本発明の実施形態において、前記有段変速機、直列に配設された前記差動機構と前記有段変速機とを合わせた複合変速機などの変速機における変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。この変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、ハイブリッド車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、動力源として機能するエンジン14、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部18及び機械式有段変速部20等を備えている。電気式無段変速部18は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン14に連結されている。機械式有段変速部20は、電気式無段変速部18の出力側に連結されている。又、車両用駆動装置12は、機械式有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部20へ伝達され、その機械式有段変速部20から差動歯車装置24等を介してハイブリッド車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えばハイブリッド車両10において縦置きされるFR(=フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。尚、以下、ハイブリッド車両10を車両10、トランスミッションケース16をケース16、電気式無段変速部18を無段変速部18、機械式有段変速部20を有段変速部20という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部18や有段変速部20等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン14のクランク軸、後述する連結軸34などの軸心である。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置90によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン14の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、差動用回転機に相当し、又、第2回転機MG2は、動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ54に接続されており、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルクであるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、又、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり無段変速部18と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速部18の入力側にはエンジン14が連結されているので、有段変速部20は、動力源(第2回転機MG2又はエンジン14)と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなく中間伝達部材30と出力軸22との間で、例えば有段変速部20に入力される入力トルクであるAT入力トルクTiを伝達する為には、そのAT入力トルクTiに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク分である係合装置CBの分担トルクが得られる係合トルクTcbが必要になる。但し、伝達トルク分が得られる係合トルクTcbにおいては、係合トルクTcbを増加させても伝達トルクは増加しない。つまり、係合トルクTcbは、係合装置CBが伝達できる最大のトルクに相当し、伝達トルクは、係合装置CBが実際に伝達するトルクに相当する。尚、係合装置CBを滑らせないことは、係合装置CBに差回転速度を生じさせないことである。又、係合トルクTcb(或いは伝達トルク)と係合油圧PRcbとは、例えば係合装置CBのパック詰めに必要な係合油圧PRcbを供給する領域を除けば、略比例関係にある。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部20は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される、有段式の自動変速機である。つまり、有段変速部20は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられる、有段式の自動変速機である。有段変速部20のギヤ段が切り替えられることは、有段変速部20の変速が実行されることである。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部20の入力回転部材の回転速度である有段変速部20の入力回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン14と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)−AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時や加速時にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速部20のコーストダウンシフトは、例えばアクセル開度θaccがゼロ又は略ゼロであるアクセルオフによる減速走行中に判断されたダウンシフトである。尚、複数の係合装置が何れも解放されることにより、有段変速部20は、何れのATギヤ段も形成されないニュートラル状態すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態とされる。ワンウェイクラッチF1は自動的に作動状態が切り替えられるクラッチであるので、係合装置CBが何れも解放されれば有段変速部20はニュートラル状態とされる。又、ダウンシフトが判断されることは、ダウンシフトが要求されることである。
有段変速部20は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて、変速前のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの解放側係合装置の解放と変速後のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。つまり、有段変速部20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトでは、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が調圧制御される。解放側係合装置は、係合装置CBのうちの有段変速部20の変速に関与する係合装置であって、有段変速部20の変速過渡において解放に向けて制御される係合装置である。係合側係合装置は、係合装置CBのうちの有段変速部20の変速に関与する係合装置であって、有段変速部20の変速過渡において係合に向けて制御される係合装置である。尚、2→1ダウンシフトは、2→1ダウンシフトに関与する解放側係合装置としてのブレーキB1の解放によってワンウェイクラッチF1が自動的に係合されることでも実行され得る。本実施例では、例えばAT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
図3は、無段変速部18と有段変速部20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比ともいう)ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=−(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転の力行トルクである。
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでは、前進用のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進用のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。このように、車両10では、前進用のATギヤ段を用いて、MG2トルクTmの正負を反転させることで後進走行を行う。前進用のATギヤ段を用いることは、前進走行を行うときと同じATギヤ段を用いることである。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構としての無段変速部18が構成される。中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3は、見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3である。つまり、車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、入力回転部材となる連結軸34の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、出力回転部材となる中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度Nmとの比の値である変速比γ0(=Ne/Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度つまりエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
又は、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40において、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γt(=Ne/No)が異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図4は、ギヤ段割当テーブルの一例である。図4において、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段−模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。
図5は、図3と同じ共線図上に有段変速部20のATギヤ段と複合変速機40の模擬ギヤ段とを例示した図である。図5において、実線は、有段変速部20がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものである。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部18が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、破線は、有段変速部20がAT3速ギヤ段のときに、模擬7速ギヤ段が成立させられる場合を例示したものである。複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
図1に戻り、車両10は、シフトレバー58を備えている。シフトレバー58は、複数の操作ポジションPOSshのうちの何れかの操作ポジションへ運転者によって操作されるシフト操作部材である。操作ポジションPOSshは、シフトレバー58の操作位置であり、例えばP,R,N,D操作ポジションを含んでいる。
P操作ポジションは、複合変速機40がニュートラル状態とされ且つ機械的に出力軸22の回転が阻止された、複合変速機40のパーキングポジション(=Pポジション)を選択するパーキング操作ポジションである。複合変速機40のニュートラル状態は、例えば第1回転機MG1が無負荷状態で空転させられてエンジントルクTeに対する反力トルクを取らないことによって無段変速部18がエンジントルクTeを伝達不能な状態とされ且つ第2回転機MG2が無負荷状態で空転させられて複合変速機40における動力伝達が遮断されることで実現される。出力軸22の回転が阻止された状態は、出力軸22が回転不能に固定された状態である。出力軸22は、車両10に備えられたパーキングロック機構60により回転不能に固定される。
R操作ポジションは、有段変速部20のAT1速ギヤ段が形成された状態で後進用のMG2トルクTmによる車両10の後進走行を可能とする、複合変速機40の後進走行ポジション(=Rポジション)を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、複合変速機40がニュートラル状態とされた、複合変速機40のニュートラルポジション(=Nポジション)を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、例えば模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の総ての模擬ギヤ段を用いて自動変速制御を実行して前進走行を可能とする、複合変速機40の前進走行ポジション(=Dポジション)を選択する前進走行操作ポジションである。操作ポジションPOSshがD操作ポジションにあるときには、例えば後述する模擬ギヤ段変速マップのような変速マップに従って複合変速機40を自動変速する自動変速モードが成立させられる。
パーキングロック機構60は、パーキングロックギヤ62、パーキングロックポール64、切替部材66等を備えている。パーキングロック機構60は、リンクやケーブル等を含む、車両10に備えられた連結機構67を介して機械的にシフトレバー58と連結されている。
パーキングロックギヤ62は、出力軸22と一体回転するように設けられた部材である。パーキングロックポール64は、パーキングロックギヤ62のギヤ歯に噛み合う爪部を有しており、パーキングロックギヤ62に噛み合うことが可能な部材である。切替部材66は、パーキングロックポール64側へ移動させられることでパーキングロックポール64をパーキングロックギヤ62に噛み合わせるカム、一端部において前記カムを支持すると共に他端部において連結機構67と連結されたパーキングロッド等を備えている。シフトレバー58がP操作ポジションへ操作されると、前記カムがパーキングロックポール64側へ付勢されるように、連結機構67を介して切替部材66が作動させられる。これにより、パーキングロックポール64がパーキングロックギヤ62側へ動かされる。パーキングロックポール64がパーキングロックギヤ62と噛み合う位置まで動かされると、パーキングロックギヤ62と共に出力軸22が回転不能に固定され、出力軸22と連動して回転する駆動輪28が回転不能に固定される。
又、車両10は、ホイールブレーキ装置68を備えている。ホイールブレーキ装置68は、車輪にホイールブレーキによるブレーキトルクを付与するブレーキ装置である。ホイールブレーキ装置68は、運転者による例えばホイールブレーキペダルでのブレーキ操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。このホイールブレーキ装置68では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキペダルの踏力に対応した大きさのマスタシリンダ油圧が直接的にブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置68では、例えばABS制御時、車速制御時などには、ホイールブレーキによるブレーキトルクの発生の為に、上記踏力に拘わらず、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪28及び不図示の従動輪である。
又、車両10は、パーキングブレーキ機構69を備えている。パーキングブレーキ機構69は、車輪例えば後輪にパーキングブレーキによるブレーキトルクを付与するブレーキ装置である。パーキングブレーキ機構69では、運転者によるパーキングブレーキ操作部材の操作状態に応じて、パーキングブレーキが作動させられた状態であるパーキングブレーキ作動状態と、パーキングブレーキが解除させられた状態であるパーキングブレーキ解除状態とが切り替えられる。
又、車両10は、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。よって、図1は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、MG1回転速度センサ72、MG2回転速度センサ74、出力回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ホイールブレーキスイッチ82、パーキングブレーキスイッチ83、シフトポジションセンサ84、バッテリセンサ86、油温センサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度NiであるMG2回転速度Nm、車速Vに対応する出力回転速度No、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のホイールブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるホイールブレーキオンWBon、パーキングブレーキを作動させる為のパーキングブレーキ操作部材の操作状態がパーキングブレーキ作動状態を示す信号であるパーキングブレーキオンPBon、操作ポジションPOSsh、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、係合装置CBの油圧アクチュエータへ供給される作動油の温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量であるアクセル操作量である。
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ホイールブレーキ装置68など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、ホイールブレーキによるブレーキトルクを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、有段変速部20の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもあり、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する各ソレノイドバルブSL1−SL4等を駆動する為の指令信号である。電子制御装置90は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する油圧指示値を設定し、その油圧指示値に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路56へ出力する。
電子制御装置90は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。又、電子制御装置90は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力としての充電可能電力Win、及びバッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力としての放電可能電力Woutである。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高い程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低い程小さくされる。
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部92、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部94を備えている。
AT変速制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えばATギヤ段変速マップを用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行する。AT変速制御部92は、この有段変速部20の変速制御では、有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1−SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力回転速度No及びアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、有段変速部20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、出力回転速度Noに替えて車速Vなどを用いても良いし、又、アクセル開度θaccに替えて要求駆動トルクTdemやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、アップシフトが判断される為のアップシフト線、及びダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。この各変速線は、あるアクセル開度θaccを示す線上において出力回転速度Noが線を横切ったか否か、又は、ある出力回転速度Noを示す線上においてアクセル開度θaccが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値である変速点を横切ったか否かを判断する為のものであり、この変速点の連なりとして予め定められている。
ハイブリッド制御部94は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求駆動パワーPdemを算出する。この要求駆動パワーPdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdemである。ハイブリッド制御部94は、バッテリ54の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン14のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部18を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部18を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部92による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度Noの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度No及びアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部94による模擬有段変速制御と、AT変速制御部92による有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1→2」等参照)。又、図6における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1←2」等参照)。又は、図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部92に対して出力するようにしても良い。このように、有段変速部20のアップシフト時は、複合変速機40全体のアップシフトが行われる一方で、有段変速部20のダウンシフト時は、複合変速機40全体のダウンシフトが行われる。AT変速制御部92は、有段変速部20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度Neの変化を伴って有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部94は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。又、ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードは、エンジン14を停止した状態で第2回転機MG2により駆動トルクを発生させて走行する走行状態である。ハイブリッド走行モードは、エンジン14を運転した状態で走行する走行状態である。前記エンジン始動閾値は、エンジン14を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
ここで、シフトレバー58の操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際の制御について詳述する。尚、エンジン14を停止する場面としては、例えば運転者の操作によるイグニッションオフによってエンジン14の停止要求が為された場合、所定のエンジン停止条件が成立したことによってエンジン14の停止要求が為された場合などが想定される。又、本実施例の車両10では、パーキングロック機構60は連結機構67を介して機械的にシフトレバー58と連結されているので、パーキングロック機構60をアクチュエータによって作動させるようなシフトバイワイヤ方式を採用した車両とは異なり、操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態では、例えばイグニッションオフに連動してパーキングロック機構60を自動的に作動させることで駆動輪28を回転不能に固定した状態とするような制御を行うことができない。
ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときには、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に無負荷状態とするように、すなわちMG1トルクTg及びMG2トルクTmが共にゼロとされるように、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各運転状態を制御する為の回転機制御指令信号Smgをインバータ52へ出力する。又、AT変速制御部92は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときには、走行可能なATギヤ段が形成されるように有段変速部20を制御する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。このように、本実施例の車両10では、無段変速部18がニュートラル状態とされることで、複合変速機40がニュートラル状態とされる。前記走行可能なATギヤ段は、車両10の走行に用いることができるATギヤ段である。この走行可能なATギヤ段は、特には、停車中の状態で操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときは発進可能なATギヤ段である。この発進可能なATギヤ段は、例えば車両10を発進させるときに用いるのに適したATギヤ段であり、例えばAT1速ギヤ段である。
N操作ポジションの状態でエンジン14を停止した場合、無段変速部18がニュートラル状態である為、エンジン回転速度Neは成り行きで低下させられる。この際、エンジン14のフリクショントルクにより中間伝達部材30に負トルクが作用させられ、この負トルクが後進方向の駆動トルクとして例えばAT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。その為、例えば停車中且つブレーキ装置(ホイールブレーキ装置68、パーキングブレーキ機構69)によるブレーキトルクが付与されていない状態であると、車両10が後進してしまう可能性がある。
上述したような現象に対して、AT変速制御部92は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、ハイブリッド制御部94によりエンジン14が停止させられる場合には、有段変速部20を前記発進可能なATギヤ段が形成された状態からニュートラル状態へ切り替える制御を実行する。本実施例では、この制御をAT部ニュートラル制御(=AT部N制御)と称する。このAT部N制御は、特には、停車中且つブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態で有用である。
エンジン14の停止によってエンジン回転速度Neが低下する過渡中において有段変速部20がニュートラル状態とされていると、中間伝達部材30に作用させられる負トルクによってMG2回転速度Nmが負側に高くされるおそれがある。エンジン14の回転停止後に再び有段変速部20において前記発進可能なATギヤ段を形成する為に係合装置CBを係合するとショックが発生する可能性がある。例えば、停車中であれば、AT1速ギヤ段におけるAT入力回転速度Niの同期回転速度はゼロであるので、MG2回転速度Nm(=AT入力回転速度Ni)が負側に高くされると係合装置CBの差回転速度が大きくされて係合ショックが発生し易くなる。
上述したような現象に対して、ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合には、中間伝達部材30の回転速度(=MG2回転速度Nm)がゼロとなるように第2回転機MG2の運転状態を制御する。本実施例では、この制御をAT入力軸0rpmフィードバック制御(=AT入力軸0rpmFB制御)と称する。このAT入力軸0rpmFB制御は、特には、停車中且つブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態で有用である。
エンジン14の停止によってエンジン回転速度Neが低下する過渡中において共振帯を通過する場合には、複合変速機40などの動力伝達経路におけるギヤの噛合い部分で歯打ち音等の騒音が発生する可能性がある。その為、エンジン回転速度Neを速やかに低下させて共振帯を速やかに通過させることが望ましい。
ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合には、エンジン回転速度Neを引き下げるように第1回転機MG1の運転状態を制御する。本実施例では、この制御をエンジン引き下げ制御と称する。
前記エンジン引き下げ制御では、反力トルクとして中間伝達部材30に正トルクが作用させられる。この際、AT部N制御が完了していないとすなわち有段変速部20がニュートラル状態とされていないと、この正トルクが前進方向の駆動トルクとして例えばAT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。その為、例えば停車中且つブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態であると、車両10が前進してしまう可能性がある。
上述したような現象に対して、ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合には、AT変速制御部92によるAT部N制御において有段変速部20のニュートラル状態への切替えが完了した後に、前記エンジン引き下げ制御の実行を開始する。
別の観点では、前記エンジン引き下げ制御では、反力トルクとして中間伝達部材30に正トルクが作用させられる為、エンジン14の停止によってエンジン回転速度Neが低下する過渡中において有段変速部20がニュートラル状態とされていると、MG2回転速度Nmが正側に高くされるおそれがある。その為、エンジン14の回転停止後に再び有段変速部20において前記発進可能なATギヤ段を形成する為に係合装置CBを係合するとショックが発生する可能性がある。
上述したような現象に対して、ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合には、AT入力軸0rpmFB制御を実行している状態で、前記エンジン引き下げ制御の実行を開始する。
具体的には、電子制御装置90は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際の制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部96を備えている。
状態判定部96は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションであるか否かを判定する。又、状態判定部96は、車速Vが所定の極低車速未満であるか否かに基づいて、車両10が停車中であるか否かを判定する。前記所定の極低車速は、例えば車速Vがゼロであると判断しても良い程の予め定められた極めて低い車速Vである。
又、状態判定部96は、エンジン14が運転状態にあるか否か、すなわちエンジン運転中であるか否かを判定する。又、状態判定部96は、運転状態にあるエンジン14の停止要求が為されたか否かを判定する。つまり、状態判定部96は、エンジン運転中であると判定した場合には、エンジン14の停止要求が有るか否かを判定する。状態判定部96は、イグニッションオフとされた場合、所定のエンジン停止条件が成立した場合などには、エンジン14の停止要求が有ると判定する。
又、状態判定部96は、ブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態であるか否かを判定する。例えば、状態判定部96は、ホイールブレーキオンWBon及びパーキングブレーキオンPBonの信号が共に出力されていない状態すなわちフットブレーキオフ且つサイドブレーキオフであるか否かに基づいて、ブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態であるか否かを判定する。
ハイブリッド制御部94は、状態判定部96によりエンジン14の停止要求が有ると判定された場合には、燃料供給の停止などによってエンジン14の運転を停止する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力して、エンジン14を停止する。
AT変速制御部92は、状態判定部96により、車両10が停車中であると判定され、操作ポジションPOSshがN操作ポジションであると判定され、エンジン運転中であると判定され、エンジン14の停止要求が有ると判定され、及びフットブレーキオフ且つサイドブレーキオフであると判定された場合には、N操作ポジションにおいて有段変速部20で前記発進可能なATギヤ段を形成する為に係合状態とされていた係合装置CBを解放状態へ切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力して、AT部N制御を実行する。このAT部N制御における油圧制御指令信号Satは、係合装置CBを何れも解放する油圧ドレン指令であり、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2の各油圧指示値は何れもゼロとされる。
ハイブリッド制御部94は、AT変速制御部92によるAT部N制御の実行に合わせて、フィードバック制御によりMG2回転速度NmがゼロとなるようにMG2トルクTmを制御する為の回転機制御指令信号Smgをインバータ52へ出力して、第2回転機MG2によるAT入力軸0rpmFB制御を実行する。
状態判定部96は、AT変速制御部92によるAT部N制御において有段変速部20のニュートラル状態への切替えが完了したか否かを判定する。例えば、状態判定部96は、N操作ポジションにおいて係合状態とされていた係合装置CBの解放状態への切替えが完了したか否かに基づいて、有段変速部20のニュートラル状態への切替えが完了したか否かを判定する。状態判定部96は、作動油温THoilと、AT変速制御部92により係合装置CBの作動状態を切り替える指令である前記油圧ドレン指令の出力が開始されてからの経過時間とに基づいて、N操作ポジションにおいて係合状態とされていた係合装置CBの解放状態への切替えが完了したか否かを判定する。状態判定部96は、例えば前記油圧ドレン指令が出力されてからの経過時間が所定時間A以上となった場合に、係合装置CBの解放状態への切替えが完了したと判定する。前記所定時間Aは、例えば前記油圧ドレン指令の出力開始から係合状態にある係合装置CBが確実に解放状態とされるまでの予め定められた時間であり、作動油温THoilが低い程長くされる。
ハイブリッド制御部94は、状態判定部96によりAT部N制御において有段変速部20のニュートラル状態への切替えが完了したと判定された場合にはすなわちN操作ポジションにおいて係合状態とされていた係合装置CBの解放状態への切替えが完了したと判定された場合には、MG1回転速度Ngを低下させることによりエンジン回転速度Neを引き下げるようにMG1トルクTgを制御する為の回転機制御指令信号Smgをインバータ52へ出力して、第1回転機MG1によるエンジン引き下げ制御を実行する。又は、ハイブリッド制御部94は、前記AT部N制御の実行に合わせて前記AT入力軸0rpmFB制御の実行を開始した後に、前記エンジン引き下げ制御の実行を開始しても良い。
図7は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際に車両10の後進を防止する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば車両10が停車中であると判定されたときに繰り返し実行される。図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図7において、先ず、状態判定部96の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、操作ポジションPOSshがN操作ポジションであるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS20において、エンジン運転中であるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS30において、エンジン14の停止要求が有るか否かが判定される。上記S10、上記S20、及び上記S30のうちの何れかの判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。上記S30の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS40において、フットブレーキオフ且つサイドブレーキオフであるか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合はAT変速制御部92の機能に対応するS50において、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2の各油圧指示値が何れもゼロとされる前記油圧ドレン指令が出力されて、前記AT部N制御が実行される。次いで、ハイブリッド制御部94の機能に対応するS60において、前記AT部N制御の実行に合わせて、第2回転機MG2によるAT入力軸0rpmFB制御が実行される。次いで、状態判定部96の機能に対応するS70において、前記AT部N制御による、N操作ポジションで係合状態とされていた係合装置CBの解放状態への切替えが完了したか否かが判定される。このS70の判断が否定される場合はこのS70が繰り返し実行される。このS70の判断が肯定される場合はハイブリッド制御部94の機能に対応するS80において、前記エンジン引き下げ制御が実行される。一方で、上記S40の判断が否定される場合はハイブリッド制御部94の機能に対応するS90において、前記エンジン引き下げ制御が実行される。尚、図7には示していないが、上記S30の判断が肯定される場合はハイブリッド制御部94によりエンジン14を停止する制御が実行される。
図8は、車両10の停車中且つブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態で操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合の実施態様の一例を示している。図8において、t1時点は、N操作ポジションで有段変速部20においてAT1速ギヤ段が形成された状態のときにエンジン14の停止要求が為された時点を示している。エンジン14の停止要求に伴ってエンジン14の運転が停止させられると、無段変速部18がニュートラル状態である為、エンジン回転速度Neが低下させられる(t1時点以降参照)。破線で示す比較例では、AT部N制御、AT入力軸0rpmFB制御、及びエンジン引き下げ制御の何れも実行されておらず、エンジン回転速度Neはフリーフォール状態で低下させられる。その為、共振帯の通過時間が比較的長くされて、比較的大きな歯打ち音が生じている。又、AT1速ギヤ段が形成された状態のままである為、車両後退が生じている。これに対して、実線で示す本実施例では、AT部N制御、AT入力軸0rpmFB制御、及びエンジン引き下げ制御が実行されている(t1時点−t2時点参照)。これにより、エンジン回転速度Neは速やかに低下させられるので、共振帯の通過時間が比較的短くされて、歯打ち音の発生が抑制されている。加えて、有段変速部20がニュートラル制御とされるので、車両後退が防止される。N操作ポジションである為、エンジン回転速度Neがゼロまで低下した後、有段変速部20においてAT1速ギヤ段が再び形成される(t2時点以降参照)。この際、AT入力軸0rpmFB制御によりMG2回転速度Nm(=AT入力回転速度Ni)が略ゼロに維持されていたので、係合ショックが発生し難い。尚、イグニッションオフに伴うエンジン14の停止である場合は、AT1速ギヤ段を再度形成する制御は実行されない。
上述のように、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、前記AT部N制御が実行されるので、車両10を後進させるトルクが駆動輪28に伝達されない。よって、操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際に、車両10の後進を防止することができる。
また、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、前記AT部N制御が実行されると共に、第2回転機MG2によるAT入力軸0rpmFB制御が実行されるので、有段変速部20において再び前記発進可能なATギヤ段が形成されるときのショックを抑制することができる。
また、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、前記エンジン引き下げ制御が実行されるので、エンジン回転速度Neが成り行きで低下させられることと比べて速やかに低下させられる。エンジン回転速度Neが低下する過程で共振帯を通過する場合には、その共振帯を通過する時間が短くされる。これにより、複合変速機40などの動力伝達経路におけるギヤの噛合い部分での歯打ち音等の騒音を抑制することができる。
また、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、前記AT部N制御が完了した後に、前記エンジン引き下げ制御が実行されるので、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き下げるときの反力トルクが中間伝達部材30に作用させられてもその影響が駆動輪28に及び難くされる。
また、本実施例によれば、作動油温THoilと前記油圧ドレン指令を出力してからの経過時間とに基づいて、前記AT部N制御が完了したか否かが判定されるので、第1回転機MG1によるエンジン引き下げ制御が、前記AT部N制御が完了した後に適切に実行される。
また、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、第2回転機MG2によるAT入力軸0rpmFB制御を実行している状態で、前記エンジン引き下げ制御が実行されるので、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き下げるときの反力トルクが中間伝達部材30に作用させられても中間伝達部材30の回転速度が略ゼロに維持される。これにより、有段変速部20において未だ前記発進可能なATギヤ段が形成された状態であっても上記反力トルクの影響が駆動輪28に及び難くされる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例1では、N操作ポジションの状態でエンジン14を停止した場合に車両10が後進してしまう可能性があるというような現象に対して、AT変速制御部92はAT部N制御を実行した。本実施例では、上述したような現象に対して、AT変速制御部92は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、ハイブリッド制御部94によりエンジン14が停止させられる場合には、AT部N制御を実行することに替えて、有段変速部20を前記発進可能なATギヤ段が形成された状態から有段変速部20内の回転要素が回転不能とされるロック状態へ切り替える制御を実行する。本実施例では、この制御をAT部ロック制御と称する。このAT部ロック制御は、特には、停車中且つブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態で有用である。
AT変速制御部92は、N操作ポジションにおいて有段変速部20で前記発進可能なATギヤ段を形成する為に係合状態とされていた係合装置CBをそのまま係合状態とすることに加えて、有段変速部20をロック状態とすることができる所定の係合装置CBを係合状態へ切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力して、AT部ロック制御を実行する。このAT部ロック制御における油圧制御指令信号Satは、例えば前記発進可能なATギヤ段がAT1速ギヤ段である場合には、クラッチC1及びブレーキB2の係合状態を維持し且つ所定の係合装置CBとしてのブレーキB1を係合する油圧アプライ指令である。
ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合には、前述の実施例1と同様に、前記エンジン引き下げ制御を実行する。このエンジン引き下げ制御では、反力トルクとして中間伝達部材30に正トルクが作用させられる為、AT部ロック制御が完了していないと、この正トルクが前進方向の駆動トルクとして有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。その為、例えば停車中且つブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態であると、車両10が前進してしまう可能性がある。
上述したような現象に対して、ハイブリッド制御部94は、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときに、エンジン14を停止する場合には、AT変速制御部92によるAT部ロック制御への切替えが完了した後に、前記エンジン引き下げ制御の実行を開始する。
状態判定部96は、AT変速制御部92によるAT部ロック制御において有段変速部20のロック状態への切替えが完了したか否かを判定する。例えば、状態判定部96は、N操作ポジションにおいて解放状態とされていた前記所定の係合装置CBの係合状態への切替えが完了したか否かに基づいて、有段変速部20のロック状態への切替えが完了したか否かを判定する。状態判定部96は、作動油温THoilと、AT変速制御部92により前記所定の係合装置CBの作動状態を切り替える指令である前記油圧アプライ指令の出力が開始されてからの経過時間とに基づいて、前記所定の係合装置CBの係合状態への切替えが完了したか否かを判定する。状態判定部96は、例えば前記油圧アプライ指令が出力されてからの経過時間が所定時間B以上となった場合に、所定の係合装置CBの係合状態への切替えが完了したと判定する。前記所定時間Bは、例えば前記油圧アプライ指令の出力開始から解放状態にある所定の係合装置CBが確実に係合状態とされるまでの予め定められた時間であり、作動油温THoilが低い程長くされる。
尚、AT変速制御部92によるAT部ロック制御は、第2回転機MG2によるAT入力軸0rpmFB制御と同様にMG2回転速度Nmをゼロにするので、又、エンジン14の回転停止後に再び有段変速部20において前記発進可能なATギヤ段を形成する為には前記所定の係合装置CBを解放するだけであるので、AT部N制御を実行した場合に生じる可能性があるような再び前記発進可能なATギヤ段を形成するときの係合ショックが発生しない。従って、AT部ロック制御が実行される場合には、第2回転機MG2によるAT入力軸0rpmFB制御は実行されなくても良い。
図9は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際に車両10の後進を防止する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば車両10が停車中であると判定されたときに繰り返し実行される。図9のS10,S20,S30,S40については、図7のS10,S20,S30,S40と同じであるので、以下において、それらの説明を省略する。
図9において、S40の判断が肯定される場合はAT変速制御部92の機能に対応するS55において、有段変速部20をロック状態へ切り替える制御すなわち前記AT部ロック制御が実行される。次いで、状態判定部96の機能に対応するS75において、前記AT部ロック制御が完了したか否かが判定される。このS75の判断が否定される場合はこのS75が繰り返し実行される。このS75の判断が肯定される場合はハイブリッド制御部94の機能に対応するS80において、前記エンジン引き下げ制御が実行される。一方で、上記S40の判断が否定される場合はハイブリッド制御部94の機能に対応するS90において、前記エンジン引き下げ制御が実行される。
本実施例によれば、前述の実施例1と同様の効果が得られる。つまり、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、前記AT部ロック制御が実行されるので、車両10を後進させるトルクが駆動輪28に伝達されない。よって、操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際に、車両10の後進を防止することができる。
また、本実施例によれば、操作ポジションPOSshがN操作ポジションにあるときにエンジン14を停止する場合には、前記AT部ロック制御が完了した後に、前記エンジン引き下げ制御が実行されるので、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き下げるときの反力トルクが中間伝達部材30に作用させられてもその影響が駆動輪28に及び難くされる。
また、本実施例によれば、作動油温THoilと前記油圧アプライ指令を出力してからの経過時間とに基づいて、前記AT部ロック制御が完了したか否かが判定されるので、第1回転機MG1によるエンジン引き下げ制御が、前記AT部ロック制御が完了した後に適切に実行される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例1において、前記AT入力軸0rpmFB制御の実行によって確実にMG2回転速度Nmがゼロ又は略ゼロとされるのであれば、前記AT部N制御において有段変速部20のニュートラル状態への切替えが完了していない状態で前記エンジン引き下げ制御が実行されても良い。従って、図7において、S60にて確実にMG2回転速度Nmがゼロ又は略ゼロとされるのであれば、S70は備えられなくても良い。
また、前述の実施例において、操作ポジションPOSshがN操作ポジションとされた状態でエンジン14を停止する際に車両10の後進を防止するという観点では、前記AT部N制御又は前記AT部ロック制御が実行されれば良く、前記AT入力軸0rpmFB制御や前記エンジン引き下げ制御は実行されなくても良い。又、前記AT部N制御、前記AT部ロック制御、及び前記AT入力軸0rpmFB制御は、ブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されていない状態で実行されることが有用であるが、ブレーキ装置によるブレーキトルクが付与されている状態で実行されても良い。又、前記AT部N制御及び前記AT部ロック制御は、車両10の停車中に実行されることが有用であるが、前記AT部N制御については走行中に実行されても良い。
また、前述の実施例において、前記発進可能なATギヤ段としてAT1速ギヤ段を例示したが、この態様に限らない。例えば、前記発進可能なATギヤ段は、AT2速ギヤ段であっても良い。
また、前述の実施例では、車両10は、シングルピニオン型の遊星歯車装置である差動機構32を有して、電気式変速機構として機能する無段変速部18を備えていたが、この態様に限らない。例えば、無段変速部18は、差動機構32の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る変速機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、エンジン14によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材30が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
また、前述の実施例において、有段変速機として、遊星歯車式の自動変速機である有段変速部20を例示したが、この態様に限らない。例えば、本発明を適用することができる有段変速機としては、同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの自動変速機であっても良い。
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材30やその中間伝達部材30に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度Neが所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。