JP6787192B2 - 圧電体膜 - Google Patents

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Description

本発明は、振動発電素子、センサ、アクチュエータ、インクジェットヘッド、オートフォーカス等に用いられ、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系又はチタン酸鉛(PT)系のペロブスカイト構造を有する圧電体膜に関するものである。
従来、圧電デバイスの特性は圧電体の特性とデバイス構造により決まるため、圧電特性の高い材料開発が熱望されている。ゾルゲル法に代表される湿式成膜では、簡便な方法で良質な膜が得られることから広く用いられてきた。
例えば、結晶面が(111)軸方向に配向した下部電極を有する基板の下部電極上に、強誘電体薄膜形成用組成物を塗布し、仮焼きした後、焼成して結晶化させることにより下部電極上に強誘電体薄膜を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この強誘電体薄膜の製造方法では、強誘電体薄膜形成用組成物を下部電極上に塗布、仮焼き、焼成して配向制御層を形成し、強誘電体薄膜形成用組成物の塗布量を配向制御層の結晶化後の層厚が35〜150nmの範囲内になるように設定して配向制御層の優先的な結晶配向を(100)面にする。なお、特許文献1では、強誘電体薄膜において正方晶、菱面体晶の区別を行うことが難しいことから、全て正方晶として扱ったものとし、(100)/(001)面と表記している。また、強誘電体薄膜形成用組成物の一部を下部電極上に塗布、仮焼き、焼成して配向制御層を形成した後に、強誘電体薄膜形成用組成物の残部を配向制御層上に塗布、仮焼き、焼成して配向制御層の結晶配向と同じ結晶配向を有する膜厚調整層を形成する。更に、強誘電体薄膜形成用組成物の残部を塗布した後の膜厚調整層を形成するための仮焼き温度が200℃〜450℃の範囲内にある。例えば、膜厚調整層用組成物の塗布、仮焼きの工程を4回繰り返した後、昇温速度10℃/秒で酸素雰囲気中700℃、1分間加熱する焼成を行って結晶化させることにより、層厚300nmの膜厚調整層が得られる。
このように構成された強誘電体薄膜の製造方法では、配向制御層の結晶化後の層厚を35〜150nmの範囲内にすることで、(100)/(001)面に優先的に結晶配向が制御された強誘電体薄膜をシード層やバッファ層を設けることなく、簡便に得ることができる。また、配向制御層の上に膜厚調整層を形成することで、配向制御層の優先配向面に倣って、配向制御層と同じ傾向の結晶配向面が形成されるため、この膜厚調整層によって、配向制御層により(100)/(001)面に優先的に結晶配向が制御された強誘電体薄膜の膜厚をその用途に合せて任意に調整することができる。
特開2012−256850号公報(請求項1、4及び5、段落[0017]、[0056]、[0076])
しかし、上記従来の特許文献1に示された製造された強誘電体薄膜では、焼成毎の膜厚調整層を厚く形成すると、強誘電体薄膜にクラックや剥離が発生する、或いは高い結晶配向性が得られない焼成に由来する膜厚方向の組成ムラが大きいなどの問題により、圧電特性が低下する不具合があった。
本発明の第1の目的は、圧電体膜の結晶性及び配向性を向上させることにより、圧電特性を向上できる、圧電体膜を提供することにある。本発明の第2の目的は、1回で焼成可能な膜厚を大きくすることにより、圧電特性を向上できる、圧電体膜を提供することにある。本発明の第3の目的は、膜厚方向のZr/Tiの組成傾斜を緩くすることにより、圧電特性の向上に寄与できる、圧電体膜を提供することにある。本発明の第4の目的は、ペロブスカイト構造がパイアクロア層を含まないことにより、圧電特性の低下を防止できる、圧電体膜を提供することにある。
本発明の第1の観点は、基板上に形成されPZT系のペロブスカイト構造を有する圧電体膜であって、X線回折により測定される(100)面に由来する回折ピークの半値幅が0.128度〜0.150度であり、(200)面に由来する回折ピークの半値幅が0.345度〜0.396度であり、Zr/Tiの濃度比を膜厚方向に分析したときに、Zr/Tiの濃度比が基板から離れるに従って次第に増大する層を1又は2以上有することを特徴とする。なお、本発明においては、圧電体膜が薄膜であることから、正方晶と菱面体晶の区別を行うことが難しいため、全て正方晶として扱い、(100)面は(001)面を含んでいるものとする。また、同様に、(200)面は(002)面を含んでいるものとする。
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に焼成回数が1回であるとき、全体の膜厚が720nm〜1000nmであり、焼成回数が2回以上であるとき、焼成界面毎の膜厚が720nm〜1000nmであることを特徴とする。
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にZr/Tiの組成が傾斜する各層の厚さが720nm〜1000nmであることを特徴とする。
本発明の第1の観点の圧電体膜では、圧電体膜の結晶性及び配向性が極めて高いため、X線回折により測定される所定の結晶面に由来する回折ピークの半値幅が小さい、即ち圧電体膜の膜厚方向の組成ムラが小さいので、圧電特性を向上できる。また、Zr/Tiの濃度比が基板から離れるに従って次第に増大する層を1又は2以上有するので、膜厚方向のZr/Tiの組成傾斜が緩くなる。この結果、圧電特性の向上に寄与できる。
本発明の第2の観点の圧電体膜では、焼成回数が1回であるとき、全体の膜厚を720nm〜1000nmとし、焼成回数が2回以上であるとき、焼成界面毎の膜厚を720nm〜1000nmとしたので、即ち1回で焼成可能な膜厚を大きくしたので、より圧電特性を向上できる。
本発明の第3の観点の圧電体膜では、Zr/Tiの組成が傾斜する各層の厚さを720nm〜1000nmと厚くしたので、膜厚方向のZr/Tiの組成傾斜が緩くなる。この結果、圧電特性の向上に寄与できる。
実施例1及び比較例1の圧電体膜のX線回折パターンを示す図である。 図1のA部を拡大して重ねた実施例1及び比較例1の圧電体膜のX線回折パターンを示す図である。 図1のB部を拡大して重ねた実施例1及び比較例1の圧電体膜のX線回折パターンを示す図である。
次に本発明を実施するための形態を説明する。圧電体膜は、基板上に形成されPZT系のペロブスカイト構造を有する圧電体膜である。PZT系としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PNbZT(ニオブドープチタン酸ジルコン酸鉛)、PLZT(ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛)等が挙げられる
上記圧電体膜は、X線回折により測定される(100)面に由来する回折ピークの半値幅が0.128度〜0.150度であり、(200)面に由来する回折ピークの半値幅が0.345度〜0.396度である。ここで、(100)面に由来する回折ピークの半値幅を0.150度以下に限定し、(200)面に由来する回折ピークの半値幅を0.396度以下に限定したのは、これらの範囲を超えると、圧電体膜の圧電特性が低下してしまうからである。なお、上記X線回折のX線としてはCuKα線を用いることが好ましい。また、圧電体膜がPZT膜であるとき、X線回折により測定される回折ピークの角度をθとするとき、(100)面は2θ=21.7±0.2度となり、(200)面は2θ=45±1度となる。これらの値が一定でないのは、圧電体膜が薄膜であることにより、残留応力の影響を強く受けるためである。よって、本発明においては、2θ=21.7±0.2度の範囲内のピークを(100)面のピークとし、2θ=45±1度の範囲内のピークを(200)面のピークとする。
圧電体膜の焼成回数が1回であるとき、全体の膜厚は720nm〜1000nmであることが好ましく、焼成回数が2回以上であるとき、焼成界面毎の膜厚は720nm〜1000nmであることが好ましい。ここで、圧電体膜の膜厚を上記範囲に限定したのは、720nm未満では、十分な圧電特性が得られないからである。
また、ペロブスカイト構造がPZT系であって、Zr/Tiの濃度比を膜厚方向に分析したときに、Zr/Tiの濃度比が基板から離れるに従って次第に増大する層、即ちZr/Tiの組成傾斜する層を1又は2以上有する。更に、各層の厚さが720nm〜1000nmであることが好ましい。ここで、Zr/Tiの組成を傾斜する層の厚さを720nm〜1000nmの範囲内に限定したのは、720nm未満では十分な圧電特性が得られず、1000nmを超えると圧電体膜にクラックが発生してしまうからである。また、ペロブスカイト構造はパイアクロア相やジルコニアを殆ど含まない。これは、通常パイロクロア相やジルコニアは焼成後の膜表面近傍に生成するため、焼成回数が多いほど生成量も増えるが、本発明では、焼成1回当たりの膜厚を従来よりも厚くすることにより、焼成回数を減らすことができるためである。更に、圧電体膜の全体の厚さは720nm〜5000nmであることが好ましい。ここで、圧電体膜の全体の厚さを720nm〜5000nmの範囲内に限定したのは、720nm未満では圧電体素子としての使用が難しく、5000nmを超えると圧電体膜の生産性が低下するからである。
このように構成された圧電体膜の製造方法を説明する。
[下地基板の作製](圧電体膜がPZT膜であるとき)
基板として、シリコン基板、ステンレス鋼基板、アルミナ基板等を用意する。シリコン基板を用いる場合は、鉛の拡散を抑制するために、熱酸化により酸化膜を形成することが望ましい。次いで、基板上にスパッタリング法によりチタン膜を形成した後に、急速加熱処理(RTA)等にて酸素雰囲気中で700〜800℃に1〜3分間保持して焼成することにより酸化チタン膜を形成する。ここで、チタンは必ずしも酸化する必要はなく、チタン単体としても密着層として使用できる。次に、この酸化チタン膜上若しくはチタン膜上にスパッタリング法により(111)配向したPt下部電極を形成する。更に、この(111)配向したPt下部電極上に(100)配向した配向制御層を形成する。これにより基板が作製される。
なお、上記配向制御層は次の方法でPt下部電極上に作製することが好ましい。先ず、反応容器にZrテトラn−ブトキシド(Z源)と、Tiイソプロポキシド(Ti源)と、アセチルアセトン(安定化剤)とを入れて、窒素雰囲気中で還流する。次いで、この化合物に酢酸鉛3水和物(Pb源)を添加するとともに、プロピレングリコール(溶剤)を添加し、窒素雰囲気下で還流し、減圧蒸留して副生成物を除去した後に、この溶液にプロピレングリコールを添加して濃度を調節し、希釈アルコールを更に添加することで、所定の濃度に調整された、酸化物換算で各金属比がPb/Zr/Ti=110/52/48の金属化合物を含有する配向制御層用組成物が得られる。次に、この配向制御層用組成物をPt下部電極上に滴下しながら、スピンコートすることにより、配向制御層用組成物をPt下部電極上に塗布する。続いて、ホットプレート等により、大気雰囲気中で285〜315℃の温度に3〜5分間保持する乾燥・仮焼きを行う。更に、上記配向制御層用組成物の塗布及び乾燥・仮焼きの工程を1回行った後、酸素雰囲気中で7〜13℃/秒の昇温速度で650〜750℃まで加熱し、この温度に1〜3分間保持する焼成を行って結晶化させることにより、所定の厚さの配向制御層を得ることができる。
[圧電体膜の作製]
先ず、下地基板上に、1種類のゾルゲル液(金属組成比、Pb/Zr/Ti=115/52/48)を滴下しながら、スピンコート等により、下地基板上にゾルゲル液を塗布して塗膜付き基板を作製する。次に、この塗膜付き基板を275〜325℃のホットプレート等で2〜5分間仮焼きした後、急速加熱処理(RTA)等により酸素雰囲気下で525〜550℃の温度に0.5〜3分間保持する中間熱処理を行って、中間熱処理膜付き基板を作製する。更に、上記ゾルゲル液のスピンコート、仮焼き及び中間熱処理の操作を複数回繰返した後に、急速加熱処理(RTA)等により酸素雰囲気下で650〜750℃の温度に1〜5分間保持する焼成を行うことにより、圧電体膜付き基板が得られる。ここで、焼成温度を650〜750℃の範囲内に限定したのは、650℃未満では結晶化が不十分であり十分な圧電特性が得られず、750℃を超えると下部電極への鉛の拡散が進行し下部電極や酸化膜が劣化してしまうからである。また、焼成時間を1〜5分の範囲内に限定したのは、1分未満では結晶化が十分進行せずリーク電流密度が高くなったり、或いは十分な圧電特性が得られず、5分を超えると生産性が低下してしまうからである。なお、要求される圧電体膜の膜厚に応じて、上記スピンコート等による塗膜の形成、仮焼き及び中間熱処理を複数回繰返した後に焼成するという工程を複数回繰返す。
ここで、仮焼き温度を275〜325℃の範囲内に限定したのは、275℃未満ではゾルゲル液に含まれている前駆物質の熱分解が十分に進行せず炭素が膜中に多く残存してボイドが発生し易くなり、325℃を超えると圧電体膜の内部の炭素が圧電体膜外に排出される前に圧電体膜表面が変質してしまい塗布膜を厚くしたときにボイドが生成し易くなるからである。また、仮焼き時間を2〜5分の範囲内に限定したのは、2分未満ではゾルゲル液に含まれている前駆物質の熱分解が十分でなく残留炭素によりボイドが発生し易くなり、5分を超えると生産性が低下してしまうからである。また、中間熱処理温度を525〜550℃の範囲内に限定したのは、525℃未満では圧電体膜にクラックや剥離が発生したり、X線回折により測定される(100)面に由来する回折ピークの半値幅や(200)面に由来する回折ピークの半値幅が大きくなって圧電特性が低下し、550℃を超えるとX線回折により測定される(100)面に由来する回折ピークの半値幅や(200)面に由来する回折ピークの半値幅が大きくなって圧電特性が低下してしまうからである。更に、中間熱処理時間を0.5〜3分の範囲内に限定したのは、0.5分未満では圧電体膜の緻密化が十分に進行せずクラックやボイドが発生してしまい、3分を超えると生産性が低下してしまうからである。
このように製造された圧電体膜では、結晶性及び配向性が極めて高く、X線回折により測定される所定の結晶面に由来する回折ピークの半値幅が小さくなり、圧電体膜の膜厚方向の組成ムラが小さいので、圧電特性を向上できる。即ち、1種類のゾルゲル液を用いることにより、圧電体膜の組成ムラを少なくすることができ、結果として圧電特性を向上できる。また、圧電体膜の結晶化温度に近い温度(圧電体膜がPZT膜である場合、525〜550℃)で中間熱処理を行うので、焼成限界膜厚を向上することができる。これにより、従来、焼成毎の膜厚が200〜300nm程度であったのに対し、本発明では、焼成毎の膜厚が最大1000nmまで増大できる。これにより、圧電体膜の膜厚方向の組成傾斜が小さくなり、圧電特性が向上する。例えば、圧電体膜がPZT膜である場合、膜厚方向のZr/Tiの組成傾斜が小さくなり、圧電特性が向上する。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
[下地基板の作製]
基板として、4インチのシリコン基板を用意した。先ず、このシリコン基板の表面に熱酸化により500nmの酸化膜を形成した。次いで、酸化膜上にスパッタリング法により20nmの厚さのチタン膜を形成した後に、急速加熱処理(RTA)にて酸素雰囲気中で700℃に1分間保持して焼成することにより酸化チタン膜を形成した。次に、この酸化チタン膜上にスパッタリング法により(111)配向した厚さ100nmのPt下部電極を形成した。更に、この(111)配向したPt下部電極上に(100)配向した厚さ60nmの配向制御層を形成した。この基板を下地基板とした。
なお、上記配向制御層を次の方法でPt下部電極上に作製した。先ず、反応容器にZrテトラn−ブトキシド(Z源)と、Tiイソプロポキシド(Ti源)と、アセチルアセトン(安定化剤)とを入れて、窒素雰囲気中で還流した。次いで、この化合物に酢酸鉛3水和物(Pb源)を添加するとともに、プロピレングリコール(溶剤)を添加し、窒素雰囲気下で還流し、減圧蒸留して副生成物を除去した後に、この溶液にプロピレングリコールを添加して濃度を調節し、希釈アルコールを更に添加することで、12質量%の濃度に調整された、酸化物換算で各金属比がPb/Zr/Ti=110/52/48の金属化合物を含有する配向制御層用組成物を得た。次に、この配向制御層用組成物をPt下部電極上に滴下しながら、500rpmで3秒間、その後3000rpmで15秒間スピンコートすることにより、配向制御層用組成物をPt下部電極上に塗布した。続いて、ホットプレートを用い、大気雰囲気中で150℃の温度に5分間保持する乾燥・仮焼きを行った。更に、上記配向制御層用組成物の塗布及び乾燥・仮焼きの工程を1回行った後、酸素雰囲気中で10℃/秒の昇温速度で700℃まで加熱し、この温度に1分間保持する焼成を行って結晶化させることにより、厚さ60nmの配向制御層を得た。
[圧電体膜の作製]
先ず、下地基板上に、ゾルゲル液(三菱マテリアル社製:25質量%PZT−N液(金属組成比、Pb/Zr/Ti=115/52/48))を1秒毎に1滴(500μL)ずつ滴下しながら、3500rpmの回転速度で30秒間スピンコートすることにより、下地基板上にゾルゲル液を塗布して塗膜付き基板を作製した。次に、この塗膜付き基板を285℃のホットプレートで3分間仮焼きした後、急速加熱処理(RTA)により酸素雰囲気下で575℃の温度に1分間保持する中間熱処理を行って、中間熱処理膜付き基板を作製した。更に、上記ゾルゲル液のスピンコート、仮焼き及び中間熱処理の操作を4回繰返した後に、急速加熱処理(RTA)により酸素雰囲気下で700℃の温度に1分間保持する焼成を行って、圧電体膜付き基板を得た。この圧電体膜付き基板を実施例1とした。
<実施例2〜10>
表1に示すように、スピンコート条件、中間熱処理の温度、積層回数/焼成、又は焼成回数を変量したこと以外は、実施例1と同様にして、PZT膜をそれぞれ作製した。これらのPZT膜を実施例2〜10とした。なお、表1において、ゾルゲル液の「25%PZT」とは、三菱マテリアル社製の25質量%PZT−N液(金属組成比、Pb/Zr/Ti=115/52/48)である。また、表1において、ゾルゲル液の「25%PLZT」とは、三菱マテリアル社製の25質量%PLZT−N液(金属組成比、Pb/La/Zr/Ti=115/2/52/48)である。また、表1において、ゾルゲル液の「25%PNbZT」とは、三菱マテリアル社製の25質量%PNbZT−N液(金属組成比、Pb/Nb/Zr/Ti=115/2/52/48)である。更に、表1において、「積層回数/焼成」とは、焼成毎の中間熱処理膜の積層回数である。
<比較例1〜12>
表1に示すように、中間熱処理の温度を375℃から700℃まで変量したこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ1000nmのPZT膜を得た。これらのPZT膜を比較例1〜12とした。
Figure 0006787192
<比較試験1及び評価>
実施例1〜10及び比較例1〜12の圧電体膜の膜厚、クラックの有無、剥離の有無、結晶性、及び電圧定数を測定した。
(1) 圧電体膜の膜厚
圧電体膜の全体の膜厚はSEM観察により計測した。また、圧電体膜の焼成毎の膜厚は全体の膜厚を焼成回数で除して求めた。
(2) 圧電体膜のクラックの有無及び剥離の有無
圧電体膜のクラックの有無及び剥離の有無は目視により評価した。
(3) 圧電体膜の結晶性
圧電体膜の結晶性は、X線回折(XRD)装置(スペクトリス社製、型式:EMPYREAN)を用いた集中法により、圧電体膜のXRD分析を行って評価した。具体的には、PZT膜の(100)面に由来する回折ピークの半値幅と、PZT膜の(200)面に由来する回折ピークの半値幅を測定し、これらの半値幅により圧電体膜の結晶性を評価した。なお、特性X線としてCuKα線を用いた。
(4) 圧電体膜の圧電定数
実施例1〜10及び比較例1〜12の圧電体膜付き基板の表面にスパッタリング法によりPt上部電極を形成した後、エッチングによりPt下部電極を露出させ、更に酸素雰囲気中で1分間熱処理することにより、実施例1〜10及び比較例1〜12の評価試料をそれぞれ作製した。電極は厚さ150nm、面積3mm2の円形に形成した。圧電体膜の圧電定数d33は、これらの圧電体素子に対し、DBLI system(aix ACCT社製)を用いて測定した。DBLI systemにより、上記圧電体膜に±25V(周波数:1kHz)の交流電圧を印加したときの33方向の電界当たりの機械的変位割合を圧電定数d33として測定した。これらの結果を表2及び図1〜図3に示す。
Figure 0006787192
表2から明らかなように、中間熱処理温度が375〜500℃と低い比較例1〜6では、圧電体膜にクラック及び剥離が発生したのに対し、中間熱処理温度が525〜550℃と適切である実施例1〜10、及び中間熱処理温度が575〜700℃と高い比較例7〜12では、圧電体膜にクラック及び剥離は発生しなかった。
表2及び図1〜図3から明らかなように、中間熱処理温度が375〜500℃と低い比較例1〜6の圧電体膜、及び中間熱処理温度が575〜700℃と高い比較例7〜12の圧電体膜では、(100)面に由来する回折ピークの半値幅が0.155〜0.199度と大きくなったのに対し、中間熱処理温度が525〜550℃と適切である実施例1〜10の圧電体膜では、(100)面に由来する回折ピークの半値幅が0.128〜0.150度と小さくなった。なお、実施例1の圧電体膜は比較例1の圧電体膜と比較して、(100)面に由来する回折ピークの半値幅が小さいことは、図2から明らかである。また、中間熱処理温度が375〜500℃と低い比較例1〜6の圧電体膜、及び中間熱処理温度が575〜700℃と高い比較例7〜12の圧電体膜では、(200)面に由来する回折ピークの半値幅が0.412〜0.599度と大きくなったのに対し、中間熱処理温度が525〜550℃と適切である実施例1〜10の圧電体膜では、(200)面に由来する回折ピークの半値幅が0.345〜0.396度と小さくなった。なお、実施例1の圧電体膜は比較例1の圧電体膜と比較して、(200)面に由来する回折ピークの半値幅が小さいことは、図3から明らかである。
更に、中間熱処理温度が375〜500℃と低い比較例1〜6の圧電体膜、及び中間熱処理温度が575〜700℃と高い比較例7〜12の圧電体膜では、圧電定数d33が142〜192pm/Vと低かったのに対し、中間熱処理温度が525〜550℃と適切である実施例1〜10の圧電体膜では、圧電定数d33が210〜282pm/Vと高くなった。なお、比較例1〜12では、焼成毎の膜厚を1000nmと大きくすると、クラックや剥離が発生するか、半値幅が大きくなるか、或いは圧電定数d33が小さくなったけれども、実施例1、2及び7〜10では、焼成毎の膜厚を1000nmと大きくしても、クラックや剥離が発生せず、半値幅が小さくなり、かつ圧電定数d33が大きくなった。
本発明の圧電体膜は、振動発電素子、センサ、アクチュエータ、インクジェットヘッド、オートフォーカス等に利用できる。

Claims (3)

  1. 基板上に形成されPZT系のペロブスカイト構造を有する圧電体膜であって、
    X線回折により測定される(100)面に由来する回折ピークの半値幅が0.128度〜0.150度であり、(200)面に由来する回折ピークの半値幅が0.345度〜0.396度であり、
    Zr/Tiの濃度比を膜厚方向に分析したときに、前記Zr/Tiの濃度比が前記基板から離れるに従って次第に増大する層を1又は2以上有することを特徴とする圧電体膜。
  2. 焼成回数が1回であるとき、全体の膜厚が720nm〜1000nmであり、焼成回数が2回以上であるとき、焼成界面毎の膜厚が720nm〜1000nmである請求項1記載の圧電体膜。
  3. Zr/Tiの組成が傾斜する各層の厚さが720nm〜1000nmである請求項1記載の圧電体膜。
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