JP6856973B2 - 水圧転写フィルム及びこれを用いた加飾成形品 - Google Patents

水圧転写フィルム及びこれを用いた加飾成形品 Download PDF

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Description

本発明は、水圧転写フィルム、及びこれを用いた加飾成形品に関する。
建材、自動車内装品、家電製品、OA機器などには表面に木目調や金属調などの装飾が施された成型品が利用されている。これらの成型品は複雑な三次元形状を有するものが多く、従来、その複雑な形状からなる成型品に意匠性の高い装飾を簡便に施す方法が検討されている。
こうした装飾方法として、水圧を利用した水圧転写法が知られている。水圧転写法では、水溶性または水膨潤性の水溶性フィルムに、所望の装飾層を印刷した転写フィルムを用意し、該転写フィルムの装飾層に、有機溶剤からなる活性剤組成物を塗布して、該装飾層を膨潤、粘着化させる(これを活性化という)。その前又は後に、前記転写フィルムを転写用の装飾層(印刷層)面を上面にして、水面上に浮遊させ、次いで、該転写フィルム上に被転写体となる物品を押圧して、水圧によって転写フィルムを被転写体の装飾処理をすべき被転写面に密着させた後、水溶性フィルムを除去して装飾層を転写する。
このような水圧転写法は、立体面への転写加工性、クリア塗装感等の「深み」や、高品質な柄表現が出来るなどの意匠性の点で、優れた曲面加飾法であることが知られている。また、近年、この水圧転写法を用いて、樹脂成形品に対して優れた立体感を表出した意匠を付与する試みがなされている。
ところで、例えば木目のような自然物を印刷によって表現する場合、通常のインキを用いる方法では、本物が有する艶を再現することが難しい。このため、艶消し剤を含む層を印刷の柄と同調するように設けることで、質感の高い(より自然物に近い)意匠を表現する技術が知られている。例えば、木目の場合、導管部分の柄に対応する位置に低艶部分を設けることで、質感の高い意匠を表現する技術が知られている。
特許文献1には、水溶性フィルム上に意匠層を有する水圧転写フィルムにおいて、バインダー樹脂及び艶消し剤を含む低艶部分と、アクリルポリマーポリオールまたはその硬化物を含む高艶部分との艶の差によって強いコントラストを表現する手法が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示された手法において、高艶部分に用いられているアクリルポリマーポリオールは、耐溶剤性が高いという特徴を有しており、高艶部分は、低艶部分の上の全面に形成されたベタ層であるため、活性剤組成物に対してバリア層のような役割を果たす。このため、活性剤組成物による意匠層等の溶解(活性化)が起こりにくく、例えば複雑形状を有する成形品への転写を行う場合には、溶解性の高い活性剤組成物(例えば、特許文献2を参照)を用いる等の工夫が必要になる場合があり、より一般的な条件で加工を行えるよう、改善が求められている。
特開2013−240976号公報 特開2015−66786号公報
本発明は、成形品に対する転写加工性に優れ、さらに加飾成形品に対して優れたグロスマット意匠を付与できる水圧転写フィルム、その製造方法、及び該フィルムを用いた加飾成形品を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、少なくとも、水溶性フィルムと、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する水圧転写フィルムにおいて、意匠層は、艶消し剤を含んでおり、プライマー層が、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、さらに当該プライマー層が部分的に設けられていることにより、成形品に対する転写加工性が向上することを見出した。さらに、本発明者らは、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層が部分的に形成されていることにより、意外にも、加飾成形品に対して優れたグロスマット意匠を付与できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の水圧転写フィルム、その製造方法、及び該フィルムを用いた加飾成形品を提供するものである。
項1. 少なくとも、水溶性フィルムと、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する水圧転写フィルムであって、
前記意匠層は、艶消し剤を含んでおり、
前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、
前記プライマー層は、部分的に設けられている、水圧転写フィルム。
項2. 前記プライマー層を形成する樹脂組成物は、ウレタン樹脂をさらに含む、項1に記載の水圧転写フィルム。
項3. 前記意匠層上において、前記プライマー層が形成されている部分と形成されていない部分とがパターン状に形成されている、項1または2に記載の水圧転写フィルム。
項4. 前記プライマー層の前記水溶性フィルムとは反対側に、絵柄層をさらに有する、項1〜3のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
項5. 前記絵柄層が木目模様を形成しており、前記意匠層が、前記木目模様の導管部分を形成している、項4に記載の水圧転写フィルム。
項6. 以下の工程(A)及び(B)を順に有する、水圧転写フィルムの製造方法。
工程(A)水溶性フィルムの表面上に、艶消し剤を含む意匠層を部分的に積層する工程
工程(B)前記意匠層の上から、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層を部分的に積層する工程
項7. 下記の工程(a)〜(d)を順に有する加飾成形品の製造方法。
工程(a)項1〜6のいずれかに記載の水圧転写フィルムを、水溶性フィルム側が下向きで水面側に向くように水面に浮遊させる工程
工程(b)前記水圧転写フィルムの前記プライマー層側に活性剤組成物を塗布する活性剤塗布工程
工程(c)該工程(a)及び(b)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって前記プライマー層側を被転写体の被転写面に密着させる工程
工程(d)該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する脱膜工程
項8. 少なくとも、成形品の表面上に、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する加飾成形品であって、
前記意匠層は、艶消し剤を含んでおり、
前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、
前記プライマー層は、部分的に形成されている、加飾成形品。
本発明によれば、成形品に対する転写加工性に優れ、さらに加飾成形品に対して優れたグロスマット意匠を付与できる水圧転写フィルム、その製造方法、及び該フィルムを用いた加飾成形品を提供することができる。
本発明の水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。 本発明の水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。 本発明の加飾成形品の製造方法により得られる加飾成形品の一例を示す概略断面図である。
本発明の水圧転写フィルムは、少なくとも、水溶性フィルムと、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する水圧転写フィルムにおいて、意匠層は、艶消し剤を含んでおり、プライマー層が、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、さらに当該プライマー層が部分的に形成されていることを特徴とする。以下、本発明の水圧転写フィルム、その製造方法、及び該フィルムを用いた加飾成形品について詳述する。
〔水圧転写フィルム〕
以下、本発明の水圧転写フィルムを図1〜図3を参照しながら説明する。図1及び図2は、本発明の水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。図1及び図2に示されるように、本発明の水圧転写フィルム10は、少なくとも、水溶性フィルム1、意匠層2、及びプライマー層3を順に有している。意匠層2は、水溶性フィルム1の表面上に部分的に設けられている。
意匠層2は、艶消し剤を含んでいる。意匠層2は、水溶性フィルム1の表面上において、意匠層2が形成されていない部分よりも相対的に低艶部分を構成している。すなわち、本発明の水圧転写フィルム10において、意匠層2が水溶性フィルム1上に部分的に形成されており、水圧転写フィルム10が成形品5に転写されることにより、加飾成形品に低艶部分が形成される。
本発明の水圧転写フィルムにおいては、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層3が、部分的に形成されている。すなわち、本発明の水圧転写フィルム10において、意匠層2が水溶性フィルム1上に部分的に形成されており、意匠層2を覆うようにしてプライマー層3が部分的に形成されている。従って、プライマー層3は、意匠層2の上において部分的に形成されており、意匠層2が形成されていない部分(例えば水溶性フィルム1上)においても部分的に形成されている。なお、後述の通り、部分的に形成されている意匠層2は、通常、柄に対応する低艶部分を形成するものであるため、意匠層2が形成されている部分と形成されていない部分が、目視で確認できる程度の大きさで形成されている。これに対して、部分的に形成されているプライマー層3において、プライマー層3が形成されている部分と形成されていない部分とは、例えば目視では確認できない程度に微細な大きさで形成されたものであることが望ましい。例えば、プライマー層が形成されている部分3aとプライマー層が形成されていない部分3bは、意匠層2が形成されている部分の上に複数形成されていることが好ましい。
本発明の水圧転写フィルム10においては、プライマー層3が部分的に形成されていることにより、プライマー層の非形成部3bを通じて活性剤組成が浸透しやすいため、意匠層2が溶解されやすく、優れた転写加工性が発揮される。特に、従来の水圧転写フィルムにおいては、プライマー層3を形成する樹脂組成物にアクリルポリマーポリオールを用いると、プライマー層が活性剤組成物を浸透しにくく、転写加工性が低下する傾向にあるが、本発明の水圧転写フィルム10においては、プライマー層3の形成されている面積が上記特定の範囲内にあるため、アクリルポリマーポリオールを用いた場合にも、プライマー層3に活性剤組成が浸透しやすく、優れた転写加工性が発揮される。
さらに、本発明の水圧転写フィルム10においては、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層3が部分的に形成されていることにより、意外にも、加飾成形品に対して優れたグロスマット意匠を付与できる。この理由は、次のように考えることができる。すなわち、水圧転写フィルム10において、周囲に対して相対的に低艶部分を構成している意匠層2中の艶消し剤は、通常、凝集した状態で存在しているが、活性剤組成物が水圧転写フィルム10に塗布されると、プライマー層3が部分的に形成されていることによって、活性剤組成物がプライマー層3を好適に浸透して意匠層2を溶解し、意匠層2中の艶消し剤が分散すると考えられる。意匠層2中の艶消し剤が分散した状態で、水圧転写フィルム10を成形品に転写し、さらに意匠層2の表面にトップコート層6を付与することにより、トップコート層6を形成する樹脂が艶消し剤に浸透しやすく、意匠層2が存在している部分のトップコート層6の表面が荒れた状態になる。このため、本発明の水圧転写フィルム10を用いることにより、加飾成形品の低艶部分のトップコート層6の表面のマット感が大きくなるため、優れたグロスマット意匠が発揮されるものと考えられる。
本発明の水圧転写フィルム10においては、プライマー層3の水溶性フィルム1とは反対側に、必要に応じて、絵柄層4をさらに有していてもよい。以下、本発明の水圧転写フィルムを構成する各層について、詳述する。
(水溶性フィルム)
水溶性フィルムは、本発明の水圧転写フィルムにおいて基材の役割を有し、水圧転写後に加飾成形品を得る際に除去されるものである。水溶性フィルムとしては、水溶性又は水膨潤性を有するものであればよく、従来、水圧転写フィルムとして一般に使用されている水溶性フィルムの中から、適宜選択して用いることができる。
水溶性フィルムを構成する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどの各種水溶性ポリマーが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。なお、水溶性フィルムには、マンナン、キサンタンガム、グアーガムなどのゴム成分が添加されていてもよい。
上記の水溶性フィルムのうち、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂フィルムが好ましい。なお、ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、PVA以外に、澱粉やゴムなどの添加剤を含有していてもよい。
ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴムなどの添加剤の配合量などを変えることにより、水溶性フィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さなどを適宜調節することができる。
ポリビニルアルコール樹脂フィルムからなる水溶性フィルムとして好適なものは、特開昭54−92406号公報に説明されているようなものであり、例えば、PVA樹脂80質量%、高分子水溶性樹脂15質量%、澱粉5質量%の混合組成からなり、平衡水分3%程度のものが好適である。
また、ポリビニルアルコール樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時の転写用の印刷層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
水溶性フィルムの厚さとしては、10〜100μmが好ましい。10μm以上であると、フィルムの均一性が良好で、かつ生産安定性が高い。一方、100μm以下であると、水に対する溶解性が適度であり、かつ印刷適性に優れる。以上の観点から、水溶性フィルムの厚さは、20〜60μmの範囲がより好ましい。
なお、上記の水溶性フィルムは、例えば紙、不織布、布などの水浸透性を有する基材と積層して使用することもできるが、このような水浸透性を有する基材と水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムとを積層したときには、水圧転写フィルムを水面に浮かべる前に、水浸透性を有する基材を水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムから分離させるか、又は水面に浮かべた後の水の作用によって水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムから水浸透性を有する基材が分離するように構成しておくことが好ましい。
<意匠層>
意匠層は、艶消し剤を含むことにより、低艶部分を構成している。例えば図1及び図2に示されるように、水圧転写フィルム10においては、低艶部分を構成する意匠層2が部分的に形成されており、水溶性フィルム1の表面上に、意匠層2を有する部分と、意匠層2を有しない部分とが存在している。意匠層2は、通常、柄に対応する低艶部分を形成するものであるため、意匠層2が形成されている部分と形成されていない部分が、目視で確認できる程度の大きさで形成されている。本発明の水圧転写フィルム10を用いて加飾成形品を製造した場合、低艶部分の直上部または直上部とその近傍(以下、単に「直上部及びその近傍」と称することもある)においては低艶領域が形成される。すなわち、低艶部分は、加飾成形品の一部(低艶部分の直上部及びその近傍)に低艶を発現させる機能を有する。
本発明の水圧転写フィルム10を用いて得られる加飾成形品のグロスマット意匠は、低艶部分における低艶領域とその周囲の高艶領域(高艶部分の直上部または直上部とその近傍)との間で光沢度の差を生じることに起因するものである。低艶部分における低艶領域は視覚的に凹部として認識され、高艶部分における高艶領域は凸部として認識されるため、全体として、この低艶領域及び高艶領域によって 視覚的に凹凸模様として認識される。
意匠層は、艶消し剤を含む樹脂組成物により形成することができる。意匠層に含まれるバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体例としては、アクリル樹脂、アルキッドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂が挙げられる。必要に応じて、低艶領域の発現の程度、低艶領域と高艶領域との艶差のコントラストを調整するため、これらの樹脂を1種類以上混合してもよいし、上記に限定されるものではない。上記バインダー樹脂として、後述するプライマー層(意匠層が形成されていない部分において、高艶部分を構成する)に用いることができる樹脂と同様のもの、すなわち、後述するアクリルポリマーポリオールを主成分とする樹脂を用いることもできる。ただし、このような樹脂の含有量は小さいことが好ましい。プライマー層による高艶部分と意匠層による低艶部分に異なる樹脂系を用いることで、より高い艶差を生じさせることができるためである。具体的には、バインダー樹脂に対して、高艶部分で用いる樹脂の比率が5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、もっとも好ましくは1質量%以下である。この程度であれば本発明の効果を大きく阻害しない。
また、上記バインダー樹脂は、物性を向上させるために、必要に応じて、成形性を損なわない程度に、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂又はその硬化剤(イソシアネート等)をさらに添加することができる。
(艶消し剤)
意匠層において、艶消し剤としては、公知のものを使用できる。艶消し剤の具体例としては、シリカ、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸塩、及びケイ酸微粉末から選択される無機フィラーや、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又は尿素系樹脂から選択される有機フィラーまたは樹脂ビーズが挙げられ、いずれか1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
艶消し剤の体積平均粒径は、好ましくは0.5〜25μmであり、より好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは3〜10μmである。艶消し剤の体積平均粒径が25μm以下であれば、界面積が増大することによって加工時の応力が拡散し、界面に発生したボイド等がエネルギーを吸収したり、粒子間距離が小さくなることによって粒子、又はボイド間で塑性変形が生じ、伸張時の白化を抑制することができる。また、艶消し剤の体積平均粒径が0.5μm以上であると、艶消し効果の観点から好ましい。なお、ここで言う体積平均粒径は、レーザー回折−散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。
意匠層中の艶消し剤の含有量は、加飾成形品に表出されるグロスマット意匠と転写加工性とのバランスの観点から、0.5〜50質量%であると好ましく、10〜50質量%であるとより好ましく、25〜50質量%であるとさらに好ましい。
艶消し剤のJIS K 5101−13−1:2004に準拠して測定した吸油量としては、230mL/100g以上、好ましくは230〜400mL/100gが好ましく、230〜350mL/100gであることがより好ましく、230〜300mL/100gであることがさらに好ましい。吸油量が230mL/100g以上の艶消し剤を用いることが艶消し効果の観点から好ましく、また吸油量が400mL/100g以下の艶消し剤を用いることが適度なチキソ性を維持して意匠層を形成する際の塗工適性を損なわないとの観点から好ましい。
なお、上記艶消し剤は、表面処理されていてもよい。表面処理の手法としては、特に制限はなく、有機材料による表面処理であっても、無機材料による表面処理であってもよい。特に、シランカップリング処理などが好適に挙げられる。
意匠層は、前述のバインダー樹脂及び艶消し剤を溶媒に溶解した塗工液を、公知の方法で塗布し、必要に応じて乾燥し、硬化して形成することができる。意匠層の厚みについては、通常、0.5〜20μm程度であり、好ましくは、1〜5μmの範囲である。
<プライマー層>
プライマー層は、意匠層の上から、部分的に形成されている。すなわち、図1及び図2に示されるように、本発明の水圧転写フィルム10において、意匠層2が水溶性フィルム1上に部分的に形成されており、意匠層2を覆うようにしてプライマー層3が部分的に形成されている。部分的に形成されているプライマー層3において、プライマー層3が形成されている部分と形成されていない部分とは、例えば目視では確認できない程度に微細な大きさで形成されたものであることが望ましい。例えば、プライマー層が形成されている部分3aとプライマー層が形成されていない部分3bは、意匠層2が形成されている部分の上に複数形成されていることが好ましい。
本発明の水圧転写フィルムにおいては、プライマー層は部分的に形成されていればよいが、プライマー層が形成されている部分3aの割合としては、水溶性フィルム1の意匠層2側の表面の面積のうち、60〜95%の範囲であることが好ましく、80〜90%の範囲であることがより好ましい。すなわち、図1及び図2に示されるように、本発明の水圧転写フィルム10において、プライマー層の形成部3aとプライマー層の非形成部3bの合計面積が、水溶性フィルム1の意匠層2側の表面の面積と一致し、当該合計面積100%のうち、プライマー層の形成部3aの合計面積の割合がこれらの範囲内となることが好ましい。
プライマー層の当該面積割合は、グラビア印刷用版のセル計算ソフトを用いて、一つのセル面積を算出し、単位面積当たりのセルの個数を積算することにより算出された値である。なお、版の印刷面における凹部の合計面積の割合は、印刷により形成されるプライマー層の面積割合と実質的に一致する。また、プライマー層の形成部3aとプライマー層の非形成部3bとが、一定のパターン状に形成されている場合(例えば、プライマー層を厚み方向から見た場合に、同形状・同サイズのプライマー層形成部分が等間隔に配列されている場合など)には、水圧転写フィルム10の厚み方向の断面から当該面積割合を見積もることもできる。
本発明の水圧転写フィルム10において、プライマー層3は、意匠層2上に位置する部分と位置しない部分とは、通常、同様に形成されている。従って、意匠層2上に位置する部分と位置しない部分とにおいて、プライマー層3が形成されている部分の面積の割合は、通常、同様である。
プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されている。アクリルポリマーポリオールに加えて、さらにプライマー層を形成する樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に制限されず、前述の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アルキッドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、プライマー層を形成するアクリルポリマーポリオールはイソシアネート等の硬化剤と反応した硬化物の態様で用いてもよく、当該硬化物は完全硬化されたものであってもよいが転写加工性等を考慮して半硬化状態であってもよい。なお、転写加工性を良好にする観点からは、アクリルポリマーポリオールは硬化させず、すなわち熱可塑性樹脂としての性質を保ったまま用いることが好ましい。
(アクリルポリマーポリオール)
上記アクリルポリマーポリオールは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる、標準ポリスチレンで換算された重量平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜80,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが特に好ましい。アクリルポリマーポリオールの分子量が1,000以上であると、耐溶剤性が改善し、例えば後述の絵柄層を形成した際にプライマー層が溶解する等の不具合が起こりにくくなり、100,000以下であるとインキ化した際に粘度が低下したり、ゲル化しにくくなるため作業性が向上する。
また、アクリルポリマーポリオールとしては、水酸基価が30〜130mgKOH/gのものが好ましく、50〜130mgKOH/gのものがより好ましく、60〜120mgKOH/gのものがさらに好ましい。アクリルポリマーポリオールの水酸基価が30mgKOH/g以上であると、水圧転写フィルム全体の過度の展伸を抑制することができる点で好ましく、130mgKOH/g以下であると、プライマー層の柔軟性が良好となり、ひび割れ等の不具合が生じない。なお、上記水酸基価は、無水酢酸を用いたアセチル化法によって測定することができる。
(イソシアネート)
イソシアネートは、アクリルポリマーポリオールの硬化剤であって、イソシアネートを含有させることで、当該樹脂組成物の少なくとも一部を硬化状態又は半硬化状態とする。イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネートであればよく、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、或いは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂肪族(乃至は脂環式)イソシアネートなどのポリイソシアネートが用いられる。
また、必要に応じて、イソシアネート基を適当なブロック剤により保護して不活性化し、加熱によりイソシアネート基が再生するブロックイソシアネートを使用してもよい。ブロック剤としては、例えばフェノール、アルコール、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル等の活性メチレン、オキシム等、公知のブロック剤を用いてもよい。
ブロックイソシアネートを使用することにより、意匠層により高い成形性を付与することができ、所望形状に成形した後に成形品を加熱処理し、イソシアネート基を再生、ポリオールと反応、硬化することにより、意匠層または必要に応じて設けられる絵柄層と良好な密着性を発現できる。
プライマー層におけるアクリルポリマーポリオールの含有量は特に限定されないが、加飾成形品に高い立体感を表出する観点から、プライマー層を構成する樹脂成分の50〜100質量%であることが好ましく、さらに転写加工性を良好とする観点からは50〜90質量%であることがより好ましい。
上記プライマー層を構成する樹脂組成物には、アクリルポリマーポリオールの他に、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル・ウレタン共重合体樹脂、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどの樹脂を含有させることが好ましい。プライマー層を柔軟にし、加飾成形品の製造時における転写加工性を向上させることができるためである。
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂としては、非架橋型のもの、すなわち、3次元架橋して網目状の立体的分子構造を持ったものではなく、線状の分子構造を持った熱可塑性樹脂となったものを選択することが好ましい。このような非架橋型のウレタン樹脂としては、ポリオール成分として、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオールを主剤とし、イソシアネートと反応させてなる非架橋型ウレタン樹脂を使用でき、成形性、耐熱性、耐候性、絵柄層との密着性等の観点から、ポリエステルポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネートとの組合せにより合成されるものが特に好ましい。通常ポリオール1分子中の水酸基数及びイソシアネート1分子中のイソシアネート基はそれぞれ平均2である。
また、ウレタン樹脂としては、ポリオール成分、ポリアミン成分及びイソシアネートの組合せより合成されるウレタンウレア樹脂が好ましく用いられ、ポリオール成分やイソシアネートとしては、上述したものを用いることができる。
ウレタン樹脂としては、ガラス転移点が100℃以下のものが好ましく、20〜100℃のものがより好ましい。ウレタン樹脂のガラス転移点が100℃以下であると、意匠層の常温における柔軟性に優れ、20℃以上であると、加熱により凝集力が著しく低下したり、プライマー層が水圧転写時に水に溶解することがなく、好ましい。
プライマー層を構成する樹脂組成物におけるアクリルポリマーポリオールと(またはアクリルポリマーポリオール及び必要に応じて添加されるイソシアネートの合計量と)、ウレタン樹脂との比率は、通常質量比で99:1〜50:50であり、95:5〜50:50であることが好ましく、90:10〜60:40であるとより好ましく、80:20〜68:32であることが特に好ましい。特に、イソシアネートの含有量が高い場合には、ウレタン樹脂の比率を高くすることが転写加工性の点から好ましい。
プライマー層は、上記のような樹脂を溶媒に溶解した塗工液を公知の方法で塗布するなどして、上記面積割合となるようにして形成することができる。意匠層上において、プライマー層が形成されている部分3aと形成されていない部分3bとがパターン状に形成されていることが好ましい。例えば、プライマー層3を厚み方向から見た場合に、同形状・同サイズのプライマー層形成部3aが等間隔(隣り合うプライマー層形成部3aの間がプライマー層非形成部3bを構成する)に配列されていることが好ましい。プライマー層の形成部3aとプライマー層の非形成部3bとが、このような一定のパターン状に形成されていることにより、活性剤組成物による活性化を均質に行うことができる。
プライマー層の厚みとしては、特に制限されないが、好ましくは0.5〜20μm程度、より好ましくは0.5〜5μm程度が挙げられる。なお、プライマー層の厚みとは、意匠層の上に位置する部分の厚みを意味する。
<絵柄層>
絵柄層は、加飾成形品に装飾性を与えることなどを目的として、プライマー層の水溶性フィルムとは反対側に、必要に応じて設けられる。絵柄層は、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。絵柄層によって形成される模様は、特に制限されず、例えば、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様など挙げられ、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様も挙げられる。これらの模様は、通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。また、絵柄層における暗色部分は、他の部分より相対的に明度の低い色であれば特に限定されないが、黒色とすることが特に好ましい。
絵柄層は、通常、バインダー樹脂と着色剤とを含有する。絵柄層のバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体例としては、アクリル樹脂、アルキッドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂が挙げられる。バインダー樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルーなどの無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルーなどの有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮などの鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが用いられる。
本発明においては、低艶部分を構成する意匠層の位置と、絵柄層の模様とを同調させることにより、より高い立体感を有する意匠を表出することができる。例えば、絵柄層が木目模様を形成しており、意匠層が構成している低艶部分が、木目模様の導管部分を形成していることにより、加飾成形品は優れた木目模様の意匠を表出することができる。
〔水圧転写フィルムの製造方法〕
図1及び図2に示されるような、少なくとも、水溶性フィルム1と、部分的に設けられた意匠層2と、プライマー層3とをこの順に有する本発明の水圧転写フィルム10は、例えば、水溶性フィルム1の表面上に、艶消し剤を含む意匠層2を部分的に積層する工程(A)と、意匠層2の上から、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層3を部分的に積層する工程(B)を含む製造方法によって製造することができる。
工程(A)において、意匠層は、公知の印刷方法により形成することができ、例えば、意匠層を形成する樹脂組成物及び柱状凹部のセル形状を有するグラビア版材を用いて、グラビア印刷、好ましくはグラビアオフセット印刷を施して形成することができる。
工程(B)におけるプライマー層の形成は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物を用い、公知の塗布方法又は印刷方法によって形成することができる。当該塗布方法としては、グラビアコート、リバースコート等が挙げられ、印刷方法としては、グラビア印刷等が挙げられる。
なお、図2に示されるような、さらに絵柄層4を備える水圧転写フィルムを製造する場合は、上記の工程(B)の後に、絵柄層を積層する工程を行う。絵柄層4の形成は、公知の塗布方法又は印刷方法あるいは樹脂フィルムを意匠層上にラミネートすることにより行うことができる。当該塗布方法としては、グラビアコート、リバースコート等が挙げられ、印刷方法としては、グラビア印刷等が挙げられる。絵柄層4は、全面ベタ印刷であってもよい。
〔加飾成形品の製造方法〕
本発明の水圧転写フィルムを用いて、下記の工程(a)〜(d)により加飾成形品を製造することができる。なお、図2に示される水圧転写フィルム10を用いて製造される加飾成形品20は、図3に対応している。
工程(a)水圧転写フィルムを、水溶性フィルム側が下向きで水面側に向くように水面に浮遊させる工程
工程(b)前記水圧転写フィルムのプライマー層側に活性剤組成物を塗布する活性剤塗布工程
工程(c)該工程(a)及び(b)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって前記プライマー層を被転写体の被転写面に密着させる工程
工程(d)該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する脱膜工程
また、上記工程(d)に次いで、下記の工程(e)を備えていてもよい。
工程(e):被転写体の被転写面上にトップコート層を形成する工程。
<工程(a)>
工程(a)は、工程(b)の前又は後に行うことができる。水圧転写フィルム10は、水溶性フィルム1側が下向きで水面側に向くように水面上に浮遊させる。水圧転写フィルム10を水面に浮遊させるには、枚葉の印刷物を1枚ずつ浮遊させてもよく、また水を一方向に流し、その水面上に連続帯状の水圧転写フィルム10を、連続的に供給して浮遊させてもよい。
<工程(b)>
工程(b)は、工程(a)の前又は後に行うことができ、水圧転写フィルムのプライマー層側に活性剤組成物を塗布する工程である。この工程で活性剤組成物を塗布することにより、プライマー層側の層が溶解乃至膨潤して軟化し(活性化し)、被転写体と密着しやすくなる。
(活性剤組成物)
プライマー層側に塗布する活性剤組成物は、プライマー層側の層を活性化して、被転写体の被転写面に転写させる機能を有する組成物であれば特に制限はなく、また、被転写体の被転写面に各層を転写させるまで蒸発しないような性状を有することが好ましい。このような活性剤組成物としては、例えばエステル類、アセチレングリコール類、エーテル類、及び樹脂を含む組成物が好ましく挙げられる。
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどが好ましく挙げられる。アセチレングリコール類としては、メトキシブチルアセテート、エトキシブチルアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが好ましく挙げられる。エーテル類としては、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが好ましく挙げられる。
また、樹脂としては、アクリレート系単量体の単独又は共重合体などの熱可塑性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、フタル酸アルキッド樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などが好ましく挙げられ、なかでも熱硬化性樹脂が好ましい。
本発明で用いられる活性剤組成物の好ましい各組成の含有量は、エステル類では5〜40質量%、アセチレングリコール類では40〜80質量%、エーテル類では5〜30質量%、及び樹脂では1〜20質量%程度である。
活性剤組成物の塗布は、グラビア印刷やスプレーコート法などにより行えばよく、その塗布量は通常1〜50g/m2であり、好ましくは3〜30g/m2であり、さらに好ましくは10〜20g/m2である。
<工程(c)>
工程(c)は、工程(a)及び工程(b)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によってプライマー層側を被転写体の被転写面に密着させる工程である。水圧転写フィルムを浮かべ水圧を印加するための水は、該水圧転写フィルムの水溶性フィルムの種類などに応じ、適宣水温を調整するのがよく、好ましくは25〜50℃程度、より好ましくは25〜35℃である。
また、本発明の水圧転写フィルムと被転写体との転写時間は、20〜120秒程度が好ましく、より好ましくは30〜60秒程度である。
(被転写体)
被転写体としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、繊維系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂のほか、鉄、アルミニウム、銅などの金属、陶磁器、ガラス、琺瑯などのセラミックス、木材などの材料からなる構造体を使用することができる。
また、被転写面の形状は、平面形状である二次元形状であってもよいし、凹凸形状や曲面形状などの三次元形状であってもよい。これらの中で、通常、樹脂製構造体が多用される。この樹脂製構造体は、成型時において離型剤が付着するとともに、ゴミや脂分なども付着することがあり、水圧転写フィルムの各層を密着性よく転写させるために、予め脱脂液により被転写面を清浄化しておくことが好ましい。
工程(c)において、プライマー層側に塗布した活性剤組成物は被転写体と接し、該被転写体の表面を溶解させることで、本発明の水圧転写フィルムと被転写体との密着性をさらに良好なものとすることができる。
<脱膜工程(d)>
脱膜工程(d)は、工程(c)の後に行われ、該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する工程である。被転写体の被転写面上に付着している水溶性フィルム1の除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行うことができる。なお、シャワー洗浄の条件は、水溶性フィルム1を形成する材料などにより異なるが、通常は水温15〜60℃程度、洗浄時間10秒〜5分程度が好ましい。そして、工程(d)の後、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させる。
以上の工程(a)〜(d)により、樹脂成形品に対して高い立体感が表出され、さらには、観察する角度によって意匠が変化し得る本発明の加飾成形品が得られる。
<工程(e)>
工程(e)は、被転写体の被転写面上に、必要に応じトップコート層を形成する工程である。工程(e)を行う場合、当該工程(e)においては、意匠層に対し、表面強度の向上、表面保護、表面の艶調整などのために必要に応じ塗装を施し、透明ないし半透明のトップコート層を形成する。
このトップコート層を形成する材料としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などが選択され、具体的にはウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂などが用いられる。トップコート層の形成は、上記の樹脂を公知の有機溶剤に溶解して得た塗料を用いて、スプレー塗装、静電塗装、刷毛塗り、浸漬塗装、など公知の塗装方法により行うことができる。また、トップコート層の厚みは、好ましくは1〜40μmであり、より好ましくは10〜30μmである。
〔加飾成形品〕
図3に示されるように、本発明の加飾成形品20は、少なくとも、成形品(被転写体5)の表面上に、プライマー層3と、部分的に設けられた意匠層2と、をこの順に有している
。加飾成形品20において、意匠層2は、艶消し剤を含む低艶部分を構成しており、プライマー層が部分に形成されている。また、図3に示されるように、本発明の加飾成形品20は、絵柄層4を有する水圧転写フィルムを用いた場合にはプライマー層3と被転写体5の間に絵柄層4を有しており、上述の工程(e)を行った場合には意匠層2の上にトップコート層6を有している。加飾成形品の各層の構成については、前述の〔水圧転写フィルム〕及び〔加飾成形品の製造方法〕の項目で説明した通りである。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
<実施例1−4及び比較例1>
水溶性フィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム(厚さ40μm)を用い、その片面に、下記のインキを用いて、グラビア印刷により意匠層(塗布量1g/m2、厚み3μm)を部分的に形成した。このとき、意匠層と絵柄層の同調が、下記の形態となるよう、意匠層を形成する位置を調整して、水溶性フィルムの表面上に意匠層が形成された部分と形成されていない部分とを形成した。次に、それぞれ表1に記載の面積割合(水溶性フィルムの意匠層側の表面の面積を100%とする)となるようにして、下記のインキを用いて、意匠層の上から、グラビア印刷により、プライマー層(2μm)を形成した。次に、硝化綿とアルキッド樹脂とを80:20の質量比で含む下記のインキを用いて、プライマー層の上に、グラビア印刷により、木目模様を有する絵柄層(3μm)を形成し、水溶性フィルム/意匠層/プライマー層/絵柄層が積層された水圧転写フィルムを得た。絵柄層の木目模様は、黒色インキ、焦茶色インキ、薄茶色インキの3種類のインキをこの順に用い、且つ黒色インキと焦茶色インキを柄状に、薄茶色インキを全面に印刷することにより形成し、黒色インキによって導管部分を表現した。なお、プライマー層の印刷に用いた版における凹部(インキが転写される部分)の形状は略菱形であり、この版によるプライマー層の印刷形状は、当該菱形が等間隔で多数配列した形状である。各版の印刷面における凹部の合計面積の割合は、表1に記載のプライマー層の面積割合と実質的に一致していた。
(意匠層を形成するインキ)
実施例1において、意匠層は、硝化綿とアルキッド樹脂とを5:2の質量比で含み、さらに艶消し剤としてのシリカ(体積平均粒径5μm)を含むインキを用いて形成した。硝化綿及びアルキッド樹脂の合計質量と、シリカとの質量比は、1:1とした。
(プライマー層を形成するインキ)
アクリルポリマーポリオール(重量平均分子量30,000、水酸基価80mgKOH/g)及びウレタンウレア樹脂(ガラス転移点40℃)を8:2の質量比で含む樹脂組成物を含むインキ
(絵柄層を形成するインキ)
硝化綿とアルキッド樹脂とを80:20の質量比で含み、着色剤として弁柄及びカーボンブラックを所定の配合比率で使用した着色インキ
(意匠層と絵柄層の同調)
意匠層と絵柄層は、意匠層を構成する低艶部分と、絵柄層の木目模様の導管部分(暗色部分)とを同調させた。
<加飾成形品の製造>
上記で得られた各水圧転写フィルムの絵柄層に、下記組成の活性剤組成物を10g/m2塗布し、スムージングロールで該活性剤組成物を均一にし、絵柄層の活性剤塗布工程(b)を経た後、水面に浮遊している水圧転写フィルムに被転写体(直径35mm、長さ250mmの円柱形状の部材を被転写体として使用)を押圧し、水圧によって絵柄層を被転写体の被転写面に密着させる工程(c)、水洗による脱膜工程(d)、及び2液硬化タイプのウレタン樹脂の塗料をスプレー塗装することにより、厚み20μmのトップコート層を形成する工程(e)を経て、加飾成形品を得た。
(活性剤組成物の組成)
フタル酸系アルキッド樹脂 6質量部
マイクロシリカ(顔料) 2質量部
フタル酸ジブチル 17質量部
溶剤(ブチルカルビトールアセテート) 60質量部
溶剤(ブチルセロソルブ) 15質量部
(意匠性評価)
前述の加飾成形品の製造で得られた各加飾成形品の表面の意匠性を目視にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
A:導管部とその他の部分の艶差が極めて大きく、導管部が凹部として明瞭に認識され、グロスマット効果に基づく意匠性が極めて高かった。
B:導管部とその他の部分の艶差が大きく、導管部が凹部として認識され、グロスマット効果に基づく意匠性が十分高かった。
C:導管部とその他の部分の艶差が十分あり、グロスマット効果を意匠として感じられた。
D:導管部とその他の部分の艶差が小さく、グロスマット効果による意匠がやや弱かった。
E:導管部とその他の部分の艶差がほとんど無く、グロスマット効果を得られなかった。
(転写加工性評価)
前述の加飾成形品の製造において、水圧転写フィルムを転写させた際の水圧転写フィルムの転写加工性(追従性)について、目視による観察により、以下の基準で評価した。
A:被転写体に良好に追従し、割れを一切生じることなく加飾成形品が得られた。
B:僅かに割れが生じたものの、意匠性にはほとんど影響を与えることなく転写加工を行うことができた。
C:割れが若干目立つものの、意匠性にあまり影響を与えることなく転写加工を行うことができた。
D:割れが目立ち、意匠性がやや損なわれた。
E:割れが著しい加飾成形品となった。あるいは被転写体に転写することができなかった。
Figure 0006856973
1 水溶性フィルム
2 意匠層
3 プライマー層
3a プライマー層の形成部
3b プライマー層の非形成部
4 絵柄層
5 被転写体
6 トップコート層
10 水圧転写フィルム
20 加飾成形品

Claims (9)

  1. 少なくとも、水溶性フィルムと、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する水圧転写フィルムであって、
    前記意匠層は、艶消し剤を含んでおり、
    前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、
    前記プライマー層は、部分的に設けられており、
    前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成されている、水圧転写フィルム。
  2. 前記プライマー層を形成する樹脂組成物は、ウレタン樹脂をさらに含む、請求項1に記載の水圧転写フィルム。
  3. 前記意匠層上において、前記プライマー層が形成されている部分と形成されていない部分とがパターン状に形成されている、請求項1または2に記載の水圧転写フィルム。
  4. 前記プライマー層の前記水溶性フィルムとは反対側に、絵柄層をさらに有する、請求項1〜3のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
  5. 前記絵柄層が木目模様を形成しており、前記意匠層が、前記木目模様の導管部分を形成している、請求項4に記載の水圧転写フィルム。
  6. 前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物の塗布又は印刷によりパターン状に形成されている、請求項1〜5のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
  7. 以下の工程(A)及び(B)を順に有する、水圧転写フィルムの製造方法。
    工程(A)水溶性フィルムの表面上に、艶消し剤を含む意匠層を部分的に積層する工程
    工程(B)前記意匠層の上から、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層を部分的に積層する工程
    前記工程(B)において、前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成する。
  8. 下記の工程(a)〜(d)を順に有する加飾成形品の製造方法。
    工程(a)請求項1〜7のいずれかに記載の水圧転写フィルムを、水溶性フィルム側が下向きで水面側に向くように水面に浮遊させる工程
    工程(b)前記水圧転写フィルムの前記プライマー層側に活性剤組成物を塗布する活性剤塗布工程
    工程(c)該工程(a)及び(b)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって前記プライマー層側を被転写体の被転写面に密着させる工程
    工程(d)該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する脱膜工程
  9. 少なくとも、成形品の表面上に、プライマー層と、部分的に設けられた意匠層とをこの順に有する加飾成形品であって、
    前記意匠層は、艶消し剤を含んでおり、
    前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、
    前記プライマー層は、部分的に形成されており、
    前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成されている、加飾成形品。
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