本発明の実施形態において、前記無段変速機は、例えば固定シーブと可動シーブとそれらの固定シーブ及び可動シーブの間の溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとを各々有する入力側のプーリ(プライマリプーリともいう)及び出力側のプーリ(セカンダリプーリともいう)と、それらのプライマリプーリ及びセカンダリプーリの間に巻き掛けられた伝動ベルトとを備える。前記車両は、前記油圧アクチュエータに供給される作動油圧(プーリ油圧)をそれぞれ独立に制御する油圧制御回路を備える。この油圧制御回路は、例えば前記油圧アクチュエータへの作動油の流量を制御することにより結果的にプーリ油圧を生じるように構成されても良い。このような油圧制御回路により、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリにおける各推力(=プーリ油圧×受圧面積)が各々制御されることで、伝動ベルトの滑りを防止しつつ目標の変速が実現されるように変速制御が実行される。前記伝動ベルトは、無端環状のフープとそのフープに沿って厚さ方向に多数連ねられた厚肉板片状のブロック(エレメント)とを有する無端環状の圧縮式の伝動ベルト、又は、交互に重ねられたリンクプレートの端部が連結ピンによって相互に連結された無端環状のリンクチェーンを構成する引張式の伝動ベルトなどである。広義には、ベルト式の無段変速機の概念にチェーン式の無段変速機を含む。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンである。又、前記車両は、動力源として、このエンジンに加えて、又は、このエンジンに替えて、電動機等を備えていても良い。
また、前記車外装置は、前記車両の位置情報と関連付けられた前記スリップの発生情報を収集して前記スリップ情報を設定するセンターである。また、前記車外装置は、他車両を含んでおり、前記車両は、前記センターから前記スリップ情報を受信できないときには、前記他車両から前記スリップ情報を受信する。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、非回転部材としてのケース18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結されたベルト式の無段変速機24、同じく入力軸22に連結された前後進切替装置26、前後進切替装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられたギヤ伝動機構28、無段変速機24及びギヤ伝動機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36、ギヤ36に連結されたデフギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置16は、デフギヤ38に連結された左右の車軸40を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、無段変速機24(或いは前後進切替装置26及びギヤ伝動機構28)、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。
このように、動力伝達装置16は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ伝動機構28及び無段変速機24を備えている。よって、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ伝動機構28を介して駆動輪14へ伝達する第1動力伝達経路PT1と、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14へ伝達する第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路を、入力軸22と出力軸30との間に並列に備えている。動力伝達装置16は、車両10の走行状態に応じて第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とが切り替えられる。その為、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を駆動輪14へ伝達する動力伝達経路を、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とで選択的に切り替える複数の係合装置を備えている。この係合装置は、第1動力伝達経路PT1を断接する(換言すれば係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する)第1クラッチC1(後進時は第1ブレーキB1)と、第2動力伝達経路PT2を断接する(換言すれば、係合されることで第2動力伝達経路PT2を形成する)第2クラッチC2とを含んでいる。第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式の摩擦係合装置である。又、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は、各々、後述するように、前後進切替装置26を構成する要素の1つである。
エンジン12は、電子スロットル装置や燃料噴射装置や点火装置などのエンジン12の出力制御に必要な種々の機器を有するエンジン制御装置42を備えている。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、運転者による車両10に対する駆動要求量に対応するアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)θaccに応じてエンジン制御装置42が制御されることで、エンジントルクTeが制御される。
トルクコンバータ20は、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに連結された機械式のオイルポンプ44を備えている。オイルポンプ44は、エンジン12により回転駆動されることにより、無段変速機24を変速制御したり、無段変速機24におけるベルト挟圧力を発生させたり、前記複数の係合装置の各々の作動状態(係合や解放などの状態)を切り替えたりする為の作動油圧の元圧を、車両10に備えられた油圧制御回路46へ供給する。
前後進切替装置26は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pのキャリア26cは入力軸22に連結され、遊星歯車装置26pのリングギヤ26rは第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結され、サンギヤ26sは入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ48に連結されている。又、キャリア26cとサンギヤ26sとは、第1クラッチC1を介して選択的に連結される。
ギヤ伝動機構28は、小径ギヤ48と、ギヤ機構カウンタ軸50と、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転不能に設けられて小径ギヤ48と噛み合う大径ギヤ52とを備えている。又、ギヤ伝動機構28は、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ54と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同軸心に相対回転不能に設けられてアイドラギヤ54と噛み合う出力ギヤ56とを備えている。出力ギヤ56は、アイドラギヤ54よりも大径である。従って、ギヤ伝動機構28は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTにおいて、1つのギヤ段が形成される。ギヤ伝動機構28は、更に、ギヤ機構カウンタ軸50回りに、大径ギヤ52とアイドラギヤ54との間に設けられて、これらの間を選択的に断接する噛合式クラッチD1を備えている。噛合式クラッチD1は、第1動力伝達経路PT1を断接する(換言すれば第1クラッチC1と共に係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する)係合装置であり、前記複数の係合装置に含まれる。噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられた油圧アクチュエータ58の作動によって作動状態が切り替えられる。
第1動力伝達経路PT1は、噛合式クラッチD1と噛合式クラッチD1よりも入力軸22側に設けられた第1クラッチC1(又は第1ブレーキB1)とが共に係合されることで形成される。第1クラッチC1の係合により前進用の動力伝達経路が形成され、第1ブレーキB1の係合により後進用の動力伝達経路が形成される。動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ伝動機構28を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第1動力伝達経路PT1は、少なくとも第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が共に解放されるか、或いは少なくとも噛合式クラッチD1が解放されると、動力伝達が遮断されたニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
無段変速機24は、入力軸22に連結された有効径が可変のプライマリプーリ60と、出力軸30と同軸心に設けられた回転軸62と、回転軸62に連結された有効径が可変のセカンダリプーリ64と、それら各プーリ60,64の間に巻き掛けられた伝達要素としての伝動ベルト66とを備えており、各プーリ60,64と伝動ベルト66との間の摩擦力(挟圧力も同意;ベルト挟圧力ともいう)を介して動力伝達が行われ、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する。
プライマリプーリ60は、入力軸22に連結された固定シーブ60aと、固定シーブ60aに対して入力軸22の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ60bと、それら各シーブ60a,60bの間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ60におけるプライマリ推力Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータ60cとを備えている。又、 セカンダリプーリ64は、回転軸62に連結された固定シーブ64aと、固定シーブ64aに対して回転軸62の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ64bと、それら各シーブ64a,64bの間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ64におけるセカンダリ推力Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータ64cとを備えている。プライマリ圧Pinは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ60cへ供給される油圧であり、セカンダリ圧Poutは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ64cへ供給される油圧である。各油圧Pin,Poutは、各々、可動シーブ60b,64bを固定シーブ60a,64a側へ押圧する推力Win,Woutを付与するプーリ油圧である。
無段変速機24では、後述する電子制御装置90により駆動される油圧制御回路46によってプライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutが各々調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御される。これにより、各プーリ60,64のV溝幅が変化して伝動ベルト66の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γcvt(=プライマリプーリ回転速度Npri/セカンダリプーリ回転速度Nsec)が変化させられると共に、伝動ベルト66が滑りを生じないように各プーリ60,64と伝動ベルト66との間の摩擦力(つまりベルト挟圧力)が制御される。つまり、プライマリ圧Pin(プライマリ推力Winも同意)及びセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Woutも同意)が各々制御されることで、伝動ベルト66の滑り(ベルト滑りともいう)が防止されつつ実変速比γcvtが目標変速比γcvttとされる。ベルト挟圧力は、無段変速機24における伝動ベルト66のトルク容量であるベルトトルク容量Tcvtである。
無段変速機24では、例えばプライマリ圧Pinが高められると、プライマリプーリ60のV溝幅が狭くされて変速比γcvtが小さくされるすなわち無段変速機24がアップシフトされる。又、プライマリ圧Pinが低められると、プライマリプーリ60のV溝幅が広くされて変速比γcvtが大きくされるすなわち無段変速機24がダウンシフトされる。尚、無段変速機24では、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとによりベルト滑りが防止されつつ、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとの相互関係にて目標変速比γcvttが実現されるものであり、一方のプーリ油圧(推力も同意)のみで目標の変速が実現されるものではない。
出力軸30は、回転軸62回りにその回転軸62に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。第2クラッチC2は、無段変速機24と駆動輪14(ここでは出力軸30も同意)との間の動力伝達経路に設けられたクラッチである。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が係合されることで形成される。動力伝達装置16では、第2動力伝達経路PT2が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が解放されると、ニュートラル状態とされる。
又、車両10は、送受信機68を備えている。送受信機68は、車両10とは別に存在する、車両10とは別の車外装置としてのセンター100(センタ100とも表す)と通信する機器である。後述する電子制御装置90は、センタ100との間で、送受信機68を介して各種情報を送受信する。センタ100は、サーバとしての機能を有しており、各種情報を、受け付けたり、処理したり、蓄積したり、提供したりする。センタ100は、車両10との間でと同様に、車両10とは別の他車両110a,110b,…(以下、他車両110という)との間で、各種情報を送受信する。他車両110は、基本的には車両10と同様の機能を有している。
又、車両10は、エンジン12、無段変速機24などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、エンジン12の出力制御、無段変速機24の変速制御やベルト挟圧力制御に関する油圧制御、前記複数の係合装置(C1,B1,C2,D1)の各々の作動状態の切替えに関する油圧制御等を実行するものであり、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば各種回転速度センサ70、72,74,76、アクセル操作量センサ78、スロットル開度センサ80、シフトポジションセンサ82、GPSアンテナなどを含む位置センサ84など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、入力軸22の回転速度であるプライマリプーリ回転速度Npri、回転軸62の回転速度であるセカンダリプーリ回転速度Nsec、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout、運転者の加速操作の大きさを表すアクセル操作量θacc、スロットル開度tap、車両10に備えられたシフトレバー86の操作ポジションPOSsh、GPS信号等により示される地表又は地図上における車両10の位置情報Svpなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置42、油圧制御回路46など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、無段変速機24の変速やベルト挟圧力等に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Scvt、前記複数の係合装置(C1,B1,C2,D1)の各作動状態の切替えに関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Scbdなど)が、それぞれ出力される。
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部92、及び油圧制御手段すなわち油圧制御部94を備えている。
エンジン制御部92は、要求されたエンジントルクTeが得られるようにエンジン制御装置42を制御する。例えば、エンジン制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えば駆動力マップ)にアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで、要求駆動トルクTdemを算出する。エンジン制御部92は、要求駆動トルクTdemを実現するエンジントルクTeが得られるようにエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seを出力する。
油圧制御部94は、第1動力伝達経路PT1にて動力伝達装置16における動力伝達経路を形成する場合には、油圧アクチュエータ58によって噛合式クラッチD1を係合する油圧制御指令信号Scbd、第1クラッチC1(又は、後進時は第1ブレーキB1)を係合する油圧制御指令信号Scbd、及び第2クラッチC2を解放する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。一方で、油圧制御部94は、第2動力伝達経路PT2にて動力伝達装置16における動力伝達経路を形成する場合には、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1を解放する油圧制御指令信号Scbd、及び第2クラッチC2を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。
油圧制御部94は、第2動力伝達経路PT2を形成して走行する際には、無段変速機24のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機24の目標変速比γcvttを達成するように、無段変速機24の変速比γcvt及びベルトトルク容量Tcvt(つまりベルト挟圧力)を制御する。具体的には、油圧制御部94は、予め定められた関係(例えば変速マップ、ベルト挟圧力マップ(ベルトトルク容量マップ))にアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで、無段変速機24のベルト滑りが発生しないようにしつつエンジン12の動作点が所定の最適ライン(例えばエンジン最適燃費線)上となる無段変速機24の目標変速比γcvttを達成する為のプライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutの各油圧指令(油圧制御指令信号Scvt)を決定し、それら各油圧指令を油圧制御回路46へ出力する。
ここで、第2動力伝達経路PT2を形成した走行中、駆動輪14のスリップ(タイヤスリップともいう)が発生し、その後、駆動輪14の回転速度が急激に低下させられると、駆動輪14側から過大トルクが入力され、その過大トルクが無段変速機24へ伝達されるとベルト滑りが発生する可能性がある。これに対して、タイヤスリップ中に、過大トルクの入力に備えて、無段変速機24のベルト挟圧力を高くすることでベルト滑りを防止する制御(ベルト滑り防止制御、又はベルト保護制御ともいう)を行うことが考えられる。又は、タイヤスリップ中に、過大トルクの入力に備えて、第2クラッチC2のトルク容量を小さくすることで、実際に過大トルクが入力されたときには第2クラッチC2を滑らせて(すなわち第2クラッチC2をトルクリミッターとして作動させて)、ベルト滑り防止制御を行うことが考えられる。尚、駆動輪14側から過大トルクが入力されるような状況としては、例えば波状路のような悪路走行中に駆動輪14がスリップし、その後にグリップしたことで駆動輪14の回転速度が急激に低下したとき、又は、低μ路走行中に駆動輪14がスリップし、スリップ中に低μ路を脱出したことで駆動輪14の回転速度が急激に低下したとき、又は、低μ路走行中に運転者によって急制動操作が為されたことで駆動輪14の回転速度が急激に低下したときなどが想定される。
ところで、ベルト挟圧力を高くするベルト滑り防止制御では、燃費悪化を招くおそれがある。一方で、第2クラッチC2のトルク容量を小さくするベルト滑り防止制御では、第2クラッチC2を滑らせることによって第2クラッチC2における摩擦材の耐久性低下を招くおそれがあり、第2クラッチC2を滑らせる回数が多くなる程、第2クラッチC2の機能低下が生じ易くなる。このようなことから、本実施例では、タイヤスリップの発生頻度が比較的高い状況にある場合には、第2クラッチC2を滑らせる回数が多くなることを回避する為に、ベルト挟圧力を高くするベルト滑り防止制御を実行する。一方で、タイヤスリップの発生頻度が比較的低い状況にある場合には、燃費悪化を防止又は抑制する為に、第2クラッチC2のトルク容量を小さくするベルト滑り防止制御を実行する。
本実施例では、車両10や他車両110においてタイヤスリップが発生した地域に関する情報を収集し、その情報に基づいてタイヤスリップが発生し易い地域に関するスリップ情報を設定し、車外から受信したそのスリップ情報を適切に利用してタイヤスリップの発生頻度に応じたベルト滑り防止制御を実行する。このスリップ情報は、例えばタイヤスリップが発生し易い地域を設定した地図であり、スリップマップMAPslpと称する。
具体的には、電子制御装置90は、上述したようなベルト滑り防止制御を実現する為に、更に、車両状態判定手段すなわち車両状態判定部96、情報処理手段すなわち情報処理部98、及びベルト滑り防止制御手段すなわちベルト滑り防止制御部99を備えている。
車両状態判定部96は、タイヤスリップが発生したか否かを判定する。例えば、車両状態判定部96は、駆動輪14の角加速度に対応する、出力軸回転速度Noutの変化速度である出力軸角加速度dNout/dtが、スリップしていることを確実に判断する為の予め定められたスリップ判定閾値を超えているか否かに基づいて、タイヤスリップが発生したか否かを判定する。
情報処理部98は、車両状態判定部96によりタイヤスリップが発生したと判定された場合には、タイヤスリップが発生したという情報と、タイヤスリップが発生したときの車両10の位置情報Svpとを関連付けて、制御情報Icを生成する。情報処理部98は、この制御情報Icを送受信機68を介してセンタ100へ転送する。
センタ100へは、他車両110からも車両10と同様の制御情報Icが転送される。センタ100は、制御情報Icにおけるタイヤスリップが発生したという情報と位置情報Svpとに基づいて、タイヤスリップが発生し易い地域を設定する。例えば、センタ100は、制御情報Icにおけるタイヤスリップが発生した地点を囲む所定範囲の地域において、タイヤスリップの発生頻度(例えばある期間における発生回数又は発生率)が所定頻度を超えている場合には、その地域をタイヤスリップが発生し易い地域に設定する。この所定範囲は、例えばタイヤスリップが発生し易い地域として設定することが適当であると考えられる予め定められた範囲である。又、この所定頻度は、タイヤスリップが発生し易い地域であると判断する為の予め定められた下限頻度である。センタ100は、スリップマップMAPslpを有しており、タイヤスリップが発生し易い地域を新たに設定した場合には、その新たな設定を反映するようにそのスリップマップMAPslpを更新する。このように、センタ100は、位置情報Svpと関連付けられたタイヤスリップの発生情報を収集してスリップマップMAPslpを設定する。尚、センタ100は、定期的に、既にタイヤスリップが発生し易い地域として設定した地域においてタイヤスリップの発生頻度が所定頻度を超えているか否かを判定し、タイヤスリップの発生頻度が所定頻度以下である場合には、その地域をタイヤスリップが発生し易い地域外に設定し、その新たな設定を反映するようにそのスリップマップMAPslpを更新する。
情報処理部98は、例えばイグニッションオンのような車両10の電源オン後に、必要に応じて、センタ100が有するスリップマップMAPslpを送受信機68を介してセンタ100から受信する。
車両状態判定部96は、スリップマップMAPslpを用いて、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域(つまりタイヤスリップの発生頻度が所定頻度を超えている地域)であるか否かを判定する。車両10の走行頻度の高い地域は、ユーザーが車両10を主に使用している地域である。例えば、ある範囲(予め定められた範囲)にて区分された地域のうちで直近のある期間(予め定められた期間)において車両10が位置した時間が最も長かった地域が車両10の走行頻度の高い地域として電子制御装置90により記憶されている。
車両状態判定部96は、スリップマップMAPslpを用いて、位置情報Svpに基づく車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域内にあるか否かを判定する。
ベルト滑り防止制御部99は、車両状態判定部96により、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域であると判定され、且つ、車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域内にあると判定されたときであって、すなわちタイヤスリップの発生頻度が比較的高い状況にあるときであって、車両状態判定部96によりタイヤスリップが発生したと判定された場合には、ベルト挟圧力を高くするようにプーリ油圧を通常よりも所定圧増大させるベルト挟圧力アップ制御を実行する指令を油圧制御部94へ出力してベルト滑り防止制御を行う。通常のプーリ油圧は、例えば油圧制御部94によりベルト挟圧力マップに基づいて決定された値である。上記所定圧は、例えば想定される過大トルクの入力に対してベルト滑りが発生しないようにプーリ油圧を増大する必要がある予め定められた下限値である。
一方で、ベルト滑り防止制御部99は、車両状態判定部96により、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域でないと判定されたときであって、又は、車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域外にあると判定されたときであって、すなわちタイヤスリップの発生頻度が比較的低い状況にあるときであって、車両状態判定部96によりタイヤスリップが発生したと判定された場合には、第2クラッチC2のトルク容量を小さくするように第2クラッチC2に供給するクラッチ油圧を所定スリップ圧まで低下させるクラッチC2圧ダウン制御を実行する指令を油圧制御部94へ出力してベルト滑り防止制御を行う。上記所定スリップ圧は、過大トルクの入力に対して第2クラッチC2を滑らせて無段変速機24のベルト滑りを防止するという観点から、例えば第2クラッチC2のトルク容量が少なくとも無段変速機24のベルトトルク容量Tcvtよりも小さくなるようなクラッチ油圧とされる。
このように、ベルト滑り防止制御部99は、スリップマップMAPslpを用いて、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域である場合、且つ、車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域内にある場合には、無段変速機24のベルト挟圧力を高くすることでベルト滑り防止制御を行う。一方で、ベルト滑り防止制御部99は、スリップマップMAPslpを用いて、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域でない場合、又は、車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域外にある場合には、第2クラッチC2のトルク容量を小さくすることでベルト滑り防止制御を行う。
図2は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわちスリップマップMAPslpを適切に利用してベルト滑り防止制御を行う為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば車両10の電源オン後に繰り返し実行される。
図2において、先ず、情報処理部98の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、必要に応じて、スリップマップMAPslpが送受信機68を介してセンタ100から受信される。次いで、車両状態判定部96の機能に対応するS20において、スリップマップMAPslpを用いて、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域(つまりタイヤスリップの発生頻度が所定頻度を超えている地域)であるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は車両状態判定部96の機能に対応するS30において、スリップマップMAPslpを用いて、車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域内にあるか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は車両状態判定部96の機能に対応するS40において、タイヤスリップが発生したか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS40の判断が肯定される場合はベルト滑り防止制御部99の機能に対応するS50において、ベルト挟圧力アップ制御にてベルト滑り防止制御が実行される。一方で、上記S20の判断が否定される場合は、又は、上記S30の判断が否定される場合は、車両状態判定部96の機能に対応するS60において、タイヤスリップが発生したか否かが判定される。このS60の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS60の判断が肯定される場合はベルト滑り防止制御部99の機能に対応するS70において、クラッチC2圧ダウン制御にてベルト滑り防止制御が実行される。
上述のように、本実施例によれば、タイヤスリップの発生頻度が比較的高い状況にある場合には、ベルト挟圧力を高くすることでベルト滑り防止制御が行われるので、第2クラッチC2のトルク容量を小さくすることによって第2クラッチC2を滑らせることによる摩擦材の耐久性低下を防止することができる。一方で、タイヤスリップの発生頻度が比較的低い状況にある場合には、第2クラッチC2のトルク容量を小さくすることでベルト滑り防止制御が行われるので、第2クラッチC2を滑らせることによる摩擦材の耐久性低下を抑制しつつ燃費悪化を防止することができる。つまり、センタ100から受信したスリップマップMAPslpに基づくタイヤスリップの発生頻度に応じて、ベルト滑り防止制御としてベルト挟圧力を高くするか第2クラッチC2のトルク容量を小さくするかが選択的に用いられるので、信頼性(つまりベルト滑り防止及び第2クラッチC2の機能低下防止)を優先しつつ、燃費悪化を抑制することができる。よって、スリップマップMAPslpを適切に利用してベルト滑り防止制御を行うことができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、センタ100から受信したスリップマップMAPslpを利用してベルト滑り防止制御を実行した。何らかの原因で車両10がセンタ100からスリップマップMAPslpを受信できない場合が考えられる。このような場合には、センタから受信したスリップマップMAPslpを保有している他車両110からそのスリップマップMAPslpを受信しても良い。この場合、車両10とは別の車外装置には、センタ100の他に、他車両110が含まれる。又、送受信機68は、他車両110と通信する機器でもある。
また、前述の実施例では、スリップマップMAPslpを用いて、車両10の走行頻度の高い地域がタイヤスリップが発生し易い地域であるか否かと、車両10の現在位置がタイヤスリップが発生し易い地域内にあるか否かとを車両10にて判定したが、この態様に限らない。例えば、このような判定は、センタ100にて実施されても良い。このような場合、タイヤスリップが発生し易い地域に関するスリップ情報はこの判定結果となり、この判定結果が車両10にて受信されて、ベルト滑り防止制御の実行に利用される。従って、このような場合には、例えば図2のS10ではこの判定結果が受信され、S20及びS30では、この判定結果に基づいて、タイヤスリップの発生頻度が比較的高い状況にあるか否かが判定される。或いは、センタ100はスリップマップMAPslpを有して、そのスリップマップMAPslpを更新したが、この態様に限らない。例えば、センタ100は、車両10及び他車両110から制御情報Icを収集する機能のみを有するものであっても良い。このような場合、タイヤスリップが発生し易い地域に関するスリップ情報はこの制御情報Icとなり、この制御情報Icが車両10にて受信されて、その制御情報Icを用いてタイヤスリップが発生し易い地域が設定され、その設定に基づいてベルト滑り防止制御が実行される。このように、車両10にて実行されることと、センタ100にて実行されることとは、車両10及びセンタ100の何れか一方でしか実行できないことを除いて、何れで実行されても良い。
また、前述の実施例では、タイヤスリップが発生してからベルト滑り防止制御を実行したが、この態様に限らない。例えば、ベルト挟圧力アップ制御によるベルト滑り防止制御は、タイヤスリップの発生頻度が比較的高い状況にあると判定されたときに、タイヤスリップが発生する前から事前に実行されても良い。
また、前述の実施例では、出力軸角加速度dNout/dtに基づいてタイヤスリップが発生したか否かを判定したが、この態様に限らない。例えば、駆動輪14の車輪速の変化速度に基づいてタイヤスリップが発生したか否かを判定しても良い。又は、駆動輪14の車輪速(左右の駆動輪の車輪速のうちの高い方の車輪速、又は、左右の駆動輪の車輪速の平均値)が、左右の従動輪の車輪速の平均値よりも所定閾値以上高い場合に、タイヤスリップが発生したと判定しても良い。
また、前述の実施例では、車両10は、ギヤ伝動機構28を介した第1動力伝達経路PT1と、無段変速機24を介した第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路を、入力軸22と出力軸30との間に並列に備えていたが、この態様に限らない。例えば、車両10は、無段変速機24を介した動力伝達経路を入力軸22と出力軸30との間に備えているだけでも良い。要は、動力源からの動力を駆動輪へ伝達するベルト式の無段変速機と、その無段変速機とその駆動輪との間の動力伝達経路に設けられたクラッチとを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。