以下、図1〜図8Bを参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るトルク伝達装置100の適用例を概念的に示す図である。トルク伝達装置100は、車両に搭載されたエンジン101とトランスミッション102との間の動力伝達経路に、図示しないクラッチを介してあるいはクラッチを介さずに介装される。
トルク伝達装置100は、軸方向に延在する軸線CL0を中心にそれぞれ回転可能に設けられた第1回転体1および第2回転体2と、第1回転体1と第2回転体2との間のトルク伝達経路TPに配置されたばね3とを有する。第1回転体1はエンジン101の出力軸(クランクシャフト)101aに連結され、第2回転体2はトランスミッション102の入力軸102aに連結される。第1回転体1に入力されたエンジン101からのトルクは、ばね3を介して第2回転体2に伝達される。このとき、ばね3の伸縮により、第1回転体1と第2回転体2との間のトルク変動が吸収される。これにより、エンジン101の回転変動による振動がトランスミッション102に伝達されることを抑制できる。
図2は、本発明の実施形態に係るトルク伝達装置の要部構成を示す断面図(軸線CL0を含む断面図)であり、図3は、図2のIII-III線に沿った断面図(軸線CL0に直交する断面図)である。図2は、図3のII-II線に沿った断面形状に対応する。以下では、便宜上、図2に示すように軸線CL0に沿って前後方向を定義するとともに、軸線CL0を中心として放射状に延びる方向を径方向、軸線CL0を中心とした円に沿った方向を周方向と定義し、これらの定義に従い各部の構成を説明する。
図2,3に示すように、第1回転体1は、軸線CL0を中心とした略リング形状の前板11および後板12と、軸線CL0を中心とした略円板形状の中央板13とを一体に有する。図2に示すように、後板12は、径方向に延在する側板部121と、側板部121の外径側端部から前方に屈曲して軸方向に延在する円環部122とを有する。中央板13の後面には、側板部121の内径側端部が周方向複数のリベット14により結合される。
前板11は、径方向に延在する側板部111と、側板部111の内径側端部から後方に屈曲して軸方向に延在する円環部112とを有する。側板部111の外径側端部の前面には、断面略L字形状の環状板113が溶接などで接合される。環状板113の外周面には、全周にわたって不図示のギヤ(リングギヤ)が設けられ、ギヤを介して環状板113にエンジン101からのトルクが入力される。
後板12の円環部122の前端部は、前板11の外径側端部に溶接で接合あるいはボルトを介して締結される。このとき、中央板13の外周面と前板11の円環部112の内周面との間に、リング状の空間SP1が形成されるとともに、前板11の側板部111と後板12の側板部121との間に、円環部122により外周側が覆われたリング状の空間SP2が形成される。空間SP1と空間SP2とは、前板11の円環部112の後端部と後板12の側板部121との間のリング状の空間SP3を介して連通する。
図4は、後板12の平面図(前方から見た図)である。なお、図4には、後述するばね3とシート材4の一部を併せて示す。さらに図4には、後述する第2回転体2の内部板21を点線で示す。図4に示すように、側板部121の前面には、周方向2箇所に等間隔に、互いに同一形状の凹部121aが形成される。凹部121aは、軸線CL0を中心として円弧状に延在し、径方向に所定距離隔てて互いに対向する一対の周面51,52(内周面51および外周面52)と、一対の周面51,52の周方向両端部を接続する一対の側端面53,54とを有する。凹部121aは、例えばプレス加工により側板部121を後方に膨出させることにより形成される。
凹部121aの外周面52は、円環部122の内周面56に軸方向に段差なく連なり(図2参照)、周面56と周面52とが、収容部50の外周面55を構成する。なお、収容部50は、後述するようにばね3とシート材4とが収容される空間であり、空間SP2の一部が収容部50を構成する。一対の凹部121a,121aの間には、凹部121aを有しない境界部121bが設けられる。境界部121bの断面形状は、凹部121aが加工される前の側板部111の断面形状に等しい(図2参照)。
前板11にも、後板12と同様、周方向2箇所に、互いに同一形状の凹部111aが形成されるとともに、一対の凹部111a,111aの間に境界部111bが形成される。すなわち、図2に示すように、前板11の後面には、後板12の凹部121aに対向して凹部111aが形成されるとともに、境界部121bに対向して境界部111bが形成される。凹部111aは、後板12の凹部121aと同様、内周面と一対の側端面とを有する。以下、凹部111aの内周面および側端面を、凹部121aの内周面51および側端面53,54と共通の符号で表す。凹部111aの内周面51および側端面53,54は、凹部121aの内周面51および側端面53,54をそれぞれ軸方向に延長した面上に位置する。すなわち、凹部111aの内周面51および側端面53,54と凹部121aの内周面51および側端面53,54とは、周方向および径方向において互いに同一位置に設けられる。内周面51および側端面53,54は収容部50を形成する。
なお、本実施形態では、後板12の円環部122の内周面56に連なる後板12の凹部121aの外周面52が、収容部50の外周面55の一部を構成するようにしたが、前板11の凹部111aに、後板12の凹部121aと同様の外周面52を設け、この外周面52が収容部50の外周面55の一部を構成するようにしてもよい。
図3に示すように、各収容部50には複数(図では4本)のばね3が直列に配置される。ばね3は例えばストレート形状のコイルばねであり、その長手方向の両端部はシート材(ばね受け)4により保持される。シート材4は、収容部50の周方向両端部に配置された第1シート材41および第2シート材42と、第1シート材41と第2シート材42との間に配置された複数(図では2個)の中間シート材43とを含む。エンジン101により回転駆動される第1回転体1の回転方向を図3に矢印R1で示すと、第1シート材41は、収容部50内の回転方向の最後部に位置し、第2シート材42は回転方向の最前部に位置する。
各シート材4の前後両端部は、それぞれ凹部111a,121a内に配置される。第1シート材41および第2シート材42の周方向一端面には、それぞればね3を保持する保持部411,421が形成され、周方向他端面には、凹部111a,121aの側端面53,54に接触可能な接触面412,422が形成される。接触面412,422は、前後方向中央部において、第2回転体2(後述する突出部212)にも接触可能である。中間シート材43の周方向両端面には、それぞればね3を保持する保持部431が形成される。保持部411,421,431は、例えばばね3の外形形状に対応した円形の溝により構成される。
各シート材4は、収容部50(凹部111a,121a)に周方向および径方向に移動可能に収容される。第1シート材41は、その接触面412が凹部111a,121aの側端面53または第2回転体2の突出部212の周方向一方の側端面213に当接することで、R1方向とは反対方向への移動が規制される。第2シート材42は、その接触面422が、凹部111a,121aの側端面54または第2回転体2の突出部212の周方向他方の側端面214に当接することで、R1方向への移動が規制される。
各シート材4は、外周面45と内周面46とを有する。図3,4では、外周面45がほぼ全域にわたり、収容部50の外周面55に対応した、すなわち外周面55と同一ないしほぼ同一形状の円弧状に形成されている。収容部50(凹部111a,121a)の内周面51にシート材4の内周面46が当接、または収容部50の外周面55にシート材4の外周面45が当接することで、シート材4の径方向の移動が規制される。シート材4の外周面45は、摺動面を構成し、以降、外周面45を摺動面と呼ぶこともある。
収容部50に中間シート材43を介して直列に配置される複数のばね3のばね定数は、互いに等しくてもよく、あるいは互いに異なっていてもよい。例えば図3に示す周方向4本のばね3をR1方向の先端から順に第1ばね3〜第4ばね3と定義するとき、第2、第3ばね3のばね定数を第1、第4ばね3のばね定数より大きくしてもよい。あるいは、R1方向先端側の第1、第2ばね3のばね定数を第3、第4ばね3のばね定数より大きくしてもよい。ばね定数は、例えばばね3の径を大きくすることにより増大できる。大径のばねの内側に小径のばねを配置し、ばね3を二重構造とすることにより、所定のばね3のばね定数を増大させてもよい。
図2に示すように、第2回転体2は、第1回転体1の前板11と後板12との間の空間SP2,SP3に配置された内部板21と、前板11の前方に配置された連結板22とを一体に有する。連結板22の内径側端部は、前板11と中央板13との間の空間SP1を通って後方に延在する軸部23を構成し、この軸部23は、周方向複数のリベット24により内部板21の内径側端部に固定される。軸部23は、ベアリング5を介して第1回転体1の中央板13の外周部に回転可能に支持され、これにより第2回転体2が第1回転体1に対し相対回転可能となる。
図3に示すように、内部板21は、軸部23の後端面に当接するリング部211と、リング部211の外周面から径方向外側に突出した周方向複数(図では2個)の突出部212とを有する。突出部212は、境界部111b,121bを介して周方向に互いに隣り合う第1シート材41と第2シート材42との間に介装される。このとき、図2に示すように、突出部212の前面は、前板11の境界部111bの後面に隙間を空けて対向し、突出部212の後面は、後板12の境界部121bの前面に隙間を空けて対向する。
図3に示すように、突出部212の両側端面213,214は、凹部111a,121aの側端面53,54とほぼ同一形状を呈する。側端面213と第1シート材41の接触面412、および側端面214と第2シート材42の接触面412とが、シート材41,42の前後方向中央部において互いに当接可能である。ここで、第1回転体1の境界部111b,121bの周方向中間を通って径方向に延在し、軸線CL0と直交する線を第1中心線CL1と定義し、第2回転体2の突出部212の周方向中間を通って径方向に延在し、軸線CL0と直交する線を第2中心線CL2と定義する。
図3は、第1回転体1と第2回転体2とにトルクが作用していない初期状態(中立状態とも呼ぶ)を示しており、初期状態では、第1中心線CL1と第2中心線CL2とが一致する。このため、第1中心線CL1と第2中心線CL2とのなす角、すなわち第1回転体1に対する第2回転体2の捩れ角(相対角)θは0°である。
この状態から、エンジン101からのトルクが環状板113(図2)を介して第1回転体1に入力されると、図4に示すようにその入力トルクTは、収容部50の側端面53から第1シート材41の接触面412に作用する。第1シート材41に作用したトルクTは、さらにトルク伝達経路TPを構成するばね3と中間シート材43および第2シート材42とを介し、第2シート材42の接触面422から内部板21の突出部212の側端面214に作用する。これにより第2回転体2にトルクTが作用し、第2回転体2がR1方向に回転する。第2回転体2に作用したトルクTは、例えば連結板22(図2)に対向して配置されたクラッチを介してトランスミッション102に出力される。
このとき、収容部50のばね3は、トルクTの大きさに応じて伸縮し、ばね3の伸縮により第1回転体1に対する第2回転体2の捩れ角θが変化する。すなわち、トルクTが大きいほど捩れ角θが大きくなる。このように捩れ角θが変化することで、エンジン101の回転振動(燃焼振動)等に起因した第1回転体1のトルク変動を吸収することができ、第2回転体2を安定して回転させることができる。
なお、図4に示すように、捩れ角θは、R1方向における第1回転体1の回転量が第2回転体2の回転量よりも大きいときにプラスとなる。一方、R1方向における第1回転体1の回転量が第2回転体2の回転量よりも小さいときにはマイナスとなる。例えば通常運転時には、第1回転体1から第2回転体2にトルクが作用するため、この場合には捩れ角θはプラスとなる。一方、急減速時等で、第2回転体2から第1回転体1にトルクが作用すると、捩れ角θはマイナスとなる。
図4に示すように、通常運転時には、第1シート材41の接触面412は、その前後方向両端部が凹部111a,121aの側端面53に接触し、前後方向中央部が第2回転体2の突出部212の側端面213から離間する。一方、第2シート材42の接触面422は、その前後方向中央部が突出部212の側端面214に接触し、前後方向両端部が凹部111a,121aの側端面54から離間する。
図5Aは、第2回転体2に作用するトルクTの時間経過に伴う変化を示す図であり、図5Bは、捩れ角θと第2回転体2に作用するトルクTとの関係を示す図である。図5Bの特性は、トルク伝達装置100のばね特性を示しており、捩れ角θの増加に伴いトルクTが増大する。ばね特性の傾き(ばね定数)は、捩れ角θが所定値θa以下の領域では小さく、捩れ角θが所定値θaを超えると増大する。図5Aに示すように、エンジン101の振動(燃焼振動等)に起因してトルクTが正の範囲(T>0)で変動すると、図5Bに示すように、捩れ角θは例えばθ1≦θ≦θ2の範囲で変化する。これにより第2回転体2のトルク変動を低減することができる。
ところで、例えばシフトダウンによりエンジンブレーキが作動すると、シート材4に作用する遠心力が大きくなり、シート材4が第1回転体1の収容部50の外周面55に貼り付くおそれがある。その結果、シート材4が第2回転体2の動きに追従できずに、図4の状態から第2回転体2の突出部212の側端面214が第2シート材42の接触面422から離間し、その後、突出部212と第2シート材42とが再接触した際に、トルク伝達装置100に衝撃が生じるおそれがある。このようにして急激な角加速度変動が生じると、クランクシャフトの回転に基づく失火の検知が誤って行われるおそれがある。
この点についてさらに説明する。図6A〜図6Cは、それぞれ第1回転体1(後板12)に対する第2回転体2(内部板21)の捩れ角θの変化を説明する図であり、図7A,7Bは、それぞれ第2回転体2に作用するトルクTの時間変化および捩れ角θとトルクTとの関係を示す図である。なお、図6A〜図6Cでは、便宜上、ばね3とシート材4の一部の図示を省略している。
図6Aは、シフトダウンによるエンジンブレーキの作動時に第1回転体1が急減速した状態を示す。このとき、シフトダウン直後は、第1回転体1が高回転してシート材4に作用する遠心力が大きくなり、シート材4は収容部50の外周面55に貼り付く。このとき、アクセルペダルの操作量が小さい、例えばアクセルペダルが非操作であるため、第1回転体1のR1方向への回転量よりも第2回転体2のR1方向への回転量の方が多くなる。その結果、第2回転体2の突出部212の側端面213が第1シート材41の接触面412に接触し、突出部212から第1シート材41にR1方向へのトルクT1(押し付け力)が作用する。このとき、突出部212の側端面213が第2回転体2のトルク伝達部として機能し、第1シート材41の接触面412が第1回転体1のトルク被伝達部として機能する。
第1シート材41にトルクT1が入力されると、シート材4は外周面55を摺動しながら収容部50(凹部111a,121a)の側端面54側に押し込まれる。その結果、図6Aに示すように、第2シート材42の接触面422が収容部50の側端面54に当接する。さらに、ばね3が収縮して周方向に隣り合うシート材4の端面同士が接近または当接し、第1シート材41の接触面412から第2シート材42の接触面422までの周方向の長さが最小となる。このとき、例えば図7Bの点Aに示すように、捩れ角θは最小捩れ角θAとなり、第2回転体2に作用するトルクT1はT1になる。
その後、アクセルペダルが操作されて、第1回転体1が加速されると、シート材4は、収容部50の外周面に貼り付いているため、図6Bに示すように、第2回転体2の突出部212の側端面213が第1シート材41から離間する。さらに、収容部50の側端面54に当接した状態の第2シート材42が、突出部212の側端面214に接近し、捩れ角がθAよりも大きいθB(<0)となる。この状態では、ばね3は最大に収縮されており、ばね3の見かけ上のばね定数は大きく、剛性が高い。
図6Bの状態では、第2シート材42と突出部212との間に空隙GPがあるため、第2回転体2に作用するトルクTは、図7Aの点Bに示すように0となり、捩れ角θとトルクTとの関係は、例えば図7Bの点Bとなる。この状態から、第1回転体1側で正側のトルク変動が生じると、図7Bに示すようにトルクTが0のまま捩れ角θが増加する(0に近づく)。
第1回転体1がさらに加速されると、図6Cに示すように、第2シート材42の接触面422が第2回転体2の突出部212の側端面214に接触し、第2回転体2にトルクT2が作用する。これにより、図7Aの点Cで示すように、トルクTが急激に増大する。このとき、捩れ角θは0となるが、シート材4は収容部50の外周面55に貼り付いたままであり、ばね3の剛性が高くなっているため、捩れ角θはそれ以上増加しない。したがって、第2シート材42と突出部212との接触時の衝撃をばね3が吸収できずに、トルク伝達装置100に衝撃が発生する。この場合の捩れ角θとトルクTとの関係は、図7Bの点Cで表される。
その後、エンジン101の回転振動により第1回転体1の回転が変動すると、第1回転体1と第2回転体2とは、図6Cの接触と図6Bの離間とを繰り返す。このため、捩れ角θとトルクTとの関係は、図7Bの点Bと原点と点Cとを結ぶ矢印に沿って変化する。したがって、トルク伝達装置100に繰り返し衝撃が発生し、失火の誤検知等の悪影響を与えるおそれがある。
このような事象は、上述したようにシフトダウンなどによるエンジンブレーキ作動後に、少しずつアクセルペダルを踏んでいった場合だけでなく、例えば、高速道路でのレーン進入時にアクセルペダルを踏み込んで加速し、本線合流後にアクセルペダルを緩めて、アクセル開度が小さくなった場合にも生じる。すなわち、シフトダウンや加速高回転時などにシート材4が貼り付いた状態で、かつ、低トルク領域(アクセル開度小)において発生する。このような事象を防ぐため、本実施形態では、以下のようにトルク伝達装置100を構成する。
本実施形態のトルク伝達装置100は、第2回転体2の突出部212が特に特徴的な構成を有する。図8Aは、本発明の実施形態に係るトルク伝達装置100の主に突出部212の構成を拡大して示す平面図であり、第1回転体1と第2回転体2とにトルクが作用していない初期状態に対応する。なお、図8Aでは、突出部212の側端面213,214とシート材41,42の接触面412,422との間に隙間が設けられているが、初期状態において隙間は0であってもよい。
図8Aに示すように、突出部212には、側端面213,214の近傍に、その外周面215から径方向内側に向けて、中心線CL2に対して対称に一対のスリット212a,212bが形成される。このため、突出部212には、スリット212a,212bを介して中央部216から分岐するように一対の薄板部が設けられ、薄板部217,218の周方向一端面217a,218aが突出部212の側端面213,214を構成する。
スリット212a,212bに面した薄板部217,218の周方向他端面217b,218bは、端面217a,218aと略平行に形成され、薄板部217,218の幅(周方向長さ)は、外周面215から基端部(スリット212a,212bの終端)にかけてほぼ一定である。薄板部217,218の径方向長さ、すなわち外周面215からスリット212a,212bの終端212cまでの長さは、シート材41,42の接触面412,422の径方向長さとほぼ等しく、接触面412,422の全面が薄板部217,218の端面に接触可能である。スリット212a,212bは平面視略V字形状を呈する。このため、スリット212a,212bの幅(周方向長さ)は外周面215において最大で、径方向内側にかけて徐々に小さくなり、終端212cにおいて0となる。
このような構成によれば、第1回転体1に対する第2回転体2の相対回転により、例えば図8Bに示すように、シート材42の接触面422が側端面214に当接して薄板部218に押圧力F1が作用すると、押圧力F1はスリット212bの終端212cの近傍を支点にした曲げ荷重となって、薄板部218は中央部216側に変位する(撓む)。すなわち、薄板部218は、弾性変形によりスリット212bの幅分だけ周方向に変位し、薄板部218が中央部216に当接する。
その後、第1回転体1に対する第2回転体2の相対回転により、シート材42の接触面422が突出部212の側端面214から離間すると、図8Aに示すように、薄板部218の弾性変形により中央部216と薄板部218との間にスリット212bによる隙間が生じる。このように薄板部が弾性変形によって中央部に接触および離間することで、突出部212がばね機能を発揮し、シート材41,42と突出部212との接触時における衝撃を吸収することができる。したがって、シート材4が収容部50の外周面55に貼り付いた状態で、突出部212とシート材41,42とが接触した際の衝撃を緩和することができ、失火の誤検知を防ぐことができる。
このような構成では、突出部212のばね特性(薄板部217,218の曲げ剛性および変位量)は、スリット212a,212bの形状(幅、長さ、終端212cの形状)によって変化する。本実施形態では、シート材41,42から押圧力F1が作用した際に薄板部217,218が弾性変形の範囲内で変位するように、スリット212a,212bの形状、すなわち薄板部217,218の幅等が設定される。この場合、終端212c等、応力集中の発生するおそれのある箇所は、応力集中を緩和するように適宜形状が設定される。
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)トルク伝達装置100は、例えばエンジン101で発生したトルクをトランスミッション102に伝達する(図1)。このトルク伝達装置100は、軸線CL0を中心に回転可能に設けられ、エンジン101(出力軸101a)に連結される第1回転体1と、軸線CL0を中心に回転可能に設けられ、トランスミッション102(入力軸102a)に連結される第2回転体2と、第1回転体1と前記第2回転体2との間のトルク伝達経路TPに配置され、第1回転体1および第2回転体2のいずれか一方からのトルクをいずれか他方に伝達するとともに、第1回転体1と第2回転体2との間のトルク変動を吸収するばね3と、ばね3と第1回転体1および第2回転体2との間に、第1回転体1および第2回転体2に対して接離可能に設けられたシート材4とを備える(図2,図3)。第1回転体1は、シート材4を周方向に移動可能に収容する収容部50を有し、収容部50はシート材4の径方向外側への移動を規制する外周面55と、シート材4の周方向の移動を規制する側端面53,54とを有する(図4)。第2回転体2は、径方向に突出する突出部212を有し、突出部212はシート材4の周方向の移動を規制する側端面213,214を有する(図3)。シート材41,42は、収容部50の外周面55に対向する外周面45を有するとともに、周方向一端面に、ばね3を保持する保持部411,421を有する一方、周方向他端面に、収容部50の側端面53,54および突出部212の側端面213,214に面接触可能に設けられた接触面412,422を有する(図3)。突出部212は、外周面215から径方向に延設されたスリット212a,212bを介して分岐する薄板部217,218を有し、薄板部217,218は、弾性変形により周方向に変位可能である(図8A)。
このように突出部212にスリット212a,212bを介して分岐した薄板部217,218を設けることで、シート材41,42の接触面412,422と突出部212の側端面213,214との接触および離間に応じて、薄板部217,218が弾性変形により周方向に変位する。これにより突出部212がばね機能を発揮するため、仮に収容部50の外周面55にシート材4が貼り付いたとしても、シート材41,42の接触時の衝撃を緩和することができ、装置100の振動吸収機能を高めることができる。
(2)スリット212a,212bは、突出部212の外周面215から径方向にかけてその幅が減少するように設けられる(図8A)。これにより薄板部217,218は、スリット212a,212bの内径側の終端212cを支点にして周方向に変位するようになり、薄板部217,218の変位に伴うシート材41,42の接触面412,422と突出部212の側端面213,214との良好な接触状態、すなわちほぼ全面での接触状態を維持できる。
(3)第2回転体2の突出部212は、周方向両端部にそれぞれ薄板部217,218を有し、これら薄板部217,218の周方向外側端面217a,218aがそれぞれシート材41,42に面接触する側端面213,214を構成する(図8A)。これにより第1シート材41と第2シート材42のいずれが突出部212の側端面213,214に接触した場合にも、衝撃を吸収することができる。
(4)第1回転体1は、車両に搭載されたエンジン101の出力軸101aに連結され、第2回転体2は、車両に搭載されたトランスミッション102の入力軸102aに連結される。このようにエンジン101とトランスミッション102との間にトルク伝達装置100を適用することで、シート材41,42の接触時の衝撃によるエンジン101の失火の誤検知を防ぐことができる。
(変形例)
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、内部板21と連結板22とにより第2回転体2を構成し、一対の収容部50に境界部111b,121bを介して隣り合ってそれぞれ配置された第1シート材41と第2シート材42との間に、第2回転体2のトルク伝達部としての突出部212を配置したが、第2回転体の構成は上述したものに限らない。例えば、リング形状の板部材の内周面から径方向内側に突出部を突設させるようにしてもよい。この場合、突出部の内周面から径方向外側に向けてスリット(切り欠き)を形成し、切り欠きを介して薄板部(分岐部)を設けるようにすればよい。すなわち、突出部の周縁部から径方向に延設された切り欠きを介して分岐するように設けられるのであれば、分岐部や切り欠きの構成は、上述した薄板部217,18やスリット212a,212bに限らない。
上記実施形態では、第1回転体1をエンジン101に、第2回転体2をトランスミッション102にそれぞれ連結したが、これとは反対に、第1回転体1をトランスミッション102に、第2回転体2をエンジン101にそれぞれ連結してもよい。上記実施形態では、第1回転体1と第2回転体2との間にばね3(コイルばね)を配置し、ばね3を介してトルクを伝達するようにしたが、第1回転体と第2回転体との間のトルク伝達経路に配置され、第1回転体および第2回転体のいずれか一方からのトルクをいずれか他方に伝達するとともに、第1回転体と第2回転体との間のトルク変動を吸収するのであれば、弾性体の構成はいかなるものでもよい。
上記実施形態では、収容部50に複数のシート材4を配置したが、ばねと第1回転体および第2回転体との間に、第1回転体および第2回転体に対して接離可能に設けられるのであれば、シート材の個数は上述したものに限らない。例えば中間シート材43を省略することもできる。したがって、収容部50に単一のばね3を配置してもよい。上記実施形態では、シート材4とばね3とにより、第1回転体1と第2回転体2との間のトルク伝達経路TPを構成した。具体的には、第1回転体1から第2回転体2にトルクが作用するとき、第2シート材42の接触面(トルク伝達部)422から第2回転体2の突出部212の側端面(トルク被伝達部)214にトルクが作用し、第2回転体2から第1回転体1にトルクが作用するとき、突出部212の側端面213(トルク伝達部)から第1シート材41の接触面(トルク被伝達部)412にトルクが作用するようにした。しかしながら、トルク伝達経路の構成はこれに限らない。
上記実施形態では、第1回転体1の前板11と後板12とにそれぞれ凹部111a,121aを設け、凹部111a,121aにより収容部50を構成したが、シート材の径方向外側への移動を規制する周面と、シート材の周方向の移動を規制する一対の側端面とを有するのであれば、収容部の構成はいかなるものでもよい。例えば前板11のみで収容部を構成してもよい。上記実施形態では、シート材4に弾性体の一例であるばね3の保持部411,421,431を設けたが、弾性体の形状に応じてシート材の形状も種々の形状に変更することができる。したがって、シート材4の構成は上述したものに限らない。すなわち、収容部の外周面に対向する摺動面を有するとともに、周方向一端面に、弾性体を保持する保持部を有し、周方向他端面に、収容部の側端面(第1側端面)および突出部の側端面(第2側端面)に面接触可能に設けられた接触面を有するのであれば、シート材の構成はいかなるものでもよい。上記実施形態では、第1回転体1に周方向に2箇所に収容部50を設けたが、収容部の個数はこれに限らない。例えば周方向3箇所以上に収容部を設け、第2回転体の突出部もこれに対応した数だけ設けてもよい。
以上の実施形態では、動力源としてエンジン101を用いたが、エンジン101以外を用いてもよい。また、動力源で発生したトルクにより駆動される被駆動体は、トランスミッション102以外であってもよい。すなわち、動力源で発生したトルクを被駆動体に伝達する種々のトルク伝達経路に対し、本発明のトルク伝達装置は適用することができる。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。