以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の動力伝達装置の一実施形態である変速機のスケルトン図である。本実施形態の変速機1は、駆動源としてのエンジン(内燃機関)2及びモータ(電動機)3を備えたハイブリッド自動車の車両に搭載された変速機である。
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両を走行させるための駆動力を発生する内燃機関である。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみの単独走行の際には、バッテリ(図示せず)の電気エネルギーを利用して車両を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両の減速時には、モータ3の回生により電力を発電する発電機として機能する。モータ3の回生時には、バッテリは、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
変速機1は、前進9速・後進1速の平行軸式トランスミッションであり、ツインクラッチ式変速機である。変速機1には、エンジン2及びモータ3の機関出力軸(第三回転軸)2aに接続される内側メインシャフト(第一回転軸)IMSと、この内側メインシャフトIMSの外筒をなす外側メインシャフト(第二回転軸)OMSと、内側メインシャフトIMSにそれぞれ平行なセカンダリシャフトSS、リバースシャフトRVSと、これらのシャフトに平行なカウンタシャフトCSと、ディファレンシャル機構5に繋がるアウトプットシャフトOPSとが設けられる。
これらのシャフトのうち、外側メインシャフトOMSがリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに常時係合し、カウンタシャフトCSがさらにアウトプットシャフトOPSを介してディファレンシャル機構5に常時係合するように配置される。
また、変速機1は、奇数段用の第一クラッチ(第一摩擦係合装置)C1と、偶数段用の第二クラッチ(第二摩擦係合装置)C2とを備える。第一クラッチC1は内側メインシャフトIMSに結合される。第二クラッチC2は、外側メインシャフトOMSに結合され、外側メインシャフトOMS上に固定されたギヤ61を介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに連結される。
内側メインシャフトIMSの外周には、図1において右側(第一クラッチC1側)から順に、3速駆動ギヤ43と、5速駆動ギヤ45と、7速駆動ギヤ47と、9速駆動ギヤ49と、1速駆動ギヤ41とが配置される。3速駆動ギヤ43、5速駆動ギヤ45、7速駆動ギヤ47、9速駆動ギヤ49はそれぞれ内側メインシャフトIMSに対して相対的に回転可能であり、1速駆動ギヤ41は、内側メインシャフトIMSに固定されている。更に、内側メインシャフトIMS上には、3速駆動ギヤ43と5速駆動ギヤ45との間に3−5速シンクロメッシュ機構(同期係合装置)83が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、7速駆動ギヤ47と9速駆動ギヤ49との間に9−7速シンクロメッシュ機構(同期係合装置)87が軸方向にスライド可能に設けられる。所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(同期係合装置)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段が内側メインシャフトIMSに連結される。内側メインシャフトIMSに関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、奇数段の変速を行うための第一変速機構GR1が構成される。第一変速機構GR1の各駆動ギヤは、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。
セカンダリシャフトSSの外周には、図1において右側から順に、2速駆動ギヤ42と、4速駆動ギヤ44と、6速駆動ギヤ46と、8速駆動ギヤ48とが相対的に回転可能に配置される。更に、セカンダリシャフトSS上には、2速駆動ギヤ42と4速駆動ギヤ44との間に2−4速シンクロメッシュ機構(同期係合装置)82が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、6速駆動ギヤ46と8速駆動ギヤ48との間に8−6速シンクロメッシュ機構(同期係合装置)86が軸方向にスライド可能に設けられる。この場合も、所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(同期係合装置)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段がセカンダリシャフトSSに連結される。セカンダリシャフトSSに関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、偶数段の変速を行うための第二変速機構GR2が構成される。第二変速機構GR2の各駆動ギヤも、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。なお、セカンダリシャフトSSに固定されたギヤ57は外側メインシャフトOMS上のギヤ61に噛み合っており、外側メインシャフトOMSを介して第二クラッチC2に結合される。
リバースシャフトRVSの外周には、リバース駆動ギヤ60が相対的に回転可能に配置される。また、リバースシャフトRVS上には、リバース駆動ギヤ60に対応してリバースシンクロメッシュ機構(同期係合装置)85が軸方向にスライド可能に設けられ、また、外側メインシャフトOMS上のギヤ42に係合するアイドルギヤ50が固定されている。リバース走行する場合は、シンクロメッシュ機構85のシンクロを入れて、第二クラッチC2を係合することにより、第二クラッチC2の回転が外側メインシャフトOMS及びアイドルギヤ50を介してリバースシャフトRVSに伝達され、リバース駆動ギヤ60が回転される。リバース駆動ギヤ60はカウンタシャフトCS上のギヤ54に噛み合っており、リバース駆動ギヤ60が回転するときカウンタシャフトCSは前進時とは逆方向に回転する。カウンタシャフトCSの逆方向の回転はアウトプットシャフトOPS上のギヤ59を介してディファレンシャル機構5に伝達される。
カウンタシャフトCS上には、図1において右側から順に、2速駆動ギヤ42及び3速駆動ギヤ43に噛み合う2−3速従動ギヤ52と、4速駆動ギヤ44及び5速駆動ギヤ45に噛み合う4−5速従動ギヤ54と、6速駆動ギヤ46及び7速駆動ギヤ47に噛み合う6−7速従動ギヤ56と、8速駆動ギヤ48及び9速駆動ギヤ49に噛み合う8−9速従動ギヤ58が固定的に配置される。また、カウンタシャフトCS上には、1速駆動ギヤ41に噛み合う1速従動ギヤ51が1速ワンウェイクラッチ機構81を介して相対回転可能に設けられている。1速ワンウェイクラッチ機構81は、1速従動ギヤ51(内側メインシャフトIMS)とカウンタシャフトCSの相対回転速度に応じてその係合・非係合が切り替わるようになっている。また、4−5速従動ギヤ54は、アウトプットシャフトOPS上のギヤ59と噛み合っており、これにより、カウンタシャフトCSの回転がアウトプットシャフトOPSを介してディファレンシャル機構5に伝達される。
上記構成の変速機1では、2−4速シンクロメッシュ機構82のスリーブ(シンクロスリーブ)を右方向にスライドすると、2速駆動ギヤ42がセカンダリシャフトSSに結合され(2速インギヤ)、左方向にスライドすると、4速駆動ギヤ44がセカンダリシャフトSSに結合される(4速インギヤ)。また、8−6速シンクロメッシュ機構86のスリーブを右方向にスライドすると、6速駆動ギヤ46がセカンダリシャフトSSに結合され(6速インギヤ)、左方向にスライドすると、8速駆動ギヤ48がセカンダリシャフトSSに結合される(8速インギヤ)。このように偶数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第二クラッチC2を係合することにより、変速機1は偶数の変速段(2速、4速、6速、又は8速)に設定される。
また、1速ワンウェイクラッチ機構81が係合状態の場合、1速従動ギヤ51がカウンタシャフトCSに結合されて(1速インギヤ)、1速の変速段が選択される。一方、1速ワンウェイクラッチ機構81が非係合状態で、3−5速シンクロメッシュ機構83のスリーブを右方向にスライドすると、3速駆動ギヤ43が内側メインシャフトIMSに結合されて3速の変速段が選択され(3速インギヤ)、左方向にスライドすると、5速駆動ギヤ45が内側メインシャフトIMSに結合されて5速の変速段が選択される(5速インギヤ)。また、9−7速シンクロメッシュ機構87のスリーブを右方向にスライドすると、7速駆動ギヤ47が内側メインシャフトIMSに結合されて7速の変速段が選択され(7速インギヤ)、左方向にスライドすると、9速駆動ギヤ49が内側メインシャフトIMSに結合されて9速の変速段が選択される(9速インギヤ)。このように奇数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第一クラッチC1を係合することにより、変速機1は奇数の変速段(1速、3速、5速、7速、又は9速)に設定される。
上記の第一クラッチC1と、内側メインシャフトIMS上に設けた1,3,5,7,9速駆動ギヤ41,43,45,47,49と、1速ワンウェイクラッチ機構81、3−5速シンクロメッシュ機構83、9−7速シンクロメッシュ機構87とで、奇数段の変速段を設定するための第一変速機構GR1が構成される。また、上記の第二クラッチC2と、セカンダリシャフトSS上に設けた2,4,6,8速駆動ギヤ42,44,46,48と、2−4速シンクロメッシュ機構82及び8−6速シンクロメッシュ機構86とで、偶数段の変速段を設定するための第二変速機構GR2が構成される。
この変速機1では、第一クラッチC1を係合すると、エンジン2及びモータ3の駆動力が第一クラッチC1から内側メインシャフトIMSを介して第一変速機構GR1に伝達される。一方、第二クラッチC2を係合すると、エンジン2及びモータ3の駆動力が第二クラッチC2から外側メインシャフトOMSを介してセカンダリシャフトSS上の第二変速機構GR2に伝達される。
よって、1速ワンウェイクラッチ機構81が係合した状態で第一クラッチC1を係合すると1速変速段が確立し、2−4速シンクロメッシュ機構82を右動して2速駆動ギヤ42をセカンダリシャフトSSに結合した状態で第二クラッチC2を係合すると2速変速段が確立し、3−5速シンクロメッシュ機構83を右動して3速駆動ギヤ43を内側メインシャフトIMSに結合した状態で第一クラッチC1を係合すると3速変速段が確立し、3−5速シンクロメッシュ機構83を左動して5速駆動ギヤ45を内側メインシャフトIMSに結合した状態で第二クラッチC2を係合すると5速段が確立する。以降も同様に各シンクロメッシュ機構82,83,86,87と第一、第二クラッチC1,C2の係合を切り換えることで、9速段までの各変速段を設定することができる。
そして、1速段側から9速段側へのシフトアップ時には、第一クラッチC1が係合して1速段が確立している間に2速段をプレシフトしておき、第一クラッチC1を係合解除して第二クラッチC2を係合することで2速段を確立し、第二クラッチC2が係合して2速段を確立している間に3速段をプレシフトしておき、第二クラッチC2を係合解除して第一クラッチC1を係合することで3速段を確立する。これを順に繰り返してシフトアップを行う。
一方、9速段側から1速段側へのシフトダウン時には、第一クラッチC1が係合して9速段が確立している間に8速段をプレシフトしておき、第一クラッチC1を係合解除して第二クラッチC2を係合することで8速段を確立し、第二クラッチC2が係合して8速段を確立している間に7速段をプレシフトしておき、第二クラッチC2を係合解除して第一クラッチC1を係合することで8速段を確立し、これを繰り返してシフトダウンを行う。これらにより、駆動力の途切れのないシフトアップ及びシフトダウンが可能になる。
なお、変速機1で実現すべき変速段の決定及び該変速段を実現するための制御(第一変速機構GR1及び第二変速機構GR2における変速段の選択(シンクロの切り替え制御)と、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の係合及び係合解除の制御等)は、図示しない電子制御ユニット(制御手段)によって、予め設定した車速及びアクセル開度と変速段との関係を示すシフトマップ(変速マップ)に応じて定められた目標変速段に基いて行われる。すなわち、現在の車速と運転者の意思などを含む運転状況に従って目標変速段への変速が行われる。
次に、第一クラッチC1と第二クラッチC2のより詳細な構造、及び第一クラッチC1と第二クラッチC2に油(潤滑油)を供給するための油路構造について説明する。図2は、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を示す図(図1のX部分の詳細構成を示す図)であり、図3は、図2のY部分の部分拡大図である。これらの図に示すように、本実施形態の変速機(動力伝達装置)1は、内側メインシャフト(第一回転軸)IMSと機関出力軸(第三回転軸)2aとの間に設けた第一クラッチ(第一摩擦係合装置)C1と、外側メインシャフト(第二回転軸)OMSと機関出力軸(第三回転軸)2aとの間に設けた第二クラッチ(第二摩擦係合装置)C2とを備えている。これら第一クラッチC1と第二クラッチC2は、内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSの軸方向に沿って並べて配置されている。
第一クラッチC1は、機関出力軸2a(図1参照)と一体に回転するクラッチドラム(第三回転体)101と、クラッチドラム101の内径側で内側メインシャフトIMSにスプライン結合されて内側メインシャフトIMSと一体に回転する第一クラッチハブ(第一回転体)111と、クラッチドラム101と第一クラッチハブ111との間で軸方向に沿って複数を交互に積層した摩擦材である圧力プレート102a及び摩擦プレート102bを備えている。圧力プレート102aは、その外周端がクラッチドラム101にスプライン係合しており、摩擦プレート102bは、その内周端が第一クラッチハブ111にスプライン係合している。これら複数の圧力プレート102aおよび摩擦プレート102bによって第一摩擦係合要素102が構成されている。また、第一クラッチC1は、第一摩擦係合要素102を軸方向に押圧して係合させる第一ピストン(第一押圧部材)103を備えている。
また、第二クラッチC2は、クラッチドラム101の内径側で外側メインシャフトOMSにスプライン結合されて外側メインシャフトOMSと一体に回転する第二クラッチハブ(第二回転体)121と、クラッチドラム101と第二クラッチハブ121との間で軸方向に沿って複数を交互に積層した摩擦材である圧力プレート104a及び摩擦プレート104bを備えている。圧力プレート104aは、その外周端がクラッチドラム101にスプライン係合しており、摩擦プレート104bは、その内周端が第二クラッチハブ121にスプライン係合している。これら複数の圧力プレート104aおよび摩擦プレート104bによって第二摩擦係合要素104が構成されている。また、第二クラッチC2は、第二摩擦係合要素104を軸方向に押圧して係合させる第二ピストン(第二押圧部材)105を備えている。
内側メインシャフトIMSと同軸上の外周かつ外側メインシャフトOMSと軸方向で並ぶ位置、すなわち径方向における内側メインシャフトIMSと第二クラッチハブ121との間にはカラー(筒状部材)130が設けられている。軸方向におけるカラー130と第二クラッチハブ121の内周面121aに取り付けたサークリップ(係止具)122との間には、これらを軸方向で互いに離間させる方へ付勢するスプリング(付勢部材)123が取り付けられている。スプリング123によってカラー130が外側メインシャフトOMSの先端部(図の右側の端部)124に向けて付勢されている。すなわち、カラー130は、スプリング123の付勢力で外側メインシャフトOMSの先端部124に押し付けられた状態で当接している。
カラー130には、径方向に延びて内周面130aから外周面130bに貫通する貫通穴(第三連通路)131が形成されている。貫通穴131は、カラー130の軸方向における外側メインシャフトOMS側(図の左側)の位置に形成されている。また、カラー130の内周面130aにおける貫通穴131の周囲には、カラー130の内周面130aを軸方向の他の部分よりも(環状に)窪ませてなる第一窪み部132aが形成されている。また、カラー130の外周面130bにおける貫通穴131の周囲には、カラー130の外周面130bを軸方向の他の部分よりも(環状に)窪ませてなる第二窪み部132bが形成されている。第一窪み部132aは、カラー130の内周面130aにおける貫通穴131の周囲からカラー130の軸方向の一方の端部(外側メインシャフトOMS側の端部)まで延びる窪みである。一方、第二窪み部132bは、カラー130の外周面130bにおける貫通穴131の周囲のみに形成された窪みである。
また、内側メインシャフトIMSの外周面125とカラー130の内周面130aとの間に設けられた第一シールリング(第一シール部材)135と、カラー130の外周面130bと第二クラッチハブ121の内周面121aとの間に設けられた第二シールリング(第二シール部材)136とを備えている。第一シールリング135は内側メインシャフトIMSの外周面125に形成した環状の凹部(溝部)126に嵌合しており、第二シールリング136はカラー130の外周面130bに形成した環状の凹部(溝部)127に嵌合している。これら第一シールリング135と第二シールリング136は、カラー130の軸方向における貫通穴131よりもスプリング123に近い側の位置の内周面130a及び外周面130bに取り付けられている。これら第一シールリング135と第二シールリング136とで後述する第一流通路151と第二流通路152とが仕切られている。
内側メインシャフトIMSの内部には、軸方向に延びる第一油路141及び第二油路142が形成されている。また、内側メインシャフトIMSにおけるカラー130の貫通穴131に対向する位置には、径方向に延びて第二油路142から内側メインシャフトIMSの外周面125に連通する貫通穴(第二連通路)143が形成されている。また、第二クラッチハブ121におけるカラー130の貫通穴131に対向する位置には、径方向に延びて第二クラッチハブ121の内周面121aから外周面121bに連通する貫通穴(第四連通路)145が形成されている。
また、図2に示すように、軸方向における第一クラッチハブ111とクラッチドラム101との間には、これらを相対回転可能に支持する第一軸受115が設置されている。また、軸方向における第一クラッチハブ111と第二クラッチハブ121との間には、これらを相対回転可能に支持する第二軸受116が設置されている。第一軸受115及び第二軸受116は、いずれもスラストニードルベアリングである。
また、内側メインシャフトIMSにおけるスプリング123に対向する位置には、径方向に延びて第一油路141から内側メインシャフトIMSの外周面125に連通する貫通穴(第一連通路)144が形成されている。
内側メインシャフトIMS内の第一油路141の油を第一クラッチC1に供給する第一流通路151と、第二油路142の油を第二クラッチC2に供給する第二流通路152とが設けられている。第一流通路151は、内側メインシャフトIMS内の第一油路141から貫通穴(第一連通路)144を通って径方向における内側メインシャフトIMSと第二クラッチハブ121との間の空間(軸方向におけるカラー130と第一クラッチハブ111との間の空間)S1−1に連通し、さらに該空間S1−1から第二クラッチハブ121と第一クラッチハブ111との隙間(第二軸受116)を通って第一クラッチC1に連通している。また、第二流通路152は、内側メインシャフトIMS内の第二油路142から貫通穴(第二連通路)143を通って径方向における内側メインシャフトIMSとカラー130との間の空間(カラー130の第一窪み部132a)S2−1に連通し、さらに該空間S2−1からカラー130の貫通穴(第二連通路)131を通って、カラー130と第二クラッチハブ121との間に空間(カラー130の第二窪み部132b)S2−2に連通し、さらにそこから第二クラッチハブ121の貫通穴(第四連通路)145を通って第二クラッチC2に連通している。そして、上記のカラー130に設けた第一シールリング135と第二シールリング136とでこれら第一流通路151(空間S1−1)と第二流通路152(空間S2−1及び空間S2−2)とが仕切られている。
上記構成の第一クラッチC1及び第二クラッチC2は、あらかじめ内側メインシャフトIMSと外側メインシャフトOMSを除いた部品をアッセンブリとして組み立てておく。具体的には、あらかじめアッセンブリとして組み立てておく部品は、クラッチドラム101と第一クラッチハブ111及び第一摩擦係合要素102及び第一ピストン103からなる第一クラッチC1、及び第二クラッチハブ121及び第二摩擦係合要素104及び第二ピストン105からなる第二クラッチC2である。さらに、第二クラッチハブ121の内径側には、カラー130及び第二シールリング136とスプリング123及びサークリップ122とが組み付けられている。すなわち、これらで第一クラッチC1及び第二クラッチC2のアッセンブリ(以下、これを「クラッチアッセンブリ」という。)が構成されている。そして、上記のクラッチアッセンブリを組み立てた後、変速機を組み立てる工程において、内側メインシャフトIMSと外側メインシャフトOMSをそれぞれ第一クラッチハブ111と第二クラッチハブ121の内径側に後側(図の左側)から挿入してスプライン嵌合させる。この際、外側メインシャフトOMSが第二クラッチハブ121の内径側に挿入されることで外側メインシャフトOMSの先端部124がカラー130に当接してこれを軸方向に押圧する。これにより、スプリング123の付勢力で第二クラッチハブ121及び第一クラッチハブ111が軸方向でクラッチドラム101に押し付けられた状態で組み付けられる。
本実施形態では、カラー130を外側メインシャフトOMSとは別部材とし、このカラー130の内径側及び外径側に第一、第二シール部材135,136を配置しているが、その理由は下記である。
すなわち、既述のように、クラッチアッセンブリはあらかじめ別工程で組み立てられた状態であり、このクラッチアッセンブリに内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSを後から挿入する。ここで、上記のクラッチアッセンブリは組立後の工場出荷時に性能確認を行う必要がある。そして、一度性能確認を行ったクラッチアッセンブリは、性能を保証するために後の変速機の組立工程において分解することができない。したがって、クラッチアッセンブリはその部品構成状態を保ったまま内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSを挿入して組み立てる必要がある。そして、内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSはそれぞれクラッチアッセンブリの後方(図の左方)から挿入する。このような組立工程上の理由から、仮に、本実施形態のカラー130を設けずに外側メインシャフトOMSの一部(先端部の近傍など)にシールリング用の円周溝を形成した構造では、シールリングを取り付けた外側メインシャフトOMSの先端部の径が大きいことでこれを第二クラッチハブ121のスプライン部の内径側に挿入して組み付けることができないか、あるいはシールリングの径を十分に大きくすることができず組み付け後に油路の密封性を確保できない、という不都合が生じるおそれがある。そのため、本実施形態では、外側メインシャフトOMSとは別部材であるカラー130を設け、このカラー130の内径側及び外径側に第一、第二シールリング135,136を設置する構造を採用している。
また、本実施形態では、カラー130を外側メインシャフトOMSとは別部材とし、このカラー130に第二流通路152用の貫通穴131及び第一、第二窪み部132a,132bを形成しているが、その理由は下記である。
本実施形態の変速機1では、内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSの硬度を上げるために、これらシャフトに浸炭等の熱処理を施している。浸炭は部材の表面硬度を上げる手段であるが、表面硬度が上がる反面、部材の脆性(強度)が低下する(もろくなる)傾向を有する。そのため、硬化層深さを定義して部材の表面のみに浸炭処理が施されるようにすることで内部の金属部分を残し、硬度と強度を両立している。そのため、仮に本実施形態のカラー130を設けずに外側メインシャフトOMSの一部(先端部124の近傍など)に第二流通路152用の貫通穴及び窪み部やシールリング用の円周溝などを形成した構造では、その部分が薄肉になる。そのため、外側メインシャフトOMSの内部の金属部分を十分に残すことができず、結果として外側メインシャフトOMSの強度が低下するという不都合が生じるおそれがある。このことに対処するため、本実施形態では、浸炭等の熱処理を施さない別部品であるカラー130を設け、このカラー130に第二流通路152用の貫通穴及び窪み部やシールリング用の円周溝を形成した構造を採用している。これにより、第二流通路152用の貫通穴131及び第一、第二窪み部132a,132bや第二シールリング136用の円周溝127などの構成を確保しながらも、外側メインシャフトOMSの強度が低下することを防止している。
以上説明したように、本実施形態の動力伝達装置は、外側メインシャフトOMSがスプリング123を介して第一クラッチハブ111と第二クラッチハブ121をクラッチドラム101に押し付ける構造を持ち、且つ第一クラッチC1と第二クラッチC2に異なる流量の潤滑油を供給する軸方向並列式のデュアルクラッチを備えた変速機において、外側メインシャフトOMSとスプリング123との間に設けた潤滑油路(第一流通路151)の一部(貫通穴131)を構成するカラー130、及び第一、第二シールリング135,136によって第一クラッチC1の潤滑用油路である第一流通路151と第二クラッチC2の潤滑用油路である第二流通路152とを分離する構造である。
本実施形態の動力伝達装置によれば、カラー130の内周面130aと内側メインシャフト(第一回転軸)IMSの外周面125との間に設けた第一シールリング(第一シール部材)135と、カラー130の外周面130bと第二クラッチハブ(第二回転体)121の内周面121aとの間に設けた第二シールリング(第二シール部材)136とを備えたことで、これら第一、第二シールリング135,136で内側メインシャフトIMSとカラー130との隙間及びカラー130と第二クラッチハブ121との隙間が密封される。したがって、簡単な構成で、第一クラッチC1に油を供給する第一流通路151と第二クラッチC2に油を供給する第二流通路152とを確実に分離することができ、これら第一流通路151と第二流通路152とで第一クラッチC1及び第二クラッチC2に異なる流量の油を供給することができる。
また、内径側と外径側それぞれに第一、第二シールリング135,136を配置したカラー130を外側メインシャフトOMSとは別部材としたことで、既述のように、変速機1の全体の組立前に、第一、第二クラッチC1,C2(クラッチアッセンブリ)を組み立てる際に、カラー130及び第一、第二シールリング135,136を予め第二クラッチハブ121の内径側(内周側)に組み付けておくことが可能となる。これにより、第一、第二シールリング135,136の径寸法を比較的に大きな寸法に設定することが可能となるので、内側メインシャフトIMSとカラー130との径方向の隙間、及びカラー130と第二クラッチハブ121との径方向の隙間の寸法をより小さな寸法に抑えることが可能となる。
したがって、部品の組付時や、組付後の内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSなどが回転していないときなどに、カラー130と内側メインシャフトIMSとの間又は第二クラッチハブ121との間に隙間があっても、内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSが回転しているときに、第一流通路151及び第二流通路152による第一クラッチC1及び第二クラッチC2への油の供給が行われる際には、内側メインシャフトIMS及び外側メインシャフトOMSの回転による遠心力で第一、第二シールリング135,136が拡径する(開く)ことで、これら第一、第二シールリング135,136で内側メインシャフトIMSとカラー130との径方向の隙間、及びカラー130と第二クラッチハブ121との径方向の隙間を密封することができる。
また、本実施形態では、カラー130の内周面130aと外周面130bとにおける貫通穴131の周囲には、カラー130の内周面130a又は外周面130bを窪ませてなる窪み部132a又は132bが設けられていることで、これらの窪み部132a又は132bによって、カラー130に設けた貫通穴131(の開口部)と外径側の第二クラッチハブ121及び内径側の内側メインシャフトIMSとの径方向の距離を確保することができる。したがって、第二クラッチハブ121と内側メインシャフトIMSの回転数に差が生じた場合に第一流通路151を流れる油(潤滑油)に圧力損失が発生することを回避でき、第一クラッチC1への油の供給が不十分になることを防止できる。
そして、本実施形態では、上記の貫通穴131を設けたカラー130を外側メインシャフトOMSとは別部材としたことで、外側メインシャフトOMSに貫通穴(連通路)を設けることなく第一流通路151のための油の通路を確保している。また、このカラー130の外周側及び内周側に第一、第二シールリング135,136を配置したことで、外側メインシャフトOMSの外周側及び内周側に第一、第二シールリング135,136を配置することなく第一流通路151と第二流通路152を分離している。これらにより、外側メインシャフトOMSに連通路用の貫通穴やシール部材を配置するための凹部などを設ける必要がないので、外側メインシャフトOMSに必要な強度及び剛性を確保しながら、第一流通路151と第二流通路152を確実に分離することが可能となる。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、カラーの内周面に形成した第一窪み部と外周面に形成した第二窪み部の両方を備える場合を示したが、第一窪み部と第二窪み部のいずれか一方のみを備えてもよい。また、筒状部材の具体的な形状は上記実施形態に示すものには限らず、カラー130以外の形状であってもよい。