JP2022042215A - 蒸気タービン翼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐エロージョン性と耐応力腐食割れ性を両立する蒸気タービン翼の製造方法を提供する。【解決手段】蒸気タービン翼形状に加工した析出硬化系ステンレス母材1の前縁部10表面温度1150℃~1300℃で、400mm2以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程と、前記熱処理工程の後、前記前縁部表面温度400℃~600℃で、1~10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程とを含む、蒸気タービン翼の製造方法、並びに蒸気タービン翼を提供する。【選択図】図1
Description
本発明は、蒸気タービン翼の製造方法及び蒸気タービン翼に関する。本発明は、特には、耐エロージョン性と耐応力腐食割れ性を両立する、析出硬化系ステンレスを母材とする蒸気タービン翼の製造方法及び蒸気タービン翼に関する。
一般に蒸気タービンでは、液滴化した蒸気が、高速で回転する蒸気タービン翼に衝突することで、蒸気タービン翼の前縁部(入口側)にエロージョン摩耗が発生し、蒸気タービン翼の寿命が大きく低下する。また、地熱発電に使用される蒸気タービン翼等は、蒸気成分に硫黄や塩素等の腐食性元素が多く含まれるため、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking、以下SCCと記載)が発生し、同様に寿命が大きく低下する。
このような寿命の低下を抑制する方策として、蒸気タービン翼の前縁部に火炎焼入れによる表面処理(硬化処理)を施してエロージョン摩耗の発生を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、焼入れ部の温度管理が難しいという問題があった。これに起因して、(1)温度管理が不十分な場合には焼き入れ部の硬度が目標値を満足しないこと、(2)焼き入れ部の硬度や金属組織が不均一となることにより安定した品質の実現が難しいこと、(3)焼入れ深さが浅いため(≦2mm)、エロージョン寿命が短いこと、そのため蒸気タービン翼の交換作業を少なくとも10年毎に行わなければならない等の問題点があった。
特許文献1の問題点を改善した方法として、レーザ焼入れを施す方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この方法では精緻な入熱制御による安定品質の実現、高硬度層の形成、焼入れ深さの高深度化が可能とされている。
高深度化及び高耐食性を両立させるために、蒸気タービン翼の前縁部表面に1050℃から1100℃でレーザビームを照射することと、その後の熱処理を温度240℃~260℃、保持時間を10時間~100時間とすることにより、高強度と高耐食性の両立を可能とすることが知られている(例えば、特許文献3を参照)。
特許文献3に開示された方法は、所定のステンレス母材に対し、高強度と高耐食性を付与する観点からは非常に有用である。しかし、この手法では析出硬化系ステンレスには適応できず、析出硬化系ステンレス母材を用いた蒸気タービン翼においては、高強度・高耐食性の両立が出来ないという問題点がある。
本発明者らは、鋭意検討の結果、析出硬化系ステンレスに高強度・高耐食性を付与することが可能な熱処理方法に想到し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、一実施形態によれば、蒸気タービン翼形状に加工した析出硬化系ステンレス母材の前縁部に、表面温度1150℃~1300℃で、400mm2以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程と、前記熱処理工程の後、前記前縁部の表面温度400℃~600℃で、1~10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程とを含む、蒸気タービン翼の製造方法に関する。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記熱処理工程が、レーザ照射部からの熱放射光に基づき、レーザ照射部の前記前縁部表面温度を検知する工程と、前記レーザ照射部の前記前縁部表面温度が、1150℃~1300℃となるようにレーザ出力をフィードバック制御する工程とを含むことが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記後熱処理工程が、前記母材全体を加熱することにより、またはレーザ照射部を局所的に加熱することにより行われることが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記後熱処理工程後に、前記前縁部表面に、硬度430Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成されていることが好ましい。
前記蒸気タービン翼の製造方法において、前記後熱処理工程後に、前記前縁部表面における、δフェライトの析出量が5%以下であることが好ましい。
本発明は、別の実施形態によれば、上述のいずれかに記載の製造方法により製造された蒸気タービン翼に関する。
本発明は、また別の実施形態によれば、蒸気タービン翼であって、析出硬化系ステンレス母材の前縁部に、硬度430Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成され、当該高硬度層表面におけるδフェライトの析出量が5%以下である、蒸気タービン翼に関する。
本発明に係る製造方法によれば、析出硬化系ステンレス母材の蒸気タービン翼の前縁部に、耐エロージョンの焼入れ層を形成することが可能となる。これにより、蒸気タービン翼におけるエロージョンやSCCの発生を抑制することが可能となる。
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。また、図面は、本発明を説明するための例示的な概略図であって、図面中の各部材の寸法や相対的な位置関係は、本発明を限定するものではない。
本発明は、一実施形態によれば、蒸気タービン翼の製造方法であって、以下の工程を含む。
(1)蒸気タービン翼形状に加工した析出硬化系ステンレス母材の前縁部に、表面温度1150℃~1300℃で、400mm2以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程
(2)前記熱処理工程の後、前記前縁部の表面温度400℃~600℃で、1~10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程
(1)蒸気タービン翼形状に加工した析出硬化系ステンレス母材の前縁部に、表面温度1150℃~1300℃で、400mm2以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程
(2)前記熱処理工程の後、前記前縁部の表面温度400℃~600℃で、1~10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程
第1の工程は、レーザ照射による熱処理工程である。図1は、第1の工程を実施するために用いるタービン翼硬化処理装置2の一例を示す概念図である。以下、図1を例示して、レーザ照射工程を説明する。硬化処理装置2は、レーザ発生器21、レーザ照射ヘッド22、照射ヘッド位置検出器23、レーザ光走査機構24、制御装置25、および放射光検出器26を備えている。なお、図1においては、母材の一方の表面のみにレーザ照射する装置を用いており、他方の面にはレーザ照射を行っていない。しかし、レーザ照射による熱処理工程は当該装置を用いるものには限定されず、同様の工程を実施しうる任意の装置を用いて実施することができる。
レーザ照射による熱処理工程は、蒸気タービン翼形状に加工した析出硬化系ステンレス母材に対して実施することができる。析出硬化系ステンレス母材であればその種類は問わず、例えば、マルテンサイト系析出硬化型ステンレス鋼、セミオーステナイト系析出硬化型ステンレス鋼、オーステナイト系析出硬化型ステンレス鋼などに対して熱処理を行うことができ、耐エロージョン性や耐SCC性を付与することができる。当該所定の析出硬化系ステンレス鋼材を、所定の翼形状に成形し、本実施形態における母材とすることができる。母材のレーザ照射部は、レーザ照射前に、必要に応じて、研磨紙で磨くなどの物理的表面処理や、母材強度等の特性に影響を与えないその他の表面処理を行ってもよい。レーザ吸収率のばらつきを抑制するためである。
レーザ照射部は、蒸気タービン翼として用いる場合に腐食が発生しやすい部位であり、例えば、周速が大きくなる翼先端近傍の部位や、厚さが薄い周縁部位などであってよく、典型的には翼前縁部表面である。図2は、典型的な蒸気タービン翼を模式的に示す図である。図2において、蒸気タービン翼1の、点線で示す翼前縁部10が、腐食が発生しやすい部位である。典型的には、この部位にレーザスポットSを照射し、レーザ照射による熱処理(硬化)を行うことができる。
レーザ照射には、レーザ発生器21及びレーザ照射ヘッド22を用いることができる。レーザ発生器21(レーザ光源)としては、半導体レーザを用いることが好ましい。レーザ照射ヘッド22はレーザ発生器21で発生したレーザ光Lを集束する集束レンズ(図示せず)を有し、この集束レンズを通過したレーザ光Lが、蒸気タービン翼1の翼前縁部10表面に照射される。レーザ照射条件は、照射面積(レーザスポット面積)を400mm2以上とする。照射面積を大きくすることにより焼入れ体積が大きくなり、焼入れ深さを大きくすることが可能となる。照射面積が400mm2未満では焼入れ深さが十分ではなく、必要焼入れ深さである2mmを下回ってしまう。本明細書において、焼入れ深さとは、レーザ照射部の断面のビッカース硬さを測定し、430Hv以上の硬度をもつ部位の深さをいうものとする。焼入れ深さは、硬化深さという場合もある。本明細書においては、ビッカース硬度を例示して説明しているが、例えば、ロックウェル、ブリネル、ヌープ硬度などの他の硬度試験を用いて、測定し、ビッカース硬度の値に換算して、硬度を特定することができる。照射面積を400mm2以上の範囲で、蒸気タービン翼の前縁部の厚さに応じて照射面積を変化させることで、必要焼入れ深さを達成することができる。レーザスポット形状は特には限定されないが、正方形や、長方形、円形や楕円形とすることができる。また、レーザスポット形状が長方形の場合は、レーザ光の走査方向の辺の長さよりも幅方向の辺の長さが大きい長方形とすることもできるし、その逆であってもよい。楕円形の場合であっても同じである。
レーザ照射ヘッド22は、レーザ照射部の母材表面で反射したレーザ光Lが、レーザ装置に入射するのを防ぐことが可能な態様で配置される。具体的には、レーザ光Lが母材表面に対し、例えば45°の角度で照射されるように配置することが好ましいが、特定の照射角度には限定されない。
レーザ照射による熱処理工程においては、1150℃~1300℃の範囲の温度でレーザ光を照射する。ここで、1150℃~1300℃の範囲の温度とは、レーザ照射部の表面温度をいうものとする。この温度は、固溶化温度ともいう。固溶化温度が、1150℃未満では、焼入れ深さが大きく低下し、必要焼入れ深さである2mmを下回ってしまう。また、固溶化温度が1300℃より高いと、δフェライトの形成や、結晶粒界の粗大化により耐SCC性が大きく低下してしまう。図1に示す硬化処理装置2では、制御装置25および放射光検出器26から構成される温度制御系により、レーザ照射部の表面温度を一定の値に制御することができる。このため、レーザ照射による熱処理工程では、レーザ照射部は母材表面が溶融しない温度で精密に熱処理を行うことができる。
照射部の表面温度の制御は、フィードバック制御により実施することができ、例えば、レーザ照射部からの熱放射光に基づき、レーザ照射部温度を検知する工程と、レーザ照射部温度を指標として、前縁部表面の温度が、1150℃~1300℃の温度範囲にある値となるように、レーザ出力をフィードバック制御する工程とを含む。
レーザ照射による熱処理工程では、レーザ光をX方向及びY方向に走査することにより、タービン翼の前縁部に該当するレーザ照射部全体に対して、上記照射面積、温度条件で硬化処理を行うことができる。レーザ光の走査速度は、例えば、1~5mm/secとすることができるが、特定の値には限定されない。レーザ光の走査は、レーザ光走査機構24により実施することができる。レーザ光走査機構24はレーザ照射ヘッド22を駆動してレーザ光Lを二次元方向に走査するものである。レーザ光走査機構24は、例えばレーザ照射ヘッド22をX方向(図1中左右方向)に駆動するX方向駆動機構部と、レーザ照射ヘッド22をY方向(図1中紙面に対して垂直な方向)に駆動するY方向駆動機構部(いずれも図示せず)とから構成することができる。照射ヘッド位置検出器23はレーザ照射ヘッド22の位置を検出するものであって、レーザ光走査機構24に付設されていてもよい。母材は通常、三次元形状に加工されているため、予めタッチセンサ等で母材の三次元形状を記憶させるその後レーザ照射ヘッド22を照射ヘッド位置検出器23で位置決めして、レーザ光走査機構24により、走査することができる。
図1に示す装置を用いたレーザ照射による熱処理工程におけるフィードバック制御の一例について、より具体的に説明する。母材の前縁部10にレーザ光Lがレーザ照射ヘッド22から照射される。次にレーザ光Lがレーザ光走査機構24により二次元方向に走査されると、制御装置25は照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込み、レーザ照射ヘッド22がレーザ光Lの照射完了位置に到達したか否かを判定する。ここで、レーザ照射ヘッド22がレーザ照射完了位置に到達している場合は、レーザ発生器21の出力を零まで下げた後、レーザ照射による熱処理工程を終了する。
レーザ照射ヘッド22がレーザ照射完了位置に到達していない場合には、制御装置25は熱放射光検出器26の出力を取り込み、出力である熱放射光Mの強度に基づいて温度を換算し、1300℃以下であるか否かを判定する。換算した温度が、1300℃を上回っている場合には、制御装置25は1300℃以下の温度に対応する熱放射光Mの強度となるようにレーザ発生器21のレーザ出力を制御する。具体的には、熱放射光Mの検出強度と上限温度に対応する強度との偏差を変数とする函数に従ってレーザ発生器21のレーザ出力を制御する。その後、照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込むステップに戻る。
一方、熱放射光検出器26により検出された熱放射光Mの強度が上限温度1300℃に対応する強度以下の場合には、制御装置25は熱放射光検出器26により検出された熱放射光Mの強度が、下限温度である1150℃に対応する下限強度以上であるか否かを判定する。ここで、強度が下限強度以上の場合は、照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込むステップに戻る。また、熱放射光検出器26により検出された熱放射光Mの強度が下限強度を下回っている場合には、制御装置25は、下限温度である1150℃に対応する下限強度以上となるようにレーザ発生器21の出力を制御する。具体的には、制御装置25はレーザ発生器21の出力が現在の出力に例えば40Wを加算した出力となるようにレーザ発生器21の出力を制御する。その後、照射ヘッド位置検出器23の出力を取り込むステップに戻る。
このようにして、フィードバック制御は、レーザ光の照射開始から完了までの間、繰り返し行われる。これにより、精確に温度制御されたレーザ照射による熱処理工程を実施することができる。
レーザ照射による熱処理工程が完了した時点で、処理部は、マルテンサイト組織を有しており、Cr炭化物等の微量の介在物が析出している。
レーザ照射による熱処理工程後、好ましくは、母材温度が常温程度まで下がった後に、後熱処理工程を実施する。このとき、母材の除熱のために、気体の吹付等の除熱工程を実施してもよい。母材の温度が常温程度まで下がった後、例えば、1時間から1日後に後熱処理工程を実施することが好ましい。後熱処理工程での焼き割れを防止するためである。
後熱処理工程は、前記前縁部表面が400℃~600℃となる温度で、1~10時間の保持時間で後熱処理を行う工程である。後熱処理工程における処理温度は、析出強化温度ともいうことができる。析出強化温度にて後熱処理を行う工程によって、母材中に主成分がCu等の析出物を形成させ、前縁部の硬度を向上させることができる。また、後熱処理工程によりCrの拡散を促進し、レーザ照射工程において生じ得る金属組織の鋭敏化を低減させることができる。後熱処理工程は、好ましくは、母材全体を加熱することにより実施する。これは、後熱処理工程が最長で10時間程度かかるため、局所的に加熱した場合では生産性が悪いからである。しかし、生産性の面で時間が問題ない場合は、局所的に加熱してもよい。
母材全体の加熱は、例えば、母材を大気中で加熱炉に投入し、400℃~600℃の範囲内の温度で、1~10時間保持する。析出強化温度が400℃より低いと析出物量が不十分となり、600℃より高いと析出物が粗大化し、十分な硬度が得られない。なお、析出強化温度は、炉内温度ではなく母材表面温度をいい、例えば、母材表面に貼り付けた熱電対等により測定した値をいうものとする。また、保持時間が、1時間より低いと析出物の形成量が不十分となる。保持時間の上限は10時間以内とすることが好ましい。長時間加熱すると、析出物が粗大化し、硬度が低下するためである。なお、保持時間は温度に依存して決定することが好ましく、例えば、400℃~500℃の保持温度の場合は、保持時間を7~10時間とすることができ、500℃~600℃の保持温度の場合は、保持時間を1~7時間とすることができる。
より好ましくは、母材を常温の炉中に投入し、例えば、50~150℃/hの昇温速度で昇温し、温度400℃~500℃の範囲内の一定温度で、上記所定時間保持した後、炉内で徐冷し、常温に戻ってから取り出すことができる。
局所的な加熱は、例えば、先のレーザ照射による熱処理工程を行った前縁部に、再度、析出強化温度にてレーザ照射することにより実施することができる。この場合の母材表面温度の調節は、先の熱処理工程と同様にフィードバック制御することができる。
上記工程を経て得られた蒸気タービン翼は、硬度430Hv以上、焼入れ深さ2mm以上、好ましくは6mm以上の高硬度層が形成されている。この時点での組織の状態は、マルテンサイト組織に微細な析出物(主成分Cu等)を形成している。そして、レーザ照射部におけるδフェライト形成量が5%以下となっている。ここでいうδフェライト形成量とは、レーザ照射部表面の複数の画像を取得し、観察面積あたりのδフェライト組織の面積により算出することができる。
また、上記工程を経て得られた蒸気タービン翼の破断寿命は、3000時間以上である。ここでいう破断寿命とは、N2ガスを用いてバブリングさせた、Cl-:30000ppm、温度:80℃の水溶液中に、600MPaの応力を負荷したサンプルを浸漬して引張試験を行い、破断が生じるまでの寿命で定義される。
本実施形態に係る蒸気タービン翼の製造方法によれば、析出硬化系ステンレス母材を用いる任意の蒸気タービン翼の製造に適用することができ、特には、火力発電用の蒸気タービン翼の製造に好適である。そして、得られた蒸気タービン翼は、耐エロージョン性と耐SCC性を両立するものとなっている。
以下、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例においては、オーステナイト系析出硬化型ステンレスを母材として、蒸気タービン翼形状に加工して用いた。レーザ吸収率のばらつきを抑制するために、蒸気タービン翼の形状に加工した母材の前縁部表面をあらかじめ♯60~♯120程度の粗さの研磨紙で磨いた。レーザ照射による熱処理工程には、半導体レーザ(laserline社製)を用いた。
(1)レーザスポットサイズと母材厚さ
前縁部の厚さが異なる蒸気タービン翼母材に、異なるレーザスポットサイズで熱処理工程を行った。このときの熱処理温度は、前縁部表面温度が1250℃となるように制御し、レーザ走査速度は1mm/sとした。図3は、必要焼入れ深さである2mm以上を達成するレーザスポットサイズと、前縁部の厚さとの関係を示すグラフである。焼入れ深さの測定は、レーザ照射部の断面のビッカース硬さを測定することにより行い、430Hv以上の硬度をもつ部位の深さを焼入れ深さとした。図3から、前縁部の厚さと必要焼入れ深さを達成するレーザスポットサイズは比例関係にあり、グラフ中に数値は記載していないが、レーザスポットサイズを400mm2以上とすることで、一般的な蒸気タービン翼については、必要焼入れ深さが得られることが確認された。
前縁部の厚さが異なる蒸気タービン翼母材に、異なるレーザスポットサイズで熱処理工程を行った。このときの熱処理温度は、前縁部表面温度が1250℃となるように制御し、レーザ走査速度は1mm/sとした。図3は、必要焼入れ深さである2mm以上を達成するレーザスポットサイズと、前縁部の厚さとの関係を示すグラフである。焼入れ深さの測定は、レーザ照射部の断面のビッカース硬さを測定することにより行い、430Hv以上の硬度をもつ部位の深さを焼入れ深さとした。図3から、前縁部の厚さと必要焼入れ深さを達成するレーザスポットサイズは比例関係にあり、グラフ中に数値は記載していないが、レーザスポットサイズを400mm2以上とすることで、一般的な蒸気タービン翼については、必要焼入れ深さが得られることが確認された。
(2)熱処理工程温度とδフェライト形成、耐食性
熱処理工程温度を変えて、実施例及び比較例の蒸気タービン翼を製造した。実施例の蒸気タービン翼は、レーザスポットサイズを1600mm2、表面温度を1150℃としてレーザ照射による熱処理工程を行った後、炉中で、425℃で8時間加熱する後熱処理工程を行うことにより得た。比較例の蒸気タービン翼は、レーザ照射による熱処理工程における表面温度を1300℃超とした以外は同様にして得た。後熱処理工程後の実施例及び比較例の、レーザ照射を行った個所の蒸気タービン翼表面の走査型電子顕微鏡写真を測定した。
熱処理工程温度を変えて、実施例及び比較例の蒸気タービン翼を製造した。実施例の蒸気タービン翼は、レーザスポットサイズを1600mm2、表面温度を1150℃としてレーザ照射による熱処理工程を行った後、炉中で、425℃で8時間加熱する後熱処理工程を行うことにより得た。比較例の蒸気タービン翼は、レーザ照射による熱処理工程における表面温度を1300℃超とした以外は同様にして得た。後熱処理工程後の実施例及び比較例の、レーザ照射を行った個所の蒸気タービン翼表面の走査型電子顕微鏡写真を測定した。
実施例の蒸気タービン翼表面の写真を図4に、比較例の蒸気タービン翼表面の写真を図5に示す。図4の試料におけるδフェライト形成は認められず、他の視野においても同様にδフェライト形成がないか、あっても形成量は5%以下であった。図5においては、δフェライト組織3の形成が視認でき、その形成量は5%よりも多かった。
これらの実施例及び比較例の蒸気タービンについて、耐食性試験を行った。試験条件は、N2ガスを用いてバブリングさせた、Cl-:30000ppm、温度:80℃の水溶液中に、600MPaの応力を負荷したサンプルを浸漬して引張試験を行い、破断が生じるまでの寿命を測定した。その結果、実施例の蒸気タービンの破断寿命は3000時間以上であり、比較例の蒸気タービンの破断寿命は、900時間であった。
(3)固溶化温度、析出強化温度と硬度
板状のオーステナイト系析出硬化型ステンレス母材に対して、温度を変えてレーザ照射による熱処理工程、及び後熱処理工程を行い、レーザ照射部表面のビッカース硬さを測定した。レーザ照射時のレーザスポットサイズはいずれも1600mm2とし、後熱処理工程は8時間にわたって行った。結果を表1に示す。
板状のオーステナイト系析出硬化型ステンレス母材に対して、温度を変えてレーザ照射による熱処理工程、及び後熱処理工程を行い、レーザ照射部表面のビッカース硬さを測定した。レーザ照射時のレーザスポットサイズはいずれも1600mm2とし、後熱処理工程は8時間にわたって行った。結果を表1に示す。
表1より、特定の固溶化温度範囲でレーザ照射による熱処理工程、及び析出強化温度範囲による後熱処理工程を行うことにより、表面の硬さが430Hv以上となることが確認された。また、表1にデータは示していないが、1150~1300℃の範囲内でレーザ照射による熱処理工程を行い、次いで、400~500℃の範囲内で後熱処理工程を行った試料は、2mm以上の焼入れ深さ、特には、7~9mm程度の焼入れ深さを達成していた。なお、表1を参照すると、1100℃の加熱でも表面の硬さを430Hv以上とすることができた試料もあったが、焼入れ深さが2mmに達していなかった。
本発明の方法により製造された蒸気タービン翼は、発電用に好ましく用いられる。例えば、火力発電用蒸気タービン翼として好適に用いられ、特には、高い応力がかかるタービン翼に好適に用いられる。
1 析出硬化系ステンレス母材、10 前縁部
2 硬化処理装置、21 レーザ発生器、22 レーザ照射ヘッド
23 照射ヘッド位置検出器、24 レーザ光走査機構
25 制御装置、26 放射光検出器
2 硬化処理装置、21 レーザ発生器、22 レーザ照射ヘッド
23 照射ヘッド位置検出器、24 レーザ光走査機構
25 制御装置、26 放射光検出器
Claims (7)
- 蒸気タービン翼形状に加工した析出硬化系ステンレス母材の前縁部に、表面温度1150℃~1300℃で、400mm2以上の照射面積で、レーザ光を照射する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後、前記前縁部の表面温度400℃~600℃で、1~10時間の保持時間で後熱処理を行う後熱処理工程と
を含む、蒸気タービン翼の製造方法。 - 前記熱処理工程が、
レーザ照射部からの熱放射光に基づき、レーザ照射部の前記前縁部表面温度を検知する工程と、
前記レーザ照射部の前記前縁部表面温度が、1150℃~1300℃となるようにレーザ出力をフィードバック制御する工程と
を含む、請求項1に記載の蒸気タービン翼の製造方法。 - 前記後熱処理工程が、前記母材全体を加熱することにより、またはレーザ照射部を局所的に加熱することにより行われる、請求項1または2に記載の蒸気タービン翼の製造方法。
- 前記後熱処理工程後に、前記前縁部表面に、硬度430Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の蒸気タービン翼の製造方法。
- 前記後熱処理工程後に、前記前縁部表面における、δフェライトの析出量が5%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蒸気タービン翼の製造方法。
- 請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法により製造された蒸気タービン翼。
- 析出硬化系ステンレス母材の前縁部に、硬度430Hv以上、焼入れ深さ2mm以上の高硬度層が形成された蒸気タービン翼であって、当該高硬度層表面におけるδフェライトの析出量が5%以下である、蒸気タービン翼。
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