しかし、上述した特許文献1及び2で開示される流量制御弁をはじめ、従来の流量制御弁は、次のような解決すべき課題が存在した。
即ち、流量制御弁が、ソレノイドの非通電時に、弁部材(弁体)が弁座に当接して流路を閉じる、いわゆるノーマルクローズ機能を有するとともに、弁体の弁部材にゴム素材を使用し、かつ弁座に金属素材を使用して構成した場合、非通電状態が継続した流量制御弁を駆動する際に、使用環境等によっては、弁部材が弁座に密着し、駆動開始時(低電圧駆動時)において制御動作が不安定(不能)になる問題を生じる。
具体的には、図10に示すように、非通電状態を24時間継続した後、駆動を開始した場合、常温環境では、特性線Eonで示すように、駆動電圧Vdが7〔V〕付近から電圧が高くなるに従い、その電圧の大きさに対応して弁部材(弁座)が開き、流量〔L/min〕も対応して徐々に増加する正常動作を行うが、ヒートサイクル環境(温度80〔℃〕及び湿度90〔%〕の環境が8時間,温度0〔℃〕及び湿度0〔%〕の環境が8時間の繰り返しを2回継続)の後では、弁部材が弁座に対して密着状態(くっつき状態)となり、特性線Eocで示すように、駆動電圧Vdが11〔V〕付近まで閉状態を維持し、11〔V〕付近のいわば臨界点に達した時点で弁部材が弁座から離れ、瞬時に全開に移行する不安定動作を生じる。
この問題は、常温環境など、通常の使用環境では生じないとともに、生じても駆動開始時などに限られる場合も多いため、さほど問題視されていない側面もあるが、流量制御弁の安定性及び信頼性を確保する観点からは望ましくない。したがって、一般的には、弁部材を形成するゴム素材の選定や表面処理により対応しているのが実情である。図10中、Ern,Ercが弁部材の表面に、密着力を低減する表面コーティングを施した場合の特性線を示し、Ernが常温環境、Ercがヒートサイクル環境の場合を示す。
しかし、このような改善処理を行った場合でも、ヒートサイクル環境における不安定動作を完全に解消するまでには至っておらず、高度の安定性及び信頼性を有する流量制御弁を得る観点からは更なる改善の余地があった。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した流量制御弁の提供を目的とするものである。
本発明は、上述した課題を解決するため、ソレノイド部3の外部に配したアウタヨーク4f,及びソレノイド部3の内部に配したインナヨーク4iを有する電磁駆動部2と、インナヨーク4iの軸方向Fs前方に配し、かつゴム素材Rにより形成した弁部6sを有する弁体部6を支持するとともに、ソレノイド部3に印加する駆動電圧Vdの大きさに対応して軸方向Fsに変位するプランジャ部7,及びこのプランジャ部7を弾性支持する弾性部材8を有する弁体機構部5と、弁部6sの軸方向Fs前方に配し、かつ流路Jを仕切るように設けるとともに、弁部6sにより開閉される弁座部9sを有する金属素材Mにより形成したオリフィス部9とを備える流量制御弁1を構成するに際して、弁部6sを、フッソ系ゴム素材により形成し、かつ表面に、架橋処理による単層又は多層構造によるシリコン系被膜層11を設けるとともに、少なくとも当該弁部6sが当接する弁座部9sの表面9sfに、当該表面9sfに当接した弁部6sが離間する際の剥離性を高める所定の膜厚Lsを有するDLC(ダイヤモンドライクカーボン)成膜層10を設けてなることを特徴とする。
この場合、発明の好適な態様により、弾性部材8には、外縁側を固定し、かつ中心側でプランジャ部7を支持する板バネ8sを用いることができるとともに、弾性部材8には、ソレノイド部3の非通電時に、弁部6sを弁座部9sに当接させる方向にプランジャ部7を付勢する機能を持たせることができる。なお、板バネ8sには、非線形特性のバネ荷重を持たせることが望ましい。また、弁体機構部5には、板バネ8sにおけるバネ荷重及び(又は)ストロークを外部からの操作により変更調整可能なバネ調整機構部12x,12yを設けることができる。一方、弁部6sの表面は、ブラスト処理による粗面6scにより形成することができる。さらに、シリコン系被膜層11は、膜厚Lcを2〜4.5〔μm〕の範囲に選定できる。他方、DLC成膜層10は、膜厚Lsを1.5〜4.5〔μm〕の範囲に選定できるとともに、硬度をヌープ硬度500〜1500〔HK〕の範囲に選定することができる。なお、駆動電圧Vdは、オリフィス部9の前後差圧が250〔kPa〕以上であることを条件に、4〜6〔V〕の範囲において、0.2〜200〔L/min〕の流量を制御可能な傾き電圧に設定することができる。
このような構成を有する本発明に係る流量制御弁1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) 少なくとも弁部6sが当接する弁座部9sの表面9sfに、当該表面9sfに当接した弁部6sが離間する際の剥離性を高める所定の膜厚Lsを有するDLC成膜層10を設けてなるため、ヒートサイクル環境のような苛酷の使用環境下であっても、駆動開始時(低電圧駆動時)において制御動作が不安定(不能)になる不具合を解消することができ、流量制御弁1における高度の安定性及び信頼性を確保できる。
(2) 弁部6sの表面には、架橋処理によるシリコン系被膜層11を設けたため、弁部6sの表面を架橋処理による表面改質により不活性化できる。この結果、弁部6sと弁座部9s間の固着の原因とされている水素結合を効果的に抑制することができる。加えて、弁座部9sに設けるDLC成膜層10との相乗作用により、より高い剥離性を確保できるため、流量制御弁1における更なる安定性及び信頼性の向上に寄与できる。
(3) シリコン系被膜層11は、架橋処理による単層又は多層構造を選択して設けることができるとともに、特に、多層構造により設けることにより、シリコン系被膜層11の被膜強度を高め、より耐久性に優れるシリコン系被膜層11を得ることができる。
(4) 好適な態様により、弾性部材8に、外縁側を固定し、かつ中心側でプランジャ部7を支持する板バネ8sを用いれば、流量制御弁1全体の小型化に寄与できることに加え、弁体部6が板バネ8sによる弾性圧力により支持され、弁部6sが弁座部9sに対して比較的強い圧力により当接(圧接)する場合であっても、DLC成膜層10の有効作用により、弁部6sが弁座部9sから離間する際における十分な剥離性を確保できる。
(5) 好適な態様により、弾性部材8に、ソレノイド部3の非通電時に、弁部6sを弁座部9sに当接させる方向にプランジャ部7を付勢する機能を持たせれば、弁部6sが弁座部9sに密着する不具合が最も生じやすい状態にあってもDLC成膜層10の有効作用により、弁部6sが弁座部9sから離間する際における十分な剥離性を確保できる。
(6) 好適な態様により、板バネ8sに、非線形特性のバネ荷重を持たせれば、板バネ8sのバネ荷重をソレノイド部3の吸引力に対して、より広い範囲でバランスさせることができるため、弁部6sの変位動作の直線性及び安定性の向上に寄与できる。
(7) 好適な態様により、弁体機構部5に、板バネ8sにおけるバネ荷重及び(又は)ストロークを外部からの操作により変更調整可能なバネ調整機構部12x,12yを設ければ、組立完了後の最終段階において板バネ8sにおけるバネ荷重及び(又は)ストロークを調整できるため、バラツキの少ない精度の高い流量制御弁1を提供できる。
(8) 好適な態様により、弁部6sの表面を、ブラスト処理による粗面6scにより形成すれば、弁座部9sに対して密着する実質的な表面積を縮小できるため、分子間力を抑制し、分子間力と水素結合が原因とされている弁部6sと弁座部9s間の固着性をより低減することができる。
(9) 好適な態様により、シリコン系被膜層11の膜厚Lcを、2〜4.5〔μm〕の範囲に選定すれば、弁部6sの変形等に対しても良好な追従性を確保できる。
(10) 好適な態様により、DLC成膜層10の膜厚Lsを、1.5〜4.5〔μm〕の範囲に選定すれば、流量制御弁1の駆動開始時(低電圧駆動時)において、制御動作が不安定(不能)になる不具合を解消できるため、DLC成膜層10の膜厚Lsを選定する観点から、本発明の実現性及び有効性を確保できる望ましい態様(形態)として実施できる。
(11) 好適な態様により、DLC成膜層10の硬度をヌープ硬度500〜1500〔HK〕の範囲に選定すれば、流量制御弁1の駆動開始時(低電圧駆動時)において、制御動作が不安定(不能)になる不具合を解消できるため、DLC成膜層10の硬度を選定する観点から、本発明の実現性及び有効性を確保できる望ましい態様(形態)として実施できる。
(12) 好適な態様により、駆動電圧Vdを、オリフィス部9の前後差圧が250〔kPa〕以上であることを条件に、4〜6〔V〕の範囲において、0.2〜200〔L/min〕の流量を制御可能な傾き電圧に設定すれば、吸引力を徐々に強くしながら開度を大きくする際の良好な追従性を確保できる。
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る流量制御弁1の基本構成について、図1及び図2を参照して説明する。
例示の流量制御弁1は、ノーマルクローズ機能を有するタイプであり、図1に示すように、基本構成として、電磁駆動部2,弁体機構部5及びオリフィス部9を備える。電磁駆動部2は、コイルボビン21にマグネットワイヤを巻回したコイル22を有する筒形のソレノイド部3を備える。また、ソレノイド部3の外部にはアウタヨーク4fを配してソレノイド部3を覆うとともに、ソレノイド部3の内部にはインナヨーク4iを配する。アウタヨーク4fは、全体を磁性材により下方に開口した逆カップ状に一体形成するとともに、インナヨーク4iは磁性材により円棒状に一体形成し、上端面をアウタヨーク4fの内面に機械的かつ磁気的に結合する。したがって、アウタヨーク4fは流量制御弁1のケーシングを兼用する。
さらに、インナヨーク4iの上端には軸方向に延設するボルト23bを一体形成し、このボルト23bをアウタヨーク4fの内部から上端面を貫通して上面上に突出させるとともに、外部に突出したボルト23bにはロックナット23nを螺着する。これにより、ロックナット23nを緩め、ボルト23bを回し操作することにより、インナヨーク4iの軸方向Fsの位置(後述する弁体部6の全開位置)を調整することができる。そして、調整後は、ロックナット23nを締め付けることにより、ボルト23bの位置を固定(ロック)する。これにより、板バネ8sのストロークを外部からの操作により変更調整可能なバネ調整機構部12xが構成される。このようなバネ調整機構部12xを設ければ、組立完了後の最終段階において、板バネ8sのストロークを調整できるため、バラツキの少ない精度の高い流量制御弁1を提供できる利点がある。
また、アウタヨーク4fの下端開口には、磁性材により形成したリング形のキャップ部材24を装着(螺着)する。このキャップ部材24は、上端面によりコイルボビン21を保持し、かつ下端面により内部における流路Jの一部を形成する機能を備え、また、内周面によりプランジャ部7を軸方向Fsへ変位自在にガイドする機能を備える。以上により電磁駆動部2が構成される。
一方、キャップ部材24の内周面には、磁性材により形成したプランジャ部7を収容する。これにより、上述したように、プランジャ部7は、キャップ部材24の内周面により軸方向Fsへ変位自在に支持され、プランジャ部7の上端面は、インナヨーク4iの下端面(前端面)に対面する。
また、プランジャ部7の前端部(下端部)は弁体部6を支持する。弁体部6は、下端面に、ゴム素材、例えば、フッソ系ゴム素材により形成した弁部6sを一体に備える。弁部6sの下端面は平坦面となり、後述する弁座部9sに当接して流路Jを閉じるとともに、軸方向Fsに変位して流路Jに対する開度を可変する機能を備える。さらに、弁体部6の上部は、プランジャ部7への取付部として形成する。これにより、プランジャ部7に対して螺着することができ、螺着する際には、リング形に形成した板バネ8sの中心側を通し、この板バネ8sと共に、プランジャ部7の下端部に固定することができる。他方、板バネ8sの外縁側は、キャップ部材24の内周面の下端部に螺着する固定リング25とキャップ部材24間に挟まれることにより固定される。この板バネ8sは、プランジャ部7を弾性支持する弾性部材8を構成する。
この場合、板バネ8sには、非線形特性のバネ荷重を持たせることが望ましい。これにより、板バネ8sのバネ荷重をソレノイド部3の吸引力に対して、より広い範囲でバランスさせることができるため、弁部6sの変位動作の直線性及び安定性の向上に寄与できる利点がある。
さらに、この板バネ8s(弾性部材8)には、ソレノイド部3の非通電時に、弁部6sを後述する弁座部9sに当接させる方向にプランジャ部7を付勢する機能を持たせている。したがって、非通電時には、流路Jが閉じた状態、即ち、ノーマルクローズ機能を有するタイプとして構成される。板バネ8sに、このような機能を持たせれば、弁部6sが弁座部9sに密着する不具合が最も生じやすい状態にあってもDLC成膜層10の有効作用により、弁部6sが弁座部9sから離間する際における十分な剥離性を確保できる。
このように、弾性部材8に、外縁側を固定し、かつ中心側でプランジャ部7を支持する板バネ8sを用いれば、流量制御弁1全体の小型化に寄与できることに加え、弁体部6が板バネ8sによる弾性圧力により支持され、弁部6sが弁座部9sに対して比較的強い圧力により当接(圧接)する場合であっても、DLC成膜層10の有効作用により、弁部6sが弁座部9sから離間する際における十分な剥離性を確保できる。
他方、アウタヨーク4fの外周面のおける下端部には、ロックナック26を螺着するとともに、ロックナック26の下方に位置するアウタヨーク4fの外周面には、上方に開口したステンレス素材等の非磁性材により一体形成したカップ状のベースブロック27を螺着する。これにより、ベースブロック27に対してアウタヨーク4fを回し操作することにより、ベースブロック27(後述する弁座部9s)と弁部6s間の軸方向Fsにおける相対位置を調整できるとともに、ロックナック26により位置を固定(ロック)することができる。これにより、板バネ8sのバネ荷重を外部からの操作により変更調整可能なバネ調整機構部12yが構成される。このようなバネ調整機構部12yを設ければ、組立完了後の最終段階において板バネ8sにおけるバネ荷重を調整できるため、バラツキの少ない精度の高い流量制御弁1を提供できる利点がある。以上により、流量制御弁1における弁体機構部5が構成される。
また、ベースブロック27の中心位置には、ネジ孔を有する円形開口部を形成し、この円形開口部に、金属素材Mにより一体形成したリング状のオリフィス部9を螺着して固定する。オリフィス部9は、上面部が、前述した弁部6sに対面する弁座部9sとして形成されるとともに、内周面は、流路Jの流入口Jiとなる。これにより、前述した弁部6sの軸方向Fs前方に配し、かつ流路Jを仕切るように設けるとともに、弁部6sにより開閉される弁座部9sを有するオリフィス部9が構成される。
さらに、図2に示すように、オリフィス部9の回りに位置するベースブロック27には、周方向へ等間隔に位置する流路Jの流出口Je…を形成する。これにより、キャップ部材24を含む弁体機構部5の下方とベースブロック27の内面に囲まれる空間が流路Jとして形成される。以上が流量制御弁1の基本構成となる。
次に、本実施形態に係る流量制御弁1の要部の構成について、図1〜図8を参照して説明する。
上述した基本構成では、前述したように、流量制御弁1は、ノーマルクローズ機能を有するタイプとして構成されるため、ソレノイド部3の非通電時には、弁部6sが弁座部9sに当接(圧接)して流路Jを閉じている。この結果、非通電状態が継続した流量制御弁1を駆動する際に、使用環境等によっては、弁部6sが弁座部9sに密着し、駆動開始時(低電圧駆動時)において、制御動作が不安定(不能)になる不具合を生じる問題があった。
このため、本実施形態に係る流量制御弁1は、弁部6sが当接する弁座部9sの表面9sfに、当該表面9sfに当接した弁部6sが離間する際の剥離性を高めるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)成膜層10を設けたものである。図3に、弁座部9sを設けたオリフィス部9の部品図を示し、上側がオリフィス部9の平面図であり、下側がオリフィス部9の断面正面図となる。
また、本実施形態では、オリフィス部9の弁座部9sに対してDLC成膜層10の設けることに加え、前述した弁体部6における弁部6sに対しては、図4に示すように、弁部6sの表面に、架橋処理によるシリコン系被膜層11を設けている。これにより、弁部6sの表面を、架橋処理による表面改質により不活性化できるため、弁部6sと弁座部9s間の固着の原因とされている水素結合を効果的に抑制することができる。しかも、弁座部9sに設けるDLC成膜層10との相乗作用により、より高い剥離性を確保できるため、流量制御弁1における更なる安定性及び信頼性の向上に寄与できる利点がある。
この場合、シリコン系被膜層11を設けるに際しては、図4に示すように、弁部6sの表面を、予め、ブラスト処理による粗面6scにより形成する。これにより、弁部6sの表面には微細な凹凸部が形成され、弁座部9sに対して密着する実質的な表面積を縮小できるため、分子間力を抑制し、分子間力と水素結合が原因とされている弁部6sと弁座部9s間の固着性をより低減することができる。
そして、図4に示すように、この粗面6sc上に、架橋処理によるシリコン系被膜層11を設ける。この場合、シリコン系被膜層11の膜厚Lcは、2〜4.5〔μm〕の範囲に選定することが望ましい。このように選定することにより、弁部6sの変形等に対しても良好な追従性を確保することができる。また、シリコン系被膜層11は、単層構造であってもよいが、図4に示すように、第一層11fと第二層11sからなる二層構造(一般的には多層構造)にすることにより、被膜強度を高め、より耐久性に優れるシリコン系被膜層11を得ることができる。この場合、膜厚Lcは、全層を含めて、2〜4.5〔μm〕の範囲に選定することができるが、各層の膜厚を2〜4.5〔μm〕の範囲に選定する場合を排除するものではない。
一方、オリフィス部9は、非磁性材となるステンレス素材(金属素材)により全体をリング状に形成し、図3に示すように、下端部に設けた大径のフランジ部31と、上部の外周面に形成したネジ部32と、上面部に形成した弁座部9sを備えており、ネジ部32は、前述したベースブロック27に螺着する。また、オリフィス部9の内周面(流入口Ji)における上半部は、上側が広くなるテーパ面33に形成するとともに、このテーパ面33に連続する上面部における弁座部9sの内側半部には、リング状をなす上方への盛上部34を形成する。
実施形態では、図3に格子線により描いた成膜形成範囲W、即ち、テーパ面33の中間位置から盛上部34を覆うエリアを成膜形成範囲Wとして選定し、この成膜形成範囲WにDLC成膜層10を設けた。したがって、DLC成膜層10を形成するに際しては、オリフィス部9における当該成膜形成範囲Wを除いた部分をマスキングし、この後、例えば、マスキングしたオリフィス部9を、所定の蒸着炉に収容するとともに、プラズマCVD(プラズマ化学気相成長)による薄膜形成方法などを用いて公知の蒸着処理を行えば、目的のDLC成膜を形成することができる。このようなマスキングを行うことにより、ネジ部32等の不要な部位に対するDLC成膜の形成を排除できるため、ネジ部32のネジ機能に悪影響を与えるなどの弊害を回避することができる。
また、DLC成膜層10の膜厚Lsは、1.5〜4.5〔μm〕の範囲に選定することが望ましく、特に、2〔μm〕前後の態様が最適である。図7及び図8は、膜厚に対して検証した特性図を示す。図7は、膜厚Lsを2〔μm〕に選定した特性図であり、特性線Eicはヒートサイクル環境の場合、Einは常温環境の場合をそれぞれ示す。図8は、膜厚Lsを1〔μm〕に選定した特性図であり、特性線Escはヒートサイクル環境の場合、Esnは常温環境の場合をそれぞれ示す。さらに、比較を容易にするため、図7中に、図8の特性線Escを仮想線により重ねて示した。
図8(図7)から明らかなように、1〔μm〕の場合、2〔μm〕の場合に対して、比較的低い電圧から応答しているものの、ヒートサイクル環境の場合には、特性線Escのように、駆動初期では、7〔V〕付近から急激に立ち上がる特性となり、不安定性が完全には解消されていない。ただし、図10に示したように、DLC成膜層10を設けない背景技術に係るErcに対しては、かなり改善されていることを確認できる。一方、図7から明らかなように、ヒートサイクル環境における2〔μm〕の場合には、駆動初期における急激な立ち上がりはほぼ解消されている。
したがって、図7及び図8に示す検証結果より、膜厚Lsが1,5〔μm〕を確保すれば、実用上問題のないレベルと想定される。他方、膜厚Lsが大きすぎる場合は、ゴム素材により形成した弁部6sの性質が失われる虞れがあるとともに、DLC成膜層10の形成に時間がかかるなどのデメリットも大きくなるため、製造面の要請から、上限として、4.5〔μm〕程度が望ましいと考えられる。この結果、DLC成膜層10の膜厚Lsは、1.5〜4.5〔μm〕の範囲に選定すれば、流量制御弁1の駆動開始時(低電圧駆動時)において、制御動作が不安定(不能)になる不具合を解消できるため、DLC成膜層10の膜厚Lsを選定する観点から、本発明の実現性及び有効性を確保できる望ましい態様(形態)として実施できる。
なお、図9には、2〔μm〕の膜厚Lsに形成したDLC成膜層10を設けた本実施形態に係る流量制御弁1の特性線Ein,Eicと、背景技術に係るゴム素材により形成した弁部6sに密着力を低減する表面コーティングを施した場合であって、弁座部9sにDLC成膜層10を設けない場合の特性線Ercを重ねて示した。本実施形態に係る流量制御弁1(Eic)では、弁部6sに密着力を低減する表面コーティングのみを施した従来の流量制御弁(Erc)に対して、駆動開始時における制御動作は、かなり改善されていることを確認できる。
さらに、DLC成膜層10の硬度は、ヌープ硬度500〜1500〔HK〕の範囲に選定することが望ましい。500〔HK〕を下回る場合には、柔らかすぎる態様となり、耐久性及び信頼性の観点からのデメリットを無視できないとともに、1500〔HK〕を上回る場合には、ゴム素材により形成した弁部6sの性質が失われる虞れがあるデメリットを無視できない。したがって、DLC成膜層10の硬度は、ヌープ硬度500〜1500〔HK〕の範囲に選定することが望ましく、これにより、流量制御弁1の駆動開始時(低電圧駆動時)において、制御動作が不安定(不能)になる不具合を解消できるため、DLC成膜層10の硬度を選定する観点から、本発明の実現性及び有効性を確保できる望ましい態様(形態)として実施できる。
このように、ステンレス素材(金属素材)を用いたオリフィス部9の表面9sfに、DLC成膜層10を設けることにより表面上の活性酸化物を減少させるとともに、他方、ゴム素材を用いた弁部6sの表面にシリコン系溶剤を架橋させ、シリコン系被膜層11を設けた表面改質により不活性状態としたため、オリフィス部9(弁座部9s)と弁部6sが固着する原因といわれている水素結合を効果的に抑制することができる。
次に、本実施形態に係る流量制御弁1の使用方法及び動作について、図1〜図10を参照して説明する。
本実施形態に係る流量制御弁1は、図6に示すようなマスフローコントローラ51に利用することができる。符号41はガス配管を示す。マスフローコントローラ51は、このガス配管41の中途位置に接続して使用する。図中、矢印Fgはガスが流れる方向を示している。
流量制御弁1は、図1及び図2に示すように、流入口Jiと流出口Je…を有しているため、ガス配管41の中途位置における上流側配管を流入口Jiに接続するとともに、下流側配管を流出口Je…に接続する。また、流量制御弁1に対して上流側に位置するガス配管41の中途位置には流量センサ52を接続する。流量センサ52からは流量に比例した出力信号が得られるため、この出力信号は、アンプ53の入力部に付与され、増幅されるとともに、増幅された流量検出信号は制御部54に付与される。制御部54には、監視部55から流量指令が付与されるため、制御部54は、流量検出信号を監視し、流量検出信号が流量指令に一致させるためのバルブ制御信号を出力する。このバルブ制御信号は、バルブドライバ56の入力部に付与され、さらに、バルブドライバ56からこのバルブ制御信号に対応した駆動電圧Vdが流量制御弁1に付与される。即ち、マスフローコントローラ51では、ガス配管41を流れるガスの流量が検出され、検出された流量が流量指令に一致するように流量に対するフィードバック制御が行われる。
一方、流量制御弁1は、ノーマルクローズ機能を有するため、制御信号が0〔V〕のときは、非通電状態となる。この結果、流量制御弁1では、板バネ8sの弾性復帰力により、プランジャ部7及び弁体部6が下降変位し、弁部6sは、図5に示すように、オリフィス部9の上面部における弁座部9sに圧接している。したがって、ガスの供給が停止し、ガス配管41を流れていない状態では、弁部6sが長期にわたって弁座部9sに圧接する状態となる。また、プランジャ部7が下降変位するため、プランジャ部7の上端面は、インナヨーク4iの下端面から離間し、プランジャ部7とインナヨーク4i間には、図示しない所定の隙間が発生する。
この後、ガスの供給が開始し、流量制御弁1に所定の制御信号、例えば、9〔V〕が付与された場合を想定する。これにより、ソレノイド部7が励磁され、インナヨーク4iに磁極が生じることにより、プランジャ部7に対して、板バネ8sの弾性に抗した上方への吸引力が作用する。この場合、本実施形態に係る流量制御弁1では、図9に示すように、ヒートサイクルに対応する苛酷な環境下であっても、正常動作に従って、約50〔L/min〕の流量に制御される。しかし、図10に示す背景技術に係る流量制御弁の場合には、流量制御弁が開かないエラー状態となる。
他方、制御信号の電圧が大きくなり、例えば、12〔V〕の最大電圧の制御信号が付与された場合には、流量制御弁1は、全開状態となり、流量は、約250〔L/min〕に制御される。図5中、レベルHoが弁部6sを最下降位置まで変位した全閉位置であり、弁部6sを実線で示すとともに、レベルHhが弁部6sが最上昇位置まで変位した全開位置であり、弁部6sを仮想線で示す。レベルHoとレベルHh間の変位ストロークはLvとなる。したがって、例示の場合、駆動電圧Vdを9〔V〕から12〔V〕まで徐々に大きくすれば、駆動電圧Vdの大きさに対応してガスの流量も徐々に増加する可変制御を行うことができる。
特に、駆動電圧Vdは、オリフィス部9の前後差圧が250〔kPa〕以上であることを条件に、4〜6〔V〕の範囲において、0.2〜200〔L/min〕の流量を制御可能な傾き電圧に設定することができ、このように設定すれば、吸引力を徐々に強くしながら開度を大きくする際の良好な追従性を確保できる。
このように、本実施形態に係る流量制御弁1は、ソレノイド部3の外部に配したアウタヨーク4f,及びソレノイド部3の内部に配したインナヨーク4iを有する電磁駆動部2と、インナヨーク4iの軸方向Fs前方に配し、かつゴム素材Rにより形成した弁部6sを有する弁体部6を支持するとともに、ソレノイド部3に印加する駆動電圧の大きさに対応して軸方向Fsに変位するプランジャ部7,及びこのプランジャ部7を弾性支持する弾性部材8を有する弁体機構部5と、弁部6sの軸方向Fs前方に配し、かつ流路Jを仕切るように設けるとともに、弁部6sにより開閉される弁座部9sを有する金属素材Mにより形成したオリフィス部9との基本構成を備えるとともに、特に、少なくとも弁部6sが当接する弁座部9sの表面9sfに、当該表面9sfに当接した弁部6sが離間する際の剥離性を高める所定の膜厚Lsを有するDLC成膜層10を設けてなるため、ヒートサイクル環境のような苛酷の使用環境下であっても、駆動開始時(低電圧駆動時)において、制御動作が不安定(不能)になる不具合を解消することができ、流量制御弁1における高度の安定性及び信頼性を確保できる。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、DLC成膜層10は、マスキングを施すことによりオリフィス部9における弁座部9sの一部に設けた場合を示したが、他の部位を含めた範囲、或いは全体範囲に設ける場合を排除するものではない。一方、弾性部材8として板バネ8sが望ましいが、コイルスプリング等の他の弾性部材により置換する場合を排除するものではない。また、実施形態では、ノーマルクローズ機能の流量制御弁1を例示したが、ノーマルオープン機能(非通電時に全開)を有するタイプであっても同様に適用できる。