JP6819923B2 - 蒸気タービン翼の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、蒸気タービン翼の製造方法及び蒸気タービン翼に関する。本発明は、特には、耐エロージョン性と耐応力腐食割れ性を両立する蒸気タービン翼の製造方法及び蒸気タービン翼に関する。
一般に蒸気タービンでは、液滴化した蒸気が、高速で回転する蒸気タービン翼に衝突することで、蒸気タービン翼の前縁部(入口側)にエロージョン摩耗が発生し、蒸気タービン翼の寿命が大きく低下する。また、地熱発電に使用される蒸気タービン翼等は、蒸気成分に硫黄や塩素等の腐食性元素が多く含まれるため、応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking、以下SCCと記載)が発生し、同様に寿命が大きく低下する。
このような寿命の低下を抑制する方策として、蒸気タービン翼の前縁部に火炎焼入れによる表面処理(硬化処理)を施してエロージョン摩耗の発生を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、焼入れ部の温度管理が難しいという問題があった。これに起因して、(1)温度管理が不十分な場合には焼き入れ部の硬度が目標値を満足しないこと、(2)焼き入れ部の硬度や金属組織が不均一となることにより安定した品質の実現が難しいこと、(3)焼入れ深さが浅いため(≦2mm)、エロージョン寿命が短いこと、そのため蒸気タービン翼の交換作業を少なくとも10年毎に行わなければならない等の問題点があった。
特許文献1の問題点を改善した方法として、レーザ焼入れを施す方法が提案されている(特許文献2)。この方法では精緻な入熱制御による安定品質の実現、高硬度層の形成、焼入れ深さの高深度化が可能とされている。
その他の方法として、ステライト(登録商標)等のコバルト基合金をろう付けする方法が提案されている手法(例えば、特許文献3)。しかしながら、この方法は、(1)高硬度なコバルト基合金をタービン翼の形状に加工する工程が非常に煩雑であり、(2)コバルト基合金が高価であり、(3)ろう材の使用に起因する疲労限の低下によって、蒸気タービン翼の許容応力が低下する等の欠点を有していた。
特開平8−225828号公報 特開2013−209912号公報 実開平6−83902号公報
特許文献2に開示された方法は、安定した品質及び高硬度層の形成の点から非常に有望である。しかし、特許文献2に開示された方法では、焼入れ深さの高深度を実現するためには焼入れ温度を1200℃〜1350℃程度の高温にする必要があった。その結果、焼入れ部が鋭敏化し、すなわち焼き入れ部の金属組織の粒界近傍にCr欠乏層が生成し、耐SCC性が低下してしまうという問題があった。本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、耐エロージョン性と耐SCC性を両立する蒸気タービン翼の製造方法及び蒸気タービン翼を提供することを目的とする。
本発明は、一実施形態によれば、蒸気タービン翼の製造方法であって、蒸気タービン翼形状に加工した母材の前縁部表面温度を1050℃〜1150℃の温度で、1600mm以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程と、前記熱処理工程の後、前記前縁部表面温度が240℃〜260℃の温度で、少なくとも10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程とを含む。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記母材が、フェライト系ステンレス鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記熱処理工程が、レーザ照射部からの熱放射光に基づき、レーザ照射部の前記前縁部表面温度を検知する工程と、前記レーザ照射部の前記前縁部表面温度が、1050℃〜1150℃となるようにレーザ出力をフィードバック制御する工程とを含むことが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記後熱処理工程が、前記母材全体を加熱することにより実施されることが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記後熱処理工程後に、前記前縁部表面に、硬度450Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成されていることが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記前縁部における、前記後熱処理工程後の粒界のCr濃度が、前記後熱処理工程前の粒界のCr濃度よりも高いことが好ましい。
本発明は、別の実施形態によれば、前述のいずれかに記載の製造方法により製造された蒸気タービン翼に関する。
本発明は、また別の実施形態によれば、前縁部に、硬度450Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成された蒸気タービン翼であって、前記高硬度層の粒界近傍のCr量の低下が母材と比較して5%以内である蒸気タービン翼に関する。
前記蒸気タービン翼において、前記高硬度層にCr欠乏層が実質的に存在しないことが好ましい。
本発明に係る製造方法によれば、蒸気タービン翼の前縁部に高硬度層を形成しつつ、鋭敏化を防ぐことで、耐エロージョン性と耐SCC性を両立する蒸気タービン翼を製造することができる。このようにして得られた蒸気タービン翼は、特に火力発電用の蒸気タービン翼として最適である。
本発明に係る蒸気タービン翼のレーザ照射による熱処理工程を模式的に示す図である。 蒸気タービン翼の腐食が生じやすい部位を示す図である。
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。また、図面は、本発明を説明するための例示的な概略図であって、図面中の各部材の寸法や相対的な位置関係は、本発明を限定するものではない。
図1は、上記レーザ照射による熱処理工程を実施するために用いるタービン翼硬化処理装置2の一例を示す概念図である。以下、図1を例示して、レーザ照射工程を説明する。硬化処理装置2は、レーザ発生器21、レーザ照射ヘッド22、照射ヘッド位置検出器23、レーザ光走査機構24、制御装置25、および放射光検出器26を備えている。なお、レーザ照射による熱処理工程は当該装置を用いるものには限定されず、同様の工程を実施しうる任意の装置を用いて実施することができる。
レーザ照射による熱処理工程は、蒸気タービン翼形状に加工した母材に対して実施することができる。母材としては、耐食性、耐エロージョン摩耗性に優れたステンレス鋼を用いることができ、特には、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼から選択されるステンレス鋼を用いることが好ましい。当該所定の鋼材を、所定の翼形状に成形し、本実施形態における母材とすることができる。母材のレーザ照射部(処理部ともいう)は、レーザ照射前に、必要に応じて、研磨紙で磨くなどの物理的表面処理や、母材強度等の特性に影響を与えないその他の表面処理を行ってもよい。レーザ吸収率のばらつきを抑制するためである。
レーザ照射部は、蒸気タービン翼として用いる場合に腐食が発生しやすい部位であり、例えば、周速が大きくなる翼先端近傍の部位や、厚さが薄い周縁部位などであってよく、典型的には翼前縁部表面である。図2は、典型的な蒸気タービン翼を模式的に示す図である。図2において、蒸気タービン翼1の、点線で示す翼前縁部10が、腐食が発生しやすい部位である。典型的には、この部位にレーザスポットSを照射し、レーザ照射による熱処理(硬化)を行うことができる。
レーザ照射には、レーザ発生器21及びレーザ照射ヘッド22を用いることができる。レーザ発生器21(レーザ光源)としては、半導体レーザを用いることが好ましい。レーザ照射ヘッド22はレーザ発生器21で発生したレーザ光Lを集束する集束レンズ(図示せず)を有し、この集束レンズを通過したレーザ光Lが、蒸気タービン翼1の翼前縁部10表面に照射される。レーザ照射条件は、照射面積(レーザスポット面積)を1600mm以上の大面積とする。照射面積を大きくすることにより焼入れ体積が大きくなり、焼入れ深さを大きくすることが可能となる。照射面積が1600mm未満では焼入れ深さが大きく低下し、必要焼入れ深さである2mmを下回ってしまう。本明細書において、焼入れ深さとは、レーザ照射部の断面のビッカース硬さを測定し、450HV以上の硬度をもつ部位の深さをいうものとする。焼入れ深さは、硬化深さという場合もある。本明細書においては、ビッカース硬度を例示して説明しているが、例えば、ロックウェル、ブリネル、ヌープ硬度などの他の硬度試験を用いて、測定し、ビッカース硬度の値に換算して、硬度を特定することができる。レーザ照射ヘッド22は、レーザ照射部の母材表面で反射したレーザ光Lが、レーザ装置に入射するのを防ぐことが可能な態様で配置される。具体的には、レーザ光Lが母材表面に対し、例えば45°の角度で照射されるように配置することが好ましいが、特定の照射角度には限定されない。
レーザ照射による熱処理工程においては、1050℃〜1150℃の範囲の温度でレーザ光を照射する。ここで、1050℃〜1150℃の範囲の温度とは、レーザ照射部の表面温度をいうものとする。この温度が、1050℃未満では、焼入れ深さが大きく低下し、必要焼入れ深さである2mmを下回ってしまう。また、温度が1150℃より高いと、金属組織の鋭敏化、すなわちレーザ照射部の金属組織の粒界近傍のCr欠乏層の形成により耐SCC性が大きく低下してしまう。図1に示す硬化処理装置2では、制御装置25および放射光検出器26から構成される温度制御系により、照射部の表面温度を一定の値に制御することができる。このため、レーザ照射による熱処理工程では、レーザ照射部は母材表面が溶融しない温度で精密に熱処理を行っている。
照射部の表面温度の制御は、フィードバック制御により実施することができ、例えば、レーザ照射部からの熱放射光に基づき、レーザ照射部温度を検知する工程と、レーザ照射部温度を指標として、前縁部表面の温度が、1050℃〜1150℃の温度範囲にある値となるように、レーザ出力をフィードバック制御する工程とを含む。
図1では、放射光検出器26として、例えば赤外線カメラを用いることができる。この場合、まず、次式に示す熱放射光エネルギーと温度の関係式を利用し、放射光検出器26がとらえたレーザ加熱部から放射される熱放射光強度を基に温度換算を行う。プランクの放射則(熱放射光エネルギーと温度の関係式)を示す。
Figure 0006819923
上記数式中、
Me:測定された熱放射光エネルギー
ε:放射率(温度、材質、表面状態等により常時変化)
α:測定光学系の受光特性係数
λ:波長
:定数
:定数
T:温度
をそれぞれ表している。本実施形態においては、Meは、放射光検出器26で検出される熱放射光エネルギーの測定値である。εは被測定系、α、λ、C、Cは測定系に固有の数値である。この機能により計測したレーザ照射部の温度を制御指標として、制御装置25が、レーザ発生器21のレーザ出力にフィードバック制御を行うことで、精確な温度制御を行うことができる。
レーザ照射による熱処理工程では、レーザ光をX方向及びY方向に走査することにより、タービン翼の前縁部に該当する処理部全体に対して、上記照射面積、温度条件で硬化処理を行うことができる。レーザ光の走査速度は、例えば、1〜5mm/secとすることができるが、特定の値には限定されない。レーザ光の走査は、レーザ光走査機構24により実施することができる。レーザ光走査機構24はレーザ照射ヘッド22を駆動してレーザ光Lを二次元方向に走査するものである。レーザ光走査機構24は、例えばレーザ照射ヘッド22をX方向(図1中左右方向)に駆動するX方向駆動機構部と、レーザ照射ヘッド22をY方向(図1中紙面に対して垂直な方向)に駆動するY方向駆動機構部(いずれも図示せず)とから構成することができる。照射ヘッド位置検出器23はレーザ照射ヘッド22の位置を検出するものであって、レーザ光走査機構24に付設されていてもよい。母材は通常、三次元形状に加工されているため、予めタッチセンサ等で母材の三次元形状を記憶させるその後レーザ照射ヘッド22を照射ヘッド位置検出器23で位置決めして、レーザ光走査機構24により、走査することができる。
図1に示す装置を用いたレーザ照射による熱処理工程におけるフィードバック制御の一例について、より具体的に説明する。母材の前縁部10にレーザ光Lがレーザ照射ヘッド22から照射される。次にレーザ光Lがレーザ光走査機構24により二次元方向に走査されると、制御装置25は照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込み、レーザ照射ヘッド22がレーザ光Lの照射完了位置に到達したか否かを判定する。ここで、レーザ照射ヘッド22がレーザ照射完了位置に到達している場合は、レーザ発生器21の出力を零まで下げた後、レーザ照射による熱処理工程を終了する。
レーザ照射ヘッド22がレーザ照射完了位置に到達していない場合には、制御装置25は熱放射光検出器26の出力を取り込み、出力である熱放射光Mの強度に基づいて温度を換算し、1150℃以下であるか否かを判定する。換算した温度が、1150℃を上回っている場合には、制御装置25は1150℃以下の温度に対応する熱放射光Mの強度となるようにレーザ発生器21のレーザ出力を制御する。具体的には、熱放射光Mの検出強度と上限温度に対応する強度との偏差を変数とする函数fに従ってレーザ発生器21のレーザ出力を制御する。その後、照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込むステップに戻る。
一方、熱放射光検出器26により検出された熱放射光Mの強度が上限温度1150℃に対応する強度以下の場合には、制御装置25は熱放射光検出器26により検出された熱放射光Mの強度が、下限温度である1050℃に対応する下限強度以上であるか否かを判定する。ここで、強度が下限強度以上の場合は、照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込むステップに戻る。また、熱放射光検出器26により検出された熱放射光Mの強度が下限強度を下回っている場合には、制御装置25は、下限温度である1050℃に対応する下限強度以上となるようにレーザ発生器21の出力を制御する。具体的には、制御装置25はレーザ発生器21の出力が現在の出力に例えば40Wを加算した出力となるようにレーザ発生器21の出力を制御する。その後、照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込むステップに戻る。
このようにして、フィードバック制御は、レーザ光の照射開始から完了までの間、繰り返し行われる。これにより、精確に温度制御されたレーザ照射による熱処理工程を実施することができる。
レーザ照射による熱処理工程が完了した時点で、レーザ照射部の硬度は450Hv以上、焼入れ深さは2mm以上となっている。このような硬度を持つ領域を、高硬度層と指称する。母材の硬度及び焼入れ深さは、例えば、断面の硬さ分布測定により測定することができる。また、この時点で、高硬度層には、鋭敏化によりCr炭化物が析出し、これに伴い、レーザ照射部の金属組織の粒界近傍にCr欠乏層が生成する。Cr炭化物の析出は、例えば、走査型電子顕微鏡による断面観察により、視認することができる。また、Cr欠乏層の生成は、元素分析により確認することができる。具体的には、レーザ照射部の粒界おけるCr濃度の分布を分析し、母材のCr濃度(質量%)と、粒界近傍におけるCr濃度(質量%)の差が5%より多く、10%程度までである場合に、Cr欠乏層が生成しているということができる。本発明においては、レーザ照射工程における精確な温度制御により、Cr炭化物の析出及びCr欠乏層の生成は、従来技術と比較して抑えられているが、依然として存在する場合がある。なお、粒界とは旧γ(オーステナイト)粒同志が隣接した状態の部分とし、粒界近傍とは、粒界から100nm程度の範囲のことをいうものとする。
レーザ照射による熱処理工程後、好ましくは、母材の温度が常温程度まで下がった後に、後熱処理工程を実施する。このとき、母材の除熱のために、気体の吹付等の除熱工程を実施してもよい。母材の温度が常温程度まで下がった後、例えば、1時間から1日後に後熱処理工程を実施することが好ましい。後熱処理工程での焼き割れを防止するためである。
後熱処理工程は、前記前縁部表面温度が240℃〜260℃となる温度で、少なくとも10時間の保持時間で後熱処理を行う工程である。この後熱処理を行う工程によって、熱処理工程で生じうる金属組織の鋭敏化を、Crの拡散により低減させることができる。後熱処理工程は、好ましくは、母材全体を加熱することにより実施する。これは、後熱処理工程が少なくとも10時間かかるため、局所的に加熱した場合では生産性が悪いからである。しかし、生産性の面で時間が問題ない場合は、上記全体を加熱する他、局所的に加熱してもよい。例えば、母材を加熱炉に投入し、温度240℃〜260℃の範囲内の温度で、少なくとも10時間保持する。加熱温度が240℃より低いと鋭敏化の低減度が低く、260℃より高いと新たなCr炭化物の析出により鋭敏化度が高くなる。なお、ここでいう後熱処理温度は、炉内温度ではなく母材表面温度をいい、例えば、母材表面に貼り付けた熱電対等により測定した値をいうものとする。また、保持時間は10時間より低いと鋭敏化の低減度が低くなる。処理時間の上限は理論的には特に存在しないが、母材金属組織の軟化を生じるおそれがわずかに存在し、また生産性の問題から、100時間程度以内とすることが好ましい。240℃〜260℃の範囲内の温度条件では、レーザ照射していない母材部位に軟化などの悪影響を与えることはないためである。
より好ましくは、母材を常温の炉中に投入し、例えば、50〜150℃/hの昇温速度で昇温し、温度240℃〜260℃の範囲内の一定温度で、上記所定時間保持した後、炉内で徐冷し、常温に戻ってから取り出すことができる。
上記工程を経て得られた蒸気タービン翼は、硬度450Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成されている。そして、SCCに起因する上記タービン翼の600MPaでの寿命が、30時間以上という特性を備えている。ここで、SCC破断寿命は、引張試験、3点曲げ試験、4点曲げ試験といった方法で特定することができる。そして、本発明は、上記の製造方法により製造された蒸気タービン翼にも関する。
好ましくは、得られた蒸気タービン翼の高硬度層(レーザ照射部)において、レーザ照射による熱処理工程後、後熱処理工程前のレーザ照射部のCr欠乏層と比較して、粒界近傍のCr濃度が少なくとも、数%程度増加している。
得られた蒸気タービン翼は、さらに好ましくは、前記高硬度層にCr欠乏層が実質的に存在しないものである。焼入れ時の入熱に起因する鋭敏化による、Cr炭化物(Cr23)の粒界析出、及びこれに伴うCr欠乏層の生成は、SCCの原因となりうる。本発明に係る蒸気タービン翼においては、レーザ照射による熱処理工程でCr炭化物の析出、及びこれに伴うCr欠乏層の生成が起きた場合であっても、後熱処理工程により、Crを拡散させ、Cr欠乏層を低減させることができる。その結果として、好ましくは、得られた蒸気タービン翼の高硬度層にCr欠乏層が実質的に存在しないようになっている。
高硬度層にCr欠乏層が実質的に存在しないとは、高硬度層に、母材のCr含有量%と比較して、Cr含有量%が、5%よりも低い部位を含有しないことをいう。高硬度層における、Cr含有量%が、5%よりも低い部位の特定は、例えば、金属組織粒界に沿った元素分析により行うことができるが、これらには限定されない。
本実施形態に係る蒸気タービン翼の製造方法によれば、任意の蒸気タービン翼の製造に適用することができ、特には、火力発電用の蒸気タービン翼の製造に好適である。そして、得られた蒸気タービン翼は、耐エロージョン性と耐SCC性を両立するものとなっている。
以下、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
13Cr鋼を母材として、本発明に係る蒸気タービン翼を製造したレーザ吸収率のばらつきを抑制するために、蒸気タービン翼の形状に加工した母材の前縁部表面をあらかじめ♯60〜♯120程度の粗さの研磨紙で磨いた。レーザ照射による熱処理工程には、半導体レーザ(laserline社製)を用い、照射面積は1600mm(40mm×40mm)とし、走査速度は、1mm/sとした。温度制御には赤外線カメラを用い、母材の照射部の表面温度(焼入れ温度)が、1100℃で一定になるように、レーザ出力をフィードバック制御により変動させて加熱した。レーザ照射工程を実施した母材を、大気中に静置して徐冷し、室温に戻した。12時間後に、後熱処理工程を実施した。室温に戻った母材を加熱炉に投入して、加熱炉中で、常温から、所定の温度プロファイルで昇温し、250℃で21時間静置した。なお、250℃は、蒸気タービン翼(レーザ照射後の13Cr鋼)表面の温度であり、表面に取り付けた熱電対により測定した。なお、測定の温度ばらつきはプラスマイナス10℃以内である。その後、炉内で、所定のプロファイルで降温し、室温に戻した後、炉から取り出して本発明に係る蒸気タービン翼を得た。
得られた蒸気タービン翼サンプルに対して、レーザ照射を行った箇所の(1)焼入れ深さの測定、(2)SCC試験を行った。焼入れ深さの測定は、レーザ照射部の断面のビッカース硬さを測定することにより行い、450HV以上の硬度をもつ部位の深さを焼入れ深さとした。SCC試験は、HSガス、Nガスをそれぞれバブリングさせた、Cl:10000ppm、SO 2−:50ppm、温度:60℃の水溶液中に、600MPaの応力を負荷したサンプルを浸漬して引張試験を行い、破断が生じるまでの寿命を測定した。
[比較例1〜3]
焼入れ温度を1200℃とし、後熱処理時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを得た。また、後熱処理時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを得た。さらに、焼入れ温度を1000℃とし、後熱処理時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にして、比較例3のサンプルを得た。これらのサンプルについては、実施例1と同じ方法で、硬化深さ、SCC破断寿命を測定した。
実施例1及び比較例1〜3の測定結果を表1に示す。

Figure 0006819923
実施例1では焼入れ深さは2mmを満足しており、且つSCC破断寿命も40hと最も長寿命となった。一方、比較例1、比較例2では、焼入れ深さは2mmを満足するもののSCC破断寿命はそれぞれ10h、12hと低かった。比較例3では入熱不足により焼入れ深さは2mmを満足しない。比較例3のサンプルのSCC試験は、焼入れ深さが目標値(≧2mm)を満足しなかったため実施していない。これらの実験より、本発明の実施例に係るサンプルは耐エロージョン性と耐SCC性を両立していることがわかる。
本発明の方法により製造された蒸気タービン翼は、発電用に好ましく用いられる。例えば、火力発電用蒸気タービン翼として好適に用いられる。
1 蒸気タービン翼の母材
10 前縁部
2 硬化処理装置
21 レーザ発生器
22 レーザ照射ヘッド
23 照射ヘッド位置検出器
24 レーザ光走査機構
25 制御装置
26 放射光検出器

Claims (6)

  1. 蒸気タービン翼形状に加工した、フェライト系ステンレス鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼から選択される母材の前縁部表面温度を1050℃〜1150℃の温度で、1600mm以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程と、
    前記熱処理工程の後、前記前縁部表面温度が240℃〜260℃の温度で、少なくとも10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程と
    を含む、
    前記前縁部表面に、硬度450Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成され、当該高硬度層の粒界近傍のCr濃度と、フェライト系ステンレス鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼から選択される母材のCr濃度の差が5%以内である、蒸気タービン翼の製造方法。
  2. 前記熱処理工程が、
    レーザ照射部からの熱放射光に基づき、レーザ照射部の前記前縁部表面温度を検知する工程と、
    前記レーザ照射部の前記前縁部表面温度が、1050℃〜1150℃となるようにレーザ出力をフィードバック制御する工程と
    を含む、請求項1に記載の蒸気タービン翼の製造方法。
  3. 前記後熱処理工程が、前記母材全体を加熱することにより実施される、請求項1または2に記載の蒸気タービン翼の製造方法。
  4. 前記前縁部における、前記後熱処理工程後の粒界のCr濃度が、前記後熱処理工程前の粒界のCr濃度よりも高い、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前縁部に、硬度450Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成された蒸気タービン翼であって、前記高硬度層の粒界近傍のCr濃度と、フェライト系ステンレス鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼から選択される母材のCr濃度の差が5%以内である蒸気タービン翼。
  6. 前記高硬度層にCr欠乏層が存在しない、請求項に記載の蒸気タービン翼。
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