以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
なお、本発明において、各種の置換基の炭素数は、当該置換基が更に置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた合計の炭素数をさす。
[ジオール化合物]
本発明のジオール化合物は、下記の一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるジオール化合物である。
[式(1)〜(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を示す。R3〜R6は、それぞれ独立に任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を示す。また、R3〜R6のいずれか2つ以上が、相互に結合して環を形成していてもよい。m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数である。]
上記式(1)〜(3)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であり、好ましくは炭素数2〜8、さらに好ましくは炭素数2〜4であり、特に好ましくは炭素数2である。R1及びR2は、炭素数が12を超えると、ポリマーの構成単位として用いた場合に、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。アルキレン基において、炭素数2の場合はエチレン基となり、ジオール化合物の合成の容易さの点で特に好ましい。
また、これらのアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基が置換基を有する場合、本発明のジオール化合物、及び該ジオール化合物を原料モノマーとして用いて製造されたポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂及びポリウレタン樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜12の上記アルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基及び有機ケイ素基等が挙げられる。R1及びR2のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(1)〜(3)において、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。m及びnは10を超えるとポリマーの構成単位として用いた場合に、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
上記式(1)〜(3)において、R3〜R6は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基である。R3〜R6の炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基及びドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基及びヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等の環状アルケニル基:エチニル基、メチルエチニル基及び1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、トルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基:ベンジル基及びフェニルエチル基等のアラルキル基:チエニル基、ピリジル基及びフリル基等の複素環基が挙げられる。これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基等が好ましく、ポリマー自体の耐光性、耐候性の観点からアルキル基又はシクロアルキル基が特に好ましい。
また、これらの有機基が置換基を有する場合、本発明のジオール化合物、及び該ジオール化合物を原料モノマーとして用いて製造されたポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂及びポリウレタン樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜30の上記有機基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1〜R4の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(1)〜(3)において、R3〜R6は、そのうちの2以上、好ましくは2つまたは3つが相互に結合して環を形成していてもよく、特に、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にアセタール結合で環を形成していることが、本発明のジオール化合物、及び該ジオール化合物を原料モノマーとして用いて製造されたポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂及びポリウレタン樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
R3とR5、R4とR6がアセタール結合で環を形成している構造の例として、好ましくは、下記構造式で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点からシクロヘキシリデン基であることが特に好ましい。
上記式(2)において、R3とR4とR6とがメチン基で環を形成している場合は、熱力学的に安定なアダマンタンに類似した構造となるため、本発明のジオール化合物、及び該ジオール化合物を原料モノマーとして用いて製造されたポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂及びポリウレタン樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(1)〜(3)中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all−cis−イノシトール、epi−イノシトール、allo−イノシトール、muco−イノシトール、myo−イノシトール、neo−イノシトール、chiro−D−イノシトール、chiro−L−イノシトール、scyllo−イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo−イノシトールが好ましく、イノシトール残基としては、myo−イノシトールから誘導されるイノシトール残基であることが好ましい。
<ジオール化合物の合成>
本発明のジオール化合物は下記式(1a)〜(3a)で表される2級ジオール化合物を原料として合成することができる。尚、下記式中(1a)〜(3a)のR3〜R6の構造及び相互の結合関係、シクロヘキサン環は上記式(1)〜(3)におけるものと同様である。合成方法としては、原料を無溶媒または溶媒中で塩基触媒存在下、炭素数2〜12の炭酸アルキレン、炭酸アルケニレンもしくは炭酸アルキニレン又は、アルキレンオキシド、アルケニレンオキシド又はアルキニレンオキシドと反応させる方法が挙げられる。
塩基触媒としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及びカリウム−t−ブトキシドなどが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
触媒の使用量は、原料のモル数に対して通常0.01〜5当量であり、好ましくは0.01〜0.5当量である。0.01当量より少ないと、反応の進行が遅くなり得るため好ましくなく、5当量より多いと製造コストが増加し得るため好ましくない。また、反応終了後、触媒は中和することで取り除くことができる。
炭素数2〜12の炭酸アルキレンとしては、特に限定されるものではないが、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ペンチレン、炭酸ヘキシレン、炭酸ヘプチレン、炭酸オクチレン、炭酸ノニレン及び炭酸デシレンなどが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
炭素数2〜12の炭酸アルケニレンとしては、特に限定されるものではないが、炭酸エテニレン、炭酸プロペニレン、炭酸ブテニレン、炭酸ペンテニレン、炭酸へキセニレン、炭酸ヘプテニレン、炭酸オクテニレン、炭酸ノネニレン及び炭酸デセニレンなどが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
炭素数2〜12の炭酸アルキニレンとしては、特に限定されるものではないが、炭酸エチニレン、炭酸プロピニレン、炭酸ブチニレン、炭酸ペンチニレン、炭酸へキシニレン、炭酸ヘプチニレン及び炭酸オクチニレンが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
炭素数2〜12のアルキレンオキシドとしては、特に限定されるものではないが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、ペンチレンオキシド、ヘキシレンオキシド、ヘプチレンオキシド、オクチレンオキシド、ノニレンオキシド、デシレンオキシドなどが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
炭素数2〜12のアルケニレンオキシドとしては、特に限定されるものではないが、エテニレンオキシド、プロペニレンオキシド、ブテニレンオキシド、ペンテニレンオキシド、へキセニレンオキシド、ヘプテニレンオキシド、オクテニレンオキシド、ノネニレンオキシド及びデセニレンオキシドなどが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
炭素数2〜12のアルキニレンオキシドとしては、特に限定されるものではないが、エチニレンオキシド、プロピニレンオキシド、ブチニレンオキシド、ペンチニレンオキシド、へキシニレンオキシド、ヘプチニレンオキシド及びオクチニレンオキシドが挙げられ、これらの内1種類又は2種類以上を併用することができる。
炭酸アルキレン、炭酸アルケニレン、炭酸アルキニレン、アルキレンオキシド、アルケニレンオキシド又はアルキニレンオキシドの添加量は原料のモル数に対して、通常2〜10当量であり、好ましくは3〜5当量である。2当量より少ない場合、上記式(1)〜(3)におけるmまたはnが0である化合物が生成してしまうことがあるので、好ましくない。10当量より多いと、上記式(1)〜(3)におけるmまたはnが10を超える化合物が生成してしまうことがあるので好ましくない。また、炭酸アルキレン、炭酸アルケニレンもしくは炭酸アルキニレンまたはアルキレンオキシド、アルケニレンオキシドもしくはアルキニレンオキシドについては、材料の安定性と、反応時の安全性の観点からは炭酸アルキレン、炭酸アルケニレン又は炭酸アルキニレンを用いる方がより好ましい。
溶媒としては特に限定されるものではないが、原料、炭酸アルキレン、炭酸アルケニレンもしくは炭酸アルキニレンまたはアルキレンオキシド、アルケニレンオキシドもしくはアルキニレンオキシドの溶解性の観点から極性が高いものが好ましく、水、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、アセトニトリル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。この内の1種または2種類以上を併用することが出来る。また、上記の炭酸アルキレン、炭酸アルケニレンもしくは炭酸アルキニレンまたはアルキレンオキシド、アルケニレンオキシドもしくはアルキニレンオキシドの融点が反応温度以下である場合は、それらを溶媒として用いることができる。
反応温度は通常60〜200℃であり、好ましくは100〜150℃である。60℃より低いと反応が進行しないことがあるため好ましくなく、200℃より高いと、上記式(1)〜(3)におけるmまたはnが10を超える化合物が生成しやすくなるため、好ましくない。
反応時間は通常1〜10時間であり、好ましくは2〜5時間である。1時間より短いと十分に反応が進行しないことがあるため好ましくなく、10時間より長いと上記式(1)〜(3)におけるmまたはnが10を超える化合物が生成しやすくなるため、好ましくない。
本発明のジオール化合物(1)〜(3)におけるm及びnが1であるジオール化合物は、上記式(1a)〜(3a)で表される2級ジオール化合物を原料として次の方法で合成することができる。原料を溶媒中で脱プロトン化し、次いで下記式(A)で表される化合物と反応させることで、下記式(1b)〜(3b)を合成し、続けて(1b)〜(3b)を処理してYを除くことでジオール化合物(1)〜(3)を得ることができる。尚、下記式中(1b)〜(3b)のR1とR2の構造、R3〜R6の構造及び相互の結合関係、シクロヘキサン環は上記式(1)〜(3)におけるものと同様である。
上記式(A)で表される化合物におけるR8は、R1とR2と同様である。Yはヒドロキシ基の保護基であり、特に限定されるものではないが、例えばメチル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、t−ブチル基、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。Aはフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基のいずれかである。
溶媒としては非プロトン性の極性溶媒が好ましく、特に限定されるものではないが、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
脱プロトン化は特に限定されるものではないが、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ブチルリチウムのようなプロトン引き抜き剤を用いることが好ましい。
Yを除去する方法は、公知のヒドロキシル基の保護基を脱保護する方法を用いることができ、メチル基においては三臭化ホウ素のような強いルイス酸条件で、ベンジル基においてはパラジウム炭素を用いた水素添加反応、p−メトキシベンジル基においてはパラジウム炭素を用いた水素添加反応やDDQによる酸化条件で、t−ブチル基においてはトリフルオロ酢酸のような強酸性条件で、メトキシメチル基及びテトラヒドロピラニル基においては酸性条件で、アセチル基においてはメタノール中炭酸カリウム条件で、ピバロイル機においてはアセチル基より強い塩基性条件で、ベンゾイル基においては強塩基条件で、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基及びt−ブチルジメチルシリル基においてはフッ化物イオンを作用させることで脱保護することができる。
得られたジオール化合物は公知の方法で精製することができ、精製方法としては特に限定されるものではないが、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、蒸留などを挙げることができ、これらを2つ以上組み合わせても良い。
得られたジオール化合物は公知の方法で同定することができ、例えばガスクロマトグラフィー法、NMR法などで同定することができる。
[樹脂]
本発明のジオール化合物を原料として、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂及びポリウレタン樹脂等を合成することができる。
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂は、分子内に、下記式(4)で表される構造を含むことを特徴とするものである。
[上記式(4)中のXは、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される構造を有する。式(5)〜(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を示す。R3からR6は、それぞれ独立に任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を示す。また、R3からR6のいずれか2つ以上が、相互に結合して環を形成していてもよい。m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数である。]
以下、式(4)で表される構造を「構造(4)」と称し、Xが式(5)で表される構造である式(4)で表される構造を「構造(4−5)」と称し、Xが式(6)で表される構造である式(4)で表される構造を「構造(4−6)」と称し、Xが式(7)で表される構造である式(4)で表される構造を「構造(4−7)」と称す場合がある。
上記構造(4)、好ましくは構造(4−5)〜(4−7)は、それ自体、原料である耐熱性に優れたジオール化合物によりポリカーボネート樹脂に導入されるものであり、このような構造をポリカーボネート樹脂に導入することにより、ポリカーボネート樹脂の耐熱性を高めることができる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、主鎖として芳香族性を有する環構造を含まない構造として耐光性、耐候性に優れたものとすることができる。また、特定の芳香族性を有する環を導入することで、特異な光学特性を付与することもできる。
上記式(5)〜(7)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であり、好ましくは炭素数2〜8、さらに好ましくは炭素数2〜4であり、特に好ましくは炭素数2である。R1及びR2は、炭素数が12を超えると、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
また、これらのアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基が置換基を有する場合、本発明のポリカーボネート樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜12の上記アルキレン基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1及びR2のアルキレン基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。m及びnは10を超えるとポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基である。R3〜R6の炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基及びドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基及びヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、メチルエチニル基及び1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基及びトルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;ベンジル基及びフェニルエチル基等のアラルキル基;チエニル基、ピリジル基及びフリル基等の複素環基が挙げられる。これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基等が好ましく、ポリマー自体の耐光性、耐候性の観点からアルキル基又はシクロアルキル基が特に好ましい。
また、これらの有機基が置換基を有する場合、本発明のポリカーボネート樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜30の上記有機基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基及び有機ケイ素基等が挙げられる。R1〜R4の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、そのうちの2以上、好ましくは2つまたは3つが相互に結合して環を形成していてもよく、特に、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にアセタール結合で環を形成していることが、ポリカーボネート樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
R3とR5、R4とR6がアセタール結合で環を形成している構造の例として、好ましくは、下記構造式で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点からシクロヘキシリデン基であることが特に好ましい。
上記式(6)において、R3とR4とR6とがメチン基で環を形成している場合は、熱力学的に安定なアダマンタンに類似した構造を取りうるため、本発明のポリカーボネート樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(5)〜(7)中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all−cis−イノシトール、epi−イノシトール、allo−イノシトール、muco−イノシトール、myo−イノシトール、neo−イノシトール、chiro−D−イノシトール、chiro−L−イノシトール、scyllo−イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo−イノシトールが好ましく、イノシトール残基としてはmyo-イノシトールから誘導されるイノシトール残基であることが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、全カーボネート繰り返し単位を100とした場合に、前記構造(4)、好ましくは前記構造(4−5)〜(4−7)を繰り返し単位として80以下含むことが好ましい。この割合が80以下であることにより、他の繰り返し単位を導入することが可能となり、光学特性などの他の特性を導入することが可能となる。この観点から、構造(4)、好ましくは前記構造(4−5)〜(4−7)の割合は70以下であることがより好ましく、60以下であることが好ましい。一方、構造(4)を導入することによる前述の効果を有効に得る上で、構造(4)、好ましくは前記構造(4−5)〜(4−7)の割合は1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、上記(1)〜(3)の化合物に由来する上記構造(5)〜(7)以外の、他のジオール化合物に由来する構造単位を含有していてもよい。
例えば、本発明のポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジオール化合物及び/または脂環式ジオール化合物に由来する構造単位の1種または2種以上を含有していてもよく、これらのジオール化合物を含有することは、光学特性などの他の特性を導入することが可能となる観点において好ましい。
脂肪族ジオール化合物としては、直鎖脂肪族ジオール化合物、分岐脂肪族ジオール化合物が挙げられる。
直鎖脂肪族ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール及び1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
分岐脂肪族炭化水素のジオール化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコール(以下、「NPG」と表記することがある)及びヘキシレングリコール等が挙げられる。
脂環式ジオール化合物としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール及びリモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジオール化合物等が挙げられる。
これらのジオール化合物のうち、得られるポリカーボネート樹脂に柔軟性を付与し、靭性に優れたものとする観点から1級水酸基を有する脂肪族ジオール化合物、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール及び1,12−ドデカンジオール等、1級水酸基を有する脂環式ジオール化合物、例えば1,4−シクロヘキサンジメタノール及びトリシクロデカンジメタノール等が好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂が脂肪族ジオール化合物及び/または脂環式ジオール化合物に由来する構造単位、特に1級水酸基を有する脂肪族ジオール化合物及び/または脂環式ジオール化合物に由来する構造単位を含有する場合、その含有量は、得られるポリカーボネート樹脂に柔軟性を付与し、靭性に優れたものとする観点から0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、イソソルビドに由来する構造単位を含有していてもよい。イソソルビドは、植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られ、入手及び製造のし易さ、耐候性、光学特性、成形性、耐熱性及びカーボンニュートラルの面からポリカーボネート樹脂の構造単位として好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂が、イソソルビドに由来する構造単位を含有する場合、その含有量は、光学特性、機械特性、耐熱性等の観点から5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂はまた、下記式(8)で表される化合物(以下「ジオール化合物(8)」と称す場合がある。)に由来する構造単位の1種または2種以上を含有していてもよく、ジオール化合物(8)に由来する構造単位を含有することで、優れた光学特性を付与することが可能となる。
(上記一般式(8)中、R11〜R14はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、Y1,Y2はそれぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数2〜10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。)
上記ジオール化合物(8)としては、特開2012−214729号公報に記載のジオール化合物が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂が、上記ジオール化合物(8)に由来する構造単位を含有する場合、その含有量は、本発明のポリカーボネート樹脂を光学フィルムとして利用する際の波長分散特性を好ましいものとする観点から、40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは45質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上、とりわけ好ましくは60質量%以上である。該構造単位の含有割合が過度に少ないと、本発明のポリカーボネート樹脂を光学フィルムとして利用する際の波長分散特性が好ましいものとならない場合がある。また、該構造単位の含有割合が過度に多いと、本発明のポリカーボネート樹脂を光学フィルムとして利用する際の、波長450nmで測定した位相差と波長550nmで測定した位相差との比が、過度に大きくなり光学特性が好ましいものとならない場合があるので、95質量%以下、中でも90質量%以下、特に85質量%以下、とりわけ80質量%以下であることが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂はまた、下記式(9)で表される化合物(以下「ジオール化合物(9)」と称す場合がある。)に由来する構造単位の1種または2種以上を含有していてもよく、ジオール化合物(9)に由来する構造単位を含有することで、ガラス転移温度を好適な範囲に制御し、得られるポリカーボネート樹脂の溶融成形や製膜を容易にする可能性があるだけでなく、所定の光学的特性を得ることを可能とすることができる。
上記ジオール化合物(9)としては、特開2012−74107号公報に記載のジオール化合物が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂が、ジオール化合物(9)に由来する構造単位を含有する場合、その含有量は、ガラス転移温度を好適な範囲に制御し、得られるポリカーボネート樹脂の溶融成形や製膜を容易にする可能性があるだけでなく、所定の光学的特性を得ることを可能とする観点から、ポリカーボネート樹脂中の全ジオール化合物に由来する構造単位中、50mol%以上であることが必要で、好ましくは55mol%以上、より好ましくは60mol%以上、特に好ましくは65mol%以上である。ジオール化合物(9)に由来する構造単位の含有量が少ないと、過度にガラス転移温度が高くなって、得られるポリカーボネート樹脂の溶融成形や製膜が困難になったり、後述する濾過が困難になったりする可能性があるだけでなく、所定の光学的特性が得られなくなる可能性がある。一方、ジオール化合物(9)に由来する構造単位の含有量が多過ぎても、所定の光学的特性が得られなくなる可能性があるだけでなく、耐熱性の悪化を招くことがあるため、好ましくは80mol%以下、より好ましくは75mol%以下である。
本発明のポリカーボネート樹脂はまた、下記式(10)で表される構造(以下「構造(10)」と称す場合がある。)及び/または下記式(11)で表される構造(以下「構造(11)」と称す場合がある。)を含有していてもよく、これらの構造を含有することで、逆波長分散性を得ることができる。ただし、これらの構造(11)、(12)を含む割合が過度に高くなることで、光弾性係数や信頼性が悪化したり、延伸によって高い複屈折を得られない恐れがある。また、これらのオリゴフルオレン構造単位が樹脂中に占める割合が過度に高くなると、分子設計の幅が狭くなり、樹脂の改質が求められた時に改良が困難となる。一方、仮に、非常に少量のオリゴフルオレン構造単位により所望の逆波長分散性が得られたとしても、この場合には、オリゴフルオレンの含有量のわずかなばらつきに応じて光学特性が敏感に変化するため、諸特性が一定の範囲に収まるように製造することが困難となる。
(式(10)及び(11)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基であり、R34〜R39は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜10のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基である。ただし、R34〜R39のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
構造(10)及び構造(11)をポリカーボネート樹脂に導入するための原料であるジオール化合物及びジカルボン酸化合物としては、国際公開WO2014/61677号パンフレットに記載のものが挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂が、構造(10)及び/または構造(11)を含有する場合、本発明のポリカーボネート樹脂を光学用途に用いる際に光学特性を高めるために、また、分子設計の幅を広げて特性の改良自由度を高める観点からその含有量は、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上32質量%以下がさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
(ポリカーボネート樹脂の製造)
本発明のポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、その重合方法は、ホスゲンを用いた溶液重合法、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法のいずれの方法でもよいが、重合触媒の存在下に、原料であるジオール化合物を、より環境への毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
この溶融重合法で用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(12)で表されるものが挙げられる。
(式(12)において、A及びA’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の脂肪族基または置換基を有していてもよい芳香族基であり、A及びA’は同一であっても異なっていてもよい。)
上記式(12)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートに代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が挙げられるが、特に好ましくはジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下の量を、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。また、前記構造(12)を導入するための原料としてジカルボン酸化合物を用いることもできる。このようなジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネート樹脂が得られる。
炭酸ジエステルは、反応に用いる全ジオール化合物に対して、0.90〜1.10のmol比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.96〜1.04のmol比率である。このmol比が0.90より小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端OH基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化したり、所望する高分子量体が得られなかったりする。また、このmol比が1.10より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となったりするばかりか、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時、または成形品の臭気の原因となり好ましくない。
原料として用いるジオール化合物としては、前述の構造(1)を導入するためのジオール化合物と、脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、イソソルビド、ジオール化合物(8)、ジオール化合物(9)、構造(10)を導入するためのジオール化合物等のジオール化合物が、本発明のポリカーボネート樹脂を構成する各ジオール化合物に由来する構成単位の好適割合として前述した通りの割合となるように用いられる。
また、溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
またアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物と併用される塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール及びアミノキノリン等が挙げられる。
これらの塩基性化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
上記重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を用いる場合、反応に用いる全ジオール化合物1molに対して、金属換算量として、通常、0.1〜100μmolの範囲内で用い、好ましくは0.5〜50μmolの範囲内であり、さらに好ましくは1〜25μmolの範囲内である。重合触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる。
重合後得られたポリカーボネート樹脂中に残存する触媒量は、特に限定されないが、触媒金属換算の含有量として100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは20ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造に当たり、原料として用いる各種のジオール化合物は、固体として供給してもよいし、加熱して溶融状態として供給してもよいし、水に可溶なものであれば、水溶液として供給してもよい。
該ジオール化合物を溶融状態や、水溶液で供給すると、工業的に製造する際、計量や搬送がしやすいという利点がある。
本発明において、原料として用いるジオール化合物を重合触媒の存在下で炭酸ジエステルと反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目の反応は140〜220℃、好ましくは150〜200℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら反応温度を上げていき、同時に発生するフェノールを反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が200Pa以下で、210〜280℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行う。
この重縮合反応における減圧において、温度と反応系内の圧力のバランスを制御することが重要である。特に、温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジオール化合物と炭酸ジエステルのmol比を狂わせ、重合度が低下することがある。例えば、ジオール化合物として、myo−イノシトールの他、イソソルビドと1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いる場合は、全ジオール化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのmol比が50mol%以上の場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールがモノマーのまま留出しやすくなるので、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させ、最終的に200Pa以下の圧力で、200から250℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート樹脂が得られるため、好ましい。
また、全ジオール化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのmol比が50mol%より少なくなった場合、特に、mol比が30mol%以下となった場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールのmol比が50mol%以上の場合と比べて、急激な粘度上昇が起こるので、例えば、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下までは、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以上の昇温速度、好ましくは1時間あたり50℃以上の昇温速度で上昇させながら反応させ、最終的に200Pa以下の減圧下、220から290℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート樹脂が得られるため、好ましい。
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物またはこれらの金属塩を重合時に添加することができる。
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種または2種以上が好適に用いられる。これらは、反応に用いる全ジオール化合物に対して、0.0001mol%以上0.005mol%以下添加することが好ましく、さらに好ましくは0.0003mol%以上0.003mol%以下添加することが好ましい。リン化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることがある。
亜リン酸化合物を添加する場合は、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種または2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、反応に用いる全ジオール化合物に対して、0.0001mol%以上0.005mol%以下添加することが好ましく、さらに好ましくは0.0003mol%以上0.003mol%以下添加することが好ましい。亜リン酸化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
リン酸化合物と亜リン酸化合物またはこれらの金属塩は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物またはこれらの金属塩の総量で、先に記載した、全ジオール化合物に対して、0.0001mol%以上0.005mol%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0003mol%以上0.003mol%以下である。この添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
なお、リン酸化合物、亜リン酸化合物の金属塩としては、これらのアルカリ金属塩や亜鉛塩が好ましく、特に好ましくは亜鉛塩である。また、このリン酸亜鉛塩の中でも、長鎖アルキルリン酸亜鉛塩が好ましい。
本発明においては、ポリカーボネート樹脂生成物中のジオール化合物、カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネート、カーボネート化合物から副生するアルコール類、フェノール類及び添加した触媒などを除去する目的で精製を行ってもよい。
(ポリカーボネート樹脂の物性等)
本発明のポリカーボネート樹脂の中間点ガラス転移開始温度Tmgとして測定されるガラス転移温度は100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが好ましい。
ガラス転移温度が低すぎると耐熱性に劣るため、各種成形品とした場合の信頼性に劣る可能性がある。一方、ガラス転移温度が高いと、押出時の剪断発熱によってポリカーボネート樹脂の劣化を招いたり、フィルターで濾過する際の溶融粘度が高くなりすぎ、ポリカーボネート樹脂の劣化を招いたりする可能性があるため、中間点ガラス転移開始温度Tmgは好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは175℃以下である。
なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
本発明のポリカーボネート樹脂の数平均分子量は通常1〜20万程度である。なお、数平均分子量は核磁気共鳴法(NMR)により求めることができる。
また、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は特に限定されないが、下限は好ましくは1.5であり、より好ましくは1.8である。上限は好ましくは3.5であり、より好ましくは3.0である。
なお、ポリカーボネート樹脂の重合度(分子量)は、還元粘度で表すこともできる。本発明のポリカーボネート樹脂の重合度(分子量)は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒を用い、ポリカーボネート樹脂濃度を1.00g/dlに精密に調整し、温度30.0℃±0.1℃で測定した還元粘度(以下、単に「還元粘度」と記す場合がある。)として、測定することができる。樹脂の還元粘度が低すぎると、得られる成形品の機械強度が小さくなる可能性がある。そのため、還元粘度は、通常0.20dl/g以上であり、0.30dl/g以上であることが好ましい。一方、樹脂の還元粘度が高すぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させたり、得られる成形品の歪みが大きくなったりする傾向がある。そのため、還元粘度は、通常1.50dl/g以下であり、1.20dl/g以下であることが好ましく、1.01dl/g以下であることがより好ましく、0.90dl/g以下であることが更に好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、より具体的には、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
本発明のポリカーボネート樹脂の5%熱重量減少温度は、300℃以上が好ましく、特に好ましくは320℃以上である。5%熱重量減少温度が高いほど、熱安定性が高くなり、より高温での使用に耐えるものとなる。また、製造温度も高くでき、より製造時の制御幅が広くできるので、製造し易くなる。一方、5%熱重量減少温度が低いほど、熱安定性が低くなり、高温での使用が困難になる。また、製造時の制御許容幅が狭くなり製造しにくくなる。5%熱重量減少温度の上限には特に制限はないが、通常370℃以下である。
なお、ポリカーボネート樹脂の5%熱重量減少温度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
本発明のポリカーボネート樹脂のアッベ数は、凸レンズとして単レンズに用いる場合には、30以上が好ましく、特に好ましくは35以上である。アッベ数が大きくなるほど、屈折率の波長分散が小さくなり、例えば、単レンズで使用した場合の色収差が小さくなり、より鮮明な画像が得やすくなる。アッベ数が小さくなるほど屈折率の波長分散が大きくなり、単レンズで使用した場合、色収差が大きくなり、画像のぼけの度合いが大きくなる。アッベ数の上限には特に制限はないが、通常70以下である。一方、凹レンズに用いて色消し用レンズに用いる場合は、アッベ数は小さい方が好ましく、30未満、好ましくは28未満、特に好ましくは26未満である。
本発明のポリカーボネート樹脂は、通常、着色の少ないポリカーボネート樹脂であることが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂のYI値は、その上限が、通常20であることが好ましく、より好ましくは10、更に好ましくは5、特に好ましくは3であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−20であることが好ましく、より好ましくは−5、更に好ましくは−1である。
YI値が20以下であるポリカーボネート樹脂は、フィルム及びシート等の使用用途が制限されないという利点を有する。一方、YI値が−20以上であるポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂を製造するための製造プロセスが煩雑となることが無く、極めて高額の設備投資が不要であり、経済的に有利である。
(ポリカーボネート樹脂組成物)
本発明のポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネート樹脂を得た後に、後に記載する配合方法で、さらに亜リン酸化合物を配合すると、重合時のヘイズの上昇、着色、及び耐熱性の低下を回避して、さらに多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
これらの熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100質量部とした場合、0.0001〜1質量部が好ましく、0.0005〜0.5質量部がより好ましく、0.001〜0.2質量部が更に好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。
かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種または2種以上が挙げられる。
これら酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネートを100質量部とした場合、0.0001〜0.5質量部が好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、溶融成形時の金型からの離型性をより向上させるために、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤を配合することも可能である。
かかる離型剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基及び/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。
なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。
高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。
これらの離型剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
かかる離型剤の配合量は、ポリカーボネートを100質量部とした場合、0.01〜5質量部が好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、本願発明の目的を損なわない範囲で、光安定剤を配合することができる。
かかる光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)及び2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。
これらの光安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
かかる光安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100質量部とした場合、0.01〜2質量部が好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、重合体や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
具体的なブルーイング剤としては、例えば一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725;、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]及び一般名Solvent Blue45[CA.No61110]が代表例として挙げられる。
これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
これらブルーイング剤は、通常、ポリカーボネート樹脂を100質量部とした場合、0.1×10−4〜2×10−4質量部の割合で配合される。
その他、樹脂組成物に通常用いられる核剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤、衝撃改良剤、加水分解抑制剤、発泡剤、染顔料等の添加剤を配合してもよい。
更に本発明のポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムなどの1種または2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
本発明のポリカーボネート樹脂と上述のような各種の添加剤等との混合方法としては、例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合する方法、あるいは上記各成分を例えば塩化メチレンなどの共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法などがあるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるポリマーブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
こうして得られる本発明のポリカーボネート樹脂或いは、これに各種添加剤を添加してなるポリカーボネート樹脂組成物は、そのまま、または溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、射出成形法、押出成形法または圧縮成形法等の通常知られている方法で成形品とすることができる。
本発明のポリカーボネート樹脂の混和性を高めて安定した離型性や各物性を得るためには、溶融押出において単軸押出機、二軸押出機を使用するのが好ましい。単軸押出機、二軸押出機を用いる方法は、溶剤等を用いることがなく、環境への負荷が小さく、生産性の点からも好適に用いることができる。
押出機の溶融混練温度は、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度に依存するが、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が90℃より低い場合は、押出機の溶融混練温度は通常130〜250℃、好ましくは150〜240℃である。溶融混練温度が130℃より低い温度であると、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。250℃より高いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が低くなり、ペレットを得にくくなり、生産性が低下する。
また、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が90℃以上の場合は、押出機の溶融混練温度は通常200〜300℃、好ましくは220〜260℃である。溶融混練温度が200℃より低い温度であると、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネート樹脂の劣化が起こりやすくなり、ポリカーボネート樹脂の色が黄変したり、分子量が低下するため強度が劣化したりする。
押出機を使用する場合、押出時にポリカーボネート樹脂の焼け、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、求められる光学的な精度に依存するが、100μm以下が好ましい。特に、異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。
ポリカーボネート樹脂の押出は、押出後の異物混入を防止するために、クリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの大きさ(目開き)は種々あるが、10〜0.45μmのフィルターが好ましい。
(ポリカーボネート樹脂の用途)
本発明のポリカーボネート樹脂は、耐熱性、透明性、耐光性、耐候性、機械的強度に優れるため、各種射出成形分野、押出成形分野、圧縮成形分野等に適用される成形材料として工業的に有用である。
更に、本発明のポリカーボネート樹脂は、ポリエステル系エラストマーとして使用することができる。ポリエステル系エラストマーとは、主として芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと、主として脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル又は脂肪族ポリカーボネートからなるソフトセグメントから構成される共重合体である。このようなポリエステル系エラストマーにおいて、本発明のポリカーボネート樹脂をソフトセグメントの構成成分として使用すると、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステルを用いた場合に比べて、耐熱性、耐水性等の物性が優れる。また、公知のポリカーボネート樹脂と比較しても、溶融時の流動性、つまりブロー成形、押出成形に適したメルトフローレートを有し、且つ機械強度その他の物性とのバランスに優れたポリカーボネートエステルエラストマーとなり、繊維、フィルム、シートをはじめとする各種成形材料、例えば弾性糸およびブーツ、ギヤ、チューブ、パッキンなどの成形材料に好適に用いることができる。具体的には耐熱性、耐久性を要求される自動車、家電部品等などのジョイントブーツや、電線被覆材等の用途に有効に適用することが可能である。
<ポリカーボネートポリオール樹脂>
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、分子内に、下記式(13)で表される構造を含み、かつ数平均分子量が250以上1万未満、好ましくは300以上5500以下である。ポリカーボネートポリオール樹脂としてはポリカーボネートジオール樹脂が好ましい。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、上記式(1)〜(3)のジオール化合物に由来する構造単位、即ち下記式(5)〜(7)の構造を少なくとも含むことで、熱安定性に優れたポリカーボネートポリオール樹脂とすることが可能となる。
[上記式(13)中のXは、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される構造を有する。式(5)〜(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を示す。R3からR6は、それぞれ独立に任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を示す。また、R3からR6のいずれか2つ以上が、相互に結合して環を形成していてもよい。m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数である。]
以下、式(13)で表される構造を「構造(13)」と称し、Xが式(5)で表される構造である式(13)で表される構造を「構造(13−5)」と称し、Xが式(6)で表される構造である式(13)で表される構造を「構造(13−6)」と称し、Xが式(7)で表される構造である式(13)で表される構造を「構造(13−7)」と称す場合がある。
上記構造(13)、好ましくは構造(13−5)〜(13−7)は、それ自体、原料として用いる耐熱性に優れたジオール化合物によりポリカーボネートポリオール樹脂に導入されるものであり、このような構造をポリカーボネートポリオール樹脂に導入することにより、ポリカーボネートポリオール樹脂の耐熱性を高めることができる。
また、本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、主鎖として芳香族性を有する環構造を含まない構造として耐光性、耐候性に優れたものとすることができる。また、特定の芳香族性を有する環を導入することで、特異な光学特性を付与することもできる。
上記式(5)〜(7)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であり、好ましくは炭素数2〜8、さらに好ましくは2〜4であり、特に好ましくは2である。R1及びR2は、炭素数が12を超えると、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
また、これらのアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基が置換基を有する場合、本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜12の上記アルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1及びR2のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。m及びnは10を超えるとポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基である。R3〜R6の炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基及びドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基及びヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、メチルエチニル基及び1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基及びトルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;ベンジル基及びフェニルエチル基等のアラルキル基;チエニル基、ピリジル基及びフリル基等の複素環基が挙げられる。これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基等が好ましく、ポリマー自体の耐光性、耐候性の観点からアルキル基又はシクロアルキル基が特に好ましい。
また、これらの有機基が置換基を有する場合、本発明のポリカーボネート樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜30の上記有機基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1〜R4の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、そのうちの2以上、好ましくは2つまたは3つが相互に結合して環を形成していてもよく、特に、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にアセタール結合で環を形成していることが、ポリカーボネートポリオール樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
R3とR5、R4とR6がアセタール結合で環を形成している構造の例として、好ましくは、下記構造式で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点からシクロヘキシリデン基であることが特に好ましい。
上記式(6)において、R3とR4とR6とがメチン基で環を形成している場合は、熱力学的に安定なアダマンタンに類似した構造を取りうるため、本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(5)〜(7)中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all−cis−イノシトール、epi−イノシトール、allo−イノシトール、muco−イノシトール、myo−イノシトール、neo−イノシトール、chiro−D−イノシトール、chiro−L−イノシトール、scyllo−イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo−イノシトールが好ましく、イノシトール残基としてはmyo−イノシトールから誘導されるイノシトール残基であることが好ましい。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、全カーボネート繰り返し単位を100とした場合に、前記構造(13)、好ましくは前記構造(13−5)〜(13−7)を繰り返し単位として80以下含むことが好ましい。この割合が80以下であることにより、他の繰り返し単位を導入することが可能となり、光学特性などの他の特性を導入することが可能となる。この観点から、構造(13)、好ましくは前記構造(13−5)〜(13−7)の割合は70以下であることがより好ましく、60以下であることが好ましい。一方、構造(13)を導入することによる前述の効果を有効に得る上で、構造(13)、好ましくは前記構造(13−5)〜(13−7)の割合は1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、上記式(1)〜(3)のジオール化合物以外のジオール化合物(以下「その他のジオール化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよく、その他のジオール化合物としては、上述のポリカーボネート樹脂の説明において挙げた脂肪族ジオール化合物及び/または脂環式ジオール化合物が使用できる。
(ポリカーボネートポリオール樹脂の製造)
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、上述のポリカーボネート樹脂の製造において挙げられた製造方法と同様にして製造することができる。
上述の炭酸ジエステル等カーボネート化合物の使用量は、特に限定されないが、ジオール化合物の合計1モルに対するモル比率で、下限が好ましくは0.35、より好ましくは0.50、さらに好ましくは0.60であり、上限は好ましくは1.00、より好ましくは0.98、さらに好ましくは0.97である。カーボネート化合物の使用量が上記上限を超えると得られるポリカーボネートポリオール樹脂の末端基がヒドロキシ基でないものの割合が増加したり、分子量が所定の範囲とならない場合があり、前記下限未満では所定の分子量まで重合が進行しない場合がある。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂を製造する際には、通常エステル交換触媒(以下、触媒と称する場合がある)が用いられる。
触媒が過度に少ないとジオール化合物とカーボネート化合物の重縮合反応が進行しにくいため、使用する触媒量は、触媒金属換算の含有量として0.1ppm以上が好ましく、0.5ppm以上がより好ましく、さらに好ましくは1ppm以上である。
エステル交換触媒としては、一般にエステル交換能があるとされている化合物であれば制限なく用いることができ、上述したポリカーボネート樹脂の製造において用いられたものが使用できる。
エステル交換反応の際の反応温度は、実用的な反応速度が得られる温度であれば任意に採用することが出来る。通常反応温度の下限は70℃であることが好ましく、100℃であることがより好ましく、130℃であることがさらに好ましい。反応温度の上限は、通常は220℃であることが好ましく、200℃であることがより好ましく、180℃であることがさらに好ましい。反応温度の上限を前記の値とすることにより、得られるポリカーボネートポリオール樹脂が着色したり、エーテル構造が生成するなどの品質上の問題が生じるのを防ぐことができる。
さらには、ポリカーボネートポリオール樹脂を製造するエステル交換反応の全工程を通じて反応温度を180℃以下とすることが好ましく、170℃以下とすることがより好ましく、160℃以下とすることがさらに好ましい。上記全工程を通じて反応温度を180℃以下とすることにより、条件によって着色し易くなるのを防ぐことができる。
反応は常圧で行なうこともできるが、エステル交換反応は平衡反応であり、生成する軽沸成分を系外に留去することで反応を生成系に偏らせることができる。従って、通常、反応後半には、減圧条件を採用して軽沸成分を留去しながら反応することが好ましい。
または、反応の途中から徐々に圧力を下げて生成する軽沸成分を留去しながら反応させていくことも可能である。特に反応の終期において減圧度を高めて反応を行うと、副生したモノアルコール、フェノール類及び環状カーボネートなどを留去することができるので好ましい。
この際の反応終了時の反応圧力は、上限が、10kPaであることが好ましく、5kPaであることがより好ましく、1kPaであることがさらに好ましい。これら軽沸成分の留出を効果的に行うために、反応系へ、窒素、アルゴン及びヘリウムなどの不活性ガスを流通しながら該反応を行うこともできる。
エステル交換反応の際に低沸のジオール化合物やカーボネート化合物を使用する場合は、反応初期はジオール化合物やカーボネート化合物の沸点近辺で反応を行い、反応が進行するにつれて、徐々に温度を上げて、更に反応を進行させる、という方法も採用可能である。この場合、反応初期に未反応のカーボネート化合物の留去を防ぐことができるので好ましい。
さらにこれら原料の留去を防ぐ意味で、反応器に還流管をつけて、ジオール化合物とカーボネート化合物を還流させながら反応を行うことも可能であり、この場合、仕込んだ原料が失われず試剤の量比を正確に合わせることが出来るので好ましい。
重合反応は、バッチ式または連続式に行うことができるが、本発明では製品の安定性等から連続式で行うことが好ましい。使用する装置は、槽型、管型及び塔型のいずれの形式であってもよく、各種の攪拌翼を具備した公知の重合槽等を使用することができる。装置昇温中の雰囲気は特に制限はないが、製品の品質の観点から、窒素ガス等の不活性ガス中、常圧または減圧下で行われるのが好ましい。
本発明においては、ポリカーボネートポリオール生成物中のジオール化合物、カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネート、カーボネート化合物から副生するアルコール類、フェノール類及び添加した触媒などを除去する目的で、例えば、減圧蒸留、水蒸気蒸留及び薄膜蒸留などの方法で精製してもよい。中でも薄膜蒸留が効果的である。
薄膜蒸留条件としては特に制限はないが、薄膜蒸留時の温度は、上限が250℃であることが好ましく、200℃であることが好ましい。また、下限が120℃であることが好ましく、150℃であることがより好ましい。 薄膜蒸留時の温度の下限を前記の値とすることにより、軽沸成分の除去効果が十分となる。また、上限を250℃とすることにより、薄膜蒸留後に得られるポリカーボネートポリオール樹脂着色するのを防ぐことができる。
薄膜蒸留時の圧力は、上限が500Paであることが好ましく、150Paであることがより好ましく、50Paであることが更に好ましい。薄膜蒸留時の圧力を前記上限値以下とすることにより、軽沸成分の除去効果が十分に得られる。また、薄膜蒸留直前のポリカーボネートポリオール樹脂の保温の温度は、上限が250℃であることが好ましく、150℃であることがより好ましい。また、下限が80℃であることが好ましく、120℃であることがより好ましい。
薄膜蒸留直前のポリカーボネートポリオール樹脂の保温の温度を前記下限以上とすることにより、薄膜蒸留直前のポリカーボネートポリオール樹脂の流動性が低下するのを防ぐことができる。一方、上限以下とすることにより、薄膜蒸留後に得られるポリカーボネートポリオール樹脂が着色するのを防ぐことができる。
また、水溶性の不純物を除くために、水、アルカリ性水、酸性水及びキレート剤溶解溶液などで洗浄してもよい。その場合水に溶解させる化合物は任意に選択できる。
(ポリカーボネートポリオール樹脂の物性等)
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、数平均分子量が250以上1万未満、好ましくは300以上5500以下である。
より好ましくは下限が500、更に好ましくは750である。一方、上限はより好ましくは4,500、更に好ましくは3,500、特に好ましくは3,000である。
ポリカーボネートポリオール樹脂の数平均分子量が前記下限未満では、ポリウレタンとした際に柔軟性が十分に得られない場合がある。一方前記上限超過では粘度が上がり、ポリウレタン化の際のハンドリングを損なう可能性がある。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の分子量分布である重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は特に限定されないが、下限は好ましくは1.5であり、より好ましくは1.8である。上限は好ましくは3.5であり、より好ましくは3.0である。分子量分布が上記範囲を超える場合、このポリカーボネートポリオールを用いて製造したポリウレタンの物性が、低温で硬くなる、伸びが低下する等の傾向があり、分子量分布が上記範囲未満のポリカーボネートポリオールを製造しようとすると、オリゴマーを除くなどの高度な精製操作が必要になる場合がある。
前記重量平均分子量はポリスチレン換算の重量平均分子量、前記数平均分子量はポリスチレン換算の数平均分子量であり、通常ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPCと略記する場合がある)の測定により求めることができる。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の分子鎖末端は主にヒドロキシ基である。しかしながら、ジオール化合物とカーボネート化合物との反応で得られるポリカーボネートジオールの場合には、不純物として一部分子鎖末端がヒドロキシ基ではないものが存在する可能性がある。その具体例としては、分子鎖末端がアルキルオキシ基又はアリールオキシ基のものであり、多くはカーボネート化合物由来の構造である。
例えば、カーボネート化合物としてジフェニルカーボネートを使用した場合はアリールオキシ基としてフェノキシ基(PhO−)、ジメチルカーボネートを使用した場合はアルキルオキシ基としてメトキシ基(MeO−)、ジエチルカーボネートを使用した場合はエトキシ基(EtO−)、エチレンカーボネートを使用した場合はヒドロキシエトキシ基(HOCH2CH2O−)が分子鎖末端として残存する場合がある(ここで、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す)。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の分子鎖末端は、全末端数に対して、ジオール化合物に由来する末端数の合計の数の割合が、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。上記範囲にすることにより、ポリウレタンとしたときに所望の分子量とすることが容易となり、物性バランスに優れたポリウレタンの原料となることが可能となる。
又、ポリカーボネートポリオール樹脂の分子鎖末端がカーボネート化合物に由来する末端基の数の割合は、全末端数に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の水酸基価は、下限は好ましくは20mg−KOH/g、より好ましくは25mg−KOH/g、さらに好ましくは30mg−KOH/g、最も好ましくは35mg−KOH/gである。また、上限は好ましくは450mg−KOH/g、より好ましくは230mg−KOH/g、さらに好ましくは150mg−KOH/gである。水酸基価が上記下限未満では、粘度が高くなりすぎポリウレタン化の際のハンドリングが困難となる場合があり、上記上限超過ではポリウレタンとした時に柔軟性や低温特性などの物性が不足する場合がある。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂の濁度は、三菱化学株式会社製積分球式濁度計PT−200にて、10mmのセルにポリカーボネートポリオール樹脂の50%塩化メチレン溶液を入れ、予め装置に設定されているポリスチレン検量線を使用して測定された値として、2.0ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0ppm以下、特に好ましくは0.5ppm以下である。濁度が2.0ppmより大きいと、ポリカーボネートポリオール樹脂を原料として得られるポリウレタンの透明性悪化を招いて商品価値を低下させたり、機械的物性を低下させたりすることがある。濁りは主に、触媒成分の凝集・析出、添加剤の凝集・析出、溶解度の低い環状オリゴマー等の生成が原因と考えられ、濁度を2.0ppm以下にするためには、ポリカーボネートポリオール樹脂製造時の触媒、添加剤の種類や量の選択、熱履歴、重合中及び重合終了後のモノヒドロキシ化合物の濃度や未反応モノマーの濃度を総合的に制御する必要がある。例えば、触媒自体のポリカーボネートポリオール樹脂への溶解度が低いと触媒の析出が起こり易くなり、濃度が高いと析出を助長する。一方、溶解度に劣る環状オリゴマーの生成を抑制するためには、モノマーであるジオール化合物の選択や組合せも重要である。例えば、ホモポリマーの場合、環状オリゴマーが生成しやすい傾向にあるが、共重合にすることにより、安定な環状構造を取り難くなり、濁度が下がる傾向にある。また、ポリカーボネートポリオール樹脂製造時の温度が高いと、熱力学的に環状オリゴマーが生成し易くなるため、重合温度を低下させることは有効である。但し、低下させすぎると生産性に支障が出たり、過度に時間がかかって、色調の悪化を招いたり、濁度の悪化を招いたりするので好ましくない。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂のYI値は、その上限が、通常20であることが好ましく、より好ましくは10、更に好ましくは5、特に好ましくは3であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−20であることが好ましく、より好ましくは−5、更に好ましくは−1である。
YI値が20を越えると、ポリカーボネートポリオールを原料として得られるポリウレタンの色調が悪化し、商品価値を低下させたり、熱安定性が悪くなったりする恐れがある。YI値を20以下にするためには、ポリカーボネートポリオール樹脂製造時の触媒、添加剤の種類や量の選択、熱履歴、重合中及び重合終了後のモノヒドロキシ化合物の濃度や未反応モノマーの濃度を総合的に制御する必要がある。また、重合中及び重合終了後の遮光も効果的である。また、ポリカーボネートポリオールの分子量の設定やモノマーであるジオール化合物種の選定も重要である。特にアルコール性ヒドロキシ基を有する脂肪族ジオール化合物を原料とするポリカーボネートポリオール樹脂は、ポリウレタンに加工した場合に、柔軟性や耐水性、耐光性等の種々の優れた性能を示すが、芳香族ジオール化合物を原料とした場合より熱履歴や触媒による着色が著しくなる傾向にある。
(ポリカーボネートポリオール樹脂組成物)
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS及びASなどの合成樹脂、ポリ乳酸及びポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂並びにゴムなどの1種または2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
更に、本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、これらのその他の樹脂成分と共に樹脂組成物に通常用いられる核剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤、衝撃改良剤、加水分解抑制剤、発泡剤、染顔料等を添加してポリカーボネートポリオール樹脂組成物とすることができる。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂を含む上記の樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形品とすることができ、耐熱性、透明性、耐光性、耐候性、及び機械的強度に優れた成形品を得ることができる。
(ポリカーボネートポリオール樹脂の用途)
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂は、ポリウレタン原料としても有用であり、耐熱性、耐候性、耐摩耗性、機械的強度、耐薬品性に優れたポリウレタンを製造することができる。また、この場合において、水系ポリウレタンエマルションや、ウレタン(メタ)アクリレートとすることも可能である。
本発明のポリカーボネートポリオール樹脂を使用したポリウレタンは、耐薬品性、低温特性、耐熱性等に優れるため、人工皮革、合成皮革、水系ポリウレタン、エラストマー、接着剤、弾性繊維、医療用材料、床材、塗料、コーティング剤、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等の原料等の、通常ポリオールが使用される用途全般において好適に使用することができる。
<ポリエステル樹脂>
本発明のポリエステル樹脂は、分子内に、下記式(14)で表される構造を含むことを特徴とするものである。
[上記式(14)中のXは、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される構造を有する。式(5)〜(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を示す。R3からR6は、それぞれ独立に任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を示す。また、R3からR6のいずれか2つ以上が、相互に結合して環を形成していてもよい。m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数である。上記式(14)中のAは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基;置換基を有していてもよい炭素数5〜20のシクロアルキレン基、シクロアルケニレン基もしくははシクロアルキニレン基;又は置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリーレン基もしくはヘテロアリーレン基を示す。]
以下、式(14)で表される構造を「構造(14)」と称し、Xが式(5)で表される構造である式(14)で表される構造を「構造(14−5)」と称し、Xが式(6)で表される構造である式(14)で表される構造を「構造(14−6)」と称し、Xが式(7)で表される構造である式(14)で表される構造を「構造(14−7)」と称す場合がある。
上記構造(14)、好ましくは構造(14−5)〜(14−7)は、それ自体、原料である耐熱性に優れたジオール化合物によりポリエステル樹脂に導入されるものであり、このような構造をポリエステル樹脂に導入することにより、ポリエステル樹脂の耐熱性を高めることができる。
また、本発明のポリエステル樹脂は、主鎖として芳香族性を有する環構造を含まない構造として耐光性、耐候性に優れたものとすることができる。また、特定の芳香族性を有する環を導入することで、特異な光学特性を付与することもできる。
上記式(5)〜(7)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であり、好ましくは炭素数2〜8、さらに好ましくは炭素数2〜4であり、特に好ましくは炭素数2である。R1及びR2は、炭素数が12を超えると、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
また、これらのアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基が置換基を有する場合、本発明のポリエステル樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜12の上記アルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1及びR2のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。m及びnは10を超えるとポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基である。R3〜R6の炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基及びドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基及びヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、メチルエチニル基及び1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基及びトルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;ベンジル基及びフェニルエチル基等のアラルキル基;チエニル基、ピリジル基及びフリル基等の複素環基が挙げられる。これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基等が好ましく、ポリマー自体の耐光性、耐候性の観点からアルキル基又はシクロアルキル基が特に好ましい。
また、これらの有機基が置換基を有する場合、本発明のポリエステル樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜30の上記有機基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基及び有機ケイ素基等が挙げられる。R1〜R4の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、そのうちの2以上、好ましくは2つまたは3つが相互に結合して環を形成していてもよく、特に、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にアセタール結合で環を形成していることが、ポリエステル樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
R3とR5、R4とR6がアセタール結合で環を形成している構造の例として、好ましくは、下記構造式で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点からシクロヘキシリデン基であることが特に好ましい。
上記式(5)〜(7)において、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にエチレン基で環を形成している場合には、熱力学的に安定な六員環が形成されるため、本発明のポリエステル樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(6)において、R3とR4とR6とがメチン基で環を形成している場合は、熱力学的に安定なアダマンタンに類似した構造を取りうるため、本発明のポリエステル樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(5)〜(7)中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all−cis−イノシトール、epi−イノシトール、allo−イノシトール、muco−イノシトール、myo−イノシトール、neo−イノシトール、chiro−D−イノシトール、chiro−L−イノシトール、scyllo−イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo−イノシトールが好ましく、イノシトール残基としては、myo−イノシトールから誘導されるイノシトール残基であることが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂は、全エステル繰り返し単位を100とした場合に、前記構造(14)、好ましくは前記構造(14−5)〜(14−7)を繰り返し単位として80以下含むことが好ましい。この割合が80以下であることにより、他の繰り返し単位を導入することが可能となり、光学特性などの他の特性を導入することが可能となる。この観点から、構造(14、好ましくは前記構造(14−5)〜(14−7)の割合は70以下であることがより好ましく、60以下であることが好ましい。一方、構造(14)を導入することによる前述の効果を有効に得る上で、構造(14)、好ましくは前記構造(14−5)〜(14−7)の割合は1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
(ポリエステル樹脂の製造)
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸単位及びジオール単位を有する。
ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸又はそれらの混合物、若しくは、芳香族ジカルボン酸又はそれらの混合物、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物が挙げられる。これらの中でも脂肪族ジカルボン酸を主成分とするものが好ましい。本発明でいう主成分とは、全ジカルボン酸単位に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上を示す。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,5−フランジカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、具体的には、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等が挙げられる。この内、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、ジメチルテレフタレートが好ましい。本件明細書に開示の芳香族ジカルボン酸を使用した場合にも、例えばジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールのポリエステルのように任意の芳香族ジカルボン酸を使用することにより所望の芳香族ポリエステル樹脂が製造できる。
脂肪族ジカルボン酸成分としては、脂環式カルボン酸、鎖式脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体が使用される。脂環式カルボン酸としては1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のシクロヘキサンジカルボン酸及び2,3−ノルボルネンジカルボン酸、鎖式脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の、通常、炭素数が2以上40以下の鎖式又は脂環式ジカルボン酸が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体として、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等の低級アルキルエステルや例えば無水コハク酸等の上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物も使用できる。これらの内、脂肪族ジカルボン酸としては、得られる重合体の物性の面から、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸またはこれらの混合物が好ましく、コハク酸を主成分とするものが特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸及びコハク酸のメチルエステル、またはこれらの混合物がより好ましい。
本発明のポリエステル樹脂のジオール単位は、ジオール化合物として、前記式(1)〜(3)のいずれかまたは2つ以上を組み合わせたものを用いることで得られる。
本発明のポリエステル樹脂は、上記構造(1)〜(3)以外の、他のジオール化合物に由来するジオール単位を含有していてもよい。該他のジオール化合物としては、芳香族ジオール及び/又は脂肪族ジオール等公知のジオール化合物を用いることができるが、脂肪族ジオールを使用するのが好ましい。
脂肪族ジオールとしては、2個のOH基を有する鎖式または脂環式化合物であれば特に制限はされないが、炭素数の下限値が2以上であり、上限値が通常10以下、好ましくは6以下の脂肪族ジオールが挙げられる。これらの中では、より融点の高いポリマーが得られる理由から偶数のジオール又はそれらの混合物が好ましい。脂肪族ジオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコ−ル、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。
この内、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロピレングリコ−ル及び1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましく、その中でも、エチレングリコール及び1,4−ブタンジオ−ル、及びこれらの混合物が好ましく、更には、1,4−ブタンジオ−ルが主成分とするもの、または、1,4−ブタンジオ−ルが特に好ましい。ここでいう主成分とは、上記構造(1)〜(3)以外の全ジオール化合物単位に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上を示す。
芳香族ジオールとしては、2個のOH基を有する芳香族化合物であれば、特に制限はされないが、炭素数の下限値が6以上であり、上限値が通常15以下の芳香族ジオールが挙げられる。芳香族ジオールの具体例としては、例えば、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン及びビス(p−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン等が挙げられる。本発明において、ジオール全量中、芳香族ジオールの含有量は、通常、30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
また、両末端ヒドロキシポリエーテルを上記の脂肪族ジオールと混合して使用してもよい。両末端ヒドロキシポリエーテルとしては、炭素数は下限値が通常4以上、好ましくは10以上であり、上限値が通常1000以下、好ましくは200以下、更に好ましくは100以下である。
両末端ヒドロキシポリエーテルの具体例としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール及びポリ1,6−ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合ポリエーテル等を使用することもできる。
本発明のポリエステル樹脂を製造する際には、上記ジカルボン酸成分、ジオール成分以外のその他の成分を共重合させても構わない。この場合に使用することのできるその他の共重合成分としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸及びフマル酸等のオキシカルボン酸;前記オキシカルボン酸のエステルやラクトン、オキシカルボン酸重合体等;プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの無水物等の3官能以上の多価カルボン酸及びその無水物;ジペンタエリトリトール、ペンタエリトリトールモノステアレート等のエリトリトール及びそのエステル、2,3,4−ペンタントリオール、3−メチル−1,3,5−ペンタントリオール、1,2,3−シクロヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘプタントリオール、3−ヒドロキシエチル−1,5−ペンタンジオール、2,4,6−ヘプタントリオール及びトリメチロールエタン等の3官能以上の多価アルコールなどが挙げられる。3官能以上のオキシカルボン酸、3官能以上のカルボン酸及び3官能以上のアルコールなどはこれを少量加えることにより、高粘度のポリエステル樹脂を得やすい。中でも、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸などのオキシカルボン酸が好ましく、特にはリンゴ酸が好ましく用いられる。
これらのその他の共重合成分を用いる場合、その使用量は、ポリエステル樹脂の製造に用いるジカルボン酸成分に対して好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.05モル%、好ましくは1モル%以下、より好ましくは0.5モル%以下とする。その他の共重合成分を用いることにより、上記の通り、得られるポリエステル樹脂の粘度を高めることができるが、その使用量が多過ぎるとゲル化が起こりやすくなる傾向にある。
本発明におけるポリエステル樹脂の製造方法としては、ポリエステル樹脂が生成する前の、原料仕込時、エステル化反応時、重縮合反応時のいずれかの段階で上記式(1)〜(3)のジオール化合物を添加すること以外は、従来公知の方法が使用でき、例えば、上記のジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重縮合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重縮合法でポリエステル樹脂を製造することが好ましい。
また、本発明においてポリエステル樹脂を製造する際の各反応は、回分法でも連続法でも行うことができる。
溶融重縮合法により、ポリエステル樹脂を製造する方法としては、溶融重縮合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器として、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間に凝縮器が結合されており、該凝縮器にて重縮合反応中に生成する揮発成分や未反応モノマーが回収される方法が好んで用いられる。
本発明のポリエステル樹脂の製造方法において、ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下で、ポリエステル樹脂のカルボン酸末端とアルコール末端とのエステル化反応及び/又はアルコール末端同士のエステル交換反応により生成する水やジオールを留去しながらポリエステル樹脂の重合度を高める方法、或いは、ポリエステル樹脂のカルボン酸末端からジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去させながらポリエステル樹脂の重合度を高める方法が用いられる。
以下に、脂肪族ポリエステル樹脂の回分法による製造方法及び、芳香族ポリエステル樹脂の回分法による製造方法について詳述するが、本発明の製造方法は、本発明の要旨を超えない限りこれに限定されるものではない。
(脂肪族ポリエステル樹脂の製造)
本発明における、脂肪族ポリエステル樹脂を製造する際のエステル化及び/又はエステル交換反応工程の反応条件は、以下のように設定することができる。
反応温度は、下限が通常150℃、好ましくは180℃、更に好ましくは200℃であり、上限が通常250℃、好ましくは240℃、更に好ましくは230℃である。反応温度が上記下限未満であるとエステル化反応速度が遅く反応時間を長時間必要とする傾向にある。一方、上記上限超過では反応槽内の飛散物増加による異物発生や、脂肪族ジオール成分、脂肪族ジカルボン酸成分の分解が多くなる傾向にある。また、脂肪族多価アルコール化合物が分岐の基点となり、ゲル化を引き起こしやすくなる傾向にある。
反応圧力は、下限が通常50kPa、好ましくは60kPa、更に好ましくは70kPa、上限が通常200kPa、好ましくは130kPa、更に好ましくは110kPaである。反応圧力が上記下限未満では反応槽内に飛散物が増加し反応物のヘイズが高くなり異物増加の原因となりやすく、また脂肪族ジオール成分の反応系外への留出が多くなり重縮合反応速度の低下を招きやすい傾向にある。一方、上記上限超過では脂肪族ジオール成分の脱水分解が多くなり、重縮合速度の低下を招きやすい傾向にある。
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは4時間以下である。
本発明における、脂肪族ポリエステル樹脂を製造する際の減圧重縮合反応工程の反応条件は、以下のように設定することができる。
反応温度は、下限が通常180℃、好ましくは200℃、更に好ましくは220℃であり、上限が通常270℃、好ましくは265℃、更に好ましくは260℃である。反応温度が上記下限未満であると重縮合反応速度が遅く反応時間を長時間必要とする傾向にある。また、溶融粘度が高くなりすぎて、ポリマーの抜き出しが容易でない。一方、上記上限超過では反応槽内の飛散物増加による異物発生や、脂肪族ジオール成分、脂肪族ジカルボン酸成分の分解が多くなる傾向にある。また、多価アルコール化合物が分岐の基点となり、ゲル化を引き起こしやすくなる傾向にある。
重縮合反応時の最終到達圧力は、下限が通常0.01kPa、好ましくは0.05kPa、更に好ましくは0.1kPa、上限が通常1kPa、好ましくは0.8kPa、更に好ましくは0.5kPaである。反応圧力を上記下限未満にしようとすると高価な真空装置を必要とし、経済的でない。一方、上記上限超過では重縮合速度の低下を招きやすい傾向にあり、アルコール末端を基点とする副反応が進行し、末端酸価の増加を招きやすい傾向にある。
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
エステル化及び/又はエステル交換反応工程、重縮合反応工程において、反応触媒を使用することにより反応が促進される。ただし、エステル化及び/又はエステル交換反応工程においてはエステル化反応触媒が無くても十分な反応速度を得ることができ、また、エステル化反応時にエステル化反応触媒が存在するとエステル化反応によって生じる水により触媒が反応物に不溶の析出物を生じ、得られる脂肪族ポリエステル樹脂の透明性を損なう(即ちヘイズが高くなる)ことがあり、また異物化することがあるので、反応触媒はエステル化反応中には添加使用しないことが好ましい。
重縮合反応工程においては無触媒では反応が進みにくく、触媒を用いることが好ましい。
重縮合反応触媒としては、一般には、周期表第1〜14族の金属元素のうち少なくとも1種を含む金属化合物が用いられる。この金属元素としては、具体的には、スカンジウム、イットリウム、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。その中では、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉄及びゲルマニウムが好ましく、特に、チタン、ジルコニウム、タングステン及びゲルマニウムが好ましい。
更に、脂肪族ポリエステル樹脂の熱安定性に影響を与える末端酸価を低減させるためには、上記金属元素の中では、ルイス酸性を示す周期表第3〜6族の金属元素が好ましい。具体的には、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステンであり、特に、入手のし易さからチタン、ジルコニウムが好ましく、更には反応活性の点からチタンが好ましい。
触媒としては、これらの金属元素を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩及びβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が好ましく用いられる。
触媒は、重縮合時に溶融或いは溶解した状態であると重縮合速度が高くなる理由から、重縮合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステル樹脂に溶解する化合物が好ましい。
また、重縮合は無溶媒で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させるために少量の溶媒を使用してもよい。この触媒溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ブタンジオール及びペンタンジオールなどの前述のジオール類;ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物;水ならびにそれらの混合物等が挙げられ、これらの溶媒は、触媒濃度が、通常0.0001重量%以上、99重量%以下となるように使用される。
重縮合触媒として用いられるチタン化合物としては、テトラアルキルチタネート及びその加水分解物が好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネート及びこれらの加水分解物が挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート及びブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。また、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物も用いられる。
これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート及びブチルチタネートダイマー、並びに、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物が好ましい。
重縮合触媒として用いられるジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテート、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート及びそれらの混合物が挙げられる。これらの中では、ジルコニルジアセテート、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド及びジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテート、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド及びジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステル樹脂が容易に得られる理由から好ましい。
また、重縮合触媒として用いられるゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウム等の有機ゲルマニウム化合物挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びム及びテトラブトキシゲルマニウム等が好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
また、本発明では、上記重縮合触媒以外に、アルカリ土類金属化合物、酸性リン酸エステル化合物のような助触媒を使用することができる。
アルカリ土類金属化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの各種化合物が挙げられるが、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、マグネシウム及びカルシウムの化合物が好ましく、中でも、触媒効果に優れるマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド及び燐酸水素マグネシウム等が挙げられ、これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。これらのアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
酸性リン酸エステル化合物としては、下記一般式(i)及び/又は(ii)で表される少なくとも1個のヒドロキシ基を有するリン酸のエステル構造を有するものが好ましく用いられる。
(上記式中、R、R’、R”は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基、シクロヘキシル基、アリール基又は2−ヒドロキシエチル基を表し、式(i)において、RとR’は同一であっても異なっていてもよい。)
このような酸性リン酸エステル化合物の具体例としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート及びオクチルアシッドホスフェート等が挙げられ、中でもエチルアシッドホスフェート及びブチルアシッドホスフェートが好ましい。これらの酸性リン酸エステル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、酸性リン酸エステル化合物には、上記の一般式(i)で表されるようなジエステル体と、上記の一般式(ii)で表されるようなモノエステル体とがあるが、高い触媒活性を示す触媒が得られる理由から、モノエステル体、又は、モノエステル体とジエステル体の混合物を用いるのが好ましい。モノエステル体とジエステル体の混合重量比(モノエステル体:ジエステル体)は、20〜80:80〜20が好ましく、更に好ましくは、30〜70:70〜30、特に好ましくは、40〜60:60〜40である。
重縮合触媒としてこれらの金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成する脂肪族ポリエステル樹脂に対する金属量として、下限が通常0.1wtppm以上、好ましくは0.5wtppm以上、より好ましくは1wtppm以上、更に好ましくは5wtppm以上、特に好ましくは10wtppm以上であり、上限が通常10000wtppm以下、好ましくは1000wtppm以下、より好ましくは500wtppm以下、更に好ましくは200wtppm以下、特に好ましくは150wtppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、ポリマー抜き出し時の末端酸価の上昇が大きく、ポリエステル樹脂の熱安定性や耐加水分解性が低下する傾向にある。逆に少なすぎると重縮合活性が低くなり、製造中にポリエステル樹脂の熱分解が誘発され、実用上有用な物性を示すポリエステル樹脂が得られにくくなる傾向にある。
重縮合触媒の反応系への添加時期は、重縮合反応工程以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、未反応ジカルボン酸や水が多く存在又は発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合があるため、エステル化反応工程以後に添加するのが好ましい。
(脂肪族ポリエステル樹脂の物性等)
本発明で製造される脂肪族ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/c)の値は、重縮合時間、重縮合温度又は重縮合圧力等で制御することができる。還元粘度は、ポリエステル樹脂の実用上十分な力学特性が得られる理由から、下限が通常1.6dl/g以上、好ましくは2.0dl/g以上、より好ましくは2.2dl/g以上、特に好ましくは2.3dl/g以上である。また、ポリエステル樹脂の重縮合反応後の抜き出し易さ及び成形のし易さ等の操作性の観点から、上限が通常6.0dl/g以下であり、好ましくは5.0dl/g以下、より好ましくは4.0dl/g以下である。
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂は、色調が良好な特徴を備えている。色調の指標であるYI値は、重縮合温度、触媒量又はトリオール成分の添加量等で制御することができ、−5.0〜10.0であることが好ましく、上限は更に好ましくは6以下である。YI値が上記上限超過では成形品にしたとき黄色味があり好ましくないことがある。
(脂肪族ポリエステル樹脂組成物)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂の製造工程の任意の段階又は得られる脂肪族ポリエステル樹脂には、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤及び紫外線吸収剤等を添加してもよい。
また、脂肪族ポリエステル樹脂の成形時には、上記の各種の添加剤の他に、ガラス繊維、炭素繊維、チタンウィスカー、マイカ、タルク、CaCO3、TiO2又はシリカ等の強化剤や増量剤を添加して成形することもできる。
(芳香族ポリエステル樹脂の製造)
本発明における、芳香族ポリエステルを製造する際のエステル化反化及び/又はエステル交換反応条件や重縮合反応条件は反応を進行させることが出来る限り任意であるが、ポリエチレンテレフタレート共重合体を例にすると以下のように設定することができる。
エステル化反化及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃、好ましくは180℃、更に好ましくは200℃であり、上限が通常270℃、好ましくは260℃、更に好ましくは250℃である。反応温度が上記下限未満であるとエステル化反化及び/又はエステル交換反応速度が遅く反応時間を長時間必要とする傾向にある。一方、上記上限超過では反応槽内の飛散物増加による異物発生や、原料であるエチレングリコール及びテレフタル酸の分解量が多くなる傾向にある。
エステル化反化及び/又はエステル交換反応の反応圧力は、下限が通常50kPa、好ましくは60kPa、更に好ましくは70kPa、上限が通常200kPa、好ましくは130kPa、更に好ましくは110kPaである。反応圧力が上記下限未満では反応槽内に飛散物が増加し反応物のヘーズが高くなり異物増加の原因となりやすく、またエチレングリコールの反応系外への留出が多くなり反応速度の低下を招きやすい傾向にある。一方、上記上限超過ではエチレングリコールの脱水分解が多くなり、重縮合速度の低下を招きやすい傾向にある。
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは4時間以下である。
減圧重縮合反応工程の反応温度は、下限が通常260℃、好ましくは265℃、更に好ましくは270℃であり、上限が通常290℃、好ましくは285℃、更に好ましくは280℃である。反応温度が上記下限未満であると重縮合反応速度が遅く反応時間を長時間必要とする傾向にある。また、溶融粘度が高くなりすぎて、ポリマーの抜き出しが容易でない傾向にある。一方、上記上限超過では反応槽内の飛散物増加による異物発生や、エチレングリコール、テレフタル酸の分解が多くなる傾向にある。
重縮合反応時の最終到達圧力は、下限が通常0.01kPa、好ましくは0.05kPa、更に好ましくは0.1kPa、上限が通常1kPa、好ましくは0.8kPa、更に好ましくは0.5kPaである。反応圧力を上記下限未満にしようとすると高価な真空装置を必要とし、経済的でない。一方、上記上限超過では重縮合速度の低下を招きやすい傾向にあり、アルコール末端を基点とする副反応が進行し、末端酸価の増加を招きやすい傾向にある。
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは4時間以下である。
エステル化及び/又はエステル交換反応工程、重縮合反応工程においては、触媒を使用することにより反応が促進される。ただし、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を原料に用いる場合は、エステル化においてはエステル化反応触媒が無くても十分な反応速度を得ることができる傾向にある。 一方、テレフタル酸ジメチルエステルなどの、ジカルボン酸ジエステルを用いる場合は、Ca、Mgなどのアルカリ土類金属やMn、Znなどの遷移金属類をエステル交換触媒として使用するのが好ましい。
重縮合反応工程においては無触媒では反応が進みにくく、触媒を用いることが好ましい。重縮合反応触媒としては、一般には、周期表第1〜14族の金属元素のうち少なくとも1種を含む金属化合物が用いられる。触媒の金属元素としては、具体的には、スカンジウム、イットリウム、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。その中では、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉄及びゲルマニウムが好ましく、特に、チタン、アンチモン、ジルコニウム、タングステン及びゲルマニウムが好ましい。
また、本発明では、上記重縮合触媒以外に、アルカリ土類金属化合物及びリン酸化合物のような助触媒を使用することができる。
アルカリ土類金属化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの各種化合物が挙げられるが、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウムの化合物が好ましく、中でも、触媒効果に優れるマグネシウム又はリチウム化合物が好ましく、特にはマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド及び燐酸水素マグネシウム等が挙げられ、これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
リン化合物の具体例としては、正リン酸、ポリリン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート及びトリエチレングリコールアシッドホスフェート等があるが、中でも正リン酸が好ましい。
重縮合触媒の具体例としては、脂肪族ポリエステル樹脂の製造法の説明で例示した重縮合触媒の金属化合物が挙げられる。
重縮合触媒としてこれらの金属化合物を用いる場合の触媒添加量は生成するポリエチレンテレフタレート共重合体に対する金属量として、下限が通常1wtppm以上、好ましくは5wtppm以上、上限が通常1000wtppm以下、好ましくは500wtppm以下、より好ましくは300wtppm以下、更に好ましくは200wtppm以下、特に好ましくは150wtppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、ポリマー抜き出し時の末端酸価の上昇が大きく、ポリエチレンテレフタレート共重合体の熱安定性や耐加水分解性が低下する傾向にある。逆に少なすぎると重縮合活性が低くなり、製造中にポリエチレンテレフタレート共重合体の熱分解が誘発され、実用上有用な物性を示すポリエチレンテレフタレート共重合体が得られにくくなる傾向にある。
触媒の反応系への添加時期は、重縮合反応工程以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、未反応のテレフタル酸や水が多く存在、もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合があるため、エステル化反応工程以後に添加するのが好ましい。
また、ポリブチレンテレフタレート共重合体を例にすると、エステル化反化及び/又はエステル交換反応条件及び重縮合反応条件は以下のように設定することができる。
エステル化反化及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常180℃、好ましくは200℃、更に好ましくは210℃であり、上限が通常260℃、好ましくは245℃、更に好ましくは235℃である。反応温度が上記下限未満であるとエステル化反化及び/又はエステル交換反応速度が遅く反応時間を長時間必要とする傾向にある。一方、上記上限超過では、原料である1,4−ブタンジオールの熱分解によるテトラヒドロフランの発生量が増加したり、反応槽内の飛散物増加による異物発生や傾向にある。
エステル化反化及び/又はエステル交換反応の反応圧力は、下限が通常10kPa、好ましくは13kPa、更に好ましくは50kPa、特に好ましくは60kPaであり、上限が通常133kPa、好ましくは101kPa、更に好ましくは90kPa、特に好ましくは80kPaである。
反応圧力が上記下限未満では反応槽内に飛散物が増加し反応物のヘーズが高くなり異物増加の原因となりやすい傾向にあり、また、1,4−ブタンジオールの反応系外への留出が多くなり重縮合反応速度の低下を招きやすい傾向にある。一方、上記上限超過では1,4−ブタンジオールの熱分解によるテトラヒドロフランの発生量が増加し、経済的に不利となる傾向にある。
反応時間は、通常0.5〜10時間であり、好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは、2〜6時間である。
減圧重縮合反応工程の反応温度は、下限が通常210℃、好ましくは225℃、更に好ましくは230℃であり、上限が通常280℃、好ましくは265℃、更に好ましくは255℃である。反応温度が上記下限未満であると重縮合反応速度が遅く反応時間を長時間必要とする傾向にある。また、溶融粘度が高くなりすぎて、ポリマーの抜き出しが困難となる場合がある。一方、上記上限超過では反応槽内の飛散物増加による異物発生が増加したり、樹脂の着色やBack−Biting反応による副反応が進行して末端酸価の増加を招きやすい傾向にある。また、1,4−ブタンジオール以外の多価アルコール化合物を加えた場合、種類によっては、それが分岐の基点となり、ゲル化を引き起こしやすくなる傾向にある。
重縮合反応時の最終到達圧力は、下限が通常0.01kPa、好ましくは0.05kPa、更に好ましくは0.1kPa、上限が通常1kPa、好ましくは0.8kPa、更に好ましくは0.5kPaである。反応圧力を上記下限未満にしようとすると高価な真空装置を必要とし、経済的でない傾向にある。一方、上記上限超過では重縮合速度の低下を招きやすく、Back−Biting反応による副反応が進行して、末端酸価の増加を招きやすい傾向にある。
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは5時間以下である。
エステル化及び/又はエステル交換反応工程、重縮合反応工程において、触媒を使用することにより反応が促進される。触媒としては、チタン触媒が好ましく用いられる。
本発明における、チタン触媒の具体例としては、酸化チタン及び四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、その中ではテトラブチルチタネートが好ましい。
また、キレート配位子を持つチタン化合物も用いることができる。例えば、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、チタントリイソプロポキシ(トリエタノールアミネート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)及びチタントリブトキシ(トリエタノールアミネート)チタンジブトキシビス(トリエタノールアミネート)などが挙げられる。中でも、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンラクテート及びチタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)が特に好ましい。
チタン触媒の存在下にエステル化反化及び/又はエステル交換反応を行った場合、エステル化反化及び/又はエステル交換反応後の重縮合反応前又は重縮合反応中に触媒を更に添加することも可能である。
このような場合も、最終的に得られるポリブチレンテレフタレート共重合体中のチタン含有量の下限は、チタン原子換算量として通常10wtppm以上、好ましくは15wtppm以上、更に好ましくは20wtppm以上、特に好ましくは25wtppm以上、最も好ましくは30wtppm以上で、上限は、通常150wtppm以下、好ましくは100wtppm以下、更に好ましくは80wtppm以下、特に好ましくは60wtppm以下、最も好ましくは50wtppm以下である。チタン含有量が上記上限を超えると、得られるポリブチレンテレフタレート共重合体の色調、耐加水分解性が悪化する傾向があり、また、チタン触媒の失活物由来の異物が増加する傾向があり、上記下限より少ないと、反応性が低下し、エステル化反化及び/又はエステル交換反応及び、重縮合時間が遅延化する傾向がある。
ポリブチレンテレフタレート共重合体の製造時には、チタン触媒の他に、それ自体既知の触媒、例えばスズ触媒等を併用してもよい。スズ触媒としては、スズ化合物が挙げられ、その具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸及びブチルスタンノン酸等が挙げられる。
ただし、スズはポリブチレンテレフタレート共重合体の色調を悪化させるため、その添加量は得られるポリブチレンテレフタレート共重合体中のスズ原子換算量として、通常200wtppm以下、好ましくは100wtppm以下、更に好ましくは10wtppm以下であり、中でも添加しないことが最も好ましい。
また、本発明において、チタン触媒の他に、金属原子として周期表第1族及び2族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物を添加することができる。
この場合、得られるポリブチレンテレフタレート共重合体中の周期表第1族及び2族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物量は、当該金属原子換算量として、下限は通常0.1wtppm以上、好ましくは0.5wtppm以上、更に好ましくは1wtppm以上、特に好ましくは3wtppm以上である。上限は通常100wtppm以下、好ましくは60wtppm以下、更に好ましくは40wtppm以下、特に好ましくは30wtppm以下である。これら金属の含有量が上記上限を超えると、重縮合反応が進むにつれて重縮合反応速度が低下する傾向となり、得られるポリブチレンテレフタレート共重合体の色調や耐加水分解性が悪化する場合がある。一方、上記下限より少ないと、効果が出難くなる傾向がある。なお、上記の値は金属種が複数含まれている場合にはその合計量を指す。
上記の周期表第1族金属の化合物の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムの各種化合物が挙げられる。周期表第2族金属の化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの各種化合物が挙げられる。中でも、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムの化合物が好ましく、触媒効果に優れるマグネシウム又はリチウムの化合物が更に好ましく、マグネシウムの化合物が特に好ましい。マグネシウムの化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド及び燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。
周期表第1族及び2族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属の反応系への添加時期は、重縮合反応工程以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、未反応テレフタル酸が多く存在している状況下で該金属成分が共存すると、析出物を形成して、異物の原因となり製品の品質を損なう場合があるため、エステル化反化及び/又はエステル交換反応工程の後に添加するのが好ましい。
(芳香族ポリエステル樹脂の物性等)
本発明で製造される芳香族ポリエステル樹脂の固有粘度(IV, Inherent Viscosity)(dl/g)は、重縮合時間、重縮合温度及び重縮合圧力等で制御することができる。また、固相重合により更に固有粘度を上昇させることができる。芳香族ポリエステル樹脂の固有粘度は、ポリエステル樹脂の実用上十分な力学特性が得られる理由から、ポリエチレンテレフタレート共重合体の場合、下限が通常0.40dl/g以上、好ましくは0.45dl/g以上、より好ましくは0.50dl/g以上、特に好ましくは0.55dl/g以上である。また、ポリエステル樹脂の重縮合反応後の抜き出し易さ、ならびに成形のし易さ等の操作性の観点から、上限が通常1.20dl/g以下であり、好ましくは1.00dl/g以下、より好ましくは0.85dl/g以下、特に好ましくは0.75dl/g以下である。一方、ポリブチレンテレフタレート共重合体の場合、下限が通常0.50dL/g以上、好ましくは0.55dl/g以上、より好ましくは0.60dl/g以上、特に好ましくは0.65dl/g以上である。また、ポリエステル樹脂の重縮合反応後の抜き出し易さ、ならびに成形のし易さ等の操作性の観点から、上限が通常1.80dl/g以下であり、好ましくは1.50dl/g以下、より好ましくは1.10dl/g以下、特に好ましくは0.90dl/g以下である。
また、本発明で得られるポリエチレンテレフタレート共重合体は、メルトボリュームレイト(MVR)(cm3/10min)が本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは30cm3/10min程度である。このメルトボリュームレイトは、トリオール成分の添加量等で制御することができ、ポリエチレンテレフタレート共重合体の重合度にもよるが、上限が通常100cm3/10min以下、好ましくは80cm3/10min以下、より好ましくは60cm3/10min以下、特に好ましくは50cm3/10min以下で、下限が通常15cm3/10min以上、好ましくは20cm3/10min、より好ましくは25cm3/10min、特に好ましくは30cm3/10min以上である。メルトボリュームレイトが上記上限よりも大きいと、溶融樹脂の粘度が大幅に低下する場合があり、成形時の溶融張力が不足し、成形方法または成形温度等の成形条件によっては、成形体を得ることができなくなる可能性がある。一方、メルトボリュームレイトが上記下限よりも小さいと、樹脂組成物の粘度が非常に高くなる場合があり、成形加工の際に押出機に負荷がかかりすぎる傾向にあり、せん断発熱により樹脂の劣化が生じる等の理由から、安定的に成形体が得られない場合がある。
また、本発明で得られるポリブチレンテレフタレート共重合体は、せん断速度6080/secにおける溶融粘度を、トリオール成分の添加量等で制御することができ、せん断速度6080/secにおけるポリブチレンテレフタレート共重合体の溶融粘度は、ポリブチレンテレフタレート共重合体の重合度にもよるが、上限が通常100Pa/sec以下、好ましくは80Pa/sec以下、より好ましくは60Pa/sec以下、特に好ましくは40Pa/sec以下で、下限が通常1Pa/sec以上、好ましくは3Pa/sec以上、より好ましくは5Pa/sec以上、特に好ましくは10Pa/sec以上である。せん断速度6080/secにおける溶融粘度が上記上限よりも大きいと、樹脂組成物の粘度が非常に高くなる場合があり、成形加工の際に押出機に負荷がかかりすぎ、せん断発熱により樹脂の劣化が生じる等の理由から、安定的に成形体が得られない可能性がある。一方、溶融粘度が上記下限よりも小さいと、成形時の溶融張力が不足し、成形方法、成形温度等の成形条件によっては、成形体を得ることができなくなる可能性がある。
(芳香族ポリエステル樹脂組成物)
芳香族ポリエステル樹脂の製造工程の任意の段階又は得られる芳香族ポリエステル樹脂には、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤及び紫外線吸収剤等を添加してもよい。
また、芳香族ポリエステル樹脂の成形時には、上記の各種の添加剤の他に、ガラス繊維、炭素繊維、チタンウィスカー、マイカ、タルク、CaCO3、TiO2及びシリカ等の強化剤や増量剤を添加して成形することもできる。
(ポリエステル樹脂の用途)
本発明のポリエステル樹脂は、耐熱性、色調に優れ、更に耐加水分解性や生分解性にも優れ、しかも安価に製造できるので、各種のフィルム用途や射出成形品の用途に適している。
具体的な用途としては、射出成形品(例えば、生鮮食品のトレーやファーストフードの容器、野外レジャー製品、電気電子部品など)、押出成形品(フィルム、シート、釣り糸、漁網、植生ネット、保水シートなど)、中空成形品(ボトル等)等が挙げられ、更に農業用のフィルム、コーティング資材、肥料用コーティング材、ラミネートフィルム、板、延伸シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポスト袋、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、ロープ、結束材、手術糸、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材フィルム、合成紙、紙ラミネート製品などに利用可能である。
<ポリエステルポリオール樹脂>
本発明のポリエステルポリオール樹脂は、分子内に、下記式(15)で表される構造を含み、かつ数平均分子量が250以上1万未満、好ましくは500以上5000以下である。
[上記式(15)中のXは、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される構造を有する。式(5)〜(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を示す。R3からR6は、それぞれ独立に任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を示す。また、R3からR6のいずれか2つ以上が、相互に結合して環を形成していてもよい。m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数である。上記式(15)中のAは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基;置換基を有していてもよい炭素数5〜20のシクロアルキレン基、シクロアルケニレン基又はシクロアルキニレン基;又は置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリーレン基もしくはヘテロアリーレン基を示す。]
以下、式(15)で表される構造を「構造(15)」と称し、Xが式(5)で表される構造である式(15)で表される構造を「構造(15−5)」と称し、Xが式(6)で表される構造である式(15)で表される構造を「構造(15−6)」と称し、Xが式(7)で表される構造である式(15)で表される構造を「構造(15−7)」と称す場合がある。
上記構造(15)、好ましくは構造(15−5)〜(15−7)は、それ自体、原料である耐熱性に優れたジオール化合物によりポリエステルポリオール樹脂に導入されるものであり、このような構造をポリエステルポリオール樹脂に導入することにより、ポリエステルポリオール樹脂の耐熱性を高めることができる。
また、本発明のポリエステルポリオール樹脂は、主鎖として芳香族性を有する環構造を含まない構造として耐光性、耐候性に優れたものとすることができる。また、特定の芳香族性を有する環を導入することで、特異な光学特性を付与することもできる。
上記式(5)〜(7)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であり、好ましくは炭素数2〜8、さらに好ましくは炭素数2〜4であり、特に好ましくは炭素数2である。R1及びR2は、炭素数が12を超えると、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
また、これらのアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基が置換基を有する場合、本発明のポリエステルポリオール樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜12の上記アルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1及びR2のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。m及びnは10を超えるとポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基である。R3〜R6の炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基、ドデキル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基、エチニル基、メチルエチニル基、1−プロピオニル基等のアルキニル基、フェニル基、ナフチル基、トルイル基等のアリール基、メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、チエニル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基が挙げられる。これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が好ましく、ポリマー自体の耐光性、耐候性の観点からアルキル基、シクロアルキル基が特に好ましい。
また、これらの有機基が置換基を有する場合、本発明のポリエステルポリオール樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜30の上記有機基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1〜R4の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、そのうちの2以上、好ましくは2つまたは3つが相互に結合して環を形成していてもよく、特に、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にアセタール結合で環を形成していることが、ポリエステルポリオール樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
R3とR5、R4とR6がアセタール結合で環を形成している構造の例として、好ましくは、下記構造式で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点からシクロヘキシリデン基であることが特に好ましい。
上記式(5)〜(7)において、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にエチレン基で環を形成している場合には、熱力学的に安定な六員環が形成されるため、本発明のポリエステルポリオール樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(6)において、R3とR4とR6とがメチン基で環を形成している場合は、熱力学的に安定なアダマンタンに類似した構造を取りうるため、本発明のポリエステルポリオール樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(5)〜(7)中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all−cis−イノシトール、epi−イノシトール、allo−イノシトール、muco−イノシトール、myo−イノシトール、neo−イノシトール、chiro−D−イノシトール、chiro−L−イノシトール、scyllo−イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo−イノシトールが好ましく、イノシトール残基としては、myo−イノシトールから誘導されるイノシトール残基であることが好ましい。
本発明のポリエステルポリオール樹脂は、全エステル繰り返し単位を100とした場合に、前記構造(15)、好ましくは前記構造(15−5)〜(15−7)を繰り返し単位として80以下含むことが好ましい。この割合が80以下であることにより、他の繰り返し単位を導入することが可能となり、光学特性などの他の特性を導入することが可能となる。この観点から、構造(15、好ましくは前記構造(15−5)〜(15−7)の割合は70以下であることがより好ましく、60以下であることが好ましい。一方、構造(15)を導入することによる前述の効果を有効に得る上で、構造(15)、好ましくは前記構造(15−5)〜(15−7)の割合は1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
(ポリエステルポリオール樹脂の製造)
本発明のポリエステルポリオール樹脂は、上述のポリエステル樹脂の製造において挙げられた製造方法と同様にして製造することができ、具体的には、ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下「ジカルボン酸成分」と称す場合がある。)とジオール化合物とをエステル化及び/又はエステル交換反応させることにより製造される。
本発明のポリエステルポリオールの製造方法においては、このジオール化合物として、上記式(1)〜(3)のジオール化合物を用いる。
本発明に用いるジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸又はそれらの混合物、若しくは、芳香族ジカルボン酸又はそれらの混合物、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物が挙げられる。これらの中でも脂肪族ジカルボン酸を主成分とするものが好ましい。本発明でいう主成分とは、全ジカルボン酸単位に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上を示す。
脂肪族カルボン酸及び芳香族ジカルボン酸としては、上述のポリエステル樹脂の説明において挙げられたものが使用できる。
本発明で使用されるジカルボン酸成分は、通常、着色の少ないものであることが好ましい。本発明で使用されるジカルボン酸成分の黄色度(YI値)は、その上限が、通常50であることが好ましく、より好ましくは20、更に好ましくは10、より更に好ましくは6、特に好ましくは4であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−20であることが好ましく、より好ましくは−10、さらに好ましくは−5、特に好ましくは−3、最も好ましくは−1である。
YI値が50以下であるジカルボン酸成分を使用することにより、得られるポリウレタン樹脂の着色を抑えることができる。一方、YI値が−20以上であるジカルボン酸成分を使用することにより、その製造に極めて高額の設備投資を要しない他、多大な製造時間を要しないなど経済的に有利である。なお、本明細書におけるYI値は、前述の通りJIS−K7105に基づく方法で測定される値である。
本発明のポリエステルポリオール樹脂の製造において用いられる、ジオール化合物としては、上記式(1)〜(3)のジオール化合物と他のジオール化合物を混合して用いてもよく、そのようなジオール化合物としては、芳香族ジオール化合物及び脂肪族ジオール化合物が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ジオール化合物としては、これらのうち、得られるポリエステルポリオール樹脂の取扱いのし易さや物性のバランスの点で、脂肪族ジオール化合物、即ち、直鎖もしくは分岐の鎖式又は脂環式ジオール化合物が好ましく、その炭素数の下限値は好ましくは2であり、上限値が好ましくは10、より好ましくは6のものが挙げられる。
脂肪族ジオール化合物の具体例としては、上述のポリエステル樹脂の説明において挙げられたものが使用できる。
芳香族ジオール化合物としては、2個のヒドロキシ基を有する芳香族ジオール化合物であれば、特に制限はされないが、炭素数の下限値が好ましくは6であり、上限値が好ましくは15の芳香族ジオール化合物が挙げられる。
芳香族ジオール化合物の具体例としては、上述のポリエステル樹脂の説明において挙げられたものが使用できる。
本発明において、ポリエステルポリオール樹脂の製造に用いる全ジオール化合物中、芳香族ジオール化合物の含有量は、通常30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
また、他のジオール化合物としては、両末端ヒドロキシポリエーテルを用いることもできる。両末端ヒドロキシポリエーテルの炭素数の下限値が通常4であることが好ましく、より好ましくは10であり、上限値が通常1000であることが好ましく、より好ましくは200、更に好ましくは100である。両末端ヒドロキシポリエーテルの具体例としては、上述のポリエステル樹脂の説明において挙げられたものが使用できる。
これらの両末端ヒドロキシポリエーテルの使用量は、得られるポリエステルポリオール樹脂中の両末端ヒドロキシポリエーテル由来の構成単位の含有量として、通常90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
(ポリエステルポリオール樹脂の製造)
本発明のポリエステルポリオール樹脂は、前記ジカルボン酸成分とジオール化合物とをエステル化及び/又はエステル交換反応させることにより製造される。
ポリエステルポリオール樹脂を製造する際に用いるジオール化合物の使用量は、ジカルボン酸成分のモル数に対し、所望の分子量のポリエステルポリオール樹脂となるに必要なジオール化合物量に実質的に等モルであるが、一般には、エステル化及び/又はエステル交換反応中のジオール化合物の留出があることから、0.1〜20モル%過剰に用いることが好ましい。
また、エステル化及び/又はエステル交換反応は、エステル化触媒の存在下に行うのが好ましい。エステル化触媒の添加時期は特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、またある程度水を除去した後、あるいは減圧開始時に添加してもよい。
ジカルボン酸を原料とした場合はジカルボン酸自体が触媒作用を示すので、反応初期は触媒添加をすることなく反応させ、生成水の生成速度見合いで、反応速度が不十分になったときに原料成分とは異なるエステル化触媒を添加するのが一般的である。このとき原料成分と異なるエステル化触媒を添加する時期は、触媒無添加反応初期のエステル化反応速度に対し、成行きエステル化反応速度が好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下になったときとするのが、反応が制御しやすく好ましい。
エステル化触媒としては、例えば、水素原子及び炭素原子を除く周期表第1族〜第14族金属元素を含む化合物が挙げられる。具体的には、例えば、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、金属アルコキシド、有機スルホン酸塩又はβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物及びハロゲン化物等の無機化合物並びにそれらの混合物が挙げられる。
上記のエステル化触媒の中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムもしくはびカルシウムを含む金属化合物またはそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物、ジルコニウム化合物又はゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、エステル化反応時に溶融或いは溶解した状態であると反応速度が高くなる理由から、エステル化反応時に液状であるか、製造されるポリエステルポリオールに溶解する化合物が好ましい。
エステル化触媒として用いられるチタン化合物としては、例えば、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート又はこれらの混合チタネートが挙げられる。
また、好ましいチタン化合物としては、例えば、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロポキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート及びブチルチタネートダイマー等も挙げられる。
更には、好ましいチタン化合物としては、例えば、酸化チタン又はチタンと珪素とを含む複合酸化物(例えば、チタニア/シリカ複合酸化物)も挙げられる。
これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、酸化チタン又はチタニア/シリカ複合酸化物が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー又はチタニア/シリカ複合酸化物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート又はチタニア/シリカ複合酸化物が好ましい。
エステル化触媒として用いられるジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテート、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド及びジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート及びそれらの混合物が挙げられる。
更には、ジルコニウム化合物としては、酸化ジルコニウムや、ジルコニウムと珪素とを含む複合酸化物も好適に使用される。
これらの中では、ジルコニルジアセテート、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド又はびジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテート、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド又はジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが好ましい。
エステル化触媒として用いられるゲルマニウム化合物としては、具体的には、例えば、酸化ゲルマニウム及び塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物並びにテトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム又はテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
これらの金属化合物をエステル化触媒として用いる場合の触媒使用量は、生成するポリエステルポリオー樹脂ルに対する金属換算の質量濃度として、下限値が通常1ppmであることが好ましく、より好ましくは3ppmであり、上限値が通常30000ppmであることが好ましく、より好ましくは1000ppm、更に好ましくは250ppm、特に好ましくは130ppmである。使用する触媒量を30000ppm以下とすることにより、経済的に有利であるばかりでなく得られるポリエステルポリオール樹脂の熱安定性を向上することができる。また、1ppm以上とすることにより、ポリエステルポリオール製造反応時の重合活性を向上させることができる。
ジカルボン酸成分とジオール化合物とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃であることが好ましく、より好ましくは180℃、上限が通常260℃であることが好ましく、より好ましくは250℃である。反応雰囲気は、通常、窒素及び/又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであることが好ましく、常圧〜1kPaがより好ましい。反応時間は、下限が通常10分であることが好ましく、上限が通常10時間であることが好ましく、より好ましくは5時間である。
また、エステル化反応及び/又はエステル交換反応は常圧もしくは減圧で実施されるが、反応速度見合い、及び原料であるジオール化合物の沸点、共沸溶剤を共存させる場合はその沸点見合いで、減圧の時期、減圧度を調整することが好ましい。より安定した操作を行うためには、エステル化反応及び/又はエステル交換反応開始時には常圧で反応を行い、成り行きのエステル化反応及び/又はエステル交換反応速度が初期速度の1/2以下になった後、好ましい時期に減圧を開始することが好ましい。減圧開始時期は、触媒添加時期の前後のいずれでも構わない。
ポリエステルポリオール樹脂の製造に用いる反応装置としては、公知の縦型又は横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には凝縮器を結合し、該凝縮器にて重縮合反応中に生成する揮発成分又は未反応原料を回収することが好ましい。
工業的製法においては、反応をもっぱら留出成分の流出量で判断し、反応の終点を決定するが、適切な流出量は原料であるジオール化合物の沸点(流出のしやすさ)に依存する。一般的には、反応中の酸価で反応終点を決定する。また、所望の分子量にポリエステルポリオール樹脂を調整する処理(再縮合や原料であるジオール化合物を加えての解重合)を場合によっては加える。また、一般的には流出量見合いで反応終点を判断するが、反応終了後、かかる生成物の酸価を測定し、酸価が目標規格外であれば、更にエステル化反応及び/又はエステル交換反応を再実行し、生成するポリエステルポリオール樹脂の酸価を所望の酸価に調整する。
前記反応の終点とするポリエステルポリオール樹脂の酸価は1.0mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、更に好ましくは0.2mgKOH/g以下をもって終点とすることが好ましい。また、前記反応終了時の好ましい水分量は、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であり、終点時の適切な酸価と水分量を調整するため、場合によっては水と共沸し、かつ2相形成し、活性水素をもたない共沸溶剤を添加して、反応を行うこともできる。この共沸溶剤はかかる性能を有していれば特に制限はないが、ベンゼン及びトルエンなどの安価な芳香族化合物が一般的である。
このようなポリエステルポリオール樹脂の製造反応後は、そのまま保存又はウレタン化反応に供給することもできるし、添加触媒を失活させる処理を行った後、保存又はウレタン化反応に供給することもできる。添加触媒を失活させる方法に特に制限は無いが、亜リン酸トリエステル等の触媒失活添加剤を用いるのが、水処理等のポリエステルポリオール構造が壊れる懸念のある方法よりも好ましい。
(ポリエステルポリオール樹脂の物性等)
ポリエステルポリオール樹脂の数平均分子量は水酸基価換算で通常500〜5000であることが好ましく、より好ましくは700〜4000、更に好ましくは800〜3000である。ポリエステルポリオール樹脂の数平均分子量が500以上であると、このポリエステルポリオール樹脂を用いてポリウレタン樹脂を製造した際、ポリウレタン樹脂として満足する物性のものが得られる。また、5000以下であると、ポリエステルポリオール樹脂の粘度が高すぎることなく、取り扱い性が良好である。
更にこのポリエステルポリオール樹脂のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による分子量分布(Mw/Mn)は通常1.2〜4.0であることが好ましく、より好ましくは1.5〜3.5、更に好ましくは1.8〜3.0である。分子量分布を1.2以上とすることによりポリエステルポリオール樹脂製造の経済性が向上する。また4.0以下とすることにより、このポリエステルポリオール樹脂を用いて得られるポリウレタン樹脂の物性が向上する。
更にこれらのポリエステルポリオール樹脂は、ポリウレタン製造反応を無溶剤で行う場合は、40℃で液状であることが好ましく、更には40℃における粘度が15000mPa・s以下であることが好ましい。
本発明のポリエステルポリオールは常温で固体であっても液体(液状)であっても特に制限されないが、取り扱いの上では常温で液体であるのが好ましい。
本発明のポリエステルポリオール樹脂は、通常、着色の少ないポリエステルポリオール樹脂であることが好ましい。本発明のポリエステルポリオール樹脂の色調b値で表した値は、その上限が、通常1.5であることが好ましく、より好ましくは1.1、更に好ましくは0.8、特に好ましくは0.65であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−2であることが好ましく、より好ましくは−1.5、更に好ましくは−0.8である。色調b値が1.5以下であるポリエステルポリオールは、例えばこのポリエステルポリオールを原料とするポリウレタンのフィルム及びシート等の使用用途が制限されないという利点を有する。一方、色調b値が−2以上であるポリエステルポリオールは、ポリエステルポリオールを製造する製造プロセスが煩雑ではなく、極めて高額の設備投資が不要であり経済的に有利である。
(ポリエステルポリオール樹脂の用途)
本発明のポリエステルポリオール樹脂は、ポリウレタン原料としても有用であり、耐熱性、耐候性、耐摩耗性、機械的強度、耐薬品性に優れたポリウレタンを製造することができる。また、この場合において、水系ポリウレタンエマルションや、ウレタン(メタ)アクリレートとすることも可能である。
本発明のポリエステルポリオール樹脂を使用したポリウレタンは、耐薬品性、低温特性、耐熱性等に優れるため、人工皮革、合成皮革、水系ポリウレタン、エラストマー、接着剤、弾性繊維、医療用材料、床材、塗料、コーティング剤、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等の原料等の、通常ポリオールが使用される用途全般において好適に使用することができる。
<ポリウレタン樹脂>
<構造>
本発明のポリウレタン樹脂は、分子内に、下記式(16)で表される構造を含むことを特徴とするものである。
[上記式(16)中のXは、下記式(5)〜(7)のいずれかで表される構造を有する。式(5)〜(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を示す。R3からR6は、それぞれ独立に任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を示す。また、R3からR6のいずれか2つ以上が、相互に結合して環を形成していてもよい。m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数である。上記式(16)中のAは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、アルケニレン基もしくはアルキニレン基;置換基を有していてもよい炭素数5〜20のシクロアルキレン基、シクロアルケニレン基もしくはシクロアルキニレン基:又は置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリーレン基もしくはヘテロアリーレン基を示す。]
以下、式(16)で表される構造を「構造(16)」と称し、Xが式(5)で表される構造である式(16)で表される構造を「構造(16−5)」と称し、Xが式(6)で表される構造である式(16)で表される構造を「構造(16−6)」と称し、Xが式(7)で表される構造である式(16)で表される構造を「構造(16−7)」と称す場合がある。
上記構造(16)、好ましくは構造(16−5)〜(16−7)は、それ自体、原料である耐熱性に優れたジオール化合物によりポリウレタン樹脂に導入されるものであり、このような構造をポリウレタン樹脂に導入することにより、ポリウレタン樹脂の耐熱性を高めることができる。
また、本発明のポリウレタン樹脂は、主鎖として芳香族性を有する環構造を含まない構造として耐光性、耐候性に優れたものとすることができる。また、特定の芳香族性を有する環を導入することで、特異な光学特性を付与することもできる。
上記式(5)〜(7)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であり、好ましくは炭素数2〜8、さらに好ましくは2〜4であり、特に好ましくは2である。R1及びR2は、炭素数が12を超えると、ポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
また、これらのアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基が置換基を有する場合、本発明のポリウレタン樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜12の上記アルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基及び有機ケイ素基等が挙げられる。R1及びR2のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。m及びnは10を超えるとポリマーの機械的強度が低くなりすぎるため好ましくない。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基である。R3〜R6の炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基及びドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基及びヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、メチルエチニル基及び1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基及びトルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;ベンジル基及びフェニルエチル基等のアラルキル基、チエニル基、ピリジル基及びフリル基等の複素環基が挙げられる。これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基等が好ましく、ポリマー自体の耐光性、耐候性の観点からアルキル基又はシクロアルキル基が特に好ましい。
また、これらの有機基が置換基を有する場合、本発明のポリウレタン樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜30の上記有機基に加えて、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基及び有機ケイ素基等が挙げられる。R3〜R6の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。
上記式(5)〜(7)において、R3〜R6は、そのうちの2以上、好ましくは2つまたは3つが相互に結合して環を形成していてもよく、特に、R3とR5、R4とR6がそれぞれ相互にアセタール結合で環を形成していることが、ポリウレタン樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
R3とR5、R4とR6がアセタール結合で環を形成している構造の例として、好ましくは、下記構造式で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点からシクロヘキシリデン基であることが特に好ましい。
上記式(6)において、R3とR4とR6とがメチン基で環を形成している場合は、熱力学的に安定なアダマンタンに類似した構造を取りうるため、本発明のポリウレタン樹脂の耐熱性向上の観点から好ましい。
上記式(5)〜(7)中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all−cis−イノシトール、epi−イノシトール、allo−イノシトール、muco−イノシトール、myo−イノシトール、neo−イノシトール、chiro−D−イノシトール、chiro−L−イノシトール、scyllo−イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo−イノシトールが好ましく、イノシトール残基としては、myo−イノシトールから誘導されるイノシトール残基であることが好ましい。
本発明のポリウレタン樹脂は、全ウレタン繰り返し単位を100とした場合に、前記構造(15)、好ましくは前記構造(15−5)〜(15−7)を繰り返し単位として80以下含むことが好ましい。この割合が80以下であることにより、他の繰り返し単位を導入することが可能となり、光学特性などの他の特性を導入することが可能となる。この観点から、構造(15)、好ましくは前記構造(15−5)〜(15−7)の割合は70以下であることがより好ましく、60以下であることが好ましい。一方、構造(15)を導入することによる前述の効果を有効に得る上で、構造(15)、好ましくは前記構造(15−5)〜(15−7)の割合は1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
(ポリウレタン樹脂の製造)
本発明において、ポリウレタン樹脂の製造には、上述の本発明のポリエステルポリオール樹脂又はポリカーボネートポリオール樹脂の1種以上を用い、更に公知のポリオールを1種以上混合して用いてもよい。
前述のポリオールとイソシアネート化合物と、必要に応じて鎖延長剤、鎖停止剤、架橋剤等を用いて、ポリウレタンを製造することができる。
本発明のポリウレタン樹脂の製造において用いられるイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート又はトリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α′,α′−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−もしくは2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート又は1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の鎖式脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(水添TDI)、1−イソシアネート−3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート又はイソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4′−ジイソシアネート等の脂環式脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明においては、合成・人工皮革や塗料のような耐候性を必要とされる用途には、光による黄変が少ない点で鎖式脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環式脂肪族ジイソシアネートを使用することが好ましい。中でも、物性が良く入手が容易な点で1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1−イソシアネート−3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン又は4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いることが好ましい。一方、弾性繊維等、強度を必要とされる用途には、凝集力の高い芳香族ジイソシアネートを使用することが好ましく、物性が良く入手が容易な点で、特にトリレンジイソシアネート(TDI)又はジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと称することがある)を用いることが好ましい。またイソシアネート化合物のNCO基の一部をウレタン、ウレア、ビュレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリドン、アミド又はイミド等に変性したものであってもよく、更に多核体には前記以外の異性体を含有しているものも含まれる。
これらのイソシアネート化合物の使用量は、ポリオールのヒドロキシ基及び鎖延長剤のヒドロキシ基及びアミノ基の1当量に対し、通常0.1〜10当量であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.5当量、更に好ましくは0.9〜1.05当量である。
イソシアネート化合物の使用量を上記上限以下とすることにより、未反応のイソシアネート基が好ましくない反応を起こすのを防ぎ、所望の物性が得られ易い。また、イソシアネート化合物の使用量を上記下限以上とすることにより、得られるポリウレタン樹脂の分子量が十分に大きくなり、所望の性能を発現させることができる。
イソシアネート化合物は、ポリオールや鎖延長剤等、イソシアネート化合物以外のポリウレタン原料に含まれる水分と反応して一部消失するため、それを補填する量を所望のイソシアネート化合物使用量に加えても良い。具体的には、反応の際イソシアネート化合物と混合する前に、ポリオールや鎖延長剤等の水分量を測定しておき、その水分の物質量の2倍に相当するイソシアネート基を持つイソシアネート化合物を、所定の使用量に加えるものである。
イソシアネート基が水分と反応して消失する機構は、イソシアネート基が水分子との反応でアミン化合物となり、そのアミン化合物が更にイソシアネート基と反応してウレア結合を形成することにより、水1分子に対しイソシアネート基2つが消失するものである。この消失により必要とされるイソシアネート化合物が不足し、所望の物性が得られなくなる恐れがあるため、上記に記載の方法で水分量に見合う量を補填するためのイソシアネート化合物を添加することが有効である。
本発明においては、必要に応じて2個以上の活性水素を有する鎖延長剤を用いてもよい。鎖延長剤は、主として、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物又は2個以上のアミノ基を有する化合物に分類される。この中でも、ポリウレタン用途には短鎖ポリオール、具体的には2個以上のヒドロキシ基を有する化合物を、ポリウレタンウレア用途には、ポリアミン化合物、具体的には2個以上のアミノ基を有する化合物が好ましい。 また、鎖延長剤として、分子量(数平均分子量)が500以下の化合物を併用すると、ポリウレタン樹脂のゴム弾性が向上するために、物性上更に好ましい。
2個以上のヒドロキシ基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール及び1,9−ノナンジオール等の鎖式脂肪族グリコール;ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等の脂環族グリコール;、並びにキシリレングリコール及びビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香環を有するグリコール等が挙げられる。
2個以上のアミノ基を有する化合物としては、例えば、2,4−又は2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン及び4,4′−ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,3−ジアミノペンタン、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン及び1,10−デカンジアミン等の鎖式脂肪族ジアミン;、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン(水添MDA)、イソプロピリデンシクロヘキシル−4,4′−ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。
この中でも本発明において好ましいのは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,3−ジアミノペンタン又は2−メチル−1,5−ペンタンジアミンであり、特に、取扱いや保管の容易さと得られるポリウレタンの物性のバランスが優れる点において1,4−ブタンジオールが好ましい。
これらの鎖延長剤の使用量は、特に限定されないが、ポリエステルポリオール1当量に対し、通常0.1当量以上10当量以下であることが好ましい。
鎖延長剤の使用量を上記上限以下とすることにより、得られるポリウレタン(又はポリウレタンウレア)が硬くなりすぎるのを防ぎ、所望の特性が得られ、溶媒に溶け易く加工が容易である。また、上記下限以上とすることにより、得られるポリウレタン樹脂が柔らかすぎることなく、十分な強度、弾性回復性能又は弾性保持性能が得られ、高温特性を向上させることができる。
本発明において、鎖延長剤にジオール化合物を用いる場合、前記炭素原子数5又は6の環状カルボニル化合物の含有量を制御して用いることが好ましく、鎖延長剤として用いるジオール化合物中の炭素原子数5又は6の環状カルボニル化合物の含有量の上限は、通常100ppm、好ましくは50ppm、更に好ましくは12ppm、より好ましくは2ppmである。また、下限は、通常0.01ppm、好ましくは0.1ppmがよく、更に好ましくは0.2ppmであり、特に精製工程の経済性の観点からは下限が0.5ppmであることが好ましい。バイオマス資源由来のジオール化合物、特に1,4−ブタンジオール中の、該炭素原子数5又は6の環状カルボニル化合物の含有量が上記上限以下であると、ポリウレタン製造におけるその色調が好ましくなる傾向がある。一方、上記下限以上であると、バイオマス資源由来のジオール化合物の精製工程が簡便となり、経済的に有利となる。
本発明においてはまた、得られるポリウレタン樹脂の分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤を使用することもできる。これらの鎖停止剤としては、ヒドロキシ基を有する化合物及びアミノ基を有する化合物が挙げられる。具体的には、「ヒドロキシ基を有する化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びヘキサノール等の脂肪族モノヒドロキシ化合物が挙げられる。また、アミノ基を有する化合物としては、モルホリン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等の脂肪族モノアミンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明においてはまた、得られるポリウレタン樹脂の耐熱性や強度を上げる目的で、必要に応じて3個以上の活性水素基やイソシアネート基を持つ架橋剤を使用することができる。これらの架橋剤としては、トリメチロールプロパン、グリセリン及びそのイソシアネート変性物並びにポリメリックMDI等が挙げられる。
本発明において、ポリウレタン樹脂はバルクつまり無溶剤で反応させて製造しても、また非プロトン性極性溶媒の様なポリウレタン樹脂の溶解性に優れた溶媒中で反応させて製造してもよい。
以下に本発明のポリウレタン樹脂の製造方法の一例を示すが、本発明のポリウレタン樹脂の製造方法は、何ら以下の方法に限定されるものではない。
ポリウレタンの製造方法としては、例えば、一段法及び二段法が挙げられる。
(一段法)
一段法とは、ワンショット法とも呼ばれ、ポリオール、イソシアネート化合物及び鎖延長剤を一緒に仕込むことで反応を行う方法である。各化合物の使用量は、上記記載の量を使用すればよい。
ワンショット法は溶媒を用いても用いなくてもよい。溶媒を用いない場合は、イソシアネート化合物とポリオール等を低圧発泡機や高圧発泡機を使用して反応させてもよいし、高速回転混合機を使用して攪拌混合して反応させてもよい。
溶媒を用いる場合は、溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサン及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘキサン及びシクロヘキサン等の炭化水素類、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、クロルベンゼン、トリクレン及びパークレン等のハロゲン化炭化水素類、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒並びにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
これら有機溶媒の中でも、溶解性の観点から、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒の好ましい具体例を挙げると、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン及びジメチルスルホキシドが挙げられ、より好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。
ワンショット法の場合、NCO/活性水素基(ポリエステルポリオールと鎖延長剤)の反応当量比は下限が通常0.50であることが好ましく、より好ましくは0.8であり、上限が通常1.5であることが好ましく、より好ましくは1.2の範囲である。
前記反応当量比を1.5以下とすることにより、過剰のイソシアネート基が副反応を起こしてポリウレタン樹脂の物性に好ましくない影響を与えるのを防ぐことができる。また、0.50以上とすることにより、得られるポリウレタン樹脂の分子量が十分に上がり、強度又は熱安定性に問題を生じるのを防ぐことができる。
反応は、好ましくは0〜100℃の温度で行われるが、この温度は溶媒の量、使用原料の反応性、反応設備等により調整することが好ましい。反応温度が低すぎると反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低いために生産性が悪く、また高すぎると副反応やポリウレタン樹脂の分解が起こるので好ましくない。反応は、減圧下にて脱泡しながら行ってもよい。
また、反応系には必要に応じて、触媒、安定剤等を添加することもできる。
触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸及びスルホン酸等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、2,6−ジブチル−4−メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ−ト、ジ−β−ナフチルフェニレンジアミン及びトリ(ジノニルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
(二段法)
二段法は、プレポリマー法ともよばれ、あらかじめイソシアネート化合物とポリオールとを、好ましくは0.1〜10.00の反応当量比で反応させたプレポリマーを製造し、次いで該プレポリマーにイソシアネート化合物、鎖延長剤である活性水素化合物成分を加えて2段階反応させる方法である。特にポリオールに対して当量以上のイソシアネート化合物を反応させて両末端がイソシアネート基(以下、「NCO基」とも言う)プレポリマー(以下、「イソシアネート基末端プレポリマー」とも言う)を製造した後、続いて鎖延長剤である短鎖ジオール化合物又はジアミン化合物を作用させてポリウレタンを得る方法が有用である。
両末端がイソシアネート基のプレポリマーを製造した後に、プレポリマーと鎖延長剤を反応させる方法(以下、「イソシアネート基末端の二段法」とも言う)は、ポリエステルポリオールをあらかじめ1当量以上のイソシアネート化合物と反応させることにより、ポリウレタン樹脂のソフトセグメントに相当する、両末端がイソシアネート化合物で封止された中間体(プレポリマー)を調製する工程を経るものであり、プレポリマーをいったん調製した後に鎖延長剤と反応させることにより、ソフトセグメント部分の分子量を調整しやすく、ソフトセグメントとハードセグメントの相分離がしっかりとなされやすく、エラストマーとしての性能を出しやすい特徴がある。
特に鎖延長剤がジアミン化合物の場合には、ポリオールのヒドロキシ基とイソシアネート基との反応速度が大きく異なるため、プレポリマー法でポリウレタンウレア化を実施することがより好ましい。
二段法は溶媒を用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサン及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、クロルベンゼン、トリクレン及びパークレン等のハロゲン化炭化水素類、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒及びそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
本発明では、これら有機溶媒の中でも、溶解性の観点から、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒の好ましい具体例を挙げると、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン及びジメチルスルホキシドが挙げられ、より好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。
イソシアネート基末端プレポリマーを合成する場合、(1)まず溶媒を用いないで直接イソシアネート化合物とポリオールを反応させてプレポリマーを合成しそのまま使用してもよいし、(2)(1)の方法でプレポリマーを合成しその後に溶媒に溶解させて使用してもよいし、(3)溶媒を用いてイソシアネート化合物とポリオールを反応させてプレポリマーを合成してもよい。
(1)の場合には、鎖延長剤と作用させるにあたり、鎖延長剤を溶媒に溶かしたり、溶媒に同時にプレポリマー及び鎖延長剤を導入するなどの方法により、ポリウレタン樹脂を溶媒と共存する形で得ることが好ましい。
プレポリマー合成時のNCO/活性水素基(ポリオール)の反応当量比は、下限が通常0.1であることが好ましく、より好ましくは0.8であり、上限が通常10であることが好ましく、より好ましくは5、更に好ましくは3の範囲である。
鎖延長剤の使用量については特に限定されないが、プレポリマーに含まれるNCO基またはOH基の当量に対する当量比で、下限が通常0.8であることが好ましく、より好ましくは0.9であり、上限が通常2であることが好ましく、より好ましくは1.2である。この比を2以下とすることにより、過剰の鎖延長剤が副反応を起こしてポリウレタンの物性に好ましくない影響を与えるのを防ぐことができる。また、この比を0.8以上とすることにより、得られるポリウレタン樹脂の分子量が十分に上がり、強度や熱安定性に問題を生じるのを防ぐことができる。
また、反応時に一官能性の有機アミンやアルコールを共存させてもよい。
反応温度は、好ましくは0〜250℃とされるが、この温度は溶媒の量、使用原料の反応性、反応設備等により調整することが好ましい。反応温度が低すぎると反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低いために生産性が悪く、また高すぎると副反応やポリウレタン樹脂の分解が起こるので好ましくない。反応は、減圧下にて脱泡しながら行ってもよい。
また、反応系には必要に応じて、触媒及び安定剤等を添加することもできる。
触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸及びスルホン酸等が挙げられる。
ただし、鎖延長剤が短鎖脂肪族アミン等の反応性の高いものの場合は、触媒を添加せずに実施することが好ましい。
安定剤としては、例えば、2,6−ジブチル−4−メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ−ト、ジ−β−ナフチルフェニレンジアミン及びトリ(ジノニルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
(ポリウレタン樹脂の物性等)
本発明のポリウレタン樹脂の物性は、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンサクシネートアジペートのような脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸から得られるポリエステルポリオールを原料とするポリウレタン樹脂を例に説明すると、23℃における引張破断応力が5〜150MPa、破断伸度が100〜1500%、というような非常に幅広い物性特性を保有することが好ましい。
また、特定の用途を対象とした場合には、前記のような範囲の域を超えた、任意の広範囲の特性を保有するポリウレタン樹脂とすることができる。これらの特性は、使用目的に応じて、ポリウレタン樹脂の原料や添加物の種類、重合条件或いは成形条件等を変えることにより任意に調整することができる。
以下に本発明のポリウレタン樹脂が有する代表的な物性値の範囲を示す。
ポリウレタン樹脂の組成比は、ジオール単位(ジオール化合物に由来する構成単位)とジカルボン酸単位のモル比が、実質的に等しいことが好ましい。
本発明のポリウレタン樹脂は、通常、着色の少ないポリウレタン樹脂であることが好ましい。本発明のポリウレタン樹脂のYI値は、その上限が、通常20であることが好ましく、より好ましくは10、更に好ましくは5、特に好ましくは3であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−20であることが好ましく、より好ましくは−5、更に好ましくは−1である。
YI値が20以下であるポリウレタン樹脂は、フィルム及びシート等の使用用途が制限されないという利点を有する。一方、YI値が−20以上であるポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂を製造するための製造プロセスが煩雑となることが無く、極めて高額の設備投資が不要であり、経済的に有利である。
本発明のポリウレタン樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による重量平均分子量は、用途により異なるが、ポリウレタン樹脂として、通常1万〜100万であることが好ましく、より好ましくは5万〜50万、更に好ましくは10万〜40万、特に好ましくは10万〜30万である。分子量分布としてはMw/Mnが1.5〜3.5であることが好ましく、より好ましくは1.8〜2.5、更に好ましくは1.9〜2.3である。
前記分子量を100万以下とすることにより、溶液粘度が高くなり過ぎるのを防ぎ、取り扱い性が向上する。また、1万以上とすることにより、得られるポリウレタン樹脂の物性が低下し過ぎるのを防ぐことができる。分子量分布を1.5未満の場合、オリゴマーを除くなどの高度な精製操作を伴う場合があり、製造の経済性が損なわれてしまうのに加えて、得られるポリウレタン樹脂の弾性率も悪化するため好ましくない。1.5以上とするべきである。また、3.5以下とすることにより溶液粘度が高くなり過ぎるのを防ぎ、取り扱い性が向上し、また、得られるポリウレタンの弾性率が高くなり過ぎるのを防ぎ、弾性回復性が向上する。
本発明のポリウレタン樹脂を非プロトン性溶媒に溶解させた溶液(以下、「ポリウレタン溶液」ともいう。)は、ゲル化が進行しにくく、粘度の経時変化が小さいなど保存安定性が良く、また、チクソトロピー性も小さいため、フィルム及び糸等に加工するためにも都合がよい。
ポリウレタン溶液中のポリウレタンの含有量は、ポリウレタン溶液の全質量に対して、通常1〜99質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜90質量%、更に好ましくは10〜70質量%、特に好ましくは15〜50質量%である。ポリウレタン溶液中のポリウレタンの含有量を1質量%以上とすることにより、大量の溶媒を除去することが必要になることがなく、生産性を向上することができる。また、99質量%以下とすることにより、溶液の粘度を抑え、操作性又は加工性を向上することができる。
ポリウレタン溶液は、特に指定はされないが、長期にわたり保存する場合は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で保存することが好ましい。
(ポリウレタン樹脂組成物)
本発明のポリウレタン樹脂には、必要に応じて各種の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤としては、例えば、CYANOX1790(CYANAMID(株)製]、IRGANOX245及びIRGANOX1010(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製]、Sumilizer GA−80(住友化学(株)製)及び2,6−ジブチル−4−メチルフェノール(BHT)等の酸化防止剤;TINUVIN622LD及びTINUVIN765(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製)、SANOL LS−2626、LS−765(以上、三共(株)製)等の光安定剤;TINUVIN328及びTINUVIN234(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製)等の紫外線吸収剤;ジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体等のシリコン化合物、赤燐、有機リン化合物、リン及びハロゲン含有有機化合物、臭素又は塩素含有有機化合物、ポリリン酸アンンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤;二酸化チタン等の顔料;染料及びカーボンブラック等の着色剤;カルボジイミド化合物等の加水分解防止剤;ガラス短繊維、カーボンファイバー、アルミナ、タルク、グラファイト、メラミン及び白土等のフィラー;滑剤、油剤、界面活性剤、その他の無機増量剤並びに有機溶媒などが挙げられる。また、水並びに代替フロン等の発泡剤も加えてもよく、特に靴底用ポリウレタンフォームには有用である。
(ポリウレタン樹脂の用途)
本発明のポリウレタン樹脂及びそのポリウレタン樹脂溶液は、多様な特性を発現させることができ、フォーム、エラストマー、塗料、繊維、接着剤、床材、シーラント、自動車部品材料、医用材料及び人工皮革等に広く用いることができる。
<樹脂の物性等の測定方法>
(還元粘度(ηsp/c))
実施例に記載の方法で測定した。
(樹脂の末端酸価(AV))
ペレット状の樹脂を粉砕した後、熱風乾燥機にて60℃で30分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mlを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mlを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、樹脂試料を加えずに同様の操作を実施し、以下の式(I)によって末端酸価(AV)を算出した。
末端酸価(μ当量/g)=(a−b)×0.1×f/w …(I)
(ここで、aは、滴定に要した0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、bは、ブランクでの滴定に要した0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、wは樹脂試料の量(g)、fは、0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
なお、0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は以下の方法で求めた。
試験管にメタノール5mlを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜2滴加え、0.lmol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mlで変色点まで滴定し、次いで力価既知の0.1mol/lの塩酸水溶液を標準液として0.2ml採取して加え、再度、0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定し(以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行った。)、以下の式(II)によって力価(f)を算出した。
力価(f)=fHCl×QHCl/QNaOH …(II)
(ここで、fHClは、0.1mol/lの塩酸水溶液の力価、QHClは、0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μl)、QNaOHは、0.1mol/lの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μl)である。)
末端酸価が低いほうが樹脂の耐熱性、耐加水分解性が良好である。
(YI値)
YI値は、ペレット状の樹脂を内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計Color Meter ZE2000(日本電色工業(株))を使用して、JIS K7105の方法に基づいて測定した。反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
(樹脂の固有粘度(IV))
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において濃度1.0g/dlの樹脂溶液及び溶媒のみの落下秒数をそれぞれ測定し、以下の式(III)より求めた。
IV=((1+4KHηsp)0.5−1)/(2KHC) …(III)
(但し、ηsp=η/η0−1であり、ηは樹脂溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cは樹脂溶液の樹脂濃度(g/dl)、KHはハギンズの定数である。なお、KHは0.33を採用した。)
(メルトボリュームレイト(MVR))
メルトボリュームレイト(MVR)は、熱可塑性樹脂の溶融時の流動性を表す数値であり、シリンダ内で溶融した樹脂を、一定の温度と荷重条件のもと、シリンダ底部に設置された規定口径のダイスから10分間あたり押し出される樹脂量を測定して、下記式(IV)で算出される値であり、「cm3/10min」の単位で表示される。なお、樹脂試料は、160℃で4時間以上の加熱乾燥、又は、60℃で24時間以上の真空乾燥処理後、測定に供した。
また、メルト時間は6分、測定温度は260℃、荷重は2.16kg、ダイス径は2mmにて実施した。
MVR(cm3/10min)=(427×L)/t …(IV)
(ここで、Lは、所定のピストン移動距離(cm)、tは測定時間の平均値(sec)であり、「427」は、ピストンとシリンダの平均断面積0.711(cm2)×基準時間の秒数600(sec)で算出した値である。)
(樹脂の金属含有量)
樹脂の金属含有量は、湿式灰化によりポリマー中の金属を回収した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer)法により定量した。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[使用原料]
以下の実施例及び比較例でジオール化合物の製造並びに各樹脂の製造に用いた材料は次の通りである。
<ジオール化合物の製造材料>
DL−2,3:5,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−myo−イノシトール(以下、「DCMI」と表記する):参考例1に従い合成
炭酸エチレン:東京化成工業社製
ベンジル−2−ブロモエチルエーテル:東京化成工業社製
炭酸カリウム:和光純薬工業社製
水素化ナトリウム:東京化成工業社製
パラジウム炭素:エヌ・イー・ケムキャット社製
<ポリカーボネート樹脂の製造材料>
DCMI
1,4−ジヒドロキシエチル−DL−2,3:5,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−myo−イノシトール(以下、「DCMI−2EO」と表記する):実施例2で合成
1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、「CHDM」と表記する)
ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と表記する)
酢酸カルシウム1水和物
イソソルビド(以下、「ISB」と表記する)
[評価方法等]
<ジオール化合物の確認>
ガスクロマトグラフ(GC)分析とNMR分析を実施した。
(ガスクロマトグラフ(GC)分析条件)
装置:島津製作所社 GC2014
カラム:アジレント・テクノロジー製 DB−1(0.25mm×30mm)
膜厚0.25μm
昇温条件:100℃から320℃まで10℃/minで昇温、320℃で10分保持
検出器:FID
キャリアガス:He
(1H−NMR分析条件)
溶媒として、重DMSOを用い、ブルカー・バイオスピン社製「AVANCE」にて、共鳴周波数400MHz、フリップ角45°、測定温度25℃にて、1H−NMRを測定した。
<樹脂の評価>
以下の評価項目に記載された方法により、各製造例で得られたポリカーボネート樹脂の評価を行った。
(1)ガラス転移温度(Tig・Tmg)
示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー社製「EXSTAR 6220」)を用いて、試料約10mgを10℃/minの昇温速度で加熱して試料の温度を測定し、JISK7121(1987)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような線で引いた折線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度Tigを求めた。また、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる温度から、中間点ガラス転移開始温度Tmgを求めた。
(2)還元粘度
中央理化製DT−504型自動粘度計にてウベローデ型を用い、溶媒として、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの1:1混合溶媒(質量比)を用い、温度30.0℃±0.1℃で測定した。濃度は1.00g/dlになるように、精密に調整した。サンプルは110℃で攪拌しながら、30分で溶解し、冷却後測定に用いた。溶媒の通過時間t0、溶液の通過時間tから、下記式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t0(g・cm−1・sec−1)
相対粘度ηrelから、下記式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1
比粘度ηspを濃度c(g/dl)で割って、下記式より還元粘度(換算粘度)ηredを求めた。
ηred=ηsp/c
この数値が高いほど分子量が大きい。
(3)5%熱重量減少温度(Td)
実施例3、4、比較例1、2において、ネッチジャパン社製「TG−DTA」(2000SA)を用い、試料約10mgを白金製容器に載せ、窒素雰囲気下(窒素流量50ml/分)で昇温速度10℃/分で30℃から500℃まで試料の質量を測定し、5%重量が減少した際の温度(Td)を求めた。この温度が高いほど、熱分解しにくい。
(4)NMR
実施例4において、外径5mmのNMR試料管に試料約30mgを入れ、重クロロホルム(0.03v/v%テトラメチルシラン含有)0.7mlに溶解した。Bruker社製「AVANCE III 950」にて、共鳴周波数950.3MHz、フリップ角30°、測定温度25℃にて、1H−NMRスペクトル、COSYスペクトル、1H−13C HSQCスペクトル、1H−13C HMBCスペクトルを測定した。
(5)プレスフィルム作成試験
60℃で5時間以上、真空乾燥をした樹脂のペレット約2gを、外幅が縦10cm×横10cm、内幅が縦8cm×横8cm、厚さ0.2mmのアルミ製スペーサーを用い、試料の上下に、東レダウコーニングシリコーン社製シリコンエアゾール 200スプレーを用いて数秒スプレーした10cm×10cm×1mm鏡面のSUS板を敷いて、温度200〜230℃で3分間予熱し、圧力40MPaの条件で5分間加圧後、スペーサーごと取り出し、冷却してフィルムを作製した。このフィルムがSUS板をはがして取り外したときに、割れずに剥がれるか否かでプレスフィルム作成の可否を判定した。
(参考例1)DCMIの合成
ジムロートを備えた500mlの反応容器を窒素置換した後、myo−イノシトール30g(167mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と表示する)200mL、p−トルエンスルホン酸一水和物863mg、ジメトキシシクロヘキサン75mLを投入し、100℃で3時間攪拌した。40℃まで冷却した後、トリエチルアミン2.5mLを加え、反応溶媒であるDMFを減圧留去した。その後酢酸エチル250mLを加え、5%炭酸ナトリウム水溶液300mLで分液を実施した後、イオン交換水300mLで1回洗浄した。得られた有機相を減圧留去し、酢酸エチル50mL/n−ヘキサン70mLで晶析を実施し、得られた白色沈殿を濾過した。その後再び酢酸エチル50mL/n−ヘキサン70mLで晶析を実施した。得られた固体を60℃で真空乾燥5時間実施することで、目的化合物であるDCMIを9.8g(収率17.2%)得た。この化合物の1H−NMR分析を行い、目的化合物であること、ガスクロマトグラフ分析を行い、純度が99.0面積%であることを確認した。
実施例1
<ジオール化合物の製造>
温度計、ジムロート冷却管、玉栓、スターラーバーを備えた300mL四ツ口フラスコにDCMI 30.2g(88.1mmol)、炭酸エチレン31.9g(361mmol)、炭酸カリウム0.305g(2.20mmol)を加えた。ジムロート冷却管の先には三方コックを装着し、一方は窒素フローライン、もう一方はバブラーに接続させた。5分間窒素フローを続け、容器の内部を窒素置換した。オイルバスで150℃まで昇温させ、そのまま3時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物を超音波洗浄器で1700mL程度の酢酸エチルに溶解させた。酢酸エチル溶液を脱塩水で3回洗った。酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ別し、ろ液を濃縮乾固すると、淡黄色の油状物が得られた。収量42.5g(収率93%)。この淡黄色の油状物をプロトンNMRで分析した所、DCMI由来の2級アルコールのプロトンのシグナルが消失し、新たに付加物のエチレン鎖のプロトン及び1級アルコールのプロトンのシグナルが出現していたことから、炭酸エチレンの付加反応が進行したことが明らかとなった。さらに、この淡黄色の油状物をGCで分析したところ、以下の化合物1、2、3、4及び5が同じ順に1:42:36:17:4の割合で含まれていることがわかった。
なお、化合物1〜5において、DCMIの2つの水酸基にエチレンオキサイド(以下、「EO」と表記する)が付加した構造のものをDCMI−2EOと表記している。DCMI−2EOという表記から発展させて、DCMIにEOがn個付加した構造のものをDCMI−nEOと表記している。また、上記収率は、炭酸エチレン4当量が全てDCMIと反応しDCMI−4EOとなった場合の理論収量に対する割合とした。
実施例2
<ジオール化合物の製造>
(化合物2の前駆体である化合物6の製造)
容器内を窒素フローした後、窒素下で、1000ml−4つ口フラスコに、水素化ナトリウム(油性)8.41g(210mmol)、乾燥テトラヒドロフラン80mlを加え、氷−水バスで冷しながらDCMI34.00g(100mmol)をテトラヒドロフラン350mlに溶解させた溶液を滴下した。 DCMIのテトラヒドロフラン溶液滴下直後から、H2と思われる発泡が観察された。発泡がおさまった後、室温まで温度を上げ1時間攪拌した。その後、フラスコを再び氷−水バスで冷却しながらベンジル−2−ブロモエチルエーテル50.01g(233mmol)を乾燥THF50mlに溶解させた溶液を滴下した。滴下後、氷−水バスをはずし、室温で、30分攪拌した後、60〜70℃に加温し、18時間攪拌した。途中、TLCで経時変化をみて、ベンジル−2−ブロモエチルエーテルが微量になり、ほとんど消費しなくなった時点で加熱を止めた。
後処理として、窒素下で攪拌しながらフラスコを氷冷し、フラスコ内に酢酸エチル150mlを添加し、次いで、水100mlをゆっくりと滴下し、水相を分液除去後、有機相を100mlの水で2回洗浄した。有機相をエバポレーターで濃縮し、68.10gの黄色味がかった粘性液体を得た。その後、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサン/酢酸エチル=10/1〜1/1(体積比))を用いてシリカゲルカラム精製を行い、減圧下で溶媒留去し、下記の化合物6を透明粘性液体として46.36g(76.2mmol:収率 76.2%)取得した。
得られた化合物6のNMR測定結果は以下の通りである。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ1.35−1.79(20H,m),3.32(1H,dd,J=10.6,1.3Hz),3.62(1H,dd,J=10.6,4.0Hz),3.66−3.75(4H,m),3.81(1H,dd),3.88−4.01(5H,m),4.07(dd,J=5.1,1.5Hz),4.49(1H,dd,J=4.1,1.0Hz).4.59(4H,bs),7.23−7.40(10H,m)
(化合物2の製造)
500ml-3口フラスコに窒素下でDCMI−2EO−Bn(化合物6)21.95g(36.05mmol)、テトロヒドロフラン220mlを仕込み、攪拌し完溶させた後、氷−水で容器を冷却し、次いで、10%−パラジウム炭素(エヌ・イー・ケムキャット社製、PE−Type:55.25%含水)を仕込み、水素入りバルーンを用い、容器内を水素で置換後、攪拌しながら、常圧で、水素添加をおこなった。2時間後、薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」と表記する)で、原料の消失を確認した。ろ過によりパラジウム炭素を除去し、テトラヒドロフラン5mlで2回、振りかけ洗浄を実施した。得られたろ液を減圧下で、溶媒留去し、15.30gの白色固体を取得した。この白色固体を約23mlのTHFに溶解させ、氷−水バスで、冷やしながら攪拌し、約200mlのヘキサンを滴下することにより、結晶を析出させた。さらに氷−水バスでの冷却を続け1時間攪拌後、減圧ろ過し、氷冷したTHF/ヘキサン(=1/10)溶液3mlで振りかけ洗浄を実施した。その後、真空乾燥機を用い、80℃で、恒量になるまで乾燥し、白色結晶として化合物2を15.21g(33.3mmol,収率92.4%)を取得した。
得られた化合物2のNMR測定結果は以下の通りである。1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ1.35(4H,b),1.45−1.72(16H,m),3.35−3.55(10H,m),3.56−3.70(4H,m),3.72−3.86(2H,m),4.01(1H,dd, J=5.2,1.0Hz),4.46(1H,dd,J=4.9,0.7Hz),4.54(1H,t,J=5.5Hz),4.60(1H,t,J=5.4Hz)
実施例3
<ポリカーボネート樹脂の製造>
DCMI−2EO7.55g(0.0176モル)、CHDM5.93g(0.0411モル)、DPC13.08g(0.0611モル)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物3.10×10−3g(1.76×10−5モル)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌を行い、60分で220℃まで常圧で昇温して原料を溶解させた。
反応の第1段目の工程として、220℃を30分保ったのち、圧力を常圧から13.3kPaまで40分で減圧した後、13.3kPaで60分保持し、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。第2段目の工程として、加熱槽温度を240℃まで20分で上昇させ、かつ、30分で圧力を0.200kPa以下になるように制御しながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を反応容器から取り出して、ポリカーボネート樹脂を得た。
得られたポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.944dl/g、ガラス転移温度Tigは67℃、Tmgは70℃であった。窒素雰囲気下での5%熱重量減少温度(Td)は348℃であった。
また、プレスフィルムを作成することができた。
得られたポリカーボネート樹脂の製造条件及び評価結果を表1に示した。
実施例4
<ポリカーボネート樹脂の製造>
DCMI−2EO4.50g(0.0105モル)、ISB7.16g(0.0490モル)、CHDMを1.51g(0.0105モル)、DPCを15.15g(0.0707モル)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物3.70×10−3g(2.10×10−5モル)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌を行い、60分で220℃まで常圧で昇温して原料を溶解させた。
反応の第1段目の工程として、220℃を30分保ったのち、圧力を常圧から13.3kPaまで40分で減圧した後、13.3kPaで60分保持し、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。第2段目の工程として、加熱槽温度を240℃まで20分で上昇させ、かつ、30分で圧力を0.200kPa以下になるように制御しながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を反応容器から取り出して、ポリカーボネート樹脂を得た。
得られたポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.767dl/g、ガラス転移温度Tigは123℃、Tmgは127℃であった。窒素雰囲気下での5%熱重量減少温度(Td)は341℃であった。
また、プレスフィルムを作成することができた。
得られたポリカーボネート樹脂の製造条件及び評価結果を表1に示した。
また、このポリカーボネート樹脂のNMRチャートを図1に、組成の計算結果を表2に示した。
[比較例1]
DCMI6.69g(0.0197モル)、CHDM6.61g(0.0458モル)、DPC14.59g(0.0681モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物3.46×10−3g(1.97×10−5モル)を用い、実施例3と同様に反応を行った。
得られたポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.369dl/g、ガラス転移温度Tigは96℃、Tmgは106℃であった。窒素雰囲気下での5%熱重量減少温度(Td)は341℃であった。
また、プレスフィルム作成試験を行ったところ、フィルムが脆く、SUS板から引きはがす時に割れてしまったため、フィルムが作成できなかった。
比較例1の製造条件及び評価結果を表1に示す。
[比較例2]
DCMI3.81g(0.0112モル)、ISBを7.64g(0.0523モル)、CHDMを1.61g(0.0112モル)、DPCを16.63g(0.0776モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物3.95×10
−3g(2.24×10
−5モル)として実施例1と同様に反応を行った。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.469dl/g、ガラス転移温度Tigは151℃、Tmgは155℃であった。窒素雰囲気下での5%熱重量減少温度(Td)は338℃であった。
また、プレスフィルム作成試験を行ったところ、フィルムが脆く、SUS板から引きはがす時に割れてしまったため、フィルムが作成できなかった。
比較例2の製造条件及び評価結果を表1示す。