルパッカー工法と超多点注入工法には、それぞれ長所、短所があり、これらの短所を取り除き、長所を取り入れた(又は活かした)工法が望まれている。即ち、1注入に対し注入管(外管でストレーナー管)内に複数の注入孔の上下にパッカーを設けた多段パッカー装置を用い、多段同時注入を可能にして低吐出量により低圧でグラウト注入ができる注入工法が望まれている。それに加え、注入終了後に内管(多段同時注入装置)を回収できる注入工法も望まれている。
特開2015−36503号公報 特開平11−81296号公報
草野一人、「薬液注入工法 ハンドブック」、吉井書店、昭和58年7月5日、P131〜135 米倉亮三・島田俊介著、「恒久グラウト本設注入工法の設計施工」、近代科学社、2016年10月31日、P133〜135
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために案出されたものであり、その目的とするところは、砂質土粒子間隙にグラウトを低吐出量(毎分1〜8L)で注入することにより、低圧力できめ細かく浸透させることができる多段同時注入工法を提供することにある。
第1発明に係る多段同時注入装置は、砂質土粒子間隙に深さ方向に4筒4連式の注入ポンプを用いて複数段において同時にグラウトを浸透させて止水や地盤強化を図る多段同時注入装置であって、グラウトを注入する注入ステップに応じた深さ方向に外管ノズルを4段以上設けた外管と、気体を圧送するエア発生機と、を備え、前記注入ポンプは、4つの吐出口を有し、これらの4つの吐出口は、注入ステップに応じた深さ方向に4段設置された吐出孔を有する注入パイプに接続され、前記エア発生機は、注入ステップの上下間を閉塞する5カ所のエアパッカー部材に連通するエアパイプを通じて各エアパッカー部材に気体を圧送可能に接続され、一本の前記エアパイプの周りに4本の前記注入パイプが配置されて束にして固定されて纏めて持ち上げ移動でき、前記エアパッカー部材を膨張させることで前記外管に固定可能な先端装置である内管を有し、前記内管は、前記外管内に挿入されて前記外管に対して昇降自在に構成されていることを特徴とする。
第1発明によれば、低圧、低吐出量により、土粒子間隙に割裂浸透注入ではなく、きめ細かく浸透させることができるだけでなく、多段(4地点)に同時注入できるため注入時間を短縮して施工労力を省力化し、施工費を低減することができる。その上、第1発明によれば、超多点注入工法と違い、グラウト注入完了後に、内管を簡単に回収することもできる。
図1は、本発明の実施の形態に係る多段同時注入装置の構成を模式的に示す模式断面図である。 図2は、図1のイ−イ’線断面図である。 図3は、図1のロ−ロ’線断面図である。 図4は、図1のハ−ハ’線断面図である。 図5は、本発明の実施形態に係る多段同時注入工法の施工手順を示す工程説明図である。 図6は、グラウト固結体を模式的に示す平面図であり、(a)が実施例1で形成したグラウト固結体であり、(b)が比較例1で形成したグラウト固結体である。 図7は、グラウト固結体を模式的に示す側面図であり、(a)が実施例1で形成したグラウト固結体であり、(b)が比較例1で形成したグラウト固結体である。 図8は、グラウト固結体を模式的に示す水平断面図であり、(a)が実施例1で形成したグラウト固結体であり、(b)が比較例1で形成したグラウト固結体である。
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態に係る多段同時注入装置及びそれを用いた多段同時注入方法について説明する。
<多段同時注入装置>
先ず、図1を用いて、本発明の実施の形態に係る多段同時注入装置1について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る多段同時注入装置1の構成を模式的に示す模式断面図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る多段同時注入装置1は、塩ビ管である外管2と、この外管2を通じてグラウトを圧送する注入ポンプ4など、を備えている。
(外管)
外管2は、前述のダブルパッカー工法や超多点注入工法(外管2は無くホースを束にして挿入)と同様に設置される。つまり、地盤に削孔してケーシングパイプ(図示せず)が設置され、ケーシングパイプ内に主にCB液(セメントベントナイト液)からなるシールグラウト14が充填される。その後、注入管である外管2が挿入されて、シールグラウト14が硬化する前に、ケーシングパイプを引き抜きくことで、外管2がシールグラウト14で固められて固定される。勿論、シールグラウト14には、水圧でクラッキングされてグラウト流路が確保される。
この外管2には、グラウトを注入する注入ステップに応じた上下方向(深さ方向)複数段に亘り、外管ノズル3〜3’’’が設けられ、これらの外管ノズル3〜3’’’を通じて、軟弱地盤の止水や地盤強化のために、後述のグラウトが砂質土からなる地盤に注入される。
(注入ポンプ)
この注入ポンプ4は、グラウト圧送に用いられる4筒2連式のプランジャー型(ピストン型)多筒式ポンプを改良して1筒毎に吐出口を設けた4筒4連式のプランジャー型多筒式ポンプである。
この注入ポンプ4は、4つの吐出口5〜5’’’を有し、これらの4つの吐出口5〜5’’’には、それぞれ樹脂製の4つの注入ホース6〜6’’’が接続されている。また、これらの4つの注入ホース6〜6’’’には、金属製の注入パイプ7〜7’’’が接続されている。注入パイプ7〜7’’’の先端が吐出孔8〜8’’’であり、これらの吐出孔8〜8’’’から注入ポンプ4で圧送されたグラウトが吐出されてシールグラウト14のクラッキングを通じて地盤に注入される。
これらの吐出孔8〜8’’’や外管ノズル3〜3’’は、前述の外管ノズル3〜3’’’と同様に、グラウトを注入する注入ステップ深さ方向(上下方向)に4段設置されている。即ち、これらの吐出孔8〜8’’’や外管ノズル3〜3’’の各段の設置深さ(高さ)は、多段同時注入方法のグラウトの注入ステップに相当し、これらの上下間隔は、通常、約30cm〜50cmとなっている。
(エア発生機)
また、多段同時注入装置1は、コンプレッサーなどからなるエア発生機9を備えている。このエア発生機9には、樹脂製のエアホース10が接続され、このエアホース10には、金属管であるエアパイプ11が接続されている。そして、エアパイプ11には、各段の注入ステップである吐出孔8〜8’’’を挟むように5つのエア吐出口が設けられ、最下段の吐出孔8’’’より深い位置までエアパイプ11が達している。
(エアパッカー部材)
これらの5つのエア吐出口には、5カ所のエアパッカー部材12が装着されている。このエアパッカー部材12は、ゴム弾性体などの伸縮性を有する素材からなり、エア発生機9から気体が送り込まれることにより膨らんで、注入ステップの上下間を閉塞し、注入するグラウトが下方の注入ステップへ逸走することを防止する仕機能を有している。
本実施形態に係るエアパッカー部材12を膨らませる気体としては、窒素ガスが採用されている。勿論、空気など他の気体を用いてもよいことは云うまでもない。このエアパッカー部材12により、外管2内の4段の各段の外管ノズル3〜3’’’の上下を閉塞して、外管ノズル3〜3’’’からグラウトを確実に土粒子間隙に浸透させることが可能となる。
(内管)
図2は、図1のイ−イ’線断面図であり、図3は、図1のロ−ロ’線断面図である。
また、図4は、図1のハ−ハ’線断面図である。図2〜図4に示すように、4本の注入パイプ7〜7’’’とエアパイプ11は、予め、エアパイプ11を中心に、その周りに4本の注入パイプ7〜7’’’が配置されて束にして固定されている。このように、前述のエアパッカー部材12が装着された状態のエアパイプ11の周りに4本の注入パイプ7〜7’’’が配置されて束になったものを内管15(先端装置、図1)と称している。
図2〜図4に示すように、内管15(上部は注入ホース、エアホースで巻取り可能)で束にしてまとめているので、外管2内が注入パイプ7〜7’’’やエアパイプ11などで埋め尽くされることがなく、グラウトが流通するスペースが確保されており、外管ノズル3〜3’’’からグラウトを自由に注入することができる。この点が、背景技術で述べた超多点工法との違いである。また、この内管15は、後述のように、外管2内に挿入されて外管2に対して昇降機18により昇降自在に構成されている(図5参照)。
なお、図1に示すシールグラウト14は、外管2設置時に外管2と地盤(地山)との隙間に注入充填されるものであり、後述の施工手順で詳しく述べる。
<多段同時注入工法>
次に、本発明の実施の形態に係る多段同時注入工法について説明する。先ず、吐出量と注入圧力について説明する。
[吐出量と注入圧力]
前述のように、本発明の実施の形態に係る多段同時注入装置1の注入ポンプ4は、1台のポンプから独立した4つの吐出口5〜5’’’からグラウトを多段(4地点:深さの異なる4つの注入ステップ)に同時に注入する。このため、各段毎の注入は、毎分あたり1〜8Lと極めて少量の吐出量(注入速度)が可能となり、その結果、低圧で土粒子間隙にきめ細かく浸透注入ができ、且つ、注入時間が大幅に短縮されるという利点がある。
具体的には、ポンプの吐出量が毎分12Lとすると、各段(4地点)の吐出量は、12×1/4=3Lと極めて少量の吐出量で注入できるため、注入圧も極めて低圧で浸透注入が可能となる。
さらに、ポンプの吐出量が毎分8Lとすると、各段の吐出量は、8×1/4=2Lとなる。これは、通常の4筒2連式のポンプ(二液性で毎分8〜16Lに設定されている)では、正確に吐出させることができない程度の低圧である。
例えば、軟弱な沖積層の細砂土(N値10程度で透水係数10−3[cm/sec])に毎分8L(ダブルパッカー)の吐出量で注入すると、圧力は0.3[MPa]と高い値が必要であることが実証されている(表1参照)。
これに対して、後述のように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、毎分3Lの低吐出量で0.15[MPa]と非常に低い圧力で注入できることが確認されている(表1参照)。即ち、本実施形態に係る多段同時注入工法の対象となる砂質土の土粒子間隙にグラウトを浸透させるには、グラウトを受け入れる抵抗圧(地盤抵抗圧)を超える注入圧力を必要とする。この抵抗圧は、吐出量(注入する時間あたりグラウトの容量)と比例関係にあり、吐出量が多いと高い圧力がかかり、土粒子間隙に浸透することができず地盤を押し広げて割裂(脈状)に浸入しながら浸透するになり、均一に浸透させることができない。この現象を割裂浸透注入と称している。
一方、吐出量が少ない程、土粒子間隙に小さい圧力でゆっくりときめ細かく浸透させることができる。つまり、吐出量が少ない程、低圧で浸透できるので理想的である。
しかし、施工性を考慮すれば、一定以上の吐出量が必要であり、また、実用的な注入ポンプの性能を加味して、本実施形態に係る多段同時注入工法では、吐出量は、好ましくは、毎分2Lを下限としている。また、吐出量の上限は、好ましくは、きめ細かい浸透が可能な毎分5Lとしている。即ち、本実施形態に係る多段同時注入工法における吐出量は、1注入地点あたり2〜5L/分(4地点合計で8〜20L/分)の範囲としている。
[施工手順]
以下に、図5を用いて、本発明の実施の形態に係る多段同時注入工法の施工手順について説明する。前述の多段同時注入装置1を用いて、軟弱地盤の止水や地盤強化のために、砂質土からなる地盤に注入する場合を例示して説明する。図5は、本実施形態に係る多段同時注入工法の施工手順を示す工程説明図である。
なお、本発明の実施の形態に係る多段同時注入工法も、外管2を設置するまでには、背景技術で述べたダブルパッカー工法の第1工程と同じであり、異なる点は、多段同時注入装置1の内管15を用いる点である。
(1.削孔・ケーシングパイプ設置)
図5(1)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、先ず、(1)ボーリングマシンにより所定深さまで地盤を削孔して立穴を設け、そこにケーシングパイプ(図示せず)を設置する削孔・ケーシングパイプ設置工程を行う。
(2.シールグラウト充填)
次に、図5(2)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、(2)ケーシング内に、主にCB液(セメントベントナイト液)からなるシールグラウト14を注入して充填するシールグラウト充填工程を行う。
(3.外管設置)
次に、図5(3)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、前工程で充填したシールグラウト14が硬化する前に、外管2を挿入した後、(3)ケーシングパイプを引き抜いて、シールグラウト14を硬化させて外管2を設置する外管設置工程を行う。
また、前述のように、外管2には、内管15の各吐出孔8〜8’’’の位置の周囲に、複数の外管ノズル3〜3’’’が設けられている。本工程では、シールグラウト14が硬化した後、注入ホース6〜6’’’及び注入パイプ7〜7’’’を介して外管ノズル3〜3’’’から水を圧送し、水圧をかけてクラッキング(割れ目)を発生させ、グラウトの注入流路を確保しておく。
なお、(1.削孔・ケーシングパイプ設置)〜(3.外管設置)までの工程は、背景技術で述べたダブルパッカー工法と同じである。
(4−1.エアパッカー膨張工程)
次に、図5(4−1)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、前述のように、エアパッカー部材12が装着された状態のエアパイプ11の周りに4本の注入パイプ7〜7’’’が配置されて束になった内管15を挿入する。
そして、図5(4−1)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、エアホース10、エアパイプ11及びエア流路13を介してエア発生機9から気体として窒素を送り込み、5か所の各エアパッカー部材12〜12’’’’を膨らませて、注入ステップの上下間を閉塞するエアパッカー膨張工程を行う(図2〜図4も参照)。
(4−2.グラウト注入工程)
その後、図5(4−2)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、注入ポンプ4を用いて、注入パイプ7〜7’’’の吐出孔8〜8’’’から一液性グラウトを注入するグラウト注入工程を行う。
具体的には、4筒4連式のプランジャー型多筒式ポンプである注入ポンプ4で、[吐出量と注入圧力]で述べたように、各段毎の注入を毎分あたり1〜8L、好ましくは、2〜5Lの極めて少量の吐出量で注入する。このため、本実施形態に係る多段同時注入工法によれば、砂質土の土粒子間隙に一液性グラウトを小さい圧力でゆっくりときめ細かく浸透させるが可能となり、均一なグラウト固結体17(サンドゲル)を造成させて地盤の強化と止水を達成することができる(図5(5−1)等参照)。
(5.注入ステップ盛替工程)
次に、本実施形態に係る多段同時注入工法では、エア発生機9を作動させてエアパッカー部材12〜12’’’’から窒素(気体)を抜き、エアパッカー部材12〜12’’’’をしぼませる。そして、図5(5−1)に示すように、本実施形態に係る多段同時注入工法では、モーターで内管15を吊るしたワイヤロープ19を巻き上げる昇降機18を用いて、束になった先端装置の内管15を上方の多段の注入ステップまで引き上げる注入ステップ盛替工程を行う。
次に、図5(5−1)に示すように、前述のエアパッカー膨張工程を行う。その後、図5(5−2)に示すように、前述のグラウト注入工程を行う。
このように、エアパッカー膨張工程とグラウト注入工程を順次繰り返し、4段の注入ステップを同時に注入する工程を繰り返して、所定の深度の地盤に後述の一液性グラウトを注入する注入工(注入工事)を完了する。
なお、昇降機18として、モーターでワイヤロープを巻き上げる構成のものを図示して例示したが、内管15を纏めて持ち上げて移動できる機能有した機構であればどのような構成の機械でも採用できることは云うまでもない。
以上説明したように、本実施形態に係る多段同時注入工法によれば、4筒4連式の注入ポンプ4を中心とする簡略な設備である多段同時注入装置1を用いることにより、一度に4段(4地点)を同時に低吐出量で一液性グラウトを注入することができる。このため、本実施形態に係る多段同時注入工法によれば、低圧、低吐出量により、土粒子間隙に割裂浸透注入ではなく、きめ細かく浸透させることができるだけでなく、多段に同時注入できるため注入時間を短縮して施工労力を省力化し、施工費を低減することができる。その上、グラウト注入完了後に、内管15を昇降機18で引き上げて簡単に回収することもできる。
[一液性グラウト]
次に、前述の本発明の実施形態に係る多段同時注入工法で地盤に注入するグラウトについてさらに詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る多段同時注入工法で用いるグラウトは、4筒4連式の注入ポンプ4を用いて4本の注入ホース6〜6’’’等を介して圧送することを前提としているため、ゲルタイム(ゲル化時間)が30分以上の一液性のグラウトを採用する。
一液性グラウトは、特に限定されないが、代表的なものとしては、水ガラスから酸でアルカリを取り除いた酸性シリカゾル溶液型(以下、単にシリカゾルグラウトという)、水ガラス−超微粒子セメント系、又は超微粒子セメント系の浸透性グラウトを挙げることができる。
ここで、超微粒子は、粒子径が概ね2.5μm以下の粒子からなり、プレーン値6,000[cm/g]以上混入するものとする。また、セメント系には、普通ポルトラントセメント、早強ポルトラントセメント、超早強ポルトラントセメント、中庸熱ポルトラントセメント、低熱ポルトラントセメント、耐硫酸塩ポルトラントセメントのポルトラントセメント類が含まれるだけでなく、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントのセメント−スラグ系の混合セメントも含まれる。その上、セメント系には、スラグ−石灰系も含むものとする。
しかし、一液性グラウトとしては、シリカゾル系が最も好ましい。このシリカゾルは、水ガラスを水に希釈した水ガラス水液と硫酸(75%の工業用のもの)を比例連続混合(シリカゾル製造装置)したpH4以下のゲルタイム30分以上の酸性シリカゾルグラウトであり、浸透性に極めて優れているからである。
[効果確認実験]
次に、前述の多段同時注入装置1を用いて、前述の多段同時注入工法に準じて実行し、グラウトの吐出量の多少の違いによる注入圧値の変化を測定した結果を下記表1に示して説明する。また、注入後のグラウト固結体17の形状を確認するとともに、グラウト固結体17を半割にしてグラウトの浸透形態を確認した。
注入地盤は、河川に近い地表下1.5〜5mの軟弱な沖積細砂層(N値5、透水係数10−3[cm/sec]オーダー)である。
使用した一液性グラウトは、シリカゾル系溶液型で水ガラス(SiO25.2%、Na7.0%、モル比3.72)150Lに水350Lを加えた水ガラス溶液500Lに希硫酸(75%工業用)17Lを加えてシリカゾル製造機で1mのシリカゾルグラウトを製造した。このシリカゾルは、粘性1.8cP(センチポアズ:mPa・s)、pH3.0の酸性液でゲルタイムは、10時間であった。
注入は、地表下2.0m、2.5m、3.0m、及び3.5mの4段の注入地点で各外管ノズル(径3mm、4か所)から4筒4連式の注入ポンプを用いて同時注入を行った。
但し、比較として行った注入は、4筒4連式の注入ポンプの4つの吐出口のうち1つの吐出口からでたグラウトを注入ポンプにリターンし、残りの3つの吐出口から出たグラウトを1本の注入ホースにまとめて地表下2.0mの1地点に注入した。
Figure 0006867662
表1より、4筒4連式の注入ポンプを用いた多段同時注入では、極めて少ない毎分3Lの第1〜第4段(地点)の実施例1〜4で注入したところ、注入開始1分後の注入圧力は、0.05[MPa]であり、注入時間(測定時間)が経過するに従って、少しずつ上昇し、注入終了時(15分後)まで注入圧力が低下することなく上昇を続け、0.10〜0.15[MPa]となるが、極めて低圧で注入できることが確認できた。
これに対して、吐出量の多い毎分9.0Lの比較例1では、注入開始1分後でも0.20[MPa]と高く、2.5分後は、0.25[MPa]と上昇し、注入終了時には、0.30[MPa]と最も高い注入圧力を示していた。これにより、注入圧力は、吐出量が毎分3.0L(実施例1〜4)の場合と、毎分9.0L(比較例1)の場合とでは、大差があることが判明した。
次に、図6〜図8を用いて、グラウト固結体の形状等について説明する。図6は、グラウト固結体を模式的に示す平面図であり、(a)が前述の実施例1で形成したグラウト固結体であり、(b)が前述の比較例1で形成したグラウト固結体である。また、図7は、グラウト固結体を模式的に示す側面図であり、(a)が前述の実施例1で形成したグラウト固結体であり、(b)が前述の比較例1で形成したグラウト固結体である。
前述の多段同時注入で形成したグラウト固結体を注入一週間後に地表から2.5mまで掘り起こして、その形状を確認したところ、図6(a)に示すように、実施例1に係るグラウト固結体は、平面視でほぼ円形状(球体状)に浸透固結していることが確認できた。これに対して、図6(b)に示すように、比較例1に係るラウト固結体は、平面視で水平方向の2方向に長くなった楕円状となっていることが確認できた。
また、図7(a)に示すように、側面視では、実施例1に係るグラウト固結体は、ほぼ円形状となっており、平面視と併せて球体状に浸透固結していることが確認できた。一方、図7(b)に示すように、比較例1に係るラウト固結体は、側面視でも水平方向の2方向に長くなった楕円状となっており、平面視と併せてある水平方向の長さが厚みより小さい扁平な形状となっていることが確認できた。
さらに、グラウト固結体のグラウトの浸透形態を確認するために、グラウト固結体の中心部で半割りしても目視により確認し、図8に示した。図8は、グラウト固結体を模式的に示す水平断面図であり、(a)が前述の実施例1で形成したグラウト固結体であり、(b)が前述の比較例1で形成したグラウト固結体である。
図8(a)に示すように、実施例1に係るグラウト固結体の断面は、グラウトが割裂浸入した痕跡が全く見られなかった。これは、グラウトを低吐出量で低圧でゆっくり注入したため、土粒子間隙に浸透しながら外側に徐々に浸透を拡げて球体状に浸透固結体を形成したからと考えられる。
このことを踏まえると、このグラウト固結体の半割目視検証により、前述の低吐出量で低圧で多段同時注入することにより、割裂浸入ではなく、きめ細かく浸透でき、且つ、短時間でグラウトを注入することができる極めて優れた浸透注入型の注入工法であることが実証できた。
これに対して、図8(b)に示すように、時間あたりの吐出量が実施例より多い比較例1に係るラウト固結体の断面は、中心部を中心に筋状に白色になった割裂浸入した痕跡を見て取ることができ、割裂に伴いその周辺に浸透していたことが確認できた。このことから、比較例1に係る注入形態は、割裂浸透であることが判明したといえる。
要するに、この両者の注入形態の違いは、グラウト吐出量の違いによるものと結論付けることができる。
以上、本発明の実施形態に係る多段同時注入装置及びそれを用いた多段同時注入工法について説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
1:多段同時注入装置
2:外管
3〜3’’’:外管ノズル
4:注入ポンプ
5〜5’’’:吐出口
6〜6’’’:注入ホース
7〜7’’’:注入パイプ
8〜8’’’:吐出孔
9;エア発生機
10:エアホース
11:エアパイプ(内管)
12〜12’’’’:エアパッカー部材
13:エア流路
14:シールグラウト
15:内管
17:グラウト固結体
18:昇降機
19:ワイヤー

Claims (1)

  1. 砂質土粒子間隙に深さ方向に4筒4連式の注入ポンプを用いて複数段において同時にグラウトを浸透させて止水や地盤強化を図る多段同時注入装置であって、
    グラウトを注入する注入ステップに応じた深さ方向に外管ノズルを4段以上設けた外管と、気体を圧送するエア発生機と、を備え、
    前記注入ポンプは、4つの吐出口を有し、これらの4つの吐出口は、注入ステップに応じた深さ方向に4段設置された吐出孔を有する注入パイプに接続され、
    前記エア発生機は、注入ステップの上下間を閉塞する5カ所のエアパッカー部材に連通するエアパイプを通じて各エアパッカー部材に気体を圧送可能に接続され、
    一本の前記エアパイプの周りに4本の前記注入パイプが配置されて束にして固定されて纏めて持ち上げ移動でき、前記エアパッカー部材を膨張させることで前記外管に固定可能な先端装置である内管を有し、
    前記内管は、前記外管内に挿入されて前記外管に対して昇降自在に構成されていること
    を特徴とする多段同時注入装置。
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