JP6844486B2 - オーステナイト合金材の製造方法 - Google Patents

オーステナイト合金材の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP6844486B2
JP6844486B2 JP2017188316A JP2017188316A JP6844486B2 JP 6844486 B2 JP6844486 B2 JP 6844486B2 JP 2017188316 A JP2017188316 A JP 2017188316A JP 2017188316 A JP2017188316 A JP 2017188316A JP 6844486 B2 JP6844486 B2 JP 6844486B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
alloy material
less
film
content
producing
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2017188316A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2019065313A (ja
Inventor
正木 康浩
康浩 正木
貴代子 竹田
貴代子 竹田
孝裕 小薄
孝裕 小薄
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Priority to JP2017188316A priority Critical patent/JP6844486B2/ja
Publication of JP2019065313A publication Critical patent/JP2019065313A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6844486B2 publication Critical patent/JP6844486B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Description

本発明は、オーステナイト合金材の製造方法に関する。
将来の水素社会の実現に向けて、化石燃料に依存しない、すなわち二酸化炭素の発生を伴わないクリーンなエネルギーを用いて水素を製造するプロセスの開発が必要になっている。水素製造の方法としては、硫酸とヨウ化水素との熱分解を組み込んだISプロセス、または、高温水電解(水蒸気電解)等が考えられている。ISプロセスは化学的な水素製造とも言われ、大量の水素製造に適している。原理的には下記のとおりであり、高温の硫酸およびヨウ化水素の分解が含まれ、これらの反応は白金等の触媒により進行する。
SO → SO+HO(硫酸の熱分解:≧300℃)
SO → SO+1/2O(SOの分解:≧850℃)
2HI → H+I(ヨウ化水素の分解:400℃)
SO+I+2HO → 2HI+HSO(ブンゼン反応:200℃)
O → H+1/2O(全体反応)
本プロセスの主たる課題には、装置/プラントに用いる材料の耐食性の向上および触媒の性能向上が挙げられる。反応には高温の強酸を用いるので、装置機器、配管類の腐食または劣化が深刻となる。特に硫酸分解部は極めて強い腐食環境にさらされるので、通常の金属材料では腐食は避けられない。触媒を用いるプロセスについては触媒自身の活性および耐久性が不十分であり、触媒材の開発とともにガス相または液相の接触効率を高める化学工学的な取り組みが進められている。
非特許文献1では、ISシステム用プラント材料の使用を目的に、高温での硫酸またはSO下におけるAlloy600、Alloy800等の耐食性合金の耐食性能が調査されている。
また、特許文献1では表面にCr欠乏層を備え、その外側(表面側)にCr主体の酸化スケール層を設けた、耐コーキング性と耐浸炭性を有するステンレス鋼管が開示されている。さらに非特許文献1ではSiC等のセラミックまたはガラスライニング材の適用も検討されている。これらの材料では殆ど腐食は起こらず、耐食性は良好とされている。
特開2005−48284号公報
田中伸行ら:材料と環境、55(2006)第320−324頁
Alloy600またはAlloy800といった高合金材料では、硫酸を含む環境では装置材として使えるほどの耐食性は全く得られていない。一方、クロムを中心とする酸化皮膜を設けた合金材料は皮膜のバリア性に基づく耐食性が期待されるが、ISプロセスのような高温の硫酸環境では母材自身の耐食性が十分でない。セラミックまたはガラスライニング材は高い耐食性を有するものの材料コストが高く、また接続が難しいため接続部で腐食が起こる可能性が高い。さらにセラミックは脆化し易く損傷を受ける可能性もあり、プラント用装置材料として使用することは難しいという問題がある。
本発明は、硫酸を含む硫黄酸化物もしくは塩酸等を含む高温蒸気または高温溶液等にさらされるような過酷環境において耐食性に優れるオーステナイト合金材を、低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のオーステナイト合金材の製造方法を要旨とする。
(1)母材が有する表面のうちの少なくとも一部に、銅酸化物を含む皮膜を備えるオーステナイト合金材を製造する方法であって、
質量%で、
C:0.001〜0.6%、
Si:0.01〜5.0%、
Mn:0.1〜10.0%、
P:0.08%以下、
S:0.05%以下、
Cr:15.0〜55.0%、
Ni:40.0〜70.0%、
N:0.001〜0.25%、
O:0.02%以下、
Mo:0%を超えて20.0%以下、
Cu:0.5〜7.5%、
Co:0〜5.0%、
W:0〜10.0%、
Ta:0〜6.0%、
Nb:0〜5.0%、
Ti:0〜1.0%、
B:0〜0.1%、
Zr:0〜0.1%、
Hf:0〜0.1%、
Al:0〜1.0%、
Mg:0〜0.1%、
Ca:0〜0.1%、
残部:Feおよび不純物である化学組成を有する母材を、
硫黄化合物を含むガス雰囲気中で加熱する、
オーステナイト合金材の製造方法。
(2)前記母材の化学組成が、質量%で、
Cu:1.0〜5.0%、
を含有する、
上記(1)に記載のオーステナイト合金材の製造方法。
(3)前記皮膜中に、さらに、Crが含まれる、
上記(1)または(2)に記載のオーステナイト合金材の製造方法。
(4)前記銅酸化物が、CuおよびCrの複合酸化物を含む、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
(5)前記皮膜中に、さらに、金属硫化物が含まれる、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
(6)前記ガス雰囲気中に含まれる前記硫黄化合物が、SOである、
上記(1)から(5)までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
(7)前記ガス雰囲気中のSO濃度が5〜100体積%である、
上記(6)に記載のオーステナイト合金材の製造方法。
(8)前記ガス雰囲気中での加熱温度が、750〜1000℃である、
上記(1)から(7)までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
本発明によれば、硫酸等の硫黄酸化物またはハロゲン化水素等を含む高温過酷環境において、優れた耐食性を発揮するオーステナイト系合金材を製造することができる。
本発明者らは、ISプロセス等の高温の強酸を使う環境、具体的には800℃を超えるSO蒸気を含む環境において、優れた耐食性を発揮する合金材を得るために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
合金材の表面に形成される皮膜は、ISプロセスでの工程である硫黄酸化物の分解に対して触媒的な活性を示す。ここで、硫黄酸化物には、硫酸(HSO)、亜硫酸(HSO)、SO、SO等のSO、S等が含まれる。
この分解活性が高い程、耐食性は向上することから、耐食性と触媒性とは相関すると考えられる。触媒作用によってSOが分解され、SOとなり硫黄酸化物の腐食性が減じられるためと推測される。
特に、皮膜中に銅酸化物が含まれると、これらの固有の触媒作用が加わり皮膜の触媒作用は強化され、結果として耐食性が向上する。
そのため、本発明者らは、表面に銅酸化物を含む皮膜を有する合金材を、低コストで製造する方法についてさらに検討を行った。
銅酸化物を含む皮膜を合金材の表面に形成する場合、例えば、硝酸銅を含む溶液を合金材の表面に付着させ、適切な雰囲気で熱処理する方法が考えられる。しかしながら、上記のような工程を伴う製造方法では、合金材を低コストで製造することができない。
また、Cuを含有する合金材に対して、通常の酸化環境で熱処理を施した場合、合金中に含まれCuよりも酸化ポテンシャルの低いCrが先に酸化されるため、Cuは酸化されにくく、銅酸化物を含む皮膜を形成することが困難である。
これに対して、Cuを含有する合金材を硫黄化合物が含まれるガス雰囲気中で加熱すると、銅硫化物を含む皮膜が形成された後、酸化され、銅酸化物を含む皮膜が形成される。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.母材の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.001〜0.6%
Cは、Crと結合し結晶粒界にCr炭化物として析出し、合金の高温強度を高める効果を有する元素である。しかし過剰に含有させると、靭性が悪化する。また結晶粒界にCr欠乏層を形成し、耐粒界腐食性を損ねることがある。そのため、C含有量は0.001〜0.6%とする。C含有量は0.002%以上であるのが好ましい。また、C含有量は0.45%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。
Si:0.01〜5.0%
Siは、酸素との親和力が強いため、Crを主体とする皮膜を均一に形成させる作用を有する。しかし過剰に含有させると、溶接性が劣化し、組織も不安定になる。そのため、Si含有量は0.01〜5.0%とする。Si含有量は0.03%以上であるのが好ましい。また、Si含有量は3.0%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましい。
Mn:0.1〜10.0%
Mnは、脱酸および加工性改善の効果を有する元素である。また、Mnはオーステナイト生成元素であることから、高価なNiの一部を置換することも可能である。しかし過剰に含有させると、クロム酸化物皮膜を母材酸化によって形成する場合にその生成を阻害するだけでなく、母材の加工性および溶接性を劣化させるおそれがある。そのため、Mn含有量は0.1〜10.0%とする。Mn含有量は5.0%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましい。
P:0.08%以下
S:0.05%以下
PおよびSは、結晶粒界に偏析し、熱間加工性を劣化させる。そのため、極力低減することが好ましい。しかしながら、過剰な低減はコスト高を招くため、P含有量は0.08%以下、S含有量は0.05%以下であれば許容される。P含有量は0.05%以下であるのが好ましく、0.04%以下であるのがより好ましい。また、S含有量は0.03%以下であるのが好ましく、0.015%以下であるのがより好ましい。
Cr:15.0〜55.0%
Crは、オーテナイト合金の耐食性を中心的に担う元素である。母材の酸化または腐食などによってCrを生じ、触媒性と耐食性とを発揮する。しかし過剰に含有させると、管製造性および使用中の高温での組織安定性を低下させる。そのため、Cr含有量は15.0〜55.0%とする。Cr含有量は20.0%以上であるのが好ましく、22.0%以上であるのがより好ましい。また、加工性とともに組織安定性の劣化を防止するためには、Cr含有量は35.0%以下であるのが好ましく、33.0%以下であるのがより好ましい。
Ni:40.0〜70.0%
Niは、Cr含有量に応じて安定したオーステナイト組織を得るために必要な元素である。また、Cが鋼中に侵入した場合、侵入速度を低減する働きがある。しかし過剰に含有させると、コスト高につながるだけでなく製造性の悪化を招く。そのため、Ni含有量は40.0〜70.0%とする。Ni含有量は60.0%以下であるのが好ましい。
N:0.001〜0.25%
Nは、高温強度改善に有効な元素である。しかし過剰に含有させると、加工性を大きく阻害する。そのため、N含有量は0.001〜0.25%とする。N含有量は0.002%以上であるのが好ましく、0.20%以下であるのが好ましい。
O:0.02%以下
O(酸素)は、不純物として存在する元素である。O含有量が0.02%を超えると、鋼中に酸化物系介在物が多量存在し、加工性が低下するだけでなく、鋼管表面疵の原因になる。そのため、O含有量は0.02%以下とする。
Mo:0%を超えて20.0%以下
Moは、固溶強化元素として高温強度向上に有効な元素であり、硫酸または塩酸を含む超強酸環境における耐食性を向上させる元素である。特に硫黄とはMoS皮膜を作り耐食性を増進することも考えられる。しかし過剰に含有させると、シグマ相の析出を促進するため、溶接性および加工性の劣化を招く。そのため、Mo含有量は0%を超えて20.0%以下とする。Mo含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.5%以上であるのがより好ましく、3.0%超であるのがさらに好ましい。また、Mo含有量は15.0%以下であるのが好ましく、10.0%以下であるのがより好ましい。
Cu:0.5〜7.5%
Cuは、オーステナイト相を安定にするとともに、高温強度向上に有効であり、またMoと同じく硫酸または塩酸を含む超強酸環境における耐食性を向上させる元素である。また、熱処理によって母材表面に銅酸化物を含む皮膜を形成するためには、必須の元素である。しかし過剰に含有させると、著しく熱間加工性を低下させる。したがって、Cu含有量は0.5〜7.5%とする。Cu含有量は1.0%以上であるのが好ましく、2.0%以上であるのがより好ましい。また、Cu含有量は6.5%以下であるのが好ましく、5.0%以下であるのがより好ましい。
Co:0〜5.0%
Coは、オーステナイト相を安定にするため、Niの一部を置換することができる。そのため、Coを必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、著しく熱間加工性を低下させる。したがって、Co含有量は5.0%以下とする。Co含有量は3.0%以下であるのが好ましい。上記の効果を得るためには、Co含有量は0.01%以上とするのが好ましい。
W:0〜10.0%
Ta:0〜6.0%
WおよびTaは、いずれも固溶強化元素として高温強度向上に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、加工性を劣化させるだけでなく組織安定性を阻害する。したがって、W含有量は10.0%以下とし、Ta含有量は、6.0%以下とする。W含有量は8.0%以下であるのが好ましい。また、Ta含有量は2.5%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましい。上記の効果を得るためには、WおよびTaの少なくとも一方の含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Nb:0〜5.0%
Ti:0〜1.0%
NbおよびTiは、極微量の添加であっても、高温強度、延性および靱性の改善に大きく寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、加工性および溶接性を劣化させる。したがって、Nb含有量は5.0%以下とし、Ti含有量は1.0%以下とする。上記の効果を得るためには、NbおよびTiの少なくとも一方の含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
B:0〜0.1%
Zr:0〜0.1%
Hf:0〜0.1%
B、ZrおよびHfは、いずれも粒界を強化し、熱間加工性および高温強度特性を改善するのに有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、溶接性を劣化させる。したがって、B、ZrおよびHfの含有量は、いずれも0.1%以下とする。上記の効果を得るためには、B、ZrおよびHfから選択される1種以上の含有量を0.001%以上とするのが好ましい。
Al:0〜1.0%
Mg:0〜0.1%
Ca:0〜0.1%
Al、MgおよびCaは、いずれも熱間加工性を改善するのに有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、溶接性を劣化させる。したがって、Al含有量は1.0%以下とし、MgおよびCaの含有量は、いずれも0.1%以下とする。Al含有量は0.6%以下であるのが好ましく、MgおよびCaの含有量は、いずれも0.06%以下であるのが好ましい。上記の効果を得るためには、Al:0.01%以上、Mg:0.0005%以上およびCa:0.0005%以上から選択される1種以上を含有させるのが好ましい。また、MgおよびCaの含有量は0.001%以上であるのがより好ましい。
本発明のオーステナイト合金材およびオーステナイト合金管の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。
ここで「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
2.加熱条件
本発明に係る合金材の製造方法は、上記の化学組成を有する母材を、硫黄化合物を含むガス雰囲気中で加熱するものである。
上述のように、Cuを含む合金材を、硫黄化合物を含むガス雰囲気中で加熱すると、銅硫化物が形成された後、その一部または全部が銅酸化物となる。
ガス雰囲気中に含まれる硫黄化合物は、SOであることが好ましい。SOは、合金中に含まれるCuを選択的に硫化する作用を特に発揮するためである。
ガス雰囲気中のSO濃度については特に制限は設けないが、5〜100体積%であるのが好ましい。また、Cuの硫化を促進するためには、SO濃度は17%以上であるのがより好ましく、20%以上であるがさらに好ましい。
なお、ガス雰囲気中には、窒素もしくはアルゴン等の不活性ガスまたは水蒸気などが含まれていてもよい。
また、ガス雰囲気中での加熱温度についても特に制限は設けないが、750〜1000℃とすることが好ましい。加熱温度が750℃未満では、皮膜の成長が遅く安定な皮膜が形成されにくいためである。一方、加熱温度が1000℃を超えると、合金材の強度が低下するおそれがある。加熱温度は850℃以上とするのがより好ましく、950℃以下とするのがより好ましい。
さらに、加熱時間についても特に制限はないが、短すぎると皮膜の形成が不十分となるため、2時間以上とすることが好ましい。
3.皮膜
本発明に係る方法によって製造されるオーステナイト合金材は、母材が有する表面のうちの少なくとも一部に、銅酸化物を含む皮膜を備える。銅酸化物は、銅を主体とする酸化物である。
また、皮膜中には、クロミア(Cr)等のクロム酸化物がさらに含まれることが好ましい。Crも合金材の耐食性を向上させる効果を有するとともに、硫黄酸化物に対して触媒として分解性を有するためである。
さらに、銅酸化物の種類については特に制限はなく、CuO、CuO等が含まれていればよい。それに加えて、銅酸化物として、CuおよびCrの複合酸化物が含まれていてもよい。硫黄化合物の作用によって硫化されたCuの硫化物は、皮膜中に存在するクロム酸化物と反応することで、CuCr、CuCrO等の複合酸化物を形成する。
また、Cuの硫化物は一部が酸化物にならずに残存する場合がある。そのため、皮膜中にはCuの硫化物が含まれていてもよい。また、皮膜中には、Cu以外にもCr等の金属硫化物が含まれていてもよい。
なお、皮膜の厚さについては特に制限は設けないが、0.1〜50μmであることが好ましい。厚さが0.1μm未満ではバリア性の効果が不十分となるおそれがある。一方、厚さが50μmを超えると、皮膜内の応力蓄積量が増え、亀裂および剥離が生じやすくなる。その結果、硫黄酸化物およびハロゲン化水素の侵入が容易になり、耐食性の低下を招くおそれがある。皮膜の厚さは0.5μm以上であるのが好ましく、1.0μm以上であるのがより好ましい。また、皮膜の厚さは20μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましい。
なお、皮膜の組成は、薄膜X線回折(XRD)により測定することができる。また、皮膜の厚さは、X線光電子分光分析法(XPS)により測定することができる。
4.触媒性能(SO分解活性)
本発明に係る方法によって製造されるオーステナイト合金材は、母材表面の少なくとも一部に上記の皮膜を備えるため、硫酸を含む硫黄酸化物の分解に触媒活性を有する。分解作用を有することによって、母材の耐食性が向上するとともに、ISプロセス等の硫黄酸化物の分解が含まれる化学プロセスには配管材料等として使用することで、プロセスとして分解効率の向上に寄与することができる。
本発明に係るオーステナイト合金材が有するSO分解活性の度合いについては特に制限は設けないが、単位面積当たりのSO供給速度:0.0071g/cm/分および反応温度:850℃の条件におけるSOの分解速度が、8.0×10−5g/cm/分以上であるのが好ましい。SOの分解速度は、5.0×10−4g/cm/分以上であるのがより好ましく、1.0×10−3g/cm/分以上であるのがさらに好ましく、2.0×10−3g/cm/分以上であるのが特に好ましい。SOの分解速度(g/cm/分)は、上記の条件におけるSO分解量(g/分)を反応面積、すなわちガスと接触しうる皮膜面積(cm)で除した値を意味する。
なお、SO供給速度とは、常温でのSO濃度(g/L)×流量(L/分)/反応面積により算出される。反応面積とは反応ガスと接触しうる、皮膜で覆われている面積を指す。この0.0071g/cm/分の供給速度以上では、ゼロ次反応、いわゆる反応律速に近づく。したがって、SOの分解速度を評価する際には、0.0071g/cm/分以上の供給速度を採用してもよい。
SOの分解速度の測定の方法は限定されないが、以下のようにして行うことができる。一定濃度のSOガスを含んだ窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをガスが発散しないように管状の試料内に反応ガスを一定速度で流通させ、850℃まで温度を上げ、SOが分解し生成したSOおよび/またはOの濃度を定量し、ガス流量を乗じて分解量(g/分)を算出し反応面積で除する。SOの濃度としては、限定はされないが、測定精度および扱いやすさなどから、2〜20体積%程度に設定するのが好ましい。流量は、SO供給速度を0.0071g/cm/分以上となるように、SO濃度に応じて適宜設定すればよい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する各種の合金を高周波加熱真空炉で溶解し、通常の方法で熱間鍛造、熱間圧延および冷間圧延を行って、肉厚2mmのオーステナイト合金材を作製した。次いで1100〜1200℃の温度範囲内で固溶化処理を30分間施した。
Figure 0006844486
その後、上記の合金材から、試験No.ごとに、皮膜分析用、耐食性試験用、および触媒性試験用の3種類の試験片を切り出した。なお、皮膜分析用および耐食性試験用の試験片は、幅1cm、長さ3cm、厚さ2mmであり、裏表合わせて表面積が6cmである。また、触媒性試験用の試験片は、裏表合わせて表面積が50cmとなる寸法としている。
各試験片を表2に示す条件で加熱することで、各試験片の表面に銅酸化物を含む皮膜を形成した。具体的には、石英製の流通試験炉(外径20mm、内径16mm)に試験片を設置し、アルゴンを流しながらそのガス中に濃硫酸を添加し、350℃以上で気化させてSOガスを発生させ、ガス流量、SO濃度および温度を調整した。
Figure 0006844486
以上のようにして得られた各試験片について、下記の方法により、皮膜の分析、耐食性評価および触媒性評価を行った。
<皮膜の分析>
皮膜分析用試験片については、皮膜の組成をXRDにより特定し、皮膜の厚さをXPSにより測定した。
<耐食性の評価>
石英管内に、耐食性試験用の試験片を置き、アルゴンガスを流しながら850℃に加熱した。次いで濃硫酸を350℃以上で熱分解させてSOを発生させ、アルゴンガスと混ぜることで、石英管内に27%のSOガスを流通させた。1000時間経過後、試料の試験前後の重量の差により腐食減量を測定した。さらに、皮膜の形態の変化、ならびに、皮膜下の母材の粒界腐食および酸化有無を考慮して、合金材の耐食性を総合的に評価した。
<触媒性の評価>
上記と同じ石英管内に、触媒性試験用の試験片を置き、アルゴンガスを石英管内部に流しながら850℃まで加熱した。次いで前記のように濃硫酸の熱分解で得たSOをアルゴンガスと混ぜながら石英管内に導入・流通させた。
この際、反応ガスは流量1000mL/分、SO濃度が10体積%になるように、濃硫酸の分解量とアルゴンガス量とを調整した。本試験条件より、SO供給速度は0.0071g/cm/分であった。反応の評価は、生成ガスをヨウ素液で洗浄した後、生成物の一つであるOをガスクロマトグラフで濃度測定することで行った。そして、単位時間当たりのSO分解量(酸素量の2倍から算出、g/分)を面積で除することによって、SOの分解速度(g/cm/分)を算出した。
これらの結果を表2に併せて示す。
表2に示すように、本発明の規定を全て満足する試験No.1〜9では、優れた耐食性を示すことが分かる。そして、皮膜を観察すると皮膜は健全であり、剥離または割れは生じていなかった。さらに、母材にも腐食した様子は認められなかった。
これらに対して、皮膜中に銅酸化物が含まれない試験No.10では、耐食性および触媒性が劣る結果となった。
本発明によれば、硫酸等の硫黄酸化物またはハロゲン化水素等を含む高温過酷環境において、優れた耐食性を発揮するオーステナイト系合金材およびオーステナイト系合金管を得ることができる。

Claims (8)

  1. 母材が有する表面のうちの少なくとも一部に、銅酸化物を含む皮膜を備えるオーステナイト合金材を製造する方法であって、
    質量%で、
    C:0.001〜0.6%、
    Si:0.01〜5.0%、
    Mn:0.1〜10.0%、
    P:0.08%以下、
    S:0.05%以下、
    Cr:15.0〜55.0%、
    Ni:40.0〜70.0%、
    N:0.001〜0.25%、
    O:0.02%以下、
    Mo:0%を超えて20.0%以下、
    Cu:0.5〜7.5%、
    Co:0〜5.0%、
    W:0〜10.0%、
    Ta:0〜6.0%、
    Nb:0〜5.0%、
    Ti:0〜1.0%、
    B:0〜0.1%、
    Zr:0〜0.1%、
    Hf:0〜0.1%、
    Al:0〜1.0%、
    Mg:0〜0.1%、
    Ca:0〜0.1%、
    残部:Feおよび不純物である化学組成を有する母材を、
    硫黄化合物を含むガス雰囲気中で加熱する、
    オーステナイト合金材の製造方法。
  2. 前記母材の化学組成が、質量%で、
    Cu:1.0〜5.0%、
    を含有する、
    請求項1に記載のオーステナイト合金材の製造方法。
  3. 前記皮膜中に、さらに、Crが含まれる、
    請求項1または請求項2に記載のオーステナイト合金材の製造方法。
  4. 前記銅酸化物が、CuおよびCrの複合酸化物を含む、
    請求項1から請求項3までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
  5. 前記皮膜中に、さらに、金属硫化物が含まれる、
    請求項1から請求項4までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
  6. 前記ガス雰囲気中に含まれる前記硫黄化合物が、SOである、
    請求項1から請求項5までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
  7. 前記ガス雰囲気中のSO濃度が5〜100体積%である、
    請求項6に記載のオーステナイト合金材の製造方法。
  8. 前記ガス雰囲気中での加熱温度が、750〜1000℃である、
    請求項1から請求項7までのいずれかに記載のオーステナイト合金材の製造方法。
JP2017188316A 2017-09-28 2017-09-28 オーステナイト合金材の製造方法 Active JP6844486B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017188316A JP6844486B2 (ja) 2017-09-28 2017-09-28 オーステナイト合金材の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017188316A JP6844486B2 (ja) 2017-09-28 2017-09-28 オーステナイト合金材の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019065313A JP2019065313A (ja) 2019-04-25
JP6844486B2 true JP6844486B2 (ja) 2021-03-17

Family

ID=66339070

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2017188316A Active JP6844486B2 (ja) 2017-09-28 2017-09-28 オーステナイト合金材の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6844486B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN112981185A (zh) * 2021-02-08 2021-06-18 浙江工业大学 电解制备过硫酸钠用耐蚀镍合金阴极材料及其制备方法

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH05247597A (ja) * 1992-03-09 1993-09-24 Nippon Steel Corp 耐局部食性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼
JP3650951B2 (ja) * 1998-04-24 2005-05-25 住友金属工業株式会社 耐応力腐食割れ性に優れた油井用継目無鋼管
DK1717330T3 (en) * 2004-02-12 2018-09-24 Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp METAL PIPES FOR USE IN CARBON GASA MOSPHERE
JP6702416B2 (ja) * 2016-06-28 2020-06-03 日本製鉄株式会社 オーステナイト合金材およびオーステナイト合金管

Also Published As

Publication number Publication date
JP2019065313A (ja) 2019-04-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6702416B2 (ja) オーステナイト合金材およびオーステナイト合金管
DK1717330T3 (en) METAL PIPES FOR USE IN CARBON GASA MOSPHERE
JP5870201B2 (ja) 二相ステンレス鋼
JP6177317B2 (ja) 良好な加工性、クリープ強度及び耐食性を有するニッケル−クロム合金
JP5177330B1 (ja) 耐浸炭性金属材料
EP3437791B1 (en) Welded structural member
JP4692289B2 (ja) 耐メタルダスティング性に優れた金属材料
JP6068158B2 (ja) アルミナバリア層を有する鋳造製品
KR102124914B1 (ko) 오스테나이트계 스테인리스강
JPWO2018043565A1 (ja) オーステナイト系ステンレス鋼
JPWO2009119630A1 (ja) Ni基合金
JPWO2019131954A1 (ja) オーステナイト系耐熱合金
JP6805574B2 (ja) オーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材
JP4687467B2 (ja) 加工性及び耐メタルダスティング性に優れた金属材料
JP2008214734A (ja) 耐メタルダスティング性に優れた金属材料
JP6844486B2 (ja) オーステナイト合金材の製造方法
EP3437790B1 (en) Welded structural member
EP3495526A1 (en) Austenitic stainless steel
JP6780558B2 (ja) Cr含有合金の腐食抑制方法
JP5780212B2 (ja) Ni基合金
JPH051344A (ja) 耐コーキング性に優れたエチレン分解炉管用耐熱鋼
RU2448194C1 (ru) Жаропрочный сплав
JP2015196193A (ja) 靭性および孔食性に優れた鋼管用鋳片の連続鋳造方法
JP2021080523A (ja) Fe基合金
JP2009052120A (ja) ステンレス鋼材

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20200513

TRDD Decision of grant or rejection written
A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20210120

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20210126

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20210208

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6844486

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151