JP6789991B2 - 癌の早期骨転移の画像診断剤 - Google Patents

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Description

本発明は、癌の早期骨転移の画像診断剤に関する。
骨転移の画像診断として、X線、コンピュータ断層撮影(computed tomography、CT)、磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging、MRI)、[99mTc]ヒドロキシメチレンジホスホン酸テクネチウム(99mTc−HMDP)や[99mTc]メチレンジホスホン酸テクネチウム(99mTc−MDP)による骨シンチグラフィー、2−[18F]−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)によるポジトロン断層撮影(positron emission tomography、PET)が用いられている。X線、CT、MRIによれば、骨転移の形態画像が得られる一方、骨シンチグラフィー、PETによれば、骨転移の機能画像が得られるため、これらを併用して骨転移の診断を行うこともなされている。
18F−FDGは、癌細胞の亢進した糖代謝を反映するため、骨転移に限らず、様々な悪性腫瘍の診断剤として使用されている。一方、18F−FDGには、(i)糖代謝の盛んな正常組織(例えば、脳や心臓)にも集積してしまう;(ii)尿排泄性が高く、投与後早期から膀胱に移行するため、膀胱及びその周辺における病態の検出は難しい;(iii)炎症組織に集積するため腫瘍と炎症組織との鑑別が困難である、といった問題もある。このため、近年、糖代謝とは異なる、癌細胞の代謝能の亢進に着目した様々なPET用腫瘍診断剤の開発も進められている。たとえば、癌細胞のアミノ酸代謝を反映する剤として、[11C]メチオニン(11C−メチオニン)、トランス−1−アミノ−[18F]フルオロシクロブタンカルボン酸(18F−fluciclovine)などが知られている。中でも、18F−fluciclovineは、18F−FDGにより描出が困難な前立腺癌を描出できる診断剤として開発が進められている(非特許文献1〜4)。
Shuster D. et al, J. Nucl. Med. (2007), vol. 48, No.1, pp. 56-63 Shuster D. et al, Radiology (2011), vol. 259, No. 3, pp. 852-861 Oka S. et al, Mol. Imaging Biol. (2014), vol. 16, No. 3, pp. 322-329 Inoue Y. et al, Asia Oceania J. Nucl. Med. Biol. (2014), vol. 2, No. 2, pp. 87-94 Nakai T. et al., Eur J. Nucl. Med. Mol. Imaging (2005), vol. 32, No. 11, pp. 1253-1258
核医学診断では、異なった診断剤が同一検査目的で使用されても、各診断剤固有の集積機序に応じて異なる情報を提示する。たとえば、99mTc−HMDPや99mTc−MDPは、骨代謝を反映する一方、18F−FDGは、前述のとおり、癌細胞の亢進した糖代謝を反映する。このため、骨転移の型によって検出能に違いが認められることがある。
一般に骨転移の画像パターンは、造骨型、溶骨型及び混合型に分類されるが、骨シンチグラフィーは、造骨型骨転移に対しては高い感度である一方、溶骨型骨転移は、欠損像又は明らかな変化が見られない。Nakai T. et al., Eur J. Nucl. Med. Mol. Imaging (2005), vol. 32, No. 11, pp. 1253-1258では、89人の乳癌患者について全ての部位を総合した「感度」は、99mTc−HMDPでは「78.2%」、18F−FDGでは「80.0%」となり、両剤に差が見られなかったが、CTで判断した骨転移型別の検出率を見ると、造骨型骨転移の検出率は、99mTc−HMDPは18F−FDGよりも高くなった一方で(100%>55.6%)、溶骨型骨転移の検出率は、18F−FDGでは99mTc−HMDPよりも高くなった(100%>70.0%)ことが報告されている。
近年、病理組織学的には癌細胞が骨梁間(骨髄)に浸潤・増殖しているが、骨梁に溶骨性や造骨性変化をきたさない骨梁間型の骨転移も提唱されている。この骨梁間型骨転移を含む、溶骨反応が起こる以前の転移や、造骨型骨転移の早期骨転移は、骨シンチグラフィーやCTでは捉えることが難しい。
骨梁間型骨転移の検出は、18F−FDGでも可能であるが、18F−FDGの場合は骨折や炎症反応で滲出する炎症細胞にも取りこまれるため、偽陽性を示す恐れがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、癌の早期骨転移を精度よく検出できる技術を提供することにある。
本発明の一態様は、トランス−1−アミノ−[18F]フルオロシクロブタンカルボン酸(18F−fluciclovine)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、癌の早期骨転移の画像診断剤を提供するものである。
また、本発明の別の態様は、癌の早期骨転移の画像診断剤を製造するための、18F−fluciclovine又はその薬学的に許容される塩の使用を提供するものである。
本発明によれば、骨シンチグラフィーやCTなどの既存の画像診断では検出が難しいタイプの骨転移を精度よく検出することができる。
図1(a)〜(j)は、ラット乳癌溶骨型骨転移モデルを用いた、14C−fluciclovineの評価結果を示す図である。(a)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のX線撮像の結果を示す図である。(b)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(c)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のオートラジオグラムを示す図である。(d)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のトルイジンブルー染色の結果を示す図である。(e)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。(f)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のX線撮像の結果を示す図である。(g)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(h)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のオートラジオグラムを示す図である。(i)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のトルイジンブルー染色の結果を示す図である。(j)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。 図2(a)〜(j)は、ラット乳癌溶骨型骨転移モデルを用いた、H−FDGの評価結果を示す図である。(a)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のX線撮像の結果を示す図である。(b)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(c)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のオートラジオグラムを示す図である。(d)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のトルイジンブルー染色の結果を示す図である。(e)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。(f)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のX線撮像の結果を示す図である。(g)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(h)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のオートラジオグラムを示す図である。(i)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のトルイジンブルー染色の結果を示す図である。(j)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。 図3(a)〜3(j)は、ラット乳癌溶骨型骨転移モデルを用いた、99mTc−HMDPの評価結果を示す図である。(a)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のX線撮像の結果を示す図である。(b)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(c)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のオートラジオグラムである。(d)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のトルイジンブルー染色の結果を示す図である。(e)は、健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨のヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。(f)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のX線撮像の結果を示す図である。(g)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(h)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のオートラジオグラムを示す図である。(i)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のトルイジンブルー染色の結果を示す図である。(j)は、MRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨のヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。 図4(a)〜4(c)は、前立腺癌患者の18F−fluciclovineによるPET/CT画像である。(a)が頭部画像であり、(b)が胸部画像であり、(c)が骨盤部画像である。 図5(a)〜5(c)は、前立腺癌患者の核医学画像である。(a)が、最大値投影法による18F−fluciclovineのPET画像であり、(b)が骨シンチグラフィーの前面画像であり、(c)が骨シンチグラフィーの背面画像である。 図6(a)〜6(d)は、乳癌細胞移植後6日目のラット乳癌骨梁間型骨転移モデルを用いたトリプルトレーサーオートラジオグラフィー(ARG)の評価結果を示す図である。(a)は、トルイジンブルー染色の結果を示す図である。(b)は、99mTc−HMDPオートラジオグラムを示す図である。(c)は、14C−fluciclovineオートラジオグラムを示す図である。(d)は、H−FDGオートラジオグラムを示す図である。 図7(a)〜7(d)は、乳癌細胞移植後8日目のラット乳癌骨梁間型骨転移モデルを用いたトリプルトレーサーオートラジオグラフィーの評価結果を示す図である。(a)は、トルイジンブルー染色の結果を示す図である。(b)は、99mTc−HMDPオートラジオグラムを示す図である。(c)は、14C−fluciclovineオートラジオグラムを示す図である。(d)は、H−FDGオートラジオグラムを示す図である。 図8(a)〜8(d)は、乳癌細胞移植後11日目のラット乳癌溶骨型骨転移モデルを用いたトリプルトレーサーオートラジオグラフィーの結果を示す図である。(a)は、MRMT−1移植肢から摘出した下肢骨の薄切面の外観を示す図である。(b)は、H−FDGオートラジオグラムを示す図である。(c)は、14C−fluciclovineオートラジオグラムを示す図である。(d)は、99mTc−HMDPオートラジオグラムを示す図である。(e)は、トルイジンブルー染色の結果を示す図である。
本発明において「画像診断剤」とは、ポジトロン断層撮影(PET)に用いられるものであり、具体的には、生体内に投与後、体内から放出される放射線をPET装置で検出・画像化することにより、非侵襲的に病態の診断を可能にするものである。
本発明において癌の「骨転移」とは、骨以外の組織に生じた癌を初発として骨に転移が生じた病態である。「骨以外の組織に生じた癌」としては、乳癌,腎癌,甲状腺癌,多発性骨髄腫,悪性リンパ腫、前立腺癌、肺小細胞癌、肝癌、膵癌が挙げられる。本発明の画像診断剤の対象として、好ましくは、乳癌、前立腺癌である。骨転移には、溶骨型、造骨型、骨梁間型があるが、これらの型は混合していてもよく、全体の病巣に対して優位になっていればよい。
本発明において「癌の早期骨転移」とは、溶骨反応が起こる以前の骨転移、早期の造骨型骨転移、及び、骨梁間骨転移のいずれかをいう。「骨梁間骨転移」とは、病理組織学的には癌細胞が骨梁間(骨髄)に浸潤・増殖しているが、何ら骨変化が起こらないものをいう。
本発明の画像診断剤の有効成分は、18F−fluciclovine又はその薬学的に許容される塩である。
18F−fluciclovineは、公知の方法で合成することができ、例えば、Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, (1999), vol. 42, pp.215-225の記載の方法を用いて得ることができる。
本発明において、「塩」とは、医薬として許容されるものであれば限定されない。例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(グルクロン酸、ガラクツロン酸など)、α‐ヒドロキシ酸(クエン酸、酒石酸など)、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸など)、芳香族酸(安息香酸、ケイ皮酸など)、スルホン酸(p−トルエンスルホン酸、エタンスルホン酸など)などの有機酸;アミノ酸(グリシン、アルギニンなど)、アンモニア、第一級、第二級及び第三級アミン及び環状アミン(ピペリジン、モルホリン、ピペラジンなど)などの有機塩基;又は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化リチウムなどの無機塩基から誘導される塩が挙げられる。
本発明の画像診断剤は、非経口的手段によって投与されることが好ましく、剤形としては、注射剤がより好ましい。好ましくは、水溶液であり、適宜、pH調節剤、製薬学的に許容される可溶化剤、等張化剤、安定剤及び/又は酸化防止剤などの追加成分を含んでいてもよい。
本発明の画像診断剤中の18F−fluciclovineの含有量は、使用時にPET撮像が可能となる放射能量を有していれば特に限定されないが、例えば、使用時に50〜740MBqの放射能量を有していれば、成人に対するPET撮像に実用的である。
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
<実施例1:ラット乳癌溶骨型骨転移モデルを用いた評価>
1.材料
(1)乳癌細胞(MRMT−1)浮遊液の調製
ラット乳癌細胞株MRMT−1は理化学研究所バイオリソースセンターより入手した。MRMT−1は、ウシ胎仔血清(American Type Culture Collection)を10%、ペニシリン(ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)を100単位/mL、ストレプトマイシン(ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)を0.1mg/mLの濃度で含む培地RPMI1640(ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)を用いて継代培養した。移植当日、培養容器中の培地を除去し、37℃で保温したトリプシン−EDTA溶液(ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)を培養容器内に加え、37℃で約5分間静置した。MRMT−1が培養容器面から剥がれたのを確認したのち、トリプシン−EDTA溶液と等量の上記培地を培養容器内に加えた。遠心分離(800回転/分、5分間)でMRMT−1を沈澱し、上澄み液を除去したのち、MRMT−1をハンクスバッファ(ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)に2.5×10個/mLの濃度で浮遊した細胞浮遊液を作製した。
(2)ラット乳癌溶骨型骨転移モデルの作製
9週齢の雄性SDラット(日本エスエルシー株式会社)をイソフルラン(マイラン製薬社製)麻酔下で、右後肢鼠径部に消炎鎮痛剤であるメタカム0.5%注射液(ベーリンガーインゲルハイム ベトメディカジャパン社製)を0.2mg/kgの割合で皮下注射した後、鼠径部皮膚を切開した。次いで、伏在動脈、伏在静脈及びそれに並行する神経を筋肉より剥離し、遊離させ、膝窩動脈分岐部より遠位部において、伏在動脈の下に縫合糸(3−0)を通した。また、浅腹壁動脈分岐部周囲の組織を剥離し、浅腹壁動脈分岐部と膝窩動脈分岐部の間(浅腹壁動脈分岐部より少し遠位部)にて、大腿動脈の下に縫合糸(3−0)を通した。その後、伏在動脈周囲に、パパベリン塩酸塩注40mg(日医工社製)を数滴滴下して血管平滑筋を弛緩させ、伏在動脈及び大腿動脈の下に通した縫合糸の端をそれぞれ鉗子で挟み、伏在動脈及び大腿動脈を吊り上げることにより、伏在動脈及び大腿動脈を圧迫し、綿棒を伏在動脈の下に挿入して伏在動脈を保定して、伏在動脈の遠位部から中枢方向に注射針を刺入し、MRMT−1浮遊液(0.1mL)をゆっくり注入した。注射針の刺入部に外科用接着剤(アロンアロファA「三共」(商標登録)、東亞合成社製)を1滴滴下し、術野から採取した皮下脂肪片を刺入部に被せて、刺入部を塞いだ。伏在動脈及び大腿動脈から縫合糸を抜糸し、血流を再開させ、大腿動脈から腹大動脈周囲の皮下脂肪を整復し、縫合糸(5−0)で皮膚を閉じた。最後に抗生物質であるホスミシンS静注用0.5g(明治製菓ファルマ株式会社製)を10〜20mg/kgの割合で皮下注射した。作製したモデル動物は、移植12から14日目にて下記の実験に使用した。
(3)トランス−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−[14C]カルボン酸(14C−fluciclovine)の調製
Nucl.Med.Biol.39,109-119記載の方法に準じて調製した。
2.方法
乳癌細胞移植後12日目のラット乳癌溶骨型骨転移モデルを、マイクロフォーカスX線拡大撮像システム(μFX−1000,富士フイルム社製)で撮影した後、14C−fluciclovine(1.05MBq、2.75MBq/kg)を尾静脈投与し、30分後に屠殺した。左右後肢をSCEM(セクションラボ社製)に包埋後、イソペンタン/ドライアイスまたはヘキサン/ドライアイスで急速凍結し、クライオスタット(Leica Instruments GmbH製)を用いて10μm厚に薄切した。この際、試料面にCryofilm type IIC(9)(セクションラボ社製)を張り付け薄切することにより、10μm厚の骨切片を作製した。骨切片は、Cryofilm type IIC(9)を下にしてスライドグラス(松浪硝子工業社製)に両面テープで張り付け、イメージングプレート(GEヘルスケアジャパン社製)上で1週間露光させ、スキャナータイプ画像解析装置(Typhoon FLA 7000 IPシステム、GEヘルスケアジャパン社製)を用いてオートラジオグラム画像解析を行った。
また、比較として、14C−fluciclovineに代えて、H−FDG(アメリカンラジオラベルドケミカルズ社製)、又は、99mTc−HMDP(日本メジフィジックス社製)を投与したものを用意した。H−FDGを投与した場合は、投与量を6.66MBq(18.4MBq/kg)にする以外は同様な操作を行った。99mTc−HMDPを投与した場合は、乳癌細胞移植後14日目のラット乳癌溶骨型骨転移モデルに20.3MBq(58.0MBq/kg)投与した後、2時間後に屠殺し、イメージングプレートへの露光時間を2時間とした以外は同様な操作を行った。イメージングプレートの種類は14C−fluciclovine及びH−FDGのβ線核種ではTRを、99mTc−HMDPのγ線核種はSRを用いた。
その後、各切片についてトルイジンブルー染色及びヘマトキシリン・エオジン染色にて病理学的評価を行った。トルイジンブルー染色では、スライドグラスに貼り付けた10μm厚の骨切片をクライオスタットから取出し、室温にて約1分間乾燥したのち、無水エタノール(和光純薬工業社製)に約3〜5秒間浸し、さらに4%パラホルムアルデヒドりん酸緩衝液(和光純薬工業社製)に1分間以上浸した。流水中にて約10秒間水洗したのち、0.05%トルイジンブルー溶液(pH7.0)(和光純薬工業社製)に約5分間浸した。流水中にて約30秒間水洗したのち、骨切片表面に専用封入剤SCMM−R3(セクションラボ社製)を数滴滴下し、カッターでCrylofilm type IIC(9)の両端を切り取った。骨切片を下にして、別のスライドグラスに置き、専用封入剤(R2・R3)重合装置(ライカマイクロシステムズ社製)にて専用封入剤を重合した。
また、ヘマトキシリン・エオジン染色では、上述同様に無水エタノール及び4%パラホルムアルデヒドりん酸緩衝液に骨切片を浸したのち、ヘマトキシリン3G(サクラファインテックジャパン社製)に約2分間浸し、流水中にて約30秒間水洗した。次に、エオジン(サクラファインテックジャパン社製)に約1分間浸したのち、流水中にて約30秒間水洗した。骨切片表面に専用封入剤SCMM−R2(セクションラボ社製)を数滴滴下したのち、トルイジンブルー染色と同様に専用封入剤を重合した。
3.結果
結果を図1〜3に示す。図1(a)〜(j)は、14C−fluciclovineの結果を示す図であり、図2(a)〜(j)は、H−FDGの結果を示す図であり、図3(a)〜(j)は、99mTc−HMDPの結果を示す図である。図1(a)〜(e)、図2(a)〜(e)、図3(a)〜(e)が健常肢(左後肢)から摘出した下肢骨であり、図1(f)〜(j)、図2(f)〜(j)、図3(f)〜(j)がMRMT−1移植肢(右後肢)から摘出した下肢骨である。図1(a)(f)、図2(a)(f)、図3(a)(f)がX線撮像の結果であり、図1(b)(g)、図2(b)(g)、図3(b)(g)が外観図であり、図1(c)(h)、図2(c)(h)、図3(c)(h)がオートラジオグラムであり、図1(d)(i)、図2(d)(i)、図3(d)(i)がトルイジンブルー染色の結果であり、図1(e)(j)、図2(e)(j)、図3(e)(j)がヘマトキシリン・エオジン染色の結果である。
図1(f)の矢印Aは、MRMT−1移植肢(右後肢)のX線画像で認められた溶骨病変の部位を示している。図1(g)の矢印Aは、図1(f)の矢印Aと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)の外観図で認められた骨転移巣の部位を示している。図1(h)の矢印Aは、図1(f)の矢印Aと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)のオートラジオグラムで14C−fluciclovineの集積が認められた部位を示している。図1(i)の矢印Aは、図1(f)の矢印Aと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)のトルイジンブルー染色像で認められた骨転移巣の部位を示している。図1(j)の矢印Aは、図1(f)の矢印Aと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)のヘマトキシリン・エオジン染色像で認められた骨転移巣の部位を示している。これらの結果から、14C−fluciclovineは溶骨病変部の骨転移に集積することが確認された。
一方、図1(f)の矢印Bは、MRMT−1移植肢(右後肢)のX線画像で溶骨病変が認められない部位を示している。図1(g)の矢印Bは、図1(f)の矢印Bと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)の外観図で認められた骨転移巣の部位を示している。図1(h)の矢印Bは、図1(f)の矢印Bと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)のオートラジオグラムで14C−fluciclovineの集積が認められた部位を示している。図1(i)の矢印Bは、図1(f)の矢印Bと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)のトルイジンブルー染色像で認められた骨転移巣の部位を示している。図1(j)の矢印Bは、図1(f)の矢印Bと同一部位で、MRMT−1移植肢(右後肢)のヘマトキシリン・エオジン染色像で認められた骨転移巣の部位を示している。これらの結果から、14C−fluciclovineは、X線画像からは検出できない溶骨病変が形成される以前の骨転移にも集積することが確認された。H−FDGについても、図2(f)〜(j)の矢印A及び矢印Bで示したとおり、溶骨病変部及び溶骨病変が形成される以前の骨転移に集積することが確認された。以上の結果から、14C−fluciclovineは、H−FDGと同様に、溶骨病変部及び溶骨病変が形成される以前の骨転移への集積が確認された。一方、99mTc−HMDPには、成長板及び一次海綿骨近傍(矢印C)に集積が認められたが、溶骨病変部(矢印A)及び溶骨病変が形成される以前の骨転移巣(矢印B)にはいずれも集積が見られなかった。
<実施例2:前立腺癌患者のPET撮像>
本試験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則及びGCPを遵守して実施した。試験の実施に先立って、本人から自由意思による試験参加の同意を文書により得た。
1.患者
前立腺針生検で病理組織学的に前立線癌と診断された未治療の男性患者(69歳男性)であって、PSAが589.17ng/mL、Gleasonスコアが8の患者を選択した。
2.試験薬剤
WO2008/75522記載の方法で製造した18F−fluciclovine製剤(NMK36、日本メジフィジックス株式会社製)を用いた。
3.PET/CT
前日の夕食後から絶食し,18F−fluciclovine製剤2mL(263.1MBq)を静脈より投与し,生理食塩液でフラッシュした。18F−Fluciclovine製剤の投与は、前立腺癌原発巣のPET/CT画像評価への影響を避けるため、前立腺針生検を実施した日(1日目とする)から22日目以降に行った。18F−fluciclovine製剤投与直後からPET/CTカメラ(GEヘルスケア社製DiscoveryPET/CT600)を用いて吸収補正を目的に全身のCT画像を撮像し、その後,全身PETを投与後30分までに終了した。
4.既存画像撮像
18F−fluciclovineのPET/CT画像の比較対照として,18F−fluciclovineのPET/CT実施日の28日前までに全身造影CT及び骨シンチグラフィーを撮像した。全身造影CTは,非イオン性造影剤(バイステージ、富士フイルムメディカル社製)を投与した後,90秒後からスライス厚5mm以下で頚部から骨盤部まで80列の多列検出器型CT(東芝社製AquilionPrime)を用いてCT画像(管電圧:120kV)を撮像した。骨シンチグラフィーは,99mTc−HMDP(クリアボーン(登録商標)注、日本メジフィジックス社製)を740MBq投与した後,2時間後から全身プラナー像(エネルギーウィンドウ:140keV±10%)を撮像した。
5.視覚的画像評価
18F−fluciclovineのPET/CT、全身造影CT及び骨シンチグラフィーの画像評価については、それぞれ2名の画像判定委員が被験者背景の盲検下で独立して判定を行い、2名の判定が異なった場合には合議で判定した。骨シンチグラフィーの全身プラナー像と全身造影CT画像を読影し、それらの総合所見から骨転移の有無を判定した。
6.結果
結果を図4(a)〜(c)、5(a)〜(c)に示す。図4(a)〜(c)は18F−fluciclovineのPET/CT画像であり、図4(a)が頭部画像、図4(b)が胸部画像、図4(c)が骨盤部画像である。また、図5(a)が、最大値投影法による18F−fluciclovineのPET画像であり、図5(b)が骨シンチグラフィーの前面画像であり、図5(c)が骨シンチグラフィーの背面画像である。図4(a)〜(c)、5(a)〜(c)中、矢印で示す部位が図5(b)、(c)の骨シンチグラフィーでは描出されず、さらに全身造影CTでも描出されなかった部位である。このように、18F−fluciclovineの画像では、骨シンチグラフィーと全身造影CTでは描出されなかった病変が描出された。
<実施例3:トリプルトレーサーオートラジオグラフィー>
1.材料
(1)乳癌細胞(MRMT−1)浮遊液の調製
実施例1で調製した乳癌細胞(MRMT−1)浮遊液と同様に調製した。
(2)ラット乳癌骨転移モデルの作製
12週齢の雄性SDラット(日本エスエルシー株式会社)を用い、左右両方の伏在動脈にMRMT−1懸濁液を投与し、移植後6日目または8日目に下記の実験に供した以外は、実施例1で作製したラット乳癌溶骨型骨転移モデルと同様にして、骨梁間型骨転移モデルを作製した。移植後6日目のモデルでは右後肢のみ、移植後8日目のモデルでは左肢のみに病変が見られた。
また、12週齢の雄性SDラット(日本エスエルシー株式会社)を用い、移植後11日目に下記の実験に供した以外は、実施例1で作製したラット溶骨型骨転移モデルと同様にして、溶骨型骨転移モデルを作製した。
(3)14C−fluciclovineの調製
実施例1で調製した14C−fluciclovineと同様に調製した。
2.方法
乳癌細胞移植後6日目若しくは8日目のラット乳癌骨梁間型骨転移モデル、又は、乳癌細胞移植後11日目のラット乳癌溶骨型骨転移モデルを一晩絶食させ、1%イソフルラン(ファイザー社製)麻酔した後、トレーサーとして2.75MBq/kgの14C−fluciclovine、74MBq/kgの99mTc−HMDP(日本メジフィジックス社製)および18.5MBq/kgのH−FDG(アメリカンラジオラベルドケミカルズ社製)を同一のラットに尾静脈投与した。屠殺まで、14C−fluciclovineおよびH−FDGは、30分間、99mTc−HMDPは2時間循環させた。動物を腹部大動脈から採血することにより麻酔下で屠殺した。次いで、脛骨および大腿骨を取り出し、SCEM(セクションラボ社製)に包埋後、イソペンタン/ドライアイスで凍結させた。Kawamotoのフィルム法(Kawamoto T. Arch. Histol. Cytol. 2003;66:123-43)に記載されているように、−20℃でCM3050Sクライオスタット(Leica Biosystems社製)を用いて凍結試料を切片化した(病理学的およびオートラジオグラフィー標本のためのそれぞれ5μm厚および10μm厚の骨切片)。15個の連続切片を得、各切片をスライドグラス上に載せた。99mTc同位体による画像を得るために、低エネルギーのHを吸収する12μm厚のポリエステルフィルム(ルミラー(登録商標)、東レ株式会社製)に乾燥済の10μm厚の骨切片を包み、これにSRイメージングプレート(富士フイルム社製)を1時間露出させた。これらの条件下で、14Cは、1時間の露出後でもSRイメージングプレートの黒化を引き起こさず、したがって99mTcオートラジオグラフの14Cによる交差汚染を排除した。99mTc−オートラジオグラフ切片に隣り合う2つの凍結切片を−20℃で5日間保存し、99mTcを完全に崩壊させた。その後、TRイメージングプレート(富士フイルム社製)を、乾燥切片に12μm厚のポリエステルフィルムを伴った状態及び伴わない状態で7日間露出し、14C画像およびH+14C混合画像をそれぞれ得た(Obata T. et al. RADIOISOTOPES. 2000;49:623-36)。イメージングプレートは、FLA−7000画像解析装置(GEヘルスケアUK社製)で現像した。最後に、ImageJソフトウェア(バージョン1.48、NIH)を使用し、14C+H画像から14C画像を取り除くことによってH画像を生成した。ImageJソフトウェアを使用してすべての画像を処理し、以下に述べるように関心領域(ROI)分析を行った。5μm厚の骨切片については、実施例1と同様にトルイジンブルー染色にて病理学的評価を行った。
3.結果
骨梁間型骨転移モデルの結果を図6、7に示す。図6は、乳癌細胞移植後6日目の結果を示し、図7は、乳癌細胞移植後8日目の結果を示す。図6(a)、図7(a)がトルイジンブルー染色の結果であり、矢印で骨梁間型の骨転移巣を示す。乳癌細胞移植後6日目の骨梁間型骨転移巣は、溶骨病変が形成される以前の骨梁間型であり、乳癌細胞移植後8日目の骨梁間型骨転移巣は、溶骨型が混在する骨梁間型である。図6(b)、図7(b)が99mTc−HMDPの結果であり、図6(c)、図7(c)が14C−fluciclovineの結果であり、図6(d)、図7(d)がH−FDGの結果である。
また、溶骨型骨転移モデルの結果を図8に示す。図8(a)は、作製した骨切片の外観を示す図であり、図8(b)は、H−FDGの結果であり、図8(c)は、14C−fluciclovineの結果であり、図8(d)は、99mTc−HMDPの結果である。図8(e)は、トルイジンブルー染色の結果を示す図である。
図6(c)、図7(c)、図8(c)で示すように、14C−fluciclovineは、早期の骨転移巣に集積することが確認された。また、図6(d)、図7(d)、図8(b)で示すように、H−FDGについても、早期の骨転移巣に集積することが確認されたが、図6(b)、図7(b)、図8(d)で示すように、99mTc−HMDPは、早期の骨転移巣には、集積が認められなかった。
以上の結果から、18F−fluciclovineにより、癌の早期骨転移を検出できることが示唆された。
この出願は、2015年6月4日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2015−113587号を基礎とする優先権を主張するものであり、その開示の全ては本明細書に組み込まれるものである。

Claims (5)

  1. トランス−1−アミノ−[18F]フルオロシクロブタンカルボン酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、癌の早期骨転移の画像診断剤であって、
    前記早期骨転移が、骨シンチグラフィーおよびCTでは検出されない骨転移である、画像診断剤
  2. 前記早期骨転移が、溶骨反応が起こる以前の骨転移である、請求項1に記載の画像診断剤。
  3. 前記癌の早期骨転移が、乳癌又は前立腺癌に伴う骨転移である、請求項1又は2に記載の画像診断剤。
  4. ポジトロン断層撮影に用いられる、請求項1乃至3いずれか一項に記載の画像診断剤。
  5. 癌の早期骨転移の画像診断剤を製造するための、トランス−1−アミノ−[18F]フルオロシクロブタンカルボン酸又はその薬学的に許容される塩の使用であって、
    前記早期骨転移が、骨シンチグラフィーおよびCTでは検出されない骨転移である、使用
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