JP6840465B2 - ガスバリア性積層体 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスバリア性積層体に関する。
近年、水蒸気バリア性や酸素バリア性などを備えるガスバリア性積層体に、セルロースナノファイバーを適用することが検討されている。このような技術としては、たとえば特許文献1、2に記載のものがあげられる。
特許文献1に記載の技術は、セルロース繊維を含む懸濁液を用いて形成した膜状物に、反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させ、その後架橋反応させる工程を有する膜状成形体の製造方法に関する。特許文献2に記載の技術は、基材上に、カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーを含む層(A)と、多価金属化合物を含む層(B)とを有するガスバリア性積層体に関する。
特開2010−167411号公報 特開2014−223737号公報
ガスバリア性積層体においては、優れた酸素バリア性を有するとともに、加熱時における黄変を抑制することが求められる場合がある。しかしながら、特許文献1、2などに例示されるこれまでの技術では、酸素バリア性を向上させつつ、加熱黄変を抑制することが可能なガスバリア性積層体を実現することは困難であった。
本発明によれば、基材と、前記基材の一面上に積層された保護層と、を備え、前記保護層は、繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含むガスバリア性積層体が得られる。
本発明によれば、酸素バリア性を向上させつつ、加熱黄変を抑制することが可能なガスバリア性積層体を実現することが可能となる。
本実施形態に係るガスバリア性積層体を示す断面模式図である。 繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
図1は、本実施形態に係るガスバリア性積層体10を示す断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係るガスバリア性積層体10(以下、単に積層体10と呼ぶこともある)は、基材12と、基材12の一面上に積層された保護層14と、を備えている。保護層14は、繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含む。
上述したとおり、ガスバリア性積層体においては、酸素バリア性を向上させつつ、加熱黄変を抑制することが求められる場合がある。たとえばイオン性置換基が導入されたセルロースナノファイバーを用いたバリア膜においては、微細繊維が緻密に集積した構造を実現することができることから、酸素バリア性の向上を図ることが可能である。しかしながら、このようなセルロースナノファイバーを用いたガスバリア性積層体においては、加熱による黄変が生じることが懸念された。たとえば特許文献1、2に記載されるような、カルボキシル基を多く有するセルロースナノファイバーを用いた場合には、加熱によるカルボキシル基のβ脱離に起因して積層体が黄変してしまうことが想定された。
鋭意検討の結果、ガスバリア性積層体の保護膜を構成するセルロース繊維にイオン性置換基としてリン酸基を導入することにより、加熱時の黄変が抑制されつつ、酸素バリア性に優れた保護膜が得られることが本発明者によって新たに見出された。したがって、本実施形態によれば、酸素バリア性を向上させつつ、加熱黄変を抑制することが可能なガスバリア性積層体を実現することが可能となる。
以下、本実施形態に係る積層体10について詳述する。
<ガスバリア性積層体>
積層体10は、ガスバリア性を有する積層体である。ここで、ガスバリア性を有するとは、たとえば酸素ガス、水蒸気およびその他各種ガスから選択される一種または二種以上に対するバリア性を有することを指す。本実施形態においては、とくに酸素ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れた積層体10を得ることができる。
本実施形態に係る積層体10は、たとえばフィルム状の形状を有するガスバリアフィルム、または板状の形状を有する構造材や光学部材である。積層体10は、ガスバリア性が要求される用途においてとくに好適に用いられ、たとえば物品を包装する包装材などに用いることができる。このような包装材としては、とくに限定されないが、たとえば食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療器材、電子部品、および衣料品などを挙げることができる。また、積層体10は、たとえば各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適用することが可能である。
積層体10の厚さは、とくに限定されないが、たとえば5μm以上10mm以下であることが好ましく、5μm以上1mm以下であることがより好ましい。これにより、ガスバリア性を向上させつつ、フィルム状や板状の積層体を形成することがより容易となる。さらには、積層体10の透明性の向上に寄与することも可能となる。
積層体10は、上述のとおり、基材12と、基材12の一面上に積層された保護層14と、を備えている。本実施形態においては、たとえば水蒸気バリア性を有する基材12と、酸素バリア性を有する保護層14と、を積層することによりガスバリア性に優れた積層体10を得ることができる。なお、保護層14は、図1に示すように基材12の一面のみに設けられていてもよく、基材12の一面と他面に設けられていてもよい。また、保護層14は2枚の基材12の間に挟まれるように設けられていてもよい。基材12と保護層14は、それぞれ複数設けられていてもよい。この場合、複数の基材12同士、または複数の保護層14同士が接するように積層されてもよく、基材12と保護層14が交互に積層されてもよい。また、基材12と保護層14は、図1に示すように互いに接するように積層されていてもよく、基材12と保護層14以外の他の層を介して積層されていてもよい。たとえば、基材12と保護層14が、他の接着剤層を介して積層されている態様を採用することも可能である。
<基材>
基材12は、とくに限定されないが、たとえば公知のシート状基材を用いることができる。シート状基材としては、たとえば樹脂基材、ガラス基材、またはセルロース系基材などを用いることができる。樹脂基材は、たとえばポリエチレンやポリプロピレンなどに例示さえるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどに例示されるポリエステル系樹脂、トリアセチルセルロースなどに例示されるセルロース系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンに例示されるポリアミド系樹脂、ポリアルキル(メタ)アクリレートなどに例示されるアクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、およびエチレンビニルアルコールから選択される一種または二種以上を含むことができる。
基材12の厚さは、とくに限定されないが、たとえば1μm以上10mm以下とすることができ、透明性や成形性などの観点からは1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
<保護層>
保護層14は、繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含んでいる。これにより、上述したとおり、加熱時の黄変を抑制しつつ、酸素バリア性を向上させることが可能となる。なお、本明細書においては、繊維幅が1000nm以下であるセルロース繊維を、微細繊維状セルロースとも呼ぶ。
保護層14に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、保護層14全体に対して、たとえば50質量%以上とすることができ、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。一方で、保護層14に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、とくに限定されないが、保護層14全体に対して100質量%としてもよく、98質量%以下とすることもできる。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、保護層14の透明性や酸素バリア性の向上に寄与することが可能となる。
保護層14は、セルロース繊維として、微細繊維状セルロースとともに、繊維幅が1000nm超過の粗大繊維状セルロースを含んでいてもよい。本実施形態においては、保護層14におけるセルロース繊維全体に対する微細繊維状セルロースの割合は、たとえば60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがとくに好ましい。一方で、保護層14におけるセルロース繊維全体に対する微細繊維状セルロースの割合の上限値は、とくに限定されず、たとえば100質量%としてもよく、98質量%とすることもできる。
保護層14は、無機層状化合物などの無機化合物をさらに含んでいてもよい。これにより、積層体10のガスバリア性をより効果的に向上させることができる。無機層状化合物としては、たとえばモンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイトなどのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、テトラシリシックマイカなどのマイカ族粘土鉱物、およびカオリナイトなどに例示される粘土鉱物、ならびにハイドロタルサイトなどに例示される層状複水酸化物などが挙げられる。また、無機層状化合物としては、たとえば層状の形状を有する金属酸化物やグラファイトなどを用いることもできる。なお、保護層14は、これらの無機層状化合物から選択される一種または二種以上を含むことができる。
保護層14は、セルロース繊維および無機層状化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。保護層14は、たとえば上記他の成分として、たとえばポリビニルアルコールなどに例示される水溶性高分子、ペクチンなどに例示される糖類、カップリング剤、無機層状化合物以外の無機化合物、レベリング剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤から選択される一種または二種以上を含むことができる。
保護層14は、無機層状化合物以外の無機化合物をさらに含んでいてもよい。これにより、積層体10の鉛筆硬度を効果的に向上させることができる。無機層状化合物以外の無機化合物としては、たとえばシリカ、炭酸カルシウムなどの鉱物、銀、金などの金属、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの金属酸化物などが挙げられる。また、層状以外の形状を有するスメクタイト族粘土鉱物、マイカ族粘土鉱物、およびカオリナイトなどに例示される粘土鉱物、ハイドロタルサイトなどに例示される複水酸化物、ならびにグラファイトなどを用いることもできる。なお、保護層14は、これらの無機層状化合物以外の無機化合物から選択される一種または二種以上を含むことができる。
無機層状化合物以外の無機化合物の粒子径は、特に限定されないが、たとえば100μm以下とすることができ、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが透明性の観点からさらに好ましい。一方で、無機層状化合物以外の無機化合物の粒子径は、特に限定されないが、たとえば5nm以上とすることができる。
保護層14は、有機架橋剤などの架橋剤をさらに含んでいてもよい。有機架橋剤としては、例えばアミノ基、エポキシ基、リン酸基、水酸基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基などの反応性官能基を有する化合物などが挙げられる。上記反応性官能基を有する化合物は、微細繊維状セルロースの水酸基、リン酸基と反応することで、積層体10の加熱黄変を効果的に抑制することができ、さらに積層体10の耐水性、耐湿性を効果的に向上させることができる。
保護層14の厚さは、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1mm以下とすることができ、0.1μm以上250μm以下であることが透明性や成形性などの観点から好ましい。
保護層14のヘーズは、たとえば20%以下とすることができ、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。一方で、保護層14のヘーズの下限値は、とくに限定されないが、たとえば0.1%とすることができる。保護層14のヘーズ値は、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。
保護層14の全光線透過率は、たとえば60%以上とすることができ、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。一方で、保護膜14の全光線透過率の上限値は、とくに限定されないが、たとえば99.9%とすることができる。保護層14の全光線透過率は、JIS K 7361に準拠してヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)で測定される値である。
保護層14は、たとえば加熱による黄変度変化(ΔYI)が75.0以下であり、65.0以下とすることがより好ましい。本実施形態によれば、リン酸基またはリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を用いて保護層14を形成しているため、上述のように加熱による黄変度変化を抑えることが可能となる。なお、シートの黄変度変化(ΔYI)は、次式で表すことができる。
ΔYI = YI−YI
ここで、YIは200℃で4時間の真空乾燥前の黄色度、YIは200℃で4時間の真空乾燥後の黄色度を示す。黄色度は、JIS規格K7373に準拠して測定した値をいう。
本実施形態における、より好ましい態様においては、後述するようにリン酸基およびリン酸基由来の置換基を脱離させて、保護層14中の微細繊維状セルロースに含まれるリン酸基およびリン酸基由来の置換基の量を低減させることができる。この場合、黄色度変化(ΔYI)は、50.0以下とすることができ、より好ましくは7.0以下であり、さらに好ましくは5.0以下である。このような好ましい態様において黄色度変化が抑制されるのは、リン酸基による高温下でのチャー形成が低減されるからであると推定される。
本実施形態に係る積層体10は、基材12と保護層14以外の他の層を一または二以上有していてもよい。他の層としては、たとえば無機層や有機層が挙げられる。他の層は、基材12のうちの保護層14と対向する一面と反対の他面上や、保護層14のうちの基材12と対向する一面と反対の他面上に設けられることが好ましい。一方で、他の層は、基材12と保護層14の間に設けられていてもよい。上記他の層は、一層のみ設けられていてもよく、複数層設けられていてもよい。また、積層体10は、たとえば無機層および有機層のうちの一方または両方を含むことができる。
上記無機層は、たとえばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、およびチタン、ならびにこれらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、酸化炭化窒化物、および炭素の同素体からなるダイヤモンド状炭素から選択される一種または二種以上を含むことができる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、およびこれらの混合物を含むことが好ましい。また、高い耐傷付性が付与できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、ダイヤモンド状炭素、およびこれらの混合物を含むことが好ましい。また、無機層はアルキル基やアリル基、フェニル基などに代表される有機成分を含有してもよい。また、無機層は各種顔料や染料等の、着色を目的とした成分を含有してもよく、各種紫外線防御剤やラジカル捕捉剤等の、基材12や保護層14の紫外線による劣化を防止する成分を含有してもよい。
無機層は、各種の紫外線防御剤を含有してもよい。ここで、紫外線防御剤は、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系の有機化合物に代表される有機系紫外線防御剤であってもよく、酸化チタン、酸化亜鉛に代表される無機系紫外線防御剤であってもよい。また、紫外線防御剤は、その効果を高めるため、ヒンダートフェノール系の有機化合物に代表される酸化防止剤と併せて含有されてもよい。
上記有機層は、たとえばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、シルセスキオキサン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ポリウレタン樹脂、シルセスキオキサン樹脂、およびジアリルフタレート樹脂などに例示される樹脂材料などから選択される一種または二種以上を含むことができる。低吸水性の積層体を得るためには、樹脂は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、またはアミノ基などの親水性の官能基が少ないことが好ましい。また、高い耐傷付性が付与できるとの観点からは、有機層はアクリル樹脂を含むことが好ましい。また、有機層は各種顔料や染料等の、着色を目的とした成分を含有してもよく、各種紫外線防御剤やラジカル捕捉剤等の、基材12や保護層14の紫外線による劣化を防止する成分を含有してもよい。有機層は、他の成分として、たとえばポリビニルアルコールなどに例示される水溶性高分子、ペクチンなどに例示される糖類、カップリング剤、無機化合物、レベリング剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤から選択される一種または二種以上を含むことができる。
有機層は、各種の紫外線防御剤を含有してもよい。ここで、紫外線防御剤は、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系の有機化合物に代表される有機系紫外線防御剤であってもよく、酸化チタン、酸化亜鉛に代表される無機系紫外線防御剤であってもよい。また、紫外線防御剤は、その効果を高めるため、ヒンダートフェノール系の有機化合物に代表される酸化防止剤と併せて含有されてもよい。
<微細繊維状セルロース>
次に、保護層14に含まれる微細繊維状セルロースについて詳述する。
微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。本実施形態において、保護層14に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、たとえば1000nm以下である。上記平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解してしまうことを抑制し、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)を効果的に発現させることができる。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、特に限定されないが、たとえばX線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
微細繊維状セルロースは、セルロース原料を解繊処理することによって得られる。本実施形態においては、セルロース原料に化学的処理を施してリン酸基またはリン酸基由来の置換基(以下、単にリン酸基と呼ぶこともある)を導入した後、当該セルロース原料に対して解繊処理を施すことが好ましい。このようにして得られる微細繊維状セルロースは、リン酸基またはリン酸基に由来する置換基を有することとなる。なお、微細繊維状セルロースは、リン酸基とともに、カルボキシル基またはカルボキシル基由来の置換基、スルホン基またはスルホン基由来の置換基などに例示される他のアニオン性基や、カチオン性基を含んでいてもよい。
本実施形態では、リン酸基またはリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
Figure 0006840465
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α(n=1〜nの整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
保護層14に含まれる微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース1g(質量)あたりリン酸基およびリン酸由来の置換基を、たとえば合計で0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下有することが好ましく、1.0mmol/g以上3.5mmol/g以下有することがより好ましい。これにより、静電反発力による微細化をより効果的に発揮させて、微細繊維状セルロースをより効率的に微細化することが可能となる。
また、保護層14に含まれる微細繊維状セルロースは、リン酸基を導入した後に、リン酸基を脱離させる処理を行ってもよい。この場合、保護層14に含まれる微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース1g(質量)あたりリン酸基およびリン酸由来の置換基を、たとえば合計で0.01mmol/g以上0.5mmol/g以下とすることができ、0.05mmol/g以上0.3mmol/g以下であることが好ましい。
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図2に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図2に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
<微細繊維状セルロースの製造方法>
本実施形態において、微細繊維状セルロースの製造方法は、上述したように、たとえばセルロース原料へリン酸基を導入する工程(以下、リン酸基導入工程とも呼ぶ)と、セルロース原料に対して解繊処理を施す工程(以下、解繊処理工程とも呼ぶ)と、を含む。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基を導入することができる。
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程と解繊処理工程の間に、アルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。また、アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。また、アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
なお、アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
解繊処理工程は、たとえば解繊処理装置を用いてセルロース原料を解繊処理することにより行われる。これにより、微細繊維状セルロース含有スラリーが得られることとなる。なお、解繊処理工程において用いられる解繊処理装置や処理方法は、とくに限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
本実施形態では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。
<ガスバリア性積層体の製造方法>
次に、ガスバリア性積層体10の製造方法について詳述する。
本実施形態に係るガスバリア性積層体10の製造方法は、基材12の一面上に保護層14を形成する工程を含む。保護層14は、たとえば微細繊維状セルロース含有スラリーを基材12上に塗工し、乾燥することにより形成することができる。また、保護層14は、たとえば微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙して得た繊維層や、微細繊維状セルロース含有スラリーを他の基材に塗工、乾燥して得た繊維層を、基材12上に積層することにより形成されていてもよい。なお、保護層14を形成するために用いられる上記微細繊維状セルロース含有スラリーには、微細繊維状セルロースとともに、たとえば無機層状化合物などの他の成分が含まれていてもよい。
本実施形態においては、たとえば保護層14を形成した後、保護層14中に含まれる微細繊維状セルロースからリン酸基を脱離させる工程(以下、リン酸基脱離工程とも呼ぶ)を含むことができる。これにより、保護層14およびこれを用いた積層体10について、加熱による黄変をより効果的に抑えることが可能となる。この場合、保護層14に含まれる微細繊維状セルロースについて、微細繊維状セルロース1g(質量)あたりにおけるリン酸基およびリン酸由来の置換基の合計の含有量を、たとえば0.01mmol/g以上0.5mmol/g以下とすることができる。
微細繊維状セルロースからリン酸基を脱離させる工程は、たとえば保護層14をアルコールによって処理することにより行われる。本実施形態においては、たとえば保護層14をアルコールに浸漬して加熱することによりリン酸基を脱離させることができる。アルコールとしては、たとえばアルコールのうち2以上のOH基を有する多価アルコールを用いることがより好ましい。また、多価アルコールとしては、たとえばOH/C比率が0.15以上のものを用いることが好ましく、0.2以上のものを用いることがより好ましい。ここで、OH/C比率とは、分子に含まれる炭素(C)原子あたりのOH基の個数をいう。たとえばエチレングリコール(C)のOH/C比率は1であり、ジエチレングリコール(C10)のOH/C比率は0.67である。本実施形態において、リン酸基脱離工程に用いられる好ましいアルコールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、グリセリン(グリセロール、1,2,3−プロパントリオール)、ペンタンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、糖アルコール(たとえばソルビトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール)などが挙げられるがこれらに限定されない。
リン酸基脱離工程におけるアルコールの使用量は、リン酸基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、たとえば保護層14を1質量部としてアルコールを1質量部以上100質量部以下とすることができる。
また、リン酸基脱離工程における処理温度は、リン酸基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、たとえば140℃以上とすることができ、160℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましい。また、上記処理温度は、セルロース原料の分解が抑えられる温度を選択することが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがとくに好ましい。また、加熱の際には適宜、酸または塩基などの添加剤を加えてもよい。また、リン酸基脱離工程における処理時間は、リン酸基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、たとえば10分以上120分以下とすることができ、15分以上90分以下が好ましく、15分以上60分以下がより好ましい。
本実施形態においては、たとえばアルコールの種類や使用量、処理温度、および処理時間などの処理条件をそれぞれ適切に選択することにより、リン酸基を脱離させる工程の後における微細繊維状セルロースのリン酸基含有量を制御することが可能である。
なお、微細繊維状セルロース含有スラリーを用いて形成した繊維層に対してリン酸基脱離工程を施した後、当該繊維層を基材12に積層することにより、保護層14を形成することも可能である。
本実施形態においては、たとえば基材12の一面上に保護層14を形成した後、基材12のうちの保護層14と対向する一面と反対の他面上や、保護層14のうちの基材12と対向する一面と反対の他面上に無機層を形成する工程を含むことができる。無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
また、無機層の形成方法としては、ウェットコーティング法を採用することもできる。ウェットコーティング法は、任意の溶媒中に溶解させた、形成しようとする膜の前駆体を、層を形成する面に塗布し、加熱や放射線照射により硬化させ、膜を形成する方法である。ウェットコーティング法は、数マイクロメートルの厚い膜を形成できる利点や、大気圧プロセスで膜が形成できるため生産性が高い等の利点がある。
本実施形態においては、たとえば基材12の一面上に保護層14を形成した後、基材12のうちの保護層14と対向する一面と反対の他面上や、保護層14のうちの基材12と対向する一面と反対の他面上に有機層を形成する工程を含むことができる。有機層の形成方法は、特に限定されないが、たとえばウェットコーティング法を採用することができる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
<実施例1>
[リン酸化]
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙社製のパルプ(固形分93%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素200質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入した。このときのリン酸基の導入量は、0.98mmol/gであった。
なお、リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図2に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
[アルカリ処理及び洗浄]
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12以上13以下になるまで少しずつ添加して、パルプ分散液を得た。その後、このパルプ分散液を脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
[機械処理]
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ分散液とした。このパルプ分散液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製、Panda Plus 2000)を用いて処理し、セルロース分散液を得た。高圧ホモジナイザーを用いた処理においては、操作圧力1200barにてホモジナイジングチャンバーを5回通過させた。さらに、このセルロース分散液を湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、245MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液(A)に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は4nmであった。
[ガスバリア性積層体の製造]
上記で得た微細繊維状セルロース分散液(A)に、微細繊維状セルロース100重量部に対して40重量部の無機層状化合物(モンモリロナイト)を添加して、塗工液を得た。次いで、膜厚16μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製ルミラーP−60)の一面上に、乾燥膜厚が1μmとなるように上記塗工液を塗工して塗工膜を得た。次いで、上記塗工膜を、120℃、30分の条件で加熱して乾燥させ、樹脂基材の一面上に保護膜を形成した。このようにして、基材と保護層を備えるガスバリア性積層体を製造した。
<実施例2>
実施例1と同様にして製造したガスバリア性積層体に対して、以下のリン酸基脱離処理を施した。これにより、実施例2に係るガスバリア性積層体を得た。
[リン酸基脱離処理]
ガスバリア性積層体をエチレングリコールに浸漬して180℃で15分間処理した後、当該積層体を30mLのメタノールに浸漬して洗浄を行った。洗浄を3回繰り返した後、100℃、5分の条件で加熱乾燥した。このようにして、リン酸基脱離処理を行った。リン酸基脱離処理後における微細繊維状セルロースのリン酸基含有量は、0.5mmol/g以下であった。
<実施例3>
無機層状化合物(モンモリロナイト)を、ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA117を濃度10%に溶解)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
<実施例4>
無機層状化合物(モンモリロナイト)を、ペクチン(和光純薬社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
<比較例1>
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が3.5mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は1.0Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、パルプにカルボキシル基を導入した。このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、カルボキシル基変性セルロース繊維を得た。得られたカルボキシル基変性セルロース繊維は、カルボキシル基の導入量が1.01mmol/gであった。これにより得られたカルボキシル基変性セルロース繊維をイオン交換水に分散させて微細繊維状セルロース分散液(B)を作成した。微細繊維状セルロース分散液(A)の代わりに微細繊維状セルロース分散液(B)を用いた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性積層体を製造した。
<比較例2>
リン酸化の工程と、アルカリ処理及び洗浄の工程を行わない以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
<酸素透過度の測定>
実施例1−4および比較例1−2について、作成したガスバリア性積層体について酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製、MOCON OX−TRAN 2/21)を用いて酸素透過度(cm/m・day)を30℃−70%RH雰囲気下で測定し、以下の基準で判定した。実施例1から4および比較例1は、比較例2と比較して、優れたガスバリア性が得られた。
◎:酸素透過度が5以上50未満。
○:酸素透過度が50以上100未満。
△:酸素透過度が100以上。
<黄変度変化の測定>
実施例1−4および比較例1−2について、作成したガスバリア性積層体について加熱による黄変度変化(ΔYI)を測定した。ΔYIは、ガスバリア性積層体を200℃、4時間の条件で真空乾燥し、真空乾燥前の黄色度をYIとし、真空乾燥後の黄色度をYIとして、以下の式から算出した。
ΔYI = YI−YI
得られたΔYIを以下の基準で判定した。
◎:ΔYIが0.1以上7未満。
○:ΔYIが7以上50未満。
△:ΔYIが50以上100未満。
×:ΔYIが100以上。
実施例1から4および比較例2は、比較例1と比較して黄変度変化(ΔYI)が小さいことが確認された。
Figure 0006840465
<実施例5(板状ガスバリア性積層体の製造例1)>
実施例1で得た微細繊維状セルロース分散液(A)に、微細繊維状セルロース100重量部に対して20重量部のポリエチレンオキサイド(住友精化社製、PEO−18)を添加して、塗工液を得た。次いで、膜厚100μmの樹脂基材(ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学社製、ユーピロン・シートFE−2000))の一面上に、乾燥膜厚が20μmとなるように上記塗工液を塗工して塗工膜を得た。次いで、上記塗工膜を、120℃、30分の条件で加熱して乾燥させて、樹脂基材の一面上に保護膜を形成した。さらに、同様の方法により上記保護膜の上にさらに保護膜を形成して、樹脂基材の一面上に膜厚20μmの保護膜を2層形成した成形用積層体を得た。
次いで、10mm角に切り出した2枚の上記成形用積層体の間に、厚み2mmの市販のポリカーボネート板を挿入した。この際、2枚の成形用積層体の樹脂基材側の面が上記ポリカーボネート板に接するようにした。次いで、厚み2mm、寸法200mm×200mmのステンレス板で挟んだ。なお、ステンレス板としては、離型剤(オーデック社製、テフリリーズ)を挟持面に塗布したものを使用した。その後、常温に設定したミニテストプレス(東洋精機工業社製、MP−WCH)に挿入して1MPaのプレス圧力下、3分かけて180℃まで昇温した。この状態で30秒間保持した後、5分かけて30℃まで冷却した。上記の手順により、樹脂膜の両方の面に保護膜が形成された、板状ガスバリア性積層体を得た。
<実施例6(板状ガスバリア性積層体の製造例2)>
実施例5において、塗工液に微細繊維状セルロース100重量部に対して10重量部のシリカナノ粒子(日産化学工業社製、スノーテックスST−CXS)をさらに添加した。その他の手順は実施例5と同様にし、樹脂膜の両方の面に保護膜が形成された、板状ガスバリア性積層体を得た。
<実施例7(板状ガスバリア性積層体の製造例3)>
実施例5において、塗工液に微細繊維状セルロース100重量部に対して5重量部の有機架橋剤(日清紡ケミカル社製、カルボジライトV−04)をさらに添加した。その他の手順は実施例5と同様にし、樹脂膜の両方の面に保護膜が形成された、板状ガスバリア性積層体を得た。
<実施例8(板状ガスバリア性積層体の製造例4)>
実施例5で得た成形用積層体を、プラズマCVD装置(サムコ社製、PD−220ESN)の真空チャンバー内に静置した。真空チャンバー内の温度を100℃に設定し、プラズマ放電を発生させて16分間の成膜を行い、成形用積層体の一面上に膜厚1μmの二酸化ケイ素膜を成膜した。この際、成膜原料としてテトラエトキシシランを6cc/分、酸素ガスを300cc/分、流入させた。次いで、成形用積層体の他方の面上にも同様に二酸化ケイ素膜を成膜し、両方の面に無機層が形成された、板状ガスバリア性積層体を得た。
<実施例9(板状ガスバリア性積層体の製造例5)>
実施例5で得た成形用積層体の一面上に、アクリル−シリカハイブリッド樹脂(荒川化学工業社製、コンポセランAC601)を乾燥膜厚が10μmとなるよう塗工し、120℃で1時間加熱し、硬化させて有機層を形成した。次いで、成形用積層体の他方の面上にも同様に有機層を形成し、両方の面に有機層が形成された、板状ガスバリア性積層体を得た。
<実施例10(板状ガスバリア性積層体の製造例6)>
実施例9において、アクリル−シリカハイブリッド樹脂(荒川化学工業社製、コンポセランAC601)100重量部に対し、3重量部の紫外線防御剤(アデカ社製、アデカスタブLA−29)を添加した。その他の手順は実施例9と同様にし、両方の面に有機層が形成された、板状ガスバリア性積層体を得た。
<比較例3>
成形用積層体の代わりに膜厚140μmのポリカーボネートフィルムを使用した以外は、実施例5と同様にして板状ガスバリア性積層体を得た。
<比較例4>
実施例5において、微細繊維状セルロース分散液(A)の代わりに、比較例1で得た微細繊維状セルロース分散液(B)を使用した。その他の手順は実施例5と同様にし、板状ガスバリア性積層体を得た。
<酸素透過度の測定>
実施例5から10、および比較例3、4で作製した板状ガスバリア性積層体について、酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製、MOCON OX−TRAN 2/21)を用いて酸素透過度(cm/m・day)を30℃−70%RH雰囲気下で測定し、以下の基準で判定した。実施例5から10および比較例4は、比較例3と比較して、優れたガスバリア性が得られた。
◎:酸素透過度が5以上50未満。
○:酸素透過度が50以上100未満。
△:酸素透過度が100以上。
<黄変度変化の測定>
実施例5から10、および比較例3、4で作製した板状ガスバリア性積層体について、加熱による黄変度変化(ΔYI)を測定した。ΔYIは、板状ガスバリア性積層体を130℃、24時間の条件で空気雰囲気下で加熱し、加熱前の黄色度をYIとし、加熱後の黄色度をYIとして、以下の式から算出した。
ΔYI = YI−YI
得られたΔYIを以下の基準で判定した。
◎:ΔYIが0.1以上7未満。
○:ΔYIが7以上50未満。
△:ΔYIが50以上100未満。
×:ΔYIが100以上。
実施例5から10および比較例3は、比較例4と比較して黄変度変化(ΔYI)が小さいことが確認された。さらに、実施例7では有機架橋剤の添加により、特に効果的に黄変度変化(ΔYI)を抑制できることがわかった。
<曲げ弾性率の測定>
実施例5から10、および比較例3、4で作製した板状ガスバリア性積層体について、曲げ弾性率を、JIS規格K7074:1988に準拠し、テンシロンRTC−1250Aを用いて測定し、以下の基準で判定した。なお、測定は温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で行った。実施例5から10、および比較例4は、比較例3と比較して優れた曲げ弾性率が得られた。
◎:曲げ弾性率が3.5GPa以上。
○:曲げ弾性率が3.0GPa以上3.5GPa未満。
△:曲げ弾性率が2.5GPa以上3.0GPa未満。
×:曲げ弾性率が2.5GPa未満。
<鉛筆硬度の測定>
実施例5から10、および比較例3、4で作製した板状ガスバリア性積層体について、JIS規格K5600(5−4)に準拠し、鉛筆硬度を測定して耐傷付性の指標とした。耐傷付性を以下の基準で判定した。なお、測定は温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で行った。
◎:鉛筆硬度が2H以上。
○:鉛筆硬度がF以上2H未満。
△:鉛筆硬度がB以上F未満。
×:鉛筆硬度がB未満。
実施例5から10、および比較例4は、比較例3と比較して優れた鉛筆硬度が得られた。さらに、実施例6では無機化合物の添加、実施例8では無機層の形成、実施例9、10では有機層の形成により、特に優れた鉛筆硬度が得られることがわかった。
<耐候性の評価>
実施例5から10、および比較例3、4で作製した板状ガスバリア性積層体について、サンシャインカーボン式促進耐候試験機(スガ試験機社製、S300)を用いた耐候促進試験の後の黄変度変化(ΔYI)を測定することで、耐候性を評価した。ΔYIは耐候性試験前の黄色度をYIとし、耐候性試験後の黄色度をYIとして、以下の式から算出した。
ΔYI = YI−YI
耐候性の評価は、以下の基準で判定した。なお、耐候促進試験の条件は、照射時間500時間、ブラックパネル温度63±3℃、水噴霧なし、使用フィルタ−をAタイプとした。
◎:ΔYIが1未満。
○:ΔYIが1以上5未満。
△:ΔYIが5以上10未満。
×:ΔYIが10以上。
実施例5から10、および比較例4は、比較例3と比較して耐候性に優れることが確認された。さらに、実施例10では紫外線防御剤の添加により、特に効果的に耐候性を向上できることがわかった。
Figure 0006840465
10 積層体
12 基材
14 保護層

Claims (13)

  1. 基材と、
    前記基材の一面上に積層された保護層と、を備え、
    前記保護層は、繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含み、水溶性高分子をさらに有し、
    前記保護層の厚さが前記基材の厚さよりも薄いガスバリア性積層体。
  2. 前記セルロース繊維のリン酸基およびリン酸基由来の置換基の導入量が0.01mmоl/g以上である請求項1に記載のガスバリア性積層体。
  3. 前記保護層は、無機化合物をさらに含有する請求項1または2に記載のガスバリア性積層体。
  4. 前記保護層は、無機層状化合物以外の無機化合物をさらに含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
  5. 前記無機層状化合物以外の無機化合物は、シリカおよび炭酸カルシウムから選択される一つ以上である、請求項4に記載のガスバリア性積層体。
  6. 前記無機層状化合物以外の無機化合物の粒子径が0.1μm以下である、請求項4または5に記載のガスバリア性積層体。
  7. 前記保護層は、有機架橋剤をさらに含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
  8. 前記有機架橋剤は、カルボジイミド基を反応性官能基として有する化合物である、請求項7に記載のガスバリア性積層体。
  9. 前記保護層は、糖類をさらに含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
  10. 有機層をさらに有する請求項1〜9のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
  11. 前記有機層が紫外線防御剤を含有する請求項10に記載のガスバリア性積層体。
  12. 無機層をさらに有する請求項1〜11のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
  13. 酸素バリア性積層体である請求項1〜12のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
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