ここで、車両として、エンジンと、前記エンジンが動力伝達可能に連結された第1回転要素と第1回転機が動力伝達可能に連結された第2回転要素と中間伝達部材が連結された第3回転要素とを有する差動機構と、前記中間伝達部材に動力伝達可能に連結された第2回転機と、前記中間伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成すると共に複数の係合装置のうちの所定の係合装置の係合によって複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機とを、備えるハイブリッド車両が適用されもよい。
また、回転機は、回転速度および回転方向を検出するレゾルバを備えて構成されも良い。このようにすれば、回転機に備えられている既存のレゾルバによって回転方向を検出でき、回転方向を検出する新たなセンサの追加が不要となる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、動力源として機能するエンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という)内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速機18(以下、無段変速機18という)と、無段変速機18の出力側に連結された機械式有段変速機20(以下、有段変速機20という)とを直列に備えている。また、車両用駆動装置12は、有段変速機20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、有段変速機20へ伝達され、その有段変速機20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10においてFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。なお、無段変速機18や有段変速機20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心)に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によってスロットル弁開度θth或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジン14の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速機18に連結されている。
無段変速機18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1および無段変速機18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。無段変速機18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、差動用回転機(差動用電動機)に相当し、また、第2回転機MG2は、動力源として機能する回転機(電動機)であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14および第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。なお、第2回転機MG2が、本発明の回転機に対応している。
第1回転機MG1および第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能および発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ52に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルクまたは回生トルク)であるMG1トルクTgおよびMG2トルクTmが制御される。バッテリ52は、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速機20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速機20の入力軸としても機能する。有段変速機20は、例えば第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという)とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量(係合トルク、クラッチトルクともいう)Tcbが変化させられることで、それぞれ作動状態(係合や解放などの状態)が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなく(すなわち係合装置CBに差回転速度を生じさせることなく)中間伝達部材30と出力軸22との間でトルク(例えば有段変速機20に入力される入力トルクであるAT入力トルクTi)を伝達する為には、そのトルクに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク(係合伝達トルク、クラッチ伝達トルクともいう)分(すなわち係合装置CBの分担トルク)が得られる係合トルクTcbが必要になる。但し、伝達トルク分が得られる係合トルクTcbにおいては、係合トルクTcbを増加させても伝達トルクは増加しない。つまり、係合トルクTcbは、係合装置CBが伝達できる最大のトルクに相当し、伝達トルクは、係合装置CBが実際に伝達するトルクに相当する。なお、係合トルクTcb(或いは伝達トルク)と係合油圧PRcbとは、例えば係合装置CBのパック詰めに必要な係合油圧PRcbを供給する領域を除けば、略比例関係にある。
有段変速機20は、第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の各回転要素(サンギヤS1,S2、キャリアCA1,CA2、リングギヤR1,R2)が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。
有段変速機20は、係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比)γat(=AT入力軸回転速度ωi/出力軸回転速度ωo)が異なる複数の変速段(ギヤ段)のうちの何れかのギヤ段が形成される、有段式の自動変速機である。つまり、有段変速機20は、係合装置CBの何れかが選択的に係合されることで、ギヤ段が切り替えられる(すなわち変速が実行される)、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速機20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力軸回転速度ωiは、有段変速機20の入力軸の回転速度(角速度)である有段変速機20の入力軸回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、また、第2回転機MG2は、有段変速機20に動力伝達可能に連結されていることから、AT入力軸回転速度ωiは、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωmと同値である。すなわち、AT入力軸回転速度ωiは、MG2回転速度ωmで表すことができる。出力軸回転速度ωoは、有段変速機20の出力軸22の回転速度であって、無段変速機18と有段変速機20とを合わせた全体の変速機40の出力軸回転速度でもある。
有段変速機20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)−AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高車速側(ハイ側のAT4速ギヤ段側)程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態(各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置)との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速機20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時(加速時)にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速機20のコーストダウンシフトは、駆動要求量(例えばアクセル開度θacc)の減少やアクセルオフ(アクセル開度θaccがゼロまたは略ゼロ)による減速走行中の車速関連値(例えば車速V)の低下によってダウンシフトが判断(要求)されたパワーオフダウンシフトのうちで、アクセルオフの減速走行状態のままで要求されたダウンシフトである。なお、係合装置CBが何れも解放されることにより、有段変速機20は、何れのATギヤ段も形成されないニュートラル状態(すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態)とされる。
有段変速機20は、後述する電子制御装置80(特には有段変速機20の変速制御を実行する後述するAT変速制御部82)によって、ドライバー(運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの(つまり変速前のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの)解放側係合装置の解放と係合装置CBのうちの(つまり変速後のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの)係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる(すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される)。つまり、有段変速機20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより)変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフト(2→1ダウンシフトと表す)では、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が調圧制御される。
図3は、無段変速機18と有段変速機20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速機18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速機20の入力軸回転速度)を表すm軸である。また、有段変速機20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1およびキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比)ρ0に応じて定められている。また、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速機18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速機20へ伝達するように構成されている。無段変速機18では、縦線Y2を横切る各直線L0,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
また、有段変速機20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速機20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0および直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ)=−(1/ρ)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ52に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部または一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ52からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωeはゼロとされ、MG2トルクTm(ここでは正回転の力行トルク)が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機20を介して駆動輪28へ伝達される。
図3中の破線で示す、直線L0Rおよび直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速機20を介して駆動輪28へ伝達される。後述する電子制御装置80は、前進用の低車速側(ロー側)ギヤ段(例えばAT1速ギヤ段)を形成した状態で、前進用のMG2トルクTm(ここでは正回転の正トルクとなる力行トルク)とは正負が反対となる後進用のMG2トルクTm(ここでは負回転の負トルクとなる力行トルク)を第2回転機MG2から出力させることで後進走行を行うことができる。このように、車両10では、前進用のATギヤ段(つまり前進走行を行うときと同じATギヤ段)を用いて、MG2トルクTmの正負を反転させることで後進走行を行う。なお、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された(見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された)第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構)としての無段変速機18が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と、差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速機18が構成される。無段変速機18は、中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωmに対する連結軸34の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)の変速比γ0(=ωe/ωm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速機20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速機20と無段変速機として作動させられる無段変速機18とで、無段変速機18(差動機構32も同意)と有段変速機20とが直列に配置された変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
または、無段変速機18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速機20と有段変速機のように変速させる無段変速機18とで、変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、変速機40において、出力軸回転速度ωoに対するエンジン回転速度ωeの変速比γt(=ωe/ωo)が異なる複数のギヤ段(模擬ギヤ段と称する)を選択的に成立させるように、有段変速機20と無段変速機18とを制御することが可能である。変速比γtは、直列に配置された、無段変速機18と有段変速機20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速機18の変速比γ0と有段変速機20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速機20の各ATギヤ段と1または複数種類の無段変速機18の変速比γ0との組合せによって、有段変速機20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1または複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図4は、ギヤ段割当(ギヤ段割付)テーブルの一例であり、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段−模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。
図5は、図3と同じ共線図上に有段変速機20のATギヤ段と変速機40の模擬ギヤ段とを例示した図である。図5において、実線は、有段変速機20がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものである。変速機40では、出力軸回転速度ωoに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωeとなるように無段変速機18が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。また、破線は、有段変速機20がAT3速ギヤ段のときに、模擬7速ギヤ段が成立させられる場合を例示したものである。変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速機18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
また、車両10は、エンジン14、無段変速機18、および有段変速機20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。よって、図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力軸回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、Gセンサ72、シフトポジションセンサ74、バッテリセンサ76、油温センサ78など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度ωe、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg、AT入力軸回転速度ωiであるMG2回転速度ωm、車速Vに対応する出力軸回転速度ωo、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量(すなわちアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量であるアクセル操作量)としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、車両10の前後加速度G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置(シフト操作ポジション)POSsh、バッテリ52のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、係合装置CBの油圧アクチュエータへ供給される作動油の温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。ここで、MG1回転速度センサ62およびMG2回転速度センサ64は、何れも回転速度および回転方向を検出可能なレゾルバ式の回転速度センサが用いられている。これらレゾルバ式のMG1回転速度センサ62およびMG2回転速度センサ64は、何れも既存のセンサである。一方、出力軸回転速度センサ66は、パルスピックアップ式の公知の回転速度センサが使用されている。なお、MG2回転速度センサ64が、本発明の第1センサに対応し、出力軸回転速度センサ66が、本発明の第2センサに対応している。
また、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1および第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の(すなわち有段変速機20の変速を制御する為の)油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する各ソレノイドバルブSL1−SL4等を駆動する為の指令信号(駆動電流)であり、油圧制御回路54へ出力される。なお、電子制御装置80は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する油圧指令値(指示圧ともいう)を設定し、その油圧指令値に応じた駆動電流を出力する。本実施例では、ソレノイドバルブSL1によってクラッチC1の係合油圧Pc1が調圧され、ソレノイドバルブSL2によってクラッチC2の係合油圧Pc2が調圧され、ソレノイドバルブSL3によってブレーキB1の係合油圧Pb1が調圧され、ソレノイドバルブSL4によってブレーキB2の係合油圧Pb2が調圧される。
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ52の充電状態を示す値(以下、充電状態SOC[%]という)を算出する。また、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbatおよびバッテリ52の充電状態SOCに基づいて、バッテリ52のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する(すなわちバッテリ52の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力)Win、およびバッテリ52の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力)Woutである)、充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、また、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。また、充電可能電力Winは、例えば充電状態SOCが大きな領域では充電状態SOCが大きい程小さくされる。また、放電可能電力Woutは、例えば充電状態SOCが小さな領域では充電状態SOCが小さい程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、変速制御手段としてのAT変速制御手段すなわち変速制御部としてのAT変速制御部82、およびハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部84を機能的に備えている。
AT変速制御部82は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えばATギヤ段変速マップ)を用いて有段変速機20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速機20の変速制御を実行して有段変速機20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1−SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替えるための油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力軸回転速度ωo(ここでは車速Vなども同意)およびアクセル開度θacc(ここでは要求駆動トルクTdemやスロットル弁開度θthなども同意)を変数とする二次元座標上に、有段変速機20の変速が判断されるための変速線(アップシフト線およびダウンシフト線)を有する所定の関係である。
ハイブリッド制御部84は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1回転機MG1および第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、および第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部84は、予め定められた関係(例えば駆動力マップ)にアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで要求駆動パワーPdem(見方を換えれば、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdem)を算出する。ハイブリッド制御部84は、バッテリ52の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14、第1回転機MG1、および第2回転機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Seおよび回転機制御指令信号Smg)を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度ωeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルク(そのときのMG1回転速度ωgにおけるMG1トルクTg)を出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、また、そのときのMG2回転速度ωmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速機18を無段変速機として作動させて変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度ωeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速機18の無段変速制御を実行して無段変速機18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速機18を有段変速機のように変速させて変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係(例えば模擬ギヤ段変速マップ)を用いて変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部82による有段変速機20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速機18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力軸回転速度ωoに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωeを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力軸回転速度ωoの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力軸回転速度ωoおよびアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速機18と有段変速機20とが直列に配置された変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdemが比較的大きい場合に、変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部84による模擬有段変速制御と、AT変速制御部82による有段変速機20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。このようなことから、模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との間での変速(模擬3⇔4変速と表す)が行われるときにAT1速ギヤ段とAT2速ギヤ段との間での変速(AT1⇔2変速と表す)が行なわれ、また、模擬6⇔7変速が行われるときにAT2⇔3変速が行なわれ、また、模擬9⇔10変速が行われるときにAT3⇔4変速が行なわれる(図4参照)。
そのため、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1→2」等参照)。また、図6における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1←2」等参照)。
または、図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部82に対して出力するようにしても良い。このように、AT変速制御部82は、有段変速機20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるため、エンジン回転速度ωeの変化を伴って有段変速機20の変速が行なわれるようになり、その有段変速機20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部84は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。また、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ52の充電容量SOCが予め定められた閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。
有段変速機20においてクラッチC1を係合したATギヤ段での走行中に、ソレノイドバルブSL1に故障が発生するなどして、クラッチC1が解放またはスリップ(滑り)すると走行が困難となる。これに対して、クラッチC1が解放またはスリップする異常が検出されると、図示しないフェールセーフバルブを介してクラッチC1に係合可能な油圧が供給されるように構成されている。これにより、上記異常が発生した場合であっても、クラッチC1が係合されることで、走行(退避走行)を継続して行うことができる。
電子制御装置80は、有段変速機20のクラッチC1を係合したATギヤ段での走行中において、ソレノイドバルブSL1の故障などに伴ってクラッチC1が解放またはスリップ(滑り)する異常が発生したかを判定する異常判定部86(図1参照)を機能的に備えている。
異常判定部86は、例えば予め設けられている断線検出回路からソレノイドバルブSL1の断線を示す信号が検出されると、クラッチC1が解放またはスリップする異常が発生したと判定する。ソレノイドバルブSL1は、指令信号である駆動電流に比例する係合油圧Pc1を出力するように構成されており、ソレノイドバルブSL1が断線した場合にはクラッチC1の係合油圧Pc1が低下し、クラッチC1が解放またはスリップする。従って、ソレノイドバルブSL1の断線に基づいて、クラッチC1が解放またはスリップする異常の発生が判定される。
また、異常判定部86は、MG2回転速度センサ64によって検出されるAT入力軸回転速度ωiと、出力軸回転速度センサ66によって検出される出力軸回転速度ωoおよび現在のATギヤ段のギヤ比γatを乗算(=ωo×γat)することで算出される、有段変速機20の入力軸の目標入力軸回転速度ωi*との差分Δωi(|ωi−ωi*|)が、予め設定されている所定値α以上になると、クラッチC1が解放またはスリップする異常が発生したものと判定する。なお、所定値αは、予め実験的または設計的に求められ、クラッチC1が解放またはスリップしているものと判断できる値に設定されている。
異常判定部86によって、クラッチC1が解放またはスリップする異常の発生が判定されると、AT変速制御部82は、油圧制御回路54に設けられている図示しないフェールセーフバルブをフェールセーフ位置に切り替える指令信号を出力する。AT変速制御部82は、例えば、油圧制御回路54に設けられているフェールセーフバルブを、フェールセーフ位置に切り替えるための切替圧(信号圧)を出力する図示しない切替バルブに、前記切替圧を出力させる指令信号を出力する。
切替バルブから切替圧が出力されることにより、フェールセーフバルブがフェールセーフ位置に切り替えられると、クラッチC1の油圧室に連通する油路と、クラッチC1が係合可能な油圧が供給される油路とが、フェールセーフバルブを介して接続され、クラッチC1に係合可能な油圧が供給される。よって、有段変速機20のニュートラル状態(動力伝達遮断状態)からC1が係合されてATギヤ段が形成される。なお、クラッチC1が係合可能な前記油圧として、例えばソレノイドバルブSL1に元圧として供給される油圧(ライン圧またはモジュレータ圧)が設定されている。
ここで、有段変速機20がニュートラル状態からクラッチC1を係合してATギヤ段を形成するに際して、係合過渡期に発生する係合ショックを抑えるため、AT変速制御部82は、AT入力軸回転速度ωiと、出力軸回転速度ωoおよび現在のATギヤ段のギヤ比γatを乗算することで算出される目標入力軸回転速度ωi*(=ωo×γat)とが回転同期すると、フェールセーフバルブをフェールセーフ位置に切り替えてクラッチC1に油圧を供給する。
ところで、本実施例の車両10にあっては、有段変速機20が後進用のギヤ段を有さず、後進走行時には、ATギヤ段がAT1速ギヤ段「1st」の状態で、第2回転機MG2が入力軸回転速度ωiを負の値で回転(負回転)させることで後進走行を行っている。また、前進走行中であっても、有段変速機20がニュートラル状態では、AT入力軸回転速度ωiが負の値(負回転)となる場合もある。このように、走行中にAT入力軸回転速度ωiが負の値を取り得る場合がある。しかしながら、従来制御では、AT入力軸回転速度ωiと目標入力軸回転速度ωi*との同期判定に際して回転速度の回転方向を示す正負の符号については考慮していなかった、すなわち回転速度の絶対値で判定されてため、回転速度の正負符号が異なるにも拘わらず回転同期したものと誤判定されてしまい、クラッチC1の係合過渡期に係合ショックが発生する可能性があった。そこで、本実施例では、以下から説明する制御を実行することにより、回転同期の誤判定を抑制する。
電子制御装置80は、上記回転同期の誤判定を抑制するための、同期判定手段すなわち同期判定部88、および、出力軸回転方向推定手段すなわち出力軸回転方向推定部90を機能的に備えている。なお、出力軸回転方向推定部90が、本発明の制御部に対応している。
同期判定部88は、MG2回転速度センサ64によって検出されるAT入力軸回転速度ωiと、出力軸回転速度センサ66によって検出される出力軸回転速度ωoと現在のATギヤ段の変速比γatとを乗算する(=ωo×γ)ことで算出される目標入力軸回転速度ωi*とに基づいて同期状態を判定する。具体的には、同期判定部88は、AT入力軸回転速度ωiと目標入力軸回転速度ωi*との差分Δωiが、予め設定されている所定値β以下になった場合に、AT入力軸回転速度ωiと目標入力軸回転速度ωi*とが回転同期したものと判定する。なお、所定値βは、予め実験的または設計的に求められ、AT入力軸回転速度ωiと目標入力軸回転速度ωi*とが実質的に回転同期したものと判断できる微小な値に設定されている。
ここで、同期判定部88は、AT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoの回転方向を示す正負符号を付与した後に回転同期を判定する。AT入力軸回転速度ωiの回転方向(すなわち正負符号)は、レゾルバ式のMG2回転速度センサ64からの電気角信号に基づいて判定することができる。これより、同期判定部88は、MG2回転速度センサ64によって判定されるAT入力軸回転速度ωiの回転方向を示す正負符号をAT入力軸回転速度ωiに付与する。すなわち、同期判定部88は、AT入力軸回転速度ωiが正の値(正回転)と判定されると正の符号を付与し、AT入力軸回転速度ωiが負の値(負回転)と判定されると負の符号を付与する。
一方、出力軸回転速度ωoを検出する出力軸回転速度センサ66から出力される信号によっては、出力軸回転速度ωoの回転方向(すなわち正負符号)を判定することができない。これに対して、電子制御装置80は、同期判定部88による同期判定の際に、出力軸回転速度ωoの回転方向を推定する出力軸回転方向推定部90を機能的に備えている。
出力軸回転方向推定部90は、有段変速機20のシフトポジション(シフトレンジともいう)および車速Vに基づいて出力軸22の回転方向を推定する。出力軸回転方向推定部90は、先ず、現在のシフトポジションが、前進走行ポジションであるDポジションであるかを判定する。出力軸回転方向推定部90は、例えばシフトポジションセンサ74からのシフトレバー56の操作位置POSsh(シフト操作ポジション)を表す信号が、Dポジションに対応する操作位置POSshにあると前進走行ポジションと判定する。この場合には、有段変速機20のシフトポジションが、シフトレバー56の操作位置POSsh(シフト操作ポジション)に基づいて判定されることから、シフトポジションがシフト操作ポジションと同意となる。これに代わって、有段変速機20のシフトポジションが、インバータ50に出力される回転機制御指令信号Smgおよび油圧制御回路54に出力される油圧制御指令信号Satに基づいて判断されるものであっても構わない。
出力軸回転方向推定部90は、シフトポジションがDポジションと判定すると、さらに、車速Vが予め設定されている所定車速V1以上であるかを判定する。この所定車速V1は、予め実験的または設計的に求められる値であり、Dポジションで走行中において、出力軸22が負回転(後進回転)では回転し得ない車速領域の下限閾値またはその近傍の値に設定されている。
出力回転方向推定部90は、Dポジションであって、且つ、車速Vが所定車速V1以上と判定すると、出力軸22が正方向に回転(前進回転)している、すなわち出力軸回転速度ωoが正の値と推定する。同期判定部88は、出力回転方向推定部90によって出力軸回転速度ωoが正の値と推定されると、出力軸回転速度ωoに正の符号を付与する。
同期判定部88は、AT入力軸回転速度ωiおよび目標入力軸回転速度ωi*の回転方向を示す符号が付与されると、その符号が付与された状態で回転同期を判定する。これより、AT入力軸回転速度ωiおよび目標入力軸回転速度ωi*に符号が付与されて同期判定が実行されることから、回転同期の誤判定が抑制される。AT変速制御部82は、同期判定部88によって回転同期したと判定された後、フェールセーフバルブをフェールセーフ位置に切り替えることで、クラッチC1に油圧が供給されてATギヤ段が形成される。このとき、回転同期した状態でクラッチC1が係合されるため、係合過渡期に発生する係合ショックが抑制される。
同期判定部88は、走行ポジションが後進走行ポジション(Rポジション)の場合、或いは、走行ポジションがDポジションであっても車速Vが所定車速V1未満の場合、出力軸回転速度ωoの回転方向を精度良く推定することが困難であるため、従来制御と同様に、AT入力軸回転速度ωiおよび目標入力軸回転速度ωi*とも符号なしの信号に基づいて同期判定を実行する。この場合には、回転方向が考慮されないことから、回転同期が誤判定される可能性もある。しかしながら、後進走行ポジションの場合は車速Vが低速であり、また、前進走行ポジションであって車速Vが所定車速V1未満のときも同様に低速であるため、回転速度の絶対値が小さいものとなる。従って、仮に誤判定した場合であっても、係合時の回転速度の変化幅が小さいことから、係合ショックは小さくなる。
図7は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわちクラッチC1が解放またはスリップした状態からクラッチC1を係合してATギヤ段を形成するときの制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、例えばクラッチC1を係合したATギヤ段での走行中に、異常判定部86によってクラッチC1が解放またはスリップした状態と判定された場合に実行される。
先ず、出力軸回転方向推定部90の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略)において、シフトポジションがDポジション(前進方向ポジション)であるか判定される。ST1が肯定される場合、出力軸回転方向推定部90の制御機能に対応するST2において、車速Vが所定車速V1以上であるか判定される。ST2が肯定される場合、ST3に進む。
出力軸回転方向推定部90の制御機能に対応するST3では、シフトポジションがDポジションであって、且つ、車速Vが所定車速V1以上であることから、出力軸回転速度ωoの回転方向が正回転と推定される。同期判定部88の制御機能に対応するST4では、レゾルバ式のMG2回転速度センサ64からの電気角信号に基づいてAT入力軸回転速度ωiの回転方向が判定される。同期判定部88の制御機能に対応するST5では、ST3およびST4によって判断された回転方向に基づいて、AT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoの回転方向を示す正負の符号が付与される。
ST1並びにST2が否定された場合、同期判定部88に対応するST6に進む。ST6では、AT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoに回転方向を示す正負の符号が付与されない値が、同期判定時に使用される値として設定される。
同期判定部88の制御機能に対応するST7では、ST5またはST6において設定されたAT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoに基づいて、回転同期したかが判定される。ST7が否定される場合、ST1に戻ってST1以降のステップが繰り返し実行される。ST7が肯定される場合、例えばフェールセーフバルブがフェールセーフ位置に切り替えられることにより、クラッチC1に油圧が供給されてATギヤ段が形成される。
図8は、図7に示すフローチャートに基づいて制御作動が実行された場合の作動結果を示すタイムチャートの一態様である。図8にあっては、シフトポジションがDポジションの状態で、クラッチC1が係合されるATギヤ段(AT1速ギヤ段など)で回生を伴うコースト走行中に、ソレノイドバルブSL1の断線故障が発生したときの制御作動が一例として示されている。なお、車速Vは、所定車速V1以上で走行しているものとする。図8において、横軸が時間に対応し、縦軸が、上から順番に、入力軸回転速度ωi、アクセル開度θacc、AT入力トルクTi、クラッチC1の係合油圧Pc1、および車両前後加速度Gを示している。
コースト走行中にt1時点において、ソレノイドバルブSL1の断線による故障が発生すると、t1時点からクラッチC1の係合油圧Pc1が低下して、クラッチC1が解放される。これに伴って、クラッチC1において滑りが生じ、AT入力トルクTiが負トルクであるためにAT入力軸回転速度ωiが低下する。
図8のタイムチャートにあっては、t1時点からt2時点の間において、AT入力軸回転速度ωiが正の値(前進回転)から負の値(後進回転)に切り替わっている。t2時点において、AT入力軸回転速度ωiの絶対値が、出力軸回転速度ωoおよびATギヤ段のギヤ比γから算出される目標入力軸回転速度ωi*の絶対値と等しくなっている。従来制御では、回転方向を示す回転速度の符号を考慮することなく回転同期が判定されていたため、破線で示すようにt2時点において同期したものと判定(誤判定)され、クラッチC1の油圧の供給が開始されていた。このとき、実際のAT入力軸回転速度ωiが負回転であり、出力軸回転速度ωoおよびギヤ比γに基づく実際の目標入力軸回転速度ωi*が正回転であることから、クラッチC1の係合油圧Pc1の増加に伴って引き込みが発生し、破線で示すように車両前後加速度Gが変動する。すなわち、係合ショックが発生する。一方、本実施例では、AT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoに回転方向を示す符号が付与されて回転同期が判定されるので、t2時点では回転同期が誤判定されない。
t2時点から所定時間経過し、車速Vが下がり過ぎないように運転者がアクセルペダルを踏み込むことで、アクセル開度θaccが増加するとともに、AT入力トルクTiが増加している。t3時点では、AT入力トルクTiが負トルクから正トルクに切り替わることで、AT入力軸回転速度ωiが正側に向かって増加する。そして、入力軸回転速度ωiが負回転から正回転に切り替わり、t4時点においてAT入力軸回転速度ωiが、出力軸回転速度ωoおよびATギヤ段のギヤ比γatに基づいて算出される目標入力軸回転速度ωi*に到達すると、回転同期したものと判定されてクラッチC1に油圧が供給される。このように、回転同期が正常に判定されるため、t4時点においてクラッチC1に油圧が供給されたときの車両前後加速度Gの変動も小さくなり、係合ショックが抑制される。
図8のタイムチャートにおいて、t1時点からt4時点の間は繰り返し回転同期の判定が実行されている。上述したように、t1時点からt4時点の間では、走行状態が、Dポジションであって、且つ、所定車速V1以上であることから、AT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoに、回転方向を示す正負の符号が付与された状態で同期判定が実行されている。このことから、入力軸回転速度ωiの回転方向と、出力軸回転速度ωoおよびギヤ比γatに基づいて算出される目標入力軸回転速度ωi*の回転方向とが異なるにも拘わらず、回転同期が誤判定されることもなくなるため、誤判定に伴う係合ショックの発生が抑制される。
上述のように、本実施例によれば、出力軸回転速度ωoの回転方向が、有段変速機20のシフトポジションおよび車速Vに基づいて推定されることから、出力軸回転速度ωoを検出する既存の出力軸回転速度センサ66を用いつつ出力軸回転速度ωoの回転方向についても判断することができる。これより、新たなセンサの追加による製造コストの増加を回避しつつ、入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoの回転方向を示す正負符号を考慮した同期判定が可能となり、回転同期の誤判定による係合ショックを抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、車両10は、無段変速機18と有段変速機20とを直列に備えるものであったが、本発明はこの態様に限定されない。本発明は、必ずしも差動機構32などから構成される無段変速機18を備える必要はなく、例えばエンジンと、エンジンに動力伝達可能に連結されている有段変速機と、エンジンと有段変速機との間の動力伝達経路に設けられている回転機とを、備えた車両においても適用することができる。また、エンジン12についても必ずしも必要ではなく、回転機と、回転機に動力伝達可能に連結されている有段変速機とを、備えた電気自動車においても本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、有段変速機20は、前進4段の各ATギヤ段が形成される遊星歯車式の有段変速機であったが、この態様に限らない。例えば、有段変速機20は、複数の係合装置が選択的に係合されることで変速が実行される有段変速機であれば良い。このような有段変速機としては、有段変速機20のような遊星歯車式の有段変速機でも良いし、または、同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備えて各系統の入力軸に係合装置(クラッチ)がそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの有段変速機であっても良い。
また、前述の実施例では、前進走行中にシフトポジションが前進走行ポジションであって、車速Vが所定車速V1以上であることに基づいて、出力軸回転速度ωoが正の値と判定されたが、後進走行中にシフトポジションが後進走行ポジション(Rポジション)であって、且つ、車速Vが所定車速V2以上であることに基づいて、出力軸回転速度ωoが負の値と判定することもできる。
また、前述の実施例では、走行中にクラッチC1が解放またはスリップするとフェールセーフバルブを介してクラッチC1に油圧が供給されるものであったが、必ずしもクラッチC1に限定されず、他の係合装置が解放またはスリップするとその係合装置に油圧が供給されるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、走行中にクラッチC1が解放またはスリップする異常が発生すると、フェールセーフバルブを介してクラッチC1に油圧が供給されるものであったが、必ずしもフェールセーフバルブを介することなく、所定のソレノイドバルブから直接クラッチC1に係合可能な油圧が供給されるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、走行中にクラッチC1が解放またはスリップする異常が判定された後のクラッチC1の同期判定の際に、AT入力軸回転速度ωiおよび出力軸回転速度ωoの回転方向を判定して同期判定を行っていたが、必ずしもクラッチC1の上記異常が判定されたときの同期判定に限定されるものではなく、本発明は、例えば変速中など回転同期を判定する際に適宜適用され得る。
また、前述の実施例では、シフトレバー56が、前進走行ポジションであるDポジションに対応する操作位置POSshであるかに基づいて出力軸回転速度ωoの回転方向が判定されていたが、必ずしもDポジションに限定されるものではなく、例えば前進走行中の運転者による手動変速を可能とするマニュアルシフトポジション(Mポジション)、或いは、ATギヤ段が1速ギヤ段に限定されるLポジションなど、前進走行ポジションであれば構わない。
また、前述の実施例では、AT入力軸回転速度ωiの回転方向が、レゾルバ式のMG2回転速度センサ64からの電気角信号に基づいて判定されていたが、必ずしもこれに限定されず、別個に設けられた回転方向を検出するセンサによって回転方向が判定されても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。