JP6635019B2 - 自動変速機の変速制御装置 - Google Patents
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Description
本発明は自動変速機の変速制御装置に係り、特に、変速制御中に戻り変速判断が為された場合の変速中止制御に関するものである。
複数の摩擦係合装置を選択的に係合させることにより変速比が異なる複数のギヤ段を成立させる自動変速機が自動車などに多用されている。そして、このような自動変速機において、第1ギヤ段から第2ギヤ段へ切り替える第1変速の変速制御中に第1ギヤ段に戻す戻り変速判断が為された場合に、一定の条件下でその第1変速の変速制御を中止し、第1変速において解放される解放側係合装置を直ちに係合させる変速中止制御が提案されている。特許文献1に記載の装置はその一例で、自動変速機の入力回転速度が変速前の第1ギヤ段の同期回転速度近傍にあり、且つ第1変速において解放される解放側係合装置すなわち変速中止制御では係合側となる係合装置の係合トルクが所定値以上である場合には、第1変速の変速制御を中止して直ちに解放側係合装置の係合トルクを増大させるようになっている。
ところで、変速ショックを伴う変速の頻度を低減するためには、戻り変速判断が為された場合に第1変速の変速制御をできるだけ中止することが望ましい。しかしながら、従来は解放側係合装置の係合トルクが所定値以上すなわち未だ係合状態である場合に第1変速の変速制御を中止するため、その中止条件を緩和するだけでは、変速中止に伴って解放側係合装置の係合トルクを増大させる際に、係合トルクの増大よりも入力トルクの上昇が上回り、解放側係合装置がスリップして入力回転速度の吹きが発生する可能性がある。すなわち、特許文献1に記載の技術では、入力回転速度の吹きを防止しつつ変速頻度を更に低減する上で改善の余地があった。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、変速制御中に戻り変速判断が為された場合に変速制御を中止する変速中止制御の実施条件を適切に設定し、入力回転速度の吹きを防止しつつ変速頻度を更に低減することにある。
かかる目的を達成するために、第1発明は、複数の摩擦係合装置を選択的に係合させることにより変速比が異なる複数のギヤ段を成立させる自動変速機の変速制御装置において、(a) 第1ギヤ段から第2ギヤ段へ切り替える第1変速の変速制御中に前記第1ギヤ段に戻す戻り変速判断が為された場合に、前記第1変速の変速制御に関連する所定の経過時間が変速中止許容時間よりも短いことを条件として、前記第1変速の変速制御を中止してその第1変速において解放される解放側係合装置の係合トルクを直ちに増大させる変速中止制御を実施する変速中止制御部と、(b) 前記自動変速機の変速時に予め定められた条件に従ってその自動変速機の入力トルクを制限する変速時入力トルク制限部と、(c) 前記第1変速の変速制御中における前記変速時入力トルク制限部による前記入力トルクの制限状態に基づいて、その入力トルクの制限が大きい場合は制限が小さい場合に比較して前記変速中止許容時間を長くする許容時間設定部と、を有することを特徴とする。
第2発明は、第1発明の自動変速機の変速制御装置において、前記経過時間が前記変速中止許容時間よりも短く、且つ前記解放側係合装置の伝達トルク容量が前記自動変速機の入力トルクよりも大きいことが、前記変速中止制御の実施条件として定められていることを特徴とする。
なお、解放側係合装置の伝達トルク容量は、その解放側係合装置の係合トルクに基づいて解放側係合装置がスリップすることなくトルク伝達することが可能な自動変速機の入力トルクの最大値である。
なお、解放側係合装置の伝達トルク容量は、その解放側係合装置の係合トルクに基づいて解放側係合装置がスリップすることなくトルク伝達することが可能な自動変速機の入力トルクの最大値である。
第3発明は、第1発明または第2発明の自動変速機の変速制御装置において、前記許容時間設定部は、前記変速時入力トルク制限部による前記入力トルクの制限制御が実施された場合は制限制御を不実施の場合に比較して前記変速中止許容時間を長くすることを特徴とする。
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの自動変速機の変速制御装置において、前記許容時間設定部は、前記変速時入力トルク制限部による前記入力トルクの上限ガード値が低い場合は上限ガード値が高い場合に比較して前記変速中止許容時間を長くすることを特徴とする。
このような自動変速機の変速制御装置においては、第1変速の変速制御中に戻り変速判断が為された場合に、第1変速の変速制御に関連する所定の経過時間が変速中止許容時間よりも短い場合に、第1変速の変速制御を中止して直ちに解放側係合装置の係合トルクを増大させる変速中止制御が行われる。ここで、変速中止制御を実施した場合、入力トルクの立上りが遅い時には、第1変速の変速制御に関連する経過時間が長く、変速が進行していても、第1変速における解放側係合装置すなわち変速中止制御では係合側となる係合装置の伝達トルク容量(係合トルクに対応)不足が生じ難いが、入力トルクの立上りが早い時には、第1変速の変速制御に関連する経過時間が長く、変速が進行していると、上記係合装置の伝達トルク容量が不足して入力回転速度が吹き上がる恐れがある。入力トルクの立上り応答性は、第1変速の変速制御中における入力トルクの制限状態に応じて異なり、入力トルクの制限が大きい場合は制限が小さい場合に比較して入力トルクの立上りが遅くなるため、入力トルクの制限が大きい場合に変速中止許容時間が長くされることにより、変速中止制御中に入力回転速度の吹きが発生することを抑制しつつ、変速中止制御を実行できる機会が増えて変速頻度を低減することができる。
第2発明は、解放側係合装置の伝達トルク容量が自動変速機の入力トルクよりも大きいことが変速中止制御の実施条件として定められている場合で、変速中止許容時間以内であっても伝達トルク容量が低い場合は変速中止制御が行われないため、解放側係合装置の制御のばらつきなどによる伝達トルク容量不足に拘らず変速中止制御が実行されて入力回転速度の吹きが発生することが防止される。
第3発明は、入力トルクの制限制御が実施された場合は不実施の場合に比較して変速中止許容時間が長くされる場合で、入力トルクの制限制御が実施されると入力トルクの立上りが遅くなることから、変速中止制御中に入力回転速度の吹きが発生することを抑制しつつ、変速中止許容時間が長くされることにより変速中止制御を実行する機会が増えて変速頻度を低減することができる。
第4発明は、入力トルクの上限ガード値が低い場合は上限ガード値が高い場合に比較して変速中止許容時間が長くされる場合で、入力トルクの上限ガード値が低いと入力トルクの立上りが遅くなることから、変速中止制御中に入力回転速度の吹きが発生することを抑制しつつ、変速中止許容時間が長くされることにより変速中止制御を実行する機会が増えて変速頻度を低減することができる。
本発明は、車両用の自動変速機に好適に適用され、燃料の燃焼によって駆動力を発生するエンジン駆動車両や、電動モータによって走行する電気自動車、或いは動力源としてエンジンおよび電動モータの両方を備えているハイブリッド車両など、種々の車両用自動変速機に適用され得る。自動変速機としては、例えば遊星歯車式や平行軸式など、複数の摩擦係合装置の作動状態に応じて複数のギヤ段が成立させられる種々の自動変速機が用いられる。摩擦係合装置としては油圧式のものが好適に用いられ、例えばソレノイド弁等による油圧制御などで油圧(係合トルク)を所定の変化パターンで変化させたり、所定のタイミングで油圧を変化させたりすることによって変速制御が行われるが、電磁式等の他の摩擦係合装置を用いることもできる。
戻り変速判断は、第1変速を実行させるための変速制御、すなわち摩擦係合装置の係合トルク(油圧など)を変化させて係合解放状態を切り替える途中で、アクセル操作などにより第1ギヤ段に戻すべき変速判断が為される場合であるが、変速比は第1ギヤ段のままで変速判断だけが変更される。これ等の第1変速および戻り変速の変速判断は、アクセル操作や車速変化に伴って変速マップ等の変速条件に従って自動的に行われる場合でも、シフトレバーなどによる運転者の手動変速操作に応じて行われる場合でも良い。第1変速および戻り変速は、複数の摩擦係合装置の何れか1つを解放するとともに他の1つを係合させるクラッチツウクラッチ変速であっても良いが、一方向クラッチを備える場合など、単一の摩擦係合装置を解放するだけで第1変速制御を実施し、その摩擦係合装置を係合するだけで変速中止制御を実施する場合であっても良い。第1変速は、アップシフトでもダウンシフトでも良く、本発明は両方の変速に適用できるが、アップシフトおよびダウンシフト何れか一方だけに適用しても良い。
第1変速の変速制御に関連する所定の経過時間としては、例えば変速制御開始からの経過時間でも良いし、解放側係合装置の解放制御開始からの経過時間でも良い。或いは、解放制御の定圧待機開始時や漸減開始時等の所定のタイミングからの経過時間でも良いなど、解放制御の制御パターン等に基づいて適宜定めることができる。変速中止制御の実施条件としては、変速中止許容時間に加えて、例えば解放側係合装置の伝達トルク容量が自動変速機の入力トルクよりも大きいことが定められるが、入力回転速度が第1ギヤ段における同期回転速度と略一致していること、言い換えれば実際の変速比が第1ギヤ段の理論変速比と略一致していること、或いはイナーシャ相の開始前であること、などが定められても良い。乗員に違和感を生じさせることなく第1変速を中止する上で、解放側係合装置が未だ完全な係合状態(スリップ状態を含まない係合状態)であることが求められる。解放側係合装置の伝達トルク容量は、例えば解放側係合装置の係合トルク指令値(油圧指令値など)に基づいて求めることができるが、係合トルクに対応する油圧値等をセンサによって検出しても良い。入力トルクに所定の余裕値を加えたり余裕係数を掛け算したりして、解放側係合装置の伝達トルク容量と比較するようにしても良い。
変速中止制御部は、解放側係合装置の係合トルクを直ちに増大させるもので、例えば解放側係合装置の係合トルク指令値(油圧指令値など)を漸増するように構成される。この係合トルク指令値の変化率は適宜定められ、一定値であっても良いが、第1変速の変速制御開始からの経過時間など変速制御の進行度に応じて変化させても良い。進行度が小さい場合は係合トルクの低下が小さいため、変化率を大きくして一気に係合トルクを増大させても良い。第1変速がクラッチツウクラッチ変速の場合、変速中止制御部は、第1変速において係合側となる係合側係合装置についても、直ちに係合トルクを低下させるように係合トルク指令値を漸減させたり一気に低下させたりすれば良い。
変速時入力トルク制限部は、例えば変速制御が安定して行われるように変速制御中の入力トルクの増大を制限するように構成されるが、入力回転速度が速やかに低下するようにイナーシャ相に先立って入力トルクを制限する場合でも良いなど、種々のトルク制限制御が可能である。変速時入力トルク制限部は、例えば入力トルクに所定の上限ガード値を設けるか否かだけでも良いが、上限ガード値を段階的或いは連続的に変化させるものでも良い。変速時入力トルク制限部による制限制御は、例えば第1変速の変速制御が中止された時点で終了させられるが、変速中止制御中も必要に応じて入力トルクの制限制御を継続しても良い。
許容時間設定部は、入力トルクの制限が大きい場合は小さい場合に比較して変速中止許容時間を長くするが、制限が大きい場合とは入力トルクが低トルクに制限されることで、制限が小さい場合とは入力トルクが比較的高トルクまで許容されることである。制限が小さい場合としては、変速時入力トルク制限部による制限制御の不実施を含む。変速中止許容時間は、例えば入力トルクの制限制御の有無に基づいて長短の2段階で変化させるだけでも良いが、入力トルクの上限ガード値等に応じて段階的或いは連続的に変化させることもできる。この変速中止許容時間を、変速中止制御が行われた場合の入力回転速度の変化(吹きの有無など)に基づいて学習補正することも可能である。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、エンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という) 内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部18(以下、無段変速部18という) と、無段変速部18の出力側に連結された機械式有段変速部20(以下、有段変速部20という) とを直列に備えている。又、車両用駆動装置12は、有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義) は、有段変速部20へ伝達され、その有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ) 型車両に好適に用いられるものである。尚、無段変速部18や有段変速部20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心) に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
図1は、本発明が適用された車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、エンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という) 内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部18(以下、無段変速部18という) と、無段変速部18の出力側に連結された機械式有段変速部20(以下、有段変速部20という) とを直列に備えている。又、車両用駆動装置12は、有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義) は、有段変速部20へ伝達され、その有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ) 型車両に好適に用いられるものである。尚、無段変速部18や有段変速部20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心) に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によってスロットル弁開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジントルクTe が制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式差動部であり、電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、差動用回転機に相当し、又、第2回転機MG2は、走行用の動力源として機能する電動機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源すなわち駆動源として、エンジン14及び第2回転機MG2を備えているハイブリッド車両である。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ) としての機能及び発電機(ジェネレータ) としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられたバッテリ52に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルク又は回生トルク) であるMG1トルクTg 及びMG2トルクTm が制御される。バッテリ52は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0の3つの回転要素を差動回転可能に備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材(AT入力回転部材)としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、有段変速部20は、第2回転機MG2と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという) とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL4(図4参照)から各々出力される調圧された各係合油圧Pcbによりそれぞれのトルク容量(係合トルク) Tcbが変化させられることで、それぞれ作動状態(係合や解放などの状態) が切り替えられる。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素(サンギヤS1、S2、キャリアCA1、CA2、リングギヤR1、R2) が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的) に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。
有段変速部20は、係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度ωi /出力回転速度ωo )が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称する。AT入力回転速度ωi は、有段変速部20の入力回転部材の回転速度(角速度) であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωm と同値である。AT入力回転速度ωi は、MG2回転速度ωm で表すことができる。出力回転速度ωo は、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機40の出力回転速度でもある。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の4速の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高車速側(ハイ側のAT4速ギヤ段側) 程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態(各ATギヤ段において係合させられる係合装置) との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段「1st」を形成するブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時(加速時) にはブレーキB2を係合させる必要は無い。尚、係合装置CBが何れも解放されることにより、有段変速部20は、何れのATギヤ段も形成されないニュートラル状態(すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態) とされる。
有段変速部20は、後述する電子制御装置80によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放と係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる(すなわち複数のATギヤ段の何れかが選択的に形成される) 。つまり、有段変速部20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより) 変速が実行される、所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段「2nd」からAT1速ギヤ段「1st」へのダウンシフト(2→1ダウンシフト) では、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、AT1速ギヤ段「1st」にて係合させられる係合装置(クラッチC1及びブレーキB2) のうちで2→1ダウンシフト前には解放されていた係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が予め定められた変化パターンなどに従って調圧制御される。
図4は、上記係合装置CBを係合解放制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL4を含む油圧制御回路54の要部を示す回路図である。油圧制御回路54は、エンジン14によって回転駆動される機械式オイルポンプ100、及びエンジン非作動時にポンプ用電動機102によって回転駆動される電動式オイルポンプ104を、係合装置CBの油圧源として備えている。これ等のオイルポンプ100、104から出力された作動油は、それぞれ逆止弁106、108を介してライン圧油路110に供給され、プライマリレギュレータバルブ等のライン圧コントロールバルブ112により所定のライン圧PLに調圧される。ライン圧コントロールバルブ112にはリニアソレノイドバルブSLTが接続されており、リニアソレノイドバルブSLTは、電子制御装置80によって電気的に制御されることにより、略一定圧であるモジュレータ油圧Pmoを元圧として信号圧Pslt を出力する。そして、その信号圧Pslt がライン圧コントロールバルブ112に供給されると、ライン圧コントロールバルブ112のスプール114が信号圧Pslt によって付勢され、排出用流路116の開口面積を変化させつつスプール114が軸方向へ移動させられることにより、その信号圧Pslt に応じてライン圧PLが調圧される。ライン圧PLは、例えば出力要求量であるアクセル開度θacc 等に応じて調圧される。上記リニアソレノイドバルブSLTはライン圧調整用の電磁調圧弁で、ライン圧コントロールバルブ112は、リニアソレノイドバルブSLTから供給される信号圧Pslt に応じてライン圧PLを調圧する油圧制御弁である。これ等のライン圧コントロールバルブ112及びリニアソレノイドバルブSLTを含んでライン圧調整装置118が構成されている。リニアソレノイドバルブSLTはノーマリオープン(N/O)型で、断線等による非通電時には、信号圧Pslt としてモジュレータ油圧Pmoが略そのまま出力され、ライン圧コントロールバルブ112によって高圧のライン圧PLに調圧される。
ライン圧調整装置118によって調圧されたライン圧PLの作動油は、ライン圧油路110を介してリニアソレノイドバルブSL1〜SL4等に供給される。リニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、前記クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)120、122、124、126に対応して配置されており、電子制御装置80から供給される油圧制御指令信号Satの係合解放指令(ソレノイドの励磁電流で、図10の解放側油圧指令値Pdra 、係合側油圧指令値Papp )に従ってそれぞれ出力油圧(係合油圧Pcb)が制御されることにより、クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2が個別に係合解放制御され、前記AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の何れかのATギヤ段が形成される。リニアソレノイドバルブSL1〜SL4は何れもノーマリクローズ(N/C)型で、断線等による非通電時には、油圧アクチュエータ120、122、124、126に対する油圧の供給が遮断され、クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2が係合不能となる。これ等のリニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、電子制御装置80から供給される油圧制御指令信号Satに従ってクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2を選択的に係合させるソレノイドバルブである。
油圧制御回路54にはまた、油圧制御に関する全電源が遮断される全電源OFF時に前記AT1速ギヤ段「1st」を機械的に形成する全OFF時ギヤ段形成回路130が設けられている。全OFF時ギヤ段形成回路130は、前記リニアソレノイドバルブSL1、SL4と並列に設けられたバイパス油路132、134と、それ等のバイパス油路132、134をそれぞれライン圧油路110に対して接続、遮断する2位置切替弁136とを備えている。バイパス油路132は、リニアソレノイドバルブSL1を経由することなくクラッチC1の油圧アクチュエータ120とライン圧油路110とを接続する油路で、バイパス油路134は、リニアソレノイドバルブSL4を経由することなくブレーキB2の油圧アクチュエータ126とライン圧油路110とを接続する油路で、これ等のバイパス油路132、134から油圧アクチュエータ120、126にライン圧PLが供給されることによりAT1速ギヤ段「1st」が形成される。
2位置切替弁136は、オンオフソレノイドバルブSCからパイロット圧Pscが供給されることにより、図に示されるようにバイパス油路132、134を共に遮断する遮断位置へ切り替えられ、パイロット圧Pscの供給が停止すると、スプリングの付勢力に従ってバイパス油路132、134を共に接続する接続位置へ切り替えられる。オンオフソレノイドバルブSCはノーマリクローズ(N/C)型で、通電時にはパイロット圧Pscが出力されて2位置切替弁136が遮断位置とされ、非通電時にはパイロット圧Pscの出力が停止して2位置切替弁136が接続位置とされるが、通常は常に通電状態とされてパイロット圧Pscを出力する。したがって、通電可能な正常時にはバイパス油路132、134が共に遮断され、クラッチC1およびブレーキB2はリニアソレノイドバルブSL1、SL4から供給される係合油圧Pc1、Pb2に従って係合解放制御される一方、全電源OFF時にはバイパス油路132、134が共に接続されることにより、クラッチC1およびブレーキB2が共に係合させられてAT1速ギヤ段「1st」が形成され、そのAT1速ギヤ段「1st」による退避走行が可能とされる。前記ライン圧調整装置118のリニアソレノイドバルブSLTはノーマリオープン型であるため、全電源OFF時においてもライン圧コントロールバルブ112によって所定のライン圧PLが確保される。なお、バイパス油路134を省略し、バイパス油路132を介してクラッチC1を係合させるだけで、全電源OFF時のAT1速ギヤ段「1st」を形成しても良い。また、車両走行時における故障発生を考慮し、AT3速ギヤ段「3rd」等の他のATギヤ段を退避走行用ギヤ段として成立させるようにしても良い。
図3は、無段変速部18及び有段変速部20における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度) を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度) 、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯数比) ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36、38の各ギヤ比ρ1、ρ2に応じて定められている。シングルピニオン型の遊星歯車装置の場合、共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間の間隔を「1」とすると、キャリアとリングギヤとの間の間隔がギヤ比ρ(=サンギヤの歯数Zs /リングギヤの歯数Zr)となる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照) が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照) が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照) が連結されて、エンジン14の回転が中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達されるように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0、L0Rにより、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0の相互の回転速度の関係が示される。
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されるようになっている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、各ATギヤ段「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」における各回転要素RE4〜RE7の相互の回転速度の関係が示される。
図3中に実線で示す、直線L0及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTe に対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd 〔=Te /(1+ρ) =−(1/ρ) ×Tg 〕が現れる。そして、アクセル開度θacc 等の要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTd とMG2トルクTm との合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wg は、バッテリ52に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wg の全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wg に加えてバッテリ52からの電力を用いて、MG2トルクTm を出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTm が入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωe はゼロとされ、MG2トルクTm (ここでは正回転の力行トルク) が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。
図3中に破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTm が入力され、そのMG2トルクTm が車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。後述する電子制御装置80は、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」のうちの前進用の低車速側(ロー側) ギヤ段としてのAT1速ギヤ段「1st」を形成した状態で、前進用の電動機トルクである前進用のMG2トルクTm (ここでは正回転の正トルクとなる力行トルク;特にはMG2トルクTmFと表す) とは正負が反対となる後進用の電動機トルクである後進用のMG2トルクTm (ここでは負回転の負トルクとなる力行トルク;特にはMG2トルクTmRと表す) を第2回転機MG2から出力させることで後進走行を行うことができる。このように、本実施例の車両10では、前進用のATギヤ段(つまり前進走行を行うときと同じATギヤ段) を用いて、MG2トルクTm の正負を反転させることで後進走行を行う。有段変速部20では、有段変速部20内で入力回転を反転して出力する、後進走行専用のATギヤ段は形成されない。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、エンジン14を正回転方向へ回転させたまま、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と、差動用電動機(差動用回転機) としての第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と、走行駆動用電動機(走行駆動用回転機) としての第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0と、の3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構) としての無段変速部18が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と、その差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより、差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωm に対する連結軸34の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe )の変速比γ0(=ωe /ωm )が無段階(連続的)で変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にて所定のATギヤ段が形成されることで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe )が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン14を動力源として走行するエンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、所定のATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、変速機40が全体として無段変速機を構成することができる。
また、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、変速機40において、出力回転速度ωo に対するエンジン回転速度ωe の変速比γt(=ωe /ωo )が異なる複数のギヤ段(模擬ギヤ段と称する) の何れかを選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを協調制御することが可能である。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat) となる。
複数の模擬ギヤ段は、例えば図5に示すように、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度ωo に応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωe を制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは必ずしも一定値(図5において原点0を通る直線)である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。図5は、複数の模擬ギヤ段として模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段を有する10段変速が可能な場合である。この図5から明らかなように、複数の模擬ギヤ段は、出力回転速度ωo に応じてエンジン回転速度ωe を制御するだけで良く、機械式有段変速部20のATギヤ段の種類とは関係無く所定の模擬ギヤ段を成立させることができる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図6は、ギヤ段割当(ギヤ段割付) テーブルの一例であり、AT1速ギヤ段「1st」に対して模擬1速ギヤ段〜模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段「2nd」に対して模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段「3rd」に対して模擬7速ギヤ段〜模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段「4th」に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。図7は、図3と同じ共線図上において有段変速部20のATギヤ段がAT2速ギヤ段「2nd」のときに、模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものであり、出力回転速度ωo に対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωe となるように無段変速部18が制御されることによって、各模擬ギヤ段が成立させられる。
図1に戻って、車両10は、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御を行うコントローラとして機能する電子制御装置80を備えている。図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、Gセンサ72、シフトポジションセンサ74、バッテリセンサ76など) による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度ωe 、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg 、AT入力回転速度ωi であるMG2回転速度ωm 、車速Vに対応する出力回転速度ωo 、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量(すなわちアクセルペダルの操作量) であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、車両10の前後加速度G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置(操作ポジション)POSsh、バッテリ52のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat 、バッテリ電圧Vbat など) が、それぞれ供給される。又、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばスロットルアクチュエータや燃料噴射装置、点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54など) に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se 、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、ポンプ用電動機102及び係合装置CBの作動状態を制御する為の(すなわち有段変速部20の変速を制御する為の) 油圧制御指令信号Satなど) が、それぞれ出力される。油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータ120〜126へ供給される各係合油圧Pcbを調圧する各リニアソレノイドバルブSL1〜SL4を駆動する為の指令信号(駆動電流) である。電子制御装置80は、各油圧アクチュエータ120〜126へ供給される各係合油圧Pcbの値に対応する油圧指令値(指示圧) Pdra 、Papp を設定し、その油圧指令値Pdra 、Papp に応じた駆動電流を出力する。
シフトレバー56の操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D操作ポジションである。P操作ポジションは、変速機40がニュートラル状態とされ(例えば係合装置CBの何れもの解放によって有段変速部20が動力伝達不能なニュートラル状態とされ) 且つ機械的に出力軸22の回転が阻止(ロック) された、変速機40のパーキングポジション(Pポジション) を選択するパーキング操作ポジションである。R操作ポジションは、有段変速部20のAT1速ギヤ段「1st」が形成された状態で後進用のMG2トルクTmRにより車両10の後進走行を可能とする、変速機40の後進走行ポジション(Rポジション) を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、変速機40がニュートラル状態とされた、変速機40のニュートラルポジション(Nポジション) を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、有段変速部20のAT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の総てのATギヤ段を用いて(例えば模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の総ての模擬ギヤ段を用いて) 自動変速制御を実行して前進走行を可能とする、変速機40の前進走行ポジション(Dポジション) を選択する前進走行操作ポジションである。シフトレバー56は、人為的に操作されることで変速機40のシフトポジションの切替え要求を受け付ける切替操作部材として機能する。
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat 及びバッテリ電圧Vbat などに基づいてバッテリ52の充電状態(蓄電残量) SOCを算出する。又、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbat 及びバッテリ52の充電状態SOCに基づいて、バッテリ52の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力) Win、及びバッテリ52の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力) Wout を算出する。充放電可能電力Win、Wout は、例えばバッテリ温度THbat が常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbat が低い程低くされ、又、バッテリ温度THbat が常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbat が高い程低くされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態SOCが大きな領域では充電状態SOCが大きい程小さくされる。放電可能電力Wout は、例えば充電状態SOCが小さな領域では充電状態SOCが小さい程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実行する為に、AT変速制御手段として機能するAT変速制御部82、ハイブリッド制御手段として機能するハイブリッド制御部90を備えている。
AT変速制御部82は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた) 関係(例えばATギヤ段変速マップ) を用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行して有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1〜SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは変速条件で、例えば図8に「AT」を付して示した変速線にて定められており、実線はアップシフト線で破線はダウンシフト線であり、所定のヒステリシスが設けられている。この変速マップは、例えば出力回転速度ωo (ここでは車速Vなども同意) 及びアクセル開度θacc (ここでは要求駆動トルクTdem やスロットル弁開度θthなども同意) を変数とする二次元座標上に定められており、出力回転速度ωo が高くなるに従って変速比γatが小さい高車速側(ハイ側)のATギヤ段に切り替えられ、アクセル開度θacc が大きくなるに従って変速比γatが大きい低車速側(ロー側)のATギヤ段に切り替えられるように定められている。
ハイブリッド制御部90は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。例えばアクセル開度θacc 及び車速V等に基づいて要求駆動パワーPdem (見方を変えれば、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdem )を算出し、バッテリ52の充放電可能電力Win、Wout 等を考慮して、要求駆動パワーPdem を実現するように、エンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Se 及び回転機制御指令信号Smg) を出力する。エンジン制御指令信号Se は、例えばそのときのエンジン回転速度ωe におけるエンジントルクTe を出力するエンジンパワーPe の指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTe の反力トルク(そのときのMG1回転速度ωg におけるMG1トルクTg )を出力する第1回転機MG1の発電電力Wg の指令値であり、又、そのときのMG2回転速度ωm におけるMG2トルクTm を出力する第2回転機MG2の消費電力Wm の指令値である。
ハイブリッド制御部90は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを車両状態に応じて選択的に成立させる。例えば、要求駆動パワーPdem が予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域(例えば低車速で且つ低駆動トルクの領域)にある場合には、エンジン14を停止して第2回転機MG2だけで走行するモータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdem が予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、エンジン14を作動させて走行するハイブリッド走行モードを成立させる。ハイブリッド走行モードでは、回生制御される第1回転機MG1からの電気エネルギー及び/又はバッテリ52からの電気エネルギーを第2回転機MG2へ供給し、その第2回転機MG2を駆動(力行制御)して駆動輪28にトルクを付与することにより、エンジン14の動力を補助するためのトルクアシストを必要に応じて実行する。また、モータ走行領域であっても、バッテリ52の充電状態SOCや放電可能電力Wout が予め定められた閾値未満の場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードからハイブリッド走行モードへ移行する際のエンジン14の始動は、走行中か停車中かに拘らず、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωe を引き上げてクランキングすることにより行うことができる。
ハイブリッド制御部90はまた、無段変速制御手段として機能する無段変速制御部92、および模擬有段変速制御手段として機能する模擬有段変速制御部94を備えている。無段変速制御部92は、無段変速部18を無段変速機として作動させて変速機40全体として無段変速機として作動させるもので、例えばエンジン最適燃費線等を考慮して、要求駆動パワーPdem を実現するエンジンパワーPe が得られるエンジン回転速度ωe とエンジントルクTe となるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wg を制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、変速機40を無段変速機として作動させた場合の全体の変速比γtが制御される。
模擬有段変速制御部94は、無段変速部18を有段変速機のように変速させて変速機40全体として有段変速機のように変速させるものである。模擬有段変速制御部94は、予め定められた関係(例えば模擬ギヤ段変速マップ) を用いて変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部82による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、前記複数の模擬ギヤ段の何れかを選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御(有段変速)を実行する。模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度ωo 及びアクセル開度θacc をパラメータとして予め定められている。図8は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdem が比較的大きい場合に、変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。なお、シフトレバー56やアップダウンスイッチ等による運転者の変速指示に従って模擬ギヤ段を切り替えるマニュアル変速モードを備えていても良い。
模擬有段変速制御部94による模擬有段変速制御と、AT変速制御部82による有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。このようなことから、模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との間での変速(模擬3⇔4変速と表す) が行われるときにAT1速ギヤ段「1st」とAT2速ギヤ段「2nd」との間での変速(AT1⇔2変速と表す) が行なわれ、又、模擬6⇔7変速が行われるときにAT2⇔3変速が行なわれ、又、模擬9⇔10変速が行われるときにAT3⇔4変速が行なわれる(図6、図8参照) 。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図8における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図8中に記載した「AT1→2」等参照) 。又、図8における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図8中に記載した「AT1←2」等参照) 。又は、図8の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部82に対して出力するようにしても良い。このように、AT変速制御部82は、有段変速部20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度ωe の変化を伴って有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
前記AT変速制御部82は、有段変速部20の変速制御に関連して、変速時入力トルク制限手段として機能する変速時入力トルク制限部84、変速中止制御手段として機能する変速中止制御部86、および許容時間設定手段として機能する許容時間設定部88を備えている。本実施例では、AT変速制御部82が自動変速機の変速制御装置に相当する。
変速時入力トルク制限部84は、有段変速部20の変速制御中に予め定められた条件に従って有段変速部20に入力される入力トルク(AT入力トルク)Tinを制限するもので、例えば変速制御が安定して行われるようにAT入力トルクTinの増大を制限するように、そのAT入力トルクTinに上限ガード値Ting を設けたり、アップシフトではAT入力回転速度ωi を低下させる必要があることからイナーシャ相に先立ってAT入力トルクTinを低下させるように上限ガード値Ting を設けたりする。上限ガード値Ting は、AT入力トルクTin等に応じて一定値が定められても良いが、段階的或いは連続的に変化させることもできる。このAT入力トルクTinの制限は、エンジントルクTe やMG1トルクTg 、MG2トルクTm を制御することによって行われる。
変速中止制御部86は、任意の第1ギヤ段から第2ギヤ段へ切り替える第1変速の変速制御中に第1ギヤ段に戻す戻り変速判断が為された場合に、一定の条件下で第1変速の変速制御を中止して第1ギヤ段を維持する制御である。AT変速制御部82は、図9のフローチャートのステップS1〜S8(以下、単にS1〜S8という)に従って変速制御を行うようになっており、その中のS3〜S6が変速中止制御部86に相当する。図10は、AT2速ギヤ段「2nd」からAT3速ギヤ段「3rd」へ変速する2→3アップシフトの変速指令が出力された場合に、図9のフローチャートに従って変速中止制御が行われた場合の各部の作動状態の変化を示すタイムチャートの一例で、AT2速ギヤ段「2nd」が第1ギヤ段でAT3速ギヤ段「3rd」が第2ギヤ段である。図10における解放側油圧指令値Pdra は、2→3アップシフトの際に解放されるブレーキB1の油圧指令値(リニアソレノイドバルブSL3の励磁電流)で、そのブレーキB1の係合油圧Pb1すなわち係合トルクTb1に対応し、係合側油圧指令値Papp は、2→3アップシフトの際に新たに係合させられるクラッチC2の油圧指令値(リニアソレノイドバルブSL2の励磁電流)で、そのクラッチC2の係合油圧Pc2すなわち係合トルクTc2に対応する。係合油圧Pb1、Pc2は油圧指令値Pdra 、Papp に対して所定の応答遅れを有して変化させられる。
図9のS1では、変速マップ等による変速判断に従って第1ギヤ段から第2ギヤ段へ切り替える第1変速を実行する変速指令が出力されたか否かを判断する。変速指令が出力されていない場合はそのまま終了し、変速指令が出力された場合はS2以下を実施する。S2では、第1変速において解放すべき解放側係合装置CBdra を解放するための解放側油圧指令値Pdra の制御、および第1変速において新たに係合すべき係合側係合装置CBapp を係合させるための係合側油圧指令値Papp の制御を開始する。本実施例では、解放側油圧指令値Pdra の制御を開始した後に係合側油圧指令値Papp の制御を開始するようになっており、それぞれ定圧待機等を有する予め定められた変化パターンに従って制御される。図10の時間t1は、2→3アップシフトの変速指令に従って変速制御が開始された時間である。
S3では、アクセル開度θacc 等の変化により変速マップ等に基づいて第2ギヤ段から第1ギヤ段に戻す戻り変速判断が為されたか否かを判断する。シフトレバー56によるマニュアル変速操作に伴って戻り変速判断が為された場合でも良い。戻り変速判断が為されない場合はS7を実行し、第1変速のための変速制御を継続するが、戻り変速判断が為された場合はS4を実行する。図10の時間t2は、2→3アップシフト(第1変速)の変速制御中に3→2ダウンシフトの変速判断、すなわち戻り変速判断が為されて、S3の判断がYES(肯定)になった時間である。
S4では、許容時間設定部88から変速中止許容時間tperを読み込む。許容時間設定部88は、AT入力トルクTinの将来的な変化傾向(応答性)を考慮して、変速中止制御を実施するか否かを判断するためのものである。すなわち、AT入力トルクTinの立上り応答性が良いと、変速中止制御では係合側となる解放側係合装置CBdra の係合油圧Pcbが不足してスリップし、AT入力回転速度ωi が吹き上がる可能性がある。このため、第1変速の変速制御中における前記変速時入力トルク制限部84によるAT入力トルクTinの制限状態に基づいて、AT入力トルクTinの制限が大きい場合は、その後のAT入力トルクTinの上昇に時間が掛かる(応答性が悪い)と考えられるため、AT入力トルクTinの制限が小さい場合に比較して変速中止許容時間tperを長くする。具体的には、例えばAT入力トルクTinの制限制御が実施された場合は、制限制御を不実施の場合に比較して変速中止許容時間tperを長くする。また、変速時入力トルク制限部84によるAT入力トルクTinの上限ガード値Ting が低い場合は、上限ガード値Ting が高い場合に比較して変速中止許容時間tperを段階的或いは連続的に長くする。例えば、第1変速の変速制御中にアクセルOFF状態からアクセルが踏込み操作された場合のAT入力トルクTinの制限制御は、一般にアクセルON状態からアクセルが増し踏み操作された場合に比較して上限ガード値Ting が低く、変速中止許容時間tperが長くされる。図10の最下欄の「入力トルク制限」の欄の「ON」は、変速時入力トルク制限部84によるAT入力トルクTinの制限制御の実施を意味し、「OFF」はAT入力トルクTinの制限制御の不実施を意味する。図10は、変速時入力トルク制限部84により一定の上限ガード値Ting によってAT入力トルクTinが制限され、その制限制御の実施により不実施の場合に比較して変速中止許容時間tperが長くされた場合である。
S5では、第1変速の変速制御を中止可能か否か、言い換えれば変速中止制御を実施可能か否かを判断する。すなわち、前記変速中止許容時間tperを含む変速中止制御の実施条件を満足するか否かを判断する。変速中止制御の実施条件は、次式(1) に示すように第1変速の変速制御開始からの経過時間tsh(図10参照)が変速中止許容時間tperよりも短く、且つ解放側係合装置CBdra の伝達トルク容量Qdra がAT入力トルクTinよりも大きいことを含んでいる。経過時間tshは、第1変速の変速制御に関連する所定の経過時間に相当する。伝達トルク容量Qdra は、解放側係合装置CBdra の係合トルクTdra に基づいて、その解放側係合装置CBdra がスリップすることなくトルク伝達することが可能なAT入力トルクTinの最大値で、例えば解放側係合装置CBdra の油圧指令値Pdra に対応する解放側係合装置CBdra の係合トルクTdra 、遊星歯車装置36、38のギヤ比ρ1、ρ2、各部の径寸法等に基づいて算出できる。Qdra >Tinは、解放側係合装置CBdra がスリップを含まない完全な係合状態であることを意味する。AT入力トルクTinは、例えばエンジントルクTe 、MG1トルクTg 、MG2トルクTm などから算出される。制御のバラツキや誤差等を考慮して、例えば次式(2) に示すようにAT入力トルクTinに余裕値αを加算して伝達トルク容量Qdra と比較することが望ましい。余裕値αは一定値であっても良いが、AT入力トルクTin等に応じて変更することもできる。或いは、AT入力トルクTinに所定の余裕係数を掛け算するようにしても良い。なお、AT入力トルクTinを伝達するのに必要な解放側係合装置CBdra の必要係合トルクを算出して、その解放側係合装置CBdra の係合トルクTdra と比較しても実質的に同じである。また、変速中止制御の実施条件としてこれ等以外の条件が加えられても良い。
tsh<tper ・・・(1)
Qdra >Tin+α ・・・(2)
tsh<tper ・・・(1)
Qdra >Tin+α ・・・(2)
上記S5の判断がYES(肯定)の場合、すなわち変速中止制御の実施条件を満足する場合には、S6で変速前状態すなわち第1ギヤ段に戻すための変速中止制御を実行する。具体的には、解放側係合装置CBdra の係合トルクTdra すなわち伝達トルク容量Qdra を直ちに増大させるように解放側油圧指令値Pdra を漸増するとともに、係合側係合装置CBapp を直ちに解放するように係合側油圧指令値Papp を漸減する。これ等の油圧指令値Pdra 、Papp の変化率は予め一定値が定められても良いが、第1変速の進行度合や経過時間tsh、伝達トルク容量Qdra 等に基づいて変化率を変更することも可能である。S6ではまた、変速中止に伴って変速時入力トルク制限部84による入力トルクTinの制限制御が中止される。図10は、S6の変速中止制御が実行された場合で、時間t3は、解放側油圧指令値Pdra が最大圧まで上昇させられるとともに、係合側油圧指令値Papp が最低圧(0)まで低下させられ、変速中止制御が終了した時間である。なお、実質的なATギヤ段すなわち変速比γatで見たATギヤ段は、変速前ギヤ段であるAT2速ギヤ段「2nd」のままであり、AT入力回転速度ωi はAT2速ギヤ段「2nd」の同期回転速度(ωo ×AT2速ギヤ段のγat)に維持される。
S5の判断がNO(否定)の場合、すなわち変速中止制御の実施条件を満たさない場合には、第1変速の進行度合が進んでおり、中止制御を実行すると変速ショック等を生じる可能性があるため、S7を実行して第1変速の変速制御をそのまま継続する。すなわち、第1ギヤ段から第2ギヤ段へ変速した後に、必要に応じて第2ギヤ段から第1ギヤ段へ戻す戻り変速を実施する。
S8では、第1変速が終了したか否かを判断し、S8の判断がNO(否定)の場合には、S3以下を繰り返し実行する。S8の判断がYES(肯定)の場合、すなわち第1変速が終了すると、一連の変速制御を終了する。また、S6で変速中止制御が実行された場合にも、S8の判断がYES(肯定)とされ、一連の変速制御を終了する。
このように本実施例の車両10の変速制御装置すなわちAT変速制御部82によれば、第1変速の変速制御中に戻り変速判断が為された場合に(S3の判断がYES)、第1変速の変速制御開始からの経過時間tshが変速中止許容時間tperよりも短いことを含む実施条件を満たすと(S5がYES)、第1変速の変速制御を中止して直ちに解放側係合装置CBdra の係合トルクTdra を増大させる変速中止制御が行われる(S6)。ここで、変速中止制御を実施した場合、AT入力トルクTinの立上りが遅い時には、第1変速の変速制御開始からの経過時間tshが長く、変速が進行していても、第1変速において解放される解放側係合装置CBdra すなわち変速中止制御では係合側となる係合装置の伝達トルク容量不足が生じ難いが、AT入力トルクTinの立上りが早い時には、第1変速の変速制御開始からの経過時間tshが長く、変速が進行していると、変速中止制御中に解放側係合装置CBdra の伝達トルク容量Qdra が不足してAT入力回転速度ωi が吹き上がる恐れがある。AT入力トルクTinの立上り応答性は、第1変速の変速制御中におけるAT入力トルクTinの制限状態に応じて異なり、AT入力トルクTinの制限が大きい場合は制限が小さい場合に比較してAT入力トルクTinの立上りが遅くなるため、AT入力トルクTinの制限が大きい場合に変速中止許容時間tperが長くされることにより、変速中止制御中にAT入力回転速度ωi の吹きが発生することを抑制しつつ、変速中止制御を実行できる機会が増えて変速頻度を低減することができる。
また、解放側係合装置CBdra の伝達トルク容量Qdra がAT入力トルクTinに余裕値αを加算した値よりも大きいことが、変速中止制御の実施条件として定められており、変速中止許容時間tper以内であっても伝達トルク容量Qdra が低い場合は変速中止制御が行われないため、解放側係合装置CBdra の油圧制御のばらつきなどによる伝達トルク容量不足に拘らず変速中止制御が実行されてAT入力回転速度ωi の吹きが発生することが防止される。
また、AT入力トルクTinの制限制御が実施された場合は不実施の場合に比較して変速中止許容時間tperが長くされるが、AT入力トルクTinの制限制御が実施されるとAT入力トルクTinの立上りが遅くなることから、変速中止制御中にAT入力回転速度ωi の吹きが発生することを抑制しつつ、変速中止許容時間tperが長くされることにより変速中止制御を実行する機会が増えて変速頻度を低減することができる。
また、AT入力トルクTinの上限ガード値Ting が低い場合は上限ガード値Ting が高い場合に比較して変速中止許容時間tperが長くされるが、AT入力トルクTinの上限ガード値Ting が低いとAT入力トルクTinの立上りが遅くなることから、変速中止制御中にAT入力回転速度ωi の吹きが発生することを抑制しつつ、変速中止許容時間tperが長くされることにより変速中止制御を実行する機会が増えて変速頻度を低減することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用され得る。
例えば、前述の実施例では、無段変速部18と有段変速部20とを直列に備える車両10を例示したが、この態様に限らない。例えば、図11に示すような車両200であっても良い。車両200は、走行用の駆動源としてのエンジン202、駆動源として機能する電動機である回転機MG、を有する車両用駆動装置204を備えている。すなわち、車両200はハイブリッド車両で、回転機MGは、電動機および発電機として選択的に用いられるモータジェネレータである。車両用駆動装置204はまた、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース206内において、エンジン202側から順番に、クラッチK0、トルクコンバータ208、及び機械式有段変速部210等を備えており、更に差動歯車装置212、車軸214等を備えている。トルクコンバータ208のポンプ翼車208aは、クラッチK0を介してエンジン202と連結されていると共に、直接的に回転機MGと連結されている。トルクコンバータ208のタービン翼車208bは、機械式有段変速部210と直接的に連結されている。車両用駆動装置204において、エンジン202の動力及び/又は回転機MGの動力は、クラッチK0(エンジン202の動力を伝達する場合) 、トルクコンバータ208、機械式有段変速部210、差動歯車装置212、車軸214等を順次介して駆動輪216へ伝達される。機械式有段変速部210は、遊星歯車式の自動変速機で複数の油圧式摩擦係合装置を備えており、それ等の油圧式摩擦係合装置の係合解放状態に応じて複数のギヤ段が形成される。
このような車両200においても、機械式有段変速部210の変速制御に関連して変速時入力トルク制限部84、変速中止制御部86、および許容時間設定部88を機能的に備えるAT変速制御部82が設けられることにより、図9のフローチャートと同様の変速中止制御を行うことが可能で、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
また、本発明の実施に際しては、上記車両200におけるエンジン202やクラッチK0やトルクコンバータ208を備えず、有段変速部210の入力側に直接的に回転機MGが連結されるような車両であっても良いし、逆に回転機MGを備えず、有段変速機210の入力側にトルクコンバータ208或いはクラッチK0を介してエンジン202が連結された車両であっても良い。要は、走行用駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路に有段変速部が設けられた車両であれば、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、有段変速部20は、前進4速のATギヤ段が形成される遊星歯車式の自動変速機であったが、この態様に限らない。例えば、同期噛合型平行軸式自動変速機であって入力軸を2系統備え、各系統の入力軸に油圧式摩擦係合装置(クラッチ) が設けられ、それぞれ偶数段、奇数段のギヤ段を成立させる型式の変速機である公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの自動変速機であっても良い。また、回転方向を逆転する後進ギヤ段が可能な機械式有段変速部を採用することもできる。
また、前述の実施例では、変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御部94を備えていたが、この態様に限らない。例えば、無段変速制御部92による無段変速が行われるだけでも良い。
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材30やその中間伝達部材30に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度ωe が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
また、前述の実施例では、差動機構32は、3つの回転要素を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置の構成であったが、この態様に限らない。例えば、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、前記実施例の差動機構32は図3の共線図において中間に位置する回転要素RE1(キャリアCA0)にエンジン14が連結されていたが、例えば共線図の中間に位置する回転要素にAT入力回転部材(中間伝達部材30)を連結しても良いなど、種々の態様が可能である。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
20、210:機械式有段変速部(自動変速機) 82:AT変速制御部(変速制御装置) 84:変速時入力トルク制限部 86:変速中止制御部 88:許容時間設定部 C1、C2:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置) γat:変速比 tsh:変速制御開始からの経過時間(所定の経過時間) tper:変速中止許容時間 Tin:AT入力トルク(自動変速機の入力トルク) Ting :入力トルクの上限ガード値
Claims (4)
- 複数の摩擦係合装置を選択的に係合させることにより変速比が異なる複数のギヤ段を成立させる自動変速機の変速制御装置において、
第1ギヤ段から第2ギヤ段へ切り替える第1変速の変速制御中に前記第1ギヤ段に戻す戻り変速判断が為された場合に、前記第1変速の変速制御に関連する所定の経過時間が変速中止許容時間よりも短いことを条件として、前記第1変速の変速制御を中止して該第1変速において解放される解放側係合装置の係合トルクを直ちに増大させる変速中止制御を実施する変速中止制御部と、
前記自動変速機の変速時に予め定められた条件に従って該自動変速機の入力トルクを制限する変速時入力トルク制限部と、
前記第1変速の変速制御中における前記変速時入力トルク制限部による前記入力トルクの制限状態に基づいて、該入力トルクの制限が大きい場合は該制限が小さい場合に比較して前記変速中止許容時間を長くする許容時間設定部と、
を有することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 - 前記経過時間が前記変速中止許容時間よりも短く、且つ前記解放側係合装置の伝達トルク容量が前記自動変速機の入力トルクよりも大きいことが、前記変速中止制御の実施条件として定められている
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。 - 前記許容時間設定部は、前記変速時入力トルク制限部による前記入力トルクの制限制御が実施された場合は該制限制御を不実施の場合に比較して前記変速中止許容時間を長くする
ことを特徴とする請求項1または2に記載の自動変速機の変速制御装置。 - 前記許容時間設定部は、前記変速時入力トルク制限部による前記入力トルクの上限ガード値が低い場合は該上限ガード値が高い場合に比較して前記変速中止許容時間を長くする
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
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