以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明に係る車両制御装置を、車両の車両制御システムに適用した場合を例にして説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制御装置100を有する車両制御システム1000のブロック図である。本実施形態の車両制御システムは、操舵ユニット1と、ステアリングホイール2と、車輪3、4と、車両制御装置100と備えている。本実施形態の車両制御装置100は、ステアリングホイール2の操作に応じて、車輪3、4の操舵を制御する。
操舵ユニット1は、シャフト11、モータ12、操舵角センサ13、トルクセンサ14、ギア(図示しない)を有している。シャフト11は、左右の駆動輪に連結されている。ギアには、ラック&ピニオン式のステアリングギアが使用され、シャフト11の回転に応じて、前輪3、4を転舵する。
モータ12は、例えばブラシレスモータであり、モータ12の出力軸は減速機を介してラックギアと接続され、制御装置30からの制御指令に応じて、ラックに対して、前輪3、4を操舵するための操舵トルクを出力する。また、モータ12は、制御装置30からの制御指令に応じて、操舵量を付与させるように動作して操舵トルクを出力する。操舵量は、外乱抑制のための転舵を促すために操舵ユニット1に付与される。例えば、横風や路面の傾斜などの外乱が入力され、車両の挙動に影響を及ぼすときには、外乱抑制のための操舵トルクをステアリングに付与することで、横風が吹く方向又は傾斜の下がっている方向への操舵操作が抑制される。このような、外乱による車両の片流れ制御は、例えば車線逸脱防止支援システム等に採用されている。なお、操舵ユニット1のステアリング機構が電子的に制御できる場合には、モータ3はステアリング機構に対して直接、操舵量を発生させるように、設置されればよい。操舵ユニット1が電動油圧式パワーステアリングで構成されている場合には、モータ3は電動ポンプに対して動力を供給する。モータ12は、本発明の「アクチュエータ」に相当する。
操舵角センサ13は、モータ12の回転角を検出することで、前輪3、4の舵角(操舵角)を算出する。モータ12の回転角と、前輪3、4の舵角との間には相関性がある。操舵角センサ13は、モータ12の回転角と前輪3、4の舵角との対応関係を示すマップを参照しつつ、モータ回転角に対応する舵角を算出することで、前輪3、4の舵角を検出する。
トルクセンサ14は、ステアリングホイール2と操舵ユニット1とを連結する連結機構に設けられており、ドライバーのステアリングホイール2の操舵量に相当する操舵トルクを検出する。操舵角センサ13及びトルクセンサ14は、検出値を制御装置30に出力する。
カメラ20は、車両の前方の状態を撮像する撮像装置である。カメラ20は、車両の走行中に動作し、車両の周囲を検出するセンサとして使用される。カメラ20は、撮像画像のデータを制御装置30に出力する。なお、車両の前方を検出するセンサは、カメラ20に限らず、レーダやソナー等でもよい。また、カメラ20に限らず、例えば、自車両が、車車間通信を用いて、他車両の情報を取得することで、自車両の前方の状態を検出してもよい。
車両制御装置100は、モータ12、操舵角センサ13、トルクセンサ14、車両状態センサ15、カメラ20、及び制御装置30を備えている。車両制御装置100の各構成は、相互に情報の授受を行うためにCAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続される。車両制御装置100は、操舵角センサ13及びトルクセンサ14から入力される検出データに基づき、操舵制御を実行する。ステアリングホイール2の操舵量と、操舵角センサ13で検出された実際の操舵角との間にズレが生じている場合には、車両制御装置100は、操舵角センサ13で検出された操舵角が、ステアリングホイール2の操舵量と一致するような、制御操舵量を演算し、制御操舵量に応じた制御指令値をモータ12に出力する。
車両状態センサ15は、車両の現在の状態を検出するセンサであり、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等のセンサである。本実施形態において、車両状態センサ15は、自車両の走行路面の傾斜角を予測するために使用される。
本実施形態の車両制御装置100の制御装置30は、車両制御プログラムが格納されたROM12と、このROM12に格納されたプログラムを実行することで、本実施形態の車両制御装置100として機能する動作回路としてのCPU11と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM13とを備える、特徴的なコンピュータである。
本実施形態の車両制御プログラムは、車両の周囲の状態を検出し、検出結果に応じて車両の操舵制御を実行して、車両の横方向への動きを発生させる制御手順を実行させるプログラムである。このプログラムは本実施形態の車両制御装置100の制御装置30により実行される。
本実施形態に係る車両制御装置100の制御装置30は、周囲状況検出機能、走行路面の傾斜変化を予測する傾斜変化予測機能、操舵量を付与するための制御指令値を演算する演算機能、操舵制御処理を実行する機能を備える。各処理を実現するためのソフトウェアと上述したハードウェアの協働により、上記各処理を実行する。
ここで、路面のカント角と車両の状態の関係について、図2を用いて説明する。図2は、路面のカント角と車両状態の関係を示すための図である。(a)〜(c)は時系列でならんでおり、(a)、(b)、(c)の順番で推移する。なお、カント角は、水平面と路面との間の角度である。中心軸Dは、路面に対して法線方向の軸であり、車線中心軸である。
図2(a)に示すように、車両が左下がりの傾斜になっている路面を走行していたとする。路面が左下がりの傾斜から右下がりの傾斜に変化し、車両の状態は図2(a)の状態から図2(b)の状態に変化したとする。カント角の変化に伴い、路面の中心軸Dの傾きは左向きから右向きに変化する。路面の中心軸Dの傾きが左向きから右向きに変化すると、タイヤに力(図2(c)の矢印Fに相当)が加わり、車両はカント角が変化する方向へ振られる。すなわち、横向きの力が車両にかかり、ステアが振られてしまう。
次に、図2に示すようにカント角が変化した場合の車線維持制御について説明する。車線維持制御では、自車両の横方向の位置が目標軌跡からずれた場合に、自車両の走行軌跡を目標軌跡に戻すように操舵量を制御する。横方向は、路面上において、自車両の進行方向に対して鉛直方向である。例えば、自車両が自動運転で直線状の走行車線を走行している状態で、外乱により横方向の力が車両に加わると、車両は横方向にスライドするため、車両の横方向の位置は目標軌跡からずれて、偏差が生じる。自動運転システムは、目標軌跡に対する横方向の偏差に対して、自車両の走行軌跡を目標方向に戻すような操舵力を付与する。このとき、操舵力を付与するための制御操舵量は、偏差の時間経過に対するゲイン設定により決まり、偏差が大きいほど操舵量は大きくなる。これにより、自車両は目標軌跡に追随して走行できる。
このような車線維持制御の下、図2に示すようにカント角が変化した場合には、車両が横方向の力を受けることで、自車両が実際に横方向に移動していることを検出すると、自車両の走行軌跡を目標軌跡に戻すように、操舵量を制御することになる。すなわち、車両維持制御による操舵量の制御は、車両が図2(c)に示す状態になったときに、実行される。しかしながら、車両が実際に横方向に移動してから、偏差を小さくするようにゲインを大きくしたとしても、フィードバック制御の遅れ等により、目標軌跡に対する自車両の偏差は大きくなってしまう。本実施形態に係る車両制御装置100は、以下に説明する車両制御方法により、傾斜変化を予測して、目標軌跡への追随性を高めるような制御を実行する。
図3は、本実施形態に係る車両制御システム1000が実行する操舵制御処理の制御手順を示すフローチャートである。図3に示す制御フローは、車線維持制御の下で実行され、所定の周期で繰り返し実行される。
ステップS1にて、制御装置30は、自車両の前方を撮像した撮像画像をカメラ20から取得し、操舵角センサ13から現在の操舵角のデータを取得する。また、制御装置30は、車両状態センサ15に含まれる加速度センサ、車速センサ等から、加速度データ及び車速データ等、車両の状態を示すデータを取得する。
ステップS2にて、制御装置30は、車両状態センサ15から取得した検出データを用いて、現在の傾斜変化量を予測する。傾斜変化量の予測は、実際に車両に生じている横加速度と、車両の現在の走行状況から予測される横加速度との差により予測できる。実際の横加速度は、加速度センサの検出値から算出される。横加速度は、車速とヨーレートから予測され、あるいは、車速と操舵角から予測される。傾斜変化量は横角度に限らず、カント角から予測されてもよい。例えば、制御装置30は、車両に搭載された勾配センサを用いて、現在のカント角を所定の周期で検出し、カント角の時間変化からカント角の変化量を演算する。時間あたりのカント角の変化量が大きいほど、予測される傾斜変化量は大きくなる。なお、傾斜変化量は、カメラ20の撮像画像により予測されてもよい。例えば、制御装置30は、カメラ20の撮像画像を用いて、自車両の前方に位置する路面の傾斜を検出し、現在の走行路面の傾斜角と、前方の走行路面の傾斜角との差を演算する。演算された差の変化量が、傾斜変化量に相当する。
ステップS3にて、制御装置30は、予測された傾斜変化量と変化量閾値とを比較する。変化量閾値は、予め設定された閾値である。傾斜変化量が変化量閾値未満である場合には、制御装置30はステップS4の制御フローを実行し、傾斜変化量が変化量閾値以上である場合には、制御装置30はステップS5の制御フローを実行する。
ステップS4にて、制御装置30は積分増加ゲイン(ki)を通常ゲインに設定する。通常ゲインは1である。ステップS5にて、制御装置30は積分増加ゲイン(ki)を増加ゲインに設定する。増加ゲインは1より大きい値である。ステップS6にて、制御装置30は、ステップS4又はステップS5で設定された積分項増加ゲインを用いて、操作制御を実行する。
ステップS4からステップS6の制御フローの詳細を、図4を参照しつつ説明する。図4は、操舵制御のブロック線図である。図5は、自車両と他車両との位置関係を示す図である。図5において、ydは目標軌跡Cに対する、自車両の横方向のずれ量を示す。
制御装置30は、ずれ量(yd)を入力とし、操舵制御量(δconf)を出力する。ずれ量は、自車両の位置と目標軌跡との横方向の偏差である。制御装置30は、カメラ20等を用いて、走行車線における自車両の位置を測定している。自車両が目標軌跡に追随して走行している場合には、ずれ量はゼロになる。一方、路面の傾斜変化によりカント角が変化し、自車両が横方向の力を受けた場合には、自車両の横方向の位置は目標軌跡から外れるため、ずれ量はゼロより大きくなる。
操舵制御量(δconf)は操舵量を発生させるために必要な操舵トルク指令値である。操舵トルク指令値は操舵ユニット1に入力され、操舵ユニット1は指令値に応じた操舵量(操舵トルク)を出力する。K1は、ずれ量に対する指令値(ycr)を入力とし、操舵量を出力とした場合の伝達要素を表している。ki、1/s、及びK2は、差分(Δy)を入力とし、操舵量を出力とした場合の伝達要素を表している。差分(Δy)は、ずれ量(ycr)とセンサにより検出されたずれ量(yd_0)との差分(Δyd)である。kiは、積分要素にかかるゲインであり、積分増加ゲインである。K2は積分結果にかかるゲインである。また1/sはラプラス変換を表している。
ずれ量の指令値(ycr)は、自車両40の位置が目標軌跡Cに対してずれている場合に、自車両40の走行軌跡を自車両40の目標軌跡と一致させるために、自車両40を横方向に移動させるための目標値である。自車両の走行軌跡は自車両が実際に走行する経路の軌跡を示している。目標軌跡は、自車両が自動運転等により走行する際に目標となる走行の軌跡である。目標軌跡は、例えばカメラ20の撮像画像等により求めることができる。制御装置30は、図4のブロック線図で示される伝達関数を用いて、ずれ量の指令値(ycr)に対する操舵制御量(δconf)を演算する。操舵ユニット1は、操舵制御量(δconf)の入力に対して操舵トルクを出力する。なお、本来、操舵ユニット1の出力は、前輪3、4の操舵トルクとなるが、図5では便宜上、自車両40の横方向のずれ量(yd)としている。このずれ量(yd)は、操舵制御量(δconf)に応じて前輪3、4を操舵した後の、自車両40のずれ量を示している。外乱がある場合には、操舵ユニット1の出力に相当するずれ量は、指令値(ycr)対して大きくずれることになる。
伝達関数は、ずれ量(yd)に対して操舵量を付与するための制御関数であって、指令値(ycr)に比例する比例項と、ずれ量の差分(Δy)に応じたFB(フィードバック)項を含んでいる。比例項の比例係数はK1である。FB項は、検出ユニット60により検出された検出値をフィードバックし、検出値とずれ量の指令値との差分をとり、差分に対して積分値を演算する。検出ユニット60は、操舵角センサ13に相当する。
自車両40がカント(傾斜)により横方向に移動したときの操舵量をδ
pとした場合に、下記式(2)を満たす場合に、カントによる車両が移動する方向と反対側の操舵量が操舵量(δ
p)より大きくなる。そして、自車両が横方向に移動する場合には、横方向への力を打ち消すために必要なタイヤ横力が発生し、自車両の走行軌跡が目標軌跡に戻る。
式(1)に示すように、伝達関数は積分項を含むため、自車両の横方向のずれ(偏差)に対する操舵量は、時間の経過とともに増加する。また積分項は積分増加ゲイン(ki)を含むため、積分増加ゲイン(ki)が大きいほど、操舵量は大きくなる。さらに、積分項はずれ量の差分(Δy)の積分式で示されるため、自車両の走行軌跡と目標軌跡との間の横方向のずれ量が大きいほど、操舵量(操舵制御量)は大きくなる。
図5に示すように、カントによる横方向への移動現象が発生した場合に、自車両の走行軌跡Mは、目標軌跡Cに対して、路面高さの低い側に膨らむ。図5では、路面が左下がりになっている。なお、目標軌跡Cは走行車線の中心線とする。走行軌跡Mと目標軌跡Cで囲まれるエリアの面積(S)は、ずれ量(yd)の時間あたりの積算値となる。本実施形態では、積分項が積分増加ゲイン(ki>1)を含むため、走行軌跡Mの他車両側への膨らみ量が少なくなり、面積(S)は小さくなる。
本実施形態では、通常時の制御として、車線維持支援システムによる操舵制御を行っている。車線維持支援システムでは、積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインに設定されている。例えば、自車両が傾斜のない斜面を走行している時に、自車両の位置が横風等により目標軌跡からずれた場合には、制御装置30はカメラ20を用いて車両の前方の状態を検出し、カメラの撮像画像に基づき、目標軌跡に対する自車両の横方向の偏差を算出する。そして、制御装置30は、算出された偏差に相当するずれ量(yd)をゼロにするように、操舵量を制御する。このとき、積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインとなる。
自車両の走行路面が傾き、カント角が変化する。制御装置30は、車両状態センサ15の検出データ等を用いて、傾斜変化量を予測している。予測された傾斜変化量が所定の変化量閾値を超えた場合には、制御装置30は、カント角の変化により自車両が横方向に移動する前に、積分増加ゲイン(ki)を増加ゲインに設定する。積分増加ゲイン(ki)が増加ゲインに設定された後、予測したとおりに傾斜変化量が大きくなり、カント角が変化すると、自車両が横方向に移動する。自車両の位置は目標軌跡からずれるため、車線維持支援システムが動作して、操舵操作が実行される。操舵操作は、自動運転による操作である。このとき、本実施形態では、積分増加ゲイン(ki)が増加ゲインに設定されているため、操舵の操作入力に対して操舵量の応答性が、通常時の応答性(積分増加ゲイン(ki)を通常時に設定したときの応答性)よりも高くなる。言い換えると、操舵の操作量に対して、操舵量を付与するための操舵量(操舵トルク)が通常時に出力される操舵量(操舵トルク)よりも大きくなる。これにより、本実施形態では、一時的に発生する路面傾斜変化を予測することで、目標軌跡に追随性を高めるようなゲイン設定を事前に実行できるため、実際に路面の傾斜変化が発生したときには、目標軌跡からの横方向の偏差を早期に解消できる。
次に、走行中に変化する路面の傾斜と、積分増加ゲイン(ki)との関係について図6を用いて説明する。図6は、カント変化量とゲイン設定との関係を説明するためのグラフである。図6において、横軸は時間を示し、縦軸はカント変化量(dθ/dt)を示す。カント変化量(dθ/dt)はカント角の単位時間当たりの変化量を表している。Pthは正側の変化量閾値を示し、−Pthは負側の変化量閾値を示す。曲線のグラフは、走行中の路面の傾斜変化を時間特性で表したグラフである。
図6に示すように、原点相当の時刻0から時刻t1までは、カント変化量が上限の変化量閾値(Pth)から下限の変化量閾値(−Pth)までの範囲内であるため、積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインに設定する。時刻t1の時点で、カント変化量が変化量閾値(Pth)以上になるため、積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインから増加ゲインに変更される。時刻t1〜t2の間は、カント変化量が変化量閾値(Pth)以上になっているため、積分増加ゲイン(ki)は増加ゲインで維持される。時刻t2の時点で、カント変化量が変化量閾値(Pth)未満になるため、積分増加ゲイン(ki)は増加ゲインから通常ゲインに戻る。
時刻t2から時刻t3までは、カント変化量が上限の変化量閾値(Pth)から下限の変化量閾値(−Pth)までの範囲内であるため、積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインで維持される。時刻t3の時点で、カント変化量が変化量閾値(−Pth)以下になるため、積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインから増加ゲインに変更される。その後、時刻t4まで、積分増加ゲイン(ki)は増加ゲインで維持され、時刻t4の時点で、カント変化量が変化量閾値(−Pth)より大きくなるになるため、積分増加ゲイン(ki)は増加ゲインから通常ゲイン戻る。
図7は、操舵量特性を示すグラフである。グラフа、bは、カント角の変化により、自車両が横方向に移動した場合に、目標軌跡へ追随するように操舵制御を実行したときの特性を示している。グラフаは積分増加ゲイン(ki)を増加ゲインに設定したときの特性を示し、グラフbは、本実施形態とは異なり、積分増加ゲイン(ki)を通常ゲインにしたときの特性を示す。横軸は、時間(t)を示す。縦軸は操舵トルクを示す。δpは自車両40が他車両50に引き込まれるときの操舵量である。
グラフаに示すように、積分増加ゲイン(ki)が増加ゲインに設定された場合には、時間(t1)の時点で、操舵力を付与するための操舵量(操舵制御量(δconf)の積算値に対応する)が操舵量(δp)より大きくなる。一方、積分増加ゲイン(ki)が通常ゲインに設定された場合には、時間(t2>t1)の時点で、操舵力を付与するための操舵量(操舵制御量(δconf)の積算値に対応する)が操舵量(δp)より大きくなる。すなわち、本実施形態では、積分増加ゲイン(ki)を大きくすることで、操舵ユニット1への入力に対する操舵量の応答性が通常時の応答性より高くなるため、式(1)の伝達関数に含まれる積分値が大きくなるまでの時間が短縮される。その結果として、本実施形態では、傾斜変化による、横方向への偏差を軽減することができる。
図8(а)〜(e)は、カント角(θ)、カント変化量(dθ/dt)、横変位(Δy)、横速度(Vy)、及び積分増加ゲイン(ki)の各特性を示すグラフである。横変位(Δy)は、目標軌跡に対する、車両位置の横方向偏差である。横速度(Vy)は、横変位の時間微分に相当する。各グラフの横軸は時間(t)を示す。実線のグラフは、本実施形態の車両制御システム1000により実行された時の特性(本発明の特性)を示しており、破線のグラフは比較例の特性を示す。比較例では、車両が実際に横方向に移動し、横変位(Δy)がゼロより大きくなった時点で、積分増加ゲインを高くする制御を行う。
時刻t1の時点で、車両の走行斜面が水平状態から左下がり又は右下がりに変化し、カント角(θ)の増加が開始する。カント角の増加に伴い、カント変化量(dθ/dt)が増加し、時刻t2の時点でカント変化量(dθ/dt)は変化量閾値(Pth)以上になる。時刻t2の時点で、制御装置30は積分増加ゲイン(ki)を通常ゲインから増加ゲインに設定し、(e)のグラフに示すように、ゲインを増加させる。時刻t2の時点では、カント角及びカント変化量が増加しているが、横変位(Δy)はゼロのままである。すなわち、カント変化は、車両がカントに流され始める前に、予測することができるため、本実施形態では、カント変化量の予測により、車両がカントに流されることを予測し、積分増加ゲイン(ki)を上げている。一方、時刻t2から時刻t3までの間、自車両は横方向へ移動していないため、比較例に係る積分増加ゲイン(ki)は通常ゲインのままで、ゲインは増加しない。
時刻t3の時点で、自車両の横方向への移動が開始し、横変位(Δy)がゼロより大きくなる。このとき、本実施形態では、積分増加ゲイン(ki)が既に大きい状態であるため、目標軌跡へ追随させる操舵制御を実行した場合に、横変位(Δy)に対する応答性(感度)が比較例より高くなる。比較例では、時刻t3の時点で、積分増加ゲインの増加が開始し、本実施形態よりも遅れて増加し始める。
時刻t3以降、本実施形態では、横変位が大きくなる前に積分増加ゲインが上昇しているため、グラフ(c)に示すように横変位(Δy)の変動は抑制される。時刻t4の時点で、カント変化量(dθ/dt)は変化量閾値(Pth)未満になり、制御装置30は積分増加ゲイン(ki)を増加ゲインから通常ゲインに戻す。
本実施形態では、横変位は時刻t5の時点で収束する。一方、比較例では横変位は時刻t6(>t5)の時点で収束する。すなわち、本実施形態は、比較例より、横変位の収束時間を短縮化できる。
上記のように本実施形態では、自車両の走行車線に対して横方向への偏差の時間経過に対する操舵量を第1操舵量で制御して、自車両の走行軌跡を目標軌跡に戻す制御を実行し、センサの検出データを用いて、自車両の走行路面の傾斜変化を傾斜変化量として予測し、傾斜変化量が所定値以上である場合には、操舵量を、第1操舵量より大きい第2操舵量に設定する。これにより、目標軌跡から横方向への偏差を抑制するための制御時間を抑制できる。また、路面の傾斜変化を予測し、事前に目標軌跡への追随性を高めるような制御を行うことができるため、実際の路面の傾斜変化が発生した場合に、横方向の偏差を早期に解消できる。
また本実施形態では、傾斜変化量が所定値未満である場合には、操舵量を第1操舵量に設定する。これにより、路面の傾斜変化が小さくなった場合に、目標軌跡の追随性が元の追随性に戻るため、目標軌跡に対して、操舵が頻繁に行われることによるドライバーの違和感を低減できる。
本実施形態において、車線維持制御は、車線逸脱防止システム(レーンキープシステム)を含む運転支援システムや、ドライバーによる操作を必要とせずに、車両の走行を自動で行う自動運転システムに適用してもよい。
なお、車線逸脱防止システム(レーンキープシステム)を含む運転支援システムは、必ずしも自動運転機能を備えている必要はなく、例えば、自車両が検出された車線から逸脱するような挙動を示した場合に、警告表示又は警告音によりドライバーに対して車線逸脱を通知し、ドライバーが車線に戻すようなステアリング操作をした場合に、ドライバーによるステアリング操作を支援するようなシステムであってもよい。
なお、積分増加ゲイン(ki)を通常ゲインと増加ゲインとの間で切り換えは、ステップS3のような制御フローに限らない。例えば、傾斜変化量が変化量閾値より小さくなった時点から、所定時間経過後に、積分増加ゲイン(ki)を増加ゲインから通常ゲインに戻してもよい。
なお、本発明の「第1操舵量」は積分増加ゲイン(ki)を通常ゲインに設定した状態の操舵量(制御操舵量)に相当し、本発明の「第2操舵量」は積分増加ゲイン(ki)を増加ゲインに設定した状態の操舵量(制御操舵量)に相当する。