しかしながら、上記燃料製造装置では、電気分解の促進のために、水蒸気及び二酸化炭素を600℃〜1100℃の高温に加熱していることから、このような高温環境を実現するために装置構成が複雑になってしまうとともに、電気分解以外で用いるエネルギー量が多大となってしまうという問題があった。
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、低温環境下でも有機物を効率的に生成できる有機物生成方法および有機物生成システムを提供することを目的としている。
本発明者らは、二酸化炭素を含ませた水溶液を電気分解して有機物を生成する方法を採用するとともに、この方法において水溶液のpHに着目して鋭意試験を繰り返し実施した結果、低温環境下において当該水溶液のpHが特定の範囲内に含まれるときに有機物を効率的に生成できることを見出し本発明に至った。
請求項1に記載された発明は、上記課題を解決するために、二酸化炭素を含ませた水溶液を電気分解して有機物を生成する方法であって、前記電気分解の際の前記水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御することを特徴とする有機物生成方法である。
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、生成用容器内で水に二酸化炭素を吸収させて前記水溶液を生成する水溶液生成工程と、前記水溶液を前記生成用容器から別体の電解用容器に移動させる移動工程と、前記水溶液を前記電解用容器内で電気分解する電解工程と、を含み、前記生成用容器内において前記水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御することを特徴とするものである。
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、前記電解工程において、前記電解用容器内の前記水溶液を流動させることを特徴とするものである。
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載された発明において、前記水溶液に塩基を添加することにより前記電気分解の際の前記水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御することを特徴とするものである。
請求項5に記載された発明は、上記課題を達成するために、二酸化炭素を含ませた水溶液を生成する水溶液生成部と、前記水溶液生成部によって生成された前記水溶液を電気分解する電気分解部と、前記電気分解の際の前記水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御するpH制御部と、を備えていることを特徴とする有機物生成システムである。
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載された発明において、前記水溶液生成部が、内部で水に二酸化炭素を吸収させて前記水溶液が生成される生成用容器を有し、前記電気分解部が、内部で前記水溶液が電気分解される、前記生成用容器と別体の電解用容器を有し、前記pH制御部が、前記生成用容器内において前記水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御し、前記生成用容器から前記電解用容器に前記水溶液を移動させる移動手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
請求項7に記載された発明は、請求項6に記載された発明において、前記電解用容器内の前記水溶液を流動させる流動手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
請求項8に記載された発明は、請求項7に記載された発明において、前記電気分解部が、前記電解用容器内に交互に並べて配置された複数の陽極及び複数の陰極と、前記電解用容器内を前記複数の陽極及び前記複数の陰極のそれぞれを個別に収容する複数の収容部分に区画する複数の隔膜と、を有するとともに、前記水溶液が、前記複数の収容部分に分かれて一方向に流動し通過した直後に前記電解用容器から排出されるように構成されていることを特徴とするものである。
請求項9に記載された発明は、請求項7に記載された発明において、前記電気分解部が、前記電解用容器内に交互に並べて配置された複数の陽極及び複数の陰極と、前記電解用容器内を前記複数の陽極及び前記複数の陰極のそれぞれを個別に収容する複数の収容部分に区画する複数の隔膜と、を有するとともに、前記水溶液が、前記複数の収容部分のうちの前記複数の陰極が収容された収容部分内のみを一方向に流動し、当該収容部分を通過した直後に前記電解用容器から排出され、前記水溶液と隔離された別の電解質水溶液が、前記複数の収容部分のうちの前記複数の陽極が収容された収容部分内のみを一方向に流動し、当該収容部分を通過した直後に前記電解用容器から排出されるように構成されていることを特徴とするものである。
請求項10に記載された発明は、請求項8又は9に記載された発明において、前記複数の陽極と前記複数の陰極とが、平板状に形成されているとともにそれぞれが平行に配置され、前記複数の陽極及び前記複数の陰極のうちの隣接する前記陽極及び前記陰極がそれぞれ組をなし、前記組をなす前記陽極及び前記陰極の電極間空間距離が、2.5mm以下であることを特徴とするものである。
請求項11に記載された発明は、請求項10に記載された発明において、前記複数の陽極及び前記複数の陰極のうちの少なくとも一方の複数の電極には、1又は複数の開口が設けられていることを特徴とするものである。
請求項12に記載された発明は、請求項5〜11のいずれか一項に記載された発明において、前記pH制御部が、前記水溶液に塩基を添加することにより前記電気分解の際の前記水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御することを特徴とするものである。
請求項13に記載された発明は、請求項5〜12のいずれか一項に記載された発明において、有機物を抽出する有機物抽出部をさらに備え、前記有機物抽出部が、前記電気分解部による電気分解により生じた気体に含まれる有機物を抽出する気体有機物抽出手段及び前記電気分解部による電気分解がされたあとの前記水溶液に含まれる有機物を抽出する液体有機物抽出手段のうちの少なくとも一方を有していることを特徴とするものである。
請求項14に記載された発明は、請求項13に記載された発明において、前記有機物抽出部が、前記液体有機物抽出手段を有し、前記液体有機物抽出手段によって有機物が抽出されたあとの前記水溶液を前記水溶液生成部に送る送液手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
請求項1に記載された発明によれば、二酸化炭素を含ませた水溶液における電気分解する際のpHを5〜10の範囲内に制御する。このようにしたことから、水溶液の平衡状態が、炭酸水素イオンがより多く存在する状態となる方向に傾き、そのため、より多くの炭酸水素イオンが電気分解されることにより有機物が多く生成される。したがって、低温環境下でも有機物を効率的に生成できる。
請求項2に記載された発明によれば、生成用容器内で水に二酸化炭素を吸収させて二酸化炭素を含ませた水溶液を生成し、生成した水溶液を生成用容器から別体の電解用容器に移動させ、移動させた水溶液を電解用容器内で電気分解する。また、生成用容器内において水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御する。このようにしたことから、水溶液をそのpHを制御する生成用容器から別体の電解用容器に移動させるので、例えば、水溶液の生成及び電気分解を同時に一の容器内で行う場合に比べて、pHを制御する際に電気分解によるpHの変化の影響を受けることがなく、そのため、溶液のpHの制御の精度低下を抑制できる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項3に記載された発明によれば、電気分解を行う電解工程において、電解用容器内の水溶液を流動させる。このようにしたことから、水溶液の流動によって、電気分解により電極の表面に生じる気泡が流れ去り、そのため、当該気泡による電気抵抗の増加を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項4に記載された発明によれば、二酸化炭素を含ませた水溶液又はその溶媒である水に塩基を添加することにより電気分解の際の水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御する。このようにしたことから、例えば、二酸化炭素を含ませる量(即ち、濃度)によりpHを制御する場合に比べて、塩基の添加量を調整することにより水溶液のpHを容易に精度よく制御することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項5に記載された発明によれば、二酸化炭素を含ませた水溶液を生成する水溶液生成部と、水溶液生成部によって生成された水溶液を電気分解する電気分解部と、電気分解部による電気分解の際の水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御するpH制御部と、を備えている。このようにしたことから、pH制御部の制御によって、水溶液の平衡状態が、炭酸水素イオンがより多く存在する状態となる方向に傾き、そのため、より多くの炭酸水素イオンが電気分解されることにより有機物が多く生成される。したがって、低温環境下でも有機物を効率的に生成できる。
請求項6に記載された発明によれば、水溶液生成部が、内部で水に二酸化炭素を吸収させて二酸化炭素を含ませた水溶液が生成される生成用容器を有し、電気分解部が、内部で上記水溶液が電気分解される、生成用容器と別体の電解用容器を有し、pH制御部が、生成用容器内において水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御する。そして、生成用容器から電解用容器に水溶液を移動させる移動手段をさらに備えている。このようにしたことから、水溶液をそのpHを制御する生成用容器から別体の電解用容器に移動させるので、例えば、水溶液の生成及び電気分解を同時に一の容器で行う場合に比べて、pHを制御する際に電気分解によるpHの変化の影響を受けることがなく、そのため、溶液のpHの制御の精度低下を抑制できる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項7に記載された発明によれば、電解用容器内の水溶液を流動させる流動手段をさらに備えている。このようにしたことから、水溶液の流動によって、電気分解により電極の表面に生じる気泡が流れ去り、そのため、当該気泡による電気抵抗の増加を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項8に記載された発明によれば、二酸化炭素を含ませた水溶液が、複数の陽極及び複数の陰極のそれぞれを個別に収容する複数の収容部分に分かれて各収容部分内を一方向に流動して通過した直後に前記電解用容器から排出される。このようにしたことから、電気分解されたあとの陽極側の水溶液は、当該電気分解により陽極表面に生じた酸素を含むところ、この酸素が再度陽極に接することを防ぐことができ、また、陽極と陰極とが隔膜により隔離されていることから、この酸素が陰極に接することも防ぐことができる。そのため、酸素の接触による電極の劣化を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項9に記載された発明によれば、二酸化炭素を含ませた水溶液が、複数の収容部分のうちの複数の陰極が収容された収容部分内のみを一方向に流動し、当該収容部分を通過した直後に電解用容器から排出される。また、上記水溶液と隔離された別の電解質水溶液が、複数の収容部分のうちの複数の陽極が収容された収容部分内のみを一方向に流動し、当該収容部分を通過した直後に電解用容器から排出される。このようにしたことから、電気分解されたあとの陽極側の水溶液は、当該電気分解により陽極表面に生じた酸素を含むところ、この酸素が再度陽極に接することを防ぐことができ、また、陽極と陰極とが隔膜により隔離されていることから、この酸素が陰極に接することも防ぐことができる。さらに、電気分解後の水溶液を再利用する構成において、このような再利用の水溶液には電気分解により生じた酸素が溶存していることがあるところ、陽極側の水溶液と陰極側の水溶液とを隔離することにより、溶存酸素が陰極に接することを防ぐことができる。そのため、酸素の接触による電極の劣化を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項10に記載された発明によれば、複数の陽極と複数の陰極とが、平板状に形成されているとともにそれぞれが平行に配置され、複数の陽極及び複数の陰極のうちの隣接する陽極及び陰極のそれぞれが組をなし、組をなす陽極及び陰極の電極間空間距離が、2.5mm以下である。このようにしたことから、電気分解においては電極の間隔が狭いほど効率が良好になる一方で、水溶液が電極間を流動しにくくなり電極表面の気泡除去が妨げられて、良好な効率を維持することが困難となるところ、複数の陽極と複数の陰極との間隔を上記範囲内に設定することで、電気分解の効率とその維持を適切にバランスさせることができる。
請求項11に記載された発明によれば、複数の陽極及び複数の陰極のうちの少なくとも一方の複数の電極には、1又は複数の開口が設けられている。このようにしたことから、水溶液が電極間をより流動しやすくなり電極表面の気泡除去が促進されて、電気分解の効率をより適切に維持することができる。
請求項12に記載された発明によれば、pH制御部が、水溶液又はその溶媒である水に塩基を添加することにより電気分解の際の水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御する。このようにしたことから、例えば、二酸化炭素を含ませる量(即ち、濃度)によりpHを制御する場合に比べて、塩基の添加量を調整することにより水溶液のpHを容易に精度よく制御することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
請求項13に記載された発明によれば、有機物を抽出する有機物抽出部をさらに備え、有機物抽出部が、電気分解部による電気分解により生じた気体に含まれる有機物を抽出する気体有機物抽出手段及び電気分解部による電気分解がされたあとの水溶液に含まれる有機物を抽出する液体有機物抽出手段のうちの少なくとも一方を有している。このようにしたことから、電気分解により生じた気体状の有機物又は水溶性の有機物の少なくとも一方を得ることができる。
請求項14に記載された発明によれば、有機物抽出部が、液体有機物抽出手段を有し、液体有機物抽出手段によって有機物が抽出されたあとの水溶液を水溶液生成部に送る送液手段をさらに備えている。このようにしたことから、電気分解後の水溶液に再度二酸化炭素を含ませて再利用することができる。
以下、本発明の一実施形態の有機物生成装置について、図1〜図4を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態の有機物生成装置の概略構成図である。図2は、図1の有機物生成装置が備えるガス吸収部の構成を説明する図である。図3は、図1の有機物生成装置が備える電解合成部及び有機物生成部の構成を説明する図である。図4は、図2の電解合成部の陽極、陰極及び隔膜の配置について説明する図である。
本実施形態の有機物生成装置は、水(H2O)に二酸化炭素(CO2)を吸収させた水溶液を電気分解して、電気分解により生じた気体から気体状有機物を抽出し、電気分解後の水溶液から水溶性有機物を抽出するものである。抽出する有機物は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、メタノール(CH4O)、エタノール(C2H6O)、プロパノール(C3H8O)、ホルムアルデヒド(CH2O)及びギ酸(CH2O2)などがある。もちろん、これらは一例であって、各種条件を調整することによりこれら以外の有機物も生成され得る。
図1に示すように、本実施形態の有機物生成装置1は、水溶液生成部としてのガス吸収部10と、電気分解部としての電解合成部20と、有機物抽出部30と、送液手段としての処理済水溶液回収部40と、pH制御部としての制御部50と、を備えている。
ガス吸収部10は、水に二酸化炭素を吸収させた水溶液を生成する。また、ガス吸収部10において、生成した水溶液のpHが特定の範囲内に含まれるように制御する。図2に示すように、ガス吸収部10は、生成用容器としてのガス吸収槽11と、pH計測用配管12と、pH計測用ポンプ13と、pH計14と、pH調整用薬剤槽15と、薬剤投入ポンプ16と、移送配管17と、移送ポンプ18と、を有している。
ガス吸収槽11は、その内部で二酸化炭素を吸収させた水溶液を生成する容器である。ガス吸収槽11には、気相部に外部から気体状の二酸化炭素を供給する図示しない配管及び気相部から余分な二酸化炭素を排出する図示しない配管が接続されている。ガス吸収槽11の天井壁内側には、噴霧器11aが設けられている。ガス吸収槽11には、図示しない調温装置が設けられており内部の水溶液の温度を調整可能としている。
pH計測用配管12は、一端がガス吸収槽11の液相部に接続され、他端が噴霧器11aに接続されている。pH計測用配管12には、後述する処理済水溶液回収部40の処理済水溶液配管41が合流するように接続されている。また、pH計測用配管12には、外部から水を供給する図示しない配管も合流するように接続されている。
pH計測用ポンプ13は、ガス吸収槽11の液相部である水溶液をpH計測用配管12の一端から他端に向けて流動させる。これにより、pH計測用配管12の他端まで流動してきた水溶液が噴霧器11aから気相部中に噴霧されて、霧状の水溶液が二酸化炭素を吸収しながら液相部に落下する。
pH計14は、pH計測用配管12を流動する水溶液のpHを計測する。pH計14は、後述する制御部50に接続されており、計測したpHに応じた信号を制御部50に送信する。
pH調整用薬剤槽15は、ガス吸収槽11内の水溶液のpHの制御に用いる薬剤である塩基を収容している。この薬剤は、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸リチウム(LiHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、硫酸カリウム(K2SO4)及び硫酸(H2SO4)のうちから選択した1又は複数の物質である。もちろん、これらは一例であって、水溶液に投入した際に塩基として働くものであれば、本発明の目的に反しない限り、上記以外のものであってもよい。pH調整用薬剤槽15は、処理済水溶液配管41に接続されており、薬剤投入ポンプ16によって、pH調整用薬剤槽15に収容された薬剤が処理済水溶液配管41内を流動する水溶液に投入される。薬剤が投入された水溶液は噴霧器11aから噴霧され、ガス吸収槽11内の水溶液のpHが調整される。薬剤投入ポンプ16は、制御部50に接続されており、制御部50からの制御信号に基づいて動作する。
移送配管17は、一端がガス吸収槽11の液相部に接続されており、他端が後述する電解合成部20に接続されている。移送ポンプ18は、ガス吸収槽11の液相部である水溶液を移送配管17の一端から他端に向けて流動させる。これにより、ガス吸収槽11内の水溶液が移送配管17を通じて電解合成部20に移動される。移送配管17及び移送ポンプ18は、ガス吸収部10から電解合成部20に水溶液を移動させる移動手段を構成する。移送ポンプ18は、制御部50に接続されており、制御部50からの制御信号に基づいて動作する。
電解合成部20は、二酸化炭素を吸収させた水溶液を電気分解する。図3に示すように、電解合成部20は、電解用容器としての電気分解槽21と、複数の陽極22と、複数の陰極23と、複数の隔膜24と、陽極側排出配管26と、陰極側排出配管27と、を有している。
電気分解槽21は、ガス吸収槽11から水溶液が移動されて、その内部で当該水溶液が電気分解される容器である。電気分解槽21内には、複数の陽極22と複数の陰極23と複数の隔膜24とが所定の順序で並べて配置されている。具体的には、図4に示すように、陽極22と陰極23とが対向配置されるとともにこれらの間に隔膜24が配置されたものを1組の電極セットSとし、この電極セットSが一方向(図4左右方向)に複数配列されている(S[1]〜S[n])。また、各電極セットS[1]〜S[n]間にはこれらに含まれない隔膜24が配置されており、さらに、各電極セットS[1]〜S[n]の配列方向両端には電気分解層21の一部が隔壁21aとして配置されている。
複数の陽極22は、それぞれが図示しない電源装置の正極に接続されており、複数の陰極23は、それぞれが図示しない電源装置の負極に接続されており、複数の陽極22及び複数の陰極23間には、水溶液の電気分解に適切な電圧(例えば、電流密度が800mA/cm2以下となり、かつ、電気分解槽21内の反応温度が20℃〜80℃の範囲内となる電圧)が印加されている。この電源装置は、所望の電圧及び電流を出力するものであり、商用電源から電力を得ているが、これ以外にも、太陽光、太陽熱、水力、風力、地熱、波力等の自然エネルギーを利用した電源装置や、燃料電池等の電源装置などを用いてもよい。
複数の陽極22及び複数の陰極23の母材は、例えば、ニッケル(Ni)、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、鉛(Pb)等の金属材料、カーボン(C)、又は、導電性セラミックで構成されている。もちろん、これらは一例であって、電気分解用の電極として適切な材料であれば、本発明の目的に反しない限り、上記以外のものであってもよい。
また、複数の陰極23は、それぞれが二酸化炭素還元触媒として広く知られている材料、例えばチタン(Ti)などの第4族元素、ルテニウム(Ru)など第8族元素、銅(Cu)などの第12族元素の金属材料、それらの金属を有する酸化物、それらの金属とポリピリジン化合物あるいはポリピロール化合物を有する金属錯体、又は、GaPなどの半導体材料を担持している。または、複数の陰極23は、これら材料を担持せずに上記母材のみで構成されていてもよい。
複数の陽極22及び複数の陰極23は、それぞれ矩形平板状に形成されており、互いに平行に配置されている。また、上述したように、複数の陽極22及び複数の陰極23は、隔壁24を間に挟んで隣接する陽極22及び陰極23がそれぞれ組をなしている。1組の電極セットSに含まれる陽極22と陰極23との電極間空間距離は、下限が0mm以上であれば問題ないが、0.5mm以上であることが好ましく、また、上限は2.5mm以下であり、2mm以下であることが好ましい。即ち、電極間空間距離は、0mm〜2.5mmの範囲内に含まれるように設定されており、好ましくは当該電極間空間距離が0.5mm〜2mmの範囲内に含まれるように設定される。ここで電極間空間距離とは、陽極22と陰極23との距離から隔膜24の厚さを差し引いたものであり、陽極22と隔膜24との間の距離aと陰極23と隔膜24との間の距離bとを足し合わせたものである(図4)。例えば、電極間空間距離が0mmとは、陽極22と陰極23とがこれら間の隔膜24に接している状態を意味する。電極間空間距離が広すぎると印加する電圧を高くしなければならず、電極間空間距離が狭すぎると水溶液が流動しづらくなり、電気分解により電極(即ち、陽極22及び陰極23)表面に生じた気泡が当該表面に留まって電気抵抗が増加してしまうので、上記範囲内に設定することで、これらを適切にバランスさせることができる。
複数の陽極22及び複数の陰極23のそれぞれには、複数の開口が全体に一様(メッシュ状)に配列されて設けられている。または、比較的大きめの開口が1又は数個程度設けられたものであってもよい。開口は、例えば、円形、多角形、星形などに形成されている。このように、陽極22及び陰極23のそれぞれに開口を設けることにより、陽極22及び陰極23の周囲で水溶液が流動しやすくなる。図4の拡大円内において、陽極22及び陰極23に複数の開口が設けられていることを表現するため、これらを破線状に記載している。
また、複数の陽極22及び複数の陰極23の外形投影面積に対する総開口面積の割合(即ち、開口率)が10%〜70%の範囲内に含まれるように開口が設けられており、好ましくは開口率が20%〜60%の範囲内に含まれるように開口が設けられる。これは、開口率が低すぎると開口の作用が発揮されず、開口率が高すぎると電極表面積が小さくなり電気分解の効率が低下してしまうので、これらを適切にバランスさせるためである。
また、電気分解槽21内には各電極セットS[1]〜S[n]に含まれる隔膜24及び含まれない隔膜24が配設されており、換言すると、これら複数の隔膜24が電気分解槽21内を複数の陽極22と複数の陰極23とを個別に収容する複数の収容部分25に区画している。つまり、隣接する陽極22と陰極23との間には隔膜24が配設されており、隔膜24によって陽極22と陰極23とが隔離されている。これら複数の隔膜24は、例えば、膜厚が0.05mm〜0.2mm程度とされ、ポリエチレンやポリプロピレン等の材料を主体としてイオン交換特性等を付与する表面処理が施されているものなどで構成されている。また、隣接する隔膜24(即ち、電極セットSに含まれる隔膜24と含まれない隔膜24)間の距離は数cm程度としている。
複数の隔膜24により区画された複数の収容部分25のそれぞれには、それらに対応して複数に枝分かれされた移送配管17の他端が接続されている。また、複数の収容部分25のうちの陽極22が収容された収容部分25(以下、「陽極収容部分25」という)のそれぞれには、それらに対応して複数に枝分かれされた陽極側排出配管26の一端が、陽極22を挟んで移送配管17の他端と対向するように接続されている。また、複数の収容部分25のうち陰極23が収容された収容部分25(以下、「陰極収容部分25」という)のそれぞれには、それらに対応して複数に枝分かれされた陰極側排出配管27の一端が、陰極23を挟んで移送配管17の他端と対向するように接続されている。
これにより、移送ポンプ18により移送配管17内を流動された水溶液が、複数の収容部分25内に流れ込んでこれらの内部を一方向に流動したのち、陽極側排出配管26及び陰極側排出配管27に流れ込んでこれらを通じて電気分解槽21から排出される。陽極側排出配管26の他端及び陰極側排出配管27の他端は、有機物抽出部30に接続されている。
複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速、即ち、複数の陽極22及び複数の陰極23の表面を流動する水溶液の流速は、ガス吸収部10の移送ポンプ18により特定の範囲内に含まれるように調整される。移送ポンプ18は、流動手段に相当する。もちろん、これに限定されるものでなく、例えば、電気分解槽21内に水溶液を流動させる流動手段を設けてもよい。
有機物抽出部30は、電気分解されたあとの水溶液に含まれる有機物を抽出する。有機物抽出部30は、気体有機物抽出部31と、液体有機物抽出部32と、を有している。
気体有機物抽出部31は、電気分解されたあとの水溶液に含まれる気体状の有機物及び当該水溶液に含まれる電気分解により生じた気体を抽出する。気体有機物抽出部31は、陽極側排出配管26の他端が接続された陽極側抽出槽31aと、陰極側排出配管27の他端が接続された陰極側抽出槽31bと、を有している。
陽極側抽出槽31aは、陽極収容部分25を通過した際に生成する酸素(O2)を分離回収する気液分離ドラムからなる。陽極側抽出槽31aは、系内を若干負圧にすることにより生成した酸素(O2)をより回収しやすくすることも可能である。
陰極側抽出槽31bもまた、陽極側抽出槽31aと同様に気液分離ドラムからなり、陰極収容部分25を通過した水溶液に含まれるメタン、エタン、エチレン及びホルムアルデヒド等の気体状の有機物、水素(H2)、一酸化炭素(CO)を抽出する。分離回収した混合ガスは、組成に応じて適宜圧力・温度条件を変化させ、吸着材、分離膜等を組み合わせて精製する。
陽極側抽出槽31a及び陰極側抽出槽31bで抽出処理された水溶液は、配管33を通じて液体有機物抽出部32に移動される。
液体有機物抽出部32は、蒸留塔32aを有している。この蒸留塔32aに、配管33により気体有機物抽出部31から水溶液が移動されて、当該蒸留塔32aにおいて、メタノール、エタノール及びプロパノール等の常温常圧で液体且つ100℃未満で気体となる水溶性の有機物を蒸留により抽出する。蒸留塔32aにおいては、ボイラー等の熱源を利用した蒸気を用いて蒸留を行う構成であるが、例えば、太陽熱によって熱せられた溶融塩などの熱媒体を蓄熱材とし、それを用いて生成された蒸気を利用して蒸留を行う構成などであってもよい。
処理済水溶液回収部40は、有機物抽出部30で抽出処理された水溶液の一部をガス吸収部10に送り返す。処理済水溶液回収部40は、処理済水溶液配管41と、回収ポンプ42と、を有している。
処理済水溶液配管41は、一端が蒸留塔32aに接続されており、他端がpH計測用配管12に接続されている。回収ポンプ42は、蒸留塔32a内の水溶液を処理済水溶液配管41の一端から他端に向けて流動させる。これにより、蒸留塔32a内の水溶液が処理済水溶液配管41を通じてガス吸収部10に移動される。ガス吸収部10(具体的には、pH計測用配管12)に移動された水溶液は、pH計測用配管12内を流動する水溶液と合流して、噴霧器11aによりガス吸収槽11の気相部に噴霧される。処理済水溶液配管41は、途中で分岐されており、当該分岐から水溶液の残りの一部が排出される。
制御部50は、例えば、CPU、ROM、RAMなどを内蔵したマイクロコンピュータなどで構成されており、有機物生成装置1全体の制御を司る。
制御部50には、pH計14と、薬剤投入ポンプ16と、が接続されている。制御部50は、pH計14から送信された信号に基づいてガス吸収槽11内の水溶液のpHを取得し、この取得したpHに基づいて薬剤投入ポンプ16に制御信号を送信して、ガス吸収槽11内の水溶液のpHが特定の範囲内に含まれるように、薬剤投入ポンプ16によりpH調整用薬剤槽15内の薬剤を処理済水溶液配管41に投入する。
制御部50は、ガス吸収槽11内の水溶液のpHが5〜10の範囲内に含まれるように制御する。または、薬剤を投入することにより、pHが5〜10の範囲内に含まれるように制御し、好ましくは、pHが6.8〜9.9の範囲内に含まれるように制御し、さらに好ましくは、pHが7.2〜9.5の範囲内に含まれるように制御する。
また、制御部50には、移送ポンプ18が接続されている。制御部50は、移送ポンプ18に制御信号を送信して、ガス吸収槽11から電気分解槽21に水溶液を移動させるとともに、電気分解槽21の複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速を制御する。
制御部50は、複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速が、0.01m/分〜11m/分の範囲内に含まれるように制御し、好ましくは当該流速が2m/分〜10m/分の範囲内に含まれるように制御し、さらに好ましくは当該流速が4m/分〜9m/分の範囲内に含まれるように制御する。
また、制御部50には、pH計測用ポンプ13、回収ポンプ42及び図示しない電源装置等が接続されており、制御部50は、これらに対しても制御信号を送信して動作を制御する。また、制御部50は、ガス吸収部10への水及び二酸化炭素の供給についても制御する。
次に、上述した有機物生成装置1における有機物生成動作の一例について説明する。
有機物生成装置1は、ガス吸収槽11に接続された図示しない配管から二酸化炭素を気相部に供給する。そして、pH計測用配管12に接続された図示しない配管から水を供給して、噴霧器11aによりガス吸収槽11内に噴霧する。これにより、霧状の水が二酸化炭素を吸収しながら落下して、水に二酸化炭素を吸収させた水溶液がガス吸収槽11内で生成される(水溶液生成工程)。一般に、水に吸収された二酸化炭素は、吸収した液のpHによって以下の式に示される平衡反応が生じている。
CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ・・・(1)
H2CO3 ⇔ H+ + HCO3 - ・・・(2)
HCO3- ⇔ H+ + CO3 2- ・・・(3)
次に、有機物生成装置1は、ガス吸収槽11内の水溶液が所定量貯まると移送ポンプ18を動作させて、移送配管17を通じて水溶液をガス吸収槽11から電気分解槽21に継続して移動させる(移動工程)。電気分解槽21に移動した水溶液は、複数の収容部分25内を一方向に流動する。このとき、複数の収容部分25内での水溶液の流速が特定の範囲内に含まれるように移送ポンプ18を制御する。
次に、有機物生成装置1は、図示しない電源装置により複数の陽極22及び複数の陰極間に電圧を印加する。これにより、複数の収容部分25内の水溶液が電気分解されて有機物が生成される(電解工程)。複数の収容部分25内で電気分解されたあとの水溶液は、陽極側排出配管26及び陰極側排出配管27を通じて有機物抽出部30に移動される。
次に、有機物生成装置1は、有機物抽出部30に移動された水溶液について、気体有機物抽出部31の陽極側抽出槽31a及び陰極側抽出槽31bにおいて気体状有機物等の気体を抽出したのち、液体有機物抽出部32の蒸留塔32aにおいて水溶性の有機物を抽出する(抽出工程)。
次に、有機物生成装置1は、回収ポンプ42を動作させて、有機物が抽出された処理済みの水溶液の一部は処理済水溶液配管41を通じてガス吸収部10に継続的に移動される(水溶液回収工程)。これにより、ガス吸収部10に送り返された水溶液は、pH計測用配管12に合流して噴霧器11aからガス吸収槽11の気相部に噴霧されて、再度二酸化炭素を吸収させた水溶液となる。また、有機物生成装置1は、水溶液の残りの一部を処理済水溶液配管41から排出する。
このように、有機物生成装置1は、上記動作を継続的に実行することにより二酸化炭素を含ませた水溶液について、ガス吸収部10、電解合成部20及び有機物抽出部30を順次流動するように循環させて、水溶液の生成、電気分解及び有機物の抽出を継続して実行する。
また、有機物生成装置1は、上記循環動作と並行して、pH計測用ポンプ13を動作させて、ガス吸収槽11内の水溶液をpH計測用配管12内に流動させる。そして、pH計14によってpH計測用配管内を流動する水溶液のpHを計測し、計測したpHに基づいて薬剤投入ポンプ16を動作させて、水溶液のpHが特定の範囲内に含まれるように処理済水溶液配管41内を流動する水溶液に薬剤を投入する(pH制御工程)。これにより、ガス吸収槽11内の水溶液のpHが特定の範囲内に含まれるように制御され、水溶液の平衡状態が、炭酸水素イオン(HCO3-)がより多く存在する状態となる方向に傾く。このpH制御された水溶液が、上記循環動作により電解合成部20に供給される。換言すると、有機物生成装置1は、電解合成部20での電気分解の際の水溶液のpHを特定の範囲に制御している。
以上より、本実施形態によれば、二酸化炭素を含ませた水溶液における電気分解する際のpHを5〜10の範囲内に制御する。このようにしたことから、水溶液の平衡状態が、炭酸水素イオンがより多く存在する状態となる方向に傾き、そのため、より多くの炭酸水素イオンが電気分解されることにより有機物が多く生成される。したがって、低温環境下でも有機物を効率的に生成できる。
また、二酸化炭素を含ませた水溶液をガス吸収槽11内で生成し、生成した水溶液をガス吸収槽11から別体の電気分解槽21に移動させ、移動させた水溶液を電気分解槽21内で電気分解する。また、ガス吸収槽11内において水溶液のpHを制御する。このようにしたことから、水溶液をそのpHを制御するガス吸収槽11から別体の電気分解槽21に移動させるので、例えば、水溶液の生成及び電気分解を同時に一の容器内で行う場合に比べて、pHを制御する際に電気分解によるpHの変化の影響を受けることがなく、そのため、溶液のpHの制御の精度低下を抑制できる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、電気分解の際に電気分解槽21の複数の収容部分25内の水溶液を流動させる。このようにしたことから、水溶液の流動によって、電気分解により電極(複数の陽極22及び複数の陰極23)の表面に生じる気泡が流れ去り、そのため、当該気泡による電気抵抗の増加を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、水溶液に薬剤(塩基)を添加することにより電気分解の際の水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御することで、例えば、二酸化炭素を含ませる量(即ち、濃度)によりpHを制御する場合に比べて、薬剤の添加量を調整することにより水溶液のpHを容易に精度よく制御することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、二酸化炭素を含ませた水溶液を生成するガス吸収部10と、ガス吸収部10によって生成された水溶液を電気分解する電解合成部20と、電気分解部による電気分解の際の水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御する制御部50と、を備えている。このようにしたことから、制御部50の制御によって、水溶液の平衡状態が、炭酸水素イオンがより多く存在する状態となる方向に傾き、そのため、より多くの炭酸水素イオンが電気分解されることにより有機物が多く生成される。したがって、低温環境下でも有機物を効率的に生成できる。
また、ガス吸収部10が、内部で二酸化炭素を含ませた水溶液が生成されるガス吸収槽11を有し、電解合成部20が、内部で上記水溶液が電気分解される、ガス吸収槽11と別体の電気分解槽21を有し、制御部50が、ガス吸収槽11内において水溶液のpHを制御する。そして、ガス吸収槽11から電気分解槽21に水溶液を移動させる移送配管17及び移送ポンプ18をさらに備えている。このようにしたことから、水溶液をそのpHを制御するガス吸収槽11から別体の電気分解槽21に移動させるので、例えば、水溶液の生成及び電気分解を同時に一の容器で行う場合に比べて、pHを制御する際に電気分解によるpHの変化の影響を受けることがなく、そのため、溶液のpHの制御の精度低下を抑制できる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、電気分解槽21の複数の収容部分25内の水溶液を流動させる移送ポンプ18を備えている。このようにしたことから、水溶液の流動によって、電気分解により電極(陽極22及び陰極23)の表面に生じる気泡が流れ去り、そのため、当該気泡による電気抵抗の増加を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、二酸化炭素を含ませた水溶液が、複数の陽極22及び複数の陰極23を個別に収容する複数の収容部分25内を一方向に流動して通過した直後に電気分解槽21から排出される。このようにしたことから、電気分解されたあとの陽極22側の水溶液は、当該電気分解により陽極22の表面に生じた酸素を含むところ、この酸素が再度陽極22に接することを防ぐことができ、また、陽極22と陰極23とが隔膜24により隔離されていることから、この酸素が陰極23に接することも防ぐことができる。そのため、酸素の接触による電極の劣化を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、複数の陽極22と複数の陰極23とが、平板状に形成されているとともにそれぞれが平行に配置され、複数の陽極22及び複数の陰極23のうちの隣接する陽極22及び陰極23が組をなし、この組をなす陽極22及び陰極23の電極間空間距離が、2.5mm以下である。このようにしたことから、電気分解においては電極の間隔が狭いほど効率が良好になる一方で、水溶液が電極間を流動しにくくなり電極表面の気泡除去が妨げられて、良好な効率を維持することが困難となるところ、複数の陽極22と複数の陰極23との間隔を上記範囲内に設定することで、電気分解の効率とその維持を適切にバランスさせることができる。
また、複数の陽極22及び複数の陰極23のうちの少なくとも一方の複数の電極には、複数の開口が設けられている。このようにしたことから、水溶液が電極間をより流動しやすくなり電極表面の気泡除去が促進されて、電気分解の効率をより適切に維持することができる。
また、制御部50が、水溶液に薬剤(塩基)を添加することにより電気分解の際の水溶液のpHを5〜10の範囲内に制御することで、例えば、二酸化炭素を含ませる量(即ち、濃度)によりpHを制御する場合に比べて、塩基の添加量を調整することにより水溶液のpHを容易に精度よく制御することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
また、有機物を抽出する有機物抽出部30を備え、有機物抽出部30が、電解合成部20による電気分解により生じた気体に含まれる有機物を抽出する気体有機物抽出部31及び電解合成部20による電気分解がされたあとの水溶液に含まれる有機物を抽出する液体有機物抽出部32を有している。このようにしたことから、電気分解により生じた気体状の有機物及び水溶性の有機物を得ることができる。
また、液体有機物抽出部32によって有機物が抽出されたあとの水溶液をガス吸収部10に送る処理済水溶液回収部40をさらに備えている。このようにしたことから、電気分解後の水溶液に再度二酸化炭素を含ませて再利用することができる。
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の有機物生成装置及び有機物生成方法は上述した実施形態の構成に限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態では、ガス吸収部10において、ガス吸収槽11の気相部に気体状の二酸化炭素を供給する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、図5に示す有機物生成装置1Aのガス吸収部10Aのように、一端及び他端ともにガス吸収槽11の液相部に接続されたpH計測用配管12Aに、マイクロバブル発生装置19が設けられた構成としてもよい。このガス吸収部10Aでは、ガス吸収槽11の気相部に二酸化炭素を供給し、噴霧器11aから気相部に処理済みの水溶液を噴霧することによって、霧状の水溶液に二酸化炭素を吸収させる。さらに、マイクロバブル発生装置19にも二酸化炭素を供給し、pH計測用ポンプ13によりpH計測用配管12A内を流動する水溶液中に二酸化炭素のマイクロバブルを発生させることによって、水溶液に二酸化炭素を吸収させる。外部からの水はガス吸収槽11の液相部に供給する。このように構成することにより、水溶液に二酸化炭素をより多く吸収させることができる。なお、図5において、上述した実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する。
また、上述した実施形態では、電解合成部20において、ガス吸収部10によって生成された水溶液を、電気分解槽21の複数の収容部分25内を通過するように一方向に流動させる構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、図6に示す有機物生成装置1Bの電解合成部20Aのように、移送配管17の複数に枝分かれした他端を、複数の陰極23を収容した収容部分25(陰極収容部分25)のみに接続して、ガス吸収部10によって生成された水溶液を、当該陰極収容部分25のみ流動させる。そして、一端が陽極側抽出槽31aの水溶液排出部分に接続され、複数に枝分かれした他端が複数の陽極22を収容した収容部分25(陽極収容部分25)に接続された循環配管201と、上記水溶液とは別の電解質水溶液を循環配管201の一端から他端に向けて流動させる循環ポンプ202と、電解質水溶液を蓄えるタンク203を設けて、電解質水溶液をタンク203、陽極収容部分25及び陽極側抽出槽31aで循環させる独立した循環系を構成する。なお、図6において、上述した実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する。
電解質水溶液は、例えば、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸リチウム(LiHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、硫酸カリウム(K2SO4)及び硫酸(H2SO4)のうちから選択した1又は複数の物質を溶解させたものである。もちろん、これらは一例であって、電解質水溶液の溶質となる物質であれば、本発明の目的に反しない限り、上記以外のものであってもよい。
このようにすることで、二酸化炭素を含ませた水溶液が、複数の収容部分25のうちの複数の陰極23が収容された陰極収容部分25内のみを一方向に流動し、当該陰極収容部分25を通過した直後に電気分解槽21から排出される。また、上記水溶液と隔離された別の電解質水溶液が、複数の収容部分25のうちの複数の陽極22が収容された陽極収容部分25内のみを一方向に流動し、当該陽極収容部分25を通過した直後に電気分解槽21から排出される。
そのため、電気分解されたあとの陽極22側の水溶液は、当該電気分解により陽極22表面に生じた酸素を含むところ、この酸素が再度陽極22に接することを防ぐことができ、また、陽極22と陰極23とが隔膜により隔離されていることから、この酸素が陰極23に接することも防ぐことができる。さらに、電気分解後の水溶液を再利用する構成において、このような再利用の水溶液には電気分解により生じた酸素が溶存していることがあるところ、陽極22側の電解質水溶液と陰極23側の水溶液とを隔離することにより、溶存酸素が陰極23に接することを防ぐことができる。これにより、酸素の接触による電極の劣化を抑制することができる。したがって、低温環境下でも有機物をより効率的に生成できる。
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の有機物生成装置及び有機物生成方法の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
上述した実施形態の有機物生成装置1において、(1)ガス吸収部10にて生成される水溶液のpHを4〜11の範囲内に含まれる互いに異なる複数のpH値となるように制御し、各pH値の水溶液について有機物生成処理を1時間実施した間に生じた気体及び電気分解したあとの水溶液に含まれる全有機炭素量(TOC;Total Organic Carbon)を測定した。有機物の生成に際し、(2)pH制御に用いる薬剤として、硫酸カリウム(K2SO4)及び硫酸(H2SO4)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、又は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)を用い、(3)複数の陽極22及び複数の陰極23間に3Vの電圧を印加し、(4)複数の陽極22及び複数の陰極23のそれぞれの電極間空間距離を0.5mmとし、(5)複数の陽極22及び複数の陰極23の開口率を30%とし、(6)複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速を2.0m/分とし、(7)水溶液の温度を30℃とした。そして、pHが5.0のときのTOCを1.0として、各pH値におけるTOC比をプロットして得たグラフを図7に示す。
図7に示すように、水溶液のpHが、5〜10の範囲内に含まれるときTOC比が1.0以上となり、5.5〜9.6の範囲内に含まれるときTOC比が1.25以上となり、6.2〜8.8の範囲内に含まれるときTOC比が1.5以上となる。このことから、ガス吸収部10にて生成される水溶液のpH(即ち、電気分解の際の水溶液のpH)が、上記範囲内に含まれるとき有機物を効率的に生成できる。
(実施例2)
上述した実施形態の有機物生成装置1において、(1)複数の陽極22及び複数の陰極23のそれぞれの電極間空間距離を互いに異なる複数の値に設定し、各設定値について有機物生成処理を1時間実施した間に生じた気体及び電気分解したあとの水溶液に含まれる全有機炭素量(TOC)を測定した。有機物の生成に際し、(2)水溶液のpHを8.5に制御し、(3)pH制御に用いる薬剤として、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を用い、(4)複数の陽極22及び複数の陰極23間に3Vの電圧を印加し、(5)複数の陽極22及び複数の陰極23の開口率を30%とし、(6)複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速を6.0m/分とし、(7)水溶液の温度を30℃とした。そして、電極間空間距離が0mmのときのTOCを1.0として、各電極間空間距離設定値におけるTOC比をプロットして得たグラフを図8に示す。
図8に示すように、電極間空間距離が0mm〜2.5mmの範囲内に含まれるときTOC比が1.0以上となり、電極間空間距離が0.5mm〜2.0mmの範囲内に含まれるときTOC比が1.5以上となる。このことから、複数の陽極22及び複数の陰極23のそれぞれの電極間空間距離が、上記範囲内に含まれるとき有機物を効率的に生成できる。
(実施例3)
上述した実施形態の有機物生成装置1において、(1)複数の電極22及び複数の陰極23の開口率を互いに異なる複数の値に設定し、各設定値について有機物生成処理を1時間実施した間に生じた気体及び電気分解したあとの水溶液に含まれる全有機炭素量(TOC)を測定した。有機物の生成に際し、(2)水溶液のpHを8.5に制御し、(3)pH制御に用いる薬剤として、炭酸水素カリウム(KHCO3)を用い、(4)複数の陽極22及び複数の陰極23間に3Vの電圧を印加し、(5)複数の陽極22及び複数の陰極23のそれぞれの電極間空間距離を0.5mmとし、(6)複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速を2.0m/分とし、(7)水溶液の温度を30℃とした。そして、開口率が0%のときのTOCを1.0として、各開口率設定値におけるTOC比をプロットして得たグラフを図9に示す。
図9に示すように、開口率が、10%〜70%の範囲内に含まれるときTOC比が1.2以上となり、20%〜60%の範囲内に含まれるときTOC比が1.4以上となる。このことから、複数の陽極22及び複数の陰極23の開口率が、上記範囲内に含まれるとき有機物を効率的に生成できる。
(実施例4)
上述した実施形態の有機物生成装置1において、(1)複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速を互いに異なる複数の値に設定し、各設定値について有機物生成処理を1時間実施した間に生じた気体及び電気分解したあとの水溶液に含まれる全有機炭素量(TOC)を測定した。有機物の生成に際し、(2)水溶液のpHを8.5に制御し、(3)pH制御に用いる薬剤として、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を用い、(4)複数の陽極22及び複数の陰極23間に3Vの電圧を印加し、(5)複数の陽極22及び複数の陰極23のそれぞれの電極間空間距離を0.5mmとし、(6)複数の陽極22及び複数の陰極23の開口率を30%とし、(7)水溶液の温度を30℃とした。そして、流速が0m/分のときのTOCを1.0として、各流速設定値におけるTOC比をプロットして得たグラフを図9に示す。
図10に示すように、流速が、0m/分〜11m/分の範囲内に含まれるときTOC比が1.00以上となり、2m/分〜10m/分の範囲内に含まれるときTOC比が1.10以上となり、4m/分〜9m/分の範囲内に含まれるときTOC比が1.15以上となり、6m/分〜8m/分の範囲内に含まれるときTOC比が1.0以上となる。また、流速が11m/分を超えるとTOC比が1.00を下回り、有機物の生成の効率が悪くなる。このことから、複数の収容部分25内を流動する水溶液の流速が、上記範囲内に含まれるとき有機物を効率的に生成できる。
(結果の考察)
以上の結果より、水溶液のpH、電極間空間距離、電極の開口率及び水溶液の流速について、特定の範囲内に制御又は設定することにより、水溶液を低温としたまま有機物を効率的に生成することができた。