JP2008074109A - インクジェット式記録ヘッド - Google Patents

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Abstract

【課題】圧電体薄膜素子を形成する過程において、圧電体薄膜中の酸素濃度の低下を防ぐことにより、圧電体特性に優れた圧電体薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】多結晶体からなる圧電体膜15を挟んで上電極16と下電極14とを形成し、この下電極上に前記圧電体を形成後熱処理する圧電体薄膜の製造方法であって、前記下電極形成後圧電体薄膜形成前に酸素雰囲気下で熱処理する。
【選択図】図1

Description

本発明は圧電体薄膜素子を備えたインクジェット式記録ヘッドに関するものである。
このアクチュエータは電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換し、またはその逆を行うものであって、圧力センサ、温度センサ、インクジェット式記録ヘッド等に用いられる。インクジェット式記録ヘッドでは、圧電体薄膜素子をインク吐出の駆動源となる振動子として用いている。
この圧電体薄膜素子は、一般的に、多結晶体からなる圧電体薄膜と、この圧電体薄膜を挟んで配置される上電極及び下電極と、を備えた構造を有している。この圧電体薄膜の組成は、一般的に、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」という)を主成分とする二成分系、または、この二成分系のPZTに第三成分を加えた三成分系とされている。
これらの組成の圧電体薄膜は、例えば、スパッタ法、ゾルゲル法、レーザアブレーション法又はCVD法等により形成することができる。
これらの例として、二成分系PZTを用いた強誘電体が、"Applied Physics Letters, 1991, Vol.58, No.11, pages 1161-1163"(非特許文献1)に記載されている。また、特開平6−40035号公報(特許文献1)や、"Journal of The American Ceramic Society, 1973, Vol.56, No.2, pages 91-96"(非特許文献2)には、二成分系PZTを用いた圧電体が開示されている。
前記圧電体薄膜素子を、例えばインクジェット式記録ヘッドに適用する場合、0.4μm〜20μm程度の膜厚を備えた圧電体薄膜(PZT膜)が望まれる。さらに、この圧電体薄膜には高い圧電ひずみ定数が要求されるので、通常、700℃以上の温度で熱処理を行い、この圧電体薄膜の結晶粒を成長させることが必要であるとされている。
しかしながら、本発明者は、この熱処理によって圧電体薄膜中の酸素濃度が低下して圧電ひずみ定数を劣化させる、との知見を得るに到った。そこで、本発明者がこの理由について鋭意検討したところ、次のような見解を得た。すなわち、圧電体薄膜素子の下電極となる白金は、酸化触媒として利用されるものであることから明らかなように、酸素を吸着する性質に富んでいる。
したがって、下電極は、PZTが焼結される際にPZT中の酸素をトラップし、また、下電極中に拡散してきたチタンと結合させることになる。
そこで、本発明はこのような課題を解決するために、圧電体薄膜素子を形成する過程において、圧電体薄膜中の酸素濃度の低下を防ぐことにより、圧電体特性に優れた圧電体薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、このような圧電体薄膜を提供することである。本発明のさらに他の目的は、この圧電体薄膜を備えたアクチュエータ、特にインクジェット式記録ヘッドを提供することである。
この目的を達成するために、本発明は、多結晶体からなる圧電体膜を挟んで上電極と下電極とを形成するものであって、この下電極上に前記圧電体を形成後熱処理する圧電体薄膜の製造方法において、前記下電極形成後圧電体薄膜形成前に酸素雰囲気下で熱処理することを特徴とする。前記酸素雰囲気は、好ましくは、(体積比で)酸素分圧が60%以上の範囲である。酸素分圧が100%未満の場合、他のガスは、例えば、窒素、或いはアルゴンである。
さらに、本発明に係わる圧電体薄膜素子は、多結晶体からなる圧電体膜と、該圧電体膜を挟んで配置される上電極と下電極と、を備えた圧電体薄膜素子において、前記下電極上に圧電体薄膜を形成する前に、前記下電極を酸素存在下で熱処理をして構成される。
また、本発明に係わる他の圧電体薄膜素子は、多結晶体からなる圧電体膜と、該圧電体膜を挟んで配置される上電極と下電極と、を備えた圧電体薄膜素子ものにおいて、前記下電極近傍の圧電体薄膜中の酸素濃度と圧電体薄膜の酸素濃度比(r)が0.9以上1.2以下の範囲にあることを特徴とする。ここで、酸素濃度(r)は次のように表示される。近傍とは、例えば、10×10-9m以内をいう。
r=(圧電体薄膜中の酸素濃度/下電極近傍の圧電体膜中の酸素濃度)
さらに、本発明は、前記圧電体薄膜素子を機械的応力発生手段として利用するアクチュエータであることを特徴とする。さらに、本発明は、前記アクチュエータを備えたインクジェット式記録ヘッドであることを特徴とする。
次に、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本実施の形態では、圧電体膜としてPZT膜を形成した場合について説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明に係わる圧電体素子の構成を示す断面図である。この圧電体薄膜素子は、シリコン基板11と、シリコン基板11上に形成されたシリコン酸化膜12と、シリコン酸化膜12上形成されたチタン膜(Ti/TiO2/Ti)13と、下電極(Ti/Pt)14上に形成されたPZT膜15と、PZT膜15上に形成された上電極16を、備えて構成されている。
前記下電極14は、既述のように、製膜時にはチタン及び酸化チタンの層と組み合わされたプラチナから形成されている。下電極14をこのような構成にすることで、下電極14の格子定数とPZT膜15の格子定数が近くできるという理由から、後に形成するPZT膜15との密着性を向上させることができる。
シリコン酸化膜12上に(Ti/TiO2/Ti)からなるチタン層を形成するのは、シリコン酸化膜と白金層との間の密着性を高めるためである。さらに、白金上にTiを形成するのは、圧電薄膜を後述のように柱状構造にするためである。
本発明者らは、圧電体薄膜の結晶構造を柱状構造にすることにより、圧電体特性を向上できることをかねてより提案している。チタンを白金上に、島状に形成することにより圧電体薄膜の結晶構造を圧電体特性を高めるような構造に調整できる。
なお、PZT製膜後に行われるアニールによって、チタン膜の(Ti/TiO2/Ti)は、Pt内あるいはSiO2内に拡散し下電極の上に特別な層を形成するものとしては、走査型電子顕微鏡によっても観測されない。
PZT膜15は多結晶体からなり、この結晶体の粒界が、図3,図4に示すように、上下電極14及び16の平面に対して略垂直方向に存在している。すなわち、PZTの結晶粒が柱状構造を成している。
このPZT膜15は、二成分系を主成分とするもの、この二成分系に第三成分を加えた三成分系を主成分とするものが好適に用いられる。二成分系PZTの好ましい具体例としては、
Pb(ZrXTi1-X)O3+YPbO
(ここで、0.40≦X≦0.6, 0≦Y≦0.3)
の化学式で表わされる組成を有するものが挙げられる。
また、三成分系PZTの好ましい具体例としては、前記二成分系のPZTに、例えば、第三成分を添加した以下に示す化学式で表わされる組成を有するものが挙げられる。
PbTiaZrb(Agh)c3+ePbO+(fMgO)n(ここで、Aは、Mg,Co,Zn,Cd,Mn及びNiからなる群から選択される2価の金属またはSb,Y,Fe,Sc,Yb,Lu,In及びCrからなる群から選択される3価の金属を表す。また、Bは、Nb,Ta及びSbからなる群から選択される5価の金属、またはW及びTeからなる群から選択される6価の金属を表す。また、a+b+c=1,0.35≦a≦0.55,0.25≦b≦0.55,0.1≦c≦0.4,0≦e≦0.3,0≦f≦0.15c,g=f=1/2,n=0であるが、但し、Aが3価の金属であり、かつBが6価の金属でなく、また、Aが2価の金属であり、かつBが5価の金属である場合、gは1/3であり、hは2/3であり、また、AはMg、BがNbの場合に限り、nは1を表す。)
三成分系のより好ましい具体例としては、マグネシウムニオブ酸鉛、すなわち、AがMgであり、BがNbであり、gが1/3、hが2/3であるものが挙げられる。
さらに、これら二成分系PZT及び三成分系PZTのいずれであっても、その圧電特性を改善するために、微量のBa,Sr,La,Nd,Nb,Ta,Sb,Bi,W,Mo及びCa等が添加されてもよい。とりわけ、三成分系では、0.10モル%以下のSr,Baの添加が圧電特性の改善に一層好ましい。また、三成分系では、0.10モル%以下のMn,Niの添加が、その焼結性を改善するので好ましい。
圧電体薄膜15を形成する過程で、既述のような構造を得るために、所定の熱処理が行われる。本発明者らが検討したところによれば、この熱処理の際にPZT中の酸素が下電極中に拡散する。後述するように、下電極をスパッタリングによって形成すると電極がPZTと同様に柱状構造を持つことを確認している。この結晶構造では、結晶粒界に酸素がトラップされる傾向が強く、また、白金内に拡散したチタンがこの結晶粒界において酸化物を形成する。
そこで、本発明者は、以下に示すように、PZTをアニールする前に下電極を酸素存在下で熱処理を形成することを提案した。図4は、次に述べる方法によって形成された圧電体薄膜素子の幅方向の断面を示すものであり、加速電圧15kV、引出し電圧4.0kVの条件下で得られた走査型顕微鏡写真である。
これによれば、下電極及び圧電体膜ともほぼ既述した柱状な結晶構造を持っていることが分かる。下電極中の各結晶粒界に圧電体薄膜中の酸素がトラップされる。また、下電極の酸素雰囲気下での熱処理によって、白金内に拡散した酸素とTiとの化合物が、下電極中で等分散した丸い粒として現われている。
次に、本発明の一実施形態に係わる圧電体薄膜素子の製造方法について図面を参照して説明する。
図5(a)ないし図5(c)は、前述した圧電体薄膜素子の製造工程を示す断面図である。図5(a)に示す工程では、シリコン基板11に熱酸化を行い、シリコン基板11上に、膜厚が0.3〜1.2μm程度のシリコン酸化膜12を形成する。次に、スパッタ法により、シリコン酸化膜12上に、全体としての膜厚が、0.01μm乃至0.04μm程度のTi/TiO2/Tiからなるチタン膜13を形成する。次いで、スパッタ法により、チタン膜13上に、プラチナからなる下電極14を、0.2〜0.8μm程度の膜厚で形成する。
この時のスパッタ条件は次のとおりである。装置としては、直流スパッタ装置を用いた。スパッタ圧力条件は、0.4Paである。電圧条件は、Ptの場合には1kwであり、Tiの場合は200wであり、TiO2の場合は300wである。雰囲気ガスの条件は、PtとTiの場合はアルゴン中であり、TiO2の場合はO2/Ar=10/90である。
次いで、この製膜途中の素子を拡散炉に入れて、酸素雰囲気(酸素分圧60%以上)下、400乃至600℃で30乃至60分間加熱する。又は、RTA(Rapid Thermal Annealing)炉にこの素子を入れ、酸素雰囲気中(流量5L/min)で、温度400乃至600℃で、時間が60乃至300秒加熱する。
次に、図5(b)に示す工程のように、図5(a)に示す工程で形成した下電極14上に、チタンをスパッタ法により島状に形成する。このチタンを、40乃至60オングストロームの膜厚にすることにより、圧電体薄膜の結晶構造を100面に強く配向させることができる。
次いで、この上にこのPZT膜15を製膜する。これは例えば、ゾルゲル法によって行う。ここでは、ゾルゲル法を用いてPZTを8回重ね塗りの多層コートによって製造することとする。このゾルゲル法は次のとおりである。
この製造方法は、PZT膜15を形成可能な金属成分の水酸化物の水和錯体、すなわちゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを加熱焼成して無機酸化物を調整する方法である。この製造方法は次の各工程からなる。
a.ゾル組成物の成膜工程
本実施の形態において、PZT膜を構成する金属成分のゾルは、PZT膜を形成可能な金属のアルコキシドまたはアセテートを、例えば酸で加水分解して調整することができる。本発明においては、ゾル中の金属の組成を制御することで、前述したPZT膜の組成を得ることができる。すなわち、チタン、ジルコニウム、鉛、さらには他の金属成分のそれぞれのアルコキシドまたはアセテートを出発原料とする。
ここでは、最終的にPZT膜(圧電体薄膜)とされるまでに、PZT膜を構成する金属成分の組成がほぼ維持されるという利点がある。すなわち、焼成およびアニール処理中に金属成分、とりわけ鉛成分の蒸発等による変動が極めて少なく、したがって、これらの出発原料における金属成分の組成は、最終的に得られるPZT膜中の金属組成と一致することになる。つまり、ゲルの組成は生成しようとする圧電体膜(本実施の形態ではPZT膜)に応じて決定される。
また、本実施の形態では、前述した鉛成分が過剰となるPZT膜を得るため、ゾルにおいて鉛成分を化学量論から要求される量よりも20モル%まで好ましくは15モル%まで過剰にすることが好ましい。
本実施の形態では、このゾルは有機高分子化合物と混合された組成物として用いられるのが好ましい。この有機高分子化合物は、乾燥及び焼成時に薄膜の残留応力を吸収して、この薄膜にクラックが生じることを有効に防止する。具体的には、この有機高分子を含むゲルを用いると、後述するゲル化された薄膜に細孔が生じる。この細孔が、さらに後述するプレアニール及びアニール工程において薄膜の残留応力を吸収するものと考えられる。ここで、好ましく用いられる有機高分子化合物としては、ポリ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリアミク酸、アセチルセルロース及びその誘導体、ならびにそれらの共重合体が挙げられる。
なお、本実施の形態では、ポリ酢酸ビニルを添加することで、0.05μm程度の細孔を多数有する多孔質ゲル薄膜を、ヒドロキシプロピルセルロースを添加することで、1μm以下の大きさでかつ広い分布を持った多孔質ゲル薄膜を形成することができる。
本実施の形態では、ポリエチレングリコールとして、平均分子量285〜420程度のものが好適に用いられる。また、ポリプロピレングリコールとしては、平均分子量300〜800程度のものが好適に用いられる。
本実施の形態に係る製造方法では、先ず、このゾル組成物をPZT膜15を形成しようとする下電極14(図5(b)参照)上に塗布する。この時の塗布方法は特に限定されず、通常行われている方法、例えば、スピンコート、ディップコート、ロールコート、バーコート等によって行うことができる。また、フレキソ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等によって塗布することもできる。
また、前記塗布により形成される膜の厚さは、それ以降の工程を考慮すると、後述するゲル化工程において形成される多孔質ゲル薄膜の厚さが0.3μm以下となるように制御することが望ましく、より好ましくは0.2μm程度とすることがよい。
次に、塗布されたゾル組成物を自然乾燥、または200℃以下の温度で加熱する。ここで、この乾燥(加熱)された膜上に、前記ゾル組成物をさらに塗布して膜厚を厚くすることもできる。この場合は、下地となる膜は、80℃以上の温度で乾燥されることが望ましい。
b.ゾル組成物からなる膜のゲル化工程
次に、前述したゾル組成物の成膜工程で得た膜を焼成し、残留有機物を実質的に含まない非晶質の金属酸化物からなる多孔質ゲル薄膜を形成する。
焼成は、ゾル組成物の膜をゲル化し、かつ膜中から有機物を除去するのに十分な温度で、十分な時間加熱することによって行う。本実施の形態では、焼成温度を300〜450℃にすることが好ましく、350〜400℃にすることがさらに好ましい。
焼成時間は、温度及び使用する炉の形式によって変化するが、例えば、脱脂炉を用いた場合には、10〜120分程度が好ましく、15〜60分程度とすることがより好ましい。また、ホットプレートを用いた場合には、1〜60分程度が好ましく、5〜30分程度とすることがさらに好ましい。
以上の工程によって、下電極14上に多孔質ゲル薄膜が形成された。
c.プレアニール工程
次に、前述した工程bで得た多孔質ゲル薄膜を加熱焼成し、この膜を結晶質の金属酸化膜からなる膜に変換する。
焼成は、多孔質ゲル薄膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換するために必要な温度で行うが、結晶中にペロブスカイト型結晶が大部分を占めるまで行う必要はなく、ゲル薄膜が均一に結晶化した時点で終了させればよい。本実施の形態では、焼成温度として400〜800℃の範囲が好ましく、550〜750℃の範囲で焼成することが、より好ましい。焼成時間は、焼成温度及び使用する炉の形式によって変化するが、例えばアニール炉を使用する場合は、0.1〜5時間程度が好ましく、0.5〜2時間程度がより好ましい。また、RTA(Rapid Thermal Annealing)炉を用いた場合、0.1〜10分程度が好ましく、1〜5分程度がより好ましい。
また、本実施の形態では、このプレアニール工程を二段階に分けて実施することができる。具体的には、先ず、第一段階として、400〜600℃の範囲の温度でアニールを行い、次に、第二段階として、600〜800℃の範囲の温度でアニールを行うことができる。また、さらに好ましくは、第一段階として、450〜550℃の範囲の温度でアニールを行い、次に、第二段階として、600〜750℃の範囲の温度でアニールを行うことができる。
この工程によって、多孔質ゲル薄膜を結晶質の金属酸化膜からなる膜に変換させた。
d.繰り返し工程
次に、以後、前述した工程a、bをさらに3回繰り返し、多孔質ゲル薄膜を4層積層した後、工程Cのプレアニール工程により金属酸化膜からなる膜変換する。次いで、島状のチタンをPZT上に既述の方法によって島状に形成し、既述の工程a、bをさらに4回繰り返す。
この繰り返し工程の結果得られる積層膜の積層数は、最終的なPZT膜15の膜厚を考慮して適宜決定すればよい。ここでは、一層当たり0.15μmであることが良い。なお、後述する次工程(工程e)においてクラック等が発生しない膜厚であることが好ましいことは言うまでもない。
この繰り返し工程では、先に形成した膜上に新たに多孔質ゲル薄膜を形成し、その後のプレアニールの結果、新たに形成された多孔質ゲル薄膜は、先に形成された膜と実質的に一体化された膜となる。
ここで、実質的に一体化された膜とは、積層された層間に不連続層がない場合のみならず、本実施の形態に係る最終的に得られるPZT膜15の場合と異なり、積層された層間に不連続層があってもよい。そして、さらに工程a、b及びcを繰り返す場合には、さらに新たな多孔質ゲル薄膜が形成され、その後のプレアニールの結果、この新たな多孔質ゲル薄膜は、前記で得た結晶質の積層膜と実質的に一体化された膜となる。
e.ペロブスカイト型結晶成長工程
次に、前記工程dで得た膜に、焼成温度600〜1200℃、さらに好ましくは800〜1000℃の範囲でアニールを行う。焼成時間は、焼成温度や、使用する炉の形式によって変化するが、例えば、アニール炉を用いた場合、0.1〜5時間程度が好ましく、0.5〜2時間程度がより好ましい。また、RTA炉を用いた場合には、0.1〜10分程度が好ましく、0.5〜3分程度がより好ましい。
また、本実施の形態では、このペロブスカイト型結晶成長工程、すなわち、アニールを二段階に分けて実施することができる。具体的には、第一段階では、600〜800℃程度の温度でアニールを行い、第二段階では、800〜1000℃の温度でアニールを行う。また、さらに好ましくは、第一段階では、600〜750℃程度の温度でアニールを行い、第二段階では、800〜950℃の温度でアニールを行うことができる。
以上の操作によって、下電極14上に、チタンを核として成長した柱状の多結晶体からなる、膜厚が1.2μmのPZTが形成される。
次に、下電極形成後圧電体薄膜を形成するに先だって、既述の熱処理を行った場合(本発明法)と、それを行わなかった以外は全て同一条件にした場合(比較法)との圧電特性の比較について示す。
圧電定数d31 出力係数g31 誘電率
本発明法 150(pC/N) 11.2 1500
従来法 120(pC/N) 9.0 1500
このように、本発明法によれば、いずれも従来法に比較して圧電特性に優れた圧電体薄膜素子を得ることができる。本発明者が、本発明法によって得られた圧電体薄膜素子において、圧電体薄膜中の酸素濃度と下電極近傍10nm付近の圧電体膜中の酸素濃度を比較したところ、下電極近傍の圧電体膜中の酸素濃度が圧電体薄膜中のそれに比較して大きく、前記比(r)が0.95であったことを確認した。また、下電極近傍の圧電体膜中の酸素濃度は、35原子%であった。
本発明者が鋭意検討したところ、両者の酸素濃度の比(r)は0.9乃至1.2の範囲であることが好ましく、また、下電極近傍中の酸素濃度は、30乃至60原子%の範囲であることが好ましい。これに対して従来法のこれらの特性は、比(r)が0.67程度であって、本発明とは異なりPZT膜中の酸素濃度の低下が顕著に観察された。なお、これらの酸素濃度の測定は、次のようにして行った。
圧電体薄膜を低角イオンミリング装置にて薄膜断片化し、これをTEM(透過型電子顕微鏡)にて組成分析した。用いた装置、低角イオンミリングはジャパン フィジテック アンド ハングレイ リンダ社製であり、TEMは、フィリップ社製のFEG−CM200TEMである。尚、TEMによるXEDX観察の際の印加電圧は200kVである。
測定結果は、4点の平均を取ったデータであり次のとおりである。
PZT膜中 下電極近傍
本発明 33.8 35.3
従来 26.4 39.2
(データの単位は原子%である。)
本発明によれば、圧電定数(d31)を20〜30%、従来のものに比べて向上できる。
以上により図5(b)の工程を終了し、次に図5(c)に示す工程に移行する。この工程では図5(b)に示す工程で得たPZT膜15上に、スパッタ法によって、膜厚が、0.2〜1.0μm程度のアルミニウムからなる上電極16を形成する。
このようにして、図2に示すような圧電体薄膜素子を得た。なお、得られたPZT膜15には、クラックの発生がなく、また断面には積層による層状の不連続面も存在していないことが確認された。
図6は、本発明に係る圧電体薄膜素子を振動子として使用したインクジェット式記録ヘッドの一つのインク溜め部分を示す断面図である。
実施の形態3に係るインクジェット式記録ヘッドは、図6に示すように、インク溜め27が形成されたシリコン基板21と、シリコン基板21上に形成された振動板22と、振動板22上の所望位置に形成された下電極23と、下電極23上であって、インク溜め27に対応した位置に形成された圧電体薄膜24と、圧電体薄膜24上に形成された上電極25と、シリコン基板21の下面に接合された第2の基板26と、を備えて構成されている。
下電極23は、実施の形態2で説明した下電極と同様の構成を有している。また、圧電体薄膜24は、実施の形態1で説明したPZT膜と同様の構成を有している。
このインクジェット式記録ヘッドは、図示しないインク流路を介してインク溜め27にインクが供給される。ここで、下電極23と上電極25とを介して、圧電体膜24に電圧を印加すると、圧電体膜24が変形してインク溜め27内のインクに圧力を加える。この圧力によって、インクが図示しないノズルから吐出され、インクジェット記録を行う。
ここで、このインクジェット式記録ヘッドは、既述の圧電特性に優れた圧電体薄膜素子を振動子として用いているため、大きな圧力でインクを吐出させることができる。
以上説明したように、本発明に係る圧電体薄膜素子の製造方法によれば、圧電体薄膜素子を形成する過程において、圧電体薄膜中の酸素濃度の低下を防ぐことにより、圧電体特性に優れた圧電体薄膜を提供することができる。
また、本発明によれば、圧電体薄膜中の酸素濃度の低下を防ぐことにより、圧電体特性に優れた圧電体薄膜を提供することができる。
さらに、本発明によれば、この圧電体薄膜を備えたアクチュエータ、特にインクジェット式記録ヘッドを提供するができる。
本発明の実施の形態1に係る圧電体薄膜素子の断面図である。 実施の形態1に係る圧電体薄膜素子を構成するPZT膜の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図2に示すPZT膜の平面を示す走査型電子顕微鏡写真である。 本発明の製造工程によって得られた圧電体薄膜素子の断面を示す走査型顕微鏡(SEM)写真である。 (a)ないし(c)は、前述した圧電体薄膜素子の製造工程を示す断面図である。 本発明に係る圧電体薄膜素子を振動子として使用したインクジェット式記録ヘッドの一つのインク溜め部分を示す断面図である。
符号の説明
11,21…シリコン基板、12…シリコン酸化膜、13…チタン酸化膜、14,23…下電極、14B…チタン種結晶、15…PZT膜、16,25…上電極、22…振動板、24…圧電体薄膜、26…基板、27…インク溜り。

Claims (3)

  1. 多結晶体からなる圧電体膜と、該圧電体膜を挟んで配置される上電極と下電極と、からなる圧電体薄膜素子を備え、前記圧電体膜に電圧を印加することで、前記圧電体膜が変形してインク溜め内のインクに圧力を加え、インクをノズルから吐出させるインクジェット式記録ヘッドであって、
    前記下電極近傍の圧電体の酸素濃度と圧電体薄膜の酸素濃度比(r)が0.9以上1.2以下の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
    r=(圧電体薄膜中の酸素濃度/下電極近傍の圧電体膜中の酸素濃度)
  2. 請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記下電極が柱状構造の結晶構造をなし、その結晶粒界には酸素が存在することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
  3. 請求項1又は2に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記下電極は、白金内に拡散した酸素とチタンとの化合物が等分散した丸い粒を備えていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
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