この発明の実施形態の原理的な構成を図1にブロック図で示してある。この発明の実施形態におけるブレーキシステムは車両に搭載されて車輪の制動力を電気的に制御するように構成されたシステムであり、特に制動の確実性を担保するために、主たる制御系に対して独立したいわゆる完全冗長系を備えているシステムである。図1に示す例では、第1電子制御ユニット(第1ECU)100をコントローラとした第1制御系統101と、第2電子制御ユニット(第2ECU)102をコントローラとした第2制御系統103とを備えている。これらの各ECU100,102は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータを使用して演算を行い、その演算の結果を各車輪の制動力を制御するための指令信号として出力するように構成されている。
図1に示すブレーキ装置は、前後左右の合計四輪の制動力を制御するように構成された例であり、四輪のそれぞれに対応して二種類のブレーキアクチュエータ(以下、単にアクチュエータと記す)104−1,104−2,104−3,104−4,105−1,105−2,105−3,105−4を備えている。一方の一群のアクチュエータ104−1,〜104−4の一例は、走行中に減速のために使用されるアクチュエータであり、ブレーキ操作量(例えば図示しないブレーキペダルの踏み込み量もしくは踏力)に応じて制動力を発生させ、かつ連続的に変化させるアクチュエータである。より具体的には、一方の一群のアクチュエータ104−1,〜104−4は、摩擦力を変化させる電磁アクチュエータや油圧アクチュエータであってよく、あるいはエネルギ回生に伴う制動トルクを変化させるエネルギ回生用アクチュエータであってもよい。これらのアクチュエータ104−1,〜104−4は第1ECU100によって制御されるように構成されている。
他方の一群のアクチュエータ105−1,〜105−4の一例は、車両を停車状態に維持する制動力を発生させるパーキングブレーキ用のアクチュエータであり、パーキングブレーキ(図示せず)が操作された場合や停車状態でブレーキペダルが強く踏み込まれた場合などのことによって停車の判断が成立した場合に、車両が移動しない制動力を生じさせるアクチュエータである。第2制御系統103は、第1制御系統101のバックアップ(冗長系)として機能させることがあるので、他方の一群のアクチュエータ105−1,〜105−4は、例えば摩擦によって制動トルクを発生させ、かつ連続的に変化させるように構成されていることが好ましい。これらのアクチュエータ105−1,〜105−4は第2ECU102によって制御されるように構成されている。
したがって、例えば所定の第1の車輪に、制動力を連続的に変化させるアクチュエータ104−1とパーキングブレーキ用のアクチュエータ105−1とが設けられており、以下同様に、第2の車輪に、制動力を連続的に変化させるアクチュエータ104−2とパーキングブレーキ用のアクチュエータ105−2とが設けられ、第3の車輪に、制動力を連続的に変化させるアクチュエータ104−3とパーキングブレーキ用のアクチュエータ105−3とが設けられ、第4の車輪に、制動力を連続的に変化させるアクチュエータ104−4とパーキングブレーキ用のアクチュエータ105−4とが設けられている。
第1制御系統101における第1ECU100には、第1操作信号106と、第2操作信号107と、第1減速信号108と、第2減速信号109とが入力されている。言い換えれば、第1ECU100はこれらの信号の入力部を備えている。また、第2制御系統103における第2ECU102には、第3操作信号110と、第4操作信号111と、第3減速信号112と、第4減速信号113とが入力されている。言い換えれば、第2ECU102はこれらの信号の入力部を備えている。
操作信号は、車両の搭乗者が後述するブレーキペダルを操作した場合の操作量に関連する信号であり、例えば第1操作信号106と第3操作信号110とはブレーキペダルの踏力に対応した信号であり、これに対して第2操作信号107と第4操作信号111とはブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキストローク)に対応した信号である。したがって、ブレーキペダルアッセンブリーには、センサの一例として、踏力を検出する二つの踏力センサとブレーキストロークを検出する二つのストロークセンサとが設けられており、各制御系統101,103は、これらの各センサからそれぞれに対応するECU100,102に検出信号を出力するように構成されている。
減速信号は、ブレーキ操作によって生じた減速の程度などの減速関連量を示す信号であり、必要に応じて適宜の信号を減速信号として採用することができる。例えば、車輪の回転数、その変化率、車速、その変化率である前後加速度、エネルギ回生による減速時の回生制御量、前述したアクチュエータ104−1,〜105−4による推力(軸力)、モータを駆動力源としている場合にはそのモータの制御指令値などを減速の程度(もしくは減速量)を示す減速信号として採用することができる。また、減速信号は、上記の車輪の回転数やその変化率などのように車輪ごとの信号であってもよく、あるいは車速や前後加速度のように車両の全体としての減速の程度を示す信号であってもよい。そして、各減速信号は、同じ種類の信号であってもよく、あるいは異なる種類の信号であってもよいが、それぞれ異なる検出器もしくは検出系統からの信号とされている。例えば第1減速信号108と第3減速信号112とが共にモータ回転数であっても、それらのモータ回転数は互いに独立して設けられた互いに異なる回転数センサによって検出された信号である。同様に、例えば第2減速信号109と第4減速信号113とが所定のアクチュエータの軸力であっても、それらの軸力は互いに独立して設けられた互いに異なるストレインゲージなどの軸力センサによって検出された信号である。
各ECU100,102は、互いに依存し合わずに動作できるように構成されており、そのために、それぞれのECU100,102ごとに電源114,115が設けられ、電源114から第1ECU100に給電し、電源115から第2ECU102に給電するようになっている。さらに、各ECU100,102は、有線もしくは無線の通信経路116によって、データ通信可能に接続されており、例えばそれぞれのECU100,102の何らかの異常もしくは失陥、あるいはそれぞれのECU100,102が属している制御系統101,103の何らかのフェールもしくは失陥が検出された場合に、そのフェールもしくは失陥の信号を相互に授受するように構成されている。そして、各ECU100,102は、フェールもしくは失陥した制御系統101,103の制御をバックアップする機能(プログラム)を備えており、通信経路116を介してフェールもしくは失陥の信号を受信した場合にそのバックアップの機能を実行するように構成されている。すなわち、第1ECU100は、車両の走行中におけるブレーキペダルの操作量に応じた制動力を発生させるように一方のアクチュエータ104−1,〜104−4を制御するだけでなく、第2制御系統103の失陥時には、停車状態を維持する要求の成立によって、車両を停車状態に維持できる制動力を生じさせるように一方のアクチュエータ104−1,〜104−4を制御する。これに対して第2ECU102は、車両の停車状態を維持するように他方のアクチュエータ105−1,〜105−4を制御するだけでなく、第1制御系統101の失陥時には、車両が走行している状態でブレーキ操作された場合にその操作量に応じて制動力を発生させるように、他方のアクチュエータ105−1,〜105−4を制御する。
なお、第2制御系統103は、車両を停車状態(パーキング状態)に維持する制動力を制御するためのものであるから、その第2ECU102には、パーキングブレーキスイッチ(EPBスイッチ)117からの信号を入力するように構成することができる。このEPBスイッチ117は、図示しないパーキングブレーキレバー(サイドブレーキ)が操作された場合に信号を出力するスイッチ、あるいは図示しないシフト装置によってパーキングポジションが選択された場合に信号を出力するスイッチ、もしくはブレーキペダルが強く踏み込まれかつその踏み込み状態が所定時間継続した場合に信号を出力するスイッチなどであってよい。
この発明の実施形態である図1に示す電子制御ブレーキシステムでは、車両の走行中に減速のためにブレーキ操作されると、その操作量(操作の程度)が上記の第1操作信号106や第2操作信号107として第1ECU100に入力される。第1ECU100はそれらの操作信号106,107に基づいて、要求されている制動力を求めるとともに、その制動力を発生させるための各アクチュエータ104−1,〜104−4についての制御量(電流値や油圧など)を演算し、その演算の結果を制御指令信号として各アクチュエータ104−1,〜104−4に出力する。各アクチュエータ104−1,〜104−4が動作することにより制動力が発生し、それに伴う減速の状態は第1減速信号108や第2減速信号109として第1ECU100に入力される。これらの減速信号108,109は制動制御におけるフィードバック信号であり、制御指令信号とそのフィードバック信号との偏差によって制御信号(制御量)が補正されて、目標とする制動力が達成される。
一方、車両が停止している状態でEPBスイッチ117がオン操作されるなど、車両を停止状態に維持する要求もしくは条件が成立すると、第2ECU102はアクチュエータ105−1,〜105−4に制御指令信号を出力し、車両を停止状態に維持する制動力が発生するように各アクチュエータ105−1,〜105−4を動作させる。
車両が走行している際にブレーキ操作された場合の操作信号は、第3操作信号110や第4操作信号111として第2ECU102に入力されている。また、減速させるための上記のアクチュエータ104−1,〜104−4が動作することによる減速信号は、第3減速信号112や第4減速信号113として第2ECU102に入力されている。したがって、例えば第1制御系統101における第1ECU100やセンサ類あるいはいずれかのアクチュエータ104−1,〜104−4にフェールが生じて第1制御系統101が失陥すると、その失陥が前述した通信経路116を介して第2ECU102に伝達される。第2ECU102は前述したように、車両が走行している状態での制動力を制御するプログラムを有しているので、第1制御系統101の失陥の信号を受信することにより当該プログラムを起動して、各アクチュエータ105−1,〜105−4を走行中の減速のためのアクチュエータとして機能させる。具体的には、第3操作信号110や第4操作信号111、ならびに第3減速信号112や第4減速信号113に基づいて、ブレーキペダルの操作量に応じた制動力を生じさせるように各アクチュエータ105−1,〜105−4を制御する。すなわち、第1制御系統101の失陥時のバックアップシステム(冗長系)として第2制御系統103が機能する。
また、第2制御系統103が失陥した場合には第1制御系統101がバックアップシステムとして機能する。例えば第2制御系統103における第2ECU102やセンサ類あるいはいずれかのアクチュエータ105−1,〜105−4にフェールが生じて第2制御系統103が失陥すると、その失陥が前述した通信経路116を介して第1ECU100に伝達される。第1ECU100は前述したように、車両をパーキング状態に維持するための制動力を制御するプログラムを有しているので、第2制御系統103の失陥の信号を受信することにより当該プログラムを起動して、各アクチュエータ104−1,〜104−4をパーキング状態を維持するためのアクチュエータとして機能させる。例えば、ブレーキペダルが所定時間の間、大きい踏力で踏み込まれ続けるなどのことによる第1操作信号106や第2操作信号107に基づいて、パーキング状態を維持するための制動力を生じさせるように各アクチュエータ104−1,〜104−4を制御する。すなわち、第2制御系統103の失陥時のバックアップシステムとして第1制御系統101が機能する。
上述したように、この発明の実施形態である図1に示すシステムでは、第1制御系統101と第2制御系統103とは、コントローラやセンサ類などの検出系ならびにアクチュエータなどの動作系が互いに独立しているように構成されているので、いずれか一方の制御系統の失陥時に他方の制御系統がバックアップシステムとして確実に機能することができる。特に、いずれのECU100,102も同等の操作信号および減速信号が入力されているので、バックアップシステムとして動作する場合であっても、入力データに不足が生じることがなく、失陥が生じていない場合と同等に制御を行うことができる。また、各アクチュエータを含む動作系が各制御系統101,103で互いに独立しているから、いずれかの制御系統101,103におけるいずれかのアクチュエータにフェールもしくは失陥が生じても、失陥が生じていない場合と同等に制御を行うことができる。さらに、車両において減速のためのブレーキ機構とパーキング状態を維持するためのブレーキ機構との両方のブレーキ機構を設けることが従来行われており、この種の車両にこの発明の実施形態のシステムを用いるとすれば、それらの既存の二種類のブレーキ装置を利用して二つの制御系統101,103を構成することができる。そのため、追加して設ける機器を少なくして、冗長系のあるブレーキシステムを簡素化あるいは低廉化することができる。
なお、この発明の実施形態では、各車輪ごとにブレーキ装置およびブレーキアクチュエータを設けてもよく、あるいは複数の車輪を一群として複数の群に分け、それらの車輪群ごとにブレーキ装置およびブレーキアクチュエータを設けてもよい。
図2にこの発明の実施形態をより具体化して示してある。ここに示す例は、左右の前輪を一方の車輪群、左右の後輪を他方の車輪群として、それぞれの車輪群ごとに制動を行うように構成した例である。図2に示すこの発明の実施形態における電子制御式のブレーキシステムすなわち制動装置1は、モータ駆動装置2と共に車両に搭載される。そして、制動装置1は、運転者による制動操作(具体的には、後述するブレーキペダル31の踏み込み操作におけるストロークおよび踏力)に基づいて、車両の制動力を制御する。
制動装置1は、第1ブレーキシステム10、および、第2ブレーキシステム20、ならびに、ペダル機構30を備えている。この発明の実施形態における一方の制御系統に相当する第1ブレーキシステム10は、第1センサ11、第1ブレーキ機構12、第1コントローラ13、および、第1電源14を有している。またこの発明の実施形態における他方の制御系統に相当する第2ブレーキシステム20は、第2センサ21、第2ブレーキ機構22、第2コントローラ23、および、第2電源24を有している。ペダル機構(ブレーキペダルアッセンブリー)30は、代表的に、ブレーキペダル31、ストロークシミュレータ32、および、オペレーションロッド33を有している。
モータ駆動装置2は、駆動用モータ40、および、動力伝達機構50を備えている。駆動用モータ40は、車両の駆動力源として駆動トルクを出力する。動力伝達機構50は、駆動用モータ40が出力した駆動トルクを駆動軸3に伝達する。駆動軸3に駆動トルクが伝達されることにより、駆動軸3に連結された駆動輪(図示せず)で車両の駆動力を発生する。
図2に示す例では、制動装置1の第1ブレーキ機構12および第2ブレーキ機構22は、それぞれ、モータ駆動装置2に内蔵されている。そして、モータ駆動装置2と共に車両に搭載される。また、図2に示す例では、制動装置1およびモータ駆動装置2は、いずれも、上述した車輪群に対応するように、車両の前輪側(Fr)と後輪側(Rr)との両方に設けられる。したがって、前輪側の制動装置1は、左右の前輪がそれぞれ連結される駆動軸3aおよび駆動軸3bを制動する。また、前輪側のモータ駆動装置2は、駆動軸3aおよび駆動軸3bを駆動する。一方、後輪側の制動装置1は、左右の後輪がそれぞれ連結される駆動軸3cおよび駆動軸3dを制動する。また、後輪側のモータ駆動装置2は、駆動軸3cおよび駆動軸3dを駆動する。
図3に、制動装置1およびモータ駆動装置2の具体的な構成を示してある。上述したように、モータ駆動装置2は、駆動用モータ40および動力伝達機構50を備え、また、制動装置1の第1ブレーキ機構12および第2ブレーキ機構22を内蔵している。駆動用モータ40は、動力伝達機構50にトルクの伝達が可能なように組み付けられている。駆動用モータ40は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。
図3に示す例では、モータ駆動装置2における動力伝達機構50は、車両の差動装置を構成している。動力伝達機構50は、第1遊星歯車機構51および第2遊星歯車機構52の構造が同じ一対の遊星歯車機構、第1遊星歯車機構51と第2遊星歯車機構52とを連結する結合軸53、駆動用モータ40と結合軸53との間でトルクを伝達する歯車対54、ならびに、第1遊星歯車機構51と第2遊星歯車機構52との間でトルクを反転させて伝達する反転機構55から構成されている。第1遊星歯車機構51および第2遊星歯車機構52は、それぞれ、サンギヤ、リングギヤ、および、キャリアの、3つの回転要素を有している。図3に示す例では、第1遊星歯車機構51および第2遊星歯車機構52には、いずれも、シングルピニオン型の遊星歯車機構が用いられている。
第1遊星歯車機構51のサンギヤには、歯車対54および結合軸53を介して、駆動用モータ40の出力トルクが入力される。第1遊星歯車機構51のリングギヤは、反転機構55によって第2遊星歯車機構52のリングギヤと連結されている。第1遊星歯車機構51のキャリアには、駆動軸3a(または3c)が一体回転するように連結されている。第1遊星歯車機構51のリングギヤの外周部には、後述する反転機構55の第1ピニオン55aと噛み合う外歯歯車が形成されている。
第2遊星歯車機構52のサンギヤには、上記の第1遊星歯車機構51のサンギヤと共に、歯車対54および結合軸53を介して、駆動用モータ40の出力トルクが入力される。第2遊星歯車機構52のリングギヤは、反転機構55によって第1遊星歯車機構51のリングギヤと連結されている。第2遊星歯車機構52のキャリアには、駆動軸3b(または3d)が一体回転するように連結されている。第2遊星歯車機構52のリングギヤの外周部には、後述する反転機構55の第2ピニオン55bと噛み合う外歯歯車が形成されている。
結合軸53は、駆動用モータ40の出力軸41と平行に配置され、第1遊星歯車機構51のサンギヤと、第2遊星歯車機構52のサンギヤとを連結している。結合軸53の中央部分には、後述する歯車対54のドリブンギヤ54bが取り付けられている。
歯車対54は、駆動用モータ40の出力軸41と第1遊星歯車機構51および第2遊星歯車機構52との間で動力伝達経路を形成している。歯車対54は、互いに噛み合うドライブギヤ54aおよびドリブンギヤ54bから構成されている。ドライブギヤ54aは、出力軸41と一体回転する入力軸42に、入力軸42と一体回転するように固定されている。ドリブンギヤ54bは、結合軸53の中央部分に、結合軸53と一体回転するように固定されている。したがって、駆動用モータ40の出力トルクは、ドライブギヤ54aおよびドリブンギヤ54bを介して、結合軸53へ伝達される。
反転機構55は、第1遊星歯車機構51のリングギヤと第2遊星歯車機構52のリングギヤとの間で、いずれか一方のリングギヤのトルクを反転させて他方のリングギヤへ伝達するように構成されている。図3に示す例では、反転機構55は、第1ピニオン55aおよび第2ピニオン55bから構成されている。第1ピニオン55aは、出力軸41および結合軸53と平行に配置され、動力伝達機構50のケース56に回転自在に支持されている。第1ピニオン55aは、第2ピニオン55bと噛み合わされるとともに、第1遊星歯車機構51のリングギヤの外周部に形成された外歯歯車とも噛み合わされている。同様に、第2ピニオン55bは、第1ピニオン55aと噛み合わされるとともに、第2遊星歯車機構52のリングギヤの外周部に形成された外歯歯車とも噛み合わされている。
第1ブレーキ機構12は、電磁石に通電することにより作動して所定の回転部材を制動する励磁作動式の電磁ブレーキによって構成されている。図3に示す例では、第1ブレーキ機構12は、軸線方向には移動しない固定磁極として機能するブレーキロータ15、および、軸線方向に移動する可動磁極として機能するブレーキステータ16から構成される制動用ソレノイド17を備えている。この制動用ソレノイド17がこの発明の実施形態におけるアクチュエータに相当している。ブレーキロータ15は、入力軸42の先端に、駆動用モータ40の出力軸41および入力軸42と一体回転するように取り付けられている。ブレーキステータ16は、出力軸41の軸線方向への移動が可能であり、かつ、出力軸41の回転方向へは回転が不可能なように、ケース56に組み込まれている。そして、制動用ソレノイド17は、通電されることにより磁気吸引力を発生するコイル18を有している。したがって、第1ブレーキ機構12は、制動用ソレノイド17に通電することにより、コイル18で発生する磁気吸引力によってブレーキロータ15とブレーキステータ16とを摩擦係合させるように作動し、制動トルクを発生する。すなわち、第1ブレーキ機構12は、電気エネルギを利用して作動し、車両の制動力を発生するための摩擦力を、出力軸41および入力軸42を介して駆動軸3に付与する。
第2ブレーキ機構22は、電気モータに通電することにより作動して所定の回転部材を制動する電動ブレーキによって構成されている。また、第1ブレーキ機構12に対する通電が無くなった場合であっても、ブレーキロータ15とブレーキステータ16とを摩擦係合させて出力軸41を制動した状態を維持することが可能なように構成されている。すなわち、第2ブレーキ機構22は、車両の停止状態を維持するパーキングブレーキとしての機能を有している。図2に示す例では、第2ブレーキ機構22は、送りねじ機構25、および、送りねじ機構25を作動させる制動用モータ26を備えている。この制動用モータ26がこの発明の実施形態におけるアクチュエータに相当している。送りねじ機構25は、制動用モータ26が出力するトルクによる回転運動を直線運動に変換し、ブレーキステータ16を出力軸41の軸線方向でブレーキロータ15側へ押圧する作動装置である。第2ブレーキ機構22は、制動用モータ26によって送りねじ機構25に所定の回転方向(正転方向とする)のトルクを付与することにより、ブレーキロータ15とブレーキステータ16とを摩擦係合させて出力軸41を制動する。すなわち、第2ブレーキ機構22は、電気エネルギを利用して作動し、車両の制動力を発生するための摩擦力を、出力軸41および入力軸42を介して駆動軸3に付与する。なお、制動用モータ26によって送りねじ機構25に逆転方向のトルクを付与することにより、この第2ブレーキ機構22による出力軸41の制動を解除することができる。
また、第2ブレーキ機構22における送りねじ機構25は、直線運動を回転運動に変換する場合の送りねじの逆効率が、回転運動を直線運動に変換する場合の送りねじの正効率よりも低く設定されている。したがって、送りねじ機構25でブレーキステータ16をブレーキロータ15側へ押圧し、出力軸41を制動した状態を維持することができる。そのため、制動用モータ26によって送りねじ機構25を作動させ、出力軸41を制動した状態で、前述の第1ブレーキ機構12および制動用モータ26に対する通電が止められた場合であっても、第2ブレーキ機構22による出力軸41の制動状態を維持することができる。したがって、この第2ブレーキ機構22における送りねじ機構25は、回転運動を直線運動に変換して駆動軸3を制動するための推力を発生するとともに、推力を発生して駆動軸3を制動した状態を保持することが可能な推力発生機構である。
さらに、第1ブレーキ機構12に代えて第2ブレーキ機構22を制御することにより、第1ブレーキ機構12と同様に制動トルクを制御することができる。すなわち、第2ブレーキ機構22を第1ブレーキ機構12のバックアップとして機能させることができる。
上記のように第1ブレーキ機構12および第2ブレーキ機構22を組み込んだモータ駆動装置2が車両に搭載される。すなわち、モータ駆動装置2、ならびに、制動装置1の第1ブレーキ機構12および第2ブレーキ機構22が車両に搭載される。したがって、第1ブレーキ機構12および第2ブレーキ機構22は、いわゆるインボードブレーキとして車体に設置される。そのため、車輪に制動装置を装着する従来の車両と比較して、車両のばね下荷重を軽減することができ、車両の走行性能や乗り心地を向上することができる。
図4に、ペダル機構30の具体的な構成を示してある。ペダル機構30は、制動装置1の操作装置であり、上述したように、ブレーキペダル31、ストロークシミュレータ32、および、オペレーションロッド33から構成されている。ペダル機構30は、運転者がブレーキペダル31を踏み込む際に、運転者に適切なブレーキ操作のフィーリングを与えるため、踏み込み操作の際の踏力に対抗する反力を発生する。
ブレーキペダル31は、レバー31aおよび踏面31bから形成されている。レバー31aは、一方の端部(上端部)を中心にして回転するように吊り下げた状態で、車体34に支持されている。踏面31bは、運転者による踏み込み操作の際に踏力を受ける部分であり、レバー31aの他方の端部(下端部)形成されている。
また、ブレーキペダル31は、支点部35、および、出力部36を有している。支点部35は、ブレーキペダル31を回転可能に車体34に支持する部位であり、レバー31aの上端部に形成されている。図4に示す例では、支点部35は、レバー31aに形成された穴35a、および、穴35aに挿入されるとともに車体34に固定され、レバー31aを車体34に支持するピン35bから構成されている。穴35aおよびピン35bは、互いに相対回転が可能なように形成されている。
出力部36は、ブレーキペダル31とオペレーションロッド33とを連結し、ブレーキペダル31が踏み込み操作される際の踏力をオペレーションロッド33へ伝達する部位であり、図4に示す例では、レバー31aの中間部分に形成されている。また、出力部36は、レバー31aに固定されるピン36b、および、オペレーションロッド33の一方の端部に形成され、ピン36bを挿入してレバー31aとオペレーションロッド33とを連結する穴36aから構成されている。ピン36bおよび穴36aは、互いに相対回転が可能なように形成されている。
この図4に示す例では、ブレーキペダル31が踏み込み操作される際のストロークに応じて、その踏み込み操作の際の踏力に対抗する反力を発生する反力付与機構として、ストロークシミュレータ32が設けられている。ストロークシミュレータ32は、ケース32a、弾性部材32b、および、付加反力発生部32cから構成されている。ケース32aは、内部にシリンダが形成された円筒状の部材であり、シリンダの中空部分に、弾性部材32b、付加反力発生部32c、および、後述する入力部37などを収容する。弾性部材32bは、ブレーキペダル31が踏み込み操作される際の踏力によって圧縮されて弾性変形する部材である。弾性部材32bは、圧縮されることによって上記のような反力を発生するとともに、その反力によってブレーキペダル31を所定の原点位置に復帰させる。弾性部材32bは、例えば、圧縮コイルばねによって形成される。付加反力発生部32cは、弾性部材32bによる反力に加えて、上記のような踏力に対抗する力(付加反力)を発生する。付加反力発生部32cは、例えば、電気的に制御されて付加反力を発生する機構を有し、電磁気力や摩擦力などを付加反力としてブレーキペダル31に付与するように構成されている。
また、ストロークシミュレータ32は、入力部37と、固定部38とを有している。入力部37は、オペレーションロッド33と弾性部材32bとを連結し、ブレーキペダル31が踏み込み操作される際の踏力を弾性部材32bへ伝達する部位である。入力部37は、ケース32aに形成されたシリンダの内周部分に収容されるピストン状の部材によって形成されている。入力部37は、例えば、入力部37とオペレーションロッド33とのそれぞれに形成された穴37a、および、それら両方の穴に挿入されるピン37bにより、オペレーションロッド33に連結されている。入力部37は、オペレーションロッド33からの踏力を受けて弾性部材32bを圧縮するように、弾性部材32bの軸線方向(図3の左右方向)に直線運動する。したがって、入力部37は、ケース32aに対して弾性部材32bの軸線方向に相対移動が可能なように、ケース32aの内部に保持されている。
固定部38は、弾性部材32bが圧縮される際の反力を受ける部位であり、例えば、ケース32aの底面部分に形成されている。固定部38は、弾性部材32bの一方の端部と接触して反力を受ける載荷面38aを有している。ストロークシミュレータ32は、この固定部38で車体34に固定されている。
オペレーションロッド33は、ブレーキペダル31とストロークシミュレータ32との間で力を伝達する伝動部材である。上記のように、オペレーションロッド33は、両端がそれぞれレバー31aおよび入力部37に連結されている。したがって、オペレーションロッド33は、ブレーキペダル31からストロークシミュレータ32に向けて踏力を伝達するとともに、その踏力に対抗してストロークシミュレータ32が発生する反力をブレーキペダル31へ向けて伝達する。
図4に示すように、第1ブレーキシステム10における第1センサ11は、主に通常時に機能するメインの第1ストロークセンサ(S1)11aおよび第1踏力センサ(F1)11bを備えている。また、第2ブレーキシステム20における第2センサ21は、主に異常時に機能する冗長系の第2ストロークセンサ(S2)21aおよび第2踏力センサ(F2)21bを備えている。これらの第1センサ11と第2センサ21とのいずれか一方がこの発明の実施形態における第1操作関連量検出器に相当し、他方が第2操作関連量検出器に相当する。
第1ストロークセンサ11aは、ブレーキペダル31の支点部35に設けられている。第1ストロークセンサ11aは、穴35aとピン35bとが相対回転する際の回転角度を、ブレーキペダル31のストローク(操作量)として検出する。第1ストロークセンサ11aは、例えば、可変抵抗器を用いたポテンショメータや、ロータリー・エンコーダなどによって構成される。
第1踏力センサ11bは、ブレーキペダル31の出力部36に設けられている。第1踏力センサ11bは、出力部36の穴36aとピン36bとの間に作用する荷重もしくは発生する応力を、ブレーキペダル31の踏力として検出するように構成されている。第1踏力センサ11bは、例えば、歪みゲージや、感圧ダイオードなどによって構成される。
第2ストロークセンサ21aは、ストロークシミュレータ32の入力部37に設けられている。第2ストロークセンサ21aは、入力部37がケース32aに対して相対移動する際の変位を、ブレーキペダル31のストローク(操作量)として検出する。第2ストロークセンサ21aは、例えば、可変抵抗器を用いたポテンショメータや、リニア・エンコーダなどによって構成される。
第2踏力センサ21bは、ストロークシミュレータ32の固定部38に設けられている。第2踏力センサ21bは、固定部38の載荷面38aと弾性部材32bとの間に作用する荷重もしくは発生する応力を、ブレーキペダル31の踏力として検出する。第2踏力センサ21bは、例えば、歪みゲージあるいは歪みゲージを用いたロードセルや、感圧ダイオードなどによって構成される。
さらに、ブレーキの動作状態すなわち車両の減速状態を検出するためのセンサが設けられている。前輪側および後輪側のそれぞれの第1ブレーキシステム10には、ブレーキロータ15の回転数を検出して信号を出力する第1ブレーキ回転数センサ15Fr1,15Rr1と第2ブレーキ回転数センサ15Fr2,15Rr2とが設けられている。それらの回転数センサのうち第1ブレーキ回転数センサ15Fr1,15Rr1は第1コントローラ13に検出信号を入力し、また第2ブレーキ回転数センサ15Fr2,15Rr2は第2コントローラ23に検出信号を入力するように構成されている。各コントローラ13,23は、それらの入力されたブレーキ回転数あるいはその変化量もしくは変化率に基づいて減速の状態を判定するようになっている。
発電機能のある駆動用モータ40を駆動力源として備えているので、減速時には駆動用モータ40を発電機として機能させ、それに伴うトルクを制動力として機能させることができる。このような回生制動時の減速の状態を検出するために、駆動用モータ40の回転数を利用することが可能である。図2に示す例では、前輪側および後輪側のモータ駆動装置2にモータ回転数センサ40Fr,40Rrが設けられており、それらのモータ回転数センサ40Fr,40RrはモータコントローラMG−ECUに接続されている。モータコントローラMG−ECUは、駆動用モータ40の駆動および回生を制御するためのマイクロコンピュータを主体とした電子制御装置であって、モータ回転数センサ40Fr,40Rrから入力された信号に基づいて減速の程度もしくは減速の状態を判定するように構成されている。そして、このモータコントローラMG−ECUは前述した第1コントローラ13および第2コントローラ23に電気的に接続され、相互にデータを授受するように構成されている。なお、モータコントローラMG−ECUは、駆動用モータ40によるエネルギ回生を制御するように構成されており、そのエネルギ回生制御のデータを、前述した減速信号として第1コントローラ13および第2コントローラ23に伝送するように構成することもできる。なお、これらの回転数センサ15Fr1,15Rr1,15Fr2,15Rr2,40Fr,40Rrのいずれかがこの発明の実施形態における第1減速関連量検出器に相当し、他のいずれかが第2減速関連量検出器に相当する。
上記のように、この発明の実施形態における制動装置1では、ブレーキペダル31が踏み込まれる際のストロークおよび踏力を検出するセンサが、第1ストロークセンサ11a、第1踏力センサ11b、第2ストロークセンサ21a、および、第2踏力センサ21bの四つの異なるセンサによって構成される。第1ストロークセンサ11a、第1踏力センサ11b、第2ストロークセンサ21a、および、第2踏力センサ21bは、それぞれ、ブレーキペダル31およびストロークシミュレータ32の異なる位置で、かつ、動作や変化が異なる部位に設置されている。したがって、例えば、第1ストロークセンサ11aおよび第1踏力センサ11bをメインのセンサとすれば、第2ストロークセンサ21aおよび第2踏力センサ21bによって冗長系のセンサを構成することができる。すなわち、二系統のセンサを構成することができる。そのため、制動装置1の信頼性を向上させることができる。また、いずれかのセンサが故障した場合であっても、正常な他のセンサによって適切にバックアップすることができ、ブレーキ操作のフィーリングを維持することができる。
図5,図6,図7に、この発明の実施形態における制動装置と共に車両に搭載されるモータ駆動装置の他の例を示してある。図5に示すモータ駆動装置4は、駆動用モータ40、および、動力伝達機構60を備えている。動力伝達機構60は、車両の差動装置を構成するとともに、トルクベクタリングが可能なように構成されている。そのために、動力伝達機構60は、前述の動力伝達機構50の構成に加えて、差動用モータ61を備えている。なお、図5において、前述の図3に示す制動装置1およびモータ駆動装置2と構成や機能が同じ部材については、図3と同じ参照符号を付けてある。
差動用モータ61は、第1遊星歯車機構51および第2遊星歯車機構52から構成される差動機構のいずれかの回転要素に、差動制御用のトルク(差動トルク)を付与するための電気モータである。差動用モータ61は、差動トルクを出力して差動機構に付与することにより、駆動用モータ40から左右の駆動軸3a(または3c),3b(または3d)へ伝達するトルクの配分比を制御する。図5に示す例では、差動用モータ61の回転軸62と一体の出力軸63の先端に取り付けられたピニオン64が、カウンタギヤ65を介して、第1遊星歯車機構51のリングギヤの外周部に形成された外歯歯車に噛み合っている。したがって、差動用モータ61から第1遊星歯車機構51のリングギヤに差動トルクを入力することにより、駆動用モータ40から一方の駆動軸3a(または3c)に伝達されるトルクの配分比が増大し、他方の駆動軸3b(または3d)に伝達されるトルクの配分比が、一方の駆動軸3a(または3c)で増大する分だけ減少する。
また、この図5に示すモータ駆動装置4は、差動制限機構66を備えている。差動制限機構66は、第1遊星歯車機構51および第2遊星歯車機構52から構成される差動機構のいずれかの回転要素に摩擦制動力を作用させてその回転要素に差動制限トルクを付与することにより、左右の駆動軸3a(または3c),3b(または3d)の間の差動回転を制限する機構である。図5に示す例では、差動制限機構66は、通電が無い状態ではばねの弾性力を利用して制動トルクを発生し、通電されることにより作動して制動トルクを減少させる無励磁作動式の電磁クラッチによって構成されている。
図6に示す例は、前後左右の四輪ごとにブレーキ装置および駆動モータを設けた例であり、図6に示すモータ駆動装置5は、二つの駆動用モータ71,72、および、二つの動力伝達機構73,74を備えている。二つの駆動用モータ71,72は、モータ駆動装置5の本体を挟んだ左右両側に対向して配置されている。左側の駆動用モータ71が出力した駆動トルクが、動力伝達機構73を介して駆動軸3aに伝達され、右側の駆動用モータ72が出力した駆動トルクが、動力伝達機構74を介して駆動軸3bに伝達される。動力伝達機構73,74は、それぞれ、駆動用モータ71,72の出力トルクを増幅して駆動軸3a,3bに伝達する減速機構を構成している。
左右の駆動用モータ71,72の回転軸に、それぞれ、第1ブレーキ機構12の電磁ブレーキが設けられている。また、左右の駆動用モータ71,72の回転軸をそれぞれ制動する第2ブレーキ機構22が設けられている。すなわち、この図6に示すモータ駆動装置5では、第1ブレーキ機構12および第2ブレーキ機構22が、それぞれ二つずつ設けられている。また、第2ブレーキ機構22に対応して、軸力センサ28も二つ設置されている。
さらに、図6に示す例では、減速の程度もしくは減速の状態を検出するために、各車輪のブレーキ機構12,22にブレーキ回転数センサが設けられている。すなわち、左前輪のブレーキ機構12,22におけるブレーキロータの回転数を検出する第1ブレーキ回転数センサ15Frl1と第2ブレーキ回転数センサFrl2とが設けられている。以下同様に、右前輪のブレーキ機構12,22におけるブレーキロータの回転数を検出する第1ブレーキ回転数センサ15Frr1と第2ブレーキ回転数センサ15Frr2とが設けられ、左後輪のブレーキ機構12,22におけるブレーキロータの回転数を検出する第1ブレーキ回転数センサ15Rrl1と第2ブレーキ回転数センサ15Rrl2とが設けられ、右後輪のブレーキ機構12,22におけるブレーキロータの回転数を検出する第1ブレーキ回転数センサ15Rrl1と第2ブレーキ回転数センサ15Rrr2とが設けられている。そして、第1ブレーキ回転数センサ15Frl1,15Frr1,15Rrl1,15Rrr1が第1コントローラ13に電気的に接続され、また第2ブレーキ回転数センサ15Frl2,15Frr2,15Rrl2,15Rrr2が第2コントローラ23に電気的に接続されている。
なお、図6には特には図示していないが、各駆動用モータ71,72ごとに回転数センサを設け、その検出信号をモータコントローラを介して第1コントローラ13と第2コントローラ23とに入力するように構成してもよい。
図7に示すモータ駆動装置6は、二つの駆動用モータ81,82、二つの動力伝達機構83,84、および、クラッチ機構85を備えている。二つの駆動用モータ81,82は、モータ駆動装置6の本体を挟んだ左右両側に対向して配置されている。左側の駆動用モータ81が出力した駆動トルクが、動力伝達機構83を介して駆動軸3aに伝達され、右側の駆動用モータ82が出力した駆動トルクが、動力伝達機構84を介して駆動軸3bに伝達される。動力伝達機構83,84は、それぞれ、駆動用モータ81,82の出力トルクを増幅して駆動軸3a,3bに伝達する減速機構を構成している。
クラッチ機構85は、左右の駆動用モータ81,82の間に配置され、駆動用モータ81の回転軸と駆動用モータ82の回転軸とを選択的に連結する。この図7に示す例では、クラッチ機構85は、通電が無い状態で開放し、通電されることにより係合して駆動用モータ81の回転軸と駆動用モータ82の回転軸と連結する無励磁作動式の電磁クラッチによって構成されている。したがって、クラッチ機構85は、左右の駆動軸3a(または3c),3b(または3d)の間の差動回転を制限する差動制限機構として機能する。
左右の駆動用モータ81,82の回転軸に、それぞれ、第1ブレーキ機構12の電磁ブレーキが設けられている。また、この図7に示すモータ駆動装置6では、上記のように差動制限機構として機能するクラッチ機構85を備えていることにより、第2ブレーキ機構22は、左右の駆動用モータ81,82のいずれか一方の回転軸を制動するように設けられている。図7に示す例では、右側の駆動用モータ82に、第2ブレーキ機構22が設けられている。また、第2ブレーキ機構22に対応して、軸力センサ28が設置されている。
そして、図7に示す例においても、各車輪ごとの第1ブレーキ機構12に第1および第2のブレーキ回転数センサ15Frl1,15Frl2,15Frr1,15Frr2,15Rrl1,15Rrl2,15Rrr1,15Rrr2が設けられ、それらの検出信号が、上記の図6に示す例と同様に、第1コントローラ13および第2コントローラ23に入力されている。また、図6に示す例と同様に、各駆動用モータ81,82ごとに回転数センサを設け、その検出信号をモータコントローラを介して第1コントローラ13と第2コントローラ23とに入力するように構成してもよい。
ここで、この発明の実施形態における制御のための信号の入出力系統を例示すると以下のとおりである。図8にその一例をブロック図で示してあり、ここに示す例は、電磁ブレーキECUを走行中の制動に使用する常用コントローラとし、パーキングブレーキを制御するEPB−ECUを常用コントローラに対するバックアップのためのコントローラとして構成し、さらにこれらのコントローラを統合して制御する統合ECUを設けた例である。その統合ECUと電磁ブレーキECUとは一体的に構成されており、その電磁ブレーキECUから前輪側のFr電磁ブレーキアクチュエータ(Fr電磁ブレーキAct)と後輪側のRr電磁ブレーキアクチュエータ(Rr電磁ブレーキAct)とに制御指令信号を出力するようになっている。これらの電磁ブレーキActは、車輪の制動力を連続的に変化させることのできるアクチュエータである。これらのアクチュエータを制御するためのデータとして第1踏力と第1ストロークとが統合ECUに入力されている。なお、踏力はブレーキペダルを踏み込んでいる力であり、ストロークはブレーキペダルの踏み込み量である。また、車両の車速や駆動もしくは減速の状態を示す信号が減速信号として統合ECUに入力されている。その減速信号の例は、前輪の駆動用モータの回転数(Frモータ回転数)、後輪の駆動用モータの回転数(Rrモータ回転数)、前輪の回転数であるFr車輪速、後輪の回転数であるRr車輪速などである。なお、車輪速は、各車輪ごとの車輪速であってもよい。
さらに、駆動用モータを制御するためのMG−ECUが設けられており、このMG−ECUは統合ECUのデータを授受できるように接続されている。このMG−ECUは、駆動用モータを駆動力源として機能するように制御するだけでなく、駆動用モータを発電機として機能させていわゆる回生制動を行うように構成されており、そのためにMG−ECUは前輪用のFr回生ブレーキアクチュエータ(Fr回生ブレーキAct)と後輪用のRr回生ブレーキアクチュエータ(Rr回生ブレーキAct)とに回生制御指令信号を出力するように構成されている。この回生制御指令信号に応じて車両が減速させられるので、その回生制御指令信号は統合ECUに減速信号として入力されている。なお、前述したFrモータ回転数およびRrモータ回転数はMG−ECUにも入力されている。したがって、統合ECUに対するFrモータ回転数およびRrモータ回転数の入力は、MG−ECUを介して行うように構成してもよい。そして、統合ECUや電磁ブレーキECUならびにMG−ECUに対しては第1補機電源から給電されている。
一方、EPB−ECUから前輪用のパーキングブレーキアクチュエータ(FrEPB−Act)と後輪用のパーキングブレーキアクチュエータ(RrEPB−Act)とに制御指令信号を出力するようになっている。これらのアクチュエータは、前輪ならびに後輪の回転を止めて車両を停止状態に維持する制動力を発生するだけでなく、前輪ならびに後輪の制動力を連続的に変化させることのできるアクチュエータである。これらのアクチュエータを制御するためのデータとして第2踏力と第2ストロークとがMG−ECUに入力されている。また、車両の車速や駆動もしくは減速の状態を示す信号が減速信号として統合ECUに入力されている。その減速信号の例は、前輪のブレーキ機構の回転数であるFrブレーキ回転数、後輪のブレーキ機構の回転数であるRrブレーキ回転数、前輪の回転を止めるパーキングブレーキにおける軸力であるFrEPB軸力センサからの信号、後輪の回転を止めるパーキングブレーキにおける軸力であるRrEPB軸力センサからの信号などである。そして、EPB−ECUは上記の電磁ブレーキECUにデータを授受できるように接続されており、また第2補機電源から給電されている。なお、Frブレーキ回転数およびRrブレーキ回転数は、前述した電磁ブレーキECUにも入力してもよい。
したがって、図8に示す例では、統合ECUや電磁ブレーキECU、およびこれらに接続されているアクチュエータやセンサ類がこの発明の実施形態における第1制御系統を構成し、またEPB−ECUおよびこれに接続されているアクチュエータやセンサ類がこの発明の実施形態における第2制御系統を構成している。そして、第1制御系統が失陥した場合に、第2制御系統がバックアップシステムとして機能し、走行中の制動力が制御される。その第2制御系統におけるアクチュエータや操作信号ならびに減速信号は、第1制御系統におけるアクチュエータや操作信号ならびに減速信号と同等もしくは等価であるから、第1制御系統が失陥した場合の制動制御を、失陥の生じていない正常状態と同様に実行することができる。
図9に示す例は、統合ECUと一体の第1ブレーキECUと、これとは別に設けられている第2ブレーキECUとが共に、常用コントローラとして機能するように構成した例である。その統合ECUあるいは第1ブレーキECUから前輪側のFr電磁ブレーキアクチュエータ(Fr電磁ブレーキAct)と後輪側のパーキングブレーキアクチュエータ(RrEPB−Act)とに制御指令信号を出力するようになっている。これらのアクチュエータを制御するためのデータとして第1踏力と第1ストロークとが統合ECUに入力されている。また、車両の車速や駆動もしくは減速の状態を示す信号が減速信号として統合ECUに入力されている。その減速信号の例は、前輪の駆動用モータの回転数(Frモータ回転数)、後輪の駆動用モータの回転数(Rrモータ回転数)、前輪の回転数であるFr車輪速、後輪の回転数であるRr車輪速、後輪の回転を止めるパーキングブレーキにおける軸力であるRrEPB軸力センサからの信号などである。なお、車輪速は、各車輪ごとの車輪速であってもよい。
さらに、駆動用モータを制御するためのMG−ECUが設けられており、このMG−ECUは統合ECUのデータを授受できるように接続されている。このMG−ECUは、駆動用モータを駆動力源として機能するように制御するだけでなく、駆動用モータを発電機として機能させていわゆる回生制動を行うように構成されており、そのためにMG−ECUは前輪用のFr回生ブレーキアクチュエータ(Fr回生ブレーキAct)と後輪用のRr回生ブレーキアクチュエータ(Rr回生ブレーキAct)とに回生制御指令信号を出力するように構成されている。この回生制御指令信号に応じて車両が減速させられるので、その回生制御指令信号は統合ECUに減速信号として入力されている。なお、前述したFrモータ回転数およびRrモータ回転数はMG−ECUにも入力されている。したがって、統合ECUに対するFrモータ回転数およびRrモータ回転数の入力は、MG−ECUを介して行うように構成してもよい。そして、統合ECUや電磁ブレーキECUならびにMG−ECUに対しては第1補機電源から給電されている。
一方、第2ブレーキECUから前輪用のパーキングブレーキアクチュエータ(FrEPB−Act)と後輪側のRr電磁ブレーキアクチュエータ(Rr電磁ブレーキAct)とに制御指令信号を出力するようになっている。これらのアクチュエータを制御するためのデータとして第2踏力と第2ストロークとが第2ブレーキECUに入力されている。また、車両の車速や駆動もしくは減速の状態を示す信号が減速信号として第2ブレーキECUに入力されている。その減速信号の例は、後輪のブレーキ機構の回転数であるRrブレーキ回転数、前輪の回転を止めるパーキングブレーキにおける軸力であるFrEPB軸力センサからの信号などである。そして、第2ブレーキECUは上記の第1ブレーキECUにデータを授受できるように接続されており、また第2補機電源から給電されている。
したがって、図9に示す例では、統合ECUや第1ブレーキECU、およびこれらに接続されているアクチュエータやセンサ類がこの発明の実施形態における第1制御系統を構成し、また第2ブレーキECUおよびこれに接続されているアクチュエータやセンサ類がこの発明の実施形態における第2制御系統を構成している。これらの各制御系統は、電磁ブレーキとパーキングブレーキとをそれぞれ制御することができるので、いずれか一方の制御系統が常用される。そして、常用の制御系統が失陥した場合に、通常時は休止状態になっていた制御系統がアクティブになり、走行中の制動力および車両を停止状態に維持するための制動力を制御する。各制御系統は上述したように、アクチュエータや操作信号ならびに減速信号が共に同等もしくは等価であるから、一方の制御系統が失陥した場合の制動制御を、失陥の生じていない正常状態と同様に実行することができる。