JP6789543B2 - アルミニウム材およびその製造方法 - Google Patents
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アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材の表面に設けられ、表面が鱗片状結晶構造に形成された陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の表面に固着した多数の芳香族ポリマー粒子と、を備えていることを要旨とする。
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面に形成された陽極酸化皮膜の表面を、環状アミンで処理することで鱗片状結晶構造とし、
芳香族炭化水素類を添加して加熱することで、前記環状アミンと芳香族炭化水素類とを反応させて芳香族ポリマー粒子を形成し、
前記陽極酸化皮膜における鱗片状結晶構造の表面に、前記芳香族ポリマー粒子を固着させることを要旨とする。
本発明に係るアルミニウム材の製造方法によれば、環境負荷を抑えて撥水処理を施すことができ、撥水性に優れたアルミニウム材を得ることができる。
図1に示すように、アルミニウム材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、基材の表面に形成された陽極酸化皮膜と、陽極酸化皮膜の表面に形成された機能層とを備えている。アルミニウム材は、機能層によって外面が構成されており、内側から外側に向けて、基材、陽極酸化皮膜および機能層の順に配置されている。アルミニウム材は、陽極酸化皮膜の表面(外面)に形成された機能層により、撥水性や防汚性などの機能が改善されている。アルミニウム材は、機能層が1層である構成であっても、機能層が複数層重なっている構成であっても、何れであってもよい。機能層が複数層重なっている構成の場合、機能層を構成する芳香族ポリマーの種類が同じであっても、ある機能層と別の機能層とで異なっていてもよい。なお、アルミニウム材は、機能層自体および機能層の形成工程において、クロムやフロンなどの環境負荷の高い材料を用いていない。
アルミニウムまたはアルミニウム合金を陽極酸化処理して得られる陽極酸化皮膜は、一般的にアルマイトとも呼ばれる。このような陽極酸化皮膜は、微細な孔があいた多孔質層と呼ばれる部分と、密に詰まったバリヤー層と呼ばれる2つの層から成り立っている。陽極酸化皮膜の孔のサイズ(直径)は、5nm〜100nmの範囲にあり、一般的には5nm〜20nmの範囲にあることが多い。陽極酸化皮膜は、硫酸アルマイト、シュウ酸アルマイトおよびリン酸アルマイトの何れであってもよい。図1では、機能層(芳香族ポリマー粒子)が陽極酸化皮膜における孔の開口が臨む一面に重なるように形成されたイメージで示しているが、機能層(芳香族ポリマー粒子)が陽極酸化皮膜における孔の開口が臨む一面から孔の内面にかけて重なるように形成されていてもよい。また、図1では、機能層(芳香族ポリマー粒子)によって陽極酸化皮膜における孔の開口が塞がれた(封孔された)イメージで示しているが、孔の開口を機能層(芳香族ポリマー粒子)で完全に塞いでいなくてもよい。機能層は、陽極酸化皮膜の封孔のみを目的とするものではなく、機能層の構造自体によって所要の機能を付与している。
機能層は、陽極酸化皮膜の表面に形成された鱗片状結晶構造と、鱗片状結晶構造に重ねて形成された芳香族ポリマー粒子とから構成されている。
陽極酸化皮膜の表面は、後述する環状アミンの処理によって、鱗片状結晶構造になっている。陽極酸化皮膜の表面は、一方向に扁平である鱗片状結晶が、ランダムな方向に多数重なり合って、例えばスポンジの表面のような網目状に形成されている。鱗片状結晶構造における鱗片のサイズは、100nm〜500nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは200nm〜300nmの範囲である。鱗片状結晶構造の鱗片のサイズが、100nm〜500nmの範囲にあることで、鱗片状結晶構造により形成される凹凸により陽極酸化皮膜の表面の表面積を大きくすることができる。陽極酸化皮膜の表面の表面積が大きくなると、機能層を構成する芳香族ポリマー粒子を、陽極酸化皮膜の表面に多く配置することができるので好ましい。
陽極酸化皮膜の表面において鱗片状結晶構造を形成する表面処理には、環状アミンが用いられる。環状アミンとしては、例えば、ヘキサミン(Hezamine)、キヌクリジン(Quinuclidine)、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane)など、およびこれらの誘導体が挙げられる。この中でも、例えば以下の化学式3に示すようなヘキサメチレンテトラミン(HMT)などのヘキサミンが、得られる芳香族ポリマー粒子のサイズを、後述するトリアジナンよりも小さくできるので好ましい。
芳香族ポリマー粒子のサイズは、5nm〜80nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは10nm〜50nmの範囲である。芳香族ポリマー粒子のサイズが、5nm〜80nmの範囲にあることで、芳香族ポリマー粒子により形成される凹凸により機能層の表面積を大きくすることができる。そして、機能層の表面積が大きいと、微細な凹凸によるロータス効果を好適に発現させることができ、機能層の撥水性や防汚性などの機能を向上することができる。
機能層を構成する芳香族ポリマーは、水酸基を有する芳香族炭化水素類と、陽極酸化皮膜の表面処理に用いた環状アミンとの反応により得られるポリマーである。芳香族ポリマーは、クレゾールなどのフェノール類に属する有機化合物を用いて合成されたものを含む広義のフェノール樹脂粒子であるといえる。芳香族ポリマー粒子としては、例えば、オキサジン樹脂、レゾール樹脂、レソルシノール樹脂、ノボラックなど、およびこれらの誘導体からなる粒子を用いることができる。この中でも、以下の化学式1に示すようなベンゾオキサジン樹脂、または化学式2に示すようなナフトオキサジン樹脂からなる粒子であることが好ましい。
水酸基を有する芳香族炭化水素類としては、クレゾール、フェノール、アルキルフェノール、ジヒドロナフタレン、ジヒドロアントラセン、ビスフェノールAなどが挙げられる。この中でも、1,5−ジヒドロナフタレンや2,6−ジヒドロナフタレンなどのジヒドロナフタレン(DHN)が好ましく、更に好ましくは、以下の化学式5に示すような1,5−ジヒドロナフタレン(DHN)である。
芳香族ポリマー粒子のサイズを、陽極酸化皮膜の表面に形成された鱗片状結晶構造の鱗片のサイズよりも小さくすることが好ましい。このようにすることで、陽極酸化皮膜の表面において鱗片状結晶構造により形成される微細な凹凸に、機能層を構成する芳香族ポリマー粒子を入り込ませることができる。これにより、陽極酸化皮膜の表面に、鱗片状結晶構造と芳香族ポリマー粒子とにより、適度な空気層(空間)を有するフラクタル構造を形成することができる。また、機能層の表面積を大きくすることができるので、芳香族ポリマー粒子で構成される微細な凹凸によるロータス効果を好適に発現させることができ、機能層の撥水性や防汚性などの機能を向上することができる。
芳香族ポリマー粒子のサイズ/鱗片のサイズ=1/4〜1/10
芳香族ポリマー粒子のサイズと鱗片のサイズとが、前述した範囲にあると、陽極酸化皮膜の表面に、鱗片状結晶構造と芳香族ポリマー粒子とにより、適度な空気層(空間)を有するフラクタル構造を形成することができ、アルミニウム材における撥水性や防汚性などの機能を向上することができる。
陽極酸化処理によって陽極酸化皮膜を表面に予め形成したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を、水に前述した環状アミンを添加した処理液中に入れる。処理液を加熱することで所定温度にして、処理液を撹拌しつつ所定時間保持することで、環状アミンによって陽極酸化皮膜を表面処理する。これにより、鱗片状結晶構造が、陽極酸化皮膜の表面に形成される。
次に、芳香族炭化水素類を水溶液に加えた添加液を調製する。芳香族炭化水素類を加える水溶液は、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール、アセトンなどのケトン類、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル、ジメチルアセトアミドやジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドなどの水に混和できるものを、一種または複数種混和したものである。添加液を、前記処理液に添加し、処理液を加熱することで所定温度にして、処理液を撹拌しつつ所定時間保持する。これにより、環状アミンと芳香族炭化水素類とを反応させ、環状アミンの開環と同時に重縮合することで、芳香族ポリマー粒子を形成する。そして、得られた芳香族ポリマー粒子が陽極酸化皮膜の表面に形成された鱗片状結晶構造に固着し、鱗片状結晶構造に重ねて芳香族ポリマー粒子が形成される。得られたアルミニウム材は、陽極酸化皮膜の表面において鱗片状結晶構造となった表面に、多数の芳香族ポリマー粒子が配置されている。
機能層が形成されたアルミニウム材には、メタノールやエタノールなどのアルコールと水で洗浄する洗浄工程や、減圧乾燥する乾燥工程などの後処理が、必要に応じて行われる。
前述した陽極酸化皮膜を有する基材を、100mlの水の中に静置し、この水に2mMのHMTを添加し、処理液を調製する。処理液を加熱して還流しつつ82℃に保持し、回転数50rpmで60分間撹拌しつつ、HMTによって陽極酸化皮膜を表面処理する。次に、100mlのエタノール水溶液(水:エタノール=95:5 vol%)に2mMのDHNを添加した添加液を、前記処理液に添加する。そして、処理液を加熱して表1に示す反応温度に保持し、回転数50rpmで表1に示す反応時間に亘って撹拌しつつ、HMTとDHNとを反応させることで、陽極酸化皮膜の表面にナフトオキサジン樹脂粒子を形成する。機能層を形成した実施例のアルミニウム材を、水、エタノールおよびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥する。なお、本開示では、「分」を「min」と表し、「時間」を「h」と表す場合がある。実施例1〜7は、反応温度を82℃に設定し、反応時間を120分〜1440分の間で変化させている。なお、実施例1〜7は、還流しながら加熱している。
機能層を形成した実施例のアルミニウム材について、接触角計(Drop Master,DMe−211FE,協和界面科学(株)製)を用いて、機能層に対する水の接触角(Contact angle:C.A.と表記する場合もある。)を調べた。接触角θは、アルミニウム材の機能層の上に水を滴下し、撮像した水滴の半径rと高さhを求め、以下の数式1に代入して算出するθ/2法に基づいている。
接触角θ=2arctan(h/r) …数式1
比較例1として、実施例で使用した陽極酸化皮膜を有する基材についても、環状アミンによる表面処理を行わず、機能層を形成していない状態で、陽極酸化皮膜に対する接触角を調べた。比較例2として、実施例で使用した陽極酸化皮膜を有する基材について環状アミンによる表面処理を行ったものの機能層を形成していない状態(鱗片状結晶構造)で、鱗片状結晶構造に対する接触角を調べた。比較例3は、実施例で使用したアルミニウム製の基材の表面に、下地として無電解ニッケルめっきを施した後に黒クロムめっきを施し、更にフッ素系樹脂を約300℃で焼き付け塗装するフッ素系樹脂コーティングを備えたもの((株)熊防メタル製、KBM−CF処理品)である。ここで、比較例1よりも接触角が大きい場合を「〇」と評価し、接触角が90°以上である場合を特に「◎」と評価する。また、接触角が比較例1以下である場合を「×」とする。その結果を、表1に示す。
図3は、HMTによって処理した陽極酸化皮膜の表面を観察した電子顕微鏡写真である。図3に示すように、HMTで処理した陽極酸化皮膜の表面は、扁平な鱗片がランダムに配置された鱗片状結晶構造になっていることが判る。図3に示すように、HMTによる処理時間が長くなるにつれて、鱗片状結晶構造の結晶が成長し、鱗片のサイズが大きい鱗片状結晶構造になることが判る。なお、本開示では、電子顕微鏡として、電解放射型走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、型番SU8000)を用いている。
図4は、ナフトオキサジン樹脂粒子が形成された実施例2のアルミニウム材の表面を観察した電子顕微鏡写真である。図5は、ナフトオキサジン樹脂粒子が形成された実施例7のアルミニウム材の表面を観察した電子顕微鏡写真である。図4および図5に示すように、実施例のアルミニウム材における鱗片状結晶構造の陽極酸化皮膜の表面に、微細なナフトオキサジン樹脂粒子が多数形成されていることが判る。また、実施例のアルミニウム材の表面において、陽極酸化皮膜の鱗片状結晶構造と微細なナフトオキサジン樹脂粒子とがヘテロネットワーク化し、人為的なフラクタル構造が構成されていることが確認できる。図4および図5のナフトオキサジン樹脂粒子と図3の60minの写真に示す鱗片状構造の対比により、ナフトオキサジン樹脂粒子が、鱗片状結晶構造の鱗片のサイズよりも小さいことが判る。
図6は、実施例2のアルミニウム材の表面に水を滴下したものであり、接触角が118.4°と非常に大きいことが判る。これに対して、図7に示すように、HMTによる表面処理を行っただけの比較例2であると、接触角が5.1°であり、図8に示すように、何も処理していない比較例1であると、接触角が25.3°である。そして、表1に示すように、機能層を有する実施例1〜7のアルミニウム材は、何も処理していない比較例1と比べて、接触角が大きくなっている。このことから、実施例1〜7の撥水性が、比較例1と比べて向上していることが判る。また、図10に示すように、反応時間が60分(1h)〜600分(10h)の範囲であると、接触角が90°以上であり、好適な撥水性を示すことが判る。実施例2のアルミニウム材は、図9に示すフッ素コーティングが施された比較例3よりも大きい接触角を示し、フッ素系樹脂コーティング以上の優れた撥水性を有していることが判る。
前述した陽極酸化皮膜を有する基材を、100mlのエタノール水溶液の中に静置し、この水溶液に2mMのHMTを添加する。この処理液を加熱して還流しつつ82℃に保持し、回転数50rpmで60分間撹拌しつつ、陽極酸化皮膜の表面をHMTで処理する。次に、100mlのエタノール水溶液に2mMのDHNを添加した添加液を、前記処理液に添加する。そして、処理液を加熱して還流しつつ82℃に保持し、回転数50rpmで240分に亘って撹拌しつつ、HMTとDHNとを反応させることで、陽極酸化皮膜の表面にナフトオキサジン樹脂を形成する。そして、得られた参考例1のアルミニウム材を、水、エタノールおよびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥する。
芳香族ポリマー粒子を、実施例のように環状アミンを介在させることなく、陽極酸化皮膜に直接付与した場合について被覆試験を行った。
・被覆試験1:実施例2と同じ分量および条件で芳香族ポリマー粒子を形成する。得られた芳香族ポリマー粒子を、実施例2と同じ組成および同量の溶媒中に再分散した溶液を作製し、この溶液を、実施例と同じ基材の陽極酸化皮膜の表面に十分な量滴下した後に、12時間静置した。次に溶液を乾燥して、被覆試験1に係る試験片を得た。
・被覆試験2:実施例2と同じ分量および条件で芳香族ポリマー粒子を形成した後、透析を行った反応溶液を、実施例と同じ基材の陽極酸化皮膜の表面に十分な量滴下した後に、12時間静置した。次に溶液を乾燥して、被覆試験2に係る試験片を得た。
電極(直径5mmの球状電極)を陽極酸化皮膜側の外面に接触させて、電極間に高電圧を印加(昇圧電圧速度:25V/秒)することで、絶縁破壊が生じるまで印加電圧を上げてその限界の電圧を測定した。この結果、機能層を有する実施例2のアルミニウム材は、1.434kVであり、機能層がない比較例1のアルミニウム材は、1.292kVであった。このように、機能層を設けることで、絶縁の強度を向上することが判る。
実施例2のアルミニウム材および比較例1のアルミニウム材のそれぞれを、3%塩酸水溶液に浸漬し、浸漬前後の単位面積当たりの重量減少量を測定すると共に、外観の変化を観察した。その結果を図15および図16に示す。
実施例2のアルミニウム材および比較例1のアルミニウム材のそれぞれを、3%次亜塩素酸水溶液に浸漬し、浸漬前後の単位面積当たりの重量減少量を測定すると共に、外観の変化を観察した。その結果を図17および図18に示す。
Claims (6)
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材の表面に設けられ、表面が鱗片状結晶構造に形成された陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の表面に固着した多数の芳香族ポリマー粒子と、を備えている
ことを特徴とするアルミニウム材。 - 前記芳香族ポリマー粒子は、以下の化学式1または化学式2で表されるオキサジン樹脂から構成されている請求項1記載のアルミニウム材。
- 前記芳香族ポリマー粒子のサイズが、前記陽極酸化皮膜の表面に形成された鱗片状結晶構造の鱗片のサイズよりも小さい請求項1または2記載のアルミニウム材。
- 前記鱗片状結晶構造と前記多数の芳香族ポリマー粒子によってフラクタル構造が構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載のアルミニウム材。
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面に形成された陽極酸化皮膜の表面を、環状アミンで処理することで鱗片状結晶構造とし、
芳香族炭化水素類を添加して加熱することで、前記環状アミンと芳香族炭化水素類とを反応させて芳香族ポリマー粒子を形成し、
前記陽極酸化皮膜における鱗片状結晶構造の表面に、前記芳香族ポリマー粒子を固着させる
ことを特徴とするアルミニウム材の製造方法。 - 前記環状アミンと前記芳香族炭化水素類とを反応させる時間が、60分〜600分の範囲である請求項5記載のアルミニウム材の製造方法。
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