1.実施の形態1
実施の形態1に係る交流回転機の制御装置1(以下、単に、制御装置1と称す)について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る交流回転機10及び制御装置1の概略構成図である。
1−1.交流回転機
交流回転機10は、ステータ18と、ステータ18の径方向内側に配置されたロータ14と、を備えている。交流回転機10は、界磁巻線型の同期回転機とされている。1つのステータ18に、m組(mは2以上の自然数)のn相の電機子巻線(nは2以上の自然数)が巻装されている。ロータ14に界磁巻線25が巻装され、電磁石が設けられている。
本実施の形態では、m組は2組であり、n相は、3相である。交流回転機10は、第1組のU1相、V1相、及びW1相の3相の電機子巻線Cu1、Cv1、Cw1と、第2組のU2相、V2相、及びW2相の3相の電機子巻線Cu2、Cv2、Cw2と、を有している。各組の3相の電機子巻線は、図1に示すように、スター結線とされてもよいし、デルタ結線とされてもよい。
図2に模式図を示すように、第1組のU1相巻線Cu1、V1相巻線Cv1、W1相巻線Cw1は、順番に位相が電気角で2π/3(120deg)ずつずれている。第2組のU2相巻線Cu2、V2相巻線Cv2、W2相巻線Cw2は、順番に位相が電気角で2π/3(120deg)ずつずれている。
本実施の形態では、第1組の3相の電機子巻線Cu1、Cv1、Cw1と、第2組の3相の電機子巻線Cu2、Cv2、Cw2との間には、位相差がない。第1組のU1相巻線Cu1と第2組のU2相巻線Cu2との間には位相差がなく、第1組のV1相巻線Cv1と第2組のV2相巻線Cv2との間には位相差がなく、第1組のW1相巻線Cw1と第2組のW2相巻線Cw2との間には位相差がない。電気角は、ロータ14の機械角に、磁石の極対数を乗算した角度になる。以下の理論式では、簡略化のため、極体数は1に設定されている。
ロータ14には、ロータ14の回転角度(磁極位置)を検出する角度センサ15が設けられている。角度センサ15の出力信号は、制御装置1に入力される。角度センサ15には、各種のセンサが用いられる。例えば、角度センサ15には、レゾルバ、ホール素子、TMR素子、又はGMR素子などの位置検出器、電磁式、磁電式、又は光電式などの回転検出器が用いられる。
<車両用の発電電動機>
本実施の形態では、交流回転機10は、車両用の発電電動機とされている。交流回転機10のロータ14の回転軸は、連結機構を介して内燃機関54に連結される。また、交流回転機10の回転軸は、連結機構を介して車輪52に連結される。例えば、図3に示すように、交流回転機10の回転軸は、プーリ及びベルト機構53を介して、内燃機関54のクランク軸に連結されている。交流回転機10の回転軸は、内燃機関54及び変速装置55を介して車輪52に連結される。
1−2.インバータ
m組の電機子巻線に対応して、m組のインバータが備えられている。本実施の形態では、直流電源16の直流電力と第1組の電機子巻線に供給する交流電力とを変換する第1組のインバータ21と、直流電源16の直流電力と第2組の電機子巻線に供給する交流電力とを変換する第2組のインバータ22と、が備えられている。
第1組のインバータ21及び第2組のインバータ22は、それぞれ、直流電源16の正極側に接続される正極側のスイッチング素子23と、直流電源16の負極側に接続される負極側のスイッチング素子24と、が直列接続された直列回路を、3相各相の電機子巻線に対応して3セット設けている。各直列回路における2つのスイッチング素子の接続点が、対応する相の電機子巻線に接続される。
スイッチング素子には、ダイオードが逆並列接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、ゲート駆動回路等を介して、制御装置1に接続されている。よって、各スイッチング素子は、制御装置1から出力されるスイッチング信号によりオン又はオフされる。
直流電源16は、第1組及び第2組のインバータ21、22に直流電圧Vdcを出力する。直流電源16として、バッテリー、DC−DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧を出力する任意の機器が用いられる。直流電源16には、平滑コンデンサ19が並列接続されている。直流電圧Vdcを検出するための電圧センサ17が備えられている。電圧センサ17の出力信号は、制御装置1に入力される。
第1組及び第2組のインバータ21、22は、それぞれ、各相の電機子巻線に流れる電流を検出するための電流センサ13を備えている。本実施の形態では、電流センサ13は、各相のスイッチング素子の直列回路に直列接続されたシャント抵抗とされている。各シャント抵抗の両端電位差が、制御装置1に入力される。例えば、各シャント抵抗は、負極側のスイッチング素子の負極側に直列接続される。なお、電流センサ13は、各相のスイッチング素子の直列回路と電機子巻線とをつなぐ電線上に備えられたホール素子等とされてもよい。
本実施の形態では、界磁巻線25への直流電力の供給を制御する界磁巻線用のスイッチング素子26が備えられている。界磁巻線用のスイッチング素子26は、直流電源16と界磁巻線25とを接続する電線上に設けられている。界磁巻線用のスイッチング素子26は、制御装置1から出力される界磁巻線用のスイッチング信号によりオン又はオフされる。ここでは1つのスイッチング素子で示しているが、Hブリッジとしてもよい。
1−3.制御装置1
制御装置1は、第1組及び第2組のインバータ21、22を介して、交流回転機10を制御する。制御装置1は、図4に示すように、回転検出部31、電圧検出部32、電流検出部33、過電圧判定部34、及び電圧印加部35等の制御部を備えている。制御装置1の各機能は、制御装置1が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置1は、図5に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93、及び外部装置とデータ通信を行う通信装置94等を備えている。
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、及び演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、角度センサ15、電圧センサ17、電流センサ13等の各種のセンサ及びスイッチが接続され、これらセンサ及びスイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、第1組のインバータ21及び第2組のインバータ22のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート駆動回路等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。通信装置94は、車両統合制御装置27等の外部装置と通信を行う。
そして、制御装置1が備える各制御部31〜35等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、及び出力回路93等の制御装置1の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部31〜35等が用いる過電圧判定閾値、電流指令等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御装置1の各機能について詳細に説明する。
<各検出部>
回転検出部31は、ロータ14の電気角での回転角度θ(磁極位置θ)、及び回転角速度ωを検出する。本実施の形態では、回転検出部31は、角度センサ15の出力信号に基づいて、電気角での回転角度θ(磁極位置θ)及び回転角速度ωを検出する。なお、回転検出部31は、電流指令に高調波成分を重畳することによって得られる電流情報等に基づいて、角度センサを用いずに、回転角度θ(磁極位置θ)を推定するように構成されてもよい(いわゆる、センサレス方式)。
電圧検出部32は、直流電源16から各組のインバータに供給される直流電圧Vdcを検出する。本実施の形態では、電圧検出部32は、電圧センサ17の出力信号に基づいて、直流電圧Vdcを検出する。
電流検出部33は、各組の各相の電機子巻線に流れる電流を検出する。電流検出部33は、電流センサ13の出力信号に基づいて、各組の各相の電機子巻線に流れる電流を検出する。
1−3−1.電圧印加部、及び過電圧判定部
電圧印加部35は、各組のインバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフすることにより、各組の各相の電機子巻線に電圧を印加する。本実施の形態では、電圧印加部35は、通常時電圧印加部351、及び過電圧時電圧印加部352を備えている。
1−3−1−1.通常時の電圧印加
後述する過電圧判定部34により直流電圧Vdcが過電圧状態になっていないと判定されている場合は、通常時電圧印加部351は、各組について、通常時制御を実行する。本実施の形態では、通常時電圧印加部351は、通常時の各相の電機子巻線に印加する電圧指令を算出する。具体的には、通常時電圧印加部351は、第1組について、3相の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を算出し、第2組について、3相の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2を算出する。例えば、通常時電圧印加部351は、公知のベクトル制御又はV/f制御を用いて、各組の3相の電圧指令を算出する。
ベクトル制御を用いる場合は、通常時電圧印加部351は、各組について、車両統合制御装置27等から伝達されたトルク指令に基づいて、d軸電流指令及びq軸電流指令を算出する。通常時電圧印加部351は、各組について、磁極位置に基づいて、3相の電流検出値をdq軸座標系上のd軸の電流検出値及びq軸の電流検出値に座標変換し、dq軸座標系上で、d軸の電流検出値及びq軸の電流検出値がd軸電流指令及びq軸電流指令に近づくように、PI制御等によりd軸電圧指令及びq軸電圧指令を変化させる電流フィードバック制御を実行する。なお、通常時電圧印加部351は、各組について、電流検出値を用いず、d軸電流指令及びq軸電流指令に基づいて、交流回転機の諸元を用い、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を変化させるフィードフォワード制御を実行してもよい。そして、通常時電圧印加部351は、各組について、磁極位置に基づいて、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を、3相の電圧指令に座標変換する。通常時電圧印加部351は、3相の電圧指令に対して、空間ベクトル変調、2相変調等の線間電圧が変化しないような変調を加えてもよい。
dq軸座標系は、界磁の磁束方向に定めたd軸、及びd軸より電気角でπ/2進んだ方向に定めたq軸からなる座標系である。本実施の形態では、界磁の磁束方向は、ロータ14に設けられた磁石のN極の向きとされている。第1組の磁極位置は、第1組のU1相の電機子巻線Cu1を基準としたd軸の進み角とされ、第2組の磁極位置は、第2組のU2相の電機子巻線Cu2を基準としたd軸の進み角とされている。本実施の形態では、第1組のU1相の電機子巻線Cu1と第2組のU2相の電機子巻線Cu2との間には位相差がないので、第1組の磁極位置と第2組の磁極位置とは同じになる。
V/f制御を用いる場合は、通常時電圧印加部351は、各組について、車両統合制御装置27等から伝達された交流回転機の回転周波数指令fに基づいて、電圧指令の振幅Vを決定する。そして、通常時電圧印加部351は、各組について、電圧指令の振幅V、及び回転周波数指令fを積分した位相に基づいて、3相の電圧指令を算出する。
通常時電圧印加部351は、各組について、3相の電圧指令に基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)制御により複数のスイッチング素子をオンオフする。通常時電圧印加部351は、各組について、3相の電圧指令のそれぞれとキャリア波とを比較することにより、各相のスイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。キャリア波は、直流電圧Vdcの振幅、すなわち+Vdc/2から−Vdc/2の間を、キャリア周波数で振動する三角波とされている。通常時電圧印加部351は、電圧指令がキャリア波を上回った場合は、スイッチング信号をオンし、電圧指令がキャリア波を下回った場合は、スイッチング信号をオフする。正極側のスイッチング素子23には、スイッチング信号がそのまま伝達され、負極側のスイッチング素子24には、スイッチング信号を反転させたスイッチング信号が伝達される。各スイッチング信号は、ゲート駆動回路を介して、第1組及び第2組のインバータ21、22の各スイッチング素子のゲート端子に入力され、各スイッチング素子をオン又はオフさせる。
<界磁巻線の電圧印加>
通常時電圧印加部351は、通常時制御の実行時に、界磁巻線25に電圧を印加する。例えば、通常時電圧印加部351は、通常時制御用のオンデューティ比のPWM信号を生成し、界磁巻線用のスイッチング信号として出力する。通常時制御用のオンデューティ比は、ロータの回転角速度等の運転状態に応じて変化されてもよい。界磁巻線用のスイッチング信号は、ゲート駆動回路を介して、界磁巻線用のスイッチング素子26のゲート端子に入力され、界磁巻線用のスイッチング素子26をオン又はオフさせる。
1−3−1−2.過電圧時の電圧印加
1−3−1−2−1.過電圧の課題
交流回転機10が発電しており、発電電力が、直流電源16、及び直流電源16に接続された各種の電気負荷に供給されている状態で、電気負荷の消費電力が急減すると、交流回転機10の発電電力が、直流電源16及び電気負荷に吸収されず、余剰になり、直流電圧Vdcが定格電圧よりも上昇する。直流電圧Vdcが上昇し過ぎると、電気負荷に悪影響を与える可能性がある。そのため、直流電圧Vdcが過電圧状態になった場合は、早急に直流電圧Vdcを低下させることが望まれる。
そこで、直流電圧Vdcが上昇し過ぎた場合に、交流回転機10の発電を停止すればよいが、発電を停止するだけでは、直流電圧Vdcを急速に低下させることはできない場合がある。そのため、交流回転機10に余剰電力を消費させることで、直流電圧Vdcを早急に低下させることが考えられる。
1−3−1−2−2.過電圧判定
過電圧判定部34は、直流電圧Vdcが、過電圧判定閾値以上になったか否かを判定する。過電圧判定閾値は、直流電源16の定格電圧よりも大きい電圧に予め設定されている。
1−3−1−2−3.過電圧時制御
電圧印加部35は、過電圧判定部34により直流電圧Vdcが過電圧判定閾値以上になったと判定された場合に、過電圧時制御を実行するように構成されている。以下で、過電圧時制御について詳細に説明する。
<各理論式>
2組の3相電機子巻線を有する場合の、dq軸座標系上の電圧方程式は、次式で表せる。
ここで、Vd1、Vq1は、第1組の3相電機子巻線に印加される電圧をdq軸座標系で表したd軸電圧及びq軸電圧であり、Vd2、Vq2は、第2組の3相電機子巻線に印加される電圧をdq軸座標系で表したd軸電圧及びq軸電圧である。Id1、Iq1は、第1組の3相電機子巻線に流れる電流をdq軸座標系で表したd軸電流及びq軸電流であり、Id2、Iq2は、第2組の3相電機子巻線に流れる電流をdq軸座標系で表したd軸電流及びq軸電流である。Rは、電機子巻線の抵抗であり、Ldは、各組のd軸の自己インダクタンスであり、Lqは、各組のq軸の自己インダクタンスである。ωは、ロータの電気角での回転角速度である。ψは、磁石の鎖交磁束であり、pは、微分演算子である。なお、本実施の形態では、各組の電機子巻線が、同等のインダクタンス、抵抗を有している。また、式(1)では、単純化のため、組間のd軸及びq軸の相互インダクタンスを考慮していないが、考慮しても、以下の式導出において同様の結果が得られる。
定常状態においては、式(1)の微分演算子pの項がゼロになり、式(1)は、式(2)のようになる。
式(2)を、dq軸電流Id1、Iq1、Id2、Iq2について解くと、式(3)が得られる。
<3相短絡の場合>
特許文献2のように、各相の電機子巻線の端子を相互に短絡する3相短絡を行う場合は、各組の各相の電機子巻線の印加電圧はゼロになるので、各組のdq軸電圧は、式(4)となり、各組のdq軸電流は、式(5)となる。
第1組の電機子巻線により出力される第1組のトルクT1、第2組の電機子巻線により出力される第2組のトルクT2は、dq軸電流を用いて式(6)により算出される。3相短絡の場合の合計トルクTは、式(6)を合計し、式(5)を代入し、整理すると、式(7)となる。
また、第1組及び第2組の電機子巻線の抵抗により生じる合計銅損Pcは、式(8)で与えられる。
式(7)及び式(8)を、回転角速度ωについて微分すると、式(9)及び式(10)となる。
図6に、比較例に係る3相短絡の場合について、回転角速度ωと、合計トルク及び合計銅損との関係を示す。式(9)の合計トルクの速度微分値dT/dωは、式(11)に示す合計トルクの極値回転角速度ω0においてゼロになり、合計トルクTが極小になり、負トルクの大きさ(絶対値)が最大になる。一方、式(10)の合計銅損の速度微分値dPc/dωは、常に正になり、回転角速度ωが増加するに従って、合計銅損Pcは単調増加する。
図6に示すように、3相短絡の場合は、極値回転角速度ω0付近の低回転速度領域では合計銅損が小さい割に、負トルクになる合計トルクの大きさが大きい。低回転速度領域では、内燃機関の回転角速度も低いため、負トルクの大きさが大きくなると、内燃機関のエンジンストールを生じる懸念がある。
なお、回転角速度ωが十分に高くなれば、合計トルクは、式(12)に示すようにゼロに近づき、合計銅損は、式(13)に示すように、交流回転機の諸元で定まる値に近づく。
このとき、電流ベクトルの絶対値は、式(5)から、式(14)に示すように、磁石の磁束ψをd軸の自己インダクタンスLdで除した値に近づいていく。
<過電圧時制御の第1方法(d軸対称の電流ベクトル設定)の理論説明>
そこで、低回転速度領域で、3相短絡よりも合計銅損を増加させることができると共に、合計トルクの大きさの増加を抑制することができる方法について理論説明を行う。
第1方法として、図7及び次式に示すように、第1組のトルクと第2組のトルクとが、互いに打ち消し合うように、第1組のq軸電流Iq1と第2組のq軸電流Iq2とを、正負反転値に設定する。また、第1組のd軸電流Id1と第2組のd軸電流Id2とを、同じ値に設定する。これにより、第1組の電流ベクトルと第2組の電流ベクトルとが、d軸について対称になっている。
式(15)を、式(6)に代入し、合計トルクTを求めると、式(16)に示すように、ゼロになる。また、式(15)を用いて、合計銅損Pcを求めると、式(17)に示すように、電流ベクトルの大きさ(絶対値)の2乗に応じた値になる。
図8に、式(15)のように設定した場合の、回転角速度ωと、合計トルク及び合計銅損との関係を示す。図6の3相短絡の場合と異なり、回転角速度ωの変化にかかわらず、合計トルクをゼロに維持できており、合計銅損を一定値に維持できている。また、低回転速度領域でも、合計トルクが減少しておらず、合計銅損を高くできている。
図8の例では、図6の3相短絡における回転角速度ωが10の場合の電流ベクトルの絶対値と、各回転角速度ωにおいて、電流ベクトルの絶対値が等しくなるように、dq軸電流を流している。3相短絡の場合には、制御により電流を変化させることはできず、式(14)よりも大きな電流を流すことはできない。一方、式(15)のようにdq軸電流を設定する方法では、dq軸電流を変化させることができ、3相短絡の場合よりも、電流ベクトルの絶対値を増加させることにより、合計銅損を増加させることができる。
図7では、第1組のd軸電流Id1と第2組のd軸電流Id2とが、正の値に設定されているが、負の値に設定されてもよい。負の値に設定された場合は、負のd軸電流による各組の弱め磁束の効果が同等となり、電圧飽和によるq軸電流の低下量の差異によって生じる第1組のトルクと第2組のトルクとの差を低減できる。さらに、電流ベクトルの絶対値の2乗に応じて合計銅損が決まるため、電圧飽和領域において、第1組のトルクと第2組のトルクとの正負を反転させ、互いに打ち消し合うように、各組について、公知の弱め磁束制御が実施されてもよい。
<過電圧時制御の第2方法(原点対称の電流ベクトル設定)の理論説明>
第2方法として、図9及び次式に示すように、第1組のトルクと第2組のトルクとが、互いに打ち消し合うように、第1組のq軸電流Iq1と第2組のq軸電流Iq2とを、正負反転値に設定する。また、第1組のd軸電流Id1と第2組のd軸電流Id2とを、正負反転値に設定する。これにより、第1組の電流ベクトルと第2組の電流ベクトルとが、dq軸座標系の原点について対称になっている。
式(18)を、式(6)に代入し、合計トルクTを求めると、式(19)に示すようになる。リラクタンストルクは残るが、マグネットトルクは相殺されている。一般的な交流回転機の場合、マグネットトルクに比べ、リラクタンストルクは小さいため、合計トルクは大きく低減される。特に、突極性のない交流回転機の場合は、リラクタンストルクは生じないため、合計トルクはゼロになる。また、式(15)を用いて、合計銅損Pcを求めると、式(20)の示すように、電流ベクトルの大きさ(絶対値)の2乗に応じた値になる。
図10に、式(18)のように設定した場合の、回転角速度ωと、合計トルク及び合計銅損との関係を示す。図6の3相短絡の場合と異なり、回転角速度ωの変化にかかわらず、合計トルクを一定の負トルクに維持できており、合計銅損を一定値に維持できている。また、低回転速度領域でも、合計トルクが大きく減少しておらず、合計銅損を高くできている。
図10の例では、図6の3相短絡における回転角速度ωが10の場合の電流ベクトルの絶対値と、各回転角速度ωにおいて、電流ベクトルの絶対値が等しくなるように、dq軸電流を流している。3相短絡の場合には、制御により電流を変化させることはできず、式(14)よりも大きな電流を流すことはできない。一方、式(18)のようにdq軸電流を設定する方法では、dq軸電流を変化させることができ、3相短絡の場合よりも、電流ベクトルの絶対値を増加させることにより、合計銅損を増加させることができる。
<過電圧時制御の構成>
そこで、過電圧時電圧印加部352は、過電圧判定部34により直流電圧Vdcが過電圧判定閾値以上になったと判定された場合に、各組のn相(本例では、3相)の電機子巻線により出力される各組のトルクが、組間で互いに弱め合うと共に、電力を消費するように、各組の電流指令を設定し、各組について、電流指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフする過電圧時制御を実行する。
この構成によれば、各組の電機子巻線の銅損を合計した合計銅損は、各組の電流ベクトルの大きさの2乗に応じて増加させることができる。各組の電流ベクトルの大きさを増加させるために、各組のトルクが増加しても、各組のトルクが互いに弱め合うように、各組の電流指令が設定されるので、各組のトルクを合計した合計トルクの増加を抑制することができる。よって、3相短絡と比較して、合計トルクの増加を抑制しつつ、合計銅損を増加させることができ、過電圧となった直流電圧Vdcの低下速度を増加させることができる。また、3相短絡の場合のように、低回転速度領域において、合計トルクの大きさが増加することはなく、合計銅損が減少することもない。よって、交流回転機が、車両用の発電電動機とされている場合でも、3相短絡の場合のように、低回転速度領域において、負トルクの大きさが大きくなり、内燃機関のエンジンストールが生じることを抑制できる。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、3相の電機子巻線に流す電流指令を、各組について合成した合成電流ベクトルの絶対値が一定値になるように、各組の電流指令を設定する。この構成によれば、各組の合成電流ベクトルの絶対値が一定値になるように設定されるので、合計トルク及び合計銅損の変動を抑制することができる。
本願において、一定値とは、ロータの電気角での回転角度に応じて周期的に変化しない値であることを意味する。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、3相の電機子巻線に流す電流指令を、dq軸座標系で表したd軸電流指令及びq軸電流指令を設定するように構成されている。
そして、通常時電圧印加部351と同様に、過電圧時電圧印加部352は、各組について、磁極位置に基づいて、3相の電流検出値をdq軸座標系上のd軸の電流検出値及びq軸の電流検出値に座標変換し、dq軸座標系上で、d軸の電流検出値及びq軸の電流検出値がd軸電流指令及びq軸電流指令に近づくように、PI制御等によりd軸電圧指令及びq軸電圧指令を変化させる電流フィードバック制御を実行する。なお、過電圧時電圧印加部352は、各組について、電流検出値を用いず、d軸電流指令及びq軸電流指令に基づいて、交流回転機の諸元を用い、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を変化させるフィードフォワード制御を実行してもよい。そして、過電圧時電圧印加部352は、各組について、磁極位置に基づいて、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を、3相の電圧指令に座標変換する。過電圧時電圧印加部352は、3相の電圧指令に対して、空間ベクトル変調、2相変調等の線間電圧が変化しないような変調を加えてもよい。
過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を一定値に設定する。この構成によれば、合計トルク及び合計銅損の変動を抑制することができる。
過電圧時電圧印加部352は、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を、ロータの回転角速度ω、直流電圧Vdc等の運転状態に応じて変化させてもよい。例えば、過電圧時電圧印加部352は、過電圧判定閾値からの直流電圧Vdcの電圧上昇量が大きくなるに従って、各組のdq軸合成電流ベクトルの大きさが増加するように、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令を変化させてもよい。或いは、過電圧時電圧印加部352は、ロータの回転角速度ωに応じて、各組のdq軸合成電流ベクトルの大きさ、及び各組のdq軸合成電流ベクトルのd軸に対する位相を変化させてもよい。
過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、各組のq軸電流指令が、2組以上についてゼロ以外になると共に、全ての組のq軸電流指令を合計した場合に、各組のq軸電流指令が互いに弱め合うように、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を設定する。
式(6)に示したように、各組のトルクは、各組のq軸電流に比例する。よって、上記のように、各組のq軸電流指令が互いに弱め合うように、電流指令が設定されるので、各組のトルクを互いに弱め合うことができ、合計トルクの増加を抑制できる。
特に、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、全ての組のq軸電流指令を合計した合計q軸電流指令がゼロになるように、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を設定してもよい。
この構成によれば、合計q軸電流指令をゼロにする簡単な設定で、各組のトルクを互いに弱め合うことができ、合計トルクの増加を抑制できる。
また、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、全ての組のトルクを合計した合計トルクの平均値が、ゼロ以下になるように、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を設定してもよい。
この構成によれば、交流回転機に、車両を減速させる安全サイドの負トルクを発生させることができる。なお、正トルクの出力を許容できる場合は、合計トルクの平均値が、ゼロよりも大きくなってもよい。
<第1方法(d軸対称の電流ベクトル設定)>
第1方法を行う場合は、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、q軸電流指令がゼロ以外に設定された組について、d軸電流指令を同等(例えば、同じ)に設定する。
この構成によれば、各組のd軸電流指令が同等に設定されるので、式(6)及び式(16)に示したように、組間でリラクタンストルクを打ち消し合わせることができ、合計トルクをゼロに近づけることができる。
なお、本願において、設定値を「同等」に設定するとは、設定値が相互に±10%の範囲内にあることを意味するものとする。
過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、全ての組のトルクを合計した合計トルクがゼロになるように、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を設定してもよい。
この構成によれば、合計トルクをゼロにすることができる。また、動作点及び各組に応じて、各インダクタンスが変化するような場合でも、合計トルクが確実にゼロになるように、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を適切に設定できる。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、式(15)に示したように、第1組のq軸電流指令Iq1と第2組のq軸電流指令Iq2とを、絶対値が同等(例えば、同じ)であり、正負が反転した値に設定し、第1組のd軸電流指令Id1と第2組のd軸電流指令Id2とを、同等(例えば、同じ)の値に設定する。
この構成によれば、2組の電機子巻線が設けられる場合に、第1組のトルクと第2組のトルクとが弱め合い、ゼロに近づくように、適切に電流指令を設定することができる。
<第2方法(原点対称の電流ベクトル設定)>
第2方法を行う場合は、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、q軸電流指令がゼロ以外に設定された組について、d軸電流指令を合計した場合に、各組のd軸電流指令が互いに弱め合うように、各組のd軸電流指令を設定する。
d軸電流指令を互いに弱め合うように設定する簡単な設定で、各組のトルクを互いに弱め合うことができ、合計トルクの増加を抑制できる。
特に、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、q軸電流指令がゼロ以外に設定された組について、d軸電流指令を合計した合計d軸電流指令がゼロになるように、各組のd軸電流指令を設定してもよい。
合計d軸電流指令がゼロになるように設定する簡単な設定で、各組のトルクを互いに弱め合うことができ、合計トルクの増加を抑制できる。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御において、式(18)に示したように、第1組のq軸電流指令Iq1と第2組のq軸電流指令Iq2とを、絶対値が同等(例えば、同じ)であり、正負が反転した値に設定し、第1組のd軸電流指令Id1と第2組のd軸電流指令Id2とを、絶対値が同等(例えば、同じ)であり、正負が反転した値に設定する。
この構成によれば、第1組のdq軸電流指令と第2組のdq軸電流指令とを、dq軸座標系の原点に対称に設定する簡単な設定で、第1組のトルクと第2組のトルクとを弱め合わせることができる。
交流回転機の突極性がない場合は、リラクタンストルクがゼロになるため、式(19)の合計トルクがゼロになる。よって、交流回転機に突極性がないものが用いられてもよい。
<界磁巻線の電圧印加>
過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御の実行時に、界磁巻線25に電圧を印加する。例えば、過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御用のオンデューティ比のPWM信号を生成し、界磁巻線用のスイッチング信号として出力する。
過電圧時電圧印加部352は、過電圧時制御の実行時は、過電圧時制御の不実行時(本例では、通常時制御の実行時)よりも、界磁巻線の印加電圧を増加させてもよい。本実施の形態では、過電圧時制御用のオンオンデューティ比が、通常時制御用のオンデューティ比よりも大きい値に設定される。
2.実施の形態2
次に、実施の形態2に係る交流回転機10及び制御装置1について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る交流回転機10及び制御装置1の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、過電圧時に、ロータの回転角速度に応じて、制御を切り替える点が実施の形態1と異なる。
図6に示したように、3相短絡の場合は、低回転速度領域で、負トルク(負値の合計トルク)の大きさ(絶対値)が大きくなるが、回転角速度が増加するに従って、負トルクの大きさは小さくなる。よって、内燃機関の要求、車両の減速時の要求などの外部機関の要求から、負トルクの許容負トルクが定まっている場合は、3相短絡の場合の負トルクの大きさが、負トルクの許容負トルクの大きさよりも小さくなる回転速度領域では、3相短絡を実行してもよい。
例えば、図6において、負トルクの許容負トルクが、−2であるとすると、3相短絡の場合の負トルクが−2になる2.5の回転角速度以上では、3相短絡を実行することができる。
そこで、過電圧時電圧印加部352は、直流電圧Vdcが過電圧判定閾値以上になったと判定された場合であって、交流回転機の回転角速度が、切替閾値よりも小さい場合に、実施の形態1のような過電圧時制御を実行し、交流回転機の回転角速度が、切替閾値以上である場合に、各組について、各相の電機子巻線に等しい電圧を印加する等電圧印加制御を実行する。切替閾値は、等電圧印加制御の実行時の交流回転機のトルクが、許容できる負トルク(許容負トルク)の大きさの最大値に一致するときの回転角速度に予め設定されている。
過電圧時電圧印加部352は、等電圧印加制御として、3相短絡制御を実行する。過電圧時電圧印加部352は、3相短絡制御の実行時に、各組について、全相の正極側のスイッチング素子及び負極側のスイッチング素子の一方を、オンに固定し、他方をオフに固定する。
或いは、過電圧時電圧印加部352は、等電圧印加制御として、式(21)に示すように、各組について、3相の電圧指令を、−Vdc/2よりも大きく、+Vdc/2よりも小さい同じ値に設定してもよい。過電圧時電圧印加部352は、各組について、3相の電圧指令のそれぞれとキャリア波とを比較することにより、各相のスイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。ここで、Vu1、Vv1、Vw1は、第1組の3相の電圧指令であり、Vu2、Vv2、Vw2は、第2組の3相の電圧指令である。
図11に、本実施の形態の場合について、回転角速度ωと、合計トルク及び合計銅損との関係を示す。切替閾値ωthは、2.5付近に設定されている。回転角速度が2.5よりも小さい回転速度領域では、実施の形態1の第2方法の過電圧時制御が実行されており、図6の3相短絡の場合よりも、負値の合計トルクの大きさが小さくなっており、合計トルクが、許容負トルクよりも小さくなることを防止できている。また、過電圧時制御の実行により、図6の3相短絡の場合よりも、合計銅損が大きくなっている。回転角速度が2.5よりも大きい回転速度領域では、3相短絡制御が実行されているが、合計トルクは、−2の許容負トルクよりも大きくなっており、合計銅損も大きくなっている。
3.実施の形態3
次に、実施の形態3に係る交流回転機10及び制御装置1について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る交流回転機10及び制御装置1の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、過電圧時に、ロータの回転角速度に応じて、制御を切り替える点が実施の形態1と異なる。
実施の形態1の過電圧時制御では、ロータの回転に同期して回転するdq軸座標系上で電流フィードバック制御を行う。そのため、ロータの回転角速度の周波数が、電流フィードバック制御系のカットオフ周波数よりも高くなると、電流フィードバック制御の追従性が悪化し、過電圧時制御の性能を発揮できなくなる。
そこで、過電圧時電圧印加部352は、直流電圧Vdcが過電圧判定閾値以上になったと判定された場合であって、交流回転機の回転角速度が、切替閾値よりも小さい場合に、実施の形態1と同様の過電圧時制御を実行する。一方、過電圧時電圧印加部352は、直流電圧Vdcが過電圧判定閾値以上になったと判定された場合であって、交流回転機の回転角速度が、切替閾値以上である場合に、n相(本例では、3相)の電機子巻線に印加する電圧を、各組について合成した合成電圧ベクトルが、2組以上についてゼロ以外になると共に、全ての組の合成電圧ベクトルを合計した場合に、各組の合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように、一定値の各組の電圧指令を設定し、各組について、電圧指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフする一定電圧指令制御を実行する。
一定電圧指令制御では、一定値の電圧指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフし、各相の電機子巻線を印加するので、回転角速度が高くなっても、電流フィードバック制御系の応答遅れの影響を受けることなく、各電機子巻線に電圧を印加することができ、一定電圧指令制御の性能を発揮することができる。理論説明を後述するように、一定電圧指令制御では、各組の合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように、電圧を印加するので、各組の電機子巻線が出力するトルクを、組間で互いに弱め合わせて、合計トルクの増加を抑制することができる。また、合計銅損は、組間で弱められず、各組の合成電圧ベクトル及びトルクの大きさをゼロよりも大きくすることにより、増加させることができる。よって、実施の形態1の過電圧時制御と同様に、3相短絡と比較して、合計トルクの増加を抑制しつつ、合計銅損を増加させることができ、過電圧となった直流電圧Vdcの低下速度を増加させることができる。
一定電圧指令制御には、一定電圧指令制御の第1方法と、一定電圧指令制御の第2方法とがあり、以下で説明する。
3−1.一定電圧指令制御の第1方法
<一定電圧指令制御の第1方法の理論説明>
2組の3相電機子巻線を有する場合の、dq軸座標系上の電圧方程式は、次式で表せる。一定電圧指令制御の理論説明のため、式(22)では、式(2)と異なり、組間のd軸の相互インダクタンスMd、及び組間のq軸の相互インダクタンスMqが考慮されている。
定常状態においては、式(22)の微分演算子pの項がゼロになり、式(22)は、式(23)のようになる。
ここで、図12及び次式に示すように、第1組のdq軸電圧Vd1、Vd2の合成した第1組のdq軸合成電圧ベクトルVdq1と、第2組のdq軸電圧Vd2、Vd2の合成した第2組のdq軸合成電圧ベクトルVdq2とを、互いに打ち消し合うように、逆位相に設定している。これにより、2つの組のdq軸合成電圧ベクトルVdq1、Vdq2を合計したdq軸合計合成電圧ベクトルがゼロになる。
そして、高回転時には、式(25)が成り立ち、式(23)を変形すると、式(26)の各組のdq軸電流Id1、Iq1、Id2、Iq2の式が得られる。
このとき、第1組の電機子巻線により出力される第1組のトルクT1、第2組の電機子巻線により出力される第2組のトルクT2は、dq軸電流を用いて式(27)により算出される。第1組のトルクT1と第2組のトルクT2とを合計した合計トルクTは、式(27)に式(26)を代入し整理すると、式(28)となる。
ここで、式(24)のように、第1組のq軸電圧Vq1と第2組のq軸電圧Vq2とを、互いに打ち消し合うように、正負反転値に設定することにより、式(26)の第1組のq軸電流Iq1の分子の第2項と、第2組のq軸電流Iq2の分子の第2項とが正負反転値になり、合計トルクTの算出において互いに相殺される。また、第1組のd軸電圧Vd1と第2組のd軸電圧Vd2とを、互いに打ち消し合うように、正負反転値に設定することにより、合計トルクTの算出において、式(26)の第1組のd軸電流Id1の分子の第1項と、第2組のd軸電流Id2の分子の第1項とが正負反転値になり、合計トルクTの算出において互いに相殺される。よって、式(24)のように、各組の合成電圧ベクトルが互いに打ち消し合うように、電圧を印加することにより、第1組のトルクT1と第2組のトルクT2とが互いに弱め合い、合計トルクTを低減させることができる。
また、第1組及び第2組の電機子巻線の抵抗により生じる合計銅損Pcは、式(29)で与えられる。
式(29)に示すように、各組の銅損Pcは、d軸電流の2乗、及びq軸電流の2乗により算出されるので、正負反転値であった、2つの組のq軸電流Iq1、Iq2の分子の第2項の2乗値が互いに打ち消されなくなると共に、正負反転値であった、2つの組のd軸電流Id1、Id2の分子の第1項の2乗値が互いに打ち消されなくなる。よって、組間の弱め合いにより、合計トルクTは低減されるが、合計銅損Pcは、組間で弱められず、各組のトルクを大きくすることにより、大きくなる。
式(24)のように各組の合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように電圧を印加する一定電圧指令制御では、3相短絡に比べて、式(29)の第2項及び第3項の分だけ合計銅損を大きくでき、交流回転機の電力消費量を増加させることができる。式(29)の第2項及び第3項は、各組の合成電圧ベクトルの2乗に概ね比例するので、各組の合成電圧ベクトルを大きくし、各組のトルクの大きさを大きくすることにより、合計銅損を増加させることができる。よって、過電圧となった直流電圧Vdcの低下速度を増加させることができる。
一方、合計トルクについて、3相短絡に比べて、式(28)の第2項の分だけ、合計トルクの大きさ(絶対値)が大きくなっているが、組間で弱め合っているので、合計銅損の増加に比べて、合計トルクの大きさの増加を抑制できる。
<一定電圧指令制御の第1方法の構成>
そこで、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、上述したように、n相(本例では3相)の電機子巻線に印加する電圧を、各組について合成した合成電圧ベクトルが、2組以上についてゼロ以外になると共に、全ての組の合成電圧ベクトルを合計した場合に、各組の合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように、一定値の各組の電圧指令を設定し、各組について、電圧指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフする。
式(25)の関係を用いて近似することで、式(28)及び式(29)を得ているため、回転角速度ωが、式(30)をみたす範囲であればよい。kωは、例えば√10程度であれば、微小とみなす項の積は一桁違う値となるためよい。つまり、切替閾値が、式(30)を満たす回転角速度ωに設定されるとよい。
過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、全ての組の合成電圧ベクトルを合計した合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、各組の電圧指令が設定される。
この構成によれば、組間のトルクの弱め合いの効果を高めることができ、合計トルクの大きさの増加を抑制できる。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、各組について、n相(本例では3相)の電機子巻線に印加する電圧指令を、各組についてdq軸座標系で表したd軸電圧指令及びq軸電圧指令を設定するように構成されている。よって、過電圧時電圧印加部352は、各組のdq軸合成電圧ベクトルが、2組以上についてゼロ以外になると共に、全ての組のdq軸合成電圧ベクトルを合計した場合に、各組のdq軸合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令を設定する。特に、過電圧時電圧印加部352は、式(24)のように、dq軸合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令を設定する。
そして、通常時電圧印加部351と同様に、過電圧時電圧印加部352は、各組について、磁極位置に基づいて、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を、3相の電圧指令に座標変換する。過電圧時電圧印加部352は、3相の電圧指令に対して、空間ベクトル変調、2相変調等の線間電圧が変化しないような変調を加えてもよい。
そして、通常時電圧印加部351と同様に、過電圧時電圧印加部352は、各組について、3相の電圧指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフする。過電圧時電圧印加部352は、各組について、3相の電圧指令のそれぞれとキャリア波とを比較することにより、各相のスイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、各組について、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を一定値に設定する。
d軸電圧指令及びq軸電圧指令を一定値に設定すれば、式(24)、式(26)、及び式(28)からわかるように、定常状態で、d軸電流及びq軸電流が一定値になり、合計トルクが一定値になる。よって、一定電圧指令制御の合計トルクにリップル成分が生じることを抑制できる。
なお、過電圧時電圧印加部352は、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令を、ロータの回転角速度、直流電圧Vdc等の運転状態に応じて変化させてもよい。例えば、過電圧時電圧印加部352は、過電圧判定閾値からの直流電圧Vdcの電圧上昇量が大きくなるに従って、各組のdq軸合成電圧ベクトルの大きさが増加するように、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令を変化させてもよい。
<dq軸合成電圧ベクトルの位相設定>
式(24)のように、dq軸合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令を設定すると共に、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を一定値に設定する場合には、第1組のd軸電圧指令の一定値V1及びq軸電圧指令の一定値V2を次式のように表すことができる。
ここで、Vdq_fは、第1組及び第2組のdq軸合成電圧ベクトルの大きさ(絶対値)であり、βは、d軸に対する第1組のdq軸合成電圧ベクトルの位相である。
式(31)を、式(28)及び式(29)に代入すると、式(32)及び式(33)を得る。式(32)及び式(33)に示すように、合計トルクT及び合計銅損Pcの大きさは、dq軸合成電圧ベクトルの大きさVdq_f及び位相βにより変化させることができる。よって、3相短絡の場合よりも、大きな合計銅損を得ることができると共に、dq軸合成電圧ベクトルの大きさVdq_f及び位相βを変化させることで、合計銅損を所望の値に変化させることができる。
突極性のある一般的な交流回転機の場合、d軸の自己インダクタンスLdは、q軸の自己インダクタンスLqより小さいため、式(33)のcos2βの係数{1/(Lq−Mq)
2−1/(Ld−Mq)
2}は負値になる。よって、合計銅損Pcをより大きくするためには、式(34)に示すように、cos2βを負値にすればよく、cos2βを負値にするための、位相βの条件は、式(35)になる。よって、第1組のdq軸合成電圧ベクトルの位相βが、π/4<β<3π/4に設定されれば、第2組のdq軸合成電圧ベクトルの位相は、その逆位相の5π/4<β<7π/4に設定される。
よって、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、第1組のdq軸合成電圧ベクトルのd軸に対する位相を、π/4よりも大きく、3/4πよりも小さく設定し、第2組のdq軸合成電圧ベクトルのd軸に対する位相を、5π/4よりも大きく、7/4πよりも小さく設定する。第1組の位相と第2組の位相は、入れ替えられてもよい。
合計銅損Pcを最大にするためには、cos2βを−1にすればよく、位相βを式(36)のように設定すればよい。
よって、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、第1組のdq軸合成電圧ベクトルのd軸に対する位相を、π/2に設定し、第2組のdq軸合成電圧ベクトルのd軸に対する位相を、3π/2に設定する。第1組の位相と第2組の位相は、入れ替えられてもよい。
<突極性>
交流回転機の突極性がない場合は、式(37)が成り立ち、合計トルクを表す式(28)の第2項がゼロになり、3相短絡の場合の合計トルクと同じになる。よって、交流回転機に突極性がないものが用いられてもよい。突極性がない交流回転機を用いると、一定電圧指令制御の実行時の、合計トルクの大きさを低減することができる。
<スイッチング素子のオン又はオフ固定>
各組の3相の電圧指令にオフセット電圧を加えても、線間電圧は変化しないため、同様の合計トルク及び合計銅損の結果が得られる。そこで、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、各組について、少なくとも1相の正極側のスイッチング素子及び負極側のスイッチング素子の一方をオンに固定し、他方をオフに固定する。この構成によれば、スイッチング損失を低減することができる。
過電圧時電圧印加部352は、各組について、3相の電圧指令の中の最大値を+Vdc/2に変化させるオフセット電圧、又は3相の電圧指令の中の最小値を−Vdc/2に変化させるオフセット電圧を、3相の電圧指令に加えて、+Vdc/2又は−Vdc/2になった1相の正極側及び負極側のスイッチング素子の一方をオンに固定し、他方をオフに固定する。なお、電圧指令が、+Vdc/2であると、正極側のスイッチング素子がオンに固定され、負極側のスイッチング素子がオフに固定される。電圧指令が、−Vdc/2であると、正極側のスイッチング素子がオフに固定され、負極側のスイッチング素子がオンに固定される。
<界磁巻線の電圧印加>
過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御の実行時に、界磁巻線25に電圧を印加する。例えば、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御用のオンデューティ比のPWM信号を生成し、界磁巻線用のスイッチング信号として出力する。
合計銅損を表す式(8)の第1項は、磁石の磁束ψの2乗に比例するため、界磁巻線に流す界磁電流を増加させることで、さらに合計銅損を増加させることが可能である。そこで、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御の実行時は、一定電圧指令制御の不実行時(本例では、通常時制御の実行時)よりも、界磁巻線の印加電圧を増加させる。本実施の形態では、一定電圧指令制御用のオンオンデューティ比が、通常時制御用のオンデューティ比よりも大きい値に設定される。
3−2.一定電圧指令制御の第2方法
<一定電圧指令制御の第2方法の理論説明>
一定電圧指令制御の第1方法では、dq軸座標系上で、各組のd軸電圧指令及びq軸電圧指令が一定値に設定される場合について理論説明を行ったが、一定電圧指令制御の第2方法では、次式に示すように、各組の3相の電圧指令が一定値に設定される場合について、理論説明を行う。
次式に示すように、第1組の3相の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を合成した第1組の合成電圧ベクトルと、第2組の3相の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2を合成した第2組の合成電圧ベクトルとを、互いに打ち消し合うように、逆位相に設定している。これにより、2つの組の合成電圧ベクトルを合計した合計合成電圧ベクトルがゼロになる。式(19)では、各組の3相電圧指令の和がゼロになるように設定されているが、3相の電圧指令に対して、空間ベクトル変調、2相変調等の線間電圧が変化しないような変調が加えられてもよい。
ここで、Vu1は、U1相の電圧指令であり、Vv1は、V1相の電圧指令であり、Vw1は、W1相の電圧指令であり、Vu2は、U2相の電圧指令であり、Vv2は、V2相の電圧指令であり、Vw2は、W2相の電圧指令である。Vuvw_fは、各組の合成電圧ベクトルの大きさ(絶対値)であり、一定値に設定されている。βは、U1相の電機子巻線に対するU1相の電圧指令Vu1の位相であり、一定値に設定されている。各組について、各相の電圧指令の位相は、相互に2π/3ずつずれている。
式(38)の各組の3相電圧指令を、磁極位置θに基づいて、dq軸座標系上のd軸電圧指令及びq軸電圧指令に座標変換を行うと、式(39)を得る。そして、式(39)、式(23)、及び式(25)に基づいて、各組のdq軸電流Id1、Iq1、Id2、Iq2の式を導出し、式(27)及び式(29)の第1式に代入すると、式(40)の合計トルクTの式、式(41)の合計銅損Pcの式が得られる。
合計トルクは、3相短絡の場合と比べた場合、式(40)の第2項の交流成分の分だけ変動する。しかし、式(40)の第2項は、磁極位置θの回転周波数の2倍の周波数(2次)の成分であり、電気角1周期の平均値はゼロになる。また、合計銅損は、3相短絡の場合と比べた場合、式(41)の第2項の直流成分の分だけ大きくなり、式(41)の第3項の交流成分の分だけ変動する。しかし、式(41)の第3項は、磁極位置θの回転周波数の2倍の周波数の成分であり、電気角1周期の平均値はゼロになる。
<一定電圧指令制御の第2方法の構成>
そこで、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、上述したように、n相(本例では3相)の電機子巻線に印加する電圧を、各組について合成した合成電圧ベクトルが、2組以上についてゼロ以外になると共に、全ての組の合成電圧ベクトルを合計した場合に、各組の合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように、一定値の各組の電圧指令を設定し、各組について、電圧指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフする。
また、過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、全ての組の合成電圧ベクトルを合計した合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、各組の電圧指令を設定する。
ここで、合成電圧ベクトル、及び合計合成電圧ベクトルは、3相座標系上で算出されてもよいし、dq軸座標系上で算出されてもよいし、αβ軸座標系上で算出されてもよい。αβ軸座標系は、U1相(又はU2相)の巻線方向に定められたα軸と、α軸より電気角で90°(π/2)進んだ方向に定められたβ軸からなる。
過電圧時電圧印加部352は、一定電圧指令制御において、各組について、各相の電機子巻線に印加する電圧指令を一定値に設定するように構成されている。そして、過電圧時電圧印加部352は、各組について、3相の電圧指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフする。過電圧時電圧印加部352は、各組について、3相の電圧指令のそれぞれとキャリア波とを比較することにより、各相のスイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。
本実施の形態では、過電圧時電圧印加部352は、式(38)に示したように、Vu2=−Vu1、Vv2=−Vv1、Vw2=−Vw1に設定する。この構成によれば、合計トルクの振動を抑制し、合計トルクの平均値を3相短絡の場合と同等に抑制しつつ、合計銅損の平均値を、3相短絡の場合よりも増加させることができる。
<突極性>
交流回転機の突極性がない場合は、合計トルクを表す式(40)の第2項がゼロになり、2次の交流成分を無くすことができ、3相短絡の場合の合計トルクと同じになる。よって、実施の形態2においても、交流回転機に突極性がないものが用いられてもよい。
<組間の電機子巻線の位相差が、ゼロ以外の場合>
本実施の形態では、第1組の3相の電機子巻線と、第2組の3相の電機子巻線との間には位相差がない場合を説明した。第1組の3相の電機子巻線と、第2組の3相の電機子巻線との間に、任意の位相差があってもよい。この場合でも、各組の合成電圧ベクトルが互いに弱め合うように各組の各相の電圧指令が設定されればよく、各組の合成電圧ベクトルを合計した合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、各組の各相の電圧指令が設定されればよい。
例えば、第1組の3相の電機子巻線と、第2組の3相の電機子巻線との間に、π/3の位相差がある場合は、過電圧時電圧印加部352は、合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、Vu2=Vw1、Vv2=Vu1、Vw2=Vv1、に設定する。
また、第1組の3相の電機子巻線と、第2組の3相の電機子巻線との間に、π/6の位相差がある場合は、過電圧時電圧印加部352は、合計合成電圧ベクトルがゼロになるように、Vu2=(Vw1−Vu1)/√3、Vv2=(Vu1−Vv1)/√3、Vw2=(Vv1−Vw1)/√3、に設定する。
〔その他の実施の形態〕
最後に、本願のその他の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する各実施の形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施の形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記の各実施の形態では、m=2の2組であり、n=3の3相である場合を例として説明した。しかし、m=3、4等、mは、2以上の任意の自然数に設定されてもよく、n=2、4等、nは、2以上の任意の自然数に設定されてもよい。
(2)上記の各実施の形態では、電圧印加部35は、過電圧時制御の第1方法において、全ての組のq軸電流指令を合計した合計q軸電流指令がゼロになるように、各組のq軸電流指令を設定し、q軸電流指令がゼロ以外に設定された組について、d軸電流指令を同じ値に設定する場合を例に説明した。しかし、本願の実施の形態はこれに限定されない。すなわち、電圧印加部35は、過電圧時制御の第1方法において、全ての組のq軸電流指令を合計した場合に、各組のq軸電流指令が互いに弱め合うように、各組のq軸電流指令を設定すればよく、合計q軸電流指令は、ゼロにならなくてもよく、q軸電流指令がゼロ以外に設定された組について、d軸電流指令を異なる値に設定してもよい。
(3)上記の各実施の形態では、電圧印加部35は、過電圧時制御の第2方法において、全ての組のq軸電流指令を合計した合計q軸電流指令がゼロになり、全ての組のd軸電流指令を合計した合計d軸電流指令がゼロになるように、各組のd軸電流指令及びq軸電流指令を設定する場合を例に説明した。しかし、本願の実施の形態はこれに限定されない。すなわち、電圧印加部35は、過電圧時制御の第2方法において、全ての組のq軸電流指令を合計した場合に、各組のq軸電流指令が互いに弱め合うように、各組のq軸電流指令を設定すればよく、合計q軸電流指令は、ゼロにならなくてもよく、全ての組のd軸電流指令を合計した場合に、各組のd軸電流指令が互いに弱め合うように、各組のd軸電流指令を設定すればよく、合計d軸電流指令は、ゼロにならなくてもよい。
(4)上記の各実施の形態では、交流回転機10は、ロータ14に界磁巻線25を有している場合を例に説明した。しかし、交流回転機10は、ロータ14に永久磁石を有した永久磁石式の同期回転機とされてもよく、誘導回転機とされてもよい。
(5)上記の各実施の形態では、第1組の3相の電機子巻線と、第2組の3相の電機子巻線との間には、位相差がない場合を例に説明した。しかし、第1組の3相の電機子巻線と、第2組の3相の電機子巻線との間には、任意の位相差が設けられてよい。
(6)上記の各実施の形態では、交流回転機10は、車両用の発電電動機である場合を例に説明した。しかし、交流回転機10は、車両用の発電電動機以外の各種の用途の交流回転機とされてもよい。
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。