JP6793005B2 - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、Cu−Ni−Si系合金を採用する。Niは主にNi2SiからなるNi−Si系析出物を形成する。添加元素としてCoを含有する場合は、(Ni,Co)2Siを主体としたNi−Co−Si系の析出物を形成すると考えられる。これらの析出物は銅合金板材の強度と導電率を向上させる。これらの強度向上に有効な微細な析出物粒子の十分な分散のためはNiの含有量を1.0%以上とする必要があり、1.5%以上とすることが好ましく、さらには2.0%を超えることがより好ましい。一方、Niを過剰に添加すると粗大な析出物が生成しやすく、熱間圧延時に割れやすくなり、また、粗大な析出物やNi系酸化物の生成、偏析が起こりやすくなり、粗化処理性の低下につながるので、4.5%以下とし、4.0%以下さらには3.0%以下に制御してもよい。
SiはNi−Si系析出物を形成する。強度向上に有効な主にNi2Si系の微細な析出物粒子を十分に分散させるためはSiの含有量を0.1%以上とする必要があり、0.4%以上とすることがより効果的である。一方、Siを過剰に添加すると粗大な析出物が形成されてしまい、熱間圧延時に割れやすくなるので、1.2%以下とし、1.0%以下としてもよい。
CoはNi−Co−Si系の析出物を形成して、銅合金板材の強度と導電率を向上させる。また、強度向上に有効な微細な析出物粒子の分散のためは、Coの含有量を0.1%以上とする必要がある。但し、Co含有量が多くなると、粗大な析出物を生成しやすいので、Coを添加する場合は2.0%以下の範囲で行い、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下、さらに0.4%以下としてもよい。
本発明において、加工変質層とは、銅合金板材の表面に形成された結晶粒径が0.2μm未満の微細な結晶組織からなる表面層を指し、結晶粒径が0.5μm以上である銅合金板材の母材の組織と比較して明らかに異なる。加工変質層の厚さは、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、銅合金板材の圧延方向に直角な断面を露出させ、前記断面を20000倍でSEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、銅合金板材の表面に平行な長さが100μmの範囲の観察部位における微細結晶組織からなる加工変質層の厚さの最大値を求め、加工変質層の厚さとする。粗化処理性に有効な加工変質層の厚さは0.2〜1.5μmであり、0.2μm未満であると粗化されにくい部分が発生し、粗化処理性が低下しやすい。加工変質層厚さは0.3μm以上、さらには0.6μm以上であることが好ましい。加工変質層が1.5μmよりも厚くなると、粗化処理性が低下しやすい。
ビッカース硬さHVが200未満であると、高い機械的特性(高強度、高硬度)が求められる(特に小型の)リードフレーム用銅合金板材として使用することができない。また、銅合金板材の表面のビッカース硬さHVが200未満では、加工変質層は厚く形成されてしまい、粗化処理性が低下しやすくなる。一方ビッカース硬さHVが200以上の本発明の組成の高強度銅合金板材は、リードフレーム用銅合金板材として十分な強度を有する。ただし、従来の工程では厚い加工硬化層を形成することが困難であるが、後述の製造方法により高い硬度との両立を達成することができる。
表面(圧延面)の圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さ(Ra)は、Ra≦0.3μmである。算術平均粗さRaが0.3μmよりも大きいと、加工変質層の厚さのばらつきが大きくなり、粗化処理性の低下を招きやすい。なお、算術平均粗さRaはJIS B0601(2001)に基づいて測定した。
次に、本発明の銅合金板材の製造方法について説明する。
以上説明した銅合金板材は、例えば以下のような製造工程により作ることができる。
溶解・鋳造→熱間圧延→(冷間圧延)→溶体化処理→中間冷間圧延→時効処理→仕上げ冷間圧延→形状矯正→低温焼鈍→バフ研磨
なお、上記工程中には記載していないが、熱間圧延後には必要に応じて材料表面の面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、あるいは更に脱脂が行われる。以下、各工程について説明する。
上記組成を有する銅合金材を連続鋳造、半連続鋳造等により鋳片を製造する。Siなどの酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気または真空溶解炉で行うのがよい。
熱間圧延は通常の手法に従えばよい。熱間圧延前の鋳片加熱は例えば900〜1000℃で1〜5hとすることができる。トータルの熱間圧延率は例えば70〜97%とすればよい。最終パスの圧延温度は700℃以上とすることが好ましい。熱間圧延終了後には、水冷などにより急冷することが好ましい。
溶体化処理は添加元素を十分に固溶させることが主目的である。溶体化処理条件は、加熱温度(材料の最高到達温度)を850〜1000℃、その温度域での保持時間(材料温度がその温度域にある時間)を10〜600秒とする。加熱温度が低すぎる場合や、保持時間が短すぎる場合は、溶体化が不十分となって最終的に満足できる高強度が得られない。
時効処理前の冷間圧延により、板厚の減少およびひずみエネルギー(転位)の導入を図る。この段階での冷間圧延を本明細書では「中間冷間圧延」と呼んでいる。中間冷間圧延での圧延率を30%以上とすることが好ましく、35%以上とすることがより好ましい。ただし、この段階で板厚を過度に減じると、後述の仕上げ冷間圧延で必要な圧延率を確保することが難しくなる場合がある。そのため、中間冷間圧延での圧延率は90%以下の範囲で設定することが好ましく、75%以下に管理してもよい。
次いで時効処理を行い、強度に寄与する微細な析出物粒子を析出させる。この析出は、前述の中間冷間圧延によるひずみが導入されている状態で進行する。合金組成に応じて時効で硬さがピークになる温度、時間を予め調整して条件を決めるのが好ましい。ただし、ここでは時効処理の加熱温度を550℃以下に制限する。それより高温になると過時効となりやすく、所定の高強度に安定して調整することが難しくなる。一方、加熱温度が350℃より低い場合は析出が不十分となって、強度不足や導電性低下を招く要因となる。400℃以上であることが好ましい。350〜550℃での保持時間は7〜15時間の範囲で設定することができる。
時効処理後に行う最終的な冷間圧延を本明細書では「仕上げ冷間圧延」と呼んでいる。仕上げ冷間圧延は強度レベル(特に0.2%耐力)の向上に有効である。仕上げ冷間圧延率は50%以上とすることが効果的であり55%以上とすることがより効果的である。仕上げ冷間圧延率が過大になると低温焼鈍時に強度が低下しやすいので85%以下、さらには80%以下の圧延率とすることが好ましい。仕上げ冷間圧延率が50%より低いとビッカース硬さHVが200未満となり、加工変質層が1.5μmを超える場合があり、また仕上げ冷間圧延率が85%を超えるとビッカース硬さHVが大きくなりすぎ加工変質層を厚くするのが難しくなる。最終的な板厚としては、例えば0.06〜0.30mm程度の範囲で設定することができる。
仕上げ冷間圧延を終えた板材に対して、最終的な低温焼鈍を施す前に、テンションレベラーによる形状矯正を施しておくのが好ましい。テンションレベラーは圧延方向に張力を付与しながら板材を複数の形状矯正ロールによって曲げ伸ばす装置である。板形状の平坦性を改善するために、テンションレベラーにより伸び率0.1〜1.5%の変形を生じさせる通板条件で連続繰り返し曲げ加工を施すことが好ましい。
仕上げ冷間圧延後には、通常、板条材の残留応力の低減や曲げ加工性の向上、空孔やすべり面上の転位の低減による耐応力緩和性向上を目的として低温焼鈍が施される。低温焼鈍の加熱温度(最高到達温度)を400〜500℃とする。加熱温度が500℃を超えると軟化により強度が低下するようになる。400〜500℃での保持時間は5〜600秒の範囲で設定すればよい。
本発明は最終工程として以下の条件によるバフ研磨工程を備え、特に前記仕上げ圧延工程との組み合わせにより所定の加工変質層を得る。本発明のバフ研磨は外観や表面粗さの調整のための通常のバフ研磨よりも大きな負荷を銅合金板材表面に付与することで実施される。バフ研磨工程のバフ研磨の前後に酸洗、水洗、また最後に乾燥工程を備えてもよい。
バフ研磨ライン(装置)における板材の送り速度(いわゆるライン速度に相当)が50mpmを超えると、バフと材料の接触時間が少なく加工変質層は薄くなる。好ましくは、5〜40mpmである。
バフロールの周速度(バフロールの外周の速度)が600mpm未満では、バフと板材の接触時間が少なく加工変質層が薄くなる。好ましくは、バフ周速度が600〜1200mpmである。また、ダウンカットによりバフ研磨を実施する。アップカットでバフ研磨すると研磨ムラが発生し、加工変質層の厚さに大きなばらつきが発生する恐れがある。なお、ダウンカットは板材の送り方向とバフロールの回転方向が対抗しない研磨方法である。
バフ研磨に用いるバフ材の材質はナイロン不織布に砥粒として炭化ケイ素(SiC)を含浸させたものを用いるのが好ましい。砥粒として高硬度で熱伝導率の高い炭化ケイ素を用いることにより、本発明のような高硬度・高強度な銅合金板材に対しても切削能力が高いので、切削時に形成される加工変質層を厚くすることができる。バフロールの直径は300mm以上(好ましくは320〜400mm)、バフロールの番手は#500〜#6000(好ましくは#800〜#3000が好ましい)とする。バフロールの目が粗いと、砥粒の接触が不均一になり、加工変質層の形成も不均一となる。
板材がバフロールを通過する際にバフロールが板材に与える加圧力を通常のバフ研磨より大きくして加工変質層の最大厚さを0.2〜1.5mmに調整する。その加圧力の指標として板材がバフロールを通過する際にバフロールが板材に与える負荷電流を0.18A/cm以上とすることが好ましい。負荷電流が0.18A/cm未満であると、材料にかかる圧力が小さくなり加工変質層が薄くなる。ただし、負荷電流が0.35A/cm以上では砥石がバーストする恐れがある。好ましくは、負荷電流が0.20〜0.26A/cmである。
比較例32はNi添加量が少なすぎ、比較例33はSiの添加量が多すぎ、比較例34はSiの添加量が少なすぎたため、銅合金板材の表面のビッカース硬さHVが200未満となり、加工変質層の厚さが大きくなりすぎて粗化処理性が劣ったと考えられる。
比較例35はバフ研磨において負荷電流が大きすぎ、比較例40はバフロール径が小さすぎ、比較例41はバフロールの番手が大きすぎたため、バフ研磨中にバフロールがバーストしてバフ研磨処理を行うことができず、粗化処理性を評価することができなかった。
比較例36はバフロールが銅合金板材に与える負荷(電流)が小さすぎたため、加工変質層を厚くすることができず、粗化処理性が劣ったと考えられる。
比較例37はバフロールの周速度が小さく、バフ研磨が不十分となり加工変質層を厚くすることができず、粗化処理性が劣ったと考えられる。
比較例38はライン速度が大きすぎたため、バフ研磨が不十分となり加工変質層を厚くすることができず、粗化処理性が劣ったと考えられる。
比較例39はライン速度が小さすぎ、加工変質層が厚くなり且つ均一な加工変質層が形成されなかったため、粗化処理性が劣ったと考えられる。
比較例42はバフロールの研磨砥粒を320番としたため、研磨砥粒が粗すぎて銅合金板材の表面粗さが大きくなり、加工変質層の厚さのばらつきも大きくなり、粗化処理性に劣ったと考えられる。
比較例43は溶体化処理、時効処理、仕上げ冷間圧延の条件適切でなかったため、ビーカース硬さが低く、加工変質層が厚くなりすぎて粗化処理性が劣ったと考えられる。
Claims (5)
- 質量%で、Ni:1.0〜4.5%、Si:0.1〜1.2%を含有し、Mg:0〜0.3%、Cr:0〜0.2%、Co:0〜2.0%、P:0〜0.1%、B:0〜0.05%、Mn:0〜0.2%、Sn:0〜0.5%、Ti:0〜0.5%、Zr:0〜0.2%、Al:0〜0.2%、Fe:0〜0.3%、Zn:0〜1.0%であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
加工変質層の厚さが0.2〜1.5μmであり、
表面の圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、
表面のビッカース硬さHVが200以上である、銅合金板材。 - 硫酸・過酸化水素水溶液を用いた浸漬試験において、前記銅合金板材表面5mm×5mmの正方形の範囲内に、浸食部が90%以上存在する、請求項1に記載された銅合金板材。
- 質量%で、Ni:1.0〜4.5%、Si:0.1〜1.2%を含有し、Mg:0〜0.3%、Cr:0〜0.2%、Co:0〜2.0%、P:0〜0.1%、B:0〜0.05%、Mn:0〜0.2%、Sn:0〜0.5%、Ti:0〜0.5%、Zr:0〜0.2%、Al:0〜0.2%、Fe:0〜0.3%、Zn:0〜1.0%であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金板材を製造する方法であって、
鋳造後、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理、仕上げ冷間圧延、形状矯正、低温焼鈍を行い、最終工程でバフ研磨を行い、
仕上げ冷間圧延率を、53%以上、84%以下とし、
最終工程で行われるバフ研磨において、前記銅合金板材の送り速度を2〜50m/min、バフロールの周速度を600m/min以上、負荷電流を0.18〜0.26A/cmとし、ダウンカットによりバフ研磨して加工変質層の厚さを0.2〜1.5μm、表面の圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さRaを0.3μm以下、表面のビッカース硬さHVを200以上とすることを特徴とする、銅合金板材の製造方法。 - 前記バフの砥粒が炭化ケイ素であることを特徴とする、請求項3に記載された銅合金板材の製造方法。
- 前記バフロールの直径が300mm以上であることを特徴とする、請求項3または4に記載された銅合金板材の製造方法。
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