JP6826267B2 - クエン酸誘導体のジアステレオマーの製造方法 - Google Patents

クエン酸誘導体のジアステレオマーの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、肝障害抑制効果を有するクエン酸誘導体の結晶、及び高純度化されたその非結晶性ジアステレオマー(非晶質ジアステレオマー、アモルファスジアステレオマー)、並びにそれらの製造方法に関する。
ウメ(英語名:Japanese apricot、学名:Prunus mume)は、バラ科サクラ亜科サクラ属スモモ亜属に属し、梅干、梅酒、梅肉エキス等の梅加工品が食されている。また、梅肉エキスは、殺菌、疲労回復、胃の保護作用等の効果を有しており、健康のために摂取されてきた。そしてまた、梅肉エキスには血流改善効果があることが知られている(非特許文献1、2参照)。上記血流改善効果は、梅肉エキスに含まれる、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸と、糖との加熱によって生成されるムメフラール(Mumefural)及びその関連化合物に起因していることが知られている(非特許文献3)。
梅肉エキスを含む健康食品の一つとしてミサトール(登録商標)が市販されており、ミサトールは、オートファジーを誘導する効果やウイルス性肝炎患者における肝障害抑制効果があることが知られている(特許文献1、2)。
クエン酸(IUPAC名:2-hydroxypropane-1,2,3-tricarboxylic acid)の炭素鎖であるプロパン鎖の1位の炭素(または3位の炭素)と2位の炭素に結合している2つのカルボキシル基が特定のアミノ酸のアミノ基とイミド結合を形成した化合物、及びそのイミド化合物を加水分解することで得られるクエン酸由来のプロパン鎖の1位の炭素(または3位の炭素)に結合しているカルボキシル基とアミノ酸のアミド化合物は、肝障害抑制効果を有する活性物質であることがわかった。
本出願人は、上記知見に基づき、先に下記式で示される化合物を含むクエン酸誘導体及びその合成方法を提案した(PCT/JP2016/004789)。
(式中、Rは、カルボキシル基若しくは水酸基を有していてもよいC1〜C3アルキル基を表し、Rは、水素原子を表すか、または、R及びRは、一緒になって環状構造を形成してもよくC2〜C3アルキレン鎖を表す。)
しかし、上記化学式で示されるクエン酸誘導体は、2つの不斉炭素を有するため、4つの立体異性体が存在する。しかし、これらの構造が類似している立体異性体を分離して取得するには、高分離能を有する高額なカラムを複数組み合わせたり、複数回繰り返したりする必要があり、この手法ではカラムサイズに依存した少量分離しか達成されず、高額な費用を要するものであった。これらの立体異性体を、大量かつ安価に分離し、高純度化する技術は確立されていない。
特許4842624号公報 特許5577129号公報
J. Agric. FoodChem., 1999, 47, 828-31 ヘモレオロジー研究会誌1、65-67, 1998 ヘモレオロジー研究会誌3、81-88, 2000
本発明の課題は、上記化学式で示されるクエン酸誘導体のうち、クエン酸とL−アスパラギン酸との反応によって得られる下記式で示されるクエン酸誘導体のジアステレオマー混合物から結晶性ジアステレオマー化合物を、安価な手法を用いて大量に単離する方法、並びに非結晶性ジアステレオマー化合物を、安価な手法を用いて大量に高純度に精製する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究と検討を重ねた結果、特定の工程を組み合わせることによって、上記式で表される化合物の結晶を得ることができることを見いだした。また、本発明者らは、特定の工程を組み合わせることによって、当該化合物の非結晶性ジアステレオマー塩を析出させることができることを見いだした。また、本発明者らは、単結晶X線回折による構造解析により、上記式で表される化合物の結晶性ジアステレオマーの構造を決定した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]下記式(A)で表される化合物(以下、化合物Aという。)の結晶。
[2]立体構造がRS表示法でSS体である、[1]に記載の結晶。
[3]CuKα線をX線源とする粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が、11.74±0.20°、29.25±0.20°、18.36±0.20°、21.75±0.20°、及び15.95±0.20°、にピークを有する、[1]又は[2]に記載の結晶。
[4]以下の(a)〜(f)の工程を含む、化合物Aの結晶の製造方法。
(a)化合物A及/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩を含む、pH5.0〜8.5の水溶液を、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通塔する工程、
(b)該カラムに溶出液を通塔し、クエン酸を含まないが、化合物Aを含む水溶液を取得する工程、
(c)工程(b)により得られた水溶液から、溶出液を除去する工程、
(d)溶出液を除去した水溶液を濃縮する工程、
(e)濃縮残渣に水を添加して水溶液とし、該水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び、
(f)化合物Aの結晶を取得する工程。
[5]化合物Aの結晶の立体構造がRS表示法でSS体である、[4]に記載の製造方法。
[6]溶出液が、酢酸アンモニウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、及びギ酸アンモニウム水溶液からなる群より選ばれる溶出液である、[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]溶出液を除去する方法が、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを使用する方法である、[4]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]濃縮する方法が、凍結乾燥である、[4]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]以下の(a)〜(f)の工程を含む、化合物Aの結晶の製造方法。
(a)化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液に、炭酸カルシウムを添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
(b)60%メタノール-水溶液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
(c)水溶液に硫酸を添加して、pH2.0以下として硫酸カルシウムを析出させる工程、
(d)水溶液から、硫酸カルシウムを除去する工程、
(e)水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び
(f)化合物Aの結晶を取得する工程。
[10]化合物Aの結晶の立体構造がRS表示法でSS体である、[9]に記載の製造方法。
[11]濃縮が、減圧濃縮である、[9]又は[10]に記載の製造方法。
[12]化合物Aの結晶を取得した後、以下の(g)〜(j)の工程をさらに含む、[9]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
(g)水溶液に有機溶媒を添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
(h)水溶液と有機溶媒の混合液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
(i)水溶液と有機溶媒の混合液を脱水して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び、(j)化合物Aの結晶を取得する工程。
[13]有機溶媒が、アセトンである、[12]に記載の製造方法。
[14]以下の、(a)〜(l)の工程を含む、化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩の製造方法。
(a)化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液に、炭酸カルシウムを添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
(b)水溶液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
(c)水溶液に硫酸を添加して、pH2.0以下として硫酸カルシウムを析出させる工程、
(d)水溶液から、硫酸カルシウムを除去する工程、
(e)水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、
(f)水溶液から、化合物Aの結晶を除去する工程、
(g)水溶液に有機溶媒を添加して、化合物Aの結晶及びクエン酸カルシウムを析出させる工程、
(h)水溶液と有機溶媒の混合液から、化合物Aの結晶及びクエン酸カルシウムを除去する工程、
(i)水溶液と有機溶媒の混合液を脱水して、化合物Aの結晶を析出させる工程、
(j)水溶液から、化合物Aの結晶を除去する工程、
(k)水溶液に、金属塩またはアミノ酸塩、及びアルコールを添加して、化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩を析出させる工程、及び、
(l)化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩を取得する工程。
[15]化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩の立体構造がRS表示法でSR体である、[14]に記載の製造方法。
[16]有機溶媒が、アセトンである、[14]に記載の製造方法。
[17]金属塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選ばれる金属塩である、[14]〜[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]アミノ酸塩が、アルギニン塩、シトルリン塩、オルニチン塩、及びヒスチジン塩からなる群より選ばれるアミノ酸塩である[14]〜[16]のいずれかに記載の製造方法。
[19]アルコールが、エタノールまたはメタノールである、[14]〜[18]のいずれかに記載の製造方法。
[20]化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
[21]立体構造がRS表示法でSR体である、[20]に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
[22]塩が、化合物Aの非結晶性ジアステレオマーの金属塩またはアミノ酸塩である、[20]又は[21]に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
[23]金属塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、およびカルシウム塩からなる群より選ばれる金属塩である、[22]に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
[24]アミノ酸塩が、アルギニン塩、シトルリン塩、オルニチン塩、及びヒスチジン塩からなる群より選ばれるアミノ酸塩である、[22]に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
化合物Aの結晶及び高純度化された化合物Aの非結晶性ジアステレオマーが得られたことにより、各物質の生理活性、疾患に対する作用機序を解明するのに役立つ。また、化合物Aの結晶及び高純度化された化合物Aの非結晶性ジアステレオマーは、これらを含むジアステレオマー混合物に比べて扱いやすいので、化合物Aを有効成分として使用する医薬の製造、あるいは化合物Aを使用する飲食品の製造等に際して極めて有用である。また、本願記載の方法によれば、一般的な精製手段として用いられる高分離能なカラム等による精製法に比べ、安価かつ大量、短時間に化合物Aの結晶ならびに非結晶性ジアステレオマーを分離し、取得することができる。一般的なジアステレオマー分離方法として用いられる高分離能担体を使用したカラム等による精製法では、一回の精製プロセスで精製できる量は使用するカラムサイズに依存するが、高額な高分離能担体を要する大型カラムを使用する大量精製法はコストおよび効率の面で容易ではない。本願記載の方法によれば、500mLの反応液から、一回の精製プロセスで、20g以上の高純度なジアステレオマーが容易に分離でき、さらに精製のスケールを容易に拡大することが可能である。
化合物A合成反応液のHPLCクロマトグラム(160倍希釈)を示す。 水溶液中で結晶化した化合物A結晶のHPLCクロマトグラムを示す。 化合物Aの結晶を分取した後の母液溶液のHPLCクロマトグラムを示す。 アセトン中で結晶化した化合物AのHPLCクロマトグラム(再結晶後)を示す。 pH3.6で析出した沈降物のHPLCクロマトグラム(非結晶化合物ACa塩(1))を示す。 pH6.0で析出した沈降物のHPLCクロマトグラム(非結晶化合物ACa塩(2))を示す。図6のピーク2において化合物Aのピークの左肩部分に化合物Aが加水分解したアミド化合物のピークが重なっている(ピークの左肩が膨らんだ様に見える)。また、ピーク3はクエン酸と思われるピークである。 粗精製した化合物A合成溶液のHPLCクロマトグラムを示す。 水溶液中で結晶化した化合物AのHPLCクロマトグラムを示す(図2と同じサンプル由来の分析結果である)。 アセトン中で結晶化した化合物AのHPLCクロマトグラムを示す(図4と同じサンプル由来の分析結果である)。 pH3.6で析出した非結晶性化合物ACa塩のHPLCクロマトグラムを示す(図5と同じサンプル由来の分析結果である)。 実施例7におけるイオン交換クロマトグラフィーによる化合物Aの結晶を製造する方法のフローチャートである。 化合物Aの結晶のHPLCクロマトグラムを示す。 化合物Aの結晶のH−NMRスペクトルを示す。 化合物Aの結晶を分取した後の母液のHPLCクロマトグラムを示す。 化合物Aの結晶を分取した後の母液のH−NMRスペクトルを示す。 上から、検体1(カラム精製によって水溶液から得た結晶)、検体2(アセトン溶液から得た結晶)及び検体3(非結晶性ジアステレオマーのCa塩)の順で各々の物質に関する粉末X線回折パターンの多重プロットによる比較を示す。
本発明の化合物Aの結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が、11.74±0.20°好ましくは±0.10°、29.25±0.20°好ましくは±0.10°、18.36±0.20°好ましくは±0.10°、21.75±0.20°好ましくは±0.10°、及び15.95±0.20°好ましくは±0.10°、にピークを有する結晶を挙げることができる。
本発明の化合物Aの結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が、上記に加えさらに、24.09±0.20°好ましくは±0.10°、19.32±0.20°好ましくは±0.10°、19.04±0.20°好ましくは±0.10°、26.95±0.20°好ましくは±0.10°、及び16.19±0.20°好ましくは±0.10°、にピークを有する結晶を挙げることができる。
本発明の化合物Aの結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が、上記に加えさらに、26.42±0.20°好ましくは±0.10°、16.68±0.20°好ましくは±0.10°、17.85±0.20°好ましくは±0.10°、21.19±0.20°好ましくは±0.10°、及び18.14±0.20°好ましくは±0.10°、にピークを有する結晶を挙げることができる。
X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンは、本明細書の実施例8に記載の方法により取得することができる。
化合物Aには、クエン酸由来のプロパン鎖の2位の炭素を不斉炭素としたジアステレオマーが存在する。なお、本発明の化合物Aは、アスパラギン酸由来の構造内にも不斉炭素が存在するが、該不斉炭素の立体配置は、使用する原料のアスパラギン酸又はアスパラギンに由来する。本発明の化合物Aの結晶は、L体のアスパラギン酸に由来する。
本発明の化合物Aの結晶は、化合物Aのジアステレオマーのいずれか一方の結晶であるが、NMRでは、どちらのジアステレオマーに相当するかを見分けることができない。
化合物Aの結晶がいずれのジアステレオマーであるかを決定する方法としては、単結晶X線回折による構造解析が挙げられる。具体的には、実施例9に記載の方法が一例として挙げられる。実施例9の解析の結果、結晶性の化合物A(化合物Aの結晶)はSS体、RR体のエナンチオマーであることが明らかになった。そして合成に用いたのが全てL−Asp(S体)であることから、結晶性の化合物Aの立体配置はRS表示法でSS体であることが分かった。
この解析の結果、結晶性の化合物AはSS体、RR体のエナンチオマーであることが明らかになった。そして合成に用いたのが全てL−Asp(S体)であることから、結晶性の化合物AはSS体であることが分かった。そしてこれを受け、結晶化しない性質を持つ化合物AがSR体であることも分かった。
本発明の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩は、化合物Aのジアステレオマーの一方のうち、以下に記載の化合物Aの結晶化の方法により結晶化しないジアステレオマー(以下、非結晶性のジアステレオマーともいう。)またはその塩である。
本発明の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩は、実施例5に記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定性分析により確認することができ、また、結晶性のジアステレオマーと区別することができる。
前述のように、本発明の化合物Aの結晶の立体配置がRS表示法でSS体であることから、本発明の化合物Aの非晶質(非結晶性ジアステレオマー)の立体配置は、下記に示す通り、RS表示法でSR体であることも分かった。
本発明の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩としては、結晶性のジアステレオマーの混入率が、5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下の、化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩を挙げることができる。
本発明の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーの塩としては、金属塩またはアミノ酸塩を挙げることができる。
金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、およびカルシウム塩からなる群より選ばれる金属塩を、最も好ましくはカルシウム塩を挙げることができる。
アミノ酸塩としては、アルギニン塩、シトルリン塩、オルニチン塩、およびヒスチジン塩からなる群より選ばれるアミノ酸塩を挙げることができる。当該アミノ酸塩は、好ましくはL体のアミノ酸塩である。
本発明の化合物Aの結晶は、イオン交換カラムクロマトグラフィーの使用及び炭酸カルシウム等の化合物の使用による結晶化のいずれかの方法によって得ることができる。
(イオン交換カラムクロマトグラフィーによる方法)
以下の(a)〜(f)の工程により化合物Aの結晶を製造する。
(a)化合物A及び/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩を含む、pH5.0〜8.5の水溶液を、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通塔する工程、
(b)該カラムに溶出液を通塔し、クエン酸を含まないが、化合物Aを含む水溶液を取得する工程、
(c)工程(b)により得られた水溶液から、溶出液を除去する工程、
(d)溶出液を除去した水溶液を濃縮する工程、
(e)濃縮残渣に水を添加して水溶液とし、該水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び、
(f)化合物Aの結晶を取得する工程。
前記工程(a)で使用する化合物A及び/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩を含む、pH5.0〜8.5の水溶液における化合物Aの塩及びクエン酸の塩は特に限定されない。化合物Aの塩及びクエン酸の塩として、例えば、アミノ酸塩、金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、等)が挙げられる。化合物A及び/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩として最も好ましいのは、化合物A及びクエン酸である。
上記工程(a)で使用する化合物A及び/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩を含む、pH5.0〜8.5の水溶液は、例えば、次のようにして製造する。クエン酸一水和物とL−アスパラギン酸を加熱下反応させ、化合物Aを生成させる。化合物Aは、酵素反応法、発酵法など、合成法以外の方法により製造された化合物Aであってもよい。反応終了後、反応液を冷却放置して、酸性条件下でメタノールを加える。メタノール溶液の濃度はL−アスパラギン酸が析出する濃度であればいずれでもよいが、例えば、60V/V%溶液である。反応液に含まれる未反応のクエン酸及びL−アスパラギン酸のうち、L−アスパラギン酸が析出沈殿するので、遠心分離あるいはろ過によって固液分離する。固液分離後の水溶液は、化合物A及びクエン酸を含む。固液分離後の水溶液が酸性である場合には、アルカリ水溶液、例えば、アンモニア水を加えて、pHを調製することが好ましい。該水溶液のpHとしては、5.0〜8.5、好ましくは6.0〜8.0、最も好ましくは6.5〜7.2を挙げることができる。この水溶液を陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通塔する。
陰イオン交換樹脂としては、化合物A及び/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩を分離することができる陰イオン交換樹脂であればいずれでもよいが、例えば、TOYOPEARL SuperQ-650M(150mm×500mm、東ソ社製)を挙げることができる。
上記工程(b)において使用する溶出液としては、特に制限はないが、例えば、酢酸アンモニウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液からなる群より選択される。
溶出液の濃度としては、50mM〜5M、好ましくは、100mM〜3M、より好ましくは150mM〜2M、最も好ましくは200mM〜1.5Mを挙げることができる。溶出液の濃度を段階的に高めて溶出してもよい。
溶出工程の流速としては、10〜500mL/min、好ましくは50〜300mL/min、最も好ましくは100〜200mL/minの範囲を挙げることができる。
上記工程(b)において「クエン酸を含まない」とは、完全にクエン酸を含まないことが望ましいが、化合物Aの結晶化において障害とならない程度に、微量のクエン酸が含まれていてもよい。
上記工程(c)において、溶出液を除去する方法としては、例えば、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを使用する方法、電気透析等が、好ましくは陽イオン交換樹脂を充填したカラムを使用する方法が挙げられる。なお、「溶出液を除去する」とは、溶出液中の成分(溶質)を除去することを意味する。
陽イオン交換樹脂としては、化合物Aと溶出液を分離することができる陽イオン交換樹脂であればいずれでもよいが、DOWEX 50Wx8(ワコーケミカル社製)を挙げることができる。陽イオン交換樹脂を充填したカラムに水溶液、例えば、精製水を送液して化合物Aを含むが、溶出液を含まない水溶液を取得する。「溶出液を含まない」とは、完全に溶出液を含まないことが望ましいが、化合物Aの結晶化に障害とならない程度に微量の溶出液が含まれていてもよい。
上記工程(d)および(e)において、水溶液を濃縮する方法としては、加熱濃縮、減圧濃縮、または凍結乾燥を例示することができ、最も好ましくは、凍結乾燥を挙げることができる。
上記工程(d)および(e)において、水溶液を濃縮することにより、化合物Aの非結晶及び/もしくは結晶、それらの混合物、またはそれらを含む濃縮残渣を取得することができる。化合物Aが非結晶である場合、非結晶を含む混合物である場合、または、それらを含む濃縮残渣ある場合には、再度水を添加して水混合物とし、濃縮する工程を行うことが好ましい。この工程を行うことにより、化合物Aの結晶を析出させることができる。
上記工程(f)において、結晶を取得する方法としては、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。さらに母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、適宜、結晶を洗浄することができる。洗浄した結晶は、減圧乾燥、流動層乾燥、通風乾燥等により乾燥させ、最終製品を得ることができる。
上記方法において、工程(d)〜工程(e)を数回繰り返して行うことによっても化合物Aの結晶化を達成することできる。
(炭酸カルシウム等の化合物の使用による結晶化による方法)
以下の(a)〜(f)の工程により水溶液中で化合物Aの結晶を製造する。
(a)化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液に、炭酸カルシウムを添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
(b)水溶液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
(c)水溶液に硫酸を添加して、pH2.0以下とし硫酸カルシウムを析出させる工程、
(d)水溶液から、硫酸カルシウムを除去する工程、
(e)水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び
(f)化合物Aの結晶を取得する工程。
上記工程(a)で使用する化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液は、例えば、次のようにして製造する。クエン酸一水和物とL−アスパラギン酸を加熱下反応させ、化合物Aを生成させる。化合物Aは、酵素反応法、発酵法など、合成法以外の方法により製造された化合物Aであってもよい。反応終了後、反応液を冷却放置して、酸性条件下でメタノールを加える。メタノール水溶液の濃度はL−アスパラギン酸が析出する濃度であればいずれでもよいが、例えば、60v/v%溶液である。反応液に含まれる未反応のクエン酸及びL−アスパラギン酸のうち、L−アスパラギン酸が析出沈殿するので、遠心分離によって固液分離する。なお、この工程では、メタノールを加えることが重要である。エタノールは不可である。以降の工程には、化合物A及びクエン酸を含む固液分離後の水溶液を用いる。
本方法により化合物Aの結晶を得るに際して困難な点は、化合物A及びクエン酸を含む水溶液からクエン酸を酸性条件で除外することである。化合物Aは、中性〜アルカリ性(pH5以上)の水溶液中で不安定であるため、化合物Aの分解を抑制するために酸性条件を維持することは重要である。したがって、工程(a)で使用する化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液は、pHが好ましくは、0.6〜1.8、最も好ましくは1.0〜1.6の水溶液であってもよい。本発明者らは、クエン酸を塩の形にして除去することを思いつき、種々の金属イオンからなる塩を用いて試行錯誤を重ねた結果、カルシウムイオン(Ca2+)でクエン酸をうまく除去することができることを見いだした。更に、本発明者らは、カルシウム塩であっても、塩化カルシウム(CaCl)を用いた場合には、酸性条件ではクエン酸をうまく除去することができず、炭酸カルシウム(CaCO)を用いた場合には、酸性条件でもクエン酸を首尾よく除去することができることも見いだした。これは、炭酸カルシウムの炭酸イオン(CO 2−)がCOになって、カルシウムイオンの相手のアニオンがなくなるので、クエン酸イオンとカルシウムイオンが結合しやすくなるためであると考えられる。したがって、工程(a)において炭酸カルシウムを用いることは必須の条件である。
上記工程(b)におけるクエン酸カルシウムの除去及び工程(d)における硫酸カルシウムの除去は、例えば、遠心分離あるいはろ過によって行うことができる。
上記工程(c)において、硫酸を用いる理由としては、化合物Aがアルカリに弱いことと硫酸カルシウムの溶解性が低いためにカルシウムイオンを除去しやすい(即ち、脱塩が容易である)ことが挙げられる。pH2.0以下とすることで、化合物Aのカルシウム塩として存在していたカルシウムイオンが化合物Aと乖離して、硫酸カルシウムとなる。このときのpHとしては1.0〜2.0が良く、より好ましくは1.3〜1.8が良い。ナトリウム塩(硫酸ナトリウム)やカリウム塩(硫酸カリウム)を用いた場合には脱塩は難しい。
上記工程(e)における水溶液を濃縮する方法として、具体的には、加熱濃縮、減圧濃縮等を例示することができるが、熱による混入成分の変質あるいは分解を防止するためには、減圧濃縮によることが好ましい。
上記工程(f)において、結晶を取得する方法としては、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。さらに母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、適宜、結晶を洗浄することができる。洗浄した結晶は、減圧乾燥、流動層乾燥、通風乾燥等により乾燥させ、最終製品を得ることができる。
上記工程(e)において化合物Aの結晶を析出させた後の水溶液(結晶母液)中には、まだ結晶性の化合物Aジアステレオマーが含まれている。このため、以下の(g)〜(j)の工程によって更に化合物Aの結晶を得ることができる。
(g)水溶液に有機溶媒を添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
(h)水溶液と有機溶媒の混合液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
(i)水溶液と有機溶媒の混合液を脱水して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び、
(j)化合物Aの結晶を取得する工程。
上記工程(g)において添加する有機溶媒としては、水と混和し、化合物Aを一定量溶解することができる有機溶媒が好ましく、具体的には、アセトン等を例示することができる。
上記工程(h)におけるクエン酸カルシウムの除去は、例えば、遠心分離あるいはろ過によって行うことができる。
上記工程(i)の化合物Aの結晶を析出させる方法としては、化合物を析出させる方法であればいずれでもよいが、好ましくは、溶媒留去により水溶液を濃縮し、再度溶媒を添加する方法が挙げられる。
上記工程(j)において、結晶を取得する方法としては、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。さらに母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、適宜、結晶を洗浄することができる。洗浄した結晶は、減圧乾燥、流動層乾燥、通風乾燥等により乾燥させ、最終製品を得ることができる。
本発明の化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩は、以下に記す(a)〜(l)の工程を含む方法によって得ることができる。
(a)化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液に、炭酸カルシウムを添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
(b)水溶液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
(c)水溶液に硫酸を添加して、pH2.0以下として硫酸カルシウムを析出させる工程、
(d)水溶液から、硫酸カルシウムを除去する工程、
(e)水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、
(f)水溶液から、化合物Aの結晶を除去する工程、
(g)水溶液に有機溶媒を添加して、化合物Aの結晶及びクエン酸カルシウムを析出させる工程、
(h)水溶液と有機溶媒の混合液から、化合物Aの結晶及びクエン酸カルシウムを除去する工程、
(i)水溶液と有機溶媒の混合液を脱水して、化合物Aの結晶を析出させる工程、
(j)水溶液から、化合物Aの結晶を除去する工程、
(k)水溶液に、金属塩またはアミノ酸塩、並びにアルコールを添加して、化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩を析出させる工程、及び、
(l)化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩を取得する工程。
上記工程(a)で使用する化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液は、例えば、次のようにして製造する。クエン酸一水和物とL−アスパラギン酸を加熱下反応させ、化合物Aを生成させる。化合物Aは、酵素反応法、発酵法など、合成法以外の方法により製造された化合物Aであってもよい。反応終了後、反応液を冷却放置して、酸性条件下でメタノールを加える。メタノール水溶液の濃度は、L−アスパラギン酸が析出する濃度であればいずれでもよいが、例えば、60v/v%溶液である。反応液に含まれる未反応のクエン酸及びL−アスパラギン酸のうち、L−アスパラギン酸が析出沈殿するので、遠心分離によって固液分離する。なお、この工程では、メタノールを加えることが重要である。エタノールは不可である。以降の工程には、化合物A及びクエン酸を含む固液分離後の水溶液を用いる。工程(a)で使用する化合物A及びクエン酸を含むpH2.0以下の水溶液は、pHが好ましくは、0.6〜1.8、最も好ましくは1.0〜1.6の水溶液であってもよい。
本方法により化合物Aの結晶を得るに際して困難な点は、化合物A及びクエン酸を含む水溶液からクエン酸を除外することである。本発明者らは、クエン酸を塩の形にして除外することを思いつき、種々の金属イオンからなる塩を用いて試行錯誤を重ねた結果、カルシウムイオン(Ca2+)でクエン酸をうまく除去することができることを見いだした。更に、本発明者らは、カルシウム塩であっても、塩化カルシウム(CaCl)を用いた場合には、酸性条件においてクエン酸をうまく除去することができず、炭酸カルシウム(CaCO)を用いた場合には、酸性条件でもクエン酸を首尾よく除去することができることも見いだした。これは、炭酸カルシウムの炭酸イオン(CO 2−)がCOになって、カルシウムイオンの相手のアニオンがなくなるので、クエン酸イオンとカルシウムイオンが結合しやすくなるためであると考えられる。したがって、工程(a)において炭酸カルシウムを用いることは必須の条件である。
上記工程(b)におけるクエン酸カルシウムの除去及び工程(d)における硫酸カルシウムの除去は、例えば、遠心分離あるいは濾過によって行うことができる。
上記工程(c)において、硫酸を用いる理由としては、化合物Aがアルカリに弱いことと硫酸カルシウムの溶解性が低いためにカルシウムイオンを除去しやすい(即ち、脱塩が容易である)ことが挙げられる。pH2.0以下とすることで、化合物Aのカルシウム塩として存在していたカルシウムイオンが化合物Aと乖離して、硫酸カルシウムとなる。このときのpHとしては1.0〜2.0が良く、より好ましくは1.3〜1.8が良い。ナトリウム塩(硫酸ナトリウム)やカリウム塩(硫酸カリウム)を用いた場合には脱塩は難しい。
上記工程(e)における水溶液を濃縮する方法として、具体的には、加熱濃縮、減圧濃縮等を例示することができるが、熱による混入成分の変質あるいは分解を防止するためには、減圧濃縮によることが好ましい。
上記工程(f)において、結晶を除去する方法としては、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。
上記工程(g)及び工程(h)は、化合物Aのジアステレオマー塩の高純度化に必須の工程である。その訳は、工程(f)において化合物Aの結晶を除去した後の水溶液にはまだ結晶化する化合物Aが残存しているからである。
上記工程(g)において添加する有機溶媒としては、水と混和し、化合物Aを一定量溶解することができる有機溶媒が好ましく、具体的には、アセトン等を例示することができる。
上記工程(h)におけるクエン酸カルシウムの除去は、例えば、遠心分離あるいはろ過によって行うことができる。
上記工程(i)の化合物Aの結晶を析出させる方法としては、化合物を析出させる方法であればいずれでもよいが、好ましくは、溶媒留去により水溶液を濃縮し、再度溶媒を添加する方法が挙げられる。
上記工程(j)において、結晶を除去する除去する方法としては、例えば、遠心分離、加圧濾過、および吸引濾過を挙げることができる。上記工程(j)の段階で、結晶性の化合物Aはほとんど除去されている。
上記工程(k)において添加する金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、およびカルシウム塩等が挙げられ、最も好ましくは、カルシウム塩(例として、塩化カルシウム、酢酸カルシウム)を用いることができる。また、水溶液のpHは酸性が好ましく、特にpH3.6以下が最も好ましい。
上記工程(k)において添加するアミノ酸塩としては、アルギニン塩、シトルリン塩、オルニチン塩、及びヒスチジン塩からなる群より選ばれるアミノ酸塩、例えば、L−アルギニン塩酸塩、L−シトルリン塩酸塩、L−オルニチン塩酸塩、及びL−ヒスチジン塩酸塩を挙げることができる。
上記工程(k)において添加するアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等を挙げることができ、例えば、エタノールまたはメタノールを用いることができる。化合物Aのジアステレオマー塩を析出させる効率は、エタノールの方がメタノールよりも良い。
本発明に係る化合物Aは、クエン酸とL−アスパラギン酸及び/又はL−アスパラギン(最も好ましくは、L−アスパラギン酸)を出発物質として合成することができる。この場合、合成された化合物Aは、ジアステレオマー2種の混合物からなる。以下の手順によれば、化合物Aの結晶化及び化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩の析出を連続的に行うことができる。なお、以下の工程においては、上記に記載した対応する工程の条件を用いてもよい。
(1)クエン酸一水和物とL−アスパラギン酸及び/又はL−アスパラギン(最も好ましくは、L−アスパラギン酸)を加熱下反応させ、化合物Aを生成させる。加熱温度と反応時間は、種々の条件を考慮して決めることができる(例えば、121℃、8時間)。
(2)反応終了後、反応液を冷却放置して、酸性条件下でメタノールを加える(例えば、60%メタノール溶液)。反応液に含まれる未反応のクエン酸及びL−アスパラギン酸のうち、L−アスパラギン酸が析出沈殿するので、遠心分離あるいはろ過によって固液分離する。分離されたL−アスパラギン酸は再利用することが可能である。なお、この工程では、メタノール以外に、エタノールやイソプロパノールを加えても、L−アスパラギン酸を除去できるが、後に添加する炭酸カルシウムの溶解性においてメタノールが最適である。
(3)得られた化合物A及びクエン酸を含むメタノール溶液に精製水を加えて希釈し(例えば2倍希釈する。)、次いで炭酸カルシウム粉末(例えば、反応液1mLあたりに228mg)を加える。これによって、反応液が発泡し、クエン酸カルシウムが沈殿する。沈澱したクエン酸カルシウムは、遠心分離またはろ過によって固液分離する。クエン酸カルシウムを除去した反応液は、カルシウムイオンを含む化合物Aのメタノール溶液である。
(4)(3)で得られた反応液を濃縮してメタノールを留去し、精製水を加えて当初の反応液の容量にする。これに、例えば1Mの硫酸を加えてpH2.0以下pH1.3以上とすると、カルシウムイオンが硫酸カルシウムとなって沈殿する。沈澱した硫酸カルシウムは、遠心分離またはろ過によって固液分離する。固液分離後の反応液は、化合物Aを含む硫酸酸性溶液である。
(5)この硫酸酸性溶液を、例えば2/5程度に濃縮すると、化合物Aの結晶(「結晶化化合物A」と称する)が晶出するので、分離し、残りを結晶母液とする。
(6)硫酸酸性の結晶母液を濃縮し、アセトンを加えて化合物Aのアセトン溶液(酸性)(例えば、80%アセトン溶液)とすると、飴状沈降物が析出し、後に結晶化する(クエン酸カルシウム)。当該クエン酸カルシウムを遠心分離またはろ過によって固液分離する。
(7)固液分離後の結晶母液を濃縮し、脱水処理(アセトン脱水)を行う。脱水処理後の結晶母液にアセトンを加え、溶媒中のアセトンを、例えば90%以上にすると化合物Aが結晶化して沈澱する。結晶化した化合物A(「結晶化化合物A」と称する)を遠心分離またはろ過によって固液分離する。
(8)化合物Aのアセトン溶液に精製水を加えてアセトンを留去する。アセトン留去後の化合物Aの水溶液に、塩化カルシウム及び水酸化カルシウムを加えて、例えばpH3.6とし、次いでエタノール(例えば、70%エタノール水溶液)を加えると、化合物Aの非結晶性ジアステレオマーのカルシウム塩が沈澱する。この沈殿物(非結晶化合物A(Ca塩))と称する)を遠心分離またはろ過によって固液分離する。
上記の工程(5)で得られる結晶化化合物A(水溶液中結晶)及び工程(7)で得られる結晶化化合物A(アセトン中結晶)は、各々以下の操作を行って保存する。
水に再溶解⇒再結晶⇒HPLCによる定性分析での純度評価⇒乾燥⇒保存
上記の工程(8)で得られる非結晶化合物A(Ca塩)は、各々以下の操作を行って保存する。
水に再溶解⇒濃縮(沈澱したクエン酸カルシウムを除去)⇒化合物Aの水溶液にエタノール(例えば、90v/v%エタノール水溶液)を添加⇒再沈降⇒HPLCによる定性分析での純度評価⇒乾燥⇒保存
得られた非結晶化合物A(Ca塩)は、使用時には、硫酸酸性にしてカルシウムを除去することができ、HPLCによる定性および定量分析にて化合物Aとして濃度を評価することができる。
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
[実施例1]
(化合物Aの合成)
240gのクエン酸(一水和物、和光純薬工業)(1.142mol)に水を加えて400mLの濃厚なクエン酸溶液を調製し、この溶液に72gのL−アスパラギン酸(和光純薬工業)(0.541mol)を加え、メスアップして液量を600mLとした(クエン酸最終濃度:1.903mol/L、L−アスパラギン酸最終濃度:0.902mol/L)。この反応液を耐圧ガラス容器に入れて密栓し、90℃の水浴中で加温し、添加したL−アスパラギン酸を可能なかぎり溶解した。次に、加温して80℃程度にしたオートクレーブ内に、この耐圧容器内の反応液を入れ、121℃で120分間加熱処理した。オートクレーブ内の温度が約80℃にまで冷却したら、耐圧容器内の反応液を取り出して撹拌し、溶け残ったL−アスパラギン酸を可能なかぎり溶解した。さらに、同反応液をオートクレーブで121℃、120分間加熱処理をした。この撹拌と加熱処理を繰り返し、L−アスパラギン酸を溶解させながら、合計420分の121℃の加熱処理を行った。(L−アスパラギン酸は360分の加熱が終了した時点で完全溶解した。)この反応液中には、化合物Aが合成されていることを下記の実施例2に記載のHPLCによる定性分析にて確認した(図1)。図1は、化合物A合成反応液のHPLCクロマトグラム(160倍希釈)を示す。図1から明らかな通り、加熱反応後の合成反応液には化合物Aのピーク(RT 26.0)が出現し、クエン酸(RT 27.7)のピークの高さが減少した。なお、後の解析により、RT26.0のピークが化合物Aであることを確認した。なお、合成原料のアスパラギン酸は、210nmの吸光がほとんど見られないため、この検出系では検知されない。
[実施例2]
(化合物AのHPLCによる定性分析の分離条件)
合成反応液ならびにその精製試料に存在する化合物Aは、下記の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定性分析により、その存在を確認した。様々な濃度の化合物Aを含む溶液は、適切な濃度となるように10mM過塩素酸水溶液(HPLCによる定性分析の移動相)で希釈し、メンブレンフィルターで不溶物を除去して、希釈液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。HPLCによる定性分析の分離条件は以下に記載の通りであった。クロマトグラム中の化合物Aと思われる目的成分は、保持時間(RT)25.4〜26.0分のピークである。
[HPLCによる定性分析の分離条件]
装置:島津製作所 高速液体クロマトグラフ Prominence
カラム:Shodex RSpak KC−811(300mm×8.0mm)を2本連結
移動相:10mM過塩素酸水溶液
流速:0.5mL/min
カラム温度:30℃
注入量:20μL
検出波長:210nm
[実施例3]
(化合物Aの精製と化合物Aの結晶化)
上記の加熱反応後の反応液600mLに対して、メタノール(和光純薬)900mLを加えて、60%メタノール溶液とすると、反応液中の未反応なL−アスパラギン酸が徐々に析出し、白色沈殿として沈降する。なお、当該工程においてエタノール溶液を使用した場合、以降の工程において同様の工程を採用しても化合物Aは結晶化しなかった。この溶液を室温で一昼夜静置して、可能なかぎりL−アスパラギン酸を沈降させた後に、ろ紙(Whatman、No.114)にてろ過を行い、沈降物と化合物Aを含む反応液(60%メタノール)を分離した。沈降物として得られたL−アスパラギン酸は、メタノールを気化除去し、乾燥させると化合物A合成の合成原料として再利用できる。ろ液として得られた化合物Aを含む反応液(60%メタノール)を精製水(日本薬局方精製水)で2倍希釈して、30%メタノール溶液とした。その溶液に、炭酸カルシウム(和光純薬工業)の粉末136g(出発反応液1mLあたり228mg)を撹拌しながら徐々に加えていくと、溶解度の低いクエン酸カルシウムの白色沈殿が析出する。最初は発泡(炭酸ガス)しながら炭酸カルシウムが溶解するが、後に徐々に溶液から溶解度の低いクエン酸カルシウムが析出する。この溶液を一昼夜静置すると、未反応のクエン酸がほとんどクエン酸カルシウムとして沈降し、濃厚な白濁液となる。遠心分離(室温、1500×g、30分)により、この白濁液を沈降物とその上清溶液に分離して、化合物Aを含む上清溶液(30%メタノールを含む)を回収した。回収した上清溶液を、エバポレーター(東京理科機械)で濃縮しながらメタノールを留去し、濃厚な飴状溶液とした。濃縮した化合物Aを含む飴状溶液に精製水を加えて出発反応液とおなじ600mLとした。この溶液に1mol/L(2N)硫酸を徐々に加えて溶液pHが1.3〜1.6となると、溶液中のCaイオンが、硫酸カルシウム塩として析出し、沈降する。この沈降物をろ過により除去し、ろ液を回収した。このろ液には化合物Aを含み、硫酸酸性である。この溶液(約600mL)を40℃の水浴中で加温しながらエバポレーターで濃縮し、容量を約250mL(〜200mL)とした。溶液を化合物A結晶化の母液として室温まで冷却し、ガラス壁面をスパーテル等で擦過すると結晶性の化合物A析出物が出現し、そのまま一昼夜静置すると、白色の沈降物が得られた。この沈降物をろ過により母液溶液と分離し、少量の精製水で洗浄した後に回収して、化合物A結晶を得た。
上記の合成反応液から一連の精製、結晶性化合物Aの晶出の操作までを繰り返し行い、3Lの合成反応液から化合物Aの結晶を約130g(湿重量)を得た。極少量の結晶(種結晶)を取り置き、残りの結晶をなるべく少量の精製水に溶解し(40℃の温浴中)、この溶液をエバポレーターで高度に濃縮した後、冷却し、種結晶を溶液に加えて再度結晶を得た。この結晶を吸引ろ過で分取し、乾燥させ、113gの結晶化した化合物Aを得た。得られた化合物A結晶の精度を確認するため、合成溶液中の化合物Aの確認(図1)と同様のHPLCによる定性分析で評価を行った(図2)。図2は、水溶液中で結晶化した化合物A結晶のHPLCクロマトグラムを示す。具体的には、加熱反応後の合成反応液から精製した化合物Aを水溶液中で結晶化し、その結晶を再結晶で精製した後、HPLCで評価した。結晶化した化合物Aを70mg秤量し、精製水1mLに溶解した。この溶液をHPLC分析系の移動相溶媒(10mM過塩素酸溶液)で160倍希釈し、分析した。化合物Aの明確なピークがみられ、不純物となるその他のピークはほとんど痕跡程度で明確ではなく、高度に精製されていることを確認した。
また、化合物Aの非結晶は吸湿性があり、濃縮固形化しても吸湿して粘性が非常に高い(飴状)形態に変化し、扱いにくいものであった。一方、化合物Aの結晶は吸湿性のない紛体であり、取扱いし易かった。
[実施例4]
(非結晶性化合物Aの精製)
上述の方法で化合物Aの結晶を分取し、ろ液として得られる結晶母液となった溶液を使用して、結晶化しない化合物Aの精製材料とした。この溶液には、HPLCによる定性分析で、化合物Aが残存していることを確認した(図3)。図3は、化合物Aを晶出した後、ろ過により結晶を分取したろ液のHPLCクロマトグラムを示す。ろ液をHPLCによる定性分析の移動相(10mM過塩素酸溶液)で400倍希釈し、分析した。化合物Aのピークがメインのピークとしてみられ、不純物となる他の成分のピークも確認された。
3Lの合成反応液から得た、結晶母液溶液約1Lを40℃の水浴中でエバポレーターを用いて濃縮し、約200mLの粘度の高い濃縮液を得た。この濃縮液に約800mLのアセトン(和光純薬工業)を加えて混和すると、白濁し、約1時間後には白濁成分が沈降して飴状の液体析出物が沈降した。上清と飴状析出物を分離した。飴状析出物からはクエン酸カルシウムを含む結晶性の析出物が得られた。上清は再度エバポレーターを用いて濃縮し、粘度の高い濃縮溶液とした。この溶媒留去による濃縮とアセトン溶解を3回繰り返し、溶液中の水分をアセトンに置換する処理(アセトンによる溶液の脱水)を行った。このアセトン脱水の過程で、水分の減少とともに徐々に白色の結晶性の析出物が増加した。最終的に500mLのアセトン溶液とし、この溶液を一昼夜静置すると、白色の結晶性の析出物が沈降した。この沈降物と上清のアセトン溶液をろ過によって分離した。後の分析で、この白色の析出物は、結晶性の化合物Aであることが分かった(図4)。図4は、アセトン中で結晶化した化合物Aを再結晶により精製した結晶のHPLCクロマトグラムを示す。具体的には、ろ過した結晶を精製水で再結晶して精製し、再結晶した結晶(約20mg)を精製水(約0.5mL)に溶解し、この溶液をHPLCによる定性分析の移動相(10mM過塩素酸溶液)で40倍希釈し、分析した。明確な化合物Aのピークがみられ、不純物のピークは痕跡程度で明確ではなかった。ここまでの処理で結晶母液溶液の結晶性の化合物Aジアステレオマーがほとんど晶出し、アセトン溶液中に溶存している化合物Aは、そのほとんどが非結晶性である化合物Aのジアステレオマーとなった。
次に、非結晶性である化合物Aのジアステレオマーを含むアセトン溶液に精製水500mLを加えて、エバポレーターでアセトンを留去する操作を3回繰り返し、溶液溶媒を水に変換した。この水溶液(溶液容量約200mL)に塩化カルシウム100gを加え、さらに水酸化カルシウムを加えて溶液pHを3.6とした。この処理により、酸性物質である化合物Aをカルシウム塩に誘導した。溶液容量を300mLとなるように精製水でメスアップし、700mLのエタノールを加えて、70%エタノール溶液とすると、化合物Aのカルシウム塩が白色沈降物として析出する。この沈降物を遠心分離により上清溶液と分離し、さらに沈降物を70%エタノールで洗浄して精製し、精製沈降物(非結晶化合物AのCa塩(1))を得た。一方、70%エタノールとした上清溶液をHPLCによる定性分析で確認すると、その溶液中に化合物Aが残存していたため、より強く化合物AをCa塩に誘導する条件として溶液のpHを6.0に調製し、80%エタノール溶液として沈降物を得た。この沈降物を80%エタノールで洗浄し、精製沈降物とした(非結晶化合物AのCa塩(2))。
上記の操作によりpH3.6で得た精製沈降物とpH6.0で得た精製沈降物をそれぞれHPLCによる定性分析で評価した(図5、図6)。各沈降物(約10mg)を精製水(約1mL)に溶解し、HPLCによる定性分析の移動相である10mM過塩素酸水溶液で40倍に希釈して、分析した(酸性溶媒である10mM過塩素酸水溶液で希釈されることで、化合物AのCa塩は化合物Aに変換され、化合物Aとして検出される)。図5は、pH3.6で析出した沈降物のHPLCクロマトグラムであり、図6は、pH6.0で析出した沈降物のHPLCクロマトグラムである。pH3.6で得た精製沈降物(非結晶化合物AのCa塩(1))のHPLCクロマトグラムでは、不純物のピークが見られるものの、化合物Aのメインピークが強く観察され、精製されている。一方、pH6.0で得た精製沈降物(非結晶化合物AのCa塩(2))のHPLCクロマトグラムでは、化合物Aのピークとともに、化合物Aのイミド構造の一部が加水分解してアミド化した化合物(化合物Aのピークの左肩に重なるピーク)の混入がみられ(ピーク2)、またクエン酸と思われるピーク(ピーク3)が増加していた。従って、pH6.0のアルカリ添加量では化合物Aの加水分解が進行したものと考えられ、化合物AのCa塩を析出させる条件として過酷すぎると考えられた。pH3.6で析出させた化合物AのCa塩では、化合物Aの加水分解物の混入はごく微量であることから、pH3.6がアルカリ条件としての限界であると考えられた。
このエタノール溶液中で析出する化合物AのCa塩の沈降物は水に溶解し、硫酸酸性(例えば、pH1.3)とすることで硫酸カルシウムを析出させれば、カルシウム分を除去でき、化合物Aの硫酸酸性溶液として調製が可能である。この精製のプロセスで、3Lの合成反応液から、pH3.6で得た精製沈降物である非結晶化合物AのCa塩(1)の乾燥固体として192.7gを得た。
[実施例5]
(化合物AジアステレオマーのHPLCによる定性分析)
上記の化合物A合成溶液からの精製処理によって得られた精製物の化合物Aのジアステレオマーの存在比率は、下記のカラムを用いたHPLCによる定性分析により確認することができる。様々な濃度の化合物Aを含む溶液は、適切な濃度となるように0.1%TFA水溶液(98容量)とメタノール(2容量)の混合液(HPLCによる定性分析の移動相)で希釈し、メンブレンフィルターで不溶物を除去して、高速液体クロマトグラフィーにより分析した。HPLCによる定性分析の条件は以下に記載の通りであった。クロマトグラム中の化合物Aと思われる目的成分は、保持時間(RT)3.3〜3.7分の領域に2つの隣接するピークとして検出される(ただし、カラム充填剤の劣化等の影響によりRTは、若干変わることがある)。結晶性の化合物Aジアステレオマーはカラムでの保持時間が長い右側のピークとして検出され、非結晶性の化合物Aジアステレオマーは保持時間が短い左側のピークとして検出される。
[HPLCによる定性分析の分離条件]
装置:島津製作所 高速液体クロマトグラフ Prominence
カラム:Phenomenex Kinetex F5(100mm×4.6mm)
移動相:0.1%TFA水溶液(98容量)とメタノール(2容量)の混合液
流速:0.8mL/min
カラム温度:30℃
注入量:5μL
検出波長:200nm
[実施例6]
(化合物A含有サンプルのジアステレオマー分析結果)
上記のカラムを用いたHPLCによる定性分析により、化合物A合成溶液からの各精製サンプルにおけるジアステレオマーの存在状態を確認した。
(1)化合物A合成溶液
化合物Aの合成溶液から未反応のアスパラギン酸およびクエン酸の大部分を除去して粗精製した化合物A合成溶液中の化合物Aジアステレオマーの存在状態を確認した(図7)。図7は、粗精製した化合物A合成溶液のHPLCクロマトグラムを示す。化合物Aの2つのジアステレオマーは、隣接する2本のピークとして検出され、その存在比率はほぼ均等である。
(2)化合物A結晶
化合物Aの合成溶液から精製し、水溶液中で結晶化した化合物A結晶を精製水に溶解し、化合物Aジアステレオマーの存在状態をHPLCによる定性分析で評価した。(図8)。図8は、水溶液中で結晶化した化合物AのHPLCクロマトグラム(図2と同じサンプル由来の分析結果)を示す。結晶性の化合物Aは、2つの化合物Aジアステレオマーが検出される領域のうち、保持時間が長い右側のピークとして検出され、その存在比率はピーク面積比で99%以上であった。他方のジアステレオマーの混入比率は0.36%(ピーク面積比より算出)であった。
(3)アセトン中で結晶化した化合物A結晶
化合物Aの合成溶液から精製し、アセトン中で結晶化した化合物A結晶を精製水に溶解し、化合物Aジアステレオマーの存在状態をHPLCによる定性分析で評価した。(図9)。図9は、アセトン中で結晶化した化合物AのHPLCクロマトグラム(図4と同じサンプル由来の分析結果)を示す。アセトン中で結晶化した化合物A結晶も、水溶液中で結晶化した化合物Aと同様に、2つの化合物Aジアステレオマーが検出される領域のうち、保持時間が長い右側のピークとして検出された。その存在比率はピーク面積比で98%以上であった。他方のジアステレオマーの混入比率は1.36%(ピーク面積比より算出)であった。
(4)pH3.6で70%エタノールにより沈降した非結晶化合物AのCa塩(非結晶化合物ACa塩(1))
化合物Aの合成溶液から結晶化する化合物Aを晶出させた後、溶液に残った非結晶化合物Aを、pH3.6の条件でCa塩とし、70%エタノール中で析出させた沈降物の化合物Aのジアステレオマーの存在状態をHPLCによる定性分析で評価した。(図10)(図5のサンプルと同じ析出物サンプル)。図10は、pH3.6で析出した非結晶性化合物ACa塩(非結晶化合物ACa塩(1))のHPLCクロマトグラム(図5と同じサンプル由来の分析結果)を示す。70%エタノール中に析出した沈降物を精製水に溶解し、HPLCにて定性分析を実施したところ、2つの化合物Aジアステレオマーが検出される領域のうち、保持時間が短い左側のピークとして検出された。このピークは結晶性の化合物Aピークとは明らかに異なるRTのピークとして検出された。その存在比率はピーク面積比で99%以上であった。他方のジアステレオマー(結晶性化合物A)の混入比率は0.45%(ピーク面積比より算出)であった。
(解説:各クロマトグラムにおけるピークは後方にテーリング(ピークの裾が延びて広がる現象)しているので、混入ピークのピーク高さの見た目より、ピーク面積比が小さい)
[実施例7]
(イオン交換クロマトグラフィーによる化合物Aの結晶の製造)
1.出発物質の精製
1−1.出発物質の調製
75gのクエン酸(一水和物)(0.59mol)に水を加えて83.3mLの濃厚なクエン酸溶液を調製し、この溶液に10gのL−アスパラギン(0.111mol)と、1.5gのL−アスパラギン酸(0.019mol)を加え、メスアップして液量を100mLとした。この反応液を耐圧ガラス容器に入れて密栓し、90℃の水浴中で加温し、添加したL−アスパラギンやL−アスパラギン酸を完全溶解した。次に、加温して80℃程度にしたオートクレーブ内に、この耐圧容器内の反応液を入れ、121℃で180分間加熱処理した。反応後、上記反応液を25℃まで自然冷却した後、1Lのビーカーに反応液を取り出し、氷冷した。
約20gの水酸化ナトリウムを83mLの精製水に溶解し、この水酸化ナトリウム水溶液を氷冷し、上記の反応液に徐々に加えて、反応液をpH5.8に中和した(中和熱で発熱するため25℃になるのを確認しながら中和した)。中和後に反応液の容量を精製水で200mLとした。次に、33.3gの塩化カルシウム(二水和物)を0.33Lの精製水に溶解し、塩化カルシウム溶液を調製し、その約半量を上記の反応液に加えて、よく撹拌し、約16時間静置した。溶液には白色に沈降物(クエン酸カルシウム)が析出した。さらに塩化カルシウム溶液を加えると白色沈降物が新たに沈降したので、徐々に塩化カルシウム溶液を追加して、200mLの中和した反応液に、上記の塩化カルシウム溶液を約333mL(塩化カルシウム量で、0.23mol)加えた。この混合溶液に精製水を加えて全量を600mLとし、その後にクエン酸カルシウムである白色沈降物を遠心分離により除去し、上清を回収した。次に、この上清430mLをエバポレーター(熱を加えたくないため、湯温は25℃で実施)で133mLに濃縮した。濃縮した水溶液に310mLのエタノールを加えて撹拌した。しばらく静置すると、エタノールを加えた混合液は2層に分離し、比較的透明な上層(エタノール層)と、着色が見られ粘性のある下層溶液50mLとに分かれた。下層を分液回収し、精製水で130mL程に希釈した後、エバポレーター(熱を加えたくないため、湯温は25℃で実施)で溶液中に残存するエタノールを留去し55mLとした。この溶液を遠心分離し上清45mLを得た。この上清を凍結乾燥したところ32.67gであった。これを出発物質とした。
1−2.イオン交換カラムクロマトグラフィー(SuperQ)
上記方法によって調製した出発物質280mL(水溶液、固形分235g)を精製水1Lに溶解し、25%アンモニア水約13mL、精製水19Lを順に加えてpH及び導電率を調整し、導入サンプル(pH=7.1、導電率=8.4mS/cm)とした。これをイオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL SuperQ−650M φ150mm×500mm)に供した。移動相と分取した各画分の詳細は図11に示した。2つの目的物画分をそれぞれ凍結乾燥し、図11中の表1に示したものを得た。2つの目的物画分(Fr(フラクション)8−12及びFr13)の目的物推定含有量は5.4gと算出され、原料中の目的物推定含有量64.1gからの回収率は86.4%であった。なお、表1中におけるLot.No.は前記2つの目的物画分に便宜的に付した番号である。
1−3.イオン交換カラムクロマトグラフィー(DOWEX 50W×8)、凍結乾燥による酢酸アンモニウム除去
Fr8−12(Lot No.198−012−74−1)740.2gを精製水約600mLに溶解し、イオン交換樹脂(DOWEX 50Wx8、H+型、100−200mesh)でバッチ処理後、凍結乾燥した。凍結乾燥品を再び精製水800mLに溶解し、2回に分け、イオン交換カラムクロマト(DOWEX 50Wx8、H+型、150mm×200mm)に導入した。導入後は精製水を送液し、目的物を含む画分を回収し、凍結乾燥した。乾燥残渣に精製水を加えて凍結乾燥を数回繰り返し、酢酸を低減させた。このとき、精製水中で結晶化したため、吸引ろ過により結晶と母液を分離した。それぞれ凍結乾燥後、以下のものを得た。
化合物Aの結晶:16.5g(Lot No.198−012−078−1 白色結晶、HPLCクロマトグラム=図12を参照、1H NMRスペクトル=図13を参照)
化合物Aの結晶を分取した後の母液(化合物Aを含む):36.1g(Lot No.198−012−078−2 乳白色アモルファス状、HPLCクロマトグラム=図14を参照、1H NMRスペクトル=図15を参照)
2.まとめ
出発物質280mL(水溶液、固形分235g)からイオン交換カラムクロマトグラフィーにより、以下のものを得ることができた。H NMRより算出した酢酸含有量及びHPLC面積値より算出した目的物(化合物A)の推定含有量を表1に示した。今回の精製プロセスで得られた3ロットの総目的物含有量は、54.2gと算出され、出発物質(目的物推定含有量 64.1g)からの回収率は84.5%であった。
以上の様にイオン交換カラムクロマトグラフィーによる精製によって、化合物Aの水溶液から、結晶を晶出することができることが示された。
*1 収率は出発物質の固形分235gを出発原料として算出した。
*2 酢酸含有量はH NMRより算出した。
*3 目的物推定含有量は今回得られた化合物Aの結晶のピークを標準品として、HPLC面積値の1点検量線より算出した。
*4 「HPLC純度」は、化合物Aとしての純度を表す。
[実施例8]
(粉末X線回折)
以下の方法によって、本発明の化合物Aの結晶及び化合物Aの非結晶性ジアステレオマーを用いて粉末X線回折測定を行った。
1.目的
上記実施例において得られた本発明の化合物Aの結晶及び化合物Aの非結晶性ジアステレオマーが結晶質であるか、それとも非結晶質(アモルファス)であるかを確認する。
2.試料
実施例7におけるカラム精製によって水溶液から得た化合物Aの結晶(検体1)、実施例4におけるアセトン溶液から得た化合物Aの結晶(種結晶として保存した再結晶していない結晶)(検体2)、及び実施例4における製造方法によって得た非結晶化合物A(化合物Aの非結晶性ジアステレオマー)のCa塩(1)(検体3)を資料として用いた。
3.分析方法
3.1.装置
(株)リガク製 RINT−TTRIII型 広角X線回折装置
X線源 ; CuKα 線
管電圧−管電流 ; 50kV−300mA
ステップ幅 ; 0.02deg.
測定速度 ; 5deg./min
スリット系 ; 発散 − 受光 − 散乱
0.5deg.−0.15mm−0.5deg.
回折線湾曲結晶モノクロメーター
3.2.方法
検体1〜検体3の粉末をそのまま測定した。
4.結果
図16は、検体1(カラム精製によって水溶液から得た結晶)、検体2(アセトン溶液から得た結晶)及び検体3(非結晶性ジアステレオマーのCa塩)の各々の物質に関する粉末X線回折パターンの多重プロットによる比較を示す。更に、検体1の粉末X線回折ピークリストを表2に、検体2の粉末X線回折ピークリストを表3に示す。
図16(上段および中段)及び表2〜表3から明らかな通り、検体1及び検体2は、粉末X線回折における回折パターンおいて明確なピークが観察され、結晶質の固体であることが確認された。また、検体1と検体2の粉末X線回折における回折パターンが一致していることから、両者は同一形状の結晶質であることも確認された。
一方、図16(下段)から明らかな通り、非結晶性ジアステレオマーをCa塩としてエタノールを加えて固形化したことにより得られた固体である検体3は、粉末X線回折パターンに明確なピークが確認されず、非晶質(非結晶性:アモルファス)の固体であることが確認された。
[実施例9]
(結晶性化合物Aの立体配置の決定)
以下の方法によって、単結晶X線回折による構造解析のための化合物Aの単結晶を作製し、当該単結晶を用いて単結晶X線回折による構造解析を行った。
1.目的
化合物Aは、実施例3の段落[0048]に記載の方法で合成すると、L−アスパラギン酸(S体)由来の構造に、クエン酸がイミド結合し、以下に示す2つのジアステレオマー(SS体とSR体)が合成される。そのうちの一方は結晶化し、他方は結晶化しない性質を有する。この違いにより、2つのジアステレオマーはそれぞれ分離・精製が可能であったが、これまでどちらがSS体であるのか、あるいはSR体であるのかを特定できていなかった。この課題を解決するため、結晶性の化合物Aの0.2mm角四方以上の大きさを有する単結晶を作製して、単結晶X線回折による構造解析を行った。
化合物Aを実施例3の段落[0048]に記載するような方法で、水やアセトンなどの溶媒中で結晶化させても、単結晶X線回折による構造解析を実施できるような大きさの単結晶は得られない。そこで、化合物Aの単結晶を得るための溶媒系や晶出方法の検討を行い、単結晶X線回折による構造解析に使用可能なレベルの大きさの単結晶作製方法を確立して、解析を行った。
2.化合物Aの単結晶作製の条件検討
実施例3の段落[0048]に記載の方法で合成、精製し、水溶液中で結晶化した化合物Aの結晶について、実施例3の段落[0049]に記載の再結晶によりさらに精製して得た化合物Aを原料として、単結晶X線回折による構造解析のための単結晶作製の検討を行った。
実施例3の段落[0049]に記載の再結晶と同様の操作を3回繰り返し、高度に純粋化した化合物Aの結晶性粉末を得た。この結晶性粉末10gに100mlの精製水(日本薬局方精製水)を加えて、50℃の水浴中で加温して溶解した。この溶液を0.22μmポアサイズのメンブレンフィルター(メルクミリポア)を使用してろ過し、ろ液を回収した。このろ液を40℃の水浴上でエバポレーターを用いて濃縮し、50ml程の溶液として回収した。この溶液は、濃縮と室温に冷却されることにより、過飽和状態となる。この溶液を加温状態(40℃)のまま、下表(表4)に記載の溶媒比率となるように蓋つき試験管に分注し、混合溶媒の溶液を作製した。具体的には、400μLの過飽和溶液に、メタノールやエタノール、アセトンなどの有機溶媒を100μL加えることで、溶媒中の水の比率が80%の溶液とした。同様に、300μL(水60%)、200μL(水40%)、100μL(水20%)の過飽和溶液に、メタノールやエタノール、アセトンなどの有機溶媒を200μL、300μL、400μLを加えて、それぞれ溶媒中の水の比率が60%、40%、20%となる混合溶媒溶液を作製した。水100%の溶液は過飽和溶液をそのまま500μL分注した。メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒100%の溶液は、50mgの高度に純粋化した化合物Aの結晶を試験管にとり、溶媒500μLを加えて、40℃で加温して可能なかぎり溶解した。イソプロパノールと水の混合溶媒系では、イソプロパノールの比率が40%以上では、化合物Aの溶解性が低下し急速に沈降物が多く析出したため、イソプロパノールの混合溶媒系では40%以上の検討は行わなかった。結果を表4に示す。
このように作製した化合物Aの各溶液の試験管の蓋を閉めて密閉し、室温で一昼夜以上静置し過飽和状態から析出する化合物Aを析出させた。各試験官を遠心分離(室温、3000rpm、10分)して、析出物を沈降させ、各溶液の上清を別の清浄なプラスチック製蓋つき試験管に注意深く移し、各溶液の飽和溶液とした。各飽和溶液の試験管の蓋を閉めた状態で、そのプラスチック製の蓋に注射用針でピンホールをあけ、室温で静置し、そのピンホールからゆっくりと溶媒が蒸発することで化合物Aの結晶が析出する。析出した結晶の形状や大きさ、経時的な結晶の成長の様子を観察して、化合物Aの単結晶作製には、水とアセトンの混合溶媒系により結晶を晶出させる方法が適切であることが分かった。溶媒比率としてはアセトン比率40%〜80%(水が60%〜20%)が良く、特にアセトン比率60%(水40%)の飽和溶液を蒸発させて得られた結晶が最も良好であった。それ以外のアルコール系の溶媒系では多結晶化が起きやすく、あるいは結晶成長が悪く、単結晶X線回折に使用可能な単結晶は得られなかった。
3.化合物Aの単結晶作製
化合物Aの単結晶X線回折による構造解析には、水‐アセトン(40%‐60%)混合溶媒の飽和溶液を入れた蓋つき試験管の蓋にピンホールを開けて、室温でゆっくり溶媒を蒸発させて得られた結晶を使用した。結晶は、晶出した単結晶が十分に成長するまで数日間の時間をかけて成長させ、かつ単結晶どうしが融合して多結晶化する前に回収を行った。結晶の回収手順としては、結晶を含む溶液を溶液ごとろ紙上に転倒滴下し、溶液をろ紙に吸収させ、ろ紙上に残った結晶を金属ニードルで拾い集めて回収した。回収した単結晶を、ルーペ拡大鏡下で観察し、単結晶X線回折による構造解析に使用できる大きさと形状を保持した単結晶を選抜し、単結晶X線回折による構造解析に供した。
4.化合物Aの単結晶X線回折による構造解析
結晶化した化合物AがSS体、SR体のどちらであるのか、単結晶X線回折による構造解析を行った。上述の単結晶作製方法に従い作製した単結晶から、結晶性の良い角柱状の結晶(0.2mm×0.2mm×0.6mm)を採取した後、ガラスファイバー上にマウントし、グラファイトモノクロメータにより単色化したCuKα線(λ=1.54178Å)を用いて、理学電機(株)製RASA−7R型四軸回折装置にて測定を行った。
格子定数は、50.0<2θ<58.8°の範囲における25個の反射から最小二乗法で求めた。ω−2θ走査法により、回折角2θが136.1°以下の反射について測定を行った。全反射データの測定後、消滅則(系統的な反射強度の消滅)より空間群はP21/c(#14)であることが判った。測定データを表5に、結晶データを表6にまとめた。
[表5] <測定データ>
使用した回折装置:理学電機(株)製 RASA−7R型
走査方法:ω−2θ
走査幅:1.79°+0.30°tanθ
走査速度(ω):16.0°/min
データ収集範囲:2θmax 136.1°
測定反射数:2552
独立な反射数:1902
観測値として採用した基準:I>3σ(I)
観測値として採用した反射数:1899
補正:ローレンツ因子及び偏光因子
消衰効果補正係数:4.24060e+001
[表6] <結晶データ>
分子式:C1011NO+H
分子量:289+18
晶系:単斜
空間群:P21/c(#14)
a:11.685(2)Å
b:10.262(3)Å
c:11.129(2)Å
α:90°
β:107.46(1)°
γ:90°
単位胞の体積:1273.2(4)Å
使用したX線とその波長:CuKα線(λ=1.54178Å)
単位胞内の分子数:Z4
密度の計算値:1.603g/cm
線吸収係数(CuKα):12.99m−1
試料結晶の形と寸法:角柱状(0.20mm×0.20mm×0.60mm)
F(000):640.00
測定温度:25℃
5.化合物Aの結晶構造決定
構造決定は規格化構造因子Eの絶対値が1.527より大きい280個の反射により直接法SIR92を用いて行った。最も高いFigure of merit(FOM=1.416)を与える位相の組より計算したEmapと、フーリエによる構造拡張から全ての原子座標を求めることができた。精密化は反射強度Iが3σ(I)より大きい1899個の反射を用い、完全行列最小二乗法で行った。全反射の重率を等しくして計算したR因子は0.053に収束した。最終のDフーリエ図における電子密度の最大値と最小値は0.28及び、−0.25e−/Åであった。原子散乱因子は“International Tables for X−ray Crystallography”に記載された値を用い、全ての計算はRigaku Corporation and Rigaku/MSCのcrystallographic software packageであるCrystalStructureを用いて行った。この解析データを表7にまとめた。
[表7] <解析データ>
近似構造の決定法:直説法(SIR92)
使用した最小二乗法:完全行列法
温度因子の種類:異方性温度因子
水素原子の取扱い:等方性温度因子
最終のR値、wR値:0.053,0.043(重率:1/σ(Fo))
最終D 合成電子密度の最大値:0.28e−/Å
最終D 合成電子密度の最小値:−0.25e−/Å
使用したプログラムシステム名:CrystalStructure
この解析の結果、結晶性の化合物A(化合物Aの結晶)はRS表示法でSS体、RR体のエナンチオマーであることが明らかになった。そして合成に用いたのが全てL−Asp(S体)であることから、結晶性の化合物AはSS体であることが分かった。そしてこれを受け、結晶化しない性質を持つ化合物AがSR体であることも分かった。
化合物Aのジアステレオマー混合物は、肝障害抑制効果を有する活性物質であることがわかっているが、結晶性の化合物Aと非結晶性の化合物Aの生物体内における生理作用はこれまで未知であった。化合物Aに限らず、ジアステレオマーのような類似した構造の有機化合物を分離するには、一般的に高分離能なカラムを使用して、高度な精製技術を要するプロセスが要求される。さらにこれらのカラムを使用した一般的な精製手法では、精製スケールを拡大することが難しく、大量供給には高額な費用を要することが多い。本願は、化合物Aの一方のジアステレオマーのみが結晶化できる事実を確認し、その結晶化技術により安価で大量なジアステレオマーの精製方法を確立した。また、有機溶媒を用いて結晶性のジアステレオマーをほぼ完全に結晶化することにより、非結晶性のジアステレオマーも安価かつ大量に精製する手法を確立した。これにより、化合物Aの精製したジアステレマー供給を分析レベルのスケールから、産業ベースに拡大できることが期待される。本発明により、化合物Aの結晶及び極めて高純度な化合物Aの非結晶質ジアステレオマーが、安価かつ大量に得られたことによって、医薬品製造の分野、機能性食品、健康食品を含む食品製造の分野等において、化合物Aより効率的な応用が期待される。

Claims (24)

  1. 下記式(A)で表される化合物(以下、化合物Aという。)の結晶。
  2. 立体構造がRS表示法でSS体である、請求項1に記載の結晶。
  3. CuKα線をX線源とする粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が、11.74±0.20°、29.25±0.20°、18.36±0.20°、21.75±0.20°、及び15.95±0.20°、にピークを有する、請求項1に記載の結晶。
  4. 以下の(a)〜(f)の工程を含む、下記式(A)で表される化合物Aの結晶の製造方法。
    (a)化合物A及び/又はその塩、並びにクエン酸及び/又はその塩を含む、pH5.0〜8.5の水溶液を、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通塔する工程、
    (b)該カラムに溶出液を通塔し、クエン酸を含まないが、化合物Aを含む水溶液を取得する工程、
    (c)工程(b)により得られた水溶液から、溶出液を除去する工程、
    (d)溶出液を除去した水溶液を濃縮する工程、
    (e)濃縮残渣に水を添加して水溶液とし、該水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び、
    (f)化合物Aの結晶を取得する工程。
  5. 化合物Aの結晶の立体構造がRS表示法でSS体である、請求項4に記載の製造方法。
  6. 溶出液が、酢酸アンモニウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、及びギ酸アンモニウム水溶液からなる群より選ばれる溶出液である、請求項4又は5に記載の製造方法。
  7. 溶出液を除去する方法が、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを使用する方法である、請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
  8. 濃縮する方法が、凍結乾燥である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 以下の(a)〜(f)の工程を含む、下記式(A)で表される化合物Aの結晶の製造方法。
    (a)化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液に、炭酸カルシウムを添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
    (b)水溶液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
    (c)水溶液に硫酸を添加して、pH2.0以下として硫酸カルシウムを析出させる工程、
    (d)水溶液から、硫酸カルシウムを除去する工程、
    (e)水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び
    (f)化合物Aの結晶を取得する工程。
  10. 化合物Aの結晶の立体構造がRS表示法でSS体である、請求項9に記載の製造方法。
  11. 濃縮が、減圧濃縮である、請求項9又は10に記載の製造方法。
  12. 化合物Aの結晶を取得した後、以下の(g)〜(j)の工程をさらに含む、請求項9〜11のいずれかに記載の製造方法。
    (g)水溶液に有機溶媒を添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
    (h)水溶液と有機溶媒の混合液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
    (i)水溶液と有機溶媒の混合液を脱水して、化合物Aの結晶を析出させる工程、及び、(j)化合物Aの結晶を取得する工程。
  13. 有機溶媒が、アセトンである、請求項12に記載の製造方法。
  14. 以下の、(a)〜(l)の工程を含む、下記式(A)で表される化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩の製造方法。
    (a)化合物A及びクエン酸を含む、pH2.0以下の水溶液に、炭酸カルシウムを添加して、クエン酸カルシウムを析出させる工程、
    (b)水溶液から、クエン酸カルシウムを除去する工程、
    (c)水溶液に硫酸を添加して、pH2.0以下として硫酸カルシウムを析出させる工程、
    (d)水溶液から、硫酸カルシウムを除去する工程、
    (e)水溶液を濃縮して、化合物Aの結晶を析出させる工程、
    (f)水溶液から、化合物Aの結晶を除去する工程、
    (g)水溶液に有機溶媒を添加して、化合物Aの結晶及びクエン酸カルシウムを析出させる工程、
    (h)水溶液と有機溶媒の混合液から、化合物Aの結晶及びクエン酸カルシウムを除去する工程、
    (i)水溶液と有機溶媒の混合液を脱水して、化合物Aの結晶を析出させる工程、
    (j)水溶液から、化合物Aの結晶を除去する工程、
    (k)水溶液に、金属塩またはアミノ酸塩、並びにアルコールを添加して、化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩を析出させる工程、及び、
    (l)化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩を取得する工程。
  15. 化合物Aの非結晶性ジアステレオマー塩の立体構造がRS表示法でSR体である、請求項14に記載の製造方法。
  16. 有機溶媒が、アセトンである、請求項14に記載の製造方法。
  17. 金属塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選ばれる金属塩である、請求項14〜16のいずれかに記載の製造方法。
  18. アミノ酸塩が、アルギニン塩、シトルリン塩、オルニチン塩、及びヒスチジン塩からなる群より選ばれるアミノ酸塩である、請求項14〜16のいずれかに記載の製造方法。
  19. アルコールが、エタノールまたはメタノールである、請求項14〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
  20. 下記式(A)で表される化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
  21. 立体構造がRS表示法でSR体である、請求項20に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
  22. 塩が、化合物Aの非結晶性ジアステレオマーの金属塩またはアミノ酸塩である、請求項20又は21に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
  23. 金属塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選ばれる金属塩である、請求項22に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
  24. アミノ酸塩が、アルギニン塩、シトルリン塩、オルニチン塩、及びヒスチジン塩からなる群より選ばれるアミノ酸塩である、請求項22に記載の化合物Aの非結晶性ジアステレオマーまたはその塩。
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