JP6812191B2 - 高分子化合物、抗血栓性高分子材料、およびそれを用いた医療機器 - Google Patents
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Description
そして、このような要求に応えるため、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートとエチルメタクリレートの水溶性共重合を基材表面に被覆する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、水溶性高分子を基材に配合あるいは被覆した医療器具を繰り返し、あるいは長時間、血液と接触させて使用する場合、水溶性高分子が基材から溶出あるいは脱離し、抗血栓性が維持できなくなることが懸念される。
(1)少なくとも一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルをモノマーとする高分子化合物であり、重量平均分子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする高分子化合物である。
(2)一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルと、コモノマーとの共重合体高分子化合物であり、前記高分子化合物における上記一般式(A)のモノマーとコモノマーとのモル比が2/5〜9/1あることを特徴とする高分子化合物である。
(3)上記コモノマーが、下記一般式(B)で表される(メタ)アクリル酸エステルである、上記(2)に記載の高分子化合物である。
(4)上記一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルが、
2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル、
2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)エステル、
2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)エステルの少なくともいずれかを含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の高分子化合物である。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の高分子化合物を含む、抗血栓性の高分子材料組成物である。
(6)上記(5)に記載の抗血栓性の高分子材料組成物を表面の少なくとも一部に有することを特徴とする医療機器である。
本発明に係る高分子化合物は、少なくとも一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルをモノマーとして用いた重合反応により得られる高分子化合物であり、重量平均分子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする。
一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルのR1及びR2は、メチル基またはエチル基である。n及びmはオキシエチレン基の平均付加モル数で1〜3である。
具体的には、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル[R1及びR2はメチル基、m=n=1]、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)エステル[R1及びR2はメチル基、m=n=2]、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)エステル[R1及びR2はメチル基、m=n=3]、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−エトキシエチル)エステル[R1及びR2はエチル基、m=n=1]、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−エトキシエトキシ)エチル)エステル[R1及びR2はエチル基、m=n=2]、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ)エチル)エステル[R1及びR2はエチル基、m=n=3]である。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本発明における高分子化合物は、上述の2−メチレンブタン二酸エステルと他のモノマーとの共重合体として得ることもできる。例えば、2−メチレンブタン二酸エステルと共重合しうる他のモノマー(コモノマー)としては、アクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、n−ブチルアクリルアミド、i−ブチルアクリルアミド、ヘキシルアクリルアミド、ヘプチルアクリルアミドなどのアルキルアクリルアミド; N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのジアルキルアクリルアミド; アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレートなどのアミノアルキルアクリレート; ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレートなどのジアミノアルキルアクリレート; メタクリルアミド; N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミドなどのN,N−ジアルキルメタクリルアミド; アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレートなどのアミノアルキルメタクリレート; ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレートなどのジアミノアルキルメタクリレート; メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート; メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート等が挙げられる。
上述の具体例のうち、好ましくは、コモノマーは(メタ)アクリル酸エステルである。(メタ)アクリル酸エステルとして、特に、下記一般式(B)で表わされるものの使用が好ましい。
一般式(B)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数1〜5のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルである。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[その他の成分]
本発明に係る高分子材料組成物を医療機器の表面処理剤として用いる場合、本発明の高分子化合物のみを使用してもよく、また、高分子材料組成物としての生体適合性、および抗血栓性が損なわれない程度の範囲の組成比で、他の高分子化合物等を混合して組成物として使用することもできる。
高分子化合物中の一般式(A)のモノマーと、コモノマーとのモル比は、2/5〜9/1であることが好ましい。高分子化合物中の一般式(A)のモノマーと、コモノマーとのモル比が2/5〜9/1であれば、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆された際に、特に、優れた抗血栓性を示すと共に血液等水系での基材への接着安定性に優れた材料の提供が可能となる。一般式(A)のモノマー及びコモノマーのモル比が2/5より小さくなると、血小板の粘着・活性化が抑制できず、抗血栓性が低下する。また、一般式(A)のモノマーとコモノマーとのモル比が9/1を超えると血液等水系での基板への密着安定性が低下する。また、抗血栓性、密着安定性の点から一般式(A)のモノマーとコモノマーとのモル比として、3/7〜4/1がより好ましく、1/1〜4/1が特に好ましい。
高分子化合物の分子量は、重量平均分子量が5,000〜1,000,000であることによって、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆された際に、優れた抗血栓性を示すと共に血液等水系での基材への接着安定性に優れた材料の提供が可能となる。また、抗血栓性、密着安定性の点から7,000〜500,000が好ましく、10,000〜300,000が更に好ましい。重量平均分子量が小さいと基材への密着安定性が低下し、抗血栓性が低下する。
また、高分子化合物の分子量分布を揃えることにより、医療用途に用いた際のロット間のばらつきをすくなくすることができる。このため、本発明の高分子化合物の多分散度(Mw/Mn)の値は、好ましくは1.0〜5.0であり、より好ましくは1.0〜4.4、さらに好ましくは1.3〜4.0、特に好ましくは1.8〜3.0である。
本発明の高分子化合物は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよく、好ましくは製造が簡便なランダム共重合体である。該共重合体を製造するための共重合反応それ自体には特別の制限はなく、フリーラジカル重合、イオン重合等の公知の合成方法で使用できる。また、溶媒としてトルエン等有機溶媒を用いた溶液重合法により調製することができる。
一般にポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、中間水を有していて、中間水の存在は基材への吸着にも影響を及ぼす。 なお、上述の「中間水」とは、特有の挙動を示す水分子であり、最近の研究により、例えば以下の観察の結果などにより、生体適合性を示す材料中において存在すると考えられている。例えば、PMEA(ポリ(2-メトキシエチルアクリレート))に水を含水した試料を−100℃まで冷却した後、毎分2.5℃の割合で昇温した際に観察される吸発熱量を示差走査熱量計(DSC)により測定すると、0℃以下の特定の温度域(図1では、−40℃近辺)において所定の発熱を生じると共に、−10℃近辺から0℃までの広い温度範囲において吸熱が観察される。さまざまな検討により、−40℃近辺での発熱はPMEAに含まれる水分子の一部が規則化したことに伴うものであり、−10℃近辺から0℃での吸熱は、その水分子が再び不規則化したことに伴うものであることが明らかになっており、このように、含水したPMEA中には水単体では生じない挙動を示す水分子が存在し、このような挙動を示す水が「中間水」と呼ばれている。
このような「中間水」は、生体由来のヒアルロン酸、へパリンなどの多糖類やゼラチン、アルブミンなどのタンパク質等やDNAやRNAなどの核酸、人工的に合成された生体適合性材料である上記PEGにも含まれるなど、生体適合性に優れる物質に含有されることが明らかになってきつつある。このように、「中間水」は物質における生体適合性の発現と密接に関連していると考えられている。
物質内に「中間水」が生成される理由は明らかでないが、物質内の高い分子運動性を有する高分子鎖と、水分子とが特定の分子間力で相互作用を生じる結果として生じるものであると考えられている。そして、生体適合性材料においては、材料表面と生体成分の水和殻の間に中間水が存在することで両者が直接触れることが阻害され、生体の異物反応が抑制されると考えられている。
詳細を後述する方法により、高分子化合物をコーティングして形成した水平な表面において水に対する接触角を測定したときに、接触角が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、1点につき2μLの水滴を表面上に滴下したときに、水静的接触角は、24〜87(°)であり、より好ましくは65〜75(°)である。このように、接触角を比較的小さい範囲に抑えられる本発明の高分子化合物は、特に、生体適合性、および抗血栓性に優れている。
本発明に係る高分子材料組成物を医療機器の表面処理剤として用いる場合、本発明の高分子化合物のみを使用してもよく、また、高分子材料組成物としての生体適合性、および抗血栓性が損なわれない程度の範囲の組成比で、他の高分子化合物等を混合して組成物として使用することもできる。
また、本発明の高分子材料組成物は、抗血栓性に特に優れており、様々な医療器具、特に詳細を後述するものに好適に用いられる。
本発明に係る高分子化合物により被覆される基材の材質や形状は、特に制限されることなく、例えば、多孔質体、繊維、不敷布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸等いずれでも良い。その材質としては木綿、麻等の天然高分子、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の合成高分子、あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミックスおよびそれらの複合材料等が例示でき、複数の基材より構成されていても構わない。
本発明に係る医療器具は、例えば、血液フィルター、血液保存容器、血小板保存容器、体内埋め込み型の人工器官(人工心臓)や治療器具(留置針、ステント)、体外循環型の人工臓器類(人工肺装置、透析装置)、血液回路、さらにカテーテル類(血管造影用カテーテル、ガイドワイヤー、PTCA用カテーテル等の循環器用カテーテル、胃管カテーテル、胃腸カテーテル、食堂チューブ等の消化器用カテーテルチューブ、尿道カテーテル等の泌尿器科用カテーテル)、内視鏡等の医療機器の血液と接する表面の少なくとも一部の表面において使用され、好ましくは、血液と接する表面のほぼ全領域に使用される。
攪拌装置、温度計、ジムロート冷却管、窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、上記で合成したBMI30.0g、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3g、トルエン30mLを仕込み、常温で溶解した。60℃まで加熱し、60℃で20時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた反応混合物を、ジエチルエーテル1Lに加え沈殿させた。デカンテーションにより上層の溶液を除去した後、沈殿物をトルエン30mLに溶解し、トルエン溶液を、ジエチルエーテル1Lに加え再沈殿し、沈殿物を回収した。回収物を一昼夜減圧乾燥し、27.0gを回収した。
1H−NMR分析の結果、BMI/BA=10/0(モル比)のポリマーであることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図2に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:20mMLiClメタノール溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量は27,000、分子量分布2.8を得た。
BMI8.00g、BA1.04g、トルエン6mLを容器に加え混合、溶解した。次に、AIBN0.090gを加え攪拌し、AIBNを溶解した。窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下60℃で20時間過熱攪拌した。
上記より得られた反応混合物から7.00gを分取、メタノール約20mLと混合、溶解後、筒状再生セルロース透析膜(Standard RC Tubing MWCO:3.5kD)に入れた。次に、反応混合物溶液を入れた透析膜とメタノール約450mLを500mLビーカーに入れ、1昼夜攪拌した。メタノールを廃棄後、メタノール約450mLを500mLビーカーに加え、1昼夜攪拌子で攪拌した。同様の操作を更に1回行った後、透析膜内の溶液を減圧下、60℃で溶媒を留去し、粘調物3.02gを回収した。
1H−NMR分析の結果、BMI/BA=4/1(モル比)であることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図3に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:20mMLiClメタノール溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量16,000、分子量分布2.6を得た。
反応は、表1に示す原料仕込み量で実施例1と同様に行った。
上記より得られた反応混合物から7.18gを分取し、メタノール約20mLと混合後、合成例2同様に透析を行った後、溶媒を留去し、3.83gを回収した。
1H−NMR分析の結果、BMI/BA=7/3(モル比)であることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図4に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:20mMLiClメタノール溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量は19,000、分子量分布2.2を得た。
反応は、表1に示す原料仕込み量で実施例1と同様に行った。
上記より得られた反応混合物から7.02gを分取し、メタノール約20mLと混合後、合成例2同様に透析を行った後、溶媒を留去し、3.76gを回収した。
1H−NMR分析の結果、BMI/BA=1/1(モル比)であることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図5に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:20mMLiClメタノール溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量は38,000、分子量分布2.8を得た。
反応は、表1に示す原料仕込み量で実施例1と同様に行った。
上記より得られた反応混合物から7.13gを分取し、メタノール約20mLと混合後、合成例2同様に透析を行った後、溶媒を留去し、3.82gを回収した。
1H−NMR分析の結果、BMI/BA=3/7(モル比)であることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図6に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:20mMLiClメタノール溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量は90,000、分子量分布3.0を得た。
BMI7.00g、BMA1.73g、トルエン6mLを容器に加え混合、溶解した。次に、AIBN0.087gを加え攪拌し、AIBNを溶解した。窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下60℃で20時間過熱攪拌した。
上記より得られた反応混合物から7.18gを分取、メタノール約20mLと混合、溶解後、筒状再生セルロース透析膜(Standard RC Tubing MWCO:3.5kD)に入れた。次に、反応混合物溶液を入れた透析膜とメタノール約450mLを500mLビーカーに入れ、1昼夜攪拌した。メタノールを廃棄後、メタノール約450mLを500mLビーカーに加え、1昼夜攪拌子で攪拌した。同様の操作を更に1回行った後、透析膜内の溶液を減圧下、60℃で溶媒を留去し、粘調物3.12gを回収した。
1H−NMR分析の結果、BMI/BMA=7/3(モル比)であることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図7に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:20mMLiClメタノール溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量28,000、分子量分布1.8を得た。
反応は、表1に示す原料仕込み量で実施例1と同様に行った。
得られた反応混合物を、メタノール200mLに加え沈殿させた。デカンテーションにより上層の溶液を除去した後、沈殿物をアセトン30mLに溶解し、アセトン溶液を、メタノール200mLに加え再沈殿し、沈殿物を回収した。回収物を一昼夜減圧乾燥し、5.36gを回収した。
1H−NMR分析の結果、ポリアクリル酸ブチルであることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図8に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:ジメチルホルムアミド溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量は203,000、分子量分布3.2を得た。
反応は、表1に示す原料仕込み量で実施例1と同様に行った。
得られた反応混合物を、メタノール200mLに加え沈殿させた。デカンテーションにより上層の溶液を除去した後、沈殿物をアセトン30mLに溶解し、アセトン溶液を、メタノール200mLに加え再沈殿し、沈殿物を回収した。回収物を一昼夜減圧乾燥し、5.41gを回収した。
1H−NMR分析の結果、ポリアクリル酸ブチルであることを確認した。得られた1H−NMRスペクトルを図9に示す。
GPC(検出器:示差屈折率、カラム:TSKgel α−M、溶離液:ジメチルホルムアミド溶液、標準物質:ポリエチレングリコール)による分子量分析から、重量平均分子量は26,000、分子量分布1.7を得た。
1−1 ポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)(R1=R2=メチル基、n=m=1、BMI/BA=10/0(モル比))の示差熱分析
上記の通り作製したポリ(2−メチレンブタン二酸,1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)(PBMI)の複数の試料について、それぞれ水中へ浸漬することによりそれぞれ異なる量の水を含水させた。含水後の各試料の所定量を取り、あらかじめ重量を測定したアルミパンの底に薄く広げた。示差走査熱量計 (DSC−7000, セイコー社製) を用いて、室温から−100℃まで冷却速度5.0℃/分で冷却し、ついで10分間保持した後、昇温速度5.0℃/分の速度で−100℃から50℃まで加熱し、その過程でのDSC昇温カーブを取得し、吸発熱量の測定を行った。
また、各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥させ、乾燥前後の重量を測定して含水量を求めた。また、各試料の含水率(WC)は、以下の式(I)で求めた。
WC =((W1−W0)/W1)×100(I)
WC :含水率(wt%)、W0:試料の乾燥重量(g)、W1:試料の含水重量(g)
1−2 ポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)(PBMI)における含水状態
図10に、各含水率で含水させたPBMIのDSC昇温カーブを示す。また、図11には含水率が25.9wt%である場合のDSC昇温カーブを示す。図10から明らかなように、含水率が11wt%以下の試料においては、−100℃から50℃まで加熱する過程で、顕著な吸発熱は観察されなかった。これは、この含水率の範囲では、含水された水分子の全てがポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)との相互作用により自由度を失い、いわゆる「不凍水」と呼ばれる状態になっており、凝固や融解といった現象を生じないためと考えられる。
一方、含水率が20〜30wt%程度の試料においては、−60℃〜−10℃の付近に明らかな発熱が見られると共に、−10℃〜0℃の付近で吸熱を生じることが観察された。この−60℃〜−10℃の付近での発熱と−10℃〜0℃の付近での吸熱は、従来知られる中間水を含有するポリマーにおいても観察されるものであり、含水された水分子の一部がそれぞれの温度域において規則化および不規則化を生じる際の潜熱の移動であると考えられる。つまり、このような挙動を示す水分子は、ポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)に含水されつつも不凍水とはならず、その一方でポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)から何らかの影響を受けることで自由水として挙動しない水分子であって、その両者と区別して中間水と称されるものであると考えられる。
また、図10に示すように、含水率が30wt%程度以上である試料においては、ポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)の拘束を受けない自由水による0℃付近での融解に起因する吸熱が顕著になり、相対的に−60℃〜−10℃の間での発熱が観察されにくくなるが、−10℃〜0℃の間での吸熱が観察されるなど、依然として中間水が存在するものと推察される。
このように、11wt%程度以上、特に20wt%程度以上の水を含水したポリ(2−メチレンブタン二酸,1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)の内部においては、含水された水分子の一部が0℃以下の温度域において規則化および不規則化を生じることに起因する潜熱の出入りが観察されることから、ポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)が中間水を含有可能であることが示された。
図10、および11に示した各種の含水率で含水したポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)の試料において観察されるDSC昇温カーブから、各含水率における不凍水、自由水、および中間水の量を算出し、その結果を図12に示す。すなわち、各含水率におけるDSC昇温カーブにおける−10℃〜0℃付近の吸熱量から各試料に含まれる中間水と自由水の合計量を求めた。そして、上記の通り測定した試料の乾燥重量と含水重量の差(W1−W0)である含水量から、求めた中間水と自由水の合計量を差し引いた値を不凍水の量として、それぞれを試料の乾燥重量(W0)で除することにより、それぞれの試料におけるポリマー単位重量当たりの不凍水の含有量、中間水・自由水の合計の含有量とし、上記式(I)により求められる含水率を横軸としてそれぞれ示した。また、図13には、図12に示したポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)試料内に含まれる不凍水、自由水、および中間水の量を、その内訳として示す。
図12、および13に示されるように、ポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)においては、含水率が10wt%程度以下の範囲では含水された水の全量が不凍水になる一方で、それ以上の含水を行った場合にも、不凍水として含水される量はほぼ一定の状態であるが中間水として含水される量が増加し(〜30wt%程度)、更に含水を行った場合には自由水としての含水が生じると考えられる。
以上のように、2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステルポリマーであるポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)においては、所定の割合以上の含水を行うことにより、含水された水分子の一部が中間水となることが明らかにされた。
このように、中間水を含有可能であるポリ(2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル)等の本発明の高分子化合物、又は、その組成物を医療機器の表面の少なくとも一部に導入することにより、医療機器の表面と生体成分の水和殻との間に中間水が存在するため、両者の接触を防止できる。このため、本発明の高分子化合物等については、生体の異物反応が制御可能であり、生体適合性を示すことが期待される。
メタノールで前洗浄したPET基板(25×60mm)に、0.2w/v%の濃度に調整した高分子メタノール溶液をスピンコーターにて塗布した。1度目のスピンコートの5分後に2度目の塗布を行った後、120℃で1時間の乾燥した。
高分子コーティングPET基板を8mm四方に切り、走査型電子顕微鏡(SEM)用試料台に固定した。ヒト血液を1500rpmで5分間遠心分離し、上澄みを多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)として回収した。残りの血液をさらに4000rpmで10分間遠心分離した上澄みを乏血小板血漿(platelet poor plasma:PPP)として回収した。PPPを、リン酸緩衝(phosphate buffered saline:PBS)溶液を用いて800倍に希釈し、さらにPRPを希釈し、顕微鏡にて血小板数を確認しながら血小板濃度が4×107cell/mLの血小板溶液を調製した。この血小板溶液を各基板に200μL滴下し、37℃にて1時間静置した。その後、各基板をPBS溶液にて2回洗浄し、1%グルタルアルデヒド溶液に浸漬し、37℃にて2時間固定した。固定化した試料はPBS溶液にて10分、PBS:水=1:1にて8分間、水にて8分間、さらに水でもう一度8分間、浸漬させて洗浄した。各試料は室温で風乾し、SEMにて血小板粘着数を計測した。
計測結果については、各基板表面に粘着した血小板の粘着形態を三種類、すなわちI型:活性化の度合いが小さい、血液中と同様の円形状の粘着形態、II型:活性化の度合いが中程度の、偽足形成が見られる粘着形態、III型:活性化の度合いが大きい、伸展した粘着形態に分類し、PETを対照として評価した。
血小板粘着数の計測結果を表2および3に示す。これらの結果から、以下のように、比較例1および2の高分子、および比較例3のPET基板(ポリマーによるコーティングなし)と比べて、本発明の抗血栓性ポリマーは、血小板の粘着数を小さく抑えることができ、良好な生体適合性、抗血栓性を示すことが明らかになった。
まず、実施例2〜6では、比較例1および2のポリマー、および比較例3のPET基板と比較して血小板粘着数が少なく、血小板が活性化されたII型、III型は少数のみ計測された。特に、モノマーとしてBAよりもBMIを多く使用した高分子化合物を使用した実施例2〜4においては、II型、およびIII型はほとんど計測されず、実施例5および6よりもさらに優れた結果が得られた。これに対し、比較例1〜3では、実施例2〜6よりも多数の血小板の粘着が認められた。
安定性試験前の評価
実験例1で各高分子をコーティングしたPET基板の中心部、左端、右端の3点についてそれぞれ水に対する接触角(°)を測定した。1点の測定につき2μLの水滴を使用した。 安定性試験の評価
実験例1で各高分子をコーティングしたPET基板と蒸留水240mLを250mLの容器に入れ、容器を60℃の振とう器に固定し、100回/分、24時間で振とうした。
PET基板を取り出した後、室温で乾燥した後、水の静的接触角を測定した。
安定性試験前後の水静的接触角を表4に示した。
実施例1〜4及び6では安定性試験前後共にPET基板と比較して接触角が低く、安定性試験前後で変化が認められずコーティング被膜のはがれは認められなかった。一方、実施例1では安定性試験前と比較して接触角が大きくなっておりコ−ティング被膜が一部はがれていると考えられたものの、実用に耐えられるレベルであった。
なお、実施例5ではPET基板と比較して接触角は高い値となったが、評価例1ではPET基板と比較して血小板の粘着数及び活性化数が小さく、2−メチレンブタン二酸エステルをモノマーとする高分子化合物が特異的に血小板の粘着数及び活性化数を抑える特性を有するものと考えられる。また、実施例1〜3においては後者ほど徐々に接触角が僅かに大きいにも係らず、血小板の粘着数は低下する傾向が認められる。
以上のことから、本願の実施例においては、接触角が大きいポリマーほど生体適合性が通常、低下するという従来の傾向とは異なる傾向が認められる。この原因として、本願の実施例のポリマーが、上述のように中間水を包含することが挙げられる。
Claims (4)
- 少なくとも一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルをモノマーとする高分子化合物であり、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である高分子化合物、
又は、
一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルと、コモノマーとの共重合体高分子化合物であり、前記高分子化合物における前記一般式(A)のモノマーと前記コモノマーとのモル比が2/5〜9/1である高分子化合物
を含む、抗血栓性の高分子材料組成物。 - 前記コモノマーが、下記一般式(B)で表される(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1に記載の抗血栓性の高分子材料組成物。
- 前記一般式(A)で表される2−メチレンブタン二酸エステルが、
2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−メトキシエチル)エステル、
2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)エステル、
2−メチレンブタン二酸1,4−ビス(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)エステルの少なくともいずれかを含む、請求項1又は2に記載の抗血栓性の高分子材料組成物。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の抗血栓性の高分子材料組成物を表面の少なくとも一部に有することを特徴とする医療機器。
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