JP6784616B2 - 線路電圧降下補償器、線路電圧降下補償システム及び補償電圧決定方法 - Google Patents

線路電圧降下補償器、線路電圧降下補償システム及び補償電圧決定方法 Download PDF

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Description

本発明は、交流電圧の配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器、該線路電圧降下補償器を用いた線路電圧降下補償システム及び前記電圧降下を補償するための補償電圧を決定する補償電圧決定方法に関する。
従来、配電系統の配電線に印加される電圧は、自動電圧調整装置(SVR:Step Voltage Regulator )等により制御されている。SVRは、自装置の設置点より負荷側(電源から見て需要家側)の配電線における電圧降下及び電圧変動を補償すべく制御する装置であり、線路電圧降下補償器(LDC:Line Voltage Drop Compensator )によって決定された補償電圧に基づいて、自装置から配電線に印加する電圧を制御している。この制御は、変電所等の電源からの交流電圧を変圧して配電線に印加する変圧器のタップを切り換えて変圧比を調整することによって行われる(例えば特許文献1参照)。
LDCが補償電圧を決定する場合、SVRによる電圧制御範囲の最近端及び最遠端における電圧降下の中心となる電圧降下中心点(負荷中心点とも言われる)が推定されている。LDCは、上記変圧器の二次側から上記電圧降下中心点までの電圧降下を、この間の配電線のインピーダンスに応じて予め設定された整定値と、上記変圧器の二次側から配電線に供給される電流とに基づいて補償電圧を決定する。SVRは、上記変圧器の二次側の電圧からLDCが決定した補償電圧を差し引いた電圧が上記電圧降下中心点の目標電圧(いわゆる基準電圧)に近づくように、上記タップを切り換える制御を行う。
上記電圧降下中心点の推定については、多くの電力会社でさまざまな方法が検討されている。例えば、配電自動化システムに保管されている電圧調整機器の制御範囲にあるセンサ情報を基に、ある期間(例えば四半期、ピーク時、1年間等)の電圧プロフィールが参照され、電圧降下が最大になる重負荷時、及び電圧降下が最小となる軽負荷時にて電圧管理幅に対する裕度が最大となる点が電圧降下中心点とされる。
一方、近年の地球環境問題を背景に、配電系統には太陽光発電(PV:Photovoltaic Power Generation )等による分散型電源が連系されている。自然エネルギーを利用した分散型電源は、例えば天候によって供給量が変化する。SVRによる電圧制御範囲に分散型電源が存在する場合、実負荷量は同じであっても,配電線に供給される発電量が変化することによって見かけ上の負荷量が変化するため、電圧降下中心点が移動することとなる。
特開2011−55599号公報
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、電圧降下中心点が移動した場合はLDCが決定する補償電圧にずれが生じ、SVRが制御範囲の電圧を適切に制御することができなくなるという問題があった。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電圧降下中心点が移動した場合であっても、制御範囲の電圧を適切に制御するための補償電圧を決定することが可能な線路電圧降下補償器、線路電圧降下補償システム及び補償電圧決定方法を提供することにある。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出する電流検出部と、該電流検出部が検出した電流と、前記配電線のインピーダンスの抵抗成分及びリアクタンス成分と、前記配電線から前記負荷に供給される電力の力率角とに基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部とを備える。
本発明に係る補償電圧決定方法は、変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償する補償電圧を決定する方法であって、前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出するステップと、検出した電流と、前記配電線のインピーダンスの抵抗成分及びリアクタンス成分と、前記配電線から前記負荷に供給される電力の力率角とに基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定するステップとを含む。
本発明にあっては、変圧器から配電線に流入する電流と、配電線のインピーダンスの抵抗成分及びリアクタンス成分と、負荷側の力率角とに基づいて配電線における電圧降下の中心値を推定し、推定した中心値に応じた電圧を、上記電圧降下を補償する補償電圧に決定する。これにより、いわゆる電圧降下中心点を推定する必要がなくなり、電圧降下中心点が移動した場合であっても、適時検出される配電線への流入電流、一定の線路定数及び負荷側の力率角を用いて補償電圧が決定される。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、前記決定部は、前記配電線のインピーダンスに更に基づいて前記中心値を推定する。
本発明にあっては、配電線に流入する電流と、配電線のインピーダンスとに基づいて配電線における電圧降下の中心値を推定する。これにより、電圧降下中心点が移動した場合であっても、補償電圧を決定するための設定値の変更が不要となる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、前記決定部は、前記配電線の抵抗成分及びリアクタンス成分と、前記配電線から前記負荷に供給される電力の力率角とに更に基づいて前記中心値を推定する。
本発明にあっては、配電線に流入する電流と、配電線の抵抗成分及びリアクタンス成分と、負荷側の力率角とに基づいて配電線における電圧降下の中心値を推定する。これにより、電圧降下中心点が移動した場合であっても、一定の線路定数及び負荷側の力率角を用いて補償電圧を適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、前記変圧器から前記配電線に印加される電圧を検出する電圧検出部と、前記配電線に供給される電力の力率角を検出する力率検出部とを更に備え、前記決定部は、前記電圧検出部が検出した電圧及び前記力率検出部が検出した力率角に更に基づいて前記中心値を推定する。
本発明にあっては、配電線に流入する電流と、変圧器からの電圧と、変圧器からの電力の力率角と、配電線の抵抗成分及びリアクタンス成分とに基づいて配電線における電圧降下の中心値を推定する。これにより、負荷側の力率角が特定できない場合であっても、自機器側の検出値と一定の線路定数とを用いて補償電圧を適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出する電流検出部と、前記配電線における前記負荷の分布を記憶する記憶部と、該記憶部が記憶した前記負荷の分布に基づいて前記配電線における正規化された電流分布を算出する算出部と、前記電流検出部が検出した電流及び前記算出部が算出した電流分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部とを備える
本発明にあっては、配電線に流入する電流と、記憶されている負荷分布とに基づいて算出した電流分布により、配電線における電圧降下の中心値を推定するため、補償電圧を適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出する電流検出部と、前記配電線における正規化された電流分布を記憶する記憶部と、前記電流検出部が検出した電流及び前記記憶部に記憶された電流分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部とを備える
本発明にあっては、配電線に流入する電流と、記憶されている正規化された電流分布とに基づいて算出した電流分布により、配電線における電圧降下の中心値を推定するため、補償電圧を適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、前記配電線における電流分布を取得する電流取得部と、該電流取得部が取得した電流分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部とを備える。
本発明にあっては、配電線における電流分布を外部から取得して配電線の電圧降下の中心値を的確に推定するため、電流分布が変動した場合であっても、補償電圧を適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、前記決定部は、前記電流分布の平均値に基づいて前記中心値を推定する。
本発明にあっては、算出、記憶又は取得した電流分布の平均値を算出し、算出した平均値に応じて配電線における電圧降下の中心値を推定する。即ち、電流分布が配電線における単位区間当たりの電圧降下の分布に対応し、区間毎の電圧降下の総和が配電線における電圧降下の総量に相当するため、この総和の1/2を電圧降下の中心値と推定することにより、補償電圧をより適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、前記配電線における3箇所以上の電圧の計測結果に基づく電圧分布を取得する電圧取得部と、該電圧取得部が取得した電圧分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部とを備える。
本発明にあっては、配電線における電圧分布を外部から取得するため、電流分布が変動して電圧降下中心点が移動した場合であっても、配電線の電圧降下の中心値を的確に推定して補償電圧を適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、前記変圧器から前記配電線に印加される電圧を検出する電圧検出部を更に備え、前記決定部は、前記電圧取得部が取得した電圧分布の平均値及び前記電圧検出部が検出した電圧に基づいて前記中心値を推定する。
本発明にあっては、取得した電圧分布の平均値、及び配電線に印加される電圧に応じて配電線における電圧降下の中心値を推定する。即ち、電圧分布の平均値に対応する配電線上の点が、電圧降下の中心点に相当するため、この中心点の電圧を配電線に印加される電圧から差し引いて補償電圧をより適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償器は、前記決定部は、前記電圧取得部が取得した電圧分布の最大値及び最小値に基づいて前記中心値を推定する。
本発明にあっては、取得した電圧分布の最大値及び最小値の中間の値、又は電圧分布の最大値及び最小値の差分に応じて配電線における電圧降下の中心値を推定するため、補償電圧を更に適切に決定することができる。
本発明に係る線路電圧降下補償システムは、上述の線路電圧降下補償器と、交流電源からの交流電圧を変圧して前記配電線に印加しており、変圧比を切り換えるためのタップを有する変圧器と、該変圧器が変圧した電圧を検出する変圧電圧検出部と、該変圧電圧検出部が検出した電圧から前記線路電圧降下補償器が決定した補償電圧を減じた電圧が目標の電圧に近づくように前記タップを切り換える切換制御部とを含む。
本発明にあっては、変電所等の交流電源からの交流電圧を変圧して前記配電線に印加する変圧器が変圧した電圧から、上記線路電圧降下補償器が決定した補償電圧を差し引いた電圧が、例えば基準電圧である目標の電圧に近づくように変圧器のタップを切り換える。これにより、適切に決定された補償電圧に応じて、配電線に印加される交流電圧が適切に制御される。
本発明によれば、電圧降下中心点が移動した場合であっても、制御範囲の電圧を適切に制御するための補償電圧を決定することが可能となる。
本発明の実施の形態1に係る線路電圧降下補償システムの構成例を示すブロック図である。 配電線の末端に負荷が集中すると仮定した場合における電圧の関係を示すベクトル図である。 負荷が末端に集中する場合の配電線における電流分布及び電圧分布を模式的に示す説明図である。 負荷が均等に分散する場合の配電線における電流分布及び電圧分布を模式的に示す説明図である。 実施の形態1に係る線路電圧降下補償器で補償電圧を決定するCPUの処理手順を示すフローチャートである。 タップ切換器に対するタップの切換制御を実行するCPUの処理手順を示すフローチャートである。 本発明の実施の形態2に係る線路電圧降下補償システムの構成例を示すブロック図である。 実施の形態2に係る線路電圧降下補償器で補償電圧を決定するCPUの処理手順を示すフローチャートである。 実施の形態3に係る線路電圧降下補償器で補償電圧を決定するCPUの処理手順を示すフローチャートである。 検証に用いた系統モデルを示す説明図である。 負荷の時間帯毎の有効電力及び無効電力を示すグラフである。 メガソーラの時間帯毎の有効電力を示すグラフである。 シミュレーションによる検証結果を総合的に示す図表である。 PV連系なし且つ通信ありの場合のシミュレーション結果を示すグラフである。 PV連系あり且つ通信ありの場合のシミュレーション結果を示すグラフである。 PV連系なし且つ通信なしの場合のシミュレーション結果を示すグラフである。 PV連系あり且つ通信なしの場合のシミュレーション結果を示すグラフである。 PV連系なしで従来の方法を用いた場合のシミュレーション結果を示すグラフである。 PV連系ありで従来の方法を用いた場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る線路電圧降下補償システムの構成例を示すブロック図である。線路電圧降下補償システム100は、変電所200(交流電源に相当)からの交流電圧を変圧して配電線10に印加するタップ付きの変圧器110と、変圧器110が有するタップを切り換えるタップ切換器111と、配電線に生じる電圧降下を補償するための補償電圧を決定し、決定した補償電圧に基づいてタップ切換器111にタップの切換指令を与える線路電圧降下補償器1とを含んで構成されている。
線路電圧降下補償システム100が、いわゆるSVRに相当する。線路電圧降下補償器1は、変圧器110が変圧した電圧から自身が決定した補償電圧を減算した電圧が、基準電圧である目標の電圧に近づくように変圧器110のタップを切り換える制御を行う。即ち、線路電圧降下補償器1は、いわゆるLDCとしての機能と、SVRにおけるタップの切換制御部としての機能を併せ持っている。
変圧器110は、三相3線式の交流電圧を変圧するものである。以下では、交流電圧の相電圧を大文字のEで表し、相電圧の√3倍の電圧である線間電圧を大文字のVで表す。変圧器110は、例えば一次側に変電所からの交流電圧が印加されており、変圧された二次側の交流電圧が配電線10に印加される。
線路電圧降下補償器1は、変圧器110から配電線10に流入する電流を検出する電流検出部31と、変圧器110から配電線10に印加される電圧を検出する電圧検出部41と、配電線10に供給される電力の力率角を検出する力率検出部51と、上述の補償電圧を決定する制御部2とを備える。電圧検出部41は、線路電圧降下補償システム100に含まれる変圧電圧検出部を兼ねるものであるが、タップの切換制御部が線路電圧降下補償器1から分離されている場合は、変圧電圧検出部が別途備えられるようにしてもよい。
電流検出部31は、配電線10に流入する電流を所定比率で変流する変流器30を介して電流を検出する。電圧検出部41は、変圧器110が変圧した電圧を降圧する計測用変圧器40を介して電圧を検出する。力率検出部51は、電圧検出部41が検出した電圧の位相と電流検出部31が検出した電流の位相とに基づいて力率角を検出する。力率検出部51で力率を検出し、検出された力率に基づいて制御部2で力率角を算出するようにしてもよい。
制御部2は、機器全体を制御するCPU(Central Processing Unit )21を備え、CPU21は、制御プログラム等の情報を記憶するROM(Read Only Memory )22、一時的に発生した情報を記憶するRAM(Random Access Memory )23、及び経過時間等を計時するタイマ24と互いにバス接続されている。制御部2が、CPUを有するマイクロコンピュータを含んで構成されていてもよい。CPU21又はマイクロコンピュータは、予め処理手順を定めたコンピュータプログラムを実行するように構成されていてもよい。
CPU21には、また、電流検出部31、電圧検出部41及び力率検出部51からの検出結果を取り込むための入力部25と、タップ切換器111に情報を与えるための出力部26とがバス接続されている。
配電線10は、分岐を有さず、亘長がLであり、変圧器110側からS_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_NなるN個の区間に形式的に均等分割されている。区間S_N側を、配電線10の末端側とする。各区間の夫々には、L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_NなるN個の負荷が接続されている。各負荷は、夫々に対応する区間内の複数の実負荷を代表する集合的な負荷である。
次に、配電線10に印加される電圧Esと、配電線10の末端の電圧Eendとの関係について説明する。図2は、配電線10の末端に負荷が集中すると仮定した場合における電圧Es及びEendの関係を示すベクトル図である。但し、Iは負荷電流、即ち配電線10に流入する電流であり、θは負荷の力率角である。配電線10のインピーダンスについては、単位長当たりの抵抗成分及びリアクタンス成分夫々をR及びXで表す。
図2より、底辺が(Eend+IRLcosθ+IXLsinθ)、高さが(IXLcosθ−IRLsinθ)である直角三角形の斜辺の長さがEsであるから、Esは以下の式(1)のように変形して表される。但し、(IXLcosθ−IRLsinθ)2 の大きさが{(Eend+IRLcosθ+IXLsinθ)2 の大きさと比較して十分小さいものとする。
Es=√{(Eend+IRLcosθ+IXLsinθ)2
(IXLcosθ−IRLsinθ)2
=Eend+IL(Rcosθ+Xsinθ)・・・・・・・・・・・・・・(1)
式(1)より、Es(相電圧)に対応するVs(線間電圧)が、以下の式(2)で表され、配電線10の電圧降下であるVs−Vendが以下の式(3)で表される。式(3)は、配電線10の単位長当たりのインピーダンスがRcosθ+Xsinθで表されることを示している。
Vs=Vend+(√3)IL(Rcosθ+Xsinθ)・・・・・・・・・・(2)
Vs−Vend=(√3)IL(Rcosθ+Xsinθ)・・・・・・・・・・(3)
次に、配電線10の末端に負荷が集中すると仮定した場合の補償電圧について説明する。図3は、負荷が末端に集中する場合の配電線10における電流分布及び電圧分布を模式的に示す説明図である。図の右側に電流分布を示し、左側に電圧分布を示す。何れも横軸は配電線10に沿う方向の変圧器110からの距離を表す。電流分布では縦軸が電流の大きさを表し、電圧分布では縦軸が電圧の大きさを表す。
図3には、配電線10における変圧器110との接続端から末端まで、電流が一様であり、電圧がVsからVendまで一定の割合で低下することが示されている。Vs−Vendが、配電線10の電圧降下である。この電圧降下の1/2の値を電圧降下の中心値と推定し、推定した中心値を補償電圧の値とする。補償電圧Vdは以下の式(4)で表される(図2参照)。式(4)の右辺に式(3)を代入することにより、補償電圧Vdが式(5)のとおり算出される。
Vd=(Vs−Vend)/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
Vd=(√3)IL(Rcosθ+Xsinθ)/2・・・・・・・・・・・・・(5)
式(5)におけるIは電流検出部31が検出した電流であり、L(Rcosθ+Xsinθ)は配電線10のインピーダンスZである。制御部2は、これらの検出値及び定数を式(5)に適用することにより、電圧降下の中心値を推定して補償電圧Vdを決定する。
次に、負荷の力率角θが不明である場合に、配電線10に供給される電力の力率角θ’を用いて補償電圧を算出する方法について検討する。図2で、ベクトルEendの先端からベクトルEsの先端に向かうベクトルの大きさをEdropとする。配電線10のインピーダンスZの位相角φは以下の式(6)で表される。また図2より、直角をなす2辺の長さがIRL及びIXLである直角三角形の斜辺の長さがEdopであるから、Edop及び該Edropに対応するVdrop夫々は以下の式(7)及び(8)で表される。
φ=arctan(X/R)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
Edop=IL√(R2 +X2 )・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
Vdop=(√3)IL√(R2 +X2 )・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ここで、ベクトルEsと、電流ベクトルIと、ベクトルEdrop及びその延長線とで形成される三角形について、ベクトルEsと電流ベクトルIとがなす角がθ’であり、ベクトルEdropと電流ベクトルIとがなす角がこの三角形の外角φとなる。外角φと内対角の和とが等しいから、ベクトルEsとベクトルEdropとがなす角はφ−θ’となる。よって、ベクトルEs,Eend,Edropによって形成される三角形に余弦定理を適用することにより、Eend及びVend夫々が以下の式(9)及び(10)で表される。
Eend=√{Es2 +Edrop2
−2Es・Edrop・cos(φ−θ’)}・・・・・・・・・(9)
Vend=√{Vs2 +Vdrop2
−2Vs・Vdrop・cos(φ−θ’)}・・・・・・・・(10)
式(10)におけるVsは、電圧検出部1が検出した電圧であり、Vdropは電流検出部31が検出した電流Iを式(8)に適用して算出される値である。また、φは式(6)により算出される定数であり、θ’は力率検出部51が検出した力率角である。制御部2は、これらの検出値、算出値及び定数を式(10)に適用してVendを算出し、算出したVendとVsの検出値とを式(4)に適用して補償電圧Vdを決定する。
次に、図1に示すように、配電線10の区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_N夫々に負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nが接続されている場合の補償電圧について説明する。区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_N夫々を通過する電流をI_1,I_2,I_3・・・I_N−1,I_Nとする。電流I_1は、配電線10の末端に負荷が集中した場合に、配電線10に流入する電流Iに相当する。配電線10のインピーダンスはZであるから、配電線10の区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_N当たりのインピーダンスはZ/Nである。
電流I_1,I_2,I_3・・・I_N−1,I_Nからなる集合、即ち配電線10における電流分布は、ROM22又はRAM23(記憶部に相当)に記憶されていてもよいが、これに限定されるものではない。例えば、負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nの分布をROM22又はRAM23に記憶しておき、負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nの分布に基づいて配電線10における電流分布を算出してもよい。また、例えば所定の電流の大きさで正規化された電流分布をROM22又はRAM23に記憶しておき、正規化された電流分布と、電流検出部31が検出した電流との積によって、配電線10における電流分布を算出してもよい。
なお、負荷の分布又は電流分布は、必ずしもROM22又はRAM23に数値の集合として記憶されている必要はない。例えば、CPU21が実行する制御プログラムにて、負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nの分布又は配電線10における電流分布が適当に想定されている場合は、予めROM22に負荷の分布又は電流分布が記憶されているに等しい。
ROM22又はRAM23に記憶されている電流分布が、均等分割された区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_Nに対応していない場合は、記憶されている電流分布を、仮想的なM個(Mは任意の自然数)の単位区間毎の通過電流の分布に変換すればよい。以下では、電流分布が、均等分割されたN個の単位区間毎の通過電流の分布であるものとする。また、ROM22又はRAM23に記憶されている正規化された電流分布と電流検出部31が検出した電流Iとの積によって電流I_1,I_2,I_3・・・I_N−1,I_Nが算出されているものとする。このような電流分布から、配電線10における単位区間毎の電圧降下の分布が求められる。
変圧器110から配電線10に印加される電圧をV’sとし、配電線10の末端の電圧をV’endとした場合、配電線10の電圧降下であるV’s−V’endは、配電線10における区間毎の電圧降下の総和として以下の式(11)のように変形して表される。
V’s−V’end=(√3)(I_1+I_2+I_3+・・・I_N)Z/N
=(√3){(ΣI_n)/N}Z・・・・・・・・・・・(11)
但し、Σ:n=1,2,3・・・Nに対するI_nの総和
この場合も、配電線10の電圧降下であるV’s−V’endの1/2の値を電圧降下の中心値と推定し、推定した中心値を補償電圧の値とする。よって、補償電圧V’dは以下の式(12)で表される。また、式(12)の右辺に式(11)を代入し、ZをL(Rcosθ+Xsinθ)で置き換えることにより、V’dが式(5)と類似する以下の式(13)で表される。
V’d=(V’s−V’end)/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
V’d=(√3){(ΣI_n)/N}L(Rcosθ+Xsinθ)/2・・(13)
式(13)の{(ΣI_n)/N}は、電流分布の平均値そのものであるから、式(13)は、配電線10における電流分布の平均値に基づいて補償電圧が算出されることを示している。特に負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nが均等である場合、電流I_1,I_2,I_3・・・I_N−1,I_Nが等差数列となるから、ΣI_nは等差数列の和の公式より、以下の式(14)で表される。更に、I_1がI_NのN倍であり、I_1が配電線10に流入する電流Iであるから、式(13)の{(ΣI_n)/N}は以下の式(15)のように変形して表される。
ΣI_n=(I_1+I_N)N/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)
(ΣI_n)/N={I_N(N+1)N/2}/N
=I_N(N+1)/2
=I(N+1)/(2N)・・・・・・・・・・・・・・・・(15)
即ち、式(5)の右辺のIに相当するものが、式(13)ではI(N+1)/(2N)であって、概ね1/2になっており、式(13)で算出される補償電圧も概ね1/2になることが示される。この場合は、電流検出部31で検出した電流Iを(N+1)/(2N)倍した値により、式(13)の{(ΣI_n)/N}を置き換えて補償電圧V’dを決定することができる。
図4は、負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nが均等に分散する場合の配電線10における電流分布及び電圧分布を模式的に示す説明図である。図の右側に電流分布を示し、左側に電圧分布を示す。何れも横軸は配電線10に沿う方向の変圧器110からの距離を表す。電流分布では縦軸が電流の大きさを表し、電圧分布では縦軸が電圧の大きさを表す。
図4には、配電線10における変圧器110との接続端から末端まで、電流が一定の割合で減少し、電圧がV’sからV’endまで放物線を描いて低下することが示されている。この電圧降下の中心値が補償電圧V’dの値となる。ここでの電圧降下量は、図3の場合の概ね1/2である。
以下では、上述した線路電圧降下補償器1の制御部2の動作と、タップ切換器111の動作とを、それらを示すフローチャートを用いて説明する。以下に示す処理は、ROM22に予め格納されている制御プログラムに従って、CPU21により実行される(後述する他の実施の形態においても同様)。図5は、実施の形態1に係る線路電圧降下補償器1で補償電圧を決定するCPU21の処理手順を示すフローチャートであり、図6は、タップ切換器111に対するタップの切換制御を実行するCPU21の処理手順を示すフローチャートである。何れの処理も一定の周期(例えば、タイマ24で計時される1秒より短い周期)で起動される。図6の処理全体が、タップの切換制御部に相当する。
図5の処理が起動された場合、CPU21は、電流検出部31によって変圧器110から配電線10に流入する電流を検出する(S11)。CPU21は、更に、ROM22又はRAM23から負荷の分布を示す情報(以下、単に負荷分布とも言う)を読み出し(S12)、読み出した情報に基づいて配電線10における電流分布を示す情報(以下、単に電流分布とも言う)を算出する(S13:算出部に相当)。負荷分布から電流分布を算出するには、配電線10の末端側から負荷電流を積算すればよい。
ROM22又はRAM23に電流分布が記憶されている場合は、ステップS12で電流分布を読み出してステップS13を省略すればよい。ここでは、ROM22又はRAM23に正規化された電流分布が記憶されているものとし、この正規化された電流分布と、電流検出部31が検出した電流との積が、配電線10における電流分布となる。
次いで、CPU21は、算出した電流分布の平均値を算出する(S14)。負荷がN個に均等に分散されている場合は、式(15)で示されるように、電流検出部31が検出した電流Iを(N+1)/(2N)倍した値が、この平均値として算出される。CPU21は、更に、算出した平均値に基づいて配電線10の電圧降下の中心値を推定することにより、補償電圧V’dを決定する(S15:決定部に相当)。
即ち、CPU21は、電圧降下の中心値を推定するために、算出した平均値を式(13)の{(ΣI_n)/N}に代入し、式(13)によって補償電圧V’dを決定する。その後、CPU21は、決定した補償電圧を示すデータをRAM23に記憶した(S16)後、図5の処理を終了する。
次に、図6の処理が起動された場合、CPU21は、補償電圧V’dを示すデータをRAM23から読み出す(S21)。次いで、CPU21は、電圧検出部41によって変圧器110からの電圧を検出し(S22)、検出した電圧から、上記データが示す補償電圧を減算する(S23)。
その後、CPU21は、減算による算出結果と、予め設定された不感帯の上下限とを比較し(S24)、算出結果が不感帯を逸脱したか否かを判定する(S25)。不感帯を逸脱しない場合(S25:NO)、制御回路は、特段の処理を実行せずに図6の処理を終了する。一方、算出結果が不感帯を逸脱した場合(S25:YES)、制御回路は、タップ切換の要否を判定する(S26)。ここでの要否判定は、例えば、不感帯からの逸脱が60秒間継続するか否かによって行う。このような判定方法は周知であるので、ここでの詳細な説明を省略する。
タップ切換不要と判定した場合(S26:NO)、制御回路は、例えば逸脱の履歴を記憶して図6の処理を終了する。一方、タップ切換要と判定した場合(S26:YES)、制御回路は、変圧器110に対してタップ切換指令を発令し(S27)、図6の処理を終了する。
なお、本実施の形態1では、CPU21が実行する処理を図5と図6とに分けてあるが、これに限定されるものではなく、例えば図5のステップS15(又はS16)の処理を実行した後に、図6のステップS22(又はS21)に処理を移すようにしてもよい。また、図6に示す処理を、制御部2のCPU21とは異なる切換制御部の他のCPUにて実行するようにしてもよい。この場合、変圧器110が変圧した電圧は、他のCPUが制御部2から取得してもよいし、変圧電圧検出部で別途検出してもよい。
以上のように本実施の形態1によれば、変圧器110から配電線10に流入する電流に基づいて配電線10における電圧降下の中心値を推定し、推定した中心値に応じた電圧を、上記電圧降下を補償する補償電圧Vdに決定する。これにより、いわゆる電圧降下中心点を推定する必要がなくなり、例えば配電線10に係る一定の線路定数と適時検出される配電線10への流入電流Iとに応じて補償電圧Vdが決定される。従って、電圧降下中心点が移動した場合であっても、例えばSVRが制御範囲の電圧を適切に制御するための補償電圧を決定することが可能となる。
また、実施の形態1によれば、配電線10に流入する電流Iと、配電線10のインピーダンスZとに基づいて配電線10における電圧降下の中心値を推定する。これにより、電圧降下中心点が移動した場合であっても、補償電圧Vdを決定するための設定値の変更を不要とすることができる。
更に、実施の形態1によれば、配電線10に流入する電流Iと、配電線10の抵抗成分R及びリアクタンス成分Xと、負荷側の力率角θとに基づいて配電線10における電圧降下の中心値を推定する。これにより、電圧降下中心点が移動した場合であっても、一定の線路定数R及びXと負荷側の力率角θとを用いて補償電圧Vdを適切に決定することが可能となる。
更に、実施の形態1によれば、配電線10に流入する電流と、変圧器110からの電圧Vsと、変圧器110からの電力の力率角θ’と、配電線10の抵抗成分R及びリアクタンス成分Xとに基づいて配電線10における電圧降下の中心値を推定する。これにより、負荷側の力率角θが特定できない場合であっても、自機器側の検出値と一定の線路定数R及びXとを用いて補償電圧Vdを適切に決定することが可能となる。
更に、実施の形態1によれば、配電線10に流入する電流Iと、ROM22又はRAM23に記憶されている負荷分布とに基づいて算出した配電線10における電流分布により、配電線10における電圧降下の中心値を推定するため、補償電圧V’dを適切に決定することが可能となる。ROM22又はRAM23に記憶されている負荷分布に基づいて配電線10における絶対的な電流分布が算出される場合は、配電線10に流入する電流を検出することなく、算出した電圧分布に基づいて補償電圧V’dを適切に決定することが可能である。
更に、実施の形態1によれば、配電線10に流入する電流Iと、ROM22又はRAM23に記憶されている正規化された電流分布とに基づいて算出した電流分布により、配電線10における電圧降下の中心値を推定するため、補償電圧V’dを適切に決定することが可能となる。ROM22又はRAM23に絶対的な電流分布が記憶されている場合は、配電線10に流入する電流を検出することなく、記憶されている電流分布に基づいて補償電圧V’dを適切に決定することが可能である。
(実施の形態2)
実施の形態1が、外部から情報を取得しない形態であるのに対し、実施の形態2は、外部から配電線10の電流分布を示す情報を通信によって取得する形態である。図7は、本発明の実施の形態2に係る線路電圧降下補償システムの構成例を示すブロック図である。線路電圧降下補償システム100bは、タップ付きの変圧器110と、タップ切換器111と、線路電圧降下補償器1bとを含んで構成されている。
線路電圧降下補償器1bは、電流検出部31と、電圧検出部41と、補償電圧を決定する制御部2bとを備える。制御部2bは、実施の形態1における制御部2のCPU21に対して、力率検出部51が省かれており、外部と通信するための通信部27が更にバス接続されている。
配電線10には、区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_N夫々の通過電流を計測する計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nが接続されている。計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nが計測した通過電流は、通信線28を介して通信部27に送信される。その他、実施の形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。なお、本実施の形態2では、区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_Nが均等に分割されている必要はない。
上述の構成において、線路電圧降下補償器1bの制御部2bは、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_N夫々から区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_Nの通過電流を取得する。取得された通過電流の集合が、配電線10における電流分布に相当する。区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_Nが均等分割されていない場合、又は通過電流が取得できない区間がある場合は、実施の形態1の場合と同様に、取得された通過電流の分布が仮想的なM個の単位区間毎の通過電流の分布に変換される。
制御部2bは、N個又はM個の電流の集合である電流分布について平均値を算出し、算出結果を実施の形態1における式(13)の係数{(ΣI_n)/N}の値とみなして、式(13)によって補償電圧V’dを決定する。補償電圧V’dが決定された後の処理については、実施の形態1の場合と同様である。
以下では、上述した線路電圧降下補償器1bの制御部2bの動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。タップ切換器111に対するタップの切換制御は、実施の形態1の場合と同様である。図8は、実施の形態2に係る線路電圧降下補償器1bで補償電圧を決定するCPU21の処理手順を示すフローチャートである。この処理は一定の周期(例えば1秒より短い周期)で起動される。図8におけるステップS34からS36までの処理は、実施の形態1の図5におけるステップS14からS16までの処理と同様である。
図8の処理が起動された場合、CPU21は、通信部27により、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nの配電線10における位置データと、夫々の計測電流値、即ち電流分布を取得し(S32:電流取得部に相当)、取得した電流分布の平均値を算出する(S34)。その後、CPU21は、算出した平均値に基づいて配電線10の電圧降下の中心値を推定することにより、補償電圧V’dを決定する(S35:決定部に相当)。CPU21は、更に、決定した補償電圧V’dを示すデータをRAM23に記憶した(S36)後、図8の処理を終了する。
以上のように本実施の形態2によれば、配電線10における電流分布を計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nから取得して配電線10の電圧降下の中心値を的確に推定するため、電流分布が変動した場合であっても、補償電圧V’dを適切に決定することが可能となる。
また、実施の形態1及び2によれば、負荷分布から算出した電流分布、ROM22又はRAM23に記憶されている電流分布、又は計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nから取得した電流分布について平均値を算出し、算出した平均値に応じて配電線10における電圧降下の中心値を推定する。即ち、電流分布が配電線10における単位区間当たりの電圧降下の分布に対応し、区間毎の電圧降下の総和が配電線10における電圧降下の総量に相当するため、この総和の1/2を電圧降下の中心値と推定することにより、補償電圧V’dをより適切に決定することが可能となる。
(実施の形態3)
実施の形態1が、情報を取得しない形態であるのに対し、実施の形態3は、外部から配電線10の電圧分布を示す情報を通信によって取得する形態である。実施の形態3における線路電圧降下補償システム100bの構成は、実施の形態2の場合と同様であるため、実施の形態2に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。なお、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nは、夫々に対応する区間の電圧を計測する。計測された電圧は、通信線28を介して通信部27に送信される。
上述の構成において、線路電圧降下補償器1bの制御部2bは、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_N夫々から区間S_1,S_2,S_3・・・S_N−1,S_Nの電圧を取得する。取得された電圧の集合が、配電線10における電圧分布に相当する。例えば負荷L_1,L_2,L_3・・・L_N−1,L_Nが均等である場合、取得された電圧分布は、実施の形態1における図4に示すものと同様になる。
取得された電圧分布の最大値、最小値及び平均値夫々をVmax、Vmin及びVavrとする。図4から読み取れるように、変圧器110から配電線10に印加される電圧V’sから、電圧分布の最大値Vmax及び最小値Vminの中間の値を差し引いた値が、配電線10の電圧降下の中心値に相当するから、補償電圧V’dは以下の式(16)で表される。また、電圧分布の最大値Vmax及び最小値Vminの差分が配電線10の電圧降下に相当する場合は、補償電圧V’dを以下の式(17)で表すことができる。
V’d=V’s−(Vmax+Vmin)/2・・・・・・・・・・・・・・・(16)
V’d=(Vmax−Vmin)/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(17)
また例えば、取得した電圧に基づく電圧分布が図3に示すようなものである場合は、変圧器110から配電線10に印加される電圧V’sから、電圧分布の平均値Vavrを差し引いた値が、配電線10の電圧降下の中心値に相当するから、補償電圧V’dを以下の式(18)によって決定することができる。補償電圧V’dが決定された後の処理については、実施の形態1の場合と同様である。
V’d=V’s−Vavr・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)
以下では、上述した線路電圧降下補償器1bの制御部2bの動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。タップ切換器111に対するタップの切換制御は、実施の形態1の場合と同様である。図9は、実施の形態3に係る線路電圧降下補償器1bで補償電圧を決定するCPU21の処理手順を示すフローチャートである。この処理は一定の周期(例えば1秒より短い周期)で起動される。図9におけるステップS45及びS46の処理は、実施の形態1の図5におけるステップS15及びS16の処理と同様である。
図9の処理が起動された場合、CPU21は、通信部27により、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nの配電線10における位置データと、夫々の計測電圧値、即ち電圧分布を取得する(S42:電圧取得部に相当)。次いで、CPU21は、取得した電圧分布の平均値Vavr、又は最大値Vmaxと最小値Vminの中間の値若しくは差分を算出する(S44)。電圧分布の平均値Vavr、又は最大値Vmaxと最小値Vminの中間の値を算出した場合、CPU21は、力率検出部51によって配電線10に印加される電圧V’sを更に検出する(図示せず)。
電圧分布の平均値Vavrを算出した場合、CPU21は、検出した電圧V’s及び算出した平均値Vavrを式(18)の右辺に適用して電圧降下の中心値を推定することにより、補償電圧V’dを決定する。また、電圧分布の最大値Vmaxと最小値Vminの中間の値を算出した場合、CPU21は、検出した電圧V’s及び算出した中間の値を式(16)の右辺に適用して電圧降下の中心値を推定することにより、補償電圧V’dを決定する。
更にまた、電圧分布の最大値Vmaxと最小値Vminの差分を算出した場合、CPU21は、算出した差分を式(17)の右辺に適用して電圧降下の中心値を推定することにより、補償電圧V’dを決定する(S45:決定部に相当)。その後、CPU21は、決定した補償電圧V’dを示すデータをRAM23に記憶した(S46)後、図9の処理を終了する。
以上のように本実施の形態3によれば、配電線10における電圧分布を計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nから取得するため、電流分布が変動して電圧降下中心点が移動した場合であっても、配電線10の電圧降下の中心値を的確に推定して補償電圧をV’d適切に決定することが可能となる。
また、実施の形態3によれば、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nから取得した電圧分布の平均値Vavr、及び配電線10に印加される電圧V’sに応じて配電線10における電圧降下の中心値を推定する。即ち、電圧分布の平均値Vavrに対応する配電線10上の点が、電圧降下の中心点に相当するため、この中心点の電圧を配電線10に印加される電圧V’sから差し引いて補償電圧V’dをより適切に決定することが可能となる。
更に、実施の形態3によれば、計測用子局M_1,M_2,M_3・・・M_N−1,M_Nから取得した電圧分布の最大値Vmax及び最小値Vminの中間の値、又は電圧分布の最大値Vmax及び最小値Vminの差分に応じて配電線10における電圧降下の中心値を推定するため、補償電圧V’dを更に適切に決定することが可能となる。
更に、実施の形態1から3までによれば、変電所200からの交流電圧を変圧して配電線10に印加する変圧器110が変圧した電圧Vs又はV’sから、線路電圧降下補償器1又は1bが決定した補償電圧を差し引いた電圧が、例えば基準電圧である目標の電圧に近づくように変圧器110のタップを切り換える。従って、適切に決定された補償電圧Vd又はV’dに応じて、配電線10に印加される交流電圧Vs又はV’sを適切に制御することが可能となる。
なお、実施の形態1,2,3にあっては、例えば変圧器110の一次側に変電所からの交流電圧が印加され、一次側から二次側に変圧された交流電圧が配電線10に印加されたが、これに限定されるものではない。例えば系統切換が行われて変圧器110の一次側が変電所200から切り離され、更に変圧器110の二次側に他の変電所からの交流電圧が印加された場合は、変圧器110の二次側から一次側に変圧された交流電圧が他の配電線に印加されるようにしてもよい。この場合であっても、線路電圧降下補償器1又は1bは、他の配電線における制御範囲の電圧を適切に制御するための補償電圧を決定することが可能となる。
以下では、実施の形態3に係る線路電圧降下補償システム100bを用いて制御範囲の電圧を制御した場合と、従来の方式で制御した場合とをシミュレーションによって比較検証した結果について説明する。図10は、検証に用いた系統モデルを示す説明図である。このモデルでは、変電所200からの電線路の亘長が3kmの地点に線路電圧降下補償システム(以下、SVRと言う)100bが設置されており、SVR100bは亘長が5kmの配電線10に、補償電圧によって補償した交流電圧を印加する。
配電線10は、1km毎に5つの区間に分割されており、夫々の区間の末端部であるA地点、B地点、C地点、D地点及びE地点には、均等な負荷L_1、L_2、L_3、L_4及びL_5が接続されている。配電線10の末端側のE地点には、場合により、太陽光発電を行って逆潮流を発生させるメガソーラL_5bが系統連系される。メガソーラL_5bが系統連系されている構成をPV連系ありとし、系統連系されていない構成をPV連系なしとする。SVR100bは、少なくともE地点の電圧を通信によって取得することが可能であるが、通信線の図示を省略してある。
図11は、負荷L_1,L_2,L_3,L_4,L_5の時間帯毎の有効電力及び無効電力を示すグラフであり、図12は、メガソーラL_5bの時間帯毎の有効電力を示すグラフである。図11及び図12の横軸は時刻[時]を表し、縦軸は電力[MW]を表す。図11における実線は有効電力を示すものであり、波線は無効電力を示すものである。図11では、有効電力が8時頃から急増し、15時頃から22時頃までの間に漸減する。無効電力は15時頃から急増し、20時頃から22時頃までの間に漸減する。図12では、6時頃から18時頃までの間に有効電力が釣り鐘状に増減する。但し、短時間内に電力が変動する割合が、負荷L_1,L_2,L_3,L_4,L_5よりも大きい。
本検証では、実施の形態3に示した方法によってSVR100bがE地点の電圧を取得して配電線10の電圧降下の中心値を推定する方法(通信あり)と、実施の形態1に示した方法によって通信によらずに電圧降下の中心値を推定する方法(通信なし)と、電圧降下中心点を固定的に推定する従来の方法とについて、夫々PV連系あり/なしの計6通りでシミュレーションを行った。検証条件は以下のとおりである。
(a)電圧/電流のサンプリング周期、及び制御周期:1分
(b)制御範囲の電圧管理幅:6700V〜6300V
(c)線路定数:R=0.237[Ω/km]、X=0.401[Ω/km]
(d)制御方式(補償方法)
・通信ありの場合は式(17)により補償電圧V’dを決定する。但し、VmaxはSVR100bの力率検出部51が検出した電圧であり、VminはSVR100bの制御部2bが通信によって取得したE地点における電圧である。
・通信なしの場合は式(13)に、N=5とした式(15)を代入して補償電圧V’dを決定する。Iは電流検出部31が検出した電流である。
・従来の方法の場合は、線路電圧降下補償器1bに相当するLDCに、R=0.357、X=0.174の整定値(但し、SVR100bの容量が3000kVA、二次定格が6600Vの場合)を設定する。
図13は、シミュレーションによる検証結果を総合的に示す図表である。表中のNo.は、1がPV連系なしの場合、2がPV連系ありの場合である。補償誤差[V/min]は、配電線10における電圧分布の中央値(最大値と最小値との中間値)と、A地点からE地点までの5地点の電圧の平均値との誤差である。図13より、PV連系なし及びPV連系ありの何れの場合であっても、通信あり又は通信なしの補償方法を用いる方が、従来の補償方法を用いるよりも補償誤差が低減されることが示される。特に通信ありの場合は、従来の方法の場合と比較して補償誤差が1/10以下に低減される。通信なしの場合は、従来の方法の場合と比較して補償誤差が1/2程度に低減される。
図14は、PV連系なし且つ通信ありの場合のシミュレーション結果を示すグラフであり、図15は、PV連系あり且つ通信ありの場合のシミュレーション結果を示すグラフである。図16は、PV連系なし且つ通信なしの場合のシミュレーション結果を示すグラフであり、図17は、PV連系あり且つ通信なしの場合のシミュレーション結果を示すグラフである。図18は、PV連系なしで従来の方法を用いた場合のシミュレーション結果を示すグラフであり、図19は、PV連系ありで従来の方法を用いた場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14から図19までの各図において、横軸は時刻[時]を表し、縦軸は電圧[kV]を表す。SVR100bの制御範囲における電圧管理幅の上限値は6.7kVであり、下限値は6.3kVである。各図中の細い一点鎖線は、変圧器110からの電圧(二次側の電圧)V’sを示すものである。太い実線(曲線)は、V’sから補償電圧V’dを減算した補償後の電圧を示すものである。また、太い破線は、A地点からE地点までの各地点の電圧の平均値を示すものである。
各図の各時刻において、細い一点鎖線で示される電圧から、太い実線(曲線)で示される電圧を減算した電圧の大きさ及び極性夫々が、補償量及び補償の向きを表す。即ち、各図において、細い一点鎖線と太い実線とが接近している場合は、補償量が少ないことを表す。また、細い一点鎖線に対して、太い実線及び太い破線が、同じ側(上側又は下側の何れか)にある場合は補償の向きが適正であり、互いに反対側にある場合は補償の向きが逆であることを表している。更に、太い実線と太い破線とが接近しているほど補償誤差が小さいことを表している。
図14から図17までに示されるように、実施の形態3に係る通信ありの補償方法、又は実施の形態1に係る通信なしの補償方法によれば、多少の補償誤差が発生する時間帯があるものの、概ね補償量と補償の向きが負荷変動に適切に追従していると言える。これにより、SVR100bに含まれる線路電圧降下補償器1bで決定された補償電圧の大きさ及び極性が適切であったと推測される。
一方,図18及び19に示されるように、従来の補償方法によれば、補償の向きが逆になる時間帯があることがわかる。これは、LDCへの整定値(R及びX)の算出に用いられた力率値(標準では0.95)にずれがあったためと考えられる。ただし、推定された電圧降下中心点の目標の電圧(基準電圧)は6450Vと低めに設定されており、電圧管理幅からの逸脱は適切に回避されている。なお、図19に示すPV連系ありの場合では、太陽光発電が行われる時間帯に、補償誤差が大きくなる傾向がある。これは、太陽光発電
による逆潮流で見かけ上の負荷が軽くなり、電圧降下中心点が変動したために、補償量が適切ではなかったことが原因であると推測される。
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、各実施の形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
1、1b 線路電圧降下補償器
10 配電線
S_1,S_2・・・S_N 区間
L_1,L_2・・・L_N 負荷
M_1,M_2・・・M_N 計測用子局
2、2b 制御部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 タイマ
25 入力部
26 出力部
27 通信部
28 通信線
30 変流器
31 電流検出部
40 計測用変圧器
41 電圧検出部
51 力率検出部
100、100b 線路電圧降下補償システム
110 変圧器
111 タップ切換器
200 変電所

Claims (13)

  1. 変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、
    前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出する電流検出部と、
    該電流検出部が検出した電流と、前記配電線のインピーダンスの抵抗成分及びリアクタンス成分と、前記配電線から前記負荷に供給される電力の力率角とに基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部と
    を備える線路電圧降下補償器。
  2. 変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、
    前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出する電流検出部と、
    前記配電線における前記負荷の分布を記憶する記憶部と、
    該記憶部が記憶した前記負荷の分布に基づいて前記配電線における正規化された電流分布を算出する算出部と
    前記電流検出部が検出した電流及び前記算出部が算出した電流分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部と
    を備える線路電圧降下補償器。
  3. 変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、
    前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出する電流検出部と、
    前記配電線における正規化された電流分布を記憶する記憶部と、
    前記電流検出部が検出した電流及び前記記憶部に記憶された電流分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部と
    を備える線路電圧降下補償器。
  4. 前記決定部は、前記配電線のインピーダンスに更に基づいて前記中心値を推定する請求項2又は請求項3に記載の線路電圧降下補償器。
  5. 前記決定部は、前記配電線の抵抗成分及びリアクタンス成分と、前記配電線から前記負荷に供給される電力の力率角とに更に基づいて前記中心値を推定する請求項に記載の線路電圧降下補償器。
  6. 前記変圧器から前記配電線に印加される電圧を検出する電圧検出部と、
    前記配電線に供給される電力の力率角を検出する力率検出部と
    を更に備え、
    前記決定部は、前記電圧検出部が検出した電圧及び前記力率検出部が検出した力率角に更に基づいて前記中心値を推定する請求項1又は請求項5に記載の線路電圧降下補償器。
  7. 変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、
    前記配電線における電流分布を取得する電流取得部と、
    該電流取得部が取得した電流分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部と
    を備える線路電圧降下補償器。
  8. 前記決定部は、電流分布の平均値に基づいて前記中心値を推定する請求項から請求項5又は請求項7の何れか1項に記載の線路電圧降下補償器。
  9. 変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償するための線路電圧降下補償器であって、
    前記配電線における3箇所以上の電圧の計測結果に基づく電圧分布を取得する電圧取得部と、
    該電圧取得部が取得した電圧分布に基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定する決定部と
    を備える線路電圧降下補償器。
  10. 前記変圧器から前記配電線に印加される電圧を検出する電圧検出部を更に備え、
    前記決定部は、前記電圧取得部が取得した電圧分布の平均値及び前記電圧検出部が検出した電圧に基づいて前記中心値を推定する請求項9に記載の線路電圧降下補償器。
  11. 前記決定部は、前記電圧取得部が取得した電圧分布の最大値及び最小値に基づいて前記中心値を推定する請求項9に記載の線路電圧降下補償器。
  12. 請求項1から11の何れか1項に記載の線路電圧降下補償器と、
    交流電源からの交流電圧を変圧して前記配電線に印加しており、変圧比を切り換えるためのタップを有する変圧器と、
    該変圧器が変圧した電圧を検出する変圧電圧検出部と、
    該変圧電圧検出部が検出した電圧から前記線路電圧降下補償器が決定した補償電圧を減じた電圧が目標の電圧に近づくように前記タップを切り換える切換制御部と
    を含む線路電圧降下補償システム。
  13. 変圧器からの交流電力を負荷に配電する配電線に生じる電圧降下を補償する補償電圧を決定する方法であって、
    前記変圧器から前記配電線に流入する電流を検出するステップと、
    検出した電流と、前記配電線のインピーダンスの抵抗成分及びリアクタンス成分と、前記配電線から前記負荷に供給される電力の力率角とに基づいて前記電圧降下の中心値を推定することにより、前記電圧降下を補償する補償電圧を決定するステップと
    を含む補償電圧決定方法。
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