JP6859255B2 - アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物 - Google Patents

アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物 Download PDF

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Description

本発明は、アンチトロンビン ガンマを含む、アンチトロンビン低下を伴う汎発性血管内凝固症候群若しくは播種性血管内凝固症候群または先天性アンチトロンビン欠乏に基づく血栓形成傾向等の血液凝固の治療用組成物に関する。
アンチトロンビンは、アンチトロンビンIIIとも称される。天然に存在するヒトのアンチトロンビンであるヒトアンチトロンビンは、432アミノ酸よりなる分子量約59000〜65000の糖蛋白質であり、分子内に3個のジスルフィド結合(Cys8−Cys128、Cys21−Cys95及びCys247−Cys430)を有している(非特許文献1)。
ヒトアンチトロンビンには、N末端から96番目、135番目、155番目及び192番目のアスパラギン(それぞれN96、N135、N155及びN192と表記する)の4箇所にN−グリコシド結合糖鎖が付加している。
ヒト血漿中に存在するヒトアンチトロンビンは、4本のN−グリコシド結合糖鎖を有するα型及びAsn135への糖鎖の付加がなく3本の糖鎖しか有さないβ型の2種類のアイソフォームが存在する(非特許文献2)が、ヒト血漿中に存在するヒトアンチトロンビンのうち90〜95%がα型、残りの5〜10%がβ型である。
ヒト血漿中に存在するヒトアンチトロンビンに付加されているN−グリコシド結合複合型糖鎖は、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、ガラクトース及びマンノースから構成されている。また、ヒト血漿中に存在するアンチトロンビンは、その糖鎖構造にフコースの修飾を受けていないことが一つの特徴となっている。
ヒトアンチトロンビンは血液中の主要な凝固阻害因子のひとつであり、トロンビンのほか、第X因子、第XII因子、第IX因子または第XI因子等と複合体を形成することで、これら凝固因子群を不活性化する。
汎発性血管内血液凝固症候群は、播種性血管内凝固症候群または略してDICとも称される。DICは、さまざまな原因によって惹起される広範な血管内の凝固亢進を特徴とする後天的な症候群である。DICを引き起こす主な基礎疾患としては、感染症、造血器悪性腫瘍または固形癌等が挙げられる。
日本国内でのDIC患者数は、厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班により1997年に実施された全国的アンケート調査から年間73000人と推定されている。DICの予後は不良であり、同調査では、DICを発症した2193名の死亡率は56.0%であった(非特許文献3)。
DICの最も一般的な所見は出血であり、静脈穿刺部位からの毛細血管性出血、点状出血、斑状出血から、消化管、肺または中枢神経系への大量出血にまで及ぶ。一方、DICにみられる凝固亢進状態は微小循環の血管閉塞症として発現し、結果として臓器不全に至り、大血管の塞栓や脳血栓症も起こりうる(非特許文献4)。
DICの治療目標は、敗血症では生存率の改善、白血病等ではDICからの離脱である。DICの治療としては、まず基礎疾患の治療が行われる。通常、DIC診断前より基礎疾患の治療が行われているが、DICと診断された場合には、基礎疾患により抗菌剤及び抗悪性腫瘍薬の投与等、更に強力な治療が行われる(非特許文献5)。
2009年に日本血栓止血学会から公表された「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」では、ヒトアンチトロンビンが個別の薬剤としては、最も高い推奨度となっている(非特許文献6)。
一方、先天性アンチトロンビン欠乏は略してCADとも称される。CADは、遺伝的にヒトアンチトロンビンが欠乏する常染色体優性の遺伝性疾患である。遺伝子異常は通常ヘテロ接合体として認められ、ホモ接合体は致死的と考えられている(非特許文献7)。日本国内のCADの患者の割合は0.16%と推測され、欧米(0.02〜0.17%)と同程度と考えられる(非特許文献8)。
CAD患者の80〜90%では、50〜60歳までに血栓症が発現すると報告されており、10〜35歳、特に14歳以降に、主として静脈系に初発することが多い(非特許文献9)。血栓症は下肢深部静脈に最も多く認められ、その約40%は肺梗塞を合併する。血栓症の約70%は外傷、手術、妊娠または経口避妊薬の内服等、通常では血栓症の発症に至らないような軽微な誘因によって引き起こされる。
CADの治療としては、血栓塞栓症発症の急性期では、循環不全に対する全身管理とともに抗血栓療法が実施される。抗血栓療法には、速やかに抗凝固作用を発揮するヘパリンに併せて血栓溶解薬が用いられる。ヘパリンの抗凝固作用は血中のヒトアンチトロンビンレベルに依存するため、CAD患者ではヘパリンの十分な抗凝固作用が期待できず、ヒトアンチトロンビン製剤の補充が必要とされる(非特許文献9)。
また、CAD患者は高率に血栓症を反復し、ときに致死的な血栓塞栓症を発症するため、血栓症の既往のある患者には経口抗凝固薬または抗血小板薬の投与の継続が必要である。ヒトアンチトロンビン製剤は、日常的に補充する必要はないものの、外傷、手術または妊娠若しくは分娩等、血栓症発症の誘因が存在するハイリスク期に補充される(非特許文献9)。
日本国内では、ヒト血漿由来のヒトアンチトロンビン(以下、血漿由来ヒトアンチトロンビンと称する)を含む製剤が、日本においてはノイアート(登録商標)、アンスロビン(登録商標)Pまたは献血ノンスロン(登録商標)の販売名で、「アンチトロンビンIII低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)」及び「先天性アンチトロンビンIII欠乏に基づく血栓形成傾向」を適応症として承認され、使用されている。
しかし、既存の血漿由来ヒトアンチトロンビン製剤の製造に際しては、感染症の伝播を防止するための安全対策が講じられているものの、現在のウイルスクリアランス技術ではヒトパルボウイルスB19等のウイルスを完全に不活化・除去することは困難である。
また、血漿由来の未知の感染性因子を含有する可能性を完全には否定できないため、これらによる感染のリスクを完全に排除することができない。更に、血漿由来ヒトアンチトロンビン製剤は有限かつ貴重な献血を原材料としているため、献血可能人口の中長期的な減少等、安定的供給については潜在的なリスクを抱えている。
非特許文献10にも、血液製剤の安定供給及び日本国内の献血に基づく日本国内自給等の観点から、「今後とも、遺伝子組換え製剤等の血液製剤代替医薬品の開発は重要な課題である。」と明記されている。そのため、ヒト血漿を原料とせずにヒトアンチトロンビンを供給するために、遺伝子組換え体への切り替えが考えられている。
蛋白質に結合するN−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端側N−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない遺伝子組換えヒトアンチトロンビン組成物に関して近年報告されている(特許文献1及び特許文献2)。
また、α型の蛋白質に結合するN−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端側N−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない遺伝子組換えヒトアンチトロンビン組成物として、アンチトロンビン ガンマ[アンチトロンビン ガンマ(遺伝子組換え)とも称される]が知られている。
国際公開第2005/035563号公報 国際公開第2008/120801号公報
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, 1845 (1983) Pathophysiol Haemost Thromb 32, 143 (2002) 中川雅夫, 本邦における播種性血管内凝固(DIC)の発症頻度・原因疾患に関する調査報告, 厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会 平成 10 年度研究業績報告書, 57-64 (1999) 松井隆則, 谷本光音, 116. In: 福井次矢, 黒川清, editors, ハリソン内科学 第 4 版, 東京: メディカル・サイエンス・インターナショナル, 855-6 (2013) 和田英夫, 野村英毅, 血栓止血の臨床―研修医のために IV 6. DIC の治療, 血栓止血誌, 19, 348-52 (2008) 丸山征郎, 坂田洋一, 和田英夫, 朝倉英策, 岡嶋研二, 丸藤哲, et al., 日本血栓止血学会学術標準化委員会 DIC 部会, 科学的根拠に基づいた感染症に伴う DIC 治療のエキスパートコンセンサス, 血栓止血誌, 20, 77-113 (2009) 辻肇, 先天性アンチトロンビン III(AT III)欠損症, 血栓止血誌, 12, 74-7 (2001) 阪田敏幸, 松尾汎, 岡本章, 片山善章, 万波俊文, 馬場俊六, et al., プロテインC及びアンチトロンビン欠乏症の頻度ならびに静脈血栓症への関与[Abstract], 血栓止血誌, 11, 510 (2000) 辻肇, 血栓形成性疾患 先天性血栓形成性疾患 先天性アンチトロンビン欠乏症/分子異常症, 別冊 日本臨床 血液症候群, 第 2 版 III, 13-6 (2013) 「血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針の全部を改正する件について」(平成25年7月23日、薬食発 0723 第 4 号)[血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針の全部を改正する件について, 薬食発0723第4号 (2013年7月23日)]
しかしながら、アンチトロンビン ガンマと血漿由来ヒトアンチトロンビンとの生体内における活性の差異については完全に明らかになっておらず、アンチトロンビン低下を伴うDICまたはCADに基づく血栓形成傾向等の血液凝固の治療において適切なアンチトロンビン ガンマの用法及び用量は明らかになっていない。
したがって、本発明は、アンチトロンビン低下を伴うDICまたはCADに基づく血栓形成傾向等の血液凝固の治療において適切な用法及び用量により用いられる、アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意検討を行った結果、特定の用法及び用量のアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を用いることにより、アンチトロンビン低下を伴うDICまたはCADに基づく血栓形成傾向等の血液凝固の治療において、有効性及び安全性を示すことを見出し、以下の本発明の完成に至った。
本発明は、以下の(1)〜(7)に関する。
(1)用量が1日当り合計36国際単位/kgの単離されたアンチトロンビン ガンマを含み、静注または点滴静注にて投与されるように用いられることを特徴とする、アンチトロンビン低下を伴う汎発性血管内凝固症候群または播種性血管内凝固症候群の治療用組成物。
(2)用量が1日当り合計48〜72国際単位/kgの単離されたアンチトロンビン ガンマを含み、静注または点滴静注にて緊急処置的に投与されるように用いられることを特徴とする、産科的または外科的な汎発性血管内凝固症候群または播種性血管内凝固症候群の治療用組成物。
(3)更にヘパリンの持続点滴静注を同時に投与されるように用いられることを特徴とする、(1)または(2)に記載の治療用組成物。
(4)用量が1日当り合計24〜72国際単位/kgの単離されたアンチトロンビン ガンマを含み、静注または点滴静注にて投与されるように用いられることを特徴とする、先天性アンチトロンビン欠乏に基づく血栓形成傾向の治療用組成物。
(5)アンチトロンビン活性値をモニタリングしながら投与量を決定するように用いられることを特徴とする、(4)に記載の治療用組成物。
(6)1日当り1回投与されるように用いられることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1に記載の治療用組成物。
(7)1日当り少なくとも2回に分割して投与されるように用いられることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1に記載の治療用組成物。
本発明のアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物は適切な用法及び用量により用いられることにより、アンチトロンビン低下を伴うDIC、産科的若しくは外科的なDICまたはCADに基づく血栓形成傾向等の治療において、血漿中アンチトロンビン活性の上昇を示し、有効性及び安全性を有する。
図1はアンチトロンビン ガンマのアミノ酸配列、ジスルフィド結合及び主な糖鎖の推定構造を示した図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
アンチトロンビン ガンマの具体的な構造の一態様として、アミノ酸配列、ジスルフィド結合及び主な糖鎖の推定構造を図1に示す。アンチトロンビン ガンマの具体例の1つとしては、日本の医薬品一般的名称(JANとも称される)において、日本名でアンチトロンビン ガンマ(遺伝子組換え)または英名でAntithrombin Gamma(Genetical Recombination)(薬食審査発1126第1号「医薬品の一般的名称について」、登録番号24-3-B24、平成26年11月26日、厚生労働省医薬食品局審査管理課長)と定められる、分子量:約57000の組成物が挙げられる。
本発明において、単離されたアンチトロンビン ガンマとは、遺伝子組換えヒトアンチトロンビンであり、糖タンパク質6−α−L−フコース転移酵素(α1,6−フコシルトランスフェラーゼとも称される)が欠損したチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞とも称される)により産生され、4つのN−グリコシド結合複合型糖鎖を有する432個のアミノ酸残基からなる糖タンパク質である。
単離されたアンチトロンビン ガンマは、国際公開第2005/035563号または国際公開第2008/120801号に記載の方法により、糖タンパク質6−α−L−フコース転移酵素が欠損したチャイニーズハムスター卵巣細胞に、ヒトアンチトロンビンをコードするDNAを導入して得られた形質転換体を培養し、得られた培養液を精製することにより得ることができる。
アンチトロンビン ガンマの生物活性値は国際単位(IU)で表される。アンチトロンビン ガンマの生物活性値は、例えば、濃縮ヒトアンチトロンビン国際標準品(The 3rd International Standard for Antithrombin, Concentrate, Human、NIBSC code: 06/166)または該濃縮ヒトアンチトロンビン国際標準品を基に予め検定した標準物質を用いた抗トロンビン活性を測定することで算出することが出来る。
抗トロンビン活性は、目的とするヒトアンチトロンビンにヘパリン及びトロンビンを加えて複合体を形成させた後、基質を添加し、ヒトアンチトロンビンの濃度依存的に残存したトロンビンにより基質から遊離した発色化合物の吸光度を測定することによってヒトアンチトロンビンの比活性を定量する方法である。
本発明において、アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物は1日当り、1回で投与してもよいし、複数回に分割して投与してもよい。複数回に分割する場合、好ましくは1日当り、2回または3回である。
本発明におけるアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物の投与方法としては、静注(経静脈投与または静脈注射とも称する)または点滴静注(点滴静脈注射または点滴とも称する)が挙げられる。
本発明におけるアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物としては、医薬品として使用するため、通常薬理学的に許容される一つまたはそれ以上の担体、添加剤若しくはpH調整剤等と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した組成物として提供するのが好ましい。
アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物は、静注または点滴静注に適当な組成物として、アミノ酸、糖、塩若しくは緩衝剤またはそれらの混合物等からなる担体、添加剤あるいはpH調整剤等を用いた溶液状の注射剤として調製することができる。
または、アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物は、アンチトロンビン ガンマまたはアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を常法に従って凍結乾燥することによって得られる粉末状の注射剤として調製することができる。粉末状の注射剤として投与する場合には、予め注射用水または生理食塩水等の溶解液にアンチトロンビン ガンマまたはアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を含む粉末を溶解した後に使用する。
アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物としては、好ましくは、アンチトロンビン ガンマの他にクエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、グリシン、L−グルタミン酸ナトリウム、D−マンニトールまたは塩化ナトリウムを含む組成物が挙げられ、より好ましくはグリシン及びクエン酸ナトリウム水和物を含む組成物、またはグリシン、クエン酸ナトリウム水和物及び塩化ナトリウムを含む組成物が挙げられる。例えば、アコアラン(登録商標)が挙げられる。
本発明における静注または点滴静注にてアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を患者に投与する際の速度は、特に制限はないが、例えば、緩徐に投与を行うことが挙げられる。本発明におけるアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を患者に投与する時期としては、アンチトロンビン活性値が正常を下回る時期が挙げられる。好ましくはアンチトロンビン活性値が正常の70%以下に低下した時期が挙げられる。
アンチトロンビン活性値は、トリニクロム(登録商標)ATXa(協和メデックス社製)、エルシステム・ATIII、ベリクローム アンチトロンビンIII オート B、エルシステム・ATIII(以上、シスメックス社製)、テストチーム(登録商標)・ネオ ATIII、テストチーム(登録商標)ATIII・2キット、テストチーム(登録商標)S ATIII(以上、積水メディカル社製)、エバテストATIII(日水製薬社製)、ATIIIリキッド、STA試薬シリーズ(以上、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、N−アッセイ TIA ATIII、N−アッセイ L ATIII ニットーボー(ニットーボーメディカル社製)、クロモレイトATIII(C)II(LSIメディエンス社製)等の血漿または全血等を用いて測定できる市販の血液検査用アンチトロンビンIIIキット(薬食発0329第10号「体外診断用医薬品の一般的名称の改正等について」、平成23年3月29日、厚生労働省医薬食品局長)等にて測定することが出来る。アンチトロンビン活性値として例えば、血漿中アンチトロンビン活性値が挙げられる。
(DICの治療用組成物)
アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物をアンチトロンビン低下を伴うDICの治療に使用する場合には、1日当り、投与する対象の体重1kg当り、合計36国際単位の単離されたアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を静注または点滴静注にて投与する。
アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を産科的または外科的なDICの治療に使用する場合には、1日当り、投与する対象の体重1kg当り、合計48〜72国際単位の単離されたアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を、静注または点滴静注にて緊急処置的に投与する。
産科的なDICは産科DICとも称される。産科的なDICを引き起こす基礎疾患としては、例えば、常位胎盤早期剥離、出血性ショック、重症感染症、羊水塞栓症、子癇、重症妊娠中毒症、死胎児症候群、急性妊娠脂肪肝または胞状奇胎等が挙げられる。
外科的なDICは外科DICとも称される。外科的なDICを引き起こす基礎疾患としては、例えば、外傷または熱傷等が挙げられる。
本発明において、産科的なDICまたは外科的なDICは急性で突発的に発生することから、産科的なDICまたは外科的なDICの治療では緊急処置的にアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を投与することが出来る。
更に、本発明において、産科的なDICまたは外科的なDICを含む全てのDICにおいて、ヘパリンの持続点滴静注をアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物と同時に投与してもよい。
本発明におけるヘパリンとしては、例えば、ヘパリン、ヘパリンナトリウム、ヘパリンカルシウム、または、未分画ヘパリン、低分子ヘパリンもしくはヘパリノイド等のヘパリン類を有効成分として含む医薬組成物が挙げられる。ヘパリンの投与量は1日当り通常5000〜20000単位であり、好ましくは10000単位である。また、ヘパリンの投与量は、1時間当たり500単位未満とすることが好ましい。
(CADに基づく血栓形成傾向の治療用組成物)
アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を、CADに基づく血栓形成傾向の治療に使用する場合には、1日当り、投与する対象の体重1kg当り、合計24〜72国際単位の単離されたアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物を、静注または点滴静注にて投与する。
本発明において、CADに基づく血栓形成傾向の治療ではアンチトロンビン活性値をモニタリングしながらアンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物の投与量を決定し、投与することが好ましい。アンチトロンビン活性値は上述の方法にて測定することが出来る。
また、この場合、アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物の投与量は、モニターしたアンチトロンビン活性値に基づき、アンチトロンビン活性値が健常者の正常域を維持するように算出された量とすることが好ましい。
以下の実施例により、本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。また、以下の実施例においてアンチトロンビン ガンマ製剤は、上記アンチトロンビン ガンマを含む治療用組成物における態様の1つである。
[実施例1]同量の薬剤を投与した場合のアンチトロンビン ガンマと血漿由来ヒトアンチトロンビンの薬物動態比較試験
アンチトロンビン ガンマの日本における第I相臨床試験のうち、薬物動態比較試験の実施内容及び結果を以下に示す。
(1)対象:
健康成人男性
(2)治験デザイン:
無作為化並行群間比較試験
(3)用法・用量:
アンチトロンビン ガンマ製剤60IU/kg又は血漿由来ヒトアンチトロンビン製剤60IU/kgを1日1回、3日間投与
(4)選択基準:
1.本治験開始前に治験薬及び本治験の目的・内容について十分な説明を受け、よく理解したうえ本治験の被験者になることについて本人から自由意思による文書同意が得られている者
2.同意取得時に20歳以上45歳未満の日本人男性
3.事前検査時にBMIが18.5以上25.0未満の者
(5)除外基準:
1.治療を必要とする現病を有する者
2.薬物アレルギーの既往歴又は現病を有する者
3.異常出血、血栓症の既往歴又は家族歴を有する者
4.顕性の消化管出血(下血、吐血等)の既往歴又は現病を有する者
5.アルコール又は薬物依存者
6.感染症検査(HBs抗原、HCV抗体、HIV抗体、梅毒検査)で全項目陰性とならなかった者
7.治験薬の投与開始前4週間以内に薬剤(市販薬及び外用剤を含む)を使用した者
8.治験薬の投与開始前4ヵ月以内に他の治験薬の投与を受けた者
9.治験薬の投与開始前3ヵ月以内に入院又は手術の治療を受けた者、又は200mLを超える採血(献血)を行った者
10.過去にアンチトロンビン ガンマ製剤の投与を受けた者
11.その他、治験責任医師又は治験分担医師により本治験の対象として不適格と判断された者
(6)結果:
20歳以上45歳未満の健康成人男性20例を対象に、アンチトロンビン ガンマ製剤又は血漿由来ヒトアンチトロンビン(以下、pATと表記する)製剤[ノイアート(登録商標)静注用][以下、ノイアート(登録商標)と表記する](各群10例)を、それぞれ60IU/kgの用量で1日1回3日間反復静脈内投与した。
投与1及び2日目には、投与前と投与後1から10時間の間の3測定時点で、投与3日目には、投与前と投与後1から169時間の間の10測定時点で、血漿中アンチトロンビン活性を測定した。被験者のベースラインの血漿中アンチトロンビン活性の影響を除くため、すべての投与後血漿中アンチトロンビン活性値から各被験者の投与前血漿中アンチトロンビン活性値(1.08±0.10IU/mL)を差し引き、薬物動態パラメータを算出した。
主要評価項目である3回目投与後のCmax(以下、Cmax,3rdと表記)及び3回目投与開始(初回投与開始後48時間)から、血漿中活性が定量下限未満となる被験者が認められた最も早い時点までのAUC(以下、AUC48−tと表記)を表1に示す。
表1において、Nは被験者数、Cmax,3rdは3回目投与後の最高血漿中アンチトロンビン活性、AUC48−tは3回目投与開始(初回投与開始後48時間)から、血漿中活性が定量下限未満となる被験者が認められた最も早い時点までのAUCをそれぞれ示し、比(%)はCmax,3rd及びAUC48−tの対数変換値の平均値の差から算出したアンチトロンビン ガンマ製剤のpAT製剤に対する比を示す。
Figure 0006859255
表1に示すように、pAT製剤群と比較しアンチトロンビン ガンマ製剤群でAUC48−tが低く推移することが示された。また、本試験から得られた薬物動態データを用いた検討の結果、アンチトロンビン ガンマ製剤72IU/kgを1日1回3日間反復投与すると、pAT製剤60IU/kgを1日1回3日間反復投与したときの血漿中アンチトロンビン活性の実測値と同様の推移を示すことが予測されたことから、実施例2の生物学的同等性試験における投与量をアンチトロンビン ガンマ製剤72IU/kg及びpAT製剤60IU/kgと設定した。
[実施例2]アンチトロンビン ガンマを血漿由来ヒトアンチトロンビンの1.2倍量投与した場合のアンチトロンビン ガンマと血漿由来ヒトアンチトロンビンの生物学的同等性試験
アンチトロンビン ガンマの日本における第I相臨床試験のうち、生物学的同等性試験の実施内容及び結果を以下に示す。
(1)対象:
健康成人男性
(2)治験デザイン:
無作為化非盲検並行群間比較試験
(3)用法・用量:
アンチトロンビン ガンマ製剤72IU/kg又はpAT製剤60IU/kgを1日1回、3日間投与
(4)選択基準:
1.本治験への参加に関し、本人からの自由意思による文書同意が得られている者
2.同意取得時に20歳以上45歳未満の日本人男性
3.事前検査時にBMIが18.5以上25.0未満の者
(5)除外基準:
1.治療を必要とする現病を有する者
2.薬物アレルギーの既往歴又は現病を有する者
3.異常出血、血栓症、心不全、低カリウム血症、QT延長症候群の既往歴又は家族歴を有する者
4.顕性の消化管出血(下血、吐血等)の既往歴又は現病を有する者
5.アルコール若しくは薬物依存症の者又は乱用薬物検査で全項目陰性とならなかった者
6.感染症検査(HBs抗原、HCV抗体、HIV抗体、梅毒検査)で全項目陰性とならなかった者
7.治験薬の投与開始前4週間以内に薬剤(一般薬、外用剤、ビタミン剤及び漢方薬を含む)を使用した者
8.治験薬の投与開始前4ヵ月以内に新有効成分含有医薬品の臨床試験又はそれに準ずる試験に参加し、投与された者
9.治験薬の投与開始前3ヵ月以内に入院した者若しくは手術を受けた者、又は200mLを超える採血(献血、成分献血を含む)を行った者
10.過去にアンチトロンビン ガンマ製剤の投与を受けた者
11.その他、治験責任医師又は治験分担医師により本治験の対象として不適格と判断された者
(6)結果:
20歳以上45歳未満の健康成人男性42例を対象に、アンチトロンビン ガンマ製剤72IU/kg又はpAT製剤[ノイアート(登録商標)]60IU/kg(各群21例)を1日1回3日間反復静脈内投与した。投与1及び2日目には、投与前と投与後1から10時間の間の3測定時点で、投与3日目には、投与前と投与後1から169時間の間の10測定時点で、血漿中アンチトロンビン活性が測定された。
被験者のベースラインの血漿中アンチトロンビン活性の影響を除くため、すべての投与後血漿中アンチトロンビン活性値から各被験者の投与前血漿中アンチトロンビン活性値(1.01±0.09IU/mL)を差し引き、薬物動態パラメータを算出した。主要評価項目であるCmax,3rd及びAUC48−tを表2に示す。
表2において、Nは被験者数、Cmax,3rdは3回目投与後の最高血漿中アンチトロンビン活性、AUC48−tは3回目投与開始(初回投与開始後48時間)から、血漿中アンチトロンビン活性の最終検出時点までのAUCをそれぞれ示し、比(%)はCmax,3rd及びAUC48−tの対数変換値の平均値の差から算出したアンチトロンビン ガンマ製剤のpAT製剤に対する比を示す。
Figure 0006859255
表2に示すように、アンチトロンビン ガンマ製剤72IU/kgとpAT製剤60IU/kgの生物学的同等性が示され、アンチトロンビン ガンマ製剤を体重あたりの国際単位としてpAT製剤の1.2倍量を投与することでpAT製剤と同程度の薬効の発現及び持続が期待できることがわかった。
[実施例3]感染症が直接誘因となり発症したDIC患者を対象としたアンチトロンビン ガンマを血漿由来ヒトアンチトロンビンの1.2倍量投与した場合のアンチトロンビン ガンマと血漿由来ヒトアンチトロンビンの有効性及び安全性に関する比較対照試験
アンチトロンビン ガンマの日本における第III相臨床試験のうち、感染症が直接誘因であり、日本救急医学会DIC特別委員会にて作成された急性期DIC診断基準[日救急医会誌, 16, 188-202 (2005)](以下、急性期DIC診断基準と表記する)によりDICと診断された患者を対象とした検討の実施内容及び結果を以下に示す。
(1)対象:
感染症が直接誘因となり発症したDIC患者
(2)治験デザイン:
無作為化非盲検並行群間比較試験
(3)用法・用量:
アンチトロンビン ガンマ36IU/kg又はpAT製剤30IU/kgを1日1回、5日間投与
(4)選択基準:
1.ACCP/SCCMsepsis基準(SIRS項目のうち2項目以上+Infection)を満たす患者(severe sepsis、septic shock含む)
2.登録時検査で急性期DIC診断基準のDIC スコアが4点以上の患者
3.登録時検査でアンチトロンビン活性が70%以下の患者
4.同意取得時に20歳以上の患者。性別は問わない
5.本人又は代諾者から文書による同意が得られている患者
(5)除外基準:
1.重篤な薬物アレルギーの既往歴あるいは現病を有する患者
2.劇症肝炎、非代償性肝硬変等の重篤な肝障害のある患者
3.DICを回復させたとしても早期死亡が推定され、十分な治験薬投与期間の確保や有効性・安全性データの取得が困難と思われる患者
4.妊婦、授乳婦又は妊娠している可能性のある患者
5.同意取得前4ヵ月以内に、他の治験に参加したことがある患者
6.過去にアンチトロンビン ガンマ製剤の投与を受けた患者
7.同意取得から登録の間に併用禁止薬投与又は併用禁止療法を行った患者
8.その他、治験責任医師又は治験分担医師により本治験の対象として不適格と判断された患者
(6)結果:
20歳以上、血漿中アンチトロンビン活性が70%以下で、ACCP/SCCM sepsis基準を満たし、感染症がDICの直接誘因であり、急性期DIC診断基準によりDICと診断(DICスコア4以上)された患者[目標症例数:200例(各群100例)]を対象に、アンチトロンビン ガンマ製剤の有効性及び安全性を検討することを目的とした無作為化非盲検並行群間比較試験を実施した。
用法・用量は、ヘパリン類の併用のもと、アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kg又はpAT製剤[ノイアート(登録商標)]30IU/kgを点滴静注にて1日1回5日間投与した。ただし、ヘパリン類の併用により出血を助長する危険性のある場合は、アンチトロンビン ガンマ製剤又はpAT製剤の単独投与を行うこととした。
本試験には222例(アンチトロンビン ガンマ製剤群:110例、pAT製剤群:112例)が組み入れられ、治験薬を割り付けられた全例がITT(Intent−to−treat)集団とされ、有効性の主たる解析対象とした。
なお、ヘパリン類を投与した患者は、アンチトロンビン ガンマ群で109例中32例、pAT群で112例中31例であった。また、治験薬の投与前に治験を中止したアンチトロンビン ガンマ製剤群の1例を除く、221例(アンチトロンビン ガンマ製剤群:108例、pAT製剤群:113例)が安全性の解析対象とされた。
アンチトロンビン ガンマ製剤群に割り付けられたものの、誤ってpAT製剤が投与された1例については、ITT集団ではアンチトロンビン ガンマ製剤群、安全性解析対象集団ではpAT製剤群として扱った。
投与前の血漿中アンチトロンビン活性は、アンチトロンビン ガンマ製剤群では54.2%±11.5%、pAT製剤群では53.2%±14.1%であった。一方、投与開始後6日目の血漿中アンチトロンビン活性は、アンチトロンビン ガンマ製剤群では107.3%±26.1%、pAT製剤群では115.0%±25.3%であった。
有効性の主要評価項目である、投与開始後6日目(6日目までに治験を中止した場合は中止時)のDIC離脱(急性期DIC診断基準から算定したDICスコアが4未満と定義)が認められた被験者の割合[95%信頼区間]は、アンチトロンビン ガンマ製剤群では56.4%[46.6〜65.8%](62/110例)、pAT製剤群では52.7%[43.0〜62.2%](59/112例)であった。
安全性について、試験期間中、アンチトロンビン ガンマ製剤群では82.4%(89/108例)に410件、pAT製剤群では87.6%(99/113例)に494件の有害事象が認められた。副作用は、アンチトロンビン ガンマ製剤群では24例に44件、pAT製剤群では16例に19件認められた。
この結果から、アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kg投与群とpAT製剤30IU/kg投与群において、ヘパリン類併用の有無によらず、同等の血漿中アンチトロンビン活性の上昇、有効性及び安全性を有することが示された。
[実施例4]ヘパリン類併用下でのDIC患者にアンチトロンビン ガンマを血漿由来ヒトアンチトロンビンの1.2倍量投与した場合のアンチトロンビン ガンマの有効性及び安全性に関する試験(1)
アンチトロンビン ガンマの日本における第III相臨床試験のうち、旧厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班より作成されたDIC診断基準[厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班 昭和62年度研究報告書, 37-41 (1988)](以下、厚生省DIC診断基準と表記する)によりDIC又はDICの疑いと診断された患者を対象としたヘパリン類併用下での検討の実施内容及び結果を以下に示す。
(1)対象:
厚生省DIC診断基準によりDIC又はDICの疑いと診断された患者
なお、基礎疾患は規定しないが、造血器悪性腫瘍を基礎疾患とする患者は本治験の対象とする。
(2)治験デザイン:
多施設共同非対照非盲検法試験
(3)用法・用量:
アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kgを1日1回、5日間投与
(4)選択基準:
1.登録時検査で厚生省DIC診断基準によりDIC又はDICの疑いに相当する(白血病群:3点以上、非白血病群:6点以上)患者
なお、白血病群としては白血病及び類縁疾患、再生不良性貧血、抗腫瘍剤投与後等骨髄巨核球減少が顕著で、高度の血小板減少をみる患者、非白血病群としては白血病群に分類されない患者を示す。
2.登録時検査でアンチトロンビン活性が70%以下の患者
3.同意取得時に20歳以上の患者。性別は問わない
4.本人又は代諾者から文書による同意が得られている患者
(5)除外基準
1.重篤な薬物アレルギーの既往歴あるいは現病を有する患者
2.劇症肝炎、非代償性肝硬変等の重篤な肝障害のある患者
3.DICを回復させたとしても早期死亡が推定され、十分な治験薬投与期間の確保や有効性・安全性データの取得が困難と思われる患者
4.妊婦、授乳婦又は妊娠している可能性のある患者
5.同意取得前4ヵ月以内に、他の治験に参加したことがある患者
6.過去にアンチトロンビン ガンマ製剤の投与を受けた患者
7.同意取得から登録の間に併用禁止薬投与又は併用禁止療法を行った患者
8.ヘパリン類の併用により、出血を助長する危険性のある患者
9.その他、治験責任医師又は治験分担医師により本治験の対象として不適格と判断された患者
(6)結果:
20歳以上、血漿中アンチトロンビン活性が70%以下で、厚生省DIC診断基準によりDIC又はDICの疑いと診断[DICスコアが、白血病及び類縁疾患、再生不良性貧血、抗腫瘍剤投与後等骨髄巨核球減少が顕著で、高度の血小板減少をみる場合(白血病群)は3以上、白血病群に分類されない場合(非白血病群)は6以上]された患者(目標症例数:10例以上)を対象に、ヘパリン類併用下でのアンチトロンビン ガンマ製剤の有効性及び安全性を検討することを目的とした非盲検非対照試験を実施した。
用法・用量は、ヘパリン類の併用のもと、アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kgを点滴静注にて1日1回5日間投与した。本試験では、15例(白血病群:9例、非白血病群:6例)に治験薬が投与され、全例が安全性及び有効性の解析対象とされた。基礎疾患の内訳は、白血病群では、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、非ホジキンリンパ腫各2例、多発性骨髄腫、再生不良性貧血、骨髄増殖性疾患(真性多血症)の白血化各1例であり、非白血病群では非ホジキンリンパ腫2例、血友病B、非小細胞肺癌、自己免疫性溶血性貧血、HIV感染症各1例であった。
投与前の血漿中アンチトロンビン活性は54.2%±14.1%であった。一方、アンチトロンビン ガンマ製剤投与開始後6日目の血漿中アンチトロンビン活性は97.5%±19.6%であった。
有効性の主要評価項目である、投与開始後6日目(6日目までに治験を中止した場合は中止時)のDICからの離脱(厚生省DIC診断基準によるDICスコアが、基礎疾患が白血病の場合は3未満、非白血病の場合は6未満と定義)が認められた被験者の割合[95%信頼区間]は、40.0%[16.3〜67.7%](6/15例)であった。
安全性について、試験期間中、80.0%(12/15例)に63件の有害事象が認められた。2例以上で発現が認められた有害事象は、発熱性好中球減少症4例4件、全身性浮腫3例3件、下痢2例3件、血小板減少症、便秘、嘔吐、敗血症、譫妄、そう痒症、皮膚潰瘍各2例2件であった。副作用は認められなかった。
この結果から、アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kg投与において、実施例3及び実施例5と同等の血漿中アンチトロンビン活性の上昇及び安全性を有することが示された。一方、実施例3及び実施例5に比べてDICから離脱した被検者の割合がやや低かったが、DICに対する有効性は認められた。この理由として、実施例3及び実施例5とDICスコアの算定方法が異なることに加え、本実施例では造血器悪性腫瘍のDIC患者が多く、基礎疾患の重症度の違いが影響した可能性が考えられた。
[実施例5]ヘパリン類併用下でのDIC患者にアンチトロンビン ガンマを血漿由来ヒトアンチトロンビンの1.2倍量投与した場合のアンチトロンビン ガンマの有効性及び安全性に関する試験(2)
アンチトロンビン ガンマの日本における第III相臨床試験のうち、急性期DIC診断基準によりDICと診断されたDICと診断された患者を対象としたヘパリン類併用下での検討の実施内容及び結果を以下記載した。
(1)対象:
急性期DIC診断基準によりDICと診断された患者
(2)治験デザイン:
多施設共同非対照非盲検試験
(3)用法・用量:
アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kgを1日1回、5日間投与
(4)選択基準:
1.登録時検査で急性期DIC診断基準のDICスコアが4点以上の患者
2.登録時検査でアンチトロンビン活性が70%以下の患者
3.同意取得時に20歳以上の患者。性別は問わない
4.本人又は代諾者から文書による同意が得られている患者
(5)除外基準:
1.重篤な薬物アレルギーの既往歴あるいは現病を有する患者
2.劇症肝炎、非代償性肝硬変等の重篤な肝障害のある患者
3.DICを回復させたとしても早期死亡が推定され、十分な治験薬投与期間の確保や有効性・安全性データの取得が困難と思われる患者
4.妊婦、授乳婦又は妊娠している可能性のある患者
5.同意取得前4ヵ月以内に、他の治験に参加したことがある患者
6.過去にアンチトロンビン ガンマ製剤の投与を受けた患者
7.同意取得から登録の間に併用禁止薬投与又は併用禁止療法を行った患者
8.ヘパリン類の併用により、出血を助長する危険性のある患者
9.その他、治験責任医師又は治験分担医師により本治験の対象として不適格と判断された患者
(6)結果
20歳以上、血漿中アンチトロンビン活性が70%以下で、急性期DIC診断基準によりDICと診断(DICスコア4以上)された患者(目標症例数:10例以上)を対象に、ヘパリン類併用下でのアンチトロンビン ガンマ製剤の有効性及び安全性を検討することを目的とした非盲検非対照試験を実施した。
用法・用量は、ヘパリン類の併用のもと、アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kgを点滴静注にて1日1回5日間投与することとされた。本試験では、5例にアンチトロンビン ガンマ製剤が投与され、全例が安全性及び有効性の解析対象とされた。基礎疾患の内訳は、感染症、熱中症各2例、急性膵炎1例であった。
投与前の血漿中アンチトロンビン活性は53.4%±11.1%であった。一方、アンチトロンビン ガンマ製剤投与開始後6日目の血漿中アンチトロンビン活性は96.8%±27.0%であった。
有効性の主要評価項目である、投与開始後6日目(6日目までに治験を中止した場合は中止時)のDICからの離脱(急性期DIC診断基準から算定したDICスコアが4未満と定義)が認められた被験者の割合[95%信頼区間]は、60.0%[14.7〜94.7%](3/5例)であった。
安全性について、試験期間中、60.0%(3/5例)に25件の有害事象が認められた。2例以上で発現が認められた有害事象は、心房細動2例4件であった。副作用は認められなかった。
この結果から、アンチトロンビン ガンマ製剤36IU/kg投与において、基礎疾患を感染症に限定しない、ヘパリン類併用のDIC患者に対しても、実施例3と同等の血漿中アンチトロンビン活性の上昇、有効性及び安全性を有することが示された。
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2015年3月31日付けで出願された米国仮出願(62/140,503号)に基づいており、その全体が引用により援用される。

Claims (4)

  1. 用量が1日当り合計36国際単位/kgの単離されたアンチトロンビンガンマを含み、静注または点滴静注にて投与されるように用いられることを特徴とする、アンチトロンビン低下を伴う汎発性血管内凝固症候群または播種性血管内凝固症候群の治療用組成物。
  2. 更にヘパリンの持続点滴静注を同時に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1に記載の治療用組成物。
  3. 1日当り1回投与されるように用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の治療用組成物。
  4. 1日当り少なくとも2回に分割して投与されるように用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の治療用組成物。
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