以下、本発明の実施の形態に係る標準試料について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、ICSI可能な顕微鏡を例示するが、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において、各図は本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。従って、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。なお、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
〔標準試料〕
図1は、本発明の一実施の形態に係る標準試料の組織切片を示す図である。図2Aは、偏光コントラストの反転前における図1の領域Aを拡大した拡大図である。図2Bは、偏光コントラストの反転後における図1の領域Aを拡大した拡大図である。なお、図1においては、観察倍率を20倍でPO観察を行っている状況下を示す。
図1、図2Aおよび図2Bに示す標準試料SP1は、第1の部位SP2と、第1の部位SP2と隣接し、卵子内の紡錘体と同等のリタデーションを有する第2の部位SP3と、を備える。第1の部位SP2は、生体組織と同等なリタデーション(複屈折により光学的に生じる位相差)を有する。ここで、生体組織と同等なリタデーションとは、紡錘体の背景となる卵子の細胞領域を想定しており、2nm未満、場合によってはゼロ(実質的に位相差がゼロの値の場合)であり得る。また、卵子内の紡錘体と同等のリタデーションとは、リタデーションの範囲が2〜5nmである。即ち、第1の部位SP2および第2の部位SP3は、互いのリタデーションが異なる。また、標準試料SP1は、観察像として観察される外観が環状、好ましくは円または楕円状をなし、その外径dは10mm以下であればよいが、好ましくは5±2mm以下である。なお、標準試料SP1の形状は、環状である必要はなく、例えば標準試料SP1の一部の環状部分を切り出して使用してもよい。環状の一部分または全体を使用することで、卵子と同様に異なるリタデーションが隣接した状態になるので、顕微操作による調整作業を行い易いという利点がある。また、標準試料SP1は、マウスの精巣由来である。ここで、精巣由来としては、マウス、豚、牛および馬等の哺乳類動物由来であり、人は除かれる。もちろん、精巣由来として、例えば両生類や魚類であってもよい。さらに、第1の部位SP2は、精巣中隔であり、第2の部位SP3は、精巣中隔の外周を覆う薄膜領域(白膜)である。
また、標準試料SP1は、組織固定液によって固定されている。組織固定液としては、ブアン液(bouin’s Fluid)が好ましい。さらに、第1の部位SP2および第2の部位SP3は、染色液によって染色されている。染色液としては、好ましくはヘマトキシリン溶液(Hematoxylin)およびヘマトキシリン・エオシン溶液(Hematoxylin-Eosin)を用いられる。より好ましくは、ヘマトキシリン溶液が用いられる。また、標準試料SP1は、スライドガラスSP4に載置され、封入剤が注入されてカバーガラス(図示せず)が被されている。
〔標準試料の製造方法〕
次に、標準試料SP1の製造方法について説明する。図3は、標準試料SP1の製造方法の概要を示すフローチャートである。なお、以下においては、標準試料SP1における第1の部位SP2および第2の部位SP3の各々のリタデーション等や各試薬による効果の違いを説明するため、既に作製済みの標準試料SP1に対してPO観察法で観察した場合における標準試料SP1の偏光コントラストの反転前後における拡大図を補助的に用いて説明する。
図3に示すように、まず、ユーザは、マウスの精巣を取得し(ステップS1)、ブアン液で固定して包理する(ステップS2)。
図4Aは、ブアン液で固定した標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転前の拡大図である。図4Bは、ブアン液で固定した偏光コントラストの反転後の拡大図である。図5Aは、一般的な組織固定方法で固定した標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転前の拡大図である。図5Bは、一般的な組織固定方法で固定した標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転後の拡大図である。
図4Aおよび図4Bに示すように、マウスの精巣は、ブアン液によって固定された場合、精巣管等で構成されている中心部の第1の部位SP2の組織から第2の部位SP3が剥離しない。これに対して、図5Aおよび図5Bに示すように、マウスの精巣は、一般的な組織固定方法で用いられるホルマリン液やパラホルムアルデヒド液を用いた場合、第1の部位SP2から第2の部位SP3が剥離する。この場合、第2の部位SP3は、顕微鏡の同視野内において、偏光像が黒く観察される部位と白く観察する部位とが混合する。このため、ユーザは、一般的な組織固定方法で固定されたマウスの精巣を顕微鏡でPO観察法によって観察した後に、卵子内の紡錘体をPO観察法で観察を行う場合、紡錘体が白く観察されるべきなのか、黒く観察されるべきなのかを判断することができない。しかしながら、図4Aおよび図4Bに示すように、ユーザは、標準試料SP1を用いて顕微鏡でPO観察法によって観察した後に、卵子内の紡錘体の観察を行う場合、コントラストの反転前後で第1の部位SP2および第2の部位SP3のコントラストが別々に反転するので、第1の部位SP2と第2の部位SP3とを容易に識別することができる。
図3に戻り、ステップS2以降の説明を続ける。
ステップS2の後、ユーザは、ブアン液で固定し、包理したマウスの精巣を用いて、組織切片を作製する(ステップS3)。
続いて、スライドガラスまたはシャーレ等に載置された組織切片に対してヘマトキシリン液を用いてヘマトキシリン染色を行う(ステップS4)。
図6Aは、ヘマトキシリン染色を行った標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転前の拡大図である。図6Bは、ヘマトキシリン染色を行った標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転後の拡大図である。図7Aは、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転前の拡大図である。図7Bは、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転後の拡大図である。図8Aは、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転前の拡大図である。図8Bは、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った標準試料SP1に対する偏光コントラストの反転後の拡大図である。
図6Aおよび図6Bに示すように、組織切片は、ヘマトキシリン液を用いてヘマトキシリン染色を行った場合、第2の部位SP3(白膜)に対して所望の偏光像を観察することができる。これに対して、図7Aおよび図7Bに示すように、組織切片は、一般的なヘマトキシリン・エオシン液を用いてヘマトキシリン・エオシン染色した場合、第2の部位SP3に所定の偏光像(白い偏光像)と異なる偏光像(黄色い偏光像)が観察される。この黄色い偏光像は、卵子内の紡錘体で観察される白い観察像(紡錘体)と著しく異なる。マウスの精巣の白膜は、エオシン陽性であり、エオシン染色によって何らかの偏光特性を持つことが考えられるが、図8Aおよび図8Bに示すように、へマトキシリン・エオシン液を用いた場合であっても、第2の部位SP3(白膜)に対して所望の偏光像を観察することができる場合がある。このため、本発明の一実施の形態では、組織切片に対しては、好ましくはヘマトキシリン・エオシン液またはヘマトキシリン液を用いて染色することが望ましく、より好ましくは、ヘマトキシリン液を用いて染色することが望ましい。
図3に戻り、ステップS4以降の説明を続ける。
ステップS4の後、ユーザは、ヘマトキシリン染色を行ったスライドガラス上の組織切片に対して、封入剤を注いでカバーガラスを配置する(ステップS5)。
その後、ユーザは、PO観察法が可能な顕微鏡を用いて標準試料SP1に対してPO観察する(ステップS6)。この場合、ユーザは、互いに異なる第1の部位SP2および第2の部位SP3のリタデーションを観察することによって、標準試料SP1が適切に製作できたか否かを目視によって判断する。ステップS6の後、標準試料SP1の作製を終了する。
このような方法によって製作された標準試料SP1は、PO観察法で卵子内の紡錘体を確認する前に、PO観察法によって第2の部位SP3を観察することで、PO観察法で用いる光学素子の調整不足を判断することができる。
次に、上述した標準試料SP1を用いて顕微鏡でICSIを行う際の顕微鏡の調整方法について説明する。なお、以下においては、顕微鏡の調整方法の説明に先立って、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡の構成を説明後、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡の調整方法について説明する。
〔顕微鏡の構成〕
図9は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡の構成を示す概念図である。図10は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡の概略構成を示すブロック図である。図9および図10において、顕微鏡1が載置される平面をXY平面とし、XY平面と垂直な方向をZ方向として説明する。
図9および図10に示す顕微鏡1は、標本SPが収容されたシャーレ100を観察する顕微鏡本体部2と、顕微鏡1の各種の操作の入力を受け付ける操作入力部3と、顕微鏡本体部2が撮像した画像データに対応する画像を表示する表示部4と、顕微鏡1を駆動する各種プログラムやパラメータ等を記録する記録部5と、顕微鏡本体部2および表示部4を制御する制御部6と、を備える。顕微鏡本体部2、操作入力部3、表示部4、記録部5および制御部6は、データが送受信可能に有線または無線で接続されている。
まず、顕微鏡本体部2について詳細に説明する。顕微鏡本体部2は、光源10と、ポラライザ11と、コンペンセータ12と、コンデンサターレット13と、コンデンサレンズ14と、ステージ15と、ステージ位置検出部16と、レボルバ17と、対物レンズ18と、レボルバ位置検出部19と、DICプリズム20と、アナライザ21と、結像レンズ22と、光路分割プリズム23と、撮像部24と、ミラー25と、接眼レンズ26と、駆動部27と、を備える。
光源10は、ハロゲンランプ、キセノンランプまたはLED(Light Emitting Diode)等によって構成される。光源10は、照明光を標本SPに向けて出射する。
ポラライザ11は、光源10とコンペンセータ12との光軸XA上に配置され、光源10が照射する照明光の1方向の偏光成分のみを透過させる。ポラライザ11は、光源10の光路の光軸XAを中心にして回転可能に配置される。ポラライザ11は、フィルタ等の光学素子の1つである偏光板を用いて構成される。また、ポラライザ11は、駆動部27の駆動制御のもと、ステッピングモータまたはDCモータ等によって構成されたモータ11aによって光軸XAを中心にして回転させられる。
コンペンセータ12は、標本SPの異方性による位相差(リタデーション)を測定するための光学素子であり、ポラライザ11を透過した光のリタデーションを調整する。コンペンセータ12は、対物レンズ18の光軸を中心として回転可能にコンデンサレンズ14とポラライザ11との間の光路上に配置される。コンペンセータ12は、液晶または波長板を用いて構成される。具体的には、コンペンセータ12は、ベレークコンペンセータ、セナルモン式コンペンセータ、ブレースケーラコンペンセータ、石英楔コンペンセータおよび液晶変調素子を用いて構成される。コンペンセータ12としては、卵子の紡錘体を観察するPO観察法を行う際に視野のリタデーションがほぼ均一となることが望ましいため、液晶変調素子、セナルモン式コンペンセータ、ブレースケーラコンペンセータが好ましい。なお、コンペンセータ12として、液晶変調素子を用いる場合、液晶分子を電気的に制御することによって、リタデーションを変化させることができる。また、コンペンセータ12として、セナルモン式コンペンセータを用いる場合、コンペンセータ12内の波長板に対するポラライザ11の回転によって、コンペンセータ12のリタデーションを変化させることができる。さらに、コンペンセータ12として、ブレースケーラコンペンセータを用いる場合、コンペンセータ12内のプリズムの回転によって、コンペンセータ12のリタデーションを変化させることができる。さらにまた、コンペンセータ12は、駆動部27の駆動制御のもと、ステッピングモータまたはDCモータ等によって構成されたモータ12aによって光軸XAを中心にして回転させられる。
コンデンサターレット13は、観察方法や倍率に応じて切り替えて用いられる複数の光学素子を有し、光軸XA上に回転可能に配置される。コンデンサターレット13は、観察方法に応じて回転させられることによって、いずれかの光学素子を光軸XA上に配置する。また、コンデンサターレット13は、駆動部27の駆動制御のもと、ステッピングモータまたはDCモータ等によって構成されたモータ13aによって回転させられる。
図11は、コンデンサターレット13の構成を示す図である。図11に示すように、コンデンサターレット13は、開口130と、RC観察用開口板131と、RC観察用開口板132と、DICプリズム133と、を有する。
開口130は、コンデンサターレット13とともに開口板(空穴)を構成する。開口130は、光源10からの照明光を遮らない十分な大きさで形成され、開口数の高い照明を実現する。開口130は、たとえば、顕微鏡1が明視野観察またはPO観察法を行う際に用いられる。具体的には、開口130は、顕微鏡1が明視野観察を行う場合、ユーザが顕微授精の準備のため、4倍または10倍の対物レンズ18を用いてシャーレ100内における場所探しやマニピュレータによって操作されるマイクロピペットの針先の位置決め等を行う際に用いられる。
RC観察用開口板131は、RC観察に用いられる開口板であり、光軸XA上に配置された際に光軸XAから偏心した位置に形成された開口131aの一部に偏光板131bを有する。開口131aは、RC観察用開口板131の中心からずれた位置に形成されることによって偏射照明を実現する。RC観察用開口板131は、たとえば、顕微鏡1が20倍のRC観察法を行う場合に用いられる。
RC観察用開口板132は、RC観察に用いられる開口板であり、光軸XA上に配置された際に光軸XAから偏心した位置に形成された開口132aの一部に偏光板132bを有する。開口132aは、RC観察用開口板132の中心からずれた位置に形成されることによって偏射照明を実現する。RC観察用開口板132は、たとえば、顕微鏡1が40倍のRC観察法を行う場合に用いられる。
DICプリズム133は、コンデンサターレット13の回転により光軸XA上に配置される。DICプリズム133は、後述する対物レンズ18側の像側に配置されたDICプリズム20と対を成し、微分干渉光学系を構成する。DICプリズム133は、ノマルスキープリズム等を用いて構成される。DICプリズム133は、たとえば、顕微鏡1が60倍のDIC観察法を行う際に用いられる。
このように構成されたコンデンサターレット13は、観察法に応じて、コンデンサターレット13がモータ13aによって回転させられることによって、光軸XA上に配置される光学素子が切り替えられる。具体的には、コンデンサターレット13は、RC観察を行う場合、RC観察用開口板131またはRC観察用開口板132が光軸XA上に配置され、DIC観察法を行う場合、DICプリズム133が光軸XA上に配置され、明視野観察法またはPO観察法を行う場合、開口130が光軸XA上に配置される。
コンデンサレンズ14は、光軸XA上に配置され、光源10から出射された照明光を集光し、シャーレ100内の標本SPを含む領域に対して均一に照射する。なお、コンデンサレンズ14は、光源10から出射された照明光の光量を調整可能な視野絞りと、視野絞りの径を変化させる視野絞り操作部とを設けてもよい。
ステージ15は、XYZ方向に移動自在に構成されている。ステージ15は、駆動部27によってXY平面内およびZ方向に移動する。ステージ15は、標本Sが配置されたシャーレ100が載置される。ステージ15は、制御部6の制御のもと、ステージ位置検出部16によってXY平面における所定の原点位置が検出され、この原点位置を基点として駆動部27の駆動量が制限されることによって、標本SP上の所望の観察箇所(観察領域)に移動する。また、ステージ15は、制御部6の制御のもと、ステージ位置検出部16によってZ方向における位置が検出され、この位置を基準として駆動部27の駆動量が制限されることによって、標本SPに対するコンデンサレンズ14および対物レンズ18のピントが合う位置(合焦位置)に移動する。また、ステージ15は、駆動部27の駆動制御のもと、ステッピングモータまたはDCモータ等によって構成されたモータ15aによってXY平面内およびZ方向に移動させられる。なお、ステージ15には、シャーレ100を一定温度に保持する加温部を設けてもよい。また、ステージ15は、電動である必要はなく、手動で移動可能であってもよい。
ここで、標本Sが配置されたシャーレ100について詳細に説明する。図12は、標本Sを含むシャーレ100の平面図である。図13は、図12のA−A線断面図である。図12および図13に示すように、顕微授精で用いられるシャーレ100は、卵子に精子を授精させるICSI用ドロップR1(培養液)および精子を選別する精子選別用ドロップR2(培養液)が形成され、各ドロップが空気に触れて細菌に感染することと乾燥とを防止するミネラルオイルWaによって覆われている。なお、シャーレ100上におけるドロップの数は、適宜変更することができる。
ステージ位置検出部16は、エンコーダや光フォトインタラプタ等を用いて構成され、ステージ15のXY平面およびZ方向におけるステージ15のステージ位置を検出し、この検出結果を制御部6に出力する。なお、ステージ位置検出部16は、制御部6から入力される駆動信号に応じて駆動する駆動部27のパルス数に基づいて、ステージ15のステージ位置を検出し、この検出結果を制御部6に出力してもよい。
レボルバ17は、複数の対物レンズ18が装着される。レボルバ17は、光軸XAに対して回転自在に設けられ、対物レンズ18を標本SPの下方に配置する。レボルバ17は、スイングレボルバ等を用いて構成される。レボルバ17は、駆動部27の駆動制御のもと、ステッピングモータまたはDCモータ等によって構成されたモータ17aによって回転させられる。また、レボルバ17は、光軸XA方向に沿って移動可能に設けられ、駆動部27によってZ方向の上下方向へ移動する。なお、レボルバ17に対して、試料側を光軸XA方向に移動させる焦準機構を別途設けてもよい。
対物レンズ18は、標本Sを挟んでコンデンサレンズ14と対向する光軸XA上の位置に配置される。対物レンズ18は、対物レンズ181と、対物レンズ182と、対物レンズ183と、を有する。対物レンズ181は、卵子の観察に適した倍率、たとえば10倍または20倍等の低倍率を有する対物レンズであり、RC観察法に用いられる。対物レンズ181は、対物レンズ181の瞳位置に、透過率の異なる3つの領域を有するモジュレータ1811を有する。モジュレータ1811は、100%の透過率を有する領域1811aと、25%程度の透過率を有する領域1811bと、0%の透過率を有する領域1811cと、を有する。モジュレータ1811は、コンデンサレンズ14の瞳位置に配置されたRC観察用開口板131およびRC観察用開口板132と光学的に共役な関係を有する。また、対物レンズ181は、卵子の紡錘体を主な観察対象とし、ほぼ同程度の倍率が要求されるPO観察法にも適用される。対物レンズ182は、精子の観察に適した倍率、たとえば60倍または100倍等の高倍率を有する対物レンズであり、DIC観察法に用いられる。対物レンズ183は、マイクロピペットの針先の観察に適した倍率、たとえば、4倍の低倍率を有する対物レンズであり、明視野観察に用いられる。
レボルバ位置検出部19は、レボルバ17のZ方向における位置を検出し、この検出結果を制御部6へ出力する。レボルバ位置検出部19は、エンコーダや光フォトインタラプタ等を用いて構成される。なお、レボルバ位置検出部19は、制御部6から入力される駆動信号に応じて駆動する駆動部27のパルス数に基づいて、レボルバ17のZ方向における位置を検出し、この検出結果を制御部6に出力してもよい。
DICプリズム20は、DICプリズム133と対を成し、微分干渉光学系を構成する。DICプリズム20は、ノマルスキープリズム等を用いて構成される。DICプリズム20は、対物レンズ18とアナライザ21との間の光軸XA上に対して挿脱可能に配置される。また、DICプリズム20は、駆動部27の駆動制御のもと、ステッピングモータまたはDCモータ等によって構成されたモータ20aによって光軸XA上に配置される。
アナライザ21は、対物レンズ18の後段の観察側の光軸XA上に配置され、ポラライザ11との相対的な位置関係に応じて標本SPを透過した光の1方向の偏光成分のみを透過させる。具体的には、ポラライザ11およびアナライザ21は、互いに偏光方向が直交するクロスニコルの状態になるように配置される。また、アナライザ21は、コンデンサターレット13のRC観察用開口板131の偏光板131bの振動方向に対して45度方向になるように配置される。これにより、顕微鏡1は、観察に支障なくRC観察法を行うことができる。なお、アナライザ21は、光軸XA上に進退可能に配置されてもよい。
結像レンズ22は、対物レンズ18から出射された光を集光して観察像を結像する。結像レンズ22は、一または複数のレンズを用いて構成される。
光路分割プリズム23は、結像レンズ22で結像された観察像の光を撮像部24とミラー25に分割する。光路分割プリズム23は、接合面に光を分割するためのコーティングが施されたプリズムを用いて構成される。
撮像部24は、CCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を用いて構成され、結像レンズ22および光路分割プリズム23を経て入射された標本SPの観察像を撮像して画像データを生成し、この画像データを制御部6へ出力する。
ミラー25は、結像レンズ22から出射された観察像を接眼レンズ26へ向けて反射する。なお、ミラー25と接眼レンズ26との光路上に、複数のリレーレンズを設けてもよい。
接眼レンズ26は、結像レンズ22、光路分割プリズム23およびミラー25を介して入射された観察像を拡大する。接眼レンズ26は、一または複数のレンズを用いて構成される。
駆動部27は、駆動ドライバを用いて構成され、制御部6の制御のもと、顕微鏡本体部2の各光学素子を移動または回転させる。具体的には、駆動部27は、制御部6の制御のもと、モータ11a、モータ12a、モータ13a、モータ15a、モータ17a、モータ20aそれぞれを駆動することによって、ポラライザ11、コンペンセータ12、コンデンサターレット13、ステージ15、レボルバ17、DICプリズム20およびアナライザ21を所定の位置に回転または移動させる。
操作入力部3は、顕微鏡1の各種の操作の入力を受け付ける。操作入力部3は、キーボード、マウス、ジョイスティック、タッチパネルおよび各種ボタン等を用いて構成され、各種スイッチの操作入力に応じた操作信号を制御部6に出力する。
図14は、操作入力部3の構成を示す図である。図14に示すように、操作入力部3は、各観察法を指示する指示信号の入力を受け付けるボタンB1〜B5、コントラストを調整する指示信号の入力を受け付けるボタンB6,B7、対物レンズ18の倍率を指示する指示信号の入力を受け付けるボタンB8〜B13、ステージ15の位置を登録する指示信号の入力を受け付けるボタンB14、ステージ15のXY平面の移動を指示する指示信号の入力を受け付けるボタンB15、およびステージ15のZ方向の移動を指示する指示信号の入力を受け付けるボタンB16を有する。
表示部4は、液晶または有機EL(Electro Luminescence)等からなる表示パネルを用いて構成される。表示部4は、制御部6を介して撮像部24から入力される画像データに対応する画像を表示する。
記録部5は、顕微鏡1に実行させる各種プログラム、プログラムの実行中に使用される各種データを記録する。記録部5は、フラッシュメモリおよびRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリを用いて構成される。また、記録部5は、観察毎に光軸XA上における各光学素子それぞれの配置情報が含まれる。
図15は、設定情報記録部51が記録する設定情報を示す図である。図15に示すように、設定情報T1には、各観察法に応じた各光学素子の位置情報が記録されている。具体的には、図15に示すように、明視野観察法を行う場合、ポラライザ11がアナライザ21に対してパラニコル状態になるように配置され、コンペンセータ12が光軸XA上に、コンデンサターレット13の空穴(開口130)が光軸XA上に配置され、対物レンズ18が4倍、DICプリズム20が光軸XA外に配置され、アナライザ21が光軸XA上に配置される。
制御部6は、CPU(Central Processing Unit)等を用いて構成され、顕微鏡1を構成する各部の動作を統括的に制御する。制御部6は、操作入力部3から入力される操作信号に応じて、顕微鏡1を構成する各ユニットを駆動する。具体的には、制御部6は、操作入力部3から明視野観察を指示する指示信号が入力された場合、設定情報記録部51が記録する設定情報を参照し、観察法に応じて、ポラライザ11、コンペンセータ12、コンデンサターレット13、ステージ15、レボルバ17、DICプリズム20およびアナライザ21をそれぞれ駆動させて光軸XA上に配置して指示信号の観察法に変更する。たとえば、制御部6は、操作入力部3から入力される指示信号に応じてDIC観察が指示された場合、駆動部27を駆動することによって、レボルバ17を回転させて対物レンズ182を光軸XA上に配置し、コンデンサターレット13を回転させて光軸XA上にDICプリズム133、DICプリズム20を配置させる。また、制御部6は、顕微鏡1がPO観察法を行う際に、リタデーションが0になる位置を基準に含む範囲で駆動部27にコンペンセータ12を駆動させることによって、リタデーションを増減させる。具体的には、制御部6は、リタデーションが0になる位置をまたぐ角度の範囲内で駆動部27にコンペンセータ12を繰り返し回転させる。
このように構成された顕微鏡1は、制御部6の制御のもと、ポラライザ11、コンペンセータ12、コンデンサターレット13、レボルバ17、DICプリズム20およびアナライザ21それぞれの光軸XA上における配置位置を切り替えることで、明視野観察法、RC観察法、DIC観察法を行うことができる。たとえば、制御部6は、顕微鏡1が観察法をRC観察で行う場合、レボルバ17を回転させることによって、対物レンズ181を光軸XA上に配置させるとともに、コンデンサターレット13を回転させることによって、光軸XA上にRC観察用開口板131を配置させる。さらに、制御部6は、DICプリズム20を光軸XA外に配置させる。これにより、顕微鏡1の観察法をRC観察法に切り替えることができる。なお、DICプリズム20は、RC観察法の場合、光軸XA上に配置されていてもよい。
また、制御部6は、顕微鏡1が観察法をDIC観察法で行う場合、レボルバ17を回転させることによって、対物レンズ182を光軸XA上に配置させるとともに、コンデンサターレット13を回転させることによって、光軸XA上にDICプリズム133を配置させる。さらに、制御部6は、駆動部27を駆動することによって、DICプリズム20を光軸XA上に配置させるとともに、光軸XAを中心にポラライザ11を回転させることによって、ポラライザ11とアナライザ21とをクロスニコルの状態にする。これにより、顕微鏡1の観察法をDIC観察法に切り替えることができる。
また、制御部6は、顕微鏡1が観察法をPO観察法で行う場合、レボルバ17を回転させることによって、対物レンズ181を光軸XA上に配置させるとともに、コンデンサターレット13を回転させることによって、光軸XA上に開口130(空穴)を配置させる。さらに、制御部6は、光軸XAを回転軸としてポラライザ11を回転させることによって、ポラライザ11とアナライザ21とをクロスニコルの状態にする(図16を参照)。これにより、制御部6は、顕微鏡1の観察法をPO観察法(20倍)に切り替えることができる。また、コンペンセータ12は、PO観察法の場合、標本SPを通過する光軸XAを中心に任意の角度で回転させられる。
〔顕微鏡の調整方法〕
次に、上述した標準試料SP1を用いて顕微鏡1のPO観察法を行う際の調整方法について説明する。図17は、本発明の一実施の形態に係る標準試料SP1を用いて顕微鏡1のPO観察法を行う際の調整方法の概要を示すフローチャートである。
図17に示すように、まず、ユーザは、操作入力部3のボタンB4を押下することによって、顕微鏡1にPO観察のための素子を設定する(ステップS101)。具体的には、制御部6は、操作入力部3から入力される指示信号に応じて、顕微鏡1を構成する各素子をPO観察が可能な状態に設定する(上述した図16を参照)。
続いて、ユーザは、ステージ15上に標準試料SP1を載置し、標準試料SP1のPO観察を行う(ステップS102)。
その後、ユーザは、標準試料SP1に対して目的の偏光像が観察できたか否かを判断する(ステップS103)。具体的には、標準試料SP1に対して第2の部位SP3(白膜)の偏光像のコントラストの変化を観察できたか否かを判断する。標準試料SP1に対して目的の偏光像を観察できた場合(ステップS103:Yes)、ユーザは、顕微鏡1の調整方法を終了し、卵子の紡錘体を観察しながら、ICSIを行う。この場合において、ユーザは、卵子内の標準的な紡錘体の位置(卵子の第1極体の近傍)のみならず細胞全体を顕微鏡観察して、卵子の紡錘体を観察できないとき、顕微鏡1が調整済みであるため、卵子の状態が良くないと判断し、精子を注入することなく、別の卵子を用いて精子を注入する。一方、観察している卵子が形状等からM1期と判断された場合には、インキュベータ内でさらに培養を行った後に紡錘体の観察を再度行うのが望ましい。これに対して、標準試料SP1に対して目的の偏光像を観察できない場合(ステップS103:No)、ユーザは、上述したステップS101へ戻る。この場合、ユーザは、PO観察法に用いる各素子、例えばポラライザ11やアナライザ21に対して微調整を行い、再度、標準試料SP1の観察を行って、標準試料SP1に対して目的の偏光像を観察できるまで、顕微鏡1を構成する各素子の調整を行う。
このように卵子の紡錘体を観察する前に、紡錘体と同等のリターデーションを有する標準試料SP1を用いて顕微鏡観察しながら顕微鏡1を構成する各素子の調整を行うので、顕微鏡1の調整不足であるのか、卵子の状態が悪いのか、を判断することができる。
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、標準試料SP1を用い、顕微鏡観察下で顕微鏡1を構成する各素子の調整を行うので、PO観察法で卵子内の紡錘体を確認する前に、PO観察法で用いる光学素子の調整不足を判断することができる。この結果、紡錘体体が卵子内の標準の位置に存在しない場合であっても、紡錘体の位置を顕微鏡下で探査することができるようになる。また、卵子内の紡錘体を確認できない場合、卵子の状態に起因することを判断することができる。
なお、本発明の一実施の形態では、標準試料SP1を用いて顕微鏡1の各素子の調整を行った後に、卵子の観察や処置を行っていたが、例えば顕微鏡1の同視野内に標準試料SP1および卵子を配置し、その視野内で顕微鏡1の各素子の調整を行いながら、卵子の観察や処置を行ってもよい。また、標準試料SP1を用いた各素子の調整および/または卵子内の紡錘体の確認については、顕微鏡下での観察状態を、接眼レンズ26を介して直接観察してもよいし、表示部4に表示された画像により観察してもよい。これら各素子の調整および/または紡錘体の確認については、画像認識処理により自動的に判定結果を表示部4に出力するようにしてもよい。
また、本発明の一実施の形態では、標準試料SP1として、外観が円または楕円状である状態とは、殆どの天然の生物由来の試料がそうであるように、曲率の正負の符号が逆転しない程度に歪んだ形状を有しているような円または楕円状の形状であってもよい。また、標準試料SP1として生物由来の材料を用いて人工的に製造したり、幹細胞を用いた再生技術によって同一の生物材料を人為的に再生された非天然の試料であってもよい。