JP6787136B2 - 微細セルロース繊維含有樹脂組成物及びその製造方法 - Google Patents

微細セルロース繊維含有樹脂組成物及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、熱可塑性樹脂に微細セルロース繊維が分散された樹脂組成物及びその製造方法に関する。
従来、熱可塑性樹脂からなる成形品の機械的物性を向上させる目的で、当該熱可塑性樹脂にセルロース繊維を混練した樹脂組成物を成形材料とすることが行われている。特許文献1には、セルロース繊維の高い親水性を利用して、水にセルロース繊維を分散させた状態で、加熱溶融した熱可塑性樹脂に混練する方法が開示されている。また、特許文献2には、セルロース繊維を直接に溶融した第1の熱可塑性樹脂に溶融混練した後、ペレット化し、第2の熱可塑性樹脂のペレットとドライブレンドして、再度溶融混練するという、少なくとも二段階の溶融混練工程を経る方法が開示されている。
特許第5211571号公報 特許第5169188号公報
しかしながら、従来の混練方法で得られたセルロース繊維を含む樹脂組成物からなる成形品の機械的物性は必ずしも満足できるものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた機械的物性を有する成形体を製造可能な微細セルロース繊維含有樹脂組成物、及びその製造方法の提供を課題とする。
[1] 微細セルロース繊維が分散され、繊維分散用樹脂及び水分を含むセルロース分散材料と、主材樹脂と、を溶融混練する工程を有し、前記微細セルロース繊維は、水酸基の少なくとも一部が化学修飾された、平均繊維幅2〜15000nm、且つ、平均繊維長0.1〜2.0mmの微細セルロース繊維であり、前記セルロース分散材料中の前記微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合は5〜60質量%であり、前記セルロース分散材料中の水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で、前記溶融混練を行う、微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
[2] 前記セルロース分散材料において、前記繊維分散用樹脂に対する前記微細セルロース繊維の質量比(前記微細セルロース繊維/前記繊維分散用樹脂)が0.2〜100である、[1]に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
[3] 前記溶融混練する工程の前に、前記セルロース分散材料を予めシート状に形成した後、そのシートを細片化するセルロース分散材料作製工程を有する、[1]又は[2]に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
[4] 前記セルロース分散材料作製工程において、前記微細セルロース繊維と前記繊維分散用樹脂と水を含有する混合分散液を、脱水することによって、前記シート状のセルロース分散材料を形成する、[3]に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
[5] 前記主材樹脂は予めペレット化されたものである、[1]〜[4]の何れか一項に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
[6] 前記微細セルロース繊維はバージンパルプ由来である、[1]〜[5]の何れか一項に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
[7] [1]〜[6]の何れか一項に記載の製造方法によって製造された微細セルロース繊維含有樹脂組成物。
本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物を使用することにより、優れた機械的物性を有する機械部品等の成形体が得られる。
本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法によれば、樹脂中の微細セルロース繊維の分散性を極めて高くすることができる。
<微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法>
本発明の第一実施形態は、微細セルロース繊維が分散され、繊維分散用樹脂及び水分を含むセルロース分散材料と、主材樹脂と、を溶融混練する工程(溶融混練工程)を有する微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法である。本実施形態では、例えば、繊維分散用樹脂に微細セルロース繊維が分散され且つ水分を含むセルロース分散材料と、主材樹脂と、を溶融混練する方法が挙げられる。
前記微細セルロース繊維は、水酸基の少なくとも一部が化学修飾された、平均繊維幅2〜15000nm、且つ、平均繊維長0.1〜2.0mmの微細セルロース繊維である。前記セルロース分散材料中の前記微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合(以下、含水率と呼ぶことがある。)は5〜60質量%である。前記溶融混練は、前記セルロース分散材料中の水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で行う。
本実施形態の製造方法は、上記溶融混練工程の前に、例えば、繊維スラリー調製工程と、樹脂エマルション調製工程と、混合工程と、セルロース分散材料作製工程と、を有していてもよい。以下、各工程を説明する。
(繊維スラリー調製工程)
繊維スラリー調製工程は、微細セルロース繊維が分散媒に分散された繊維スラリーを調製する工程である。分散媒としては、水や有機溶媒などを用いることができ、水であることが好ましい。
微細セルロース繊維は、後述の方法により測定された平均繊維幅が2〜15,000nmである微細なセルロース繊維である。微細セルロース繊維は、I型(平行鎖)の結晶構造のセルロース分子の集合体であることが好ましい。
微細セルロース繊維の平均繊維幅は、2〜12,000nmが好ましく、20〜10,000nmがより好ましく、50〜8,000nmがさらに好ましい。
平均繊維幅が2nm以上であれば、セルロース分子として水に溶解することを抑制できるため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)を容易に発現できる。平均繊維幅が12,000nm以下とすると、通常の製紙用のパルプに含まれる繊維の繊維幅よりも顕著に幅が狭くなり、通常の製紙用パルプとは異なる特性を発揮する。
微細セルロース繊維の平均繊維幅が上記範囲内にある場合、全ての微細セルロース繊維が上記繊維幅の範囲内にある必要はなく、一部の微細セルロース繊維は繊維幅が上限を超えてもよいし、下限未満であってもよい。すなわち、太い繊維や細い繊維が混在してもよい。
平均繊維幅の測定は以下の方法で行う。固形分濃度0.05〜0.1質量%の微細セルロース繊維の水系懸濁液を調製し、前記懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストして電子顕微鏡観察用試料とする。構成する微細セルロース繊維の幅に応じた倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ここで「幅」とは、微細セルロース繊維の端から端までの距離であって短い方の距離を意味する。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、前記直線Xに対し、20本以上の微細セルロース繊維が交差する。
(2)同じ画像内で前記直線と垂直に交差する直線Yを引き、前記直線Yに対し、20本以上の微細セルロース繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する微細セルロース繊維の幅を目視で読み取る。こうして異なる観察画像を3枚以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する微細セルロース繊維の幅を読み取る。このようにして少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。本発明における繊維幅は、このように読み取った繊維幅の平均値である。
微細セルロース繊維の、後述の方法により測定される平均繊維長は0.1mm〜2.0mmである。平均繊維長は0.1mm〜1.0mmが好ましく、0.3mm〜0.6mmがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維長が前記下限値以上であれば、繊維による補強効果により微細セルロース繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させやすくなる。
前記上限値以下であれば、後段の溶融混練工程において、微細セルロース繊維の分散性が良好となる。さらに微細セルロース繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させることができる。
平均繊維長の測定は、長さ加重平均繊維長の測定により求められる。例えば、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS−200形)を用いて測定することができる。なお、平均繊維長の測定は上記の装置に限られず、同等品を使用して測定することもできる。少なくとも120本の微細セルロース繊維の繊維長を測定し、その平均値を平均繊維長とする。
微細セルロース繊維の軸比(長軸/短軸)は20〜10,000の範囲であることが好ましい。軸比が20以上であると、成形物を形成し易くなり、軸比が10,000以下であると、繊維スラリーの粘度が過度に高くなることを防止できる。また、軸比が20〜10,000の範囲であると、後述する混合分散液を抄紙する工程において、濾水性を高く維持することができる。本実施形態における軸比は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS−200形)を用いて求めた平均繊維長測定値と、電子顕微鏡観察により求めた平均繊維幅とにより求めた値である。ここで「長軸」とは、平均繊維長を意味し、「短軸」とは、平均繊維幅を意味する。
微細セルロース繊維は、水酸基の少なくとも一部が化学修飾された微細セルロース繊維である。
微細セルロース繊維の化学修飾の種類は特に限定されず、繊維分散用樹脂及び主材樹脂のうち少なくとも一方に対する相溶性が高くなる化学修飾であることが好ましい。例えば、微細セルロース繊維が有する水酸基の少なくとも一部が、エステル化又はエーテル化されていることが好ましい。これらの化学修飾が施されていると、本発明にかかる微細セルロース繊維含有樹脂組成物における微細セルロース繊維の分散性を一層向上させることができる。
前記エステル化としては、例えば、前記水酸基の水素原子がベンゾイル基、アセチル基によって置換されてエステル結合が形成されることが好ましい。また、アルキル若しくはアルケニル無水コハク酸と微細セルロース繊維の水酸基とが反応してエステル結合が形成されるエステル化も好ましい。ここで、前記無水コハク酸に結合する前記アルキル基の種類としては、例えば、炭素数1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。前記無水コハク酸に結合する前記アルケニル基の種類としては、例えば、炭素数2〜20、好ましくは2〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。
前記エーテル化としては、例えば、前記水酸基の水素原子がメチル基、エチル基又はアセチル基によって置換されてエーテル結合が形成されることが好ましい。
微細セルロース繊維の水酸基をエステル化及びエーテル化する方法は公知であり、例えば、特開2012−214563号公報に記載の方法が挙げられる。
微細セルロース繊維の水酸基の水素原子がエステル基又はエーテル基によって置換された場合の置換度(DS)は、0.05〜2.0が好ましく、0.1〜1.8がより好ましく、0.3〜1.5がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると繊維分散用樹脂及び主材樹脂の少なくとも一方に対する微細セルロース繊維の分散性がより一層高められる。上記範囲の上限値以下であると微細セルロース繊維同士が適度に密着して、製造時の取り扱いがより容易になるとともに、微細セルロース繊維の集合体としてのより優れた強度が得られる。
他方、上記範囲の下限値未満であると十分な効果がえられず、上記範囲の上限値超であるとセルロースの結晶構造が破壊され、強度低下を引き起こすため好ましくない。
セルロース誘導体が有する置換度は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより決定することができる。
セルロース繊維を微細化する方法としては、公知の粉砕機や製紙用叩解機を使用して、湿式粉砕または乾式粉砕によってセルロース繊維を微細化し、セルロース繊維同士を解離する方法が挙げられる。さらに詳細な微細化処理については、例えば、国際公開第2013/137449号の段落0032〜0035に記載されており、当該記載を参照して行うことができる。
セルロース繊維の微細化処理の前または後で、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル)酸化処理などの化学変性処理、オゾン処理、クラフト処理、スルファイト処理、漂白処理、酵素処理を施してもよい。
繊維スラリー調製工程で使用するセルロース繊維としては、例えば、木材から製造されたセルロース繊維、草本類から製造されたセルロース繊維等が挙げられる。
微細セルロース繊維はバージンパルプ由来であることが好ましい。ここで、バージンパルプとは、製紙された履歴を有しないパルプ(セルロース繊維含有材料)を意味する。
一般の製紙においては、叩解や解繊されたセルロース繊維が分散媒に分散された後、抄紙工程を経て乾燥されて紙が形成される。この乾燥時にセルロース繊維同士が脱水結合するため、原料として紙を使用し、個々に分離したセルロース繊維(モノフィラメント)の繊維スラリーを調製することは容易ではない。
一方、バージンパルプ由来の微細セルロース繊維を使用することによって、均質な微細セルロース繊維が分散された繊維スラリーを得ることができる。この結果、本発明にかかる微細セルロース繊維含有樹脂組成物中に、均質な微細セルロース繊維を高い分散度で含有させることができる。
微細セルロース繊維を得る木材系の材料としては、例えば、針葉樹、広葉樹をクラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法などで蒸解した化学パルプ、レファイナー、グラインダーなどの機械力によってパルプ化した機械パルプ、薬品による前処理の後、機械力によってパルプ化したセミケミカルパルプ、溶解パルプ(例えば、前加水分解を行い、クラフト蒸解したパルプ)などが挙げられる。
微細セルロース繊維を得る非木材系の材料としては、例えば、綿、マニラ麻、亜麻、藁、竹、パガス、ケナフなどから上記の方法で得られたパルプが挙げられる。
また、バージンパルプを得る材料として、前述した植物原料の他、衣類(古着)に含まれる木綿を適用することもできる。
微細セルロース繊維の繊維スラリーを調製する方法としては、例えば、前記材料を公知方法で処理して、微細セルロース繊維を含むパルプを得て、公知方法により水酸基を化学修飾した後、分散媒で希釈することにより、繊維スラリーを得る方法が挙げられる。
繊維スラリーの固形分濃度は0.1〜10.0質量%であることが好ましく、0.5〜5.0質量%であることがより好ましい。繊維スラリーの固形分濃度が前記下限値以上であれば、後述するセルロース分散材料作製工程において微細セルロース繊維を充分に含むセルロース分散材料を容易に製造できる。前記上限値以下であれば、繊維スラリーが凝集塊を形成することを防止できる。繊維スラリーには、必要に応じて、サイズ剤や紙力増強剤などの公知の製紙用薬品が含まれてもよい。
(樹脂エマルション調製工程)
樹脂エマルション調製工程は、繊維分散用樹脂を含有する樹脂エマルションを調製する工程である。ここで、樹脂エマルションとは、繊維分散用樹脂粒子が分散媒中に分散して乳化した液体である。樹脂エマルションは、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の何れであってもよい。なお、「樹脂エマルション」は「樹脂エマルジョン」と呼ばれることもある。
繊維分散用樹脂は、後段の溶融混練工程においてセルロース分散材料を主材樹脂に溶融混練する際に、当該主材樹脂に対する微細セルロース繊維の分散性を高める役割を果たすポリマー成分である。
繊維分散用樹脂は、主材樹脂に対して相溶性を有する樹脂であることが好ましく、例えば、オレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等)、ポリウレタン、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これら繊維分散用樹脂は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
より詳細には、繊維分散用樹脂としては、例えば、国際公開第2013/137449号の段落0018〜0024に記載の繊維分散用樹脂が挙げられる。
繊維分散用樹脂は粒子状であることが好ましい。その粒子の平均粒子径は0.001〜10μmの範囲内にあることが好ましく、0.01〜1.0μmの範囲内にあることがより好ましい。
前記平均粒子径は、体積平均粒子径を元にした粒子径分布において、全粒子量に対する積算粒子量が50%となる粒子径(いわゆるメディアン径)を意味する。前記平均粒子径の測定は、レーザ回折式粒度分布測定装置、たとえば(株)島津製作所製レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−2000シリーズを使用して行うことができる。
樹脂エマルションの固形分濃度(不揮発成分)は20〜60質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。樹脂エマルションの固形分濃度が前記下限値以上であれば、後述するセルロース分散材料作製工程において繊維分散用樹脂を充分に含む成形物を容易に製造できる。前記上限値以下であれば、樹脂エマルションの乳化安定性を高めることができる。固形分濃度の測定は、特開2011−46776号公報に記載の方法に準拠して行うことができる。樹脂エマルションのpHは、JIS Z8802「pH測定方法」に準拠して測定することができる。
樹脂エマルションを調製する方法としては、例えば、[1]界面活性剤存在下、繊維分散用樹脂を構成するモノマーを分散媒中で重合して繊維分散用樹脂を合成するとともに乳化する方法(重合法);[2]繊維分散用樹脂と界面活性剤を分散媒中に添加し、撹拌して乳化する方法(後乳化法)が挙げられる。何れの乳化方法も公知であり、例えば、国際公開第2013/137449号の段落0038〜0050に記載された方法が適用できる。
[樹脂繊維の使用]
本発明では、繊維分散用樹脂として、樹脂エマルションに替えて又は樹脂エマルションと共に、樹脂繊維を使用することができる。樹脂繊維は分散媒中に分散されたスラリーであってもよいし、固形分のみであってもよい。分散媒としては、水や有機溶媒などを用いることができ、水であることが好ましい。
樹脂繊維の種類は時に限定されないが、主材樹脂に対して相溶性を有する樹脂繊維であることが好ましく、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン6繊維等の公知の樹脂繊維が挙げられる。
使用する樹脂繊維の種類は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
(混合工程)
混合工程は、繊維スラリーと、繊維分散用樹脂の樹脂エマルション及び/又は樹脂繊維とを混合し、水分を含ませた混合分散液を調製する工程である。この工程により、微細セルロース繊維の一部または全部を繊維分散用樹脂で被覆できると推測される。
混合分散液に含まれる水分は、繊維スラリー由来であってもよく、樹脂エマルション由来であってもよく、混合工程で別途添加されたものでもよい。混合分散液の総質量に対する水分含有量は、後段のセルロース分散材料形成工程における水分含有量の調整を容易にする観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。上記水分含有量は99質量%以下が好ましい。
上記下限値以上であると、混合分散液の粘度を充分に低下させて、後段の工程における混合分散液の取り扱いが容易になる。上記上限値以下であると、後段の工程において、セルロース分散材料に含まれる微細セルロース繊維の含有量を容易に高めることができ、セルロース分散材料の生産性がより一層向上する。
繊維スラリーと樹脂エマルション及び/又は樹脂繊維との混合割合は、繊維分散用樹脂の固形分の配合量が微細セルロース繊維(固形分)100質量部に対して1〜500質量部になる割合が好ましく、10〜100質量部になる割合がより好ましく、15〜70質量部になる割合がさらに好ましい。前記混合割合が前記下限値以上であれば、得られる微細セルロース繊維含有樹脂組成物において、主材樹脂中の微細セルロース繊維の分散性がより向上して、当該組成物からなる成形体の強度がより一層向上する。前記上限値以下であれば、後段で作製するセルロース分散材料(例えば、コンポジットシート)の生産性がより一層向上する。
混合分散液には、公知の製紙用薬品を適宜使用してもよい。製紙用薬品としては、例えば、紙力剤、湿潤紙力剤、歩留剤、凝結剤、濾水剤、嵩高剤、粘度調整剤、消泡剤等の各種薬品が挙げられる。
混合分散液を調製する際の混合方法は特に限定されず、例えば、容器に繊維スラリーと樹脂エマルション及び/又は樹脂繊維とを入れ、ホモミキサー等の撹拌機を用いて撹拌する方法、繊維スラリーと樹脂エマルション及び/又は樹脂繊維とをラインミキサーに通す方法等が挙げられる。
(セルロース分散材料作製工程)
セルロース分散材料作製工程は、混合分散液を脱水し、微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合(含水率)を、5〜60質量%又は後段の溶融混練工程に供する前に蒸発等によって失われる水分を加味した量に、調整したセルロース分散材料を形成する工程である。なお、ここで規定する含水率に対して、セルロース分散材料に含まれる繊維分散用樹脂の分量は影響しない。
セルロース分散材料の上記含水率は、5〜60質量%であり、5〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。
混合分散液に含まれる水分を上記含水率となるように脱水することにより、繊維分散用樹脂と共に微細セルロース繊維が均一に分散し、且つ、適切な量の水分を含むセルロース分散材料を用いて溶融混練工程を行うことができる。
セルロース分散材料の含水率は、JIS P−8203:2010に準じて、試料の乾燥前と後の質量変化を測定し、その差を乾燥前の質量で除した値(百分率)である。
セルロース分散材料の形態は特に限定されず、例えば、シート状、塊状物、ペレット状物等の形態が好ましく、シート状のコンポジットシートを細片化したものがより好ましい。
細片化することにより、セルロース分散材料に含まれる微細セルロース繊維を主材樹脂に対してより容易に均一に分散させることができる。この結果、得られる微細セルロース繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させることができる。
コンポジットシートの坪量は、1.0〜1000g/mが好ましく、5.0〜500g/mがより好ましく、10.0〜100g/mがさらに好ましい。コンポジットシートの坪量が前記下限値以上であれば、充分なシート強度を確保でき、連続生産しやすくなり、前記上限値以下であれば、コンポジットシートを後段で細片化することが容易になる。
セルロース分散材料において、繊維分散用樹脂に対する微細セルロース繊維の質量比(微細セルロース繊維/繊維分散用樹脂)は、0.2〜100が好ましく、1〜10がより好ましく、1.5〜7がさらに好ましい。
上記下限値以上であると、セルロース分散材料の形態(例えばシート状)を維持することがより容易になる。
上記上限値以下であると、微細セルロース繊維同士の凝集を防ぎ、分散状態を維持することが一層容易になる。
混合分散液に含まれる水分を所望の含水率になるまで脱水する方法としては、例えば、抄紙、塗工、遠心分離等が挙げられる。
抄紙の具体的方法としては、例えば、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを具備する公知の連続抄紙装置を使用して、コンポジットシートを作製する方法が挙げられる。各パートにおける水分の蒸発量を常法で制御することによって、セルロース分散材料の水分含有量を調整できる。
塗工の具体的な方法としては、例えば、基台上に混合分散液を塗工し、水分を蒸発させる乾燥処理によって所望の水分含有量のセルロース分散材料を形成する方法が挙げられる。
コンポジットシートを細片化する方法として、例えば、裁断、粉砕等が挙げられる。細片化されたものの直径は、例えば0.1mm〜1cm程度が好ましい。
前記裁断又は粉砕は、例えば、アトマイザー、カッターミル、ビーズミル、ボールミル、ジェットミルなどの公知の粉砕機やシュレッダーを使用して行うことができる。コンポジットシートの粉砕物の面積は0.1〜2500mmであることが好ましく、0.2〜1000mmであることがより好ましい。粉砕物の面積が上記範囲であると、後段の溶融混練工程において当該粉砕物と主材樹脂とを均一に混合することが一層容易になる。
(溶融混練工程)
溶融混練工程は、前述した所定の含水率のセルロース分散材料と主材樹脂とを、当該セルロース分散材料に含まれる水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で、溶融混練する工程である。
具体的な方法としては、例えば、細片化したセルロース分散材料と主材樹脂とを各々計量して所定の割合で混合し、亜臨界状態の水を形成可能な耐熱圧チャンバーに投入して溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練されるセルロース分散材料の含水率(微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合)は、5〜60質量%であり、5〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。
上記下限値以上であると、亜臨界状態の水分が、微細セルロース繊維を主材樹脂に対して分散させる効率がより高められる。上記上限値以下であると、溶融混練時の発生熱量が過剰となることを防止し、微細セルロース繊維の分解を抑制することができる。さらに、微細セルロース繊維を主材樹脂に分散させる役割を果たした水分を、セルロース含有樹脂組成物から除去する手間が少なくなる。
溶融混練されるセルロース分散材料の含水率は、溶融混練を行う直前のセルロース分散材料の含水率である。例えば、主材樹脂のペレットと細分化したセルロース分散材料とをドライブレンドした混合物を溶融混練する場合、ドライブレンド後の混合物からセルロース分散剤の一部を分取してその含水率を測定する。具体的には、ドライブレンドした主材樹脂のペレットを、セルロース分散材料から水分が蒸発する前に迅速に篩い分けた後、残ったセルロース分散材料を試料として、前述したJIS P−8203:2010に準拠した方法で含水率を求められる。
なお、主材樹脂に含まれる水分がセルロース分散材料の含水率に与える影響が無視できる場合には、セルロース分散材料を分取せずに、前記混合物を試料として前述したJIS
P−8203:2010に準拠した方法で含水率を求めても構わない。
セルロース分散材料と主材樹脂との混合割合は、目的の物性や主材樹脂が有する物性に応じて適宜設定される。例えば、主材樹脂100質量部(固形分)に対してセルロース分散材料の配合量は1〜100質量部(固形分)であることが好ましく、5〜70質量部であることがより好ましい。
セルロース分散材料の配合量が前記下限値以上であれば、主材樹脂を充分に強化することができ、前記上限値以下であれば、得られる微細セルロース繊維含有樹脂組成物の靭性を充分に維持できる。
主材樹脂は、微細セルロース繊維含有樹脂組成物中の全ポリマー成分100質量部のうち、50質量部以上を構成する合成樹脂である。主材樹脂は、微細セルロース繊維含有樹脂組成物中の全ポリマー成分100質量部のうち、60質量部以上を構成することが好ましく、70質量部以上を構成することがより好ましい。
合成樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂が適用可能であり、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等が挙げられる。主材樹脂を構成する熱可塑性樹脂は1種類でもよく、2種以上でもよい。
溶融混練時の主材樹脂の加水分解を低減する観点から、主材樹脂としては、ポリオレフィンが好ましく、なかでもポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
セルロース分散材料と主材樹脂との混合に際しては、例えば、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサーなどを使用することができる。この際に各種添加剤を同時に混合してもよい。添加剤として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、填料、顔料、染料、帯電防止剤、滑剤、可塑剤などが挙げられる。
混合した各材料を溶融混練する装置としては、セルロース分散材料に含まれる水を亜臨界状態にするとともに、セルロース分散材料と主材樹脂とを溶融混練することが可能な耐熱圧チャンバーを備えた装置が好ましい。このような装置としては、例えば、外部から圧力および熱量を加える形式の加圧可能な加熱炉をチャンバーとして、当該チャンバー内で撹拌をしながら溶融混練する公知の装置が適用可能である。なかでも、任意のタイミングでチャンバー内の水分を気化させて除去する機構を備えた装置がより好ましい。
溶融混練時のチャンバー内の温度及び圧力は、350〜400℃及び18〜26MPaが好ましく、360〜390℃及び20〜24MPaがより好ましく、370〜380℃及び21〜23MPaがさらに好ましい。なお、水の臨界温度及び臨界圧力は374℃及び22.1MPaである。
上記下限値以上であると、セルロース分散材料に含まれる水を亜臨界状態にすることが容易になり、主材樹脂に対する微細セルロース繊維の分散性をより向上させることができる。
上記上限値以下であると、微細セルロース繊維又は主材樹脂が分解して、目的の樹脂組成物の強度を向上させるために必要な繊維強度又は樹脂強度が失われることを充分に抑制することができる。
溶融混練の時間としては、1〜60分が好ましく、3〜30分がより好ましく、5〜15分がさらに好ましい。
上記下限値以上であると、主材樹脂中に微細セルロース繊維を充分均一に分散させることができる。上記上限値以下であると、主材樹脂や微細セルロース繊維の分解を充分に抑制することができる。
溶融混練の完了を判断する指標の一つとして、溶融混練時の撹拌に要するトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に、トルクが低下することが挙げられる。
溶融混練によって微細セルロース繊維と主材樹脂とが均一に混合した後においては、チャンバー内の水分を除去することが好ましい。チャンバーの温度及び圧力を水の臨界点から充分に下げて、水を蒸気化することによって、チャンバー内から水分を除去することができる。
溶融混練の終了後、チャンバー内から目的の微細セルロース繊維溶融樹脂組成物を取り出す。
取り出し時の温度は特に限定されないが、チャンバー内に主材樹脂が付着して残存することを防止するために、主材樹脂の融点以上の温度であることが好ましい。取り出した微細セルロース繊維含有樹脂組成物を押出機へ供給し、押出機のダイから棒状に吐出し、冷却し、裁断して、ペレット状に成形することが好ましい。
<作用機序>
溶融混練工程における溶融混練のメカニズムの詳細は未解明であるが、次のように推測される。チャンバー内で亜臨界状態となった水は活性化され、互いに凝集した微細セルロース繊維を解繊し、モノフィラメントにするとともに、それらの再凝集を防ぐ。さらに、活性化した水は主材樹脂を単一のポリマー分子鎖に近い状態に分散する。分散されたポリマー分子と微細セルロース繊維のモノフィラメントとがチャンバー内で撹拌され、混合されることによって、均一に分散して混ざり合った微細セルロース繊維含有樹脂組成物が得られると推測される。
また、微細セルロース繊維を主材樹脂に混合する前に、微細セルロース繊維を繊維分散用樹脂と共に予めセルロース分散材料中に分散させているため、繊維分散用樹脂が微細セルロース繊維同士の不可逆的な結合を阻害し、主材樹脂に対する分散性を向上させていると考えられる。
本発明の製造方法によれば、優れた機械的物性を有する微細セルロース繊維含有樹脂組成物が得られる。この理由として、溶融混練時のセルロース分散材料の含水率を適切に制御することによって、微細セルロース繊維の劣化や分解を抑制しつつ、樹脂中に極めて高い分散性で微細セルロース繊維を混練できることが考えられる。
溶融混練時のセルロース分散材料の含水率が少ないと、微細セルロース繊維と主材樹脂との混練に寄与する活性化した水の量が少なくなり、分散性が劣ると考えられる。逆に、含水率が多くなり過ぎると、発生熱量及び活性化した水分量が過多になり、微細セルロース繊維が分解したり劣化したりすると考えられる。分散性が低くなったり、微細セルロース繊維が分解又は劣化したりすると、微細セルロース繊維含有樹脂組成物の機械的強度を高めることは困難である。
前述した特許文献1,2には、下記の問題があったと考えられる。
文献1(特許第5211571号公報)の方法では、熱可塑性樹脂に対してセルロース繊維とともに大量の水を混練し、混練中に気化させているため、発生熱量が多くなるので、セルロース繊維が劣化していると考えられる。
文献2(特許第5169188号公報)の方法では、セルロース繊維を第1の熱可塑性樹脂に溶融混練した後、これをペレット化し、これを第2の熱可塑性樹脂のペレットとドライブレンドして、再度溶融混練するという、少なくとも二段階の溶融混練工程を経るため、セルロース繊維が劣化していると考えられる。また、水に分散させずにセルロース繊維を溶融混練しているため、樹脂中のセルロース繊維の分散性が劣ると考えられる。
なお、特許第4950939号公報の方法では、セルロース繊維同士が脱水結合した状態のパルプを亜臨界水で処理して、セルロース繊維を分解して熱可塑性樹脂に混練している。この文献の記載から明らかなように、亜臨界状態の水でセルロース繊維を混合すると、通常はセルロース繊維が分解してしまう。しかし、本発明の製造方法においては、上述した様にセルロース分散材料の含水率を調整しているため、微細セルロース繊維の分解を抑制しつつ、主材樹脂に微細セルロース繊維を高い分散度で溶融混練することができる。
また、本発明とは異なり、セルロース繊維を繊維分散用樹脂と共に分散させておらず、主材樹脂に直接分散させているため、セルロース繊維同士の不可逆的な結合を招き易く、主材樹脂に対して充分に分散し難く、分散性が劣る。
<微細セルロース繊維含有樹脂組成物>
以上説明した製造方法において、微細セルロース繊維と、水分と、樹脂とを含む混合物が、水の亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で溶融混練されることによって、樹脂中に微細セルロース繊維が分散されてなる微細セルロース繊維含有樹脂組成物が得られる。
微細セルロース繊維含有樹脂組成物における微細セルロース繊維の含有量は、固形分として前記主材樹脂100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、5〜70質量部であることがより好ましく、10〜50質量部であることがさらに好ましい。
微細セルロース繊維の含有量が上記下限値以上であれば、当該組成物の強度をより一層向上させることができる。上記上限値以下であれば、当該組成物の靭性を充分に維持することができる。
微細セルロース繊維含有樹脂組成物の総質量(固形分)に対する微細セルロース繊維の含有量(固形分)は、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1.0〜10質量%がさらに好ましい。
微細セルロース繊維の含有量が上記下限値以上であれば、当該組成物の強度をより一層向上させることができる。前記上限値以下であれば、当該組成物の靭性を充分に維持することができる。
微細セルロース繊維含有樹脂組成物の総質量に対する水分含有量は、1質量%未満が好ましく、0.1質量%未満がより好ましい。水分含有量が少ないほど、当該組成物の保存期間中に機械的物性が変化し難く、保存安定性がより向上する。
<成形体>
微細セルロース繊維含有樹脂組成物は成形体の材料として用いることができる。
微細セルロース繊維含有樹脂組成物を用いた成形体を製造する方法は特に制限されず、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形などを適用することができる。
(機械的物性)
微細セルロース繊維含有樹脂組成物を用いた成形体の引張降伏強度は5.0MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましく、20MPaがさらに好ましい。引張降伏強度が前記下限値以上であれば、充分に強度が高いといえる。一方、引張降伏強度の上限値は特に限定されず、例えば、一例として、200MPa程度が挙げられるが、この値を超える強度を有していても構わない。引張降伏強度は、JISK7161−1994、JISK7162−1994に準拠して測定することができる。
以下、本発明の実施例を示す。なお、以下の例における「%」は「質量%」、「部」は「質量部」のことである。
[実施例1]
・繊維スラリーの調製
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分55質量%、JIS P8121に従って測定されるカナダ標準濾水度(CSF)600mlに、濃度4質量%となるように水を加えた。次いで、ダブルディスクリファイナーを用いて変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJIS P8121に準ずる)が300ml、平均繊維長が0.68mmになるまで叩解して、パルプスラリーを得た。叩解後、濃度が2.1%になるように調製し、エムテクニック社製クレアミックス2.2Sを用い、機械力による解繊処理を行った。この微細セルロース繊維の平均繊維長は0.2mm、平均繊維幅は250nmであった。
上記微細セルロース繊維スラリーと三井化学製ポリエチレンワックスエマルジョン(商品名:ケミパールW700)とを混抄して微細セルロース繊維コンポジットシートを得た。このコンポジットシートは、微細セルロース繊維80質量部とポリエチレン20部を混合してなるものである。上記コンポジットシートを2mm角に裁断して微細セルロース繊維コンポジット粉末を得た。次に微細セルロース繊維コンポジット粉末をピリジン存在下、20℃で無水酢酸と12時間反応させてアセチル化を行った。水酸基の置換度(DS)は0.8であった。これにより、繊維分散用樹脂であるポリエチレン20質量部に、水酸基の一部がアセチル化された微細セルロース繊維80質量部が分散されてなるセルロース分散材料を得た。
・溶融混練による微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造
水分を含ませた前記セルロース分散材料(アセチル化した微細セルロースコンポジット)20部、ポリプロピレンペレット(日本ポリプロピレン株式会社製、銘柄名MA3)77部、マレイン酸変性ポリプロピレン(東洋紡株式会社製:銘柄名PMA−H1100P)3部、を混合した。この混合物中の前記セルロース分散材料の含水率(微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合)を測定したところ7質量%であった。
得られた混合物から水分が失われないように留意しながら、溶融混合装置(エムアンドエフ・テクノロジー社製、型番:MF5000)の混合室内に投入し、220℃、7MPaの条件で混合室内の水分を亜臨界状態にするとともに30秒溶融混練した。
溶融混練後、樹脂吐出口から棒状の微細セルロース繊維含有樹脂組成物を吐出し、ステンレス製トレーの上に載せ、室温で冷却して固化させた。固化した微細セルロース繊維含有樹脂組成物をペレット状に裁断した。
[実施例2]
溶融混練時のセルロース分散材料の含水率が12質量%になるように水を添加した以外は、実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維含有樹脂組成物を製造した。
[比較例1]
溶融混練時のセルロース分散材料の含水率が2質量%になるように水を添加した以外は、実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維含有樹脂組成物を製造した。
[比較例2]
溶融混練時のセルロース分散材料の含水率が72質量%になるように水を添加した以外は、実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維含有樹脂組成物を製造した。
<物性試験>
[引張降伏強度および引張弾性率]
実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物のペレットを、寸法:50mm×60mm、厚さ1mmの加熱プレス用モールドに入れた。表面温度160℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで樹脂を溶融すると共に溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、静置して、状態を安定化させた。その後、成形板からJIS K 7162に記載の試験片5B形の形状の試験片1を打ち抜いた。
上記試験片1を用い、JIS K 7161を参考に、引張降伏強度および引張弾性率を測定した。引張試験機として株式会社エーアンドディー社製のテンシロン(型式:RTG−1250)を用いた。引張降伏強度測定時の引張速度は1.0mm/分、引張弾性率の引張速度は0.2mm/分とした。なお、上記JIS規格と異なる条件は、引張弾性率測定時の引張速度のみである。その測定結果を表1に示す。
[線膨張係数]
実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物のペレットを、寸法:120mm×120mm、厚さ0.2mmの加熱プレス用モールドに入れて、表面温度200℃で5分間加熱した。加熱後、加圧と減圧を繰り返すことで樹脂を溶融すると共に溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に15MPaで加圧し、1分間保持した。その後、取り出し、水冷下のプレス機で5MPaの圧力をかけた状態で、1分間保持して冷却後、モールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、静置して、状態を安定化させた。その後、成形板から3mm幅×40mm長の試験片2を打ち抜いた。
熱機械的分析装置(SII社製TMA「EXSTAR6000」)を用いて、上記試験片2を、引張モードでチャック間20mm、荷重98mN、窒素ガス雰囲気下で、25℃から5℃/分の速度で−10℃まで降温させ、−10℃にて10分保持したのち、5℃/分の速度で100℃まで昇温させ、線熱膨張係数を測定した。その測定結果を表1に示す。
Figure 0006787136
<射出試験>
実施例1〜2で製造したペレットを射出成型機(日精樹脂(株)社製:「NPX7-1F」)に投入し、ダンベル試験片(厚さ2mm)を得た。なお、加熱筒(シリンダー)温度は200℃、金型温度は40℃の条件下で成型を行った。
<考察>
実施例のセルロース含有樹脂組成物からなる成形体は、機械的物性が優れていた。この理由として、溶融混練時に亜臨界状態の水が主材樹脂に対する微細セルロース繊維の分散性を高めたことが考えられる。
一方、比較例1の成形体は、機械的物性が劣っていた。この理由として、溶融混練時の水分が少なかったために微細セルロース繊維同士が凝集し易く、分散性が劣ったことが考えられる。また、比較例2の成形体も機械的物性が劣っていた。この理由として、溶融混練時の水分が多過ぎたために、発生熱量が多く、微細セルロース繊維が劣化したことが考えられる。
以上から、本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法によれば、微細セルロース繊維の劣化や分解を抑制しつつ樹脂中の微細セルロース繊維を混練し、極めて高い分散性が得られることが理解される。さらに、本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物を使用することにより、優れた機械的物性を有する機械部品等の成形体を製造できることが明らかである。

Claims (7)

  1. 微細セルロース繊維が分散され、繊維分散用樹脂及び水分を含む、シート状、塊状若しくはペレット状のセルロース分散材料、又はシート状のセルロース分散材料を細片化したものと、主材樹脂と、を溶融混練する工程を有し、
    前記微細セルロース繊維は、水酸基の少なくとも一部が化学修飾された、平均繊維幅2〜15000nm、且つ、平均繊維長0.1〜2.0mmの微細セルロース繊維であり、
    前記セルロース分散材料中の前記微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合は5〜60質量%であり、
    前記セルロース分散材料中の水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で、前記溶融混練を行う、微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
  2. 前記セルロース分散材料において、前記繊維分散用樹脂に対する前記微細セルロース繊維の質量比(前記微細セルロース繊維/前記繊維分散用樹脂)が0.2〜100である、請求項1に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
  3. 前記溶融混練する工程の前に、前記シート状のセルロース分散材料を細片化する工程を有する、請求項1又は2に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
  4. 記微細セルロース繊維と前記繊維分散用樹脂と水を含有する混合分散液を、脱水することによって、前記シート状のセルロース分散材料を形成する、請求項3に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
  5. 前記主材樹脂は予めペレット化されたものである、請求項1〜4の何れか一項に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
  6. 前記微細セルロース繊維はバージンパルプ由来である、請求項1〜5の何れか一項に記載の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法。
  7. 請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法によって製造された微細セルロース繊維含有樹脂組成物。
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