JP6794667B2 - 建設機械の制御システム、及び制御プログラム - Google Patents

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Description

本発明は、搭乗操作方式と、遠隔操作方式の双方に対応した建設機械の制御システム、及び制御プログラムに関する。
土木建設現場等で使用される建設機械は、運転者が搭乗して操作する搭乗操作方式と、操縦装置(遠隔マニュピュレータ)を使用して無線操縦する遠隔操作方式によるのが一般的である。
遠隔操作方式は、主として人間が近づけない危険な場所等で使用される。遠隔操作方式を使用した従来技術としては種々、提案されている(例えば、特許文献1−4)
特開2002−002505号公報 特開2015−192163号公報 実開平6−48139号公報 特開2007−2429号公報
しかし、従来技術では、単に、搭乗操作方式と遠隔操作方式の双方を切り替えて使用するだけの機能しかなく、柔軟性に欠けるという課題がある。特に、遠隔操作方式では、操縦装置側では、車両の運転状態等を十分に把握することができず、誤操作や誤作動が生じても適格に対応することができないという不具合がある。
本発明は上記課題に鑑み、搭乗操作方式と遠隔操作方式の双方において誤操作や誤作動が生じても適格に対応することができ、建設機械を安全側に導くことができる建設機械の制御システム、及び制御プログラムを提供することを目的としている。
上記目的を達成するための実施形態は、制御対象車両である建設機械を遠隔操縦する操縦装置と、前記建設機械に設けられ車両側制御装置とが無線通信機により相互にブリッジ接続されて前記建設機械を制御する建設機械の制御システムであって、前記操縦装置内に設けられ、前記建設機械を統括制御する操縦装置側統括コンピュータと、前記車両側制御装置内に設けられ、前記操縦装置と協調して前記建設機械を統括制御する車両側統括コンピュータと、を備え、前記操縦装置側統括コンピュータ及び前記車両側統括コンピュータは、相互に協調して前記建設機械を安全側に導くフェールセーフ機能を有する。
本発明によれば、搭乗操作方式と遠隔操作方式の双方において誤操作や誤作動が生じても適格に対応することができ、建設機械を安全側に導くことができる。
実施形態における建設機械の制御システムの構成を示すブロック図である。 制御対象となる建設機械の外観構成を示す斜視図である。 建設機械の制御システムの作用を説明するブロック図である。 建設機械の制御システムの作用を説明するブロック図である。 建設機械の制御システムの作用を説明するブロック図である。 操縦装置側統括PC及び車両側統括PCの各機能構成を示すブロック図である。 シリアル通信ブリッジモジュール群のデータフローを示す説明図である。 CAN通信ブリッジモジュール群のデータフローを示す説明図である。 汎用通信ブリッジモジュール群のデータフローを示す説明図である。 フェールセーフ機能の一つとしてのエンジンオイル、冷却水及び作動油タンクの温度上昇時の処理手順を示すフローチャートである。 フェールセーフ機能の一つとしての通信途絶時の処理手順を示すフローチャートである。 フェールセーフ機能の一つとしての転覆回避処理における静的安定性の場合の説明図である。 フェールセーフ機能の一つとしての転覆回避処理における動的安定性の場合の説明図である。 図12、図13に示す転覆回避処理の手順を示すフローチャートである。
以下に、本発明の実施形態に係る建設機械の制御システムについて説明する。なお、本実施形態では、建設機械を、図2に示すような不整地運搬車2とする場合の例について示してある。
<システム構成>
図1は、実施形態における建設機械の制御システムの構成を示すブロック図、図2は、制御対象となる建設機械の外観構成を示す斜視図である。
図1に示すように、実施形態における建設機械の制御システム10は、操縦装置20と車両側制御装置50とから構成されている。
本実施形態の建設機械としての不整地運搬車2は、図2に示すように、下部走行体として、たとえば、履帯(クローラ)式の下部走行体4を備えた構成とされている。
制御対象となる不整地運搬車2は、図2に示すように、左右の履帯4L,4Rにより不整地を移動する車両である。通常時は、運転席6の運転者の操作により、荷台8に載積された運搬物を運ぶが、本実施形態の不整地運搬車2では、運転者による操作と操縦装置20を所持した操縦者による無線遠隔操縦による運転とが切替可能に構成されている。なお、図2中、3はGPSアンテナ、5は遠隔非常停止用スイッチアンテナ、7はGPS用無線アンテナである。また、62L,62Rは不整地運搬車2の速度、加速度を検出するエンコーダ(後述)、66はパトライト(登録商標)である。
操縦装置20は、操縦装置側統括PC22により統括制御されており、ジョイスティック(操縦桿とも称する)24と、ディスプレイ26と、ACアダプタ28と、LED/スイッチ30と、センサ32とを備えている。これら操縦装置側統括PC22、ジョイスティック(操縦桿)24、ディスプレイ26、ACアダプタ28、LED/スイッチ30及びセンサ32は遠隔操縦BOX34に収納されている。遠隔操縦BOX34の外には、無線LANハブ(HUB)36と、RTK用基準局38と、モニタ40と、遠隔停止スイッチ(送信側)44とを備えている。
車両側制御装置50は、車両側統括PC52により統括制御されており、該車両側統括PC52には既設車両側装置54が接続されている。
既設車両側装置54は、車両操作に使用される既設ジョイスティック(操縦桿)54aと、遠隔操縦時には既設ジョイスティック(既設操縦桿)54aを信号ライン(CAN2)から切り離す遠隔/搭乗操作切替スイッチ54bと、車両の状態を表示する既設ディスプレイ54cと、車両を電子制御するためのCPUである既設コントローラ54dとを備え、これらの機器はCAN2に接続されている。また、既設車両側装置54は、並列化回路54eと、非常停止ボタン54fとを備えている。並列化回路54eは非常停止ボタン54fと後述する遠隔停止スイッチ74とを並列に接続する。すなわち、送信側である操縦装置20の遠隔停止スイッチ44が操作されたときに、その信号を遠隔停止スイッチ74が受信したとき、非常停止ボタン54fの操作と同様に車両の運行を停止する。
また、車両側制御装置50は、無線LANハブ56と、GPS(GNSS)/IMU装置58と、LED/スイッチ60と、エンコーダ62(62L,62R、図2参照)と、追加IO用CPU64と、パトライト(登録商標)66(図2参照)と、キーボード/マウス68と、24V車載バッテリー70と、無停電装置72と、前述した遠隔停止スイッチ(受信側)74とを備えている。
このシステムにおいては、不整地運搬車2を遠隔操作するために、操縦装置20と、車両側制御装置50とが無線LANにより相互にブリッジ接続され、操縦装置側統括PC22、車両側統括PC52内で遠隔操縦と搭乗操縦を切り替えて操縦するために必要な通信調停を行う。また、このシステムでは、操縦装置側統括PC22及び車両側統括PC52は、相互に協調して不整地運搬車を安全側に導くフェールセーフ機能を有する。操縦装置20側(機外側)には不整地運搬車2を操作するためのインタフェースとして、ジョイスティック(操縦桿)24、ディスプレイ26があり、これは既設に取り付けられている車両側の機器と同一である。また、これらは機外で持ち運びながら使えるように全体がBOX(遠隔操縦box34)化されている。それらのCANバス(CAN1,CAN2(既設),CAN3)の信号形式は全般的にCAN−J1939であり、不整地運搬車全般で使われている信号形式に相当する。このうちCAN1と既設のCAN2は一つのCANネットワークとして機能させる。CAN3については独立した状態で運用される。
また、本実施形態に係る建設機械の制御システム10は、以下の(1)〜(7)の各機能を有する。
(1)遠隔で車両を操縦するために、車載で使われていたCAN接続の既設ジョイスティック(操縦桿)54a、既設ディスプレイ54cを、無線通信を介した操縦装置20側のジョイスティック(操縦桿)24、ディスプレイ26により遠隔操作が可能である。つまり、操縦装置20と車両側制御装置50のCAN通信を、無線通信(無線LANなど)を介して同一のバスとして通信できる。例えば、図3に示すように、CANバス(以下、CANと略す)1が遠隔側で、CAN2が電子化された不整地運搬車2の制御CANであるとすると、既設ジョイスティック(操縦桿)54aなどはCAN2に直接接続されているのに対し、ジョイスティック(操縦桿)24はCAN1に接続されていても無線LANを用いてその通信を仲介できるような機能を有する。
(2)また、図4に示すように、遠隔側と車両側の各統括PC22,52の通信を無線LAN経由でやりとりするときに、無線LANに流す必要の無いメッセージをカットしたり、新たなメッセージを追加したり、コントローラモジュールで通信内容を把握したりするために、指定IDのCANメッセージのフィルタリング、バイパス、インジェクション機能を有する。上部に新たに追加されたLANとCANの通信を行うために、CANから流れてきたメッセージを抽出し、LAN側や制御部へパケットの形式を整えて流すことができる。逆にLAN側や制御部から流れてきたパケットにある指令値をCANに変換してバスへ流すことができる。
(3)図5に示すように、車両の位置・姿勢の計測のために、遠隔側にRS232Cで接続されたRTK用基準局38からのRTK−GPS補正データを、無線通信を介して車両側のGNSS/IMU58へ同じ内容のままRS232Cで出力することができる。RTK−GPS補正データの送受信は通常は専用に設けられた特定小電力無線を介して行うが、RTK−GPSの位置データを無線LAN経由で車両側から遠隔側に渡す必要があるため、補正データも遠隔操縦無線LANに相乗りさせる形で実装される。
(4)操縦装置20を用いて車両を遠隔操縦する場合には、車両側の既設ジョイスティック(操縦桿)54aの遠隔/搭乗操作切替スイッチ54bを用いて搭乗操縦(有効)と遠隔操縦(無効)を切り替えることができる。また、切り替えたことを車両側統括PC52のDIで検知して操縦装置側統括PC22に対してその情報を送信する。また、送信とともに、操縦装置側統括PC22のDIにおいても遠隔/搭乗切替スイッチ(図示せず)を遠隔操縦(ON)と搭乗操縦(OFF)を切り替え、遠隔操縦を可能とする。
(5)操縦装置20側で車両の状態やソフトウェアの動作状況をモニタリングし、車両の危険を予見できるような機能が追加できるように、CANやRS232Cの通信以外の汎用データを通信する機能を有する。
(6)上記(1)から(5)までの各機能を持つソフトウェアをコントロールできるAPIを有する。
(7)全体、または一部の機器の電源断による誤動作の防止や、遠隔操縦機器の落下などに対するフェールセーフ、遠隔での非常停止ボタンを作動させる機能(遠隔停止スイッチ44,74による非常停止機能)を有する。
図6は実施形態に係る操縦装置側統括PC22と車両側統括PC52の各ソフトウェア(機能モジュール)構成を示すブロック図である。
図6に示すように、操縦装置側統括PC22は、操縦装置側コントローラモジュール22aと、シリアル−LAN変換モジュール22bと、CAN−LAN変換モジュール22cと、LANモジュール22dと、汎用通信モジュール22eと、ロギングモジュール22fと、3軸加速度センサモジュール22gと、画面表示モジュール22hとを備えている。一方の車両側統括PC52は、車両装置側コントローラモジュール52aと、シリアル−LAN変換モジュール52bと、CAN−LAN変換モジュール52cと、LANモジュール52dと、汎用通信モジュール52eと、ロギングモジュール52fとを備えている。
コントローラモジュール22a,52aは、通信調整を指定する。また、各モジュールをコントロールし、通信/ロギング/表示データの統括を行う。また、CANメッセージを生成してバスにインジェクションを行う制御も実行する。
シリアル−LAN変換モジュール22b,52bは、RS232C通信のLANを介してのブリッジ、バイパスを行う。通信の調整はコントローラモジュールから指定される。
CAN−LAN変換モジュール22c,52cは、CAN通信のLANを介してのブリッジ、指定IDのバイパス/フィルタリング、任意メッセージのインジェクションを行う。通信の調整はコントローラモジュールから指定する。パトライト(登録商標)への点灯指令やエンコーダカウントの値は追加IO用CPU64へのCANメッセージを使って送受信を行う。
LANモジュール22d,52dは、操縦装置側統括PC22と車両側統括PC52との間の送受信を行う。
図7は、シリアル通信ブリッジモジュール群としてのシリアル−LAN変換モジュール22b、LANモジュール22d、シリアル−LAN変換モジュール52b、LANモジュール52dのデータフローを示している。
図8は、CAN通信ブリッジモジュール群のデータフローを示している。CAN通信ブリッジモジュール群は、CAN通信を送受信しPC内の別モジュールへ送信する機能を有するCAN−LAN変換モジュール22c,52cと、他のPCとの通信を行うLANモジュール22d,52dにより構成される。
汎用通信モジュール22e,52eは、上記通信以外の制御、ステータス、デバッグなどの情報について、操縦装置側統括PC22と車両側統括PC52との間の送受信を行う。
図9は、汎用通信ブリッジモジュール群のデータフローを示している。汎用通信ブリッジモジュールは、CAN/RS232C以外にコントローラモジュール22a,52aが操縦装置側統括PC22と車両側統括PC52との間で送受信したいデータを通信する汎用通信モジュール22e,52eと、他のPCとの通信を行うLANモジュール22d,52dにより構成される。
ロギングモジュール22f,52fは、コントローラモジュール22a,52aから出力されるログデータをファイルへ出力し、記録する。
画面表示モジュール22hは、遠隔操縦システムの通信状況や、車両の状態などといったステータスを遠隔側で提示する。
3軸加速度センサモジュール22gは、遠隔操縦BOX34の落下検知によるフェールセーフ機能の動作のために使われる。USB接続の加速度センサ32から100msの周期でデータを読み取り、読み取りデータをコントローラモジュール22aへ送信する。この機能については、後述する。
<フェールセーフ機能>
以下、実施形態のフェールセーフ機能について説明する。操縦装置側統括PC22及び車両側統括PC52は、相互に協調して不整地運搬車を安全側に導くフェールセーフ機能を有する。
《車両暴走時の処理》
車両暴走は、操縦装置20から不正な指令が出続けており、操縦装置側統括PC22が不正な状態(ハングアップやフリーズ)となり、不正な値を出力し、操縦装置20を通して指令が行えない状態をいう。この場合、制御対象となる建設機械が正規の走行指示から逸脱した状態で走行し続けるのを防止する。
〔対策1〕
操縦装置20とは別系統、すなわち、無線LANとは別系統で遠隔停止スイッチ44を無線化するシステム(特定小電力無線)を用いて、車外で押された遠隔停止スイッチ44の接点情報(ON/OFF)を車両側に送信する。車両側では、車両に既設されている非常停止ボタン54fに対して並列化回路54eを介して並列に接続された遠隔停止スイッチ74の接点が動作できるようにすることで、遠隔停止を動作させることができる。
また、同じ遠隔非常停止システムを介して別の接点が操縦装置側統括PC22のリセットスイッチを動作できるようにすることで、操縦装置側統括PC22をリセットさせ、車両を暴走させるような不正な出力を停止させることができる。
〔対策2〕
なお、ウォッチドックタイマ(WDT)を用いてソフト的に対策を行う方法もある。WDTにより定期的に操縦装置側統括PC22の特定のレジスタの値を監視しておき、一定時間以上書き換えられていない場合には異常事態を判断し、非常停止をONとして、かつPC22をリセットさせる。
《温度上昇時の処理》
車両側統括PC52は、不整地運搬車2のエンジンの状態をセンサで監視し、該状態が規定値以上となったときに、操縦装置20に設けられたジョイスティック(操縦桿)24からの入力を切断して走行を停止させて冷却する指令を出力し、該温度が危険温度以上となったときに、エンジンを停止させて冷却する指令を出力するとともに、前記操縦装置側統括コンピュータにアラートを出力するフェールセーフ機能を有する。ここで、温度上昇とは、車両のエンジンが動き続けてしまい、エンジン冷却水の温度が上昇してしまった状態をいう。
〔対策〕
温度上昇を抑えるためには、静止させてアイドリング状態でクーリングファンを回し続ける必要がある。エンジンの温度を計測する方法として、冷却水の温度を用いる方法がある。エンジンECUからは所定のCANメッセージが出力され、そのメッセージフィールドの所定ビットに−40℃から210℃までの値が格納されている。そのため、以下の条件となった場合、ジョイスティック(操縦桿)入力を常に“0”入力させる(操作不能)状態とする。温度閾値はアラートが提示される温度近辺の値である。
図10は、温度上昇時の処理を示すフローチャートである。エンジンオイル温度、冷却水温度、作動油タンク温度をそれぞれ計測する(ステップS2,S4,S6)。計測エンジンオイル温度が所定温度T1を超える状態となった場合(ステップS8YES)、または、冷却水温度が所定温度T2を超える状態となった場合(ステップS10YES)、または、作動油タンク温度が所定温度T3を超える状態となった場合(ステップS12YES)、アラートを出力し(ステップS14)、車両を静止させてアイドリング状態へ移行させる(ステップS16)。
このように、本実施形態の建設機械の制御システム10ではフェールセーフ機能としてエンジンが所定温度以上にまで過熱する事態を未然に回避することが可能になる。
《通信途絶時の処理》
本実施形態の制御システムは多量の制御データを送受信するために、ラジコン用無線ではなく、無線LANを用いている。そのため、無線LANが切断されたり、多量の通信で帯域が圧迫されたりした場合に、制御信号が届かなくなり意図した操作ができない状況となる。これを“通信途絶”状態と定義する。
〔対策1〕
LANが持つ機能を活用する。アプリケーションはデータ通信と平行して、別スレッドからTCP通信による相手先との生存確認をする。
図10は通信途絶時の処理手順を示すフローチャートである。
車両側制御装置50は、操縦装置20からの信号を受信中に所定周期、例えば、100msでpingコマンドを送信する(ステップS22)。接続相手からpingコマンドを前回の受信から100ms+10ms以内に受信できない場合、エラー発生とする(ステップS24YES)。ただし、10msは通信と処理のゆらぎを吸収するマージンである。pingコマンドを100msで送信し、それが5回連続してエラー状態となったときに通信途絶と判定する(ステップS26,S28)。通信途絶と判定された場合には、車両側のメモリに保存されている過去のデータに基づきデータを補完して制御を継続させる(ステップS30)。
〔対策2〕
アプリケーションはデータ通信と平行して、別スレッドからUDP通信による任意のIDを持つデータのソケット通信を相手先へ行う。この通信が仮に100ms毎に行われるとした場合に、5回連続して受信できない(500ms〜600ms以上受信できない)場合には、エラー状態として通信途絶判定をTRUEとする。
ここで、データ補完機能について説明する。
<無線通信が中断する場合>
電源が中断する場合と同じであるが、無線LAN−APや各種通信モジュールは逐次接続のリトライをかけ続ける。その間は、データは通信モジュールに蓄積されるが、一定量を超えると古いデータから削除される。
遠隔操縦に関連するCANデータは途中が欠落したとしても、通信回復後の操縦再開をジョイスティック(操縦桿)が中立状態から始めることで安全に再開が可能となる。GPSデータについては、通信途絶後から再開するまでの間の情報が無いが、その間には車両は速度を低下させて停止に向かうため、大きな変化がなく問題は無い。また汎用通信データについては、車両側と遠隔側でそれぞれローカルなロギングを行い、通信が回復したあとでそのデータを回収することで必要な情報を入手することが可能となる。またリアルタイムに必要な汎用通信データは、無線通信が中断した状態では機能を一時停止させる(車両を停止させる)こととし、その間の通信データについては利用しない。
ジョイスティック(操縦桿)24のCANメッセージは、車両CPU側で100ms以上の間隔が開くと通信断として0が入力されてしまう。定常的な遅延であれば問題はないが、通信が不安定になり遅延のジッタが100msを超えるような場合に0が入力されてしまうことが考えられる。程度問題としてどの程度の頻度でCANメッセージが欠落し、0が入力されるのか次第であるが、操作性に影響が出る可能性がある。その場合には、車両側PC内のコントローラモジュールの方でジョイスティック(操縦桿)24のCANメッセージを監視(バイパス)し、一定時間以上の間隔が空いている場合には入力をインジェクションすることで操作性の向上を図る。ただし、インジェクションを行いすぎると安全系に影響を与えるため、間欠的なメッセージ無し時間の閾値(例えば、〜500ms)と、長期的なメッセージ無し時間の閾値(例えば、〜1000ms)を決める。そして、これら2つの時間を計測し、前者であれば入力をインジェクションし、後者であれば改めて入力を0とするようにする方法が考えられる。
このように、本実施形態の建設機械の制御システム10ではフェールセーフ機能として、通信途絶状態が発生した場合にデータをインジェクションできるようにしているので、不整地運搬車2の制御を中断することなく継続することが可能になる。
なお、車両側統括OC52及び操縦装置側統括PC22は、特定小電力無線の通信強度(RSSI電圧)を監視して通信途絶の有無を判定し、車両側統括PC52は、該通信強度が低下した場合には、車両の走行を停止するようにしてもよい。すなわち、車両側統括PC52は、遠隔非常停止系の接点(遠隔停止スイッチ44)を監視するだけでなく、遠隔停止スイッチ44からの特定小電力無線のRSSI電圧を周期的に監視して、その電圧値の大小で通信可能か通信断かを判断する。通信断の場合には、安全のため車両を停止させる。
《転覆回避処理》
車両の転覆は、車両の傾きが大きくなりすぎた状況、またはその状況でより不安定な方向へ動作する状況が原因となる。転覆を回避するためには、図12に示す車両が停止中(静的安定性)の場合の対策1と、図13に示す車両が走行中(動的安定性)の場合の対策2を施す必要がある。
〔対策1:静的安定性の場合〕
履帯範囲と不整地運搬車2の重心位置(x,y,z)と不整地運搬車2の姿勢とから、重心を地面に投影した地点が支持領域内にあるかどうかを計算することで判断する。重心が支持領域外に近づいた場合には、搭載側から操作側へアラートを出力する。図12には、不整地運搬車2の前額面(同図(a))と、矢状面(同図(b))におけるおおよその重心位置gと重力方向mgを矢印で表す。矢印が真下を向いていない場合は、路面が傾いている状態を表している。このとき、矢印が不整地運搬車2の下にある支持領域(w、d)の内側か外側かを姿勢角(車体のピッチ角φ、車体のロール角θ)を用いて計算する。ただし、重心位置gは機械重量、燃料量、貨物量によって変化するため、極端な条件として、燃料満タン+空荷の場合と、燃料無し+満積載の場合で評価する。
図14は転覆回避処理の手順を示すフローチャートである。同図に示すように、履帯範囲と重心位置と姿勢が検出され(ステップS40)、重心位置と姿勢とから重力方向が求められる(ステップS42)。そして、求められた重力方向が支持領域内にあるか否かが判定され、支持領域外である場合(ステップS44YES)、アラートが出力される(ステップS46)。
支持領域と重心gの関係が図12の状態にあるとき、安定とはあ安定するには以下の条件式を満たす必要がある。ただし、重心位置gが中心線を挟んで反対側にある場合には、車両の中心線から重心gまでの距離aとbの値が負となり以下の条件式に代入される。ただし、εは任意の1以下の定数であり、マージンを示す。
図12(a)の場合:
−εtan−1{(w+a)/c}<φ<−εtan−1{(w−a)/c}・・・(1)
図12(b)の場合:
−εtan−1{(d+b)/c}<φ<−εtan−1{(d−b)/c}・・・(2)
ただし、c:地面(支持面)から重心gまでの距離、
〔対策2:動的安定性の場合〕
履帯範囲と不整地運搬車2の重心位置(x,y,z)と姿勢と加速度を用いて、重心と慣性力が作用している系における床反力の中心点ZMP(Zero Moment Point)が支持領域内にあるかどうかを判断する。ただし、前額面内と矢状面内でそれぞれ以下のような状況で考える。
前額面が、最大3km/h(0.83m/s)で走行時に、急に信地旋回走行へ移行した瞬間。旋回半径は重心位置と履帯の中心の間の距離である。
矢状面が、最大3km/h(0.83m/s)で前進走行時に、急に入力をニュートラルとした瞬間又は後進最大速度で走行中に急に入力をニュートラルとした瞬間。
図13(a)は、直進走行から信地旋回へ移行した瞬間、図13(b)は、加減速時の重力方向と支持領域を示している。
支持領域と重心の関係が図13のような状態にある場合、安定とするためには以下の条件式を満たす必要がある。ただし、重心位置が中心線を挟んで反対側にある場合には、aとbの値が負となり以下の条件式に代入される。ここで、質量をm、前後進の加減速加速度sとする。加速度値にはノイズが含まれるため、マージンを広めとするか、オンラインフィルタリングが必要である。εは任意の1以下の定数であり、マージンを示す。
図13(a)の状態で右信地旋回(右履帯が速度0)の場合、f=mv/(w−t+a)となるため、以下の等式を評価する。
−εtan−1{(w+a)/c}<A<−εtan−1{(w−a)/c}
A={gsinφ+v/(w−t+a)}/gcosφ
図13(a)の状態で左信地旋回(左履帯が速度0)の場合、f=mv/(w−t−a)となるため、以下の等式を評価する。
−εtan−1{(w+a)/c}<B<−εtan−1{(w−a)/c}
B={gsinφ−v/(w−t−a)}/gcosφ
図13(b)の場合、f=msとして、以下の等式を評価する。
−εtan−1{(d+b)/c}<C<εtan−1{(d−b)/c}
C=(gsinθ+s)/gcosθ
このように、本実施形態の建設機械の制御システム10ではフェールセーフ機能として転覆回避機能を有するので、操縦装置20による遠隔操作の場合にあっても不整地運搬車2の転覆を未然に回避することが可能になる。
《スリップ》
スリップは、履帯と地面との滑りが大きくなっている状態を意味する。スリップ率を計測し、スリップ率が大きくなった場合、操作者に速度を落とすように指示を行う。例えば,スリップ率が大きいほどランプの点滅速度が速く,小さいほど点滅速度は遅くする。スリップ率が一定値以上となった場合には、車両が何かに引っ掛かり指令した方向へ動かない状態であるスタックが発生したと判断する。
具体的には、車両側統括PC52は、不整地運搬車2に設けられたエンコーダ62L,62Rから速度及び加速度を検出するとともに、GNSS/IMU装置58から不整地運搬車2の姿勢状態を検出してスリップを演算し、車両が動きにくい可能性がある場合には、その旨を操縦装置側統括PC22に伝送する。
このように、本実施形態の建設機械の制御システム10ではフェールセーフ機能として不整地運搬車2のスリップ発生を検出することができる。
《誤操作》
〔原因〕
誤操作とは、遠隔操縦BOX34を落下させた場合や, 倒した場合に不正な指令値が出力されてしまう状態をいう。
〔対策〕
遠隔操縦BOX34に加速度センサ32を搭載する。加速度のノルムが一定値以下となった場合と,地面に衝突した時の衝撃を検出した場合、ジョイスティック(操縦桿)24やボタンからの入力をカットする。また、重力加速度の向きを計測し、遠隔操縦BOX34が正しい向きとなっているかどうかを判断し、ジョイスティック(操縦桿)24やボタンからの入力をカットする。
このように、本実施形態の建設機械の制御システム10ではフェールセーフ機能として操縦装置20内に加速度センサ32を設け、操縦装置側統括PC22は、加速度センサ32からの信号を入力して操縦装置20の落下が検出された場合には、操縦機能を停止させるようにした。このため、落下による誤作動を未然に防止することが可能となる。
<その他のフェールセーフ機能>
《電源電圧の消耗》
電源電圧の消耗は、エンジンを始動させずにバッテリーにより駆動する電子機器を使いすぎた状態をいう。
電源電圧が低下することにより,車両側統括PC52やその他センサが正しく機能せず、その結果、操縦装置側統括PC22が予期しない挙動をする可能性がある.そのため,電圧が一定以下となった場合には,表示やアラームで操作者へアラームを提示するとともに,エンジンをONとするように促す。ただし、安全上の観点から、エンジンを自動でONとはしない。
《燃料量低下》
燃料を使いすぎて燃料量が低下すると、走行不可となるため、燃料レベル値を取得し、燃料レベルが一定以下となった場合に画面表示やアラームで操作者へ警告する。
なお、以上説明した実施形態の各機能は、各機能を有する制御プログラムを車両側統括PC52又は操縦装置側統括PC22にインストールすることで実現可能である。
以上、各実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
また、実施形態の各機能を有する制御プログラムを車両側統括PC52又は操縦装置側統括PC22にインストールすることで実現可能である。
2…不整地運搬車、4(4L,4R)…下部走行体(履帯)、6…運転席、8…荷台、10…建設機械の制御システム、20…操縦装置、22…操縦装置側統括PC、22a…操縦装置側コントローラモジュール、22b…シリアル−LAN変換モジュール、22c…CAN−LAN変換モジュール、22d…LANモジュール、22e…汎用通信モジュール、22f…ロギングモジュール、22g…3軸加速度センサモジュール、22h…画面表示モジュール、24…ジョイスティック(操縦桿)、26…ディスプレイ、32…センサ(加速度センサ)、36…無線LANハブ、38…RTK用基準局、40…モニタ、44…遠隔停止スイッチ(送信側)、50…車両側制御装置、52…車両側統括PC、52a…車両装置側コントローラモジュール、52b…シリアル−LAN変換モジュール、52c…CAN−LAN変換モジュール、52d…LANモジュール、52e…汎用通信モジュール、52f…ロギングモジュール、54…既設車両側装置、54a…既設ジョイスティック(既設操縦桿)、54b…遠隔/搭乗操作切替スイッチ、54c…既設ディスプレイ、54d…既設コントローラ、54e…並列化回路、54f…非常停止ボタン、56…無線LANハブ、58…GNSS/IMU装置、62(62L,62R)…エンコーダ、64…追加IO用CPU、74…遠隔停止スイッチ(受信側)。

Claims (9)

  1. 制御対象車両である建設機械を遠隔操縦する操縦装置と、前記建設機械に設けられ車両側制御装置とが無線通信機により相互にブリッジ接続されて前記建設機械を制御する建設機械の制御システムであって、
    前記操縦装置内に設けられ、前記建設機械を統括制御する操縦装置側統括コンピュータと、
    前記車両側制御装置内に設けられ、前記操縦装置と協調して前記建設機械を統括制御する車両側統括コンピュータと、を備え、
    前記操縦装置側統括コンピュータ及び前記車両側統括コンピュータは、相互に協調して前記建設機械を安全側に導くフェールセーフ機能を有し、
    当該フェールセーフ機能として、前記車両側統括コンピュータは、前記建設機械のエンジンにおけるエンジンオイル温度、冷却水温度、作動油タンク温度をそれぞれセンサで監視し、該温度のいずれかが規定値以上となったときに、前記操縦装置に設けられた操縦桿からの入力を切断して走行を停止させて冷却する指令を出力し、該温度のいずれかが危険温度以上となったときに、エンジンを停止させて冷却する指令を出力するとともに、前記操縦装置側統括コンピュータにアラートを出力する建設機械の制御システム。
  2. 制御対象車両である建設機械を遠隔操縦する操縦装置と、前記建設機械に設けられ車両側制御装置とが無線通信機により相互にブリッジ接続されて前記建設機械を制御する建設機械の制御システムであって、
    前記操縦装置内に設けられ、前記建設機械を統括制御する操縦装置側統括コンピュータと、
    前記車両側制御装置内に設けられ、前記操縦装置と協調して前記建設機械を統括制御する車両側統括コンピュータと、を備え、
    前記操縦装置側統括コンピュータ及び前記車両側統括コンピュータは、相互に協調して前記建設機械を安全側に導くフェールセーフ機能を有し、
    当該フェールセーフ機能として、前記車両側統括コンピュータ及び前記操縦装置側統括コンピュータは、相互に通信相手の生存確認を実行して通信途絶の有無を判定し、前記車両側統括コンピュータは、前記操縦装置側統括コンピュータからの通信が途絶した場合、途絶時間が予め設定された間欠的なデータ無し時間を定めた第1の閾値時間より短い場合には、車両側のメモリに保存されている過去のデータに基づきデータを補完して制御を継続させ、前記途絶時間が長期的なデータ無し時間を定めた第2の閾値時間を超える場合には、改めてデータの入力を0にするデータ補完機能を有する建設機械の制御システム。
  3. 制御対象車両である建設機械を遠隔操縦する操縦装置と、前記建設機械に設けられ車両側制御装置とが無線通信機により相互にブリッジ接続されて前記建設機械を制御する建設機械の制御システムであって、
    前記操縦装置内に設けられ、前記建設機械を統括制御する操縦装置側統括コンピュータと、
    前記車両側制御装置内に設けられ、前記操縦装置と協調して前記建設機械を統括制御する車両側統括コンピュータと、を備え、
    前記操縦装置側統括コンピュータ及び前記車両側統括コンピュータは、相互に協調して前記建設機械を安全側に導くフェールセーフ機能を有し、
    当該フェールセーフ機能として、前記車両側統括コンピュータは、前記建設機械の駆動部に設けられたセンサから速度及び加速度を検出するとともに、位置や姿勢を計測するセンサから前記建設機械の姿勢状態を検出して転覆の可能性を演算し、転覆の可能性がある場合には、その旨を前記操縦装置側統括コンピュータに伝送し、
    前記転覆の可能性の演算は、前記建設機械が履帯車両で有る場合、その履帯範囲と重心位置と姿勢と加速度とを用いて、重心と慣性力が作用している系における床反力の中心点ZMP(Zero Moment Point)が支持領域内にあるかどうかを判断し、支持領域外である場合には、転覆の可能性があるとして、アラートを出力する、
    建設機械の制御システム。
  4. 前記操縦装置に遠隔停止スイッチを設け、制御対象となる前記建設機械が正規の走行指示から逸脱した状態で走行中である場合、前記遠隔停止スイッチの操作によって、前記無線通信機とは別の無線通信ルートにより車両を停止させるフェールセーフ機能を有する請求項1乃至3の何れか1項に記載の建設機械の制御システム。
  5. 前記車両側統括コンピュータ及び前記操縦装置側統括コンピュータは、無線通信の通信強度を監視して通信途絶の有無を判定し、前記車両側統括コンピュータは、該通信強度が低下した場合には、車両の走行を停止するフェールセーフ機能を有する請求項1乃至4の何れか1項に記載の建設機械の制御システム。
  6. 前記車両側統括コンピュータは、前記建設機械の駆動部に設けられたセンサから速度及び加速度を検出するとともに、位置や姿勢を計測するセンサから前記建設機械の姿勢状態を検出してスリップを演算し、車両が動きにくい可能性がある場合には、その旨を前記操縦装置側統括コンピュータに伝送する請求項1乃至5の何れか1項に記載の建設機械の制御システム。
  7. 前記操縦装置内に当該操縦装置の状態を計測するセンサを設け、
    前記操縦装置側統括コンピュータは、前記操縦装置の状態を計測するセンサからの信号を入力して自操縦装置の落下が検出された場合には、操縦機能を停止させて落下による誤作動を防止するフェールセーフ機能を有する請求項1乃至6の何れか1項に記載の建設機械の制御システム。
  8. 請求項1〜6の何れか1項に記載のフェールセーフ機能を前記車両側統括コンピュータに実現させる建設機械の制御プログラム。
  9. 請求項1、2、5、7の何れか1項に記載のフェールセーフ機能を前記操縦装置側統括コンピュータに実現させる建設機械の制御プログラム。
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