JP3650951B2 - 耐応力腐食割れ性に優れた油井用継目無鋼管 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井やガス井(以下、単に「油井」と称する)に使用される油井用継目無鋼管に関する。より詳しくは、腐食性の強い硫化水素環境中において、耐応力腐食割れ性で代表される耐食性に優れ、かつ従来からこれらの合金系で用いられているMoの含有量が少ないために、経済性および熱間加工性にも優れ、工業的生産に適したオーステナイト系の油井用継目無鋼管に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油や天然ガスなどに含まれている硫化水素は、金属材料に対して強い腐食性を有しており、このような硫化水素を含む液体に曝されて使用される合金には、優れた耐食性が要求される。合金が硫化水素を含む液体と接する環境で使用される例としては、油井や天然ガス井の掘削用管、これらのフローライン用管、地熱発電設備用板材、排ガス脱硫設備用板材などの用途がある。特に、近年では、石油や天然ガスを採取するための井戸が深井戸化する傾向が著しく、その環境はますます苛酷なものになっており、炭酸ガス、硫化水素などの腐食性物質を多く含む油井が増え、それにつれて腐食などによる材料の脆化が大きな問題となっている。
【0003】
その中でも、200℃程度の高温で、かつ硫化水素を分圧で10atm程度と多く含んだ環境中においては、その腐食の主たる要因は特定環境下での応力負荷状態下で生じる割れ、いわゆる応力腐食割れである。したがって、硫化水素を含む環境下で用いられる合金としては、対応力腐食割れ性に優れていることが要求される。このような硫化水素環境下での耐食性を有する材料としては、従来、Niを30〜50%程度とを多く含有し、かつMoやWなどの高価な元素を3%以上含有したNi−Cr−Mo(またはW)−Fe系のオーステナイト系合金が優れた耐食性を示すことが、特開昭62−9660号公報、同62−9661号公報に示されている。
【0004】
例えば、上記特開昭62−9660号公報に示される合金は、使用環境の温度条件に応じた耐応力腐食割れ性を持たせるために、有効成分であるNi、Cr、MoおよびWの含有量を所定の範囲に限定した上で、さらに1重量%以下のCuまたは/および2重量%以下のCoを含有させたものである。このため、これら従来の合金は、高価なMoまたはWを必須成分として含有するので、その合金の価格が高いという問題があった。
【0005】
上記の従来の合金は、硫化水素分圧が10atm程度で、かつ200℃前後の過酷な環境下において使用することを目的とし、非常に高価である。また、一方で特開平8−176746号公報には、硫化水素分圧が0.1atm以下と低く、温度が150℃程度の環境下で使用でき、Moを含有しないことを特徴とする比較的安価なCuを含有するCr−Ni系合金が示されている。
【0006】
しかし、この合金は、硫化水素分圧が0.1atm程度の場合には優れた耐食性を有するが、硫化水素分圧が5atm程度以上と高い場合には十分な耐食性が得られない。さらに、上述のごとくNi−Cr−Mo(または/およびW)−Fe系のオーステナイト系合金は、コストが高く、不経済である。また、Mo、Wなどの添加は、熱間加工性を低下させるので、商業規模の生産にも適していない。
【0007】
そこで、硫化水素分圧が1atm以上で、かつ温度が150℃以上と高い極めて過酷な高温の硫化水素環境下において十分な耐食性を有し、しかも熱間加工性に優れていて工業的生産に適した安価な成分系の耐食性合金からなる油井用継目無鋼管の開発が強く望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、硫化水素分圧が1〜10atm程度と高く、かつ温度が150〜250℃の高温環境下での耐硫化水素腐食性に優れ、かつ価格の安い合金元素で構成された成分系であるため、経済性の観点から有利であり、しかも熱間加工性にも優れた工業的生産に適した油井用継目無鋼管を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)の硫化水素環境下での耐応力腐食割れ性に優れた油井用継目無鋼管にある。
【0010】
(1)重量%で、Si:0.05〜1%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:20〜35%、Ni:25〜50%、Cu:0.5〜8%、Mo:0.01〜1.5%、sol.Al:0.01〜0.3%、N:0.15%以下、REM:0〜0.1%、Y:0〜0.2%、Mg:0〜0.1%、Ca:0〜0.1%、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、不純物中のC、P、Sがそれぞれ0.05%以下、0.03%以下、0.01%以下であり、かつCuとMoの含有量の関係が下式を満たすことを特徴とする硫化水素環境下での耐応力腐食割れ性に優れた油井用継目無鋼管。
【0011】
Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2
ここで、元素記号は鋼中のそれぞれの元素の含有量(重量%)を表す。
【0012】
上記の本発明は、以下に述べる知見に基づいて、完成された。すなわち、発明者らは、硫化水素分圧が1atm以上と高く、かつ150℃以上の高温環境下での油井用継目無鋼管の耐応力腐食割れ性を向上させるべく、種々の合金成分を対象にその影響を詳細に検討した結果、次のことを知見した。
【0013】
すなわち、Moを含む油井用継目無鋼管では、外層にNi硫化物皮膜を形成することで硫化水素環境との環境遮断効果を発揮し、その内側に内層のCr酸化物皮膜が生成する。そして、従来、Moは、内層のCr酸化物皮膜の安定生成に寄与するにすぎないと考えられていたが、より詳細に調査したところ、下記のことが判明した。
【0014】
3%を超えるMoを含む油井用継目無鋼管の場合、腐食環境下に曝露された初期の外層皮膜中には、Ni硫化物に加えてMo硫化物が含まれており、MoもNiと同様に環境遮断効果の一部を担っている。しかし、腐食環境下に長時間暴露された後の外層皮膜は、その最外層の極く薄い部分のみがNi硫化物の単層皮膜となって安定化し、Moは主として内層のCr酸化物皮膜の安定性保持のために作用するようになる。
【0015】
これに対し、合金コストの低減を目的として高価なMoの含有量を3%以下に少なくした油井用継目無鋼管では、腐食環境下に曝露された初期の外層皮膜中に含まれるMo硫化物の量が極端に少なくなるだけでなく、著しい場合は全く含まれなくなり、外層皮膜による環境遮断効果が不十分となって十分な耐食性が確保できない。
【0016】
したがって、Moに代って初期の外層皮膜中に硫化物となって生成して十分な環境遮断効果を発揮する合金成分を添加する必要があり、Cuが硫化水素環境下において硫化物を生成しやすい性質を有していることに着目し、次の実験を行った。すなわち、Mo含有量とCu含有量を0.1〜3%の範囲内で種々変えた25%Cr−35%Ni合金の耐硫化水素腐食性(耐硫化水素応力腐食割れ性)を調べた。なお、硫化水素応力腐食試験は、下記の条件で行った。
【0017】
(硫化水素応力腐食試験条件):
試験溶液:20%NaCl+0.5%CH3COOH
試験ガス:7atmH2S+10atmCO2
試験温度:180℃
浸漬時間:720時間
付加応力:125ksi(87.75kgf/mm2)
試 験 片:100mm幅×2mm厚×75mm長で、長さ方向の中央部に0.25mmのUノッチを形成した4点曲げ試験片
図1は、その調査結果を示す図で、図中、○印は硫化水素応力腐食割れが発生しなかったことを、●印は硫化水素応力腐食割れが発生したことを示している。
【0018】
この図1からわかるように、MoとCuの含有量の関係が式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たす場合には、Mo含有量を3%以下に少なくしても、優れた耐硫化水素応力腐食割れ性が確保されることがわかった。
【0019】
ここで、優れた耐食性を発揮するための安定した皮膜構造を得るために、MoとCuの含有量が上記の式で回帰される理由について考察する。本発明の継目無鋼管が使用される環境下においては、Mo、Ni、Cuの各硫化物のうち、Mo硫化物が最も安定である。そこで、Mo含有量が1.5〜3%程度の範囲では、皮膜形成に及ぼすMoの効果が支配的となる。そのため、Mo含有量の低減に伴い、初期の皮膜中でのMo硫化物の生成が不安定になって皮膜全体としても安定性が低下する。しかし、この低下は、Cu硫化物で補われ、安定したMo/Ni/Cu硫化物皮膜を形成する。
【0020】
一方、Moが1.5%以下になると、さらにMo硫化物生成が不安定となり、皮膜構造としてはNi/Cu硫化物主体の皮膜へと変化する。この領域では、皮膜形成に作用するCuおよびNiの効果が大きくなるが、Moが存在するとその皮膜形成の作用と競合する。このため、長時間経過しても皮膜構造が安定化しないために、内層のCr酸化物層も十分に形成されず、逆にMoが皮膜の安定性を損なうようになる。
【0021】
さらに、Mo含有量を低減させ、その含有量を0.1%未満にすると、初期の皮膜形成に及ぼすMoの効果は極端に小さくなり、逆に少ないCu添加量でも十分にNi/Cu硫化物の皮膜が安定して生成するようになる。このような、現象が複合した結果、Mo含有量とCu含有量との間に上記の式が成立するようになるものと考えられる。
【0022】
また、従来のMoを多く含む油井用継目無鋼管は、高温強度が高くて熱間加工性が悪く、生産性の高いマンネスマン−マンドレルミル製管法への適用が不可能であった。そこで、マンネスマン−マンドレルミル製管法への適用を可能とするために、高温強度の観点から各添加元素の作用を検討した。その結果、Mo含有量の低減は高温強度を著しく低下させるが、0.5〜8%程度のCu添加は高温強度の変化に大きな影響を及ぼさない。特に、Mo含有量を1.5%以下にすれば、Cu添加による優れた耐食性を有したままで熱間加工性が著しく改善され、マンネスマンマンドレルミル製管法に適用して何等の問題もなく製品(継目無鋼管)を製造することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の継目無鋼管の化学組成について説明する。なお、各元素の含有量の単位は、「重量%」を意味する。
【0024】
Si:
Siは、合金の脱酸剤として必要な成分であり、その効果は0.05%以上の含有量で得られる。しかし、その含有量が1%を超えると熱間加工性が低下する。このため、Si含有量は0.05〜1%とした。好ましい範囲は0.2〜0.5%である。
【0025】
Mn:
Mnは、上記のSiと同様に、合金の脱酸剤として必要な成分であり、その効果は0.1%以上の含有量で得られる。しかし、その含有量が1.5%を超えると熱間加工性が低下する。このため、Mn含有量は0.1〜1.5%とした。好ましい範囲は、0.5〜0.75%である。
【0026】
Cr:
Crは、本発明の継目無鋼管を構成する主要な成分であり、後述するNiとの共存下で耐応力腐食割れ性に代表される耐硫化水素腐食性を向上させるのに有効な成分である。しかし、その含有量が20%未満ではその効果が得られない。一方、その含有量が35%を超えるとその効果は飽和し、過剰な添加は経済性の観点からも好ましくない。したがって、Cr含有量は20〜35%とした。好ましい範囲は22〜30%である。
【0027】
Ni:
Niは、耐硫化水素腐食性を向上させる作用がある。しかし、その含有量が25%未満では、合金の外表面にNi硫化物皮膜が十分に生成しないので、Niの効果が得られない。一方、50%を超えて含有させてもその効果は飽和し、合金の価格上昇を招いて経済性を損なうことになる。したがって、Ni含有量は25〜50%とした。好ましい範囲は27〜45%である。
【0028】
sol.Al:
Alは、上記のSi、Mnと同様に、合金の脱酸剤として必要である。その効果を得るには、sol.Al含有量で0.01%以上必要である。しかし、その含有量が0.3%を超えると熱間加工性が低下する。このため、sol.Al含有量は0.01〜0.3%とした。好ましい範囲は0.1〜0.15%である。
【0029】
Cu:
Cuは、本発明の継目無鋼管にとって最も特徴的な元素である。また、Cuは、硫化水素環境下での耐硫化水素腐食性を著しく向上させる作用があり、その効果は0.5%以上の含有量で得られる。しかし、含有量が8%を超えるとその効果は飽和し、逆に熱間加工性が低下する。このため、Cu含有量は0.5〜8%とした。好ましい範囲は1〜6%である。
【0030】
ただし、そのCu含有量は、前述したように、式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たす量でなければならない。
【0031】
Mo:
Moは、本発明の継目無鋼管にとって上記のCuに次ぐ特徴的な元素である。また、Moは、水素環境下での耐硫化水素腐食性を向上させる作用を有するが、非常に高価である。また、過剰なMoは高温強度を高くして熱間加工性を低下させ、マンネスマン−マンドレルミル製管法による継目無鋼管の製造を困難にする。このため、本発明においては経済性と熱間加工性を考慮し、その含有量の上限は1.5%とする。一方、その効果は、上記のCuとともに添加する場合、0.01%以上の含有量で得られる。このため、Mo含有量は0.01〜1.5%とした。好ましい範囲は0.05〜1.5%である。
【0032】
ただし、そのMo含有量は、前述したように、式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たす量でなければならない。
【0033】
C:
Cは、その含有量が0.05%を超えると、不純物として存在するNbやVと反応し、粗大な炭化物を形成する。さらに、結晶粒界には連続したCr炭化物を形成し、粒界での応力腐食割れ感受性が増大する。このため、その上限を0.05%とした。好ましい上限は0.03%である。
【0034】
P:
Pは、不可避不純物として含有されるが、その含有量が0.03%を超えると硫化水素環境での応力腐食割れ感受性が増大する。このため、その上限を0.03%とした。好ましい上限は0.02%である。
【0035】
S:
Sは、上記のPと同様に、不可避不純物として含有され、その含有量が0.01%を超えると熱間加工性が著しく低下する。このため、その上限値を0.01%とした。なお、熱間加工性は、Sの含有量を0.0007%以下にまで低減すると格段に改善される。このため、厳しい条件での熱間加工を必要とする場合には、S含有量を0.0007%以下とするのが好ましい。
【0036】
N:
Nは、添加しなくてもよい。ただし、本発明にかかる素材中には、上記のP、Sと同様に、通常、0.01%程度のNが不可避不純物として含有されている。しかし、Nを積極的に添加すれば、耐食性を劣化させることなく、強度を高めることができる。
【0037】
すなわち、本発明の油井用継目無鋼管は、通常、熱間加工後に強度調整のための冷間加工を施して製品とされる。その際、N含有量の低い合金からなる鋼管では、所望の強度を確保するために30%を超える加工度(断面減少率)を付与する必要がある。この場合、耐食性(耐応力腐食割れ性)が低下するが、Nを積極的に添加すると、加工度が30%以下の冷間加工で所望の強度確保が可能になり、耐食性(耐応力腐食割れ性)が低下しなくなる。
【0038】
したがって、加工度30%以下の冷間加工によって強度をさらに向上させる必要がある場合には、Nを積極的に添加することができる。その効果は0.02%以上の含有量で得られる。一方、その含有量が0.15%を超えると、熱間加工性が低下する。また、強度が高くなりすぎて冷間加工による強度レベルの調整が難しくなり、硫化水素環境下での応力腐食割れ感受性がかえって高まる。このため、積極的に添加する場合のN含有量は、0.02〜0.15%、好ましくは0.05〜0.1%とするのが望ましい。
【0039】
REM(希土類元素)、Mg、Ca、Y
これらの成分は、必要に応じて添加する。添加すれば、熱間加工性が向上するので、より優れた熱間加工性を確保する必要がある場合には、これらのうちから選ばれた1種または2種以上を添加することができる。しかし、いずれの元素も、その含有量が0.001%未満では上記の効果が得られない。一方、その含有量が、REM、MgおよびCaについてはいずれも0.1%、Yについては0.2%を超えると、粗大な酸化物が生成し、かえって熱間加工性の低下を招く。このため、添加する場合のこれらの元素の含有量は、REM、MgおよびCaについては0.001〜0.1%、Yについては0.001〜0.2%とするのが望ましい。
【0040】
なお、本発明の継目無鋼管は、上記のC、PおよびS以外の不可避不純物として、B、Sn、As、Sb、Bi、PbおよびZnをそれぞれ0.1%以下の範囲で含有していてもよく、この場合においてもその特性は何ら損なわれるものではない。
【0041】
本発明の継目無鋼管は、通常商業的な生産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、素材の合金の溶製は、電気炉、Ar−O2混合ガス底吹き脱炭炉(AOD炉)、真空脱炭炉(VOD炉)などを利用することができる。溶製された溶湯は、インゴットに鋳造してもよいし、連続鋳造法で棒状のビレットなどに鋳造してもよい。これらのビレットから、ユジーンセジュネル法などの押し出し製管法またはマンネスマン製管法により継目無鋼管を製造する。なお、製管前のビレットの加熱温度などの製管条件は、従来のMoを多く含む継目無鋼管の場合と同様でよい。
【0042】
また、熱間加工後の継目無鋼管には、加工度30%以下の冷間加工を施して強度を調整し、製品管とするのが好ましい。
【0043】
【実施例】
本発明の継目無鋼管の特性を確認するために、表1に示す15種類の合金を溶製した。これらの合金は、電気炉で溶解し、目標の化学組成にほぼ成分調整した後、AOD炉を用いて脱炭および脱硫処理を行う方法で製造した。得られた溶湯は、重さ1500kg、直径500mmのインゴットに鋳造した。なお、表1に示す15種類の合金のうち、No. 1、2および4〜9は本発明例、No. 10〜16は比較例である。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示した化学組成の各インゴットに対して、以下の処理を施した。まず、インゴットを1250℃に加熱し、1200℃で熱間鍛造して直径150mmの棒状に成形した。さらに、長さ1000mmに切断して押し出し製管用ビレットを得た。次に、このビレットを用いてユジーンセジュネル法による熱間押出製管で、直径60mm、肉厚5mm、長さ約20mの継目無鋼管に成形し、その熱間加工性を調査した。また、上記と同様のビレットをマンネスマン−マンドレルミル製管法で、直径60mm、肉厚7mm、長さ約20mの継目無鋼管に製管し、その熱間加工性を調査した。
【0046】
そのうち、熱間押出製管して得られた管については、1100℃で0.5時間保持した後水冷する条件で溶体化処理を施した。さらに、加工度(断面減少率)25%の冷間加工を施すことにより、0.2%耐力を125ksiグレード(87.75〜98.28kgf/mm2)の強度に調整し、製品管とした。
【0047】
これらの製品管から図2に示す形状と寸法で、その長手方向の中央部にUノッチ2を形成した試験片1を採取し、この試験片1を図3に示す曲げ付与治具3にセットして所定の曲げを付与した後、そのままの状態で硫化水素腐食試験に供し、耐硫化水素腐食性(耐硫化水素応力腐食割れ性)を調査した。なお、硫化水素腐食試験は、下記の条件で行った。
【0048】
(硫化水素腐食試験条件):
試験溶液:20%NaCl+0.5%CH3COOH
試験ガス:7atmH2S+10atmCO2
試験温度:180℃
浸漬時間:720時間
付加応力:125ksi(87.75kgf/mm2)
【0049】
一方、熱間加工性は、熱間押出製管したものについては、製管後の管内面を目視観察し、製管時に発生した疵の有無によって評価した。また、マンネスマン−マンドレルミル製管したものについては、製管後の管の管端から1000mmの位置を切断し、管断面の肉厚方向での溶融二枚割れの発生の有無により評価した。
【0050】
これらの調査結果を、表1に併せて示した。なお、耐硫化水素腐食性の評価は、上記の硫化水素腐食試験において割れまたは孔食が生じなかったものを「良好:○」、生じたものを「不芳:×」とした。また、熱間加工性の評価は、熱間押し出し製管したものについては、目視観察にて製管時に発生した疵が認められなかったものを「良好:○」、認められたものを「不芳:×」とした。さらに、マンネスマン−マンドレルミル製管したものについては、溶融二枚割れの発生が認められなかったものを「熱間加工性良:○」、認められたものを「熱間加工性不良:×」とした。
【0051】
表1に示す結果から明らかなように、本発明例の継目無鋼管(No. 1、2および4〜9)は、いずれも耐硫化水素腐食性に優れていた。また、熱間加工性についても、いずれも良好であった。
【0052】
これに対し、比較例の継目無鋼管(No. 10〜15)のうち、No. 10と11の継目無鋼管は、いずれも熱間加工性は良好であったが、MoとCuの含有量が本発明で規定する範囲内で、かつ式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たすものの、CrまたはNiの含有量が本発明で規定する下限値より低いために、耐硫化水素腐食性が不芳であった。
【0053】
また、No. 12の継目無鋼管は、Cuの含有量は本発明で規定する範囲内であるが、Moの含有量が多すぎて式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たしていないために、耐硫化水素腐食性が不芳であり、Mo含有量が2.00%と高いために、溶融二枚割れが発生し、マンネスマン−マンドレルミル製管法での商業的な製造が不可能なものであった。
【0054】
No. 13の継目無鋼管は、MoとCuの含有量は本発明で規定する範囲内であるが、式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たしていないために、耐硫化水素腐食性が不芳であった。
【0055】
さらに、No. 14の継目無鋼管は、熱間加工性は良好であったが、Cuを含有していないために、耐硫化水素腐食性が不芳であった。
【0056】
No. 15の継目無鋼管は、式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たし、耐硫化水素腐食性は良好であったが、Cu含有量が9.4%と本発明で規定する上限値を超えているために、熱間加工性が不芳であった。
【0057】
No. 16の継目無鋼管は、式『Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2』を満たすものの、Nの含有量が0.18%と本発明で規定する上限値を超えているために、耐硫化水素腐食性が不芳であった。
【0058】
【発明の効果】
本発明の継目無鋼管は、硫化水素分圧が1〜10atm程度と高く、温度が150〜250℃の高温環境下での耐硫化水素腐食性に優れている。また、その継目無鋼管は高価なMoの含有量が少ないので安価である。しかも、熱間加工性にも優れており、工業的生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Cu含有量とMo含有量が耐応力腐食割れ性に及ぼす影響を示す図である。
【図2】 実施例の硫化水素腐食試験に用いた切欠き付き4点曲げ試験片の形状と寸法を示す図で、同図(a)は平面図、同図(b)は正面図、同図(c)は切り欠き部の拡大図である。
【図3】 曲げ付与治具と試験片の関係を示す図で、同図(a)はセットした状態を示す正面図、同図(b)は試験片に対する応力付与状態を示す正面図である。
【符号の説明】
1:試験片、
2:Uノッチ、
3:曲げ付与治具。
Claims (1)
- 重量%で、Si:0.05〜1%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:20〜35%、Ni:25〜50%、Cu:0.5〜8%、Mo:0.01〜1.5%、sol.Al:0.01〜0.3%、N:0.15%以下、REM:0〜0.1%、Y:0〜0.2%、Mg:0〜0.1%、Ca:0〜0.1%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、不純物中のC、P、Sがそれぞれ0.05%以下、0.03%以下、0.01%以下であり、かつCuとMoの含有量の関係が下式を満たすことを特徴とする硫化水素環境下での耐応力腐食割れ性に優れた油井用継目無鋼管。
Cu≧1.2−0.4(Mo−1.4)2
ここで、元素記号は鋼中のそれぞれの元素の含有量(重量%)を表す。
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JP11514998A JP3650951B2 (ja) | 1998-04-24 | 1998-04-24 | 耐応力腐食割れ性に優れた油井用継目無鋼管 |
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