以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1,2には、本発明の1実施形態としての医療用積層構造体10が示されている。本実施形態の医療用積層構造体10は、病変部の観察や治療などに際して医療分野で用いられるカテーテルなどの医療器具本体に装着されて用いられ得る。
より詳細には、医療用積層構造体10は、厚さ方向に積層された複数層の一体的な積層構造を有しており、本実施形態では、中間に位置する金属粉体層12が、一対の保持層14,14で上下両側から挟まれて保持された3層構造を有している。
本実施形態では、医療用積層構造体10が、厚さ寸法に比して面方向に大きく広がった全体としてシート形状とされている。厚さ方向両側の保持層14,14の具体的形状は限定されるものでないが、本実施形態では、それぞれが略一定の厚さ寸法で広がる薄膜状またはフィルム状とされている。また、これら保持層14,14は、互いに異なる厚さや形状、材質などを有していても良いが、本実施形態では、略矩形の平面形状を有する同一の保持層14,14が用いられている。
保持層14の材質は、要求される強度や柔軟性、弾性、耐蝕性などを考慮して選択可能であって、一般に医療用積層構造体10の用途や形状などによって適宜決定され得る。具体的には、例えば合成樹脂、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂や、天然ゴムまたは合成ゴムなどが好適である。本実施形態では、保持層14,14が、熱可塑性ポリアミドエラストマーであるアルケマ株式会社製「Pebax(登録商標)」により形成されている。
なお、保持層14の厚さ寸法は、材質と併せて要求される各種特性を満足するように、医療用積層構造体10の用途や形状などに応じて適宜決定され得るものであり、限定されない。尤も、本実施形態のように面方向で比較的自由に湾曲可能なほどに軟質とするに際しては、保持層14の厚さ寸法A(図2参照)は、5μm〜1000μmの範囲内に設定されることが好適であり、それによって金属粉体の保持性能や柔軟性能が容易に実現可能となる。
そして、これら保持層14,14の上下方向間に金属粉体層12が挟まれて保持されている。かかる金属粉体層12は、多数の金属粉体16が、相互に直接固定されていない状態で層状に位置せしめられることで構成されている。なお、金属粉体16は、金属粉体層12の全体としての変形を金属粉体16間の相対移動で許容し得る状態で非固定であれば良い。全ての金属粉体16が非固定である必要はなく、例えば保持層14に近接する領域では金属粉体16が保持層14に固着されていても良いし、幾つかの金属粉体16が相互に固着状態等であっても良い。
ところで、本実施形態における金属粉体層12は、医療用積層構造体10の全面に亘って略均一に設けられており、保持層14,14と略同じ大きさの略矩形状とされているか、または保持層14,14より僅かに小さい大きさの略矩形状とされている。尤も、かかる金属粉体層12は、例えば医療用積層構造体10において特定の領域だけに部分的に設けられていても良いし、任意の外周形状の領域に設けられていても良い。なお、ベースとなる図2中の下側の保持層14上で部分的に金属粉体層12を設ける場合に、上側の保持層14は下側の保持層14と同じ大きさにする必要はなく、例えば金属粉体層12を設けた部分だけを覆って保持し得る態様で上側の保持層14を形成することも可能である。
金属粉体の材質は、医療用積層構造体10の用途などによって適宜決定され得るが、X線不透過性を有しており、本実施形態では、金属粉体16が、タングステンにより構成されている。なお、本発明では、X線に対して不透過性を有する金属粉体として、例えば白金や白金−イリジウム合金、酸化ビスマスや硫酸バリウム、またはこれらの混合物などの粉体が採用されてもよい。
かかる金属粉体16の粒子径は、要求される特性や構造体厚さ寸法などを考慮して適宜に設定されるものであって限定されない。尤も、金属粉体16の粒子径が小さすぎると取扱いが面倒になる一方、粒子径が大きすぎると金属粉体層12の厚さ寸法を小さく設定できなかったり、医療用積層構造体10に充分な柔らかさを設定するのが難しくなるおそれがある。そこで、本実施形態のように面方向で比較的自由に湾曲可能なほどに軟質とするに際しては、例えば1μm〜20μmの範囲内に金属粉体16の平均粒子径を設定することが望ましい。なお、金属粉体16は必ずしも凝集するものではないが、凝集することを考慮すると、かかる凝集体の平均粒子径が100μm以下の範囲内に設定されてもよい。
なお、金属粉体16の粒子径は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いて得られた画像をコンピュータソフトウェアで真円として認識させた後に基準スケールを用いて実測することにより正確に把握することが可能であり、個数基準で平均粒子径を把握することができる。尤も、近年ではレーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置を用いて容易に測定することも可能であり、得られた個数基準の頻度を表す粒度分布などから平均粒子径を簡易的に把握することもできる。
また、金属粉体層12の厚さ寸法も、採用される金属粒子16の粒子径および医療用積層構造体10に要求される特性や構造体厚さ寸法などを考慮して適宜に設定されるものであって限定されない。尤も、本実施形態のように医療用積層構造体10がカテーテル(44)の内シャフト(46)への装着性を考慮して面方向で比較的自由に湾曲可能なほどに軟質とするに際しては、金属粉体層12の最大層厚さ寸法B(図2参照)は、50μm〜500μmの範囲内に設定されることが好適であり、より好適には、100μm〜300μmの範囲内に設定される。金属粉体層の最大層厚さ寸法Bが、50μmより小さい場合には、金属粉体層が薄すぎて、金属の特性が十分に発揮されないおそれがあるとともに、成形が困難となるおそれがある。特に、本実施形態のようにX線不透過性の金属粉体16を用いてマーカーを構成する場合には、X線の透過画像においてマーカーとしての医療用積層構造体10が十分に視認できないおそれがある。一方、金属粉体層の最大層厚さ寸法Bが、500μmより大きい場合には、小径の内シャフト(46)へ装着すること等を考慮すると、金属粉体層が厚すぎて、層の状態で保持することが困難となったり、医療用積層構造体10が所望の柔軟性を得られないおそれがある。
なお、本実施形態では、金属粉体層12の層厚さ寸法が、医療用積層構造体10の中央部分において最も大きくされており、かかる層厚さ寸法が最も大きくされた部分が、略一定の層厚さ寸法をもって、平面視において略矩形状の所定領域に亘って広がって形成されている。そして、中央の、層厚さ寸法が略一定とされた部分から外周縁部に向かって層厚さ寸法が次第に小さくされており、医療用積層構造体10の外周縁部において、金属粉体層12の層厚さ寸法が略0とされている。
そして、金属粉体層12の層厚さ寸法が略0とされた医療用積層構造体10の外周縁部では、上下一対の保持層14,14が互いに直接に重ね合わされており、それら一対の保持層14,14が必要に応じて相互に固着されている。これにより、医療用積層構造体10の外周部分には、金属粉体層12が不必要に外部へこぼれ出てしまうことを抑える封止部が、略一定の幅寸法で全周に亘って連続して形成されている。
以上の如き金属粉体層12と保持層14,14とを含んで構成された本実施形態の医療用積層構造体10について、その製造方法は、何等限定されるものではない。例えば、下側の保持層14を略水平面な支持板上に広げて載置し、その上面に所定量の金属粉体16を供給して層状に整えて金属粉体層12を設けた後、更に当該金属粉体16の上方から上側の保持層14を重ね合わせて金属粉体層12の上面を覆うように配置する。その後、上側の保持層14の上方から押圧板を下方に向けて押し付けることにより、支持板と押圧板との間で、上下の保持層14,14間に金属粉体層12が積層状態で設けられた積層体の全体に対して上下方向に押圧力を及ぼすプレス工程を実施する。
なお、本実施形態の医療用積層構造体10における中央部分と外周部分等のように、厚さ寸法が部分的に異なっている場合には、目的とする医療用積層構造体10の厚さ形状に対応したプレス面形状としたり、変形可能なプレス面構造を採用しても良い。また、医療用積層構造体10の外周縁部では、上下の保持層14,14の重ね合わせ面を接着や溶着して相互に固着した封止状態とすることで金属粉体16の外部へのこぼれ出しを抑えることが望ましい。特に、本実施形態では、両保持層14,14がそれぞれ熱可塑性樹脂により構成されていることから、両保持層14,14間の金属粉体層12の厚さが小さく又は略0とされた外周縁部において、加熱プレスを施し上下の保持層14,14を直接に又は僅かな金属粉体16を挟んで相互に熱溶着することで、医療用積層構造体10の外周縁部が封止状態とされ得る。なお、加熱プレスによる施工は、予め予備加熱炉などで積層体を所定温度まで加熱しておいてからプレスを施すほか、電気や蒸気で加熱される熱板を備えたプレス加工を採用したり、プレス面を介して保持層14,14を超音波加熱することなども可能である。
このようにして得られた本発明に従う医療用積層構造体10は、金属から構成されて面方向に広がる層を備えていることにより、金属の特性を発揮し得ることとなる。一方、かかる金属層が、一体的な金属板でなく、相互に固定されていない多数の金属粉体16から構成されていることから、金属粉体同士の相互移動によって容易な変形が許容される。それ故、保持層の材質や厚さなどを適切に設定することにより、要求される柔らかさ等の変形特性を備えた医療用積層構造体10を得ることが可能となる。
なお、後述するカテーテルへの巻付けなどの装着態様を考慮すると、医療用積層構造体10は、装着状態下で亀裂などの不具合が発生しないように、装着状態で及ぼされる変形に対して充分に追従し得る柔らかさを設定するようにされる。具体的には、例えば塗装面の柔軟性を規定するISO1519(2011)に示されるマンドレルの外周に沿った曲げ変形試験にならって、装着状態で及ぼされる曲率に相当するマンドレル外周に沿って180度の曲げ変形を及ぼした際に、異常が発生しないようにされる。即ち、カテーテル外周面に装着する際には、カテーテル外径に相当する2mmや3mm、5mmなど適宜の外径のマンドレルの外周面に沿った柔軟な曲げ変形の特性が付与された医療用積層構造体が、好適に採用され得る。
本実施形態の医療用積層構造体10は、シート状とされることから、それが単体で用いられる他に、任意の各種の医療器具本体に対して溶着等して装着することで用いることが可能である。例えば、図3に示されるように、カテーテル18の外周面に固着されて使用され得る。なお、図3および後述する図7(b),(c)では、分かり易さのために、カテーテル18(バルーンカテーテル44)の周壁の径方向幅寸法に比べて、医療用積層構造体10の厚さ寸法を大きく誇張して図示している。
すなわち、カテーテル18は、軟質の合成樹脂などで形成されたシャフト20を含んで構成されており、医療用積層構造体10が、例えばシャフト20の先端部分における外周面に固着される。具体的には、シート形状とされた医療用積層構造体10が、シャフト20の先端部分に巻き付けられて、全体として円筒形状に変形せしめられた状態で装着される。
なお、内周側に位置する保持層14の外面(内周面)とシャフト20の外周面とは、必要に応じて接着や溶着などにより相互に固着される。特に、シャフト20が、熱可塑性樹脂により形成される場合には、シャフト20と保持層14とを熱溶着により相互に固着することもできる。また、シャフト20に対して、医療用積層構造体10は、周方向で一周以下の長さで固着されていても良いし、周方向で一周の長さで環状で固着されたり、周方向に複数回巻き付けられて重ね合わされて装着されても良く、更に例えば所定幅で延びるテープ状の医療用積層構造体10を螺旋状に巻き付けて長さ方向に所定長さの筒状として装着することなども可能である。
以上のように、医療用積層構造体10が固着されたカテーテル18は、医療用積層構造体10が、X線に対して不透過性を有する金属粉体16からなる金属粉体層12を含んで構成されていることから、カテーテル18を人体内に挿入した場合であっても、X線透過画像などを確認することで、人体内における金属粉体層12の位置、即ちカテーテル18の先端部分の位置などを把握することができる。このような医療用積層構造体10を採用することで、従来のように、造影マーカーとしての金属リングを用いる必要がないことから、カテーテル18の柔軟性が安定して確保され得る。
すなわち、本実施形態の医療用積層構造体10は、前述のように金属粉体16の相互移動が許容されることで金属特性を有しつつ柔らかい変形特性を備えているのであり、カテーテル等の医療器具本体へ装着した際に、例えば金属プレートや金属リング等の金属成形品を装着する場合に比して、医療器具本体が有する柔軟性への悪影響が軽減され得る。より具体的には、X線に対して不透過性を有する金属粉体16を採用することで、医療用積層構造体10を造影マーカーとして利用することができるのであり、例えば、かかる医療用積層構造体10をカテーテル18に固着することで、造影マーカーを設けつつもカテーテル18の剛性の増大が抑えられて、カテーテル18の柔軟な変形特性も良好に維持され得る。
また、医療用積層構造体10がシート形状とされていることから、厚さ寸法や保持層の材質などを適切に設定することで必要な柔軟性を付与することが可能であり、例えば医療用積層構造体10を湾曲させたり捩じったり、折り曲げたりして所望の形状に容易に変形させることも可能になる。それ故、例えば本実施形態のように、小径のカテーテル18のシャフト20の形状に合わせた小径の円筒形状とすることも可能となる。
さらに、本実施形態では、少なくとも一方の保持層14が熱可塑性樹脂により構成されることで、カテーテルなどの医療用の部材に対して当該熱可塑性樹脂からなる保持層14を熱溶着により固着して、医療用積層構造体10を容易に且つ確実に装着することもできる。
特に、本実施形態では、両方の保持層14,14が熱可塑性樹脂により構成されることで、それぞれの保持層14,14を相互に貼り合わせて熱溶着により固着することで、金属粉体層12を外部空間に対して簡易に封止することも可能となる。
なお、本実施形態の医療用積層構造体10では、保持層14,14を構成する樹脂等に金属粉体16を混練して分散状態とするものではないことから、保持層の柔軟性などの特性に対して金属粉体16が直接に悪影響を及ぼすことも回避される。
[実施例]
本発明者らは、本発明の構造に従う医療用積層構造体を複数試作して(実施例1〜6)、当該医療用積層構造体が金属の特性を有しつつ、柔軟に変形し得るかを確認した。なお、試作した医療用積層構造体においては、金属粉体として、平均粒子径がおよそ5μmのタングステン粉末を採用するとともに、保持層として、アルケマ株式会社製「Pebax(登録商標)6333 SA01 MED」のシート状成形品を採用した。また、試作した医療用積層構造体では、金属粉体層を、略円形の平面外周形状をもって製作した。そして、これら試作した複数種類の医療用積層構造体に対してX線を透過させて、造影性(金属の特性)が発揮されるかを確認した。また、これら試作した複数種類の医療用積層構造体を、前述の屈曲試験装置を用いて折り曲げて、十分な柔軟性を有しているかを確認した。
作製した医療用積層構造体の試作品(実施例1〜6)を、断面写真についてはデジタルマイクロスコープVHX−5000(株式会社キーエンス製)、造影写真についてはX線循環器診断システムINFX−8000C(東芝メディカルシステムズ株式会社製)を用いて撮影した。その断面写真と造影写真をそれぞれ図4(a)〜(c)および図5(a)〜(c)に示す。なお、造影写真においては、黒く造影されている部分が、金属粉体層を示す部分である。そして、撮影した断面写真から、実施例1〜6における医療用積層構造体の上側保持層、金属粉体層、下側保持層の厚さ寸法をそれぞれ算出した。
その結果、図4(a)に示す実施例1については、上側保持層が40.7μm、金属粉体層が135.9μm、下側保持層が37.2μmであった。図4(b)に示す実施例2については、上側保持層が32.1μm、金属粉体層が208.0μm、下側保持層が33.4μmであった。図4(c)に示す実施例3については、上側保持層が79.3μm、金属粉体層が87.6μm、下側保持層が78.0μmであった。図5(a)に示す実施例4については、上側保持層が79.7μm、金属粉体層が146.4μm、下側保持層が88.5μmであった。図5(b)に示す実施例5については、上側保持層が102.8μm、金属粉体層が140.5μm、下側保持層が62.0μmであった。図5(c)に示す実施例6については、上側保持層が60.7μm、金属粉体層が231.5μm、下側保持層が63.0μmであった。
また、図4(a)〜(c)および図5(a)〜(c)に示す結果から、本発明者らは、試作した医療用積層構造体の何れにおいても金属粉体層が造影され得る(医療用積層構造体が金属の特性を有する)ことを確認した。さらに、図4(a)(実施例1)と図4(b)(実施例2)とを比較することで、金属粉体層の厚みが大きくなると透過X線を撮影した画像における造影の明瞭度が上がる(金属の特性がより強く発揮される)ことを確認した。特に、図4(c)(実施例3)と図5(a)(実施例4)とを比較することで、金属粉体層の最大層厚さ寸法が100μm以上とされる場合には、より良好な造影性が発揮されることを確認した。また、図4(a)(実施例1)と図5(b)(実施例5)とを比較することで、または図4(b)(実施例2)と図5(c)(実施例6)とを比較することで、金属粉体層の厚みが同程度である場合には、保持層の厚みが異なっても造影性は同等であることを確認した。すなわち、保持層の厚みにより金属の特性は影響を受けないことを確認した。さらに、試作した医療用積層構造体を、前述の屈曲試験装置を用いて折り曲げた結果、医療用積層構造体に割れなどの異常は確認されず、試作した医療用積層構造体は何れも、例えばカテーテルの周囲へ筒状にして装着するのに十分な柔らかさを有するものであることを確認した。
ところで、本実施形態の医療用積層構造体10は、例えば図6(a)に示されるカテーテル22に固着されてもよく、これにより、本発明に係る医療器具が構成されてもよい。すなわち、本発明に係る医療器具としてのカテーテル22は、カテーテル本体24の基端部に操作部としてのハブ26が設けられた構造とされている。カテーテル本体24は、先端側に設けられた挿通チューブ28と、基端側に設けられて、挿通チューブ28の基端側から延びるワイヤ30を含んで構成されている。ハブ26は硬質のプラスチック等から形成された部材で、ワイヤ30の基端側端部に固定的に設けられている。なお、図6(a)については、理解を容易とするために、後述する被覆チューブ33を透視して示す。また、以下の図6(a)、図7(a),(b)の説明においては、図中の左側を先端側、右側を基端側として説明する。
図6(a),(b)に、挿通チューブ28を示す。挿通チューブ28は、チューブ本体32に、被覆チューブ33が外挿状態で固着された構造とされている。チューブ本体32は、略一定の断面形状をもって、所定の寸法に亘って延びる湾曲容易な円筒形状を有している。チューブ本体32は、内層チューブ34の外周が外層チューブ36で覆われた重ね合わせ構造または積層構造とされており、内層チューブ34の内周面38によって、チューブ本体32の内周面が形成されている。但し、挿通チューブ28は円筒形状に限定されるものではなく、多角筒状などでも良い。
これら内層チューブ34および外層チューブ36の材質としては、熱可塑性樹脂が好適に採用され得るが、所定の形状保持特性と弾性とを有する材質であれば特に限定されない。そして、例えば内層チューブ34に外層チューブ36が外挿されて、互いに接着や溶着等されることにより、チューブ本体32が形成され得る。
また、内層チューブ34と外層チューブ36の間には、外層チューブ36の内周部分にメッシュ状に埋め込まれた金属製補強体としてのブレード40が設けられている。ブレード40は、内層チューブ34と外層チューブ36の間の略全長に亘って設けられている。
図6(a)に示すように、挿通チューブ28の基端部には、ワイヤ30の先端部が固着されている。そして、ワイヤ30の先端部がチューブ本体32における外層チューブ36の基端部の外周面上に重ね合わされると共に、チューブ本体32に対して別体形成された被覆チューブ33がワイヤ30の外側から重ね合わされて外層チューブ36に外挿状態で被着されることによって、ワイヤ30が外層チューブ36と被覆チューブ33に挟まれて挿通チューブ28に固定されている。
さらに、挿通チューブ28の先端部分には、先端チップとして医療用積層構造体10が設けられている。図6(c)にも示されるように、医療用積層構造体10は、例えば予め帯状に形成されたものを、丸めて円筒形状に変形せしめること等により筒形状とされている。そして、かかる医療用積層構造体10が、内層チューブ34および外層チューブ36の先端部分に溶着や接着などの手段により固着されている。円筒形状とされた医療用積層構造体10は、その内径寸法が内層チューブ34の内径寸法と略等しくされると共に、その外径寸法が外層チューブ36の外径寸法と略等しくされている。なお、このような筒形状の医療用積層構造体10は、予め薄肉のテープ状に形成したものを巻き重ねて所定厚さとしてもよいし、或いは円筒形状の内外保持層14,14間に金属粉体16を充填して形成することもできる。さらに、円筒形状の内外保持層14,14の少なくとも一方を内外層チューブ34,36で構成して、チューブ本体32と医療用積層構造体10を一体成形してもよい。
かかる構造とされたカテーテル22によれば、例えば血管に予め挿入しておいたカテーテル22の挿通チューブ28に対して治療用カテーテルであるバルーンカテーテルなどを挿通させることで、血管中の所望の位置にバルーンカテーテルなどを容易にデリバリすることも可能となる。本態様のカテーテル22においては、先端チップとして、円筒形状に変形せしめられた医療用積層構造体10が採用されており、且つ、当該医療用積層構造体10により造影マーカーが構成されていることから、カテーテル22を人体内に挿入した場合であっても、X線透過画像などを確認することで、人体内における金属粉体層(12)の位置、即ちカテーテル22の先端部分の位置などを容易に把握することができる。
さらに、本実施形態の医療用積層構造体10は、例えば図7(a),(b)に示されるバルーンカテーテル44に固着されてもよい。すなわち、図7(b)に示されているように、本態様のバルーンカテーテル44は、それぞれ管状とされた内シャフト46に外シャフト48を外挿した二重管構造を有しているとともに、基端側にハブ49を備えている。なお、内シャフト46と外シャフト48は、何れも、血管に沿って湾曲可能な特性を有するものとして従来から公知の各種の材質や構造で形成され得る。
また、内シャフト46の先端部分は、外シャフト48の先端から所定長さで突出しており、内シャフト46の突出端部には先端チップ50が取り付けられている。
さらに、外シャフト48から突出した内シャフト46の先端部分には、バルーン52が外挿状態で配されている。バルーン52は、例えば変形可能な合成樹脂材等からなる膜で形成された筒状体で構成されており、径方向で拡縮変形可能とされている。
そして、バルーン52の軸方向両端が、外シャフト48の先端側外周面または内シャフト46の先端側外周面に対して流体密に固着されている。これにより、バルーン52の内部には、内シャフト46の先端側の外周面上で外部から密閉された空間が形成されている。また、バルーン52の内部に形成された空間には、軸方向に貫通して内シャフト46が配設されていると共に、外シャフト48の内部において内シャフト46の外周面上に形成された空間が開口して連通されている。
なお、本態様のバルーンカテーテル44は、オーバーザワイヤタイプとされている。尤も、本態様のバルーンカテーテル44は、ラピッドエクスチェンジタイプとされてもよい。
すなわち、内シャフト46の内腔によって、ガイドワイヤ挿通用のガイドワイヤルーメン58が形成されており、かかるガイドワイヤルーメン58が、バルーンカテーテル44の先端から基端まで延びている。
また、外シャフト48の内腔によって、内シャフト46の外周面上に調圧用ルーメン60が形成されており、かかる調圧用ルーメン60が、バルーンカテーテル44の略全長に亘って延びている。
かかる構造とされたバルーンカテーテル44におけるバルーン52の内部において、外シャフト48から突出した内シャフト46の先端部分には、一対の医療用積層構造体10,10がバルーンカテーテル44の長さ方向(図7(a),(b)中の左右方向)で相互に離隔して取り付けられている。本態様では、バルーン52の軸方向両端部分に相当する位置において、内シャフト46に対して医療用積層構造体10,10が固着されている。すなわち、図7(c)にも示されるように、本態様においても帯状の医療用積層構造体10が丸められて変形せしめられており、略環状又は略C字形状とされて、その内周側が内シャフト46の周壁に対して溶着や接着の手段により固着されている。なお、内シャフト46の周壁の外周面には、医療用積層構造体10,10を位置決め等するための、例えば環状の凹部などが形成されてもよい。また、医療用積層構造体10をテープ形状として内シャフト46の外周面に複数回巻き重ねて筒形状とすることも可能であり、巻締力を利用して非接着で内シャフト46へ固定的に接着することもできる。
上記の如き構造とされたバルーンカテーテル44は、血管中の狭窄部位にバルーン52をデリバリし、当該バルーン52を拡張変形させることで血管を押し広げて、患者の血流の回復を図るようになっている。そして、かかるバルーンカテーテル44においても、医療用積層構造体10,10が固着されていることから、前記図3に示されるカテーテル18や図6に示されるカテーテル22と同様に、カテーテル44を人体内に挿入した場合であっても、X線透過画像などを確認することで、人体内における金属粉体層12の位置、即ちカテーテル22の先端部分の位置などを把握することができる。特に、本態様のように、バルーン52の両端の位置に医療用積層構造体10,10が固着されることで、血管中においてもバルーン52の位置をより確実に把握することができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
たとえば、医療用積層構造体は、前記実施形態の如き略矩形のシート形状に限定されるものではなく、多角形や円形(半円、楕円などを含む)の他、図8に示される矢印形状や数字、文字、記号など各種の外周形状が採用され得る。また、変形後の形状においても、前記実施形態の如き略円筒形状に限定されるものではなく、例えば断面が多角形とされた筒形状などであってもよい。なお、図8に示される矢印形状の医療用積層構造体62においても、矢印形状とされた一対の保持層64,64の上下方向間に金属粉体層66が保持されている。医療用積層構造体としてこのような矢印形状を採用してカテーテルに固着することにより、例えば造影時にカテーテルの進行方向などを容易に把握することも可能である。
なお、上記の如き所定形状とされた医療用積層構造体は、例えばシート形状の医療用積層構造体を製造した後、所定形状に切り出すことで形成してもよい。その際、医療用積層構造体の切断面において、上下の保持層を相互に固着することが好適であり、これにより、金属粉体の漏出しが効果的に防止され得る。即ち、前記実施形態では、医療用積層構造体10の外周縁部において保持層14,14が相互に固着されて金属粉体層12が略封止された構造となっていたが、外周縁部の封止構造は本発明において必須でない。蓋し、金属粉体層12の層厚さやプレス程度、金属粉体16の径や形状等の他、医療用積層構造体10の使用態様などによっては、封止構造をもたなくても外部への金属粉体層12のこぼれ出しや層間剥離などは殆ど問題にならないからである。すなわち、医療用積層構造体は、金属粉体層12を、中央部分から外周縁部まで略一定の厚さ寸法として形成することも可能である。
尤も、必要に応じて、適切な間隔の桟状や格子状の態様、或いは分散して設定された複数の独立点や独立線状の態様などで部分的に保持層14,14を相互に固着しておくことも可能である。また、シート状とされた医療用積層構造体10を任意の形状に切り出した後、外周囲を接着剤などで後から封止することも可能である。更にまた、一対の保持層14,14間で、予め仕切られた複数の領域にだけ金属粉体層12を形成することも可能であり、金属粉体層12が形成されていない領域では一対の保持層14,14を相互に固着しておくことで切断予定領域とすることも可能である。
また、医療用積層構造体10における金属粉体層12に対して、金属粉体16の相互移動を許容しつつ、グリースやゲルなどを注入したり封入することも可能であり、それによって、金属粉体16の不用意なこぼれ出しを抑えたり、ある程度の形状保持特性を持たせたりすることも可能になる。
更にまた、前記実施形態では、医療用積層構造体10が、一対の保持層14,14と、その上下方向間に位置する金属粉体層12との3層構造とされていたが、金属粉体層は保持層の重ね合わせ方向(上下方向)で複数設けられてもよい。すなわち、例えば上下方向で3つの保持層が設けられるとともに、それらの間に第1の金属粉体層と第2の金属粉体層が設けられて、全体として5層構造とされてもよい。かかる場合には、上記第1の金属粉体層と第2の金属粉体層は、それらの全面に亘って上下方向で重なるようになっていてもよいし、全く重ならないようになっていてもよいが、少なくとも一部が重なり合うことで例えばX線の透過画像の明瞭度の向上を図り得る。また、部分的に重なり合うようにすることで、例えばX線の透過画像において、当該金属粉体層の重なり合う箇所を濃く造影させて当該部位を特定することも可能である。
また、前記実施形態では、保持層14,14の厚さ寸法Aが略全面に亘って略一定とされていたが、部分的に異ならされてもよい。さらに、前記実施形態では、金属粉体層12の層厚さ寸法が医療用積層構造体10の中央部分において略一定とされていたが、部分的に異ならされてもよい。すなわち、例えば金属粉体層は、医療用積層構造体内の同一平面上において相互に離隔して複数設けられてもよい。かかる場合には、医療用積層構造体において金属粉体層が設けられない箇所は、単に保持層同士が重ね合わせられているのみであってよい。このように、金属粉体層の層厚さ寸法を部分的に異ならせることで、X線の透過画像において、色の濃淡を作り出すことも可能となる。
更にまた、保持層と保持層との固着は、前記実施形態の如き熱溶着に限定されるものではなく、接着剤による接着であってもよい。かかる場合には、少なくとも一方の保持層における重ね合わせ部分にのみ接着剤を塗布してもよいが、保持層の全面に亘って接着剤を塗布してもよい。このように保持層の全面に亘って接着剤を塗布することで、金属粉体層の表面に位置する金属粉体は接着剤により保持層に固定されることとなるが、金属粉体同士が直接に固定されるものではなく、また、金属粉体層の中間に位置する金属粉体は、保持層にも他の金属粉体にも固定されない状態で保持されることから、医療用積層構造体において目的とする曲げ変形の柔軟さは実現され得る。
なお、前記実施形態では、X線に対して不透過性を有する金属粉体を造影マーカーとして利用していたが、造影マーカーとして利用する態様に限定されるものではない。すなわち、例えば金属粉体として鉄などを採用するとともに、医療用積層構造体を医療用の部材に固着することで、当該医療用の部材が磁性を有するようにしてもよい。あるいは、医療用の部材に対して金属粉体層を設けることで、当該医療用の部材を超音波に対して体内組織とは異なる反射態様を示すようにすることも可能であり、超音波を用いて人体内における医療用部材の位置などを確認するなど、本発明に係る医療用積層構造体は、例えば超音波診断などにも利用され得る。すなわち、本発明において、金属粉体の材質はX線不透過性を有していれば何等限定されるものではないし、また、前記実施形態の如く金属粉体層12の全体が同一の材質の金属粉体16で構成される必要はない。例えば、金属粉体層を、磁性を有する金属粉体とX線不透過性を有する金属粉体とを適切な配合率で混合することで構成してもよい。
また、前記図6に示されるカテーテル22は、先端側に設けられた挿通チューブ28と、基端側に設けられて、挿通チューブ28の基端側から延びるワイヤ30とを含んで構成されていたが、挿通チューブは、基端側まで一続きのチューブであるマイクロカテーテルのような態様とされてもよい。