ところで、組電池は一般に、充放電を制御するための制御装置を含む蓄電システムとして構成される。そして、この蓄電システム内には、組電池の充電状態を管理するためのSOCテーブルが予め用意される。SOCテーブルは、SOC(State Of Charge:充電状態)と、OCV(Open Circuit Voltage:開放電圧)と、RC(Remain Capacity:残存容量)とを対応付けて記憶するテーブルであり、例えばSOC=0%からSOC=100%まで5%刻みで、具体的なOCVとRCとを記憶するよう構成される。SOCテーブルに記憶されるデータは、実際に測定されたOCVから現在のSOCを決定し、決定したSOCを例えばバー表示の形でユーザに提示するために用いられる。
SOCテーブルにおいてSOC=100%に対応付けて記憶されるRCは、その組電池の満充電容量を表している。しかし、各セルの劣化に伴って組電池の満充電容量は低下していくので、SOCテーブルの内容が固定されていると、時間の経過に伴って実態との乖離が生ずることになる。そこで本願の発明者は、各セルのOCVを実測するとともにクーロンカウンタを用いて組電池に流れた電流を測定することによって組電池の残存容量も実測し、これらの実測結果に基づいて、SOCテーブルを更新していくことを検討している。
具体的には、まず充電開始の時点で各セルのOCVを測定し、最も小さいOCVの値に対応付けてSOCテーブルに格納されるRCを、現在の容量を示す変数Vcに代入する。充電中には、各セルのセル電圧を継続的に測定し、いずれかのセル電圧が後述する「充電終止電圧」になったところで、充電を終了する。充電終了後には、充電開始時点からのクーロンカウンタの増加分を変数Vcに加算することにより、現在の容量を算出する。そして、こうして算出された現在の容量をSOC=100%に対応するRCの値としてSOCテーブルに設定することにより、SOCテーブルの更新を行う。また、100%以外のSOCに対応するRCに関しては、比率計算により算出される値により、SOCテーブルの更新を行う。
しかしながら、本願の発明者が検討を進めるうちに、このような更新方法では、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新できない場合があることが判明した。以下、詳しく説明する。
図9(a)は、5つのセル1〜5からなる組電池の充電終了時の状態を示す図であり、図9(b)は、同じ組電池の充電開始時の状態を示す図である。これらの図には、後述する自己放電がない理想的な状態を示している。
図9(a)に示す「3.165V」「4.125V」は、SOCテーブルにおいてそれぞれSOC=0%、100%に対応付けて記憶されるOCVの値である。放電下限電圧は、一般的にSOC=0%に対応付けてSOCテーブルに記憶されるOCVよりも低くなり、例えば3.0Vである。充電終止電圧は、一般的にSOC=100%に対応付けてSOCテーブルに記憶されるOCVよりも高くなり、例えば4.2Vである。電池は充電や放電が終わった後も内部の化学反応が継続しており、OCVを測定する為には、数時間以上の安定化時間を必要とする。放電下限電圧が3.0Vの電池の場合、放電終了後に電池の電圧は上昇し、この例では3.165Vになる。同様に充電終止電圧が4.2Vの電池の場合、充電後に電池の電圧は低下し、この例では4.125Vになる。組電池の制御装置は原則として、いずれかのセルのセル電圧が放電下限電圧に達すると放電を停止し、いずれかのセルのセル電圧が充電終止電圧に達すると充電を停止するように構成される。
また、図9(a)(b)では、長方形の面積により各セルの容量を表し、縦軸により各セルのOCV又はセル電圧を示している。充電開始時には、電流が流れていないためにセル電圧とOCVは等価になるが、充電終了時には、電流が流れているためにセル電圧により定義する。この表記法によれば、各セルの長方形の横幅は、劣化が進行するほど小さくなる。同図にはセル5のみが劣化している場合を示しており、したがってセル5を示す長方形の横幅のみ、他と比べて小さくなっている。また、容量Bは充電開始時の各セルの残存容量を示し、容量Aは充電による増加分を示している。容量Aの面積はセル間で同一となっているが、これは、各セルの充電が同一の電圧で同一の時間だけ実行されることに対応している。
充放電に伴う各セルの基本的な動作は、図9(a)の状態と、図9(b)の状態との間の往復となる。なお、完全に放電しない状態から充電を開始する場合もあり得るが、説明を簡単にするため、そのような場合の説明は省略する。図9(a)(b)から理解されるように、放電時に放電下限電圧に達するセル、充電時に充電終止電圧に達するセルはともに、最も劣化の進んだセル5となる。
図9(a)(b)を前提として上述したSOCテーブルの更新を行う場合、SOC=100%に対応するRCの値としては、容量Aとセル5にかかる容量Bとの合計値が設定され、SOC=0%に対応するRCの値としては、セル5にかかる容量Bが設定されることになる。こうして設定される値は、適切な値であるということができる。
図10(a)は、図9(a)の状態から放電が進む場合において、内部抵抗の劣化などによりセル4の自己放電が大きくなった場合の例を示している。組電池が長期にわたり充電されずに保管された場合、自己放電の大きいセル4の容量が他のセルに比べて早く減少するため、図10(a)に示すように、劣化の進んだセル5ではなくセル4が放電下限電圧に達する場合が生ずる。その場合、セル1〜3,5においては、放電しきれなかった容量A'が残った状態で充電が開始されることになる。
図10(b)は、図10(a)の状態から充電を行い、終了した状態を示している。同図に示すように、各セルには容量Cが上積みされることになるが、図9(a)と図10(b)を比較すると理解されるように、容量Cは、容量A'の分だけ容量Aより小さくなっている。
図10(a)(b)を前提として上述したSOCテーブルの更新を行う場合、充電開始時の変数Vcは、セル5にかかる容量Bに等しくなる。これは、それまでのSOCテーブルの更新により、SOC=0%に対応するRCの値として、セル5にかかる容量BがSOCテーブルに設定されているからである。一方、充電開始から充電終了までのクーロンカウンタの増加分は、容量Cに等しくなる。したがって、SOC=100%に対応するRCの値として、容量Cとセル5にかかる容量Bとの合計値が設定されることになる。
こうしてSOCテーブルに設定される値は、組電池の実態を正しく反映したものとは言えない。なぜなら、最も劣化が進行したセル5の充電終了時の残存容量は、容量Cとセル5にかかる容量Bの合計値にさらに容量A'を足した値であって、容量Cとセル5にかかる容量Bとの合計値ではないからである。したがって、図10(a)(b)を前提とするような場合、すなわち、自己放電の大きなセルが存在する場合には、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新できないということになる。
したがって、本発明の目的の一つは、自己放電の大きなセルが存在する場合であっても、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新できる蓄電システムを提供することにある。
本発明による蓄電システムは、複数の蓄電デバイスを含む蓄電モジュールを有する蓄電システムであって、前記蓄電モジュールが負荷に接続されたときの前記蓄電モジュールの出力電流を積算してなる出力電流積算値を求める積算値取得手段と、満充電容量の設定値及び前記出力電流積算値に基づいて、前記蓄電モジュールの残存容量に関する残存容量指示値を算出する算出手段と、前記複数の蓄電デバイスそれぞれの開放電圧又はセル電圧を測定する電圧測定手段と、前記設定値を変更する変更手段と、を備え、前記変更手段は、前記複数の蓄電デバイスのうち、充電開始時に前記電圧測定手段によって測定された開放電圧が最も低いものと、充電終了時に前記電圧測定手段によって測定されたセル電圧が最も高いものとが一致した場合に、充電開始時の前記残存容量指示値に基づいて前記設定値の変更を行う、ことを特徴とする。
本発明によれば、自己放電の大きなセルが存在する場合であっても、最も劣化が進行した蓄電デバイス(セル)の充電終了時の残存容量を正しく設定値(SOC=100%に対応付けてSOCテーブルに格納されるRCの値)に反映させることができる。したがって、自己放電の大きなセルが存在する場合であっても、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新することが可能になる。
上記蓄電システムにおいて、前記積算値取得手段は、前記蓄電モジュールが充電装置に接続されたときの前記蓄電モジュールの入力電流を積算してなる入力電流積算値を求めることができるように構成されており、前記変更手段は、前記残存容量指示値と前記入力電流積算値との合計値に基づいて前記設定値を決定する、こととしてもよい。これによれば、最も劣化が進行した蓄電デバイス(セル)の充電終了時の残存容量を得ることが可能になる。
上記各蓄電システムにおいて、前記複数の蓄電デバイスのうちの1つ以上を選択的かつ強制的に放電させる強制放電手段をさらに備え、前記強制放電手段は、前記複数の蓄電デバイスのうち、充電終了時に前記電圧測定手段によって測定されたセル電圧が最も高いもののセル電圧を、前記複数の蓄電デバイスのセル電圧の平均値まで低下させる、こととししてもよい。これによれば、充電開始時において、最も劣化が進行した蓄電デバイス(セル)と最も劣化していない蓄電デバイス(セル)のセル電圧の差分を小さくすることが可能になり、複数回充放電を繰り返すことによって、最も容量の小さい蓄電デバイスが充電開始時に一番開放電圧が低くなり、充電終了時に一番セル電圧が高くできるようになる。
上記各蓄電システムにおいて、前記複数の蓄電デバイスのうちの1つ以上を選択的かつ強制的に放電させる強制放電手段をさらに備え、前記強制放電手段は、前記複数の蓄電デバイスのうち、充電終了時に前記電圧測定手段によって測定されたセル電圧が前記複数の蓄電デバイスのセル電圧の平均値より高い1以上の蓄電デバイスのセル電圧を、前記平均値まで低下させる、こととしてもよい。これによれば、劣化による容量低下が進んだセルが複数存在する場合であっても、複数回の充放電動作を繰り返すことによって、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新することが可能になる。
上記各蓄電システムにおいて、前記変更手段は、充電開始時の前記残存容量指示値が前記設定値の0%以上10%以下である場合に、前記設定値の変更を行う、こととしてもよい。これによれば、完全に放電した状態又はそれに近い状態の場合にのみ、SOCテーブルの更新を行うことが可能になる。
上記各蓄電システムにおいて、前記複数の蓄電デバイスはそれぞれ、二次電池、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタである、こととしてもよい。
本発明によれば、自己放電の大きなセルが存在する場合であっても、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新することが可能になる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施の形態による蓄電システム1の構成を示す図である。同図に示すように、本実施の形態による蓄電システム1は、複数のセル2a(蓄電デバイス)を含む組電池2(蓄電モジュール)と、制御装置3と、電流検出素子4と、スイッチ5と、強制放電回路6と、電圧測定回路7とを有して構成される。
組電池2を構成する複数のセル2aは、それぞれ二次電池、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタであり、図1(a)に示すように、組電池2の2つの端子T1,T2の間に直列に接続される。同図には、5個のセル2aを直列に接続した例を示しているが、組電池2の具体的な構成はこれに限られない。組電池2の内部においては、各セル2aのOCV又はセル電圧を測定する電圧測定回路7と各セル2aを放電させるための強制放電回路6が各セル2aに接続されており、制御装置3からの指令値に基づいて、各セル2aのOCV又はセル電圧を測定したり、各セル2aを放電することが可能になっている。なお、電圧測定回路7によって測定される電圧は、セル2aに電流が流れていない時(放電終了後かつ充電開始前の時点など)にはOCVとなり、セル2aに電流が流れている時(放電中、充電中など)にはセル電圧となる。
図1(b)は、各セル2aの等価回路を示す図である。同図に示すように、セル2aは、起電力Eの電源に内部抵抗rが直列に接続された回路と等価であり、セル2aの両端に現れる電圧Vは、セル2aを流れる電流Iを用いてV=E−rIと表される。セル2aのOCVは、電流Iがゼロである場合の電圧Vであり、起電力Eに等しい値となる。
図1(a)に戻り、制御装置3は、組電池2の充放電を制御する機能を有するマイコンであり、組電池2、電流検出素子4、スイッチ5のそれぞれと接続される。図示していないが、制御装置3は中央処理装置と記憶装置とを有しており、制御装置3が行う各処理は、記憶装置内に記憶されるプログラムを中央処理装置が読み込んで実行することによって実現される。記憶装置は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの主記憶装置と、書き換え可能なEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)とを含み、上記プログラムの他、上述したSOCテーブルや変数Vcを含む各種のデータを記憶するように構成される。その他の制御装置3の機能については、後ほど詳細に説明する。
電流検出素子4は、例えばシャント抵抗やホール素子などの電流を検出可能に構成された素子であり、組電池2と端子T1又は端子T2との間に挿入される。電流検出素子4の測定値は、端子T1,T2間に負荷(図示せず)が接続されているときには組電池2の出力電流の電流値となり、端子T1,T2間に充電装置(図示せず)が接続されているときには組電池2の入力電流の電流値となる。
スイッチ5は、端子T1,T2間に接続されている負荷又は充電装置と、組電池2との間の接続状態を切り替えるためのスイッチあるいはリレーである。スイッチ5がオフである場合、組電池2は負荷又は充電装置から切り離される。一方、スイッチ5がオンである場合、組電池2と負荷又は充電装置とが接続される。図1(a)の例では、制御装置3は、充電終了時には、スイッチ5aをオフとすることによってスイッチ5をオフとし、放電終了時には、スイッチ5bをオフとすることによってスイッチ5をオフとする。通常は、スイッチ5a,5bともオンになるように制御装置3が制御する。
図2は、制御装置3の機能ブロックを示す略ブロック図である。同図に示すように、制御装置3は機能的に、記憶部10、積算値取得部11、算出部12、電圧測定部13、強制放電部14、充電装置検出部15、充放電制御部16、及び制御部17を有して構成される。
記憶部10は、上述したSOCテーブルを記憶する機能部である。
図3(a)は、記憶部10に記憶されるSOCテーブルの一例を示す図である。SOCテーブルは、上述したようにSOC、OCV、及びRCを対応付けて記憶するテーブルであり、SOC=0%からSOC=100%まで5%刻みで、具体的なOCVとRCとを記憶するよう構成される。SOCテーブルに記憶されるデータは、実際に測定されたOCVから現在のSOCを決定し、決定したSOCを例えばバー表示の形でユーザに提示するために用いられる。また、SOCテーブルにおいてSOC=100%に対応付けて記憶されるRCは、組電池2の満充電容量FCCを表している。本書では、SOC=100%に対応付けてSOCテーブル内に設定されるRCを、図3(a)に括弧書きで示すように設定値FCC(Full Charge Capacity)と称する。
図2に戻り、積算値取得部11は、図1に示した電流検出素子4の計測結果に基づき、組電池2に流れる電流の積算値であるクーロンカウンタ値CCを求める機能部(積算値取得手段)である。クーロンカウンタ値CCは、組電池2が負荷(図示せず)に接続されているときには組電池2の出力電流を積算してなる出力電流積算値となり、組電池2が充電装置(図示せず)に接続されているときには組電池2の入力電流を積算してなる入力電流積算値となる。積算値取得部11は、制御部17からリセットを指示された場合に、クーロンカウンタ値CCをゼロにリセットするよう構成される。
算出部12は、制御部17の処理で用いる変数Vc(残存容量指示値)を算出する機能部(算出手段)である。算出部12による変数Vcの算出方法は、制御部17によって指示される。変数Vcの算出方法の具体的な内容については、後ほど制御部17の処理フローを説明する際に詳しく説明する。
電圧測定部13は、図1に示した電圧測定回路7を用いて、複数のセル2aそれぞれのOCVを測定する機能部(電圧測定手段)である。電圧測定部13は、あるセル2aのOCVを測定するにあたり、充電直後や放電直後ではなく、化学的に安定した後の無負荷状態で、図1(b)に示した電圧Vを測定する。そして、測定した電圧Vを、そのセル2aのOCVとして制御部17に出力する。電圧測定部13が測定を実行するタイミングは、制御部17によって指示される。
強制放電部14は、図1に示した強制放電回路6を用いて、複数のセル2aのうちの1つ以上を選択的かつ強制的に放電させる機能部(強制放電手段)である。放電の対象となるセル2a及び放電のタイミングは、制御部17によって指示される。
充電装置検出部15は、組電池2と充電装置(図示せず)の接続状態を検出する機能部である。具体的な検出の方法としては各種のものが考えられるが、例えば機械的な接点を用いて検出してもよいし、通信機能を用いて検出してもよいし、図1に示した端子T1,T2間の電圧を測定することによって検出することとしてもよい。充電装置検出部15は、組電池2と充電装置の接続状態を示す情報を制御部17に供給するよう構成される。
充放電制御部16は、組電池2の充放電を制御する機能部である。具体的には、図1に示したスイッチ5のオンオフ制御を行うことにより、組電池2の充放電を制御するよう構成される。より詳しく言えば、充放電制御部16は、スイッチ5a,5bをオンとすることにより組電池2の充電又は放電を開始し、スイッチ5aをオフとすることにより組電池2の充電を終了し、スイッチ5bをオフとすることにより組電池2の放電を終了する。充電と放電のいずれになるかは、組電池2と接続されているものが充電装置であるか負荷であるかによるもので、充放電制御部16は関知しない。充放電制御部16による充電又は放電の開始のタイミング、及び、充電又は放電の終了のタイミングは、制御部17によって指示される。
制御部17は、図2に示した各機能部を含む蓄電システム1の各部を制御する機能部である。制御部17が行う処理には、上述したように、クーロンカウンタ値CCをゼロにリセットするよう積算値取得部11に指示する処理、OCVの測定を実行するタイミングを電圧測定部13に指示する処理、放電の対象となるセル2a及び放電のタイミングを強制放電部14に指示する処理、充電又は放電の開始のタイミング及び充電又は放電の終了のタイミングを充放電制御部16に指示する処理が含まれる他、記憶部10に記憶される設定値FCCを変更する処理(変更手段)が含まれる。制御部17は、複数のセル2aのうち、充電開始時に電圧測定部13によって測定されたOCVが最も低いものと、充電終了時に電圧測定部13によって測定されたセル電圧が最も高いものとが一致した場合に、充電開始時の変数Vcに基づいて設定値FCCの変更を行うよう構成される。
図4は、制御部17が行う設定値FCCの変更処理を説明するための説明図である。同図(a)〜(c)は、上で説明した図10(b)の続き(セル4の自己放電が大きくなった場合)に相当する。以下、この図を参照しながら、制御部17による設定値FCCの変更について詳しく説明する。
制御部17は、図10(b)に示した充電終了時に、電圧測定部13から各セル2aのセル電圧を取得する。そして、取得したセル電圧が最も高いセル2aを選択し、強制放電部14を用いて強制的に放電させることにより、そのセル電圧を複数のセル2aのセル電圧の平均値まで低下させる。図10(b)では、セル5のセル電圧が最も高かったので、セル5が強制放電の対象となる。図4(a)には、セル5を強制的に放電した後の状態を示している。
図4(b)には、図4(a)の状態の後、組電池2が長期にわたり充電されずに保管された場合の例を示している。この例では、放電開始前にセル5を強制的に放電していることから、自己放電の大きいセル4ではなく、セル5が放電下限電圧に達することによって放電が終了している。セル1〜3には放電しきれなかった容量A',C'が、セル4には放電しきれなかった容量C'がそれぞれ残っており、セル1〜4の充電は、このように容量が残った状態で開始されることになる。
図4(c)は、図4(b)の状態から充電を行い、終了した状態を示している。同図に示すように、各セルには容量Dが上積みされることになるが、前回の充電終了後にセル5を強制的に放電していることから、容量Dの大きさは、図9(a)に示した容量Aと同じ値となる。
制御部17は、組電池2が図4(c)の状態となった場合に、記憶部10に記憶される設定値FCCの更新を行うよう構成される。具体的に説明すると、制御部17は、充電開始の時点で、電圧測定部13に各セル2aのOCVを測定させておく。そして、最も小さいOCVの値に対応付けてSOCテーブルに格納されるRCを、現在の容量を示す変数Vcに代入しておく。充電中には、電圧測定部13に各セル2aのセル電圧を継続的に測定させ、いずれかのセル2aのセル電圧が充電終止電圧(4.2V)に達したところで、充電を終了する。
続いて制御部17は、組電池2の状態が図4(c)の状態となっているか否かを判定する。この判定は、具体的には、複数のセル2aのうち、充電開始時に電圧測定部13によって測定されたOCVが最も低いものと、充電終了時に電圧測定部13によって測定されたセル電圧が最も高いものとが一致しているか否かを判定することによって行えばよい。すなわち、一致していると判定した場合には図4(c)の状態となっていると判定し、一致していないと判定した場合には図4(c)の状態となっていないと判定すればよい。
組電池2の状態が図4(c)の状態となっていないと判定した場合、制御部17は、設定値FCCの更新を行わない。一方、組電池2の状態が図4(c)の状態となっていないと判定した場合、制御部17は、充電開始時点からのクーロンカウンタ値CCの増加分を変数Vcに加算することにより、現在の容量を算出する。そして、こうして算出された現在の容量を、設定値FCCとしてSOCテーブルに設定する。
図3(b)は、設定値FCCの更新後のSOCテーブルの一例を示す図である。同図には、図3(a)に示したSOCテーブルをFCC=4.5Ahにより更新した例を示している。同図に示すように、100%以外のSOCに対応するRCに関しては、設定値FCCから比率計算により算出される値により、SOCテーブルの更新が行われる。例えば、SOC=50%に対応するRCとしては、設定値FCCの50%に相当する2.25Ahが設定される。
制御部17が以上のようにして設定値FCCの更新を行うことで、自己放電の大きなセルが存在する場合であっても、最も劣化が進行したセルの充電終了時の残存容量(図4の例では、容量B,Dの合計値)を正しく設定値FCCに反映させることが可能になる。したがって、自己放電の大きなセルが存在する場合であっても、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新することが可能になる。
以下、制御部17が行う処理について、図2とともに図5〜図7に示す処理フローを参照しながら、再度より詳しく説明する。
図5は、制御部17が行う処理を示すフロー図である。同図のステップS1に示す処理は、事前処理を示している。この事前処理では、同図に示すように、変数Vcにゼロが設定される(Vc=0)とともに、SOC更新フラグに偽(False)が設定される(SOC更新フラグ=False)。なお、SOC更新フラグは制御部17の内部変数である。ステップS1の処理は例えば製造段階において一度だけ行われればよく、図示しないデバッグ用のツールを用いて実行すればよい。
制御部17が最初に行う処理は、ステップS2に示す充電時処理である。ただし、この充電時処理の詳細については後ほど図6及び図7を参照して説明することとし、以下では、充電時処理が終了した状態(すなわち、組電池2が充電されている状態)からの処理を先に説明する。
組電池2の充電が終了した後、制御部17は、積算値取得部11にクーロンカウンタ値CCをゼロにリセットさせた後(CC=0、ステップS3)、スイッチ5a,5bをオンとするよう充放電制御部16を制御することにより、組電池2の放電を開始する(ステップS4)。これにより、図1に示した端子T1,T2間に負荷が接続された場合、組電池2から負荷に電流が流れ、それによって各セル2aの残存容量が減少していくことになる。各セル2aの残存容量は、負荷の接続の有無によらず、自己放電によっても減少し得る。
放電を開始した後、制御部17は、電圧測定部13に複数のセル2aそれぞれのセル電圧を測定させる(ステップS5)。そして、いずれかのセル2aのセル電圧が所定の下限値(放電下限電圧3.0V)に達したか否かを判定する(ステップS6)。
ステップS6で下限値に達していないと判定した場合、制御部17は、組電池2の充電が開始されたか否かを判定する(ステップS7)。この判定の結果は、充電装置検出部15によって組電池2と充電装置(図示せず)の接続が検出されている場合に肯定となり、そうでない場合に否定となる。充電が開始されていないと判定した場合の制御部17は、ステップS5に戻って処理を続ける。一方、充電が開始されたと判定した場合の制御部17は、式Vc=FCC−CCにより算出部12に変数Vcを算出させたうえで(ステップS10)、ステップS2の充電時処理を開始する。
ステップS6で下限値に達したと判定した場合の制御部17は、スイッチ5bをオフとするよう充放電制御部16を制御することにより、組電池2の放電を終了する(ステップS8)。その後、組電池2の充電が開始されるまで、ステップS7と同様の判定を繰り返す(ステップS9)。ステップS9で充電が開始されたと判定した場合の制御部17は、式Vc=FCC−CCにより算出部12に変数Vcを算出させたうえで(ステップS10)、ステップS2の充電時処理を開始する。
図6及び図7は、ステップS2で実行される充電時処理の詳細を示すフロー図である。初めに図6に示すように、制御部17はまず、電圧測定部13に複数のセル2aそれぞれのOCVを測定させる(ステップS20)。そして、測定されたOCVが最も低いセル2aを記録する(ステップS21)。以下では、こうして記録されたセル2aを「セルA」と称する。
続いて制御部17は、内部変数であるSOC更新フラグの真偽を判定する(ステップS22)。ステップS1でSOC更新フラグに偽(False)を設定しているので、充電時処理を初めて実行する場合には、ステップS22の判定結果は偽(False)となる。
ステップS22で偽(False)と判定した制御部17は、積算値取得部11にクーロンカウンタ値CCをゼロにリセットさせた後(CC=0、ステップS23)、スイッチ5をオンとするよう充放電制御部16を制御することにより、組電池2の充電を開始する(ステップS24)。このとき、図1に示した端子T1,T2間に充電装置を接続しておく必要がある。制御部17は、充電装置検出部15によって組電池2と充電装置の接続が検出されているか否かを確認し、検出されている場合にのみステップS24を実行することとしてもよい。
充電を開始した後の制御部17は、電圧測定部13に複数のセル2aそれぞれのセル電圧を測定させる(ステップS25)。そして、いずれかのセル2aのセル電圧が所定の上限値(充電終止電圧)に達したか否かを判定する(ステップS26)。この判定の結果が否定であった場合の制御部17は、ステップS25に戻って処理を行う。一方、肯定であった場合の制御部17は、スイッチ5aをオフとするよう充放電制御部16を制御することにより、組電池2の充電を終了する(ステップS27)。
図7に移り、続いて制御部17は、最後に測定されたセル電圧が最も高いセル2aを記録する(ステップS28)。以下では、こうして記録されたセル2aを「セルB」と称する。そして、このセルBと、ステップS21で記録したセルAとが同じものであるか否かを判定する(ステップS29。SOC更新判定)。
ステップS29において同じものでないとの判定結果が得られた場合、制御部17は、セル電圧が各セル2aのセル電圧の平均値に等しくなるまでセルBを放電するよう、強制放電部14を制御する(ステップS30)。この放電は、図4(a)で説明した強制放電に相当する。なお、図4(a)の例では、セル4がセルAに相当し、セル5がセルBに相当する。ステップS30を実行した制御部17は、充電時処理を終了し、図5に示したステップS3以降の処理に戻る。
一方、ステップS29において同じものであるとの判定結果が得られた場合、制御部17は、まず初めに、式Vc=Vc+CCにより算出部12に変数Vcを算出させる(ステップS43)。こうして算出される変数Vcの値は、図4(c)に示したセル5の容量Bと容量Dの合計値に相当する。次いで制御部17は、設定値FCC(すなわち、SOC=100%に対応付けてSOCテーブル内に記憶されるRC)を変数Vcの値により更新する。さらに、SOCテーブルにて100%以外のSOCに対応付けるRCを上述した比率計算により算出し、算出した値によりSOCテーブルを更新する(ステップS45)。そして、SOC更新フラグに真(True)を設定した後(SOC更新フラグ=True、ステップS46)、充電時処理を終了し、図5に示したステップS3以降の処理に戻る。
図6に戻り、ステップS22の判定結果が真(True)となった場合の制御部17は、セルAのOCVに対応付けてSOCテーブル内に記憶されるRCを変数Vcに代入する(ステップS40)。そして、SOC更新フラグに偽(False)を設定した後(ステップS41)、ステップS23に処理を移す。ステップS40,S41の処理は、クーロンカウンタ値CCの誤差により図5のステップS10で算出する変数Vcに生じ得る誤差を修正するための処理である。
以上、図5〜図7に示す処理フローを参照しながら、制御部17が行う処理について詳しく説明した。
以上説明したように、本実施の形態による蓄電システム1によれば、自己放電の大きなセル2aが存在する場合であっても、最も劣化が進行したセル2aの充電終了時の残存容量を正しく設定値FCCに反映させることができる。したがって、自己放電の大きなセル2aが存在する場合であっても、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新することが可能になる。
また、本実施の形態による蓄電システム1によれば、図7のステップS43に示したように、変数Vcと、上述した入力電流積算値であるクーロンカウンタ値CCとに基づき、最も劣化が進行したセル2aの充電終了時の残存容量(=設定値FCC)を得ることが可能になる。
また、本実施の形態による蓄電システム1によれば、図7のステップS30でセルBの強制放電を行っているので、充電開始時において、最も劣化が進行したセル2aのOCVを最小とすることが可能になる。
なお、制御部17は、充電開始時の変数Vcが設定値FCCの例えば0%以上10%以下である場合にのみ、設定値FCCの変更処理(図7に示したステップS43〜S46の処理)を行うこととしてもよい。これによれば、完全に放電した状態又はそれに近い状態の場合にのみ、SOCテーブルの更新を行うことが可能になる。
図8は、本発明の第2の実施の形態による制御装置3が行う処理を示すフロー図である。本実施の形態による蓄電システム1は、図7に示したステップS30に代えてステップS30aが実行される点で、第1の実施の形態による蓄電システム1と相違する。その他の点では第1の実施の形態による蓄電システム1と同様であるので、以下では、第1の実施の形態との相違点に着目して説明する。
本実施の形態による制御部17は、ステップS29において同じものでないとの判定結果が得られた場合に強制放電の対象とするセル2aとして、セルBだけでなく、測定されたセル電圧が各セル2aのセル電圧の平均値を上回るすべてのセル2aを選択する。そして、選択した1以上のセルについて、各セル2aのセル電圧の平均値に等しくなるまで放電するよう、強制放電部14を制御する(ステップS30a)。
本実施の形態による蓄電システム1によれば、ステップS30aで複数のセル2aを強制放電の対象とすることができるので、劣化による容量低下が進んだセル2aが複数存在する場合であっても、複数回の充放電動作を繰り返すことによって、SOCテーブルの満充電容量を正しく更新することが可能になる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。